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特許拒絶査定不服審判

2025-000898

金属カーバイドおよび炭化水素の製造方法、ならびに炭素含有部材

審判番号
2025-000898
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2024-048286
請求日
2025年01月22日
審決日
2026年06月26日
公報発行日
2026年09月25日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】ダイキン工業株式会社
  • 【請求人代理人】川本 真由美
  • 【請求人代理人】式見 真行
  • 【請求人代理人】津村 祐子
  • 【請求人】学校法人同志社
  • 【請求人代理人】川本 真由美
  • 【請求人代理人】式見 真行
  • 【請求人代理人】津村 祐子
審判長/審判官
  • 審判長 粟野 正明
  • 審判官 酒井 英夫
  • 審判官 富永 泰規
分類
P18 .113-Z (C25B) / P18 .121-Z (C25B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2024- 48286「金属カーバイドおよび炭化水素の製造方法、ならびに炭素含有部材」拒絶査定不服審判事件〔令和 6年10月25日出願公開、特開2024-152637〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 1 手続の経緯 本願は、令和 6年 3月25日(優先権主張 令和 5年 4月12日)の特許出願であって、その手続の経緯の概略は次のとおりである。 令和 6年 6月14日付け:拒絶理由通知 令和 6年 8月16日 :意見書、手続補正書の提出 令和 6年10月 9日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。) 令和 7年 1月22日 :審判請求書の提出 令和 7年 3月 5日 :審判請求書の手続補正書(方式)の提出 令和 7年 3月 7日 :上申書の提出 2 本願発明 本願の請求項1~13に係る発明は、令和 6年 8月16日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1~13に係る発明は、次のとおりのものである。(なお、以下、請求項1~13に係る発明を、それぞれ「本願発明1」~「本願発明13」といい、これらを総称して「本願発明」という。) 「 【請求項1】 アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の第1金属イオンを含む溶融塩を調製すること、 炭素を含む電極を準備すること、および、 前記電極を用いて前記溶融塩に電圧を印加し、前記第1金属のカーバイドを含む金属カーバイド組成物を得ること、を備え、 前記溶融塩は、炭酸イオンを実質的に含まない、金属カーバイドの製造方法。 【請求項2】 前記電極は、グラッシーカーボン、天然黒鉛、等方性黒鉛、高配向性熱分解黒鉛、プラスチックフォームドカーボンおよび導電性ダイヤモンドよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。 【請求項3】 前記電極は、高配向性熱分解黒鉛を含む、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。 【請求項4】 前記溶融塩は、陰イオンとして、ハロゲン化物イオンおよび酸化物イオンの少なくとも一方を含む、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。 【請求項5】 前記溶融塩は、陰イオンとして、ハロゲン化物イオンおよび酸化物イオンの双方を含む、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。 【請求項6】 前記溶融塩は、前記ハロゲン化物イオンとして、塩化物イオンを含む、請求項4または5に記載の金属カーバイドの製造方法。 【請求項7】 前記溶融塩は、前記ハロゲン化物イオンとして、フッ化物イオンを含む、請求項4または5に記載の金属カーバイドの製造方法。 【請求項8】 前記金属カーバイド組成物は、さらに、炭素、前記第1金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物、水素化物および過酸化物よりなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。 【請求項9】 前記溶融塩は、前記第1金属イオンとして、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンよりなる群から選択される1種と、カルシウムイオンとを含む、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。 【請求項10】 アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の第1金属イオンを含む溶融塩を調製すること、 炭素を含む電極を準備すること、 前記電極を用いて前記溶融塩に電圧を印加し、前記第1金属のカーバイドを含む金属カーバイド組成物を得ること、および、 前記第1金属のカーバイドを加水分解して、炭化水素を含むガスを得ることを含み、 前記溶融塩は、炭酸イオンを実質的に含まない、炭化水素の製造方法。 【請求項11】 前記炭化水素は、アセチレンである、請求項10に記載の炭化水素の製造方法。 