特許拒絶査定不服審判
2016-003765
豆類からの可溶性タンパク質溶液の製造
- 審判番号
- 2016-003765
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2013-509411外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年03月10日
- 審決日
- 2017年02月20日
- 公報発行日
- 2017年08月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】バーコン ニュートラサイエンス (エムビー) コーポレイション
- 【請求人代理人】宮崎 昭夫
- 【請求人代理人】緒方 雅昭
- 分類
- P18 .575-Z (A23J) / P18 .113-Z (A23J) / P18 .121-Z (A23J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第126条第7項、特許法第36条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2013-509411号「豆類からの可溶性タンパク質溶液の製造」拒絶査定不服審判事件〔2011年11月10日国際公開、WO2011/137524、平成25年 7月 4日国内公表、特表2013-527771号〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、2011年5月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年5月7日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成26年10月31日付けの拒絶理由通知に対して、平成27年5月11日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、平成27年10月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成28年3月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされ、平成28年11月17日に上申書の提出がなされたものである。
第2 平成28年3月10日の手続補正についての補正の却下の決定
1 補正の却下の決定の結論
平成28年3月10日の手続補正を却下する。
2 理由
(1) 補正の内容
平成28年3月10日の手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1である、
「(a)豆類タンパク質源をカルシウム塩水溶液で抽出して、タンパク質源からの豆類タンパク質の可溶化を引き起こすと共に豆類タンパク質水溶液を形成するステップ、
(b)残留する豆類タンパク質源から豆類タンパク質水溶液を少なくとも部分的に分離するステップ、
(c)豆類タンパク質水溶液のpHを1.5から4.4のpHに調整して、酸性化豆類タンパク質水溶液を生成するステップ、あるいは、(d)一体となった豆類タンパク質水溶液と残留豆類タンパク質源のpHを1.5から4.4のpHに調整し、その後、残留豆類タンパク質源から酸性化豆類タンパク質水溶液を分離するステップ、
を含む、乾燥重量基準で少なくとも約60wt%(N×6.25)のタンパク質含量を有する豆類タンパク質製品、または少なくとも約90wt%(N×6.25)のタンパク質含量を有する豆類タンパク質製品の製造方法。」を、
「(a)豆類タンパク質源をカルシウム塩水溶液で抽出して、タンパク質源からの豆類タンパク質の可溶化を引き起こすと共に豆類タンパク質水溶液を形成するステップ、
(b)残留する豆類タンパク質源から豆類タンパク質水溶液を少なくとも部分的に分離するステップ、
(c)豆類タンパク質水溶液のpHを1.5から4.4のpHに調整して、酸性化豆類タンパク質水溶液を生成するステップ、あるいは、(d)一体となった豆類タンパク質水溶液と残留豆類タンパク質源のpHを1.5から4.4のpHに調整し、その後、残留豆類タンパク質源から酸性化豆類タンパク質水溶液を分離するステップ、
を含む、乾燥重量基準で少なくとも60wt%(N×6.25)のタンパク質含量を有する豆類タンパク質製品、または少なくとも90wt%(N×6.25)のタンパク質含量を有する豆類タンパク質製品の製造方法であり、
該豆類は、レンズマメ(lentils)、ヒヨコマメ(chickpea)、乾燥エンドウマメ(dry pea)からなる群より選択される、方法。」に補正することを含むものである(下線は補正箇所を示す。)。
(2) 補正の適否
上記補正は、
「少なくとも約60wt%」を「少なくとも60wt%」と、「少なくとも約90wt%」を「少なくとも90wt%」とそれぞれ限定し、「豆類」について、「該豆類は、レンズマメ(lentils)、ヒヨコマメ(chickpea)、乾燥エンドウマメ(dry pea)からなる群より選択される」との限定を付加するものであって、該補正は、願書に最初に添付した明細書の記載からみて新規事項を追加するものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものであり、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものでないことは明らかである。
よって、上記補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。
(3) 独立特許要件の検討
ア 本願補正発明
「(a)豆類タンパク質源をカルシウム塩水溶液で抽出して、タンパク質源からの豆類タンパク質の可溶化を引き起こすと共に豆類タンパク質水溶液を形成するステップ、
(b)残留する豆類タンパク質源から豆類タンパク質水溶液を少なくとも部分的に分離するステップ、
(c)豆類タンパク質水溶液のpHを1.5から4.4のpHに調整して、酸性化豆類タンパク質水溶液を生成するステップ、あるいは、(d)一体となった豆類タンパク質水溶液と残留豆類タンパク質源のpHを1.5から4.4のpHに調整し、その後、残留豆類タンパク質源から酸性化豆類タンパク質水溶液を分離するステップ、
を含む、乾燥重量基準で少なくとも60wt%(N×6.25)のタンパク質含量を有する豆類タンパク質製品、または少なくとも90wt%(N×6.25)のタンパク質含量を有する豆類タンパク質製品の製造方法であり、
該豆類は、レンズマメ(lentils)、ヒヨコマメ(chickpea)、乾燥エンドウマメ(dry pea)からなる群より選択される、方法。」
イ 刊行物1に記載された事項
