特許異議申立
2023-700433
リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾル
- 審判番号
- 2023-700433
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-018278
- 登録番号
- 7161276
- 請求日
- 2023年04月26日
- 審決日
- 2023年07月20日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】多木化学株式会社
- 【異議申立人】小松 一枝
- 【異議申立人】前田 知子
- 審判長/審判官
- 審判長 原 賢一
- 審判官 金 公彦
- 審判官 増山 淳子
- 分類
- P1652.113-Y (C01G) / P1652.121-Y (C01G) / P1652.536-Y (C01G) / P1652.537-Y (C01G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第2条第3項第1号、特許法第36条第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7161276号発明「リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7161276号の請求項1~2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7161276号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和4年2月8日(優先権主張 令和3年3月18日)の出願であって、同年10月18日にその特許権の設定登録がされ、同年同月26日に特許掲載公報が発行され、その後、令和5年4月26日に、請求項1~2に係る特許について、特許異議申立人 小松 一枝及び前田 知子(以下、「申立人」という。)により、甲第1~2号証を証拠方法として特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~6に係る発明は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定されるものであるが、このうち請求項1~2に係る発明は、以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」といい、これらを総称して「本件発明」ということがある。)。
「【請求項1】
分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有した、リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾル。
【請求項2】
Li/Nb(モル比)が0.25以上の範囲である、請求項1記載のリチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾル。」
第3 特許異議申立理由の概要
1 特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)について
(1)本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号所定の規定に違反してされたものである(特許異議申立書7ページ27行~8ページ10行)。
(2)本件発明1~2は、甲第2号証に記載された発明であるから、本件発明1~2に係る特許は、特許法第29条第1項第3号所定の規定に違反してされたものである(特許異議申立書8ページ11行~11ページ18行)。
2 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
(1)本件発明1~2は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~2に係る特許は、特許法第29条第2項所定の規定に違反してされたものである(特許異議申立書11ページ21行~28行、12ページ6行~17行)。
(2)本件発明1~2は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~2に係る特許は、特許法第29条第2項所定の規定に違反してされたものである(特許異議申立書11ページ29行~12ページ4行、12ページ18行~26行)。
3 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
本件発明は、Liの添加量を多くできるようにすることを課題とするものであるが、どの程度の透過率であれば分散性がよいと判断できるのか、どの程度の濁りであれば課題を達成できないといえるのかといった基準が明確でなく、当業者といえども発明の効果を把握することができないので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない(特許異議申立書12ページ下から5行~13ページ3行)。
4 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
本件発明は、従来例であるリチウムでの分散安定性の確保に加えて、リン酸を添加することにより、分散性を更に増したとするものである。
また、本件発明は、甲第1号証に記載された分散安定化剤としてリチウムを含有した、リチウム安定型ニオブ酸ゾルに対して、更に良好な分散安定性を得ることを課題とするものである。
ところが、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例において、リチウムを含有したリチウム安定型ニオブ酸ゾルにリン酸を添加したことによる効果が裏付けられておらず、リチウムを含有したリチウム安定型ニオブ酸ゾルにリン酸を添加したことにより保存安定性が向上することを当業者が理解できる記載もない。
また、ニオブ酸含有量に対してリチウムの含有量が極めて少ない場合や、ニオブ酸含有量に対してリン酸の含有量が極めて少ない場合にも、本件発明の課題を解決できるかは不明であるし、リチウム含有量に対するリン酸の含有量のモル比が一定範囲以外の場合にも、本件発明の課題を解決できるかは不明であるのに、本件発明1においては、リチウム、リン酸、ニオブ酸の含有量について一切特定されていないし、本件発明2においても、「Li/Nb(モル比)が0.25以上の範囲である」以外の、リチウム、リン酸、ニオブ酸の含有量について一切特定されていないから、本件発明1~2の発明特定事項は発明の詳細な説明の記載に比べて広すぎるので、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない。
更に、本件発明1は、従来技術に過ぎないリチウム含有量が少ないものも含むが、甲第1号証の記載によれば、そのようなものはリン酸の存在がなくても安定化が達成できているから、リチウム含有量が少ないものについてはリン酸を添加する必要がないし、本件特許明細書には、リン酸が有するほかの効果についての記載もないから、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない(特許異議申立書13ページ4行~14ページ4行)。
5 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
本件発明において、吸着若しくは結合している以上のリン酸若しくはリチウムが存在した場合、より高い安定性を有するか否かは不明であるし、効果が変わらないとしてもこれらが多く含まれたときの弊害を生じるか否かも不明であるから、リン酸及びリチウムの存在量の上限が特定されていない本件発明1~2は不明確である。
また、仮に、独立したリチウムが影響せずに分散性に寄与するのであれば、液中においてリチウムが少ないとされている甲第1号証において余剰のリチウム分を添加していても、分散性が確保されると共に多くのリチウムをゾル中に存在させられることになるとの合理的な疑いが生じ、本件特許明細書においては、リン酸を添加しなければリチウムを過剰に含ませることはできないとの開示もされておらず、リン酸の存在がない場合、どうなるのかの開示もない。
更に、本件特許明細書には、Li/Nbの値が0.25以上であってもヘイズ値が大きく透過率が低い例も示されているから、どの程度のヘイズ値や透過率であれば粒子の分散性がよいといえるのかが明確でなく、ゾルがどのような状態となったときにリチウムを多く含めることができていないと判断するのかも不明であるので、本件発明1~2は不明確である。
また、本件発明におけるゾルの定義が不明確であり、一般的には、0.1マイクロメートル程度の粒子(コロイド)となってほかの物質の中に分散している状態(日本大百科全書(ニッポニカ))をいうが、正極や負極の表面コート用材料として使用する場合に、どの程度の粒径であれば適当なのかが不明確であるし、本来、錯体溶液はコロイドではないのに、本件特許明細書の粒子の測定方法を用いて甲第2号証の錯体溶液を測定すれば、平均粒径が求められるはずであるから、本件発明と甲第2号証に記載された発明との差異が不明確であるので、本件発明1~2は不明確である。
したがって、本件特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たさない(特許異議申立書14ページ5行~16ページ5行)。
6 証拠方法
甲第1号証:特許第6774158号明細書
甲第2号証:特許第6504099号明細書
第4 特許異議申立理由についての当審の判断
