特許異議申立
2025-700811
電池集電体用ポリエステルフィルム、電池集電体用フィルム箔及び電池集電体
- 審判番号
- 2025-700811
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-039109
- 登録番号
- 7632717
- 請求日
- 2025年08月08日
- 審決日
- 2025年11月26日
- 公報発行日
- 2025年12月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】三菱ケミカル株式会社
- 【権利者代理人】西藤 征彦
- 【権利者代理人】井▲崎▼ 愛佳
- 【権利者代理人】西藤 優子
- 【権利者代理人】寺尾 茂泰
- 【異議申立人】村川 明美
- 審判長/審判官
- 審判長 梶尾 誠哉
- 審判官 ▲吉▼澤 雅博
- 審判官 畑中 博幸
- 分類
- P1651.121-Y (H01M) / P1651.536-Y (H01M) / P1651.537-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7632717号発明「電池集電体用ポリエステルフィルム、電池集電体用フィルム箔及び電池集電体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7632717号の請求項1~26に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7632717号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~26に係る特許についての出願は、令和6年3月13日(優先日 令和5年10月27日)の出願であって、令和7年2月10日にその特許権の設定登録がされ、同年2月19日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許に対し、令和7年8月8日に特許異議申立人村川 明美(以下、「申立人」という。)により、請求項1~26に係る特許に対する特許異議の申立てがなされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~26に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明26」という。また、「本件発明1」~「本件発明26」をまとめて、「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~26に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
下記(1)及び(2)を満足することを特徴とする電池集電体用ポリエステルフィルム。
(1)一方の表面であるA面と他方の表面であるB面とを重ね合わせて測定される静摩擦係数μsが0.26以上0.75以下。
(2)一方の表面であるA面の算術平均高さSa(SaA)と他方の表面であるB面の算術平均高さSa(SaB)との比(SaB/SaA)が1以上1.2未満(但し、SaB≧SaA)。
【請求項2】
更に、下記(3)を満足する、請求項1に記載の電池集電体用ポリエステルフィルム。(3)一方の表面であるA面の算術平均粗さRa(RaA)と、他方の表面であるB面の算術平均粗さRa(RaB)との比(RaB/RaA)が1以上1.2未満(但し、RaB≧RaA)。
【請求項3】
更に、下記(4)を満足する、請求項1又は2に記載の電池集電体用ポリエステルフィルム。
(4)一方の表面であるA面の十点平均粗さRz(RzA)と、他方の表面であるB面の十点平均粗さRz(RzB)との比(RzB/RzA)が1以上1.5未満(但し、RzB≧RzA)。
【請求項4】
更に、下記(5)を満足する、請求項1又は2に記載の電池集電体用ポリエステルフィルム。
(5)一方の表面であるA面の表面自由エネルギー(γSVA)と、他方の表面であるB面の表面自由エネルギー(γSVB)との差の絶対値が5.5mN/m以下。
【請求項5】
更に、下記(6)を満足する、請求項1又は2に記載の電池集電体用ポリエステルフィルム。
(6)一方の表面であるA面の表面自由エネルギー(γSVA)と、他方の表面であるB面の表面自由エネルギー(γSVB)との比(γSVB/γSVA)が1.15以下(但し、γSVB≧γSVA)。
【請求項6】
示差走査熱量測定(DSC)による結晶融解温度(Tm)が258℃以下である、請求項1又は2に記載の電池集電体用ポリエステルフィルム。
【請求項7】
一方の表面であるA面の算術平均高さSa(SaA)及び他方の表面であるB面の算術平均高さSa(SaB)が、15nm以下である、請求項1又は2に記載の電池集電体用ポリエステルフィルム。
【請求項8】
一方の表面であるA面の表面自由エネルギー(γSVA)及び他方の表面であるB面の表面自由エネルギー(γSVB)が、20mN/m以上である、請求項1又は2に記載の電池集電体用ポリエステルフィルム。
【請求項9】
120℃、5分間熱処理したときの収縮率が、長手方向(MD)及び幅方向(TD)ともに1%以下である、請求項1又は2に記載の電池集電体用ポリエステルフィルム。
【請求項10】
150℃、5分間熱処理したときの収縮率が、長手方向(MD)及び幅方向(TD)ともに2%以下である、請求項1又は2に記載の電池集電体用ポリエステルフィルム。
【請求項11】
180℃、5分間熱処理したときの収縮率が、長手方向(MD)及び幅方向(TD)ともに4%以下である、請求項1又は2に記載の電池集電体用ポリエステルフィルム。
【請求項12】
ポリエチレンナフタレート系共重合体(A)を含む、請求項1又は2に記載の電池集電体用ポリエステルフィルム。
【請求項13】
上記ポリエステルフィルムにおける上記ポリエチレンナフタレート系共重合体(A)の含有量が50質量%以上である、請求項12に記載の電池集電体用ポリエステルフィルム。
【請求項14】
上記ポリエチレンナフタレート系共重合体(A)が、ジカルボン酸成分(a-1)としてナフタレンジカルボン酸を含み、ジオール成分(a-2)としてビスフェノール-エチレンオキサイド付加物とエチレングリコールとを含む、請求項12に記載の電池集電体用ポリエステルフィルム。
【請求項15】
上記ジカルボン酸成分(a-1)中に、ナフタレンジカルボン酸を80モル%以上含有する、請求項14に記載の電池集電体用ポリエステルフィルム。
【請求項16】
上記ジオール成分(a-2)中に、ビスフェノール-エチレンオキサイド付加物を1モル%以上49モル%以下含有する、請求項14に記載の電池集電体用ポリエステルフィルム。
【請求項17】
厚みが1μm以上12μm以下である、請求項1又は2に記載の電池集電体用ポリエステルフィルム。
【請求項18】
樹脂層を有する、請求項1又は2に記載の電池集電体用ポリエステルフィルム。
【請求項19】
上記電池がリチウムイオン電池である、請求項1又は2に記載の電池集電体用ポリエステルフィルム。
