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特許異議申立

2024-700090

バイオベースポリカーボネートエステル及びその調製方法

審判番号
2024-700090
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-535210
登録番号
7323134
請求日
2024年02月02日
審決日
2025年09月12日
公報発行日
2025年12月26日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】エスケー ケミカルズ カンパニー リミテッド
  • 【権利者代理人】池田 成人
  • 【権利者代理人】酒巻 順一郎
  • 【権利者代理人】野田 雅一
  • 【異議申立人】関 博志
審判長/審判官
  • 審判長 藤原 浩子
  • 審判官 ▲吉▼澤 英一
  • 審判官 細井 龍史
分類
P1651.113-YAA(C08G) / P1651.121-YAA(C08G) / P1651.537-YAA(C08G)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7323134号発明「バイオベースポリカーボネートエステル及びその調製方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7323134号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。 特許第7323134号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7323134号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~11に係る特許についての出願は、2019年(平成31年)1月24日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2018年1月24日 大韓民国(KR))を国際出願日とする特願2020-535210号であって、令和5年7月31日にその特許権の設定登録(請求項の数11)がされ、同年8月8日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許に対し、令和6年2月2日に特許異議申立人 関 博志(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~11)がされ、同年同月22日付けで特許異議申立書に対する手続補正指令書が通知され、同年3月18日に特許異議申立書に対する手続補正書が提出されたものである。 特許異議の申立てにおける手続の経緯は、次のとおりである。 令和6年 6月 5日付け:取消理由通知書 同年 9月 5日 :意見書及び訂正請求書(特許権者) 同年 同月27日付け:通知書(申立人宛て) 同年10月31日 :意見書(申立人) 令和7年 2月 7日付け:取消理由通知書(決定の予告) 同年 5月14日 :意見書及び訂正請求書(特許権者) 同年 同月22日付け:通知書(申立人宛て) 上記通知に対する申立人の応答はなかった。 なお、令和6年9月5日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 第2 本件訂正請求について 1 請求の趣旨 令和7年5月14日提出の訂正請求書における請求の趣旨は、「特許第7323134号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~11について訂正することを求める。」というものである。 2 訂正の内容 上記訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。(当審注:下線は上記訂正請求書で付与したとおり当審で付与した。) (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、「フィニッシャー反応器」とあるのを、「横型プラグフローフィニッシャー反応器」と訂正する(請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~11も同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に、「である、」とあるのを、「であり、 前記モノマー混合物が、前記式1及び前記式3によって表される化合物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物と、前記式2によって表される化合物と、を含む、」と訂正する(請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~11も同様に訂正する。)。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1に、「プロセス。」とあるのを、「プロセスであって、 前記バイオベースポリカーボネートエステルの固有粘度(IV)が、1.01~2.3dl/gである、プロセス。」と訂正する(請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~11も同様に訂正する。)。 なお、本件訂正は、訂正前の請求項1~11について、請求項2~11はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1~3によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~11に対応する訂正後の請求項1~11は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 3 本件訂正の適否 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的の適否 訂正事項1は、請求項1における「フィニッシャー反応器」との発明特定事項を、「横型プラグフローフィニッシャー反応器」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の存否 本件特許の明細書(以下、「本件明細書」という。)には、段落【0055】に「高粘度用重縮合反応器は、横型プラグフロー反応器であってもよい。特に、高粘度用重縮合反応器は、1つ又は複数のスターラーを備えたエクストルーダー、ニーダー、又はフィニッシャー反応器であってもよい。」と記載されているから、当該記載から、「横型プラグフローフィニッシャー反応器」が記載されていると解される。 そうすると、訂正事項1は、本件明細書の上記記載に基づくものであるから、新規事項を追加するものではなく、また、発明特定事項を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的の適否 訂正事項2は、請求項1における「モノマー混合物」との発明特定事項を、「前記式1及び前記式3によって表される化合物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物と、前記式2によって表される化合物と、を含む」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の存否 本件明細書には、段落【0019】に「モノマー混合物は、以下の式1及び2によって表される化合物、及び1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールを含んでもよい。」