【請求項12】 前記ガスは、前記炭化水素としてアセチレンを含み、さらに、エチレン、エタン、メタン、メチルアセチレン、プロピレン、ブテンおよび水素よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項10または11に記載の炭化水素の製造方法。 【請求項13】 炭素を含む基体と、 前記基体に担持された、アルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種の第1金属のカーバイドを含む金属カーバイド組成物と、を含む、炭素含有部材。」 3 原査定の拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。 (1)本願の請求項1、2、4、6、8、10~13に係る発明は、その出願前に外国において頒布された下記引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。 (2)本願の請求項1~13に係る発明は、その出願前に外国において頒布された下記引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1:米国特許第2952591号明細書 4 引用文献1の記載事項 原査定の拒絶の理由で引用され、本願優先日前に公知となった引用文献1には、「ELECTROLYTIC PREPARATION OF CALCIUM CARBIDE(当合議体訳:カルシウムカーバイドの電解製造方法)」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。(なお、摘記箇所の行数は、頁中央に付された行数に基づいて示した。また、下線は当合議体が付したものである。以下同様。) (1) 「 This invention relates to the preparation of calcium carbide and it more particularly relates to the preparation of calcium carbide by the electrolysis of a molten calcium salt in the presence of a source of carbon.」(第1欄第16行~第19行) (当合議体訳: 本発明は、カルシウムカーバイドの調製に関し、より具体的には、炭素源の存在下で溶融したカルシウム塩を電気分解することによりカルシウムカーバイドを調製することに関する。) (2) 「 It is therefore the principal object of this invention to provide a new and improved process for the production of calcium carbide. Fulfilling this object, the process of this invention comprises electrolyzing a molten salt, which contains calcium ions, in the presence of a source of carbon in an electrolytic cell. As used above and hereinafter in this disclosure and the appended claims, the term carbon is meant to encompass both graphite and non-graphitic or amorphous carbon.」(第1欄第34行~第43行) (当合議体訳: したがって、本発明の主な目的は、カルシウムカーバイドを製造するための新規かつ改良された方法を提供することである。 この目的を達成するため、本発明の方法は、カルシウムイオンを含む溶融塩を、炭素源の存在下で電解セル内で電気分解することを含む。本開示および添付の特許請求の範囲において、上記および以下で使用される「炭素」という用語は、グラファイトおよび非グラファイト状またはアモルファス状の炭素の両方を包含するものとする。) (3) 「 As an example of the type of apparatus which may be used for the electrolysis, the accompanying figure shows an electrolytic cell adapted to use in this invention in vertical section. With reference to the accompanying drawing, the electrolytic cell comprises a crucible 10, which serves as one electrode, preferably the anode, of the cell, a rod 12, which serves as the other electrode, preferably the cathode, and a porous insulating chemically inert separator 14. The separator should be between the anode and the cathode so as to define a relatively large cathode compartment as compared to the anode compartment. This electrolytic cell assembly is suitably contained within a corrosion resistant enclosure 16, suitably insulated from at least one of the electrodes, as shown at 19, which may