1 特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)について
(1)甲各号証の記載事項等
ア 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
(ア)甲第1号証には、以下のa~cの記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
a「【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属を含有し、任意成分としてアンモニアを含有し、pHが7~10の範囲であるアルカリ金属安定型ニオブ酸ゾルであって、
当該ゾルが、下記(a)又は(b)で規定された組成比を有するものである、アルカリ金属安定型ニオブ酸ゾル。
(a)アルカリ金属/Nb2O5(モル比)が0.5~2の範囲であり、かつ、
アンモニア/Nb2O5(モル比)が0である。
(b)アルカリ金属/Nb2O5(モル比)が0.5以上であって、
アンモニア/Nb2O5(モル比)が0超0.5未満であり、かつ、
アルカリ金属/Nb2O5(モル比)+アンモニア/Nb2O5(モル比)が0.5超2以下の範囲である。
・・・
【請求項3】
アルカリ金属がリチウムである、請求項1又は2記載のアルカリ金属安定型ニオブ酸ゾル。」
b「【0012】
本発明のゾルは、(a)の場合には{ニオブ酸とアルカリ金属の複合体}が、(b)の場合には{ニオブ酸とアルカリ金属の複合体}に加えて{ニオブ酸とアンモニアの複合体}が、分散粒子として存在すると云えるものである。ところで、本発明のゾル中において、(a)と(b)に共通して、アルカリ金属はイオンとして存在しているのではなく、ニオブ酸の微粒子に結合又は吸着された状態で存在しており、この存在形態が本発明のゾルの高度な安定化に寄与しているものと推定される。・・・」
c「【0018】
(製造方法)
本発明のゾルの好適な製造方法として、次の第一~第三製法を例示することができる。
・・・
・第三製法は、無機酸を混合したニオブ酸アンモニウムゾルを洗浄してアンモニアを除去した後、アルカリ金属の存在下で加熱する工程、を含むものである。
・・・
【0035】
(第三製法)
第三製法は、以下の(i)~(iii)工程に分けて説明する。
(i)ニオブ酸アンモニウムゾルと無機酸とを混合する(微粒子含有液1)。
(ii)微粒子含有液1を洗浄してアンモニアを除去する(微粒子含有液2)。
(iii)微粒子含有液2をアルカリ金属の存在下で加熱する。
【0036】
(i)工程の無機酸の使用量は、(ii)工程において目的とするアンモニア除去量に応じて適宜設定すればよいが、目安を示すと、無機酸/Nb2O5(モル比)=0.5~2の範囲である。無機酸の種類としては、塩酸、硝酸、硫酸等が例示でき、これらのうち塩酸が特に好ましい。ニオブ酸アンモニウムゾルと無機酸との混合方法には特に制限はなく、ニオブ酸アンモニウムゾルに無機酸を添加しても、その逆であっても構わない。微粒子含有液1の性状は、無機酸の添加量が多くなるに従い、ゲル状を呈する傾向にある。
【0037】
(ii)工程の洗浄は、アンモニアが除去できれば洗浄方法に特に制限はなく、水を添加しながらの限外ろ過、ヌッチェろ過、フィルタープレス等が例示でき、これらのうち特に限外ろ過が好ましい。洗浄方法や洗浄条件を最適化すれば、本発明のゾル中のアンモニア含有量を検出限界以下とすることも不可能ではないが、少なくともアンモニア/Nb2O5(モル比)が0.5未満となるまで洗浄する。
【0038】
(iii)工程において、微粒子含有液2にアルカリ金属を存在させる操作は、微粒子含有液2にアルカリ金属を含有させる操作を行えばよい。例えば、微粒子含有液2とアルカリ金属化合物とを混合してもよいし、微粒子含有液2とアルカリ金属含有アルカリ水溶液とを混合してもよい。なお、アルカリ金属化合物とアルカリ金属含有アルカリ水溶液の具体例は上述のとおりである。アルカリ金属の使用量は、除去したアンモニアの代わりにゾルとしての安定性を得るためのものであり、本発明のゾルにおいて、下限はアルカリ金属/Nb2O5(モル比)が0.5以上、上限はアルカリ金属/Nb2O5(モル比)+アンモニア/Nb2O5(モル比)が2以下となるように設計する。
【0039】
加熱は、微粒子含有液2中のアルカリ金属とニオブ酸とを反応させることによって、ゾルとしての安定性が得られる加熱条件であれば特に制限されることはない。好例としては、加熱温度が50~150℃の範囲であり、加熱時間は加熱温度に応じて適宜設定すればよいが、目安としては、1~8時間である。加熱温度の下限は、80℃であることがより好ましく、さらに好ましくは90℃である。
【0040】
第二製法及び第三製法によって得られる本発明のゾルのpH範囲は、好適には8~10の範囲である。」
(イ)前記(ア)aの記載によれば、甲第1号証には、アルカリ金属を含有し、任意成分としてアンモニアを含有し、pHが7~10の範囲であるアルカリ金属安定型ニオブ酸ゾルであって、当該ゾルが、下記(a)又は(b)で規定された組成比を有するものであり、
(a)アルカリ金属/Nb2O5(モル比)が0.5~2の範囲であり、かつ、
アンモニア/Nb2O5(モル比)が0である。
(b)アルカリ金属/Nb2O5(モル比)が0.5以上であって、
アンモニア/Nb2O5(モル比)が0超0.5未満であり、かつ、
アルカリ金属/Nb2O5(モル比)+アンモニア/Nb2O5(モル比)が0.5超2以下の範囲である。
アルカリ金属がリチウムである、「アルカリ金属安定型ニオブ酸ゾル」が記載されている。
そして、前記(ア)bの記載によれば、前記「アルカリ金属安定型ニオブ酸ゾル」は、ゾル中において、アルカリ金属はイオンとして存在しているのではなく、ニオブ酸の微粒子に結合又は吸着された状態で存在しており、この存在形態が前記ゾルの高度な安定化に寄与しているものと推定されるものであり、前記(ア)cの記載によれば、前記「アルカリ金属安定型ニオブ酸ゾル」は、無機酸を混合したニオブ酸アンモニウムゾルを洗浄してアンモニアを除去した後、アルカリ金属の存在下で加熱する工程を含む製法、すなわち、以下の(i)~(iii)の工程を含む製法により製造されるものである。
(i)ニオブ酸アンモニウムゾルと無機酸とを混合する(微粒子含有液1)。
(ii)微粒子含有液1を洗浄してアンモニアを除去する(微粒子含有液2)。
(iii)微粒子含有液2をアルカリ金属の存在下で加熱する。
ここで、前記(i)工程の無機酸の使用量は、前記(ii)工程において目的とするアンモニア除去量に応じて適宜設定すればよいが、目安を示すと、無機酸/Nb2O5(モル比)=0.5~2の範囲であり、無機酸の種類としては、塩酸、硝酸、硫酸等が例示でき、これらのうち塩酸が特に好ましいものであり、前記(ii)工程の洗浄は、アンモニアが除去できれば洗浄方法に特に制限はなく、水を添加しながらの限外ろ過、ヌッチェろ過、フィルタープレス等が例示でき、これらのうち特に限外ろ過が好ましいものであり、少なくともアンモニア/Nb2O5(モル比)が0.5未満となるまで洗浄するものである。
更に、前記(iii)工程において、微粒子含有液2にアルカリ金属を存在させる操作は、微粒子含有液2にアルカリ金属を含有させる操作を行えばよいものであり、アルカリ金属の使用量は、除去したアンモニアの代わりにゾルとしての安定性を得るためのものであり、前記ゾルにおいて、下限はアルカリ金属/Nb2O5(モル比)が0.5以上、上限はアルカリ金属/Nb2O5(モル比)+アンモニア/Nb2O5(モル比)が2以下となるように設計するものであり、加熱は、微粒子含有液2中のアルカリ金属とニオブ酸とを反応させることによって、ゾルとしての安定性が得られる加熱条件であれば特に制限されることはなく、加熱温度が50~150℃の範囲であり、加熱時間は、目安としては、1~8時間であり、前記製法によって得られる前記ゾルのpH範囲は、好適には8~10の範囲であるものである。
(ウ)前記(イ)によれば、甲第1号証には、
「アルカリ金属を含有し、任意成分としてアンモニアを含有し、pHが7~10の範囲であるアルカリ金属安定型ニオブ酸ゾルであって、当該ゾルが、下記(a)又は(b)で規定された組成比を有するものであり、
(a)アルカリ金属/Nb2O5(モル比)が0.5~2の範囲であり、かつ、
アンモニア/Nb2O5(モル比)が0である。
(b)アルカリ金属/Nb2O5(モル比)が0.5以上であって、
アンモニア/Nb2O5(モル比)が0超0.5未満であり、かつ、
アルカリ金属/Nb2O5(モル比)+アンモニア/Nb2O5(モル比)が0.5超2以下の範囲である。
アルカリ金属がリチウムであり、
前記ゾル中において、アルカリ金属はイオンとして存在しているのではなく、ニオブ酸の微粒子に結合又は吸着された状態で存在しており、この存在形態が前記ゾルの高度な安定化に寄与しているものと推定されるものであり、
前記アルカリ金属安定型ニオブ酸ゾルは、無機酸を混合したニオブ酸アンモニウムゾルを洗浄してアンモニアを除去した後、アルカリ金属の存在下で加熱する工程を含む製法、すなわち、以下の(i)~(iii)工程を含む製法により製造されるものであり、
(i)ニオブ酸アンモニウムゾルと無機酸とを混合する(微粒子含有液1)。
(ii)微粒子含有液1を洗浄してアンモニアを除去する(微粒子含有液2)。
(iii)微粒子含有液2をアルカリ金属の存在下で加熱する。
前記(i)工程の無機酸の使用量は、前記(ii)工程において目的とするアンモニア除去量に応じて適宜設定すればよいが、目安を示すと、無機酸/Nb2O5(モル比)=0.5~2の範囲であり、無機酸の種類としては、塩酸、硝酸、硫酸等が例示でき、これらのうち塩酸が特に好ましいものであり、
