特許異議申立
2025-700522
蛍光体プレート、及び発光装置
- 審判番号
- 2025-700522
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-508808
- 登録番号
- 7587680
- 請求日
- 2025年05月13日
- 審決日
- 2025年12月22日
- 公報発行日
- 2026年01月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】デンカ株式会社
- 【権利者代理人】速水 進治
- 【異議申立人】大行 尚哉
- 審判長/審判官
- 審判長 古屋野 浩志
- 審判官 外川 敬之
- 審判官 関根 洋之
- 分類
- P1651.113-Y (G02B) / P1651.121-Y (G02B) / P1651.537-Y (G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条、特許法第29条、特許法第36条、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7587680号発明「蛍光体プレート、及び発光装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7587680号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第7587680号の請求項1~7に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2023-508808号)は、2022年(令和4年)2月21日(優先権主張 令和3年3月22日)を国際出願日とする出願であって、令和6年11月12日にその特許権の設定登録がされ、同月20日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和7年5月13日(差出)に特許異議申立人 大行 尚哉(以下「特許異議申立人」という。)から請求項1~7に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和7年 8月 8日付け:取消理由通知書
同年10月10日 :意見書(特許権者)の提出
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~7に係る発明(以下、項番に従って「本件特許発明1」などという。また、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「【請求項1】
母材と、前記母材中に分散した蛍光体とを含む板状の複合体を備える蛍光体プレートであって、
当該蛍光体プレートの表面における最大高さをRy1とし、裏面における最大高さをRy2としたとき、Ry1及びRy2のいずれも、5.00μm以下である、蛍光体プレートであり、
前記母材は無機物で構成され、
前記蛍光体プレートは下記条件A1および/または条件A2を満たす、蛍光体プレート。
条件A1:前記Ry1及びRy2の差分の絶対値が1.10μm以下である
条件A2:前記Ry1及びRy2の少なくとも一方が0.90μm以下である
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光体プレートであって、
Ry1及びRy2の少なくとも一方が、3.00μm以下である、蛍光体プレート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の蛍光体プレートであって、
前記母材が、アルミナ又はスピネル系化合物を含む、蛍光体プレート。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の蛍光体プレートであって、
前記蛍光体が、サイアロン蛍光体、CASN蛍光体、SCASN蛍光体からなる群から選ばれる一又は二以上を含む、蛍光体プレート。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の蛍光体プレートであって、
前記蛍光体の含有量は、前記複合体100vol%中、5vol%以上60vol%以下である、蛍光体プレート。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の蛍光体プレートであって、
プレート厚みが、0.050mm以上1mm以下である、蛍光体プレート。
【請求項7】
発光素子と、
前記発光素子の一面上に設けられた請求項1~6のいずれか一項に記載の蛍光体プレートと、を備える、発光装置。」
第3 取消しの理由の概要
令和7年8月8日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消しの理由は、概略、次のとおりのものである。
理由1(新規性欠如):本件特許の請求項1~3、5~7に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法29条1項3号に掲げる発明に該当するから、請求項1~3、5~7に係る特許は、同条の規定に違反してされたものである。
理由2(進歩性欠如):本件特許の請求項1~7に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1~7に係る特許は、同条の規定に違反してされたものである。
引用例
・甲第2号証:特開2011-122067号公報(以下「甲2」という。)
・甲第3号証:特開2015-149394号公報(以下「甲3」という。)
第4 当合議体の判断
1 甲2を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如について
(1)甲2に記載された発明
甲2には、実施例1の波長変換部材(【実施例】【0064】~【0073】参照)に係る以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲2発明)
「ガラス(60SiO2-10B2O3-30BaO)粉末と無機蛍光体(YAG)粉末を配合比(ガラス:蛍光体(質量比)90:10となるように混合し、金型を用い加圧成形して直径1cmのボタン状の予備成形体を作製し、この予備成形体を焼成温度750℃で焼成し、焼結体を得て、この焼結体に対して荒削り研磨処理を施して直径8mm、厚さ0.3mmに加工し、続いて、ダイヤモンド砥粒と繊維を織り込んだクロス材を面にもつ定盤を用いて両面研磨を行って得られた波長変換部材であって、表面粗さRaが0.02μmである、波長変換部材。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明を対比すると、両者は、以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。