原査定で引用文献1として引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である「国際公開第2010/045727号」(以下「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている(なお、日本語訳は、対応する特表2012-506241号公報を参考に、当審により付与した。また、下線も当審にて付与した。以下同じ。)。
(刊1-1)「[0006] It has now been found that it is possible to provide a soy protein product having a protein content of at least about 60 wt% (N x 6.25) d.b. that produces transparent heat stable solutions at low pH values and, therefore, which may be used for protein fortification of, in particular, soft drinks and sports drinks, as well as other aqueous systems, without precipitation of protein.
[0007] The novel soy protein product provided herein has a unique combination of parameters not found in other soy protein products. The product is completely soluble at acid pH values less than about 4.4 and is heat stable in this pH range permitting thermal processing, such as hot fill applications. Given the complete solubility of the product, no stabilizers or other additives are necessary to maintain the protein in solution or suspension. The soy protein isolate has been described as having no "beany" flavour and no off odours. The product is low in phytic acid, generally less than about 1.5 wt%. No enzymes are required in the production of the soy protein isolate. The soy protein product is preferably an isolate having a protein content of at least about 90 wt%, preferably at least about 100 wt% (N x 6.25).」
(日本語訳:
【0006】
低pH値で透明な熱安定性溶液を生成し、したがって、タンパク質を沈殿させることなく、特に、ソフトドリンクおよびスポーツドリンク、ならびに他の水系のタンパク質強化(protein fortification)に使用することができる、少なくとも約60wt%(N×6.25)d.b.のタンパク質含量を有する大豆タンパク質製品を提供することが今や可能であることが分かった。
【0007】
本発明において提供する新規の大豆タンパク質製品は、他の大豆タンパク質製品に見られないパラメーターの独特の組合せを有する。該製品は、約4.4未満の酸性pH値で完全に可溶性であり、このpH範囲で熱安定性であり、高温充填用途(hot fill application)などの加熱処理を可能にする。該製品の完全な溶解性を考えると、溶液または懸濁液中にタンパク質を維持するのに安定剤または他の添加剤は必要ない。大豆タンパク質単離物は、「豆」臭(beany flavour)および異臭を有さないものとして記載されてきた。該製品は、フィチン酸が少なく、一般に約1.5wt%未満である。大豆タンパク質単離物の製造において酵素は必要とされない。大豆タンパク質製品は、好ましくは、少なくとも約90wt%、好ましくは少なくとも約100wt%(N×6.25)のタンパク質含量を有する単離物である。」
(刊1-2)「[0008] In accordance with one aspect of the present invention, there is provided a method of producing a soy protein product having a soy protein content of at least about 60 wt% (N x 6.25) on a dry weight basis, which comprises:
(a) extracting a soy protein source with an aqueous calcium chloride solution to cause solubilization of soy protein from the protein source and to form an aqueous soy protein solution,
(b) separating the aqueous soy protein solution from residual soy protein source,
(c) optionally diluting the aqueous soy protein solution,
(d) adjusting the pH of the aqueous soy protein solution to a pH of about 1.5 to about 4.4, preferably about 2 to about 4, to produce an acidified clear soy protein solution,
(e) optionally concentrating the aqueous clear soy protein solution while maintaining the ionic strength substantially constant by using a selective membrane technique,
(f) optionally diafiltering the concentrated soy protein solution, and
(g) optionally drying the concentrated soy protein solution.