前記(ii)工程の洗浄は、アンモニアが除去できれば洗浄方法に特に制限はなく、水を添加しながらの限外ろ過、ヌッチェろ過、フィルタープレス等が例示でき、これらのうち特に限外ろ過が好ましいものであり、少なくともアンモニア/Nb2O5(モル比)が0.5未満となるまで洗浄するものであり、
前記(iii)工程において、微粒子含有液2にアルカリ金属を存在させる操作は、微粒子含有液2にアルカリ金属を含有させる操作を行えばよいものであり、アルカリ金属の使用量は、除去したアンモニアの代わりにゾルとしての安定性を得るためのものであり、前記ゾルにおいて、下限はアルカリ金属/Nb2O5(モル比)が0.5以上、上限はアルカリ金属/Nb2O5(モル比)+アンモニア/Nb2O5(モル比)が2以下となるように設計するものであり、
加熱は、微粒子含有液2中のアルカリ金属とニオブ酸とを反応させることによって、ゾルとしての安定性が得られる加熱条件であれば特に制限されることはなく、加熱温度が50~150℃の範囲であり、加熱時間は、目安としては、1~8時間であり、前記製法によって得られる前記ゾルのpH範囲は、好適には8~10の範囲である、アルカリ金属安定型ニオブ酸ゾル。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
イ 甲第2号証の記載事項及び甲第2号証に記載された発明
(ア)甲第2号証には、以下のa~cの記載がある。
a「【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムと、ニオブ酸のペルオキソ錯体と、リン酸系イオンと、を含む、活物質被覆用溶液であって、
前記リン酸系イオンは、(PO4)3-、(H2PO4)-、(HPO4)2-、(P2O7)4-であり、
前記活物質被覆用溶液に含まれるリン酸系イオン濃度は、ニオブに対するモル比で0.02以上3.01以下であることを特徴とする活物質被覆用溶液。」
b「【0001】
本発明は、活物質被覆用溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池の分野において、従来から、固体電解質と電極活物質の界面に着目し、電極活物質の表面に固体電解質を被覆することにより、界面抵抗を低減し、電池の性能の向上を図る試みがある。
例えば、特許文献1には、正極活物質であるコバルト酸リチウムの表面をニオブ酸リチウムによって被覆することにより界面抵抗を低減し、電池の性能の向上を図るための、リチウムと、ニオブ酸のペルオキソ錯体と、クエン酸を含有する活物質被覆用溶液が開示されている。
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示されているような活物質被覆用溶液では、ニオブ酸のペルオキソ錯体は不安定で沈殿しやすいため、ニオブ酸のペルオキソ錯体の安定性を確保し、生産効率を向上させるために、安定化剤として多量のクエン酸を添加する必要がある。そのため、活物質の熱処理後に、炭化したクエン酸によるLiイオン移動阻害が生じ、ニオブ酸リチウム被覆処理後の活物質のLiイオン伝導率が不十分であるという問題がある。
本発明は上記実情を鑑みて成し遂げられたものであり、本発明の目的は、クエン酸を少量添加するよりも保存安定性に優れる活物質被覆用溶液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の活物質被覆用溶液は、リチウムと、ニオブ酸のペルオキソ錯体と、リン酸系イオンと、を含む、活物質被覆用溶液であって、
前記リン酸系イオンは、(PO4)3-、(H2PO4)-、(HPO4)2-、(P2O7)4-であり、
前記活物質被覆用溶液に含まれるリン酸系イオン濃度は、ニオブに対するモル比で0.02以上3.01以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、クエン酸を少量添加するよりも保存安定性に優れる活物質被覆用溶液を提供することができる。
・・・
【0008】
本発明者は、活物質被覆用溶液に、安定化剤として、リン酸系イオンを添加することによって、クエン酸を少量添加するよりも保存安定性に優れることを見出した。
なお、本発明において「クエン酸を少量添加する」とは、活物質被覆用溶液に含まれるクエン酸濃度がニオブに対するモル比で0.79以下となるように、後述する錯体溶液にクエン酸を添加することをいう(比較例2~4参照)。
【0009】
ニオブ酸のペルオキソ錯体([Nb(O2)4]3-)は、特許文献1に記載されているような従来公知の方法で得ることができ、例えば、過酸化水素水へ、ニオブ酸(Nb2O5・nH2O)を添加して混合し、得られた懸濁液へ、アンモニア水等のアルカリを添加し、混合することにより透明なニオブ酸のペルオキソ錯体を得ることができる。
・・・
【0010】
そして、得られたニオブ酸のペルオキソ錯体を含有する水溶液に、リチウム化合物を添加することにより、リチウムとニオブ酸のペルオキソ錯体とを含有する溶液を得ることができる。添加するリチウム化合物のリチウムのモル数は、前記水溶液中に含まれるニオブ酸のペルオキソ錯体のニオブのモル数に対して、任意に設定することが出来る。・・・」
c「【0012】
(実施例1)
[ペルオキソ錯体溶液の調製]
濃度30質量%の過酸化水素水43.5gへ、イオン交換水49.5g、ニオブ酸(Nb2O5・nH2O(Nb2O5含有率77%))2.08gを添加した。
次に、濃度28質量%のアンモニア水4.4gを添加し、十分に攪拌して透明溶液を得た。
得られた透明溶液に水酸化リチウム・1水和物(LiOH・H2O)0.5gを加えて、リチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液を得た。
得られた錯体溶液のLi、Nbのモル濃度は各0.12mol/kgであった。
【0013】
[安定化剤の添加]
上記錯体溶液に安定化剤としてリン酸を添加し混合し、活物質被覆用溶液を得た。
リン酸の添加量はニオブに対するモル比で0.02とした。
【0014】
[吸光度、pHの測定]
得られた活物質被覆用溶液を室温にて静置した。
そして、吸光度、及び、pHの変化を記録した。結果を表1に示す。
吸光度、及び、pHは以下の装置を用いて測定した。
吸光度:分光光度計(UV-3600、島津製作所社製)。420~780nmにおける最大吸光度を吸光度とした。
pH:pHメーター(D-72、堀場製作所社製)。
【0015】
[Liイオン伝導率測定]
上記活物質被覆用溶液をホットプレート上で乾燥後(120℃)、熱処理(大気雰囲気、200℃、5h)を加えることでLiNbO3粉体を得た。
内径断面積1cm2の筒状セラミックスに、得られたLiNbO3粉体100mgを入れ、平滑にし、4.3tonで1分プレスし、ペレット化した後、ステンレス棒を両極に入れ、1tonで拘束して、Liイオン伝導率測定セルとした。
ナイキストプロットにより得られた円弧をイオン移動抵抗とし、ペレット厚みよりLiNbO3のLiイオン伝導率を計算した。結果を表1に示す。
・・・
【0017】
【表1】
[図:0001400518000001.jpg]
」
(イ)前記(ア)aの記載によれば、甲第2号証には、リチウムと、ニオブ酸のペルオキソ錯体と、リン酸系イオンと、を含む「活物質被覆用溶液」であって、前記リン酸系イオンは、(PO4)3-、(H2PO4)-、(HPO4)2-、(P2O7)4-であり、前記活物質被覆用溶液に含まれるリン酸系イオン濃度は、ニオブに対するモル比で0.02以上3.01以下である、「活物質被覆用溶液」が記載されている。
そして、前記(ア)cの実施例1に注目すると、前記「活物質被覆用溶液」は、濃度30質量%の過酸化水素水43.5gへ、イオン交換水49.5g、ニオブ酸(Nb2O5・nH2O(Nb2O5含有率77%))2.08gを添加し、次に、濃度28質量%のアンモニア水4.4gを添加し、十分に攪拌して透明溶液を得た後、得られた透明溶液に水酸化リチウム・1水和物(LiOH・H2O)0.5gを加えて、リチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液を得たものであり、得られた錯体溶液のLi、Nbのモル濃度は各0.12mol/kgであったものであり、更に、前記錯体溶液に安定化剤としてリン酸を添加し混合して、「活物質被覆用溶液」を得たものであり、リン酸の添加量はニオブに対するモル比で0.02としたものである。
更に、得られた前記「活物質被覆用溶液」を室温にて静置し、吸光度及びpHの変化を記録すると、吸光度が、1時間:0.032、23時間:0.067、47時間:沈殿であり、pHが、1時間:9.65、23時間:10.46であったものである。
(ウ)前記(イ)によれば、甲第2号証には、
「リチウムと、ニオブ酸のペルオキソ錯体と、リン酸系イオンと、を含む、活物質被覆用溶液であって、前記リン酸系イオンは、(PO4)3-、(H2PO4)-、(HPO4)2-、(P2O7)4-であり、前記活物質被覆用溶液に含まれるリン酸系イオン濃度は、ニオブに対するモル比で0.02以上3.01以下である、活物質被覆用溶液であり、
前記活物質被覆用溶液は、濃度30質量%の過酸化水素水43.5gへ、イオン交換水49.5g、ニオブ酸(Nb2O5・nH2O(Nb2O5含有率77%))2.08gを添加し、次に、濃度28質量%のアンモニア水4.4gを添加し、十分に攪拌して透明溶液を得た後、得られた透明溶液に水酸化リチウム・1水和物(LiOH・H2O)0.5gを加えて、リチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液を得たものであり、