【請求項20】
請求項1又は2に記載の電池集電体用ポリエステルフィルムに金属層を備える、電池集電体用フィルム箔。
【請求項21】
上記金属層が、銅又はアルミニウムからなる、請求項20に記載の電池集電体用フィルム箔。
【請求項22】
上記金属層が、金属蒸着層、金属メッキ層又は金属スパッタ層のいずれかである、請求項20に記載の電池集電体用フィルム箔。
【請求項23】
上記金属層が、二層構成である、請求項20に記載の電池集電体用フィルム箔。
【請求項24】
上記電池がリチウムイオン電池である、請求項20に記載の電池集電体用フィルム箔。
【請求項25】
請求項20に記載の電池集電体用フィルム箔の金属層上に電極層を備える、電池集電体。
【請求項26】
上記電池がリチウムイオン電池である、請求項25に記載の電池集電体。」
第3 申立理由の概要
1 申立人の申立理由の概要は、次のとおりである。
(1)申立理由1 特許法第29条第2項(進歩性)
本件発明1は甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第3号証及び甲第4号証に基づいて、本件発明2は甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第3号証及び甲第5号証に基づいて、本件発明3は甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第3号証及び甲第6号証に基づいて、本件発明4~22、24~26は甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に基づいて、本件発明23は甲第1号証に記載された発明並びに甲第2号証及び甲第3号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件発明1~26は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、本件特許は取り消されるべきものである。
(2)申立理由2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)
本件発明1~26は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
よって、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)
発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1~26を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
よって、本件特許は、発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
2 提出された証拠
申立人が提出した証拠は次のとおりである。
甲第1号証:特開2011-174009号公報
甲第2号証:国際公開第2021/145344号
甲第3号証:国際公開第2022/168703号
甲第4号証:特開2001-307945号公報
甲第5号証:特開2011-183714号公報
甲第6号証:特開平3-52935号公報
第4 申立理由についての当審の判断
1 申立理由1 特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)主な甲号証の記載事項
ア 甲第1号証及び甲1発明
(ア)甲第1号証の記載
甲第1号証には、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。以下同様である。)
「【請求項1】
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするポリエステル層Aを少なくとも1層有する難燃ポリエステルフィルムであり、該ポリエステル層Aはカルボキシホスフィン酸化合物またはカルボキシ亜ホスフィン酸化合物の少なくともいずれか1種に由来する成分を該ポリエステル層Aに対しリン原子として0.01重量%以上3重量%以下の範囲で含み、かつ該ポリエステルフィルムにおける広角X線回折測定で得られるブラッグ角25°~29°の回折ピークに相当する結晶面法線のフィルム面法線に対する一致度が0.95以上であり、フィルム厚みが0.2μm以上30μm以下であることを特徴とする蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルム。
・・・略・・・
【請求項6】
該難燃ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に導電性薄膜が形成されてなる請求項1~5のいずれかに記載の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルム。
【請求項7】
導電性薄膜が金属薄膜である請求項6に記載の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルム。
・・・略・・・
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムの導電性薄膜の面上にさらに電極剤を積層してなる蓄電素子用電極。
・・・略・・・
【請求項15】
リチウムイオン二次電池または電気二重層キャパシタに用いられる請求項11~14のいずれかに記載の蓄電素子用電極。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルム、それからなる蓄電素子用電極およびそれらからなる蓄電素子に関する。更に詳しくは、従来の金属製電極の代わりにポリエステルフィルムを基材材料として用いた、短絡による発火などの安全性に優れた蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルム、それからなる蓄電素子用電極およびそれらからなる蓄電素子に関する。」
「【0003】
このような蓄電システムの中心となる構成要素は、二次電池やキャパシタなどの蓄電素子であり、特にリチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタなどが、今後有望なものとして上げられる。
これら蓄電素子は、正負電極表面におけるイオンの酸化還元反応や電気二重層生成などにより、電気エネルギーを貯蔵・放出(充放電)するものであるが、該電極には充放電過程において電気エネルギーを取込み、取出しするための集電体としての機能が必要であり、従来10~30μm程度の厚みの金属箔が電極の基材として用いられている。
【0004】
近年、蓄電システムに求められる大容量化、小型化の要求に応えるため、体積エネルギー密度の向上や、可搬化の要求に応えるための重量エネルギー密度の向上を目的として、電極基材の薄膜化が進められている。しかしながら、電極の工程取扱い性、耐折曲げ性、さらにはくぎなどにより電極が突き抜けて導通につながらないよう、耐突刺し性などの特性を保ったままの薄膜化には限度がある。
