特許異議申立
2025-700990
電池集電体補強用フィルム及び集電体
- 審判番号
- 2025-700990
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-052319
- 登録番号
- 7676340
- 請求日
- 2025年10月14日
- 審決日
- 2026年02月09日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】タツタ電線株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人WisePlus
- 【異議申立人】中村 絵美
- 審判長/審判官
- 審判長 木村 貴俊
- 審判官 井上 信一
- 審判官 須原 宏光
- 分類
- P1651.121-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7676340号発明「電池集電体補強用フィルム及び集電体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7676340号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7676340号の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、令和4年3月28日に出願され、令和7年5月2日にその特許権の設定登録がなされ、同年5月14日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1ないし9に係る特許に対して、同年10月14日に特許異議申立人 中村 絵美により特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件発明
特許第7676340号の請求項1ないし9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明9」という。)は、それぞれその特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムの表面に形成された接着剤層とからなる電池集電体補強用フィルムであって、
前記接着剤層は、酸変性ポリオレフィン樹脂と、ポリエステル樹脂と、エポキシ樹脂とを含み、
前記接着剤層は、前記酸変性ポリオレフィン樹脂100重量部に対し、前記ポリエステル樹脂を10~100重量部、前記エポキシ樹脂を7.5~10重量部含むことを特徴とする電池集電体補強用フィルム。
【請求項2】
前記酸変性ポリオレフィン樹脂の数平均分子量(Mn)は、20,000以上である請求項1に記載の電池集電体補強用フィルム。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、-60℃以上である請求項1又は2に記載の電池集電体補強用フィルム。
【請求項4】
前記接着剤層の厚さは2~5μmである請求項1~3のいずれかに記載の電池集電体補強用フィルム。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂は、硬化剤として機能する請求項1~4のいずれかに記載の電池集電体補強用フィルム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の電池集電体補強用フィルムと、
前記電池集電体補強用フィルムの接着剤層に配置された金属箔とを備えることを特徴とする集電体。
【請求項7】
前記金属箔は、銅又はアルミニウムから構成される請求項6に記載の集電体。
【請求項8】
前記金属箔は銅から構成され、その厚さは、2~4μmである請求項7に記載の集電体。
【請求項9】
前記金属箔はアルミニウムから構成され、その厚さは、4~9μmである請求項7に記載の集電体。」
第3 申立理由の概要
申立理由(進歩性)の概要は以下のとおりである。
請求項1、4ないし7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明、甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、
請求項2に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、
請求項3に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明、甲第2号証、甲第3号証及び甲第5号証に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、
請求項8、9に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証、甲第3号証及び甲第6号証に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
甲第1号証;特開平11-102711号公報
甲第2号証;特開2015-48428号公報
甲第3号証;国際公開第2018/066670号
甲第4号証;特開2022-7514号公報
甲第5号証:特開2013-149558号公報
