特許異議申立
2025-700890
ペンタシル型ゼオライト及びその製造方法
- 審判番号
- 2025-700890
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-197888
- 登録番号
- 7647844
- 請求日
- 2025年09月12日
- 審決日
- 2025年11月25日
- 公報発行日
- 2025年12月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】東ソー株式会社
- 【異議申立人】青山 裕樹
- 審判長/審判官
- 審判長 深草 祐一
- 審判官 宮澤 尚之
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.121-Y (C01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7647844号発明「ペンタシル型ゼオライト及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7647844号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許第7647844号の請求項1~5に係る特許についての出願(以下、「本件特許出願」という。)は、令和1年10月18日(優先権主張 平成30年10月25日、令和1年7月19日)に出願された特願2019-191015号の一部を、令和5年11月22日に新たな特許出願としたものであって、令和7年3月10日にその特許権の設定登録がされ、同年同月18日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件請求項1~5に係る特許に対して、令和7年9月12日に特許異議申立人青山裕樹(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明について
1 本件特許請求の範囲の記載
本件特許出願の願書に添付された特許請求の範囲(以下、「本件特許請求の範囲」という。)の記載は、次のとおりである。そして、本件請求項1~5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、その記載事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
25℃、相対湿度90%の条件での水分吸着量が4.0g/100g-ゼオライト以下であり、なおかつ、一次粒子の長軸径が0.2μm以上、4.0μm以下であることを特徴とするペンタシル型ゼオライトを含むVOC吸着剤。
【請求項2】
前記ペンタシル型ゼオライトの一次粒子のアスペクト比が1.0以上、3.0以下であることを特徴とする請求項1に記載のVOC吸着剤。
【請求項3】
前記ペンタシル型ゼオライトのSiO2/Al2O3(モル比)が200以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のVOC吸着剤。
【請求項4】
前記ペンタシル型ゼオライトのBET比表面積が300m2/g以上であることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかの項に記載のVOC吸着剤。
【請求項5】
前記ペンタシル型ゼオライトのNa2Oの含有量が1.00重量パーセント以下であることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかの項に記載のVOC吸着剤。」
2 本件明細書の記載
本件特許出願の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)には、次の記載がある(下線は当審が付した。以下同様。)。
「【0006】
本発明の目的は、水を吸着しにくく、なおかつ、成形体として用いる際の強度が優れていることを特徴とするペンタシル型ゼオライト及びその製造方法を提供することにある。」
「【0009】
本発明はペンタシル型ゼオライトに係る。ペンタシル型ゼオライトとは、酸素5員環の組合せを含むゼオライトである。ペンタシル型ゼオライトとして、国際ゼオライト学会(以下、「IZA」とする。)が規定する構造コードでMFI、MEL及びこれらの連晶体からなる群の少なくとも1種を挙げることができる。MFIとしては、例えば、ZSM-5、シリカライト-1等、MELとしては、例えば、ZSM-11、シリカライト-2等を挙げることができる。」
