特許異議申立
2025-700648
食肉加工品の製造方法
- 審判番号
- 2025-700648
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-511954
- 登録番号
- 7603661
- 請求日
- 2025年06月20日
- 審決日
- 2025年10月29日
- 公報発行日
- 2025年12月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社J-オイルミルズ
- 【権利者代理人】家入 健
- 【異議申立人】小形谷 美致子
- 審判長/審判官
- 審判長 植前 充司
- 審判官 水野 明梨
- 審判官 松田 成正
- 分類
- P1652.121-Y (A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7603661号発明「食肉加工品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7603661号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7603661号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)3月22日(優先権主張:令和2年3月30日、令和2年8月4日)を国際出願日とする出願であって、令和6年12月12日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、同年12月20日に特許掲載公報が発行され、その後、当該特許に対し、令和7年6月20日に特許異議申立人 小形谷 美致子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし3及び6)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし3及び6に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲(以下、「特許請求の範囲」という。)の請求項1ないし3及び6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
食肉とピックル液とを混合して食肉にタンブリング処理をするタンブリング工程と、
前記タンブリング工程後の食肉に油脂加工澱粉を添加してミキシング処理をするミキシング工程と、
前記ミキシング工程の後、前記食肉を油ちょうするフライ工程と、を含み、
前記タンブリング工程において、前記油脂加工澱粉を前記食肉100質量部に対して1質量部以上5質量部以下添加し、
前記ミキシング工程において、前記油脂加工澱粉を前記食肉100質量部に対して3質量部以上7質量部以下添加する、ことを特徴とする、食肉加工品の製造方法。
【請求項2】
前記ミキシング工程において、更に重曹を前記食肉100質量部に対して0.1質量部以上0.3質量部以下添加する、請求項1に記載の食肉加工品の製造方法。
【請求項3】
前記ミキシング工程において、更に大豆タンパクを前記食肉100質量部に対して0.1質量部以上2質量部以下添加する、請求項1または2に記載の食肉加工品の製造方法。」
「【請求項6】
食肉とピックル液とを混合して食肉にタンブリング処理をするタンブリング工程と、
前記タンブリング工程後の食肉に油脂加工澱粉を添加してミキシング処理をするミキシング工程と、を含み、
前記タンブリング工程において、前記油脂加工澱粉を前記食肉100質量部に対して1質量部以上5質量部以下添加し、
前記ミキシング工程において、前記油脂加工澱粉を前記食肉100質量部に対して3質量部以上7質量部以下添加して前記食肉の保形性を向上させる、方法。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
申立人は、証拠方法として下記2.に示す甲第1号証~甲第11号証(以下、「甲1」~「甲11」という。)を提出し、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。
1 申立理由(進歩性)
本件特許の請求項1ないし3及び6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証ないし甲第11号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3及び6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 証拠方法
甲1:特開2018-166463号公報
甲2:特開2016-96799号公報
甲3:株式会社平井カンパニー、冷却装置付真空タンブラー「マイスター」、2018年8月、インターネット<URL:https://hiraicompany.jp/pdf/download?catalog_id=5>
甲4:国際公開第2013/073226号
甲5:特開2007-185164号公報
甲6:特開2007-300918号公報
甲7:特開平9-308462号公報
甲8:国際公開第2018/123257号
甲9:特開2005-287450号公報
甲10:特開2015-149979号公報
