特許異議申立
2022-700680
難燃性硬質ポリウレタン発泡体
- 審判番号
- 2022-700680
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-199287
- 登録番号
- 7007448
- 請求日
- 2022年07月20日
- 審決日
- 2024年07月25日
- 公報発行日
- 2024年10月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】積水化学工業株式会社
- 【権利者代理人】田口 昌浩
- 【異議申立人】石井 豪
- 審判長/審判官
- 審判長 細井 龍史
- 審判官 近野 光知
- 審判官 岡谷 祐哉
- 分類
- P1651.113-YAA(C08G) / P1651.121-YAA(C08G) / P1651.536-YAA(C08G) / P1651.537-YAA(C08G) / P1651.161-YAA(C08G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条の2、特許法第120条の5第7項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7007448号発明「難燃性硬質ポリウレタン発泡体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7007448号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕、〔5-7〕について訂正することを認める。
特許第7007448号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7007448号(請求項の数7。以下、「本件特許」という。)は、平成28年9月30日(優先権主張 平成27年9月30日、特願2015-194241号(以下、「優先基礎出願」という。))に出願された特願2016-562281号の一部を、新たにした特許出願(特願2020-199287号)に係る特許であって、令和4年1月11日に設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行日は同年2月10日である。)。
その後、令和4年7月20日に、本件特許の全請求項(請求項1~7)に係る特許に対して、特許異議申立人である石井豪(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。
令和5年 2月16日付け取消理由通知書
同年 4月19日 意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年 5月 8日付け通知書(申立人あて)
同年 6月 5日 意見書(申立人)
同年 9月29日付け取消理由通知書(決定の予告)
同年11月17日 期間延長請求書
同年12月 4日 面接記録
同年12月22日 意見書及び訂正請求書(特許権者)
令和6年 1月15日付け通知書(申立人あて)
同年 2月 9日 意見書(申立人)
なお、令和5年4月19日提出の訂正請求書は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたとみなす。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和5年12月22日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(当審注:下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、「前記難燃性硬質ポリウレタン発泡体は、ポリオール、ポリイソシアネート、触媒、発泡剤及び難燃剤を含み、」とあるのを、
「前記難燃性硬質ポリウレタン発泡体は、発泡性ポリウレタン樹脂組成物(但し、ビニル重合性化合物を含有するものを除く。)を発泡および硬化させることにより得られ、
前記発泡性ポリウレタン樹脂組成物は、
ポリオール、ポリイソシアネート、触媒、発泡剤及び難燃剤を含み、」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、「前記三量化触媒がカルボン酸アルカリ金属塩を含み、」とあるのを、
「前記三量化触媒がカルボン酸アルカリ金属塩及び4級アンモニウム塩を含み、」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項5に、「前記三量化触媒がカルボン酸アルカリ金属塩を含み、」とあるのを、
「前記三量化触媒がカルボン酸アルカリ金属塩及び4級アンモニウム塩を含み、」に訂正する。(請求項5の記載を引用する請求項6及び7も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
訂正前の特許請求の範囲の請求項5に、「発泡性ポリウレタン樹脂組成物。」とあるのを、
「発泡性ポリウレタン樹脂組成物(但し、ビニル重合性化合物を含有するものを除く。)。」に訂正する。(請求項5の記載を引用する請求項6及び7も同様に訂正する。)
訂正前の請求項1~4について、請求項2~4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項1及び2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~4に対応する訂正後の請求項1~4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正前の請求項5~7について、請求項6及び7は、請求項5を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項3及び4によって記載が訂正される請求項5に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項5~7に対応する訂正後の請求項5~7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって、訂正事項1~4による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとに請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1及び4について
訂正事項1のうち、難燃性硬質ポリウレタン発泡体が発泡性ポリウレタン樹脂組成物を発泡および硬化させて得られることを特定する事項は、本件明細書の【0019】の「本発明の難燃性硬質ポリウレタン発泡体は、発泡性ポリウレタン樹脂組成物を発泡および硬化させることにより得られる」との記載を基に、難燃性硬質ポリウレタン発泡体とその原料との関連を明確にするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
また、訂正事項1のうち、上記組成物からビニル重合性化合物を含有するものを除くことを特定する事項は、いわゆる除くクレームとすることで、特許請求の範囲を減縮するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。訂正事項4についても同様である。
そして、訂正事項1及び4は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2及び3について
訂正事項2及び3は、本件明細書の【0048】の「イソシアヌレート環の生成を促進するために、例えば、三量化触媒として(当審注:中略)4級アンモニウム塩等を使用することができる」との記載を基に、請求項1及び5において三量化触媒が4級アンモニウム塩を含むことを特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。そして、訂正事項2及び3は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 申立人の主張について
申立人は、令和6年2月9日提出の意見書において、本件訂正は、訂正後の請求項1において「ポリオール、ポリイソシアネート、触媒、発泡剤及び難燃剤」を含むか否かを問わない発泡体にするものであり、特許請求の範囲を変更するものに該当する旨を主張する(2頁7~12行)。
しかしながら、本件明細書には、本件発明1に係る発泡体が、発泡性ポリウレタン樹脂組成物を発泡および硬化させることにより得られ、上記組成物は、ポリオール及びポリイソシアネートを、それぞれウレタン樹脂の硬化剤及び主剤として含有することが記載されているが(【0019】、【0020】)、上記発泡体がポリオール及びポリイソシアネートを含有することは記載されていない。また、硬質ポリウレタン発泡体が未反応のポリオール及びポリイソシアネートを相当量は含まないことは、本件出願時の技術常識である。
そうすると、訂正前の請求項1における「ポリオール、ポリイソシアネート、触媒、発泡剤及び難燃剤を含み」との記載は、上記発泡体の原料である発泡性ポリウレタン樹脂組成物の成分を説明したものであることは当業者に明らかであるから、本件訂正は、実質上特許請求の範囲を変更するものに該当しない。
よって、申立人の上記主張を採用することはできない。
4 まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、結論のとおり、本件訂正を認める。
第3 本件訂正後の本件発明
本件訂正は第2のとおり認められたので、請求項1~7に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
難燃剤を含む難燃性硬質ポリウレタン発泡体であって、
前記難燃性硬質ポリウレタン発泡体は、発泡性ポリウレタン樹脂組成物(但し、ビニル重合性化合物を含有するものを除く。)を発泡および硬化させることにより得られ、
前記発泡性ポリウレタン樹脂組成物は、
ポリオール、ポリイソシアネート、触媒、発泡剤及び難燃剤を含み、
前記触媒として、三量化触媒と三量化触媒以外の触媒とを含み、
前記三量化触媒がカルボン酸アルカリ金属塩及び4級アンモニウム塩を含み、
前記三量化触媒以外の触媒が1,2-ジメチルイミダゾールを含み、
前記発泡剤として有機系物理発泡剤を含み、
前記発泡体を、温度80℃、湿度85%の条件で1週間、湿熱処理した後の最大ピーク強度比(P1)の、前記湿熱処理する前の前記発泡体の最大ピーク強度比(P2)に対する比率(P1/P2×100)が85%以上であることを特徴とする難燃性硬質ポリウレタン発泡体。
(但し、前記P1及びP2は、前記発泡体の表層から5mm~10mmの位置における赤外線吸収スペクトルを測定し、1900~2000cm-1の平均強度をゼロに合わせた時の1500~1520cm-1の最大ピーク強度に対する1390~1430cm-1の最大ピーク強度の比をいう。)
【請求項2】
難燃剤として、赤リン、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選択される一種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の難燃性硬質ポリウレタン発泡体。
【請求項3】
前記ポリオール及び前記ポリイソシアネートの合計量100重量部に対して、前記三量化触媒を0.6~10重量部含み、
前記ポリオール及び前記ポリイソシアネートの合計量100重量部に対して、前記三量化触媒以外の触媒を3重量部以下の割合で含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性硬質ポリウレタン発泡体。
【請求項4】
前記ポリオール及び前記ポリイソシアネートの合計量100重量部に対して、三量化触媒以外の触媒としての第三級アミンの含有量が3重量部以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の難燃性硬質ポリウレタン発泡体。
【請求項5】
ポリオール、ポリイソシアネート、整泡剤、触媒、発泡剤及び難燃剤を含み、
触媒として、三量化触媒と、三量化触媒以外の触媒とを含み、
前記三量化触媒がカルボン酸アルカリ金属塩及び4級アンモニウム塩を含み、
前記三量化触媒以外の触媒が1,2-ジメチルイミダゾールを含み、
前記発泡剤が有機系物理発泡剤を含み、
前記1,2-ジメチルイミダゾールを、前記ポリオール及び前記ポリイソシアネートの合計量100重量部に対して0.1重量部以上の割合で含むことを特徴とする発泡性ポリウレタン樹脂組成物(但し、ビニル重合性化合物を含有するものを除く。)。
【請求項6】
前記三量化触媒を、前記ポリオール及び前記ポリイソシアネートの合計量100重量部に対して0.6~10重量部の割合で含むことを特徴とする請求項5に記載の発泡性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項7】
前記難燃剤として、赤リン、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選択される一種以上を含有することを特徴とする請求項5又は6に記載の発泡性ポリウレタン樹脂組成物。」
(以下、請求項1~7に係る発明を、順に「本件発明1」等といい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由及び当審が通知した取消理由
1 特許異議申立書に記載した申立ての理由
申立人が申立書に記載した理由は、以下のとおりである。
本件特許の請求項1~7に係る特許は、下記(1)~(6)のとおり、特許法第113条第2号及び第4号に該当し、取り消されるべきものである。証拠方法として、 下記(7)の甲第1号証~甲第4号証を提出する。
(1)申立理由1(甲第1号証に基づく新規性及び進歩性)
請求項1~7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能であった甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するか、甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1~7に係る特許は、同法第113条第2号の規定により、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(甲第2号証に基づく新規性及び進歩性)
請求項1~7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能であった甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するか、甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1~7に係る特許は、同法第113条第2号の規定により、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(甲第3号証に基づく新規性)
請求項1~7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能であった甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1~7に係る特許は、同法第113条第2号の規定により、取り消されるべきものである。
(4)申立理由4(甲第4号証に基づく新規性及び進歩性)
請求項1~7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能であった甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するか、甲第4号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1~7に係る特許は、同法第113条第2号の規定により、取り消されるべきものである。
