特許異議申立
2025-700705
非接触電力伝送装置
- 審判番号
- 2025-700705
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-024932
- 登録番号
- 7611528
- 請求日
- 2025年07月09日
- 審決日
- 2025年09月19日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社国際電気通信基礎技術研究所
- 【権利者代理人】谷川 英和
- 【権利者】国立大学法人千葉大学
- 【権利者代理人】谷川 英和
- 【異議申立人】大森 隆一
- 審判長/審判官
- 審判長 土居 仁士
- 審判官 寺谷 大亮
- 審判官 衣鳩 文彦
- 分類
- P1651.113-Y (H02J) / P1651.121-Y (H02J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7611528号発明「非接触電力伝送装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7611528号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7611528号(以下「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和3年2月19日に出願され、令和6年12月26日にその特許権の設定登録がされ、令和7年1月10日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和7年7月9日に特許異議申立人 大森 隆一(以下「特許異議申立人」という。)は、特許異議の申立てをした。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~4の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明4」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、請求項1の符号1A~1Hは、請求項1を分説するために当審で付与したものであり、分説した発明特定事項を、以下では「発明特定事項1A」のように参照する。
「【請求項1】
1A 非接触電力伝送によって電力を多段伝送する非接触電力伝送装置であって、
1B 負荷非依存のインバータ及び前記インバータによって交流に変換された電力を非接触で送電する送電部を有する第1段のユニットと、
1C 前段のユニットから非接触で電力を受電する受電部、及び後段のユニットに非接触で電力を送電する送電部を有する第2段から第N-1段のユニットと、
1D 前記第N-1段のユニットから非接触で電力を受電する受電部を有する第N段のユニットと、を備え、
1E Nは3以上の整数であり、
1F 前記第2段から前記第N段のユニットのうち、1以上のユニットは非接触電力伝送された交流電力を整流して一定の電圧または一定の電流を出力する整流器を有しており、
1G 前記送電部及び前記受電部は、前記整流器の出力において一定となる電圧または電流に応じて直列共振または並列共振によって非接触電力伝送を行う、
1H 非接触電力伝送装置。
【請求項2】
前記整流器は、すべて一定の電圧を出力するか、または、すべて一定の電流を出力するものであり、
2個の前記ユニット間ではそれぞれ、前記送電部及び前記受電部によって直列共振と並列共振との組み合わせによる非接触電力伝送が行われる、請求項1記載の非接触電力伝送装置。
【請求項3】
前記第2段から前記第N段のユニットのうち、2以上のユニットが前記整流器を有している、請求項1または請求項2記載の非接触電力伝送装置。
【請求項4】
前記ユニットはリンクであり、
前記第1段から前記第N段のユニットは、関節によって連結されることによってリンク機構を構成し、
当該連結箇所において非接触電力伝送が行われる、請求項1から請求項3のいずれか記載の非接触電力伝送装置。」
第3 特許異議申立理由の概要
1 申立理由
特許異議申立人が主張する特許異議申立理由の概要は、次のとおりであると認められる。
(1)申立理由1(新規性)
本件発明1及び3は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1及び3に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものである。(同法第113条第2号)
(2)申立理由2(進歩性)
本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(同法第113条第2号)
2 証拠方法
特許異議申立人が特許異議申立書に添付した証拠方法は、以下のとおりである(以下、甲第1号証~甲第4号証を、「甲1」等という。)。
甲1:Chenwen Cheng、他3名、「A Load-Independent Wireless Power Transfer System With Multiple Constant Voltage Outputs」 、IEEE TRANSACTIONS ON POWER ELECTRONICS、2020年4月、VOL. 35、NO. 4、3328~3331頁
甲2:Yeong H. Sohn、他5名、「General Unified Analyses of Two-Capacitor Inductive Power Transfer Systems: Equivalence of Current-Source SS and SP Compensations」、IEEE TRANSACTIONS ON POWER ELECTRONICS、2015年11月、VOL. 30、NO. 11、6030~6045頁
