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特許拒絶査定不服審判

2016-002194

携帯用電気切断機

審判番号
2016-002194
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2014-214142外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2016年02月12日
審決日
2017年11月15日
公報発行日
2018年02月23日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .537-WZ (B23D)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条6項1号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2014-214142「携帯用電気切断機」拒絶査定不服審判事件〔平成27年1月22日出願公開,特開2015-13369〕について,次のとおり審決する。

結論

【結 論】 本件審判の請求は,成り立たない。

理由

【理 由】 1.手続の経緯 本願は,平成24年3月15日に出願した特願2012-59182号の一部を平成26年10月21日に新たな特許出願としたものであって,その主な手続の経緯は,以下のとおりである。 平成27年 8月 5日付け 拒絶理由通知 平成27年10月19日   意見書及び手続補正書提出 平成27年11月 4日付け 拒絶査定 平成28年 2月12日   審判請求書及び手続補正書提出 平成28年 3月 1日   面接 平成28年 6月15日   上申書提出 平成28年11月24日   電話応対 平成28年12月28日付け 補正の却下の決定及び拒絶理由通知 平成29年 3月13日   意見書及び手続補正書提出 平成29年 8月 2日付け 拒絶理由通知 平成29年10月13日   意見書及び手続補正書提出 2.本願の請求項1に係る発明 本願の請求項1ないし3に係る発明は,平成29年10月13日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ,その請求項1の記載は以下のとおりである。 「 【請求項1】 ブラシレスモータを備える携帯用電気切断機であって, 前記ブラシレスモータを収容するハウジングと, 前記ハウジングの上部に設けられるハンドルと, 前記ブラシレスモータにより回転駆動される鋸刃と, 前記ハウジングと連結され,被切断材上を摺動可能な底面を持ち,前記鋸刃を前記底面より下方に突出可能な開口部を有し,前記底面からの前記鋸刃の突出量を調整可能なベースと, 前記ブラシレスモータにより回転駆動され,回転時に発生するファン風によって前記ブラシレスモータの冷却を行うファンと, 前記ブラシレスモータへの供給電力をスイッチングするスイッチング素子を含む駆動回路と, 前記駆動回路を制御する制御回路と, 前記駆動回路を搭載した回路基板と, 前記ブラシレスモータの回転位置に応じて前記制御回路に信号を発生する回転状態検出手段と,を備え, 前記回路基板は,切断方向において前記ブラシレスモータよりも後ろで,前記ハンドルよりも下方かつ前記ベースよりも上方に位置して前記ハウジングに収容され, 前記回転状態検出手段は,前記ブラシレスモータの一端に対向するように設けられたセンサ基板と,該センサ基板上に配置される回転位置検出素子とを有し, 前記ハウジングは,反鋸刃側に第1の風窓と第2の風窓とを有し, 前記第1の風窓は,前記ファンとの間に生じる前記ファン風の通路内に前記ブラシレスモータが配置されるように,前記ブラシレスモータと前記ブラシレスモータの軸方向で重なるようにして前記ハウジングに設けられ, 前記第2の風窓は,前記ファンとの間に生じる前記ファン風の通路内に前記回路基板の少なくとも一部が配置されるように,切断方向で前記ブラシレスモータよりも後ろの前記ハウジングに設けられ, 前記回路基板は,前記ベースの前記底面より下方に突出する前記鋸刃の突出量が最大の状態で前記ベースの上面と略直交し,かつ前記ブラシレスモータの側方位置において前記ブラシレスモータの回転軸と平行に延びるように配置されていることを特徴とする携帯用電気切断機。」 3.