得られた錯体溶液のLi、Nbのモル濃度は各0.12mol/kgであったものであり、
更に、前記錯体溶液に安定化剤としてリン酸を添加し混合して、活物質被覆用溶液を得たものであり、リン酸の添加量はニオブに対するモル比で0.02としたものであり、
得られた前記活物質被覆用溶液を室温にて静置し、吸光度及びpHの変化を記録すると、吸光度が、1時間:0.032、23時間:0.067、47時間:沈殿であり、pHが、1時間:9.65、23時間:10.46であったものである、活物質被覆用溶液。」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
(2)甲第1号証を主引用例とした場合について
ア 対比・判断
(ア)対比
a 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における、アルカリ金属としての「リチウム」は、ニオブ酸ゾル中において、イオンとして存在しているのではなく、ニオブ酸の微粒子に結合又は吸着された状態で存在しており、この存在形態が前記ニオブ酸ゾルの高度な安定化に寄与していると推定されるものであるから、本件発明1における「分散安定化剤」としての「リチウム」に相当し、甲1発明における「アルカリ金属安定型ニオブ酸ゾル」は、本件発明1における「リチウム」「安定型ニオブ酸ゾル」に相当する。
b 前記aによれば、本件発明1と甲1発明とは、
「分散安定化剤としてリチウムを含有した、リチウム安定型ニオブ酸ゾル。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1:本件発明1は、「分散安定化剤として」「リン酸を含有」するのに対して、甲1発明は「リン酸を含有」したものではない点。
・相違点2:本件発明1は、「安定型ニオブ酸ゾル」が「リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾル」であるのに対して、甲1発明は「アルカリ金属安定型ニオブ酸ゾル」である点。
(イ)判断
始めに、前記(ア)bの相違点1に係る発明特定事項が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、甲第1号証には、「安定型ニオブ酸ゾル」が、「分散安定化剤として」「リン酸を含有」することは記載も示唆もされていないから、前記相違点1に係る発明特定事項は実質的な相違点であるので、前記(ア)bの相違点2について検討するまでもなく、本件発明1が甲1発明であるとはいえない。
更に、本件発明1の発明特定事項を全て有する本件発明2について検討しても事情は同じである。
イ 申立人の主張について
(ア)甲第1号証を主引用例とした場合の新規性欠如についての特許異議申立書における申立人の主張は、概略、以下のとおりである。
甲第1号証には、(i)工程の無機酸としてリン酸は例示されていないが、リン酸は周知の無機酸であり、アンモニアの除去は、酸-塩基反応を利用したものであることから、アンモニアの除去に、無機酸としてリン酸を使用することは、当業者にとって自明の事項であり、甲第1号証に記載されているも同然の事項であるので、本件発明1と甲1発明には差異がない(特許異議申立書8ページ3行~8行)。
(イ)そこで、前記(ア)の主張について検討すると、下記3(2)イ(段落【0011】)の本件特許明細書の記載からみれば、本件発明においては、ニオブ酸ゾル中において、少なくとも一部のリチウムはニオブ酸の分散粒子に直接的に結合又は吸着することによって分散粒子の分散安定化に寄与していると考えられる一方、これ以外のリチウムは、共存するリン酸と共に、間接的に分散粒子の分散安定化に寄与していると考えられるものであるから、本件発明1における「リン酸」は、ニオブ酸の分散粒子の「分散安定化剤」として「含有」されるものであって、このことは、本件発明1において特定されていることである。
これに対して、甲1発明における無機酸は、ニオブ酸アンモニウムゾルに含まれるアンモニアを洗浄、除去するためのものであって、ニオブ酸の分散粒子を分散安定化するためのものではないし、甲第1号証に、無機酸をニオブ酸の分散粒子の「分散安定化剤」として含有することが記載も示唆もされるものではないから、リン酸が周知の無機酸であり、アンモニアの除去が酸-塩基反応を利用したものであるとしても、甲1発明において、ニオブ酸の分散粒子の「分散安定化剤として」「リン酸を含有」することが自明の事項であり、甲第1号証に記載されているも同然の事項であるとはいえない。
してみれば、本件発明1と甲1発明とは、少なくとも前記相違点1の点で実質的に相違するから、本件発明1と甲1発明に差異がないとはいえないので、前記(ア)の主張は採用できない。
ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないから、前記第3の1(1)の特許異議申立理由は理由がない。
(3)甲第2号証を主引用例とした場合について
ア 対比・判断
(ア)対比
a 本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「リン酸系イオン」は、本件発明1における「リン酸」に相当し、甲2発明における「活物質被覆用溶液」は、「リチウム」を含有する液体である点で、本件発明1における「リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾル」と共通する。
b 前記aによれば、本件発明1と甲1発明とは、
「リチウム及びリン酸を含有した、液体。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点3:本件発明1は、「分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有」するのに対して、甲2発明は「分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有」したものであるか否かが明らかでない点。
・相違点4:本件発明1は、「リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾル」に係る発明であるのに対して、甲2発明は「活物質被覆用溶液」に係る発明である点。
(イ)判断
a 始めに、前記(ア)bの相違点3に係る発明特定事項が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、前記(2)イ(イ)に記載したのと同様の理由により、本件発明1における「リチウム及びリン酸」は、ニオブ酸の分散粒子の「分散安定化剤」として「含有」されるものである。
b これに対して、前記(1)イ(ア)bの甲第2号証の記載によれば、甲2発明は、従来の活物質被覆用溶液では、ニオブ酸のペルオキソ錯体([Nb(O2)4]3-)が不安定で沈殿しやすいため、ニオブ酸のペルオキソ錯体の安定性を確保し、生産効率を向上させるために、安定化剤として多量のクエン酸を添加する必要があり、そのため、活物質の熱処理後に、炭化したクエン酸によるLiイオン移動阻害が生じ、ニオブ酸リチウム被覆処理後の活物質のLiイオン伝導率が不十分であるという問題がある、という課題に鑑みて発明されたものであり、その目的は、クエン酸を少量添加するよりも保存安定性に優れる活物質被覆用溶液を提供することである。
そして、甲2発明によれば、クエン酸を少量添加するよりもニオブ酸のペルオキソ錯体の保存安定性に優れる「活物質被覆用溶液」を提供することができるものであり、安定化剤として、リン酸系イオンを添加することによって、クエン酸を少量添加するよりも保存安定性に優れることを見出したものである。
c 前記bによれば、甲2発明におけるリン酸系イオンは、不安定で沈殿しやすいニオブ酸のペルオキソ錯体([Nb(O2)4]3-)を安定化するために、「活物質被覆用溶液」に含有されるものである。
そして、前記ニオブ酸のペルオキソ錯体([Nb(O2)4]3-)は「活物質被覆用溶液」に溶解しているものであって、ニオブ酸(Nb2O5・nH2O)の粒子とはいえないから、前記ニオブ酸のペルオキソ錯体の安定性を確保するためのものである前記リン酸系イオンは、ニオブ酸の分散粒子の「分散安定剤」といえるものではなく、甲2発明は、ニオブ酸の分散粒子の「分散安定化剤として」「リン酸を含有した」ものとはいえない。
更に、甲第2号証には、ニオブ酸の分散粒子の「分散安定剤としてリチウム」を「含有」することが記載も示唆もされるものではない。
してみれば、甲2発明は、ニオブ酸の分散粒子の「分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有」するものとはいえないのであり、このことと前記aによれば、前記相違点3は実質的な相違点であるので、前記(ア)bの相違点4について検討するまでもなく、本件発明1が甲2発明であるとはいえない。
更に、本件発明1の発明特定事項を全て有する本件発明2について検討しても事情は同じである。
イ 申立人の主張について
(ア)甲第2号証を主引用例とした場合の新規性欠如についての特許異議申立書における申立人の主張は、概略、以下のとおりである。
前記(1)イ(ア)c(段落【0013】)の記載によれば、甲第2号証に記載された「活物質被覆用溶液」は、安定化された錯体溶液であるが、同c(段落【0017】【表1】)の記載によれば、前記溶液は、経時変化によっておおむね吸光度が増加しているから、少なくとも一部はゾルであると推認される。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例(下記3(2)ウ(段落【0052】【表2】)に記載された全光線透過率から吸光度を算出すると、前記実施例のうち実施例4~6、17及び18といった吸光度が低い実施例以外の実施例は、甲第2号証に記載された吸光度と概略同一となるから、本件発明1は甲2発明である(特許異議申立書8ページ下から5行~11ページ8行)。
