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特許異議申立

2022-701190

コンパウンド及びタブレット

審判番号
2022-701190
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-556499
登録番号
7081612
請求日
2022年11月30日
審決日
2023年11月02日
公報発行日
2024年02月22日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】株式会社レゾナック
  • 【権利者代理人】長谷川 芳樹
  • 【権利者代理人】清水 義憲
  • 【権利者代理人】吉住 和之
  • 【権利者代理人】平野 裕之
  • 【異議申立人】岡本 正義
審判長/審判官
  • 審判長 ▲吉▼澤 英一
  • 審判官 瀧澤 佳世
  • 審判官 小出 直也
分類
P1651.121-YAA(C08G) / P1651.161-YAA(C08G) / P1651.537-YAA(C08G) / P1651.536-YAA(C08G)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第29条の2、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第41条第3項、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7081612号発明「コンパウンド及びタブレット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7081612号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。 特許第7081612号の請求項1、3ないし6に係る特許を維持する。 特許第7081612号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7081612号(請求項の数6。以下、「本件特許」という。)は、平成29年11月30日を出願日とする特願2019-556499号に係る特許であって、令和4年5月30日に特許権の設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行日は同年6月7日である。)。 その後、令和4年11月30日に、本件特許の請求項1~6に係る特許に対して、特許異議申立人である岡本 正義(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされた。 その後の経緯は、以下のとおりである。 令和5年3月31日付け: 取消理由通知 同年6月 1日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 同年6月 8日 : 訂正請求があった旨の申立人への通知 同年7月11日付け: 申立人による意見書の提出 第2 特許異議申立書に記載した申立ての理由、証拠方法 1 申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 申立人が特許異議申立書に記載した申立理由の概要は、以下に示すとおりである。 (1)申立理由1(甲第1号証を主引用例とする進歩性欠如) 本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証ないし甲第3号証、甲第6号証ないし甲第8号証、甲第11号証、引用文献1に記載された技術的事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 (2)申立理由2(甲第4号証に基づく拡大先願) 本件特許の請求項1、3、5、6に係る発明は、本件特許の出願の日前を優先日とする特許出願であって、その出願後に公開がされた下記の甲第4号証の出願の優先権主張の基礎となった出願(甲第5号証)の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの優先日において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (3)申立理由3(実施可能要件違反) 本件特許の請求項1~6に係る特許は、以下の理由で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 申立理由3の具体的理由は、概略、次のとおりである。 記 (i)実施例で使用された以外のイミダゾール化合物を用いた場合に、当業者が過度の試行錯誤をすることなく実施例と同等の特性を有する樹脂組成物を製造するための指針となるような記載はなく、本件明細書は当業者が本件請求項1~6に係る発明を実施可能な程度に明確かつ十分に記載されていない。 (ii)実施例で使用された以外の「結晶性エポキシ樹脂」を用いた場合に、当業者が過度の試行錯誤をすることなく実施例と同等の流動性などの特性を有する樹脂組成物を製造するための指針となるような記載はなく、本件明細書は当業者が本件請求項1~6に係る発明を実施可能な程度に明確かつ十分に記載されていない。 (4)申立理由4(サポート要件違反) 本件特許の請求項1~6に係る特許は、以下の理由で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 申立理由4の具体的理由は、概略、次のとおりである。 記 (i)本件請求項1、4に記載のイミダゾール化合物には置換基の異なる広範な化合物が含まれているが、本件特許発明の課題が解決されていることが具体的に示されている態様は、1種類のイミダゾール化合物を用いた場合のみである。このため、本件請求項1~6に係る発明の範囲まで、本件明細書に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 (ii)本件請求項1に記載の「結晶性エポキシ樹脂」には広範なエポキシ樹脂が包含されるが、本件特許発明の課題が解決されていることが具体的に示されている態様は、わずか2種類のエポキシ樹脂を用いた場合のみである。このため、本件請求項1~6に係る発明の範囲まで、本件明細書に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 (5)申立理由5(明確性違反) 本件特許の請求項1~6に係る特許は、以下の理由で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 申立理由5の具体的理由は、概略、次のとおりである。 記 本件請求項1に係る発明における「結晶性エポキシ樹脂」の定義が不明であることから、本件請求項1~6に係る発明は明確であるとは言えない。 2 証拠方法 (1)申立人が提出した証拠方法 申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。 ア 申立書に添付したもの 甲第1号証:特開昭58-122705号公報 甲第2号証:特開昭50-052107号公報 甲第3号証:特開2001-214035号公報 甲第4号証:特開2019-080060号公報 甲第5号証:特願2017-203579号(甲4の優先権主張の基礎出願) 甲第6号証:特開2013-212642号公報 甲第7号証:特開2016-012671号公報 甲第8号証:浅野成子著「モンタン系ワックスのクロマトグラフィー」、関税中央分析所報16号、49-55頁、1976年 甲第9号証:クラリアントケミカルズ株式会社製品情報(https://www.ogcorp.co.jp/clariant/wax/seihin.html) 検索日2022年10月31日 甲第10号証:特開2017-107935号公報 甲第11号証:室井宗一・石井修一著、「復刻版入門エポキシ樹脂」、エポキシ樹脂技術協会、243~245頁、2017年9月 甲第12号証:特開2009-260116号公報 甲第13号証:四国化成工業株式会社、キュアゾール(登録商標)の製品情報(https://www.yuhchemical.com/uploadpic/ueditor/file/20220630/1656593050391186.pdf)、検索日2022年11月6日 甲第14号証:四国化成工業株式会社、キュアゾール(登録商標)C17Zの安全データシート、2021年6月 甲第15号証:プラスチック大辞典、プラスチック大辞典編集委員会、(株)工業調査会、203頁、1994年10月 甲第16号証:三菱ケミカル株式会社カタログ、2022年10月 甲第17号証:日本化薬株式会社カタログ、第12版、2014年2月 甲第18号証:DIC株式会社カタログ、2018年6月 イ 意見書に添付したもの 甲第19号証:「高分子物質の結晶度(I)、仁田勇・田所宏行著、高分子5巻6号、296~301頁、1956年発行 甲第20号証:「樹脂材料の結晶化度の評価に関する検討」、村山正樹ら著、三重県工業研究所研究報告、46巻、47~53頁、2022年発行 甲第21号証:「ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂の構造と物性」、梶正史ら著、熱硬化性樹脂、14巻2号、71~78頁、1993年発行 なお、各甲号証の番号に応じて、甲第1号証を「甲1」などという。 (2)特許権者が提出した証拠方法 乙第1号証:「高分子大辞典(丸善株式会社)、第319頁~第320頁、 1994年 乙第2号証:「標準化学用語辞典第2版(丸善株式会社)、第415頁、2005年 乙第3号証:小椋一郎,今田知之著「半導体封止材に用いられる新規高性能結晶性エポキシ樹脂の開発」、 DIC Technical ReviewNo.5、第21頁~第29頁、1999年 乙第4号証:小椋一郎著「エポキシ樹脂の化学構造と特性の関係」、DIC Technical Review No. 7、第1頁~第12頁、2001年 乙第5号証:竹澤由高著「自己配列によって高次構造を制御した高熱伝導エポキシ樹脂」、合成樹脂工業協会編「ネットワークポリマー」 Vo1.31 No.3、第134頁~第141頁、2010年 第136頁及びFig.3 なお、各乙号証の番号に応じて、乙第1号証を「乙1」などという。 (3)当審が職権調査により発見した文献 引用文献1:特開2017-135342号公報 なお、以下、引用文献の番号に応じて、「引1」という。 第3 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 令和5年6月1日付けの訂正請求による訂正 (以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件特許明細書」という。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「である」とあるのを、「であり、前記結晶性エポキシ樹脂が、ビフェニル型エポキシ樹脂及びビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む」に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項3~6も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に「請求項1又は2」とあるのを、「請求項1」に訂正する(請求項3の記載を直接又は間接的に引用する請求項4~6も同様に訂正する)。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に「請求項1~3のいずれか一項」とあるのを、「請求項1又は3」に訂正する(請求項4の記載を直接又は間接的に引用する請求項5,6も同様に訂正する)。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に「請求項1~4のいずれか一項」とあるのを、「請求項1、3及び4のいずれか一項」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6も同様に訂正する)。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5のいずれか一項」とあるのを、「請求項1及び3~5のいずれか一項」に訂正する。 (7)一群の請求項について 訂正前の請求項1~6について、請求項2~6はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~6に対応する訂正後の請求項1~6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、「結晶性エポキシ樹脂」の種類を具体的に「ビフェニル型エポキシ樹脂及びビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種を含」むものに特定するものであり、この訂正は、訂正前の請求項2の記載に基づくものである。よって、当該訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)訂正事項3~6について 訂正事項3は、請求項3が引用する「請求項1又は2」を「請求項1」に減らすものであり、訂正事項4は、請求項4が引用する「請求項1~3のいずれか一項」を「請求項1又は3」に減らすものであり、訂正事項5は、請求項5が引用する「請求項1~4のいずれか一項」を「請求項1、3及び4のいずれか一項」に減らすものであり、訂正事項6は、請求項6が引用する「請求項1~5のいずれか一項」を「請求項1及び3~5のいずれか一項」に減らすものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3 小括 以上のとおり、訂正事項1~6による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。 そして、本件の特許異議の申立ては、訂正前の請求項1~6に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要は課されない。 したがって、本件訂正は適法なものであり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。 第4 訂正後の特許請求の範囲の記載 本件訂正請求により訂正された請求項1~6に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、以下、請求項1~6に係る発明を「本件発明1」~「本件発明6」といい、まとめて「本件発明」ということもある。 (1)本件発明1ないし6 本件発明1ないし6は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ワックス、及びイミダゾール系化合物を含有する樹脂組成物と、金属元素含有粉と、を含み、 前記エポキシ樹脂が結晶性エポキシ樹脂を含み、 前記ワックスがモンタン酸エステルを含み、 前記金属元素含有粉の含有量がコンパウンドの全質量を基準として90質量%以上であり、 前記結晶性エポキシ樹脂が、ビフェニル型エポキシ樹脂及びビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、インダクタに用いられる、コンパウンド。 【請求項2】(削除) 【請求項3】 前記金属元素含有粉がFeアモルファス合金粉を含む、請求項1に記載のコンパウンド。 【請求項4】 前記イミダゾール系化合物が、炭素数8以上のアルキル基を有するイミダゾール系化合物を含む、請求項1又は3に記載のコンパウンド。 【請求項5】 トランスファー成形に用いられる、請求項1、3及び4のいずれか一項に記載のコンパウンド。 【請求項6】 請求項1及び3~5のいずれか一項に記載のコンパウンドを用いて形成されたタブレット。」 第5 取消理由の概要 令和5年3月31日付けで通知した取消理由通知の取消理由(以下、単に「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。 (1)取消理由1(明確性要件) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由1の具体的理由は、概略、次のとおりである。 記 請求項1には、「前記エポキシ樹脂が結晶性エポキシ樹脂を含み」との記載があるところ、当該記載において、「結晶性エポキシ樹脂」とは、どのようなエポキシ樹脂が含まれるのか判然としない。 この点について、本件明細書の段落【0028】には「結晶性のエポキシ樹脂は、分子量が比較的低いにもかかわらず、比較的高い融点を有し、かつ流動性に優れる。」と記載され、段落【0029】~【0030】には結晶性エポキシ樹脂が例示されているものの、これらの記載を参照しても、結晶性でない「エポキシ樹脂」との区別の基準、例えば、分子量、融点、流動性がどの程度のものを意味するのか明らかでなく、どのようなエポキシ樹脂が含まれるのかは明らかではない。 (2)取消理由2(サポート要件) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由2の具体的理由は、概略、次のとおりである。 記 結晶性エポキシ樹脂を含むことで、「流動性に優れ、金型からの離型性に優れ、成形バリの低減が可能であり、さらには成形品の機械的強度を高める」作用機序については何ら記載されておらず、その作用機序が当業者に自明なものとも認められないから、実施例1~4で用いた結晶性エポキシ樹脂以外の結晶性エポキシ樹脂を用いる場合において上記課題を解決できることが自明であるとはいえず、また、本件特許出願時の技術常識であるともいえない。 (3)取消理由3(甲1に基づく進歩性) 本件特許の請求項1、3~6に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明及び甲1ないし甲3、甲6ないし甲8、甲11、引1に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 (4)取消理由4(甲4に基づく拡大先願) 本件特許の請求項1~3、5、6に係る発明は、本件特許の出願の日前を優先日とする特許出願であって、その出願後に公開がされた下記の甲4の出願の優先権主張の基礎となった出願(甲5 特願2017-203579号)の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの優先日において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 第6 当審の判断 以下に述べるように、当審が通知した取消理由、及び、特許異議申立書の申立理由によっては、本件発明1、3ないし6に係る特許は取り消すことはできない。 また、上記第2で述べたとおり、訂正により特許請求の範囲の請求項2は削除された。そうすると本件発明2については取消理由1、2、4及び申立理由1、3、4の対象は存在しない。 1 取消理由1及び申立理由5について 取消理由1(明確性要件)は、申立理由5(明確性要件)と同旨であるから、以下、同旨である取消理由及び申立理由を併せて検討する。 (1)明確性要件の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきものである。 (2)検討 そこで、上記(1)の判断基準に従って、以下検討する。 「結晶性高分子」について、例えば、乙1の第320頁左欄第3~5行には「部分的に結晶性である高分子を結晶性高分子といい、それは結晶性領域と非晶形領域の複雑な凝集からなっている。」と記載され、乙2の第415頁の「116 結晶性高分子」の欄には「かなりの秩序をもった分子配列を示し、X線回折により明瞭な結晶構造が認められる高分子物質。」と記載されている。このことから、本件特許の出願以前の当業者は、「結晶性高分子」とは、結晶構造が認められる領域を有する高分子を指すものと理解でき、「結晶性エポキシ樹脂」に関しても同様に、結晶構造が認められる領域を有するエポキシ樹脂を指すものと理解できる。 