特許異議申立
2025-700766
唐揚げバッター用粉体組成物
- 審判番号
- 2025-700766
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-528863
- 登録番号
- 7622059
- 請求日
- 2025年07月25日
- 審決日
- 2026年03月27日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社J-オイルミルズ
- 【権利者代理人】速水 進治
- 【異議申立人】小形谷 美致子
- 審判長/審判官
- 審判長 植前 充司
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 宮久保 博幸
- 分類
- P1651.113-YAA(A23L) / P1651.121-YAA(A23L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項特許法113条2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7622059号発明「唐揚げバッター用粉体組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7622059号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。
特許第7622059号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7622059号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2021年(令和3年)6月2日(優先権主張 令和2年6月3日)を国際出願日とする出願であって、令和7年1月17日にその特許権の設定登録(請求項の数11)がされ、同年同月27日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、令和7年7月25日に特許異議申立人 小形谷 美致子(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、同年10月10日付けで取消理由が通知され、同年12月12日に特許権者 株式会社J-オイルミルズ(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされるとともに意見書の提出がされ、同年同月22日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、申立人からは何ら応答がなかったものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、「特許第7622059号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の内容等
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「当該粉体組成物中の前記成分(C)の含有量に対する前記成分(B)の含有量の質量比((B)/(C))が0.6以上3以下であり、」
とあるのを、
「当該粉体組成物中の前記成分(C)の含有量に対する前記成分(B)の含有量の質量比((B)/(C))が1.0以上3以下であり、」
に訂正する。(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~5についても同様に訂正する。)
(2)一群の請求項について
訂正前の請求項1~5について、請求項2~5は請求項1を直接または間接的に引用して特定するものであるから、訂正前の請求項1~5に対応する訂正後の請求項1~5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、唐揚げバッター用粉体組成物中の成分(C)の含有量に対する成分(B)の含有量の質量比((B)/(C))について「0.6以上3以下であり、」とあるのを、「1.0以上3以下であり、」に訂正することによって数値範囲を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、本件特許の明細書の【0053】の【表1】、【0056】の【表2】及び【0059】の【表3】の記載からみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~5についても同様である。
4 独立特許要件について
本件においては、訂正前の請求項1~5に対して特許異議の申立てがされているので、上記訂正事項に係る訂正については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
5 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1~11に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明11」という。また、総称して「本件発明」という。)は、令和7年12月12日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
以下の成分(A)~(C):
(A)穀粉
(B)酸化澱粉
(C)架橋澱粉
を含み、水に分散させて用いられる唐揚げバッター用粉体組成物であって、
前記成分(A)が、小麦粉および大豆粉からなる群から選択される少なくとも1種であり、
当該粉体組成物中の前記成分(C)の含有量に対する前記成分(B)の含有量の質量比((B)/(C))が1.0以上3以下であり、
当該粉体組成物中の澱粉の合計量に対する前記成分(B)および(C)の合計量の質量比(((B)+(C))/澱粉)が、0.68以上1以下であり、
当該粉体組成物中の前記成分(A)の含有量に対する前記成分(B)および(C)の合計量の質量比(((B)+(C))/(A))が、0.2以上2.0以下であり、
前記成分(B)が、アセチル化酸化澱粉以外の酸化澱粉である、粉体組成物。
【請求項2】
前記成分(A)が小麦粉を含む、請求項1に記載の粉体組成物。
【請求項3】
前記成分(B)が酸化タピオカ澱粉である、請求項1または2に記載の粉体組成物。
【請求項4】
前記成分(C)がリン酸架橋タピオカ澱粉である、請求項1乃至3いずれか1項に記載の粉体組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか1項に記載の粉体組成物と、水とを含む、バッター。
【請求項6】
以下の成分(A)~(C):
(A)穀粉
(B)酸化澱粉
(C)架橋澱粉
を含む唐揚げバッター用粉体組成物を水に分散させて得られるバッターを、種物の外側に付着させる工程と、
前記バッターが付着した前記種物を加熱調理して唐揚げを得る工程と、
前記唐揚げを40℃以上で温熱保存する工程と、
を含み、
前記成分(A)が、小麦粉および大豆粉からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記唐揚げバッター用粉体組成物中の前記成分(C)の含有量に対する前記成分(B)の含有量の質量比((B)/(C))が0.6以上3以下であり、
前記唐揚げバッター用粉体組成物中の澱粉の合計量に対する前記成分(B)および(C)の合計量の質量比(((B)+(C))/澱粉)が、0.68以上1以下であり、
当該粉体組成物中の前記成分(A)の含有量に対する前記成分(B)および(C)の合計量の質量比(((B)+(C))/(A))が、0.2以上2.0以下であり、
前記成分(B)が、アセチル化酸化澱粉以外の酸化澱粉である、唐揚げの製造方法。
【請求項7】
前記加熱調理が油ちょうである、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記油ちょうに用いる揚げ油が、脂肪酸組成中のオレイン酸含有量が35質量%以上85質量%以下の食用油脂である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
以下の成分(A)~(C):
(A)穀粉
(B)酸化澱粉
(C)架橋澱粉
を含む唐揚げバッター用粉体組成物を水に分散させて得られるバッターを、種物の外側に付着させる工程と、
前記バッターが付着した前記種物を加熱調理して唐揚げを得る工程と、
前記唐揚げを40℃以上で温熱保存する工程と、
