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特許異議申立

2015-700133

ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法およびポリアリーレンスルフィド樹脂組成物

審判番号
2015-700133
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2014-546216
登録番号
特許第5708898号(P5708898)
請求日
2015年10月30日
審決日
2017年12月27日
公報発行日
2018年05月25日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】DIC株式会社
  • 【権利者代理人】小林 浩
  • 【権利者代理人】加藤 志麻子
  • 【権利者代理人】大賀 沙央里
  • 【権利者代理人】河野 通洋
  • 【異議申立人】エスケー ケミカルズ カンパニー リミテッド
  • 【異議申立人代理人】青木 篤
  • 【異議申立人代理人】石田 敬
  • 【異議申立人代理人】古賀 哲次
  • 【異議申立人代理人】出野 知
  • 【異議申立人代理人】関根 宣夫
  • 【異議申立人代理人】塩川 和哉
審判長/審判官
  • 審判長 加藤 友也
  • 審判官 井上 猛
  • 審判官 岡崎 美穂
分類
P1651.121-YAA(C08G) / P1651.161-YAA(C08G) / P1651.536-YAA(C08G) / P1651.537-YAA(C08G)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条の2、特許法第36条、特許法第120条の7第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第113条、特許法第29条、特許法第184条の4第3項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第5708898号「ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法およびポリアリーレンスルフィド樹脂組成物」に関する特許異議の申立てについてされた平成28年9月9日付け決定(以下,「一次決定」という。)に対し,知的財産高等裁判所において,一次決定のうち,請求項4~7に係る部分を取り消す旨の判決(平成28年(行ケ)第10225号,平成29年11月29日)があったので,さらに審理のうえ,次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第5708898号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔4~7〕について訂正することを認める。 特許第5708898号の請求項4~7に係る発明についての特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 1 特許第5708898号(請求項の数7。以下,「本件特許」という。)は,平成26年3月20日(優先権主張:平成25年3月25日)を国際出願日とする特許出願(特願2014-546216号)に係るものであって,平成27年3月13日に設定登録されたものである。 2(1)その後,本件特許の請求項1~7に係る発明についての特許に対して,特許異議申立人(以下,「申立人」という。)であるエスケー ケミカルズ カンパニー リミテッドにより特許異議の申立てがされた。 本件特許異議の申立てにおける一次決定までの手続の経緯は,以下のとおりである。 平成27年10月30日 特許異議申立書 平成28年 1月20日 取消理由通知書 3月18日 意見書 4月 7日 上申書(申立人) 4月19日 取消理由通知書(決定の予告) 6月20日 意見書,訂正請求書 6月28日 通知書(訂正請求があった旨の通知) 8月19日 意見書(申立人) 9月 9日 一次決定 (2)一次決定の結論は,以下のとおりである。 「特許第5708898号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-3〕,〔4-7〕について訂正することを認める。 特許第5708898号の請求項4ないし7に係る特許を取り消す。 同請求項1ないし3に係る特許を維持する。」 (3)一次決定のうち,訂正の請求がされた一群の請求項である請求項1~3に係る部分(特許維持の部分)については,一次決定の謄本の送達により,確定した(特許法120条の7第1号)。 3 特許権者は,平成28年10月19日,知的財産高等裁判所に,一次決定のうち,請求項4~7に係る部分(特許取消しの部分)の取消しを求める訴えを提起した(平成28年(行ケ)第10225号)。 これに対して,申立人は,本件特許異議の申立ての手続において,平成29年1月26日付け,同年6月19日付け,同月28日付けの各上申書を提出した。なお,これらの上申書は,いずれも,特許権者(原告)が同裁判所に提出した原告準備書面について意見を述べるものである。 同裁判所は,同年11月29日,以下のとおりの判決(以下,「本件取消判決」という。)を言渡し,この判決はその後確定した。 「1 特許庁が異議2015-700133号事件について平成28年9月9日にした決定中,「特許第5708898号の請求項4ないし7に係る特許を取り消す。」との部分を取り消す。 2 訴訟費用は,被告の負担とする。」 4 その後,本件特許異議の申立ての審理が再開された。 一次決定のうち,請求項1~3に係る部分(特許維持の部分)については,上記2(3)のとおり,既に確定しているので,以下,本件特許の請求項4~7に係る発明についての特許に対する本件特許異議の申立てについて,判断することとする。 