[0009] The soy protein product preferably is an isolate having a protein content of at least about 90 wt%, preferably at least about 100 wt%, (N x 6.25) d.b. 」
(日本語訳:
【0008】
本発明の一態様において、乾燥重量基準で少なくとも約60wt%(N×6.25)の大豆タンパク質含量を有する大豆タンパク質製品の製造方法であって、
(a)大豆タンパク質源を塩化カルシウム水溶液で抽出して、該タンパク質源からの大豆タンパク質の可溶化を引き起こし、大豆タンパク質水溶液を形成するステップと、
(b)残留する大豆タンパク質源から大豆タンパク質水溶液を分離するステップと、
(c)任意選択により(optionally)大豆タンパク質水溶液を希釈するステップと、
(d)大豆タンパク質水溶液のpHを約1.5~約4.4、好ましくは約2~約4のpHに調整して、透明な酸性化大豆タンパク質溶液を生成するステップと、
(e)任意選択により(optionally)選択的膜技法を使用することにより、イオン強度を実質的に一定に維持しながら透明な大豆タンパク質水溶液を濃縮するステップと、
(f)任意選択により(optionally)濃縮大豆タンパク質溶液を透析濾過するステップと、
(g)任意選択により(optionally)濃縮大豆タンパク質溶液を乾燥するステップと
を含む方法を提供する。
【0009】
大豆タンパク質製品は、少なくとも約90wt%、好ましくは少なくとも約100wt%(N×6.25)d.b.のタンパク質含量を有する単離物であることが好ましい。」
(刊1-3)「[0022] The initial step of the process of providing the soy protein isolate involves solubilizing soy protein from a soy protein source. The soy protein source may be soybeans or any soy product or by-product derived from the processing of soybeans, including but not limited to soy meal, soy flakes, soy grits and soy flour. The soy protein source may be used in the full fat form, partially defatted form or fully defatted form. Where the soy protein source contains an appreciable amount of fat, an oil-removal step generally is required during the process. The soy protein recovered from the soy protein source may be the protein naturally occurring in soybean or the proteinaceous material may be a protein modified by genetic manipulation but possessing characteristic hydrophobic and polar properties of the natural protein.」
(日本語訳:
【0022】
発明の概略説明
大豆タンパク質単離物を提供するプロセスの最初のステップは、大豆タンパク質源からの大豆タンパク質の可溶化を伴う。大豆タンパク質源は、大豆、あるいは大豆ミール(soy meal)、大豆フレーク、大豆粗粒および大豆粉を含むがこれらに限定されない任意の大豆製品または大豆の加工に由来する副産物とすることができる。大豆タンパク質源は、脂肪を除いていない形態(full fat form)、部分的に脱脂した形態または完全に脱脂した形態で使用し得る。大豆タンパク質源が相当量の脂肪を含有する場合、一般に、このプロセスの間に油除去ステップが必要となる。大豆タンパク質源から回収された大豆タンパク質は、大豆中に自然に存在するタンパク質であるか、またはタンパク質性物質(proteinaceous material)は、遺伝子操作により改変されたタンパク質であってもよいが、自然タンパク質の特徴的な疎水性および極性特性を有する。」
(刊1-4)「[0023] Protein solubilization from the soy protein source material is effected most conveniently using calcium chloride solution, although solutions of other calcium salts, may be used. In addition, other alkaline earth metal compounds may be used, such as magnesium salts. Further, extraction of the soy protein from the soy protein source may be effected using calcium salt solution in combination with another salt solution, such as sodium chloride. Additionally, extraction of the soy protein from the soy protein source may be effected using water or other salt solution, such as sodium chloride, with calcium salt subsequently being added to the aqueous soy protein solution produced in the extraction step. Precipitate formed upon addition of the calcium salt is removed prior to subsequent processing. 」
(日本語訳:
【0023】
大豆タンパク質源物質からのタンパク質の可溶化は、他のカルシウム塩の溶液も使用することができるが、塩化カルシウム溶液を使用して実施することが最も好都合である。さらに、マグネシウム塩などの他のアルカリ土類金属化合物を使用することができる。さらに、大豆タンパク質源からの大豆タンパク質の抽出は、カルシウム塩溶液を塩化ナトリウムなどの別の塩溶液と組み合わせて使用して実施し得る。さらに、大豆タンパク質源からの大豆タンパク質の抽出は、水または塩化ナトリウムなどの他の塩溶液を使用して実施し、その後、抽出ステップにおいて生成した大豆タンパク質水溶液にカルシウム塩を添加することができる。カルシウム塩の添加時に形成する沈殿物は、その後の処理の前に除去する。」
(刊1-5)「1. A soy protein product which has a protein content of at least about 60 wt% (N x 6.25) d.b. and which
- is completely soluble in aqueous media at acid pH values of less than about 4.4
- is heat-stable in aqueous media at acid pH values of less than about 4.4
- does not require stabilizers or other additives to maintain the protein product in solution or suspension
- is low in phytic acid
- requires no enzymes in the production thereof.