を含み、
前記成分(A)が、小麦粉および大豆粉からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記唐揚げバッター用粉体組成物中の前記成分(C)の含有量に対する前記成分(B)の含有量の質量比((B)/(C))が0.6以上3以下であり、
前記唐揚げバッター用粉体組成物中の澱粉の合計量に対する前記成分(B)および(C)の合計量の質量比(((B)+(C))/澱粉)が、0.68以上1以下であり、
当該粉体組成物中の前記成分(A)の含有量に対する前記成分(B)および(C)の合計量の質量比(((B)+(C))/(A))が、0.2以上2.0以下であり、
前記成分(B)が、アセチル化酸化澱粉以外の酸化澱粉である、前記唐揚げバッター用粉体組成物を用いる、唐揚げの衣のねちゃつきを抑制する方法。
【請求項10】
前記加熱調理が油ちょうである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記油ちょうに用いる揚げ油が、脂肪酸組成中のオレイン酸含有量が35質量%以上85質量%以下の食用油脂である、請求項10に記載の方法。」
第4 特許異議申立理由の要旨等
申立人が申し立てた請求項1ないし11に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨及び証拠方法は、次のとおりである。
1 申立理由1-1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由1-2(甲第4号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 申立理由2-1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし11に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
4 申立理由2-2(甲第4号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし11に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
5 証拠方法
・甲第1号証:特開2019-134694号公報
・甲第2号証:特開2016-10413号公報
・甲第3号証:特開2016-174535号公報
・甲第4号証:特開2015-223119号公報
・甲第5号証:特開2003-70437号公報
・甲第6号証:国際公開第2017/188089号
・甲第7号証:「油屋のふたことみこと ~油売りによるブログ~ 「サラダ油」っていったい何なんでしょう??」、<URL:https://www.yoil.co.jp/blog/1937.php>、2019年12月12日
・甲第8号証:「日本食品標準成分表2015年版(七訂) 脂肪酸成分表編第2章第2表 14油脂類」、<URL:https://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/12/24/1365494_3-0214-2.pdf>、2015年12月25日
・甲第9号証:相馬邦彦他、「フライ油としての高オレイン酸ひまわり油の官能特性」、日本食品科学工学会誌、日本食品科学工学会、2017年6月15日、第64巻、第6号、p.302-311
・甲第10号証:特開2003-64395号公報
・甲第11号証:国際公開第2019/021606号
なお、証拠の表記については、特許異議申立書における記載におおむね従った。以下、順に「甲1」「甲2」のようにいう。
第5 令和7年10月10日付けで通知した取消理由の概要
令和7年10月10日付けで通知した取消理由の概要は次のとおりである。
なお、該取消理由は、申立理由1-1及び2-1のうち請求項1ないし5に係る部分とおおむね同旨である。
取消理由1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由2(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第6 当審の判断
当審は、取消理由1及び2並びに申立理由1-1、1-2、2-1及び2-2によって、本件発明1~11についての特許を取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおり。
取消理由1及び2についての判断は申立理由1-1及び2-1の判断と重複するため、まとめて示す。
1 取消理由1及び2並びに申立理由1-1及び2-1(甲1を主たる証拠とする新規性・進歩性)について
(1) 甲1の記載事項等
ア 甲1の記載事項
甲1には「揚げ物用バッターミックス」に関し、次の記載がある。下線は当審で付したものである。
・「【請求項1】
加工澱粉を含む穀粉類と、表面が油脂の被膜で被覆された重曹とを含有する揚げ物用バッターミックス。
【請求項2】
前記加工澱粉が、酸化澱粉、架橋澱粉、アセチル化澱粉及びエーテル化澱粉からなる群から選択される1種以上である請求項1に記載の揚げ物用バッターミックス。
・・・
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の揚げ物用バッターミックスと液体とを含む揚げ物用バッター。
【請求項8】
請求項7に記載の揚げ物用バッターを具材に付着させた後、該具材を加熱調理する工程を有する、衣付き揚げ物の製造方法。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
揚げ物用バッターミックスに加工澱粉を含有させることで、該ミックスを用いて得られた衣付き揚げ物の衣の食感などが向上し得るが、その反面、衣の伝熱性(いわゆる火通り)が悪くなる傾向があり、特に衣における具材との接触部分においてその傾向が顕著となる。そのため、加工澱粉を含有するミックスを用いて衣付き揚げ物を製造した場合、油ちょう時において衣の厚み方向全体に熱が通りにくく、衣の表面側は火通りがよいために十分に揚がっても、衣の具材側は火通りが悪いために揚げが不十分となりやすく、その結果、衣付き揚げ物が、衣と具材との間に生っぽい不快なねちゃり感があるものとなってしまうという問題がある。また、衣の火通りが悪いと、油ちょう時間が長くならざるを得ず、その結果、調理の簡便性が低下することに加えて、具材からの水分の蒸発量が多くなることに起因して、具材のジューシー感が損なわれ、具材の食感が硬くパサついたものとなるという問題もある。このような、揚げ物用ミックスにおける加工澱粉の使用に特有の問題を解決し得る技術は未だ提供されていない。
【0008】
本発明の課題は、加熱調理時における火通りが良好で、衣及び具材の食感に優れ、しかも製造後ある程度時間が経過してもその良好な食感を維持し得る衣付き揚げ物を製造可能な揚げ物用バッターミックスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、加工澱粉を含む穀粉類と、表面が油脂の被膜で被覆された重曹とを含有する揚げ物用バッターミックスである。
【0010】
また本発明は、前記の本発明の揚げ物用バッターミックスと液体とを含む揚げ物用バッターである。
また本発明は、前記の本発明の揚げ物用バッターを具材に付着させた後、該具材を加熱調理する工程を有する、衣付き揚げ物の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、加熱調理時における火通りが良好で、衣及び具材の食感に優れ、しかも製造後ある程度時間が経過してもその良好な食感を維持し得る衣付き揚げ物を製造可能な揚げ物用バッターミックスが提供される。本発明の揚げ物用バッターミックス又は該ミックスを用いた揚げ物用バッターを用い、常法に従って加熱調理(油ちょう)されて製造された衣付き揚げ物は、衣が、カリっとして適度な硬さを持つ良好な食感を有すると共に、具材が、ジューシーで軟らかい食感であり、且つ衣と具材との間に不快なねちゃり感がなく、しかも経時耐性に優れ、加熱調理から時間が経過しても品質の低下が少ない。」
・「【0012】
