特許異議申立
2025-700817
ガスバリア性フィルム
- 審判番号
- 2025-700817
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-559991
- 登録番号
- 7639342
- 請求日
- 2025年08月12日
- 審決日
- 2025年11月11日
- 公報発行日
- 2025年12月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】TOPPANホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】松沼 泰史
- 【権利者代理人】鈴木 史朗
- 【権利者代理人】清水 雄一郎
- 【権利者代理人】大槻 真紀子
- 【異議申立人】鈴木 多香子
- 審判長/審判官
- 審判長 一ノ瀬 薫
- 審判官 長清 吉範
- 審判官 岩谷 一臣
- 分類
- P1651.121-Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7639342号発明「ガスバリア性フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7639342号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7639342号(以下「本件特許」)という。)の請求項1~9に係る特許についての出願は、2019年(令和元年)12月5日(優先権主張平成30年12月5日、令和元年9月2日)を国際出願日とする出願であって、令和7年2月25日にその特許権の設定登録がされ、同年3月5日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許について同年8月12日に特許異議申立人鈴木多香子により、本件の特許異議申立がなされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~9の特許に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
樹脂基材と、
前記樹脂基材の第一面側に形成される酸素バリア性皮膜と、
ヒートシール可能な熱融着層と、
を備え、
前記酸素バリア性皮膜は、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解物、および金属アルコキシドの反応生成物の少なくとも1つと、水溶性高分子とを含み、かつ無機層状化合物を含有せず、
前記樹脂基材と前記酸素バリア性皮膜との間に無機酸化物層を有し、
前記無機酸化物層が、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素で形成され、
前記樹脂基材は、基層を含む2以上の樹脂層を有し、前記2以上の樹脂層のうち、前記第一面を形成する樹脂層がアンチブロッキング剤を含まない、
ガスバリア性フィルム。
【請求項2】
前記樹脂基材において、前記第一面と反対側の第二面を形成する樹脂層が、アンチブロッキング剤を含む、
請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項3】
前記樹脂基材がポリオレフィン系樹脂である、
請求項1または2に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項4】
前記樹脂基材と前記無機酸化物層との間に下地層を有し、
前記下地層の厚みが0.01~1μmである、
請求項1から3のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項5】
前記樹脂基材と前記無機酸化物層との間に下地層を有し、
前記下地層は、主成分として有機高分子を含み、
前記有機高分子は、ポリアクリル系樹脂、ポリオール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、またはこれらの有機高分子の反応生成物の少なくとも1つを含む、
請求項1から4のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項6】
前記無機酸化物層の厚みが1~200nmである、
請求項1から5のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項7】
前記酸素バリア性皮膜の厚みが0.05~1μmである、
請求項1から6のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項8】
前記酸素バリア性皮膜が、シランカップリング剤、およびシランカップリング剤の反応生成物の少なくとも1つをさらに含む、
請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項9】
前記酸素バリア性皮膜が、ポリカルボン酸系重合体のカルボキシ基と多価金属化合物との反応生成物であるカルボン酸の多価金属塩を含む、
請求項1から7のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。」
第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として以下の甲第1~5号証(以下「甲1」等という。)を提出し、請求項1~9に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、その特許を取り消すべきものである旨を主張している。
甲1:特開2018-111210号公報
甲2:東洋紡績(株)、「高透明ポリエステルフィルム コスモシャイン」(当審注:「コスモシャイン」には、登録商標のマークが付されている。以下同様。)、成形加工10月号、社団法人プラスチック成形加工学会、2007年10月20日、第19巻、第10号、第654ページ
甲3:伊藤勝也ほか1名、「機能性フィルムの構造制御と製膜加工技術」、成形加工12月号、社団法人プラスチック成形加工学会、2004年12月20日、第16巻、第12号、第754~761ページ
甲4:特開2006-159801号公報
甲5:国際公開第2016/167181号
第4 証拠に記載の事項等
1 甲1に記載の発明
甲1の【請求項1】、【0001】、【0008】、【0035】、【00054】、【0060】~【0063】、特に実施例25に着目すると、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。ただし、カッコ内の段落は、理解のため特に参照すべき箇所を示したものである。
「樹脂基材と、第1の化学気相蒸着層と、第2の化学気相蒸着層とをこの順に備えるバリア性フィルムであって(【請求項1】)、
樹脂基材として二軸延伸PETフィルム(東洋紡(株)製:A4100)を用い、蒸着膜組成比Si:O:C が30.4:54.7:14.9である第1の化学気相蒸着層、及び蒸着膜組成比Si:O:Cが32.4:60.9:6.7である第2の化学気相蒸着層を形成し(【0060】、【0061】)、