(5)申立理由5(甲第4号証に基づく拡大先願)
請求項1~7に係る発明は、本件特許出願の日前の特許出願又は実用新案登録出願であって、本件特許の出願後に特許掲載公報の発行若しくは出願公開又は実用新案掲載公報の発行がされた甲第4号証の特許出願又は実用新案登録出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に記載された発明又は考案と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が本件特許出願前の特許出願又は実用新案登録出願に係る上記の発明又は考案をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許出願又は実用新案登録出願の出願人と同一でもないから、請求項1~7に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
(6)申立理由6(サポート要件、明確性)
請求項1~4に係る特許は、その特許請求の範囲が特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により、取り消されるべきものである。
その具体的理由は以下のとおりである。
請求項1には、「難燃性硬質ポリウレタン発泡体は、ポリオール、ポリイソシアネート…を含み」と規定されているが、難燃性硬質ポリウレタン発泡体に未反応のポリオール及び未反応のポリイソシアネートが共に含まれることはないから、請求項1及びこれを引用する請求項2~4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないし、明確でない。
2 当審が取消理由通知(決定の予告)により通知した取消理由
令和5年9月29日付け取消理由通知(決定の予告)により通知した取消理由は、以下のとおりである。
(1)取消理由1(実施可能要件)
本件特許は、その発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により、取り消されるべきものである。
その具体的理由は、次のとおりである。
本件発明1、2及び4に係る発泡体は、1,2-ジメチルイミダゾールを含むものであり、本件明細書には、触媒としてアミンを用いたときに水分によるイソシアヌレート基の分解が進み易く、三量化触媒以外の触媒のうち第三級アミンの添加量が少ないことが好ましく(【0053】)、3重量部以下であることが好ましいこと(【0054】)が記載され、また、本件発明1の具体例である実施例1~4は、ウレタン樹脂100重量部に対して「TOYOCAT-DM70」(70%の1,2-ジメチルイミダゾールと30%のエチレングリコールの混合物)を2.4重量部又は1.8重量部としたものである。そして、本件明細書には、1,2-ジメチルイミダゾールの含有量が3重量部を超える場合に、イソシアヌレート基の分解を抑制し、イソシアヌレート比変化率の要件を満たすポリウレタン発泡体が得られることを当業者が理解できる程度に記載されているとはいえない。
(2)取消理由2(明確性)
本件特許は、その特許請求の範囲が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により、取り消されるべきものである。
その具体的理由は、次のとおりである。
本件発明1~4に係る発泡体は、原料であるポリオールやポリイソシアネートが化学反応して得られたものであり、未反応のポリオールやポリイソシアネートを相当量含むことは想定されないというのが、本願出願時の技術常識であるから、本件発明1は、その構成成分が判然とせず、明確であるといえない。
(3)取消理由3(サポート要件)
本件特許は、その特許請求の範囲が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により、取り消されるべきものである。
その具体的理由は、次のとおりである。
本件発明1及び5は、1,2-ジメチルイミダゾールの含有割合又はその上限を特定しておらず、発明の詳細な説明には、「本発明者らは、触媒としてアミンを用いたときに水分によるイソシアヌレート基の分解が進み易いことを見出した。(当審注:中略)特に第三級アミンの添加量が少ないことが好ましい。」(【0053】)と記載され、1,2-ジメチルイミダゾールは第三級アミンであるから、発明の詳細な説明は、本件発明1及び5、並びにこれを引用する本件発明2、4及び7が、その課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されていると解することはできない。
(4)取消理由4(甲第4号証に基づく新規性)
請求項1~5及び7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能であった甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1~5及び7に係る特許は、同法第113条第2号の規定により、取り消されるべきものである。
(5)取消理由5(甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証のいずれかに基づく進歩性)
請求項1~5及び7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能であった甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証のいずれかに記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1~5及び7に係る特許は、同法第113条第2号の規定により、取り消されるべきものである。
3 証拠方法
(1)申立人が特許異議申立書に添付した証拠方法
甲第1号証:国際公開第2014/134087号
甲第1-1号証:甲第1号証の摘記箇所の訳文
甲第2号証:国際公開第2014/133986号
甲第2-1号証:甲第2号証の摘記箇所の訳文
甲第3号証:特開2004-292582号公報
甲第4号証:特願2014-264924号(特開2016-124912号公報)
(以下、甲第1号証~甲第4号証を、順に「甲1」等という。)
(2)特許権者が令和5年12月22日提出の意見書に添付した証拠方法
乙第1号証:特開2017-43779号公報
乙第2号証:特開2017-43777号公報
乙第3号証:国際公開第2014/112394号
乙第4号証:国際公開第2015/129844号
第5 当審の判断
以下に述べるように、当審が通知した取消理由通知書(決定の予告)の取消理由、及び、特許異議申立書の申立理由によっては、本件発明1~7に係る特許を取り消すことはできない。
1 取消理由1(実施可能要件)について
(1)本件明細書に記載された事項
本件明細書には、次の記載がある。
「【0047】
三量化触媒は、ポリウレタン樹脂の主剤である芳香族ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基を反応させて三量化させ、イソシアヌレート環の生成を促進する。
【0048】
イソシアヌレート環の生成を促進するために、例えば、三量化触媒として、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4-ビス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6-トリス(ジアルキルアミノアルキル)ヘキサヒドロ-S-トリアジン等の窒素含有芳香族化合物;酢酸カリウム、2-エチルヘキサン酸カリウム、オクテル酸カリウム等のカルボン酸アルカリ金属塩;トリメチルアンモニウム塩、トリエチルアンモニウム塩、トリフェニルアンモニウム塩等の3級アンモニウム塩;テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム、テトラフェニルアンモニウム塩等の4級アンモニウム塩等を使用することができる。
【0049】
三量化触媒の量はウレタン樹脂100重量部に対して、0.6重量部~10重量部の範囲であることが好ましく、0.6重量部~8重量部の範囲であることがより好ましく、0.6重量部~6重量部の範囲であることが更に好ましく、0.6重量部~3重量部の範囲であることが最も好ましい。0.6重量部以上の場合に芳香族ポリイソシアネートの三量化が阻害される不具合が生じず、10重量部以下の場合は適切な発泡速度を維持することができ、取り扱いやすい。」
「【0053】
理論に束縛されることを望まないが、本発明者らは、触媒としてアミンを用いたときに水分によるイソシアヌレート基の分解が進み易いことを見出した。よって、本発明においては、三量化触媒以外の触媒のうち、アミンの添加量が少ないことが好ましく、特に第三級アミンの添加量が少ないことが好ましい。なおイミダゾール環中の第2級アミン官能基がシアノエチル基等の置換または非置換の炭化水素基で置換したイミダゾール化合物も、第三級アミンに含まれる。
【0054】
三量化触媒以外の触媒としての第三級アミンの添加量は、ウレタン樹脂100重量部に対して、3重量部以下であることが好ましく、2.9重量部以下であることがより好ましい。三量化触媒以外の触媒としての第三級アミンの添加量の下限は特に限定されないが、ウレタン樹脂100重量部に対して、0重量部以上であることが好ましく、0.1重量部以上であることが好ましく、0.2重量部以上であることがさらに好ましい。
【0055】
三量化触媒以外の触媒の好ましい他の例としては、1,2-ジメチルイミダゾール等を例示することができる。」
「【0118】
発明のポリウレタン発泡体は、前記発泡体を、温度80℃、湿度85%の条件で1週間、湿熱処理した後の最大ピーク強度比(P1)の、湿熱処理する前の前記発泡体の最大ピーク強度比(P2)に対する比率(P1/P2×100)が85%以上である。比率は、好ましくは89%以上であり、より好ましくは90%以上である。
上記比率(P1/P2×100)は、難燃性硬質ポリウレタン発泡体の難燃性及び耐湿熱性の指標として使用することができる。
【0119】
温度80℃,湿度85%での湿熱処理は、建築分野においてよく用いられている熱湿処理の加速試験であり、温度80℃,湿度85%, 2週間の湿熱処理で一年間の通常の温度および湿度における試験に相当する。
【0120】
ポリウレタン発泡体の表層から5mm~10mmの位置のIRを測定したのは、放熱しやすい表層を避け、組成が安定している箇所を測定したためである。1390~1430cm-1の範囲のピークの最大値はイソシアヌレートを表し、1500~1520cm-1の範囲のピークの最大値は芳香環を表わす。
【0121】
本明細書において、1900~2000cm-1の平均強度をゼロに合わせた時の1500~1520cm-1の範囲のピークの最大値に対する1390~1430cm-1の範囲のピークの最大値の比(1390~1430cm-1の範囲のピークの最大値/1500~1520cm-1の範囲のピークの最大値)をイソシアヌレート比(または単にヌレート比)と称する。期せずして、このイソシアヌレート比は、難燃性硬質ポリウレタン発泡体の難燃性の耐湿熱性を評価するための指標として使用することができる。温度80℃,湿度85%での湿熱処理の1週間後のイソシアヌレート比が、湿熱処理前のイソシアヌレート比に対して85%以上である場合に、難燃性硬質ポリウレタン発泡体は優れた難燃性の耐湿熱性を備える。
【0122】
温度80℃,湿度85%での湿熱処理の1週間後のイソシアヌレート比が、湿熱処理前のイソシアヌレート比に対して85%未満であると、湿熱後の難燃性が不良となる。」
「【表1】
[図:0001415247000001.jpg]
」
(2)実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)の判断手法
特許法第36条第4項第1号は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と定めている。
これは、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、明細書に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、物の発明については、その物を作れ、かつ、その物を使用することができる程度に、発明の詳細な説明を記載しなければならないことを意味するものである。そこで、この点について以下に検討する。
(3)本件発明1について
ア 本件発明1に係る発泡体は、発泡性ポリウレタン樹脂組成物における「三量化触媒がカルボン酸アルカリ金属及び4級アンモニウム塩を含み」、「三量化触媒以外の触媒が1,2-ジメチルイミダゾールを含み」、上記組成物を発泡および硬化させることにより得られた発泡体を「温度80℃、湿度85%の条件で1週間、湿熱処理した後の最大ピーク強度比(P1)の、前記湿熱処理する前の前記発泡体の最大ピーク強度比(P2)に対する比率(P1/P2×100)が85%以上である」(以下、これを「イソシアヌレート比変化率の要件」という。)ものである。
イ 一方、発明の詳細な説明には、発泡性ポリウレタン樹脂組成物に用いるポリイソシアネート、ポリオール、それらの割合を示すイソシアネートインデックスが記載されている(【0021】~【0042】)ほか、三量化触媒はイソシアヌレート環の生成を促進すること(【0047】)、三量化触媒の添加量はウレタン樹脂100重量部に対して0.6~10重量部が好ましいこと(【0049】)、触媒としてアミンを用いたときに水分によるイソシアヌレート基の分解が進み易く、第三級アミンの添加量は少ないことが好ましく、ウレタン樹脂100重量部に対して3重量部以下であることが好まいこと(【0053】、【0054】)がそれぞれ記載されており、本件発明1に係る発泡体の製造に際し、イソシアヌレート環の生成を促進し、水分によるイソシアヌレート基の分解を抑制するためのおおよその指針が示されている。
そして、本件発明1の具体例である実施例1~4には、三量化触媒として、「DABCO K-15」(オクチル酸カリウムのジエチレングリコール溶液)と「TOYOCAT―TRX」(4級アンモニウム塩のエチレングリコール溶液)を含み、三量化触媒以外の触媒として、「TOYOCAT-DM70」(1,2-ジメチルイミダゾール70%のエチレングリコール溶液)等の第三級アミンを含むポリオールプレミックスに、芳香族ポリイソシアネートを加えて、発泡性ポリウレタン樹脂組成物を調製し、難燃性硬質ポリウレタン発泡体を得たこと、及び、当該発泡体はイソシアヌレート比変化率の要件を満たし、80℃、85%で1週間の湿熱処理したものは、20分間加熱後のコーンカロリーメーターの総発熱量が8MJ/m2以下であったことが具体的に示されている(表1)。
ウ ところで、発明の詳細な説明には、上記イで述べたように、触媒としてアミンを用いたときに水分によるイソシアヌレート基の分解が進み易く、第三級アミンの添加量は、ウレタン樹脂100重量部に対して3重量部以下であることが好ましいことが記載されているが(【0053】、【0054】)、発明の詳細な説明の他の記載を見ても、第三級アミンの添加量が3重量部を超える場合にイソシアヌレート比変化率の要件を満たす発泡体を製造できないことは記載されていないし、それを裏付ける本件特許の出願時の技術常識も見当たらないから、上記記載は、触媒としてアミンを用いたときに生じ得る弊害と、その対応策を示したものにすぎないと解される。
また、特許権者は、令和5年12月22日提出の意見書において、実施例4の配合をベースに、「TOYOCAT-DM70」の添加量を4.0重量部とした追加1(1,2-ジメチルイミダゾールの添加量は2.8重量部)と、同じく6.0重量部とした追加2(同4.2重量部)に変更して得た発泡体がイソシアヌレート比変化率の要件を満たすことを示した追加の実験結果を提出した。ここで、「TOYOCAT-DM70」は1,2-ジメチルイミダゾール70%のエチレングリコール溶液であるから(上記イより)、追加1及び2の1,2-ジメチルイミダゾールの添加量は、それぞれ2.8重量部及び4.2重量部であると解される。追加2からも、本件発明1の発泡性ポリウレタン樹脂組成物において、1,2-ジメチルイミダゾール等の第三級アミンが3重量部を超える場合に、イソシアヌレート比変化率の要件を満たす本件発明1に係る発泡体を製造できることを確認できる。