have entry and exhaust ports 15 and 17 suited to maintain an inert gas atmosphere around the cell, and the enclosure 16 placed in a conventional crucible furnace 18 for heating purposes. Electrical power may be supplied by a battery or a direct current generator 20 through the enclosure 16 to one of the electrodes, or such may be supplied directly to the anode and cathode 12. The electrolyte 22 is conveniently made up of a mixed salt bath. However, it may be substantially all a calcium salt provided that a suitable source of carbon is made available in the cell.」(第1欄第44行~第69行) (当合議体訳: 電気分解に使用できる装置のタイプの例として、添付の図は、本発明で使用するのに適した電解セルの縦断面を示す。 添付図面を参照すると、電解セルは、セルの一方の電極、好ましくはアノード(陽極)として機能するるつぼ10、他方の電極、好ましくはカソード(陰極)として機能するロッド12、および化学的に不活性な多孔質絶縁セパレータ14を備える。セパレータは、アノード(陽極)とカソード(陰極)の間に配置され、陽極室に比べて比較的大きなカソード(陰極)室を画定する。この電解槽装置は、19に示すように、少なくとも一方の電極から適切に絶縁された耐腐食性エンクロージャ16内に適切に収容される。エンクロージャ16は、セル周囲の不活性ガス雰囲気を維持するのに適した入口ポート15および排気ポート17を有してもよい。エンクロージャ16は、加熱のために従来のるつぼ炉18内に配置される。電力は、バッテリーまたは直流発電機20からエンクロージャ16を介して一方の電極に供給するか、またはアノード(陽極)及びカソード(陰極)12に直接供給することができる。電解質22は、混合塩浴から構成されるのが好都合である。ただし、セル内に適切な炭素源が存在する限り、実質的にすべてがカルシウム塩であってもよい。) (4) 「 The mixed salt bath may be composed of calcium chloride, lithium chloride and calcium carbonate. These particular compounds are preferred because calcium chloride and lithium chloride form a low melting point mixture (507 ℃), which may be termed a eutectic, at 63.4% calcium chloride; and the calcium carbonate, which serves as a suitable source of carbon, dissolves readily in this eutectic melt. It is desirable, but not essential, to use the eutectic proportions since lower power is required to maintain it in the molten state than is required to keep any other proportions of these salts molten. The source of carbon referred to above may be provided as a solid carbonaceous body in contact with the electrolyte in the cathode compartment. If such is used, it is preferred to employ a non-consumable cathode. Alternatively, the cathode itself may act as the source of carbon necessary to the operation of this process. This may be accomplished by providing a consumable carbon electrode as the cathode.」(第1欄第70行~第2欄第16行) (当合議体訳: 混合塩浴は、塩化カルシウム、塩化リチウム、および炭酸カルシウムから構成され得る。これらの化合物が好ましいのは、塩化カルシウムと塩化リチウムが、塩化カルシウム63.4%で共晶と呼ばれる低融点混合物(507℃)を形成するためであり、適切な炭素源となる炭酸カルシウムは、この共晶溶融物に容易に溶解する。共晶比率を使用することは望ましいが、必須ではない。なぜなら、共晶比率を溶融状態に保つために必要な電力は、これらの塩の他の比率を溶融状態に保つために必要な電力よりも低いからである。上記の炭素源は、陰極室において電解液と接触する固体炭素質体として提供され得る。このような固体炭素質体を使用する場合、非消耗性陰極を用いることが好ましい。あるいは、陰極自体が、このプロセスの動作に必要な炭素源として機能してもよい。これは、カソード(陰極)として消耗性炭素電極を設けることによって実現され得る。 (5) 「 Generally, the electrolysis may best be carried out by mixing between 64 and 188 parts by weight of calcium chloride with between 42 and 169 parts by weight of lithium chloride to obtain a mixture having from 18 to 72 weight percent lithium chloride. The mixture may be heated to between 507 ℃ and 850 ℃, thereby melting it, whereupon sufficient calcium carbonate should be added to obtain a weight percent concentration ratio of 1 to 4 calcium carbonate to calcium chloride in the melt. It is not necessary that the calcium chloride and lithium chloride be of any particular particle size since the mixture is subsequently melted. However, the calcium carbonate should be of a particle size sufficient to readily dissolve in the molten mixture in order that the power requirements be kept to a minimum by reducing the temperature-hold time to a minimum.」(第2欄第59行~第3欄第2行) (当合議体訳:一般的に、電気分解は、64~188重量部の塩化カルシウムと42~169重量部の塩化リチウムを混合し、18~72重量パーセントの塩化リチウムを含む混合物を得ることによって最もよく行われる。この混合物を507℃~850℃に加熱して溶融し、その後、溶融物中の炭酸カルシウムと塩化カルシウムの重量パーセント濃度比が1:4となるように十分な量の炭酸カルシウムを加える。この混合物はその後溶融されるため、塩化カルシウムと塩化リチウムの粒径は特に制限されない。ただし、温度保持時間を最小限に抑えることで電力要件を最小限に抑えるためには、炭酸カルシウムは溶融混合物に容易に溶解するのに十分な粒径である必要がある。) (6) 「 The lithium chloride-calcium chloride mixture in the proportions above noted is melted in the electrolytic cell under an inert atmosphere and 5.8 to 23 parts of the calcium carbonate added thereto. When the electrolyte has thus been formed, between 6 to 10 volts D.C. at between 7 to 20 amperes, it applied for at least 11 ampere hours. Upon completion of the electrolysis, the entire assembly is cooled in an inert atmosphere and when cool, the solid electrolysis products are removed from the cell and broken up in a dry atmosphere. The broken pieces of product are then washed with a suitable liquid, which is a solvent for the solid electrolyte but which will not dissolve or react with the calcium carbide, in order to recover the calcium carbide formed by the electrolysis. One such solvent which is caused to advantage in this leaching process, where calcium chloride and lithium chloride make up the electrolyte, is methanol. It is important in all the separation and purification steps of process for making calcium carbide that water not be allowed to contact the product since a reaction will immediately take place therewith to form acetylene. If the ultimate aim of the process is to make acetylene, the solid electrolysis products may be directly reacted water without any separation of the components thereof and the acetylene gas thus produced collected.」