特許異議申立
2025-700905
電気化学セル
- 審判番号
- 2025-700905
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-514169
- 登録番号
- 7650404
- 請求日
- 2025年09月18日
- 審決日
- 2026年03月02日
- 公報発行日
- 2026年04月24日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本碍子株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
- 【異議申立人】岸本 雅樹
- 審判長/審判官
- 審判長 梶尾 誠哉
- 審判官 畑中 博幸
- 審判官 木村 貴俊
- 分類
- P1651.113-Y (H01M) / P1651.121-Y (H01M) / P1651.537-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条の2、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7650404号発明「電気化学セル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7650404号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7650404号(以下、「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願は、令和5年2月17日(優先権主張 令和4年4月5日、日本。なお、優先権主張の基礎とされた出願である特願2022-62956号を「優先基礎出願」という。)を国際出願日とする国際出願であって、令和7年3月13日にその特許権の設定登録がなされ、同年3月24日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許の請求項1に係る特許に対し、令和7年9月18日に特許異議申立人 岸本雅樹(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年12月3日に異議申立人より特許異議申立書に対する手続補正書(方式)が提出されたもの(以下、手続補正書(方式)により補正された特許異議申立書のことを「異議申立書」という。)である。
第2 本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
電子伝導性を有する支持層と、
前記支持層上に配置される中間層と、
前記中間層上に配置される水素極と、
酸素極と、
前記水素極及び前記酸素極の間に配置される電解質と、
を備え、
前記支持層は、イットリア安定化ジルコニアと、ニッケルと含み、
前記水素極は、希土類元素が添加されたセリア系酸化物と、ニッケルとを含み、
前記中間層は、イットリア安定化ジルコニア及び希土類元素が添加されたセリア系酸化物の固溶体と、ニッケルとを含み、
前記中間層の厚みは、3μm以上20μm以下である、
電気化学セル。」
第3 申立理由の概要
1 特許異議の申立理由
異議申立人の主張する特許異議の申立ての理由は、次のとおりである。
(1)申立理由1(新規性)
本件発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(進歩性)
本件発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(サポート要件)
本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 異議申立人の提出した証拠
異議申立人が提出した証拠は次のとおりである。
甲第1号証:特開2022-187988号公報
甲第2号証:特開2012-23017号公報
甲第3号証:特開2012-23018号公報
甲第4号証:Alireza Soleimany Mehranjani、Tape Casting of Ceramic GDC/YSZ Bi-layer Electrolyte Supports for High Temperature Co-electrolysis、2017年3月、
<https://etheses.whiterose.ac.uk/id/eprint/17600/>
<https://etheses.whiterose.ac.uk/id/eprint/17600/1/Alireza%20Soleimany%20Mehranjani%20%20Thesis%202017%20.pdf>
甲第5号証:A. TSOGA、A. GUPTA、A.NAOUMIDIS、P.NIKOLOPOULOS、GADOLINIA-DOPED CERIA AND YTTRIA STABILIZED ZIRCONIA INTERFACES: REGARDING THEIR APPLICATION FOR SOFC TECHNOLOGY、2000年12月、
<https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1359645400002615>
甲第6号証:Huixia Xu、Kaiming Cheng、Ming Chen、Lijun Zhang、Karen Brodersen、Yong Du、Interdiffusion between gadolinia doped ceria and yttria stabilized zirconia in solid oxide fuel cells: Experimental investigation and kinetic modeling, J. Pow. Sour., 441, 227152, 2019、2019年、
<https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0378775319311450>
甲第6号証の1:甲第6号証の公開年を証明する書面
<https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0378775319311450?via%3Dihub>
甲第7号証:特開2017-139078号公報
第4 異議申立人が提出した証拠の記載
1 甲第1号証
甲第1号証には、次の記載がある。
「【0019】
図2に示すように、電気化学セル1は、水素極10と電解質膜20と酸素極30とを備える。電気化学セル1は、たとえば、平板形の固体酸化物型電気化学セルである。また、電気化学セル1は、水素極支持型である。電気化学セル1を構成する各部について順次説明する。
・・・(中略)・・・。
【0021】
[B-1-1]第1の水素極層101
水素極10のうち、第1の水素極層101は、たとえば、支持層として機能するように構成されている。第1の水素極層101は、電気化学セル1において最も表面側に位置する層である。
【0022】
第1の水素極層101は、多孔質体であって、第1の金属と第1の酸化物との焼結体で構成されている。
【0023】
具体的には、第1の水素極層101において、第1の金属は、Fe、Co、Ni、および、Cuからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の単体金属、もしくは、当該元素の合金である。また、第1の水素極層101において、第1の酸化物は、Y、Sc、Ca、および、Mgからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物(Y2O3,Sc2O3,CaO,MgO)で安定化されたジルコニアである。第1の水素極層101を構成する焼結体においては、第1の金属が第1の酸化物に固溶している。
【0024】
[B-1-2]第2の水素極層102
水素極10のうち、第2の水素極層102は、たとえば、活性層として機能するように構成されている。第2の水素極層102は、多孔質体であって、第1の水素極層101よりも電解質膜20の側に位置している。つまり、水素極層102は、第1の水素極層101と電解質膜20との間に介在している。
【0025】
第2の水素極層102は、第2の金属と、第1の水素極層101を構成する第1の酸化物とは異なる第2の酸化物との焼結体で構成されている。
【0026】
具体的には、第2の水素極層102において、第2の金属は、Fe、Co、Ni、および、Cuからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の単体金属、もしくは、当該元素の合金である。第2の水素極層102を構成する第2の金属は、第1の水素極層101を構成する第1の金属と同じであっても相違していてもよい。また、第2の水素極層102において、第2の酸化物は、Sm、Gd、および、Yの群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物(Sm2O3、Gd2O3、Y2O3)がドープされたセリア(CeO2)である。第2の水素極層102を構成する焼結体においては、第2の金属が第2の酸化物に固溶している。