エ そうすると、発明の詳細な説明は、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1に係る発泡体を製造できるように明確かつ十分に記載したものであり、発明の詳細な説明は、本件発明1に係る発泡体を当業者が製造できる程度に明確かつ十分に記載されていると解される。
(4)本件発明2~4について
本件発明2~4は本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明2は難燃剤の種類を特定し、本件発明3及び4は、三量化触媒及び三量化触媒以外の触媒の各割合を特定するものである。そして、本件発明2で特定された難燃剤(【0065】~【0109】)、本件発明3及び4で特定された触媒の各割合は、発明の詳細な説明に具体的に記載されている。
そうすると、本件発明2~4に係る発泡体は、発明の詳細な説明の記載を基に、当業者が製造することができるといえる。
(5)申立人の主張について
ア 申立人は、令和6年2月9日提出の意見書において、上記(3)エで述べた追加の実験結果について、本件明細書の記載不備を出願後に補充して、記載不備を無かったことにするものに他ならず、これを許容することはできない旨を主張する(2頁21行~3頁23行)。
しかしながら、本件明細書には、第三級アミンの添加量が3重量部を越える場合に、イソシアヌレート比変化率の要件を満たす発泡体を製造できないことは記載されておらず、本件発明1において、第三級アミンの添加量が3重量部を超えても、イソシアヌレート比変化率の要件を満たし得ることを前提にしたものであると解される。
また、上記追加の実験結果は、当審が通知した取消理由通知(決定の予告)の取消理由1(実施可能要件)及び取消理由3(サポート要件)に対応して、本件発明1における発泡性ポリウレタン樹脂組成物が、1,2-ジメチルイミダゾール等の第三級アミンを、3重量部を超えて含有する場合であっても、イソシアヌレート比変化率の要件を満たす発泡体を製造し得ることを、具体例によって確認的に示したものにすぎないと解される。
そうすると、上記追加の実験結果は、明細書の記載不備を出願後に補充して、記載不備を無かったことにするものとはいえず、申立人の上記主張を採用することはできない。
イ 申立人は、上記意見書において、追加の実験結果は、実施例とは少なくとも発泡剤が異なり、明細書の条件を忠実に再現したものでなく、発泡剤の相違によるイソシアヌレート比変化率への影響について何ら立証していない旨、及び、追加の実験結果で用いた発泡剤であるHFO(ハイドロフルオロオレフィン)は本件発明1において除外されているビニル重合性化合物であるから、これによって明細書の記載不備を出願後に補充できるものではない旨を主張する。
しかしながら、上記意見書の提出日時点では、本件明細書の実施例で使用されたHFC(ハイドロフルオロカーボン)が環境規制のために使用不可であることは当業者に周知の事項であり、追加の実験結果で使用されたHFOは、本件特許の出願前に周知の有機系物理発泡剤であるといえる(必要があれば、甲1の[0019]、[0020]を参照)。そして、HFCとHFOとは発泡特性が大きく異なり、得られる発泡体の不燃性も大きく異なるとの本件特許の出願時の技術常識も見当たらないから、HFCに代えてHFOを使用したことは合理的であると解される。そして、追加の実験結果は、有機系物理発泡剤としてHFOを使用したこと以外は、実施例4を忠実に再現したものである。
そうすると、追加の実験結果において、HFCに代えてHFOを使用したことが、本件明細書の条件を忠実に再現したものでないとまではいえない。
そして、HFOは、分子構造内に炭素-炭素間二重結合を有していても「ビニル重合性化合物」に相当するとは解されないし、仮にHFOが「ビニル重合性化合物」であるとしても、発泡性ポリウレタン樹脂組成物の他の成分と重合して、難燃性硬質ポリウレタン発泡体がイソシアヌレート比変化率の要件を満たさなくなる程度に影響があることを具体的な証拠を示して説明していない。さらに、申立人は、発泡剤の相違によるイソシアヌレート比変化率への影響の可能性を指摘するのみである。
したがって、上記主張を採用することはできない。
(6)まとめ
したがって、発明の詳細な説明は、本件発明1~4について当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、本件特許は、発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、取消理由1(実施可能要件)によっては、本件特許を取り消すことはできない。
2 取消理由2(明確性)、申立理由6(サポート要件、明確性)について
申立理由6(サポート要件、明確性)の明確性の理由は、取消理由2(明確性)と同旨であり、また、申立理由6のサポート要件の理由も、本件訂正前の本件発明1~4に係る発泡体が、未反応のポリオール及びポリイソシアネートを含有することを根拠にするものであるから、併せて検討する。
本件発明1~4に係る発泡体は、令和5年12月22日提出の訂正請求書により、発泡性ポリウレタン樹脂組成物を発泡および硬化させることにより得られ、当該組成物がポリオールやポリイソシアネートを含むことが特定された。これにより、本件発明1~4における発泡体とポリオールやポリイソシアネートとの関係が明らかになった。
したがって、本件発明1~4は明確であり、本件特許は、特許請求の範囲の請求項1~4が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、取消理由2(明確性)及び申立理由6の明確性の理由によっては、本件特許を取り消すことはできない。
また、申立理由6のサポート要件の理由についても、本件訂正により、本件発明1~4における発泡体を得るための組成物がポリオールやポリイソシアネートを含有することが明らかになったから、本件発明1~4は、発明の詳細な説明に記載したものであるということができ、この理由によっては、本件特許を取り消すことはできない。
申立人は、令和6年2月9日提出の意見書において、本件訂正により、本件発明1及び5で新たに特定された「ビニル重合性化合物」には、ビニル基の水素が他の置換基で置換された化学構造のものが包含されるのかが判然としない旨を主張する(4頁2~下1行)。
しかしながら、特許法第36条第6項第2号(明確性要件)において、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、明細書及び図面を考慮し、本件出願時の技術常識にも照らして、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断すべきものである。
そして、「ビニル重合性化合物」が、分子構造内にビニル基を有して付加重合し得る化合物を指すことは当業者に明らかである。そして、これが置換基を有する場合にビニル重合性であるか否かは、本件出願時の技術常識に照らせば明らかであって、一つひとつの化合物がビニル重合性であるか否かを、特許請求の範囲や明細書及び図面の記載から直ちに理解できることまで要するものでないから、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
また、申立人は、上記意見書において、アリル基を有するモノオールを不純物として含む場合に、当該モノオールが「ビニル重合性化合物」に包含されるのか否かが判然としない旨を主張する(5頁1~6行)が、「ビニル重合性化合物」が不純物であっても、含有することが明らかな量であれば、「ビニル重合性化合物」に包含されると解される。
したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。
3 取消理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件(特許法第36条第6項第1号)の判断手法
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。以下、この観点に立って判断する。
(2)本件発明の課題
本件発明の課題は、「難燃性の耐湿熱性が向上された難燃性硬質ポリウレタン発泡体を提供すること」(【0012】)であると解される。
(3)検討
事案に鑑みて、本件発明5から検討する。
ア 本件発明5について
(ア)本件明細書には、湿熱による難燃性低下の原因が水分によるイソシアヌレート基の分解であること(【0013】)、三量化触媒はイソシアヌレート環の生成を促進すること(【0047】)、イソシアヌレート環の生成を促進するために、三量化触媒として、カルボン酸アルカリ金属塩、4級アンモニウム塩等を使用することができること(【0048】)が記載されており、これらの記載から、本件発明5~7が上記課題を解決するために、三量化触媒がカルボン酸アルカリ金属及び4級アンモニウム塩を含むことにより発泡体中でイソシアヌレート環が生成され、このイソシアヌレート環が水分により分解されるのを抑制することが必要であると解される。
(イ)また、本件明細書には、三量化触媒以外の触媒としての第三級アミンの添加量の下限は、ウレタン樹脂100重量部に対して0.1重量部以上であることが好ましいこと(【0054】)、三量化触媒以外の触媒として1,2-ジメチルイミダゾールが好ましいこと(【0055】)が記載されており、その作用機能は必ずしも明らかではないが、第三級アミンである1,2-ジメチルイミダゾールの添加量が、ウレタン樹脂100重量部に対して0.1重量部以上であることが推奨されている。
(ウ)そして、実施例1~4には、三量化触媒として、カルボン酸アルカリ金属塩(DABCO K-15)と4級アンモニウム塩(TOYOCAT―TRX)を含み、三量化触媒以外の触媒として、「TOYOCAT-DM70」(1,2-ジメチルイミダゾール70%のエチレングリコール溶液)を、1,2-ジメチルイミダゾールの添加量が上記(イ)で述べた割合を満たすように含むポリオールプレミックスに、芳香族ポリイソシアネートを加えて、発泡性ポリウレタン樹脂組成物を調製し、これを発泡および硬化させて難燃性硬質ポリウレタン発泡体を得たこと、及び、当該発泡体はイソシアヌレート比変化率が85%以上であり、80℃、85%で1週間の湿熱処理したものは、20分間加熱後のコーンカロリーメーターの総発熱量が8MJ/m2以下であったことが示されている(表1)。
一方、比較例1及び2は、三量化触媒として、カルボン酸アルカリ金属塩(DABCO K-15)を含まず、4級アンモニウム塩(TOYOCAT―TRX、及び、U-CAT 18X)を含み、1,2-ジメチルイミダゾールの添加量がウレタン樹脂100重量部に対して0.1重量部以上になるように含み、合計で実施例1~3と同量の第三級アミン(TOYOCAT-TT、U-CAT 202及びTOYOCAT-DM70)を含むものであり、その発泡体は、イソシアヌレート比変化率の要件を満たさず、上記コーンカロリーメーターの総発熱量が8MJ/m2超であったことが示されている(表1)。
これらの実施例及び比較例から、三量化触媒がカルボン酸アルカリ金属塩と4級アンモニウム塩を含み、1,2-ジメチルイミダゾールを、ウレタン樹脂100重量部に対して0.1重量部以上の割合で含む発泡性ポリウレタン樹脂組成物は、これを発泡および硬化して得た難燃性硬質ポリウレタン発泡体がイソシアヌレート比変化率の要件を満たし、難燃性の耐湿熱性にも優れることを具体的に確認できると解される。
(エ)発明の詳細な説明には、触媒としてアミンを用いたときに水分によるイソシアヌレート基の分解が進み易いことから、三量化触媒以外の触媒としての第三級アミンの添加量は、ウレタン樹脂100重量部に対して3重量部以下であることが好ましいことが記載されている(【0053】、【0054】)。
しかしながら、この記載は、上記1(3)ウで述べたとおり、触媒として第三級アミンを用いたときに生じ得る弊害の対応策を示したものであって、発明の詳細な説明には、1,2-ジメチルイミダゾールの添加量が3重量部を超える場合に上記課題を解決できないことは記載されていないし、そのことを裏付ける本件特許の出願時の技術常識も見当たらない。
また、特許権者は、令和5年12月22日提出の意見書において、追加の実験結果(追加1及び2)を提出し、1,2-ジメチルイミダゾールが3重量部超である難燃性硬質ポリウレタン発泡体(追加2)であっても、80℃、85%で1週間の湿熱処理したものは、20分間加熱後のコーンカロリーメーターの総発熱量が8MJ/m2以下であったことが示されている。
(オ)したがって、発明の詳細な説明は、本件発明5が上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されていると解される。
イ 本件発明6及び7について
本件発明6及び7は、本件発明5を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明5について上記アで述べたのと同じ理由により、発明の詳細な説明は、本件発明6及び7が上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されていると解される。
ウ 本件発明1について
(ア)本件発明1は、イソシアヌレート比変化率の要件を特定した難燃性硬質ポリウレタン発泡体である。
(イ)発明の詳細な説明には、イソシアヌレート比(1390~1430cm-1の範囲のピークの最大値/1500~1520cm-1の範囲のピークの最大値)は、難燃性硬質ポリウレタン発泡体の難燃性の耐湿熱性を評価するための指標として使用することができ、温度80℃、湿度85%での湿熱処理の1週間後のイソシアヌレート比が、湿熱処理前のイソシアヌレート比に対して85%以上である場合に、難燃性硬質ポリウレタン発泡体は優れた難燃性の耐湿熱性を備えること(【0121】)が記載されており、これによれば、本件発明1に係る発泡体はイソシアヌレート比変化率の要件を満たすことにより、優れた難燃性の耐湿熱性を備えるといえる。
(ウ)そして、実施例1~4は、イソシアヌレート比変化率が85%以上の発泡体であり、80℃、85%で1週間の湿熱処理したものは、20分間加熱後のコーンカロリーメーターの総発熱量が8MJ/m2以下であり、比較例1及び2は、イソシアヌレート比変化率が85%未満の発泡体であり、80℃、85%で1週間の湿熱処理したものは、20分間加熱後のコーンカロリーメーターの総発熱量が8MJ/m2超であったことが示されている。これらの実施例及び比較例から、イソシアヌレート比変化率の要件を満たす発泡体は優れた難燃性の耐湿熱性を備えることを具体的に確認できる。
(エ)発明の詳細な説明には、触媒としてアミンを用いたときに水分によるイソシアヌレート基の分解が進み易いことから、第三級アミンの添加量はウレタン樹脂100重量部に対して3重量部以下であることが好ましいことが記載されているが、これについては、上記ア(エ)で述べたとおりである。
(オ)したがって、発明の詳細な説明は、本件発明1が上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されていると解される。
エ 本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1について上記ウで述べたのと同じ理由により、発明の詳細な説明は、本件発明2~4が上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されていると解される。
オ まとめ
よって、本件発明1~7は発明の詳細な説明に記載したものであり、本件特許は、特許請求の範囲が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、取消理由3(サポート要件)によっては、本件特許を取り消すことはできない。