(イ)そこで、前記(ア)の主張について検討すると、仮に、甲第2号証に記載された「活物質被覆用溶液」が、経時変化により、少なくとも一部がゾルとなると推認され、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例の一部の吸光度が、甲第2号証に記載された吸光度と概略同一となるとしても、前記ア(イ)bに記載したのと同様の理由により、甲2発明が、ニオブ酸の分散粒子の「分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有」するものとはいえないことに変わりはないから、本件発明1が甲2発明であるということはできない。
また、甲2発明及び前記(1)イ(ア)b(段落【0009】~【0010】)の甲第2号証の記載によれば、甲2発明においては、過酸化水素水へニオブ酸(Nb2O5・nH2O)を添加して混合し、得られた懸濁液へアンモニア水等のアルカリを添加し、混合することにより透明なニオブ酸のペルオキソ錯体([Nb(O2)4]3-)を得て、得られたニオブ酸のペルオキソ錯体を含有する水溶液にリチウム化合物を添加することにより、リチウムとニオブ酸のペルオキソ錯体とを含有する水溶液を得た後、更にリン酸を添加して混合して、「活物質被覆用溶液」を得るものである。
そして、専ら、リチウム、ニオブ酸のペルオキソ錯体及びリン酸を含む「活物質被覆用溶液」において生成した前記ゾルが、ニオブ酸の分散粒子が分散したニオブ酸ゾルであると直ちにいえるものではないし、このことを裏付ける証拠もないから、甲2発明は、そもそもニオブ酸ゾルといえるものではないので、仮に、甲第2号証に記載された「活物質被覆用溶液」が、経時変化により、少なくとも一部がゾルとなると推認され、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例の一部の吸光度が、甲第2号証に記載された吸光度と概略同一となるとしても、本件発明1が甲2発明であるということはできない。
したがって、前記(ア)の主張も採用できない。
ウ 小括
したがって、本件発明1~2は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえないから、前記第3の1(2)の特許異議申立理由は理由がない。
(4)まとめ
よって、前記第3の1の特許異議申立理由はいずれも理由がない。
2 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
(1)甲第1号証を主引用例とした場合について
ア 判断
続いて、前記1(2)ア(ア)bの相違点1の容易想到性について検討すると、甲1発明における無機酸は、ニオブ酸アンモニウムゾルに含まれるアンモニアを洗浄、除去するためのものであるから、甲1発明においては、ニオブ酸の分散粒子の「分散安定化剤」として無機酸を用いることはそもそも想定されないので、甲1発明を、「分散安定化剤として」「リン酸を含有」するものとして、本件発明1の前記相違点1に係る発明特定事項を有するものとするには至らない。
したがって、前記1(2)ア(ア)bの相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明1の発明特定事項を全て有する本件発明2について検討しても事情は同じである。
イ 申立人の主張について
(ア)甲第1号証を主引用例とした場合の進歩性欠如についての特許異議申立書における申立人の主張は、概略、以下のとおりである。
甲第1号証には、無機酸の使用が記載されており、一般的に無機酸の中にリン酸が包含され、甲第1号証には、リン酸を排除するような記述もないから、甲1発明において無機酸としてリン酸を使用することは当業者が容易になし得ることである(特許異議申立書11ページ21行~28行)。
(イ)そこで、前記(ア)の主張について検討すると、甲1発明においては、そもそも、ニオブ酸の分散粒子の「分散安定化剤」として無機酸を用いることは想定されないのであるから、甲第1号証に無機酸の使用が記載されており、一般的に無機酸の中にリン酸が包含され、甲第1号証に、リン酸を排除するような記述がないとしても、甲1発明において、「分散安定化剤として」「リン酸を含有」するものとすることは当業者が容易になし得ることではないので、前記(ア)の主張も採用できない。
ウ 小括
したがって、本件発明1~2は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、前記第3の2(1)の特許異議申立理由は理由がない。
(2)甲第2号証を主引用例とした場合について
ア 判断
続いて、前記1(3)ア(ア)bの相違点3の容易想到性について検討すると、甲2発明は、ニオブ酸のペルオキソ錯体を安定化するものであって、ニオブ酸の分散粒子を分散安定化するものではないから、甲2発明において、ニオブ酸の分散粒子の「分散安定剤」を含有することは、そもそも想定されない。
そうすると、甲2発明を、「分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有」するものとすることも想定されないから、甲2発明において、本件発明1の前記相違点3に係る発明特定事項を有するものとするには至らないので、前記1(3)ア(ア)bの相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明1の発明特定事項を全て有する本件発明2について検討しても事情は同じである。
イ 申立人の主張について
(ア)甲第2号証を主引用例とした場合の進歩性欠如についての特許異議申立書における申立人の主張は、概略、以下のとおりである。
ニオブ酸を安定化型ニオブ酸ゾルとして使用することや、その製造方法は周知であるから、甲2発明のニオブ酸のペルオキソ錯体と、リン酸系イオンと、を含む活物質被覆用溶液を、安定化型ニオブ酸ゾルとすることは、当業者が容易になし得ることである(特許異議申立書11ページ29行~12ページ4行)。
(イ)そこで、前記(ア)の主張について検討すると、前記1(3)ア(イ)bに記載したのと同様の理由により、甲2発明は、不安定で沈殿しやすいニオブ酸のペルオキソ錯体を安定化するものであって、ニオブ酸の分散粒子を分散安定化するものとはいえないから、仮に、ニオブ酸を安定化型ニオブ酸ゾルとして使用することや、その製造方法が周知であるとしても、甲2発明を安定化型ニオブ酸ゾルとすること自体、そもそも想定されない。
また、仮に、甲2発明に係る「活物質被覆用溶液」が、経時変化により、少なくとも一部がゾルとなると推認されるとしても、甲2発明は、そもそもニオブ酸ゾルといえるものではないことは、前記1(3)イ(イ)に記載したとおりであって、前記ゾルをニオブ酸ゾルとする理由もない。
そうすると、甲2発明を安定化型ニオブ酸ゾルとすることは、当業者が容易になし得ることではないので、前記(ア)の主張も採用できない。
ウ 小括
したがって、本件発明1~2は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、前記第3の2(2)の特許異議申立理由は理由がない。
(3)まとめ
よって、前記第3の2の特許異議申立理由はいずれも理由がない。
3 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
事案に鑑み、始めに、前記第3の4の特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)の特許異議の申立て理由について検討し、その後、前記第3の3の特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)及び前記第3の5の特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)の特許異議の申立て理由について検討する。
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本件特許の出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるので、以下、この観点に立って検討する。
(2)本件特許明細書の記載事項
本件特許明細書には、以下のア~ウの記載がある。
ア「【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電池材料の分野においてニオブ系ゾルが正極や負極の表面コート用材料として着目されている。
・・・
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
・・・
【特許文献3】特許第6774158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ニオブ系ゾルのうち、リチウムを含有したニオブ酸ゾルへの要望が高まっている。とりわけ、特許文献3に記載のリチウム安定型ニオブ酸ゾルよりもリチウム含有量の多いニオブ酸ゾルが要望されていた。
【0006】
本発明は、リチウム含有量を多くしても良好な安定性を示すニオブ酸ゾルの開発を課題とする。」
イ「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、驚くべきことにリチウム及びリン酸を分散安定化剤として用いることによって上記課題が解決されることを見出し、係る知見を基に本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有した、リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾル。