・・・
29. A process for the preparation of a soy protein solution, which comprises:
(a) extracting a soy protein source with an aqueous calcium salt solution to cause solubilization of soy protein from the soy protein source and to form an aqueous soy protein solution,
(b) separating the aqueous soy protein solution from residual soy protein source, and
(c) adjusting the pH of the aqueous soy protein solution to a pH of about 1.5 to about 4.4 to produce an acidified clear soy protein solution.
・・・
54. The process of claim 29 wherein said acidified clear soy protein solution is dried to provide a soy protein product having a soy protein content of at least about 60 wt% (N x 6.25) d.b.
・・・ 」
(日本語訳:
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも約60wt%(N×6.25)d.b.のタンパク質含量を有する大豆タンパク質製品であって、
- 約4.4未満の酸性pH値の水性媒体に完全に可溶であり、
- 約4.4未満の酸性pH値の水性媒体中で熱安定性であり、
- 溶液または懸濁液中で前記タンパク質製品を維持するために安定剤または他の添加剤を必要とせず、
- フィチン酸が少なく、
- その製造において酵素を必要としない、
大豆タンパク質製品。
・・・
【請求項29】
(a)大豆タンパク質源をカルシウム塩水溶液で抽出して、大豆タンパク質源からの大豆タンパク質の可溶化を引き起こし、大豆タンパク質水溶液を形成するステップと、
(b)残留する大豆タンパク質源から大豆タンパク質水溶液を分離するステップと、
(c)大豆タンパク質水溶液のpHを約1.5~約4.4のpHに調整して、透明な酸性化大豆タンパク質溶液を生成するステップと
を含む、大豆タンパク質溶液の調製方法。
・・・
【請求項54】
前記透明な酸性化大豆タンパク質溶液を乾燥して、少なくとも約60wt%(N×6.25)d.b.の大豆タンパク質含量を有する大豆タンパク質製品をもたらす、請求項29に記載の方法。
・・・」
ウ 刊行物1に記載された発明
刊行物1の摘示(刊1-5)には、
「【請求項29】
(a)大豆タンパク質源をカルシウム塩水溶液で抽出して、大豆タンパク質源からの大豆タンパク質の可溶化を引き起こし、大豆タンパク質水溶液を形成するステップと、
(b)残留する大豆タンパク質源から大豆タンパク質水溶液を分離するステップと、
(c)大豆タンパク質水溶液のpHを約1.5~約4.4のpHに調整して、透明な酸性化大豆タンパク質溶液を生成するステップと
を含む、大豆タンパク質溶液の調製方法。
・・・
【請求項54】
前記透明な酸性化大豆タンパク質溶液を乾燥して、少なくとも約60wt%(N×6.25)d.b.の大豆タンパク質含量を有する大豆タンパク質製品をもたらす、請求項29に記載の方法。」との記載がある。
「請求項54」は、「請求項29」を引用するものであるから、整理すると、刊行物1には、
「(a)大豆タンパク質源をカルシウム塩水溶液で抽出して、大豆タンパク質源からの大豆タンパク質の可溶化を引き起こし、大豆タンパク質水溶液を形成するステップと、
(b)残留する大豆タンパク質源から大豆タンパク質水溶液を分離するステップと、
(c)大豆タンパク質水溶液のpHを約1.5~約4.4のpHに調整して、透明な酸性化大豆タンパク質溶液を生成するステップと
を含み、前記透明な酸性化大豆タンパク質溶液を乾燥して、少なくとも約60wt%(N×6.25)d.b.の大豆タンパク質含量を有する大豆タンパク質製品をもたらす、大豆タンパク質溶液の調製方法。」(以下「引用発明」という。)という発明が記載されていると認定することができる。
エ 対比
(ア)本願補正発明と引用発明とを対比するに、引用発明の「大豆タンパク質源」と本願補正発明の「豆類タンパク質源」とは、「タンパク質源」という点で共通し、そうすると、引用発明の「(a)大豆タンパク質源をカルシウム塩水溶液で抽出して、大豆タンパク質源からの大豆タンパク質の可溶化を引き起こし、大豆タンパク質水溶液を形成するステップ」と本願補正発明の「(a)豆類タンパク質源をカルシウム塩水溶液で抽出して、タンパク質源からの豆類タンパク質の可溶化を引き起こすと共に豆類タンパク質水溶液を形成するステップ」とは、「(a)タンパク質源をカルシウム塩水溶液で抽出して、タンパク質源からのタンパク質の可溶化を引き起こすと共にタンパク質水溶液を形成するステップ」という点で共通する。
