特許拒絶査定不服審判
2025-004792
透明導電性フィルム
- 審判番号
- 2025-004792
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2023-055676
- 請求日
- 2025年03月28日
- 審決日
- 2026年06月15日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日東電工株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人いくみ特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 松永 稔
- 審判官 緑川 隆
- 審判官 棚田 一也
- 分類
- P18 .113-Z (H01B) / P18 .121-Z (H01B) / P18 .575-Z (H01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2023- 55676「透明導電性フィルム」拒絶査定不服審判事件〔令和 6年10月11日出願公開、特開2024-143151〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和5年3月30日に出願されたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和6年 3月14日付け:拒絶理由通知書
同年 5月10日 :意見書、手続補正書の提出
同年 8月 5日付け:拒絶理由通知書(最後)
同年10月10日 :意見書、手続補正書の提出
令和7年 1月 7日付け:補正の却下の決定
同日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和7年 3月28日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和7年3月28日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和7年3月28日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
(1) 本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項4の記載は、次のとおり補正された。(下線は、補正箇所を示す。)
「 【請求項4】
透明基材(ポリエーテルサルホンフィルムを除く)と透明導電層とを厚さ方向に順に備える透明導電性フィルムであって、
前記透明基材は、透明な樹脂フィルムを備え、
前記透明導電層がインジウムスズ複合酸化物層であり、
前記透明導電層が100nm以上の厚さを有し、
前記透明導電層が、非晶質層と結晶質層とを前記透明基材側からこの順で有し、前記非晶質層が前記結晶質層より厚い、透明導電性フィルム。」
(2) 本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、令和6年5月10日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項4の記載は次のとおりである。
「 【請求項4】
透明基材と透明導電層とを厚さ方向に順に備える透明導電性フィルムであって、
前記透明導電層がインジウムスズ複合酸化物層であり、
前記透明導電層が100nm以上の厚さを有し、
前記透明導電層が、非晶質層と結晶質層とを前記透明基材側からこの順で有し、前記非晶質層が前記結晶質層より厚い、透明導電性フィルム。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項4に記載された発明を特定するために必要な事項である「透明基材」について、「ポリエーテルサルホンフィルム」を除く「透明な樹脂フィルム」であるとの限定を付加するものであって、補正前の請求項4に記載された発明と補正後の請求項4に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項4に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1) 本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2) 引用文献の記載及び引用発明等
ア 引用文献Aの記載
当審において新たに引用する特開2011-181904号公報(以下「引用文献A」という。)には、次の記載がある(下線は、合議体が付加した。以下、同じ。)。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性金属酸化物を含有する透明電極層を有する太陽電池用基板、太陽電池および有機薄膜太陽電池に関するものである。