4 取消理由4(甲4に基づく新規性)及び取消理由5(甲1、甲2及び甲4のいずれかに基づく進歩性)について
(1)本件特許に係る出願
本件特許に係る出願は、第1で述べたとおり、平成28年9月30日(優先権主張 平成27年9月30日)に出願された特願2016-562281号の一部を新たにした特許出願である。
(2)本件発明
本件発明1~7は、第3で述べたとおりのものである。
(3)優先権主張について
本件発明1~7が、上記優先権主張の利益を受けることができるものであるかを検討する。
本件発明1は、「前記触媒として、三量化触媒と三量化触媒以外の触媒とを含み、前記三量化触媒がカルボン酸アルカリ金属塩及び4級アンモニウム塩を含み、前記三量化触媒以外の触媒が1,2-ジメチルイミダゾールを含み」を特定事項とするものである。
一方、優先基礎出願の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、「優先基礎出願の当初明細書等」という。)には、以下の記載がある。
「【0019】
本発明の不燃性硬質ポリウレタン発泡体は、発泡性ポリウレタン樹脂組成物を発泡および硬化させることにより得られる。」
「【0047】
イソシアヌレート環の生成を促進するために、例えば、三量化触媒として、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4-ビス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6-トリス(ジアルキルアミノアルキル)ヘキサヒドロ-S-トリアジン等の窒素含有芳香族化合物;酢酸カリウム、2-エチルヘキサン酸カリウム、オクテル酸カリウム等のカルボン酸アルカリ金属塩;トリメチルアンモニウム塩、トリエチルアンモニウム塩、トリフェニルアンモニウム塩等の3級アンモニウム塩;テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム、テトラフェニルアンモニウム塩等の4級アンモニウム塩等を使用することができる。」
「【0049】
また触媒として、三量化触媒以外に、下記の触媒が挙げられる:アルキル化ポリアルキレンポリアミン、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N, N,N’, N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミン、N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン、N, N,N’-トリメチルアミノエチル-エタノールアミン、トリエチレンジアミン-ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、ウレタン触媒等のアミン;N-メチルモルホリンビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、N,N,N’,ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、N-メチル,N’-ジメチルアミノエチルピペラジン、イミダゾール環中の第2級アミン官能基をシアノエチル基で置換したイミダゾール化合物等の窒素原子含有触媒等。」
「【実施例】
【0122】
製造例1 発泡性ポリウレタン樹脂組成物および不燃性硬質ポリウレタン発泡体の製造
表1に示した配合により、実施例1~2及び比較例1~2に係る発泡性ポリウレタン樹脂組成物を、(1)ポリオールプレミックスおよび(2)芳香族ポリイソシアネートの2つに分けて準備した。なお表中の各成分の詳細は次の通りである。
【0123】(1)ポリオールプレミックス
・ポリオール
p-フタル酸ポリエステルポリオール(川崎化成工業社製、製品名:マキシモールRLK-087、水酸基価=200mgKOH/g)
・整泡剤
ポリアルキレングリコール系整泡剤(東レダウコーニング社製、製品名:SH-193)
・触媒
3量化触媒(東ソー社製、製品名:TOYOCAT(登録商)-TRX)
3量化触媒(サンアプロ株式会社製、製品名:U-CAT 18X)アルキル化ポリアルキレンポリアミン(三級アミン)(東ソー社製、製品名:TOYOCAT(登録商標)-TT)
三級アミンのウレタン触媒(イミダゾール系化合物、サンアプロ株式会社製、製品名:U-CAT 202)
三級アミン(1,2-ジメチルイミダゾールとエチレングリコールの混合物、東ソー社製、製品名:TOYOCAT(登録商標)-DM70)
・発泡剤
水
HFC HFC-365mfc(1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン、セントラル硝子社製)及びHFC-245fa(1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン、日本ソルベイ社製)、混合比率 HFC-365mfc:HFC-245fa = 7:3、以下「HFC」という)
・難燃剤
トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート(大八化学社製、製品名:TMCPP、「TMCPP」という。)
赤リン (燐化学工業社製、製品名:ノーバエクセル140)
ホウ酸亜鉛(早川商事株式会社製、製品名:FIRebrake ZB)
・無機充填材
ウォラストナイト(SiO2 ・CaO)(キンセイマテック社製、製品名:SH-1250)
【0124】
(2)芳香族ポリイソシアネート
4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI)(万華化学ジャパン株式会社製、製品名:PM200)
下記の表1の配合に従い、(1)ポリオールプレミックスの成分を 1000mLポリプロピレンビーカーにはかりとり、25℃、1分間手混ぜで撹拌した。
撹拌後の(1)ポリオールプレミックスの成分の混練物に対して、(2)芳香族ポリイソシアネートを加え、ハンドミキサーで約10秒間擾拝し発泡性ポリウレタン樹脂組成物を作成した。得られた発泡性ポリウレタン樹脂組成物は時間の経過と共に流動性を失い、不燃性硬質ポリウレタン発泡体を得た。前記発泡体を下記の基準により評価し、結果を表1に示した(各成分の割合をウレタン樹脂100重量部に対する重量部で示す)。」
「【0133】
【表1】
[図:0001415247000002.jpg]
」
優先基礎出願の当初明細書等には、不燃性硬質ポリウレタン発泡体を得るための発泡性ポリウレタン樹脂組成物の触媒について【0045】~【0055】に記載があり、三量化触媒と三量化触媒以外の触媒を用いること(【0049】)、三量化触媒としてカルボン酸アルカリ金属塩及び4級アンモニウム塩を使用できること(【0047】)が記載されているが、三量化触媒以外の触媒(【0049】)として1,2-ジメチルイミダゾールは例示されていない。
また、優先基礎出願の当初明細書等には、実施例1~2の発泡性ポリウレタン樹脂組成物が、触媒として、「TOYOCAT-TRX」(酢酸テトラメチルアンモニウム塩)、「U-CAT 18X」(2-エチルヘキサン酸トリエチルメチルアンモニウム塩)及び「TOYOCAT-DM70」(70%の1,2-ジメチルイミダゾールと30%のエチレングリコールの混合物)と、「TOYOCAT―TT」(N,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン)又は「U-CAT 202」(アミン化合物)を含むものであるが、カルボン酸アルカリ金属塩は含まない。
これらの記載によれば、優先基礎出願の当初明細書等には、不燃性硬質ポリウレタン発泡体を得るための発泡性ポリウレタン樹脂組成物として、三量化触媒と三量化触媒以外の触媒を用いること、三量化触媒がカルボン酸アルカリ金属塩や4級アンモニウム塩を含むこと、三量化触媒以外の触媒として1,2-ジメチルイミダゾールを含む具体例が記載されるにとどまり、三量化触媒がカルボン酸アルカリ金属塩及び4級アンモニウム塩を含み、三量化触媒以外の触媒が1,2-ジメチルイミダゾール含む硬質ポリウレタン樹脂発泡体は記載されているとは解せない。
したがって、「前記三量化触媒がカルボン酸アルカリ金属塩及び4級アンモニウム塩を含み、前記三量化触媒以外の触媒が1,2-ジメチルイミダゾールを含」むことを特定事項とする本件発明1~7については、優先権主張の利益を受けることができない。
(4)甲1を主引用文献とする取消理由5(進歩性)、申立理由1(甲1に基づく新規性及び進歩性)について
申立理由1は甲1を主引用文献とするものであるから、甲1を主引用文献とする取消理由5(進歩性)と併せて検討する。
ア 甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
甲1には、次の記載(当審訳)がある。なお、当審訳は、甲1-1を参考に作成した。
(当審訳)
「【請求項1】
(a)テトラフルオロプロペン、クロロトリフルオロプロペン、及び/又はヘキサフルオロブテンを含む発泡剤;
(b)1種類以上のポリオール;
(c)1種類以上の界面活性剤;
(d)水;並びに
(e)沈殿抵抗性のコバルトベースの金属触媒、沈殿抵抗性の亜鉛ベースの金属触媒、沈殿抵抗性のスズベースの金属触媒、沈殿抵抗性のジルコネートベースの金属触媒、沈殿抵抗性のマンガンベースの金属触媒、沈殿抵抗性のチタンベースの金属触媒、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種類の沈殿抵抗性の金属触媒;
を含む発泡性組成物。」
「[0002]本発明は、ポリウレタン及びポリイソシアヌレートフォーム、発泡性組成物、発泡剤、及び触媒系、並びにこれらの製造方法に関する。」
「[0009]本出願人らは、系中の幾つかのアミンベースの触媒の量を幾つかの態様においてはアミンベースの触媒を実質的に排除する点まで減少させ、その代わりに幾つかの金属ベースの触媒或いは1種類又は複数の金属触媒と1種類又は複数のアミン触媒のブレンドを用いることによって、フォームの形成性及び/又は性能における劇的な改良を達成することができることを見出した。かかる金属ベースの触媒の使用は多くの配合物及び用途において特に有利であることが見出されたが、本出願人らは、幾つかのフォームプレミックス配合物において困難性/不利益が存在する可能性があることを認識するに至った。より具体的には、本出願人らは、下記に規定する比較的高い濃度の水を有するフォームプレミックス配合物は、幾つかの金属触媒を用いた場合に、貯蔵安定性、最終フォーム、及び/又はフォーム加工性において許容できる結果を達成しない傾向があることを見出した。本出願人らは、この予期しなかった問題は、下記において更に記載するように、非常に有利で予期しなかった結果を与えるように1種類又は複数の金属ベースの触媒(1種類又は複数の金属触媒と1種類又は複数のアミン触媒のコンプレックス及び/又はブレンドを包含する)を注意深く選択することによって克服することができることを見出した。」
「[0020]ヒドロハロオレフィンは、好ましくは、3~4個の炭素原子及び少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含むフルオロアルケン又はクロロフルオロアルケンのような少なくとも1種類のハロアルケンを含む。好ましいヒドロハロオレフィンとしては、非排他的に、トリフルオロプロペン、(1234)のようなテトラフルオロプロペン、(1225)のようなペンタフルオロプロペン、(1233)のようなクロロトリフルオロプロペン、クロロジフルオロプロペン、クロロトリフルオロプロペン、クロロテトラフルオロプロペン、ヘキサフルオロブテン(1336)、及びこれらの組み合わせが挙げられる。本発明の化合物に関しては、不飽和末端炭素が1以下のF又はCl置換基を有するテトラフルオロプロペン、ペンタフルオロプロペン、及びクロロトリフルオロプロペン化合物がより好ましい。1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(1234ze); 1,1,3,3-テトラフルオロプロペン;1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(1225ye);1,1,1-トリフルオロプロペン;1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン;1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン(1225zc)及び1,1,2,3,3-ペンタフルオロプロペン(1225yc) ;(Z)-1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン (1225yez);1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233zd);1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブト-2-エン(1336mzzm);又はこれらの組み合わせ、並びにこれらのそれぞれのいずれか及び全ての立体異性体;が含まれる。」
「[0025]ポリウレタン又はポリイソシアヌレートフォームの製造において用いるためのシリコーン界面活性剤は、当業者に公知の数多くの商品名で入手できる。かかる材料は、広範囲の配合にわたって適用可能であり、これにより非常に低密度のフォーム構造を達成するための均一な気泡形成及び最大の気体封じ込めが可能になることが分かった。好ましいシリコーン界面活性剤は、ポリシロキサンポリオキシアルキレンブロックコポリマーを含む。本発明のために有用な幾つかの代表的なシリコーン界面活性剤は、MomentiveのL-5130、L-5180、L-5340、L-5440、L-6100、L-6900、L-6980、及びL-6988 ; Air ProductsのDC-193、DC-197、DC-5582、DC-5357、及びDC-5598 ;並びにEssen,ドイツのEvonik Industries AGからのB-8404、B-8407、B-8409、及びB-8462;である。」
「[0028]他の有用なアミンとしては、モルホリン、イミダゾール、エーテル含有化合物などが挙げられる。これらとしては、ジモルホリノジエチルエーテル、N-エチルモルホリン、N-メチルモルホリン、ビス(ジメチルアミノエチル)エーテル、イミジゾール、1,2-ジメチルイミダゾール(Toyocat DM70及びDABCO 2040)、n-メチルイミダゾール、ジモルホリノジメチルエーテル、 2,2-ジモルホリノジエチルエーテル(DMDEE)、ビス(ジエチルアミノエチル)エーテル、ビス(ジメチルアミノプロビル)エーテルが挙げられる。」
「[0030]アミン触媒に加えて(又は幾つかの態様においてはこれに代えて)、本発明の触媒系はまた、少なくとも1種類の非アミン触媒も含む。幾つかの態様においては、非アミン触媒は無機又は有機金属化合物である。」
「[0031]本発明の他の態様においては、非アミン触媒は第4級アンモニウムカルボキシレートである。有用な第4級アンモニウムカルボキシレートとしては、オクタン酸カリウム(Dabco K15)、酢酸ナトリウム(Polycat 46)、2-エチルヘキサン酸(2-ヒドロキシプロピル)トリメチルアンモニウム(Air Products and Chemicalsによって販売されているTMR(登録商標));ギ酸(2-ヒドロキシプロピル)トリメチルアンモニウム(Air Products and Chemicalsによって販売されているTMR-2(登録商標));及びTosoh Corp.によって販売されているToyocat TRXが挙げられるが、これらに限定されない。これらの第4級アンモニウムカルボキシレート触媒は、通常は、ポリオールプレミックス組成物の重量基準で約0.25重量%~約3.0重量%、好ましくは約0.3重量%~約2.5重量%、より好ましくは約0.35重量%~約2.0重量%の量でポリオールプレミックス組成物中に存在させる。これらの量は通常の量であるが、触媒の量は広く変化させることができ、適切な量は当業者によって容易に定めることができる。