甲11:特開平4-117254号公報
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。
第4 当審の判断
1 申立理由(進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「穀粉組成物の製造方法」に関して、おおむね次の記載がある。
「【請求項1】
穀粉と融点40℃以上の高融点油脂とを含有し、該高融点油脂の含有量が0.1質量%以上である混合物を調製し、該混合物100質量部に水2~35質量部を添加後、該混合物を該混合物の品温が80~210℃となる条件で熱処理する工程を有する、穀粉組成物の製造方法。」
「【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された穀粉組成物を含むブレダーミックスを、該ブレダーミックスに加水せずに具材に付着させ、加熱調理する工程を有する、衣付揚げ物の製造方法。」
「【0001】
本発明は、衣付揚げ物における衣の原材料として使用され、加水せずに具材に付着させて使用するブレダーミックスとして特に好適な穀粉組成物に関する。」
「【0006】
本発明の課題は、電子レンジなどの加熱調理器で再加熱した場合でも、衣がサクサクと軽い食感を有し、調理直後と比べて遜色ない品質を維持し得る衣付揚げ物を製造可能な穀粉組成物を提供することである。」
「【0010】
本発明の製造方法によれば、電子レンジなどの加熱調理器で再加熱した場合でも、衣がサクサクと軽い食感を有し、調理直後と比べて遜色のない品質を維持し得る衣付揚げ物を製造可能な穀粉組成物が提供される。」
「【0041】
〔実施例B1~B19、比較例B1~B4及び参考例B1~B2〕
各実施例、比較例及び参考例の穀粉組成物と他の食品素材とを下記表3及び4の配合で混合して、ブレダーミックスを製造した。使用した原材料は下記の通り。
・小麦粉:薄力粉、日清製粉(株)製、商品名「フラワー」
・加工澱粉:日本食品化工(株)製、商品名「日食バッタースターチ#200N」」
「【0042】
〔試験例〕
具材として、カットした鶏モモ肉80gを複数個用意した。鶏モモ肉をマリネーションした後、加工澱粉(日本食品化工(株)製、商品名「日食バッタースターチ#200N」を打ち粉し、さらに下記バッター液中に浸漬した後、該鶏モモ肉の表面全体に各実施例、比較例及び参考例のブレダーミックスを付着させた。こうして下処理された鶏モモ肉を、温度175℃の食用油で2分間フライ調理し、30秒間ベンチタイムを取った後、さらに温度175℃の食用油で2分間フライ調理してフライドチキン(衣付揚げ物)を製造した。このフライドチキンを庫内温度-30℃の冷凍庫に入れて急速冷凍し、-18℃以下で冷凍保存して冷凍フライドチキン(調理済み冷凍衣付揚げ物)を得た。この冷凍フライドチキンを、電子レンジにより冷凍フライドチキン1個当たり1500Wで40秒間加熱して加熱フライドチキンを得、該加熱フライドチキンを10名のパネラーに食してもらい、その際の食感を下記評価基準(5点満点)により評価してもらった。その結果(10名のパネラーの平均点)を下記表3及び4に示す。」
「【0043】
(バッター液)
下記組成のバッター用組成物100gを、大豆白絞油20gと水200mlとの混合液に溶いたものをバッター液とした。ここで使用したバッター用組成物の組成は、加工澱粉78.5質量%、小麦粉20質量%、乳化剤1質量%、増粘剤0.5質量%であり、各成分の詳細は下記の通り。
・加工澱粉:日本食品化工(株)製、商品名「日食バッタースターチ#200N」
・小麦粉:薄力粉 日清製粉(株)製、商品名「フラワー」
・乳化剤:モノステアリン酸グリセリン、花王(株)製、商品名「エキセルS-95」
・増粘剤:グァーガム、DSP五協フード&ケミカル(株)製、商品名「グアパック」」
「【0045】
【表3】
[図:0001430032000001.jpg]
」
「【0047】
【表4】
[図:0001430032000002.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に試験例に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1製法発明>
「具材として、カットした鶏モモ肉をマリネーションした後、加工澱粉(日本食品化工(株)製、商品名「日食バッタースターチ#200N」を打ち粉し、さらに、加工澱粉78.5質量%、小麦粉20質量%、乳化剤1質量%、増粘剤0.5質量%のバッター用組成物100gを、大豆白絞油20gと水200mlとの混合液に溶いたバッター液中に浸漬した後、該鶏モモ肉の表面全体に、穀粉組成物と他の食品素材と、小麦粉:薄力粉、日清製粉(株)製、商品名「フラワー」、加工澱粉:日本食品化工(株)製、商品名「日食バッタースターチ#200N」とを混合してなるブレダーミックスを付着させ、こうして下処理された鶏モモ肉を、食用油で2分間フライ調理し、30秒間ベンチタイムを取った後、さらに温度175℃の食用油で2分間フライ調理する、フライドチキン(衣付揚げ物)の製造方法。」
さらに、甲1には次の発明が(以下、「甲1方法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1方法発明>