当審拒絶理由の概要 当審が平成29年8月2日付けで通知した拒絶の理由は,平成29年3月13日にされた手続補正に係る特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載が,特許法第36条第6項第1号に規定する要件(以下「サポート要件」という。)を満たしていないというものであり,その概要は,以下のとおりである。 (1)請求項1発明についてのサポート要件違反 平成29年3月13日にされた手続補正に係る特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「請求項1発明」という。)の課題は,モータを収容するハウジングの形状を大きく変更せず,かつ,操作性を損なわずに,モータ駆動用の回路基板の配置スペースを確保すると共にその冷却を良好に行うことであると解することができる。 そして,請求項1発明は,「駆動回路を搭載した回路基板」が「前記ベースの上面と略直交し,かつ前記ブラシレスモータの側方位置において前記ブラシレスモータの回転軸と平行に延びるように配置されている」ものであり,発明の詳細な説明において,請求項1発明の回路基板に相当するのは,第3実施形態の第1の回路基板60Cのみであるところ,当業者は,第3実施形態を含む請求項1発明について,小型化の目的を達成できるとは認識できないし,携帯用電気切断機の操作性の面で有利であることないし操作性が損なわれないことを認識することもできない。 また,第3実施形態の回路基板60Cにより,当業者は,必ずしも冷却の目的を達成できるとは認識し得ないし,第3実施形態を含む請求項1発明についても,冷却の目的を達成できるとは認識できない。 以上から,請求項1発明はサポート要件を満たしているとはいえず,請求項1を引用する請求項2ないし4に係る発明もサポート要件を満たしているとはいえない。 (2)請求項4発明についてのサポート要件違反 平成29年3月13日にされた手続補正に係る特許請求の範囲の請求項4に記載された発明(以下「請求項4発明」という。)は,請求項1発明を間接に引用しているから,駆動回路とセンサ基板が電気接続されることになるが,そのように接続することは,発明の詳細な説明及び図面に記載がない。 なお付言すると,本願の原出願に係る特許第5633940号の無効審判事件の審決取消訴訟事件(平成28年(行ケ)第10059号)の判決においても上記(1)と同趣旨の判断がされているので,必要であれば参照されたい。 4.請求人の意見の概要 平成29年10月13日に提出された意見書における請求人の意見の概要は,以下のとおりである。 (1)<本願の課題について> 本願の請求項1及びこれに従属する請求項に係る発明(以下「本願各発明」という。)は,携帯用電気切断機の操作性を妨げないハウジング形状で,大型化するブラシレスモータ駆動用回路基板の配置スペースを確保しつつ,回路基板を冷却する携帯用電気切断機を提供することが課題となる。そして,段落【0014】の記載から,本願各発明によれば,ハンドルとベースとの間に位置するハウジング内部に回路基板を配置することによって操作性を損なわずに回路基板の配置スペースを確保でき,またファン風の通路に配置することによって回路基板の冷却を良好に行うことができる。 (2)<操作性を損なわない効果を奏している点について> ア.本願明細書の段落【0030】,【0034】,【0039】,【0040】の記載は,本願明細書に記載された第1,第2,第3の実施の形態において,課題を解決する特徴,すなわち「操作性を損なわずに回路基板の配置スペースを確保する」ための特徴が共通していることを明記するものであり,また,本願各発明の各実施の形態の図面においては,いずれの回路基板もモータより切断方向後方かつハンドルより下方でベースより上方に位置するハウジング内に配置されている。したがって,本願各発明における「操作性を損なわない回路基板の配置スペースの確保」は,モータより切断方向後方かつハンドルより下方でベースより上方に位置するハウジング内に回路基板を配置させることで達成されると解するのは,これら明細書の記載及び図面を参酌した当業者には自明である。 イ.ここで,本願各発明における回路基板の配置が,携帯用電気切断機としての操作性を損なわないようなものである点について説明すると,例えば,大型化した回路基板をモータの上方に配置する場合,ハウジングの上部に設けられたハンドルと回路基板の収容部分の位置が近くなり,ハンドルを把持する際や作業時に,回路基板の収容部分と作業者の手が接触して操作性に支障を来たす恐れがある。また,これを回避するためにハンドルを上方に移動させると,携帯用電気切断機の重心からハンドルが離れてしまうので,取り回しが悪くなる。