・・・(中略)・・・。
【0029】
[B-2]電解質膜20
電気化学セル1において、電解質膜20は、水素極10と酸素極30との間に挟まれている。ここでは、電解質膜20は、水素極10および酸素極30よりも気孔率が低い緻密層であって、水素極10の上面に積層されている。電解質膜20は、固体酸化物の焼結体で形成されている。
・・・(中略)・・・。
【0031】
[B-3]酸素極30
電気化学セル1において、酸素極30は、多孔質体であって、電解質膜20の上面側に設けられている。酸素極30は、ペロブスカイト酸化物を含む焼結体で構成されている。ペロブスカイト酸化物は、主として、化学式Ln1-xAxB1-yCyO3-δで表される。化学式において、Lnは、例えば、Laなどの希土類元素である。Aは、例えば、Sr,Ca,Ba等である。B及びCは、例えば、Cr,Mn,Co,Fe,Ni等である。なお、化学式において、x、y、および、δは、下記式に示す関係を満たす。」
「【0040】
第1の水素極層前駆体101aは、第1の水素極層101を形成する前段階の層である。第1の水素極層前駆体101aの形成では、第1の水素極層101において第1の金属を構成する金属の酸化物からなる粉末と、第1の水素極層101において第1の酸化物を構成する酸化物の粉末とを含むペーストを作製する。ペーストの作製では、樹脂などのバインダー、および、バインダーを溶解する溶媒等を用いる。
・・・(中略)・・・。
【0043】
第2の水素極層前駆体102aは、第2の水素極層102を形成する前段階の層である。第2の水素極層前駆体102aの形成では、第1の水素極層101の作製と同様に、第2の水素極層102において第2の金属を構成する金属の酸化物からなる粉末と、第2の水素極層102において第2の酸化物を構成する酸化物の粉末とを含むペーストを作製する。そして、第2の水素極層前駆体102aの形成は、その作製したペーストを用いてシート状の成形体を第1の水素極層前駆体101aの上面に形成することによって実行される。
・・・(中略)・・・。
【0045】
その後、第1の水素極層前駆体101aと第2の水素極層前駆体102aと電解質膜20との積層体について、焼成を実行する。焼成は、各層の内部の強度、および、各層間の強度が十分になるような条件で実行される。」
「【図2】
[図:0001434183000001.jpg]
」
2 甲第2号証
甲第2号証には、次の記載がある(下線は当審において付与した。以下同じ。)。
「【0001】
本発明は、燃料電池セルに関し、より具体的には、固体酸化物形燃料電池セルに関する。」
「【0031】
<組成>
中間層16は、ジルコニウムとセリウムとを含む。ジルコニウムはジルコニアとして、セリウムはセリアとして、中間層16に含まれていてもよい。中間層16においてセリウム(又はセリア)とジルコニウム(又はジルコニア)とは混合されており、中間層16は好ましくはセリアとジルコニアとの固溶体である。なお、中間層16は、セリウム及びジルコニウム以外の物質を含んでいてもよい。中間層16は例えば、バリア層13又は電解質層15に含まれる物質(添加剤等)を含んでいてもよい。電解質層15がイットリウム(Y)を含む場合、中間層16もイットリウムを含み得る。また、バリア層13がガドリニウム(Gd)を含む場合、中間層16もガドリニウムを含み得る。」
「【0079】
セル1の製造方法は、中間層16を形成する工程を含む。つまり、セル1の製造方法は、セリウムとジルコニウムとを含み、かつ気孔を有する層を形成する工程を含む。この工程は、ジルコニア系材料を主成分として含む層(ジルコニア系材料層)とセリア系材料を主成分として含む層(セリア系材料層)とを積層する工程と、積層された層を共焼成する工程と、により実現可能である。共焼成によって、セリア系材料層とジルコニア系材料層との接触面において、セリアとジルコニアとを固溶させることができる。また、共焼成によって、気孔を有する中間層16を形成することができる。」
「【0084】
具体的な製造方法の流れについて説明する。
燃料極11となる材料層の上に、ジルコニア系材料層、セリア系材料層を順番に積層することで、積層体を得ることができる。この積層体を脱脂及び焼成することで、焼成体を得ることができる。焼成によって、ジルコニア系材料層は電解質層15となり、セリア系材料層はバリア層13となり、ジルコニア系材料層とセリア系材料層との間には、中間層16が形成される。」
「【0087】
こうして得られた成形体に、別途作製された3YSZからなるセラミックグリーンシートと、GDCからなるセラミックグリーンシートとを順次積層し、熱圧着した。こうして、燃料極、ジルコニア系材料層、セリア系材料層がこの順に積層された積層体を得た。
得られた積層体を、1300~1500℃で1~20時間、共焼成した。」
「【0093】
シグナル強度に基づいて、さらにGdおよびYの各原子の濃度も算出した。
さらに、原子の濃度から、CeO2、Gd2O3、ZrO2、Y2O3の濃度を算出した。こうして、ライン毎の濃度、つまり厚み方向において異なる位置の濃度(濃度分布)が算出された。濃度分布の一例として、図2に示す視野において得られた各物質の分布を、図3に示す。図3において、横軸はバリア層13の上面近傍からの距離を示す。縦軸は各位置における物質の濃度を示す。」
「【0100】
20個の視野において、中間層16の厚みは1.0~1.5μmであり、中間層16の厚みの平均値は1.2μmであった。」
「【図1】
[図:0001434183000002.jpg]
」
「【図3】
[図:0001434183000003.jpg]
」
3 甲第3号証
甲第3号証には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、燃料電池セルに関し、より具体的には、固体酸化物形燃料電池セルに関する。」
「【0037】
1-7.緩衝層
<組成>
緩衝層16は、ジルコニウムとセリウムとを含む。ジルコニウムはジルコニアとして、セリウムはセリアとして、緩衝層16に含まれていてもよい。緩衝層16においてセリウム(又はセリア)とジルコニウム(又はジルコニア)とは混合されており、緩衝層16は好ましくはセリアとジルコニアとの固溶体である。なお、緩衝層16は、セリウム及びジルコニウム以外の物質を含んでいてもよい。緩衝層16は例えば、バリア層13又は電解質層15に含まれる物質(添加剤等)を含んでいてもよい。電解質層15がイットリウム(Y)を含む場合、緩衝層16もイットリウムを含み得る。また、バリア層13がガドリニウム(Gd)を含む場合、緩衝層16もガドリニウムを含み得る。」
「【0087】
セル1の製造方法は、緩衝層16を形成する工程を含む。つまり、セル1の製造方法は、セリウムとジルコニウムとを含む層を形成する工程を含む。この工程は、ジルコニア系材料を主成分として含む層(ジルコニア系材料層)とセリア系材料を主成分として含む層(セリア系材料層)とを積層する工程と、積層された層を共焼成する工程と、により実現可能である。共焼成によって、セリア系材料層とジルコニア系材料層との接触面において、セリアとジルコニアとを固溶させることができる。」
「【0092】
具体的な製造方法の流れについて説明する。
燃料極11となる材料層の上に、ジルコニア系材料層、セリア系材料層を順番に積層することで、積層体を得ることができる。この積層体を脱脂及び焼成することで、焼成体を得ることができる。焼成によって、ジルコニア系材料層は電解質層15となり、セリア系材料層はバリア層13となり、ジルコニア系材料層とセリア系材料層との間には、緩衝層16が形成される。また、セリア系材料層とジルコニア系材料層とを共焼成することによって、気孔を有するバリア層13を形成することができる。」
「【0095】
こうして得られた成形体に、別途作製された3YSZからなるセラミックグリーンシートと、GDCからなるセラミックグリーンシートとを順次積層し、熱圧着した。こうして、燃料極、ジルコニア系材料層、セリア系材料層がこの順に積層された積層体を得た。
得られた積層体を、1150~1450℃で1~20時間、共焼成した。」
「【0100】
シグナル強度に基づいて、さらにGdおよびYの各原子の濃度も算出した。
さらに、原子の濃度から、CeO2、Gd2O3、ZrO2、Y2O3の濃度を算出した。こうして、ライン毎の濃度、つまり厚み方向において異なる位置の濃度(モル濃度分布)が算出された。濃度分布の一例として、図2に示す視野において得られた各物質の分布を、図3に示す。図3において、横軸はバリア層13の上面近傍からの距離を示す。縦軸は各位置における物質の濃度を示す。」
「【0108】