同じく、引用発明の「(b)残留する大豆タンパク質源から大豆タンパク質水溶液を分離するステップ」と本願補正発明の「(b)残留する豆類タンパク質源から豆類タンパク質水溶液を少なくとも部分的に分離するステップ」とは、「(b)残留するタンパク質源からタンパク質水溶液を少なくとも部分的に分離するステップ」との点で共通し、引用発明の「(c)大豆タンパク質水溶液のpHを約1.5~約4.4のpHに調整して、透明な酸性化大豆タンパク質溶液を生成するステップ」と本願補正発明の「(c)豆類タンパク質水溶液のpHを1.5から4.4のpHに調整して、酸性化豆類タンパク質水溶液を生成するステップ、あるいは、(d)一体となった豆類タンパク質水溶液と残留豆類タンパク質源のpHを1.5から4.4のpHに調整し、その後、残留豆類タンパク質源から酸性化豆類タンパク質水溶液を分離するステップ」とは、「(c)タンパク質水溶液のpHを1.5から4.4のpHに調整して、酸性化タンパク質水溶液を生成するステップ、あるいは、(d)一体となったタンパク質水溶液と残留タンパク質源のpHを1.5から4.4のpHに調整し、その後、残留タンパク質源から酸性化タンパク質水溶液を分離するステップ」との点で共通する。
さらに、引用発明の「前記透明な酸性化大豆タンパク質溶液を乾燥して、少なくとも約60wt%(N×6.25)d.b.の大豆タンパク質含量を有する大豆タンパク質製品」と、本願補正発明の「乾燥重量基準で少なくとも60wt%(N×6.25)のタンパク質含量を有する豆類タンパク質製品、または少なくとも90wt%(N×6.25)のタンパク質含量を有する豆類タンパク質製品」とは、「乾燥重量基準で少なくとも60wt%(N×6.25)のタンパク質含量を有するタンパク質製品、または少なくとも90wt%(N×6.25)のタンパク質含量を有するタンパク質製品」との点で共通する。
そうすると、両者は、
「(a)タンパク質源をカルシウム塩水溶液で抽出して、タンパク質源からのタンパク質の可溶化を引き起こすと共にタンパク質水溶液を形成するステップ、
(b)残留するタンパク質源からタンパク質水溶液を少なくとも部分的に分離するステップ、
(c)タンパク質水溶液のpHを1.5から4.4のpHに調整して、酸性化タンパク質水溶液を生成するステップ、あるいは、(d)一体となったタンパク質水溶液と残留タンパク質源のpHを1.5から4.4のpHに調整し、その後、残留タンパク質源から酸性化タンパク質水溶液を分離するステップ、
を含む、乾燥重量基準で少なくとも60wt%(N×6.25)のタンパク質含量を有するタンパク質製品、または少なくとも90wt%(N×6.25)のタンパク質含量を有するタンパク質製品の製造方法」で一致し、次の相違点がある。
相違点:「タンパク質源」が、本願補正発明では、「豆類」で「該豆類は、レンズマメ(lentils)、ヒヨコマメ(chickpea)、乾燥エンドウマメ(dry pea)からなる群より選択される」のに対し、引用発明では、「大豆」である点。
オ 判断
(ア)相違点について
当技術分野では、タンパク質を抽出するタンパク質源として、大豆の外に、同じマメ科の植物である「ヒヨコマメ」「ヒラマメ(レンズマメ)」及び「エンドウマメ」からタンパク質を抽出することは周知技術(周知例として以下のa.~c.参照。)である。
a.例えば、原査定で引用文献2として引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である「特開2001-302689号公報」(以下「刊行物2」という。)には、次の記載がある。
すなわち、
「【0011】本発明の方法において使用する、透明な植物性タンパク質抽出液は、タンパクおよびイソフラボン類を含有する植物材料を、該タンパクの等電点を越えるpHをもつ水性抽出剤で抽出して、該抽出剤中に該タンパクおよび該イソフラボン類を可溶化する。」及び
「【0012】透明な抽出液を製造するのに使用できる、タンパクおよびイソフラボン類を含有する植物材料は、1種以上の以下に列挙する植物材料を含むが、これらに制限されない:ヒヨコマメ、ピーナッツ、マラマビーン(marama bean)、ナタマメ、タチナタマメ、カイガンナタマメ(seaside sword bean)、カラオビーン(caraobean)、クラスタービーン(cluster bean)、フジマメ、グラスピー(grass pea)、ガーデンピー、ジェンコビーン(djenko bean)、トウサイ、クズイモ、ソラマメ、ナンキンマメ(earth pea)、ヒラマメ(lentil jumping bean)、ベルベットビーン(velvet bean)、アフリカ産イナゴマメ、その他の豆類、このような植物材料の誘導体、例えば脱脂大豆フレーク、大豆粉および大豆粗粉。最も好ましくは、該植物材料は、大豆材料または大豆の誘導体であり、最も好ましくは大豆における高タンパクおよびイソフラボン含有率の観点から、市販品として入手できる脱脂大豆フレークである。」(当審注:ヒラマメ(lentil jumping bean)は、レンズマメとも呼ばれるものである(世界大百科事典第2版、日本大百科全書(ニッポニカ)等参照。また、下線は当審で付与したものである。以下同様である。)