第2 訂正の請求について 1 訂正の内容 平成28年6月20日付けの訂正請求書による訂正(以下,「本件訂正」という。)の請求は,本件特許の特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項4~7について訂正することを求めるものであり,その内容は,以下のとおりである。下線は,訂正箇所を示す。 ・訂正事項3 請求項4に, 「末端に下記一般式(1) 【化8】 (式中,Xは水素原子またはアルカリ金属原子)で表される基を有するポリアリーレンスルフィド樹脂と,該ポリアリーレンスルフィド樹脂に対し0.01~10,000ppmの範囲となる割合でヨウ素原子を含有することを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。」 と記載されているのを, 「末端に下記一般式(1) 【化8】 (式中,Xは水素原子またはアルカリ金属原子)で表される基を有するポリアリーレンスルフィド樹脂と,該ポリアリーレンスルフィド樹脂に対し0.01~1,200ppmの範囲となる割合でヨウ素原子を含有することを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。」 と訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5~7も同様に訂正する。)。 2 訂正の適否についての当審の判断 (1)訂正事項3 訂正事項3に係る訂正は,訂正前の請求項4における「ヨウ素原子」の含有量について,「0.01~10,000ppm」を「0.01~1,200ppm」とするものである。 この訂正は,「ヨウ素原子」の含有量について,「0.01~10,000ppm」を「0.01~1,200ppm」に限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして,本件特許の願書に添付した明細書の表1には,実施例4における「ヨウ素量(ppm)」が「1200」であることが記載されているから,この訂正は,同明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。 (2)一群の請求項について 訂正前の請求項4~7について,請求項5~7は,請求項4を直接的又は間接的に引用するものであり,上記(1)の訂正事項3によって記載が訂正される請求項4に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前の請求項4~7は,一群の請求項である。そして,本件訂正は,その一群の請求項ごとに請求がされたものである。 3 まとめ 上記2のとおり,訂正事項3に係る訂正は,特許法120条の5第2項ただし書き1号に掲げる事項を目的とするものに該当し,同条4項に適合するとともに,同条9項において準用する同法126条5項及び6項に適合するものであるから,結論のとおり,本件訂正を認める。 第3 本件発明 前記第2で述べたとおり,本件訂正は認められるので,本件特許の請求項4~7に係る発明は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項4~7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明4」等という。また,本件訂正後の明細書を「本件明細書」という。)。 【請求項4】 末端に下記一般式(1) 【化8】 (式中,Xは水素原子またはアルカリ金属原子)で表される基を有するポリアリーレンスルフィド樹脂と,該ポリアリーレンスルフィド樹脂に対し0.01~1,200ppmの範囲となる割合でヨウ素原子を含有することを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。 【請求項5】 前記ポリアリーレンスルフィド樹脂が,ジヨード芳香族化合物と,単体硫黄と,下記一般式(1) 【化9】 (式中,Xは水素原子またはアルカリ金属原子)で表される基を有する重合禁止剤とを含む混合物を重合反応させて得られるものである請求項4記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。 【請求項6】 前記請求項4または5記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物と,グリシジル基,カルボキシ基,ヒドロキシ基またはアミノ基と反応性を示す官能基を有する化合物とを含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。 【請求項7】 請求項4~6の何れか一項記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなるポリアリーレンスルフィド樹脂成形品。 第4 特許異議の申立ての概要 1 特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由 本件発明4~7は,下記(1)~(5)のとおりの取消理由があるから,本件特許の請求項4~7に係る発明についての特許は,特許法113条2号及び4号に該当し,取り消されるべきものである。 申立人は,証拠方法として,甲第1号証~甲第9号証(以下,単に「甲1」等という。)を提出した。 (1)取消理由1(進歩性) 本件発明4~7は,甲1~3に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。 (2)取消理由2(特許法29条の2) 本件発明4~7は,本件特許の優先日前の日を優先日とする外国語特許出願(特許法184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされたものを除く。)