特許異議申立
2025-700610
蓄電装置用外装材及びこれを用いた蓄電装置
- 審判番号
- 2025-700610
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-019592
- 登録番号
- 7596636
- 請求日
- 2025年06月10日
- 審決日
- 2026年03月10日
- 公報発行日
- 2026年05月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】TOPPANホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】黒木 義樹
- 【権利者代理人】鈴木 洋平
- 【異議申立人】中村 絵美
- 審判長/審判官
- 審判長 廣川 浩
- 審判官 中木 努
- 審判官 河合 弘明
- 分類
- P1651.121-Y (H01M) / P1651.536-Y (H01M) / P1651.537-Y (H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法113条1項2号特許法113条1項4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第113条第1項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7596636号発明「蓄電装置用外装材及びこれを用いた蓄電装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7596636号の請求項1ないし請求項7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7596636号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし請求項7に係る特許についての出願は、令和2年2月7日の出願であって、令和6年12月2日にその特許権の設定登録がなされ、令和6年12月10日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、請求項1ないし請求項7に係る特許に対して、令和7年6月10日に特許異議申立人 中村 絵美(以下、単に「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし請求項7に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明7」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも基材層、外層接着剤層、バリア層、及び、シーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって、
前記基材層の20~150℃における線膨張係数と前記バリア層の20~150℃における線膨張係数との差が、MD方向及びTD方向のいずれも20×10-6/℃ 以下であり、
前記基材層が二軸延伸された半芳香族ポリアミドフィルムである、蓄電装置用外装材。
【請求項2】
前記バリア層がアルミニウム箔である、請求項1に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項3】
前記基材層の20~150℃における線膨張係数が、MD方向及びTD方向のいずれも-7×10-6/℃以上53×10-6/℃以下である、請求項1又は2に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項4】
前記外層接着剤層がポリエステルウレタン系接着剤を用いて形成された層であり、前記外層接着剤層の厚さが1~10μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項5】
全固体電池用である、請求項1~4のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項6】
蓄電装置本体と、
前記蓄電装置本体から延在する電流取出し端子と、
前記電流取出し端子を挟持し且つ前記蓄電装置本体を収容する、請求項1~5のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材と、
を備える蓄電装置。
【請求項7】
全固体電池である、請求項6に記載の蓄電装置。」
第3 申立人の主張及び証拠方法
1 申立人の主張の概要
申立人が特許異議申立書において主張する、本件特許についての特許異議申立の理由の概要は、以下のとおりである。(なお、申立理由2及び申立理由3に関し、申立人は、特許異議申立書に何も示していない。)
<申立理由1>
