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特許異議申立

2025-700864

優れたスポット溶接性および優れた塗装付着性を有する亀裂含有ホットスタンプされた被覆鋼部品

審判番号
2025-700864
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2024-539310
登録番号
7642164
請求日
2025年09月03日
審決日
2025年12月26日
公報発行日
2026年01月30日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】アルセロールミタル
  • 【権利者代理人】弁理士法人川口國際特許事務所
  • 【異議申立人】中川 賢治
審判長/審判官
  • 審判長 粟野 正明
  • 審判官 井上 猛
  • 審判官 石川 雄太郎
分類
P1651.113-Y (C23C) / P1651.121-Y (C23C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条、特許法第113条
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7642164号発明「優れたスポット溶接性および優れた塗装付着性を有する亀裂含有ホットスタンプされた被覆鋼部品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7642164号の請求項1~25に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7642164号(請求項の数25。以下、「本件特許」という。)は、2024年(令和6年)2月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理:2023年6月30日(IB)国際事務局)を国際出願日とする特許出願(特願2024-539310号)に係るものであって、令和7年2月27日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和7年3月7日である。)。 その後、令和7年9月3日に、本件特許の請求項1~25に係る特許に対して、特許異議申立人である中川賢治(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。 第2 本件発明 本件特許の請求項1~25に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~25に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。 【請求項1】 鋼基板と、鋼基板の少なくとも1つの面上のアルミニウム合金コーティングとを備えるホットスタンプされた被覆鋼部品であって、コーティングが、鋼基板から外向きに進行する相互拡散層と外側層とを備え、コーティングの総厚さecoatingおよび相互拡散層の厚さeIDLは、以下の条件、 40≦Epc≦80 において、 【数1】 [図:0001431170000001.jpg] を満たし、 eIDLは相互拡散層の厚さをμmで示し、ecoatingはコーティングの総厚さをμmで示し、 ホットスタンプされた被覆鋼部品が、0.6mm~3.5mmの厚さePflatを有する非変形部分と、少なくとも1つの変形部分とを備え、非変形部分におけるコーティング中の亀裂の線密度dCが、以下のように定義される亀裂の最小線密度dCmin(ePflat)以上であり、 【数2】 [図:0001431170000002.jpg] 式中、dCおよびdCmin(ePflat)は1mm当たりの亀裂の数で表され、epflatは非変形部分の厚さをmmで示す、 ホットスタンプされた被覆鋼部品。 【請求項2】 非変形部分におけるコーティング中の亀裂の線密度dCは4*dCmin(ePflat)以下である、請求項1に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品。 【請求項3】 ホットスタンプされた被覆鋼部品は、0.6mm~3.5mmの範囲にある均一な厚さePを有する、請求項1または2に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品。 【請求項4】 ホットスタンプされた被覆鋼部品は可変厚さを有し、ホットスタンプされた被覆鋼部品は、各々0.6~3.5mmの範囲にある別個の厚さePiを有する2つ以上の領域からなり、ホットスタンプされた被覆鋼部品は、0.6mm~3.5mmの範囲にある平均厚さePを有する、請求項1または2に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品。 【請求項5】 ホットスタンプされた被覆鋼部品が、各々が0.6mm~3.5mmの厚さepflat(i)を有する2つ以上の非変形部分を備え、各非変形部分におけるコーティング中の亀裂の線密度dC(i)は、dCmin(epflat(i))以上であり、 【数3】 [図:0001431170000003.jpg] 式中、epflat(i)は、考慮される非変形部分の厚さをmmで示し、i=1…n,n≧2であり、dC(i)およびdCmin(epflat(i))は、1mm当たりの亀裂の数で表され、それぞれ、厚さePflat(i)の考慮される非変形部分のコーティング中の亀裂の線密度および亀裂の最小線密度を示す、請求項1または2に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品。 