また、「結晶性エポキシ樹脂」との用語は、本件特許出願以前の技術資料においても、特に定義付けされることなく一般的に使用されており、例えば、乙3の第22頁の右欄には、「結晶性エポキシ樹脂の最大の特徴は、固形樹脂でありながらも、溶解時には液状樹脂並みの低粘度になることである。」、「一般的に結晶性エポキシ樹脂は剛直で対称性が高い分子構造をもつ。」等と記載されており、乙4の第3頁の右欄には、「低分子量でありながら、高い融点を持つ結晶性エポキシ樹脂は、作業性と流動性の両方が優れる反面、耐熱性や硬化性が低いという欠点をもつ。」等と記載されている。 以上のことから、本件特許出願時にすでに当業界で一般的に使用されていた「結晶性エポキシ樹脂」という用語の意味は、当業者には明確に理解できる。 そして、この理解は、本件明細書の結晶性エポキシ樹脂の性質に関する記載「分子量が比較的低いにもかかわらず、比較的高い融点を有し、かつ流動性に優れる。」(【0028】)と整合し、本件発明1の「ビフェニル型エポキシ樹脂及びビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種」にも結晶性のものがあることとも整合する。乙5の第136頁の左欄には、ビフェニル基のような自己配列しやすい構造であるメソゲン骨格を有するエポキシ樹脂は結晶的部分を形成し得ることが記載されており、乙3の第21頁の右欄には、「ビフェニル型は常温で結晶性状をもつ特異なエポキシ樹脂である。」と記載されている。 よって、「結晶性エポキシ樹脂」は、結晶構造が認められる領域を有するエポキシ樹脂を意味することは明らかであるから、本件特許の請求項1の記載及びこれを引用する請求項3ないし6の記載は明確である。 さらに、「結晶性エポキシ樹脂」以外の本件特許の請求項1の記載及びこれを引用する請求項3ないし6の記載も、それ自体に不明確な記載はなく、明細書の記載とも整合する。 したがって、本件発明1、3ないし6に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 (3) 申立人の主張に対する反論 ア 本件明細書中の「結晶性エポキシ樹脂」の定義について 申立人は意見書において、「本件明細書[0030]の1行目には『結晶性のエポキシ樹脂(結晶性の高いエポキシ樹脂)』という記載があるので、本件特許権者は「結晶性エポキシ樹脂」を「結晶性の高いエポキシ樹脂」と定義しているといえる。しかしながら、「結晶性の高いエポキシ樹脂」という定義に含まれる「高い」という文言では程度が不明確であるため、この定義は不明確な定義であると言わざるを得ない。」と主張する。しかしながら、当該「高い」という文言は請求項に基づく主張ではなく、上記(2)で述べた通り、結晶性エポキシ樹脂は、結晶構造が認められるような領域を有するエポキシ樹脂を意味するものと理解できるから、「結晶性エポキシ樹脂」の定義は明確である。 イ 「結晶性エポキシ樹脂」という文言について 申立人は意見書において、「結晶構造の検出方法によって結晶構造が検出されるか否かが異なっており、複数の検出方法が実際に使用されており、当業者間において明記がないとどの検出方法を用いるのが通常であるとの共通の認識もない状況であるので、本件特許権者の意見書の説明を考慮しても、依然として、本件請求項1に記載の「結晶性エポキシ樹脂」という文言は明確ではないと思料する。」と主張する。しかしながら、たとえ結晶構造の検出方法により結晶構造の検出結果が異なったとしても、いずれかの検出方法で結晶構造が認められれば、「結晶性エポキシ樹脂」であると当業者は理解できることから、上記主張により「結晶性エポキシ樹脂」が不明確であるとはいえず、上記(2)の判断には影響しない。 ウ 「ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂」について 申立人は意見書において、「ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂は「結晶性エポキシ樹脂」に該当しない蓋然性が高い。すると、訂正された本件請求項1は、『前記結晶性エポキシ樹脂が、ビフェニル型エポキシ樹脂及びビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む』という、事実に反する蓋然性が高い文言を含んでおり、不明確であると思料する。」と主張する。しかしながら、本件明細書の【0065】には、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂であるNC-3000Hが結晶性エポキシ樹脂の実施例として使用されていることが記載されている。また、上記(2)で述べた通り、結晶性エポキシ樹脂は、結晶構造が認められるような領域を有するエポキシ樹脂を意味するものと理解できる。そうすると、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂自体には、結晶性でないものも含みうるが、本件発明1の「ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂」は、「結晶性エポキシ樹脂」と特定されることによって、「ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂」について、さらに結晶性のものに下位概念化したものであると認められる。よって、事実に反する蓋然性が高い文言を含んでいるとはいえない。 したがって、上記申立人の主張は採用できない。 (4)取消理由1及び申立理由5についてのむすび したがって、本件特許の請求項1、3~6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、取消理由1及び申立理由5によっては取り消すことはできない。 2 取消理由2及び申立理由4について 取消理由2(サポート要件)は、申立理由4(サポート要件)と同旨であるから、以下、同旨である取消理由及び申立理由を併せて検討する。 (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 以下、この観点から検討する。 (2)特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第4のとおりである。 (3)発明の詳細な説明の記載 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 しかしながら、上記インダクタ等に用いられる従来のコンパウンドでは、流動性、金型からの離型性、成形バリの低減、及び、成形品の機械的強度といった特性を全て高水準で達成することが困難であった。 【0007】 そこで、本発明は、流動性に優れ、金型からの離型性に優れ、成形バリの低減が可能であり、さらには成形品の機械的強度を高めることが可能なコンパウンド、及びこのコンパウンドを用いて得られるタブレットを提供することを目的とする。」 「【0028】 (エポキシ樹脂) 本実施形態で用いるエポキシ樹脂は、例えば、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する樹脂であってよいが、少なくとも結晶性エポキシ樹脂を含む。結晶性のエポキシ樹脂は、分子量が比較的低いにもかかわらず、比較的高い融点を有し、かつ流動性に優れる。また、エポキシ樹脂は、結晶性エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂(非結晶性エポキシ樹脂)を含んでいてもよい。 【0029】 エポキシ樹脂の具体例としては、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ジフェニルメタン型エポキシ樹脂、硫黄原子含有型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、サリチルアルデヒド型エポキシ樹脂、ナフトール類とフェノール類との共重合型エポキシ樹脂、アラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アルコール類のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、テルペン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、シクロペンタジエン型エポキシ樹脂、多環芳香環変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジル型又はメチルグリシジル型のエポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂及びオレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。 【0030】 結晶性のエポキシ樹脂(結晶性の高いエポキシ樹脂)としては、例えば、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、チオエーテル型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂等が挙げられる。