b.加えて、原査定で引用文献3として引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である「米国特許出願公開第2008/0226810号明細書」には、エンドウ豆タンパク質に関し次の記載がある。
「ABSTRACT
The invention relates to a pea protein whose protein content is equal to or greater than 60% by dry weight, preferably ranging from 60 to 95% by weight, a molecular weight distribution profile is of 1.0-1.8%, preferably of 1.5-3.0% of proteins of greater than 100 000 Da, preferably 20-55% of proteins greater than 15 000 and 100 000 Da, 15-30% of proteins of greater than 5 00 and 15 00 Da and 25-50%, preferably 25-45% of proteins greater than 5 000 Da and whose soluble protein content determined by a method for measuring the protein solubility in water ranging from 20 to 85%, preferably 25 to 65%.」
(日本語訳:
アブストラクト
この発明は、タンパク質含量が乾燥重量で60%またはそれ以上,望ましくは重量で60から95%の範囲で、分子量の分布が、100000ダルトン以上のタンパク質が、1.0-1.8%,望ましくは、1.5-3.0%、15000及び100000ダルトン以上のタンパク質が望ましくは、20-55% 、500及び1500ダルトン以上のタンパク質が15-30% 、及び、5000ダルトン以上のタンパク質が25-50%、望ましくは25-45%,そして、可溶性タンパク質含量が、水へのタンパク質溶解度の測定法で20から85%、望ましくは、25から65%と測定されるエンドウ豆タンパク質に関する。)
c.そして、原査定で引用文献4として引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である「欧州特許0238946号明細書」には、ヒヨコマメ、レンズマメ及びエンドウマメに関し次の記載がある。
「2. A process for preparing an improved protein isolate comprising:
(a) wet-milling seeds of a grain legume of relatively low lipid content in an aqueous medium;
(b) adjusting the pH of the slurry obtained to 6.6 to 9.5;
(c) substantially removing solid material present in the slurry from the obtained extract of protein in water;
(d) ultrafiltering with the aid of diafiltration said extract of protein in water; and
(e) coagulating said resulting protein retentate while at a pH of 6.6 to 7.0 by the action of a proteolytic enzyme. 」(請求項2)
(日本語訳:
請求項2 次の成分よりなる改良タンパク質単離物:
(a)水性媒体で比較的低い脂肪含量の穀物豆類の種子を湿製粉する;
(b)pH調整して6.6から9.5のスラリーを得る;
(c)水のタンパク質の得られた抽出物から、スラリーで存在する固形物質を実質的に除去する;
(d)水のタンパク質の抽出物透析濾過を用いて限外濾過する;そして、
(e)タンパク分解酵素の作用により6.6から7.0のpHの間で、生じたタンパク質残余分を凝固させる。)
「4. The process according to claim 2 wherein the seeds of the grain legume used are obtained from ;Cajanus cajan, Cicer arietinum, Lens culinari, Phaseolus vulgaris, Pisum sativum, Vica faba, Vigna mungo, Vigna radiata, Vigna unguiculata, and mixtures of two or more of the foregoing. 」