本件特許発明1ないし本件特許発明7は、甲第1号証に記載された発明、並びに甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術的事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件特許発明1ないし本件特許発明7は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第1項第2号に該当するから、取り消されるべきものである。
<申立理由4>
本件特許発明1ないし本件特許発明7は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第1項第4号に該当するから、取り消されるべきものである。
<申立理由5>
本件明細書の発明の詳細な説明の記載には不備があり、本件特許発明1ないし本件特許発明7は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第1項第4号に該当するから、取り消されるべきものである。
2 申立人が提出した証拠方法
甲第1号証:特開2016-184591号公報
甲第2号証:国際公開第2019/054426号
甲第3号証:特開2017-39847号公報
第4 各甲号証に記載された事項
1 甲第1号証の記載事項
(1)甲第1号証(特開2016-184591号公報)には、以下の各記載がある。(なお、下線は合議体で付与した。)
ア 「【0018】
1.電池用包装材料の積層構造
電池用包装材料は、図1に示すように、少なくとも、基材層1、金属層3、接着層5、及びシーラント層4が順次積層された積層体からなる。・・・(中略)・・・
【0019】
本発明の電池用包装材料は、図1に示すように、基材層1と金属層3との間に、これらの接着性を高める目的で、必要に応じて接着剤層2が設けられていてもよい。・・・(中略)・・・
【0020】
2.電池用包装材料を形成する各層の組成
[基材層1]
本発明の電池用包装材料において、基材層1は、・・・(中略)・・・最外層に位置する層である。・・・(中略)・・・基材層1を形成する素材としては、・・・(中略)・・・ポリアミド・・・(中略)・・・が挙げられる。
・・・(中略)・・・
【0022】
また、ポリアミドとしては、・・・(中略)・・・テレフタル酸及び/又はイソフタル酸に由来する構成単位を含むナイロン6I、ナイロン6T、ナイロン6IT、ナイロン6I6T(Iはイソフタル酸、Tはテレフタル酸を表す)等のヘキサメチレンジアミン-イソフタル酸-テレフタル酸共重合ポリアミド・・・(中略)・・・が挙げられる。・・・(中略)・・・
【0023】
基材層1は、・・・2軸延伸された樹脂フィルムで形成されていてもよく、・・・(中略)・・・とりわけ2軸延伸された樹脂フィルムは、配向結晶化することにより耐熱性が向上しているので、基材層1として好適に使用される。・・・(中略)・・・
【0024】
これらの中でも、基材層1を形成する樹脂フィルムとして、・・・(中略)・・・2軸延伸ナイロンが挙げられる。
・・・(中略)・・・
【0039】
[金属層3]
本発明の電池用包装材料において、金属層3は、包装材料の強度向上の他、電池内部に水蒸気、酸素、光等が侵入するのを防止するためのバリア層として機能する層である。・・・(中略)・・・
【0094】
本発明の電池用包装材料は、・・・(中略)・・・二次電池である。・・・(中略)・・・本発明の電池用包装材料の好適な適用対象として、リチウムイオン電池及びリチウムイオンポリマー電池が挙げられる。」
イ 「【図1】
[図:0001435195000001.jpg]
」
(2)甲第1号証に記載された発明
ア 上記「(1)」の「ア」の段落0018には「電池用包装材料は、図1に示すように、少なくとも、基材層1、金属層3、接着層5、及びシーラント層4が順次積層された」こと、段落0019には「基材層1と金属層3との間に、これらの接着性を高める目的で、必要に応じて接着剤層2が設けられていてもよい」こと、段落0020には「基材層1は、・・・最外層に位置する層である」こと、がそれぞれ記載されており、上記「(1)」の「イ」の図1の記載も参酌すると、甲第1号証の「電池用包装材料」は、「少なくとも、最外層に位置する基材層1、接着剤層2、金属層3、接着層5、及びシーラント層4が順次積層された電池用包装材料」であるといえる。
イ 上記「(1)」の「ア」の段落0039には「金属層3は、包装材料の強度向上の他、電池内部に水蒸気、酸素、光等が侵入するのを防止するためのバリア層として機能する層である」と記載されているから、上記「ア」の「金属層3」は、「バリア層として機能する金属層3」であるといえる。
ウ 上記「(1)」の「ア」の段落0020には「基材層1を形成する素材としては、・・・(中略)・・・ポリアミド・・・(中略)・・・が挙げられる」こと、段落0022には「ポリアミドとしては、・・・(中略)・・・ヘキサメチレンジアミン-イソフタル酸-テレフタル酸共重合ポリアミド・・・(中略)・・・が挙げられる」こと、段落0023には「基材層1は、・・・(中略)・・・2軸延伸された樹脂フィルムで形成され」ること、がそれぞれ記載されていることから、上記「ア」の「基材層1」は、「2軸延伸されたヘキサメチレンジアミン-イソフタル酸-テレフタル酸共重合ポリアミドフィルム」であるといえる。