入手可能な結晶性エポキシ樹脂としては、例えば、GK-4292(融点:120℃、溶融粘度:0.14Pa・s(150℃))、GK-5079(融点:78℃、溶融粘度:0.08Pa・s(150℃))、GK-4299(融点:90℃、溶融粘度:0.19Pa・s(150℃))、GK-8001(融点:115℃、溶融粘度:0.18Pa・s(150℃))、GK-4137(融点:80℃、溶融粘度:0.06Pa・s(150℃))、YDC-1312(融点:138~145℃、溶融粘度:0.01Pa・s(150℃))、YSLV-80XY(融点:75~85℃、溶融粘度:0.01Pa・s(150℃))、YSLV-120TE(融点:115~125℃、溶融粘度:0.1Pa・s(150℃))、(以上、新日鉄住金化学株式会社製、商品名)、YX-4000(融点:105℃、溶融粘度:0.2Pa・s(150℃))、YX-4000H(融点:105℃、溶融粘度:0.2Pa・s(150℃))、YL4121H(融点:105℃、溶融粘度:0.15Pa・s(150℃))、YX-8800(融点:109℃、溶融粘度:0.2Pa・s(150℃))(以上、三菱ケミカル株式会社製、商品名)、エピクロン860、エピクロン1050、エピクロン1055、エピクロン2050、エピクロン3050、エピクロン4050、エピクロン7050、エピクロンHM-091、エピクロンHM-101、エピクロンN-730A、エピクロンN-740、エピクロンN-770、エピクロンN-775、エピクロンN-865、エピクロンHP-4032D、エピクロンHP-7200L、エピクロンHP-7200、エピクロンHP-7200H、エピクロンHP-7200HH、エピクロンHP-7200HHH、エピクロンHP-4700、エピクロンHP-4710、エピクロンHP-4770、エピクロンHP-5000、エピクロンHP-6000、及びN500P-2(以上、DIC株式会社製、商品名)、NC3000、NC3000-L、NC3000-H、NC3100、CER3000-L、NC2000-L、XD1000、NC7000-L、NC7300-L、EPPN-501H、EPPN-501HY、EPPN-502H、EOCN-1020、EOCN-102S、EOCN-103S、EOCN-104S、CER-1020、EPPN-201、BREN-S、BREN-10S(以上、日本化薬株式会社製、商品名)等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記エポキシ樹脂の中でも、コンパウンドの流動性及び形成体の機械的強度をより向上できることから、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂が好適であり、市販品としてはNC3000-H、YX-4000Hが好適である。 【0031】 本実施形態に係るコンパウンドにおけるエポキシ樹脂の含有量は、コンパウンドの全質量を基準として、好ましくは1.5~3.5質量%、より好ましくは2.0~3.5質量%、さらに好ましくは2.5~3.0質量%であってよい。エポキシ樹脂の含有量が1.5質量%以上である場合、コンパウンドの流動性及び成形体の機械的強度がより向上し易い。エポキシ樹脂の含有量が3.5質量%以下である場合、成形体の磁気特性が良好となり易い。ただし、エポキシ樹脂の含有量が上記範囲外である場合であっても、本発明に係る効果は得られる。」 「【実施例】 【0063】 以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。 【0064】 (実施例1) [コンパウンド及びタブレットの作製] Feアモルファス合金としてKUAMET6B2(エプソンアトミックス株式会社製、商品名)517gと、カルボニル鉄粉末としてSQ-I(BASF株式会社製、商品名)423gと、シランカップリング剤としてKBM-403(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製、商品名)4.75gとを二軸加圧ニーダーの槽に入れ、室温(約25℃)で20分間混練した。 【0065】 別途、結晶性エポキシ樹脂としてNC3000-H(ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、日本化薬株式会社製、商品名、エポキシ当量290、軟化点70℃、溶融粘度0.03Pa・s(150℃))34.3gと、フェノール樹脂(硬化剤)としてHP-850N(フェノールノボラック樹脂、日立化成株式会社製、商品名、水酸基当量108)12.8gと、硬化促進剤としてC11Z-CN(1-(2-シアノエチル)-2-ウンデシルイミダゾール、四国化成工業株式会社製、商品名)0.343gと、ワックスとしてリコワックスE(モンタン酸エステル、クラリアントケミカルズ株式会社製、商品名)8.0gとをプラスチック容器内で混合したものを上記のニーダーの槽に加え、槽内の温度が80℃になるように加温して30分間、混練した。 【0066】 得られたコンパウンドの塊を自然冷却し、粉砕してコンパウンド粉とした。コンパウンド粉を直径13mm、高さ13mmの成形用金型に入れて2000MPaの加圧を行い、円柱状のタブレットを得た。 【0067】 (実施例2~4) 表1に示したエポキシ樹脂、フェノール樹脂、硬化促進剤、ワックス、シランカップリング剤、金属元素含有粉の組み合わせ及び配合量に変更したこと以外は実施例1と同様にして、コンパウンド及びタブレットを作製した。実施例2及び4で用いたエポキシ樹脂は、結晶性エポキシ樹脂であるYX-4000H(ビフェニル型エポキシ樹脂、三菱ケミカル株式会社製、商品名、エポキシ当量192、軟化点105℃、溶融粘度0.003Pa・s(150℃))である。また、実施例3及び4では、Feアモルファス合金としてAW2-08(エプソンアトミックス株式会社製、商品名)を追加で用いた。 【0068】 (比較例1~3) 表1に示したエポキシ樹脂、フェノール樹脂、硬化促進剤、ワックス、シランカップリング剤、金属元素含有粉の組み合わせ及び配合量に変更したこと以外は実施例1と同様にして、コンパウンド及びタブレットを作製した。比較例1で用いたエポキシ樹脂は、非結晶性のエポキシ樹脂であるEXA4750(ナフタレン型エポキシ樹脂、DIC株式会社製、商品名、エポキシ当量162、軟化点86℃、溶融粘度0.045Pa・s(150℃))である。比較例2で用いた硬化促進剤は、PX-4PB(テトラ(n-ブチル)ホスホニウムテトラフェニルボレート、日本化学工業株式会社製、商品名)である。比較例3で用いたワックスは、カルナバワックス(東亜化成株式会社製、商品名:カルナバワックス微粉末タイプ)である。 【0069】 [流動性の評価] 実施例及び比較例で得られたタブレットを用いてトランスファー成形した際の流動性を、スパイラルフローにより評価した。100gのタブレットをトランスファー試験機に仕込み、金型温度150℃、成形圧力5MPa、成形時間180秒の条件でトランスファー成形し、その際のスパイラルフロー量をmm単位で測定した。スパイラルフロー量とは、上記金型に形成された渦巻き曲線(アルキメデスのスパイラル)状の溝内において、液化したタブレットが流れる長さ(液化したタブレットの流動距離)である。加熱により液化したタブレットが流動し易いほど、スパイラルフロー量は大きい。つまり、流動性に優れたタブレット(コンパウンド)のスパイラルフロー量は大きい。トランスファー試験機としては、株式会社小平製作所製の100KNトランスファー成型機(PZ-10型)を用いた。結果を表2に示す。 【0070】 [離型性の評価] スパイラルフローで得られた成形品をスパイラルフロー測定用金型から剥がした際の離型状態を目視にて確認し、離型性が良好であるものをA、離型性が悪いものをBと評価した。結果を表2に示す。 【0071】 [成形バリの評価] スパイラルフローで得られた成形品のバリの状態を目視で確認し、バリが最も大きい部分の染みだし幅をmm単位で測定した。結果を表2に示す。 【0072】 [硬化体の強度評価] 実施例及び比較例で得られたコンパウンドを、油圧プレス機を用いて2000MPaの成形圧力にて長さ100mm×幅10mm×厚さ2mmの板形状の圧縮成形体に成形した。得られた板形状の圧縮成形体を窒素ガス(N2)雰囲気下、180℃の温度にて10分間加熱することで硬化させ、強度評価用の試験片(硬化体)を作製した。次に、試験片に厚み方向の加重を印加して、試験片が破断したときの加重の最大値から破断強度(MPa)を算出した。結果を表2に示す。 【0073】 【表1】 [図:0001406687000001.jpg] 【0074】 【表2】 [図:0001406687000002.jpg] 【0075】 表2に示した結果から分かるように、実施例1~4のコンパウンド及びタブレットは、比較例1~3のコンパウンド及びタブレットと比較して、いずれもスパイラルフローが大きく流動性に優れ、離型性が良好であり、成形バリの量が少なく、得られる硬化体の強度も高いことが確認された。」 (4)本件発明が解決しようとする課題 本件明細書の段落【0007】の記載から、本件発明の課題は、「流動性に優れ、金型からの離型性に優れ、成形バリの低減が可能であり、さらには成形品の機械的強度を高めることが可能なコンパウンド、及びこのコンパウンドを用いて得られるタブレットを提供すること」であると認められる。 (5)本件発明についての検討 本件明細書には、モンタン酸エステルについて、「成形バリを低減する」(【0023】)とあり、モンタン酸エステルであるリコワックスEを含む実施例2とカルナバワックスを含む比較例3との成形バリの差が示されているから(表1、表2)、本件発明のモンタン酸エステルという特定事項により「成形バリの低減が可能」という課題が解決されると当業者は理解できる。 さらに、本件明細書には、結晶性エポキシ樹脂であるビフェニル型エポキシ樹脂及びビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂について、「コンパウンドの流動性及び形成体の機械的強度をより向上できる」(【0030】)とあり、また、硬化促進剤であるイミダゾール系化合物により、流動性及び離型性が良好になりインダクタが優れた機械的特性を示す(【0039】)と記載され、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂であるNC3000-Hやビフェニル型エポキシ樹脂であるYX-4000Hを含む実施例1~4と非結晶性エポキシ樹脂であるEXA4750を含む比較例1、並びに実施例2とPX-4PB(テトラ(n-ブチル)ホスホニウムテトラフェニルボレート)を含む比較例2、とのスパイラルフロー、離型性及び硬化体強度の差が示されているから(表1、表2)、本件発明の「ビフェニル型エポキシ樹脂及びビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種」及び「イミダゾール系化合物」という特定事項により「流動性に優れ、金型からの離型性に優れ」、「成形品の機械的強度を高める」という課題が解決されると当業者は理解できる。 