本発明の揚げ物用バッターミックスは穀粉類を含有するところ、該穀粉類には加工澱粉が含まれる。ミックスに加工澱粉が含まれることで、該ミックスを用いて得られた衣付き揚げ物は、特に衣の食感に優れたものとなる。加工澱粉としては、原料澱粉(未加工澱粉)に、油脂加工、α化、エーテル化、エステル化(アセチル化)、架橋、酸化等の処理の1つ以上を施したものを用いることができる。本発明では1種類の加工澱粉を用いてもよく、2種類以上の加工澱粉を併用してもよい。原料澱粉としては、その種類に制限はなく、例えば、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、サツマイモ澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉などが挙げられる。本発明では加工澱粉として市販品を用いることもできる。
【0013】
本発明において好ましい加工澱粉として、酸化澱粉、架橋澱粉、アセチル化澱粉、エーテル化澱粉が挙げられる。特に好ましい加工澱粉は、酸化澱粉、リン酸架橋澱粉である。尚、ここに挙げた4種類の加工澱粉は、それぞれ、その名称となっている処理(酸化、架橋、アセチル化、エーテル化)に加えてさらに他の処理が施されていてもよい。例えば、酸化澱粉及び架橋澱粉は、それぞれ、さらにアセチル化及び/又はエーテル化されていてもよく、その場合、例えばアセチル化された酸化澱粉は、酸化澱粉でもあり、アセチル化澱粉でもある。」
・「【0017】
本発明の揚げ物用バッターミックスにおいて、該ミックスに含まれる穀粉類(穀粉と加工澱粉を含む澱粉とからなる群)における加工澱粉の含有量は、該穀粉類の全質量に対して、好ましくは0.1~80質量%、より好ましくは10~60質量%である。ミックス中の穀粉類における加工澱粉の含有量が少なすぎると、加工澱粉を使用する意義に乏しく、該含有量が多すぎると、該ミックスを用いた衣付き揚げ物の製造において加熱調理時の火通りが悪くなり、衣と具材との間に不快なねちゃり感のある衣付き揚げ物となってしまうおそれがある。」
・「【0040】
(油脂被覆重曹の製造)
流動層コーティング用装置として高速撹拌機(パウレック社製 VG-05)用い、これに重曹(炭酸水素ナトリウム)475gと、所定量の下記油脂A~Eのいずれか1種とを投入し、ブレード回転数500rpm、クロススクリュー回転数2000rpmの条件下にて25℃で40分間混合した。次いで、45℃の恒温槽にて5時間のテンパリングを行って、重曹の表面が油脂の被膜で被覆された油脂被覆重曹を製造した。
・油脂A:硬化油脂、融点35℃
・油脂B:硬化油脂、融点45℃
・油脂C:硬化油脂、融点55℃
・油脂D:硬化油脂、融点58℃
・油脂E:硬化油脂、融点70℃
【0041】
〔実施例1~9及び比較例1~3〕
酸化澱粉(松谷化学(株)製、商品名「スタビローズTA-8」)、リン酸架橋澱粉((株)J-オイルミルズ製、商品名「TP-2」)、前記油脂Dを用いて製造された油脂被覆重曹、重曹(旭硝子(株)製、商品名「重曹」、油脂被覆されていない通常の重曹)、親油性乳化剤(三菱ケミカルフーズ(株)製、商品名「リョートーシュガーエステルS-770、HLB値7」)、調味料ミックス、小麦粉(薄力粉、日清製粉(株)製、商品名「フラワー」)を下記表1に示す割合で均一に混合して、から揚げ用バッターミックスを製造した。前記調味料ミックスとして、塩、胡椒、粉末醤油、オニオンパウダー、ガーリックパウダーをそれぞれ適量配合したものを用いた。」
・「【0044】
〔試験例〕
各実施例及び比較例のから揚げ用バッターミックス100gを水100ccとよく混合してバッターを調製した。各バッターに鶏もも肉の細片25g/個を20個ずつ入れてよく絡めた。バッターの付着した鶏もも肉を170℃に熱したサラダ油で4分間油ちょうして、鶏肉のから揚げを製造した。調理直後のから揚げ(室温(約25℃)に5分間放置したから揚げ)、及び調理後に室温にて1時間放置したから揚げを、それぞれ、訓練された専門の専門パネラー10名に食してもらい、衣及び具材それぞれの食感、衣と具材との間のねちゃり感を下記評価基準により評価してもらった。結果を10名それぞれの評価点(5点満点)の平均値として下記表1~表3に示す。
【0045】
(衣の食感の評価基準)
5点:カリッとした好ましい硬さが全体にあり、極めて良好。
4点:カリッとした硬さがあり、良好。
3点:カリッとした硬さに物足りなく、やや良好。
2点:カリッとした硬さに乏しく、やや軟らかくベタついているか、硬すぎるか、又はやや歯脆く軽過ぎる食感であり、やや不良。
1点:カリッとした硬さがなく、軟らかくベタついているか、非常に硬いか、又は非常に歯脆く軽過ぎる食感であり、極めて不良。
(具材の食感の評価基準)
5点:非常にジューシーで軟らかく、極めて良好。
4点:ジューシーで軟らかく、良好。
3点:ややジューシーで軟らかく、やや良好。
2点:ジューシーさに乏しく、ややボソつきがあって硬く、やや不良。
1点:ジューシーさがなく、乾いた感じがあって硬く、極めて不良。
(衣と具材との間のねちゃり感の評価基準)
5点:衣と具材との間にねちゃり感が全く感じられず、極めて良好。
4点:衣と具材との間にねちゃり感がほとんど感じられず、良好。
3点:衣と具材との間にねちゃり感がやや感じられるが、やや良好。
2点:衣と具材との間にねちゃり感が感じられ、やや不良。
1点:衣と具材との間にねちゃり感が強く感じられ、極めて不良。
【0046】
【表1】
[図:0001436201000001.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
上記アの記載、特に比較例3として調製された唐揚げ用バッターミックス、バッター及びから揚げの記載について整理すると、甲1には次の発明が記載されていると認める。
「酸化澱粉(松谷化学(株)製、商品名「スタビローズTA-8」)を20質量%、リン酸架橋澱粉((株)J-オイルミルズ製、商品名「TP-2」)を25質量%、重曹を1質量%、調味料ミックスを5質量%含み、残余が小麦粉からなる、から揚げ用バッターミックス。」(以下、「甲1発明」という。)
「甲1発明100gを水100ccと混合して調製したバッター。」(以下、「甲1バッター発明」という。)
「酸化澱粉(松谷化学(株)製、商品名「スタビローズTA-8」)を20質量%、リン酸架橋澱粉((株)J-オイルミルズ製、商品名「TP-2」)を25質量%、重曹を1質量%、調味料ミックスを5質量%含み、残余が小麦粉からなる、から揚げ用バッターミックス100gを水100ccと混合してバッターを調製し、調製したバッターに鶏もも肉の細片25g/個を20個入れてよく絡める工程と、
バッターの付着した鶏もも肉を170℃に熱したサラダ油で4分間油ちょうして鶏肉のから揚げを製造する工程と、
製造したから揚げを調理後に室温にて1時間放置する工程を有する、
鶏肉のから揚げの製造方法。」(以下、「甲1製法発明」という。)
さらに、甲1(【0007】~【0008】、【0044】)には、得られた衣付き揚げ物について、衣及び具材それぞれの食感を良好なものとし、衣と具材との間のねちゃり感がないものとすることが記載されているから、甲1には以下の発明も記載されていると認める。
「酸化澱粉(松谷化学(株)製、商品名「スタビローズTA-8」)を20質量%、リン酸架橋澱粉((株)J-オイルミルズ製、商品名「TP-2」)を25質量%、重曹を1質量%、調味料ミックスを5質量%含み、残余が小麦粉からなる、から揚げ用バッターミックス100gを水100ccと混合してバッターを調製し、調製したバッターに鶏もも肉の細片25g/個を20個入れてよく絡める工程と、
バッターの付着した鶏もも肉を170℃に熱したサラダ油で4分間油ちょうして鶏肉のから揚げを製造する工程と、
製造したから揚げを調理後に室温にて1時間放置する工程を有する、
鶏肉のから揚げの食感を良好なものとし、衣と具材との間のねちゃり感がないものとする方法。」(以下、「甲1方法発明」という。)
(2) 対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明との対比
甲1発明の「から揚げ用バッターミックス」は、水と混合してから揚げ用バッターを調製するためのものであるから、本件発明1の「水に分散させて用いられる唐揚げバッター用粉体組成物」に相当する。
甲1発明の「リン酸架橋澱粉((株)J-オイルミルズ製、商品名「TP-2」)」は、本件発明1の「(C)架橋澱粉」に相当する。
甲1発明の「小麦粉」は、本件発明1の「(A)穀粉」に相当し、「前記成分(A)が、小麦粉および大豆粉からなる群から選択される少なくとも1種であり」との特定事項を満たす。
