特許異議申立
2023-700406
高耐熱樹脂硬化物用組成物、それを用いた電子部品及び半導体装置
- 審判番号
- 2023-700406
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-162894
- 登録番号
- 7168157
- 請求日
- 2023年04月20日
- 審決日
- 2024年03月28日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】国立大学法人信州大学
- 【権利者代理人】弁理士法人MTI特許事務所
- 【権利者】富士電機株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人MTI特許事務所
- 【異議申立人】藤江 桂子
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 小出 直也
- 審判官 海老原 えい子
- 分類
- P1651.113-YAA(C08G) / P1651.121-YAA(C08G) / P1651.161-YAA(C08G) / P1651.536-YAA(C08G) / P1651.537-YAA(C08G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第9項、特許法第131条の2第1項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条の2、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7168157号発明「高耐熱樹脂硬化物用組成物、それを用いた電子部品及び半導体装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7168157号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の〔1-10〕について訂正することを認める。
特許第7168157号の請求項2、4-10に係る特許を維持する。
特許第7168157号の請求項1、3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許(特許第7168157号)に係る出願(請求項の数9。以下「本件特許」という。)は、平成29年8月25日の出願(特願2017-162894号)であって、令和4年10月31日にその特許権の設定登録がされ、同年11月9日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和5年4月20日に、請求項1~9に係る特許に対して、特許異議申立人 藤江 桂子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
その後の手続の経緯は、次のとおりである。
令和5年 7月24日付け 取消理由通知書
同年 9月20日 訂正請求、意見書(特許権者)
同年10月12日付け 訂正拒絶理由通知書
同年10月25日付け 応対記録
同年11月 9日 手続補正書、意見書(特許権者)
同年11月27日付け 通知書
同年12月 7日付け 通知書(申立人宛)
12月11日付け 誤送通知書
ここで、令和5年11月27日付け通知書は誤って特許権者に送付されたので、これに対して誤送通知書が出された(同年12月11日付け)。
申立人宛に送付された同年12月7日付け通知書に対して、申立人からの応答はなかった。
第2 訂正の適否
1 令和5年9月20日提出の訂正請求書による訂正の内容
令和5年9月20日提出の訂正請求書による訂正の内容は、以下のとおりである
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂が5質量%~20質量%の割合で配合されている、請求項1に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物。」とあるのを、独立形式に改め、「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する高耐熱樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化触媒」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有し、前記(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂が5質量%~20質量%の割合で配合されている、ことを特徴とする高耐熱樹脂硬化物用組成物。」に訂正する(請求項2を直接的又は間接的に引用する訂正後の請求項8~11,13も同様に訂正する)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
ア 訂正事項4-1
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
イ 訂正事項4-2
a)特許請求の範囲の請求項4に「酸無水物を含まない、請求項1~3のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物。」とあるうち、請求項2を引用するものについては、「酸無水物を含まない、請求項2,5~7のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物。」とした新たな請求項10を設けて当該請求項10が含むように訂正する。
b)特許請求の範囲の請求項4の「酸無水物を含まない、請求項1~3のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物。」は訂正前の請求項5~7が引用しているが、訂正前の請求項5~7が請求項4を引用するものについては、上記「酸無水物を含まない、請求項2,5~7のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物。」とした新たな請求項10を設けて当該請求項10が含むように訂正する。
c)これらの訂正により、訂正前の請求項4の「酸無水物を含まない」は、訂正後の請求項2,5~7を引用する新たな請求項10を設けて当該請求項10が含むように訂正する。
ウ 訂正事項4-3
特許請求の範囲の請求項4の「酸無水物を含まない、請求項1~3のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物。」は訂正前の請求項8が引用しているが、請求項8が請求項4を引用するものについて、「前記高耐熱樹脂硬化物用組成物が酸無水物を含まない、請求項8に記載の電子部品。」とした新たな請求項11を設けて当該請求項11が含むように訂正する。
エ 訂正事項4-4
特許請求の範囲の請求項4の「酸無水物を含まない、請求項1~3のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物。」は訂正前の請求項9が引用しているが、訂正後の請求項9では、請求項2、5~7を引用し、請求項4を引用しないものとなっている。また、訂正後の請求項12は請求項1と請求項9で再構成した新しい独立形式の請求項としており、請求項4を引用しないものとなっている。訂正後の請求項9が請求項4を引用しないもの、及び訂正後の請求項12が請求項4を引用しないものについては、「前記高耐熱樹脂硬化物用組成物が酸無水物を含まない、請求項9又は12に記載の半導体装置。」とした新たな請求項13を設けるように訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「100℃から300℃までの貯蔵弾性率(E’)の温度特性における傾き(d1ogE’/dT)の絶対値の最大値は0.05GPa/℃以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する高耐熟樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化触媒」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有し、前記(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂が5質量%~30質量%(30質量%の場合を除く。)の割合で配合されており、100℃から300℃までの貯蔵弾性率(E’)の温度特性における傾き(dlogE’/dT)の絶対値の最大値は0.05GPa/℃以下である、ことを特徴とする高耐熱樹脂硬化物用組成物。」に訂正する(請求項5を直接的又は間接的に引用する請求項8~11,13も同様に訂正する)。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「前記高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃までの加熱減量測定において、その熱重量減少率が1.5%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する高耐熱樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化触媒」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有し、前記(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂が5質量%~30質量%(30質量%の場合を除く。)の割合で配合されており、前記高耐熟樹脂硬化物用組成物を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃までの加熱減量測定において、その熱重量減少率が1.5%以下である、ことを特徴とする高耐熱樹脂硬化物用組成物。」に訂正する(請求項6を直接的又は間接的に引用する請求項8~11,13も同様に訂正する)。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に「前記高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃まで加熱した際の貯蔵弾性率の減少率が92%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する高耐熱樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化触媒」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有し、前記(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂が5質量%~30質量%(30質量%の場合を除く。)の割合で配合されており、前記高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃まで加熱した際の貯蔵弾性率の減少率が92%以下である、ことを特徴とする高耐熱樹脂硬化物用組成物。」に訂正する(請求項7を直接的又は間接的に引用する請求項8~11,13も同様に訂正する)。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1~7のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させてなる樹脂硬化物が、少なくとも一部に用いられている電子部品。」とあるうち、独立形式に訂正した請求項2、5~7を引用するものについて、「請求項2,5~7のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させてなる樹脂硬化物が、少なくとも一部に用いられている電子部品。」に訂正する(請求項8を直接的に引用する請求項11も同様に訂正する)。
(9)訂正事項9
ア 訂正事項9-1
特許請求の範囲の請求項9に「基板上に実装された半導体素子と金属部材とを含む部材を、請求項1~7のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物を含む封止材により封止してなる半導体装置。」とあるうち、独立形式に訂正した請求項2、5~7を引用するものについて、「基板上に実装された半導体素子と金属部材とを含む部材を、請求項2,5~7のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物を含む封止材により封止してなる半導体装置。」に訂正する(請求項9を直接的に引用する請求項13も同様に訂正する)。
イ 訂正事項9-2
特許請求の範囲の請求項9に「基板上に実装された半導体素子と金属部材とを含む部材を、請求項1~7のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物を含む封止材により封止してなる半導体装置。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、「基板上に実装された半導体素子と金属部材とを含む部材を、高耐熱樹脂硬化物用組成物を含む封止材により封止してなる半導体装置であって、前記高耐熱樹脂硬化物用組成物が、エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する高耐熱樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化触媒」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有し、前記(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂が5質量%~30質量%(30質量%の場合を除く。)の割合で配合されている、ことを特徴とする半導体装置。」とした新たな請求項12に訂正する。(請求項12を直接的に引用する請求項13も同様に訂正する)
2 令和5年10月12日付けの訂正拒絶理由通知について
令和5年10月12日付けの訂正拒絶理由通知の内容は、概略以下のとおりである。
訂正事項4-2、4-3、及び4-4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号~第4号のいずれをも目的とするものではないから、令和5年9月20日に提出された訂正請求書による訂正請求は認められない。
3 令和5年11月9日提出の手続補正書による訂正請求書の補正について
(1)補正の内容
令和5年11月9日提出の手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、同年9月20日提出の訂正請求書、訂正特許請求の範囲を補正することを求めるものであり、その内容は実質的に以下のとおりである。
ア 訂正事項2について、「(請求項2を直接的又は間接的に引用する訂正後の請求項8~11,13も同様に訂正する)。」とあったのを、「(請求項2を直接的又は間接的に引用する訂正後の請求項8及び9も同様に訂正する)。」と補正する。
イ 訂正事項4について、訂正事項4-1~訂正事項4-4があったのを、「特許請求の範囲の請求項4に「酸無水物を含まない、請求項1~3のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物。」とあるうち、請求項2を引用するものについて「酸無水物を含まない、請求項2項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物。」に訂正する。」なる訂正事項4に補正する。
ウ 訂正事項5について、「(請求項5を直接的又は間接的に引用する請求項8~11,13も同様に訂正する)。」とあったのを、「(請求項5を直接的又は間接的に引用する請求項8及び9も同様に訂正する)。」と補正する。
エ 訂正事項6について、「(請求項6を直接的又は間接的に引用する請求項8~11,13も同様に訂正する)。」とあったのを、「(請求項6を直接的又は間接的に引用する請求項8及び9も同様に訂正する)。」と補正する。
オ 訂正事項7について、「(請求項7を直接的又は間接的に引用する請求項8~11,13も同様に訂正する)。」とあったのを、「(請求項7を直接的又は間接的に引用する請求項8及び9も同様に訂正する)。」と補正する。