甲第6号証:特開2012-155974号公報
第4 甲第1号証ないし甲第6号証の記載事項
1.甲第1号証
甲第1号証(特開平11-102711号公報)には、「リチウムイオン二次電池」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「【請求項1】 活物質を結着材を介して集電体に付着させてなる正極および負極を備えるリチウムイオン二次電池において、
前記正極および前記負極のうち少なくとも一方の前記集電体が、電池の異常発熱時に溶融する樹脂からなる低融点層と、該低融点層と前記活物質との間に介在し前記活物質と電荷のやり取りを行う金属層と、を備えていることを特徴とするリチウムイオン二次電池。」
(2)「【0011】集電体2は、樹脂フィルム3の表裏両面に金属を蒸着して金属層4を形成したものである。樹脂フィルム3は、その融点が130℃~170℃であり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂からなる。金属層4は、正極においては、例えば、アルミニウム蒸着層であり、負極においては、例えば、銅蒸着層が使用される。また、厚さは、電気伝導、熱伝導等の点から0.5μm~3μmであることが好ましい。」
(3)「【0019】(実施例2)本実施例2は、正極10を上述の図2に示す如く集電体2において金属層を金属箔5とした構成とし、負極を従来構成としたものである。正極10は、次のように作製した。樹脂フィルム3にポリプロピレンフィルム(厚さ15μm)を用い、その両面に金属箔5としてアルミニウム箔(厚さ3μm)を、接着剤層6を介してラミネート加工し、集電体2を形成した。」
(4)「【図2】
[図:0001433117000001.jpg]
」
上記(1)ないし(4)から以下のことがいえる。
・甲第1号証に記載の「リチウムイオン二次電池」は、上記(1)の記載によれば、集電体が、電池の異常発熱時に溶融する樹脂からなる低融点層と、該低融点層と活物質との間に介在し前記活物質と電荷のやり取りを行う金属層と、を備えてなるものである。
・上記(2)、(3)の記載によれば、集電体は、樹脂フィルム(融点が130℃から170℃の樹脂、つまり電池の異常発熱時に溶融する樹脂のフィルム)の両面に金属層を形成したものであり、特に上記(3)、(4)(図2)によれば、実施例2では、金属層を金属箔5とした構成とし、当該金属箔5を樹脂フィルム3の両面に接着剤層6を介してラミネート加工することで集電体2を形成してなるものである。
以上のことから、リチウムイオン二次電池の集電体が備える樹脂フィルムに着目し、これを発明として捉え上記記載及び図面を総合勘案すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「電池の異常発熱時に溶融する樹脂からなる樹脂フィルムであって、
金属箔をその両面に接着剤層を介してラミネート加工することで集電体を形成してなる、樹脂フィルム。」
2.甲第2号証
甲第2号証(特開2015-48428号公報)には、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「【請求項1】
ダイマー酸に由来する又はダイマー酸とトリマー酸を含む混合物に由来する成分(A)と、イソシアネート成分(B)とを含有し、
前記成分(A)が、ダイマージオール、トリマートリオール、ダイマー酸含有ポリエステルポリオール、及びダイマージアミンからなる群より選択される少なくとも一種であるポリウレタン系組成物。
【請求項2】
前記成分(A)と前記成分(B)の合計100質量部に対して、酸変性ポリオレフィン樹脂を1,000質量部以下さらに含有する請求項1に記載のポリウレタン系組成物。
【請求項3】
カルボジイミド架橋剤、オキサゾリン架橋剤、エポキシ架橋剤、アジリジン架橋剤、シランカップリング剤、及びチタンカップリング剤からなる群より選択される少なくとも一種の架橋剤をさらに含有する請求項1又は2に記載のポリウレタン系組成物。
【請求項4】
接着剤又はバインダーとして用いられる請求項1~3のいずれか一項に記載のポリウレタン系組成物。
【請求項5】
内層、バリア層、外層、及びこれらの層を相互に接着する接着層を備えた積層構造を有し、
前記接着層が、請求項4に記載のポリウレタン系組成物により形成されたリチウムイオン電池用外装体。」
(2)「【0013】
本発明のポリウレタン系組成物は、オレフィン樹脂、金属箔、ナイロン、及びポリエステル等の種々の材質からなる基材に対して良好な接着性を示すとともに、耐溶剤性、耐加水分解性、耐薬品性、耐電解液性、水蒸気バリア性、及び耐熱性等に優れた接着層やバインダー層を形成することができる。また、本発明のポリウレタン系組成物は、塗布及び乾燥後、ドライラミネーション法によって基材同士を接着して均一な接着層やバインダー層を形成することが可能である。このため、本発明のポリウレタン系組成物は、リチウムイオン電池用の外装体を簡便に製造するための材料(接着剤及びバインダー等)として好適である。」
(3)「【0029】
(酸変性ポリオレフィン樹脂)