「【0023】
本発明のペンタシル型ゼオライトは、ケイ素源、構造指向剤としてアミン、及びアルカリ源を含み、なおかつ、フッ素源を含まない混合物を結晶化する結晶化工程、pH10~14のアルカリ溶液とゼオライトを接触させる工程、含水蒸気流通下、500~1000℃の温度で焼成する工程を有する製造方法により製造することができる。」
「【0026】
ペンタシル型ゼオライトの構造指向剤については、文献「Zeolites,Vol,3,p.282(1983)」に開示されており、ノルマルプロピルアミン、ジノルマルプロピルアミン、トリプロピルアミン、ジノルマルブチルアミン、ジプロピレントリアミン、ジヘキサメチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、エタノールアミン、プロパノールアミンなどのアミン、テトラプロピルアンモニウム、テトラエチルアンモニウムなどの第4級アンモニウムカチオン、その他、グリセロールやアルコール類、モルフォリン等が挙げられている。本発明では、これらの構造指向剤のうち、アミンを使用する。アミンを使用することにより、pH10~14のアルカリ溶液と接触させる工程及び含水蒸気流通下で焼成する工程を経ることで、相対湿度90%での水分吸着量が小さくなりやすく、アミン以外の構造指向剤を使用すると、pH10~14のアルカリ溶液と接触させる工程及び含水蒸気流通下で焼成する工程を経ても、相対湿度90%での水分吸着量が小さくなりにくい。アミンの中でも、pH10~14のアルカリ溶液と接触させる工程及び含水蒸気流通下で焼成する工程を経ることで、相対湿度90%での水分吸着量がより小さくなりやすいため、ノルマルプロピルアミン、ジノルマルプロピルアミン、トリプロピルアミンが好ましい。」
「【0038】
pH10~14のアルカリ溶液とゼオライトを接触させる工程では、ゼオライト中にわずかに存在する親水的な非晶質部分の除去を行う。親水的な非晶質部分が除去されることで、ゼオライトが水を吸着しにくくなる。」
「【0040】
含水蒸気流通下、500~1000℃の温度で焼成をする工程では、ゼオライト中のシラノールが脱水縮合されることで、ゼオライトが水を吸着しにくくなる。温度の範囲は500~1000℃である。温度が500℃より低いと、シラノールの脱水縮合が進行しにくく、温度が1000℃より高いと、ゼオライト構造が崩壊するためである。焼成温度は600~1000℃が好ましく、より好ましくは、600~900℃である。含水蒸気流通下とは、水蒸気を含む雰囲気のことであり、水蒸気を含む空気、水蒸気を含む窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気等、水蒸気を含む雰囲気であれば特に限定されない。焼成時間は特には限定されないが、0.5~10時間が好ましく、より好ましくは1~8時間である。」
「【0061】
実施例1
ケイ酸ソーダ水溶液と硫酸を混合し、粒状無定形ケイ酸を得た。得られた粒状無定形ケイ酸、ノルマルプロピルアミン(以下、「NPA」と表記)、水酸化ナトリウム、及び純水を混合し、以下のモル組成からなる混合物を得た。
【0062】
SiO2/Al2O3 = 3800
NPA/SiO2 = 0.25
OH/SiO2 = 0.12
Na/SiO2 = 0.12
H2O/SiO2 = 10
上記の混合物に、種晶としてMFI型ゼオライトを添加し、原料混合物とした。種晶の添加量は、上記混合物中のSiO2とAl2O3の重量に対して0.5重量%とした。得られた原料混合物をステンレス製の反応容器に充填し、これを密閉した。その後、当該反応容器を55回転/分で公転させながら115℃まで加熱した。加熱後、反応容器を公転しながら115℃で36時間保持することで混合物を結晶化させ、結晶化スラリーを得た。
【0063】
結晶化スラリーを冷却、ろ過、純水で洗浄し、1.2規定HCl水溶液に添加、混合、純水で洗浄することで、ペンタシル型ゼオライト中のナトリウムをプロトンにイオン交換し、その後、110℃で乾燥することでペンタシル型ゼオライトを得た。
【0064】