カ 訂正事項8について、「独立形式に訂正した請求項2,5~7を引用するものについて、「請求項2,5~7のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させてなる樹脂硬化物が、少なくとも一部に用いられている電子部品。」に訂正する(請求項8を直接的に引用する請求項11も同様に訂正する)。」とあったのを、「独立形式に訂正した請求項2,4~7を引用するものについて、「請求項2,4~7のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させてなる樹脂硬化物が、少なくとも一部に用いられている電子部品。」に訂正する。」と補正する。
キ 訂正事項9について、
(ア)訂正事項9-1に関し、「独立形式に訂正した請求項2,5~7を引用するものについて、「基板上に実装された半導体素子と金属部材とを含む部材を、請求項2,5~7のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物を含む封止材により封止してなる半導体装置。」に訂正する(請求項9を直接的に引用する請求項13も同様に訂正する)。」とあったのを、「独立形式に訂正した請求項2,4~7を引用するものについて、「基板上に実装された半導体素子と金属部材とを含む部材を、請求項2,4~7のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物を含む封止材により封止してなる半導体装置。」に訂正する。」と補正する。
(イ)訂正事項9-2に関し、「新たな請求項12に訂正する。(請求項12を直接的に引用する請求項13も同様に訂正する)」とあったのを、「新たな請求項10に訂正する。」と補正する。
(2)補正の適否について
以下、本件補正が訂正請求書の要旨変更にあたらないかについて検討する。
ア 訂正事項4に関する補正(上記(1)イ)は、訂正事項4(4-1~4-4)を削除した上で、請求項4が請求項1~3を引用していたものを、訂正事項1及び3により請求項1及び3が削除されたことに整合させて、これらの請求項を引用しないことにしたものであるから、要旨変更には当たらない。
イ 訂正事項9-2に関する補正(上記(1)キ(イ))は、上記アのとおり訂正事項4の削除により請求項11、13が存在しなくなったことに整合させて、「新たな請求項」を「12」に代えて「10」とするとともに、「請求項13も同様に訂正する」なる事項を削除したものであるから、要旨変更には当たらない。
ウ 訂正事項2、5~7に関する補正(上記(1)ア、ウ~オ)は、上記アのとおり訂正事項4が補正されたことにより請求項11、13が存在しなくなったことと上記イのとおり訂正事項9-2により請求項10は請求項2を引用しないものになったことに整合させて「同様に訂正する」請求項を整理したものだから、要旨変更には当たらない。
エ 訂正事項8(上記(1)カ)及び訂正事項9-1(上記(1)キ(ア))に関する補正は、訂正事項8及び旧訂正事項9-1をそれぞれ削除した上で、請求項8、9がいずれも請求項1~7を引用していたものを、訂正事項1及び3により請求項1及び3が削除されたことに整合させて、引用する請求項からこれらの請求項を削除したものであるから、要旨変更には当たらない。
よって、上記補正は、訂正請求書の要旨を変更するものではない。
したがって、当該手続補正書による訂正請求書の補正を認める(特許法第120条の5第9項において準用する特許法第131条の2第1項)。
4 令和5年11月9日提出の手続補正書による補正書で補正された訂正請求書の訂正の内容
令和5年11月9日提出の手続補正書による補正書で補正された訂正請求書の訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂が5質量%~20質量%の割合で配合されている、請求項1に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物。」とあるのを、独立形式に改め、「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する高耐熱樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化触媒」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有し、前記(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂が5質量%~20質量%の割合で配合されている、ことを特徴とする高耐熱樹脂硬化物用組成物。」に訂正する(請求項2を直接的又は間接的に引用する訂正後の請求項8及び9も同様に訂正する)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「酸無水物を含まない、請求項1~3のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物。」とあるうち、削除した請求項1、3について引用関係を解消し、訂正した請求項2を引用するものについては「酸無水物を含まない、請求項2に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「100℃から300℃までの貯蔵弾性率(E’)の温度特性における傾き(d1ogE’/dT)の絶対値の最大値は0.05GPa/℃以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する高耐熟樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化触媒」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有し、前記(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂が5質量%~30質量%(30質量%の場合を除く。)の割合で配合されており、100℃から300℃までの貯蔵弾性率(E’)の温度特性における傾き(dlogE’/dT)の絶対値の最大値は0.05GPa/℃以下である、ことを特徴とする高耐熱樹脂硬化物用組成物。」に訂正する(請求項5を直接的又は間接的に引用する請求項8及び9も同様に訂正する)。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「前記高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃までの加熱減量測定において、その熱重量減少率が1.5%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する高耐熱樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化触媒」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有し、前記(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂が5質量%~30質量%(30質量%の場合を除く。)の割合で配合されており、前記高耐熟樹脂硬化物用組成物を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃までの加熱減量測定において、その熱重量減少率が1.5%以下である、ことを特徴とする高耐熱樹脂硬化物用組成物。」に訂正する(請求項6を直接的又は間接的に引用する請求項8及9も同様に訂正する)。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に「前記高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃まで加熱した際の貯蔵弾性率の減少率が92%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する高耐熱樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化触媒」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有し、前記(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂が5質量%~30質量%(30質量%の場合を除く。)の割合で配合されており、前記高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃まで加熱した際の貯蔵弾性率の減少率が92%以下である、ことを特徴とする高耐熱樹脂硬化物用組成物。」に訂正する(請求項7を直接的又は間接的に引用する請求項8及び9も同様に訂正する)。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1~7のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させてなる樹脂硬化物が、少なくとも一部に用いられている電子部品。」とあるうち、独立形式に訂正した請求項2、4~7を引用するものについて、「請求項2,4~7のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させてなる樹脂硬化物が、少なくとも一部に用いられている電子部品。」に訂正する。
(9)訂正事項9
ア 訂正事項9-1
特許請求の範囲の請求項9に「基板上に実装された半導体素子と金属部材とを含む部材を、請求項1~7のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物を含む封止材により封止してなる半導体装置。」とあるうち、独立形式に訂正した請求項2、4~7を引用するものについて、「基板上に実装された半導体素子と金属部材とを含む部材を、請求項2,4~7のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物を含む封止材により封止してなる半導体装置。」に訂正する。
イ 訂正事項9-2
特許請求の範囲の請求項9に「基板上に実装された半導体素子と金属部材とを含む部材を、請求項1~7のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物を含む封止材により封止してなる半導体装置。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、「基板上に実装された半導体素子と金属部材とを含む部材を、高耐熱樹脂硬化物用組成物を含む封止材により封止してなる半導体装置であって、前記高耐熱樹脂硬化物用組成物が、エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する高耐熱樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化触媒」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有し、前記(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂が5質量%~30質量%(30質量%の場合を除く。)の割合で配合されている、ことを特徴とする半導体装置。」とした新たな請求項10に訂正する。
(10)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~9は、それぞれ請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~9は特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
そして、本件補正後の本件訂正請求では、特定の請求項について別の訂正単位とする求めがされていない。
よって、本件訂正請求は、一群の請求項である訂正前の請求項1~9に対応する訂正後の請求項〔1~10〕を訂正単位とするものである。
5 本件訂正の適否
(1)訂正事項1及び3について
訂正事項1及び3は、それぞれ本件訂正前の請求項1及び3を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、新規事項の追加には当たらず、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更にも当たらない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2が同請求項1を引用していたところ、これを書き下して独立形式に改めたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書同第4号に規定の「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、新規事項の追加には当たらず、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更にも当たらない。
(3)訂正事項4について
訂正事項4は、本件訂正前の請求項4が同請求項1~3を引用していたところ、訂正事項1及び3により請求項1及び3が削除されたことに整合させて請求項2のみを引用することとしたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、新規事項の追加には当たらず、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更にも当たらない。
(4)訂正事項5~7について
訂正事項5~7は、本件訂正前の請求項5が同請求項1~4を、本件訂正前の請求項6が同請求項1~5を、本件訂正前の請求項7が同請求項1~6をそれぞれ引用していたところ、いずれも請求項1を引用するものについて、これを書き下して独立形式に改めたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定の「特許請求の範囲の減縮」及びただし書同第4号に規定の「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、新規事項の追加には当たらず、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更にも当たらない。
(5)訂正事項8、9-1について
訂正事項8、9-1は、本件訂正前の請求項8及び9がいずれも本件訂正前の請求項1~7を引用していたところ、訂正事項1及び3により請求項1及び3が削除されたことに整合させて請求項2、4~7を引用することとしたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、新規事項の追加には当たらず、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更にも当たらない。
(9)訂正事項9-2について
訂正事項9-2は、本件訂正前の請求項9が同請求項1~7を引用していたところ、このうち、請求項1を引用するものを書き下して新たに請求項10としたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定の「特許請求の範囲の減縮」及び同第4号に規定の「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、また、新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更には当たらない。
6 小括
したがって、訂正事項1~9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、本件訂正を認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件の請求項1~10に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明10」といい、これらを併せて「本件発明」という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項によって特定される以下のとおりのものであると認められる。
【請求項1】 (削除)
【請求項2】
エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する高耐熱樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化剤」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有し、
前記(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂が5質量%~20質量%の割合で配合されている、ことを特徴とする高耐熱樹脂硬化物用組成物。