と記載され、段落【0024】に「モノマー混合物は、式2及び3によって表される化合物、並びに1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールを含んでもよく」と記載され、段落【0028】に「モノマー混合物は、以下の式1~3によって表される化合物、及び1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールを含んでもよい。」と記載されている。 そうすると、訂正事項2は、本件明細書の上記記載に基づくものであるから、新規事項を追加するものではなく、また、発明特定事項を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3について ア 訂正の目的の適否 訂正事項3は、請求項1における「バイオベースポリカーボネートエステル」との発明特定事項を、「前記バイオベースポリカーボネートエステルの固有粘度(IV)が、1.01~2.3dl/gである」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正前の請求項7には、「請求項1~6のいずれか一項に記載の調製プロセスによって調製され、1.01~2.3dl/gの固有粘度(IV)を有する、バイオベースポリカーボネートエステル。」と記載されている。 そうすると、訂正事項3は、上記記載に基づくものであるから、新規事項を追加するものではなく、また、発明特定事項を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 4 訂正についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。 よって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1~11に係る発明(以下、順に「本件発明1」のようにいい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 下記式1~3によって表される化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物、及び1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールを含むモノマー混合物を高粘度用重縮合反応器に供給するステップと、それらを反応させるステップを含み、 【化1】 [図:0001429971000001.jpg] 【化2】 [図:0001429971000002.jpg] 【化3】 [図:0001429971000003.jpg] 上記式2中、 R1及びR2はそれぞれ、1~18個の炭素原子を有するアルキル基又は6~18個の炭素原子を有するアリール基であり、 前記アリール基は、1~18個の炭素原子を有するアルキル基、4~20個の炭素原子を有するシクロアルキル基、6~18個の炭素原子を有するアリール基、1~18個の炭素原子を有するアルコキシ基、4~20個の炭素原子を有するシクロアルコキシ基、6~18個の炭素原子を有するアリールオキシ基、1~18個の炭素原子を有するアルキルスルホニル基、4~20個の炭素原子を有するシクロアルキルスルホニル基、6~18個の炭素原子を有するアリールスルホニル基、及びエステル置換基からなる群から選択される少なくとも1つの置換基を有してもよく、前記エステル置換基は、1~18個の炭素原子を有するアルキルエステル、4~20個の炭素原子を有するシクロアルキルエステル、又は6~18個の炭素原子を有するアリールエステルであってもよい、 前記高粘度用重縮合反応器が、1つ又は複数のスターラーを備えるエクストルーダー、ニーダー、又は横型プラグフローフィニッシャー反応器であり、 前記モノマー混合物が、前記式1及び前記式3によって表される化合物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物と、前記式2によって表される化合物と、を含む、バイオベースポリカーボネートエステルを調製するためのプロセスであって、 前記バイオベースポリカーボネートエステルの固有粘度(IV)が、1.01~2.3dl/gである、プロセス。 【請求項2】 前記高粘度用重縮合反応器における最大到達粘度が、10,000~1,000,000ポアズである、請求項1に記載のバイオベースポリカーボネートエステルを調製するためのプロセス。 【請求項3】 (1)前記モノマー混合物を溶融させ、前記混合物を減圧状態で反応させて、プレポリマーを調製するステップと、 (2)前記プレポリマーを減圧状態で反応させて、バイオベースポリカーボネートエステルを調製するステップと を含む、請求項1に記載のバイオベースポリカーボネートエステルを調製するためのプロセス。 【請求項4】 上記ステップ(1)が20~700mbar及び140~220℃で実施される、請求項3に記載のバイオベースポリカーボネートエステルを調製するためのプロセス。 【請求項5】 前記プレポリマーが0.10~0.60dl/gの固有粘度(IV)を有する、請求項3に記載のバイオベースポリカーボネートエステルを調製するためのプロセス。 【請求項6】 上記ステップ(2)が0.1~20mbar及び220~270℃で実施される、請求項3に記載のバイオベースポリカーボネートエステルを調製するためのプロセス。 【請求項7】 請求項1~6のいずれか一項に記載の調製プロセスによって調製され、1.01~2.3dl/gの固有粘度(IV)を有する、バイオベースポリカーボネートエステル。 【請求項8】 ASTM D638試験方法に従って射出成形された前記バイオベースポリカーボネートエステルの試料が、80~200MPaの引張強度及び100~210MPaの曲げ強度を有する、請求項7に記載のバイオベースポリカーボネートエステル。 【請求項9】 60J/mから破壊なしのノッチ付きアイゾット衝撃強度を有する、請求項7に記載のバイオベースポリカーボネートエステル。 【請求項10】 請求項7に記載のバイオベースポリカーボネートエステルを含む、成形品。 【請求項11】 自動車部品、電気/電子部品、ディスプレイ部品、航空機部品、機械部品、照明部品、医薬製品、及び食品容器から選ばれる少なくとも1つである、請求項10に記載の成形品。」 第4 証拠方法、特許異議申立書に記載した申立の理由の概要及び取消理由(決定の予告)の概要 1 証拠方法 (1)申立人が提出した証拠方法 申立人が添付した証拠方法は、以下のとおりである。 ア 特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に添付したもの ・甲第1号証:国際公開第2013/039178号 ・甲第2号証:Hybrid Reactor/Twin Shaft Continuous Reactor、栗本鐵工所、2017年8月1日、 インターネット<URL:https://www.kurimoto.co.jp/worldwide/en/product/item/07pw/550.php> ・甲第3号証:特表2016-525610号公報 ・甲第4号証:特表2018-504497号公報 イ 令和6年10月31日提出の意見書に添付したもの ・参考文献1:「ポリカーボネート樹脂ハンドブック」、本間精一編、日刊工業新聞社、1992年7月発行、147頁 (2)特許権者が提出した証拠方法 特許権者が令和6年9月5日提出の意見書に添付した証拠方法は、以下のとおりである。 ・乙第1号証:ウィキペティア「プラグフローリアクターモデル」、令和6年9月4日(出力日)、 インターネット<URL:https://en.wikipedia.org/wiki/Plug_flow_reactor_model>及びその訳文 ・乙第2号証:「プラグフローリアクター」、AMテクノロジーのホームページ、令和6年9月4日(出力日)、 インターネット<URL: https://www.amt.uk/plug-flow>及びその訳文 以下、「甲第1号証」等を「甲1」等という。 2 申立書に記載した申立の理由の概要 申立書に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 (1)申立理由1(甲1を主引例とする新規性・進歩性) 本件特許の請求項1~4、6、10及び11に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲1に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~4、6、10及び11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2)申立理由2(甲3を主引例とする進歩性) 本件特許の請求項1~11に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明並びに甲1及び甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (3)申立理由3(甲4を主引例とする進歩性) 本件特許の請求項1~11に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4に記載された発明並びに甲1及び甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (4)申立理由4(サポート要件) 本件特許の請求項1~11に係る特許は、以下の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 配合するモノマーの種類、構造が異なることにより、得られるバイオベースポリカーボネートエステルの物理的特性、引張強度及び衝撃強度等が大きく変わることは技術常識であることを考慮すると、本件請求項1に規定するように、ISB及び式1~3のうち少なくとも1つのモノマーさえ有していればよいプロセスにより、実施例に記載の高粘度バイオベースポリカーポネートエステルと同程度の物が得られ上記課題を解決できるとはいえない。 (5)申立理由5(明確性要件) 本件特許の請求項1~11に係る特許は、以下の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 本件請求項1には、「高粘度用重縮合反応器」という記載があるが、どの程度までの粘度範囲を「高粘度」とするのかが不明であり、発明の詳細な説明の記載を考慮しても、「高粘度用」が特定する反応器の技術的範囲を当業者が理解できないため、請求項1及びこれを引用する請求項2~11に係る発明は不明確である。 3 取消理由(決定の予告)の概要 当審において令和7年2月7日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要は次のとおりである。 (1)取消理由1(明確性要件) 本件特許の請求項1~11に係る特許は、以下の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 本件特許の請求項1には、「バイオベースポリカーボネートエステルを調製するためのプロセス」において、「下記式1~3(当審注:化学構造は省略する。以下同様。)によって表される化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物、及び1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールを含むモノマー混合物を・・・反応させるステップを含」むことが記載されている。 しかしながら、上記モノマー混合物の記載は、ポリカーボネート及びポリエステルを生成する場合を包含するから、「バイオベースポリカーボネートエステルを調製するためのプロセス」の記載と整合性がなく、明確であるとはいえない。 (2)取消理由2(サポート要件) 本件特許の請求項1~11に係る特許は、以下の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 本件発明1は、「下記式1~3によって表される化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物、及び1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールを含むモノマー混合物」と特定されているが、当該モノマー混合物は、ポリカーボネート及びポリエステルを生成する場合を包含するところ、実施例モノマー混合物以外の「下記式1~3によって表される化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物、及び1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールを含むモノマー混合物」から生成されるバイオベースポリカーボネートエステルを調製するためのプロセスについては、本件明細書には記載されていない。 よって、実施例モノマー混合物以外の「下記式1~3によって表される化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物、及び1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールを含むモノマー混合物」である場合を含む本件発明1について、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。 取消理由3(甲1を主引例とする進歩性) 本件特許の請求項1~6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 第5 当審の判断 以下に述べるように、取消理由(決定の予告)及び申立書に記載した申立理由によっては、本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。 1 取消理由1及び申立理由5(明確性要件)について 取消理由1及び申立理由5は明確性要件についてのものであるから、まとめて検討する。 (1)取消理由1及び申立理由5の概要 取消理由1の概要については上記第4の3(1)のとおりであり、申立理由5の概要については、上記第4の2(5)のとおりである。 (2)検討 ア 取消理由1について 本件訂正により、本件発明1は、「前記モノマー混合物が、前記式1及び前記式3によって表される化合物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物と、前記式2によって表される化合物と、を含む、」と特定され、モノマー混合物が、ポリカーボネート及びポリエステルを生成する場合を包含しないものとなった。 したがって、取消理由1は解消され、取消理由1は理由がないものとなった。 イ 申立理由5について 本件発明1は、「高粘度用重縮合反応器が、1つ又は複数のスターラーを備えるエクストルーダー、ニーダー、又は横型プラグフローフィニッシャー反応器であり」と特定されている。 そうすると、本件発明1の「高粘度用縮合反応器」は、「高粘度」の粘度範囲にかかわらず、「1つ又は複数のスターラーを備えるエクストルーダー、ニーダー、又は横型プラグフローフィニッシャー反応器」であることが明らかであるから、「高粘度用縮合反応器」の範囲は明確である。 (3)取消理由1及び申立理由5についてのまとめ 上記(2)ア及びイのとおりであるから、取消理由1及び申立理由5はその理由がない。 2 取消理由2及び申立理由4(サポート要件)について 取消理由2及び申立理由4はサポート要件についてのものであるから、まとめて検討する。 (1)取消理由2及び申立理由4の概要 取消理由2の概要については上記第4の3(2)のとおりであり、申立理由4の概要については、上記第4の2(4)のとおりである。 (2)検討 ア 取消理由2について 本件訂正により、本件発明1は、「前記モノマー混合物が、前記式1及び前記式3によって表される化合物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物と、前記式2によって表される化合物と、を含む、」と特定され、モノマー混合物が、ポリカーボネート及びポリエステルを生成する場合を包含しないものとなった。 そして、本件明細書には、「モノマー混合物は、以下の式1及び2によって表される化合物、及び1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールを含んでもよい。」(【0019】)、「モノマー混合物は、式2及び3によって表される化合物、並びに1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールを含んでもよく、」(【0024】)、「モノマー混合物が1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール及び上記式1~3によって表される化合物を含む場合、そのように生成されたバイオベースポリカーボネートエステルは、下記式4によって表される繰り返し単位1、下記式5によって表される繰り返し単位2、及び下記式6によって表される繰り返し単位3を含んでもよい。」(【0029】)と記載され、さらに、実施例1~5には、1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール並びに式1及び2によって表される化合物からなるモノマー混合物から生成されるバイオベースポリカーボネートエステルが、実施例6には、1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール並びに式2及び3によって表される化合物からなるモノマー混合物から生成されるバイオベースポリカーボネートエステルが、実施例7には、1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール並びに式1、2及び3によって表される化合物からなるモノマー混合物から生成されるバイオベースポリカーボネートエステルが記載され、比較実施例1及び2に比べて、それぞれ、固有粘度IVが高く、引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、衝撃強度、熱変形温度、及び鉛筆硬度が改善されることが記載されている(【0082】~【0106】)。 そうすると、本件明細書の記載から、本件発明1で特定される「下記式1~3によって表される化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物、及び1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールを含むモノマー混合物」であって、「前記モノマー混合物が、前記式1及び前記式3によって表される化合物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物と、前記式2によって表される化合物と、を含む」モノマー混合物から生成されるバイオベースポリカーボネートエステルを調製するためのプロセスについて、「1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの変色及び物理的特性の劣化を防ぎながら低温で高い重合度を達成することができる高粘度用重縮合反応器を使用することによって、引張強度及び衝撃強度のような機械的特性の点で優れたバイオベースポリカーボネートエステルを提供する」(【0007】)という本件発明の課題を解決すると、当業者は理解する。 したがって、取消理由2は解消され、取消理由2は理由がないものとなった。 イ 申立理由4について 本件訂正により、本件発明1は、「前記モノマー混合物が、前記式1及び前記式3によって表される化合物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物と、前記式2によって表される化合物と、を含む、」と特定され、モノマー混合物が、「ISB及び式1~3のうち少なくとも1つのモノマーさえ有していればよい」ものではないものとなった。 そして、上記アで述べたとおり、本件明細書の記載から、本件発明1で特定される「下記式1~3によって表される化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物、及び1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールを含むモノマー混合物」であって、「前記モノマー混合物が、前記式1及び前記式3によって表される化合物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物と、前記式2によって表される化合物と、を含む」モノマー混合物から生成されるバイオベースポリカーボネートエステルを調製するためのプロセスについて、本件発明の課題を解決すると、当業者は理解する。 したがって、申立理由4はその理由がない。 (3)取消理由2及び申立理由4についてのまとめ 上記(2)ア及びイのとおりであるから、取消理由2及び申立理由4はその理由がない。 3 取消理由3及び申立理由1(甲1を主引例とする新規性・進歩性)について 取消理由3及び申立理由1は、いずれも甲1を主引例とする新規性・進歩性についてのものであるので、まとめて検討する。 (1)甲1に記載された発明 甲1には、[0200]~[0201]の合成例1のポリカーボネートAを調製するためのプロセスに着目すると、以下の発明が記載されている。 「イソソルビド(ISB)を445.1重量部、9,9-(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(BHEPF)を906.2重量部、分子量1000のポリエチレングリコール(PEG#1000)15.4重量部、ジフェニルカーボネート(DPC)を1120.4重量部、及び触媒として炭酸セシウム(0.2重量%水溶液)6.27重量部を、それぞれ反応器に投入し、窒素雰囲気下にて、反応の第1段目の工程として、反応容器の熱媒温度を150℃にし、必要に応じて攪拌しながら、原料を溶解させ(約15分)、次いで、反応容器内の圧力を常圧から13.3kPaにし、反応容器の熱媒温度を190℃まで1時間で上昇させながら、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出し、反応容器内温度を190℃で15分保持した後、第2段目の工程として、反応容器内の圧力を6.67kPaとし、反応容器の熱媒温度を230℃まで、15分で上昇させ、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出し、さらに発生するフェノールを取り除くため、反応容器内の圧力を200Pa以下に減圧し、所定の攪拌トルクに到達後、反応を終了し、生成した反応物を水中に押し出した後に、ペレット化を行う、BHEPF/ISB/PEG#1000=40.3mol%/59.4mol%/0.3mol%のポリカーボネートAを調製するためのプロセス。」