得られたペンタシル型ゼオライトを、pH13の水酸化ナトリウム水溶液中で、75℃、2.5時間の熱処理をし、その後、純水で洗浄、1.2規定HCl水溶液に添加、混合、純水で洗浄することで、ペンタシル型ゼオライト中のナトリウムをプロトンにイオン交換し、その後、110℃で乾燥、含水蒸気流通下、720℃、2時間の焼成を行い、ペンタシル型ゼオライトを得た。
【0065】
生成物のXRDパターンはMFI構造のXRDパターンに一致し、ペンタシル型ゼオライトであることを確認した。
【0066】
当該ゼオライトの25℃、相対湿度90%の条件での水分吸着量は2.3g/100g-ゼオライトであった。
【0067】
当該ゼオライトのSEM観察像を図2に示す。SEM観察像から計測した一次粒子の長軸径は1.0μm、一次粒子のアスペクト比は2.0であった。また、一次粒子の形状は角状(略直方体状)であった。
【0068】
また、当該ゼオライトのSiO2/Al2O3(モル比)は1900、BET比表面積は373m2/g、Na2Oの含有量は0.01重量パーセント以下であった。」
「【0115】
比較例5
実施例1と同様の方法で、結晶化、ろ過、純水で洗浄し、1.2規定HCl水溶液に添加、混合、純水で洗浄することで、ペンタシル型ゼオライト中のナトリウムをプロトンにイオン交換し、その後、110℃で乾燥、含水蒸気流通下、720℃で2時間の焼成を行い、ペンタシル型ゼオライトを得た(pH10~14のアルカリ溶液と接触させる工程は行わなかった)。
【0116】
生成物のXRDパターンはMFI構造のXRDパターンに一致し、ペンタシル型ゼオライトであることを確認した。
【0117】
当該ゼオライトの25℃、相対湿度90%の条件での水分吸着量は6.2g/100g-ゼオライトであった。SEM観察像から計測した一次粒子の長軸径は1.0μm、一次粒子のアスペクト比は2.0であった。また、一次粒子の形状は角状(略直方体状)であった。
【0118】
また、当該ゼオライトのSiO2/Al2O3(モル比)は1900、BET比表面積は410m2/g、Na2Oの含有量は0.01重量パーセント以下であった。
【0119】
比較例6
ケイ酸ソーダ水溶液と硫酸を混合し、粒状無定形ケイ酸を得た。得られた粒状無定形ケイ酸、テトラプロピルアンモニウムブロミド水溶液、水酸化ナトリウム、及び純水を混合し、以下のモル組成からなる混合物を得た(TPA+はテトラプロピルアンモニウムカチオンを示す。)。
【0120】
SiO2/Al2O3 = 3800
TPA+/SiO2 = 0.05
OH/SiO2 = 0.17
Na/SiO2 = 0.17
H2O/SiO2 = 10
上記の混合物を用いたこと、結晶化温度を135℃としたこと以外は実施例1と同様の方法で結晶化させ、結晶化スラリーを得た。
【0121】
結晶化スラリーを冷却、ろ過、洗浄、及び110℃で乾燥し、空気中、580℃で焼成し、1規定HCl水溶液に添加、混合、純粋で洗浄することで、ペンタシル型ゼオライト中のナトリウムをプロトンにイオン交換し、その後、110℃で乾燥することでペンタシル型ゼオライトを得た。
【0122】
得られたペンタシル型ゼオライトを、pH13の水酸化ナトリウム水溶液中で、60℃、1時間の熱処理をし、その後、純水で洗浄、1.2規定HCl水溶液に添加、混合、純水で洗浄することで、ペンタシル型ゼオライト中のナトリウムをプロトンにイオン交換し、その後、110℃で乾燥、含水蒸気流通下、780℃、2時間の焼成を行い、ペンタシル型ゼオライトを得た。
【0123】
生成物のXRDパターンはMFI構造のXRDパターンに一致し、ペンタシル型ゼオライトであることを確認した。
【0124】
当該ゼオライトの25℃、相対湿度90%の条件での水分吸着量は6.2g/100g-ゼオライトであった。
【0125】
当該ゼオライトのSEM観察像を図5に示す。SEM観察像から計測した一次粒子の長軸径は0.83μm、一次粒子のアスペクト比は1.3であった。また、一次粒子の形状は略球状であった。
【0126】
また、当該ゼオライトのSiO2/Al2O3(モル比)は1900、BET比表面積は406m2/g、Na2Oの含有量は0.01重量パーセント以下であった。」
第3 特許異議の申立てについて
1 申立ての理由の概要
申立人が主張する申立ての理由は、要するに、本件発明1~5は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、以下の甲第1号証、及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである、というものである。