【請求項3】 (削除)
【請求項4】 酸無水物を含まない、請求項2に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物。
【請求項5】
エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する高耐熱樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化触媒」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有し、
前記(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂が5質量%~30質量%(30質量%の場合を除く。)の割合で配合されており、
100℃から300℃までの貯蔵弾性率(E’)の温度特性における傾き(d1ogE’/dT)の絶対値の最大値は0.05GPa/℃以下である、ことを特徴とする高耐熱樹脂硬化物用組成物。
【請求項6】
エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する高耐熱樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化触媒」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有し、
前記(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂が5質量%~30質量%(30質量%の場合を除く。)の割合で配合されており、
前記高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃までの加熱減量測定において、その熱重量減少率が1.5%以下である、ことを特徴とする高耐熱樹脂硬化物用組成物。
【請求項7】
エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する高耐熱樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化触媒」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有し、
前記(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂が5質量%~30質量%(30質量%の場合を除く。)の割合で配合されており、
前記高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃まで加熱した際の貯蔵弾性率の減少率が92%以下である、ことを特徴とする高耐熱樹脂硬化物用組成物。
【請求項8】
請求項2,4~7のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させてなる樹脂硬化物が、少なくとも一部に用いられている電子部品。
【請求項9】
基板上に実装された半導体素子と金属部材とを含む部材を、請求項2,4~7のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物を含む封止材により封止してなる半導体装置。
【請求項10】
基板上に実装された半導体素子と金属部材とを含む部材を、高耐熱樹脂硬化物用組成物を含む封止材により封止してなる半導体装置であって、
前記高耐熱樹脂硬化物用組成物が、エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する高耐熱樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化触媒」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有し、前記(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂が5質量%~30質量%(30質量%の場合を除く。)の割合で配合されている、ことを特徴とする半導体装置。
第4 異議申立ての理由と当審が通知した取消理由
1 特許異議の申立ての理由
(1)特許異議の申立ての理由は、概略次のとおりである。
ア 申立理由1(特許法第29条第1項第3号(甲第4号証に基づく新規性))
対象:請求項1~8
イ 申立理由2(特許法第29条の2(甲第5号証に基づく拡大先願))
対象:請求項1~8
ウ 申立理由3(特許法第29条第2項(進歩性))
(ア)甲第1号証を主引例とするもの
対象:請求項1~9
(イ)甲第2号証を主引例とするもの
対象:請求項1~9
(ウ)甲第3号証を主引例とするもの
対象:請求項1~8
エ 申立理由4(特許法第36条第6項第2号(明確性))
対象:請求項1~9
オ 申立理由5(特許法第36条第6項第1号(サポート要件))
対象:請求項1~9
カ 申立理由6(特許法第36条第4項第1号(実施可能要件))
対象:請求項1~9
(2)申立人が提出した証拠方法は以下のとおりである。
甲第1号証:特開2015-140394号公報
甲第2号証:特開昭62-292825号公報
甲第3号証:特開2007-84796号公報
甲第4号証:特開2013-173819号公報
甲第5号証:特願2016-189391号(特開2018-53056号)
甲第6号証:小椋一郎、「エポキシ樹脂の化学構造と特性の関係」、DIC Technical Review、No.7、2001年、p.1-12)
甲第7号証:小椋一郎、「高機能エポキシ樹脂の設計技術」、ネットワークポリマー、31巻、3号、2010年、p.113-124
甲第8号証:特開平10-182950号公報
甲第9号証:特開2016-204669号公報
甲第10号証:加門隆、外3名、「エポキシ樹脂の硬化に関する研究(第V報)」、色材協会誌、49巻、1976年、2号、p.82-89
甲第11号証:小椋一郎、「特殊半導体パッケージ(BGA)用絶縁部材のための新規高性能エポキシ樹脂の開発研究」、東京工業大学博士論文、2010年、抜粋(表紙、目次、p.9、14、15、51、52、115-130)
甲第12号証:特開2015-172105号公報
甲第13号証:有田和郎、「高耐熱性エポキシ樹脂の開発に向けた基礎検討」、ネットワークポリマー、36巻、5号、2015年、p.255-264
甲第14号証:特開2014-177530号公報
(以下「甲第1号証」~「甲第14号証」を、それぞれ「甲1」~「甲14」という。)
2 当審で通知した取消理由
本件訂正前の特許請求の範囲に係る発明について令和5年7月24日付けで通知した取消理由の内容は、概略、次のとおりである。
(1)取消理由1(特許法第29条第1項第3号(甲4に基づく新規性))
対象:請求項1、3、4、8
(2)取消理由2(特許法第29条第2項(甲4に基づく進歩性))
対象:請求項1、3、4、8
(3)取消理由3(特許法第36条第6項第2号(明確性))
対象:請求項3~9
第5 当審の判断
以下、次の順序で検討を行う。
1 甲4を主引例とする新規性に関する申立理由1(対象請求項2、4~8)及び甲4を主引例とする新規性、進歩性に関する取消理由1、2(対象請求項4、8)
2 甲5に基づく拡大先願に関する申立理由2(対象請求項2、4~8)
3 進歩性に関する申立理由3のうち甲1を主引例とするもの(対象請求項2、4~10)
4 進歩性に関する申立理由3のうち甲2を主引例とするもの(対象請求項2、4~10)
5 進歩性に関する申立理由3のうち甲3を主引例とするもの(対象請求項2、4~8)
6 明確性に関する取消理由3及び申立理由4について
7 サポート要件に関する申立理由5について
8 実施可能要件に関する申立理由6について
1 甲4を主引例とする新規性に関する申立理由1(対象請求項2、4~8)及び甲4を主引例とする新規性、進歩性に関する取消理由1、2(対象請求項4、8)について
(1)甲4に記載された発明
甲4の実施例3(【0036】~【0041】)に着目すると、甲4には以下の発明が記載されていると認められる。
「エポキシ樹脂A(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)を30質量%、エポキシ樹脂B(グリシジルエステル型エポキシ樹脂)を10質量%、エポキシ樹脂C(ダイマー酸型半固形エポキシ樹脂)を10質量%、エポキシ樹脂D(ナフタレン型エポキシ樹脂)を10質量%、単官能グリシジル基含有化合物を30質量%、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールであるエポキシ樹脂硬化剤を1質量%、チクソ剤を2質量%、有機酸を5質量%、界面活性剤を1質量%、消泡剤を1質量%含む熱硬化性樹脂組成物。」(以下、「甲4発明」という。)
「甲4発明の熱硬化性樹脂組成物が付着したBGAパッケージを実装基板の接合用ランド上に搭載してリフロー炉で加熱することにより、BGAパッケージと実装基板とを接合したもの。」(以下「甲4発明2」という。)
(2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲4発明とを対比する。
(ア)甲4発明のエポキシ樹脂A(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)及びエポキシ樹脂D(ナフタレン型エポキシ樹脂)は、それぞれ、本件発明2の「(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂」及び「(b)ナフタレン型エポキシ樹脂」に相当する。
(イ)甲4発明の、「2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールであるエポキシ樹脂硬化剤」は、本件発明2の「重合触媒型硬化剤として」の「(c)イミダゾール型硬化触媒」に相当する。
(ウ)甲4発明は、「熱硬化性樹脂組成物」であるから「樹脂硬化物用組成物」であるといえる。そして、甲4発明の「熱硬化性樹脂組成物」は、フェノール硬化剤とアミン硬化剤のいずれも含まない。
(エ)そうすると、本件発明2と甲4発明とは、
「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する樹脂硬化物用組成物であってエポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化剤」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有する樹脂硬化物用組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点1】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明2では「高耐熱」であるのに対して甲4発明ではこの点についての記載がない点
【相違点2】
(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対する(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の配合量について、本件発明2では「5質量%~20質量%」であるのに対して甲4発明では25質量%(=[10/(30+10)]×100)である点
イ 判断
事案に鑑み相違点2から判断すると、甲4発明の「25質量%」とのナフタレン型エポキシ樹脂の配合量は、本件発明2の「5質量%~20質量%」の範囲にはないから、相違点2は実質的な相違点である。
よって、相違点1について検討するまでもなく本件発明2は甲4発明、すなわち甲4に記載された発明ではない。
(3)本件発明4について
ア 本件発明4は、本件発明2を引用するものであるところ、上記(2)のとおり本件発明2は甲4に記載された発明ではないから、本件発明4も甲4に記載された発明ではない。
イ 次に、本件発明4が甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるかについて検討する。
上記(2)アのとおり、本件発明2と甲4発明とは相違点1及び相違点2において相違するから、本件発明4と甲4発明とは少なくともこれらの相違点で相違する。
そこで、事案に鑑み相違点2から検討する。
(ア)本件明細書には、(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の配合割合が増える程熱重量減少率は小さくガラス転移温度は高まりブロードになる一方で、粘度が高まり流動性がなくなって施工が困難となるため、ナフタレン型エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、30質量%以下であることが好ましいこと、ナフタレン型エポキシ樹脂の配合量が極端に少なくなると熱重量減少率やガラス転移温度に関する改善効果が十分なものとはならなくなるため、ナフタレン型エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、5質量%以上含まれていることが好ましいことが記載されている(【0035】)。
ここで、本件明細書の【0013】の記載によれば、「熱重量減少率が小さく、ブロードなガラス転移温度を示す」ことで「高い耐熱性を有する」ものといえる。
そうすると、本件発明2の、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対するナフタレン型エポキシ樹脂の配合量である「5質量%~20質量%」は、硬化物の耐熱性と組成物の流動性の観点から規定されたものであることが理解できる。
(イ)これに対して、甲4は特定のパッケージ部品の接合方法に用いる熱硬化性樹脂組成物であって、含有されるエポキシ樹脂がダイマー酸型エポキシ樹脂を含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物を開示する文献であり(請求項1)、甲4発明はその実施例である。そして甲4発明の熱硬化性樹脂組成物が含有する「ビスフェノールA型エポキシ樹脂」及び「ナフタレン型エポキシ樹脂」に関しては、「ダイマー酸型以外のエポキシ樹脂として」「ナフタレン型、液状ビスフェノールA型、液状ビスフェノールF型、液状水添タイプのビスフェノールA型が好ましい。」(【0021】)と記載されているにとどまり、特に「ビスフェノールA型エポキシ樹脂」及び「ナフタレン型エポキシ樹脂」に着目してこれらの配合比を調整して「5質量%~20質量%」とすることについては、記載も示唆もされていない。
そうであれば、甲4発明において「ビスフェノールA型エポキシ樹脂」及び「ナフタレン型エポキシ樹脂」の総量に対する、「ナフタレン型エポキシ樹脂」の配合量を「5質量%~20質量%」とすることが動機付けられたことの根拠は見出せない。
また、他の証拠をみても、かかる事項が動機づけられたとするに足りる根拠は見出せない。
(ウ)よって、相違点2に係る事項は当業者が容易に想到し得たものではない。
したがって、相違点2は実質的な相違点であり、相違点2に係る事項は当業者が容易に想到し得た事項ではないので、相違点1について検討するまでもなく、本件発明4は甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明5について
ア 対比
甲4発明では、エポキシ樹脂A(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)とエポキシ樹脂D(ナフタレン型エポキシ樹脂)の総量に対して、エポキシ樹脂D(ナフタレン型エポキシ樹脂)は25質量%(=[10/(30+10)]×100)配合されていることを踏まえ、上記(2)アと同様に本件発明5と甲4発明とを対比すると両者は、
「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化触媒」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有し、前記(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂が5質量%~30質量%(30質量%の場合を除く。)の割合で配合されている、樹脂硬化物用組成物。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点3】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明5では「高耐熱」であるのに対して、甲4発明では、この点についての記載がない点