であって,本件特許の優先日後に国際公開がされた甲4に係る外国語特許出願(以下,「先願」という。)の国際出願日における国際出願の明細書,請求の範囲又は図面(以下,「先願明細書」という。)に記載された発明と同一であり,しかも,本件特許の出願の発明者が先願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,また本件特許の優先日の時において,その出願人が上記先願の出願人と同一でもないので,特許法29条の2の規定により,特許を受けることができないものである(同法184条の13参照)。 (3)取消理由3(実施可能要件) 本件発明4は,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に適合するものではない。 (4)取消理由4(サポート要件) 本件発明4は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではない。 (5)取消理由5(明確性) 本件発明4~7は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではない。 (6)証拠方法 ・甲1 特表2012-514068号公報 ・甲2 特開2008-247955号公報 ・甲3 特開2001-279097号公報 ・甲4 PCT/KR2013/007081号(国際公開第2014/025190号) ・甲5 特表2015-524510号公報 ・甲6 韓国特許出願第2012-00086423号 ・甲7 甲6の翻訳文 ・甲8 LOTADER AX8840のパンフレット ・甲9 実験成績証明書 2 取消理由通知書に記載した取消理由 上記1(2)の取消理由2(特許法29条の2)と同旨。 第5 当審の判断 以下に述べるように,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項4~7に係る発明についての特許を取り消すことはできない。 以下,事案に鑑み,取消理由通知書に記載した取消理由(特許法29条の2),取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由(明確性,実施可能要件,サポート要件,進歩性)の順で検討する。 1 取消理由通知書に記載した取消理由(取消理由2(特許法29条の2)) 本件取消判決は,取消理由2について判示しており,その判示事項は,行政事件訴訟法33条1項の規定により,当審を拘束する。 以下,本件取消判決の判示事項を示しつつ,取消理由2について検討する。 (1)先願明細書に記載された発明 ア「本件出願は,先願がパリ条約による優先権主張を伴う国際特許出願であるから,第一国出願の出願書類全体及び国際特許出願日における先願明細書に共通して記載されている発明に関し,第一国出願日に我が国へ出願がなされたものとされるところ,先願(PCT/KR2013/007081号)の第一国出願の出願書類(甲6,翻訳文は甲7)の記載と国際公開された国際出願日における明細書又は特許請求の範囲(甲4・先願明細書。翻訳文は甲5)の両者に共通して記載されていると認められる事項,すなわち,第一国出願日に我が国へ出願がなされたものとして,先願明細書に記載されている事項は,次のとおりである。なお,摘示は,便宜上,甲4の翻訳文である甲5(国内移行出願の公表公報である特表2015-524510号公報)による。」(本件取消判決46頁) 上記の「摘示」について,本件取消判決は,甲5の請求項1,11~13,18,【0018】,【0025】,【0030】,【0063】,【0086】~【0088】,表3を摘示している(本件取消判決46~50頁)。 イ 先願明細書の上記アの記載によれば,先願明細書には,以下の発明が記載されていると認められる。 「ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物を重合反応させる段階と, 前記重合反応段階を進行させながら,カルボキシ基を有する化合物を追加的に添加する段階とを含む製造方法により製造された, ポリアリーレンスルフィド主鎖の末端基(End Group)の少なくとも一部がカルボキシ基(-COOH)であるポリアリーレンスルフィド。」(以下,「先願明細書発明B」という。) なお,上記の先願明細書発明Bは,一次決定が認定したとおりである。 (2)本件発明4と先願明細書発明Bとの対比 本件発明4と先願明細書発明Bとを対比すると,両者は, 「末端に下記一般式(1) 【化8】 (式中,Xは水素原子またはアルカリ金属原子)で表される基を有するポリアリーレンスルフィド樹脂と,ヨウ素原子を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。」 である点で一致し,以下の点で相違する。 ・相違点1 本件発明4においては,「ポリアリーレンスルフィド樹脂に対し0.01~1,200ppmの範囲となる割合でヨウ素原子を含有すること」を特定するのに対し,先願明細書発明Bにおいては,この点について特定していない点。 なお,上記の一致点及び相違点1は,一次決定が認定したとおりである。 (以下,「ポリアリーレンスルフィド」を「PAS」という場合がある。) (3)発明の同一性に関する検討 「先願明細書発明Bの内容及び本件発明4と先願明細書発明Bとの対比における一致点・相違点の認定(相違点1)は,それぞれ前記第2の3(2)ア,同(3)アのとおりであり,この点について当事者間に争いはない。 そこで,相違点1に係る構成,すなわち,PAS樹脂に対し0.01~1,200ppmの範囲となる割合でヨウ素原子を含有することが実質的な相違点ではなく,先願明細書発明Bに記載されているに等しい事項であるといえるか否か(発明の同一性)について検討する。