[0032]概して、本出願人らは、金属触媒は発泡剤として用いるのに適しているハロゲン化オレフィンと非反応性であり、したがって比較的安定な系を生成するように思われ、金属触媒を慎重に選択することによって、驚くほど有効で安定な組成物、系、及び方法を得ることができることを見出した。」
「[0061]ジブチルスズジラウリルメルカプチド(DABCO(登録商標)T120、FOMREZ(登録商標)UL-1)、ジブチルスズジイソオクチルマレエート(DABCO(登録商標)T125)、ジメチルスズジラウリルメルカプチド(FOMREZ(登録商標)UL-22)、ジオクチルスズジラウリルメルカプチド(FOMREZ(登録商標)UL-32)、ジブチルスズジ(2-エチルヘキシルチオグリコレート)(FOMREZ(登録商標)UL-6)、及びジブチルスズオキシド(FOMREZ(登録商標)SUL11C)を含む7種類のスズ化合物を研究した。また、1種類のコバルトベースの触媒(Troymax Cobalt 12)、4種類の亜鉛ベースの触媒(Troymax Zinc 16、Bicat Z、K-Kat xk 617、K-Kat xk 618)、1種類のマンガンベースの触媒(Troymax Manganese 12)、3種類のチタンベースの触媒(Unilink 2000、Unilink 2300、Tyzor TE)、及び3種類のジルコニウムベースの触媒(Unilink 1030、Tyzor 217、及びBicat 4130M)も試験した。」
「実施例2:
[0071]以下の実験は、金属触媒とアミン触媒の組合せの使用を示す。配合物Aにおいては、安定なアミン触媒であるToyocat DM70及びJeffcat DMDEEを、低用量の安定なスズ触媒であるDabco T120と一緒に用いた(表2)。かかるポリオールプリブレンド(50°F)を同量のイソシアネートの Lupranate M20 (7O°F)と反応させると、ゲル化時間は13秒であった。配合物Bにおいては、これらの安定なアミン触媒を、高用量の安定なスズ触媒であるDabco T120及びDabco K15 (2-エチルヘキサン酸カリウム)と一緒に用いた。この配合物にはまた、配合物Aよりも高用量の水を含ませた。初期ゲル化時間は、配合物Aに関するものと同じ方法に基づいて18秒であった。
[図:0001415247000003.jpg]
[図:0001415247000004.jpg]
」
「実施例4:
[0073]実施例2において開示した他の金属触媒のそれぞれ、即ちジブチルスズジラウリルメルカプチド(FOMREZ(登録商標)UL-I)、ジブチルジイソオクチルマレエート(DABCO(登録商標)T125)、ジメチルスズジラウリルメルカプチド(FOMREZ(登録商標)UL-22)、ジオクチルスズジラウリルメルカプチド(FOMREZ(登録商標)UL-32)、ジブチルスズオキシド(FOMREZ(登録商標)SUL IIC); Troymax Cobalt 12; Troymax Zinc 16、Bicat Z; K-Kat xk 617; K-Kat xk 618; Troymax Manganese 12; Unilink 2200; Unilink 2300、Tyzor TE; Uni1ink 1030、Tyozor 217、及びBicat 4130Mを用いで実施例2を繰り返した。それぞれの触媒に関して以下の配合を用いた。
[図:0001415247000005.jpg]
」
甲1には、その発明がポリウレタン及びポリイソシアヌレート発泡体、発泡性組成物に関するものであることが記載されている([0002])。
甲1の[0071]及びTable 2には、実施例2の組成物Bとして、「Terate 4020」60部、「Voranol 470X」30部及び「Voranol 360」10部からなるポリオール混合物、「DC 193」1.5部、TCPP10部、「PHT-4-Diol」3部、水2.5部、「TOYOCAT-DM70」0.5部、「Jeffcat DMDEE」3部、「DABCO K-15」1.5部、「DABCO T120」1部、「1233zd(E)」12部からなる組成物Bを、同量(equal amount)のイソシアネートである「Lupranate M20」と反応したことが記載されており、各成分の含有量に関する記載から、上記「部」は重量部であると解される。
ここで、各成分は次のとおりのものである。
「DC 193」はシリコーン界面活性剤である([0025])。
「TOYOCAT-DM70」は1,2-ジメチルイミダゾール70%のエチレングリコール溶液である。「Jeffcat DMDEE」は、アミン触媒のジモルフォリノジエチルエーテルである([0028])。「DABCO K-15」は、濃度70~80質量%の2-エチルヘキサン酸カリウムである。「DABCO T120」はジブチルスズジラウリルメルカプチドである([0061])。「1233zd」は、ハイドロハロオレフィン発泡剤の1-クロロ-3,3,3トリフロロプロペンである([0020])。「PHT-4-Diol」がテトラブロモフタレートの商品名であることは、本件特許の出願前に周知の事項である。
そして、甲1には、実施例2の組成物Bと同様の成分組成を有する実施例4の組成物Fも記載されており、金属触媒が「DABCO T125」(ジブチルスズイソオクチルマレエート、[0061])であるものも記載されている。
そうすると、甲1には、実施例2の組成物B、実施例4の組成物Fに着目して、以下の発明が記載されているといえる。
「重量部で、
「Terate 4020」60部、「Voranol 470X」30部及び「Voranol 360」10部からなるポリオール混合物、
「DC 193」であるシリコーン界面活性剤1.5部、
TCPP10部、
テトラブロモフタレートである「PHT-4-Diol」3部、
水2.5部、
1,2-ジメチルイミダゾールである「TOYOCAT-DM70」0.5部、
ジモルフォリノジエチルエーテルである「Jeffcat DMDEE」3部、
2-エチルヘキサン酸カリウムである「DABCO K-15」1.5部、
ジブチルスズジラウリルメルカプチドである「DABCO T120」1部、
ハイドロハロオレフィン発泡剤の1-クロロ-3,3,3トリフロロプロペンである「1233zd(E)」12部
から構成される組成物Bを、同量のイソシアネートの「Lupranate M20」と反応させて得られるポリウレタン又はポリイソシアヌレートフォーム。」(以下、「甲1発明1」という。)
「甲1発明1の組成物Bと、同量のイソシアネートの「Lupranate M20」とからなる発泡性組成物。」(以下、「甲1発明2」という。)
「重量部で、
「Terate 4020」60部、「Voranol 470X」30部及び「Voranol 360」10部からなるポリオール混合物、
「DC 193」であるシリコーン界面活性剤1.5部、
TCPP10部、
テトラブロモフタレートである「PHT-4-Diol」3部、
水2.5部、
1,2-ジメチルイミダゾールである「TOYOCAT-DM70」0.5部、
ジモルフォリノジエチルエーテルである「Jeffcat DMDEE」3部、
2-エチルヘキサン酸カリウムである「DABCO K-15」1.5部、
ジブチルスズイソオクチルマレエートである「DABCO T125」1部、
ハイドロハロオレフィン発泡剤の1-クロロ-3,3,3トリフロロプロペンである「1233zd(E)」12部
から構成される組成物Fを、同量のイソシアネートの「Lupranate M20」と反応させて得られるポリウレタン又はポリイソシアネートフォーム。」(以下、「甲1発明3」という。)
「甲1発明3の組成物Fと、同量のイソシアネートの「Lupranate M20」とからなる発泡性組成物。」(以下、「甲1発明4」という。)
イ 参考文献に記載された事項
参考文献:「高分子大辞典」、丸善、平成6年9月20日発行、1006~1007頁
参考文献には、次の事項が記載されている。
「
[図:0001415247000006.jpg]
[図:0001415247000007.jpg]
」(1006頁左欄下2行~右欄16行)
「
[図:0001415247000008.jpg]
[図:0001415247000009.jpg]
」(1006頁右欄41行~1007頁左欄2行)
「
[図:0001415247000010.jpg]
[図:0001415247000011.jpg]
」(1007頁左欄下9行~右欄5行)
ウ 本件発明1について
(ア)甲1発明1を主引用発明とした場合について
a 対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
甲1発明1の「Terate 4020」、「Voranol 470X」及び「Voranol 360」からなるポリオール混合物、並びに「Lupranate M20」は、本件発明1の「ポリオール」及び「ポリイソシアネート」に相当する。
甲1発明1の「ハイドロハロオレフィン発泡剤の1-クロロ-3,3,3トリフロロプロペンである「1233zd(E)」」は、本件発明1の「有機系物理発泡剤」に相当する。
甲1発明1の「TOYOCAT-DM70」は、本件発明1の「三量化触媒以外の触媒」である「1,2-ジメチルイミダゾール」に相当する。
甲1発明1の「DABCO K-15」は、本件発明1の「三量化触媒」である「カルボン酸アルカリ金属塩」に相当し、甲1発明1は、上記ポリオール混合物100部に対して「DABCO K-15」を1.5部含み、ポリイソシアネートである「Lupranate M20」をポリオール混合物と同量で含むものであるから、ポリオール混合物及びポリイソシアネートの合計量100重量部に対して0.75重量部含むこととなり、本件発明1の「前記三量化触媒を、前記ポリオール及び前記ポリイソシアネートの合計量100重量部に対して、0.6~10重量部の割合で含み」を満たすといえる。
甲1発明1の「Jeffcat DMDEE」は2,2-ジモルフォリノジエチルエーテルであって第三級アミンの樹脂化触媒であるから、本件発明1の「三量化触媒以外の触媒」に相当する。
甲1発明1の「DABCO T120」はジブチルスズジラウリルメルカプチドであって錫触媒の樹脂化触媒であるから、本件発明1の「三量化触媒以外の触媒」に相当する。
甲1発明1の「TCPP」はトリス(1-クロロ-2-プロピル)ホスフェートであって、「TMCPP」の商品名で販売される本件特許の出願前に周知の難燃剤であり、また、甲1発明1の「テトラブロモフタレートである「PHT-4-Diol」」は、本件特許の出願前に周知の難燃剤であるから、これらは本件発明1の「難燃剤」に相当する。
そして、甲1発明1は、イソシアネート基を三量化したイソシアヌレート環を有するポリイソシアヌレート発泡体であり、物理発泡剤である「1233zd(E)」を含むものであり、イソシアヌレート環を有する場合や物理発泡剤を用いる場合に硬質ウレタンフォームとなることが本件特許の出願時の技術常識であるし(上記参考文献を参照)し、「TCPP」等の難燃剤を含むものであるから、甲1発明1の「ポリウレタン又はポリイソシアヌレートフォーム」は、本件発明1の「難燃性硬質ポリウレタン発泡体」に相当するといえる。
そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、
「難燃剤を含む難燃性硬質ポリウレタン発泡体であって、
前記難燃性硬質ポリウレタン発泡体は、発泡性ポリウレタン樹脂組成物を発泡および硬化させることにより得られ、
前記発泡性ポリウレタン樹脂組成物は、ポリオール、ポリイソシアネート、触媒、発泡剤及び難燃剤を含み、
前記触媒として、三量化触媒と三量化触媒以外の触媒とを含み、
前記三量化触媒がカルボン酸アルカリ金属塩を含み、
前記三量化触媒以外の触媒が1,2-ジメチルイミダゾールを含み、
前記発泡剤として有機系物理発泡剤を含む難燃性硬質ポリウレタン発泡体。」の点で一致し、次の点で相違する。
相違点1a:三量化触媒であるカルボン酸塩アルカリ金属塩に加えて、本件発明1は「4級アンモニウム塩」を含むのに対して、甲1発明1は「4級アンモニウム塩」を含むものでない点
相違点1b:本件発明1が「前記発泡体を、温度80℃、湿度85%の条件で1週間、湿熱処理した後の最大ピーク強度比(P1)の、前記湿熱処理する前の前記発泡体の最大ピーク強度比(P2)に対する比率(P1/P2×100)が85%以上であ」り、「但し、前記P1及びP2は、前記発泡体の表層から5mm~10mmの位置における赤外線吸収スペクトルを測定し、1900~2000cm-1の平均強度をゼロに合わせた時の1500~1520cm-1の最大ピーク強度に対する1390~1430cm-1の最大ピーク強度の比をいう。」のに対して、甲1発明1がそのようなものであるかが不明である点
相違点1c:発泡性ポリウレタン樹脂組成物が、本件発明1は、「ビニル重合性化合物を含有するものを除く」のに対して、甲1発明1は、ビニル重合性化合物を含有するかが不明である点
b 検討
(a)相違点1aについて
まず、甲1発明1は「4級アンモニウム塩」を含むものでないから、相違点1aは実質的な相違点である。
次に、容易想到性について検討する。甲1には、「本出願人らは、下記に規定する比較的高い濃度の水を有するフォームプレミックス配合物は、幾つかの金属触媒を用いた場合に、貯蔵安定性、最終フォーム、及び/又はフォーム加工性において許容できる結果を達成しない傾向があることを見出した。本出願人らは、この予期しなかった問題は、(当審注:中略)非常に有利で予期しなかった結果を与えるように1種類又は複数の金属ベースの触媒(1種類又は複数の金属触媒と1種類又は複数のアミン触媒のコンプレックス及び/又はブレンドを包含する)を注意深く選択することによって克服することができることを見出した」([0009])と記載され、甲1発明1は、貯蔵安定性に優れたフォームプレミックス配合物を提供することを課題とするものであり、沈殿抵抗性の金属触媒を選択することにより当該課題を解決したものであると解される。
そして、甲1には、触媒系として、沈殿抵抗性の金属触媒を単独、又は、沈殿抵抗性の金属触媒とアミン触媒を組み合わせて用いること、さらに非アミン触媒を併用してもよいこと([0011])が記載され、当該非アミン触媒として、カルボン酸カリウム塩を含む種々の無機又は有機金属触媒([0030])や、第4級アンモニウムカルボキシレートが挙げられること([0031])が記載されている。このように、甲1には、無機又は有機金属触媒としてカルボン酸カリウム塩を含めた種々の化合物が列記され、また、アミン触媒として1,2-ジメチルイミダゾールを含めた種々の化合物が列記されるにとどまり、三量化触媒としてカルボン酸アルカリ金属塩と4級アンモニウム塩を選択し、かつ三量化触媒以外の触媒として1,2-ジメチルイミダゾールを選択し、これらを組み合わせて使用することは記載されていない。また、甲1には、フォームプレミックス配合物の難燃性の耐湿熱性を向上することに着目した記載はなく、ましてや、カルボン酸アルカリ金属塩、4級アンモニウム塩、及び1,2-ジメチルイミダゾールを併用することにより、フォームプレミックス配合物の難燃性の耐湿熱性を向上させることは記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1発明1において、甲1で列記された非アミン触媒の中から4級アンモニウム塩を選択して、カルボン酸アルカリ金属塩、及び1,2-ジメチルイミダゾールと併用することにより、フォームプレミックス配合物の難燃性の耐湿熱性を向上することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
(b)相違点1bについて