図3に示すように、図2の視野における緩衝層16の厚さは約1μmであった。」
「【図1】
[図:0001434183000004.jpg]
」
「【図3】
[図:0001434183000005.jpg]
」
4 甲第4号証
甲第4号証には、次の記載がある。また、翻訳は、異議申立人が提出した「甲第4号証の訳文」に基づくものである。
「
[図:0001434183000006.jpg]
[図:0001434183000007.jpg]
」(第1頁~第2頁)
(翻訳:
要約
二酸化炭素と水蒸気の高温共電解は、出力抑制された風力発電電力から合成ガスを高効率・低コストかつ環境負荷の小さい方法で製造する手段となり得る。コスト競争力のある高性能(例えば内部抵抗を最小化した)電解セルを実現するには、共電解に最適化された材料およびセル構成を開発することが不可欠である。加えて、固体酸化物電解セル(SOEC)の商業利用を幅広く進めるには、コスト効率に優れた製造プロセスが重要となる。
本研究の前半では、システムの柔軟性を高めることを目的として、出力抑制された風力発電電力を合成ガスに変換するSOECプラントの実現可能性に焦点を当てた。まず、合成ガス製造のための高温共電解性能に関する最新の文献データに基づき、変換プラントの運転パラメータを取得した。さらに、変動電源と典型的な電力需要パターンとの相互作用を評価し、従来型発電機の柔軟性に関する制約について検討した。加えて、2020年の風力発電量の予測において、風力出力抑制プロファイルの最大電力値を23.9GWと推定した。将来、風力出力抑制に伴うコスト上昇により、SOECによる変換技術の商業的魅力が高まる可能性があることが指摘された。系統連系電解システムの総投資コストについては、運転コストの構成比を考慮して試算を行った。合成ガス製造における電力価格の割合は総コストの 61%と見積もられた。コスト効率の高い電力を用いることで、合成ガスの製造コストを大幅に低減できることが示された。系統連系電解装置の総投資コストは、2020年時点で0.38M£/MWと予測された。また、C02を燃料へ電気化学的に変換する技術が、十分に理解されていない柔軟な需要側リソースを提供し得ることが強調された。製造プロセス、系統連系およびシステム運用の分野には、依然として解決すべき技術的障壁が存在する。
固体酸化物電解セル(SOEC)の運転における重要な要素は、セル内の電解質を通じて十分に高いレベルの酸化物イオン伝導を確保する能力である。一般に、高性能セルにはイットリア安定化ジルコニア(Y安定化Zr02:YSZ)やガドリニウム添加セリア(Gd添加Ce02:GDC10)が用いられる。GDC10はYSZより高い酸化物イオン伝導度を有する一方で、高温かつ酸素分圧の低い環境での運転中にCe4+がCe3+へ部分還元されることに起因して電子伝導が生じるという問題を有する。
本研究では、テープキャスティングおよび同時焼結プロセスを用いて、GDC10/8YSZ二層電解質支持体を作製する手法について述べる。燃料電池/電解用途の固体酸化物セルの商業展開を広げる上で、コスト効率の高い製造プロセスは重要である。
燃料(還元)雰囲気中でのセリアの還元を回避し、電解質を介した電流リークを防止しつつ、高い酸化物イオン伝導を維持するための有効な解決策として、8YSZ/GDC二層電解質が提案されている。しかし、ジルコニア/セリア二層構造のプロセシングは、高温焼結時の熱化学的不安定性により困難であることが知られている。そこでまず、テープキャスティングプロセス用のスリップ組成を調製・最適化し、高いグリーン密度と均一なテープを得ることを可能にした。
さらに、Fe203焼結助剤を用いることで、二層電解質を構成する2種類のバルク材料の収縮挙動を整合させた。GDC層に5mol%、YSZ層に2mol%のFe203を添加することで、同時焼結中の層間剥離を防止できることがわかった。Fe203の添加は緻密化挙動を促進し、従来より約150 ℃低い1300℃という焼結温度で、約90%の相対密度を有する緻密な二層体を実現した。テープキャスティングと1300℃での低温同時焼結により、8YSZ/GDC10二層電解質(厚さはそれぞれ73μmおよび154μm)を良好に作製することに成功した。共焼成後、顕著な微細構造欠陥や層間剥離は観察されなかった。二層電解質を構成する2種類のバルク材料に対するFe203焼結助剤の結晶構造への影響は、X線回折により調査した。その結果、Fe203を添加したいずれの材料も蛍石型構造を維持していることが示された。解析の結果、Fe203添加試料では両材料とも単位格子体積が減少していることが明らかになった。Fe203焼結助剤の使用は両バルク材料の焼結性を向上させる一方で、ドーパント濃度が固溶限界を超えると鉄濃化相が形成されることが確認され、この相はエネルギー分散型X線分光法により解析された。
YSZ/GDC界面での元素分析により、Fe203を用いてYSZ/GDC二重層を同時焼結した場合、元素拡散挙動が非対称になることが明らかになった。すなわち、GDC層内のZrおよびYイオンの拡散係数は、YSZ層内で検出されたCeおよびGdイオンの拡散係数より低く、Fe203が相互拡散挙動を抑制する上で正の効果を持つことが示された。空気中での電気化学インピーダンス測定の結果、Fe203を含む二層電解質の全導電率は、Fe203無添加の二層体と比較して1桁向上していた。この要因として、第一に、全体的な元素相互拡散長を約15μmから約5μm低減できたこと、第二に、Fe203を焼結助剤として用いることでYSZ 層とGDC層の界面接触が改善され、焼結密度が向上したことが挙げられる。本研究で提示したコスト効率の高い低温プロセシング手法は、材料選択の幅を拡大し、高温同時焼結に伴う熱化学的問題を解消することで、SOECのさらなる商業化に寄与することが期待される。)
「
[図:0001434183000008.jpg]
」(187頁16~29行)
(翻訳:
界面をクロスするZr、Y、Ce、Gdイオンの原子分布を距離の関数として図5-30に示す。全体の相互拡散長は、各元素の原子%が最大値の5~90%に達する距離として推定される。この長さは、Fe203を含まないサンプルでは約15μmであったが、Fe203を添加したサンプルでは約5μmに減少した。Fe203を含むサンプルにおける相互拡散の減少は、EDS分析によって示されている(図5-30)。Fe203を含まない二重層におけるZrイオンとCeイオンの拡散挙動は対称的であるように考察される。Banoら(2015)も、1400℃で3時間共焼結したYSZ/GDC二重層サンプルにおいて、ZrイオンとCeイオンの相互拡散長が等しいことを報告している。しかしながら、図5-30.aに示すように、Fe203を添加した二重層サンプルでは、ZrイオンとCeイオンの非対称拡散挙動が観察される。GDC層におけるZrイオンの相互拡散長は約4μmで、YSZ層におけるCeイオンの拡散長(約2μm)よりもやや長くなる。)
「Figure5-30(b)
[図:0001434183000009.jpg]
」
(翻訳:
図5-30(a)はFe203添加剤を添加して1300℃で4時間焼結した二重層のYSZ/GDC界面の EDSラインスキャン、(b)はFe203を含まない二重層を1400℃で4時間焼結した(二重層のYSZ/GDC界面のEDSラインスキャン))
5 甲第5号証
甲第5号証には、次の記載がある。また、翻訳は、異議申立人が提出した「甲第5号証の訳文」に基づくものである。
「
[図:0001434183000010.jpg]
」(4709頁「要約」)
(翻訳:
(要約
中温域で作動する固体酸化物形燃料電池(SOFC)においては、最先端のイットリア安定化ジルコニア(yttria-stabilized zirconia:YSZ)電解質を、アノード側およびカソード側の双方でセリア系材料と隣接させることが、セルの高い有効性を得るうえで重要であると考えられている。しかしながら、YSZとセリア系材料との間で生じる固相反応および相互拡散現象は、電解質の劣化を引き起こし得る。Coを含有するカソードとの相互作用からYSZを保護するためにガドリニア添加セリア(gadolinia-doped ceria:GDC)層を用いる場合、Ce0.43Zr0.43Gd0.10Y0.04O1.93の組成を有する薄い(1μm以下の厚さ)中間層をYSZ-GDC界面に導入することにより、当該界面での好ましくない固相反応を効果的に抑制できる。一方、分極損失を低減する目的で電解質-アノード界面にセリアを用いる場合には、YSZとセリアとの反応性がNiの存在下で抑制され得ることから、セリアー40vol%Niサーメットの使用が推奨される。)
「
[図:0001434183000011.jpg]
[図:0001434183000012.jpg]
」(4709頁左欄1行~4710頁左欄15行)
(翻訳:
1 .序論