【請求項6】 断面において、非変形部分のコーティング中の亀裂は、コーティングの最上面から鋼基板に向かって、鋼基板の表面に略直交する方向に、少なくとも5μmの深さにわたって延び、各々の亀裂は、鋼基板の表面に略平行な方向に2μm未満の幅を有する、請求項1または2に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品。 【請求項7】 亀裂の線密度は、鋼基板の表面に平行な方向における少なくとも5mmの観察の全長にわたって、明視野光学顕微鏡で非変形部分のいくつかの断面において観察された亀裂の総数と、観察の全長との比として決定される、請求項1または2に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品。 【請求項8】 ホットスタンプされた被覆鋼部品は、モノリシック部品、または少なくとも2つのホットスタンプされた被覆サブ部品と、ホットスタンプされた被覆サブ部品を一緒に接合する少なくとも1つのホットスタンピングされた溶接部とからなるホットスタンピングされた溶接部品である、請求項1または2に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品。 【請求項9】 ホットスタンプされた被覆鋼部品または各ホットスタンプされた被覆サブ部品は、体積で、少なくとも60%のマルテンサイト、最大20%のベイナイト、最大5%のフェライトおよび最大15%のオーステナイトからなる構造を有する、請求項8に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品。 【請求項10】 ホットスタンプされた被覆鋼部品中の、または各ホットスタンプされた被覆サブ部品中の鋼は、重量%で、 0.062%≦C≦0.4% 0.4%≦Mn≦3.9% 0.10%≦Si≦1.5% 0.005%≦Al≦1.0% 0.001%≦Cr≦2.0% 0.001%≦Ti≦0.2% 0.0005%≦B≦0.010% Ni≦2% Nb≦0.1% Mo≦0.65% W≦0.30% N≦0.010% 0.0001%≦S≦0.05% 0.0001%≦P≦0.1% Ca≦0.005% を含有する化学組成を有し、 組成の残部は、鉄と、加工に起因する不可避の不純物とからなる、請求項8に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品。 【請求項11】 ホットスタンプされた被覆鋼部品中の、または少なくとも1つのホットスタンプされた被覆サブ部品中の鋼は、重量%で、 0.062%≦C≦0.095% 1.4%≦Mn≦1.9% 0.2%≦Si≦0.5% 0.020%≦Al≦0.070% 0.02%≦Cr≦0.1% 1.5%≦(C+Mn+Si+Cr)≦2.7% 0.0035%≦Ti≦0.072% 0.0002%≦B≦0.004% 0.04%≦Nb≦0.06% 0.044%≦(Nb+Ti)≦0.09% 0.001%≦N≦0.009% 0.0005%≦S≦0.003% 0.0001%≦P≦0.020% Ca≦0.005%、 を含有する化学組成を有し、 組成の残部は、鉄と、加工に起因する不可避の不純物とからなる、請求項10に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品。 【請求項12】 ホットスタンプされた被覆鋼部品中の、または少なくとも1つのホットスタンプされた被覆サブ部品中の鋼は、重量%で、 0.15%≦C≦0.30% 0.5%≦Mn≦3.0% 0.10%≦Si≦0.50% 0.005%≦Al≦0.1% 0.01%≦Cr≦1.0% 0.001%≦Ti≦0.2% 0.0002%≦B≦0.010% 0.0005%≦N≦0.010% 0.0001%≦S≦0.05% 0.0001%≦P≦0.1% Ca≦0.005% を含有する化学組成を有し、 残部は、Feと、加工に起因する不可避の不純物とからなる、請求項10に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品。 【請求項13】 ホットスタンプされた被覆鋼部品中の、または少なくとも1つのホットスタンプされた被覆サブ部品中の鋼は、重量%で、 0.3%≦C≦0.4% 0.5%≦Mn≦1.0% 0.40%≦Si≦0.80% 0.01%≦Al≦0.1% 0.1%≦Cr≦1.0% 0.008%≦Ti≦0.03% 0.0005%≦B≦0.003% Ni≦0.5% 0.01%≦Nb≦0.1% 0.1%≦Mo≦0.5% N≦0.005% 0.0001%≦S≦0.004% 0.0001%≦P≦0.02% Ca≦0.0010% を含有する化学組成を有し、 組成の残部は、鉄と、加工に起因する不可避の不純物とからなる、請求項10に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品。 【請求項14】 ホットスタンプされた被覆鋼部品を製造するための方法であって、以下の連続する工程、 -0.6mm~3.5mmの平均厚さeBを有する鋼ブランクを提供する工程であって、鋼ブランクは、少なくとも片面にアルミニウムまたはアルミニウム合金プレコーティングを備え、プレコーティングは19.91μm~40μmの間に含まれる平均厚さを有する、鋼ブランクを提供する工程と、 -ブランクの鋼中に完全オーステナイト構造を得るために、鋼ブランクを炉内で850℃~970℃の範囲の加熱温度Theatに加熱し、鋼ブランクを加熱温度Theatで保持する工程と、 -加熱されたブランクを金型へ移送し、次いで金型を閉じる工程と、 -0.6mm~3.5mmの厚さeBflatを有するブランクの平坦部分が変形を受けず、ホットスタンプによってブランクの少なくとも一部分が変形し、それにより、非変形部分と少なくとも1つの変形部分とを備えるホットスタンプされたブランクを得るように、ブランクを金型内でホットスタンプする工程と、 -ホットスタンプされたブランクを400℃未満の温度に冷却し、ホットスタンプされた被覆鋼部品を得る工程と、 を含み、 金型が閉じているときのブランクの温度Tcloseは、720℃~820℃の範囲にあり、加熱、保持、移送およびホットスタンプの際に、プレコーティングの溶融温度Tmeltを超えてブランクによって費やされる時間tMは、最小時間tMminと最大時間tMmaxとの間の範囲にあり、 【数4】 [図:0001431170000004.jpg] および 【数5】 [図:0001431170000005.jpg] 式中、tMminおよびtMmaxは秒で表され、Theatは℃でのブランクの加熱温度を示し、Tmeltは℃でのプレコーティングの溶融温度を示し、eBflatは変形を受けていないブランクの部分の厚さをmmで示す、 方法。 【請求項15】 プレコーティングは、重量で、7%~15%のケイ素、2%~4%の鉄、および場合により0.0015%~0.0030%のカルシウムを含有し、残部がアルミニウムと、不可避の不純物とである、アルミニウム合金プレコーティングである、請求項14に記載の方法。 【請求項16】 プレコーティングは、重量で、8%~11%のケイ素、2%~4%の鉄、および場合により0.0015%~0.0030%のカルシウムを含有し、残部がアルミニウムと、不可避の不純物とである、アルミニウム合金プレコーティングである、請求項15に記載の方法。 【請求項17】 ブランクの金型内でのホットスタンピングにおいて、各々が0.6mm~3.5mmの厚さeBflat(i)を有するブランクの2つ以上の平坦部分は変形を受けず、プレコーティングの溶融温度Tmeltを超えるブランクによって費やされる時間tMは、最も高い厚さを有する平坦部分に必要な最小時間tMmin(Max(eBflat(i))と最も低い厚さを有する平坦部分に必要な最大時間tMmax(Min(eBflat(i)))との間に含まれる、請求項14または15に記載の方法。 【請求項18】 ブランクは、金型内でのブランクのホットスタンピングにおいて最小厚さeBminから最大厚さeBmaxまでの範囲の可変厚さを有し、プレコーティングの溶融温度Tmeltを超えてブランクが費やす時間tMは、最大厚さeBmaxに必要な最小時間tMmin(eBmax)と最小厚さeBminに必要な最大時間tMmax(eBmin)との間の範囲にある、請求項14または15に記載の方法。 【請求項19】 鋼ブランクは、モノリシックブランク、テーラーロールドブランク、または少なくとも2つのサブブランクを一緒に溶接することによって製造されたテーラー溶接ブランクである、請求項14または15に記載の方法。 【請求項20】 ブランクまたは各サブブランクは、重量%で、 0.062%≦C≦0.4% 0.4%≦Mn≦3.9% 0.10%≦Si≦1.5% 0.005%≦Al≦1.0% 0.001%≦Cr≦2.0% 0.001%≦Ti≦0.2% 0.0005%≦B≦0.010% Ni≦2% Nb≦0.1% Mo≦0.65% W≦0.30% N≦0.010% 0.0001%≦S≦0.05% 0.0001%≦P≦0.1% Ca≦0.005% を含有する化学組成を有し、 組成の残部は、鉄と、加工に起因する不可避の不純物とからなる、プレコート鋼板を切断することによって製造される、請求項19に記載の方法。 【請求項21】 ブランクまたは少なくとも1つのサブブランクの化学組成は、重量%で、 0.062%≦C≦0.095% 1.4%≦Mn≦1.9% 0.2%≦Si≦0.5% 0.020%≦Al≦0.070% 0.02%≦Cr≦0.1% 1.5%≦(C+Mn+Si+Cr)≦2.7% 0.0035%≦Ti≦0.072% 0.0002%≦B≦0.004% 0.04%≦Nb≦0.06% 0.044%≦(Nb+Ti)≦0.09% 0.001%≦N≦0.009% 0.0005%≦S≦0.003% 0.0001%≦P≦0.020% Ca≦0.005%、 を含有し、 組成の残部は、鉄と、加工に起因する不可避の不純物とからなる、請求項20に記載の方法。 【請求項22】 ブランクまたは少なくとも1つのサブブランクの化学組成は、重量%で、 0.15%≦C≦0.30% 0.5%≦Mn≦3.0% 0.10%≦Si≦0.50% 0.005%≦Al≦0.1% 0.01%≦Cr≦1.0% 0.001%≦Ti≦0.2% 0.0002%≦B≦0.010% 0.0005%≦N≦0.010% 0.0001%≦S≦0.05% 0.0001%≦P≦0.1% Ca≦0.005% を含有し、 残部は、Feと、加工に起因する不可避の不純物とである、請求項20に記載の方法。 【請求項23】 ブランクまたは少なくとも1つのサブブランクの化学組成は、重量%で、 0.3%≦C≦0.4% 0.5%≦Mn≦1.0% 0.40%≦Si≦0.80% 0.01%≦Al≦0.1% 0.1%≦Cr≦1.0% 0.008%≦Ti≦0.03% 0.0005%≦B≦0.003% Ni≦0.5% 0.01%≦Nb≦0.1% 0.1%≦Mo≦0.5% N≦0.005% 0.0001%≦S≦0.004% 0.0001%≦P≦0.02% Ca≦0.0010% を含有し、 組成の残部は、鉄と、加工に起因する不可避の不純物とからなる、請求項20に記載の方法。 