エ 上記「(1)」の「ア」の段落0094には「電池用包装材料の好適な適用対象として、リチウムイオン電池・・・(中略)・・・が挙げられる」ことが記載されていることから、上記「ア」の「電池用包装材料」は、「リチウムイオン電池用包装材料」であるといえる。
オ 上記「ア」ないし「エ」を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「少なくとも、最外層に位置する基材層1、接着剤層2、バリア層として機能する金属層3、接着層5、及びシーラント層4が順次積層されたリチウムイオン電池用包装材料であって、前記基材層1が2軸延伸されたヘキサメチレンジアミン-イソフタル酸-テレフタル酸共重合ポリアミドフィルムである、リチウムイオン電池用包装材料。」
2 甲第2号証に記載された事項
甲第2号証(国際公開第2019/054426号)には、以下の記載がある。
(1)「[請求項1] 少なくとも金属板、接着層、樹脂層を含有し、これらの層がこの順で積層された積層体であって、
樹脂層を構成する樹脂が、半芳香族ポリアミドまたはポリイミド系樹脂であり、
・・・(中略)・・・
下記条件のヒートサイクル試験後の金属板と樹脂層との剥離強力が6N/25mm以上であることを特徴とする積層体。
・・・(中略)・・・
[請求項4] 請求項1~3のいずれかに記載の積層体を用いた電気、電子部品。」
(2)「[0008] 本発明の積層体は、・・・(中略)・・・樹脂層と金属板との接着性とに優れた積層体である。・・・(中略)・・・
[0028] (樹脂層)
本発明の積層体を構成する樹脂層において、樹脂層を構成する樹脂は、耐熱性の観点から、半芳香族ポリアミド・・・(中略)・・・系樹脂であることが必要である。
・・・(中略)・・・
[0045] (金属板)
積層体の金属板を構成する金属の種類は、・・・(中略)・・・アルミニウム・・・(中略)・・・が挙げられる。・・・(中略)・・・
[0071] 金属板、接着層、樹脂層の順で構成される積層体においては、カールという問題が生じることがある。すなわち、熱や湿度の影響を受けにくく、しかも寸法変化が極めて小さい金属板に、接着層を介して、樹脂層が積層されているため、樹脂層の寸法収縮、あるいは接着剤の体積収縮にともない、積層体は、樹脂層側にカールする。・・・(中略)・・・樹脂層の種類、厚み、また接着層の種類、用いる架橋剤の種類、配合量、さらには厚みを決定し、積層体としての各界面の接着性向上とともに、カール抑制を図る必要がある。
[0072] 本発明の積層体は、・・・(中略)・・・充電池外装部材・・・(中略)・・・等に使用することができる。」
(3)「[0096] 樹脂層を構成する樹脂、および樹脂層として、下記のものを使用した。
〔半芳香族ポリアミド(PA9T)〕・・・(中略)・・・
[0097] 〔半芳香族ポリアミド(PA9T)フィルム〕・・・(中略)・・・
[0098] 〔半芳香族ポリアミド(PA10T)〕・・・(中略)・・・
[0099] 〔半芳香族ポリアミド(PA10T)フィルム〕・・・(中略)・・・
[0100] 〔半芳香族ポリアミド(PA6T)フィルム〕」
3 甲第3号証に記載された事項
甲第3号証(特開2017-39847号公報)には、以下の記載がある。(なお、下線は合議体で付与した。)
(1)「【請求項1】
テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、炭素数が9である脂肪族ジアミンを主成分とするジアミン成分とからなる半芳香族ポリアミドのフィルムであって、フィルムの面方向における、25℃から250℃の平均線膨張係数が30ppm/℃以下であることを特徴とする半芳香族ポリアミドフィルム。」
(2)「【0002】
・・・(中略)・・・特定の樹脂組成の半芳香族ポリアミドを特定の条件で製膜・延伸することにより、耐熱性や寸法安定性等に優れた高品質の延伸フィルムを連続的に生産する方法が提案されている・・・(中略)・・・寸法安定性向上のため熱収縮率を小さくすること以外に線膨張係数を小さくすることが求められている。」
(3)「【0050】
本発明の半芳香族ポリアミドフィルムは、フィルムの面方向における25℃から250℃の平均線膨張係数が30ppm/℃以下であることが必要で、0ppm/℃以上であることが好ましい。フィルムの面方向における25℃から250℃の平均線膨張係数が30ppm/℃以下とするには、延伸温度、延伸倍率、延伸倍率比、延伸歪み速度、熱セット温度を適宜調整すればよい。・・・(中略)・・・
【0051】