さらに,これら操作性の悪化は,モータの収容スペースを上方に移動させることでモータの下方に回路基板の収容スペースを設けた場合でも,モータの収容部分がハンドルの操作に干渉することで同様に起こる。また,モータの前方に回路基板の収容スペースを設けた場合には,モータ側から鋸刃の刃先を視認することが困難となり,加工材に施した墨線に沿って切断機を移動させる操作が困難になる。携帯用電気切断機において,これら把持操作への影響や,ハンドル位置の変更,視認性悪化による操作性の損失は,当業者には自明な事項である。したがって,本願における第1,第2,第3の実施の形態が,操作性を損なわないような回路基板の収容構成であることは,当時の技術常識を有して本願明細書及び図面に触れた当業者には明らかである。 (3)<回路基板を冷却可能である効果を奏している点について> ア.本願明細書の段落【0028】,【0030】,【0037】,【0038】,【0043】,【0044】の記載から,第1,第2,第3の実施の形態が有する回路基板は,いずれもファン風の通路内に配置されることで冷却されていることが明記されており,本願の第1,第2,第3の実施の形態はいずれも回路基板を冷却する目的を達成している。 イ.合議体は,拒絶理由通知書にて「ブラシレスモータの固定子が熱源となることは技術常識であり,そのモータ側方に,それ自体も発熱部品である第1の回路基板60Cを設置した場合には,モータ固定子の発熱の影響を受けやすくなることが予想されるので,当業者は,必ずしも冷却の目的を達成できるとは認識し得ない」と判断したが,本願の課題はあくまで回路基板を冷却することであり,実施の形態においてその目的は達成されている。当然ながら,回路基板をファン風の通路内に配置しない場合と比較して,本願各発明において回路基板の冷却を良好に行えていることは明らかであり,本願各発明の実施の形態は冷却の目的を達成できている。 (4)<補正後の本願請求項1が本願課題を解決している点について> ア.以上のように,本願の第1,第2,第3の実施の形態は,いずれも本願の課題を解決する構成を有している。そして,補正後の本願請求項1に係る発明には,本願各発明の実施の形態を根拠として,「前記ブラシレスモータへの供給電力をスイッチングするスイッチング素子を含む駆動回路と,前記駆動回路を制御する制御回路と,前記駆動回路を搭載した回路基板と,前記ブラシレスモータの回転位置に応じて前記制御回路に信号を発生する回転状態検出手段と,を備え,前記回路基板は,切断方向において前記ブラシレスモータよりも後ろで,前記ハンドルよりも下方かつ前記ベースよりも上方に位置して前記ハウジングに収容され」る特徴と,「前記ハウジングは,反鋸刃側に第1の風窓と第2の風窓とを有し,前記第1の風窓は,前記ファンとの間に生じる前記ファン風の通路内に前記ブラシレスモータが配置されるように,前記ブラシレスモータと前記ブラシレスモータの軸方向で重なるようにして前記ハウジングに設けられ,前記第2の風窓は,前記ファンとの間に生じる前記ファン風の通路内に前記回路基板の少なくとも一部が配置されるように,切断方向で前記ブラシレスモータよりも後ろの前記ハウジングに設けられ」る旨の特徴を限定した。これらの特徴は,上述した課題を解決する構成を明確に限定するものであり,補正後の本願請求項1に係る発明が本願課題を解決するものとなっていることは当業者には自明である。 イ.なお,補正後の本願請求項1は「前記第2の風窓は,前記ファンとの間に生じる前記ファン風の通路内に前記回路基板の少なくとも一部が配置されるように,切断方向で前記ブラシレスモータよりも後ろの前記ハウジングに設けられ」ているという発明特定事項を有する。つまり,第2の風窓は切断方向で後ろのハウジング部分に設けたので,同じく切断方向後ろに配置した回路基板の近傍に空気を通しやすくなるとともに,回路基板の周囲に乱れの少ない規則的な冷却風を生成することが容易となる。この効果は,本願発明の実施の形態が有する優れた冷却構造によって実現されるものである。 ウ.拒絶理由通知書において,第3実施形態の冷却効果は,特開2010-173042号公報の冷却効果よりも優れているとはいい難く,この点からも,当業者は,第3実施形態によって,冷却の目的を達成できるとは認識し得ない旨の判断が示されているが,上述したように,本願各発明の実施の形態はいずれも冷却の目的を達成する構成を有している。