本発明のポリウレタン系組成物は、酸変性ポリオレフィン樹脂をさらに含有することが好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂を含有させることで、ポリオレフィンフィルムとの接着性をさらに向上させることができる。酸変性ポリオレフィン樹脂の具体例としては、無水マレイン酸変性ポリプロピレン等を挙げることができる。なお、酸変性ポリオレフィン樹脂は、溶剤に可溶であるものが好ましい。また、酸変性オレフィン樹脂の融点は、耐熱性及びラミネーション加工の容易さ等を考慮すると、60~160℃が適当である。このような酸変性ポリオレフィン樹脂の市販品としては、商品名「アウローレン」(日本製紙ケミカル社製)、商品名「ハードレン」(東洋紡社製)等を挙げることができる。成分(A)と成分(B)の合計100質量部に対する酸変性ポリオレフィン樹脂の量は、1,000質量部以下であることが好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂の量が、成分(A)と成分(B)の合計100質量部に対して1,000質量部を超えると、ラミネーション温度が高くなる、或いは形成される接着層やバインダー層の柔軟性が低下する傾向にある。
【0030】
(架橋剤)
本発明のポリウレタン系組成物は、イソシアネート成分(B)以外の「その他の架橋剤」(以下、単に「架橋剤」とも記す)をさらに含有することが好ましい。架橋剤を含有させることで、耐電解液性、耐溶剤性、耐薬品性及び耐熱性をさらに向上させることが可能であるとともに、初期密着性及び高温下での接着力を向上させることができる。架橋剤としては、公知のものを用いることができる。架橋剤としては、例えば、カルボジイミド架橋剤、オキサゾリン架橋剤、エポキシ架橋剤、アジリジン架橋剤、シランカップリング剤、及びチタンカップリング剤を挙げることができる。これらの架橋剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。カルボジイミド架橋剤の市販品としては、商品名「カルボジライト」(日清紡ケミカル社製)等を挙げることができる。オキサゾリン架橋剤の市販品としては、商品名「エポクロス」(日本触媒社製)等を挙げることができる。エポキシ架橋剤の市販品としては、商品名「jER」(三菱化学社製)等を挙げることができる。アジリジン架橋剤の市販品としては、商品名「ケミタイト」(日本触媒社製)等を挙げることができる。シランカップリング剤の具体例としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。また、チタンカップリング剤の具体例としては、チタニウム ジ2-エチルヘキソキシビス(2-エチル-3-ヒドロキシヘキソキシド)等を挙げることができる。
【0031】
成分(A)と成分(B)の合計100質量部に対する架橋剤の量は、0.1~50質量部であることが好ましい。成分(A)と成分(B)の合計100質量部に対する架橋剤の量が50質量部を超えると、形成される接着層やバインダー層が脆くなる、或いは架橋剤の官能基が残留しやすくなる傾向にある。」
上記(1)ないし(3)の記載を総合勘案すると、甲第2号証には、次の技術事項が記載されている。
「内層、バリア層、外層、及びこれらの層を相互に接着する接着層を備えたリチウムイオン電池用外装体における接着層について、
種々の材質からなる基材に対して良好な接着性を示すとともに、耐電解液性等に優れたものとするために、成分(A)として例えばダイマー酸含有ポリエステルポリオールと、イソシアネート成分(B)とを含有し、前記成分(A)と前記成分(B)の合計100質量部に対して、酸変性ポリオレフィン樹脂を1,000質量部以下さらに含有するとともに、前記成分(A)と前記成分(B)の合計100質量部に対して、例えばエポキシ架橋剤を0.1~50質量部さらに含有するポリウレタン系組成物により形成したこと。」
3.甲第3号証
甲第3号証(国際公開第2018/066670号)には、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「[0066][接着剤層2]
本発明の電池用包装材料において、接着剤層2は、基材層1とバリア層3を強固に接着させるために、必要に応じて、これらの間に設けられる層である。
[0067] 接着剤層2は、基材層1とバリア層3とを接着可能である接着剤によって形成される。接着剤層2の形成に使用される接着剤は、2液硬化型接着剤であってもよく、また1液硬化型接着剤であってもよい。更に、接着剤層2の形成に使用される接着剤の接着機構についても、特に制限されず、化学反応型、溶剤揮発型、熱溶融型、熱圧型等のいずれであってもよい。