甲1発明の「酸化澱粉(松谷化学(株)製、商品名「スタビローズTA-8」)」は、本件発明1の「(B)酸化澱粉」に相当する。また、「スタビローズTA-8」は酸化タピオカ澱粉である(要すれば甲2の【0058】を参照。)から、甲1発明は本件発明1の「前記成分(B)が、アセチル化酸化澱粉以外の酸化澱粉である」との特定事項を満たす。
そして、甲1発明は、酸化澱粉及びリン酸架橋澱粉以外の澱粉を含まないから、粉体組成物中の澱粉の合計量に対する前記成分(B)および(C)の合計量の質量比(((B)+(C))/澱粉)は1であり、本件発明1の「当該粉体組成物中の澱粉の合計量に対する前記成分(B)および(C)の合計量の質量比(((B)+(C))/澱粉)が、0.68以上1以下であり」との特定事項を満たす。
また、甲1発明は、他成分の残余である小麦粉を49質量%含むから、粉体組成物中の前記成分(A)の含有量に対する前記成分(B)および(C)の合計量の質量比(((B)+(C))/(A))は約0.92と算出され、本件発明1の「当該粉体組成物中の前記成分(A)の含有量に対する前記成分(B)および(C)の合計量の質量比(((B)+(C))/(A))が、0.2以上2.0以下であり」との特定事項を満たす。
一方、甲1発明は、酸化澱粉を20質量%、リン酸架橋澱粉を25質量%含有し、粉体組成物中の前記成分(C)の含有量に対する前記成分(B)の含有量の質量比((B)/(C))は0.8と算出される。
してみると、両者の間の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「以下の成分(A)~(C):
(A)穀粉
(B)酸化澱粉
(C)架橋澱粉
を含み、水に分散させて用いられる唐揚げバッター用粉体組成物であって、
前記成分(A)が、小麦粉および大豆粉からなる群から選択される少なくとも1種であり、
当該粉体組成物中の澱粉の合計量に対する前記成分(B)および(C)の合計量の質量比(((B)+(C))/澱粉)が、0.68以上1以下であり、
当該粉体組成物中の前記成分(A)の含有量に対する前記成分(B)および(C)の合計量の質量比(((B)+(C))/(A))が、0.2以上2.0以下であり、
前記成分(B)が、アセチル化酸化澱粉以外の酸化澱粉である、粉体組成物。」
(相違点)
・相違点1-1
唐揚げバッター用粉体組成物中の成分(C)(架橋澱粉)の含有量に対する成分(B)(酸化澱粉)の含有量の質量比((B)/(C))について、本件発明1が「1.0以上3以下であり、」と特定するのに対し、甲1発明は酸化澱粉を20質量%、リン酸架橋澱粉を25質量%含有し、成分(C)の含有量に対する成分(B)の含有量の質量比((B)/(C))が0.8である点。
(イ)相違点についての判断
相違点1-1が実質的な相違点であることは明らかであり、本件発明1は甲1発明ではない。
また、甲1には、唐揚げバッター用粉体組成物中の架橋澱粉の含有量に対する酸化澱粉の含有量の質量比に着目し、これを「1.0以上」とする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。したがって、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲1発明において相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
そして、本件発明1は「温蔵保存後の唐揚げの衣のねちゃつきを抑制することができる。」(【0008】)という本件発明1の構成から当業者が予測することのできた範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の26~30頁において、申立理由1-1及び2-1について概略以下の点を主張している。
甲1の請求項1、2、7、【0012】~【0017】、【0041】、【0044】、【0046】【表1】の記載から、甲1には、以下の甲1発明Bが開示されているといえる。
<甲1発明B>
「以下の成分(a)~(c):
(a)小麦粉
(b)酸化澱粉(酸化タピオカ澱粉)及び/又は(c)架橋澱粉(リン酸架橋タピオカ澱粉)
を含み、水に分散させて用いられるから揚げ用バッターミックスであって、
前記成分(b)が、アセチル化酸化澱粉以外の酸化澱粉である、から揚げ用バッターミックス及びこのから揚げ用バッターミックスと水とを含むバッター。」
本件発明1~5と甲1発明Bとを対比すると、甲1発明Bでは成分(b)と成分(c)の質量比を本件発明1~5の数値範囲とすることが明記されていない点で相違するが、比較例2に対する比較例3の有利な効果に着目し、その配合比を採用することは当業者が容易になし得る。また、甲4及び甲5の記載に基づき、甲1発明Bにおいて酸化澱粉とリン酸架橋澱粉を併用し、本件発明1~5における数値範囲を満たすように配合することは当業者が容易になし得る。
そこで、検討する。甲1には、ミックスに加工澱粉が含まれ、2種類以上の加工デンプンを併用してもよいこと(【0012】)が記載され、さらに好ましい加工澱粉として酸化澱粉、リン酸架橋澱粉が例示(【0013】)されている。しかしながら、これらの記載を参酌しても、甲1に、酸化澱粉及び架橋澱粉という特定の澱粉に着目し、これらを併用する旨の記載があるとまではいえない。実際、【0046】~【0048】の表1~3によれば、実施例1~16においても酸化澱粉及びリン酸架橋澱粉のいずれかのみが用いられており、それらの両方が用いられている例は比較例3のみである。
そうすると、甲1には「から揚げ用バッターミックス」に「(b)酸化澱粉(酸化タピオカ澱粉)及び/又は(c)架橋澱粉(リン酸架橋タピオカ澱粉)」を含むことは記載されておらず、申立人が主張する甲1発明Bを甲1に記載された発明として認定することができない。さらに、仮に申立人が主張するとおりに甲1発明Bを認定できるとしても、当該甲1発明Bにおいて、各成分の配合比を本件発明1で特定される各数値範囲を満たすものとすることが、甲1及び他の証拠の記載から動機付けられるとはいえない。
よって、申立人の主張は採用することができない。
(エ)本件発明1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1は甲1発明ではなく、甲1発明並びに甲1及び他の全ての証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2~4について
本件発明2~4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明1と同様に判断される。
よって、本件発明2~4は甲1発明ではなく、甲1発明並びに甲1及び他の全ての証拠の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明5について
本件発明5と甲1バッター発明とを対比すると、両者の間の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「粉体組成物と、水とを含む、バッター。」
(相違点)
・相違点1-5
粉体組成物について、本件発明5は「請求項1乃至4いずれか1項に記載の」と特定するのに対し、甲1バッター発明は「甲1発明」である点。
相違点1-5について検討すると、相違点1-5は相違点1-1と実質的に同じ内容の相違点を含み、上記アと同様に判断される。
よって、本件発明5は甲1バッター発明ではなく、甲1バッター発明並びに甲1及び他の全ての証拠の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明6について
(ア)本件発明6と甲1製法発明との対比
甲1製法発明の「小麦粉」、「酸化澱粉(松谷化学(株)製、商品名「スタビローズTA-8」)」、「リン酸架橋澱粉((株)J-オイルミルズ製、商品名「TP-2」)」及び「から揚げ用バッターミックス」は、それぞれ本件発明6の「(A)穀粉」、「(B)酸化澱粉」、「(C)架橋澱粉」及び「唐揚げバッター用粉体組成物」に相当する。そして、甲1製法発明は、これらの成分を含むから揚げ用バッターミックス100gを水100ccと混合してバッターを調製し、調製したバッターに鶏もも肉の細片25g/個を20個ずつ入れてよく絡める工程を有するから、本件発明6の
「以下の成分(A)~(C):
(A)穀粉
(B)酸化澱粉
(C)架橋澱粉
を含む唐揚げバッター用粉体組成物を水に分散させて得られるバッターを、種物の外側に付着させる工程と、」「を含み」
との特定事項を満たす。