【請求項24】 ブランクまたは各サブブランクを提供する工程は、以下の連続する工程、すなわち、 -鋼半製品を提供する工程と、 -場合により、半製品を1100℃~1300℃の温度に再加熱する工程と、 -半製品を熱間圧延して、熱間圧延鋼板を得る工程と、 -750℃以下の巻き取り温度で熱間圧延鋼板を巻き取る工程と、 -場合により、熱間圧延鋼板を酸洗する工程と、 -場合により、熱間圧延鋼板を冷間圧延して、冷間圧延鋼板を得る工程と、 -熱間圧延鋼板または冷間圧延鋼板を、Ac1とAc3との間の焼鈍温度に加熱する工程と、 -670℃~680℃の温度でAlまたはAl合金浴中で鋼板を溶融めっきする工程と、 -プレコート鋼板を室温に冷却する工程と、 -プレコート鋼板を切断して、ブランクまたはサブブランクを得る工程と、 -場合により、サブブランクを一緒に溶接して、テーラー溶接ブランクを製造する工程と、 を含む、請求項19に記載の方法。 【請求項25】 自動車車両用のシャーシまたはホワイトボディ部品またはサスペンションアームの製造のための、請求項1に記載のホットスタンプされた被覆鋼部品、または請求項14に記載の方法によって製造されたホットスタンプされた被覆鋼部品の使用。 第3 特許異議の申立ての理由の概要 本件特許の請求項1~25に係る特許は、下記1~4のとおり、特許法113条2号に該当する(証拠方法は下記5を参照。以下、甲第1号証等を単に「甲1」等という。)。 1 申立理由1-1(新規性) 本件発明1~3、5~12、25は、甲1に記載された発明であり、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~3、5~12、25に係る特許は、同法113条2号に該当する。 2 申立理由1-2(新規性) 本件発明14~20、22、24、25は、甲2に記載された発明であり、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項14~20、22、24、25に係る特許は、同法113条2号に該当する。 3 申立理由2-1(進歩性) 本件発明1~13、25は、甲1に記載された発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~13、25に係る特許は、同法113条2号に該当する。 4 申立理由2-2(進歩性) 本件発明14~25は、甲2に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項14~25に係る特許は、同法113条2号に該当する。 5 証拠方法 ・甲1 国際公開第2022/004969号 ・甲1-1 特表2023-532501号公報(甲1の訳文) ・甲2 特開2006-51543号公報 ・甲3 国際公開第2013/147035号 第4 当審における判断 以下に述べるように、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~25に係る特許を取り消すことはできない。 1 申立理由1-1(新規性)、申立理由2-1(進歩性) (1)甲1に記載された発明 甲1の訳文として、甲1-1を用いる。以下、記載箇所の特定は、甲1-1に基づいて行う。 甲1の記載(請求項1、3、6、7、【0002】~【0004】、【0006】、【0019】、【0029】、【0030】、【0044】~【0054】、【0081】~【0086】、表1、表2、図1)によれば、特に、請求項1、3の記載を前提として、実施例4の熱間プレス用鋼板を熱間プレスすることで得られた試片(【0081】~【0085】、表2)に着目すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。 「熱間プレス用鋼板をAc3以上の温度まで加熱した後、プレスで外力を加えると共に、急冷を行うことで得られた試片であって、 前記熱間プレス用鋼板は、 板厚1.2mmであるベース鋼板と、 前記ベース鋼板上に位置し、順次に積層された拡散層と表面層とを具備したメッキ層と、を含み、 前記メッキ層は、Si 7wt%、Fe 2.5wt%、及び残部のAlの成分を含むメッキ浴を用いた溶融Alメッキにより形成されたものであり、メッキ層平均厚が31μmであり、 前記メッキ層に対する前記拡散層の面積分率は、34.8%であり、 前記拡散層は、前記ベース鋼板上に順次に位置し、それぞれシリコンを含むFe-Al合金化層及びFe-Al金属間化合物層を含み、 前記拡散層に対する前記Fe-Al金属間化合物層の面積分率は、97.9%であり、 試片において、任意の3個地点における単位長(mm)当たりのメッキ層に生じたクラック個数が29個である、試片。」(以下、「甲1発明」という。) (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明における「ベース鋼板」、「メッキ層」は、それぞれ、本件発明1における「鋼基板」、「コーティング」に相当する。 (イ)甲1発明における「ベース鋼板上に位置」する「メッキ層」は、「Si 7wt%、Fe 2.5wt%、及び残部のAlの成分を含むメッキ浴を用いた溶融Alメッキにより形成されたもの」であり、アルミニウム合金からなるメッキ層といえるから、上記(ア)を踏まえると、本件発明1における「鋼基板の少なくとも1つの面上のアルミニウム合金コーティング」に相当する。 (ウ)甲1発明における「試片」は、「ベース鋼板」と「ベース鋼板上に位置」する「メッキ層」を含む「熱間プレス用鋼板をAc3以上の温度まで加熱した後、プレスで外力を加えると共に、急冷を行うことで得られた」ものであり、甲1の記載(【0002】~【0004】)を考慮すると、自動車に用いられる熱間プレス成形品と解される。 そうすると、甲1発明における「試片」は、本件明細書の記載(【0004】、【0020】)及び技術常識を考慮するとともに、上記(ア)、(イ)を踏まえると、本件発明1における「鋼基板と、鋼基板の少なくとも1つの面上のアルミニウム合金コーティングとを備えるホットスタンプされた被覆鋼部品」に相当する。 (エ)甲1発明における「拡散層」、「表面層」は、それぞれ、本件発明1における「相互拡散層」、「外側層」に相当する。