【相違点4】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明5では「100℃から300℃までの貯蔵弾性率(E’)の温度特性における傾き(d1ogE’/dT)の絶対値の最大値は0.05GPa/℃以下である」のに対して、甲4発明ではこの点についての記載がない点
イ 判断
事案に鑑み相違点4から判断すると、甲4発明では「100℃から300℃までの貯蔵弾性率(E’)の温度特性における傾き(d1ogE’/dT)の絶対値の最大値は0.05GPa/℃以下である」であると解すべき根拠はないから、相違点4は実質的な相違点である。
よって、相違点3について検討するまでもなく本件発明5は甲4発明、すなわち甲4に記載された発明ではない。
(5)本件発明6について
ア 対比
上記(4)アと同様にして本件発明6と甲4発明を対比すると、両者は、
「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化触媒」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有し、前記(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂が5質量%~30質量%(30質量%の場合を除く。)の割合で配合されている、樹脂硬化物用組成物。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点5】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明6では「高耐熱」であるのに対して、甲4発明ではこの点についての記載がない点
【相違点6】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明6では「樹脂硬化物用組成物」「を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃までの加熱減量測定において、その熱重重量減少率が1.5%以下である」のに対して、甲4発明ではこの点についての記載がない点
イ 判断
事案に鑑み相違点6から判断すると、甲4発明では「樹脂硬化物用組成物」「を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃までの加熱減量測定において、その熱重量減少率が1.5%以下である」と解すべき根拠はないから、相違点6は実質的な相違点である。
よって、相違点5について検討するまでもなく本件発明6は甲4発明、すなわち甲4に記載された発明ではない。
(6)本件発明7について
ア 対比
上記(4)アと同様にして本件発明7と甲4発明を対比すると、両者は、
「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化触媒」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有し、前記(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂が5質量%~30質量%(30質量%の場合を除く。)の割合で配合されている、樹脂硬化物用組成物。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点7】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明7では「高耐熱」であるのに対して、甲4発明ではこの点についての記載がない点
【相違点8】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明7では「熱樹脂硬化物用組成物」「を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃まで加熱した際の貯蔵弾性率の減少率が92%以下である」のに対して、甲4発明ではこの点についての記載がない点
イ 判断
事案に鑑み、相違点8から検討すると、「樹脂硬化物用組成物」「を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃まで加熱した際の貯蔵弾性率の減少率が92%以下である」と解すべき根拠はないから、相違点8は実質的な相違点である。
よって、相違点7について検討するまでもなく本件発明7は甲4発明、すなわち甲4に記載された発明ではない。
(7)本件発明8について
ア 本件発明8は本件発明2、4~7を引用するものであるところ、これらの発明は上記(2)~(6)のとおり、甲4に記載された発明ではないから、本件発明8も甲4に記載された発明ではない。
イ 次に、本件発明8が甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたかについて検討する。
(ア)対比
本件発明8と甲4発明2とを対比する。
甲4発明2の「BGAパッケージと実装基板とを接合したもの」は電子部品であるといえるから、本件発明8と甲4発明2とは
「硬化用組成物を硬化させてなる樹脂硬化物が、少なくとも一部に用いられている電子部品。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点9】
「硬化用組成物」が、本件発明8では「請求項2、4~7のいずれかに1項に記載の高耐熱樹脂硬化物」であるのに対して甲4発明2では「甲4発明の熱硬化性樹脂組成物」である点
(イ)判断
上記相違点について検討する。
a 本件発明8が「請求項2」「に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させてなる樹脂硬化物」である場合について
本件発明8の「請求項2」に「記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物」と「甲4発明の熱硬化性樹脂組成物」とは、上記(2)アのとおり、相違点1及び相違点2で相違するところ、このうち相違点2について、当業者が容易に想到し得たものではないことは上記(3)イのとおりである。
よって、本件発明8が「請求項2」「に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させてなる樹脂硬化物」である場合、相違点9に係る事項は当業者が容易に想到し得たものではない。
b 本件発明8が「請求項4」「に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させてなる樹脂硬化物」である場合について
上記(3)イのとおり本件発明4は甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないことに照らせば、本件発明8が「請求項4」「に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させてなる樹脂硬化物」である場合、相違点9に係る事項は当業者が容易に想到し得たものではないことは明らかである。
c 本件発明8が「請求項5」「請求項6」又は「請求項7」「に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させてなる樹脂硬化物」である場合について
本件発明8の「請求項5」に「記載の高耐熱樹脂硬化物」と「甲4発明の熱硬化性樹脂組成物」とは、上記(4)アのとおり、相違点3及び相違点4で相違し、本件発明8の「請求項6」に「記載の高耐熱樹脂硬化物」と「甲4発明の熱硬化性樹脂組成物」とは、上記(5)アのとおり、相違点5及び相違点6で相違し、本件発明8の「請求項7」に「記載の高耐熱樹脂硬化物」と「甲4発明の熱硬化性樹脂組成物」とは、上記(6)アのとおり、相違点7及び相違点8で相違する。
そこで、相違点9の容易想到性について検討するために、事案に鑑み、相違点4、相違点6及び相違点8についてそれぞれ検討すると、甲4には、「熱硬化性樹脂組成物」の「100℃から300℃までの貯蔵弾性率(E’)の温度特性における傾き(d1ogE’/dT)の絶対値の最大値」が「0.05GPa/℃以下である」であること、「熱硬化性樹脂組成物」「を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃までの加熱減量測定において、その熱重重量減少率が1.5%以下である」こと、「熱硬化性樹脂組成物」「を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃まで加熱した際の貯蔵弾性率の減少率が92%以下である」ことのいずれについても記載も示唆もされていないし、その他の証拠をみてもこれらの事項は記載も示唆もされていない。
よって、相違点4、6及び8に係る事項は当業者が容易に想到し得たものではないから、本件発明8が「請求項5」、「請求項6」又は「請求項7」「に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させてなる樹脂硬化物」である場合、相違点9は当業者が容易に想到し得たものではない。
d よって、相違点9に係る事項は当業者が容易に想到しうるものではなく、本件発明8は甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(8)小括
以上のとおりであるから、取消理由1、2、申立理由1はいずれも理由がない。
2 甲5に基づく拡大先願に関する申立理由2(対象請求項1~8)について
(1)甲5に記載された発明
甲5の請求項1及び2に着目すると、甲5には以下の発明が記載されていると認められる。
「リフローはんだ付けにより、はんだバンプを有する電子部品を電子基板に接合させる場合に用いる熱硬化性フラックス組成物であって、(A)エポキシ樹脂と、(B)硬化剤と、(C)活性剤とを含有し、前記(A)成分が、(A1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂および(A2)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、前記(B)成分が、(B1)融点が150℃以上のポリアミン系硬化剤および(B2)イミダゾール系硬化剤からなる群から選択される少なくとも1種を含有し、温度25℃から5℃/minの昇温速度で昇温した場合において、温度200℃における粘度が5Pa・s以下であり、且つ、温度250℃における粘度が50Pa・s以上であることを特徴とする熱硬化性フラックス組成物。」(以下「甲5発明」という。)
(2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲5発明とを対比する。
(ア)甲5発明の「(A)エポキシ樹脂」を含有し「(A)成分」が「(A1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂および(A2)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有」することは、本件発明2の「エポキシ樹脂」を含有し「エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有」することに相当する。
(イ)甲5発明の「(B)硬化剤」は「(B1)融点が150℃以上のポリアミン系硬化剤および(B2)イミダゾール系硬化剤からなる群から選択される少なくとも1種を含有」するところ、当該「(B2)イミダゾール系硬化剤」は本件発明2の「(c)イミダゾール型硬化触媒」に相当する。
(ウ)甲5発明の「熱硬化性フラックス組成物」は「樹脂硬化物用組成物」であるといえる。そして、「(B)硬化剤」として「(B2)イミダゾール系硬化剤」を含有した場合には、甲5発明の「熱硬化性フラックス組成物」は「フェノール硬化剤とアミン硬化剤」のいずれも含有しない。
(エ)そうすると、本件発明2と甲5発明は、
「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する樹脂硬化物用組成物であってエポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化剤」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有する樹脂硬化用組成物。」である点
で一致し、以下の点で相違する。
【相違点10】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明2では「高耐熱」であるのに対して、甲5発明ではこの点についての記載がない点
【相違点11】
(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対する、(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の配合量について、本件発明2では「5質量%~20質量%」であるのに対して、甲5発明ではこの点についての記載がない点
イ 判断
事案に鑑み相違点11から検討する。
上記1(3)イ(ア)のとおり、本件発明2のビスフェノールA型エポキシ樹脂及びナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対するナフタレン型エポキシ樹脂の配合量である「5質量%~20質量%」は、硬化物の耐熱性と組成物の流動性の観点から規定されたものであることが理解できる。
これに対して、甲5には、硬化物の耐熱性と組成物の流動性の観点から(A1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂」および「(A2)ナフタレン型エポキシ樹脂」の総量に対する「(A2)ナフタレン型エポキシ樹脂」を調整して、「5質量%~20質量%」とすることは記載されていない。
甲5には、「質量比率(A1/A2)は、1/4以上4/1以下であることが好ましく」と記載されているものの(【0018】)、甲5発明の具体例である実施例1及び2並びに対照例である比較例1及び2のいずれをみても「(A1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂」と「(A2)ナフタレン型エポキシ樹脂」を同量用いた例が記載されているに過ぎず、甲5全体をみても特に「(A2)ナフタレン樹脂」を少なく配合することの積極的記載は見当たらないことからみると、甲5発明において「質量比率(A1/A2)」を「4/1」とすることまでが実質的に記載されていたとまではいえない。
そうすると、相違点11は実質的な相違点である。
よって、相違点10について検討するまでもなく、本件発明2は甲5発明、すなわち甲5に記載された発明と実質的に同一であるとはいえない。
(3)本件発明4について
本件発明4は、本件発明2を引用するものであるところ、上記(2)のとおり、本件発明2が甲5に記載された発明と実質的に同一ではないから、本件発明4も甲5に記載された発明と実質的に同一ではない。
(4)本件発明5について
ア 対比
上記(2)アと同様に本件発明5と甲5発明とを対比すると両者は、
「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化剤」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有する樹脂硬化物用組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点12】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明5では「高耐熱」であるのに対して、甲5発明ではこの点についての記載がない点
【相違点13】
(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対する、(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の配合量について、本件発明5では「5質量%~30質量%(30質量%の場合を除く。)であるのに対して、甲5発明ではこの点についての記載がない点
【相違点14】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明5では「100℃から300℃までの貯蔵弾性率(E’)の温度特性における傾き(d1ogE’/dT)の絶対値の最大値は0.05GPa/℃以下」であるのに対して、甲5発明ではこの点についての記載がない点
イ 判断
事案に鑑み、相違点14から検討する。
甲5発明において、「100℃から300℃までの貯蔵弾性率(E’)の温度特性における傾き(d1ogE’/dT)の絶対値の最大値は0.05GPa/℃以下である」と解すべき根拠はないから、相違点14は実質的な相違点である。
よって、相違点12、13について検討するまでもなく、本件発明5は甲5発明、すなわち甲5に記載された発明と実質的に同一ではない。