甲1には、イソシアヌレート比変化率の要件については一切記載されておらず、甲1発明1のポリウレタン発泡体がこれを満たすことについても記載されていない。また、イソシアヌレート比変化率の要件が本件特許の出願日時点の技術常識であるともいえない。
そうすると、甲1発明1において、甲1の記載に基づき、本件特許の出願日時点の技術常識を参酌しても、イソシアヌレート比変化率の要件を満たすことが動機付けられるとはいえない。
(イ)甲1発明3を主引用発明とした場合について
甲1発明3を主引用発明とする場合も、本件発明1と甲1発明3との間には相違点1a~1cと同内容の相違点があり、相違点1a及び1bと同内容の相違点は実質的な相違点であり、当該相違点に係る構成は、上記(ア)で述べたのと同じ理由により、甲1発明3において、甲1の記載に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。
(ウ)本件発明1の効果について
本件発明1によって奏される「難燃性硬質ポリウレタン発泡体は、高い湿度と高い温度に耐えて難燃性を維持できる性質を備えている」(【0016】)という効果は、上記3(3)ア(ウ)で述べたとおり、本件明細書の実施例及び比較例により具体的に確認することができる。
一方、甲1には、ポリオールプレミックス配合物を所定条件で経時変化させる前後のゲル化時間を測定し、甲1発明1に係るポリウレタン又はポリイソシアヌレートフォームは貯蔵寿命に優れることが記載されるにとどまる。
よって、本件発明1の上記効果は、甲1に記載された事項から当業者が予測し得ないものである。
(エ)小括
したがって、本件発明1は、相違点1cについて検討するまでもなく、甲1に記載された発明でないし、甲1に記載された発明及び甲1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1について上記ウで述べたのと同じ理由により、甲1に記載された発明でないし、甲1に記載された発明及び甲1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
オ 本件発明5について
(ア)甲1発明2を主引用発明とした場合について
a 対比
本件発明5と甲1発明2とを対比する。
甲1発明2の「DC 193」はシリコーン界面活性剤であり([0025])、本件発明5の「整泡剤」はシリコーン整泡剤等の界面活性剤が挙げられることから(本件明細書の【0043】)から、甲1発明2の「DC 193」は、本件発明5の「整泡剤」に相当する。
甲1発明2は、「TOYRAT-DM70」(1,2-ジメチルイミダゾール70%のエチレングリコール溶液)を0.5部(1,2-ジメチルイミダゾールは0.35部))含むものであり、この含有量は、ポリオール混合物及びイソシアネートの合計量100重量部に対して0.175重量部である。本件発明5の「前記1,2-ジメチルイミダゾールを、前記ポリオール及び前記ポリイソシアネートの合計量100重量部に対して0.1重量部以上の割合で含む」を満たすものと解される。
そうすると、本件発明5と甲1発明2とは、
「ポリオール、ポリイソシアネート、整泡剤、触媒、発泡剤及び難燃剤を含み、
触媒として、三量化触媒と、三量化触媒以外の触媒とを含み、
前記三量化触媒がカルボン酸アルカリ金属塩を含み、
前記三量化触媒以外の触媒が1,2-ジメチルイミダゾールを含み、
前記発泡剤として有機系物理発泡剤を含み、
前記1,2-ジメチルイミダゾールを、前記ポリオール及び前記ポリイソシアネートの合計量100重量部に対して0.1重量部以上の割合で含むことを特徴とする発泡性ポリウレタン樹脂組成物。」の点で一致し、次の点で相違する。
相違点1d:三量化触媒であるカルボン酸アルカリ金属塩に加えて、本件発明5は「4級アンモニウム塩」を含むのに対して、甲1発明2は「4級アンモニウム塩」を含むものでない点
相違点1e:本件発明5は、「ビニル重合性化合物を含有するものを除く」のに対して、甲1発明2は、ビニル重合性化合物を含有するかが不明である点
b 検討
相違点1dについて検討すると、相違点1dは相違点1aと同内容であり、上記ウ(ア)b(a)で述べたのと同じ理由により、実質的な相違点であり、また、甲1の記載に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。
(イ)甲1発明4を主引用発明とした場合について
甲1発明4を主引用発明とする場合も、本件発明5と甲1発明4との間には相違点1d及び1eと同内容の相違点があり、上記ウ(ア)b(a)で述べたのと同じ理由により、本件発明5は、甲1に記載された発明でないし、甲1の記載に基づいて当業者が容易に想到し得たものでもない。
(ウ)小括
したがって、本件発明5は、相違点1eについて検討するまでもなく、甲1に記載された発明でないし、甲1に記載された発明及び甲1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
カ 本件発明6~7について
本件発明6~7は、本件発明5を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明5について上記オで述べたのと同じ理由により、甲1に記載された発明でないし、甲1に記載された発明及び甲1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
キ 申立人の主張について
申立人は、令和6年2月9日提出の意見書において、「好適な難燃性ポリウレタンフォームを製造するための触媒として、カルボン酸アルカリ金属塩、4級アンモニウム塩及び1,2-ジメチルイミダゾールを併用することは、本件優先日前の当業者にとり、技術常識に過ぎなかった(要すれば、特開2011-099068号公報:実施例(当審注:中略)を参照されたい。なお、カオーライザーNo.300とは、1,2-ジメチルイミダゾールを含む触媒である。)。したがって、甲第1号証及び甲第2号証に接した本件優先日前の当業者にとり、訂正後の本件発明を想到することは極めて容易である」(5頁19行~6頁2行)と主張し、特開2011-099068号公報(以下、「文献A」という。)等の7文献を提示する。
しかしながら、上記7文献に、カルボン酸アルカリ金属塩、4級アンモニウム塩及び1,2-ジメチルイミダゾールを組み合わせて用いた硬質ポリウレタンフォーム用組成物が記載されているものの、上記7文献以外にも上記触媒の組み合わせを記載した文献が多数存在するとの事情は見当たらず、上記7文献はいずれも同じ出願人による特許文献であることも鑑みると、本件特許の出願前に、上記触媒の組み合わせが硬質ポリウレタン樹脂発泡体における技術常識であったと推認できない。
また、文献Aに記載された発明は、難燃性と接着性に優れた硬質ポリウレタンフォームを製造するという課題を解決しようとするものであるが(【0010】及び【0044】)、甲1又は甲2に記載された発明と文献Aに記載された発明とは、課題が共通するとは解せない(甲1の[0009]、甲2の[0027]を参照)。上記7文献には、カルボン酸アルカリ金属塩、4級アンモニウム塩及び1,2-ジメチルイミダゾールを組み合わせて用いた実施例が記載されているものの、文献A以外の文献には、上記触媒を組み合わせたことによる技術的意義を読み取ることはできない。
さらに、文献Aの請求項1に記載された発明は、特定のポリエステルポリオールと、特定の関係式を満たす複数の触媒の組み合わせとを併用することを必須とするものであるが、甲1又は甲2に記載された発明は、上記特定のポリエステルポリオールを用いるものであることは直ちには明らかでない。
そして、上記7文献には、本件発明1の効果である難燃性の耐湿熱性を向上することについて一切記載されていない。
なお、本件発明5~7に関連して、文献Aの実施例において、触媒(a)である「カオーライザーNo.300」中の1,2-ジメチルイミダゾールの使用量が、本件発明5で特定された「前記ポリオール及び前記ポリイソシアネートの合計量100重量部に対して0.1重量部以上の割合で含む」ことを満たすことは示されていない。
そうすると、甲1又は甲2に記載された発明において、上記7文献に記載された事項に基づいて、カルボン酸アルカリ金属塩、4級アンモニウム塩及び1,2-ジメチルイミダゾールを組み合わせて用いることが動機付けられるとはいえない。
したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。
ク まとめ
以上のとおり、本件発明1~7は、甲1に記載された発明でないし、甲1に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、甲1を主引用文献とする取消理由5及び申立理由1によっては、本件発明1~7に係る特許を取り消すことはできない。
(5)甲2を主引用文献とする取消理由5(進歩性)、申立理由2(甲2に基づく新規性及び進歩性)について
申立理由2は甲2を主引用文献とするものであるから、甲2を主引用文献とする取消理由5(進歩性)と併せて検討する。
ア 甲2に記載された事項及び甲2に記載された発明
甲2には、次の記載(当審訳)がある。なお、当審訳は、甲2-1を参考に作成した。
(当審訳)
「[0002]本発明は、ポリウレタンおよびポリイソシアヌレートフォーム、発泡性組成物、発泡剤および触媒系、並びにそれらの製造方法に関する。」
「[0020]ヒドロハロオレフィンは、好ましくは、 3~4個の炭素原子及び少なくとも1つの炭素一炭素二重結合を含むフルオロアルケン又はクロロフルオロアルケンのような少なくとも1種類のハロアルケンを含む。好ましいヒドロハロオレフィンとしては、非排他的に、トリフルオロプロペン、(1234)のようなテトラフルオロプロペン、(1225)のようなペンタフルオロプロペン、(1233)のようなクロロトリフルオロプロペン、クロロジフルオロプロペン、クロロトリフルオロプロペン、クロロテトラフルオロプロペン、ヘキサフルオロブテン(1336)、及びこれらの組み合わせが挙げられる。本発明の化合物に関しては、不飽和末端炭素が1以下のF又はC1置換基を有するテトラフルオロプロペン、ペンタフルオロプロペン、及びクロロトリフルオロプロペン化合物がより好ましい。1,3,3,3テトラフルオロプロペン(1234ze) ; 1, 1,3,3ーテトラフルオロプロペン;1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(1225ye) ; 1,1,1ートリフルオロプロペン;1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン;1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン(1225zc)及び1,1,2,3,3-ペンタフルオロプロペン(1225yc);(Z)-1,1,1,2,3ベンタフルオロプロペン(1225yez) ; 1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233zd);1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブト-2-エン(1336mzzm);又はこれらの組み合わせ、並びにこれらのそれぞれのいずれか及び全ての立体異性体;が含まれる。」
「[0025]ポリウレタン又はポリイソシアヌレートフォームの製造において用いるためのシリコーン界面活性剤は、当業者に公知の数多くの商品名で入手できる。かかる材料は、広範囲の配合にわたって適用可能であり、これにより非常に低密度のフォーム構造を達成するための均一な気泡形成及び最大の気体封じ込めが可能になることが分かった。好ましいシリコーン界面活性剤は、ポリシロキサンポリオキシアルキレンブロックコポリマーを含む。本発明のために有用な幾つかの代表的なシリコーン界面活性剤は、MomentiveのL-5130、L-5180、L-5340、L-5440、L-6100、L-6900、L-6980、及びL-6988; Air ProductsのDC-193、DC-197、DC-5582、DC-5357、及びDC-5598;並びに Essen,ドイツのEvonik Industries AGからのB-8404、B-8407、B-8409、及びB-8462である。」
「[0027]本発明の好ましい形態において、触媒系は、少なくとも1つのビスマスベースの触媒を含む。出願人は、驚くべきことに、そして予期しないことに、そのような触媒の効果的な量により、そのような触媒を含まないものと比べて、より速い又はより改善されたフロントエンド触媒の反応性となることを発見した。」
「[0032]更なる形態においては、触媒系は、追加の非アミン触媒、及び/又はアミン触媒を含む。アミン触媒としては、アミノ基を含み、本発明において規定される触媒活性を示す任意の1種類以上の化合物を挙げることができる。かかる化合物は、本質的に線状又は分岐或いは環式の非芳香族又は芳香族であってよい。有用な非限定的なアミンとしては、第1級アミン、第2級アミン、又は第三級アミンが挙げられる。」
「[0033]他の有用なアミンには、モルホリン、イミダゾール、エーテル含有化合物などが含まれる。これらには、ジモルホリノジエチルエーテル、Nエチルモルホリン、Nメチルモルホリン、ビス(ジメチルアミノエチル)エーテル、イミジゾール、1,2-ジメチルイミダゾール(Toyocat DM 70、DABCO(R)2040)、 nメチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、ジモルホリノジメチルエーテル、2、2ジモルホリノジエチ)にエーテル(DMDEE)、ビス(ジエチルアミノエチル)エーテル、ビス(ジメチルアミノプロビル)エーテルが含まれる。」
「[0039]アミン触媒に加えて(又は幾つかの態様においてはこれに代えて)、本発明の触媒系はまた、少なくとも1種類の非アミン触媒も含む。幾つかの態様においては、非アミン触媒は無機又は有機金属化合物である。有用な無機又は有機金属化合物としては、遷移金属、ポスト遷移金属、希土類金属(例えばランタニド)、メタロイド、アルカリ金属、アルカリ土類金属など(しかしながらこれらに限定されない)の任意の金属の有機塩、ルイス酸ハロゲン化物などが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の幾つかの広い形態によれば、金属としては、ビスマス、鉛、スズ、亜鉛、クロム、コバルト、銅、鉄、マンガン、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、チタン、水銀、アンチモン、ウラン、カドミウム、トリウム、アルミニウム、ニッケル、セリウム、モリブデン、バナジウム、ジルコニウム、又はこれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。かかる無機又は有機金属触媒の非排他的な例としては、2-エチルヘキサン酸ビスマス、硝酸ビスマス、2-エチルヘキサン酸鉛、安息香酸鉛、ナフテン酸鉛、塩化第二鉄、三塩化アンチモン、グリコール酸アンチモン、カルボン酸のスズ塩、カルボン酸のジアルキルスズ塩、酢酸ナトリウム、オクタン酸カリウム、2-エチルヘキサン酸カリウム、カルボン酸のカリウム塩、カルボン酸の亜鉛塩、2-エチルヘキサン酸亜鉛、グリシン塩、アルカリ金属カルボン酸塩、N-(2-ヒドロキシ-5-ノニルフェノール)メチル-N-メチルグリシン酸ナトリウム、2-エチルヘキサン酸スズ(II)、ジブチルスズジラウレート、又はこれらの組合せを含む。幾つかの好ましい態様においては、触媒は、ポリオールプレミックス組成物の重量基準で約0.001重量%~約5.0重量%、0.01重量%~約4.0重量%、好ましくは約0.1重量%~約3.5重量%、より好ましくは約0.2重量%~約3.5重量%の量でポリオールプレミックス組成物中に存在させる。これらは通常の量であるが、上記の触媒の量は広く変化させることができ、適切な量は当業者によって容易に定めることができる。