本発明の半芳香族ポリアミドフィルムは、・・・(中略)・・・25~250℃の平均線膨張係数が30ppm/℃を超える場合があるので好ましくなく、・・・(中略)・・・25~250℃の平均線膨張係数が0ppm/℃未満となる場合があるので好ましくない。・・・(中略)・・・
【0057】
本発明の半芳香族ポリアミドフィルムには、金属またはその酸化物等の無機物、他種ポリマー、紙、織布、不織布、木材等が積層されていてもよい。
【0058】
本発明の半芳香族ポリアミドフィルムの製造方法としては、・・・(中略)・・・未延伸フィルムを・・・(中略)・・・TD、MDともに2~4倍程度の延伸倍率となるよう同時二軸延伸し、さらにTDのリラックスを数%として、150~300℃で数秒間熱処理を施す方法を挙げることができる。・・・(中略)・・・
【0065】
上述のようにして得られた本発明の半芳香族ポリアミドフィルムは、・・・(中略)・・・半導体パッケージ等の電子部品の包装材料・・・(中略)・・・のフィルムとして使用することができる。」
(4)「【0101】
【表3】
[図:0001435195000002.jpg]
【0102】
【表4】
[図:0001435195000003.jpg]
」
第5 当審の判断
1 申立理由1(第29条第2項)について
(1)対比
本件特許発明1と甲1発明を対比すると、次のことがいえる。
ア 甲1発明の「最外層に位置する基材層1」、「バリア層として機能する金属層3」、及び「シーラント層」は、それぞれ本件特許発明1の「基材層」、「バリア層」及び「シーラント層」に相当する。
イ 甲1発明の「接着剤層2」は、「最外層に位置する基材層1」と「バリア層として機能する金属層3」の間に形成された接着剤層であるから、本件特許発明1の「外層接着剤層」に相当する。
ウ 甲1発明の「順次積層された」は、各層が順番に積層されたことを意味するから、本件特許発明1の「この順で備える」に含まれる。
エ 甲1発明の「リチウムイオン電池用包装材料」は、リチウムイオン電池が蓄電装置に属することから、本件特許発明1の「蓄電装置用外装材」に含まれる。
オ 甲1発明の「2軸延伸」は、本件特許発明1の「二軸延伸」に相当する。
カ 甲1発明の「ヘキサメチレンジアミン-イソフタル酸-テレフタル酸共重合ポリアミドフィルム」は、ヘキサメチレンジアミン-イソフタル酸-テレフタル酸共重合ポリアミドが半芳香族ポリアミドに属することが技術常識であるから、本件特許発明1の「半芳香族ポリアミドフィルム」に含まれる。
キ したがって、上記「ア」ないし「カ」を総合すれば、本件特許発明1と甲1発明は、以下の点で一致し、また相違する。
<一致点>
「少なくとも基材層、外層接着剤層、バリア層、及び、シーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって、前記基材層が二軸延伸された半芳香族ポリアミドフィルムである、蓄電装置用外装材。」
<相違点>
本件特許発明1では「前記基材層の20~150℃における線膨張係数と前記バリア層の20~150℃における線膨張係数との差が、MD方向及びTD方向のいずれも20×10-6/℃以下であ」るという発明特定事項を有するのに対して、甲1発明ではそのような発明特定事項について特定されていない点。
(2)判断
上記相違点について検討する。
甲第2号証及び甲第3号証には、「前記基材層の20~150℃における線膨張係数と前記バリア層の20~150℃における線膨張係数との差が、MD方向及びTD方向のいずれも20×10-6/℃以下であ」ることが開示も示唆もされていないから、甲1発明、並びに甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術的事項に基いて上記相違点に係る発明特定事項を有する本件特許発明1をなすことは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本件特許発明1は、当業者であっても、甲第1号証に記載された発明、並びに甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術的事項に基いて、容易に発明をすることができたものではない。
なお、申立人は、「甲第3号証のナイロン9Tは、平均線膨張係数が30ppm/℃以下と小さいことが記載されている。・・・甲第1号証の実施例1において、ナイロン6の代わりにナイロン9Tなどを用いて、バリア層との線膨張係数の差を20×10-6/℃以下と小さくし、電池用包装材料の寸法安定性を高める動機付けは十分にある」(特許異議申立書29ページ5行ないし11行)と主張している。
しかしながら、甲第3号証は、「本発明の半芳香族ポリアミドフィルムは、フィルムの面方向における25℃から250℃の平均線膨張係数が30ppm/℃以下であることが必要で、0ppm/℃以上であることが好ましい」(段落0050)ことを記載するのみであって、「前記基材層の20~150℃における線膨張係数と前記バリア層の20~150℃における線膨張係数との差が、MD方向及びTD方向のいずれも20×10-6/℃以下であ」ることは何ら記載しておらず、自明でもない。