甲3:川辺 健太朗、他3名、「多関節アームロボットヘの電界結合非接触給電」、 No. 17-2 Proceedings of the 2017 JSME Conference on Robotics and Mechatronics、2017年5月、2A2-B05(1)~2A2-B05(4)頁
甲4:落合政司、「スイッチング電源の原理と設計」、株式会社オーム社、平成27年3月25日、第1版第1刷、286~289頁
第4 当審の判断
1 甲号証の記載
以下では、特に、申立理由1及び2の主たる証拠である甲1号証の記載を引用する。
(1)甲1号証の記載事項
甲1号証には、次の記載がある。なお、訳は、特許異議申立人が提出したものを参考に当審で作成したものであり、下線は、当審で付与したものである。
ア 3328頁上段
「A Load-Independent Wireless Power Transfer System With Multiple Constant Voltage Outputs」
(訳:
複数の定電圧出力を有する負荷に依存しない無線電力伝送システム)
イ 3328頁左欄
「 Abstract-A novel wireless power transfer (WPT) system is proposed to power the gate drivers in a multilevel converter to achieve a high insulation level. There are two requirements for the proposed WPT system. First, the WPT system should contain multiple outputs, each corresponding to one gate driver. Second, a constant voltage source is needed for each gate driver. For a multiload WPT system, it is challenging but necessary to realize independent power control of each load. To achieve this goal, the repeater unit consisting of two repeater coils is designed to power a load. Many loads can be powered simultaneously by using multiple repeater units together. The LCC-S compensation topology is adopted for the proposed WPT system. Constant voltage outputs are obtained for all the loads when neglecting the coil's parasitic resistance. An experimental platform with six loads was developed to validate the proposed WPT system.」
(訳:
要約-高い絶縁レベルを達成するための、多レベルコンバータ中のゲートドライバに電力を供給する新しい無線電力伝送(WPT)システムを提案する。提案するWPTシステムには2つの要件がある。第一に、無線電力伝送システムは、各々が1つのゲートドライバに対応した複数の出力を含まなければならない。第二に、各ゲートドライバには定電圧源が必要である。複数負荷WPTシステムに対して、各負荷の独立した電力制御を実現することは、挑戦的であるが必要である。この目標を達成するために、2つの中継器コイルからなるリピータユニットを、負荷に電力供給するように設計した。複数のリピータユニットを一緒に使用することで、多くの負荷に同時に電力を供給できる。提案するWPTシステムに対して、LCC-S補償トボロジを採用する。コイルの寄生抵抗を無視すると、すべての負荷に対して定電圧出力が得られる。6つの負荷を有する実験プラットフォームを開発し、提案するWPTシステムを検証した。)
ウ 3328頁右欄~3329頁左欄
「II. System Modeling
A. System Description
Fig. 1 shows the structure of the proposed WPT system with N loads. There are (N + 1) units in the WPT system, which are transmitting unit #0, repeater units #n (n = 1, 2, …, N - 1), and receiving unit #N. In transmitting unit #0, a high-frequency ac power source V0 with the angular frequency ω0 is used to excite transmitting coil L0_t. In repeater unit n, there are two repeater coils, namely Ln_r and Ln_t, which receives power from its previous unit and transmits power to the next unit, respectively. The subscript “r” and “t” represent “receiving” and “transmitting,”respectively. For receiving unit #N, only receiving coil LN_r exists. rn_r and rn_t are the parasitic resistances of Ln_r and Ln_t, respectively. In unit #n, an LCC circuit consisting of Lfn, Cfn, and Cn_t is used to compensate transmitting coil Ln_t, while a compensation capacitor Cn_r is connected in series with receiving coil Ln_r, which form an LCC-S topology for each transmitter-receiver pair. The receiving circuit Rx #n is connected across receiving coil Ln_r in the unit #n (n=1, 2, …, N) as shown in Fig. 1, which contains an uncontrolled rectifier and a dc-dc converter to transform the received ac power to a stable dc output for the gate drivers. In this case, the output dc voltage of Rx #n is 15 V. Considering that the voltage across the rectifier and the current flowing through the rectifier are in phase, the total receiving circuit Rx #n is resistive [4] and will be modeled as a load resistor Rn in the following analysis. Ifn, In_t, and In_r are the currents flowing through Lfn, Ln_t, and Ln_r, respectively, the positive directions of which are defined in Fig. 1. The power is transferred between two adjacent units #(n-1) and #n via the magnetic coupling between Ln-1_t and Ln_r. The mutual inductance and the coupling coefficient between Ln-1_t and Ln_r are defined as Mn and kn, respectively. The other couplings should be as small as possible, which can be realized by the coil structure discussed in the following section.」
(訳:
II.システムモデリング
A.システムの説明
図1は、提案する、N個の負荷を有するWPTシステムの構成を示す。WPTシステムは、(N+1)個のユニットを備え、(N+1)個のユニットは、送信ユニット#0、リピータユニット#n(n=1、2、…、N-1)、及び受信ユニット#Nである。送信ユニット#0では、角周波数ω0の高周波交流電源V0を用いて送信コイルL0_tを励磁する。リピータユニット#nでは、2つの中継器コイル、すなわちLn_r及びLn_tがあり、それぞれ、前のユニットから電力を受け取り、次のユニットに電力を送信する。下付き文字「r」及び「t」は、それぞれ「受信」及び「送信」を表す。受信ユニット#Nの場合、受信コイルLN_rのみが存在する。rn_rおよびrn_tは、それぞれLn_r及びLn_tの寄生抵抗である。ユニット#nでは、Lfn、Cfn及びCn_tからなるLCC回路を使用して送信コイルLn_tを補償し、一方、補償コンデンサCn_rは、受信コイルLn_rと直列に接続され、これは、各送信器-受信器対のためのLCC-Sトボロジを形成する。受信回路Rx#nは、図1に示すように、ユニット#n(n=1、2、…、N)の受信コイルLn_rの両端に接続されており、制御されていない整流器とdc-dcコンバータとを含み、受信した交流電力をゲートドライバのための安定した直流出力に変換する。この場合、Rx#nの出力直流電圧は15Vである。整流器両端の電圧と整流器を流れる電流が同相であることを考慮すると、受信回路Rx#n全体は抵抗性[4]であり、以下の解析では負荷抵抗Rnとしてモデル化される。Ifn、In_t、In_rは、それぞれLfn、Ln_t、Ln_rを流れる電流で、それらの正の方向は、図1で定義されている。電力は、Ln-1_tとLn_rの間の磁界結合を介して、2つの隣り合うユニット#(n-1)と#nの間で伝送される。Ln-1_tとLn_rの間の相互インダクタンスと結合係数は、それぞれMnとknとして定義される。他の結合は可能な限り小さくすべきであり、これは、次節で説明するコイル構造によって実現できる。)
エ 図1(3329頁上段)
「
[図:0001428034000001.jpg]
」
(訳:
図1.提案するWPTシステムの構成)
オ 3329頁右欄~3330頁左欄
「C. System Analysis