そこで、金属に代わる新たな素材として、本発明者は機械特性や耐熱寸法安定性に優れる二軸延伸ポリエステル薄膜フィルムの表面に金属薄膜層を設けた構成を有する素材を、集電体機能を持った電極基材として用いることを提案している(特許文献1,2)が、金属板に代わる実用化レベルの諸特性の検討はまだ十分に行われていない。」
「【0010】
すなわち本発明の目的は、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするポリエステル層Aを少なくとも1層有する難燃ポリエステルフィルムであり、該ポリエステル層Aはカルボキシホスフィン酸化合物またはカルボキシ亜ホスフィン酸化合物の少なくともいずれか1種に由来する成分を該ポリエステル層Aに対しリン原子として0.01重量%以上3重量%以下の範囲で含み、かつ該ポリエステルフィルムにおける広角X線回折測定で得られるブラッグ角25°~29°の回折ピークに相当する結晶面法線のフィルム面法線に対する一致度が0.95以上であり、フィルム厚みが0.2μm以上30μm以下である蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムによって達成される。」
「【発明の効果】
【0014】
本発明の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムは、従来品よりも高い体積・重量エネルギー密度を可能とする薄肉ポリエステルフィルムでありながら、蓄電素子電極用途に適した高い耐突刺し性、耐折り曲げ性および難燃性を有することから、蓄電素子用、特にリチウムイオン二次電池用、電気二重層キャパシタ用、リチウムイオンキャパシタ用の電極に好適なフィルムを提供することができる。」
「【0017】
<ポリエステル層A>
本発明の難燃ポリエステルフィルムは、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするポリエステル層A(以下、層Aと称することがある)を少なくとも1層有し、該ポリエステル層Aはカルボキシホスフィン酸化合物またはカルボキシ亜ホスフィン酸化合物の少なくともいずれか1種に由来する成分(以下、リン系成分Pと称することがある)を該ポリエステル層Aに対しリン原子として0.01重量%以上3重量%以下の範囲で含む。
ここで「主たる」とは、層Aの重量に対して65重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、特に好ましくは85重量%以上を意味する。
本発明のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレートであることが好ましい。」
「【0030】
<ポリエステル層B>
本発明の難燃ポリエステルフィルムは積層構成であってもよく、積層構成の場合には層Aの少なくとも片面に、さらにポリエステル層B(以下、層Bと称することがある)が積層され、該ポリエステル層Bの主たる成分がポリエチレンナフタレンジカルボキシレートであって、さらに層Bにおけるカルボキシホスフィン酸化合物またはカルボキシ亜ホスフィン酸化合物の少なくともいずれか1種に由来する成分のリン原子としての含有量が層Bを基準として0重量%以上1重量%以下かつ層Aのリン原子含有量以下であることが好ましい。
ここで「主たる」とは、該層Bの重量に対しポリエチレンナフタレンジカルボキシレートの含有量が80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上を意味する。
リン系成分Pを含まないかその含有量の少ない層Bをさらに有することにより、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレート本来の耐折り曲げ特性をさらに維持することができる。
【0031】
層Bを構成するポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレートであることが好ましい。該ポリエステルのリン系成分P以外の共重合成分、製造方法などは層Aのポリエチレンナフタレンジカルボキシレートに準じる。」
「【0033】
<その他成分>
本発明の難燃ポリステルフィルムには、フィルムの取り扱い性を向上させるため、発明の効果を損なわない範囲で不活性粒子などが添加されていても良い。不活性粒子としては、例えば、周期律表第IIA、第IIB、第IVA、第IVBの元素を含有する無機粒子(例えば、カオリン、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素など)、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン、架橋アクリル樹脂粒子等の耐熱性の高いポリマーよりなる粒子が挙げられる。
不活性粒子を含有させる場合、不活性粒子の平均粒径は、0.001~5μmの範囲が好ましく、フィルム全重量に対して0.01~10重量%の範囲で含有されることが好ましく、さらに好ましくは0.05~5重量%、特に好ましくは0.05~3重量%である。
また難燃ポリエステルフィルムが2層以上の積層構造を有する場合、不活性粒子はいずれの層に配合されても構わない。」
「【0040】
<フィルム厚み>
本発明の難燃ポリエステルフィルムは、フィルム厚みが0.2μm以上30μm以下である。上限値をこえる厚いフィルムを電極基材とするのでは従来の金属箔より厚くなってしまい、蓄電素子のエネルギー密度、特に体積エネルギー密度の向上につながらない。一方、フィルム厚みが下限値に満たないほど薄い場合、フィルムの製造が極めて困難となる。より好ましいフィルム厚みとしては、0.2μm以上20μm以下、さらに好ましくは0.2μm以上12μm以下、特に好ましくは0.5μm以上10μm以下である。本発明の難燃ポリエステルフィルムが積層構成を有する場合も、かかるフィルム厚みの範囲であることが好ましい。
【0041】
<熱収縮率>
本発明の難燃ポリエステルフィルムは、150℃×30分の非拘束熱処理後のフィルム収縮率が、フィルムMD方向、フィルムTD方向のいずれにおいても5%以下であることが、後工程における加工の精度、短絡の防止などのために好ましく、また反応面積を安定化させることができる。かかる熱収縮率は、さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは2%以下である。
これらの熱収縮率特性を得るための手段として、延伸後のフィルムに該ポリエステルのガラス転移点以上、(融点-15℃)以下の範囲で熱固定処理を行うことが好ましい。また、ボーイング現象によりフィルム両端部の光軸安定性が損なわれない範囲内でトーインをつけてもよい。」
「【0046】
<フィルム表面加工>