なお,被告は,決定は相違点1について周知慣用技術の付加,転換,削除(いわゆる実質同一)に相当すると判断したものではない(被告準備書面(第1回)41頁)としているから,この点は判断の対象にならない。」(本件取消判決56頁) ア 先願明細書発明BのPAS樹脂に含まれるヨウ素の量 「前記(2)イのとおり,乙1,乙2及び甲1の各記載から,ジヨード化合物と固体硫黄と,更に「重合停止剤」とを含む混合物を溶融重合させることによって製造されるPAS樹脂について,ヨウ素含有量が1,200ppm以下のものが得られること,上記のいずれの例においても重合禁止剤(重合停止剤)が添加されていることが理解でき,このような,ヨウ素含有量が少ないPAS樹脂を製造することができること自体は,優先日において周知の技術的事項であったといえる。 しかしながら,上記各文献からは,このような,1,200ppm以下の低ヨウ素量のPAS樹脂を製造するために必要な条件,すなわち,重合時の温度や圧力,重合時間等は必ずしも明らかでない。また,前記(2)ウの技術常識からは,重合禁止剤の種類や添加の割合のみならず,添加の時期(タイミング)によっても,得られる樹脂の重合度や不純物としてのヨウ素含有量が異なることが予測されるところ,それらとの関係についても一切明らかにされていない。してみると,これらの各文献に記載された事項から,直ちに先願明細書(甲5)にヨウ素含有量が1,200ppm以下であるPAS樹脂組成物が記載されているとの結論を導くことはできないというべきである。」(本件取消判決56~57頁) 「結局のところ,先願明細書発明Bに記載されたPAS樹脂のヨウ素含有量を具体的に推測できるだけの根拠は,先願明細書の記載や本件特許の出願時における技術常識を参酌しても導き出すことができず,ほかに先願明細書発明Bに係るPAS樹脂のヨウ素含有量が本件発明4と同程度に少ないことを認めるに足りる証拠はない。」(本件取消判決58~59頁) イ 実験報告書(甲9実験)について 「決定は,甲9の実験報告書によれば,甲5の実施例5と同様に製造したPAS樹脂のヨウ素含有量が850ppmであると認められることから,本件発明4で特定するPAS樹脂組成物のヨウ素含有量は,先願明細書発明BにおけるPAS樹脂のヨウ素原子含有量と重複一致する蓋然性が高いと判断している。 しかしながら,まず,異議申立人による上記実験報告書では,重合反応が80%程度進んだ段階で,「重合禁止剤2,2’-ジチオビスベンゾトリアゾル」を25g添加したとされているが,異議申立人自身が,先願の国内移行出願において,かかる物質名で定義される化合物は存在せず,誤記である旨を主張(自認)して,当初明細書である甲5の記載を正しい記載に訂正する手続補正を行っており(甲30),それにもかかわらず,なぜ追試である上記実験報告書にあえて存在しない化合物名がそのまま記載されているのか,疑問がないとはいえない(この点は,上記実験報告書を作成するに当たり,当初明細書の誤記をそのまま引き写してしまっただけの単純ミスである可能性も否定できないが,重合禁止剤として実在しない化合物名が記載されているということは,その内容の杜撰さを示す一例とみざるを得ないのであって,実験報告書全体の信用性を疑わせる一つの事情となることは否定できない。)。 また,この点は措くとしても,上記実験報告書の「1.実験方法」の欄には,「「5)Chip Cutting:反応完了した樹脂をN2加圧して,小型ストランドカッターを使用したpellet形態に製造。」との記載があり,かかる記載が,甲5の実施例5における,「反応が完了した樹脂を,小型ストランドカッター機を用いてペレット形態で製造した。」との記載に対応するものであって,同実施例と同様に,反応が完了した樹脂を小型ストランドカッターによってペレット形態とすることを示すものであることは理解できるが,「N2加圧」処理を行うことの技術的な意味は明らかではないし(すなわち,いかなる状態の樹脂に対して,何のために行うのか,例えば,溶融状態の樹脂に対して加圧処理を行うのか,ストランド〔細い棒状〕に形成するための押し出しをN2による加圧で行うのか,形成されたストランドに対して行うのかなどの点が不明である。),少なくともカッティングの前に樹脂を「N2加圧」することが当該技術分野における技術常識であるとはいえない。また,高温の樹脂に対しN2加圧を行うことによって,樹脂中のヨウ素が抜ける可能性がないとはいえず(少なくともその可能性が全くないことを示す証拠はない。),かかる「N2加圧」がヨウ素含有量に対してどのような影響を及ぼすのかも不明である。」(本件取消判決59~60頁) 「以上によれば,実験報告書(甲9)は,必ずしも甲5の実施例5を忠実に追試したものであるとはいえず,かかる実験報告書(甲9実験)に基づいて,甲5の実施例5と同様に製造したPAS樹脂のヨウ素含有量が850ppmであるとか,本件発明4で特定するPAS樹脂組成物のヨウ素含有量は,先願明細書発明BにおけるPAS樹脂のヨウ素原子含有量と重複一致する蓋然性が高いなどと認めることはできないというべきである。」(本件取消判決60頁) ウ 小括 「以上によれば,相違点1に係る構成,すなわち,PAS樹脂に対し0.01~1,200ppmの範囲となる割合でヨウ素原子を含有することが実質的な相違点ではなく,先願明細書発明Bに記載されているに等しい事項であるとはいえない。したがって,この点に関する決定の判断は誤りである。」(本件取消判決62頁) したがって,本件発明4と先願明細書発明Bとが同一であるとはいえない。 (4)実質同一に関する検討 相違点1が,課題解決のための具体化手段における微差(すなわち,周知慣用技術の付加,転換,削除であって,新たな効果を奏するものではないもの)といえる根拠は見当たらないから,本件発明4と先願明細書発明Bとが実質同一であるということもできない。 (5)申立人の主張について 申立人は,平成29年1月26日付け,同年6月19日付け,同月28日付けの各上申書を提出し,取消理由2について縷々主張するが,本件発明4と先願明細書発明Bとが同一(実質同一を含む)とはいえないことは,上記(3)及び(4)のとおりである。 また,申立人は,上記の上申書とともに,甲10及び11を提出しているが,これらの証拠は,特許掲載公報発行から6月経過した後に追加された証拠であるから,採用することができない(念のため,実験報告書(甲11)の内容を検討しても,甲11実験においても,「Chip Cutting」において,「反応完了した樹脂をN2加圧」していることから,必ずしも甲5の実施例5を忠実に追試したものであるとはいえないことは,上記(3)イの実験報告書(甲9)の場合と同様である。)。 (6)本件発明5について 「本件発明5は,本件発明4(請求項4)を引用し,さらに, 「前記ポリアリーレンスルフィド樹脂が,ジヨード芳香族化合物と,単体硫黄と,下記一般式(1) 【化9】 (式中,Xは水素原子またはアルカリ金属原子)で表される基を有する重合禁止剤とを含む混合物を重合反応させて得られるものである」 との発明特定事項を付加したものである。すなわち,本件発明5は,本件発明4に上記発明特定事項を追加する発明である。 しかるところ,本件発明4は,先願明細書発明Bと対比して,相違点1において実質的に相違しており,先願明細書発明Bと同一であると認められないことは,前記2のとおりであるから,本件発明4に新たな発明特定事項を追加する本件発明5についても,(少なくとも相違点1を有する点において)先願明細書発明Bと同一であるとは認められない。」(本件取消判決62頁) したがって,本件発明5と先願明細書発明Bとが同一であるとはいえないし,実質同一であるともいえない。 (7)本件発明6及び7について ア 先願明細書の上記(1)アの記載によれば,先願明細書には,以下の発明が記載されていると認められる。 「ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物を重合反応させる段階と, 前記重合反応段階を進行させながら,カルボキシ基を有する化合物を追加的に添加する段階とを含む製造方法により製造された, ポリアリーレンスルフィド主鎖の末端基(End Group)の少なくとも一部がカルボキシ基(-COOH)であるポリアリーレンスルフィド90重量部にエラストマーのLotader(Grade AX-8840,Arkema製)を10重量部添加し,混合してなるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。」(以下,「先願明細書発明C」という。) 「ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物を重合反応させる段階と, 前記重合反応段階を進行させながら,カルボキシ基を有する化合物を追加的に添加する段階とを含む製造方法により製造された, ポリアリーレンスルフィド主鎖の末端基(End Group)の少なくとも一部がカルボキシ基(-COOH)であるポリアリーレンスルフィドに対して,任意成分としてポリアリーレンスルフィド90重量部にエラストマーのLotader(Grade AX-8840,Arkema製)を10重量部添加し混合してなる,ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を含む,成形品。」(以下,「先願明細書発明D」という。) なお,上記の先願明細書発明C及びDは,一次決定が認定したとおりである。 イ「本件発明6(請求項6)と本件発明7(請求項7)は,いずれも本件発明4(請求項4)を引用するものであるところ,本件発明6と先願明細書発明C,本件発明7と先願明細書発明Dとの対比においても,相違点1以外に新たな相違点は存在しない(この点は,当事者間に争いがない。)。 そして,前記のとおり,相違点1を発明特定事項として有する本件発明4が先願明細書に記載された発明(先願明細書発明B)と同一であるといえない以上,先願明細書に記載された発明(先願明細書発明C又はD)との間で同一の相違点1を有する本件発明6及び7についても,同様の理由により,先願明細書に記載された発明(先願明細書発明C又はD)と同一であるとはいえない。」(本件取消判決62~63頁) したがって,本件発明6及び7と先願明細書発明C及びDとがそれぞれ同一であるとはいえないし,実質同一であるともいえない。 (8)まとめ 以上のとおり,本件発明4~7は,いずれも,先願明細書に記載された発明と同一とはいえない。 よって,取消理由通知書に記載した取消理由(取消理由2)によっては,本件特許の請求項4~7に係る発明についての特許を取り消すことはできない。 2 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由 (1)取消理由5(明確性) ア 本件発明4について 申立人は,本件明細書の【0035】~【0037】の記載によれば,PAS樹脂に含まれるヨウ素原子は,1)ポリマー末端に結合しているヨウ素原子(一部脱離されない末端ヨウ素原子),2)ポリマーから脱離している遊離状態のヨウ素ラジカル,3)遊離状態のヨウ素ラジカルが再結合した(遊離状態の)ヨウ素分子,という3つの状態で存在すると解されるところ,請求項4のヨウ素原子含有量の範囲が,請求項4の記載内容自体では,上記1)~3)の状態にあるヨウ素原子含有量の範囲を全て包括して意味すると解釈されるのに対して,本件明細書の実施例11等を通じて解釈すれば,実質的に上記2)及び3)の状態にあるヨウ素の含有量の範囲を主に意味すると解釈されるから,本件発明4におけるヨウ素原子含有量の範囲が,いかなる状態にあるヨウ素原子の含量範囲を意味するか不明確であると主張する。 