また、甲1製法発明における「バッターの付着した鶏もも肉を170℃に熱したサラダ油で4分間油ちょうして鶏肉のから揚げを製造する工程」は、本件発明6における「前記バッターが付着した前記種物を加熱調理して唐揚げを得る工程」に相当する。
さらに、甲1製法発明は、から揚げ用バッターミックス中に酸化澱粉を20質量%、リン酸架橋澱粉を25質量%含有し、粉体組成物中の前記成分(C)の含有量に対する前記成分(B)の含有量の質量比((B)/(C))は0.8であるから、本件発明6の「前記唐揚げバッター用粉体組成物中の前記成分(C)の含有量に対する前記成分(B)の含有量の質量比((B)/(C))が0.6以上3以下であり」との特定事項を満たす。
その他の本件発明6の特定事項については上記ア(ア)と同様の相当関係をとることができるから、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「以下の成分(A)~(C):
(A)穀粉
(B)酸化澱粉
(C)架橋澱粉
を含む唐揚げバッター用粉体組成物を水に分散させて得られるバッターを、種物の外側に付着させる工程と、
前記バッターが付着した前記種物を加熱調理して唐揚げを得る工程と、
を含み、
前記成分(A)が、小麦粉および大豆粉からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記唐揚げバッター用粉体組成物中の前記成分(C)の含有量に対する前記成分(B)の含有量の質量比((B)/(C))が0.6以上3以下であり、
前記唐揚げバッター用粉体組成物中の澱粉の合計量に対する前記成分(B)および(C)の合計量の質量比(((B)+(C))/澱粉)が、0.68以上1以下であり、
当該粉体組成物中の前記成分(A)の含有量に対する前記成分(B)および(C)の合計量の質量比(((B)+(C))/(A))が、0.2以上2.0以下であり、
前記成分(B)が、アセチル化酸化澱粉以外の酸化澱粉である、唐揚げの製造方法。」
(相違点)
・相違点1-6
本件発明6が「前記唐揚げを40℃以上で温熱保存する工程」を含むことを特定するのに対し、甲1製法発明は「製造したから揚げを調理後に室温にて1時間放置する工程」を有するものの、40℃以上で温熱保存することが特定されていない点。
(イ)相違点についての判断
甲1には、甲1製法発明により製造したから揚げを温熱保存する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。したがって、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲1製法発明において相違点1-6に係る本件発明6の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
そして、本件発明6は「温蔵保存後の唐揚げの衣のねちゃつきを抑制することができる。」(【0008】)という本件発明6の構成から当業者が予測することのできた範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
よって、本件発明6は、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の31頁において、相違点1-6について概略以下の点を主張している。
調理後の揚げ物に関し、ホットショーケースや温蔵庫で保管することは本件出願日前から一般的な事項(技術常識)であり、例えば、甲第6号証には、フライ(様)食品の製造において、作製した唐揚げについて70℃程度のホットショーケース内で保管した後の食感を評価することが記載されている([0001][0052][0054])。
してみれば、甲第6号証の記載や本件出願日前の技術常識に基づき、甲第1号証に記載された発明においても、唐揚げを40℃以上で温熱保存することは当業者が容易になし得たことである。また、本件特許明細書には、段落[0038]に温蔵保存に好適な温度範囲が記載されるものの、この温度範囲で唐揚げを保存することによって奏される効果については何ら記載されておらず、当業者が想定し得ない格別顕著な効果を発揮するとは認められないことに留意されたい。
そこで、検討する。申立人が提示する甲6に示されるように、唐揚げを温熱保存する技術そのものは、本件特許の出願日における周知技術と認められる。しかしながら、上記(イ)に記載したように、甲1に接した当業者が甲1製法発明を出発点として保存条件を変更することが動機付けられるとはいえない。さらに、本件発明6は、唐揚げを40℃以上で温熱保存する工程を有することにより、「温蔵保存後の唐揚げの衣のねちゃつきを抑制することができる。」という効果を奏するものであり、当該効果は甲1及び甲6並びに他の証拠に基づいて当業者が予測することのできた範囲を超える顕著なものである。
また、申立人が主張する甲1発明Bを甲1に記載された発明として認定できない点については、上記ア(ウ)に記載したとおりである。
そうすると、申立人の主張は上記(イ)に記載した判断を覆すものではなく、採用することができない。
(エ)本件発明6についてのまとめ
以上のとおり、本件発明6は甲1製法発明並びに甲1及び他の全ての証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明7及び8について
本件発明7及び8は、請求項6を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件発明6の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明6と同様に判断される。
よって、本件発明7及び8は甲1製法発明ではなく、甲1製法発明並びに甲1及び他の全ての証拠の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
カ 本件発明9について
本件発明9と甲1方法発明とを対比する。
甲1方法発明における「鶏肉のから揚げの食感を良好なものとし、衣と具材との間のねちゃり感がないものとする方法」は、本件発明9における「唐揚げの衣のねちゃつきを抑制する方法」に相当する。
その他の点は上記エ(ア)と同様の相当関係をとることができるから、両者は以下の点で相違する。
(相違点)
・相違点1-9
本件発明9が「前記唐揚げを40℃以上で温熱保存する工程」を含むことを特定するのに対し、甲1方法発明は「製造したから揚げを調理後に室温にて1時間放置する工程」を有するものの、40℃以上で温熱保存することが特定されていない点。
上記相違点について検討すると、相違点1-9は、実質的に相違点1-6と同じ内容の相違点であり、上記エ(イ)と同様に判断される。
また、相違点1-9について、申立人は特許異議申立書の34~35頁において、相違点1-6についてしたのと概略同様の主張をしているが、当該主張については上記エ(ウ)と同様に判断され、採用することができない。
よって、本件発明9は、甲1方法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
キ 本件発明10及び11について
本件発明10及び11は、請求項9を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件発明9の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明9と同様に判断される。
よって、本件発明10及び11は甲1方法発明並びに甲1及び他の全ての証拠の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)取消理由1及び2並びに申立理由1-1及び2-1(甲1を主たる証拠とする新規性・進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1~5は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、本件発明1~11は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1~11に係る特許は、同法第113条第2号に該当しない。
よって、取消理由1及び2並びに申立理由1-1及び2-1によって本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由1-2及び2-2(甲4を主たる証拠とする新規性・進歩性)について