・・・
【0010】
本発明は、分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有した、リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾル(以下「本発明のゾル」という)に関する。本発明のゾルは、リチウム及びリン酸で安定化されたニオブ酸ゾルとも言えるものである。
【0011】
本発明のゾル中において、少なくとも一部のリチウムはニオブ酸の分散粒子に直接的に結合又は吸着することによって、特許文献3に記載のリチウム安定型ニオブ酸ゾルと同様に、分散粒子の分散安定化に寄与していると考えられる。一方、上記以外のリチウムは、共存するリン酸と共に、間接的に分散粒子の分散安定化に寄与していると考えられる。
【0012】
本発明のゾル中におけるLi/Nb(モル比)は、0.25以上の範囲であることが好ましい。このうち、Li/Nb(モル比)が0.25~1の範囲(Li/Nb2O5(モル比)では0.5~2の範囲)は、リチウムの大半がニオブ酸の分散粒子に結合又は吸着されていることによって分散安定化がなされていると考えられるが、当該範囲であってもリン酸はゾルとしてのさらなる安定化に貢献していると考えられる。Li/Nb(モル比)が1超の範囲では、分散粒子に結合又は吸着していないリチウムとリン酸がゾルとしての安定化に大きく貢献していると考えられる。Li/Nb(モル比)の下限は、より好ましくは0.3以上であり、さらにより好ましくは0.4以上であり、特に好ましくは0.5以上であり、特により好ましくは0.7以上である。Li/Nb(モル比)の上限は特に限定されないが、例えば、20以下であることが好ましく、より好ましくは15以下であり、さらに好ましくは10以下である。
【0013】
本発明のゾル中におけるリン酸量は、ゾルとしての安定化が得られる量であれば特に限定されない。そのような量として、例えば、P/Li (モル比)が0.5~1.25の範囲であることが好ましい。・・・
【0014】
上記本発明のゾル中におけるLi/Nb(モル比)の好適な範囲(0.25~20)とP/Li(モル比)の好適な範囲(0.5~1.25)より、P/Nb(モル比)の好適な範囲は0.125~25と算出される。本発明のゾル中におけるP/Nb(モル比)が上記範囲であることは特に問題なく許容されるが、下限は0.2であることがより好ましく、さらに好ましくは0.3であり、上限は20であることがより好ましく、さらに好ましくは15である。
【0015】
本発明のゾルは、アンモニアの含有を許容するものである。本発明のゾル中のアンモニアの含有量は、特に限定されるものではないが、NH3/Nb(モル比)として0以上0.25未満の範囲であることが好ましい。
・・・
【0016】
(製造方法)
本発明のゾルの好適な製造方法として、以下に示す製法A、製法B、製法C及び製法Dが挙げられる。
【0017】
〔製法A〕
製法Aは、以下の第1~4工程を含む製法である。
(1)ニオブ酸アンモニウムゾルと炭酸リチウム及び/又は炭酸水素リチウムとを混合する第1工程
(2)第1工程で得られた液を加熱及び/又は洗浄処理する第1工程
(3)第2工程で処理された液とリン酸とを混合する第3工程
(4)第3工程で得られた液を加熱処理する第4工程
【0018】
製法Aによって得られる本発明のゾルは、分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有し、Li/Nb(モル比)が0.25以上の範囲のものである。
【0019】
原料として用いるニオブ酸アンモニウムゾルについて説明する。
ニオブ酸アンモニウムゾル及びその製造方法は、特許文献1に詳述されているので、ここではその概略を説明する。・・・また、市販のニオブ酸アンモニウムゾルとして、例えば、多木化学(株)製の商品名「バイラール Nb-G6000」を挙げることができる。
【0020】
第1工程では、ニオブ酸アンモニウムゾルと炭酸リチウム及び/又は炭酸水素リチウムとを混合する。両者の混合方法については、特に制限は無く、常法により混合すればよい。例えば、撹拌下のニオブ酸アンモニウムゾルに、炭酸リチウム及び/又は炭酸水素リチウムを添加する。・・・
【0021】
第2工程では、第1工程で得られた液を加熱及び/又は洗浄処理する。当該処理は、アンモニアの除去を目的に行うことが好ましい。例えば、本発明のゾルにおいて、NH3/Nb(モル比)が0.25未満になるまで行う。また、当該処理によって得られる液は、リチウムが直接的に結合又は吸着したニオブ酸粒子(場合によっては残存アンモニアも直接的に結合又は吸着)と、上記以外のリチウムが存在する場合にはリチウムイオンを含有すると考えられる液である。
【0022】
加熱処理における温度と時間の加熱条件は適宜設定すればよいが、例えば、加熱温度は、50~150℃の範囲であることが好ましい。加熱温度の下限は、80℃であることがより好ましく、さらに好ましくは90℃である。また、加熱時間は、加熱温度に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.5~8時間である。リチウムの存在量及び加熱条件を最適化すれば、本発明のゾル中のアンモニア含有量を検出限界以下とすることも不可能ではない。本発明では、検出限界以下を含有量0とする。アンモニアの測定には、ケルダール法を用いる。
【0023】
洗浄処理の方法については特に制限は無いが、好ましくは水を添加しながらの限外ろ過である。・・・
【0024】
加熱及び/又は洗浄処理によるアンモニア除去のメカニズムとして、次のことが推測される。ニオブ酸アンモニウムゾル中では、アンモニウムイオンはほとんど存在せず、アンモニアはニオブ酸の微粒子に結合又は吸着された状態で存在していると推定されるが、そのアンモニアのうち少なくとも一部がリチウムによって置換され、これによって遊離のアンモニアが生成し、この遊離のアンモニアを加熱においては揮散させ、洗浄においては系外へ排出する、というものである。
【0025】
第3工程では、第2工程で処理された液とリン酸とを混合する。両者の混合方法については、特に制限は無く、常法により混合すればよい。例えば、撹拌下の液に、リン酸を添加する。リン酸は、オルトリン酸を用いることが好ましい。・・・
【0026】
第4工程では、第3工程で得られた液を加熱処理する。加熱温度は、例えば、50~150℃の範囲であることが好ましい。加熱温度の下限は、80℃であることがより好ましく、さらに好ましくは90℃である。また、加熱時間は加熱温度に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.5~8時間である。本発明のゾルが得られる限りにおいて、第2工程と第4工程の加熱条件は同じにしてもよいし、第4工程の加熱時間を第2工程よりも短くしてもよい。
【0027】
第4工程の後に、必要に応じて、ろ過工程、濃度調整工程を設けてもよい。これは、他の製法B、製法C及び製法Dについても同様である。」
ウ「【実施例】
【0046】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0047】
(ニオブ酸アンモニウムゾル)
ニオブ酸アンモニウムゾルとして、多木化学(株)製の「バイラール Nb-G6000」(Nb=4.3質量%、pH8.8、アンモニア/Nb(モル比)=0.6)を用いた。
【0048】
〔実施例1~8〕
撹拌下のニオブ酸アンモニウムゾル300gに純度98.5質量%以上の炭酸リチウム(粉体)を添加した後、90℃で3時間加熱(加熱1)した。次に、85質量%リン酸を添加し、90℃で1時間加熱(加熱2)した。最後に、夾雑物を除去する目的でろ過をした後、必要な場合は適当量の水添加による濃度調整をおこなって、リチウム及びリン酸で安定化されたニオブ酸ゾルを得た。
各原料は表1の組成となるように設計した。また、加熱1及び加熱2は、いずれも開放下において行った。加熱1では、Nb濃度4.3質量%をできるだけ維持するように適宜水を添加した。加熱2では、表1のNb濃度になるように適宜水を添加し調整した。
【0049】
〔実施例9~10〕
ニオブ酸アンモニウムゾルとして、表1のNb濃度になるように水で希釈したものを用いた以外は、実施例1~8と同様にして、リチウム及びリン酸で安定化されたニオブ酸ゾルを得た。ただし、加熱1では、表1のNb濃度をできるだけ維持するように適宜水を添加した。
【0050】
【表1】
[図:0001400518000002.jpg]
【0051】
(ゾルの分析)
実施例1~10で得られた各ゾルにつき、以下の分析を含め、ゾルは有姿で分析に供試した。
・平均粒子径:(株)堀場製作所製の動的光散乱式粒径分布測定装置「LB-500」を用いて測定した。
・ヘイズ、全光線透過率:日本電色工業(株)製のヘーズメーター「COH7700」を用い、波長400~700nm(10nm間隔)、光路長10mmの条件で測定した。
表2に、分析結果を示した。
【0052】
【表2】
[図:0001400518000003.jpg]
・・・
【0059】
実施例1~19で得られたいずれのゾルも、25℃で1ヶ月間保存したところ、沈殿物の発生は認められず、保存安定性を有していることが確認された。」
(3)一般的なサポート要件の判断基準に沿った検討