(以下、「甲1発明」という。) (2)本件発明1について 本件発明1と甲1発明とを対比する。 ア 甲1発明の「イソソルビド(ISB)」は、本件明細書【0016】の「1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールは、イソマンニド、イソソルビド、又はイソイジドからなる群から選択される少なくとも1つであってもよい。」の記載からみて、本件発明1の「1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール」に相当する。 イ 甲1発明の「ジフェニルカーボネート(DPC)」は、本件明細書【0018】の「上記式2によって表される化合物は、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-t-ブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、又はビス(メチルサリチル)カーボネートであってもよい。」の記載からみて、本件発明1の「式2によって表される化合物」に相当する。 ウ 上記ア及びイのとおりであるから、甲1発明の「イソソルビド(ISB)を445.1重量部、9,9-(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(BHEPF)を906.2重量部、分子量1000のポリエチレングリコール(PEG#1000)15.4重量部、ジフェニルカーボネート(DPC)を1120.4重量部」は、本件発明1の「下記式1~3によって表される化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物、及び1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールを含むモノマー混合物」に相当する。 エ 甲1発明の「それぞれ反応器に投入」することは、反応器が重縮合反応器であることは明らかであるから、本件発明1の「モノマー混合物を高粘度用重縮合反応器に供給するステップ」と、「モノマー混合物を重縮合反応器に供給するステップ」である限りにおいて、一致する。 オ 甲1発明の「反応の第1段目の工程」及び「第2段目の工程」は、本件発明1の「それらを反応させるステップ」に相当する。 カ 甲1発明の「BHEPF/ISB/PEG#1000=40.3mol%/59.4mol%/0.3mol%のポリカーボネートAを調製するためのプロセス」は、ポリカーボネートAが1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールであるISBをその構成単位に含むポリカーボネートであることから、本件発明1の「バイオベースポリカーボネートエステルを調製するためのプロセス」と、「バイオベースポリマーを調製するためのプロセス」である限りにおいて、一致する。 そうすると、両者は次の点で一致する。 「下記式1~3によって表される化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物、及び1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールを含むモノマー混合物を重縮合反応器に供給するステップと、それらを反応させるステップを含む、 【化1】 [図:0001429971000004.jpg] 【化2】 [図:0001429971000005.jpg] 【化3】 [図:0001429971000006.jpg] 上記式2中、 R1及びR2はそれぞれ、1~18個の炭素原子を有するアルキル基又は6~18個の炭素原子を有するアリール基であり、 前記アリール基は、1~18個の炭素原子を有するアルキル基、4~20個の炭素原子を有するシクロアルキル基、6~18個の炭素原子を有するアリール基、1~18個の炭素原子を有するアルコキシ基、4~20個の炭素原子を有するシクロアルコキシ基、6~18個の炭素原子を有するアリールオキシ基、1~18個の炭素原子を有するアルキルスルホニル基、4~20個の炭素原子を有するシクロアルキルスルホニル基、6~18個の炭素原子を有するアリールスルホニル基、及びエステル置換基からなる群から選択される少なくとも1つの置換基を有してもよく、前記エステル置換基は、1~18個の炭素原子を有するアルキルエステル、4~20個の炭素原子を有するシクロアルキルエステル、又は6~18個の炭素原子を有するアリールエステルであってもよい、 バイオベースポリマーを調製するためのプロセス。」 そして、両者は次の点で相違する。 ・相違点1-1 バイオベースポリマーに関して、本件発明1は「前記モノマー混合物が、前記式1及び前記式3によって表される化合物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物と、前記式2によって表される化合物と、を含む、ポリカーボネートエステル」であり、「前記バイオベースポリカーボネートエステルの固有粘度(IV)が、1.01~2.3dl/gである」のに対し、甲1発明は「ポリカーボネート」である点 ・相違点1-2 重縮合反応器に関して、本件発明1は「モノマー混合物を高粘度用重縮合反応器に供給するステップ」を有し、「前記高粘度用重縮合反応器が、1つ又は複数のスターラーを備えるエクストルーダー、ニーダー、又は横型プラグフローフィニッシャー反応器である」であるのに対し、甲1発明はそのような特定がない点 上記相違点1-1について検討する。 甲1発明は、本件発明1の「式1及び式3によって表される化合物」を含まず、固有粘度の特定もないから、相違点1-1は実質的な相違点である。 また、甲1には、「ポリカーボネートおよびポリエステルカーボネートから選ばれる少なくとも1種の高分子を成形して得られ」る「位相差フィルム」(請求項1)、「本発明の位相差フィルムを形成するポリカーボネートとは・・・、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が、カーボネート結合で連結された構造を有するポリマーであり、ポリエステルカーボネートとは・・・前記ポリカーボネートのカーボネート結合の一部がジカルボン酸構造に置換されたものである。」([0059])、「本発明の高分子の分子量は、還元粘度で表すことができる。本発明の高分子の還元粘度は、後掲の実施例の項に記載されるように、溶媒として塩化メチレンを用い、高分子濃度を0.6g/dLに精密に調整し、温度20.0℃±0.1℃でウベローデ粘度管を用いて測定される。本発明の高分子の還元粘度に特に制限は無いが、好ましくは0.30dL/g以上であり、より好ましくは0.35dL/g以上である。還元粘度の上限は、好ましくは1.20dL/g以下、より好ましくは0.60dL/g以下、更に好ましくは0.50dL/g以下である。」と記載されている。 しかし、甲1には、ポリカーボネート及びポリエステルカーボネートから選ばれる少なくとも1種の高分子の構造単位が由来する化合物として、本件発明1の「式1及び式3によって表される化合物」の記載はなく、また、当該高分子の固有粘度についても記載されていない。 そうすると、甲1の記載からは、甲1発明において、本件発明1の「式1及び式3によって表される化合物」の少なくとも1つを追加で用いてポリカーボネートエステルとし、さらに、その固有粘度を「1.01~2.3dl/g」の範囲内とすることは動機付けられないし、甲2にも、このことを動機付けられる記載はない。 