(第3欄第3行~第27行) (当合議体訳:上記の比率の塩化リチウム-塩化カルシウム混合物を不活性雰囲気下で電解セル内で溶融し、炭酸カルシウムを5.8~23部加える。このようにして電解液が形成された後、6~10ボルトの直流電圧、7~20アンペアの電流を少なくとも11アンペア時間印加する。電解終了後、装置全体を不活性雰囲気下で冷却し、冷却後、固体の電解生成物を電解槽から取り出し、乾燥雰囲気下で破砕する。破砕された生成物は、固体電解質の溶媒でありながら、炭化カルシウムを溶解または反応させない適切な液体で洗浄され、電解によって生成された炭化カルシウムが回収される。塩化カルシウムと塩化リチウムが電解質を構成するこの浸出プロセスにおいて有利に作用する溶媒の一つはメタノールである。炭化カルシウムの製造プロセスにおける全ての分離・精製工程において、生成物と水との接触を禁止することが重要である。なぜなら、水は直ちに反応を起こしてアセチレンを生成するからである。プロセスの最終目的がアセチレンの生成である場合、固体電解生成物を成分分離することなく直接水と反応させ、発生したアセチレンガスを回収することができる。」 (7) 「 EXAMPLE I A mixture of 85 parts by weight of lithium chloride and 145 parts by weight of calcium chloride was made and melted at 800 ℃ in a graphite anode-steel cathode electrolytic cell. Finely divided calcium carbonate, in an amount of 11.5 parts by weight was dissolved in the molten mixed salt and a current of 16 amperes at 7.6 volts was passed through the cell for 24 ampere hours. After this time, the cell products were treated with water and underwent an effervescent reaction therewith. The resultant gas gas treated with ammoniacal cuprous chloride which gave a red precipitate indicating the presence of acetylene.」(第3欄第30行~第43行) (当合議体訳:実施例I 塩化リチウム85重量部と塩化カルシウム145重量部の混合物を調製し、黒鉛アノード(陽極)-鋼カソード(陰極)の電解槽で800℃で溶融した。溶融混合塩に炭酸カルシウム11.5重量部を溶解し、7.6ボルト、16アンペアの電流を24アンペア時間通電した。この後、電解槽生成物を水で処理し、発泡反応を行なった。得られたガスをアンモニア性塩化第一銅で処理すると、アセチレンの存在を示す赤色沈殿が生じた。) (8) 「 EXAMPLE II About 65 parts by weight of anhydrous calcium chloride was melted at about 800 ℃ in a cell similar to that described in Example I except that a consumable carbon cathode was substituted for the steel cathode used in the cell described in that example, and the melt was electrolyzed with 7 to 15 amperes at 9 to 10 volts for about 2 hours. A reaction of 50 grams of the electrolysis products with water yielded about 90 cubic centimeters of a gas, about 78% of which was absorbed by ammoniacal cuprous chloride. Thus it was determined that about 0.3 part by weight of calcium carbide was formed in the 50 gram sample tested.」(第3欄第44行~第56行) (当合議体訳:実施例II 実施例Iで使用した鋼製カソードの代わりに消耗性炭素カソードを用いたこと以外は実施例Iと同様の電解槽で、無水塩化カルシウム約65重量部を、約800℃で溶融し、溶融物を9~10ボルト、7~15アンペアで約2時間電気分解した。電気分解生成物50グラムと水との反応により約90立方センチメートルのガスが発生し、その約78%がアンモニア性塩化第一銅に吸収された。したがって、試験した50グラムのサンプル中に約0.3重量部の炭化カルシウムが生成されたと判定された。) (9) 「 Many modifications of the apparatus hereinabove described suggest themselves to those skilled in the art. For example, if acetylene is the desired final product, a cyclic process may be employed wherein calcium carbide is formed by the instant process and hydrolyzed to acetylene. The calcium by-product of the acetylene production may be treated to produce chloride to be used in the instant process for producing calcium carbide.」