[0068] 接着剤層2の形成に使用できる接着成分としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート、共重合ポリエステル等のポリエステル系樹脂;ポリエーテル系接着剤;ポリウレタン系接着剤;エポキシ系樹脂;フェノール系樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、共重合ポリアミド等のポリアミド系樹脂;ポリオレフィン、カルボン酸変性ポリオレフィン、金属変性ポリオレフィン等のポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂;セルロース系接着剤;(メタ)アクリル系樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリカーボネート;尿素樹脂、メラミン樹脂等のアミノ樹脂;クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン-ブタジエンゴム等のゴム;シリコーン系樹脂等が挙げられる。これらの接着成分は1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの接着成分の中でも、好ましくはポリウレタン系接着剤が挙げられる。
[0069] ポリウレタン系接着剤としては、ポリオール成分(A)を含有する主剤と、ポリイソシアネート成分(B)を含有する硬化剤とを含有するポリウレタン系接着剤であって、ポリオール成分(A)がポリエステルポリオール(A1)を含有し、ポリエステルポリオール(A1)が多塩基酸成分と多価アルコール成分とから構成される数平均分子量5000~50000のポリエステルポリオールであって、多塩基酸成分100モル%中、芳香族多塩基酸成分を45~95モル%含み、接着剤層の100%伸び時の引張り応力が100kg/cm2以上、500kg/cm2以下となるものが挙げられる。・・(以下、略)」
(2)「[0118][接着層5]
本発明の電池用包装材料において、接着層5は、バリア層3と熱融着性樹脂層4を強固に接着させるために、これらの間に必要に応じて設けられる層である。
[0119] 接着層5は、バリア層3と熱融着性樹脂層4とを接着可能である樹脂によって形成される。接着層5の形成に使用される樹脂としては、その接着機構、接着剤成分の種類等は、接着剤層2で例示した接着剤と同様のものが使用できる。また、接着層5の形成に使用される樹脂としては、前述の熱融着性樹脂層4で例示したポリオレフィン、環状ポリオレフィン、カルボン酸変性ポリオレフィン、カルボン酸変性環状ポリオレフィンなどのポリオレフィン系樹脂も使用できる。バリア層3と熱融着性樹脂層4との密着性に優れる観点から、ポリオレフィンとしては、カルボン酸変性ポリオレフィンが好ましく、カルボン酸変性ポリプロピレンが特に好ましい。すなわち、接着層5を構成している樹脂は、ポリオレフィン骨格を含んでいても含んでいなくてもよく、ポリオレフィン骨格を含んでいることが好ましい。接着層5を構成している樹脂がポリオレフィン骨格を含むことは、例えば、赤外分光法、ガスクロマトグラフィー質量分析法などにより分析可能であり、分析方法は特に問わない。例えば、赤外分光法にて無水マレイン酸変性ポリオレフィンを測定すると、波数1760cm-1付近と波数1780cm-1付近に無水マレイン酸由来のピークが検出される。ただし、酸変性度が低いとピークが小さくなり検出されない場合がある。その場合は核磁気共鳴分光法にて分析可能である。
[0120] バリア層3(又は耐酸性皮膜)と熱融着性樹脂層4との密着性を向上させる観点から、接着層5は、酸変性ポリオレフィンを含むことが好ましい。酸変性ポリオレフィンは、ポリオレフィンをカルボン酸などの酸成分でブロック重合又はグラフト重合することにより変性したポリマーである。変性に使用される酸成分としては、例えば、マレイン酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などのカルボン酸又はその無水物が挙げられる。また、変性されるポリオレフィンとしては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレンなどのポリエチレン;ホモポリプロピレン、ポリプロピレンのブロックコポリマー(例えば、プロピレンとエチレンのブロックコポリマー)、ポリプロピレンのランダムコポリマー(例えば、プロピレンとエチレンのランダムコポリマー)などのポリプロピレン;エチレン-ブテン-プロピレンのターポリマーなどが挙げられる。これらのポリオレフィンの中でも、好ましくはポリエチレン及びポリプロピレンが挙げられる。
[0121] 接着層5において、酸変性ポリオレフィンの中でも、特に無水マレイン酸変性ポリオレフィン、さらには無水マレイン酸変性ポリプロピレンが好ましい。
[0122] さらに、電池用包装材料の厚みを薄くしつつ、成形後の形状安定性に優れた電池用包装材料とする観点からは、接着層5は、酸変性ポリオレフィンと硬化剤を含む樹脂組成物の硬化物であることがより好ましい。酸変性ポリオレフィンとしては、好ましくは、前記のものが例示できる。