したがって、申立人の上記主張は採用することができない。
(3)本件特許発明2ないし本件特許発明7に対する申立理由1(第29条第2項)について
本件特許発明2ないし本件特許発明7は、本件特許発明1の構成を全て含むものである。
そうすると、上記「1」の「(2)」で述べた理由により、本件特許発明1は、当業者であっても、甲第1号証に記載された発明、並びに甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術的事項に基いて、容易に発明をすることができたものではない以上、同様の理由により、本件特許発明2ないし本件特許発明7は、当業者であっても、甲第1号証に記載された発明、並びに甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術的事項に基いて、容易に発明をすることができたものではない。
(4)小括
以上のとおり、本件特許発明1ないし本件特許発明7は、当業者であっても、甲第1号証に記載された発明、並びに甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術的事項に基いて、容易に発明をすることができたものではない。
2 申立理由4(第36条第6項第1号)について
(1)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書の「IV.申立理由4(サポート要件)」(33ページ1行ないし16行)において、「本件発明1では、バリア層の材質が特定されておらず、蓄電装置用外装材のバリア層として機能し得るあらゆる材料(例えば、金属、樹脂など)が包含され得る。
しかしながら、バリア層の材質によって、線膨張係数は大きく異なることは明らかである。
また、請求項3では、「前記バリア層がアルミニウム箔である、」と記載されているが、アルミニウム箔にも様々な材質が存在しており、アルミニウム箔の種類によっても、線膨張係数は大きく異なることは明らかである。
バリア層の材料が特定されずに、本件発明の課題「高温環境下(例えば150℃)でもバリア層からの基材層の浮きが生じにくい蓄電装置用外装材及びこれを用いた蓄電装置を提供すること」(【0008】)が解決されるとは考えられない。」と主張している。
要約すると、バリア層の材質が具体的に特定されなければ、本件特許発明の課題は解決することができない、との主張であると解される。
(2)第36条第6項第1号についての判断
ア 本件特許発明について
本件特許発明1ないし本件特許発明7は、上記「第2 本件特許発明」に記載したとおりのものであるところ、本件特許発明1は、「前記基材層の20~150℃における線膨張係数と前記バリア層の20~150℃における線膨張係数との差が、MD方向及びTD方向のいずれも20×10-6/℃以下であり、/ 前記基材層が二軸延伸された半芳香族ポリアミドフィルムである」(なお、記号「/」は、改行を表す。以下同様。)との発明特定事項を具備する。
イ 本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、以下の各記載がある。(なお、下線は合議体で付与した。)
(ア)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蓄電装置用外装材及びこれを用いた蓄電装置に関する。
・・・(中略)・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
・・・(中略)・・・
【0006】
・・・(中略)・・・得られた全固体電池を高温環境下で作動させると、外装材の基材層と金属箔層(バリア層)との間で剥離が生じ、下地の金属箔層から基材層が浮き上がる現象(外層浮き)が発生することがある。特に、外装材の深絞り成型された部分は、成型時に延伸されているため、上記の外層浮きがより生じやすい。外層浮きが生じると、その部分の強度が低下し、外装材に破れ等が生じる場合がある。
【0007】
・・・(中略)・・・蓄電装置の外装材には、蓄電装置を高温環境下で使用した場合でも外層浮きが生じにくいことが求められる。
【0008】
・・・(中略)・・・高温環境下(例えば150℃)でもバリア層からの基材層の浮きが生じにくい蓄電装置用外装材及びこれを用いた蓄電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本開示は、少なくとも基材層、外層接着剤層、バリア層、及び、シーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって、上記基材層の20~150℃における線膨張係数と上記バリア層の20~150℃における線膨張係数との差が、MD方向及びTD方向のいずれも20×10-6/℃以下である、蓄電装置用外装材を提供する。
【0010】