(証拠方法)
甲第1号証 国際公開第2017/142033号
甲第2号証 特開2017-114755号公報
2 甲各号証の記載について
(1) 甲第1号証の記載について
甲第1号証には、「揮発性有機化合物吸着剤および揮発性有機化合物吸着剤が配合された樹脂組成物」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
ア 「[請求項1] SiO2/Al2O3(モル比)が50以上のMFI型ゼオライトからなる揮発性有機化合物吸着剤において、
前記ゼオライトは、X線回折スペクトルにおいて(053)面の面間隔(d値)が2.99Å以下であり、
且つ窒素分圧PN2(P/P0)0.005での窒素吸着量が100(cm3/g)以上であることを特徴とする揮発性有機化合物吸着剤。
[請求項2] SiO2/Al2O3(モル比)が90以上である、請求項1に記載の吸着剤。
[請求項3] トルエン分圧PT(P/P0)0.01でのトルエン吸着量が8.2質量%以上である、請求項1または2記載の吸着剤。
[請求項4] 酸化物換算でのアルカリ金属含有量が0.1質量%以下に抑制されている、請求項1~3の何れかに記載の吸着剤。」
イ 「背景技術
[0002] ゼオライトは、SiO2、Al2O3等を骨格に持ち、規則的なチャンネル(細孔)を有する結晶性のアルミノケイ酸塩である。特にMFI型ゼオライトはシリカリッチであり、10員環構造の細孔(5.1×5.5Å及び/又は5.3×5.6Å)を含むものとして広く知られている。
[0003] ゼオライトの結晶骨格中のAl2O3は、親水性に影響を与えAl量が多いほど親水性が高く、少ないほど低下することが知られている。シリカリッチなMFI型ゼオライトは、Al量が少ないため親水性が低く、従って、疎水性の有機成分に対して高い吸着性を示し、更に、低分子量炭化水素の大きさに近い細孔径を有していることから、有機化合物に対する吸着剤としての使用が提案されている(特許文献1~3参照)。
・・・
[0005] ところで、トルエン、キシレン、酢酸エチル等の揮発性有機化合物(以下、VOCと略称することがある)は、環境に与える影響が大きく、例えば光化学スモッグの原因となることが知られており、大気汚染防止法により工場等の固定発生源から排出および飛散されるVOCは濃度が厳しく制限されている。このため、このような揮発性有機化合物を排出ガス中から効率良く除去するための吸着剤が求められている。」
ウ 「発明が解決しようとする課題
[0008] 従って、本発明の目的は、揮発性有機化合物が低濃度で存在する場合にも、優れた吸着性を示す揮発性有機化合物吸着剤を提供することにある。本発明の他の目的は、特にトルエンに対して優れた吸着性を示す吸着剤を提供することである。」
エ 「図面の簡単な説明
[0016] [図1] ・・・
・・・
[図5] 実施例1で得られたMFI型ゼオライトからなる揮発性有機化合物吸着剤の走査型電子顕微鏡写真。
[図6] 実施例6で得られたMFI型ゼオライトからなる揮発性有機化合物吸着剤の走査型電子顕微鏡写真。」
オ 「[0019] 本発明において使用される、MFI型ゼオライトは低温(80~130℃)での反応により製造されるものであり、この結果として、X線回折スペクトルにおいて(053)面の面間隔(d値)が2.99Å以下であり、且つ窒素分圧PN2(P/P0)0.005での窒素吸着量が100(cm3/g)以上、好適には103(cm3/g)以上である。低温での反応により、このようなd値及び窒素吸着量が得られることについては後述する。」
カ 「[0028] このようなテンプレートは、例えばテトラプロピルアンモニウムブロマイド(TPA-Br)であれば、混合ゲルのSi成分に対して、TPA/SiO2=0.03~0.20(モル比)の量で使用されるが、この量はテンプレートの種類、特にアルキル基の炭素数によって大きく異なる。・・・」
キ 「[0051](実施例1)
SiO2質量を200gとして、各成分の組成がモル比でSiO2:Na2O:TPA-Br:H2O=1:0.03:0.05:16となるように変更した他は比較例4と同様に混合ゲルを調製し、最後にSiO2に対して1.0質量%の種晶(比較例4で得られた中位径7.7μmのMFI型ゼオライト)を添加して更に5分間撹拌を行い、種晶入り混合ゲルを調製した。