本発明の難燃ポリエステルフィルムは、後述する導電性薄膜との接着性を向上させる目的で表面加工されていてもよい。表面加工の方法は特に限定されないが、易接剤層の塗布、コロナ処理、プラズマ処理などが好ましく例示される。これらの表面加工は、フィルムを製膜する工程中で行っても、また製膜工程とは別の工程で行ってもよい。
【0047】
<導電性薄膜>
本発明の難燃ポリエステルフィルムは、少なくとも一方の面に導電性薄膜が形成されることが好ましい。本発明のポリエステルフィルムを蓄電素子における集電体としての機能を持つ電極用基材フィルムとして使用するために、フィルム上に電極剤を塗布などにより設けて使用される。しかしながら、かかる電極剤層は電極剤化合物の微粒子をバインダー樹脂でつなぎ合わせて形成されるケースが多く、該層の一端から集電するのでは内部抵抗が大きくなるため、望まない発熱が生じたり電池としての電圧のロスが生じることがある。
そのため、電極剤層を設けるにあたり、難燃ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面にまず導電性薄膜を設けて導電性を持たせ、該導電性薄膜上に電極剤層を設けることにより、電極表面全体から集電することが可能となり、内部抵抗によるロスを少なくすることができる。すなわち、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に導電性薄膜が形成されることにより、導電性薄膜を介して電極剤とポリエステルフィルムとの電気的接続を高めることができ、蓄電素子の電極として十分に機能させることができる。
【0048】
導電性薄膜は十分な導電性を得るため、金属薄膜であることが好ましい。薄膜を形成する金属としては、本発明の目的から導電性のものであれば特に限定はされない。例えばアルミニウム、ニッケル、金、銀、銅、カドミウムなどが挙げられる。導電度の高さ、成膜容易性、取扱い性、さらには安定性、すなわち電極剤化合物に好ましくない反応を起こさせないための正負両極の電位差(「電位窓」と呼ばれる)などの観点から、蓄電素子がリチウムイオン二次電池である場合は、正極用電極にはアルミニウム元素を主たる成分とするもの、負極用電極には銅元素を主たる成分とするものを用いることが好ましい。また、蓄電素子が電気二重層キャパシタの場合、電気化学反応は起こさないため、例示した金属薄膜のいずれを用いてもよく、また両極とも同じ種類の金属薄膜を用いてもよい。
【0049】
導電性薄膜の厚みは、1nm以上5000nm以下の範囲であることが好ましく、電池の内部抵抗発熱を抑える目的から、10nm以上5000nm以下であることがさらに好ましい。また、軽量化への寄与、薄膜の耐折曲げ性の観点からは10nm以上3000nm以下であることがさらに好ましい。
導電性薄膜の作成方法は限定されないが、めっき、真空蒸着、エレクトロプレーティング、スパッタリングなどの方法を例示できる。
金属薄膜以外の導電性薄膜の具体例として、金属酸化物のような無機導電体や、有機導電体などであってもよい。」
「【0051】
さらに、ポリエステルフィルムの両面に金属薄膜を形成し、両面が異種の材料である具体例として、一方の面に形成される金属薄膜がアルミニウム元素を主たる成分とするものであり、他方の面に形成される金属薄膜が銅元素を主たる成分とするものである態様が挙げられる。この場合は、アルミニウム元素を主たる成分とする金属薄膜の上に正極用の電極剤を積層することにより、一方の面は正極用電極として機能させ、他方、銅元素を主たる成分とする金属薄膜の上に負極用の電極剤を積層することにより、反対面は負極用電極として機能させることができる。
このような異種の金属薄膜を両面に形成する構成の場合、特に、リチウムイオン二次電池の電極基材として用いる際、正極集電体であるアルミニウム層と負極集電体である銅層が、絶縁体であるポリエステルフィルムにより隔てられるため、短絡の可能性が少なくなる利点がある。また、セパレータや電解質層などと積層した後、巻回や積層により電池を製造する際にも、構成要素の種類が従来品より少なくなるため、生産性にも優れ、きわめて好ましい。
【0052】
<蓄電素子用電極および蓄電素子>
本発明の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に導電性薄膜を形成し、さらにその面上に電極剤を積層することにより、蓄電素子用電極として用いることができる。
本発明の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムを電極用基材層として用いることにより、従来品の金属基材に対し、基材の薄膜化による蓄電素子の体積エネルギー密度の向上が可能となる。また、金属基材に代えてポリエステルフィルムを用いることにより、電極基材の軽量化による蓄電素子の重量エネルギー密度の向上が可能となる。
さらに、本発明の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムを電極用基材層として用いることにより、厚みの薄い樹脂基材でありながら優れた耐突刺し性、耐折り曲げ性を有するため導通による短絡を防止でき、また万一の短絡による発火に際しても難燃機能を発現することができる。
【0053】
リチウムイオン二次電池の電極として用いる場合には、リチウムイオンに対するインターカレーション機能を持つ電極剤を積層することが好ましい。かかる電極剤の具体例として、従来から知られているもの、例えば正極用にはコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどのリチウム・遷移金属複合酸化物を主たる成分とする電極剤、また負極用には黒鉛、カーボンナノチューブなどのアモルファスカーボン構造を有する炭素を主たる成分とする電極剤を用いることができる。」
「【0057】
リチウムイオンキャパシタ用の電極として用いる場合には、リチウムイオン二次電池負極用と同様な電極と組合せて、リチウム塩の電解質を用いることで、リチウムイオンキャパシタを作成することができる。
電気二重層キャパシタの電極として用いる場合には、電極に接触した電解質界面の電気二重層を十分な量発生させるため、本発明のフィルムの導電性薄膜面に活性炭素を主たる成分とする導電性かつ表面積の大きな物質(多孔質のカーボンなど)を電極剤として積層させることが好ましい。
【0058】
本発明の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムを電極基材層とする蓄電素子用電極を用いて得られた蓄電素子は、従来品よりも高い体積・重量エネルギー密度が可能であり、しかも従来よりも薄い基材層でありながら、高い耐突刺し性、耐折り曲げ性を有するため、導通による短絡を防止でき、また万一の短絡による発火に際しても難燃機能を発現することができ、電池の安全性に優れるものである。蓄電素子の具体例として、二次電池、キャパシタなどが挙げられ、さらに詳しくは、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタが挙げられる。」