[0123] また、接着層5は、酸変性ポリオレフィンと、イソシアネート基を有する化合物、オキサゾリン基を有する化合物、及びエポキシ基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種とを含む樹脂組成物の硬化物であることが好ましく、酸変性ポリオレフィンと、イソシアネート基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種とを含む樹脂組成物の硬化物であることが特に好ましい。また、接着層5は、ウレタン樹脂、エステル樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、ウレタン樹脂及びエポキシ樹脂を含むことがより好ましい。エステル樹脂としては、例えばアミドエステル樹脂が好ましい。アミドエステル樹脂は、一般的にカルボキシル基とオキサゾリン基の反応で生成する。接着層5は、これらの樹脂のうち少なくとも1種と前記酸変性ポリオレフィンを含む樹脂組成物の硬化物であることがより好ましい。なお、接着層5に、イソシアネート基を有する化合物、オキサゾリン基を有する化合物、エポキシ樹脂などの硬化剤の未反応物が残存している場合、未反応物の存在は、例えば、赤外分光法、ラマン分光法、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)などから選択される方法で確認することが可能である。」
上記(1)及び(2)の記載を総合勘案すると、甲第3号証には、次の技術事項が記載されている。
「電池用包装材料における基材層とバリア層の間に設けられる接着剤層の形成に使用できる接着成分としては、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系接着剤、エポキシ樹脂、カルボン酸変性ポリオレフィン等のポリオレフィン系樹脂が挙げられ、これらの接着成分の中でも、好ましくはポリウレタン系接着剤が挙げられ、ポリウレタン系接着剤としては、ポリオール成分(A)がポリエステルポリオール(A1)を含有するものが挙げられること、さらに、バリア層と熱融着性樹脂層の間に必要に応じて設けられる接着層の形成に使用される樹脂としては、接着剤層で例示した接着剤と同様のものが使用でき、また、カルボン酸変性ポリオレフィンなどのポリオレフィン系樹脂も使用でき、酸変性ポリオレフィンやエポキシ樹脂を含むことが好ましいこと。」
4.甲第4号証
甲第4号証(特開2022-7514号公報)には、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
「【0039】
(接着剤用組成物)
次に、本実施形態に係る接着剤用組成物について説明する。本実施形態に係る接着剤用組成物の構成は、以下の通りである。
すなわち、本実施形態に係る接着剤用組成物は、基材層2、第一接着剤層5、金属箔層4、第二接着剤層6、及びシーラント層3がこの順で積層された構造を有する蓄電装置用外装材1において、第二接着剤層6を形成するために使用される接着剤用組成物である。そして、本実施形態に係る接着剤用組成物は、少なくとも下記の成分1、成分2、成分3、成分4、及び成分5を含有する。
【0040】
(成分1)酸変性ポリオレフィン
(成分2)1分子中にアクリロイル基及びメタクリロイル基の少なくとも一方の基を有する化合物
(成分3)活性エネルギー線重合開始剤
(成分4)溶剤
(成分5)1分子中にカルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物
・・・・(中 略)・・・・
【0048】
また、酸変性ポリオレフィンの重量平均分子量(Mw)は、60000以上150000以下の範囲であることが好ましく、70000以上140000以下の範囲であることがより好ましく、80000以上130000以下の範囲であることがさらに好ましい。酸変性ポリオレフィンの数平均分子量(Mn)は、30000以上90000以下の範囲であることが好ましく、35000以上80000以下の範囲であることがより好ましく、40000以上70000以下の範囲であることがさらに好ましい。ここでの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量及び数平均分子量である。」
5.甲第5号証
甲第5号証(特開2013-149558号公報)には、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
「【0023】
本発明の電池ケース用包材10を構成する第1接着剤層2としては、公知の接着剤から形成することができるが、電池ケース用包材10を深絞り加工又は張り出し加工した場合に、電池ケースの外側となる耐熱性延伸樹脂層1が内側の層に比べてより強く引き延ばされ、それによりアルミニウム層3にクラックを生じさせるような応力がアルミニウム層に生じるという事実に鑑み、そのような応力を緩和する役目を第1接着剤層2に付与するために、0~30℃、好ましくは3~15℃のガラス転移温度を示す樹脂を主成分とする接着剤から形成することが好ましい。このようなガラス転移温度の樹脂を主成分とすることにより、電池ケース用包材10が実用的上問題のない成形性、換言すれば9mm以上のエリクセン値(JIS Z2247に準じる。但し、絞り速度を1mm/分とする。)を示し、同時に耐熱性延伸樹脂層1とアルミニウム層3との間の剥離強度を少なくとも3N/15mm(JIS K6854)以上に向上させることができる。また、その主成分の樹脂の軟化点は、低すぎると高温での接着信頼性が低下する傾向があり、高すぎると接着不良が生ずる傾向があるので、好ましくは30~110℃、より好ましくは40℃以上である。
【0024】
このような第1接着剤層2の主材料としては、ポリエステル樹脂を使用することが好ましい。これは、他の一般的な接着剤(例えば、ウレタン系接着剤)に比べ、成形性に優れるという利点を有するからである。」