固体酸化物形燃料電池(SOFC)の作動温度を900~1000℃から700~800℃へ低減することは、スタック寿命の延長とコスト低減の双方の観点から極めて重要である。後者については、セパレータ材料として低コストな金属部材の使用が可能になるためである。しかし、中温域でのSOFC作動を技術的に実現可能とするためには、二つのパラメータを考慮する必要がある。すなわち、当該温度域では電極反応速度が低下するため高性能電極の開発が必要であること、およびセル抵抗の最小化である。後者は、電解質内部のオーミック損失と、電解質/電極界面における分極損失の双方を抑制することを意味する。
La(Sr)Co03系ペロブスカイト(LSC)は、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)電解質上にスパッタ成膜した場合、最先端のLa0.85Sr0.15Mn03(LSM)カソード材料[1,2]よりも高いカソード特性を示し、中温域においてもより低い分極値を示すことが知られている。しかしながら、LSCはYSZと反応し、La2Zr207やSrZr03のような絶縁性反応生成物を形成しやすい[3,4]。LSCと化学的に両立し得る材料はCe02系材料に限られる[5]が、これらはYSZより高いイオン伝導度を有するものの、燃料ガス雰囲気下ではCe4+からCe3+への還元に起因して電子伝導を生じやすく、電解質としては使用できない。この問題に対する解決策として、薄膜YSZ電解質とLSC電極との間にCe02系中間層を導入することが検討されている。
アノード側では、Ce02系材料を電解質-アノード界面に使用すると、分極損失が大幅に減少し、セルの性能が向上する[6,7]。これらの知見から、YSZ電解質の両面にCe02系材料が存在することの有益性が明らかである。しかしながら、YSZとCe02系材料間の化学的適合性には問題がないわけではない。1200℃での焼結プロセス中に、2つの材料が反応し、互いに拡散するためである[8,9]。図1(a)は、SOFC技術における電解質の焼結に通常使用される条件である空気中1400℃で4時間焼結した後のYSZ-GDC界面の微細構造を示す。界面の全体にわたるZr、Y、Ce、Gdの原子分布[図1(b)]は、固体反応および相互拡散現象の強化に関与していることを示唆しており、その結果、材料間に相互作用領域が形成され、この領域はサンプルのジルコニア部分で最も広範囲にわたっている。
先行研究[8,9]の結果によれば、界面に形成される反応領域の組成は、化学平衡の到達レベルによって決まり、その結果、Gdに富んだ反応生成物(Ce0.37Zr0.38Gd0.18Y0.0701.87の標準組成)が形成され、800℃でのイオン伝導率はYSZよりも2桁低くなる。また、逆拡散する陽イオンの拡散率の差により、セリア側に多孔性が現れることも確認される(カーケンダール効果)。)
「Fig.1.(b)
[図:0001434183000013.jpg]
」
(翻訳:
図1.(a)空気中で1400℃で4時間焼結した後のYSZ-GDC界面の微細構造。(b)(a)に示した界面全体にわたるZr、Ce、Y、およびGdの元素分布。)
6 甲第6号証
甲第6号証には、次の記載がある。また、翻訳は、異議申立人が提出した「甲第6号証の訳文」に基づくものである。
「
[図:0001434183000014.jpg]
」(第1頁14行~第2頁)
(翻訳:
要約
イットリア安定化ジルコニア(yttria stabilized zirconia:YSZ)電解質とガドリニア添加セリア(gadolinia doped ceria:CGO)バリア層との間の相互拡散は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)のオーミック抵抗増大の主要因の一つである。本研究では、1250 ℃および1315℃で焼結したCGO/YSZ二層電解質について、焼結温度および保持時間をパラメータとした元素移動挙動の実験的検討を行った。さらに、実験結果を定量的に再現するため,CGO-YSZ系をCe02-Zr02準二元系へと簡略化した上で状態図型熱力学評価を実施し、文献データの精査に基づき速度論的記述(原子易動度)を構築した。CGO-YSZ間の相互拡散はDICTRAソフトウェアを用いて数値解析し、種々の焼結条件および長期作動条件下で得られたシミュレーション結果を実験データと比較した。得られた濃度分布に基づき、二層電解質の対応するオーム抵抗を予測した。その結果、CGO-YSZ界面に跨る相互拡散は主として高温焼結時に進行し、比較的低温での長期作動期間においては、相互拡散がセル劣化に及ぼす影響は無視し得る程度であることが示唆された。)
「
[図:0001434183000015.jpg]
[図:0001434183000016.jpg]
」(第9頁下から6行~第10頁下から6行)
(翻訳:
CGO-YSZ界面の断面の組成プロファイルを定量化するため、異なる条件で焼結した5つのハーフセルについて、断面のEDS元素マッピングをCGO層およびYSZ層に限定して実施した。図3(a)に、1315℃で12時間焼結したハーフセルにおけるCGO層およびYSZ層の高倍率SEM像を示す。CGO-YSZ界面近傍の相互拡散領域は、残りのYSZ層およびCGO層と比較してわずかなコントラスト差が存在する。このコントラスト差は、相互拡散に起因する化学組成の違いに由来するものと推定される。SEM像によれば、相互拡散領域内の粒径はおおよそ1~2μm程度と推定される。YSZ層の主体部分では粒径はより大きく、おおよそ2~4 μmであるのに対し、CGO層では粒子は明瞭には観察されない。平均粒径を精度よく決定するためには、EBSD (電子後方散乱回折)による詳細な組織解析および画像解析が必要であり、この点については今後の課題とする。
図3(a)に黄色の四角で示した領域全体に対してEDS元素マッピングを実施した。得られた元素濃度情報は、その後、赤線に沿って積算し、図3(a)の画像幅と同じ線厚を有する CGO-YSZ界面を横切るラインスキャンとして整理した。図3(b)には、YSZ領域側からCGO層側へ赤線に沿って測定したCe,Zr,GdおよびYの原子百分率を示す。予想されるように、1315 ℃で12時間焼結した後には顕著な相互拡散が生じている。CGOおよび YSZの初期組成は、それぞれ図3(b)の右端および左端から読み取ることができ、CGOについては90at.%Ceおよび10at.%Gd、YSZについては82at.%Zrおよび18at.%Yであり、公称組成CGO10(Ce0.9Gd0.102-σ)および8YSZ(Y0.16Zr0,8402-σ)と良い一致を示している。YSZからCGOへと組成が変化する幅約4μmの相互拡散領域が明瞭に認められる。本研究で用いた顕微鏡条件では、電子ビームの相互作用体積の直径は約1μmと見積もられる。したがって、EDSにより検出された組成変化は、相互拡散が生じていることの明確な証拠であるといえる。残りの4試料についてもEDS測定を行っており、その結果はシミュレーション結果との比較とともに4.3節で示す。)
「Figure.3.(c)
[図:0001434183000017.jpg]
」
(翻訳:
図3.(a)1315℃で12時間焼結したサンプルのCGO-YSZ界面におけるSEM像、(b)そのEDSマッピング、(c)そのEDSラインスキャン。黄色の枠はEDS分析に使用した領域を示す。)
7 甲第7号証
甲第7号証には、次の記載がある。
「【0029】
続いて、図2を参照して、他の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池セル1Aを説明する。図2に示されるように、本発明の第2実施形態に係る固体酸化物形燃料電池セル1Aは、燃料極層5Aと、電解質層4と、反応防止層3と、空気極層2とがこの順で積層された構造を有している。燃料極層5Aは、電解質層4の側から第一の燃料極層5aと第二の燃料極層5bとが順に積層され、さらに、第一の燃料極層5aと第二の燃料極層5bとの間に、第三の燃料極層5cを備えた構造を有している。第2実施形態に係る固体酸化物形燃料電池セル1は、第三の燃料極層5cを備えている点で、第1実施形態と異なるものであり、その他の同一の構成については、同一の符号を付して適宜説明を省略する。
【0030】
第三の燃料極層5cは、ジルコニア系酸化物とセリア系酸化物と導電性金属とで構成されている。ジルコニア系酸化物としては、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)などの材料を好適に用いることができる。セリア系酸化物としては、ガドリニウムドープセリア(GDC)やサマリウムドープセリア(SDC)などの材料を好適に用いることができる。また、導電性金属としては、高い水素酸化活性を示すニッケル金属(Ni)を好適に用いることができる。
【0031】