「【0067】
(3)フィルム厚み
フィルムサンプルをスピンドル検出器(安立電気(株)製K107C)にはさみ、デジタル差動電子マイクロメーター(安立電気(株)製K351)にて、異なる位置で厚みを10点測定し、平均値を求めフィルム厚みとした。」
「【0070】
(6)熱収縮率
温度150℃に設定されたオーブン中に、フィルムの縦方向(MD方向)および横方向(TD方向)がマーキングされ、あらかじめ正確な長さを測定した長さ30cm四方のフィルムを無荷重で入れ、30分間保持処理した後取り出し、室温に戻してからその寸法の変化を読み取る。熱処理前の長さ(L0)と熱処理による寸法変化量(ΔL)より、下記式(4)からMD方向およびTD方向の熱収縮率(%)をそれぞれ求めた。
熱収縮率=(ΔL/L0)×100 ・・・(4)」
「【0077】
[実施例1]
ナフタレン-2,6-ジカルボン酸ジメチルエステル100重量部、エチレングリコール60重量部を、エステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03重量部を使用して常法に従ってエステル交換反応させた後、エチレングリコールに分散させた平均粒径0.3μmの球状シリカ粒子0.07重量部を添加した。ついで、下記式(III)で表わされる2-カルボキシエチルフェニルホスフィン酸を6重量部添加し、三酸化アンチモン0.024重量部を添加して、引き続き高温高真空下で常法にて重縮合反応を行い、固有粘度0.61dl/gのポリエステルを得た。ポリエステル中のリン原子濃度は、表1に示すとおりであった。
【0078】
【化7】
[図:0001430041000001.jpg]
【0079】
得られたポリエステルを180℃ドライヤーで6時間乾燥後、押出機に投入し、295℃で溶融混練し、290℃のダイスよりシート状に成形した。この溶融物を表面温度60℃の回転冷却ドラム上に押出し、厚み88μmの未延伸フィルムを得た。
得られた未延伸フィルムを140℃に加熱したロール群に導き、長手方向(縦方向)に4.1倍で延伸し、60℃のロール群で冷却した。続いて、縦延伸したフィルムの両端をクリップで保持しながらテンターに導き、150℃に加熱された雰囲気中で長手方向に垂直な方向(横方向)に4.3倍で延伸した。その後テンタ-内で230℃の熱固定を行い、180℃で3%の弛緩後、均一に除冷して室温まで冷やし、4.5μm厚みの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0080】
[実施例2]
実施例1と同様の方法によって得られたポリエステルを180℃ドライヤーで6時間乾燥後、押出機に投入し、295℃で溶融混練した(層A)。
一方、層B用ポリエステルを次の方法により得た。ナフタレン-2,6-ジカルボン酸ジメチルエステル100重量部、エチレングリコール60重量部を、エステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03重量部を使用して常法に従ってエステル交換反応させた後、トリメチルフォスフェート0.023重量部を添加し実質的にエステル交換反応を停止した。ついで、三酸化アンチモン0.024重量部を添加し、引き続き高温高真空下で常法にて重縮合反応を行い、固有粘度0.61dl/g、ジエチレングリコール共重合量1.3モル%のポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート(PEN)を得た。得られたポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレートを180℃ドライヤーで6時間乾燥後、他方の押出機に投入し(層B)、それぞれ溶融した状態で3層に積層し(厚み比率層A:層B:層A=1:8:1)、かかる積層構造を維持した状態でダイスよりシート状に成形したのち、実施例1と同様にして未延伸フィルムを得た。フィルム厚みは80μmであった。
延伸倍率を縦方向3.9倍、横方向4.1倍とした以外は、実施例1と同様の条件で延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。」
「【0091】
【表1】
[図:0001430041000002.jpg]
」
(イ)甲1発明
上記(ア)の記載事項によれば、以下のことが理解できる。
a 段落【0001】によれば、甲第1号証には「蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルム」に関する技術分野の発明が記載されているから、甲第1号証の段落【0077】~【0079】に記載された実施例1及び段落【0080】に記載された実施例2は、いずれも「蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルム」についての発明である。
b 段落【0080】によれば、実施例2におけるポリエステルは、実施例1と同様の方法によって得られたポリエステルである。
c 段落【0077】によれば、実施例1のポリエステルは、平均粒径0.3μmの球状シリカ粒子0.07重量部を添加し、重縮合反応を行い、得られるから、実施例2の「ポリエステル」も同様に得られる。
また、段落【0080】によれば、フィルムの層Aは、上記cのポリエステルを押出機に投入し、295℃で溶融混練して得られる。
d 段落【0080】によれば、フィルムの層Bは、重縮合反応を行い、得られたポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレートを、他方の押出機に投入して得られる。
e 段落【0080】によれば、フィルムの層A及び層Bをそれぞれ溶融した状態で3層に積層し(厚み比率層A:層B:層A=1:8:1)、かかる積層構造を維持した状態でダイスよりシート状に成形する。
f 段落【0079】によれば、上記eによる溶融物を表面温度60℃の回転冷却ドラム上に押出し、未延伸フィルムを得る。
g 段落【0079】及び【0080】によれば、上記fで得られた未延伸フィルムを、長手方向(縦方向)に3.9倍で延伸し、続いて、長手方向に垂直な方向(横方向)に4.1倍で延伸して、二軸延伸フィルムが得られる。
以上によれば、甲第1号証には、実施例2に基づく次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムであって、
平均粒径0.3μmの球状シリカ粒子0.07重量部を添加し、重縮合反応を行い、得られたポリエステルを、押出機に投入し、295℃で溶融混練した層Aと、
重縮合反応を行い、得られたポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレートを、他方の押出機に投入して得た層Bとを、
それぞれ溶融した状態で3層に積層し(厚み比率層A:層B:層A=1:8:1)、かかる積層構造を維持した状態でダイスよりシート状に成形し、