(日本語訳:
請求項4 使用される豆の種子は、キマメ、ヒヨコマメ、レンズマメ、インゲンマメ、エンドウマメ、・・ケツルアズキ、リョクトウ、ササゲ及びこれらの2以上の混合物から得られる請求項2に記載の方法。」)
そして、刊行物1の摘示(刊1-3)には、
「大豆タンパク質源は、大豆、あるいは大豆ミール(soy meal)、大豆フレーク、大豆粗粒および大豆粉を含むがこれらに限定されない任意の大豆製品または大豆の加工に由来する副産物とすることができる。大豆タンパク質源は、脂肪を除いていない形態(full fat form)、部分的に脱脂した形態または完全に脱脂した形態で使用し得る。」との記載がある。
この記載を踏まえると、引用発明の大豆タンパク質源は、任意の大豆製品または大豆の加工由来する副産物であってよく、また、大豆の脂肪については、脂肪を除いていない形態(full fat form)、部分的に脱脂した形態または完全に脱脂した形態で使用し得るとされていて、要は、タンパク質を供給するものとして、マメ科の植物において、比較的にタンパク質を多く含む大豆を選択したに過ぎないものと認められる。
また、引用発明の目的が、(刊1-1)の「低pH値で透明な熱安定性溶液を生成し、したがって、タンパク質を沈殿させることなく、特に、ソフトドリンクおよびスポーツドリンク、ならびに他の水系のタンパク質強化(protein fortification)に使用することができる、少なくとも約60wt%(N×6.25)d.b.のタンパク質含量を有する大豆タンパク質製品を提供すること」であるので、引用発明のタンパク質源として、タンパク質を供給できる大豆以外の他のものを使用することができないということでもない。
そうすると、引用発明において、大豆に代えて、タンパク質を供給するタンパク質源として、上記周知技術であるマメ科の豆類である「ヒヨコマメ」、「ヒラマメ(レンズマメ)」及び「エンドウマメ」を採用して、上記相違点に係る本願請求項1に係る発明の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。
(イ)本願補正発明の効果について
本願補正発明の効果は、本願の発明の詳細な説明の段落【0009】の、
「本発明は、少なくとも約60wt%、好ましくは少なくとも約90wt%、より好ましくは少なくとも約100wt%(N×6.25)d.b.のタンパク質含量を有し、約4.4未満の酸性のpH値で水溶性であって、熱安定性の溶液を形成し、タンパク質沈殿をもたらすことなくソフトドリンクおよびスポーツドリンク(sport drinks)を含めた水系をタンパク質強化するのに有用である新規の豆類タンパク質製品をさらに提供する。」にあると解される。
しかるに、刊行物1の摘示(刊1-1)には、
「【0006】 低pH値で透明な熱安定性溶液を生成し、したがって、タンパク質を沈殿させることなく、特に、ソフトドリンクおよびスポーツドリンク、ならびに他の水系のタンパク質強化(protein fortification)に使用することができる、少なくとも約60wt%(N×6.25)d.b.のタンパク質含量を有する大豆タンパク質製品を提供することが今や可能であることが分かった。
【0007】
本発明において提供する新規の大豆タンパク質製品は、他の大豆タンパク質製品に見られないパラメーターの独特の組合せを有する。該製品は、約4.4未満の酸性pH値で完全に可溶性であり、このpH範囲で熱安定性であり、高温充填用途(hot fill application)などの加熱処理を可能にする。」との記載があり、本願補正発明の効果は、刊行物1に悉く記載されている。
カ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものではない。
したがって、上記補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、この補正を含む本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
第3 本願発明
平成28年3月10日の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願請求項1~25に係る発明は、平成27年5月11日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~25に記載された事項により特定されるとおりのものであり、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、下記のとおりである。
「(a)豆類タンパク質源をカルシウム塩水溶液で抽出して、タンパク質源からの豆類タンパク質の可溶化を引き起こすと共に豆類タンパク質水溶液を形成するステップ、
(b)残留する豆類タンパク質源から豆類タンパク質水溶液を少なくとも部分的に分離するステップ、