高温環境下に外装材が曝された場合、基材層及びバリア層の熱膨張が無視できないレベルで生じる。・・・(中略)・・・本開示の外装材によれば、基材層の20~150℃における線膨張係数とバリア層の20~150℃における線膨張係数との差が、MD方向及びTD方向のいずれも20×10-6/℃以下であることにより、高温環境下(例えば150℃)でもバリア層からの基材層の浮きが生じることを抑制することができる。
・・・(中略)・・・
【0012】
上記蓄電装置用外装材において、上記基材層の20~150℃における線膨張係数が、MD方向及びTD方向のいずれも-7×10-6/℃以上53×10-6/℃以下であってもよい。基材層の線膨張係数を上記範囲内とすることで、バリア層の線膨張係数との差を低減しやすいと共に、高温環境下での外層浮きの発生をより抑制しやすい。また、バリア層がアルミニウム箔である場合、アルミニウム箔の線膨張係数は23×10-6/℃付近であるため、基材層の線膨張係数を上記範囲内とすることで、アルミニウム箔の線膨張係数との差を低減することができる。
【0013】
上記蓄電装置用外装材において、上記基材層は、二軸延伸された半芳香族ポリアミドフィルムであってもよい。・・・(中略)・・・二軸延伸された半芳香族ポリアミドフィルムは、金属薄層(例えばアルミニウム箔)との線膨張係数の差を低減でき、高温環境下での外層浮きの発生を抑制しやすいと共に、外装材に良好な成型性を付与することができる。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、高温環境下(例えば150℃)でもバリア層からの基材層の浮きが生じにくい蓄電装置用外装材及びこれを用いた蓄電装置を提供することができる。」
(イ)「【0032】
上記半芳香族ポリアミドフィルム等の基材層11を構成する樹脂フィルムは、・・・(中略)・・・二軸延伸フィルムであることが好ましい。・・・(中略)・・・二軸延伸フィルムは、MD方向の線膨張係数とTD方向の線膨張係数の差を低減しやすく、MD方向及びTD方向の両方においてバリア層13との線膨張係数の差を低減しやすい・・・(中略)・・・
【0034】
基材層11の20~150℃における線膨張係数は、MD方向及びTD方向のいずれも、バリア層の線膨張係数との差を低減しやすく、高温環境下での外層浮きの発生をより抑制しやすいことから、・・・(中略)・・・13×10-6/℃以上33×10-6/℃以下であることが更に好ましい。」
(ウ)「【0042】
<バリア層13>
バリア層13は、水分が蓄電装置の内部に浸入することを防止する水蒸気バリア性を有する。・・・(中略)・・・バリア層13としては、質量(比重)、防湿性、加工性及びコストの面から、金属箔が好ましく、アルミニウム箔がより好ましい。また、アルミニウム箔は、20~150℃における線膨張係数が23×10-6/℃付近であり、基材層11の線膨張係数との差を低減しやすい。」
(エ)「【実施例】
【0106】
以下、実施例に基づいて本開示をより具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0107】
[使用材料]
実施例及び比較例で使用した材料を以下に示す。
【0108】
<基材層>
半芳香族ポリアミド1~4:表1に示した線膨張係数を有する同時二軸延伸された半芳香族ポリアミドフィルム(厚さ:25μm)
PBT:ポリブチレンテレフタレートフィルム(東洋紡社製、商品名:DE048、厚さ:15μm)
ナイロン6:ナイロン6フィルム(東洋紡社製、商品名:N1102、厚さ:25μm)
PET/ナイロン6:ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡社製、商品名:E5102、厚さ:12μm)とナイロン6フィルム(出光ユニテック社製、商品名:G100)との積層フィルム
・・・(中略)・・・
【0111】
<バリア層(厚さ:40μm)>
焼鈍脱脂処理した軟質アルミニウム箔(東洋アルミニウム社製、「8079材」)を用いた。
・・・(中略)・・・
【0114】
[外装材の作製]
(実施例1)
・・・(中略)・・・
【0115】
次に、第1及び第2の腐食防止処理層を設けたバリア層の第1の腐食防止処理層側をドライラミネート手法により、ポリエステルウレタン系接着剤(外層接着剤層)を用いて基材層に貼りつけた。・・・(中略)・・・
【0117】
(実施例2~5及び比較例1~5)
基材層及び/又は外層接着剤層を表1に示す構成に変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2~5及び比較例1~5の外装材・・・を作製した。・・・(中略)・・・
【0118】
[線膨張係数の測定]