以下,検討すると,本件発明4は,「該ポリアリーレンスルフィド樹脂に対し0.01~1,200ppmの範囲となる割合でヨウ素原子を含有する」というものであり,その文言から明らかなように,ヨウ素原子が,上記1)~3)のいずれの状態で存在するものであるのかを区別するものではない。 また,本件明細書の実施例の欄には,ヨウ素原子の含有量の測定について,以下の記載がある。 「(PPS樹脂中のヨウ素含有量) PPS樹脂中のヨウ素含有量は,ダイアンインスツルメンツ燃焼ガス吸収装置でPPS樹脂を燃焼させ発生したガスおよび残渣を純水に吸収させ,吸収液中のヨウ素イオンをダイオネクスイオンクロマトグラフで定量した。」(【0061】) 上記記載によれば,PPS樹脂(ポリフェニレンスルフィド樹脂。PAS樹脂の一種)を燃焼させることにより発生したガス及び残渣のいずれについても,純水に吸収させた上で定量していることから,実施例においては,上記1)~3)の状態で存在するヨウ素原子の全てを対象として,その含有量を測定していることが明らかである。そして,このようなヨウ素原子の含有量の測定は,実施例1~10及び比較例1~3のほか,実施例11においても同様に行われているといえ,その測定結果が表1及び表2に示されていると理解できる(本件明細書の【0065】,【0082】等参照。)。 以上によれば,本件発明4におけるヨウ素原子の含有量は,上記1)~3)の状態で存在する全てのヨウ素原子の含有量を意味していると認められるから,その意味は明確である。 この点,申立人が指摘する実施例11においては,実施例1のPPS樹脂に対して所定の条件で熱処理を施しており,熱処理時間が長くなるにつれて,ヨウ素原子の含有量が600ppmから5ppmへと低くなることが示されているが(表2参照。このことは,本件明細書の【0036】,【0037】の記載に沿うものである。),これは,実施例11で用いたPPS樹脂が,単に,上記2)及び3)の状態で存在するヨウ素原子の割合が高いものであったためと考えられる(その割合は,PPS樹脂の製造条件等により影響を受けると考えられる。)。このような実施例11においても,ヨウ素原子の含有量の測定は,本件明細書の【0061】に記載されるとおりに行われていることは,上記のとおりである。上記のような実施例11の記載や本件明細書の【0035】~【0037】の記載があるからといって,それにより,本件発明4におけるヨウ素原子の含有量が,上記2)及び3)の状態で存在するヨウ素原子のみの含有量を意味しているということはできない。 以上のとおり,申立人の主張は失当であり,理由がない。 イ 本件発明5について 申立人は,本件発明5は,プロダクトバイプロセスクレームであるが,「不可能・非実際的事情」が存在するとはいえないと主張する。 確かに,本件発明5は,原料を含む混合物を重合反応させて得られるPAS樹脂に関するものであり,経時的な要素を含むものであるが,本件明細書の記載及び技術常識を考慮すれば,その物(PAS樹脂)の構造等は,請求項5が引用する請求項4の特定により,当業者にとって明らかであるから,特許法36条6項2号(明確性)との関係で問題とされるべきプロダクトバイプロセスクレームには該当しないといえる。 よって,申立人の主張は理由がない。 ウ 本件発明6について 申立人は,本件発明6における「反応性を示す官能基」は,どのような温度,圧力等の条件下で反応するのか,触媒等を使用した場合に反応性を示すのか等について,全く記載されておらず,どのような官能基までが包含されるのか明らかではないと主張する。 しかしながら,請求項6の文言どおり,その「官能基」は,「グリシジル基,カルボキシ基,ヒドロキシ基またはアミノ基」と何らかの「反応性を示す」ものであれば,どのような官能基であっても包含されるものであることは,明らかである。 よって,申立人の主張は理由がない。 エ 本件発明7について 申立人は,本件発明4~6に従属する本件発明7は,本件発明4~6が不明確であるため,不明確であると主張するが,上記ア~ウのとおり,本件発明4~6は明確であるから,申立人の主張は前提において失当であり,理由がない。 オ まとめ 以上のとおり,本件発明4~7は,いずれも明確であり,申立人が主張する取消理由5は理由がない。 よって,取消理由5によっては,本件特許の請求項4~7に係る発明についての特許を取り消すことはできない。 (2)取消理由3(実施可能要件) 申立人は,上記(1)アの明確性についての主張を前提として,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件発明4について,実施可能要件を満たすものではない旨主張する。 しかしながら,上記の明確性についての主張は,上記(1)アのとおり,失当であるから,このような主張を前提とした実施可能要件に関する主張も失当である。 また,申立人の主張が,本件発明4におけるヨウ素原子の含有量の範囲が,本件明細書の実施例で開示されている「200~1,200ppm」と比べて広いことを指摘するものであるとしても,本件発明4におけるヨウ素原子の含有量は,本件訂正により,「0.01~1,200ppm」に限定されており,また,実施例11(20時間加熱後は,5ppm)の記載も考慮すれば,格別広すぎるということはできない。 いずれにしろ,申立人の主張は理由がない。 よって,取消理由3によっては,本件特許の請求項4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。 (3)取消理由4(サポート要件) 申立人は,上記(2)の実施可能要件についての主張と同様の理由により,本件発明4は,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものではない旨主張するが,上記(2)と同様の理由により,申立人の主張は理由がない。 