(一致点)
「母材と、前記母材中に分散した蛍光体とを含む板状の複合体を備える蛍光体プレートであって、
前記母材は無機物で構成される、蛍光体プレート。」
(相違点1)
本件特許発明1は、「当該蛍光体プレートの表面における最大高さをRy1とし、裏面における最大高さをRy2としたとき、Ry1及びRy2のいずれも、5.00μm以下」であり、「前記蛍光体プレートは下記条件A1および/または条件A2を満たす」「条件A1:前記Ry1及びRy2の差分の絶対値が1.10μm以下である」「条件A2:前記Ry1及びRy2の少なくとも一方が0.90μm以下である」のに対し、甲2発明は、そのような構成を具備するのかが不明である点。
イ 判断
(ア)新規性欠如について
表面粗さRaは面全体の平均的な粗さを表すものであるのに対し、最大高さRyは面における局所的な凹凸を表すものであって、互いに換算できるものではないから、表面粗さRaの値が分かっているからといって、最大高さRyの値が推測できるわけではない。また、中に空隙等が存在する焼結体においては、表面粗さRaが小さくなるように表面を研磨したからといって、研磨される焼結体表面の空隙とRyとの関係に鑑みると、その表面の最大高さRyの値が小さくなるとはいえない。
そうすると、甲2発明が相違点1に係る本件特許発明1の構成を具備する蓋然性が高いとはいえないから、相違点1は実質的な相違点である。
(イ)進歩性欠如について
相違点1に係る本件特許発明1の構成は、特許異議申立人が提出した甲1(特開2005-268323号公報。以下「甲1」という。)、甲2及び甲3に記載されていない。また、甲2には表面粗さの指標として最大高さRyを採用することについての記載がないから、甲2発明において、相違点1に係る本件特許発明1の構成を採用する動機付けはないというべきである。
そうすると、甲2発明において、相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
ウ 小括
上記イのとおりであるから、本件特許発明1は、甲2に記載された発明ではない。また、本件特許発明1は、甲1~甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 甲2の実施例3、5、7、9、11、13及び15(【実施例】【0064】~【0073】)の「波長変換部材」の発明を引用発明としても、上記ア~ウと同様である。
(3)本件特許発明2~7について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2~7は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2~7は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、上記(2)のとおり、本件特許発明1が、甲2に記載された発明でなく、また、甲1~甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件特許発明2~7も、甲2に記載された発明でなく、また、甲1~甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 甲3を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如について
(1)甲3に記載された発明
甲3に記載された実施例1の波長変換体(【0009】~【0025】、【図1】)の発明を、甲3発明とする。
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲3発明を対比すると、両者は、以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。
(一致点)
「母材と、前記母材中に分散した蛍光体とを含む板状の複合体を備える蛍光体プレートであって、
前記母材は無機物で構成される、蛍光体プレート。」
(相違点2)
本件特許発明1は、「当該蛍光体プレートの表面における最大高さをRy1とし、裏面における最大高さをRy2としたとき、Ry1及びRy2のいずれも、5.00μm以下」であり、「前記蛍光体プレートは下記条件A1および/または条件A2を満たす」「条件A1:前記Ry1及びRy2の差分の絶対値が1.10μm以下である」「条件A2:前記Ry1及びRy2の少なくとも一方が0.90μm以下である」のに対し、甲3発明は、そのような構成を具備するのかが不明である点。
イ 判断
(ア)新規性欠如について
「Ra(平均二乗粗さ)」(「算術平均粗さRa」又は「二乗平均平方根粗さRq」)は面全体の平均的な粗さを表すものであるのに対し、最大高さRyは面における局所的な凹凸を表すものであって、互いに換算できるものではないから、「Ra(平均二乗粗さ)」の値が分かっているからといって、最大高さRyの値が推測できるわけではない。また、中に空隙が存在する焼結体においては、「Ra(平均二乗粗さ)」が小さくなるように表面を研磨したからといって、研磨される焼結体表面の空隙とRyとの関係に鑑みると、その表面の最大高さRyの値が小さくなるとはいえない。
そうすると、甲3発明が相違点2に係る本件特許発明1の構成を具備する蓋然性が高いとはいえないから、相違点2は実質的な相違点である。
(イ)進歩性欠如について
相違点2に係る本件特許発明1の構成は、特許異議申立人が提出した甲1~甲3に記載されていない。また、甲3には表面粗さの指標として最大高さRyを採用することについての記載がないから、甲3発明において、相違点2に係る本件特許発明1の構成を採用する動機付けはないというべきである。
そうすると、甲3発明において、相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
ウ 小括