(5)本件発明6について
ア 対比
上記(4)アと同様にして本件発明6と甲5発明を対比すると、両者は、
「エポキシ樹脂と重合触型硬化剤とを含有する樹脂硬化物用組成物であってエポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化剤」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有する樹脂硬化物用組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点15】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明6では「高耐熱」であるのに対して、甲5発明ではこの点についての記載がない点
【相違点16】
(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対する、(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の配合量について、本件発明6では「5質量%~30質量%(30質量%の場合を除く。)であるのに対して、甲5発明ではこの点についての記載がない点
【相違点17】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明6では「樹脂硬化物用組成物を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃までの加熱減量測定において、その熱重量減少率が1.5%以下である」のに対して、甲5発明ではこの点についての記載がない点
イ 判断
事案に鑑み、相違点17から検討する。
甲5発明において「熱硬化性フラックス組成物」「を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃までの加熱減量測定において、その熱重量減少率が1.5%以下である」と解すべき根拠はないから、相違点17は実質的な相違点である。
よって、相違点15、16について検討するまでもなく、本件発明6は甲5発明、すなわち甲5に記載された発明と実質的に同一ではない。
(6)本件発明7について
ア 対比
上記(4)アと同様にして本件発明7と甲5発明を対比すると、両者は、
「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化剤」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有する樹脂硬化物用組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点18】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明7では「高耐熱」であるのに対して、甲5発明ではこの点についての記載がない点
【相違点19】
(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対する、(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の配合量について、本件発明7では「5質量%~30質量%(30質量%の場合を除く。)であるのに対して、甲5発明ではこの点についての記載がない点
【相違点20】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明7では「高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃まで加熱した際の貯蔵弾性率の減少率が92%以下である」のに対して、甲5発明ではこの点についての記載がない点
イ 判断
事案に鑑み、相違点20から検討する。
甲5発明において、「熱硬化性フラックス組成物」「を硬化させて得られる樹脂硬化物」が「25℃から300℃まで加熱した際の貯蔵弾性率の減少率が92%以下である」と解すべき根拠はないから、相違点20は実質的な相違点である。
よって、相違点18、19について検討するまでもなく、本件発明7は甲5発明、すなわち甲5に記載された発明と実質的に同一ではない。
(7)本件発明8について
本件発明8は本件発明2、4~7を引用するものであるところ、これらの発明は上記(2)~(6)のとおり、甲5に記載された発明と実質的に同一ではないから、本件発明8も甲5に記載された発明と実質的に同一ではない。
(8)小括
以上のとおりであるから、申立理由2は理由がない。
3 進歩性に関する申立理由3のうち甲1を主引例とするもの(対象請求項2、4~10)について
(1)甲1に記載された発明
甲1の実施例3に着目すると、甲1には以下の発明が記載されていると認められる。
「エポキシ化合物として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を100重量部、フィラーとして、シリカを4重量部、硬化剤として、下記の化学式(I-1)で示されるイミダゾール化合物又は2-ウンデシルイミダゾールを0.5重量部を攪拌混合し、脱泡して調製したエポキシ樹脂組成物。
[図:0001411285000001.jpg]
」
(以下「甲1発明」という。)
「エポキシ化合物として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を100重量部、フィラーとして、シリカを4重量部、硬化剤として、下記の化学式(I-1)で示されるイミダゾール化合物又は2-ウンデシルイミダゾールを0.5重量部を攪拌混合し、脱泡して調製したエポキシ樹脂組成物の硬化物。」((化学式(I-1)は省略、以下「甲1発明2」という。)
(2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「エポキシ化合物として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂」は、本件発明2の「エポキシ樹脂」を含有し「エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂」を含有することに相当する。
(イ)甲1発明の「硬化剤として」の「化学式(I-1)で示されるイミダゾール化合物又は2-ウンデシルイミダゾール」は、本件発明2の「(c)イミダゾール型硬化触媒」に相当する、
(ウ)甲1発明の「エポキシ樹脂組成物」は加熱硬化せしめられるから(【0049】)「樹脂硬化物用組成物」であるということができ、「エポキシ樹脂組成物」は、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化剤」を除く。)のいずれも含有しない。
(エ)そうすると、本件発明2と甲1発明とは、
「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化剤」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有する樹脂硬化物用組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点21】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明2では「高耐熱」であるのに対して、甲1発明ではこの点についての記載がない点
【相違点22】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明2では(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対する、(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の配合量が「5質量%~20質量%」であるのに対して、甲1発明では、ナフタレン型エポキシ樹脂を含まない点
イ 判断
(ア)事案に鑑み、相違点22から検討する。
a 本件明細書には、エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂にナフタレン型エポキシ樹脂を配合し、硬化剤としてイミダゾール系硬化触媒を用いることで、流動性を低下させることなく、樹脂硬化物の耐熱性を高く改良することが記載されている(【0011】)。このことと、上記1(3)イ(ア)の検討事項を併せ考えれば、本件発明2では、樹脂組成物の流動性と硬化物の耐熱性とを両立する観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びナフタレン型エポキシ樹脂とを配合して、硬化剤としてのイミダゾール系硬化触媒を用い、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対するナフタレン型エポキシ樹脂の配合量を「5質量%~20質量%」としたものといえる。
b これに対して、甲1は、特定の化学式(I)で示されるイミダゾール化合物を硬化剤として配合したエポキシ樹脂組成物を開示する文献である(請求項1~3)。そして、当該エポキシ樹脂組成物を調製するに当たって使用されるエポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂及びナフタレン型エポキシ樹脂を含む種々のエポキシ樹脂が挙げられている(【0027】)ものの、特にビスフェノールA型エポキシ樹脂とナフタレン型エポキシ樹脂を組み合わせて使用することについては何ら記載されておらず、ましてや、樹脂組成物の流動性と硬化物の耐熱性とを両立する観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とナフタレン型エポキシ樹脂とを特定割合で配合することについては記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1発明の「エポキシ樹脂組成物」において、ビスフェノールA型エポキシ樹脂に加えてナフタレン型エポキシ樹脂を、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して「5質量%~20質量%」配合することが動機付けられたとはいえない。
また、他のいずれの証拠をみても、甲1発明において上記事項が動機付けけられたとする根拠は見出せない。
c ここで、本件出願時には以下の技術常識が存在したものと認められる。
【技術常識1】
電気・電子部品における封止材等に用いられるエポキシ樹脂に耐熱性が求められること(甲3【0001】、【0007】、甲6の3頁左欄2~11行、5頁右欄1~10行、甲7の115頁左欄8~17行、甲8の【0004】、【0005】、甲9の【0008】)
【技術常識2】
ナフタレン型エポキシ樹脂がTgが高く耐熱性に優れること(甲6の5頁右欄14~15行、甲7の115頁左欄8行~116頁左欄3行、甲9の【0016】、甲11の15頁1~4行)
【技術常識3】
ビスフェノール型エポキシ樹脂とナフタレン型骨格を組み合わせてエポキシ樹脂組成物とすること(甲8の【0014】、甲9の【0067】)
そこで、上記の技術常識1~3を参酌した場合、相違点22に係る事項が容易に想到しうるものであったといえるかについて検討する。
甲1は、エポキシ樹脂やエポキシ樹脂の希釈に使用される有機溶剤への溶解性に優れたイミダゾール化合物を配合したエポキシ樹脂組成物を提供することを目的としており(【0007】)、耐熱性については何ら記載がされていない。ここで、甲1には、電気・電子部品における封止材の用途についての記載はあるものの(【0010】)、他の多種類の用途とともに列挙されているにすぎない。
そうであれば、甲1発明に耐熱性についての課題があったとはいえないから、技術常識1~3を有する当業者といえども、甲1発明において耐熱性の課題を見いだし、これを解決するために、甲1発明に技術常識2及び3を適用して、ナフタレン樹脂を配合することが動機付けられたということはできない。
また、仮に当業者が甲1発明に耐熱性についての課題を見いだし、甲1発明において技術常識2及び3を適用することにしたとしても、樹脂組成物の流動性と硬化物の耐熱性とを両立する観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とナフタレン型エポキシ樹脂とを特定割合で配合することには到達し得ない。
そうすると、上記の技術常識1~3を参酌しても、相違点22に係る事項は当業者が容易に想到し得たものではない。
d よって、相違点22は当業者が容易に想到し得たものではないから、相違点21について検討するまでもなく、本件発明2は甲1発明、すなわち甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明4について
本件発明4は、本件発明2を引用するものであるところ、上記(2)のとおり、本件発明2は甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明4も甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明5について
ア 対比
上記(2)アと同様に本件発明5と甲1発明とを対比すると両者は、
「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する樹脂硬化物用組成物であってエポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化剤」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有する樹脂硬化物用組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点23】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明5では「高耐熱」であるのに対して、甲1発明ではこの点についての記載がない点
【相違点24】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明5では(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対する、(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の配合量が「5質量%~30質量%(30質量%の場合を除く。)」であるのに対して、甲1発明では、ナフタレン型エポキシ樹脂を含まない点
【相違点25】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明5では「100℃から300℃までの貯蔵弾性率(E’)の温度特性における傾き(d1ogE’/dT)の絶対値の最大値は0.05GPa/℃以下である」のに対して、甲1発明ではこの点についての記載がない点
イ 検討
事案に鑑み、相違点25について検討する。
甲1には「100℃から300℃までの貯蔵弾性率(E’)の温度特性における傾き(d1ogE’/dT)の絶対値の最大値」について記載はなく、ましてやこの値を「0.05GPa/℃以下である」とすることについては記載も示唆もされていないから、甲1発明において、当該値を「0.05GPa/℃以下である」とすることは動機付けられないし、他の証拠をみても、かかる事項が動機付けられたとするに足りる根拠は見出せない。
したがって、相違点25に係る事項は当業者が容易に想到し得た事項ではないので、相違点23、24について検討するまでもなく、本件発明5は甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)本件発明6について
ア 対比
上記(4)アと同様にして本件発明6と甲1発明を対比すると、両者は、
「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する樹脂硬化物用組成物であってエポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化剤」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有する樹脂硬化物用組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点26】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明6では「高耐熱」であるのに対して、甲1発明ではこの点についての記載がない点