・・・
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、低抵抗および可撓性を併せ持つ電極を有する太陽電池用基板および太陽電池を提供すること、さらには酸による電極へのダメージを低減することが可能な太陽電池用基板および有機薄膜太陽電池を提供することを主目的とする。
・・・
【発明を実施するための形態】
・・・
【0031】
本発明の太陽電池用基板について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の太陽電池用基板の一例を示す概略断面図である。図1に示す例において、太陽電池用基板1は、透明基板2と、透明基板2上に形成され、導電性金属酸化物を含有する透明電極層3とを有している。透明電極層3は、透明基板2上に形成され、導電性金属酸化物を含有する非晶質膜3aと、非晶質膜3a上に形成され、導電性金属酸化物を含有する結晶膜3bとを有する。非晶質膜3aおよび結晶膜3bは同一の導電性金属酸化物を含有し、結晶膜3bは非晶質膜3aの表面を結晶化することで得られる。
【0032】
一般的に、導電性金属酸化物において、結晶膜は非晶質膜よりも抵抗が低く、すなわち導電性が高い。また、導電性金属酸化物において、結晶膜は非晶質膜よりも耐酸性に優れている。さらに、導電性金属酸化物において、非晶質膜と結晶膜とでは仕事関数が異なるものとなる。
【0033】
本発明によれば、透明電極層が非晶質膜よりも抵抗が低い結晶膜を有することにより、透明電極層自体の導電性を高めることが可能である。また、透明電極層が可撓性に優れる非晶質膜を有することにより、透明電極層自体の可撓性を維持することが可能である。したがって本発明においては、低抵抗および可撓性を併せ持つ透明電極層とすることができる。
【0034】
また本発明によれば、透明基板が可撓性を有するフィルム基板である場合には、透明電極層が非晶質膜を有し可撓性に優れているので、本発明の太陽電池用基板を用いることにより高性能なフレキシブル太陽電池を得ることが可能である。
・・・
【0040】
1.透明電極層
本発明における透明電極層は、透明基板上に形成されるものであり、透明基板上に形成され、導電性金属酸化物を含有する非晶質膜と、非晶質膜上に形成され、非晶質膜に含有される導電性金属酸化物と同一の導電性金属酸化物を含有する結晶膜とを有するものである。非晶質膜および結晶膜は同一の導電性金属酸化物を含有し、結晶膜は非晶質膜の表面 を結晶化することにより得られる。なお、非晶質膜を結晶化させて結晶膜を得る過程で導電性金属酸化物の元素組成が変化したとしても、その非晶質膜に含有される導電性金属酸化物と結晶膜に含有される導電性金属酸化物は同一のものとする。
・・・
【0043】
非晶質膜および結晶膜に用いられる導電性金属酸化物としては、導電性および透明性を有し、アモルファス構造および結晶構造を持ち、結晶化により抵抗が低く耐酸性が高くなり得るものであり、アニール処理により結晶化され得るものであれば特に限定されるものではない。このような導電性金属酸化物としては、酸化インジウム錫(ITO)が好ましく用いられる。ITOは、導電性および透明性を有し、かつ仕事関数が高いからである。また、ITOを用いた場合にはレーザーアニールにより層表面のみを結晶化することができるからである。
・・・
【0046】
透明電極層の膜厚としては、0.1nm~500nmの範囲内であることが好ましく、中でも10nm~300nmの範囲内であることが好ましい。膜厚が上記範囲より薄いと、透明電極層のシート抵抗が大きくなりすぎ、発生した電荷を十分に外部回路へ伝達できない可能性があり、一方、膜厚が上記範囲より厚いと、全光線透過率が低下し、光電変換効率を低下させる可能性があるからである。
【0047】
透明電極層中の結晶膜の厚みとしては、透明電極層が可撓性を有するような厚みであればよい。結晶膜の厚みが厚いと透明電極層の可撓性が損なわれるおそれがある。したがって、透明電極層の可撓性を高めるために、結晶膜の厚みは比較的薄いことが好ましい。
また、本発明の太陽電池用基板が有機薄膜太陽電池用基板である場合、透明電極層中の結晶膜の厚みとしては、耐酸性を有する厚みであればよい。結晶膜の厚みが薄いと所望の耐酸性が得られない場合がある。一方、結晶膜の厚みが厚いと透明電極層の可撓性が損なわれる。結晶膜の厚みが一定以上であれば十分な耐酸性を得ることができる。したがって、透明電極層の可撓性を高めるために、結晶膜の厚みは耐酸性を有する厚みの中でも比較的薄いことが好ましい。