したがって、甲1発明において、相違点1-1に係る本件発明1の特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 そして、本件明細書【0101】の【表1】に記載されている実施例1~7の結果から見て、本件発明1は、相違点1-1に係る特定事項を有することにより、「引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、衝撃強度、熱変形温度、及び鉛筆強度が改善された」(【0102】)という効果を奏する。 よって、上記相違点1-2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明ではないし、甲1発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)本件発明2~6、10及び11について 本件発明2~6、10及び11は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、上記(2)で本件発明1について検討したと同様の理由により、本件発明2~6、10及び11は甲1発明ではないし、甲1発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (4)取消理由3及び申立理由1についてのまとめ 上記(2)及び(3)のとおりであるから、取消理由3及び申立理由1はその理由がない。 4 申立理由2(甲3を主引例とする進歩性)について (1)甲3に記載された発明 甲3には、【0069】の例1のバイオポリカーボネートエステルの調製に着目すると、以下の発明が記載されている。 「蒸留ヘッド、温度計、冷却コンデンサーおよび機械的撹拌機を500mLの三首フラスコに装備し、イソソルビド(Roquette Freres)102.3g(0.7mol)、調製例1で得られたDPCD97.3g(0.3mol)、DPC(Aldrich)85.7g(0.4mol)および触媒としてセシウムカーボネート(Cs2CO3)5.9×10-4g(1.8×10-3mmol)をフラスコに加え、フラスコを150℃まで加熱し、温度が150℃に達したら、圧力を400Torrまで減圧し、温度を1時間かけて190℃まで上昇させ、温度が190℃に達したら、圧力を100Torrまで減圧し、20分間維持し、次いで温度を20分かけて230℃まで上昇させ、温度が230℃に達したら、圧力を10Torrまで減圧し、次いで温度を10分かけて250℃まで上昇させ、圧力を250℃で1Torr以下まで減圧し、所望の撹拌トルクに達するまで反応を続け、撹拌トルクが所望の値に達したら、反応を終了し、温度を室温まで冷却させた、Tg143℃及びIV0.48dL/gのバイオポリカーボネートエステルを調製する方法。 ここで、調製例1で得られたDPCDは、以下のとおり合成されたものである。 95/5%のシス/トランス比のCHDA(SK Chemicals)100g(0.58mol)、フェノール218g(2.32mol)、Zn(OAc)2触媒0.1g(0.55mmol)および磁気撹拌棒を500mLの一首フラスコに導入した。蒸留ヘッド、温度計および冷却コンデンサーをフラスコに装備し、フラスコを200℃まで加熱した。反応を同じ温度で24時間行い、反応の副産物として生成された水をフラスコから排出した。反応の終了時、このようにして得られた反応物を室温まで冷却し、過剰導入されたフェノールを、蒸発器を用いてそこから除去した。このようにして得られた固体化合物を、過剰な水と共に加え、機械的に撹拌し、残留フェノールを除去した。90℃で24時間真空乾燥した後、DPCD111gを得た(収率:59%)。」(以下、「甲3発明」という。) (2)本件発明1について 本件発明1と甲3発明とを対比する。 ア 甲3発明の「イソソルビド(Roquette Freres)」は、上記3(2)アで検討したとおり、本件発明1の「1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール」に相当する。 イ 甲3発明の「DPC(Aldrich)」は、甲3の【0007】には、「ジフェニルカーボネート(以下、DPCと称する)」と記載されているから、上記3(2)イで検討したとおり、本件発明1の「式2によって表される化合物」に相当する。 ウ 甲3発明の「調製例1で得られたDPCD」は、甲3の【0008】には、「1,4-ジフェニルシクロヘキサンジカルボキシレート(以下、DPCDと称する)」と記載されているところ、本件明細書【0017】の「式1によって表される化合物である1,4-ジフェニル-シクロヘキサンジカルボキシレート(DPCD)」の記載からみて、本件発明1の「式1によって表される化合物」に相当する。 エ 甲3発明の「イソソルビド(Roquette Freres)102.3g(0.7mol)、調製例1で得られたDPCD97.3g(0.3mol)、DPC(Aldrich)85.7g(0.4mol)」は、「イソソルビド」、「調製例1で得られたDPCD」及び「DPC」がそれぞれモノマーであり、3つのモノマーの混合物であることは明らかであるから、本件発明1の「下記式1~3によって表される化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物、及び1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールを含むモノマー混合物」であって、「前記モノマー混合物が、前記式1及び前記式3によって表される化合物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物と、前記式2によって表される化合物と、を含む」ことに相当する。 オ 甲3発明の「イソソルビド(Roquette Freres)・・・をフラスコに加え」ることは、フラスコ内で重縮合反応を行うことは明らかであるから、本件発明1の「モノマー混合物を高粘度用重縮合反応器に供給するステップ」と、「モノマー混合物を重縮合反応器に供給するステップ」である限りにおいて一致する。 カ 甲3発明の「所望の撹拌トルクに達するまで反応を続け」は、本件発明1の「それらを反応させるステップ」に相当する。 キ 甲3発明の「バイオポリカーボネートエステルを調製する方法」は、本件発明1の「バイオベースポリカーボネートエステルを調製するためのプロセス」に相当する。 そうすると、両者は次の点で一致する。 「下記式1~3によって表される化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物、及び1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールを含むモノマー混合物を重縮合反応器に供給するステップと、それらを反応させるステップを含み、 【化1】 [図:0001429971000007.jpg] 【化2】 [図:0001429971000008.jpg] 【化3】 [図:0001429971000009.jpg] 上記式2中、 R1及びR2はそれぞれ、1~18個の炭素原子を有するアルキル基又は6~18個の炭素原子を有するアリール基であり、 前記アリール基は、1~18個の炭素原子を有するアルキル基、4~20個の炭素原子を有するシクロアルキル基、6~18個の炭素原子を有するアリール基、1~18個の炭素原子を有するアルコキシ基、4~20個の炭素原子を有するシクロアルコキシ基、6~18個の炭素原子を有するアリールオキシ基、1~18個の炭素原子を有するアルキルスルホニル基、4~20個の炭素原子を有するシクロアルキルスルホニル基、6~18個の炭素原子を有するアリールスルホニル基、及びエステル置換基からなる群から選択される少なくとも1つの置換基を有してもよく、前記エステル置換基は、1~18個の炭素原子を有するアルキルエステル、4~20個の炭素原子を有するシクロアルキルエステル、又は6~18個の炭素原子を有するアリールエステルであってもよい、 前記モノマー混合物が、前記式1及び前記式3によって表される化合物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物と、前記式2によって表される化合物と、を含む、バイオベースポリカーボネートエステルを調製するためのプロセス。」 