「具材として、カットした鶏モモ肉をマリネーションした後、加工澱粉(日本食品化工(株)製、商品名「日食バッタースターチ#200N」を打ち粉し、さらに、加工澱粉78.5質量%、小麦粉20質量%、乳化剤1質量%、増粘剤0.5質量%のバッター用組成物100gを、大豆白絞油20gと水200mlとの混合液に溶いたバッター液中に浸漬した後、該鶏モモ肉の表面全体に、穀粉組成物と他の食品素材と、小麦粉:薄力粉、日清製粉(株)製、商品名「フラワー」、加工澱粉:日本食品化工(株)製、商品名「日食バッタースターチ#200N」とを混合してなるブレダーミックスを付着させ、調理し、電子レンジなどの加熱調理器で再加熱した場合でも、衣がサクサクと軽い食感を有し、調理直後と比べて遜色のない品質を維持し得る衣付揚げ物を製造可能な穀粉組成物が提供される、方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1製法発明を対比する。
(ア)本件特許の発明の詳細な説明の【0018】によれば、「食肉であれば特に限定されず、例えば、豚肉、牛肉、鶏肉、・・・例えば、本実施の形態では、鶏もも肉や鶏むね肉を用いることが特に好ましい」ことから、甲1製法発明における具材である「カットした鶏モモ肉」は本件特許発明1における「食肉」に相当する。
(イ)甲1製法発明における「鶏もも肉をマリネーションし」は、本件特許発明1における「食肉とピックル液を混合し」に相当する。
(ウ)甲1製法発明における「下処理された鶏モモ肉を、食用油で2分間フライ調理し、30秒間ベンチタイムを取った後、さらに温度175℃の食用油で2分間フライ調理する」ことは、本件特許発明1における「食肉を油ちょうするフライ工程」に相当する。
(エ)甲1製法発明における「フライドチキン(衣付揚げ物)の製造方法」は、本件特許発明1における「食肉加工品の製造方法」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「食肉とピックル液とを混合する工程と、前記食肉を油ちょうするフライ工程と、を含む、食肉加工品の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1の食肉加工品の製造方法においては、「食肉にタンブリング処理をするタンブリング工程」及び「ミキシング処理をするミキシング工程」を含み、「タンブリング工程において、油脂加工澱粉を食肉100質量部に対して1質量部以上5質量部以下添加し、ミキシング工程において、油脂加工澱粉を食肉100質量部に対して3質量部以上7質量部以下添加する、」と特定されているのに対し、甲1製法発明においてはそのような特定がない点。
イ 判断
上記相違点1について検討する。
甲1には、「タンブリング工程」についてなんら記載されておらず、「タブリング工程」と「ミキシング工程」の双方を有することは記載されていないといえる。
また、食肉加工品の製造方法において、「タンブリング工程において、油脂加工澱粉を食肉100質量部に対して1質量部以上5質量部以下添加し、ミキシング工程において、油脂加工澱粉を食肉100質量部に対して3質量部以上7質量部以下添加する」ことが、本件特許の出願時の技術常識であるともいえない。
そして、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲1製法発明の「タンブリング工程」、「ミキシング工程」の双方を有し、かつ、それぞれにおける油脂加工澱粉の添加量を本件特許発明1の範囲とする動機も見いだせない。
さらに、本件特許発明1の奏する「食肉加工品の製品歩留まりを向上させることが可能な食肉加工品の製造方法を提供することができる。」(本件特許の発明の詳細な説明の【0006】)という効果は、甲1製法発明の奏する効果とは全く異なるものであり、また、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
したがって、甲1製法発明において、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書の29~32頁において、おおむね次のとおり主張する。
(ア)「甲第4号証、甲第5号証、甲第7号証、甲第8号証における記載から、食肉を油調(フライ調理)してなる食肉加工品の製造において、食肉とピックル液とを混合する工程(本件特許発明1における「タンブリング処理」に相当)の後、ピックル液と混合した食肉に粉体(打ち粉)を添加する工程(本件特許発明1における「ミキシング処理」に相当)を経て、必要に応じてバッタリングを行ったものを油調する工程(本件特許発明1の「フライエ程」に相当)までの一連の工程は、本件出願日前において極めて一般的な内容であると解される。」
(イ)「併せて、甲第3号証~甲第8号証の記載から、食肉に液体を浸透させる工程(マリネーション)を行うことに係る技術として、タンブラーを用いたタンプリング処理を行うことは本件出願日前に広く行われている技術であり、甲1発明におけるマリネーションについても、タンブリング処理が行われる蓋然性が高いと解される。」
(ウ)「仮に、甲1発明におけるマリネーションがタンブリング処理に当たらないと解されるとしても、甲第3号証~甲第8号証の記載から、甲1発明におけるマリネーションの具体的な工程として、タンブラーを用いたタンブリング処理を採用することは、当業者であれば容易になし得る事項に過ぎない。」