そして、甲1発明において、「メッキ層」が「順次に積層された拡散層と表面層とを具備し」ていることは、上記(ア)を踏まえると、本件発明1において、「コーティングが、鋼基板から外向きに進行する相互拡散層と外側層とを備え」ていることに相当する。 (オ)甲1発明における「メッキ層平均厚」は、上記(ア)を踏まえると、本件発明1における「コーティングの総厚さecoating」に相当する。 また、甲1発明における「拡散層」が所定の厚さを有していることは明らかであるから、甲1発明における「拡散層」の厚さは、上記(エ)を踏まえると、本件発明1における「相互拡散層の厚さeIDL」に相当する。 以上を踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、所定の「コーティングの総厚さecoatingおよび相互拡散層の厚さeIDL」を有し、「eIDLは相互拡散層の厚さをμmで示し、ecoatingはコーティングの総厚さをμmで示し」である限りで共通する。 なお、甲1発明における「メッキ層平均厚」は、31μmである。また、甲1発明における「拡散層」の厚さは、「前記メッキ層に対する前記拡散層の面積分率は、34.8%であ」ることから、10.79μm(=31×34.8/100)である。 (カ)甲1発明における「試片」は、「熱間プレス用鋼板」に対して「プレスで外力を加える」ことで得られたものであるところ、熱間プレス用鋼板のうち、プレスで外力が加えられた部分は変形しており、プレスで外力が加えられなかった部分は変形していないことは、明らかである。 そうすると、上記(ウ)を踏まえると、甲1発明の「試片」における、変形していない部分、変形している部分は、それぞれ、本件発明1の「ホットスタンプされた被覆鋼部品」における「非変形部分」、「変形部分」に相当する。 そして、甲1発明の「試片」における、変形していない部分の厚さは、熱間プレス用鋼板の厚さ1.262mm(=1.2mm(ベース鋼板)+31μm(メッキ層)×2)と同じ厚さと認められるから、本件発明1の「ホットスタンプされた被覆鋼部品」における「非変形部分」の「厚さePflat」が「0.6mm~3.5mm」であることに相当する。 (キ)以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、 「鋼基板と、鋼基板の少なくとも1つの面上のアルミニウム合金コーティングとを備えるホットスタンプされた被覆鋼部品であって、コーティングが、鋼基板から外向きに進行する相互拡散層と外側層とを備え、所定のコーティングの総厚さecoatingおよび相互拡散層の厚さeIDLを有し、eIDLは相互拡散層の厚さをμmで示し、ecoatingはコーティングの総厚さをμmで示し、 ホットスタンプされた被覆鋼部品が、0.6mm~3.5mmの厚さePflatを有する非変形部分と、少なくとも1つの変形部分とを備える、 ホットスタンプされた被覆鋼部品。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 ・相違点1-1 コーティングの総厚さecoatingおよび相互拡散層の厚さeIDLが、本件発明1では、「以下の条件、40≦Epc≦80において、【数1】(略)を満た」すのに対して、甲1発明では、それぞれ、31μm、10.79μmである点。 ・相違点1-2 本件発明1では、「非変形部分におけるコーティング中の亀裂の線密度dCが、以下のように定義される亀裂の最小線密度dCmin(ePflat)以上であり、【数2】(略)式中、dCおよびdCmin(ePflat)は1mm当たりの亀裂の数で表され、epflatは非変形部分の厚さをmmで示す」のに対して、甲1発明では、「試片において、任意の3個地点における単位長(mm)当たりのメッキ層に生じたクラック個数が29個である」点。 イ 相違点1-2の検討 事案に鑑み、相違点1-2について検討する。 (ア)まず、相違点1-2が実質的な相違点であるか否かについて検討する。 甲1発明は、「試片において、任意の3個地点における単位長(mm)当たりのメッキ層に生じたクラック個数が29個である」というものである。 すなわち、甲1発明においては、「単位長(mm)当たりのメッキ層に生じたクラック個数」(本件発明1における「1mm当たりの亀裂の数で表され」る「コーティング中の亀裂の線密度dC」に相当する。)が特定されているものの、上記クラック個数は、「任意の3個地点」におけるクラック個数である。 ここで、甲1発明の試片には、変形していない部分と変形している部分の両方が存在している(上記ア(カ)を参照。)ことから、甲1発明における上記クラック個数が、変形していない部分におけるクラック個数かどうかは、不明というほかない。 また、甲1には、試片の変形していない部分における「単位長(mm)当たりのメッキ層に生じたクラック個数」については、具体的な記載は見当たらない。 そうすると、甲1発明の試片において、変形していない部分における「単位長(mm)当たりのメッキ層に生じたクラック個数」は不明であるから、当該クラック個数が、本件発明1において【数2】で定義される「亀裂の最小線密度dCmin(ePflat)」以上であるかどうかも、不明である。 以上によれば、相違点1-2は実質的な相違点である。 したがって、相違点1-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。 (イ)次に、相違点1-2の容易想到性について検討する。 甲1には、試片の変形していない部分における「単位長(mm)当たりのメッキ層に生じたクラック個数」については、具体的な記載は見当たらないから、甲1発明において、試片の変形していない部分における「単位長(mm)当たりのメッキ層に生じたクラック個数」を、本件発明1において【数2】で定義される「亀裂の最小線密度dCmin(ePflat)」以上とする動機付けがあるとはいえない。