【相違点27】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明6では(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対する、(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の配合量が「5質量%~30質量%(30質量%の場合を除く。)」であるのに対して、甲1発明では、ナフタレン型エポキシ樹脂を含まない点
【相違点28】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明6では「樹脂硬化物用組成物」「を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃までの加熱減量測定において、その熱重量減少率が1.5%以下である」のに対して、甲1発明ではこの点についての記載がない点
イ 検討
事案に鑑み、相違点28から検討する。
甲1には、エポキシ樹脂組成物「を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃までの加熱減量測定において、その熱重量減少率」について記載はなく、ましてやこの値を「1.5%以下である」とすることについては記載も示唆もされていないから、甲1発明において、当該値を「1.5%以下である」とすることは動機付けられないし、他の証拠をみても、かかる事項が動機付けられたとするに足りる根拠は見出せない。
したがって、相違点28に係る事項は当業者が容易に想到し得た事項ではないので、相違点26、27について検討するまでもなく、本件発明6は甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)本件発明7について
ア 対比
上記(4)アと同様にして本件発明7と甲1発明を対比すると、両者は、
「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する樹脂硬化物用組成物であってエポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化剤」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有する樹脂硬化物用組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点29】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明7では「高耐熱」であるのに対して、甲1発明ではこの点についての記載がない点
【相違点30】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明7では(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対する、(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の配合量が「5質量%~30質量%(30質量%の場合を除く。)」であるのに対して、甲1発明では、ナフタレン型エポキシ樹脂を含まない点
【相違点31】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明7では「熱樹脂硬化物用組成物」「を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃まで加熱した際の貯蔵弾性率の減少率が92%以下である」のに対して、甲1発明ではこの点についての記載がない点
イ 判断
事案に鑑み、相違点31から検討する。
甲1には、エポキシ樹脂組成物「を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃まで加熱した際の貯蔵弾性率の減少率」について記載はなく、ましてやこの値を「92%以下である」とすることについては記載も示唆もされていないから、甲1発明において、当該値を「92%以下である」とすることは動機付けられないし、他の証拠をみても、かかる事項が動機付けられたとするに足りる根拠は見出せない。
したがって、相違点31に係る事項は当業者が容易に想到し得た事項ではないので、相違点29、30について検討するまでもなく、本件発明7は甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(7)本件発明8、9について
本件発明8、9は本件発明2、4~7を引用するものであるところ、これらの発明は上記(2)~(6)のとおり、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明8、9も、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(8)本件発明10について
ア 対比
上記(4)アと同様に本件発明10と甲1発明2とを対比すると両者は、
「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化触媒」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有する樹脂硬化物用組成物を含むもの」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点32】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明10では「高耐熱」であるのに対して、甲1発明2ではこの点についての記載がない点
【相違点33】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明10では(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対する、(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の配合量が「5質量%~30質量%(30質量%の場合を除く。)」であるのに対して、甲1発明では、ナフタレン型エポキシ樹脂を含まない点
【相違点34】
「もの」について、本件発明10では、基板上に実装された半導体素子と金属部材とを含む部材を、高耐熱樹脂硬化物用組成物を含む封止材により封止してなる半導体装置であるのに対して、甲1発明2では「硬化物」である点
イ 判断
事案に鑑み、相違点33から検討する。
上記(2)イと同様の理由により、相違点33に係る事項は当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、相違点32、34について検討するまでもなく、本件発明10は甲1発明2、すなわち甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(9)小括
以上のとおりであるから、申立理由3のうち、甲1を主引例とするものについては理由がない。
4 進歩性に関する申立理由3のうち甲2を主引例とするもの(対象請求項2、4~10)について
(1)甲2に記載された発明
甲2の実施例1及び2頁左上欄1~3行に着目すると、甲2には以下の発明が記載されていると認められる。
「ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量190)を100重量部、硬化剤として2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールを4重量部、硬化促進剤としてトリエチルベンジルホスホニウムクロライトを0.2重量部、充填材としてセラミック短繊維を40重量部と溶融シリカを120重量部配合した封止用エポキシ樹脂組成物。」(以下「甲2発明」という。)
「ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量190)を100重量部、硬化剤として2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールを4重量部、硬化促進剤としてトリエチルベンジルホスホニウムクロライトを0.2重量部、充填材としてセラミック短繊維を40重量部と溶融シリカを120重量部配合した封止用エポキシ樹脂組成物で半導体素子等の電子部品を封止したもの。」(以下「甲2発明2」)という。
(2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明の「ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量190)」は、本件発明2の「(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂」に相当し、「硬化剤として2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール」は、本件発明2の「(c)イミダゾール型硬化触媒」に相当する。
(イ)甲2発明の「封止用エポキシ樹脂組成物」は硬化剤によって硬化せしめられるといえるから、「樹脂硬化物用組成物」であり、「封止用エポキシ樹脂組成物」は、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化剤」を除く。)のいずれも含有しない。
(ウ)そうすると、本件発明2と甲2発明とは、
「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化剤」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有する樹脂硬化物用組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点35】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明2では「高耐熱」であるのに対して、甲2発明ではこの点についての記載がない点
【相違点36】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明2では(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対する、(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の配合量が「5質量%~20質量%」であるのに対して、甲2発明では、ナフタレン型エポキシ樹脂を含まない点
イ 判断
(ア)事案に鑑み、相違点36から検討する。
a 上記3(2)イ(ア)のとおり、本件発明2では、樹脂組成物の流動性と硬化物の耐熱性とを両立する観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びナフタレン型エポキシ樹脂とを配合して、硬化剤としてのイミダゾール系硬化触媒を用い、(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対する、(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の配合量を「5質量%~20質量%」としたものといえる。
b これに対して、甲2には、ナフタレン型エポキシ樹脂については記載も示唆もされておらず、ましてや、樹脂組成物の流動性と硬化物の耐熱性とを両立する観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とナフタレン型エポキシ樹脂を特定量配合して使用することについては記載も示唆もされていない。
そうすると、甲2発明の「封止用エポキシ樹脂組成物」において、ビスフェノールA型エポキシ樹脂に加えてナフタレン型エポキシ樹脂を、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して「5質量%~20質量%」配合することが動機付けられたとはいえない。
また、他のいずれの証拠をみても、甲2発明において上記事項が動機付けられたとする根拠は見出せない
c ここで、甲2は「エポキシ樹脂組成物の作業性、耐熱性を損ねることなく封止材料の熱膨張係数を低下させることによって熱衝撃負荷時に生じる熱応力を小さくし、半導体素子の実装工程並びにその後の熱衝撃負荷時の体クラック性に優れた封止用エポキシ樹脂組成物を提供すること」を目的とする(2頁左下欄5~11行)ところ、上記3(2)イ(ア)のとおり、本件出願時には技術常識2及び3が存在したから、当業者であれば、耐熱性の観点から甲2発明においてビスフェノールA型エポキシ樹脂に加えてナフタレン型エポキシ樹脂を用いることは容易に想到しうるといえなくもない。
しかしながら、仮にそうであっても、樹脂組成物の流動性と硬化物の耐熱性とを両立する観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対するナフタレン型エポキシ樹脂の配合量を「5質量%~20質量%」とすることまでも容易に想到し得たということはできない。
d よって、相違点36に係る事項は当業者が容易に想到し得たものではないから、相違点35について検討するまでもなく、本件発明2は甲2発明、すなわち甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明4について
本件発明4は、本件発明2を引用するものであるところ、上記(2)のとおり、本件発明2が甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明4も甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明5について
ア 対比
上記(2)アと同様に本件発明5と甲2発明とを対比すると両者は、
「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化剤」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有する樹脂硬化物用組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点37】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明5では「高耐熱」であるのに対して、甲2発明ではこの点についての記載がない点
【相違点38】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明5では(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対する、(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の配合量が「5質量%~30質量%(30質量%の場合を除く)」であるのに対して、甲2発明では、ナフタレン型エポキシ樹脂を含まない点
【相違点39】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明5では「100℃から300℃までの貯蔵弾性率(E’)の温度特性における傾き(d1ogE’/dT)の絶対値の最大値は0.05GPa/℃以下である」のに対して、甲2発明ではこの点についての記載がない点
イ 検討
事案に鑑み、相違点39について検討する。
甲2には「100℃から300℃までの貯蔵弾性率(E’)の温度特性における傾き(d1ogE’/dT)の絶対値の最大値」について記載はなく、ましてやこの値を「0.05GPa/℃以下である」とすることについては記載も示唆もされていないから、甲2発明において、当該値を「0.05GPa/℃以下である」とすることは動機付けられないし、他の証拠をみても、かかる事項が動機付けられたとするに足りる根拠は見出せない。
したがって、相違点39に係る事項は当業者が容易に想到し得た事項ではないので、相違点37、38について検討するまでもなく、本件発明5は甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)本件発明6について
ア 対比
上記(4)アと同様にして本件発明6と甲2発明を対比すると、両者は、
「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化剤」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有する樹脂硬化物用組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点40】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明6では「高耐熱」であるのに対して、甲2発明ではこの点についての記載がない点