特に、結晶性エポキシ樹脂であるビフェニル型エポキシ樹脂及びビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂は、いずれも上記1(2)で述べたように「結晶構造が認められる領域を有する」から、本件明細書の【0028】に記載のとおり、その結晶が融解する高い融点を有し、そして、融解して結晶構造が失われると「流動性に優れる」ものとなるのであり、これがNC3000-H、YX-4000Hに限られた特性であるとはいえない。また、結晶性エポキシ樹脂は、ビフェニル型エポキシ樹脂とビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂とに限られているが、これらはいずれもエポキシ基を有し、硬化促進剤であるイミダゾール系化合物との相互作用もおよそ異なるところはないから、NC3000-H、YX-4000H以外のこれらの樹脂でも、成形終了後に「金型からの離型性に優れ」、「成形品の機械的強度を高める」ことができると推認できる。 したがって、本件発明1、3~6は、発明の詳細な説明の記載により当業者が上述の課題を解決できると認織できる範囲のものであり、発明の詳細な説明に記載された発明である。 (6)申立人の主張に対する反論 ア 上記第2 1(4)(ii)のエポキシ樹脂について 申立人は意見書において、「本件実施例では、エポキシ樹脂として、結晶性エポキシ樹脂であると特許権者が認識しているYX-4000Jそのものを用いた場合か、NC3000-Hそのものを用いた場合しか具体的に開示されていない。また、これらの実施例で得られた結果を、結晶性ではないエポキシ樹脂にごく少量のビフェニル型エポキシ樹脂やビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂を混合したエポキシ樹脂・・・を用いたコンパウンドにまで拡張ないし一般化するための説明などは、本件明細書には一切ない。」と主張する。 しかしながら、NC3000-H、YX-4000H以外の樹脂を用いた場合には、成形終了後に「金型からの離型性に優れ」、「成形品の機械的強度を高める」という効果を奏しないとする具体的な根拠は認められない。また、結晶性のものを用いれば、その量が少しであっても結晶性でないものだけと比較して上記特性が向上すると認められるから、上記(5)で述べたとおり、当業者は、本件発明1、3~6により上記課題を解決できると理解する。よって、上記申立人の主張は採用できない。 イ 上記第2 1(4)(i)のイミダゾール化合物について 申立人は意見書において、「訂正後の本件請求項1には、イミダゾール化合物に関する限定が含まれていないため、本件請求項1に係る発明は、置換基の異なる広範なイミダゾール化合物を使用する場合が含まれている。・・・しかしながら、実施例で得られた結果を他のイミダゾールを用いる場合にまで拡張ないし一般化するための説明、および、他のイミダゾールを用いる場合の配合の指針となる記載は、本件明細書には一切ない。」と主張する。 しかしながら、他のイミダゾールを用いる場合においては、成形終了後に「金型からの離型性に優れ」、「成形品の機械的強度を高める」という効果を奏しないとする具体的な根拠は認められないから、上記申立人の主張は採用できない。 (7)取消理由2及び申立理由4についてのむすび したがって、本件特許の請求項1、3~6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由5によっては取り消すことはできない。 3 取消理由3及び申立理由1について 取消理由3(進歩性)は、申立理由1(進歩性)と同旨であるから、以下、同旨である取消理由及び申立理由を併せて検討する。 (1)証拠等の記載等 ア 甲1の記載事項及び甲1に記載された発明 (ア)甲1の記載事項 甲1には、以下の事項が記載されている。 「【特許請求の範囲】 1 エポキシ当量100~1000のエポキシ樹脂と、前記エポキシ樹脂に硬化剤として作用するフェノール系樹脂とをバインダーとして含み、磁性粉末を50~97重量%含有してなる成形用磁性複合材料。」 「硬化促進剤には各種イミダゾール類、三級アミン類、三フッ化ホウ素化合物など、公知のすべての硬化促進剤が使用できる。」(第2頁右上欄第13行~第15行) 「使用する磁性粉末は、一般式MO・Fe2O3(MはZn、MnII、FeII、CoII、NiII、CuII、Mgの1種以上を表わす)で示されるスピネルフェライト粉末、一般式MO・6Fe2O3(MはBa、Pb、Sr、MnII、FeII、CoII、NiII、CuIIの1種以上を表わす)で示される六方晶フェエライト粉末、一般式R3Fe5O12(Rは3価の希土類金属イオンを示す)で示されるガーネット型フェライト、一般式RCo5又はR2Co17(RはSm、Y、Pr、La、Ceなどの希土類元素の1種以上を表わす)で示される希土類コバルト磁性粉末、アルニコ磁性粉末、Mn-Al-C磁性粉末などであり、その配合量は磁性粉末の種類などによって異なるが、一般には50~97重量-の含有量に配合され、80~95重量%が好ましい。」(第2頁右上欄第16行~左下欄第9行) 「〔発明の実施例〕 次に本発明の実施例を示す。 実施例1 ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量470、軟化点71℃)100部、クレゾールノボラック樹脂(分子量800、軟化点88℃)25部、2-エチルイミダゾール2部、バリウムフェライト1200部、シランカップリング剤A -186(日本ユニカー社製)2.5部、ヘキストワックスOP 4部をミキサーで混合し、70~110℃の熱ロールにより混練し、冷却、粉砕して成形用磁性複合材料を得た。 実施例2 フェノールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量200、軟化点73℃)100部、フェノールノボラック樹脂(分子量700、軟化点76℃)46部、2-ウンデシルイミダゾール3部、バリウムフェライト1750部、カルナウバワックス5部を用い実施例1記載のように処理して成形用磁性複合材料を得た。」(第2頁右下欄第6行~第3頁左上欄3行) 「 [図:0001406687000003.jpg] 」(第21頁左下欄) (イ)甲1に記載された発明 甲1に記載された事項について、実施例1に着目して整理すると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。 「ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量470、軟化点71℃)100部、クレゾールノボラック樹脂(分子量800、軟化点88℃)25部、2-エチルイミダゾール2部、バリウムフェライト1200部、シランカップリング剤A -186(日本ユニカー社製)2.5部、ヘキストワックスOP 4部をミキサーで混合し、70~110℃の熱ロールにより混練し、冷却、粉砕して得た成形用磁性複合材料。」(以下、「甲1発明」という。) イ 甲3の記載事項 「【請求項1】エポキシ当量500g/eq以下のエポキシ樹脂(a)、エポキシ当量800g/eq以上のエポキシ樹脂及び/又は水酸基当量500g/eq以上のフェノール樹脂(b)、硬化剤(c)、硬化促進剤(d)、金属又は金属化合物の粉末(e)及びシランカップリング剤(f)を含有するエポキシ樹脂組成物。」 「【0019】 ・・・ また、エポキシ樹脂(a)は、固形・半固形・液状のどのような物でも使用でき限定されるものではないが、金属又は金属化合物の粉末と混ぜ合わせた後のベタツキなどの作業性を考慮すると半固形もしくは固形のエポキシ樹脂が好ましい。固形樹脂としては、上記ノボラック型エポキシ樹脂の他に、結晶性エポキシ樹脂を使用するのが好ましい。例えば、式(1)に示す1,4-ジtertブチル-2,5-ビス(2,3-エポキシプロポキシ)-ベンゼン、式(2)に示すビフェニル型結晶性エポキシ樹脂、式(3)に示すジフェニルスルフィド型結晶性エポキシ樹脂・・・」 「【0050】 【発明の効果】本発明のエポキシ樹脂組成物は、耐熱性かつ絶縁特性に優れた樹脂結合型金属成型部品を与えることができる。本発明の樹脂結合型金属成型部品は、ノイズ防止用トロイダルコア、チョークコイル、電子ビーム用偏向ヨーク、変圧器や高周波部品の磁心、磁気ヘッド等、さらには家電製品または自動車等に使用されるモーター用ボンド磁石類等として極めて有用である。」 ウ 甲6の記載事項 「【請求項1】 支持基材と、前記支持基材上に積層されているシート材とを備え、 前記シート材が、エポキシ樹脂組成物から形成されている未硬化状態又は半硬化状態の樹脂層からなり、 前記エポキシ樹脂組成物が、エポキシ樹脂、硬化剤、及び鉄を含有する軟磁性金属粉を含有し、前記軟磁性金属粉の割合が、前記エポキシ樹脂組成物の固形分全量に対して55体積%以上85体積%以下の範囲であり、 前記シート材の厚みが10μm以上500μm以下の範囲である軟磁性材製造用部材。」 「【請求項8】 請求項1乃至7のいずれか一項に記載の軟磁性材製造用部材における前記シート材の硬化物から成る軟磁性材。」 「【請求項12】 請求項8又は9に記載の軟磁性材から成るコアと、プリント配線から成るコイル部とを備えるインダクタ。」 「【0068】 (実施例1) エポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量188、DIC株式会社製、品名エピクロン850S)10質量部、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量210、DIC株式会社製、品番N663EXP)15質量部、及びビフェニルアラルキル型エポキシ(エポキシ当量275、日本化薬株式会社製、品番NC3000)15質量部を用意した。 【0069】 硬化剤として、フェノールノボラック樹脂(水酸基当量106、明和化成株式会社製、品番DL75)20質量部を用意した。 【0070】 また、硬化促進剤として、2-エチル4-メチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、2E4MZ)1質量部を用意した。 