また、甲2や甲3にも、甲1発明において、そのようにすることを動機付ける記載は見当たらない。 以上によれば、甲1発明において、試片の変形していない部分における「単位長(mm)当たりのメッキ層に生じたクラック個数」を、本件発明1において【数2】で定義される「亀裂の最小線密度dCmin(ePflat)」以上とすることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。 したがって、相違点1-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)本件発明2~13について 本件発明2~13は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2~13についても同様に、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)本件発明25について ア(ア)申立人は、前記第3のとおり、本件発明1~13については、甲1を主引例とする申立理由1-1(新規性)及び申立理由2-1(進歩性)を主張し、本件発明14~24については、甲2を主引例とする申立理由1-2(新規性)及び申立理由2-2(進歩性)を主張している。 (イ)また、申立人は、前記第3のとおり、本件発明25については、甲1を主引例とする申立理由1-1(新規性)及び申立理由2-1(進歩性)、並びに甲2を主引例とする申立理由1-2(新規性)及び申立理由2-2(進歩性)を主張しているところ、上記(ア)の本件発明1~13及び14~24についての主張の実態を踏まえると、甲1を主引例とする申立理由1-1(新規性)及び申立理由2-1(進歩性)は、本件発明25のうち、本件発明1を引用する場合について主張するものと認められ、また、甲2を主引例とする申立理由1-2(新規性)及び申立理由2-2(進歩性)は、本件発明25のうち、本件発明14を引用する場合について主張するものと認められる。 (ウ)そうすると、申立人の上記(ア)、(イ)の主張を前提とすれば、甲1を主引例とする申立理由1-1(新規性)及び申立理由2-1(進歩性)については、本件発明25と(上記(2)で本件発明1と対比、検討した)甲1発明とを対比、検討すれば足りると解される。 また、同様に、申立人の上記(ア)、(イ)主張を前提とすれば、甲2を主引例とする申立理由1-2(新規性)及び申立理由2-2(進歩性)については、本件発明25と(下記2(2)で本件発明14と対比、検討する)甲2発明とを対比、検討すれば足りると解される。 イ そこで、本件発明25と甲1発明とを対比すると、上記(2)アと同様に、両者は、少なくとも、相違点1-2と同様の相違点で相違するところ、当該相違点については、上記(2)イで述べたのと同様の理由により、実質的な相違点であり、また、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。 したがって、申立人の上記ア(ア)、(イ)の主張を前提とすれば、本件発明25は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)まとめ 以上のとおり、本件発明1~3、5~12は、甲1に記載された発明であるとはいえない。 また、本件発明1~13は、甲1に記載された発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 したがって、申立理由1-1(新規性)、申立理由2-1(進歩性)によっては、本件特許の請求項1~13に係る特許を取り消すことはできない。 また、本件発明25については、上記(4)のとおりであり、申立人の主張を前提とすれば、申立人が主張する理由によっては、本件特許の請求項25に係る特許を取り消すことはできない。 2 申立理由1-2(新規性)、申立理由2-2(進歩性) (1)甲2に記載された発明 甲2の記載(請求項1~3、【0003】、【0005】~【0009】、【0011】~【0013】、【0016】~【0018】、表3、表4、図1)によれば、特に、請求項1~3の記載を前提として、実施例2(【0016】~【0018】、表3、表4、図1)に着目すると、甲2には、以下の発明が記載されていると認められる。 「通常の熱延、冷延工程を経た、板厚1.4mmの冷延鋼板を材料として、組成がAl-10%Si-2%Fe、浴温が660℃のめっき浴を用いて、溶融Alめっきを行い、めっき付着量を片面80g/m2に調節し、その後冷却し、 このようにして製造した溶融Alめっき鋼板を、水素濃度0.02体積%、酸素濃度0.5体積%、露点1℃に雰囲気制御した電気炉内に挿入して、900℃までの昇温時間がほぼ4分、温度900℃、保定時間3分の条件で加熱し、 その後、電気炉からプレスまでの時間が約10秒で、プレス開始温度が約750℃で、クリアランスが板厚の1.1倍であるハット形状の金型で成形し、 700℃から350℃までの平均冷速40℃/秒で、金型で冷却を行う、 高強度自動車部材の熱間プレス方法であって、 ハットのフランジ部に5mmφ、クリアランス0.5mm(両側)の打抜きを10点行い、7日経過後に20倍のルーペで打抜き部を観察したとき、10点中の微小クラックの個数の合計が0個であり、組織がマルテンサイト組織を示す、 高強度自動車部材の熱間プレス方法。」(以下、「甲2発明」という。) (2)本件発明14について ア 対比 本件発明14と甲2発明とを対比する。 (ア)甲2発明は、「冷延鋼板」に対して、「組成がAl-10%Si-2%Fe」「のめっき浴を用いて、溶融Alめっきを行」うものであり、甲2の記載(【0009】)及び技術常識を考慮すると、冷延鋼板の両面にアルミニウム合金のめっき層が形成され、「溶融Alめっき鋼板」となるものと解される。 