そして、両者は次の点で相違する。 ・相違点3-1 バイオベースポリカーボネートエステルに関して、本件発明1は「固有粘度(IV)が、1.01~2.3dl/gである」のに対し、甲3発明はそのような特定がない点 ・相違点3-2 重縮合反応器に関して、本件発明1は「モノマー混合物を高粘度用重縮合反応器に供給するステップ」を有し、「前記高粘度用重縮合反応器が、1つ又は複数のスターラーを備えるエクストルーダー、ニーダー、又は横型プラグフローフィニッシャー反応器である」であるのに対し、甲3発明はそのような特定がない点 上記相違点3-1及び相違点3-2について検討する。 甲3発明は、「1つ又は複数のスターラーを備えるエクストルーダー、ニーダー、又は横型プラグフローフィニッシャー反応器」の特定はなく、固有粘度の特定もないから、相違点3-1及び相違点3-2は実質的な相違点である。 また、甲3には、「バイオポリカーボネートエステルを、バッチまたは連続法により調製してもよい。」(【0058】)と記載され、「本発明によるポリカーボネートエステルを製造する方法により調製した式1の繰り返し単位を含むバイオポリカーボネートエステルは、0.3~2.0dL/gの最終の固有粘度(以下、IVと称する)を有していてよい。」(【0061】)と記載されているが、実施例において、重縮合反応器として三首フラスコを用い、固有粘度が0.48dL/gのバイオベースポリカーボネートエステルが調製されること(【0069】の例1)が記載されているにとどまり、特定の重縮合反応器を用いることとバイオベースポリカーボネートエステルの固有粘度が高くなることとの関連性については記載されていない。 そうすると、甲3の記載からは、甲3発明において、重縮合反応器として、「1つ又は複数のスターラーを備えるエクストルーダー、ニーダー、又は横型プラグフローフィニッシャー反応器」である「高粘度用重縮合反応器」を採用して、得られるポリカーボネートエステルの固有粘度を甲3発明より高い「1.01~2.3dl/g」の範囲内とすることは動機付けられない。 さらに、甲1には、「重合は、通常、2段階以上の多段工程で実施され、重合反応器は1つで条件を変えて2段階以上の工程で実施してもよいし、2つ以上の反応器を用いて、それぞれの条件を変えて2段階以上の工程で実施してもよいが、生産効率の観点からは、2つ以上、好ましくは3つ以上、更に好ましくは3~5つ、特に好ましくは、4つの反応器を用いて実施する。重合反応はバッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせの何れでも構わないが、生産効率と品質の安定性の観点から、連続式が好ましい。」([0129])と記載され、「重合反応後半の重合速度の低下を抑止し、熱履歴による劣化を最小限に抑えるためには、重合の最終段階でプラグフロー性と界面更新性に優れた横型反応器を使用することが好ましい。」([0134])と記載されているが、実施例において、重縮合反応器が「反応器」及び「反応容器」であること([0200]~[0201]、[0209])が記載されているにとどまり、特定の重縮合反応器を用いることとバイオベースポリカーボネートエステルの固有粘度が高くなることとの関連性については記載されていない。 そうすると、甲1の記載からも、甲3発明において、重縮合反応器として、「1つ又は複数のスターラーを備えるエクストルーダー、ニーダー、又は横型プラグフローフィニッシャー反応器」である「高粘度用重縮合反応器」を採用して、得られるポリカーボネートエステルの固有粘度を「1.01~2.3dl/g」の範囲内とすることは動機付けられない。 したがって、甲3発明において、相違点3-1及び相違点3-2に係る本件発明1の特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 そして、本件明細書【0101】の【表1】に記載されている実施例1~7の結果から見て、本件発明1は、相違点3-1及び相違点3-2に係る特定事項を有することにより、「引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、衝撃強度、熱変形温度、及び鉛筆強度が改善された」(【0102】)という効果を奏する。 よって、本件発明1は、甲3発明並びに甲3及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件発明2~11について 本件発明2~11は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、上記(2)で本件発明1について検討したと同様の理由により、本件発明2~11は、甲3発明並びに甲3及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)申立理由2についてのまとめ 上記(2)及び(3)のとおりであるから、申立理由2はその理由がない。 5 申立理由3(甲4を主引例とする進歩性)について (1)甲4に記載された発明 甲4には、【0073】の例1のバイオポリカーボネートエステルの調製に着目すると、以下の発明が記載されている。 「イソソルビド(「ISB」、Roquette Freres)1,995g(13.7モル)、調製例1で得られたDPCD443g(1.37モル)、DPC(Changfeng)2,632g(12.3モル)、および触媒として炭酸セシウム(Cs2CO3)6.1×10-4g(1.9×10-3ミリモル)を、重縮合のための5Lのベンチスケール反応器に投入し、混合物を150℃まで加熱し、温度が150℃に達した後、圧力を400トールまで下げ、次いで温度を1時間にわたって190℃まで上昇させ、温度が190℃に達したとき、圧力を100トールまで下げ、20分間維持し、次いで温度を20分にわたって230℃まで上昇させ、温度が230℃に達した後、圧力を10トールまで下げ、次いで温度を10分にわたって250℃まで上昇させ、圧力を250℃で1トール以下まで下げ、目標の撹拌トルクに達するまで反応を続け、目標の撹拌トルクに到達した後、反応を停止させ、重合生成物を加圧し、ストランドとして放出し、それを水浴中で急速に冷却させ、次いでチップに切断し、Tgが162℃及びIVが0.62dL/gのバイオベースポリカーボネートエステルを調製する方法。 ここで、調製例1で得られたDPCDは、以下のとおり合成されたものである。 シス/トランス重量比が88/12のCHDA(SK Chemicals)100g(0.58モル)および塩化メチレン200gを、4枚羽の撹拌機、ホスゲンおよび窒素ガスを供給するための導入口、ガスを排出するための排出口、ならびに温度計を備えた1Lの四つ口丸底フラスコに投入した。混合物を室温で撹拌した。1.28モルのホスゲンガスを大気圧下で10時間フラスコに供給し、次いで溶解したホスゲンおよび塩酸ガスを蒸留除去するために窒素ガスを2時間フラスコに供給し、それによって透明で均質な反応溶液を得た。