・・・
【0051】
2.透明基板
本発明に用いられる透明基板は、上記透明電極層を支持するものである。
【0052】
透明基板としては特に限定されるものではなく、例えば石英ガラス、パイレックス(登録商標)、合成石英板等の可撓性のない透明なリジット材、あるいは透明樹脂フィルム、光学用樹脂板等の可撓性を有する透明なフレキシブル材を挙げることができる。
中でも、透明基板が透明樹脂フィルム等のフレキシブル材であることが好ましい。透明樹脂フィルムは、加工性に優れており、製造コスト低減や軽量化、割れにくい太陽電池の実現において有用であり、曲面への適用等、種々のアプリケーションへの適用可能性が広がるからである。
・・・
【0164】
レーザーアニールによって非晶質膜表面をどの程度まで結晶化するかは、得られる透明電極層の導電性、可撓性、耐酸性を考慮して適宜調整される。非晶質膜の表面は、結晶化により得られる結晶膜が、導電性金属酸化物が結晶構造を有するときの仕事関数と同程度の仕事関数を有するようになるまで、結晶化することが好ましい。結晶化の進行が不十分であると、所望の耐酸性が得られない場合がある。一方、結晶化が過度に進行すると、透明電極層の可撓性が損なわれる。結晶化がある程度まで進むと、仕事関数はほとんど変わらなくなる。したがって、高い可撓性を得るために、結晶膜が、導電性金属酸化物が結晶構造を有するときの仕事関数と同程度の仕事関数を有するようになった直後に、レーザーアニールを止めることが好ましい。
・・・
【実施例】
【0180】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
(有機薄膜太陽電池の作製)
厚み125μmのPETフィルム上にスパッタ法により厚み150nm、表面抵抗値60Ω/□のITO層を形成した。次に、上記ITO層に対して出力90mJ/cm2のエキシマレーザーを用いたレーザーアニールを行い、表面のみが結晶化されたITO層を得た。
【0181】
次に、上記ITO層上に、導電性高分子ペースト(ポリ-(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸分散品)をスピンコート法にて成膜した後、100℃で10分間乾燥させ、バッファー層を形成した。
次に、ポリチオフェン(P3HT:poly(3-hexylthiophene-2,5-diyl)、Aldrich社製)とC60PCBM([6,6]-phenyl-C61-butyric acid mettric ester、Nano-C社製)をブロモベンゼンに溶解させ、固形分濃度1.4wt%の光電変換層用塗工液を準備した。次いで、光電変換層用塗工液を上記バッファー層上にスピンコート法にて塗布した後、100℃で10分間乾燥させて、光電変換層を形成した。
次に、上記光電変換層上にカルシウムおよびアルミニウムを真空蒸着法にて形成して、金属電極とした。」
「【図1】
[図:0001438001000001.jpg]
」
イ 引用文献Aの記載から把握できる事項
(ア) 上記アの【0031】によれば、「太陽電池用基板1」は、「透明基板2」と、「透明基板2上に形成され」る「透明電極層3」とを有し、「透明電極層3」は、「非晶質膜3a」と「非晶質膜3a上に形成され」る「結晶膜3b」とを有する。
(イ) 上記アの【0180】によれば、実施例1の有機薄膜太陽電池は、「PETフィルム」上に、「厚み150nm」の「ITO層を形成し」、当該「ITO層に対して」「レーザーアニールを行い、表面のみが結晶化されたITO層を得た」ものである。
そして、上記(ア)より、「太陽電池用基板1」は、「透明基板2」と、「透明基板2上に形成され」る「透明電極層3」とを有するものであるところ、上記アの【0052】によれば、「透明基板」として、「透明樹脂フィルム」が挙げられることから、実施例1の有機薄膜太陽電池において、「PETフィルム」が「透明基板2」に相当する。また、上記アの【0040】、【0043】によれば、「透明電極層」は、同一の「導電性金属酸化物を含有する」「非晶質膜」と「結晶膜」を有し、「導電性金属酸化物」としては、「酸化インジウム錫(ITO)が好ましく」、「ITOを用いた場合にはレーザーアニールにより層表面のみを結晶化することができる」ことから、実施例1の有機薄膜太陽電池において、「ITO層」が「透明電極層3」に相当するものである。
そうすると、引用文献Aの実施例1は、透明基板2としてPETフィルムを用い、透明電極層3は、厚み150nmのITO(酸化インジウム錫)層を形成し、レーザーアニールを行い、表面のみを結晶化したものである。
ウ 引用発明A
上記イ(ア)、(イ)によれば、引用文献Aには、次の発明(以下「引用発明A」という。)が記載されている。