上記イのとおりであるから、本件特許発明1は、甲3に記載された発明ではない。また、本件特許発明1は、甲1~甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件特許発明2~7について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2~7は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2~7は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、上記(2)のとおり、本件特許発明1が、甲3に記載された発明でなく、また、甲1~甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件特許発明2~7も、甲3に記載された発明でなく、また、甲1~甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 甲1を主引用例とする進歩性欠如について
甲1の【0079】に記載された「蛍光板7」の発明を、甲1発明とする。
本件特許発明1と甲1発明を対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。
(相違点3)
本件特許発明1は、「母材と、前記母材中に分散した蛍光体とを含む板状の複合体を備える蛍光体プレート」であるのに対し、甲1発明は、そのような構成を具備しない点。
相違点3について検討する。
甲1発明は、内部にCu及びIが拡散された塊状ZnSSe結晶を厚さ0.4mmまで研磨することにより光入射面及び光出射面が形成された蛍光板であるところ、そのような構成を有する甲1発明において、相違点3に係る本件特許発明1の、母材と母材中に分散した蛍光体からなるプレートとする動機付けはないというべきであるから、甲1発明に、甲2又は甲3に記載された発明を適用することは、当業者が容易になし得たことではない。
したがって、本件特許発明1は、甲1~甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項1に係る特許は、特許法113条2号に該当せず、取り消すべきものでない。
また、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する本件特許発明2~7も、甲1~甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項2~7に係る特許は、特許法113条2号に該当せず、取り消すべきものでない。
2 サポート要件違反について
(1)特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そして、特許請求の範囲に記載された本件特許発明1~7は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載(特に、【0064】~【0076】の実施例に係る記載)により当業者が当該発明の課題(発光特性に優れた蛍光体プレート、及びそれを用いた発光装置を提供すること。【0004】~【0008】参照。)を解決できる範囲のものであるというべきである。
そうすると、請求項1及び請求項1を引用する請求項2~7の記載はサポート要件を満たしている。
したがって、請求項1~7に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものではないから、特許法113条4号に該当せず、取り消すべきものでない。
(2)特許異議申立人は、特許異議申立書25頁において、「請求項1に含まれる実施例は、いずれも発光強度が請求項1に含まれない実施例8よりも小さいことがわかる。言い換えると、請求項1に係る発明は、発光特性のうち発光強度において比較例(実施例8)よりも小さくなっていることから、本件特許発明の課題を解決できていない形態を包含しており、サポート要件違反である。」と主張する。
しかしながら、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、上記(1)のように判断すべきである。請求項1に係る発明に、比較例となった「実施例8」よりも発光強度が小さい態様のものが含まれるからといって、請求項1の記載がサポート要件を満たさないということにはならない。
したがって、上記主張は採用できない。
3 明確性要件違反について
(1)特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
「蛍光体プレートの表面又は裏面における最大高さRy」というパラメータは、技術常識からみて0となることはない、あるいは0は測定限界以下を意味する。そうすると、特許請求の範囲の請求項1の「Ry1及びRy2のいずれも、5.00μm以下である」、「前記Ry1及びRy2の差分の絶対値が1.10μm以下である」及び「前記Ry1及びRy2の少なくとも一方が0.90μm以下である」という記載は、いずれも第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。同様の理由により、請求項2の「Ry1及びRy2の少なくとも一方が、3.00μm以下である」という記載も、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
そうすると、請求項1及び2に係る発明は明確であるから、請求項1及び2の記載は明確性要件を満たしている。また、請求項1を引用する請求項3~7の記載も明確性要件を満たしている。
したがって、請求項1~7に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものではないから、特許法113条4号に該当せず、取り消すべきものでない。
(2)特許異議申立人は、特許異議申立書25頁において、「本件の請求項1、2の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定された要件を満たしていない」と主張する。
しかしながら、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、上記(1)のように判断すべきであるところ、特許異議申立人は、特許請求の範囲の記載が第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であることについて何ら説明していない。
したがって、上記主張は採用できない。
第6 むすび
請求項1~7に係る特許は、いずれも、取消理由通知書によって通知した取消しの理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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