また,特開2010-173042号公報は電動工具という発明の名称ではあるが,内容は手で把持するディスクグラインダであり,手で把持することを前提とした円筒形ハウジング2の軸方向の長さ寸法には比較的制約の小さい工具に関するものである。本願の課題は,段落【0005】に記載されているように,携帯用電気切断機における基板の配置・冷却を課題としている。従って,特開2010-173042号公報の電動工具と本願の携帯用電気切断機は内部構成の配置・冷却等に関しては課題が異なるものであり,本願各発明の第3実施形態が先行技術文献の冷却効果よりも優れているとはいい難いからといって,第3実施形態によって冷却の目的が達成できないとまではいえない。 エ.なお,本願請求項1は携帯用電気切断機に関するものであり,先行技術文献のようにモータの軸方向上の領域にモータ駆動回路を収容すると,ハウジングのブラシレスモータ軸方向の突出量が増大してしまうので,鋸刃に直交する方向の携帯用電気切断機の外形寸法の増加に繋がり好ましくない。例えば,回転位置検出素子が配置されたセンサ基板に重なるように「駆動回路を搭載した回路基板」を配置して冷却する構造は,ハウジングのブラシレスモータ軸方向の突出量の増大を招き,携帯用電気切断機の外形寸法を増加させることになり,小型化に逆行することになる。 オ.本願請求項1は,「前記回路基板は,前記ベースの前記底面より下方に突出する前記鋸刃の突出量が最大の状態で前記ベースの上面と略直交し,かつ前記ブラシレスモータの側方位置において前記ブラシレスモータの回転軸と平行に延びるように配置されている」との発明特定事項を有し,ハウジングのブラシレスモータ軸方向の突出量の増大を回避し,携帯用電気切断機の外形寸法を増加させずにブラシレスモータ駆動用の回路基板の配置スペースを確保でき,装置小型化に寄与できるものである。 (5)むすび 以上のように,本願各発明は,「モータを収容するハウジングの形状を大きく変更しないで,操作性を損なわずにモータ駆動用の回路基板の配置スペースを確保するとともに,回路基板の冷却を良好に行うことのできる携帯用電気切断機を提供する」という発明の目的を達成可能でかつ発明の詳細な説明に記載された発明特定事項を具備し,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定するサポート要件を満たすことは明らかで,拒絶の理由は解消している。 5.当審の判断 (1)本願発明の課題 本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の課題に関して,段落【0002】ないし【0006】には,以下の記載がある。 「【0002】 最近,小型軽量化,高効率化を目的として携帯用電気丸鋸にブラシレスモータを使用することが検討されるようになってきている。一般に携帯用電気丸鋸は上部がハンドルとなったハウジングと,ハウジングに収納されたモータにより回転駆動される丸鋸刃と,ハウジングと連結され,被切断材上を摺動可能なベースとを具備する構成であるが,とくにモータとしてブラシレスモータを採用する場合,ブラシレスモータ駆動用の回路基板の配置スペースの確保とその放熱対策が問題となる。 【0003】 下記特許文献1は手で把持する円筒状のハウジング内に研磨用砥石を回転駆動するブラシレスモータを収納した電動工具の例であり、研磨用砥石を設けたハウジング先端側とは反対側のモータ背後のハウジング内に、モータ駆動回路を複数枚の基板に分割して収納している。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】特開2010-173042号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 ところで,携帯用電気丸鋸では,上記特許文献1のような比較的長い円筒状ハウジングを用いる外形ではなく,またモータとして非常に高出力のものを使用するため,モータ駆動用の回路基板の素子を含めた体積が大きくなり,モータ駆動用の回路基板の配置スペースの確保及びその冷却に工夫が必要となる。また,携帯用電気丸鋸の操作性を妨げないハウジング形状である必要がある。 【0006】 本発明はこうした状況を認識してなされたものであり,その目的は,モータを収容するハウジングの形状を大きく変更しないで,操作性を損なわずにモータ駆動用の回路基板の配置スペースを確保するとともに,回路基板の冷却を良好に行うことのできる携帯用電気切断機を提供することにある。」 