この溶融物を表面温度60℃の回転冷却ドラム上に押出し、未延伸フィルムを得、
得られた未延伸フィルムを、長手方向(縦方向)に3.9倍で延伸し、続いて、長手方向に垂直な方向(横方向)に4.1倍で延伸して得られた、二軸延伸フィルムである、
蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルム。」
イ 甲第3号証
甲第3号証の、段落[0090]、段落[0093]、段落[0138]、段落[0139]及び段落[0150]の[表2A]には、実施例3及び4に基づく以下の技術(以下、「甲第3号証に記載された技術」という。)が記載されているといえる。
「表面層(A)/基層(B)/表面層(A)の3層構造の二軸配向ポリエステルフィルムであって、これらフィルムは、一方の面とその反対面の間の静止摩擦係数が、実施例3は0.40、実施例4は0.37、一方の面の算術平均高さSa(平均値)が実施例3は0.015μm、実施例4は0.021μmで、他方の面の算術平均高さSaも同様であり、二軸配向ポリエステルフィルムの表裏は、いずれも表面層(A)がシリカ粒子を含む表裏同一の組成であること。」
ウ 甲第4号証
甲第4号証の、段落【0033】、段落【0058】、段落【0059】及び段落【0064】の【表1】には、実施例1及び2に基づく以下の技術(以下、「甲第4号証に記載された技術」という。)が記載されているといえる。
「2軸延仲ポリエステルフィルムに二酸化珪素を含むポリエステル系共重合樹脂(熱接着性樹脂層)を被覆したポリエステル系フィルムが、一方の面とその反対側の面との静止摩擦係数が、実施例1は0.55μs、実施例2は0.57μsであり、ポリエステル系フィルムにおける熱接着性樹脂層の表面粗度Rt/Raは実施例1は9.5、実施例2は6.8であること。」
(2)当審の判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルム」は、甲第1号証の段落【0003】~【0004】及び段落【0014】を参酌すると、二次電池などの蓄電素子の「集電体機能を持った電極基材として用い」られるものであるから、本件発明1における「電池集電体用ポリエステルフィルム」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点および相違点は次のとおりである。
(一致点)
「電池集電体用ポリエステルフィルム。」
(相違点)
本件発明1は、電池集電体用ポリエステルフィルムが、「(1)一方の表面であるA面と他方の表面であるB面とを重ね合わせて測定される静摩擦係数μsが0.26以上0.75以下。」(以下、「式(1)」という。)及び「(2)一方の表面であるA面の算術平均高さSa(SaA)と他方の表面であるB面の算術平均高さSa(SaB)との比(SaB/SaA)が1以上1.2未満(但し、SaB≧SaA)。」(以下、「式(2)という。」)を満足するのに対し、甲1発明は「静摩擦係数μs」及び「一方の表面であるA面の算術平均高さSa(SaA)と他方の表面であるB面の算術平均高さSa(SaB)との比(SaB/SaA)」(以下、「比(SaB/SaA)」という。)が不明であり、式(1)及び式(2)を満足するのか不明な点。
(イ) 相違点に対する判断
a 甲第1号証には、甲1発明の「蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルム」について、「静摩擦係数μs」や「比(SaB/SaA)」は記載も示唆もされていないから、式(1)及び式(2)を満足することについても、記載や示唆はない。
また、甲第1号証には「蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルム」の静摩擦係数μs及び比(SaB/SaA)を調整して、式(1)及び式(2)を満足するように構成しようとする記載や動機付けもない。
そうすると、甲第1号証に接した当業者が、甲1発明の「蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルム」について、静摩擦係数μs及び比(SaB/SaA)を式(1)及び式(2)を満足するように調整し、相違点に係る構成とすることは、容易になし得るものではない。
b また、上記(1)イ及びウにおける甲第3号証に記載された技術及び甲第4号証に記載された技術をみても、ポリエステルフィルムの比(SaB/SaA)を調整して、式(1)及び式(2)を満足するように構成するものではない。
そうすると、甲1発明の「蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルム」に、甲第3号証に記載された技術及び甲第4号証に記載された技術を適用しても、相違点に係る構成に至らない。
c なお、他に、申立人の提出した甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証をみても、相違点に係る構成は記載されていない。
d 以上によれば、相違点に係る構成は、甲第1号証に基づいて又は甲第1号証並びに甲第3号証及び甲第4号証に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
(ウ) 申立人の主張について
a 申立人は特許異議申立書(47頁下から6行ないし49頁下から1行)において、概略次のように主張する。
(a)甲1発明に基づく進歩性について
本件特許の実施例1ないし6は、いずれもポリエステルフィルムの片面(B)および反対側の面(A面)に、それぞれ同じ樹脂組成物(シリカ粒子を含有する塗布液)が塗布された二軸延伸ポリエステルフィルムであり、甲1発明も、層A/層B/層Aの3層構造のフィルムであり、層Aはシリカ粒子を含有し、甲1発明のフィルムの表裏は、いずれも層A(シリカ粒子を含むポリエステルフィルム)であり、一方の表面と他方の表面とを重ね合わせて測定される静摩擦係数μsが0.26以上0.75以下である蓋然性が高く、かつ、両表面の算術平均高さSaは同程度であることが相当であり、比(SaB/SaA)が1以上1.2未満である蓋然性が高い。
(b)甲1発明並びに甲第3号証及び甲第4号証に基づく進歩性について
甲第3号証は、実施例3、4の二軸配向ポリエステルフィルムが、表面層(A)/基層(B)/表面層(A)の3層構造であり、算術平均高さSa(平均値)が0.015μm、0.021μmで、表面層(A)はシリカ粒子を含むポリエステルフィルムであり、また、甲第4号証は、実施例1、2の2軸延伸ポリエステルフィルムに二酸化珪素を含むポジエステル系共重合樹脂を被覆したポリエステル系フィルムが、一方の面とその反封側の面との静止摩擦係数が、0.55μs、0.57μsであるから、甲第3号証、甲第4号証に記載された事項を参照し、甲1発明のポリエステルフィルムにおいて、式(1)の範囲とすることは、容易に想到し得ることである。