ア 前記(2)ア(段落【0004】~【0006】)の本件特許明細書の記載によれば、本件発明は、近年、ニオブ系ゾルのうち、リチウムを含有したニオブ酸ゾルへの要望が高まっており、とりわけ、特許文献3である特許第6774158号公報に記載されたリチウム安定型ニオブ酸ゾルよりもリチウム含有量の多いニオブ酸ゾルが要望されていたことから、リチウム含有量を多くしても良好な安定性を示すニオブ酸ゾルを開発する、という課題(以下、「本件課題」という。)を解決するものである。
ここで、前記特許文献3である特許第6774158号公報は、甲第1号証であって、前記1(1)ア(ア)aの記載によれば、甲第1号証に記載された従来技術においては、アルカリ金属/Nb2O5(モル比)、すなわちLi/Nb2O5(モル比)は、その上限が高々2である。
そして、Li/Nb2O5(モル比)が2である場合、これをLi/Nb(モル比)に換算すると、Li/Nb(モル比)は1であるから、従来技術におけるLi/Nb(モル比)の上限は高々1であるといえる。
すると、本件発明においてリチウム含有量が多いとは、Li/Nb(モル比)が、甲第1号証に記載された従来技術の範囲を超える、1超の範囲を想定していると解するのが妥当である。
そして、前記(2)イ(段落【0008】~【0012】)の記載によれば、本件発明に係るニオブ酸ゾルは、「分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有した」ものであって、リチウム及びリン酸で安定化されたニオブ酸ゾルといえるものであり、前記ニオブ酸ゾル中において、少なくとも一部のリチウムはニオブ酸の分散粒子に直接的に結合又は吸着することによって、ニオブ酸の分散粒子の分散安定化に寄与していると考えられる一方、これ以外のリチウムは、共存するリン酸と共に、間接的に分散粒子の分散安定化に寄与していると考えられるものである。
また、本件発明に係るニオブ酸ゾル中におけるLi/Nb(モル比)は、0.25以上の範囲であることが好ましいものであり、このうち、Li/Nb(モル比)が0.25~1の範囲(Li/Nb2O5(モル比)では0.5~2の範囲。すなわち甲第1号証に記載された従来技術の範囲。)では、リチウムの大半がニオブ酸の分散粒子に結合又は吸着されていることによって分散安定化がなされていると考えられるが、当該範囲であってもリン酸はゾルとしてのさらなる安定化に貢献していると考えられるものであり、Li/Nb(モル比)が1超の範囲(すなわち前記従来技術の範囲を超える範囲。)では、分散粒子に結合又は吸着していないリチウムとリン酸がゾルとしての安定化に大きく貢献していると考えられるものである。
イ 前記アによれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有した」本件発明に係るニオブ酸ゾルにおいては、Li/Nb(モル比)が1超となり、従来技術の範囲よりもリチウム含有量が多くなっても、分散粒子に結合又は吸着していないリチウムとリン酸がゾルとしての安定化に大きく貢献することで、ニオブ酸の分散粒子が分散安定化して、本件課題を解決できることを理解することができる。
そして、そのようなニオブ酸ゾルは、「分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有した、リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾル」といえるものであって、これは、本件発明1に係る「リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾル」にほかならない。
してみれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1に係る「リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾル」が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることを理解することができるのであり、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の記載は、本件発明1についてサポート要件に適合するといえる。
更に、本件発明1の発明特定事項を全て有する本件発明2について検討しても事情は同じであるから、本件特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
(4)申立人の主張に沿った検討
ア 前記(2)ウの本件特許明細書の記載によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、同イに記載された製法Aにのっとった本件実施例が記載されており、このうち、Li/Nb(モル比)が1超であり、甲第1号証に記載された従来技術よりもリチウム含有量が多い実施例4~6、8及び10で得られたいずれのニオブ酸ゾルにおいても、25℃で1ヶ月間保存したところ、沈殿物の発生は認められず、良好な保存安定性を有していることが確認されているのであるから、前記従来技術の範囲よりもリチウムを多く含有したリチウム安定型ニオブ酸ゾルにリン酸を添加したことによる効果は、本件特許明細書の発明の詳細な説明において裏付けられるものである。
イ また、本件発明1は、「分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有した、リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾル」に係るものであるから、ニオブ酸ゾルが分散安定化する程度にリチウム及びリン酸を含有するものと解するのが合理的であり、リチウム含有量が極めて少なかったり、リチウム含有量に対するリン酸の含有量のモル比が一定範囲外であったりして、ニオブ酸ゾルが分散安定化しないものまで包含するものとはいえない。
そして、本件発明においては、ニオブ酸ゾル中において、少なくとも一部のリチウムはニオブ酸の分散粒子に直接的に結合又は吸着することによって、ニオブ酸の分散粒子の分散安定化に寄与していると考えられる一方、これ以外のリチウムは、共存するリン酸と共に、間接的に分散粒子の分散安定化に寄与していると考えられるのであるから、ニオブ酸ゾル中にリチウムとリン酸が共存していれば、ニオブ酸の分散粒子の分散安定化に寄与し得るものである。
そうすると、本件発明1において、リチウム、リン酸、ニオブ酸の含有量について一切特定されておらず、本件発明2においても、「Li/Nb(モル比)が0.25以上の範囲である」以外の、リチウム、リン酸、ニオブ酸の含有量について一切特定されていないとしても、本件特許明細書の記載に接した当業者は、ニオブ酸ゾルに、ニオブ酸の分散粒子の「分散安定化剤」として、リチウムに加えてリン酸が存在することが特定されている本件発明1~2により、ニオブ酸の分散粒子の分散が安定化して、本件課題を解決できることを理解できるので、本件発明1~2の発明特定事項が発明の詳細な説明の記載に比べて広すぎるということはできない。
ウ 更に、本件発明においては、Li/Nb(モル比)が0.25~1の範囲(Li/Nb2O5(モル比)では0.5~2の範囲)では、リチウムの大半がニオブ酸の分散粒子に結合又は吸着されていることによって分散安定化がなされていると考えられるが、当該範囲であってもリン酸はゾルとしてのさらなる安定化に貢献していると考えられるのであるから、リチウム含有量が少ないものについてはリン酸を添加する必要がないとはいえないし、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、リン酸が有するほかの効果について記載する必要があるわけでもない。
エ 前記ア~ウによれば、前記第3の4のサポート要件についての申立人の主張も採用できない。
(5)小括
したがって、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号所定の規定に適合するから、前記第3の4の特許異議申立理由は理由がない。
4 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
(1)実施可能要件の判断手法
明細書の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件に適合するか否かは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるか否かという観点から判断されるべきである。
また、物の発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為であるから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について前記実施可能要件を充足するためには、明細書の発明の詳細な説明において、当業者が、明細書の発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、かつ、使用することができる程度の記載があることを要するので、以下、この観点に立って検討する。
(2)一般的な実施可能要件の判断基準に沿った検討
ア 前記3(2)ア(段落【0001】~【0002】)の本件特許明細書の記載によれば、本件発明は、リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾルに関するものであって、電池材料の分野において正極や負極の表面コート用材料として用いられるものである。
また、本件発明に係るニオブ酸ゾルの好適な製造方法として、以下に示す製法Aが挙げられるものであり、前記製法Aは、以下の第1~4工程を含む製法である(前記3(2)イ。ただし、段落【0017】の「(2)第1工程で得られた液を加熱及び/又は洗浄処理する第1工程」は「(2)第1工程で得られた液を加熱及び/又は洗浄処理する第2工程」の誤記である。)。