最初に供給した塩化メチレンの50重量%を反応溶液から蒸留除去した後、フェノール121g(1.28モル)を塩化メチレン121gに溶解させたフェノール溶液を、滴下漏斗によって反応溶液に2時間添加し、混合物を1時間撹拌した。反応の停止後、塩化メチレンを反応溶液から蒸留除去し、このようにして得た粗製DPCDをエタノール中での再結晶により精製した。再結晶化させたDPCDを真空下に90℃で24時間乾燥させてDPCD 154gを得た。」(以下、「甲4発明」という。) (2)本件発明1について 本件発明1と甲4発明とを対比する。 ア 甲4発明の「イソソルビド(「ISB」、Roquette Freres)」は、上記3(2)アで検討したとおり、本件発明1の「1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール」に相当する。 イ 甲4発明の「DPC(Changfeng)」は、甲4の【0008】には、「ジフェニルカーボネート(以下「DPC」と略記する)」と記載されているから、上記3(2)イで検討したとおり、本件発明1の「式2によって表される化合物」に相当する。 ウ 甲4発明の「調製例1で得られたDPCD」は、甲4の【0009】には、「1,4-ジフェニルシクロヘキサンジカルボキシレート(以下「DPCD」と略記する)」と記載されているから、上記4(2)ウで検討したとおり、本件発明1の「式1によって表される化合物」に相当する。 エ 甲4発明の「イソソルビド(「ISB」、Roquette Freres)1,995g(13.7モル)、調製例1で得られたDPCD443g(1.37モル)、DPC(Changfeng)2,632g(12.3モル)」は、「イソソルビド」、「調製例1で得られたDPCD」及び「DPC」がそれぞれモノマーであり、3つのモノマーの混合物であることは明らかであるから、本件発明1の「下記式1~3によって表される化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物、及び1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールを含むモノマー混合物」であって、「前記モノマー混合物が、前記式1及び前記式3によって表される化合物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物と、前記式2によって表される化合物と、を含む」ことに相当する。 オ 甲4発明の「イソソルビド(Roquette Freres)・・・を、重縮合のための5Lのベンチスケール反応器に投入」することは、ベンチスケール反応器が重縮合反応器であることは明らかであるから、本件発明1の「モノマー混合物を高粘度用重縮合反応器に供給するステップ」と、「モノマー混合物を重縮合反応器に供給するステップ」である限りにおいて一致する。 カ 甲4発明の「目標の撹拌トルクに達するまで反応を続け」は、本件発明1の「それらを反応させるステップ」に相当する。 キ 甲4発明の「バイオポリカーボネートエステルを調製する方法」は、本件発明1の「バイオベースポリカーボネートエステルを調製するためのプロセス」に相当する。 そうすると、両者は上記4(2)と同じ点で一致し、次の点で相違する。 ・相違点4-1 バイオベースポリカーボネートエステルに関して、本件発明1は「固有粘度(IV)が、1.01~2.3dl/gである」のに対し、甲4発明はそのような特定がない点 ・相違点4-2 重縮合反応器に関して、本件発明1は「モノマー混合物を高粘度用重縮合反応器に供給するステップ」を有し、「前記高粘度用重縮合反応器が、1つ又は複数のスターラーを備えるエクストルーダー、ニーダー、又は横型プラグフローフィニッシャー反応器である」であるのに対し、甲4発明はそのような特定がない点 上記相違点4-1及び相違点4-2について検討する。 甲4発明は、「1つ又は複数のスターラーを備えるエクストルーダー、ニーダー、又は横型プラグフローフィニッシャー反応器」の特定はなく、固有粘度の特定もないから、相違点4-1及び相違点4-2は実質的な相違点である。 また、甲4には、「バイオベースポリカーボネートエステルは、バッチまたは連続法で調製してもよい。」(【0057】)と記載され、「式1の繰返し単位を含み、本発明によるポリカーボネートエステルを製造するための方法によって調製されたバイオベースポリカーボネートエステルは、0.3~2.0dL/gの固有粘度(以下「IV」と略記する)を有していてよい。」(【0064】)と記載されているが、実施例において、重縮合反応器として5Lのベンチスケール反応器を用い、固有粘度が0.58~0.68dL/gのバイオベースポリカーボネートエステルが調製されること(【0087】の例1~6)が記載されているにとどまり、特定の重縮合反応器を用いることとバイオベースポリカーボネートエステルの固有粘度が高くなることとの関連性については記載されていない。 そうすると、甲4の記載からは、甲4発明において、重縮合反応器として、「1つ又は複数のスターラーを備えるエクストルーダー、ニーダー、又は横型プラグフローフィニッシャー反応器」である「高粘度用重縮合反応器」を採用して、得られるポリカーボネートエステルの固有粘度を甲4発明より高い「1.01~2.3dl/g」の範囲内とすることは動機付けられない。 さらに、甲1には、上記4(2)で検討したとおり、特定の重縮合反応器を用いることとバイオベースポリカーボネートエステルの固有粘度が高くなることとの関連性については記載されていない。 そうすると、甲1の記載からも、甲4発明において、重縮合反応器として、「1つ又は複数のスターラーを備えるエクストルーダー、ニーダー、又は横型プラグフローフィニッシャー反応器」である「高粘度用重縮合反応器」を採用して、得られるポリカーボネートエステルの固有粘度を「1.01~2.3dl/g」の範囲内とすることは動機付けられない。 したがって、甲4発明において、相違点4-1及び相違点4-2に係る本件発明1の特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 そして、本件明細書【0101】の【表1】に記載されている実施例1~7の結果から見て、本件発明1は、相違点4-1及び相違点4-2に係る特定事項を有することにより、「引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、衝撃強度、熱変形温度、及び鉛筆強度が改善された」(【0102】)という効果を奏する。 よって、本件発明1は、甲4発明並びに甲4及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件発明2~11について 本件発明2~11は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、上記(2)で本件発明1について検討したと同様の理由により、本件発明2~11は、甲4発明並びに甲4及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)申立理由3についてのまとめ 上記(2)及び(3)のとおりであるから、申立理由3はその理由がない。 第6 結語 以上のとおり、請求項1~11に係る特許は、取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に請求項1~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700090

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