よって,取消理由4によっては,本件特許の請求項4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。 (4)取消理由1(進歩性) ア 甲1に記載された発明 甲1の記載(請求項1及び16)によれば,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。 「ジヨード芳香族化合物及び硫黄化合物を含む反応物を重合反応させてポリアリーレンスルフィドを重合させる重合工程と, 前記重合されたポリアリーレンスルフィドを100~260℃で保持するヒートセット(heat setting)工程と, を含む方法によって製造され, 遊離ヨウ素の含量が20ppm以下である,ポリアリーレンスルフィド。」(以下,「甲1発明」という。) イ 本件発明4と甲1発明との対比 本件発明4と甲1発明とを対比すると,両者は, 「ポリアリーレンスルフィド樹脂と,ヨウ素を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。」 である点で一致し,以下の点で相違する。 ・相違点2 ポリアリーレンスルフィド樹脂が,本件発明4では,「末端に下記一般式(1) 【化8】 (式中,Xは水素原子またはアルカリ金属原子)で表される基を有する」ものであるのに対し,甲1発明では,末端にそのような基を有するものではない点。 ・相違点3 本件発明4では,ヨウ素が「ヨウ素原子」であって,その含有量が「該ポリアリーレンスルフィド樹脂に対し0.01~1,200ppmの範囲となる割合」であるのに対し,甲1発明では,ヨウ素が「遊離ヨウ素」であって,その含量が「20ppm以下」である点。 ウ 相違点2の検討 (ア)甲1発明は,ジヨード芳香族化合物及び硫黄化合物を含む反応物を重合反応させて,PASを重合させるものであるところ,甲1には,上記反応物がさらに重合停止剤を含み得ることが記載されている(請求項10,【0033】,【0034】)。しかしながら,甲1には,重合停止剤が,本件発明4における一般式(1)で表される基を有するものであることについては,何ら記載されておらず,また,得られるPASの末端に同基を有することについても,何ら記載されていない。 (イ)甲2には,カルボキシル基含有PAS樹脂及びカルボキシル基と反応性を有する耐衝撃性改質剤を必須成分とするPAS樹脂組成物について記載されており(請求項1,5,6),カルボキシル基含有PASは,その分子構造中にカルボキシル基を有することから,カルボキシル基と反応性を有する耐衝撃性改質剤と溶融混合する際の均一性・反応性が良好なものとなり,耐衝撃性改善効果が飛躍的に向上することが記載されている(【0037】)。 また,甲2には,カルボキシル基含有PAS樹脂の製造方法について,アミド基含有環状炭化水素化合物の存在下,アルカリ金属硫化物又はアルカリ金属水硫化物と芳香族ポリハロゲン化合物とを重合させるが,この際,重合時にアミド基含有環状炭化水素化合物を加水分解して該化合物の開環物を得,この開環物を芳香族ポリハロゲン化合物と反応させることにより,構造式(2)(省略)で表される分子構造を有する化合物を生成させ,これをPASの成長末端に付加させ,その後,酸処理を施すことにより,分子末端にカルボン酸を有するPASを製造することが記載されている(【0039】,【0040】)。 しかしながら,このようなカルボキシル基含有PAS樹脂の製造方法は,ジヨード芳香族化合物及び硫黄化合物を含む反応物を重合反応させてPASを製造する甲1発明とは,全く異なるものである。 そうすると,甲1発明に係るPASにおいて,甲2の記載に基づいて,カルボキシル基と反応性を有する耐衝撃性改質剤と溶融混合する際の均一性・反応性を良好なものとし,耐衝撃性改善効果を向上するために,その分子末端にカルボン酸を付加するとしても,甲1発明が前提とするPASの製造方法に対して,甲2に記載のカルボキシル基含有PAS樹脂の製造方法を実際にどのように適用すれば,PASの分子末端にカルボン酸を付加することができるのか,当業者といえども直ちに理解できるとはいえない。また,そのようなことが技術常識であるともいえない。甲1と甲2とでは,前提とするPASの製造方法が全く異なることから,これらを組み合わせること自体,そもそも阻害されているということもできる。 (ウ)甲3には,カルボキシル基を含有するPASと,カルボキシル基と反応性を有する官能基を含有するカップリング剤とを必須成分とするPAS樹脂組成物について記載されており(請求項1,3),PASの樹脂構造中に存在する種々の末端官能基のうち,カルボキシル基の含有量を選択的に増大させることにより,カップリング剤での変性による靱性及び耐衝撃性の改善効果が飛躍的に高まることが記載されている(【0010】)。 また,甲3には,カルボキシル基をPASの樹脂構造中に導入する方法は,PASの重合時に脂環式アミド化合物が加水分解によりアミノアルキルカルボキシル基としてPAS樹脂構造中に取り込むものであること(【0011】),PASを製造する方法としては,スルフィド化剤として,アルカリ金属硫化物を用いるか,あるいは,アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物を用い,これと脂環式アミド化合物と混合して混合溶液とし,上記混合溶液にポリハロ芳香族化合物を滴下しながら重合を行った後,アルカリ金属水酸化物を系内に加え反応させ,酸で処理する方法が好ましいこと(【0014】)が記載されている。 しかしながら,このようなPASを製造する方法は,上記(イ)で述べた甲2と同様のものであり,ジヨード芳香族化合物及び硫黄化合物を含む反応物を重合反応させてPASを製造する甲1発明とは,全く異なるものである。 