【0071】 軟磁性金属粉としてEA-SMP-10(PF-20FG)(エプソンアトミック株式会社製)を用意した。この軟磁性金属粉はアトマイズ法によって製造されたものであり、その組成はFe-4.5Cr-3.5Siであり、その平均粒径は10μmである。」 エ 甲7の記載事項 「【請求項1】 少なくとも下記式に示すメソゲン骨格を有するエポキシ樹脂を含むバインダーと金属磁性粒子との複合体で構成されることを特徴とする圧粉磁心用前駆体 【化1】 [図:0001406687000004.jpg] 」 「【技術分野】 【0001】 本発明は、金属磁性粒子を圧縮成形した圧粉磁心に関するもので、良好な磁気特性と高信頼性を得ることが可能なインダクター、リアクトル、トランス、非接触給電コイル、磁気シールドなどの磁気応用電子部品に用いられる圧粉磁心を提供するものである。」 「【0052】 <実施例1> バインダーとして、メソゲン骨格をもつエポキシ樹脂としてメソゲン骨格の側鎖にメチル基をもつ2官能のビフェニル型エポキシ樹脂(三菱化学製 YX-4000)100質量部、バインダーの硬化剤はフェノール硬化剤としてフェノールノボラック樹脂(DIC製TD-2131)50質量部、さらに硬化触媒として2-エチル-4-メチルイミダゾール(四国化成製 2E4Mz) 1質量部を用い、これらをメチルエチルケトン溶媒に溶解させることで塗料を作製した。次に作成した塗料をガスアトマイズ法で作製そして分級した平均粒子径(D50)=30.2μm、円形度(D50)=0.84、金属組成(元素組成)がFe/Si=93.5重量%/6.5重量%)であるFe-Si系合金粒子と混合し、ニーダーを用いて混練することで、圧粉磁心の前駆体を作製した。バインダー量については、Fe-Si系合金粉 100 質量部に対してバインダーが3質量部になるよう調整した。次に、この前駆体を金型を用いて成形圧力400MPaで圧縮成形を行い、外形11mm、内径6.5mmのトロイダル状に成形し、最後に175℃にて1時間の条件で熱硬化を行い、圧粉磁心を作製した。」 オ 甲8の記載事項 「 [図:0001406687000005.jpg] 」(第49頁) (2)対比・判断 ア 本件発明1について 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量470、軟化点71℃)」は、上記前提を踏まえると、本件発明1の「結晶性エポキシ樹脂」である「ビフェニル型エポキシ樹脂及びビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種」と、「エポキシ樹脂」である限りにおいて、一致する。 甲1発明の「クレゾールノボラック樹脂(分子量800、軟化点88℃)」は、本件発明1の「フェノール樹脂」に相当する。 甲1発明の「ヘキストワックスOP」は、甲8の第49頁のTable 1には、モンタン系ワックスのサンプルリストとして、「Hoechst wax」のうち「OP」が「butylene glycol ester of S saponified with Ca(OH)2」であること、すわなち、「Hoechst wax」「OP」がモンタン酸エステルであると記載されているから、本件発明1の「モンタン酸エステル」に相当するといえる。 甲1発明の「2-エチルイミダゾール」は、本件発明1の「イミダゾール系化合物」に相当する。 甲1発明の「バリウムフェライト」は、本件発明1の「金属元素含有粉」に相当する。加えて、甲1発明の「バリウムフェライト」の配合量は、「1200部」であり、甲1の第1表にも記載されているとおり組成物の全質量に対する割合が「90.0質量%」であり、このことは本件発明1の「含有量がコンパウンドの全質量を基準として90質量%以上」に相当する。 甲1の「成形用」は、成形体に用いられることを意味し、本件発明1の「インダクタ」は、成形体の一種であるから、両者は、「成形体に用いられる」限りにおいて一致する。 そうすると、両者は、以下の<一致点>で一致し、以下の<相違点1>、<相違点2>で相違する。 <一致点> エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ワックス、及びイミダゾール系化合物を含有する樹脂組成物と、金属元素含有粉と、を含み、 前記ワックスがモンタン酸エステルを含み、 前記金属元素含有粉の含有量がコンパウンドの全質量を基準として90質量%以上である、成形体に用いられる、コンパウンド。 <相違点1> 「エポキシ樹脂」について、本件発明1では、「エポキシ樹脂が結晶性エポキシ樹脂を含み」、「結晶性エポキシ樹脂が、ビフェニル型エポキシ樹脂及びビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む」のに対して、甲1発明では「ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量470、軟化点71℃)」である点 <相違点2> 「成形体に用いられるコンパウンド」について、本件発明1では、「インダクタに用いられる」のに対して、甲1発明ではそのような特定がない点 そこで、上記<相違点1>について検討する。 甲1には、ビフェニル型エポキシ樹脂及びビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の結晶性エポキシ樹脂を含むことは記載も示唆もされていない。また、甲3の【0019】には、結晶性エポキシ樹脂の例として、ビフェニル型エポキシ樹脂が例示されている。甲6の実施例1には、硬化剤としてフェノールノボラック樹脂、硬化促進剤としてイミダゾール化合物を使用し、エポキシ樹脂と軟磁性金属粉を含む組成物に配合するエポキシ樹脂として、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂を使用することが記載されている(【0068】~【0073】)。さらに、甲7の実施例1には、硬化剤としてフェノールノボラック樹脂、硬化促進剤としてイミダゾール化合物を使用し、エポキシ樹脂とFe-Si系合金粒子を含む組成物に配合するエポキシ樹脂として、ビフェニル型エポキシ樹脂(メソゲン骨格をもつエポキシ樹脂)を使用することが記載されている(【0052】)。 しかしながら、甲1には「結晶性エポキシ樹脂」を用いることは記載も示唆もされておらず、甲1発明において、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を多数のエポキシ樹脂の候補の中から、「結晶性」の「ビフェニル型エポキシ樹脂及びビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種」に置き換えることは、上記甲3、甲6、甲7の記載を踏まえて検討しても動機付けがなく、当業者であっても容易に想到し得るとはいえない。また、「結晶性」エポキシ樹脂を用いることで、「流動性に優れ、金型からの離型性に優れ、成形バリの低減が可能であり、さらには成形品の機械的強度を高める」という効果も予測できないものである。 よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明並びに甲1、甲3、甲6及び甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明3~6について 本件発明3~6は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものである。 そして、上記アで検討したとおり、本件発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明である本件発明3~6は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)取消理由3及び申立理由1についてのむすび したがって、本件特許発明1、3~6は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許発明1、3~6は、取消理由3及び申立理由1によっては取り消すことはできない。 4 取消理由4及び申立理由2について 取消理由4(拡大先願)は、申立理由2(拡大先願)と同旨であるから、以下、同旨である取消理由及び申立理由を併せて検討する。 (1)証拠等の記載等 ア 甲4、5の記載事項及び甲4、5に記載された発明 (ア)甲4及び、優先権の主張を伴う特許出願であって、特許法第41条第3項の規定により「先の出願について出願公開がされたもの」とみなされる特願2017-203579号(甲5)の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲には、それぞれ下記の記載がある。 a 甲4には下記の記載がある。 「【請求項1】 空芯コイルのコイル内部に充填された磁性コアと前記空芯コイルを封止する外装部材が一体成形された一体型インダクタを成形するためのインダクタ成形用樹脂組成物であって、 熱硬化性樹脂と、 磁性体粉末と、 前記磁性体粉末の含有量が、当該インダクタ成形用樹脂組成物の固形分全体に対して、50質量%以上であり、 当該インダクタ成形用樹脂組成物の、175℃における溶融粘度が1Pa・s以上1000Pa・s以下である、インダクタ成形用樹脂組成物。」 「【請求項24】 請求項1から23のいずれか1項に記載のインダクタ成形用樹脂組成物であって、 トランスファー成形に用いる、インダクタ成形用樹脂組成物。」 