そうすると、甲2発明において、「冷延鋼板」に対して、「組成がAl-10%Si-2%Fe」「のめっき浴を用いて、溶融Alめっきを行」うことにより、冷延鋼板の両面にアルミニウム合金のめっき層が形成された「溶融Alめっき鋼板」は、本件発明14における「少なくとも片面にアルミニウムまたはアルミニウム合金プレコーティングを備え」た「鋼ブランク」に相当する。 (イ)甲2発明において、「溶融Alめっき鋼板を」「電気炉内に挿入して、」「温度900℃、保定時間3分の条件で加熱」することは、甲2の記載(【0011】)を考慮すると、この加熱によって鋼板が完全にオーステナイト単相域に変態するものと解されるから、本件発明14において、「ブランクの鋼中に完全オーステナイト構造を得るために、鋼ブランクを炉内で850℃~970℃の範囲の加熱温度Theatに加熱し、鋼ブランクを加熱温度Theatで保持する」ことに相当する。 (ウ)甲2発明において、「加熱」された「溶融Alめっき鋼板」を、「電気炉からプレスまでの時間が約10秒で、プレス開始温度が約750℃で、」「ハット形状の金型で成形」することは、本件発明14において、「加熱されたブランクを金型へ移送し、次いで金型を閉じる」ことに相当するとともに、「ブランクの平坦部分が変形を受けず、ホットスタンプによってブランクの少なくとも一部分が変形し、それにより、非変形部分と少なくとも1つの変形部分とを備えるホットスタンプされたブランクを得るように、ブランクを金型内でホットスタンプする」ことに相当する。 (エ)甲2発明において、「加熱」された「溶融Alめっき鋼板」を「ハット形状の金型で成形し、700℃から350℃までの平均冷速40℃/秒で、金型で冷却を行う」ことは、本件発明14において、「ホットスタンプされたブランクを400℃未満の温度に冷却し、ホットスタンプされた被覆鋼部品を得る」ことに相当する。 (オ)甲2発明において、加熱された溶融Alめっき鋼板を「プレス開始温度が約750℃で、」「ハット形状の金型で成形」することは、本件発明14において、「金型が閉じているときのブランクの温度Tcloseは、720℃~820℃の範囲にあ」ることに相当する。 (カ)上記(ア)~(オ)を踏まえると、甲2発明の「高強度自動車部材の熱間プレス方法」は、溶融Alめっき鋼板を用いて、熱間プレスされた高強度自動車部材を製造する方法と解されるから、本件発明14の「ホットスタンプされた被覆鋼部品を製造するための方法」に相当する。 (キ)以上によれば、本件発明14と甲2発明とは、 「ホットスタンプされた被覆鋼部品を製造するための方法であって、以下の連続する工程、 -鋼ブランクを提供する工程であって、鋼ブランクは、少なくとも片面にアルミニウムまたはアルミニウム合金プレコーティングを備える、鋼ブランクを提供する工程と、 -ブランクの鋼中に完全オーステナイト構造を得るために、鋼ブランクを炉内で850℃~970℃の範囲の加熱温度Theatに加熱し、鋼ブランクを加熱温度Theatで保持する工程と、 -加熱されたブランクを金型へ移送し、次いで金型を閉じる工程と、 -ブランクの平坦部分が変形を受けず、ホットスタンプによってブランクの少なくとも一部分が変形し、それにより、非変形部分と少なくとも1つの変形部分とを備えるホットスタンプされたブランクを得るように、ブランクを金型内でホットスタンプする工程と、 -ホットスタンプされたブランクを400℃未満の温度に冷却し、ホットスタンプされた被覆鋼部品を得る工程と、 を含む、 方法。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 ・相違点2-1 本件発明14では、「少なくとも片面にアルミニウムまたはアルミニウム合金プレコーティングを備え」た「鋼ブランク」全体の「平均厚さeB」が「0.6mm~3.5mm」であり、そのうち、上記「アルミニウムまたはアルミニウム合金プレコーティング」の「平均厚さ」が「19.91μm~40μm」であるのに対して、甲2発明では、「冷延鋼板」自体の「板厚」は「1.4mm」であるものの、「冷延鋼板」の両面に形成されたアルミニウム合金のめっき層の厚さが不明であり、「冷延鋼板」の両面にアルミニウム合金のめっき層が形成された「溶融Alめっき鋼板」全体の平均厚さが不明である点。 ・相違点2-2 本件発明14では、「変形を受け」ない「ブランクの平坦部分」の「厚さeBflat」が「0.6mm~3.5mm」であるのに対して、甲2発明では、「冷延鋼板」自体の「板厚」は「1.4mm」であるものの、「冷延鋼板」の両面に形成されたアルミニウム合金のめっき層の厚さが不明であるため、「ハット形状」に「成形」された「溶融Alめっき鋼板」のうち、平坦部分の厚さが不明である点。 ・相違点2-3 本件発明14では、「加熱、保持、移送およびホットスタンプの際に、プレコーティングの溶融温度Tmeltを超えてブランクによって費やされる時間tMは、」「【数4】(略)」で表される「最小時間tMminと」「【数5】(略)」で表される「最大時間tMmaxとの間の範囲にあり、」「式中、tMminおよびtMmaxは秒で表され、Theatは℃でのブランクの加熱温度を示し、Tmeltは℃でのプレコーティングの溶融温度を示し、eBflatは変形を受けていないブランクの部分の厚さをmmで示す」のに対して、甲2発明では、「加熱、」保定「、移送および」熱間プレス「の際に、」冷延鋼板の両面に形成されたアルミニウム合金のめっき層「の溶融温度Tmeltを超えて」溶融Alめっき鋼板「によって費やされる時間tM」が上記条件を満たすかどうか不明である点。 イ 相違点2-3の検討 事案に鑑み、相違点2-3について検討する。 (ア)まず、相違点2-3が実質的な相違点であるか否かについて検討する。 