これらの記載からみて,本願発明の課題は,小型軽量化,高効率化を目的としてブラシレスモータを使用した携帯用電気切断機において,その回路基板の配置スペースの確保及び冷却が問題となっていること,また,操作性を妨げないハウジング形状である必要があることを背景に,モータを収容するハウジングの形状を大きく変更せず,かつ,操作性を損なわずに,モータ駆動用の回路基板の配置スペースを確保すると共にその冷却を良好に行うことであると解することができる。 (2)本願発明が課題を解決しているかどうかの検討 ア.本願発明は,「駆動回路を搭載した回路基板」が「前記ベースの上面と略直交し,かつ前記ブラシレスモータの側方位置において前記ブラシレスモータの回転軸と平行に延びるように配置されている」ところ,本願明細書の発明の詳細な説明において,駆動回路を搭載して,そのように配置されている回路基板は,第3実施形態の第1の回路基板60Cのみである。 イ.そして,第3実施形態の第1の回路基板60Cによる効果は,段落【0041】及び【0045】の記載からみて,以下の2点に集約される。 (効果1)制御回路30を第1の回路基板60Cとは別基板(第2の回路基板60D)としたことで第2の回路基板60Dは小面積となり,第2の回路基板60Dを設けるために,ハウジングに設けられた回路基板収容部65Bの突出部のハウジング2のソーカバー5側への突出量を少なくでき,丸鋸刃の突出量を調整するレバー18の操作性を改善できる。 (効果2)第1の回路基板60Cは,モータ収容部2a内のモータ1の側方に配置することで,充分なファン風を通すことが容易となる。 ウ.上記効果1は,ハウジングに設けられた回路基板収容部65Bの突出部のハウジング2のソーカバー5側への突出量を少なくできるというものであるが,第1の回路基板60Cを収容するためにモータ収容部2aが大きくならざるを得ないことを考えると,当該効果1は,一概に小型化に寄与するといってよいか定かではない。 また,上記効果1は,丸鋸刃の突出量を調整するレバー18の操作性を改善できるというものであるが,それは,第2の回路基板60Dを設けるために,ハウジングに設けられた回路基板収容部65Bの突出部と,レバー18とが,本願の図12に図示される位置にあるからこそ生じる効果である。しかし,本願発明は,第2の回路基板60D,すなわち制御回路を搭載する基板に関する事項や,その基板を収容するための回路基板収容部65Bの突出部に関する事項,レバー18に関する事項について,何ら特定していないから,上記効果1が本願発明に常に妥当するものとまではいえない。加えて,レバー18の操作性が良くなったからといって,携帯用電気切断機全体としての操作性が良くなるとは限らない。 したがって,当業者は,第3実施形態を含む本願発明について,小型化の目的を達成できるとは認識できないし,携帯用電気切断機の操作性の面で有利であることないし操作性が損なわれないことを認識することもできない。 エ.上記効果2は,冷却の課題に関するものであるが,ブラシレスモータの固定子が熱源となることは技術常識であり,そのモータ側方に,それ自体も発熱部品である第1の回路基板60Cを設置した場合には,モータ固定子の発熱の影響を受けやすくなることが予想されるので,当業者は,必ずしも冷却の目的を達成できるとは認識し得ない。 また,段落【0004】において先行技術文献として提示された特開2010-173042号公報のものは,モータ背後のハウジング内にモータ駆動回路を収納しており,ファンによってハウジング内に吸入された冷却風の全量がモータ駆動回路と熱交換されるのに対して,第3実施形態のものは,モータを冷却するための風窓と,駆動回路を搭載した回路基板を冷却するための別の風窓(図14において,第2の回路基板60Dの左に記載されている風窓)を有することから,ファンによってハウジング内に吸入された冷却風の一部しかモータ駆動回路と熱交換されないことになり,第3実施形態の冷却効果は,先行技術文献の冷却効果よりも優れているとはいい難く,この点からも,当業者は,第3実施形態によって,冷却の目的を達成できるとは認識し得ないし,第3実施形態を含む本願発明についても,冷却の目的を達成できるとは認識できない。 オ.以上から,第3実施形態を含む本願発明について,本願発明の課題を解決できると当業者が認識し得る程度に,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されているとはいえないから,本願発明は,いわゆるサポート要件を満たしているとはいえない。 (3)請求人の意見について ア.