(1)ニオブ酸アンモニウムゾルと炭酸リチウム及び/又は炭酸水素リチウムとを混合する第1工程
(2)第1工程で得られた液を加熱及び/又は洗浄処理する第2工程
(3)第2工程で処理された液とリン酸とを混合する第3工程
(4)第3工程で得られた液を加熱処理する第4工程
そして、前記製法Aによって得られる本件発明に係るニオブ酸ゾルは、分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有し、Li/Nb(モル比)が0.25以上の範囲のものである。
ここで、前記製法Aにおいて原料として用いるニオブ酸アンモニウムゾルとしては、市販のニオブ酸アンモニウムゾルである、多木化学(株)製の商品名「バイラール Nb-G6000」を挙げることができ、前記第1工程では、ニオブ酸アンモニウムゾルと炭酸リチウム及び/又は炭酸水素リチウムとを混合するものであり、両者の混合方法については、特に制限は無く、常法により混合すればよいものであり、前記第2工程では、前記第1工程で得られた液を加熱及び/又は洗浄処理するものであり、当該処理は、アンモニアの除去を目的に行うことが好ましいものであり、加熱処理における温度と時間の加熱条件は、加熱温度は、50~150℃の範囲であることが好ましく、加熱時間は、0.5~8時間であり、前記第3工程では、前記第2工程で処理された液とリン酸とを混合するものであり、両者の混合方法については、特に制限は無く、常法により混合すればよいものであり、前記第4工程では、前記第3工程で得られた液を加熱処理するものであり、加熱温度は、50~150℃の範囲であることが好ましく、加熱時間は、0.5~8時間であり、前記第4工程の後に、必要に応じて、ろ過工程、濃度調整工程を設けてもよいものである。
更に、前記3(2)ウの記載によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、前記製法Aにのっとった実施例1~10(以下、「本件実施例」という。)が記載されており、本件実施例で得られたいずれのニオブ酸ゾルも、25℃で1ヶ月間保存したところ、沈殿物の発生は認められず、保存安定性を有していることが確認されたものである。
そして、前記製法Aにより製造された、25℃で1ヶ月間保存したとき、沈殿物の発生が認められず、保存安定性を有しているニオブ酸ゾルは、「分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有した、リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾル」といえるものであり、これは、本件発明1に係る「リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾル」にほかならない。
イ 前記アによれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1に係る「リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾル」を、過度の試行錯誤を要することなく生産することができるし、かつ、電池材料の分野において正極や負極の表面コート用材料として使用することができるものである。
そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめてみれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合する。
(3)申立人の主張に沿った検討
本件特許明細書の記載から、どの程度の透過率であれば分散性がよいと判断できるのか、どの程度の濁りであれば課題を達成できないといえるのかといった基準が明確でないとしても、前記3(3)イに記載したのと同様の理由により、当業者は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、リチウムの含有量を従来技術の範囲よりも多くしても良好な安定性を示す、という本件発明1の発明の効果を把握することができるので、前記第3の3の実施可能要件についての申立人の主張も採用できない。
(4)小括
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1項所定の規定に適合するから、前記第3の3の特許異議申立理由は理由がない。
5 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
(1)明確性要件の判断手法
請求項に係る発明が明確性要件に適合するか否かは、当該請求項の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、当該請求項の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断すべきであるから、以下、この観点に立って検討する。
(2)一般的な明確性要件の判断基準に沿った検討
ア 本件発明1の発明特定事項によれば、本件発明1は、「分散安定化剤としてリチウム及びリン酸を含有した、リチウム-リン酸安定型ニオブ酸ゾル。」に係るものであって、その意味自体、明確である。
また、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1により本件課題を解決できることを理解できることは、前記3(3)イに記載したとおりであって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1の発明特定事項と何ら矛盾しない。
イ 前記アによれば、本件特許請求の範囲の請求項1の記載及び本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載をみたとき、前記請求項1の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえないのであり、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の記載は、本件発明1について明確性要件に適合するといえる。
更に、本件発明2について検討しても事情は同じであるから、本件特許請求の範囲の記載は明確性要件に適合する。
(3)申立人の主張に沿った検討
ア 前記3(3)イに記載したのと同様の理由により、本件発明において、Li/Nb(モル比)が1超の範囲(すなわち従来技術の範囲を超える範囲。)となる等して、吸着若しくは結合している以上のリン酸若しくはリチウムが存在した場合でも、ニオブ酸ゾルは高い安定性を有するものといえるし、これらが多く含まれたときに弊害を生じることを裏付ける証拠もないから、本件発明1~2において、リン酸及びリチウムの存在量の上限が特定されていないとしても、本件発明1~2が明確であることに変わりはない。
イ また、独立したリチウムが影響せずに分散性に寄与することや、液中においてリチウムが少ないとされている甲第1号証において余剰のリチウム分を添加していても、分散性が確保されると共に多くのリチウムをゾル中に存在させられることになるとの疑いが生じることを裏付ける証拠もないし、本件特許明細書において、リン酸を添加しなければリチウムを過剰に含ませることはできないとの開示がされておらず、リン酸の存在がない場合、どうなるのかの開示がないとしても、これらの点は、本件発明1~2の明確性の判断を左右するものではないから、本件発明1~2が明確であることに変わりはない。
ウ 更に、前記3(3)イに記載したのと同様の理由により、本件実施例のニオブ酸ゾルは、粒子の分散性がよいといえるし、甲第1号証に記載された従来技術の範囲よりもリチウムを多く含めることができているといえるのであるから、本件発明において、どのような場合に粒子の分散性がよいといえるのかが明確でないとはいえないし、ゾルがどのような状態となったときにリチウムを多く含めることができていないと判断するのかが不明であるともいえないから、本件発明1~2が明確であることに変わりはない。
エ また、本件特許明細書には、ゾルの定義が明確に記載されていないが、その場合の用語の意味は、当業者が通常用いる意味として理解することが妥当であるし、前記3(2)ウ(段落【0052】【表2】)の本件実施例には、ニオブ酸ゾルの平均粒子径が例示されているから、正極や負極の表面コート用材料として使用する場合に、どの程度の粒径であれば適当なのかが不明確であるともいえない。
更に、仮に、本件特許明細書の粒子の測定方法を用いて甲第2号証の錯体溶液を測定すれば、平均粒径が求められるとしても、本件発明1と甲2発明が、少なくとも前記1(3)ア(ア)bの相違点3において実質的に相違することは、同(イ)bに記載したとおりであるから、本件発明と甲第2号証に記載された発明との差異が不明確であるともいえないので、本件発明1~2が明確であることに変わりははない。
オ 前記ア~エによれば、申立人の前記第3の5の主張も採用できない。
(4)小括
したがって、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号所定の規定に適合するから、前記第3の5の特許異議申立理由は理由がない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人の特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1~2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-700433