(1) 甲4の記載事項等
ア 甲4の記載事項
甲4には「水溶きタイプのから揚げ用ミックス」に関し、次の記載がある。下線は当審で付したものである。
・「【請求項1】
小麦粉15~35質量%、酸化澱粉10~20質量%、リン酸架橋澱粉10~18質量%、および重曹0.1~1.0質量%を含有する、水溶きタイプのから揚げ用ミックス。
【請求項2】
ミックス全質量中の重曹量が0.1~1.0質量%となる量の重曹を含む膨張剤を含有する、請求項1記載のから揚げ用ミックス。
【請求項3】
さらに乳化剤を1.0質量%以下の量で含有する、請求項1又は2記載のから揚げ用ミックス。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載の水溶きタイプのから揚げ用ミックスと水を含有するから揚げ用バッター。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項記載の水溶きタイプのから揚げ用ミックスまたは請求項4記載のから揚げ用バッターを用いるから揚げ用の製造方法。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、具材への付着性がよく、かつ外観と食感が良好で、油ちょうから時間が経過しても品質の低下が少ないから揚げを製造することができる、水溶きタイプのから揚げ用ミックスを提供する。」
・「【発明の効果】
【0010】
本発明は、水に溶いて具材に付着させ、次いでこれを油ちょうするだけの簡便な操作でから揚げを製造することができる、水溶きタイプのから揚げ用ミックスを提供する。本発明のから揚げ用ミックスから調製したバッターは、具材との付着性がよく、かつ適度に厚い衣でありながら火通りがよいため、本発明のから揚げ用ミックスを使用することにより、外観と食感が良好なから揚げを製造することができる。本発明のミックスを用いて製造されたから揚げは、衣部分は厚みと凸凹のある良好な外観と、カリっとして適度な硬さを持つ良好な食感とを有し、具材部分は味がよく染み込んでジューシーな食感であり、かつ衣と具材の間にねちゃり感がなく、しかも油ちょうから時間が経過しても品質の低下が少ない。」
・「【0014】
本発明のから揚げ用ミックスにおける小麦粉の含有量は、ミックス全質量中15~35質量%、好ましくは20~30質量%である。小麦粉の含有量が15質量%未満であると、該ミックスから調製したバッターの具材に対する付着性が低下する傾向があり、一方、小麦粉の含有量が35質量%を超えると、該ミックスから調製したバッターの粘度が高くなり、また衣の火通りも悪くなるため、得られたから揚げが、衣が厚くなってべたついたり、または衣と具材の間にねちゃり感のある食感になる傾向がある。
【0015】
酸化澱粉は、酸化剤で処理した澱粉である。本発明のから揚げ用ミックスに含まれる酸化澱粉としては、例えば、酢酸澱粉、アセチル化酢酸澱粉、オクテニルコハク酸澱粉などが挙げられ、好ましくはアセチル化酸化タピオカ澱粉および酸化タピオカ澱粉が挙げられる。酸化澱粉の原料となる澱粉としては、その種類に制限はなく、例えば、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、サツマイモ澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉などが挙げられる。酸化澱粉は、上記原料澱粉を、常法に従って次亜塩素酸ナトリウム、無水酢酸、過酸化水素、硝酸などの酸化剤で処理することにより製造することができ、または市販品を利用してもよい。
【0016】
本発明のから揚げ用ミックスにおける酸化澱粉の含有量は、ミックス全質量中10~20質量%、好ましくは12~18質量%である。酸化澱粉の含有量が10質量%未満であると、衣の火通りが悪くなって、得られたから揚げがべたついたり、または衣と具材の間にねちゃり感のある食感になる傾向があり、一方、酸化澱粉の含有量が20質量%を超えると、バッターの具材に対する付着性が低下したり、または得られたから揚げの衣が硬くなり過ぎる傾向がある。
【0017】
リン酸架橋澱粉とは、澱粉のグルコース残基の水酸基同士をリン酸で架橋したものである。本発明のから揚げ用ミックスに含まれるリン酸架橋澱粉としては、例えば、アセチル化リン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉等が挙げられ、好ましくはリン酸架橋タピオカ澱粉が挙げられる。さらに、これらのリン酸架橋澱粉は、その未架橋の水酸基がエステル化またはエーテル化されていてもよい。リン酸架橋澱粉の原料となる澱粉としては、その種類に制限はなく、上述した酸化澱粉の原料と同様のものを使用することができる。リン酸架橋澱粉は、上記原料澱粉を、常法に従ってトリメタリン酸ナトリウムやオキシ塩化リン等の公知のリン酸化剤で処理することにより製造することができ、または市販品を利用してもよい。
【0018】
本発明のから揚げ用ミックスにおけるリン酸架橋澱粉の含有量は、ミックス全質量中10~18質量%であり、好ましくは12~17質量%である。リン酸架橋澱粉の含有量が10質量%未満であると、得られたから揚げがべたついたり、または衣と具材の間にねちゃり感のある食感になる傾向があり、一方、リン酸架橋澱粉の含有量が18質量%を超えると、バッターの具材に対する付着性が低下したり、または得られたから揚げの衣が硬すぎる食感となる傾向がある。」
・「【0022】
本発明のから揚げ用ミックスには、上記成分以外に、必要に応じて、その他の成分、例えば、小麦粉以外の穀粉;酸化澱粉およびリン酸架橋澱粉以外の澱粉;全卵粉、卵白粉等の卵粉;増粘剤;食塩、粉末醤油、発酵調味料、糖類、粉末味噌、アミノ酸等の調味料;香辛料;香料;ビタミン等の栄養成分;着色料;粉末油脂などから選択される1種または2種以上、をさらに含有していてもよい。本発明のから揚げ用ミックスに使用する当該その他の成分の種類やその含有量は、所望するから揚げの特性に応じて適宜調整することができる。例えば、から揚げの風味(例えば中華風、和風、洋風等)に応じて、適切な調味料や香辛料等を配合することができる。好ましくは、本発明のから揚げ用ミックスは非化工澱粉を含有し、その含有量は、ミックス全質量中15~40質量%、好ましくは20~35質量%である。非化工澱粉としては、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、サツマイモ澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉などが挙げられる。」
・「【0024】
本発明のから揚げ用ミックスを用いてから揚げを製造する場合、予め水などの液体と混合して液状またはペースト状のバッター(衣液)を調製する。このバッターを具材に付着させて油ちょうすることで、から揚げを製造することができる。本発明のから揚げ用ミックスからバッターを調製する際に使用される液体としては、水、および水以外の他の液体(例えば、牛乳、出し汁、煮汁など)が挙げられ、これらはいずれか単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。バッターを調製する際に使用される該液体の量は、具材の種類などに応じて調節すればよいが、一般的には、ミックス100質量部と70~200質量部の該液体とを混合する。好ましくは、該ミックスと液体とを攪拌混合し、均一なバッターを調製する。
【0025】
上記手順で本発明のから揚げ用ミックスからバッターを調製した後、適当な大きさの具材を該バッター中に浸すか、または該具材に該バッターを噴霧、塗布、注下もしくは滴下して、具材の表面に該バッターを付着させる。次いで、該バッターの付着した具材を、常法に従い、例えば160~180℃で2~8分程度油ちょうすることにより、から揚げを製造することができる。」
・「【実施例】
【0026】
(製造例1~17)
表1に示す原料を均一になるよう混合して、製造例1~17のから揚げ用ミックスをそれぞれ製造した。
【0027】
(試験例1)
各から揚げ用ミックス100gを水100ccとよく混合してバッターを調製した。各バッターに鶏もも肉の細片25g/個を20個ずつ入れてよく絡めた。バッターの付着した鶏もも肉を170℃に熱したサラダ油で4分間油ちょうして、鶏肉のから揚げを製造した。揚げたてのから揚げ(室温(約25℃)に5分間放置)、および室温に1時間放置したから揚げの品質を、10名のパネラーにより表2記載の評価基準で評価し、平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0028】