ジルコニア系酸化物と導電性金属とを含んでなる第一の燃料極層5aとセリア系酸化物と導電性金属とを含んでなる第二の燃料極層5bとの間に、ジルコニア系酸化物とセリア系酸化物と導電性金属とを含んでなる第三の燃料極層5cを配置することで、第一の燃料極層5aと第三の燃料極層5c、第三の燃料極層5cと第二の燃料極層5b、との間の熱膨張差が小さくなる。結果、それぞれの燃料極層同士の界面における応力集中が緩和され、燃料極層同士の密着性が向上し、セル抵抗が低く、より発電性能の高い固体酸化物形燃料電池セル1Aを提供することができる。」
「
[図:0001434183000018.jpg]
」
第5 申立理由に対する当審の判断
1 申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)について
(1)本件発明の新規性及び進歩性の判断基準日について
上記第1のとおり、本件特許の請求項1に係る特許についての出願は、令和4年4月5日を優先日とする国際出願であるから、本件発明の新規性及び進歩性の判断基準日について、検討する。
ア 優先基礎出願の願書に最初に添付した明細書(以下、「優先基礎出願明細書」という。)には、以下の記載がある。
「【0001】
本発明は、電気化学セルに関するものである。」
「【0005】
支持層及び水素極が還元雰囲気に曝されると、支持層及び水素極に含まれるNiOは還元されてNiとなるため、支持層及び水素極それぞれに体積変化が生じる。加えて、水素極中のセリア(CeO2)は還元雰囲気における膨張量が大きいのに対して、支持層中のジルコニア(ZrO2)は還元雰囲気における膨張量が相対的に小さいため、還元雰囲気では水素極と支持層の間に膨張量差が生じる。この状況下で起動及び停止が繰り返されると、水素極内に蓄積される応力によってクラックが生じてしまう。
【0006】
本発明の課題は、水素極のクラックを抑制可能な電気化学セルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電気化学セルは、支持層と、支持層上に配置される中間層と、中間層上に配置される水素極と、酸素極と、水素極及び酸素極の間に配置される電解質とを備える。支持層は、イットリア安定化ジルコニアと、ニッケルとによって構成される。水素極は、希土類元素が添加されたセリア系酸化物と、ニッケルとによって構成される。中間層は、イットリア安定化ジルコニア及び希土類元素が添加されたセリア系酸化物の固溶体と、ニッケルとによって構成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水素極のクラックを抑制可能な電気化学セルを提供することができる。」
「【0010】
(燃料電池セル10)
燃料電池セル10は、いわゆるアノード支持型の燃料電池セルである。燃料電池セル10は、支持層11、中間層12、水素極13、電解質14、反応防止層15、及び酸素極16を備える。
【0011】
[支持層11]
支持層11は、中間層12を支持する。支持層11の形状は特に限られないが、例えば板状、中空板状、円筒状などに形成することができる。
【0012】
支持層11は、電子伝導性を有する多孔質材料によって構成される。具体的には、支持層11は、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)とNi(ニッケル)とを含む。
・・・(中略)・・・。
【0016】
[中間層12]
中間層12は、支持層11上に配置される。中間層12は、支持層11と水素極13の間に配置される。
【0017】
中間層12は、電子伝導性及びイオン伝導性を有する多孔質材料によって構成される。具体的には、中間層12は、YSZ及び希土類元素が添加されたセリア系酸化物の固溶体とNiとを含む。固溶体とは、YSZ及び希土類元素が添加されたセリア系酸化物が互いに溶け合って、全体が均一の固相となっているものをいう。
・・・(中略)・・・。
【0019】
そこで、本実施形態に係る中間層12は、支持層11の構成材料であるYSZと、後述する水素極13の構成材料である希土類元素が添加されたセリア系酸化物との両方を含有している。この中間層12が水素極13と支持層11の間の膨張量差を緩衝させる緩衝層として機能することによって、支持層11と水素極13が直接接続される場合に比べて水素極13内に応力が蓄積されることを抑制できる。よって、水素極13にクラックが生じることを抑制できる。
【0020】
中間層12は、支持層11と水素極13の間において、YSZ及び希土類元素が添加されたセリア系酸化物の固溶体が存在する領域である。
・・・(中略)・・・。
【0022】
中間層12の気孔率は、例えば、10%以上50%以下とすることができる。中間層12の厚さは、例えば3μm以上20μm以下とすることができる。
【0023】
[水素極13]
水素極13は、中間層12上に配置される。水素極13は、中間層12と電解質14の間に配置される。水素極13には、支持層11及び中間層12を介して燃料ガスが供給される。水素極13では、次の式(1)で表される電極反応が起こる。
・・・(中略)・・・。
【0024】
水素極13は、電子伝導性及びイオン伝導性を有する多孔質材料によって構成される。具体的には、水素極13は、希土類元素が添加されたセリア系酸化物とNiとを含む。
・・・(中略)・・・。
【0027】
[電解質14]
電解質14は、水素極13上に配置される。電解質14は、水素極13と酸素極16の間に配置される。本実施形態では、燃料電池セル10が反応防止層15を備えているため、電解質14は、水素極13と反応防止層15によって挟まれている。
【0028】
電解質14は、イオン伝導性を有し且つ電子伝導性を有さない緻密質材料によって構成される。電解質14は、例えば、Y2O3、CeO2、Sc2O3、Yb2O3などで安定化されたZrO2や、Y2O3、Sm2O3、Gd2O3などがドープされたCeO2によって構成することができる。
・・・(中略)・・・。
【0033】
[酸素極16]
酸素極16は、反応防止層15上に配置される。酸素極16には、酸素を含むガス(例えば、空気)が供給される。酸素極16では、次の式(2)で表される電極反応が起こる。」
イ 上記アによれば、上記優先基礎出願明細書には、電子伝導性を有する支持層11と、支持層11上に配置される中間層12と、中間層12上に配置される水素極13と、酸素極16と、水素極13と酸素極16の間に配置される電解質14とを備えた燃料電池セル10(電気化学セル)であって、支持層11は、イットリア安定化ジルコニアと、ニッケルとによって構成され、水素極13は、希土類元素が添加されたセリア系酸化物と、ニッケルとによって構成され、中間層12は、イットリア安定化ジルコニア及び希土類元素が添加されたセリア系酸化物の固溶体と、ニッケルとによって構成され、中間層12の厚さは、3μm以上20μm以下とすることが記載されている。
そうすると、本件発明は、優先基礎出願明細書に開示されたものであると認められ、本件特許は、優先権主張の利益を享受することができる。
したがって、本件発明の新規性及び進歩性の判断基準日は、優先日である令和4年4月5日である。
(2)申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)に対する判断
上記(1)のとおり、本件発明の新規性及び進歩性に判断基準日は優先日である令和4年4月5日であるところ、甲第1号証は、それより後の令和4年12月20日に頒布された刊行物であるから、特許法第29条第1項第3号及び同2項の引用例として適格性を欠くものである。
したがって、申立理由1及び申立理由2は理由がない。
(3)異議申立人の主張について
異議申立人は、異議申立書17頁6行~23頁13行において、甲第1号証に基づく新規性及び進歩性について主張しているものの、上記(2)で述べたように、甲第1号証は特許法第29条第1項第3号及び同2項の引用例として適格性を欠くものであるから、異議申立人の主張は採用できない。
(4)補足
ア なお、甲第1号証(特願2021-95732号(特開2022-187988号))は、本件特許の優先日前の特許出願であって、その優先日後に出願公開がされているところ、本件特許に係る出願の発明者が上記特許出願に係る発明をした者と同一ではなく、また本件特許に係る出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、いわゆる拡大先願について、本件発明が、上記特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書等」という。)に記載された発明と同一であるか否かについて、念のため検討する。
イ 先願明細書等には、次の事項が記載されている。
「【0019】
図2に示すように、電気化学セル1は、水素極10と電解質膜20と酸素極30とを備える。電気化学セル1は、たとえば、平板形の固体酸化物型電気化学セルである。また、電気化学セル1は、水素極支持型である。電気化学セル1を構成する各部について順次説明する。