実施例及び比較例で用いた基材層、及び、腐食防止処理層を設けた後のバリア層を、MD方向30mm×TD方向5mm、及び、TD方向30mm×MD方向5mm(いずれも長手方向が測定方向)のサイズにカットし、試験片を作製した。得られた試験片の長手方向の寸法変化を、熱機械分析装置(日立ハイテクサイエンス社製、商品名:TMA7100)を用いて測定した。測定条件は以下の通りである。2回目昇温時の測定で得られたTMA曲線を用いて、20℃から150℃の温度範囲における1℃当たりの長さの変化の平均値を、試験片の線膨張係数として求めた。結果を表1に示す。また、表1には、基材層とバリア層との線膨張係数の差も示した。
・・・(中略)・・・
【0119】
[外層浮きの評価]
実施例及び比較例で得られた外装材を、TD方向120mm×MD方向200mmの矩形状に切り取り、シーラント層が上方を向くように成型装置内に配置した。・・・(中略)・・・
【0120】
・・・(中略)・・・外層浮きを、以下の判定基準に基づいて評価した。評価結果を表1に示す。評価結果がA又はBであれば合格である。
A:7日間保管後に外層浮きが発生しなかった
B:3日間保管後に外層浮きが発生しなかった
C:3日間保管後に外層浮きが発生した
【0121】
【表1】
[図:0001435195000004.jpg]
」
ウ 本件特許発明の課題
上記「イ」の「(ア)」によれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、「高温環境下(例えば150℃)でもバリア層からの基材層の浮きが生じにくい蓄電装置用外装材及びこれを用いた蓄電装置を提供すること」(段落0008)であると認められる。
エ 課題解決手段に係る本件特許明細書の記載及び当該記載から理解される技術的事項
a 課題を解決する手段及びその作用機序(メカニズム)について
本件特許明細書には、「少なくとも基材層、外層接着剤層、バリア層、及び、シーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって、上記基材層の20~150℃における線膨張係数と上記バリア層の20~150℃における線膨張係数との差が、MD方向及びTD方向のいずれも20×10-6/℃以下である、蓄電装置用外装材を提供する」(段落0009)こと、「基材層の20~150℃における線膨張係数とバリア層の20~150℃における線膨張係数との差が、MD方向及びTD方向のいずれも20×10-6/℃以下であることにより、高温環境下(例えば150℃)でもバリア層からの基材層の浮きが生じることを抑制することができる」(段落0010)こと、が記載されている。
また、上記基材層に関し、「上記基材層は、二軸延伸された半芳香族ポリアミドフィルム」(段落0013)であること、上記バリア層に関し、「バリア層がアルミニウム箔である」(段落0012)こと、がそれぞれ記載されている。
b 実施例について
本件特許明細書には、「基材層11の20~150℃における線膨張係数は、・・・13×10-6/℃以上33×10-6/℃以下である」(段落0034)こと、「バリア層は、・・・金属箔が好ましく、アルミニウム箔がより好ましい」(段落0042)こと、「アルミニウム箔は、20~150℃における線膨張係数が23×10-6/℃付近であ」(段落0042)ること、がそれぞれ記載されている。
実施例1(段落0106ないし0121、及び表1。)については、
(a)基材層に関し、厚さ25μmの半芳香族ポリアミド1(同時二軸延伸された半芳香族ポリアミドフィルム、線膨張係数はMD方向で14.6×10-6/℃、TD方向で12.0×10-6/℃)、
(b)外層接着剤層に関し、厚さ3μmのポリエステルウレタン接着剤、
(c)バリア層(金属箔層)に関し、厚さ40μmのアルミニウム(東洋アルミニウム社製、「8079材」、線膨張係数はMD方向で21.6×10-6/℃、TD方向で23.6×10-6/℃)、
(d)基材層とバリア層(金属箔層)の線膨張係数の差が、MD方向で7×10-6/℃、TD方向で11.6×10-6/℃、
(e)外層浮きの評価結果は、A(7日間保管後に外層浮きが発生しなかった)であり、合格、
であると、具体的に示されている。
また、実施例2ないし実施例5、並びに比較例1ないし比較例5についても、同様の開示があり、実施例と比較例との対比をもって示されている。
オ 判断
上記「エ」の「a」で示した本件特許明細書の課題を解決する手段及びその作用機序(メカニズム)についての記載と、上記「オ」の「b」で示した実施例と比較例との対比結果を踏まえると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「前記基材層の20~150℃における線膨張係数と前記バリア層の20~150℃における線膨張係数との差が、MD方向及びTD方向のいずれも20×10-6/℃以下であり、/ 前記基材層が二軸延伸された半芳香族ポリアミドフィルムである」との発明特定事項を備える本件特許発明1は、上記「ウ」で示した本件特許発明の課題を解決できるものであるといえる。
また、本件特許発明1の構成を全て備える本件特許発明2ないし本件特許発明7についても、同様である。