【表1】
[図:0001436201000002.jpg]
【0029】
【表2】
[図:0001436201000003.jpg]
【0030】
(試験例2)
表3に示す原料を用いた以外は、製造例4と同様の手順で製造例18~27のから揚げ用ミックスをそれぞれ製造した。これらのミックスを用いて、試験例1と同様の手順で鶏肉のから揚げを製造し、その品質を評価した。結果を表3に示す。なお、表3には製造例4の結果を再掲する。
【0031】
【表3】
[図:0001436201000004.jpg]
」
イ 甲4に記載された発明
上記アの記載、特に請求項1、4及び5の記載について整理すると、甲4には次の発明が記載されていると認める。
「小麦粉15~35質量%、酸化澱粉10~20質量%、リン酸架橋澱粉10~18質量%、および重曹0.1~1.0質量%を含有する、水溶きタイプのから揚げ用ミックス。」(以下、「甲4発明」という。)
「甲4発明と水を含有するから揚げ用バッター。」(以下、「甲4バッター発明」という。)
「小麦粉15~35質量%、酸化澱粉10~20質量%、リン酸架橋澱粉10~18質量%、および重曹0.1~1.0質量%を含有する、水溶きタイプのから揚げ用ミックスと水を含有するから揚げ用バッターを用いるから揚げ用の製造方法。」(以下、「甲4製法発明」という。)
さらに、甲4(【0010】)には、製造されたから揚げは、衣部分は厚みと凸凹のある良好な外観と、カリっとして適度な硬さを持つ良好な食感とを有し、具材部分は味がよく染み込んでジューシーな食感であり、かつ衣と具材の間にねちゃり感がなく、しかも油ちょうから時間が経過しても品質の低下が少ないことが記載されているから、甲4には以下の発明も記載されていると認める。
「小麦粉15~35質量%、酸化澱粉10~20質量%、リン酸架橋澱粉10~18質量%、および重曹0.1~1.0質量%を含有する、水溶きタイプのから揚げ用ミックスと水を含有するから揚げ用バッターを用いる、製造されるから揚げの衣と具材の間のねちゃり感の抑制方法。」(以下、「甲4方法発明」という。)
(2) 対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲4発明との対比
甲4発明の「小麦粉」は、本件発明1の「(A)穀粉」に相当し、甲4発明は本件発明1の「前記成分(A)が、小麦粉および大豆粉からなる群から選択される少なくとも1種であり」との特定事項を満たす。
甲4発明の「酸化澱粉」、「リン酸架橋澱粉」及び「水溶きタイプのから揚げ用ミックス」は、それぞれ本件発明1の「(B)酸化澱粉」、「(C)架橋澱粉」及び「水に分散させて用いられる唐揚げバッター用粉体組成物」に相当する。
甲4発明は、小麦粉を15~35質量%、酸化澱粉を10~20質量%、リン酸架橋澱粉を10~18質量%含み、粉体組成物中の前記成分(A)の含有量に対する前記成分(B)および(C)の合計量の質量比(((B)+(C))/(A))の数値範囲は約0.36~0.72となるから、本件発明1の「当該粉体組成物中の前記成分(A)の含有量に対する前記成分(B)および(C)の合計量の質量比(((B)+(C))/(A))が、0.2以上2.0以下であり、」との特定事項を満たす。
してみると、両者の間の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「以下の成分(A)~(C):
(A)穀粉
(B)酸化澱粉
(C)架橋澱粉
を含み、水に分散させて用いられる唐揚げバッター用粉体組成物であって、
前記成分(A)が、小麦粉および大豆粉からなる群から選択される少なくとも1種であり、
当該粉体組成物中の前記成分(A)の含有量に対する前記成分(B)および(C)の合計量の質量比(((B)+(C))/(A))が、0.2以上2.0以下である、
粉体組成物。」
(相違点)
・相違点4-1-1
粉体組成物中の成分の質量比について、本件発明1は「前記成分(C)の含有量に対する前記成分(B)の含有量の質量比((B)/(C))が1.0以上3以下であり、」と特定するのに対し、甲4発明はそのように特定されていない点。
・相違点4-1-2
粉体組成物中の成分の質量比について、本件発明1は「当該粉体組成物中の澱粉の合計量に対する前記成分(B)および(C)の合計量の質量比(((B)+(C))/澱粉)が、0.68以上1以下であり、」と特定するのに対し、甲4発明はそのように特定されていない点。
・相違点4-1-3
酸化澱粉である成分(B)について、本件発明1は「アセチル化酸化澱粉以外の酸化澱粉である、」と特定するのに対し、甲4発明は酸化澱粉の種類が特定されていない点。
(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点4-1-2について検討する。
甲4発明には酸化澱粉及びリン酸架橋澱粉以外の澱粉の含有量については特定されていないところ、甲4の【0022】には「好ましくは、本発明のから揚げ用ミックスは非化工澱粉を含有し、その含有量は、ミックス全質量中15~40質量%、好ましくは20~35質量%である。」との記載がある。当該記載を参酌して甲4発明の「(B)+(C))/澱粉」に相当する質量比を算出すると約0.33~0.72となり、本件発明1で特定される数値範囲である「0.68以上1以下」を満たすとはいえない。よって相違点4-1-2は実質的な相違点であり、本件発明1は甲4発明ではない。
また、甲4の実施例における製造例1~27の各成分の配合比をみると、相違点4-1-2に係る本件発明1の特定事項を満たす製造例は記載されておらず、甲4の一般記載をみても、澱粉の合計量に対する酸化澱粉及びリン酸架橋澱粉の合計量の質量比に着目し、これを「0.68以上1以下」とする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。したがって、甲4及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲4発明において相違点4-1-2に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
そして、本件発明1は「温蔵保存後の唐揚げの衣のねちゃつきを抑制することができる。」という本件発明1の構成から当業者が予測することのできた範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の36~39頁において、本件発明1~5と甲4発明との対比及び判断について概略以下の点を主張している。
甲4発明における各成分(成分(a1)~(c1))の含有比(質量比)は、本件発明1~5における各成分(成分(A)~(C))の含有比(質量比)に係る数値範囲と重複する。してみると、本件発明1~5は、甲4発明において取り得る数値範囲をそれぞれの成分比で表現し直したものに過ぎず、本件発明1~5と甲4発明には相違点が存在しない。
なお、甲4に成分(b1)をアセチル化酸化澱粉以外の酸化澱粉とすることが積極的に開示されていない点で、本件発明1~5と甲4発明とが相違するものと解される場合であっても、甲11の記載に基づき、甲4発明において未加工のタピオカ澱粉を原料澱粉とした酸化澱粉を用いることは当業者が容易になし得たことである。
そこで、検討する。上記(イ)に記載したとおり、相違点4-1-2に係る質量比((B)+(C))/澱粉)の値は、本件発明1と甲4発明とで数値範囲が一部重複しているといえる。しかしながら、相違点4-1-2に係る数値範囲については、本件特許明細書の【0025】及び【0056】の【表2】等において臨界的な意義があることが示されているから、数値範囲が一部重複していることをもって相違点でないということはできない。
よって、本件発明1と甲4発明には相違点が存在しないとする申立人の主張は、採用することができない。
(エ)本件発明1についてのまとめ
以上のとおり、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲4発明ではなく、甲4発明並びに甲4及び他の全ての証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2~4について