そして、甲第3号証は、実施例3、4の二軸配向ポリエステルフィルムが、一方の面および他方の面の算術平均高さSaが同程度であることが記載(段落[0090])され、比(SaB/SaA)が1以上1.2未満であることを強く示唆してることから、甲第3号証に記載された事項を参照し、甲1発明のポリエステルフィルムにおいて、式(2)の範囲とすることは、容易に想到し得ることである。
b 申立人の上記主張について検討する。
(a)まず、上記主張(a)について検討する。
申立人の主張(a)は、甲1発明の蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムは、本件特許の実施例と同様、フィルムの表裏にシリカ粒子を含有するから、相違点に係る構成の式(1)及び式(2)を満足する蓋然性が高いというものであると解される。
しかしながら、フィルムの静摩擦係数μs及び比(SaB/SaA)は、フィルムに含まれる粒子の材質だけではなく、粒子の粒径、形状、含有量やフィルムの製造手法等によって定まるものであるから、シリカ粒子を含有するという一事を持って、甲1発明が式(1)及び式(2)を満足している蓋然性が高いということはできない。
したがって、申立人の上記主張(a)は採用できない。
(b)次に、上記主張(b)について検討する。
甲1発明は、蓄電素子電極用難燃ポリエステルフィルムであるところ、甲第3号証及び甲第4号証(上記(1)イ及びウ参照。)は、二軸配向ポリエステルフィルム及び2軸延仲ポリエステルフィルムというだけであって、蓄電素子電極用のポリエステルフィルムであることは記載されていないから、甲1発明において、甲第3号証に記載された技術や甲第4号証に記載された技術を採用する動機付けはない。
したがって、申立人の上記主張(b)は採用できない。
(エ)まとめ
以上によれば、本件発明1は、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲第3号証並びに甲第4号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
イ 本件発明2~26について
請求項2~26は、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項であり、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記アと同様の理由により、本件発明2~26は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲第2号証~甲第6号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、請求項2~26に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(3)小括
以上の次第であるから、本件特許の請求項1~26に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
2 申立理由2(サポート要件)について
(1)当審の判断
ア 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。以下検討する。
イ 本件発明の概要
本件明細書の記載によれば、本件発明の概要は以下のとおりである。
従来、電池集電体用ポリエステルフィルムの両面に対して金属薄膜からなる金属層を設ける工程においては、冷却ロールに対するフィルムの密着不全等に起因する生産性等の低下や、冷却ロール間のエア抜け挙動や冷却効率のバランスの欠如等に起因する各金属層の均質性の低下等を改善する観点から、二軸延伸ポリエステルフィルムの表裏面間の表面粗さの関係を特定のものとし、表裏面間の摩擦係数を特定のものとすることが提案されていたところ(段落【0004】)、フィルム両面に形成される各金属層の均質性及び生産性が未だ満足できるものではなく、更なる改善が必要であった(段落【0005】)。
そこで、本件発明は、特許請求の範囲に記載された本件発明の構成を採用することによって、フィルムに形成される金属層の均質性向上、及び、当該ポリエステルフィルムを用いた電池集電体用フィルム箔の生産性向上に寄与できる、電池集電体用ポリエステルフィルムを提供しようとするものである(段落【0006】)。
そして、本件明細書には、静摩擦係数μsは、0.26以上0.75以下の範囲が好ましく、この範囲外になる場合には、フィルムの走行性や搬送性が不十分になる傾向があること(段落【0014】)、比(SaB/SaA)は、1以上1.2未満が好ましく、この上限値を超える場合には、フィルムの両面に付加される熱エネルギーが不均衡になる傾向があり、蒸着後のフィルムにおけるカールの発生を効果的に抑制し難い傾向があること(段落【0015】)が記載されている。
また、本件明細書には、実施例1~6のポリエステルフィルムにおける静摩擦係数、各表面特性、結晶融解温度、収縮率、表面自由エネルギー及び蒸着フィルムのカールについての測定結果及び評価結果が示されており(段落【0178】及び段落【00179】【表3】)、これらの結果について、本件発明の式(1)及び式(2)を満足する実施例1~6のポリエステルフィルムは、静摩擦係数μs及び比(SaB/SaA)が各々特定範囲に制御され、表面自由エネルギーの差の絶対値や比も特定範囲に制御されているから、蒸着される金属層の均質性や密着性が高まり、蒸着フィルムのカールの発生を効果的に抑制することができることが記載されている(段落【0181】)。
ウ 判断
上記イのとおり、本件発明は、電池集電体用ポリエステルフィルムである二軸延伸ポリエステルフィルムの表裏面間の「表面粗さ」と「摩擦係数」を特定のものとするだけでは、電池集電体用ポリエステルフィルムの両面に形成される各金属層の均質性及び生産性について満足できるものではなく、更なる改善が必要であったことを課題とし、「静摩擦係数μs」及び「比(SaB/SaA)」に着目して、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例1~6の測定結果や評価結果から、本件発明の式(1)及び式(2)を満足する電池集電体用ポリエステルフィルムの構成を採用すれば、フィルムに蒸着される金属層の均質性や密着性が高まり、蒸着フィルムのカールの発生を効果的に抑制することができるというものである。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
(2)申立人の主張について
ア 申立人は特許異議申立書において、概略以下のように主張する。
(ア)本件発明1は、2つのパラメータフイルムのみで規定された非常に広範な範囲を含むところ、本件特許の発明の詳細な説明には、極めて特殊な製造方法で得られたフィルム以外には、本件発明1の要件を満たし、発明の課題を解決するフィルムは全く記載されていないため、本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、本件発明1~26は、特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。(特許異議申立書73頁下から6行ないし74頁14行)