「透明基板2と、透明基板2上に形成される透明電極層3とを有する太陽電池用基板1であって、
透明電極層3は、非晶質膜3aと、非晶質膜3a上に形成される結晶膜3bとを有し、
透明基板2としてPETフィルムを用い、
透明電極層3は、厚み150nmのITO(酸化インジウム錫)層を形成し、レーザーアニールを行い、表面のみを結晶化したものである、
太陽電池用基板1。」
(3) 対比・判断
本件補正発明と引用発明Aとを対比する。
ア 引用発明Aの「透明基板2」は、「透明」であり、また、「透明基板2」である「PETフィルム」は、ポリエーテルサルホンフィルムではない、樹脂フィルムである。
そうすると、引用発明Aの「透明基板2」である「PETフィルム」と本件補正発明の「透明基材」とは、「透明基材(ポリエーテルサルホンフィルムを除く)」である点、及び、「前記透明基材が、透明な樹脂フィルム」である点で一致する。
イ 引用発明Aの「太陽電池用基板1」は、「透明基板2」と「透明電極層3」を有し、「透明電極層3」は「透明基板2上に形成される」ものであるから、「透明基板2」と「透明電極層3」とを厚さ方向に順に備えているといえる。
また、上記アで示したように、引用発明Aの「透明基板2」である「PETフィルム」は、「透明」な樹脂フィルムであるから、「透明基板2」上に「透明電極層3」を形成した「太陽電池用基板1」は、透明導電性フィルムといえる。
そうすると、上記アの検討を踏まえれば、引用発明Aの「太陽電池用基板1」と本件補正発明の「透明導電性フィルム」は、「透明基材(ポリエーテルサルホンフィルムを除く)と透明導電層とを厚さ方向に順に備える透明導電性フィルム」である点で共通する。
ウ 本願明細書の【0023】の「インジウムスズ複合酸化物(ITO)」との記載を踏まえると、引用発明Aの「厚み150nmのITO(酸化インジウム錫)層を形成し、レーザーアニールを行い、表面のみを結晶化したもの」である「透明電極層3」は、「厚み150nm」のインジウムスズ複合酸化物層といえる。
そうすると、引用発明Aの「透明電極層3」と本件補正発明の「透明導電層」は、「前記透明導電層がインジウムスズ複合酸化物層」である点、「前記透明導電層が100nm以上の厚さを有」する点で共通する。
エ 引用発明Aの「透明電極層3」は、「非晶質膜3a」と「非晶質膜3a上に形成され」る「結晶膜3b」とを有するものであり、また、「透明電極層3」は「透明基板2」上に形成されるものであるから、「透明電極層3」は、「非晶質膜3a」と「結晶膜3b」とを「透明基板2」側からこの順で有している。
そして、「膜」は「層」ともいい得るから、引用発明Aの「非晶質膜3a」、「結晶膜3b」は、「非晶質層」、「結晶質層」といえる。
そうすると、引用発明Aの「透明電極層3」と本件補正発明の「透明導電層」は、「前記透明電極層が、非晶質層と結晶質層とを前記透明基材側からこの順で有」する点で共通する。
オ 以上によれば、本件補正発明と引用発明Aは、以下の一致点及び相違点を有する。
[一致点]
「 透明基材(ポリエーテルサルホンフィルムを除く)と透明導電層とを厚さ方向に順に備える透明導電性フィルムであって、
前記透明基材は、透明な樹脂フィルムを備え、
前記透明導電層がインジウムスズ複合酸化物層であり、
前記透明導電層が100nm以上の厚さを有し、
前記透明導電層が、非晶質層と結晶質層とを前記透明基材側からこの順で有する、透明導電性フィルム。」
[相違点]
本件補正発明の「透明導電層」は、「非晶質層」が「結晶質層」より厚いのに対し、引用発明Aの「透明電極層3」は、「非晶質膜3a」が「結晶膜3b」より厚いのか明確でない点。
カ 上記相違点について検討する。
引用発明Aの「透明電極層3」は、ITO層に対してレーザーアニールを行い、表面のみを結晶化したものであるところ、引用文献Aの【0164】には、レーザーアニールによって非晶質膜表面をどの程度まで結晶化するかは、得られる透明電極層の導電性、可撓性、耐酸性を考慮して適宜調整されることが記載されている。
そして、同【0047】には、透明電極層の可撓性を高めるために、結晶膜の厚みは比較的薄いことが好ましいことが記載されており、また、同【図1】には、「非晶質膜3a」が「結晶膜3b」より厚い「透明電極層3」が記載されている。
そうすると、これらの記載を参照した当業者であれば、引用発明Aにおいて、「透明電極層3」の可撓性を高めるために、「非晶質膜3a」が「結晶膜3b」より厚い構成とすることは、容易になし得たことである。
(4) 小括