【0020】
[B-1]水素極10
電気化学セル1において、水素極10は、図2に示すように、第1の水素極層101と第2の水素極層102とを備えており、第1の水素極層101の上面に第2の水素極層102が設けられている。
【0021】
[B-1-1]第1の水素極層101
水素極10のうち、第1の水素極層101は、たとえば、支持層として機能するように構成されている。第1の水素極層101は、電気化学セル1において最も表面側に位置する層である。
・・・(中略)・・・。
【0024】
[B-1-2]第2の水素極層102
水素極10のうち、第2の水素極層102は、たとえば、活性層として機能するように構成されている。第2の水素極層102は、多孔質体であって、第1の水素極層101よりも電解質膜20の側に位置している。つまり、水素極層102は、第1の水素極層101と電解質膜20との間に介在している。
【0025】
第2の水素極層102は、第2の金属と、第1の水素極層101を構成する第1の酸化物とは異なる第2の酸化物との焼結体で構成されている。」
「【0054】
[D]実施例
以下より、上記実施形態の実施例等について、表1を用いて説明する。表1において、例1から例11は、実施例であり、例C1および例C2は、比較例である。
・・・(中略)・・・。
【0056】
[D-1]サンプル作製
各例の作製に関して説明する。
【0057】
[例1]
(1)第1の水素極層前駆体101aの形成
例1では、まず、第1の水素極層前駆体101aの形成を行った(図3A参照)。
【0058】
ここでは、第1の水素極層前駆体101aを形成するために、表1に示すように、第1の金属を構成する金属(Ni)の酸化物(NiO)の粉末と、第1の酸化物を構成する酸化物(YSZ)の粉末とを含むペーストを準備した。各粉末については下記に示す混合割合で混合して、ペーストを作製した
【0059】
・酸化ニッケル(NiO) …60重量部
・イットリア(Y2O3)安定化ジルコニア(YSZ;(Y2O3)0.08(ZrO2)0.92の組成) …40重量部
【0060】
そして、その準備したペーストを用いてシート状の成形体を形成することで、第1の水素極層前駆体101aを作製した。ここでは、表1に示すように、第1の水素極層101の厚みT1である400μmになるように、第1の水素極層前駆体101aの成膜を行った。
【0061】
(2)第2の水素極層前駆体102aの形成および電解質膜20の形成
つぎに、第2の水素極層前駆体102aの形成および電解質膜20の形成を行った(図3B参照)。
【0062】
ここでは、第1の水素極層前駆体101aを形成するために、表1に示すように、第2の金属を構成する金属(Ni)の酸化物(NiO)の粉末と、第2の酸化物を構成する酸化物(GDC)の粉末とを含むペーストを準備した。各粉末については下記に示す混合割合で混合して、ペーストを作製した
【0063】
・酸化ニッケル(NiO) …60wt.%
・Gd2O3がドープされたセリア(GDC;(Gd2O3)0.1(CeO2)0.9の組成) …40wt.%
【0064】
そして、その準備したペーストを用いてシート状の成形体を形成することで、第2の水素極層前駆体102aを作製した。ここでは、表1に示すように、第2の水素極層102の厚みT2である60μmになるように、第2の水素極層前駆体102aの成膜を行った。
【0065】
その後、電解質膜20を形成するために、表1に示すように、電解質膜20を構成する物質(YSZ;イットリア安定化ジルコニア((Y2O3)0.08(ZrO2)0.92の組成))の粉末を含むペーストを準備した。そして、そのペーストを第2の水素極層前駆体102aの上面に成膜することで、電解質膜20の作製を実行した。本例では、厚みが約5μmになるように電解質膜20を作製した。
【0066】
そして、第1の水素極層前駆体101aと第2の水素極層前駆体102aと電解質膜20との積層体について、焼成を実行した。ここでは、1200℃以上1600℃以下の条件で、各層の内部の強度、および、各層間の強度が十分になるまで、焼成を実行した。
(3)反応防止層25の形成
つぎに、反応防止層25の形成を行った(図3Cに参照)。
【0067】
ここでは、反応防止層25を構成する物質(GDC:Gd2O3がドープされたセリア)の粉末を含むペーストを作製した。そして、その作製したペーストを用いてシート状の成形体を電解質膜20の上面に形成することによって、反応防止層25の形成を実行した。本例では、厚みが約3μmになるように反応防止層25を作製した。
【0068】
その後、第1の水素極層前駆体101aと第2の水素極層前駆体102aと電解質膜20と反応防止層25との積層体について、焼成を実行した。ここでは、1100℃以上1500℃以下の条件で、各層の内部の強度、および、各層間の強度が十分になるまで、焼成を実行した。
【0069】
(4)酸素極30の形成
つぎに、酸素極30の形成を行った(図3D参照)。
【0070】
ここでは、組成がLa0.6(Sr)0.4Co0.2(Fe)0.8O3-δであるLSCF(ランタン・ストロンチウム・コバルト・フェライト)の酸素極30を、反応防止層25の上面に形成した。本例では、厚みが約30μmになるように酸素極30を作製した。
【0071】
その後、第1の水素極層前駆体101aと第2の水素極層前駆体102aと電解質膜20と反応防止層25と酸素極30との積層体について、焼成を実行した。ここでは、900℃以上1200℃以下の条件で、焼成を実行した。
【0072】
そして、上記のように焼成された積層体のうち、第1の水素極層前駆体101aにおいて第1の金属を構成する金属(Ni)の酸化物(NiO)、および、第2の水素極層前駆体102aにおいて第2の金属を構成する金属(Ni)の酸化物(NiO)を還元する還元処理を実行した。
ここでは、後述するI-V特性などの出力特性を評価するための出力特性評価装置を用いて、還元処理を実行した。具体的には、上記の積層体を出力特性評価装置に設置し、700℃以上の条件で、水素極10の側に乾燥水素を流すと共に、酸素極30の側に、空気(もしくは空気組成の混合気体)を流した。
【0073】
これにより、表1に示すように、第1の金属(Ni)と第1の酸化物(YSZ)との焼結体で構成された第1の水素極層101、および、第2の金属(Ni)と第2の酸化物(GDC)との焼結体で構成された第2の水素極層102を含む、例1の電気化学セル1を完成させた。」
「【図3A】
[図:0001434183000019.jpg]
」
「【図3B】
[図:0001434183000020.jpg]
」
「【図3C】
[図:0001434183000021.jpg]
」
「【図3D】
[図:0001434183000022.jpg]
」
ウ 上記イから、次のことがいえる。
(ア)段落【0019】~【0021】、【0024】によれば、先願明細書等には、支持層として機能する第1の水素極層101と活性層として機能する第2の水素極層102とを備えた水素極10と、電解質膜20と、酸素極30とを備える電気化学セルが記載されているといえる。
(イ)段落【0054】~【0073】によれば、先願明細書等に記載された実施例である「例1」に着目すると、酸化ニッケル(NiO)とイットリア(Y2O3)安定化ジルコニアとを含むシート状の第1の水素極層前駆体101aを作製し、つぎに、酸化ニッケル(NiO)とGd2O3がドープされたセリアとを含むシート状の第2の水素極層前駆体102aを作製し、その後、第2の水素極層前駆体102aの上面に電解質膜20を作製し、第1の水素極層前駆体101aと第2の水素極層前駆体102aと電解質膜20との積層体について、1200℃以上1600℃以下の条件で焼成を実行し、つぎに、反応防止層25を電解質膜20の上面に形成し、その後、第1の水素極層前駆体101aと第2の水素極層前駆体102aと電解質膜20と反応防止層25との積層体について、1100℃以上1500℃以下の条件で焼成を実行し、つぎに、酸素極30を反応防止層25の上面に形成し、その後、第1の水素極層前駆体101aと第2の水素極層前駆体102aと電解質膜20と反応防止層25と酸素極30との積層体について、900℃以上1200℃以下の条件で、焼成を実行し、焼成された積層体を還元処理して完成され、第1の金属(Ni)と第1の酸化物(YSZ)との焼結体で構成された第1の水素極層101、および、第2の金属(Ni)と第2の酸化物(GDC)との焼結体で構成された第2の水素極層102を含む電気化学セルが記載されている。
(ウ)図3Bによれば、第2の水素極層前駆体102aは第1の水素極層前駆体101aの上面に形成されることが見て取れる。
エ よって、上記(ア)ないし(ウ)によれば、先願明細書等に記載された実施例1である「例1」に着目すれば、先願明細書等には、次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されているといえる。