【相違点41】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明6では(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対する、(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の配合量が「5質量%~30質量%(30質量%の場合を除く。)」であるのに対して、甲2発明では、ナフタレン型エポキシ樹脂を含まない点
【相違点42】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明6では「樹脂硬化物用組成物」「を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃までの加熱減量測定において、その熱重量減少率が1.5%以下である」のに対して、甲2発明ではこの点についての記載がない点
イ 検討
事案に鑑み、相違点42から検討する。
甲2には、封止用エポキシ樹脂組成物「を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃までの加熱減量測定において、その熱重量減少率」について記載はなく、ましてやこの値を「1.5%以下である」とすることについては記載も示唆もされていないから、甲2発明において、当該値を「1.5%以下である」とすることは動機付けられないし、他の証拠をみても、かかる事項が動機付けられたとするに足りる根拠は見出せない。
したがって、相違点42に係る事項は当業者が容易に想到し得た事項ではないので、相違点40、41について検討するまでもなく、本件発明6は甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)本件発明7について
ア 対比
上記(4)アと同様にして本件発明7と甲2発明を対比すると、両者は、
「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化剤」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有する樹脂硬化物用組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点43】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明7では「高耐熱」であるのに対して、甲2発明ではこの点についての記載がない点
【相違点44】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明7では(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対する、(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の配合量が「5質量%~30質量%(30質量%の場合を除く。)」であるのに対して、甲2発明では、ナフタレン型エポキシ樹脂を含まない点
【相違点45】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明7では「熱樹脂硬化物用組成物」「を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃まで加熱した際の貯蔵弾性率の減少率が92%以下である」のに対して、甲2発明ではこの点についての記載がない点
イ 判断
事案に鑑み、相違点45から検討する。
甲2には封止用エポキシ樹脂組成物「を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃まで加熱した際の貯蔵弾性率の減少率」について記載はなく、ましてやこの値を「92%以下である」とすることについては記載も示唆もされていないから、甲2発明において、当該値を「92%以下である」とすることは動機付けられないし、他の証拠をみても、かかる事項が動機付けられたとするに足りる根拠は見出せない。
したがって、相違点45に係る事項は当業者が容易に想到し得た事項ではないので、相違点43、44について検討するまでもなく、本件発明7は甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(7)本件発明8、9について
本件発明8、9は本件発明2、4~7を引用するものであるところ、これらの発明は上記(2)~(6)のとおり、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明8、9も、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(8)本件発明10について
ア 対比
本件発明10と甲2発明2とを対比する。
上記(4)アと同様の検討により、本件発明10と甲2発明2とは、
「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化触媒」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有する樹脂硬化物用組成物を含むもの」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点46】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明10では「高耐熱」であるのに対して、甲2発明2ではこの点についての記載がない点
【相違点47】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明10では(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対する、(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の配合量が「5質量%~30質量%(30質量%の場合を除く。)」であるのに対して、甲2発明2では、ナフタレン型エポキシ樹脂を含まない点
【相違点48】
「もの」について、本件発明10では、基板上に実装された半導体素子と金属部材とを含む部材を、高耐熱樹脂硬化物用組成物を含む封止材により封止してなる半導体装置であるのに対して、甲2発明2では「封止用エポキシ樹脂組成物」で半導体素子等の電子部品を封止したもの」である点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点47から検討する。
上記(2)イと同様の理由により、相違点47に係る事項は当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、相違点46、48について検討するまでもなく、本件発明10は甲2発明2、すなわち甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(9)小括
以上のとおりであるから、申立理由3のうち、甲2を主引例とするものについては理由がない。
5 進歩性に関する申立理由3のうち甲3を主引例とするもの(対象請求項2、4~8)について
(1)甲3に記載された発明
甲3の請求項1、4、7に着目すると、甲3には以下の発明が記載されていると認められる。
「構造内にベンゼン環を有する液状のエポキシ樹脂と硬化剤と無機フィラーとを含有し、上記エポキシ樹脂は、少なくともビスフェノールA型エポキシ樹脂を含む2種以上のエポキシ樹脂を含有し、該硬化剤は、下記化学式(1)で示される粉末状のイミダゾール誘導体であることを特徴とするスルーホール用充填剤。
【化1】
[図:0001411285000002.jpg]
但し、R1は炭素数1~4のアルキレン基であり、R2は炭素数1~6のアルキル基であり、R3は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である。」(以下「甲3発明」という。)
(2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲3発明とを対比する。
(ア)甲3発明の「ビスフェノールA型エポキシ樹脂」は、本件発明2の「(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂」に相当し、「硬化剤」である「化学式(1)で示される粉末状のイミダゾール誘導体」は本件発明2の「(c)イミダゾール型硬化触媒」に相当する。
(イ)甲3発明の「スルーホール用充填剤」は硬化剤によって硬化せしめられるといえるから、「樹脂硬化物用組成物」であり、「スルーホール用充填剤」は、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化剤」を除く。)のいずれも含有しない。
(ウ)そうすると、本件発明2と甲3発明とは、
「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化剤」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有する樹脂硬化物用組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点49】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明2では「高耐熱」であるのに対して、甲3発明ではこの点についての記載がない点
【相違点50】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明2では(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対する、(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の配合量が「5質量%~20質量%」であるのに対して、甲3発明では、ナフタレン型エポキシ樹脂を含有することの記載がない点
イ 判断
(ア)事案に鑑み、相違点50から検討する。
a 上記3(2)イ(ア)のとおり、本件発明2では、樹脂組成物の流動性と硬化物の耐熱性とを両立する観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びナフタレン型エポキシ樹脂とを配合して、硬化剤としてのイミダゾール系硬化触媒を用い、(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対する、(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の配合量を「5質量%~20質量%」としたものといえる。
b これに対して、甲3には、ナフタレン型エポキシ樹脂については記載も示唆もされておらず、ましてや、樹脂組成物の流動性と硬化物の耐熱性とを両立する観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とナフタレン型エポキシ樹脂を特定量配合して使用することについては記載も示唆もされていない。
そうすると、甲3発明の「スルーホール用充填剤」において、ビスフェノールA型エポキシ樹脂に加えてナフタレン型エポキシ樹脂を、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して「5質量%~20質量%」配合することが動機付けられたとはいえない。
また、他のいずれの証拠をみても、甲3発明において上記事項が動機づけられたとする根拠は見出せない。
c ここで、甲3は「耐熱性に優れた硬化体が得られ」ること等を目的とするところ(【0007】)、上記3(2)イ(ア)のとおり、本件出願時には技術常識2及び3が存在したから、当業者であれば、耐熱性の観点から甲3発明においてビスフェノールA型エポキシ樹脂に加えてナフタレン型エポキシ樹脂を用いることは容易に想到しうるといえなくもない。
しかしながら、仮にそうであっても、樹脂組成物の流動性と硬化物の耐熱性とを両立する観点から、(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対する、(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の配合量を「5質量%~20質量%」とすることまでも容易に想到し得たということはできない。
d よって、相違点50に係る事項は当業者が容易に想到し得たものではないから、相違点49について検討するまでもなく、本件発明2は甲3発明、すなわち甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明4について
本件発明4は、本件発明2を引用するものであるところ、上記(2)のとおり、本件発明2は甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明4も甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明5について
ア 対比
上記(2)アと同様に本件発明5と甲3発明とを対比すると両者は、
「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する樹脂硬化物用組成物であってエポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化剤」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有する樹脂硬化物用組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点51】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明5では「高耐熱」であるのに対して、甲3発明ではこの点についての記載がない点
【相違点52】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明5では(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対する、(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の配合量が「5質量%~20質量%」であるのに対して、甲3発明では、ナフタレン型エポキシ樹脂を含有することの記載がない点
【相違点53】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明5では「100℃から300℃までの貯蔵弾性率(E’)の温度特性における傾き(d1ogE’/dT)の絶対値の最大値は0.05GPa/℃以下である」のに対して、甲3発明ではこの点についての記載がない点
イ 検討
事案に鑑み、相違点53について検討する。
甲3には「100℃から300℃までの貯蔵弾性率(E’)の温度特性における傾き(d1ogE’/dT)の絶対値の最大値」について記載はなく、ましてやこの値を「0.05GPa/℃以下である」とすることについては記載も示唆もされていないから、甲3発明において、当該値を「0.05GPa/℃以下である」とすることは動機付けられないし、他の証拠をみても、かかる事項が動機付けられたとするに足りる根拠は見出せない。
したがって、相違点53に係る事項は当業者が容易に想到し得た事項ではないので、相違点51、52について検討するまでもなく、本件発明5は甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)本件発明6について
ア 対比
上記(4)アと同様にして本件発明6と甲3発明を対比すると、両者は、
「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する樹脂硬化物用組成物であってエポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化剤」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有する樹脂硬化物用組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点54】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明6では「高耐熱」であるのに対して、甲3発明ではこの点についての記載がない点
【相違点55】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明6では(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対する、(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の配合量が「5質量%~20質量%」であるのに対して、甲3発明では、ナフタレン型エポキシ樹脂を含有することの記載がない点