6.甲第6号証
甲第6号証(特開2012-155974号公報)には、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「【0035】
正極集電体11を構成する金属箔14は、たとえば、約4μm~約10μmの厚みを有するアルミニウム箔またはアルミニウム合金箔から構成されている。アルミニウムは不動態化し易いため、正極集電体11の金属箔14として好適に用いることができる。なお、上記金属箔14は、アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔以外であってもよく、たとえば、チタン、ステンレス鋼、ニッケルなどの金属箔、または、これらの合金からなる合金箔などから構成されていてもよい。」
(2)「【0095】
負極集電体21を構成する金属箔24は、たとえば、約4μm~約10μmの厚みを有する銅箔または銅合金箔から構成されている。銅は、リチウムと合金化しにくいため、負極集電体21の金属箔24として好適に用いることができる。なお、上記金属箔24は、銅箔または銅合金箔以外であってもよく、たとえば、ニッケル、ステンレス鋼、鉄などの金属箔、または、これらの合金からなる合金箔などから構成されていてもよい。」
第5 当審の判断
1.本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア.甲1発明における「樹脂フィルム」は、本件発明1でいう「樹脂フィルム」に相当し、甲1発明における「樹脂フィルム」にあっても、金属箔をその両面に接着剤層を介してラミネート加工することで電池の集電体を形成するものであるから、本件発明1と同様、「電池集電体補強用フィルム」であるということができ、また、その際、樹脂フィルムと金属箔との間に介される「接着剤層」は、本件発明1でいう「接着剤層」に対応するといえる。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「樹脂フィルムを有する電池集電体補強用フィルム」である点では共通する。
ただし、本件発明1では樹脂フィルムだけでなく「前記樹脂フィルムの表面に形成された接着剤層」とからなる、すなわち予め樹脂フィルムの表面に接着剤層が形成されたものであることを特定するのに対し、甲1発明では金属箔をその両面にラミネート加工する際に接着剤層を介するものの、予め樹脂フィルムの表面に接着剤層が形成されたものであることの特定まではない点で相違する。
イ.さらに、接着剤層について、本件発明1では「酸変性ポリオレフィン樹脂と、ポリエステル樹脂と、エポキシ樹脂とを含」み、「前記酸変性ポリオレフィン樹脂100重量部に対し、前記ポリエステル樹脂を10~100重量部、前記エポキシ樹脂を7.5~10重量部含む」ことを特定するのに対し、甲1発明ではそのような特定を有していない点で相違する。
よって上記ア.及びイ.によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「樹脂フィルムを有する電池集電体補強用フィルム。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
本件発明1では樹脂フィルムだけでなく「前記樹脂フィルムの表面に形成された接着剤層」とからなる、すなわち予め樹脂フィルムの表面に接着剤層が形成されたものであることを特定するのに対し、甲1発明では金属箔をその両面にラミネート加工する際に接着剤層を介するものの、予め樹脂フィルムの表面に接着剤層が形成されたものであることの特定まではない点。
[相違点2]
接着剤層について、本件発明1では「酸変性ポリオレフィン樹脂と、ポリエステル樹脂と、エポキシ樹脂とを含」み、「前記酸変性ポリオレフィン樹脂100重量部に対し、前記ポリエステル樹脂を10~100重量部、前記エポキシ樹脂を7.5~10重量部含む」ことを特定するのに対し、甲1発明ではそのような特定を有していない点。
(2)判断
そこで事案に鑑み、まず相違点2について検討する。
甲第2号証には「内層、バリア層、外層、及びこれらの層を相互に接着する接着層を備えたリチウムイオン電池用外装体における接着層について、種々の材質からなる基材に対して良好な接着性を示すとともに、耐電解液性等に優れたものとするために、成分(A)として例えばダイマー酸含有ポリエステルポリオールと、イソシアネート成分(B)とを含有し、前記成分(A)と前記成分(B)の合計100質量部に対して、酸変性ポリオレフィン樹脂を1,000質量部以下さらに含有するとともに、前記成分(A)と前記成分(B)の合計100質量部に対して、例えばエポキシ架橋剤を0.1~50質量部さらに含有するポリウレタン系組成物により形成した」技術事項が記載(上記「第4 2.」を参照)され、また、甲第3号証には「電池用包装材料における基材層とバリア層の間に設けられる接着剤層の形成に使用できる接着成分としては、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系接着剤、エポキシ樹脂、カルボン酸変性ポリオレフィン等のポリオレフィン系樹脂が挙げられ、これらの接着成分の中でも、好ましくはポリウレタン系接着剤が挙げられ、ポリウレタン系接着剤としては、ポリオール成分(A)がポリエステルポリオール(A1)を含有するものが挙げられること、さらに、バリア層と熱融着性樹脂層の間に必要に応じて設けられる接着層の形成に使用される樹脂としては、接着剤層で例示した接着剤と同様のものが使用でき、また、カルボン酸変性ポリオレフィンなどのポリオレフィン系樹脂も使用でき、酸変性ポリオレフィンやエポキシ樹脂を含むことが好ましい」とする技術事項が記載(上記「第4 3.」を参照)されている。