(第4欄第22行~第29行) (当合議体訳:当業者であれば、上記装置を様々な形で改変できることが容易に想像できる。例えば、アセチレンが最終生成物である場合、本プロセスによって炭化カルシウムを生成し、これを加水分解してアセチレンを生成する循環プロセスを採用することができる。アセチレン生成時に副生するカルシウムは、本プロセスで炭化カルシウムを製造する際に用いる塩化物を生成するために処理することができる。) 5 引用文献1に記載された発明 上記4に摘記した事項を総合勘案し、実施例Iを前提として、実施例IIに着目すると、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。 「黒鉛アノード-消耗性炭素カソードの電解槽で、 無水塩化カルシウム約65重量部を、約800℃で溶融し、 溶融物を9~10ボルト、7~15アンペアで約2時間電気分解し、 電気分解生成物を得る方法であって、 その電気分解生成物50gと水との反応により約90立方センチメートルのガスが発生し、その約78%がアンモニア性塩化第一銅に吸収され、試験した50グラムのサンプル中に約0.3重量部の炭化カルシウムが生成されたと判定される、 方法。」(以下、「引用発明」という。) 6 本願発明1について (1) 対比 ア 本願発明1と引用発明とを対比する。 イ 引用発明の「方法」は、「その電解生成物50gと水との反応により約90立方センチメートルのガスが発生し、その約78%がアンモニア性塩化第一銅に吸収されたことから、試験した50グラムのサンプル中に約0.3重量部の炭化カルシウムが生成されたと判定され」るものであって、引用文献1の上記4(1)の記載も踏まえると、「炭化カルシウムを製造する方法」であるといえる。 ウ 引用発明の「炭化カルシウム」は、アルカリ土類金属であるカルシウムの炭化物(つまりカーバイド)である。そうすると、引用発明の「炭化カルシウム」は、本願発明1の「アルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の第1金属」の「カーバイド」、すなわち「金属カーバイド」に相当するといえる。 エ 上記ウを踏まえると、引用発明の「炭化カルシウムを製造する方法」といえる「方法」は、本願発明1の「金属カーバイドの製造方法」に相当する。 オ 引用発明の「方法」において「無水塩化カルシウム約65重量部を、約800℃で溶融」することは、本願優先日当時の技術常識からみて無水塩化カルシウムが溶融し溶融塩が調製されることは明らかであり、また、その溶融塩がカルシウムイオンを含むことも明らかであるから、上記ウを踏まえると、本願発明の「アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の第1金属イオンを含む溶融塩を調製すること」に相当する。 カ 引用発明の「黒鉛アノード-消耗性炭素カソードの電解槽」は、炭素の一種である黒鉛をアノード(陽極の電極)、炭素の一種である消耗性炭素をカソード(陰極の電極)とするものであって、操業にあたり、黒鉛アノード及び消耗性炭素カソードが準備されることは明らかである。 そうすると、引用発明の「黒鉛アノード-消耗性炭素カソードの電解槽」において、黒鉛アノード及び消耗性炭素カソードを準備することは、本願発明の「炭素を含む電極を準備すること」に相当する。 キ 引用発明の「溶融物を9~10ボルト、7~15アンペアで約2時間電気分解」することは、本願優先日当時の技術常識からみて、アノードとカソードを用いて溶融塩に電圧を印加するものであることは明らかである。 また、「電気分解」により得られる「電気分解生成物」は、「その電気分解生成物50gと水との反応により約90立方センチメートルのガスが発生し、その約78%がアンモニア性塩化第一銅に吸収されたことから、試験した50グラムのサンプル中に約0.3重量部の炭化カルシウムが生成されたと判定され」るものであるから、炭化カルシウムを含む組成物であると認められる。 そうすると、引用発明の「溶融物を9~10ボルト、7~15アンペアで約2時間電気分解し、」「電気分解生成物を得る」ことは、本願発明1の「前記電極を用いて前記溶融塩に電圧を印加し、前記第1金属のカーバイドを含む金属カーバイド組成物を得ること」に相当する。 ク そうすると、本願発明1と引用発明とは、以下の一致点において一致し、以下の相違点1において相違する。 <一致点> 「アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の第1金属イオンを含む溶融塩を調製すること、 炭素を含む電極を準備すること、および、 前記電極を用いて前記溶融塩に電圧を印加し、前記第1金属のカーバイドを含む金属カーバイド組成物を得ること、を備える 金属カーバイドの製造方法。」である点 <相違点1> 本願発明1の溶融塩は、「炭酸イオンを実質的に含まない」ものであるのに対して、引用発明の溶融塩は、「無水塩化カルシウム約65重量部を、約800℃で溶融し」て得られるものであるものの「炭酸イオンを実質的に含まない」ことが明示的に特定されていない点 (2) 相違点についての判断 ア 本願発明1の溶融塩が「炭酸イオンを実質的に含まない」ことについて、本願の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 「【0040】 溶融塩は、炭酸イオン(CO32-)を実質的に含まないことが望ましい。溶融塩が炭酸イオンを含む場合、第1金属の放電により生じた電子と反応して(式1)、炭素が生成し易くなる。そのため、第1金属カーバイドの収率が低下する。