「支持層として機能する第1の水素極層101と活性層として機能する第2の水素極層102とを備えた水素極10と、電解質膜20と、酸素極30とを備える電気化学セルであって、
電気化学セルは、酸化ニッケル(NiO)とイットリア(Y2O3)安定化ジルコニアとを含むシート状の第1の水素極層前駆体101aを作製し、つぎに、酸化ニッケル(NiO)とGd2O3がドープされたセリアとを含むシート状の第2の水素極層前駆体102aを第1の水素極層前駆体101の上面に作製し、その後、第2の水素極層前駆体102aの上面に電解質膜20を作製し、第1の水素極層前駆体101aと第2の水素極層前駆体102aと電解質膜20との積層体について、1200℃以上1600℃以下の条件で焼成を実行し、つぎに、反応防止層25を電解質膜20の上面に形成し、その後、第1の水素極層前駆体101aと第2の水素極層前駆体102aと電解質膜20と反応防止層25との積層体について、1100℃以上1500℃以下の条件で焼成を実行し、つぎに、酸素極30を反応防止層25の上面に形成し、その後、第1の水素極層前駆体101aと第2の水素極層前駆体102aと電解質膜20と反応防止層25と酸素極30との積層体について、900℃以上1200℃以下の条件で、焼成を実行し、焼成された積層体を還元処理して完成された、
第1の金属(Ni)と第1の酸化物(YSZ)との焼結体で構成された第1の水素極層101、および、第2の金属(Ni)と第2の酸化物(GDC)との焼結体で構成された第2の水素極層102を含む、
電気化学セル。」
オ 本件発明と先願発明との対比
(ア)先願発明の「支持層として機能する第1の水素極層101」は、「第1の金属(Ni)」を有するから、電子伝導性を有するといえ、本件発明の「電子伝導性を有する支持層」に相当する。
(イ)本件発明は「支持層上に配置される中間層」を備えるのに対し、先願発明は「中間層」を備えていない点で相違する。
(ウ)先願発明の「活性層として機能する第2の水素極層102」と本件発明の「中間層上に配置される水素極」とは、「水素極」である点で共通する。
(エ)先願発明の「酸素極」は本件発明の「酸素極」に相当する。
(オ)先願発明では、「第2の水素極層前駆体102aの上面に電解質膜20を作製し、第1の水素極層前駆体101aと第2の水素極層前駆体102aと電解質膜20との積層体について、1200℃以上1600℃以下の条件で焼成を実行し、つぎに、反応防止層25を電解質膜20の上面に形成し、その後、第1の水素極層前駆体101aと第2の水素極層前駆体102aと電解質膜20と反応防止層25との積層体について、1100℃以上1500℃以下の条件で焼成を実行し、つぎに、酸素極30を反応防止層25の上面に形成し、その後、第1の水素極層前駆体101aと第2の水素極層前駆体102aと電解質膜20と反応防止層25と酸素極30との積層体について、900℃以上1200℃以下の条件で、焼成を実行し、焼成された積層体を還元処理して完成され」るところ、「第2の水素極層102」は「第2の水素極層前駆体102a」が「焼成」され「還元処理」されることにより形成されるといえる。
また 、先願発明の「電気化学セル」の作成工程は、「第2の水素極層前駆体102aの上面に電解質膜20を作製し」、「つぎに、反応防止層25を電解質膜20の上面に形成し」、「つぎに、酸素極30を反応防止層25の上面に形成」するものであるから、「電気化学セル」の層構造は「第2の水素極層102」、「電解質膜20」、「反応防止層25」及び「酸素極30」の順となっている。
そうすると、先願発明の「電解質膜20」は、「酸素極30」と「第2の水素極層102」との間に配置されているから、本件発明の「水素極及び前記酸素極の間に配置される電解質」に相当する。
(カ)先願発明において、「第1の水素極層101」が「第1の金属(Ni)と第1の酸化物(YSZ)との焼結体で構成され」ることは、本件発明の「支持層は、イットリア安定化ジルコニアと、ニッケルを含」むことに相当する。
(キ)先願発明の「第2の水素極層102」が「第2の金属(Ni)」と「第2の酸化物(GDC)」とを含むことは、本件発明の「水素極は、希土類元素が添加されたセリア系酸化物と、ニッケル」を含むことに相当する。
(ク)本件発明は「中間層は、イットリア安定化ジルコニア及び希土類元素が添加されたセリア系酸化物の固溶体と、ニッケルとを含み、前記中間層の厚みは、3μm以上20μm以下である」のに対し、先願発明は「中間層」を備えていない点で相違する。
(ケ)先願発明の「電気化学セル」は、本件発明の「電気化学セル」に相当する。
上記(ア)ないし(ケ)によれば、本件発明と先願発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
「電子伝導性を有する支持層と、
水素極と、
酸素極と、
前記水素極及び前記酸素極の間に配置される電解質と、
を備え、
前記支持層は、イットリア安定化ジルコニアと、ニッケルと含み、
前記水素極は、希土類元素が添加されたセリア系酸化物と、ニッケルとを含み、
電気化学セル。」
(相違点)
本件発明は「支持層上に配置される中間層」を備え、「中間層は、イットリア安定化ジルコニア及び希土類元素が添加されたセリア系酸化物の固溶体と、ニッケルとを含み、前記中間層の厚みは、3μm以上20μm以下」であって、「水素極」が「中間層上に配置される」のに対し、先願発明は「中間層」を備えておらず、「水素極」が「中間層上に配置される」ものでもない点で相違する。
カ 相違点に対する判断
(ア)甲第2号証(上記第4の2の段落【0079】、【0087】を参照)には、燃料電池セルにおいて、ジルコニア系材料を主成分として含む層(ジルコニア系材料層)とセリア系材料を主成分として含む層(セリア系材料層)とが積層した層を共焼成することにより、セリア系材料層とジルコニア系材料層との接触面において、セリアとジルコニアとを固溶させることができ、該共焼成は1300~1500℃で1~20時間行うことが記載されている。
また、甲第3号証(上記第4の3の段落【0087】、【0095】を参照。)には、燃料電池セルにおいて、ジルコニア系材料を主成分として含む層(ジルコニア系材料層)とセリア系材料を主成分として含む層(セリア系材料層)とを積層した層を共焼成することにより、セリア系材料層とジルコニア系材料層との接触面において、セリアとジルコニアとを固溶させることができ、該共焼成は1150~1450℃で1~20時間行うことが記載されている。
そして、甲第4号証(上記第4の4の第187頁16~29行、Figure5-30(b)を参照。)には、固体酸化物電解セルに用いられるイットリア安定化ジルコニア(YSZ)やガドリニウム添加セリア(GDC10)において、YSZ層/GDC層の二重層を1400℃で4時間焼結すると、YSZ層のY及びZrがGDC層に、GDC層のCe及びGdがYSZ層に拡散することが記載され、甲第5号証(上記第4の5の4709頁右欄13行~4710頁左欄5行、Fig.1.(b)を参照。)には、固体酸化物形燃料電池に用いられるYSZとGDCを1400℃で4時間焼結すると、YSZのY及びZrがGDCに、GDCのCe及びGdがYSZに拡散することが記載され、甲第6号証(上記第4の6の第9頁下から9行~10頁下から6行、Fig.3.(c)を参照。)には、固体酸化物形燃料電池に用いられるイットリア安定化ジルコニア(YSZ)電解質とガドリニア添加セリア(CGO)バリア層において、CGO層とYSZ層の二層を1315℃で12時間焼結すると、CGO層のCe及びGdがYSZ層に、YSZ層のY及びZrがCGO層に拡散することが記載されている。
(イ)上記(ア)によれば、セリア系材料層とジルコニア系材料層との積層体を1300~1500℃又は1150~1450℃で1~20時間の間共焼成することにより、接触面においてセリアとジルコニアとを固溶させることができることや、また、YSZ層とGDC層の二層を、1400℃で4時間又は1315℃で12時間焼結すると、各層を構成する元素の相互拡散が発生することは一応理解することができる。
しかしながら、先願発明の「電気化学セル」は、「酸化ニッケル(NiO)とイットリア(Y2O3)安定化ジルコニアとを含むシート状の第1の水素極層前駆体101a」、「酸化ニッケル(NiO)とGd2O3がドープされたセリアとを含むシート状の第2の水素極層前駆体102a」、及び「電解質膜20との積層体について、1200℃以上1600℃以下の条件で焼成を実行」するものであるところ、先願明細書には焼成時間に係る記載や示唆は一切ないから、「第1の水素極層101」と「第2の水素極層102」との間に「イットリア安定化ジルコニア」と「Gd2O3がドープされたセリア」の固溶体の層が形成されるか否かは不明である。