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1~7に係る発明は、令和6年5月10日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項4に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の[理由]1(2)のとおりである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明についての拒絶の理由は、概略、以下のとおりである。
(理由1)本願発明は、その出願前に日本国内及び外国において頒布された、下記の引用文献Bに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(理由2)本願発明は、その出願前に日本国内及び外国において頒布された、下記の引用文献Bに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献B.特開平8-174746号公報
3 引用文献の記載及び引用発明等
(1) 引用文献Bの記載
原査定の拒絶の理由で引用された特開平8-174746号公報(以下「引用文献B」という。)には、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 厚さ100~300μmのポリエーテルサルホンからなるフィルム上の少なくとも片面に設けられたアクリル系有機アンカーコート上に、非晶性で厚さ700~2000Åのインジウム・スズ酸化物を主成分とする透明導電膜を積層し、さらにその上に下層よりも結晶性の高い厚さ100~300Åのインジウム・スズ酸化物を主成分とする透明導電膜を積層し、インジウム・スズ酸化物を主成分とする透明導電膜全体の厚さが1000Å以上であることを特徴とする透明導電性フィルム。」
「【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は液晶ディスプレイ等に用いられる透明導電性フィルムに関する。詳しくは少なくとも片面にアクリル系有機アンカーコートを施したポリエーテルサルホンフィルム上に結晶性の異なる2層のインジウム・スズ酸化物を主成分とする透明導電膜を積層してなる透明導電性フィルムに関する。
・・・
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、エッチング性を損なわずに膜耐久性の向上をはかり、液晶ディスプレイ等に適した電極材料を提供することにある。
・・・
【0005】
【実施例】
《実施例1》
本発明の実施例としては100μ厚のポリエーテルサルホン(PES)フィルム1の片面にアクリル系有機アンカーコート2をグラビアロールコーターで塗布した。これをDCマグネトロンスパッタリング装置内の基板ホルダーに固定した。真空槽内を 5×10-6mbarまで排気した後、アルゴンと酸素の混合ガス(Ar:O2=5:1)を導入し、真空度を 6×10-3mbarに保ち、基板温度を40℃でIn/Sn合金ターゲット(Sn:10重量%)を用いて反応性スパッタリングを行いITO膜下層3を形成した。このときできた膜のX線回折パターン(図3)を見るとピークが現れておらず非晶性のITO膜が成膜されたことがわかる。その後さらに同スパッタ装置を用いアルゴンと酸素の混合ガス(Ar:O2=5:1)を導入し、真空度を2×10-3mbarに保った状態で基板温度140℃でスパッタリング成膜を行いITO膜上層4を形成した。このときできたITO膜のX線回折パターン(図4)はピークを持ち結晶性であることがわかる。また、ITO膜厚については簡易エッチングによる精密段差計での測定で、下層が1500Å、上層は 250Åの図1に示すような透明導電性フィルムが得られた。この透明導電性フィルムを3規定の塩酸でエッチングしたところ90秒で導電性がなくなり溶け残りもなかった。耐熱性(150℃、3時間)、耐湿熱性(80℃、90%、48時間)、耐擦傷性(100g/cm2 100往復ガーゼ摩擦)の各処理前後の抵抗値変化を測定したところいずれも試験前後の抵抗変化は1.1倍以下であった。」
(2) 引用発明B
上記(1)の【特許請求の範囲】によれば、引用文献Bには、次の発明(以下「引用発明B」という。)が記載されている。
「厚さ100~300μmのポリエーテルサルホンからなるフィルム上の少なくとも片面に設けられたアクリル系有機アンカーコート上に、非晶性で厚さ700~2000Åのインジウム・スズ酸化物を主成分とする透明導電膜を積層し、さらにその上に下層よりも結晶性の高い厚さ100~300Åのインジウム・スズ酸化物を主成分とする透明導電膜を積層し、インジウム・スズ酸化物を主成分とする透明導電膜全体の厚さが1000Å以上であることを特徴とする透明導電性フィルム。」
4 対比・判断
本願発明と引用発明Bとを対比する。