そうすると,上記(イ)と同様に,甲1発明が前提とするPASの製造方法に対して,甲3に記載のPASを製造する方法を実際にどのように適用すれば,PASの樹脂構造中に存在する種々の末端官能基のうち,カルボキシル基の含有量を選択的に増大させることができるのか,当業者といえども直ちに理解できるとはいえない。また,そのようなことが技術常識であるともいえない。甲1と甲3とでは,前提とするPASの製造方法が全く異なることから,これらを組み合わせること自体,そもそも阻害されているということもできる。 (エ)以上によれば,甲1発明に係るPASにおいて,甲2及び3の記載に基づいて,「末端に下記一般式(1) 【化8】 (式中,Xは水素原子またはアルカリ金属原子)で表される基を有する」ものとすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。 エ 相違点3の検討 (ア)甲1発明は,ジヨード芳香族化合物及び硫黄化合物を含む反応物を重合反応させてPASを重合させた後,所定の温度で保持するヒートセット工程を施すものである。 甲1には,ヨウ素は,遊離のヨウ素分子としてPAS中に封入されるか,PASのアリール基に結合しているか,のいずれかの様態でPAS中に含まれること(【0021】),また,重合工程を経たPASにヒートセット工程を施すと,遊離ヨウ素の含量を低減して,後続工程設備の腐食を防止できること(【0019】,【0023】,【0041】)が記載されている。 上記のとおり,甲1において着目しているのは,PAS中に含まれるヨウ素のうち,後続工程設備を腐食させてしまう遊離のヨウ素分子(遊離ヨウ素)である(【0021】)。甲1には,PASのアリール基に結合しているヨウ素も含めた,全てのヨウ素の含量(すなわち,本件発明4における「ヨウ素原子」の含有量。以下,同じ。)を低減することについては,何ら記載されていない。また,PASにヒートセット工程を施すことにより,遊離ヨウ素の含量を低減できるとしても,PASのアリール基に結合しているヨウ素についても同様に,その含量を低減できるのか等については記載も示唆もなく,そのようなことが技術常識であるともいえない。 そうすると,上記のような甲1の記載に基づいて,甲1発明において,「ヨウ素原子」の含有量を,「該ポリアリーレンスルフィド樹脂に対し0.01~1,200ppmの範囲となる割合」まで低減することが動機付けられるとはいえない。 (イ)甲1には,製造例3で生成したPASが,670ppmのヨウ素含量,70ppmの遊離ヨウ素の含量であったこと(【0051】,【0055】,【0056】,表1),製造例4で生成したPASが,610ppmのヨウ素含量,80ppmの遊離ヨウ素の含量であったこと(【0051】,【0057】,【0058】,表1)が記載されている。 上記の「ヨウ素含量」及び「遊離ヨウ素の含量」によれば,製造例3及び4において,全てのヨウ素の含量が本件発明4における「0.01~1,200ppm」を満たすものが得られていると解する余地があるものの,上記の製造例3及び4の記載は,特定の製造例において,単にそのような結果が得られたというだけのものにすぎない。実際,製造例1及び2で生成したPASは,ヨウ素含量が,それぞれ,7,000ppm,1,500ppm,遊離ヨウ素の含量が,それぞれ,100ppm,85ppmであったことが記載されており(【0051】~【0054】,表1),明らかに「0.01~1,200ppm」を満たすものではない。 そうすると,甲1に製造例3及び4のような記載があるからといって,甲1発明において,「ヨウ素原子」の含有量を,「該ポリアリーレンスルフィド樹脂に対し0.01~1,200ppmの範囲となる割合」まで低減することが動機付けられるとはいえない。 (ウ)また,甲2及び3には,PAS樹脂組成物について記載されているものの,PASに含まれるヨウ素含量については,何ら記載されていない。 (エ)以上によれば,甲1発明において,「ヨウ素原子」の含有量を,「該ポリアリーレンスルフィド樹脂に対し0.01~1,200ppmの範囲となる割合」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。 オ 小括 以上のとおりであるから,本件発明4は,甲1に記載された発明並びに甲2及び3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 カ 本件発明5~7について 本件発明5~7は,本件発明4を直接的又は間接的に引用するものであるが,上記ウ~オで述べたとおり,本件発明4は,甲1に記載された発明並びに甲2及び3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明5~7についても同様に,甲1に記載された発明並びに甲2及び3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 キ まとめ 以上のとおり,本件発明4~7は,いずれも,甲1に記載された発明並びに甲2及び3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,申立人が主張する取消理由1は理由がない。 よって,取消理由1によっては,本件特許の請求項4~7に係る発明についての特許を取り消すことはできない。 第6 むすび 以上のとおり,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項4~7に係る発明についての特許を取り消すことはできない。 また,他に本件特許の請求項4~7に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。

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2015-700133

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