溶融塩が炭酸イオンを実質的に含まないことにより、このような副反応が抑制されて、第1金属カーバイドの収率が高くなる。 (式1) 2CO32-+8e- → 2C+6O2- 【0041】 「炭酸イオンを実質的に含まない」は、電解反応に関与しない程度の炭酸イオンの存在を許容する。溶融塩は、例えば、1.0モル%以下程度の炭酸イオンを含んでいてよい。溶融塩における炭酸イオン濃度は、0.5モル%以下であってよく、0.3モル%以下であってよく、0モル%であってよい。」 イ 上記アの記載によれば、本願発明1の溶融塩が「炭酸イオンを実質的に含まない」とは、炭酸イオンの副反応を抑制し、第1金属カーバイドの収率を高くすることを目的とするものであって、電解反応に関与しない程度の炭酸イオンの存在を許容するものであり、1.0モル%以下程度の炭酸イオンを含んでいてよいものであるといえる。 ウ 一方、引用発明の溶融塩は、「無水塩化カルシウム約65重量部を、約800℃で溶融し」て得られるものであって、炭酸イオンを生じる材料を溶融していないことから、「炭酸イオンを実質的に含まない」ものであると認められる。 エ この点について、引用文献1の実施例Iについては、塩化リチウム85重量部と塩化カルシウム145重量部の混合物を調製し、黒鉛アノード(陽極)-鋼カソード(陰極)の電解槽で800℃で溶融したものであり、さらに溶融混合塩に炭酸カルシウム11.5重量部を溶解し、7.6ボルト、16アンペアの電流を24アンペア時間通電したものであるから、溶融混合塩に対して炭酸カルシウムを添加することが明記されている。 そうすると、炭酸カルシウムを溶融することについて記載されていない実施例IIは、その記載のとおり「無水塩化カルシウム」を溶融するものであって、炭酸カルシウムを溶融しないものと解するのが相当である。 オ また、引用文献1の上記4(4)の記載によれば、混合塩浴の一例として、塩化カルシウム、塩化リチウム、および炭酸カルシウムから構成されることが記載され、この混合塩浴は、塩化カルシウムと塩化リチウムが、共晶と呼ばれる低融点混合物を形成し、適切な炭素源として炭酸カルシウムを含むとされている。さらに、共晶比率を使用することは望ましいが、必須ではないとされ、上記の炭素源は、陰極室において電解液と接触する固体炭素質体として提供され得るとし、このような固体炭素質体を使用する場合、非消耗性陰極を用いることが好ましく、また、カソード(陰極)として消耗性炭素電極を設けることによって陰極自体が、このプロセスの動作に必要な炭素源として機能してもよいとされている。 これらの記載によれば、カソード(陰極)として消耗性炭素電極を用いる場合には、この消耗性炭素電極が炭素源として機能するから、他の炭素源を添加する技術的必然性はなく、実施例IIは、炭酸カルシウムを含まない実施例であるといえる。 さらに、実施例Iは、炭素源として炭酸カルシウムを含む実施例であり、実施例IIは、カソード(陰極)自体が炭素源として機能するものであって、異なる炭素源を用いる実施例が示されれているものと解するのが合理的であるから、この点からみても実施例IIは、炭酸カルシウムを含まない実施例であると解するのが自然である。 カ 請求人は、令和 7年 3月 5日提出の手続補正書により補正された審判請求書において、引用文献1の実施例IIには炭酸カルシウムを添加していないという記載はなく、加えて、本件明細書にはa consumable carbon cathodeと炭酸カルシウムの併用を排除するような記載やそのような技術常識がないから、引用発明の溶融塩が炭酸イオンを含まないことを当業者が把握することができない旨主張している。 しかしながら、上記エ、オで検討したように、実施例I及び実施例IIの記載からみて、炭酸カルシウムを溶解することについて記載されていない実施例IIは炭酸カルシウムを添加していないと解するべきものである。また、a consumable carbon cathodeと炭酸カルシウムの併用を排除する記載がないことをもって、実施例IIが炭酸カルシウムを添加しているとはいえない。 よって、請求人の上記主張を採用しない。 キ そうすると、カソード(陰極)が炭素源である消耗性炭素である引用発明は、炭酸カルシウムを添加するものではなく、炭酸イオンが生成するものでもないから、引用発明の溶融塩は、「炭酸イオンを実質的に含まない」ものであって、相違点1は実質的な相違点ではない。 ク 仮に、引用発明が炭酸カルシウムを添加するものではないとはいえず、相違点1が実質的な相違点であるとしても、上記オで検討したように、引用文献1には、カソード(陰極)自体を炭素源として機能するようにすることが記載されているから、カソード(陰極)が炭素源である消耗性炭素である引用発明において、同様に炭素源である炭酸カルシウムを含む必要がないことは明らかであって、これを実質的に含まないようにする動機付けがあるといえる。 ケ また、本願発明1によって奏される効果は、引用発明から当業者が予測可能なものであって、格別顕著なものとはいえない。 コ そうすると、仮に相違点1が実質的な相違点であるとしても、引用発明において、炭酸カルシウムを実質的に含まないようにすることは、当業者が容易に想到することができたものである。 (3)本願発明1についてのまとめ 以上によれば、本願発明1は、引用文献1に記載された発明である。仮にそうでないとしても、本願発明1は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 7 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、または、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2025-000898

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