なお、上記「(1)」のとおり、申立人は、バリア層の材質が具体的に特定されなければ、本件特許発明の課題は解決することができない、と主張している。
しかしながら、上記「(2)」の「ア」に記載したとおりの「前記基材層の20~150℃における線膨張係数と前記バリア層の20~150℃における線膨張係数との差が、MD方向及びTD方向のいずれも20×10-6/℃以下であり、/ 前記基材層が二軸延伸された半芳香族ポリアミドフィルムである」との発明特定事項を有することで、本件特許発明の課題を解決できるものと合理的に理解できる。
したがって、申立人の上記主張は採用することができない。
(3)小括
以上のとおり、本件特許発明1ないし本件特許発明7は、発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
本件特許発明2ないし本件特許発明7についても同様である。
3 申立理由5(第36条第4項第1号)について
(1)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書の「V.申立理由5(実施可能要件)」(33ページ17行ないし34ページ2行)において、「請求項1では、バリア層の材質が特定されておらず、蓄電装置用外装材のバリア層として機能し得るあらゆる材料(例えば、金属、樹脂など)が包含され得る。
しかしながら、バリア層の材質によって、線膨張係数は大きく異なることは明らかである。
また、請求項3では、「前記バリア層がアルミニウム箔である、」と記載されているが、アルミニウム箔にも様々な材質が存在しており、アルミニウム箔の種類によっても、線膨張係数は大きく異なることは明らかである。
あらゆる材質のバリア層を用いて、請求項1-7に記載された発明を当業者が過度の試行錯誤無く実施できるとは考えられない。」と主張している。
要約すると、バリア層の材質が具体的に特定されなければ、本件特許発明を当業者が過度の試行錯誤を要することなく実施できない、との主張であると解される。
(2)第36条第4項第1号についての判断
本件特許発明1ないし本件特許発明7は、上記「第2 本件特許発明」に記載したとおりのものであるところ、発明の詳細な説明には、上記「2」の「(2)」の「イ」で摘記した記載があり、そこに「前記基材層の20~150℃における線膨張係数と前記バリア層の20~150℃における線膨張係数との差が、MD方向及びTD方向のいずれも20×10-6/℃以下であり、/ 前記基材層が二軸延伸された半芳香族ポリアミドフィルムである」実施例1ないし実施例5が記載されているから、発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし本件特許発明7に係る物の発明について明確に理解でき、その物を作れる程度に具体的に記載されているということができる。
なお、上記「(1)」のとおり、申立人は、バリア層の材質が具体的に特定されなければ、本件特許発明を当業者が過度の試行錯誤を要することなく実施できない、と主張している。
しかしながら、上記したような「前記基材層の20~150℃における線膨張係数と前記バリア層の20~150℃における線膨張係数との差が、MD方向及びTD方向のいずれも20×10-6/℃以下であり、/ 前記基材層が二軸延伸された半芳香族ポリアミドフィルムである」実施例の記載を参考にすれば、当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤なく行うことができる。
したがって、申立人の上記主張は採用することができない。
(3)小括
以上のとおり、本件特許の発明の詳細な説明は、本件特許発明1について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載したものであるといえる。
本件特許発明2ないし本件特許発明7についても同様である。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし本件特許発明7は、当業者であっても、甲第1号証に記載された発明、並びに甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術的事項に基いて、容易に発明をすることができたものでない。
また、本件特許発明1ないし本件特許発明7は、発明の詳細な説明に記載したものである。
さらに、本件特許の発明の詳細な説明は、本件特許発明1ないし本件特許発明7について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許発明1ないし本件特許発明7は、特許法第113条第1項第2号、又は第4号には該当せず、取り消すことはできない。
また、他に、本件特許発明1ないし本件特許発明7を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700610