次に、撹拌条件下、種晶入り混合ゲルを温度制御可能な温水層中で、95℃まで1時間で昇温し、95℃を保持したまま20時間結晶化反応を行った。反応終了後、反応液をろ過し、引き続いて混合ゲルの3倍の容積の水で水洗を行ない、テンプレートを含むMFI型ゼオライトを得た。濾過水洗後のMFI型ゼオライトの中位径は1.0μmであった。
110℃の恒温乾燥棚で10時間乾燥を行った後、マッフル炉を用い、600℃、2時間保持の条件でテンプレートの除去を行い、テンプレートを含まないMFI型ゼオライトを得た。
その後、比較例4と同様に旋回式ジェットミルを用いて、MFI型ゼオライトの粉砕を行い、MFI型ゼオライトからなる揮発性有機化合物吸着剤を得た。中位径は1.0μmであった。
・・・
[0058] 比較例1~4のMFI型ゼオライト及び実施例1~7で調製された揮発性有機化合物吸着剤の物性、窒素吸着量、トルエン吸着量についての試験結果を表2及び表3に示す。
[0059]
[表2]
[図:0001430048000001.jpg]
」
ク 「[図5]
[図:0001430048000002.jpg]
」
(2) 甲第2号証の記載について
甲第2号証には、「ゼオライト、及びその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO2/Al2O3モル比100~1500のMFI型ゼオライトを500~900℃の温度で焼成して得られる、ゼオライト。
【請求項2】
加湿雰囲気下で焼成を行う、請求項1に記載のゼオライト。
【請求項3】
焼成時間が30分~60分である、請求項1又は2に記載のゼオライト。
【請求項4】
SiO2/Al2O3モル比100~1500のMFI型ゼオライトを500~900℃の温度で焼成する工程を有するゼオライトの製造方法。
【請求項5】
加湿雰囲気下で焼成を行う、請求項4に記載のゼオライトの製造方法。
【請求項6】
焼成時間が30分~60分である、請求項4又は5に記載のゼオライト。」
イ 「【背景技術】
【0002】
ゼオライトは大表面積を有するアルミノシリケ-ト多孔体であり、水分子や、アルデヒド類、ケトン類をはじめとする低分子量の有機物吸着性能に優れている。ゼオライトの吸着特性はSiO2/Al2O3モル比に依存し、低SiO2/Al2O3モル比を有するゼオライトは、強い親水性を示すため、エアコンや冷蔵庫等の除湿剤として工業的にも多用されている。一方で高SiO2/Al2O3モル比を有するゼオライトは、比較的疎水性を示すため、有機溶剤やアルデヒド等の有害有機物除去剤として、ハニカムロータやフィルタ等に用いられている。しかしながら、水の共存下で有機物質を効率的に吸着させるためには、ゼオライトの吸水能力をできる限り低くしなければならない。」
ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ゼオライトに対する疎水化処理方法として、前述したように種々の技術が開示又は報告されているが、これらの技術においては、試薬が高価であったり、有機溶媒を必要とするために製造工程や残液処理工程が煩雑であったり、表面が有機物で被覆されているために耐熱性に劣るなど、工業的な実用化には依然として課題が多い。
本発明は、簡便な処理によりMFI型のゼオライトの疎水性を高めたゼオライト及びその製造方法を提供することを課題とする。」
エ 「【実施例】
【0014】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
本実施例において、評価は以下の方法で行った。
【0015】
〔吸着容量及びnC4/H2O吸着選択比〕
マクベインベーカーバランス法により以下に示す条件により、水蒸気(H2O)及びノルマルブタン(nC4)の吸着試験をそれぞれ別々に行い、nC4/H2O吸着選択比を[nC4の吸着量(質量%)/H2Oの吸着量(質量%)]から求めた。
・前処理条件:703K、2時間真空排気
・測定条件:25℃
・H2O圧力:3.1kPa
・nC4圧力:33.3kPa
【0016】
実施例1
MFI型ゼオライト(SiO2/Al2O3モル比=330)を水中でバブリングした空気を導入したオーブン中で、650℃で40分間焼成した。得られたゼオライトの各種物質の吸着容量を評価して、表1に示した。
・・・
【0018】
実施例3