[0040]本発明の他の態様においては、非アミン触媒は第4級アンモニウムカルボキシレートである。有用な第4級アンモニウムカルボキシレートとしては、2-エチルヘキサン酸(2-ヒドロキシプロピル)トリメチルアンモニウム(Air Products and Chemicalsによって販売されているTMR(登録商標));ギ酸(2-ヒドロキシプロピル)トリメチルアンモニウム(Air Products and Chemicalsによって販売されているTMR-2(登録商標))が挙げられるが、これらに限定されない。これらの第4級アンモニウムカルボキシレート触媒は、通常は、ポリオールプレミックス組成物の重量基準で約0.25重量%~約3.0重量%、好ましくは約0.3重量%~約2.5重量%、より好ましくは約0.35重量%~約2.0重量%の量でポリオールプレミックス組成物中に存在させる。これらの量は通常の量であるが、触媒の量は広く変化させることができ、適切な量は当業者によって容易に定めることができる。」
「[0047]従来の難燃剤はまた、好ましくは反応物の約20重量%以下の量で含有させることができる。任意の難燃剤には、トリス(2-クロロエチル)ホスフェート、トリス(2-クロロプロビル)ホスフェート、トリス(2,3-ジブロモプロピル)ホスフェート、トリス(1,3-ジクロロプロピル)ホスフェート、トリ(2-クロロイソプロピル)ホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリ(2,2-ジクロロイソプロピル)ホスフェート、ジエチルN,N-ビス(2-ヒドロキシ工チル)アミノメチルホスホネート、ジメチルメチルホスホネート、トリ(2,3-ジブロモプロピル)ホスフェート、トリ(1,3-ジクロロプロビル)ホスフェート、テトラキス(2-クロロエチル)エチレンジホスフェート、トリエチルホスフェート、Nメチロールジメチルホスホノプロピオンアミド、アミノフェニルホスフェート、ジエチレングリコール及びプロピレングリコールと3,4,5,6テトラブロモ-1,2-ベンゼンジカルボン酸との混合エステル、ジアンモニウムホスフェート、種々のハロゲン化芳香族化合物、酸化アンチモン、アルミニウム三水和物、ポリ塩化ビニル、メラミンなどが含まれる。他の任意の成分は、0~約7%の水を含むことができ、この水は、イソシアネートと化学的に反応して二酸化炭素を生成する。この二酸化炭素は補助発泡剤として作用する。ギ酸もまた、イソシアネートと反応して二酸化炭素を生成するために使用され、必要に応じて"B"成分に添加される。」
「実施例2
[0053]ビスマス触媒はまた、十分に設計された樹脂系において良好な安定性を示す。以下の実験では、ビスマス触媒と共に、フロントエンド触媒ではないゲル化触媒としてToyocat DM 70を使用し、バックエンド硬化のために良好な三量化触媒としてDabco K15を使用した(Table 2)。
[0054]このような樹脂系の初期反応性は、50°Fで新たに調製された樹脂を、70°Fで等量のイソシアネートLupranate M20と反応させることによって測定した。同様に、例えば、室温で所定時間エージングした樹脂(50°F)と、70°FでのLupranate M20とを反応させることによって、エージングした反応性を測定した。
[図:0001415247000012.jpg]
」
「実施例4
[0058]出願人はまた、この添加剤が一級アミンであっても、システムの安定性に影響を与えることなく、添加剤(Ethacure 100)を使用することによって、前端反応性をさらに改善することができることを発見した。すなわち、以下の実験では、フロントエンド触媒ではないゲル化触媒としてToyocat DM 70を使用し、バックエンド硬化のために良好な三量体触媒としてDabcoK15を使用した。これらは、添加剤Ethacure 100、一級芳香族アミン、およびビスマス触媒Pucat25と共に供給された(Table 3)。
[0059]以下に示すように、Toyocat DM 70、Dabco K15およびPucat25の触媒パッケージを含有する樹脂が、同じ量のイソシアネートLupranate M20と70°Fで反応した場合、クリーム時間は5秒であった。樹脂系においてEthacure 100が使用された場合には、クリーム時間が減少した。一方、樹脂系はエージング後の反応性を維持している。一方、強フロントエンドビスマス触媒の代わりに錫触媒Dabco 120を用いた場合、組成物D、Eに示すように、クリーム時間ははるかに長くなった。ゆえに、芳香族アミンと共に使用した場合、ビスマス系触媒は安定性及びクリーム時間短縮を示した。
[図:0001415247000013.jpg]
」
甲2の[0053]、[0054]及びTable 2には、実施例2として、「Terate 4020」60部、「Voranol 470X」30部及び「Voranol 360」10部、「Antiblaze AB80」10部、「PHT-4-Diol」3部、水2.2部、「Dabco DC193」1.5部、「TOYOCAT-DM70」3部、「DABCO K-15」1部、ビスマス触媒0.5部、「1233zd(E)」12部からなる新たに調製した樹脂を、同量のイソシアネートである「Lupranate M20」と反応したことが記載されており、各成分の含有量は、Table 2の「Phpp」の表示及び[0048]の“per 100 parts of polyol”の記載から、ポリオール100重量部に対する重量部であると解される。
ここで、「Antiblaze AB80」がトリス(2-クロロイソプロピル)フォスフェート(TMCP)の商品名であることは、本件特許の出願前に周知の事項である。
そうすると、甲2には、実施例2の組成物に着目して、以下の発明が記載されているといえる。
「重量部で、
「Terate 4020」60部、「Voranol 470X」30部及び「Voranol 360」10部のポリオール混合物、
トリス(2-クロロイソプロピル)フォスフェート(TMCP)である「Antiblaze AB80」10部、
テトラブロモフタレートである「PHT-4-Diol」3部、
水2.2部、
「DABCO DC193」であるシリコーン界面活性剤1.5部、
1,2-ジメチルイミダゾールである「TOYOCAT-DM70」3部、
2-エチルヘキサン酸カリウムである「DABCO K-15」1部、
ビスマス触媒0.5部、
ハイドロハロオレフィン発泡剤の1-クロロ-3,3,3-トリフロロプロペンである「1233zd(E)」12部
から構成される組成物を、同量のイソシアネートの「Lupranate M20」と反応させて得られるポリウレタン及びポリイソシアヌレート発泡体。」(以下、「甲2発明1」という。)
「甲2発明1の組成物と、同量のイソシアネートの「Lupranate M20」とからなる発泡性組成物。」(以下、「甲2発明2」という」。)
イ 本件発明1について
(ア)対比
甲1発明1と甲2発明1とは、共通する成分があるから、上記(4)ウ(ア)での検討を参考にして、本件発明1と甲2発明1とを対比する。
甲2発明1の「トリス(2-クロロイソプロピル)フォスフェート(TMCP)である「Antiblaze AB80」」は、甲2の[0047]に、好ましい難燃剤としてトリス(2-クロロイソプロピル)フォスフェートが例示されているから、本件発明1の「難燃剤」に相当するといえる。
甲2発明1は、表2のポリオール混合物100重量部に対して「DABCO K-15」を1部含み、ポリイソシアネートである「Lupranate M20」をポリオール混合物と同量で含むものであるから、ポリオール混合物及びポリイソシアネートの合計量100重量部に対して0.5重量部含むこととなる。
そうすると、本件発明1と甲2発明1とは、
「難燃剤を含む難燃性硬質ポリウレタン発泡体であって、
前記難燃性硬質ポリウレタン発泡体は、発泡性ポリウレタン樹脂組成物を発泡および硬化させることにより得られ、
前記発泡性ポリウレタン組成物は、
ポリオール、ポリイソシアネート、触媒、発泡剤及び難燃剤を含み、
前記触媒として、三量化触媒と三量化触媒以外の触媒とを含み、
前記三量化触媒がカルボン酸アルカリ金属塩を含み、
前記三量化触媒以外の触媒が1,2-ジメチルイミダゾールを含み、
前記発泡剤として有機系物理発泡剤を含む、難燃性硬質ポリウレタン発泡体。」の点で一致し、次の点で相違する。
相違点2a:三量化触媒であるカルボン酸塩アルカリ金属塩に加えて、本件発明1は「4級アンモニウム塩」を含むのに対して、甲2発明1は「4級アンモニウム塩」を含むものでない点
相違点2b:本件発明1が「前記発泡体を、温度0℃、湿度85%の条件で1週間、湿熱処理した後の最大ピーク強度比(P1)の、前記湿熱処理する前の前記発泡体の最大ピーク強度比(P2)に対する比率(P1/P2×100)が85%以上であ」り、「但し、前記P1及びP2は、前記発泡体の表層から5mm~10mmの位置における赤外線吸収スペクトルを測定し、1900~2000cm-1の平均強度をゼロに合わせた時の1500~1520cm-1の最大ピーク強度に対する1390~1430cm-1の最大ピーク強度の比をいう。」のに対して、甲2発明1がそのようなものであるか不明である点
相違点2c:発泡性ポリウレタン樹脂組成物が、本件発明1は、「ビニル重合性化合物を含有するものを除く」のに対して、甲2発明1は、ビニル重合性化合物を含有するか不明である点
(イ)検討
a 相違点2aについて
まず、甲2発明1は、4級アンモニウム塩を含まないから、相違点2aは実質的な相違点である。
次に、容易想到性について検討する。
甲2発明1はビスマスベースの触媒を含むものであり、甲2には、「触媒系は、追加の非アミン触媒、及び/又はアミン触媒を含む。」([0032])、「アミン触媒に加えて(又は幾つかの態様においてはこれに代えて)、本発明の触媒系はまた、少なくとも1種類の非アミン触媒も含む。幾つかの態様においては、非アミン触媒は無機又は有機金属化合物である」([0039])、「本発明の他の態様においては、非アミン触媒は第4級アンモニウムカルボキシレートである」([0040])と記載されている。そして、甲1には、三量化触媒としてカルボン酸アルカリ金属塩と4級アンモニウム塩を用い、三量化触媒以外の触媒として1,2-ジメチルイミダゾールを含む3級アミンを併用した具体例は記載されていない。
これらの記載によると、甲2には、ビスマスベースの触媒と、アミン触媒又は非アミン触媒を組み合わせて用いることを前提とし、種々のアミン触媒及び非アミン触媒の中から、所望する作用に応じて選択して用いることが記載されていると解されるが、フォームプレミックスの難燃性の耐湿熱性に着目した記載はなく、ましてや、カルボン酸アルカリ金属塩と4級アンモニウム塩、1,2-ジメチルイミダゾールを含む3級アミンを併用することにより、フォームプレミックスの難燃性の耐湿熱性が向上することは記載も示唆もされていない。
そうすると、甲2発明1において、甲2に例示された種々の非アミン触媒の中から4級アンモニウム塩を選択することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
b 相違点2bについて
甲2には、イソシアヌレート比変化率の要件については一切記載されておらず、甲2発明1のポリウレタン発泡体がこれを満たすことについても記載されていない。また、イソシアヌレート比変化率の要件が本件特許の出願日時点の技術常識であるともいえない。
そうすると、甲2発明1において、甲2の記載に基づき、本件特許の出願日時点の技術常識を参酌しても、イソシアヌレート比変化率の要件を満たすことが動機付けられるとはいえない。
(ウ)小括
したがって、本件発明1は、相違点2cについて検討するまでもなく、甲2に記載された発明でないし、甲2に記載された発明及び甲2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また、甲2の[0058]、[0059]及びTable 3には、実施例4の組成物A~Eが記載されているが、これらを引用発明とする場合であっても、上記(イ)で述べたのと同じ理由により、本件発明1は、甲2に記載された発明でないし、甲2に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1について上記イで述べたのと同じ理由により、甲2に記載された発明でないし、甲2に記載された発明及び甲2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 本件発明5について
甲2発明2は、「TOYOCAT-DM70」(70%の1,2-ジメチルイミダゾールと30%のエチレングリコールの混合物)を、ポリオール100重量部に対して3重量部含むものであり、この含有量は、ポリオール及びイソシアネートの合計量100重量部に対して約1重量部となり、本件発明5の「前記1,2-ジメチルイミダゾールを、前記ポリオール及び前記ポリイソシアネートの合計量100重量部に対して0.1重量部以上の割合で含む」を満たす。
そうすると、本件発明5と甲2発明2とは、
「ポリオール、ポリイソシアネート、整泡剤、触媒、発泡剤及び難燃剤を含み、
前記触媒として、三量化触媒と三量化触媒以外の触媒とを含み、
前記三量化触媒がカルボン酸アルカリ金属塩を含み、
前記三量化触媒以外の触媒が1,2-ジメチルイミダゾールを含み、
前記発泡剤として有機系物理発泡剤を含み、
前記1,2-ジメチルイミダゾールを、前記ポリオール及び前記ポリイソシアネートの合計量100重量部に対して0.1重量部以上の割合で含むことを特徴とする発泡性ポリウレタン樹脂組成物。」の点で一致し、次の点で相違する。
相違点2d:三量化触媒がカルボン酸塩アルカリ金属塩に加えて、本件発明5は「4級アンモニウム塩」を含むのに対して、甲2発明2は「4級アンモニウム塩」を含むものでない点
相違点2e:本件発明5は、「ビニル重合性化合物を含有するものを除く」のに対して、甲2発明2は、ビニル重合性化合物を含有するかが不明である点
相違点2dについて検討すると、相違点2dは相違点2aと同内容であって、上記イ(イ)aで述べたのと同じ理由により、実質的な相違点であり、また、甲2の記載に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。
したがって、本件発明5は、相違点2eについて検討するまでもなく、甲2に記載された発明でないし、甲2に記載された発明及び甲2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
オ 本件発明6~7について
本件発明6~7は、本件発明5を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明5について上記エで述べたのと同じ理由により、甲2に記載された発明でないし、甲2に記載された発明及び甲2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
カ まとめ
以上のとおり、本件発明1~7は、甲2に記載された発明でないし、甲2に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、甲2を主引用文献とする取消理由5及び申立理由2によっては、本件発明1~7に係る特許を取り消すことはできない。
(6)取消理由4(甲4に基づく新規性)及び取消理由5(甲4に基づく進歩性)、申立理由4(甲4に基づく新規性及び進歩性)について
申立理由4は、甲4を主引用文献とするものであるから、取消理由4(甲4に基づく新規性)及び取消理由5(甲4に基づく進歩性)と併せて検討する。
ア 甲4に記載された事項及び甲4に記載された発明
甲4の【0073】~【0075】及び表1には、実施例1として、次の発明が記載されている。
「重量部で、
数平均活性水素含有官能基数が2、水酸基価が250のエステルポリオール(マキシモールRFK-505)90部、
ペンタエリスリトールとアクリル酸を反応させた、分子内のビニル重合性官能基が10.1(mmol/g)、活性水素価が25のビニル重合性化合物10部、