【相違点56】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明6では「樹脂硬化物用組成物」「を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃までの加熱減量測定において、その熱重量減少率が1.5%以下である」のに対して、甲3発明ではこの点についての記載がない点
イ 検討
事案に鑑み、相違点56から検討する。
甲3には、スルーホール用充填剤「を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃までの加熱減量測定において、その熱重量減少率」について記載はなく、ましてやこの値を「1.5%以下である」とすることについては記載も示唆もされていないから、甲3発明において、当該値を「1.5%以下である」とすることは動機付けられないし、他の証拠をみても、かかる事項が動機付けられたとするに足りる根拠は見出せない。
したがって、相違点56に係る事項は当業者が容易に想到し得た事項ではないので、相違点54、55について検討するまでもなく、本件発明6は甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)本件発明7について
ア 対比
上記(4)アと同様にして本件発明7と甲3発明を対比すると、両者は、
「エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する樹脂硬化物用組成物であってエポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化剤」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有する樹脂硬化物用組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点57】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明7では「高耐熱」であるのに対して、甲3発明ではこの点についての記載がない点
【相違点58】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明7では(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対する、(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の配合量が「5質量%~20質量%」であるのに対して、甲3発明では、ナフタレン型エポキシ樹脂を含有することの記載がない点
【相違点59】
「樹脂硬化物用組成物」について、本件発明7では「熱樹脂硬化物用組成物」「を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃まで加熱した際の貯蔵弾性率の減少率が92%以下である」のに対して、甲3発明ではこの点についての記載がない点
イ 判断
事案に鑑み、相違点59から検討する。
甲3には、スルーホール用充填剤を「硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃まで加熱した際の貯蔵弾性率の減少率」について記載はなく、ましてやこの値を「92%以下である」とすることについては記載も示唆もされていないから、甲3発明において、当該値を「92%以下である」とすることは動機付けられないし、他の証拠をみても、かかる事項が動機付けられたとするに足りる根拠は見出せない。
したがって、相違点59に係る事項は当業者が容易に想到し得た事項ではないので、相違点57、58について検討するまでもなく、本件発明7は甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(7)本件発明8について
本件発明8は本件発明2、4~7を引用するものであるところ、これらの発明は上記(2)~(6)のとおり、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明8も、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(8)小括
以上のとおりであるから、申立理由3のうち、甲3を主引例とするものについては理由がない。
6 明確性に関する取消理由3及び申立理由4について
(1)判断基準
特許法36条6項2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。この趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため、そのような不都合な結果を防止することにある。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)本件発明の明確性要件について
ア 取消理由3について
取消理由3は、本件訂正前の請求項3の「25℃における粘度が100000(Pa・s/25℃)以下である」との記載は、不明確であるというものであるところ、本件訂正により請求項3は削除されたので、上記指摘は当たらなくなった。
イ 申立理由4について
申立人は、明確性要件につき以下の点を指摘する。
(ア)「高耐熱」なる語は、どの程度の耐熱性を意味しているのかが不明確であるため、「高耐熱」との特定事項を含む本件発明の外縁は不明確である。
(イ)本件訂正前の請求項3の「25℃における粘度が100000(Pa・s/25℃)以下である」との記載は不明確である(取消理由3と同旨)。
上記(ア)について、本件明細書の記載(特に【0010】~【0013】、【0022】)によれば、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を用い、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を用いることによって、常温における良好な流動性を保持しつつ、硬化後の熱重量減少が少なく、かつガラス転移温度がブロードなものとなって、その結果、耐熱性に優れた樹脂硬化物となることが理解できる。
そうすると、本件発明の「高耐熱」とは、「(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を用い、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を用いる」組成物が有する耐熱性を意味することは明確である。
上記(イ)について、上記アのとおり、当該指摘は当たらなくなった。
ウ その他の本件発明の明確性要件について
本件発明は上記第3のとおりであって明確であり、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとすべき理由はみあたらない。
(3)小括
よって、取消理由3及び申立理由4はいずれも理由がない。
7 サポート要件に関する申立理由5について
(1)判断基準
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2)本件発明のサポート要件違反について
ア 本件発明の課題は、「半導体パッケージ等の電子部品や半導体装置用として好ましい高耐熱の樹脂硬化物を得ることができる樹脂組成物、それを用いた電子部品及び半導体装置を提供すること」(【0009】)である。
イ 本件明細書には、以下の記載がある。
(ア)エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を用い、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を用いることによって、常温における良好な流動性を保持しつつ、硬化後の熱重量減少が少なく、かつガラス転移温度がブロードなものとなって耐熱性に優れること(【0011】~【0013】、【0022】)。
(イ)ナフタレン型エポキシ樹脂は、ベンゼン環に比べてナフタレン環のπ-πスタッキング効果が高いため低熱膨張性、低熱収縮性に優れ、多環構造のため剛直効果が高く、ガラス転移温度が特に高いためリフロー前後の熱収縮変化が小さいことから、ビスフェノールA型エポキシ樹脂に加えて、ナフタレン型エポキシ樹脂を含有させると、熱重量減少が少なくなり、ガラス転移温度前後での貯蔵弾性率の変化もゆるやかなものとなり、高い耐熱性を得ることができること(【0034】)
(ウ)ナフタレン型エポキシ樹脂の配合割合が増える程、熱重量減少率は小さく、ガラス転移温度は高まりブロードになる一方、粘度が高まり流動性がなくなって施工が困難となるから、ナフタレン型エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、30質量%以下であることが好ましく、また、ナフタレン型エポキシ樹脂の配合量が極端に少なくなると、熱重量減少率やガラス転移温度に関する改善効果が十分なものとはならなくなるため、ナフタレン型エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、5質量%以上含まれていることが好ましいこと(【0035】)。
(エ)エポキシ基の開環重合触媒として(A)エポキシ基に付加反応するものと、(B)エポキシ基の開環重合触媒となるものがあるところ、(B)に分類されるイミダゾール型硬化触媒は、低温では比較的反応が遅く、高温で激しく反応し、高温でのイミダゾールの硬化は、分子内コンプレックスとなり、停止反応や連鎖移動が起り難いと考えられ、その硬化物の重合度が大きくなるために橋架け密度が大きく、高い荷重撓み温度(HDT)が得られるため、高耐熱樹脂硬化物用組成物の硬化剤として望ましいこと(【0039】)。
(オ)実際、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂及びイミダゾール型硬化触媒を含有して、フェノール硬化剤とアミン硬化剤のいずれも含有せず、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、ナフタレン型エポキシ樹脂が5質量%~30質量%の割合で配合されている樹脂組成物の硬化物は、熱量減少率が小さく、ガラス転移温度前後での貯蔵弾性率の変化もゆるやかであったこと(実施例1~6、9~11)。
(カ)上記(ア)~(オ)によれば、本件明細書の記載に接した当業者は、本件発明の高耐熱樹脂硬化物用組成物は、硬化物の熱量減少率が小さく、ガラス転移温度前後での貯蔵弾性率もゆるやかで高い耐熱性を得ることができること、すなわち上記課題を解決することを、具体的裏付けをもって理解する。
ウ 申立人は以下の主張をする。
(ア)甲10によれば、イミダゾール化合物の種類や配合量が異なれば得られるエポキシ樹脂硬化物の耐熱性に関わる物性は大きく異なる蓋然性が高いため、実施例で用いられた1-イソブチル-2-メチルイミダゾール以外のイミダゾール化合物を用いた場合について課題を解決できることが理解できる程度の具体的裏付けをもって、発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
(イ)甲11によれば、ナフタレン型エポキシ樹脂として用いる化合物の種類や配合が異なれば得られるエポキシ樹脂硬化物の耐熱性に関わる物性は大きく異なる可能性があるが、本件発明5~7の所定の物性を充足するために採用すべき具体的条件については明細書中に開示がなく、かかる条件に関する技術常識があるともいえないから、本件発明5~7は、課題を解決できることが理解できる程度の具体的裏付けをもって、発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
そこで検討するに、上記(ア)について、甲10ではエポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂とナフタレン型エポキシ樹脂を含む樹脂について何ら記載するものではないから、甲10の記載をもって、本件発明の組成物において1-イソブチル-2-メチルイミダゾール以外のイミダゾール化合物を用いた場合に、高耐熱という課題が解決できないとすることはできない。
よって、上記主張(ア)は採用できない。
上記(イ)について、申立人は、本件発明5~7の所定の物性を充足するために採用すべき具体的条件について、明細書中に開示がなく、これについての技術常識もないという理由により、本件発明5~7は、課題を解決できることが理解できないと主張するものと解される。
しかしながら、上記(1)の判断基準に照らせば、所定の物性の特定を含む本件発明5~7が本件発明の課題を解決することが理解できるのであればサポート要件は充足されると判断すべきであるところ、本件発明5~7を含んだ本件発明が本件発明の課題を解決することを理解できることは上記イのとおりである。
よって、上記主張(イ)は採用できない。
(3)小括
よって、取消理由5は理由がない。
8 実施可能要件に関する申立理由6について
(1)判断基準
本件発明2、4~10は「組成物」、「電子部品」又は「半導体装置」という物の発明であるところ、発明の詳細な説明が物の発明について実施可能要件を満たすためには、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要するものと解される。
(2)本件発明の実施可能要件について
ア 本件明細書には、本件発明の樹脂組成物の調製方法に関して、「例えば、(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂と(b)ナフタレン型エポキシ樹脂とを、それぞれ所定量ずつ計量して、加熱機構と攪拌機構を備えた容器内入れ、これら2種のエポキシ樹脂を一旦加熱して、ナフタレン型エポキシ樹脂をビスフェノールA型エポキシ樹脂に溶解する。この際の温度条件としては、使用する(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の種類等にも左右されるので特に限定されるものではないが、例えば、100~200℃程度の範囲であることが好ましい。このように、一旦加温してフタレン型エポキシ樹脂をビスフェノールA型エポキシ樹脂に溶解した後、攪拌しながら室温(常温)付近まで冷却する(例えば、50~100℃で、200~600rpm程度で1~5時間攪拌して、25℃±5℃の常温に冷却する)ことで均一な液状エポキシ樹脂混合物を得る。次いで、この液状エポキシ樹脂混合物に、イミダゾール系硬化触媒を所定量添加し、500~3000rpm程度で1~5分程度軽く攪拌、好ましくはさらに1~2分程度脱泡処理することにより、本発明に係る樹脂組成物を調製することができる。」【0044】)と記載され、実施例で具体的に当該組成物を製造したことが記載されている。また、電子部品、特に半導体装置についても、図面とともに説明されている(【0048】~【0052】)。
そうすると、本件明細書の記載に接した当業者は、本件発明を過度の試行錯誤なく実施することができるものといえる。
イ 申立人は、実施例で用いられた1-イソブチル-2-メチルイミダゾール以外のイミダゾール化合物の探索や、エポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、重合触媒型硬化剤として、イミダゾール型硬化触媒を含有する組成物を用いること以外に必要となる条件の探索に当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要求するものであると主張するが、上記(1)の判断基準に従って本件発明が実施可能要件を充足することは上記アのとおりであり、申立人の上記主張は採用できない。
(3)小括
よって、申立理由6は理由がない。
第6 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正後の請求項2、4~10に係る特許は、令和5年7月24日付けで通知した取消理由、及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によって取り消すことはできない。
また、他に本件訂正後の請求項2、4~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない
さらに、請求項1、3に係る特許についての特許異議の申立ては、請求項1、3が本件訂正により削除され、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-700406