「【0018】 上記熱硬化性樹脂としては、具体的な一例としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂、トリアジン骨格含有フェノールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;未変性のレゾールフェノール樹脂、桐油、アマニ油、クルミ油等で変性した油変性レゾールフェノール樹脂等のレゾール型フェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂等のフェノール樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂、ビスフェノールP型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂;ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂等のトリアジン環を有する樹脂;不飽和ポリエステル樹脂;ビスマレイミド化合物等のマレイミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ジアリルフタレート樹脂;シリコーン系樹脂;ベンゾオキサジン樹脂;ポリイミド樹脂;ポリアミドイミド樹脂;ベンゾシクロブテン樹脂、ノボラック型シアネート樹脂、ビスフェノールA型シアネート樹脂、ビスフェノールE型シアネート樹脂、テトラメチルビスフェノールF型シアネート樹脂等のシアネート樹脂等のシアネートエステル樹脂等が挙げられる。また、熱硬化性樹脂では、これらの中の1種類を単独で用いてもよいし、異なる重量平均分子量を有する2種類以上を併用してもよく、1種類または2種類以上と、それらのプレポリマーとを併用してもよい。熱硬化性樹脂は、室温25℃において半硬化(固形)状のものを使用してもよい。」 「【実施例】 【0162】 以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。 【0163】 <樹脂組成物の調製> 各実施例、および各比較例のそれぞれについて、次のようにして樹脂組成物を調製した。まず、表2に示す原料成分およびその配合比率に従い、各原料成分をミキサーにより混合した。次いで、得られた混合物をロール混練した後、冷却、粉砕して、打錠成形することでタブレット状の樹脂組成物を得た。 【0164】 (熱硬化性樹脂) ・エポキシ樹脂1:エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂、E1032H60、室温25℃で固形) ・エポキシ樹脂2:エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、YL6810、室温25℃で固形) ・・・ 【0165】 (硬化剤) ・フェノール樹脂1:ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト(株)製、PR-HF-3、室温25℃で固形) ・・・ 【0166】 (離型剤) ・離型剤1:合成ワックス(クラリアントケミカルズ(株)製、エステルワックスWE-4) (硬化促進剤) ・イミダゾール系硬化促進剤1:イミダゾール系硬化促進剤(四国化成工業(株)製、キュアゾール2PZ-PW) 【0167】 (磁性体粉末) ・鉄基粒子1:アモルファス磁性粉(エプソンアトミックス(株)製、KUAMET6B2、平均粒子径50μm、球形度0.85) ・鉄基粒子2:合金鋼粉末(大同特殊鋼(株)製、DAPMSC5、平均粒子径10μm、球形度0.80) ・鉄基粒子3:アモルファス磁性粉(エプソンアトミックス(株)製、KUAMET6B2(鉄基粒子1とは分級の篩の目が異なるもの)、平均粒子径25μm、球形度0.88) 微小粒子1:カルボニル鉄粉(BASF社製、CIP-HQ、平均粒子径2μm、球形度0.90) 【0168】 【表1】 [図:0001406687000006.jpg] 【0169】 (非磁性体粉末) ・非磁性粒子1:シリカ(SO-25R、アドマテックス(株)製、平均粒子径0.5μm、球形度0.92) ・非磁性粒子2:シリカ(SO-32R、アドマテックス(株)製、平均粒子径1.5μm、球形度0.93) 【0170】 【表2】 [図:0001406687000007.jpg] 」 b 以下に同様の記載が、甲4の優先権主張の基礎出願である甲5にも記載されている。 「【請求項1】 空芯コイルのコイル内部に充填された磁性コアと前記空芯コイルを封止する外装部材が一体成形された一体型インダクタを成形するためのインダクタ成形用樹脂組成物であって、 熱硬化性樹脂と、 磁性体粉末と、 前記磁性体粉末の含有量が、当該インダクタ成形用樹脂組成物の固形分全体に対して、50質量%以上であり、 当該インダクタ成形用樹脂組成物の、175℃における溶融粘度が1Pa・s以上1000Pa・s以下である、インダクタ成形用樹脂組成物。」 「【請求項24】 請求項1から23のいずれか1項に記載のインダクタ成形用樹脂組成物であって、 トランスファー成形に用いる、インダクタ成形用樹脂組成物。」 「【0018】 上記熱硬化性樹脂としては、具体的な一例としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂、トリアジン骨格含有フェノールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;未変性のレゾールフェノール樹脂、桐油、アマニ油、クルミ油等で変性した油変性レゾールフェノール樹脂等のレゾール型フェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂等のフェノール樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂、ビスフェノールP型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂;ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂等のトリアジン環を有する樹脂;不飽和ポリエステル樹脂;ビスマレイミド化合物等のマレイミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ジアリルフタレート樹脂;シリコーン系樹脂;ベンゾオキサジン樹脂;ポリイミド樹脂;ポリアミドイミド樹脂;ベンゾシクロブテン樹脂、ノボラック型シアネート樹脂、ビスフェノールA型シアネート樹脂、ビスフェノールE型シアネート樹脂、テトラメチルビスフェノールF型シアネート樹脂等のシアネート樹脂等のシアネートエステル樹脂等が挙げられる。また、熱硬化性樹脂では、これらの中の1種類を単独で用いてもよいし、異なる重量平均分子量を有する2種類以上を併用してもよく、1種類または2種類以上と、それらのプレポリマーとを併用してもよい。熱硬化性樹脂は、室温25℃において半硬化(固形)状のものを使用してもよい。」 「【実施例】 【0147】 以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。 【0148】 <樹脂組成物の調製> 各実施例、および各比較例のそれぞれについて、次のようにして樹脂組成物を調製した。まず、表2に示す原料成分およびその配合比率に従い、各原料成分をミキサーにより混合した。次いで、得られた混合物をロール混練した後、冷却、粉砕して、打錠成形することでタブレット状の樹脂組成物を得た。 【0149】 (熱硬化性樹脂) ・エポキシ樹脂1:エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂、E1032H60、室温25℃で固形) ・エポキシ樹脂2:エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、YL6810、室温25℃で固形) (硬化剤) ・フェノール樹脂1:ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト(株)製、PR-HF-3、室温25℃で固形) (離型剤) ・離型剤1:合成ワックス(クラリアントケミカルズ(株)製、エステルワックスWE-4) (硬化促進剤) ・イミダゾール系硬化促進剤1:イミダゾール系硬化促進剤(四国化成工業(株)製、キュアゾール2PZ-PW) 【0150】 (磁性体粉末) ・鉄基粒子1:アモルファス磁性粉(エプソンアトミックス(株)製、KUAMET6B2、平均粒子径50μm、球形度0.85) ・鉄基粒子2:合金鋼粉末(大同特殊鋼(株)製、DAPMSC5、平均粒子径10μm、球形度0.80) ・鉄基粒子3:アモルファス磁性粉(エプソンアトミックス(株)製、KUAMET6B2(鉄基粒子1とは分級の篩の目が異なるもの)、平均粒子径25μm、球形度0.88) 微小粒子1:カルボニル鉄粉(BASF社製、CIP-HQ、平均粒子径2μm、球形度0.90) 【0151】 【表1】 [図:0001406687000008.jpg] 【0152】 (非磁性体粉末) ・非磁性粒子1:シリカ(SO-25R、アドマテックス(株)製、平均粒子径0.5μm、球形度0.92) ・非磁性粒子2:シリカ(SO-32R、アドマテックス(株)製、平均粒子径1.5μm、球形度0.93) 【0153】 【表2】 [図:0001406687000009.jpg] 」 (イ)甲4、5に記載された発明 上記(ア)に照らせば、甲4及びその優先権主張の基礎出願である甲5の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面には、実施例2に着目して整理すると、以下の発明(以下、「甲4先願発明」という。)が記載されており、当該発明は、本件特許の出願後である令和1年5月23日(甲5を優先権主張の基礎とする特願2018-197417号について出願公開(甲4)がされた時)に公開がされたものと認められる。 また、甲4及び甲5には、請求項1に係るインダクタ成形用樹脂組成物、請求項24に係るトランスファー成形に用いる、インダクタ成形用樹脂組成物が記載されており、このトランスファー成形に用いる、インダクタ成形用樹脂組成物の具体例として、実施例2が記載されている。また、甲4の段落【0163】(甲5の【0148】)には、実施例2において、「タブレット状の樹脂組成物を得た」ことが記載されており、実施例2の整理にあたっては、上記を踏まえた。 