MFI型ゼオライト(SiO2/Al2O3モル比=1000)を水中でバブリングした空気を導入したオーブン中で、650℃で40分間焼成した。得られたゼオライトの各種物質の吸着容量を評価して表1に示した。
【0019】
実施例4
オーブンに対して、水中でバブリングをせずに、空気を導入した以外は実施例3と同様の条件で、MFI型ゼオライトを焼成した。得られたゼオライトの各種物質の吸着容量を評価して表1に示した。
・・・
【0021】
【表1】
[図:0001430048000003.jpg]
」
3 当審の判断
(1) 甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証には、前記2(1)によれば、次の事項が記載されているといえる。
(ア) SiO2/Al2O3(モル比)が50以上のMFI型ゼオライトからなり、前記ゼオライトは、X線回折スペクトルにおける(053)面の面間隔(d値)が2.99Å以下であり、且つ窒素分圧PN2(P/P0)0.005での窒素吸着量が100cm3/g以上、トルエン分圧PT(P/P0)0.01でのトルエン吸着量が8.2質量%以上である、揮発性有機化合物吸着剤([請求項1]、[請求項3])。
(イ) 揮発性有機化合物が低濃度で存在する場合にも、優れた吸着性を示す揮発性有機化合物吸着剤を提供すること([0008])。
(ウ) 前記(ア)の揮発性有機化合物吸着剤で使用されるMFI型ゼオライトは、低温(80~130℃)での反応により製造されること([0019])。
(エ) 前記(ア)の揮発性有機化合物吸着剤に係る具体例である実施例1として、各成分の組成がモル比でSiO2:Na2O:TPA-Br:H2O=1:0.03:0.05:16となるように混合ゲルを調製し、最後にSiO2に対して1.0質量%のMFI型ゼオライト種晶を添加して、種晶入り混合ゲルを調製し、撹拌条件下、95℃まで1時間で昇温し、95℃を保持したまま20時間結晶化反応を行い、反応終了後、反応液をろ過し、水洗を行ない、110℃の恒温乾燥棚で10時間乾燥を行った後、マッフル炉を用い、600℃、2時間保持の条件でテンプレートの除去を行い、その後、旋回式ジェットミルを用いて粉砕を行い、MFI型ゼオライトからなる揮発性有機化合物吸着剤を得たこと([0051])。
(オ) 実施例1の揮発性有機化合物吸着剤は、トルエン吸着量(P/P0=0.01)が8.9質量%、d値(053面)が2.980Å、N2吸着量(P/P0=0.005)が108cm3/g、酸化物換算でのアルカリ金属含有量が0.70質量%、SiO2/Al2O3(モル比)が11900、粒径(D50%)が1.0μm、BET比表面積が457m2/gであること([0058]、[0059][表2])。
(カ) 前記(エ)のTPA-Brは、テトラプロピルアンモニウムブロマイドであり、テンプレート剤であること([0028])。
イ 前記アの記載事項を、実施例1の「MFI型ゼオライトからなる揮発性有機化合物吸着剤」に注目して整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「テンプレート剤としてテトラプロピルアンモニウムブロマイド(TPA-Br)を用い、各成分の組成がモル比でSiO2:Na2O:TPA-Br:H2O=1:0.03:0.05:16となるように混合ゲルを調製し、最後にSiO2に対して1.0質量%のMFI型ゼオライト種晶を添加して、種晶入り混合ゲルを調製し、撹拌条件下、95℃まで1時間で昇温し、95℃を保持したまま20時間結晶化反応を行い、反応終了後、反応液をろ過し、水洗を行ない、110℃の恒温乾燥棚で10時間乾燥を行った後、マッフル炉を用い、600℃、2時間保持の条件でテンプレートの除去を行い、その後、旋回式ジェットミルを用いて粉砕して得られたMFI型ゼオライトからなる揮発性有機化合物吸着剤であって、
MFI型ゼオライトのSiO2/Al2O3(モル比)が11900、X線回折スペクトルにおける(053)面の面間隔(d値)が2.980Åであり、且つ窒素分圧PN2(P/P0)0.005での窒素吸着量が108cm3/g、トルエン分圧PT(P/P0)0.01でのトルエン吸着量が8.9質量%、酸化物換算でのアルカリ金属含有量が0.70質量%、粒径(D50%)が1.0μm、BET比表面積が457m2/gである、揮発性有機化合物吸着剤。」
(2) 本件発明1について
ア 本件発明と甲1発明の対比