ポリビニルアルコール、イソプロピルアルコール、水からなる組成Aの混合液に、エチルシリケート、イソプロピルアルコール、0.5N塩酸水溶液、水からなる組成Bの加水分解液を加えて撹拌し、バリアコート液を得て(【0062】、【表1】)、
第2の化学気相蒸着層を形成した樹脂基材に上記バリアコート液をコーティングし、加熱処理して第2の化学気相蒸着層上にバリアコート層を形成した(【0035】、【0063】)、
バリア性フィルム。」
2 周知技術
甲2の左欄、「2.構成」及び「3.特長」に記載の事項、並びに甲3の第755ページ、右欄の「3.インラインコートフィルム」に記載の事項を総合すると、以下の点は周知技術であると認める。
「コスモシャインは、東洋紡績株式会社の製品であり、また、A4100はコスモシャインの代表銘柄の一つであるところ、当該コスモシャインは、PETフィルムの一方の面に表面凹凸形成剤を含むコート層を有し、PETフィルムには表面凹凸形成剤を含まないこと。」
第5 当審における判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
ア 甲1発明の「樹脂基材」は、本件発明1の「樹脂基材」に相当する。また、甲1発明の「バリアコート層」は、その組成からみて酸素バリア性があると解されるから、本件発明1の「酸素バリア性皮膜」に相当する。
イ 甲1発明の「バリアコート層」は、金属アルコキシドである「エチルシリケート」の加水分解物と、水溶性高分子である「ポリビニルアルコール」を含有するとともに、その組成からみて無機層状化合物を含有していないことは明らかである。そうすると、当該「バリアコート層」は、本件発明1における「前記酸素バリア性皮膜は、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解物、および金属アルコキシドの反応生成物の少なくとも1つと、水溶性高分子とを含み、かつ無機層状化合物を含有せず、」という条件を充足する。
ウ 甲1発明の「第1の化学気相蒸着層」及び「第2の化学気相蒸着層」は、その組成としてSi、O、Cを含んでいるところ、技術常識に鑑みれば、酸化ケイ素で形成された無機酸化物層であると解される。そうすると、「第1の化学気相蒸着層」及び「第2の化学気相蒸着層」は、まとめて本件発明1の「酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素で形成され」た「無機酸化物層」に相当する。
エ 甲1発明の「バリアコート層」は、「第2の化学気相蒸着層上に形成」されたものであるから、本件発明1と同様、「前記樹脂基材の第一面側に形成され」たものである。また、上記ウとともにその構造に鑑みれば、甲1発明の「バリア性フィルム」は、本件発明1と同様、「前記樹脂基材と前記酸素バリア性皮膜との間に無機酸化物層を有し」ているものである。
オ 甲1発明の「バリア性フィルム」は、上記アのとおり酸素バリア性があると解される層を有するから、本件発明1の「ガスバリア性フィルム」に相当する。
(2)一致点及び相違点
上記(1)から、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致する。
<一致点>
「樹脂基材と、
前記樹脂基材の第一面側に形成される酸素バリア性皮膜と、
を備え、
前記酸素バリア性皮膜は、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解物、および金属アルコキシドの反応生成物の少なくとも1つと、水溶性高分子とを含み、かつ無機層状化合物を含有せず、
前記樹脂基材と前記酸素バリア性皮膜との間に無機酸化物層を有し、
前記無機酸化物層が、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素で形成された、
ガスバリア性フィルム。」
一方、両発明は、以下の点で相異する。
<相違点1>
本件発明1では、「ヒートシール可能な熱融着層」を備えたものであるのに対し、甲1発明では、熱融着層を備えているか不明である点。
<相違点2>
本件発明1では、「前記樹脂基材は、基層を含む2以上の樹脂層を有し、前記2以上の樹脂層のうち、前記第一面を形成する樹脂層がアンチブロッキング剤を含まない」とされ、当該第一面側において「酸素バリア性皮膜」が形成されているのに対し、甲1発明の「樹脂基材」は、そもそもアンチブロッキング剤を含んでいるか否かも含め、当該構造を有しているのか不明である点。
(3)相違点の検討
事案に鑑み、相違点2から検討するに、本件発明1の「樹脂基材」は、「東洋紡(株)製:A4100」であるところ、当該製品は、上記周知技術にある東洋紡績株式会社のコスモシャインA4100である蓋然性が高いと判断される。そして、当該コスモシャインは、「PETフィルムの一方の面に表面凹凸形成剤を含むコート層を有し、PETフィルムには表面凹凸形成剤を含まない」ものとして知られているところ、当該「表面凹凸形成剤」は、技術常識に鑑みればアンチブロッキング剤に相違ない。
そうすると、甲1発明における樹脂基材は、そのどちらかの一方の面にアンチブロッキング剤を含む樹脂層を有しているものと考えられる。
しかし、本件発明1では、アンチブロッキング剤を含まない第一面側において酸素バリア性皮膜が形成されることが特定されているところ、甲1発明において、特にアンチブロッキング剤を含まない面側にバリアコート層を設けることについては、特に特定されておらず、また、甲1、その他各証拠においても、この点に関する記載ないし示唆はない。
また、仮に甲1発明において樹脂基材のいずれの面側にバリアコート層を設けるかは、当業者が適宜なし得た事項であるとしても、本件発明1は樹脂基材に添加されているアンチブロッキング剤の存在箇所において、皮膜に欠陥が発生し、酸素バリア性が十分発現しなかった(本件特許公報の【0010】)という知見の下、当該相違点2に係る特定事項により高い酸素バリア性を得るという格別の効果を得たものであり、当該事項が単なる設計的事項の範疇であったとすることもできない。
(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、甲1発明及び甲2~5に記載の事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。
2 本件発明2~9について
本件発明2~9は、いずれも本件発明1を引用するものであるから、上記1と同様の理由により、甲1発明及び甲2~5に記載の事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。
第6 むすび
以上、特許異議申立による理由及び証拠によっては、請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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