a 甲2発明において、上記「時間tM」が本件発明14の条件を満たすかどうかを知るためには、少なくとも、甲2発明における冷延鋼板の両面に形成されたアルミニウム合金のめっき層(組成がAl-10%Si-2%Fe)の溶融温度Tmeltを知る必要がある。 しかしながら、甲2には、組成がAl-10%Si-2%Feであるアルミニウム合金の溶融温度については、何ら記載されていない。また、組成がAl-10%Si-2%Feであるアルミニウム合金の溶融温度は、本件証拠上、不明である。 そうすると、甲2発明において、上記「時間tM」が本件発明14の条件を満たすかどうかは、不明である。 b この点、申立人は、本件明細書に「ブランクを、8%~11%のSi、2%~4%のFeを含み、残部がAlおよび製錬に起因する不純物である組成を有するAl-Siプレコーティングで両面がプレコーティングされた。プレコーティングは全て、577℃の溶融温度Tmeltを有していた。」(【0278】)との記載があり、また、合金の融点は成分組成により変動するとしても大きく変動することはないことから、甲2発明における冷延鋼板の両面に形成されたアルミニウム合金のめっき層の溶融温度も577℃として考えることができるとの認識を前提として、甲2発明において、上記「時間tM」が本件発明14の条件を満たすと主張する。 しかしながら、甲2発明における冷延鋼板の両面に形成されたアルミニウム合金のめっき層の溶融温度が実際に577℃であるかどうかは、本件証拠上、不明というほかない。 また、申立人による上記「時間tM」の算出についても、室温(25℃)から900℃までの加熱や700℃から350℃までの冷却が、いずれも、等速度で行われることを前提として、加熱や冷却の際の「時間tM」を算出しているが、上記加熱や冷却が実際に等速度で行われているかどうかは不明であるから、妥当なものとはいえない。 よって、いずれにしろ、申立人の主張は採用できない。 c 以上によれば、相違点2-3は実質的な相違点である。 したがって、相違点2-1、2-2について検討するまでもなく、本件発明14は、甲2に記載された発明であるとはいえない。 (イ)次に、相違点2-3の容易想到性について検討する。 甲2には、上記「時間tM」が本件発明14の条件を満たすようにすることについては、何ら記載されていないから、甲2発明において、上記「時間tM」を本件発明14の条件を満たすようにする動機付けがあるとはいえない。また、甲1にも、甲2発明において、そのようにすることを動機付ける記載は見当たらない。 以上によれば、甲2発明において、上記「時間tM」を本件発明14の条件を満たすようにすることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。 したがって、相違点2-1、2-2について検討するまでもなく、本件発明14は、甲2に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明14は、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)本件発明15~24について 本件発明15~24は、本件発明14を引用するものであり、本件発明14の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明14が、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明15~24についても同様に、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)本件発明25について 上記1(4)ア(イ)で述べたとおり、甲2を主引例とする申立理由1-2(新規性)及び申立理由2-2(進歩性)は、本件発明25のうち、本件発明14を引用する場合について主張するものと認められる。 そうすると、上記1(4)ア(ウ)で述べたとおり、申立人の上記主張を前提とすれば、甲2を主引例とする申立理由1-2(新規性)及び申立理由2-2(進歩性)については、本件発明25と(上記(2)で本件発明14と対比、検討した)甲2発明とを対比、検討すれば足りると解される。 そこで、本件発明25と甲2発明とを対比すると、上記(2)アと同様に、両者は、少なくとも、相違点2-3と同様の相違点で相違するところ、当該相違点については、上記(2)イで述べたのと同様の理由により、実質的な相違点であり、また、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。 したがって、申立人の上記主張を前提とすれば、本件発明25は、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)まとめ 以上のとおり、本件発明14~20、22、24は、甲2に記載された発明であるとはいえない。 また、本件発明14~24は、甲2に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 したがって、申立理由1-2(新規性)、申立理由2-2(進歩性)によっては、本件特許の請求項14~24に係る特許を取り消すことはできない。 また、本件発明25については、上記(4)のとおりであり、申立人の主張を前提とすれば、申立人が主張する理由によっては、本件特許の請求項25に係る特許を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~25に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1~25に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-700864

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