甲1発明の「揮発性有機化合物吸着剤」は、甲第1号証の[0005]に「揮発性有機化合物(以下、VOCと略称することがある)」(前記2(1)イ参照)と記載されていることから、本件発明1の「VOC吸着剤」に相当する。
また、甲1発明の「MFI型ゼオライト」は、本件明細書の【0009】の「ペンタシル型ゼオライトとして、国際ゼオライト学会(以下、「IZA」とする。)が規定する構造コードでMFI、MEL及びこれらの連晶体からなる群の少なくとも1種を挙げることができる。」(前記第2の2参照)との記載を踏まえると、本件発明1の「ペンタシル型ゼオライト」に相当する。
以上を踏まえると、甲1発明の「MFI型ゼオライトからなる揮発性有機化合物吸着剤」は、本件発明1の「ペンタシル型ゼオライトを含むVOC吸着剤」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「ペンタシル型ゼオライトを含むVOC吸着剤」の点で一致し、以下の点で相違している。
(ア) 相違点1
ペンタシル型ゼオライトに関して、本件発明1は、「25℃、相対湿度90%の条件での水分吸着量が4.0g/100g-ゼオライト以下」であるのに対して、甲1発明は、その点が明らかでない。
(イ) 相違点2
ペンタシル型ゼオライトに関して、本件発明1は、「一次粒子の長軸径が0.2μm以上、4.0μm以下」であるのに対して、甲1発明は、「粒径(D50%)が1.0μm」であるものの、「一次粒子の長軸径」は明らかでない点。
イ 相違点1についての検討
(ア) 甲第2号証には、前記2(2)によれば、高SiO2/Al2O3モル比を有するゼオライトは、比較的疎水性を示すため、有害有機物除去剤として用いられているが、水の共存下で有機物質を効率的に吸着させるために、ゼオライトの吸水能力をできる限り低くする必要があり(【0002】)、簡便な処理によりMFI型のゼオライトの疎水性を高める(【0005】)ために、SiO2/Al2O3モル比100~1500のMFI型ゼオライトを500~900℃の温度、加湿雰囲気下で焼成すること(【請求項4】、【請求項5】)が記載されている。
他方、甲1発明は、前記2(1)ウによれば、「揮発性有機化合物が低濃度で存在する場合にも、優れた吸着性を示す揮発性有機化合物吸着剤を提供する」([0008])ことを目的とするものであるから、甲第2号証の前記記載に触れた当業者であれば、甲1発明の「MFI型ゼオライトからなる揮発性有機化合物吸着剤」において、水の共存下での揮発性有機化合物の効率的な吸着のために、甲第2号証に記載された疎水性を高める手段を適用すること、すなわち、500~900℃の温度、加湿雰囲気下で焼成することは、容易に想起することといえるかもしれない。
(イ) そこで、甲1発明の「MFI型ゼオライトからなる揮発性有機化合物吸着剤」に、甲第2号証に記載された疎水性を高める手段を適用することで、「25℃、相対湿度90%の条件での水分吸着量が4.0g/100g-ゼオライト以下」になるのかを検討する。
(ウ) 本件明細書には、前記第2の2によれば、「本発明のペンタシル型ゼオライトは、ケイ素源、構造指向剤としてアミン、及びアルカリ源を含み、なおかつ、フッ素源を含まない混合物を結晶化する結晶化工程、pH10~14のアルカリ溶液とゼオライトを接触させる工程、含水蒸気流通下、500~1000℃の温度で焼成する工程を有する製造方法により製造することができる」こと(【0023】)、「アミンを使用することにより、pH10~14のアルカリ溶液と接触させる工程及び含水蒸気流通下で焼成する工程を経ることで、相対湿度90%での水分吸着量が小さくなりやすく、アミン以外の構造指向剤を使用すると、pH10~14のアルカリ溶液と接触させる工程及び含水蒸気流通下で焼成する工程を経ても、相対湿度90%での水分吸着量が小さくなりにくい」こと(【0026】)、「pH10~14のアルカリ溶液とゼオライトを接触させる工程では、ゼオライト中にわずかに存在する親水的な非晶質部分の除去を行う」こと(【0038】)、「含水蒸気流通下、500~1000℃の温度で焼成をする工程では、ゼオライト中のシラノールが脱水縮合されることで、ゼオライトが水を吸着しにくくなる」こと(【0040】)が記載されている。