(ウ)そして、仮に、先願発明において、上述の固溶体が形成されるとしても、該固溶体を含む「中間層」の厚みが「3μm以上20μm以下」であることを裏付ける証拠は何等提出されていないところ、かえって、甲第2号証によれば、1300~1500℃で1~20時間、共焼成して得られたセリアとジルコニアとの固溶体である中間層16の厚みは、1.0~1.5μmに過ぎず(上記第4の2の段落【0031】、【0079】、【0084】、【0087】、【0100】参照。)、また甲第3号証によれば、1150~1450℃で1~20時間、共焼成して得られたセリアとジルコニアとの固溶体である緩衝層16の厚みは1.2μmに過ぎない(第4の3の【0037】、【0087】、【0095】、【0108】を参照。)。
また、甲第4号証(上記第4の4のFigure5-30(b)参照。)、甲第5号証(上記第4の5のFig.1.(b)参照。)には、YSZ層とGDC層の二層を1400℃で4時間焼結した際の原子の濃度分布又は1315℃で12時間焼結した場合における横軸を「距離」とした原子の濃度分布が図示され、甲第6号証(上記第4の6のFig.3.(c)参照。)には、YSZ層とCGO層の二層を1315℃で12時間焼結した場合における横軸を「距離」とした原子の濃度分布が図示されているものの、甲第4号証~甲第6号証には、各層に「Ni」を含むことは記載されていないし、先願発明の「第1の水素極層前駆体101aと第2の水素極層前駆体102aと電解質膜20との積層体」のような3層を焼成したものでもない。
そうすると、甲第2号証~甲第6号証を参照したとしても、先願発明において、固溶体を含む「中間層」の厚みが「3μm以上20μm以下」であるとはいえないから、上記相違点は実質的な相違点である。
(エ)したがって、本件発明は、先願発明と同一であるとはいえない。
キ 小括
以上のとおり、本件発明は、先願明細書等に記載された発明と同一であるとはいえないから、本件特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものではない。
(1)申立理由1及び申立理由2のまとめ
以上によれば、本件特許は、特許法29条1項の規定及び特許法29条2項の規定に違反してされたものではない。
したがって、異議申立人らの主張する申立理由1及び申立理由2は理由がない。
2 申立理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁、平成17年(行ケ)10042号判決参照)。
(2)当審の判断
本件明細書の段落【0006】の記載によれば、本件発明の課題は、水素極のクラックを抑制可能な電気化学セルを提供することである。
そして 、本件明細書には、電気化学セルについて、本件発明で特定されているとおり、電子伝導性を有する「支持層上」に「中間層」を配置し(段落【0012】、【0016】)、該「中間層」上に「水素極」を配置し(段落【0025】)、さらに「酸素極」を配置し(段落【0036】)、「水素極」と「酸素極」の間に「電解質」を配置して(段落【0030】)、「支持層」は「イットリア安定化ジルコニアと、ニッケルを含み」(段落【0012】)、「水素極」は「希土類元素が添加されたセリア系酸化物と、ニッケルとを含み」(段落【0027】)、「中間層」は「イットリア安定化ジルコニア及び希土類元素が添加されたセリア系酸化物の固溶体と、ニッケルとを含み」(段落【0017】)、「中間層」の厚みは「3μm以上20μm以下」である(段落【0022】)構成を採用することによって、支持層と水素極が直接接続される場合に比べて水素極内に応力が蓄積されることを抑制し、水素極にクラックが生じることを抑制できる、という効果を奏することで、発明の課題を解決するものであることが理解できる。
そうすると、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
したがって、本件発明は、サポート要件を満たしている。
(3)異議申立人の主張について
ア 異議申立人は、(i)本件発明における中間層と発明の詳細な説明における中間層とは同一ではないから、本件発明における中間層(本件明細書の支持層と水素極との少なくとも一方を含む中間層)の厚さが3μm以上20μmの範囲で本件明細書に記載の効果が得られるとはいえない、(ii)本件明細書には、中間層が支持層と水素極との少なくとも一方を含む場合の当該中間層の厚さの範囲とそれに対応する効果については記載されていないから、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により裏付けられているとはいえない、旨主張する。(異議申立書24頁18~26行)
イ 上記(i)について検討すると、本件発明の「中間層」は、「支持層上に配置され」、「イットリア安定化ジルコニア及び希土類元素が添加されたセリア系酸化物の固溶体と、ニッケルとを含み」、その「厚みは、3μm以上20μm以下である」ところ、本件明細書の段落【0016】に「中間層12は、支持層11上に配置される。中間層12は、支持層11と水素極13の間に配置される。」、同段落【0017】に「中間層12は、YSZ及び希土類元素が添加されたセリア系酸化物の固溶体とNiとを含む。」、同段落【0022】に「中間層12の厚さは、20μm以下であることが好ましい。これによって、中間層12内のイオン伝導パスが切れてしまうことを抑制できるため、燃料電池セル10の初期性能が低くなることを抑制できる。また、中間層12の厚さは、3μm以上であることが好ましい。これによって、水素極13にクラックが生じることをより抑制することができる。よって、中間層12の厚さを3μm以上20μm以下とすることによって、燃料電池セル10の初期性能の確保とクラックの更なる抑制とを両立させることができる。」と記載されていることから、本件発明の「中間層」と本件明細書に期された「中間層」とは同一であるといえる。
よって、異議申立人の主張(i)はその前提を欠いており、採用できない。
ウ 次に、上記(ii)について検討すると、本件発明において、「中間層」が「支持層」及び「水素極」の少なくとも一部を含むことは何等特定されていないから、異議申立人の主張は、本件発明の構成に基づくものではない。
また、本件明細書の記載をみても、「中間層」に関し、本件明細書には上記イで挙げた記載以外に以下の記載がある。
「【0019】
・・・。この中間層12が水素極13と支持層11の間の膨張量差を緩衝させる緩衝層として機能することによって、支持層11と水素極13が直接接続される場合に比べて水素極13内に応力が蓄積されることを抑制できる。」
さらに、本件明細書に記載された実施例について以下の記載がある。
「【0046】
(実施例1~7の作製)
以下のようにして、実施例1~7に係る電解セルを作製した。
【0047】
まず、YSZ粉末、NiO粉末、バインダ、造孔剤、可塑剤、分散媒及び溶剤を混合した支持層用スラリーをシート成形することによって、支持層成形体を作製した。
【0048】
次に、YSZ粉末、GDC粉末、NiO粉末、バインダ、造孔剤、可塑剤、分散媒及び溶剤を混合することによって調製した中間層用ペーストを支持層成形体上に印刷することによって、中間層成形体を形成した。この際、中間層用ペーストの印刷厚みを変更することによって、表1に示すように、実施例1~7それぞれの中間層の厚みを調整した。
【0049】
次に、GDC粉末、NiO粉末、バインダ、造孔剤、可塑剤、分散媒及び溶剤を混合することによって調製した水素極用ペーストを中間層成形体上に印刷することによって、水素極成形体を形成した。
・・・(中略)・・・。
【0052】
支持層成形体、中間層成形体、水素極成形体、電解質成形体及び反応防止層成形体の積層体を焼成(1300℃、5時間)することによって、支持層、中間層、水素極、電解質及び反応防止層からなる焼成体を作製した。」(下線は当審が付与した。)
そうすると、発明の詳細な説明をみても、「中間層」とは、「水素極13」と「支持層11」の間に配置されるものであり、「中間層用ペースト」を調製し、該「中間層用ペーストを支持層成形体上に印刷」して「中間層成形体」を形成し、該「中間層成形体」を「焼成」することにより得られるものであることから、該「中間層」は「支持層」や「水素極」とは別の層であり、該「中間層」が「支持層」や「水素極」の少なくとも一方を含むものと解することはできない。
よって、異議申立人の主張(ii)もその前提を欠いており、採用できない。
(4)申立理由3のまとめ
以上によれば、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものであって、本件特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。
したがって、異議申立人の主張する申立理由3は理由がない。
第6 むすび
以上の次第であるから、特許異議の申立ての理由及び異議申立人らの提出した証拠によっては、本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2025-700905