(イ)静摩擦係数μs及び比(SaB/SaA)の数値範囲について、本件特許の明細書にはこれらの数値範囲の臨界的意義が十分に示されていないため、当業者は請求項1に記載された数値範囲の全体にわたって発明の課題が解決されると認識することができず、請求項1は発明の詳細な説明に記載した事項の範囲を超えるものであり、本件発明1~26は、特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載したものでない。(特許異議申立書74頁15行ないし下から6行)
(ウ)静摩擦係数μs及び比(SaB/SaA)という2つのパラメータがいかにして上記課題の解決に寄与するのか、そのメカニズムが理論的に説明されておらず、実施例においても「蒸着フィルムのカール」評価のみで金属層の均質性や生産性が十分に検証されていないため、当業者は本件発明1の範囲全体について課題が解決されると認識することができず、本件発明1~26に係る発明は、特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載したものでない。(特許異議申立書74頁下から5行ないし75頁7行)
イ 申立人の上記主張について検討する。
(ア)主張(ア)について
本件明細書の発明の詳細な説明には、ポリエステルとして2種類の原料(段落【0159】)を用いて未延伸シートを得て、その後、3種類の成分(段落【0160】~【0163】)や、平均粒径の異なる2種類のシリカ粒子(段落【0163】、【0164】)等を成分とした6種類の塗布液(C1~C6;段落【0165】)を塗布して、さらに、延伸時の温度や延伸する倍率も変化させながら、電池集電体用ポリエステルフィルムである二軸延伸ポリエステルフィルムを製造した実施例1~6(段落【0166】~【0171】)が記載されている。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、複数の原料や、成分、塗布液を用い、温度や倍率も変化させながら、種々の条件の下、電池集電体用ポリエステルフィルムを製造する製造方法が記載されているから、申立人が主張するように、極めて特殊な条件で成膜されたフィルムが開示されているのみであるとはいえない。
したがって、申立人の上記主張(ア)は採用できない。
(イ)主張(イ)について
上記(1)イのとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、静摩擦係数μsは、0.26以上0.75以下の範囲が好ましく、この範囲外になる場合には、フィルムの走行性や搬送性が不十分になる傾向があること、比(SaB/SaA)は、1以上1.2未満が好ましく、この上限値を超える場合には、フィルムの両面に付加される熱エネルギーが不均衡になる傾向があり、蒸着後のフィルムにおけるカールの発生を効果的に抑制し難い傾向があることが記載されている。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の式(1)及び(2)の数値範囲の意義が示されているといえる。
したがって、申立人の上記主張(イ)は採用できない。
(ウ)主張(ウ)について
上記(1)イのとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、実施例1~6のポリエステルフィルムにおける静摩擦係数、各表面特性、結晶融解温度、収縮率、表面自由エネルギー及び蒸着フィルムのカールについての測定結果及び評価結果が示されており、これらの結果について、本件発明の式(1)及び式(2)を満足する実施例1~6のポリエステルフィルムは、静摩擦係数μs及び比(SaB/SaA)が各々特定範囲に制御され、表面自由エネルギーの差の絶対値や比も特定範囲に制御されているから、蒸着される金属層の均質性や密着性が高まり、蒸着フィルムのカールの発生を効果的に抑制することができることが記載されている。
そうすると、蒸着される金属層の均質性や密着性と、蒸着フィルムのカールの発生には相関があることが理解できるから、本件発明の課題を解決するためのメカニズムについての記載が不十分であるということはできない。
したがって、申立人の上記主張(ウ)は採用できない。
(3)小括
以上によれば、本件発明1~26は、発明の詳細な説明に記載したものであり、本件特許は、特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
3 申立理由3(実施可能要件)について
(1)当審の判断
ア 発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすというためには、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度の記載があることを要する。以下検討する。
イ 上記2(2)イ(ア)のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、ポリエステルとして2種類の原料を用いて未延伸シートを得て、その後、平均粒径の異なる2種類のシリカ粒子等を成分とした6種類の塗布液を塗布して、さらに、延伸時の温度や延伸する倍率も変化させながら、電池集電体用ポリエステルフィルムである二軸延伸ポリエステルフィルムを製造した実施例1~6(段落【0166】~【0171】)が記載されている。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の電池集電体用ポリエステルフィルムについて、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されている。
(2)申立人の主張について
申立人は特許異議申立書(75頁8行~下から4行)において、実施可能要件について、上記2(2)アのサポート要件と同様の主張をする。
しかしながら、申立人のサポート要件についての主張が採用できないことは、上記2(2)イのとおりであるから、申立人の実施可能要件についての主張も同様の理由により採用できない。
(3)小括
以上によれば、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1~26を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、本件特許は、特許法第36条第4項第1号の規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~26に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~26に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700811