(エ)「なお、付言すれば、食肉に調味液等の液体を浸透させる際に揉み込みを行うこと(タンブリング処理に相当する作業を行うこと)は、一般家庭における調理工程としても本件出願日前からごく普通に行われていることであると解される。」
(オ)「また、甲第6号証~甲第8号証における記載から、タンブリング処理を行うにあたり、油脂加工澱粉を食肉100質量部に対して特定の数値範囲(1~4質最部)で添加することで、得られる食肉加工品(から揚げ)の保水性や歩留まり、食感が向上することは本件出願日前に公知であり、このとき甲第6号証~甲第8号証に記載の食肉に対する油脂加工澱粉の添加量に係る数値範囲は、本件特許発明1における数値範囲と重複している。」
(カ)「してみると、甲1発明におけるマリネーションとして、甲第3号証~甲第8号証の記載に基づき、油脂加工澱粉を添加した液体を用いたタンブリング処理を行うことと併せ、タンブリング処理における油脂加工澱粉の添加量を、本件特許発明1と重複する数値範囲(食肉100質量部に対し1~4質量部)とすることは、当業者としては容易になし得る事項である。」
(キ)「そして、甲第3号証に記載されるように、単に浸漬によって食肉に液体を浸透させるよりも、タンブリング処理によって液体の浸透効率が向上することは本件出願日前に公知であり、また上述したように、甲第6号証~甲第8号証の記載から、タンブリング処理における油脂加工澱粉の添加量を特定の数値範囲(食肉100質量部に対し1~4質量部)とすることで、得られる食肉加工品の品質向上が図られることも本件出願日前に公知である。すなわち、本件特許発明1に係る発明特定事項のうち、タンブリング処理を行うこと及びタンブリング処理における油脂加工澱粉の添加量を特定の数値範囲とすることに関し、当業者が予測し得ない格段の効果を奏するとは認められない。」
(ク)「甲1発明において、「(マリネーション後の食肉に対し、)油脂加工澱粉を用いて打ち粉をすること」については、「油脂加工澱粉を混合すること(=ミキシング処理をすること)」に相当すると解される。」
(ケ)「そして、甲第5号証には、上述したように、実施例として、23~30gとなるように切断したカット鶏肉10個とを、減圧下35分間混合した後、ピックル処理した鶏肉と、上記調製した打ち粉10gとを4分間混合した旨が記載されている([0030]~[0032])。換言すれば、甲第5号証には、鶏肉に対して3~4%程度の打ち粉を混合することが記載されていると解されるとともに、この打ち粉の使用量に係る数値範囲は、本件特許発明1のミキシング処理時における油脂加工澱粉の添加量に係る数値範囲と重複する。」
(コ)「また、甲第9号証には、揚げ物用組成物に係る発明([0001])において、この揚げ物用衣組成物を打ち粉として使用することや、打ち粉の具材への付着量は具材の形状、特に表面積によって変化するが、一般的な打ち粉と同じ操作で付着させることで充分な効果が得られる旨([0012])が記載されている。すなわち、甲第9号証の記載から、本件出願日前において、打ち粉の有効量については具材の形状や表面積によって当業者が適宜設定することが技術常識であったものと解される。」
(サ)「してみると、甲1発明に関し、甲第9号証の記載や本件出願日前に公知の技術常識に基づき、ミキシング処理において使用される打ち粉としての油脂加工澱粉の添加量は、具材の形状や表面積によって当業者が適宜設定し得るものであり、併せて、甲第5号証に記載の数値範囲を採用することは当業者であれば容易になし得る事項である。また、本件特許発明1においてミキシング処理時の油脂加工澱粉の添加量として規定される数値範囲は、甲第5号証に記載されるように、打ち粉の使用量として通常適用される程度の数値範囲に過ぎず、当業者が想定し得ないほどの顕著な効果を奏するものとは認められない。」
エ 特許異議申立人の主張についての判断
上記主張について検討する。
特許異議申立人は、上記(ア)ないし(キ)では「タンブリング工程」について、(ク)ないし(サ)では「ミキシング工程」について、各工程における油脂加工澱粉及びその添加量は公知の技術常識等により容易である旨、そして、当該添加量は、甲6~8あるいは甲5の数値範囲と重複し、当業者が適宜設定し得るものである旨を主張している。
しかしながら、本件特許発明1は、「タブリング工程」と「ミキシング工程」とを含む「食肉加工の製造方法」であって、「タブリング工程」と「ミキシング工程」の両工程における油脂加工澱粉の添加量を各々特定する発明である。それに対し、特許異議申立人の上記主張は、「タブリング工程」と「ミキシング工程」のいずれかにおける油脂加工澱粉の添加量を別々に着目した主張であり、甲1製法発明において、「タブリング工程」と「ミキシング工程」とを含む「食肉加工の製造方法」とする動機はないから、上記主張は採用できない。
さらに、本件特許発明1の奏する「食肉加工品の製品歩留まりを向上させることが可能な食肉加工品の製造方法を提供することができる」(本件特許の発明の詳細な説明の【0006】)という効果は、甲1製法発明の奏する効果、すなわち、「衣がサクサクと軽い食感を有し、調理直後と比べて遜色のない品質を維持し得る衣付揚げ物を製造可能な穀粉組成物が提供される」ものとは異なるものであり、また、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