本件発明2~4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明1と同様に判断される。
よって、本件発明2~4は甲4発明ではなく、甲4発明並びに甲4及び他の全ての証拠の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明5について
本件発明5と甲4バッター発明とを対比すると、両者の間の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「粉体組成物と、水とを含む、バッター。」
(相違点)
・相違点4-5
粉体組成物について、本件発明5は「請求項1乃至4いずれか1項に記載の」と特定するのに対し、甲4バッター発明は「甲4発明」である点。
相違点4-5について検討すると、相違点4-5は相違点4-1-2と実質的に同じ内容の相違点を含み、上記アと同様に判断される。
よって、本件発明5は甲4バッター発明ではなく、甲4バッター発明並びに甲4及び他の全ての証拠の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明6について
(ア)本件発明6と甲4製法発明との対比
甲4製法発明の「小麦粉」、「酸化澱粉」、「リン酸架橋澱粉」、「唐揚げバッター用粉体組成物」及び「から揚げ用の製造方法」は、それぞれ本件発明6の「(A)穀粉」、「(B)酸化澱粉」、「(C)架橋澱粉」、「唐揚げバッター用粉体組成物」及び「唐揚げの製造方法」に相当する。そして、甲4製法発明の「水溶きタイプのから揚げ用ミックスと水を含有するから揚げ用バッターを用いるから揚げ用の製造方法。」は、甲4の【0025】の記載を参酌すると、具材の表面にバッターを付着させる工程と、バッターの付着した具材を油ちょうする工程を含むものといえるから、甲4製法発明は、本件発明6の
「以下の成分(A)~(C):
(A)穀粉
(B)酸化澱粉
(C)架橋澱粉
を含む唐揚げバッター用粉体組成物を水に分散させて得られるバッターを、種物の外側に付着させる工程と、
前記バッターが付着した前記種物を加熱調理して唐揚げを得る工程と、」
を含む「唐揚げの製造方法。」との特定事項を満たす。
その他の本件発明6の特定事項については上記ア(ア)と同様の相当関係をとることができるから、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「以下の成分(A)~(C):
(A)穀粉
(B)酸化澱粉
(C)架橋澱粉
を含む唐揚げバッター用粉体組成物を水に分散させて得られるバッターを、種物の外側に付着させる工程と、
前記バッターが付着した前記種物を加熱調理して唐揚げを得る工程と、
を含み、
前記成分(A)が、小麦粉および大豆粉からなる群から選択される少なくとも1種であり、
当該粉体組成物中の前記成分(A)の含有量に対する前記成分(B)および(C)の合計量の質量比(((B)+(C))/(A))が、0.2以上2.0以下である、
唐揚げの製造方法。」
(相違点)
・相違点4-6-1
本件発明6は「前記唐揚げを40℃以上で温熱保存する工程と、」を有することを特定するのに対し、甲4製法発明はそのように特定されていない点。
・相違点4-6-2
粉体組成物中の成分の質量比について、本件発明6は「前記成分(C)の含有量に対する前記成分(B)の含有量の質量比((B)/(C))が0.6以上3以下であり、」と特定するのに対し、甲4製法発明はそのように特定されていない点。
・相違点4-6-3
粉体組成物中の成分の質量比について、本件発明6は「澱粉の合計量に対する前記成分(B)および(C)の合計量の質量比(((B)+(C))/澱粉)が、0.68以上1以下であり、」と特定するのに対し、甲4製法発明はそのように特定されていない点。
・相違点4-6-4
酸化澱粉である成分(B)について、本件発明1は「前記成分(B)が、アセチル化酸化澱粉以外の酸化澱粉である、」と特定するのに対し、甲4製法発明は酸化澱粉の種類が特定されていない点。
(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点4-6-3について検討する。相違点4-6-3は、相違点4-1-2と実質的に同じ内容の相違点であり、上記ア(イ)と同様に判断される。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の39~40頁において、要するに、相違点4-6-3に係る本件発明6の特定事項が甲4製法発明との一致点であるとしたうえで、本件発明6が甲4製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している。
しかしながら、上記ア(ウ)に示した判断と同様に、相違点4-6-3を相違点でないということはできず、申立人の主張は採用することができない。
(エ)本件発明6についてのまとめ
以上のとおり、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明6は甲4製法発明ではなく、甲4製法発明並びに甲4及び他の全ての証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明7及び8について
本件発明7及び8は、請求項6を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件発明6の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明6と同様に判断される。
よって、本件発明7及び8は甲4製法発明ではなく、甲4製法発明並びに甲4及び他の全ての証拠の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
カ 本件発明9について
本件発明9と甲4方法発明とを対比する。
甲4方法発明における「製造されるから揚げの衣と具材の間のねちゃり感の抑制方法」は、本件発明9における「唐揚げの衣のねちゃつきを抑制する方法」に相当する。
その他の点は上記エ(ア)と同様の相当関係をとることができるから、両者は少なくとも以下の点で相違する。
(相違点)
・相違点4-9
粉体組成物中の成分の質量比について、本件発明9は「澱粉の合計量に対する前記成分(B)および(C)の合計量の質量比(((B)+(C))/澱粉)が、0.68以上1以下であり、」と特定するのに対し、甲4方法発明はそのように特定されていない点。
上記相違点について検討すると、相違点4-9は、実質的に相違点4-6-3と同じ内容の相違点であり、上記エ(イ)と同様に判断される。
また、本件発明9について、申立人は特許異議申立書の41~43頁において、本件発明6についてしたのと概略同様の主張をしているが、当該主張については上記エ(ウ)と同様に判断され、採用することができない。
よって、本件発明9は、甲4方法発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
キ 本件発明10及び11について
本件発明10及び11は、請求項9を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件発明9の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明9と同様に判断される。
よって、本件発明10及び11は甲4方法発明並びに甲4及び他の全ての証拠の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由1-2及び2-2(甲4を主たる証拠とする新規性・進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1~5は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、本件発明1~11は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1~11に係る特許は、同法第113条第2号に該当しない。
よって、申立理由1-2及び2-2によって本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。
第7 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1~11に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700766