しかしながら、そもそも甲第2号証における成分(A)としての「ダイマー酸含有ポリエステルポリオール」、及び甲第3号証におけるポリウレタン系接着剤が含有する「ポリエステルポリオール」は、主にポリウレタン樹脂の原料(中間体)であり、いわゆる「ポリエステル樹脂」とはその構造(状態)も特性も異なる物質であり、本件発明1でいう接着剤層に含まれる「ポリエステル樹脂」に相当するとはいえないものである。なお、甲第3号証には、接着剤層の形成に使用できる接着成分としてポリエステル系樹脂も例示されてはいるが、あえて酸変性ポリオレフィン樹脂やエポキシ樹脂とともに使用すべきことまでは記載されていない。したがって、甲第2号証及び甲第3号証には、接着剤層あるいは接着層として「酸変性ポリオレフィン樹脂」や「エポキシ樹脂」だけでなく「ポリエステル樹脂」も含み、さらに「前記酸変性ポリオレフィン樹脂100重量部に対し、前記ポリエステル樹脂を10~100重量部、前記エポキシ樹脂を7.5~10重量部含む」ようにすることについては記載も示唆もないといえ、たとえ甲1発明に対して甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術事項を組み合わせることができたとしても、相違点2に係る構成を導き出すことはできない。
よって、他の相違点(相違点1)について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2.本件発明2について
請求項2は請求項1を引用するものであり、少なくとも上記相違点2に係る発明特定事項を備えるものであるところ、本件発明2に対して提示された甲第4号証には、蓄電装置用外装材において使用される接着剤用組成物が含む酸変性ポリオレフィンについて、数平均分子量(Mn)が30000以上90000以下の範囲であることが好ましいことが記載されているにすぎず(上記「第4 4.」を参照)、かかる甲第4号証を参照しても、相違点2に係る構成を導き出すことはできないから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3.本件発明3について
請求項3は請求項1を引用するものであり、少なくとも上記相違点2に係る発明特定事項を備えるものであるところ、本件発明3に対して提示された甲第5号証には、電池ケース用包材を構成する第1接着剤層について、好ましくは3~15℃のガラス転移温度を示す樹脂を主成分とする接着剤から形成することが好ましいことや、その主材料としては、ポリエステル樹脂を使用することが好ましいことが記載されているにすぎず(上記「第4 5.」を参照)、かかる甲第5号証を参照しても、相違点2に係る構成を導き出すことはできないから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証、甲第3号証及び甲第5号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4.本件発明4ないし7について
請求項4ないし7は請求項1を引用するものであり、少なくとも上記相違点2に係る発明特定事項を備えるものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明4ないし7は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
5.本件発明8、9について
請求項8、9は請求項1を引用するものであり、少なくとも上記相違点2に係る発明特定事項を備えるものであるところ、本件発明8、9に対して提示された甲第6号証には、正極集電体を構成する金属箔について、たとえば約4μm~約10μmの厚みを有するアルミニウム箔またはアルミニウム合金箔から構成されることや、負極集電体を構成する金属箔について、たとえば約4μm~約10μmの厚みを有する銅箔または銅合金箔から構成されることが記載されているにすぎず(上記「第4 6.」を参照)、かかる甲第6号証を参照しても、相違点2に係る構成を導き出すことはできないから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明8、9は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証、甲第3号証及び甲第6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
6.まとめ
以上のとおり、本件請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1ないし9に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700990