「エポキシ樹脂1:エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂、E1032H60、室温25℃で固形)1.36質量% エポキシ樹脂2:エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、YL6810、室温25℃で固形)1.37質量%、 フェノール樹脂1:ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト(株)製、PR-HF-3、室温25℃で固形)1.67質量%、 離型剤1:合成ワックス(クラリアントケミカルズ(株)製、エステルワックスWE-4)(硬化促進剤)0.09質量%、 イミダゾール系硬化促進剤1:イミダゾール系硬化促進剤(四国化成工業(株)製、キュアゾール2PZ-PW)0.09質量%、 鉄基粒子3:アモルファス磁性粉(エプソンアトミックス(株)製、KUAME T6B2(鉄基粒子1とは分級の篩の目が異なるもの)、平均粒子径25μm、球形度0.88)65.26質量%、 微小粒子1:カルボニル鉄粉(BASF社製、CIP-HQ、平均粒子径2μm、球形度0.90)30.17質量% からなる各原料成分をミキサーにより混合し、得られた混合物をロール混練した後、冷却、粉砕して、打錠成形することで得た、タブレット状の、トランスファー成形に用いる、インダクタ成形用樹脂組成物。」 イ 甲9の記載事項 「 [図:0001406687000010.jpg] [図:0001406687000011.jpg] 」(第1頁~第2頁) (2)対比・判断 ア 本件発明1について 本件発明1と甲4先願発明とを対比する。 甲4先願発明の「エポキシ樹脂1:エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂、E1032H60、室温25℃で固形)」と、「エポキシ樹脂2:エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、YL6810、室温25℃で固形)」は、上記前提を踏まえると、本件発明1の「結晶性エポキシ樹脂」に相当する。 甲4先願発明の「クレゾールノボラック樹脂(分子量800、軟化点88℃)」は、本件発明1の「フェノール樹脂」に相当する。 甲4先願発明の「離型剤1:合成ワックス(クラリアントケミカルズ(株)製、エステルワックスWE-4)(硬化促進剤)」は、ワックスであることから、本件発明1の「ワックス」に相当する。加えて、甲9の第2頁には、クラリアントケミカルズ(株)製のモンタンワックスのうち、エステルワックスとして、「LICOLUB WE 4」が記載されており、すわなち、「LICOLUB WE 4」がモンタン酸エステルであることが記載されているといえる。この記載から、甲4先願発明の「離型剤1:合成ワックス(クラリアントケミカルズ(株)製、エステルワックスWE-4)(硬化促進剤)」は、本件発明1の「モンタン酸エステル」に相当するといえる。 甲4先願発明の「イミダゾール系硬化促進剤1:イミダゾール系硬化促進剤(四国化成工業(株)製、キュアゾール2PZ-PW)」は、本件発明1の「イミダゾール系化合物」に相当する。 甲4先願発明の「鉄基粒子3:アモルファス磁性粉(エプソンアトミックス(株)製、KUAMET6B2(鉄基粒子1とは分級の篩の目が異なるもの)、平均粒子径25μm、球形度0.88)」と「微小粒子1:カルボニル鉄粉(BASF社製、CIP-HQ、平均粒子径2μm、球形度0.90)」は、本件発明1の「金属元素含有粉」に相当する。加えて、甲4先願発明の「鉄基粒子3:アモルファス磁性粉(エプソンアトミックス(株)製、KUAMET6B2(鉄基粒子1とは分級の篩の目が異なるもの)、平均粒子径25μm、球形度0.88)」と「微小粒子1:カルボニル鉄粉(BASF社製、CIP-HQ、平均粒子径2μm、球形度0.90)」の合計配合量は、95.43質量%であり、このことは、本件発明1の「含有量がコンパウンドの全質量を基準として90質量%以上」に相当する。 甲4先願発明の「インダクタ成形用樹脂組成物」は、本件発明1の「インダクタに用いられる、コンパウンド」に相当する。 そうすると、両者は、以下の<一致点>で一致し、以下の<相違点3>で相違する。 <一致点> エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ワックス、及びイミダゾール系化合物を含有する樹脂組成物と、金属元素含有粉と、を含み、 前記エポキシ樹脂が結晶性エポキシ樹脂を含み、 前記ワックスがモンタン酸エステルを含み、 前記金属元素含有粉の含有量がコンパウンドの全質量を基準として90質量%以上である、インダクタに用いられる、コンパウンド。 <相違点3> エポキシ樹脂について、本件発明1は、「ビフェニル型エポキシ樹脂及びビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む」のに対して、甲4先願発明では「エポキシ樹脂2:エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、YL6810、室温25℃で固形)」が含まれている点 そこで、<相違点3>について検討する。 甲4及び甲5の段落【0018】には、「前記熱硬化性樹脂としては、具体的な一例としては、・・・ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂・・・等が挙げられる。」と記載されており、熱硬化性樹脂として膨大な数の選択肢が挙げられているが、甲4先願発明のエポキシ樹脂2をビフェニル型エポキシ樹脂又はビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂に置き換えたものが甲4及び甲5に記載されているに等しいとまではいえないし、たとえ置き換えたとしても、1(3)ウで述べたように、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂であれば必ず結晶性であるともいえないから、<相違点3>は実質的な相違点である。 よって、本件発明1は、甲4先願発明ではない。 イ 本件発明3~6について 本件発明3~6は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものである。 そして、上記アで検討したとおり、本件発明1は甲4先願発明ではないから、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明である本件発明3~6も、甲4先願発明ではない。 (3)取消理由4及び申立理由2についてのむすび したがって、本件特許発明1、3~6は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1、3~6に係る特許は、取消理由4及び申立理由2によっては取り消すことはできない。 第7 取消理由で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について 取消理由で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は、申立理由3(実施可能要件)であるため、これについて以下検討する。 1 申立人の主張 申立人の主張は、上記第2 1 (3)で述べた通りである。 2 検討 (1)実施可能要件の判断基準 実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、物の発明の場合には、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。 (2)発明の詳細な説明の記載 本件特許の発明の詳細な説明には、上記第6 2(3)のとおりの記載がある。 (3)実施可能要件の判断 本件特許の発明の詳細な説明の【0064】~【0075】には、コンパウンドの具体的な製造方法についての記載があり、本件発明を実際に生産している実施例も記載されている。 そうすると、これらの記載等及び当業者の凝集物に関する技術常識を参酌すれば、当業者は、発明の詳細な説明には、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1、3~6を生産し、使用することができる程度の記載がされているものと認められる。 (4)申立人の意見書の主張の検討 申立人は、実施例で使用された特定のイミダゾール以外のイミダゾール化合物を用いた場合、実施例で使用された特定のエポキシ樹脂以外の結晶性エポキシ樹脂を用いた場合、エポキシ樹脂として結晶性エポキシ樹脂を少量でも含むエポキシ樹脂を用いた場合について、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、実施例と同等の流動性などの特性を有する樹脂組成物を製造し得る程に明確かつ十分に記載されていないと主張する。 しかしながら、実施例で実際に使用された以外の「結晶性エポキシ樹脂」や「イミダゾール化合物」を用いた場合や、結晶性エポキシ樹脂を少量含むエポキシ樹脂を用いた場合に、当業者が本件特許発明1を実施することができないという具体的な証拠はなく、また、実施例のエポキシ樹脂やイミダゾール化合物をそれらに置き換えることによって、当業者は過度の試行錯誤なく本件特許発明1のコンパウンドを生産し、使用することができると認められるから、上記申立人の主張は採用できない。 3 申立理由3についてのむすび したがって、本件特許の請求項1、3~6は、特許法第36条第4項第1号の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1、3~6に係る特許は、申立理由3によっては取り消すことはできない。 第8 むすび 上記第6及び第7のとおり、本件特許の請求項1、3ないし6に係る特許は、当審が通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件特許の請求項1、3ないし6係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 本件特許の請求項2は、本件訂正により削除され、請求項2に係る特許についての申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-701190

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