請求人は,本願各発明における「操作性を損なわない回路基板の配置スペースの確保」は,モータより切断方向後方かつハンドルより下方でベースより上方に位置するハウジング内に回路基板を配置させることで達成されると解することができる旨を主張している(上記4.(2)ア.)。 これに対して,回路基板をハンドルより下方でベースより上方,すなわちハンドルとベースの間の位置に設けることで操作性を損なわないことについて,発明の詳細な説明には,「回路基板収容部65をハンドル3とベース6との間の高さ位置に設けるのは,ハンドル3を把持する作業者による操作の妨げにならないようにするためであり」(段落【0025】)との記載がある。しかし,ここでいう「回路基板収容部65」は,図4及び5に破線で示されている回路基板60,すなわち本願発明のようにベースの上面と直交するように配置される基板ではなく,ベースの上面に平行に配置された基板を収容する部分であって,「ファン7の径方向外側に位置するハウジング2の部分に設けた凸部69(ソーカバー5側へ突出)の内側に形成されて」(段落【0025】)いる部分であるから,本願発明では特定されていない事項である。 したがって,本願発明では特定されていない「回路基板収容部65」に係る事項によって「操作性を損なわない」ことが達成されたとしても,本願発明によって「操作性を損なわない」ことが達成されるとはいえないから,請求人の当該主張は採用できない。 イ.請求人は,回路基板をモータの上方,下方,前方に配置することによる把持操作への影響や,ハンドル位置の変更,視認性悪化による操作性の損失などを主張している(上記4.(2)イ.)が,請求人の主張する「操作性」のうちの「把持操作」については,上記ア.に説示するとおり,本願発明では特定されていない「回路基板収容部65」に係る事項によって達成されると解するのが相当であるから,「把持操作」に関する請求人の主張は採用できない。また,「ハンドル位置の変更,視認性悪化」については,発明の詳細な説明には何ら記載されておらず,「ハンドル位置の変更,視認性悪化」といった種類の操作性を損なわないことが,当業者にとって自明の課題ともいえないから,「ハンドル位置の変更,視認性悪化」についての主張も採用できない。 ウ.請求人は,回路基板をファン風の通路内に配置しない場合と比較して,本願各発明において回路基板の冷却を良好に行えているから,本願各発明の実施の形態は冷却の目的を達成できている旨を主張している(上記4.(3)ア.及びイ.)が,本願発明の詳細な説明において,請求人自身が記載した先行技術文献である特開2010-173042号公報のものは,回路基板をファン風の通路内に配置している。 本願の発明の詳細な説明には,回路基板の冷却を良好に行えているか否かを客観的に評価する指標が何ら示されていないから,請求人自身が記載した先行技術文献における回路基板の冷却と比較して評価するほかなく,回路基板をファン風の通路内に配置しない場合と比較する旨の請求人の主張は採用できない。 エ.請求人は,上記ア.ないしウ.で検討した主張に基づいて,本願発明が本願課題を解決していることを主張している(上記4.(4)ア.及びオ.)が,上記ア.ないしウ.で説示したとおり当該主張は採用できない。 オ.請求人は,先行技術文献(特開2010-173042号公報)の電動工具と本願の携帯用電気切断機は内部構成の配置・冷却等に関しては課題が異なるものであり,本願の第3実施形態が先行技術文献の冷却効果よりも優れているとはいい難いからといって,第3実施形態によって冷却の目的が達成できないとまではいえない旨を主張している(上記4.(4)ウ.)が,本願の発明の詳細な説明には,回路基板の冷却を良好に行えているか否かを客観的に評価する指標が何ら示されていないから,本願の発明の詳細な説明において,請求人自身が記載した先行技術文献における回路基板の冷却と比較して評価するほかなく,請求人の当該主張は採用できない。 6.むすび したがって,本願発明は,本願発明の課題を解決できると当業者が認識し得る程度に,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されているとはいえないから,本願は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 よって,結論のとおり審決する。

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2016-002194

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