発泡剤である水1.4部、
発泡剤であるHFC-245fa 28部、
整泡剤であるポリエーテルシロキサン重合体「SH-193」3部、
難燃剤であるトリクロロプロピルフォスフェート20部、
触媒Y1-1(1,2-ジメチルイミダゾールとギ酸からなる塩)0.8部、
触媒Y-1(オクチル酸カリウムのジエチレングリコール溶液、DABCO K-15)1.5部、
触媒Y-2(DABCO TMR7)1部、
を配合し、ポリオールプレミックス(活性水素含有組成物)を作成し、これに20±5℃に温調した粗製MDI(MR-200、NCO%=31.5)をイソシアネート指数が300となるよう加えて、撹拌機[ホモディスパー]にて8000rpm×7秒間急速混合して発泡させて得られた、硬質ポリレウタンフォーム又はポリイソシアヌレートフォーム。」(以下、「甲4発明1」という。)
「甲4発明1のポリオールプレミックス(活性水素含有組成物)を作成し、これに20±5℃に温調した粗製MDI(MR-200、NCO%=31.5)をイソシアネート指数が300となるよう加えて、撹拌機[ホモディスパー]にて8000rpm×7秒間急速混合した、硬質ポリレウタンフォーム又はポリイソシアヌレートフォーム用組成物。」(以下、「甲4発明2」という。)
イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲4発明1とを対比する。
甲4発明1の「数平均活性水素含有官能基数が2、水酸基価が250のエステルポリオール(マキシモールRFK-505)」及び「粗製MDI(MR-200、NCO%=31.5)」は、本件発明1の「ポリオール」及び「ポリイソシアネート」にそれぞれ相当する。
ここで、甲4発明1の「粗製MDI」のNCO%(=NCO分子量×官能基数(2)/ポリイソシアネート分子量×100)が31.5%であることから、「粗製MDI」の分子量は266.67(=NCO基分子量(42)×官能基数(2)/NCO%×100)であり、NCO基当量は1.33(=ポリイソシアネート分子量/官能基数(2))であり、イソシアネート指数が300であることから、粗製MDIの重量部は、160重量部(イソシアネート指数={(ポリイソシアネート重量部/NCO基当量)/(ポリオール重量部/OH基当量)}の式から算出した)であるとわかる。
甲4発明1の「発泡剤であるHFC-245fa」は、本件発明1の「有機系物理発泡剤」に相当し、甲4発明1の「水」は、本件発明1の「発泡剤」に相当する。
甲4発明1の「触媒(1,2-ジメチルイミダゾールとギ酸からなる塩)」は3級アミンである樹脂化触媒であるから、本件発明1の「三量化触媒以外の触媒」に相当する。
甲4発明1の「触媒(オクチル酸カリウムのジエチレングリコール溶液、DABCO K-15)」は、濃度70~80質量%の2-エチルヘキサン酸カリウム(オクチル酸カリウムと同義)であるから、本件発明1の「三量化触媒」である「カルボン酸アルカリ金属塩」に相当する。
甲4発明1の「触媒(DABCO TMR7)」は、濃度60~70質量%の酢酸テトラメチルアンモニウム塩であり、本件発明1の「三量化触媒」である「4級アンモニウム塩」に相当する。
ここで、ポリオール及びポリイソシアネートの合計量100重量部に対する三量化触媒の割合を算出すると、0.66~0.76(=(1.5×70~80+1×60~70)/(90+160))となり、本件発明1の「0.6~10重量部」を満たす。
甲4発明1の「難燃剤であるトリクロロプロピルフォスフェート」は、本件発明1の「難燃剤」に相当する。
そして、甲4発明1の「硬質ポリレウタンフォーム又はポリイソシアヌレートフォーム」は、難燃剤を含むから、本件発明1の「難燃性硬質ポリウレタン発泡体」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲4発明1とは、
「難燃剤を含む難燃性硬質ポリウレタン発泡体であって、
前記難燃性硬質ポリウレタン発泡体は、発泡性ポリウレタン樹脂組成物を発泡および硬化させることにより得られ、
前記発泡性ポリウレタン樹脂組成物は、
ポリオール、ポリイソシアネート、触媒、発泡剤及び難燃剤を含み、
前記触媒として、三量化触媒と三量化触媒以外の触媒とを含み、
前記三量化触媒がカルボン酸アルカリ金属塩及び4級アンモニウム塩を含み、
前記三量化触媒以外の触媒が1,2-ジメチルイミダゾールを含み、
前記発泡剤として有機系物理発泡剤を含み、
難燃性硬質ポリウレタン発泡体。」の点で一致し、次の点で相違する。
相違点4a:発泡性ポリウレタン樹脂組成物が、本件発明1は「ビニル重合性化合物を含有するものを除く」のに対して、甲4発明1は「ビニル重合性化合物」を含有する点
相違点4b:本件発明1が「前記発泡体を、温度80℃、湿度85%の条件で1週間、湿熱処理した後の最大ピーク強度比(P1)の、前記湿熱処理する前の前記発泡体の最大ピーク強度比(P2)に対する比率(P1/P2×100)が85%以上であ」り、「但し、前記P1及びP2は、前記発泡体の表層から5mm~10mmの位置における赤外線吸収スペクトルを測定し、1900~2000cm-1の平均強度をゼロに合わせた時の1500~1520cm-1の最大ピーク強度に対する1390~1430cm-1の最大ピーク強度の比をいう。」のに対して、甲4発明1がそのようなものであるのか不明である点
(イ)検討
相違点4aについて検討する。
本件訂正により、本件発明1の発泡性ポリウレタン樹脂組成物から、「ビニル重合性化合物を含有するもの」が除かれた。甲4発明1は、ポリオールプレミックス(活性水素含有組成物)にビニル重合性化合物を含むことにより貯蔵安定性が良好であり、これにより得られる硬質ポリウレタンフォームは難燃性能に優れるという効果を奏するものであるから、甲4発明1を、「ビニル重合性化合物を含有するものを除く」ものにすることには阻害要因があるといえる。
そうすると、相違点4aは実質的な相違点であり、また、甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものでもないといえる。
(ウ)小括
したがって、本件発明1は、相違点4aについて検討するまでもなく、甲4に記載された発明でないし、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1について上記イで述べたのと同じ理由により、甲4に記載された発明でないし、甲4に記載された発明及び甲4の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 本件発明5について
本件発明5と甲4発明2とを対比すると、本件発明1と甲4発明1との間の相違点4aと同内容の点で相違する。
しかしながら、この相違点は、本件発明1について上記イで検討したとおり、実質的な相違点であり、また、甲4に記載された発明及び甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものでもない。
したがって、本件発明5は、甲4に記載された発明でないし、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
オ 本件発明6~7について
本件発明6~7は、本件発明5を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明5について上記エで述べたのと同じ理由により、甲4に記載された発明でないし、甲4に記載された発明及び甲4の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
カ まとめ
以上のとおり、本件発明1~7は、甲4に記載された発明でないし、甲4に記載された発明及び甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、甲4を主引用文献とする取消理由4及び取消理由5、申立理由4によっては、本件発明1~7に係る特許を取り消すことはできない。
5 取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった申立理由について
(1)申立理由3(甲3に基づく新規性)について
ア 甲3に記載された事項及び甲3に記載された発明
甲3の【0072】、【0077】及び表3には、比較例7として、次の発明が記載されている。なお、各成分の含有量は、甲3の各成分の含有量に関する記載から、重量部単位であると解される。
「重量部で、廃PET系ポリエステルポリオール(OH価=241mgKOH/g)40部、マンニッヒ系ポリエーテルポリオール(OH価=469mgKOH/g)40部、脂肪族アミン系ポリエーテルポリオール(OH価=450mgKOH/g)20部、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)28部、難燃剤であるトリス(クロロプロピル)フォスフェート(商品名:ファイロールPCF)20部、水3.0部、整泡剤であるシリコーン系界面活性剤(L-5420)1.5部、有機酸金属塩触媒である2-エチルヘキシル酸鉛(ニッカオクチックス鉛20%(T))0.2部、触媒Cである1,2-ジメチルイミダゾール70%、ジエチレングリコール25%(TOYOCAT―DM70)5.5部、触媒Jである2-エチルヘキシル酸カリウム75%、ジエチレングリコール25%(DABCO K15)22.0部からなるプレミックスAを調合し、10℃に温度調整し、別容器で10℃に温度調整したポリイソシアネート液(MR-200)をイソシアネートインデックスが210となる量だけプレミックスAのカップの中に入れ、素早く撹拌機にて7000rpmで3秒間撹拌してフリー発泡させて得られた、硬質ポリイソシアヌレートフォーム。」(以下、「甲3発明1」という。)
「甲3発明1のプレミックスAを調合し、10℃に温度調整し、別容器で10℃に温度調整したポリイソシアネート液(MR-200)をイソシアネートインデックスが210となる量だけプレミックスAのカップの中に入れ、素早く撹拌機にて7000rpmで3秒間撹拌した、硬質ポリイソシアヌレートフォーム用組成物。」(以下、「甲3発明2」という。)
イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲3発明1とを対比する。
甲3発明1の「廃PET系ポリエステルポリオール(OH価=241mgKOH/g)」、「マンニッヒ系ポリエーテルポリオール(OH価=469mgKOH/g)」及び「脂肪族アミン系ポリエーテルポリオール(OH価=450mgKOH/g)」は、本件発明1の「ポリオール」に相当し、甲3発明1の「ポリイソシアネート液(MR-200)」は、本件発明1の「ポリイソシアネート」に相当する。
甲3発明1の「触媒Jである2-エチルヘキシル酸カリウム75%、ジエチレングリコール25%(DABCO K15)」は、本件発明1の「三量化触媒」である「カルボン酸アルカリ金属塩」に相当し、甲3発明1の「有機酸金属塩触媒である2-エチルヘキシル酸鉛(ニッカオクチックス鉛20%(T))」及び「触媒Cである1,2-ジメチルイミダゾール70%、ジエチレングリコール25%(TOYOCAT―DM70)」は樹脂化触媒であり、本件発明1の「三量化触媒以外の触媒」に相当する。
甲3発明1の「1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)」は、本件発明1の「有機系物理発泡剤」に相当し、甲3発明1の「水」は、本件発明1の「発泡剤」に相当する。
甲3発明1の「難燃剤であるトリス(クロロプロピル)フォスフェート(商品名:ファイロールPCF)」は、本件発明1の「難燃剤」に相当する。
そして、甲3発明1の「硬質ポリイソシアヌレートフォーム」は、甲3の【0006】に記載されるように、ウレタン基形成反応、ウレア基形成反応及びイソシアネートの三量化によるイソシアヌレート環形成反応により得られるものであり、また、難燃剤を含むから、本件発明1の「難燃性硬質ポリウレタン発泡体」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲3発明1とは、
「難燃剤を含む難燃性硬質ポリウレタン発泡体であって、
前記難燃性硬質ポリウレタン発泡体は、発泡性ポリウレタン樹脂組成物を発泡および硬化させることにより得られ、
前記発泡性ポリウレタン樹脂組成物は、
ポリオール、ポリイソシアネート、触媒、発泡剤及び難燃剤を含み、
前記触媒として、三量化触媒と三量化触媒以外の触媒とを含み、
前記三量化触媒がカルボン酸アルカリ金属塩を含み、
前記三量化触媒以外の媒が1,2-ジメチルイミダゾールを含み、
前記発泡剤として有機系物理発泡剤を含む、難燃性硬質ポリウレタン発泡体。」の点で一致し、次の点で相違する。
相違点3a:三量化触媒であるカルボン酸アルカリ金属塩に加えて、本件発明1は「4級アンモニウム塩」を含むのに対して、甲3発明1は「4級アンモニウム塩」を含むものではない点
相違点3b:本件発明1が「前記発泡体を、温度80℃、湿度85%の条件で1週間、湿熱処理した後の最大ピーク強度比(P1)の、前記湿熱処理する前の前記発泡体の最大ピーク強度比(P2)に対する比率(P1/P2×100)が85%以上であ」り、「但し、前記P1及びP2は、前記発泡体の表層から5mm~10mmの位置における赤外線吸収スペクトルを測定し、1900~2000cm-1の平均強度をゼロに合わせた時の1500~1520cm-1の最大ピーク強度に対する1390~1430cm-1の最大ピーク強度の比をいう。」のに対して、甲3発明1がそのようなものであるか不明である点
相違点3c:発泡性ポリウレタン樹脂組成物が、本件発明1は、「ビニル重合性化合物を含有するものを除く」のに対して、甲3発明1は、ビニル重合性化合物を含有するかが不明である点
(イ)検討
相違点3aについて検討する。
甲3発明1は、三量化触媒として4級アンモニウム塩を含有しないから、相違点3aは実質的な相違点であり、本件発明1は甲3に記載された発明ではない。
(ウ)小括
したがって、本件発明1は、相違点3b及び3cについて検討するまでもなく、甲3に記載された発明でない。
ウ 本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1について上記イで述べたのと同じ理由により、甲3に記載された発明でない。
エ 本件発明5について
本件発明5と甲3発明2を対比すると、本件発明1と甲3発明1の相違点3aと同内容の相違点があり、その相違点は、本件発明1について上記イで述べたのと同じ理由により、実質的な相違点であるから、本件発明5は甲3に記載された発明でない。
オ 本件発明6~7について
本件発明6~7は、本件発明5を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明5について上記ウで述べたのと同じ理由により、甲3に記載された発明でない。
カ まとめ
以上のとおり、本件発明1~7は、甲3に記載された発明でないから、甲3を主引用文献とする申立理由3によっては、本件発明1~7に係る特許を取り消すことはできない。
(2)申立理由5(甲4に基づく拡大先願)について
申立理由5は、本件の優先権主張が認められることを前提とした理由であるが、上記4(3)で述べたとおり、本件の優先権主張は認められないので、甲4は、本件特許の出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた特許出願(以下、「他の出願」という。)でないから、甲4を他の出願とする特許法第29条の2の適用はない。
したがって、甲4を他の出願とする申立理由5によっては、本件発明1~7に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、請求項1~7に係る特許は、当審が通知した取消理由通知書(決定の予告)の取消理由、及び、特許異議申立書の申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-700680