さらに、本件明細書には、ノルマルプロピルアミンを構造指向剤として用いた結晶化工程で得られたペンタシル型ゼオライトを、pH13の水酸化ナトリウム水溶液中で、75℃、2.5時間の熱処理をし、その後、含水蒸気流通下、720℃、2時間の焼成を行うことで、得られたペンタシル型ゼオライトの25℃、相対湿度90%の条件での水分吸着量が2.3g/100g-ゼオライトであったこと(実施例1、【0061】~【0068】)、実施例1と同様の方法で得られたペンタシル型ゼオライトを、含水蒸気流通下、720℃で2時間の焼成のみを行うことで、得られたペンタシル型ゼオライトの25℃、相対湿度90%の条件での水分吸着量は6.2g/100g-ゼオライトであったこと(比較例5、【0115】~【0118】)、テトラプロピルアンモニウムブロミド水溶液を構造指向剤として用いた結晶化工程で得られたペンタシル型ゼオライトを、pH13の水酸化ナトリウム水溶液中で、60℃、1時間の熱処理をし、その後、含水蒸気流通下、780℃、2時間の焼成を行うことで、得られたペンタシル型ゼオライトの25℃、相対湿度90%の条件での水分吸着量が6.2g/100g-ゼオライトであったこと(比較例6、【0119】~【0126】)が具体的に記載されている。
これらの記載によれば、「25℃、相対湿度90%の条件での水分吸着量が4.0g/100g-ゼオライト以下」のペンタシル型ゼオライトを得るためには、結晶化工程の構造指向剤としてアミンを使用すること、pH10~14のアルカリ溶液とゼオライトを接触させること、及び含水蒸気流通下、500~1000℃の温度で焼成することが特に重要であることを理解できる。
(エ) これに対して、甲1発明の「MFI型ゼオライトからなる揮発性有機化合物吸着剤」は、「テンプレート剤としてテトラプロピルアンモニウムブロマイド(TPA-Br)を用い」た結晶化反応で得られたものであり、テンプレート剤、すなわち構造指向剤としてアミンを使用していないし、また、甲第2号証に記載された疎水性を高める手段は、前記(ア)のとおり、500~900℃の温度、加湿雰囲気下で焼成することのみであり、当該焼成前に、pH10~14のアルカリ溶液とゼオライトを接触させていないから、甲1発明の「MFI型ゼオライトからなる揮発性有機化合物吸着剤」に、甲第2号証に記載された疎水性を高める手段を適用しても、「25℃、相対湿度90%の条件での水分吸着量が4.0g/100g-ゼオライト以下」の疎水性になるとはいえない。
(オ) したがって、甲第2号証の記載を参酌しても、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
(カ) 申立人は、特許異議申立書において、甲第2号証には、測定条件:25℃、H2O圧力:3.1kPaのおけるH2Oの吸着容量が3.5~3.9質量%の疎水化MFI型ゼオライト(実施例1、3、4)が記載されていることを論拠に、甲第1号証に記載された揮発性有機化合物吸着剤において、甲第2号証に記載された前記H2Oの吸着容量を採用することで、本件発明1とすることは容易に想到できる旨を主張している。
しかしながら、特性の予測が困難な化学分野においては、疎水化処理前のMFI型ゼオライトの違い等を考慮することなく、疎水化処理後の特性のみを適用することが容易想到の事項であるといえないため、甲第1号証に記載された揮発性有機化合物吸着剤のMFI型ゼオライトと、甲第2号証に記載された疎水化処理前のMFI型ゼオライトの違いを考慮することなく、甲第2号証に記載された特性のみを甲第1号証に記載された揮発性有機化合物吸着剤に適用できるといえない。
したがって、申立人の前記主張は採用できない。
ウ 小括
前記イで検討したとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
(3) 本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、前記(2)と同様に、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
(4) まとめ
したがって、本件請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでないから、前記1の申立ての理由には理由がない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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