(1) 引用発明Bの「透明導電性フィルム」は、「ポリエーテルサルホンからなるフィルム」上に設けられた「アクリル系有機アンカーコート」上に、「非晶性で厚さ700~2000Åのインジウム・スズ酸化物を主成分とする透明導電膜」(以下「非晶性透明導電膜」という。)を積層し、さらにその上に「下層よりも結晶性の高い厚さ100~300Åのインジウム・スズ酸化物を主成分とする透明導電膜」(以下「結晶性透明導電膜」という。)を積層したものである。
そうすると、「ポリエーテルサルホンからなるフィルム」は、「透明導電性フィルム」の基礎となる材料であるから、透明基材といえる。
また、「膜」を積層したものは「層」ともいい得るから、非晶性透明導電膜及び結晶性透明導電膜を積層した透明導電膜は、透明導電層といえる。
更に、「透明導電性フィルム」は、「ポリエーテルサルホンからなるフィルム」の上に、非晶性透明導電膜及び結晶性透明導電膜を積層しているから、「ポリエーテルサルホンからなるフィルム」と、非晶性透明導電膜及び結晶性透明導電膜を積層した透明導電膜とを、厚さ方向に順に備えているといえる。
してみれば、引用発明B「透明導電性フィルム」と本願発明の「透明導電性フィルム」は、「透明基材と透明導電層とを厚さ方向に順に備える透明導電性フィルム」である点で共通する。
(2) 引用発明Bの非晶性透明導電膜及び結晶性透明導電膜は、いずれも「インジウム・スズ酸化物を主成分」とするものである。
そうすると、引用発明Bの非晶性透明導電膜及び結晶性透明導電膜を積層した透明導電膜と本願発明の「透明導電層」は、「前記透明導電層がインジウムスズ複合酸化物層」である点で一致する。
(3) 引用発明Bは、「インジウム・スズ酸化物を主成分とする透明導電膜全体の厚さが1000Å以上」であり、また、上記(2)で示したように、引用発明Bの非晶性透明導電膜及び結晶性透明導電膜は、いずれも「インジウム・スズ酸化物を主成分」とするものである。
そうすると、引用発明Bの非晶性透明導電膜及び結晶性透明導電膜を積層した透明導電膜は、厚さが1000Å以上、つまり、厚さが100nm以上である。
してみれば、引用発明Bの非晶性透明導電膜及び結晶性透明導電膜を積層した透明導電膜と本願発明の「透明導電層」は、「前記透明導電層が100nm以上の厚さを有」する点で一致する。
(4) 引用発明Bの非晶性透明導電膜及び結晶性透明導電膜は、それぞれ「非晶性」の「透明導電膜」及び「結晶性の高い」「透明導電膜」である。そして、「非晶性」及び「結晶性」は、「非晶質」及び「結晶質」といい得るものであり、また、「膜」は「層」ともいい得るから、引用発明Bの非晶性透明導電膜及び結晶性透明導電膜は、それぞれ非晶質層及び結晶質層といえる。
また、引用発明Bは、「ポリエーテルサルホンからなるフィルム」上に、非晶性透明導電膜を積層し、さらにその上に結晶性透明導電膜を積層したものであるから、非晶性透明導電膜及び結晶性透明導電膜を積層した透明導電膜は、「ポリエーテルサルホンからなるフィルム」側から、非晶性透明導電膜と結晶性透明導電膜とをこの順で有している。
更に、引用発明Bの非晶性透明導電膜の厚さは「700~2000Å」、結晶性透明導電膜の厚さは「100~300Å」であるから、非晶性透明導電膜が結晶性透明導電膜より厚い。
そうすると、引用発明Bの非晶性透明導電膜及び結晶性透明導電膜を積層した透明導電膜と本願発明の「透明導電層」は、「前記透明導電層が、非晶質層と結晶質層とを前記透明基材側からこの順で有し、前記非晶質層が前記結晶質層より厚い」点で一致する。
(5) 以上によれば、本願発明と引用発明Bは、次の一致点において一致し、両者の間に相違点はない。
[一致点]
「 透明基材と透明導電層とを厚さ方向に順に備える透明導電性フィルムであって、
前記透明導電層がインジウムスズ複合酸化物層であり、
前記透明導電層が100nm以上の厚さを有し、
前記透明導電層が、非晶質層と結晶質層とを前記透明基材側からこの順で有し、前記非晶質層が前記結晶質層より厚い、透明導電性フィルム。」
(6) 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和6年10月10日に提出した意見書において、本願の請求項4に係る発明の透明基材は、ポリエーテルサルホンフィルムを除くものであり、引用文献Bに記載された発明とは異なるものである旨主張する。
しかしながら、本願発明は、上記1のとおり、ポリエーテルサルホンフィルムを除くものではなく、上記主張を採用することはできない。
(7) 小括
以上のとおり、本願発明は引用発明Bであり、また、本願発明は引用発明Bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2025-004792