以上のとおりであるから、食肉加工品の製造方法において、前提が異なる油脂加工澱粉の添加量について、数値範囲が重複する、あるいは、当業者が適宜設定し得る、とする特許異議申立人の主張はともに採用できない。
オ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接又は間接的に引用し、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えうるものである。そうすると、上記(2)で検討した本件特許発明1と同様に、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明6について
ア 対比
本件特許発明6と甲1方法発明を対比する。
(ア)甲1方法発明における具材である「カットした鶏モモ肉」は本件特許発明1における「食肉」に相当する。
(イ)甲1方法発明における「鶏もも肉をマリネーションし」は、本件特許発明1における「食肉とピックル液を混合し」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「食肉とピックル液とを混合する工程、を含む、方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2>
本件特許発明6の方法においては、「食肉にタンブリング処理をするタンブリング工程」及び「ミキシング処理をするミキシング工程」を含み、「タンブリング工程において、油脂加工澱粉を食肉100質量部に対して1質量部以上5質量部以下添加し、ミキシング工程において、油脂加工澱粉を食肉100質量部に対して3質量部以上7質量部以下添加して食肉の保形性を向上させる、方法。」と特定されているのに対し、甲1方法発明においてはそのような特定がない点。
イ 判断
上記相違点2について検討する。
甲1及び他の証拠をみても、甲1方法発明において、上記相違点2に係る「食肉の保形性を向上させる、方法。」は、甲1及び他の全ての証拠の記載を参酌しても、相違点2に係る発明特定事項を採用することの動機となる記載はない。
そして、本件特許発明6の奏する効果も、上記(2)イの判断と同様に、甲1方法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
したがって、甲1方法発明において、上記相違点2に係る本件特許発明6の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書35~36頁において、おおむね次のとおり主張する。
(ア)「本件特許発明6は食肉の保形性を向上させる方法となっているところ、食肉の保形性については、食肉からの水分が抜けることで悪化するものと解される。一方、甲1発明である食肉加工品の製造方法は、油脂加工澱粉を添加する工程を含むものであり、上述した相違点1に係る検討において示した甲第6号証~甲第8号証の記載から、油脂加工澱粉に保水性や歩留まりの改善効果があることを鑑みれば、甲1発明は食肉加工品の製造方法であるとともに、食肉の保形性を向上させる方法の発明であると解される。
してみると、甲1発明と本件特許発明6の発明特定事項には実質的な相違点が存在せず、その他の相違点については上述した相違点1,2として既に検討している。」
(イ)「よって、本件特許発明6は、甲第1号証~甲第9号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。」と記載されている。
エ 特許異議申立人の主張についての判断
上記主張について検討する。
甲1及び他の証拠をみても、甲1方法発明において、上記相違点2に係る「食肉の保形性を向上させる、方法。」は、上記イで検討したとおり、動機となる記載はない。さらに、本件特許発明6の奏する効果は、上記(2)エと同様に、甲1方法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明6の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
オ まとめ
したがって、本件特許発明6は、甲1方法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)申立理由についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし3及び6は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし3及び6に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由によっては取り消すことはできない。
第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし3及び6に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし3及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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