(c)豆類タンパク質水溶液のpHを1.5から4.4のpHに調整して、酸性化豆類タンパク質水溶液を生成するステップ、あるいは、(d)一体となった豆類タンパク質水溶液と残留豆類タンパク質源のpHを1.5から4.4のpHに調整し、その後、残留豆類タンパク質源から酸性化豆類タンパク質水溶液を分離するステップ、
を含む、乾燥重量基準で少なくとも約60wt%(N×6.25)のタンパク質含量を有する豆類タンパク質製品、または少なくとも約90wt%(N×6.25)のタンパク質含量を有する豆類タンパク質製品の製造方法。」
第4 原査定の理由
拒絶査定における拒絶理由(平成26年10月31日付けの「理由1」~「理由3」)の概要は、
理由1:この出願の発明は、その出願の優先権主張日前に頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない、
理由2:この出願の発明は、その出願の優先権主張日前に頒布された刊行物に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができるものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、
理由3:この出願は、特許請求の範囲の記載が明確でないから、特許法第36条第2項に規定する要件を満たしていない、というものである。
第5 引用刊行物の記載事項及び記載された発明
上記拒絶理由で引用された上記刊行物1である「国際公開第2010/045727号」の記載事項及び記載された発明は上記の「第2 2 (3) イ 刊行物1に記載された事項」及び「ウ 刊行物1に記載された発明」に記載されたとおりである。
第6 判断
1 本願発明
本願発明は、前記「第2 2(1)」の補正前の請求項1に記載されたとおりのものであって、「少なくとも約60wt%」及び「少なくとも約90wt%」と特定することにより、本願補正発明から、それぞれ「少なくとも60wt%」及び「少なくとも90wt%」との限定を省き、さらに、「該豆類は、レンズマメ(lentils)、ヒヨコマメ(chickpea)、乾燥エンドウマメ(dry pea)からなる群より選択される」ことの限定を省くものである。
2 特許法第29条第1項第3号について
(1) 審判請求人は、平成27年5月19日付け上申書において、
「引用文献1:国際公開第2010/045727号
まず、引用文献1に記載される、『大豆』は、上記のFAOの定める分類では、『豆類(pulses)』に含まれないことは、明白であると存じます。
従って、引用文献1は、『大豆』を含まない『豆類(pulses)』に由来する『透明な酸性化豆類タンパク質水溶液』を作製するプロセスを開示していないと存じます。」(4頁下から7行~3行)と主張しているから、この点に着目して検討する。
(2) 本願の発明の詳細な説明には、段落【0012】に、
「豆類タンパク質製品を提供する方法の最初のステップは、豆類タンパク質源からの豆類タンパク質の可溶化を伴う。本発明を適用することができる豆類としては、レンズマメ、ヒヨコマメ、乾燥エンドウマメおよび乾燥ビーンが挙げられる。」との記載がある。
上記「本発明を適用することができる豆類としては、レンズマメ、ヒヨコマメ、乾燥エンドウマメおよび乾燥ビーンが挙げられる。」との記載によれば、豆類として具体的には、レンズマメ、ヒヨコマメ、乾燥エンドウマメ及び乾燥ビーンが挙げられているが、これは単なる例示であると解され、本願発明に係る「豆類」から「大豆」が確実に排除されているとはいえない。
ところで、「四訂食品成分表 1994」(平成6年4月(再版) 女子栄養大学出版部発行)には、「だいず(大豆)」は、「えんどう -乾-」や「ひよこまめ」と共に「豆類」の項に分類されている(p.100-101、104-105、108-109)。
そうすると、本願発明における「豆類」には、「大豆」が含まれると解するのが相当である。
してみれば、本願発明は、引用発明を含むものであり、刊行物1に記載された発明であるということになる。
仮に、「豆類」に大豆が含まれず、「豆類」が「レンズマメ(lentils)、ヒヨコマメ(chickpea)、乾燥エンドウマメ(dry pea)からなる群より選択される」ものを意味するとしても、以下「3」に示すように、本願発明は当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 特許法第29条第2項について
本願発明の発明特定事項をすべて含むものに相当する本願補正発明が、前記「第2 2 (3) オ 判断」に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、請求人は、平成28年11月17日に提出された上申書において、特許請求の範囲の請求項15のみが変更された補正案を示し、補正の機会を求める旨の主張をしているが、請求項1については何ら変更されていない補正案であり、請求項1についての上記各判断に影響するものではない。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当する、あるいは、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2016-003765