The following resonant condition should be met:
[図:0001428034000002.jpg]
…(略)…
The load voltage Vn can be calculated iteratively using (5). In an ideal condition, the coil's parasitic resistance is very small and can be neglected. With this assumption, Vn can be simplified by setting rn_r = rn_t = 0 in (4) and (5) as
[図:0001428034000003.jpg]
It can be seen from (6) that equal load voltage can be obtained, i.e., V1 = V2 = V3 = … = VN, when the following equations are met:
[図:0001428034000004.jpg]
」
(訳:
C.システム分析
次の共振条件を満たすこと:
[図:0001428034000005.jpg]
…(略)…
負荷電圧Vnは、(5)を用いて反復計算により求められる。理想的な状態下では、コイルの寄生抵抗は非常に小さく、無視することができる。この仮定により、(4)及び(5)においてrn_r=rn_t=0とすることで、Vnを次のように簡略化することができる。
[図:0001428034000006.jpg]
(6)から、次の式を満たす場合に、等しい負荷電圧、すなわち、V1=V2=V3=…=VNが得られることがわかる。
[図:0001428034000007.jpg]
)
カ 3330頁左欄
「III. EXPERIMENTAL RESULTS
A. Experimental System Setup
An experimental platform with six loads has been developed as shown in Fig. 3. An H-bridge inverter is used to generate a 200 kHz ac power source. The Litz wire is adopted to fabricate the repeater coils to decrease the influence of the skin effect.」
(訳:
III.実験結果
A.実験システムの設定
図3に示すように、6個の負荷を有する実験プラットフォームを開発した。H-ブリッジインバータを使用して、200kHz交流電源を生成した。リピータコイルを製作するためにリッツ線を採用し、表皮効果の影響を低減した。)
キ 図3(3330頁左欄)
「
[図:0001428034000008.jpg]
」
(図3.6個の負荷を有する実験プラットフォーム)
(2)甲1発明
ア 前記(1)カの「6個の負荷を有する実験プラットフォーム」は、前記(1)ウの「N個の負荷を有するWPTシステム」のN=6の場合の「WPTシステム」であることは明らかである。また、「6個の負荷を有する実験プラットフォーム」の「H-ブリッジインバータを使用して」「生成」する「200kHz交流電源」は、前記(1)ウの「WPTシステム」の「高周波交流電源V0」であると認められる。
イ 図1(前記(1)エ)によれば、「送信ユニット#0」は、前記(1)ウの「高周波交流電源V0」を備えると認められる。
ウ 前記(1)ウによれば、「WPTシステム」の「ユニット#n」の「受信コイルLn_r」には、「補償コンデンサCn_r」が「直列に接続され」ており、共振条件(1)(前記(1)オ)によれば、該「受信コイルLn_r」及び「補償コンデンサCn_r」により形成される直列共振回路(以下「受信共振回路」という。)は、「角周波数ω0」(前記(1)ウ)で共振すると解されるから、「受信コイルLn_r」及び「補償コンデンサCn_r」は、受信共振回路を形成して直列共振すると認められる。
エ 前記(1)ウによれば、「ユニット#n(n=1、2、…、N)」の「送信コイルLn_t」には、補償回路である「Lfn、Cfn及びCn_tからなるLCC回路」が接続され、図1(前記(1)エ)より、「送信コイルLn_t」、「Cn_t」及び「Cfn」が共振回路(以下「送信共振回路」という。)を形成していることは明らかである。そして、共振条件(1)(前記(1)オ)によれば、上記共振回路は、「角周波数ω0」(前記(1)ウ)で並列共振すると解されるから、「送信コイルLn_t」、「Cn_t」及び「Cfn」は、送信共振回路を形成して並列共振すると認められる。
オ 前記(1)ウによれば、「2つの隣り合うユニット#(n-1)と#nの間」の「電力」「伝送」は、「Ln-1_tとLn_rの間の磁界結合を介して」行われるものであるところ、前記ウ及びエのとおり、送信コイル「Ln-1_t」を含む送信共振回路は並列共振し、受信コイル「Ln_r」を含む受信共振回路は直列共振し、その共振周波数が等しいから、上記「2つの隣り合うユニット#(n-1)と#nの間」の「電力」「伝送」は、磁界共鳴方式、すなわち、送信共振回路が並列共振し、受信共振回路が直列共振することで行われると認められる。
カ 前記(1)オの「負荷電圧Vn」は、図1(前記(1)エ)の記載、並びに前記(1)ウの「受信回路Rx#n全体は…(略)…負荷抵抗Rnとしてモデル化される」及び「受信回路Rx#nは、…(略)…ユニット#n(n=1、2、…、N)の受信コイルLn_rの両端に接続されており、制御されていない整流器とdc-dcコンバータとを含み」との記載を踏まえると、「受信回路Rx#n」の「整流器両端の電圧」(前記(1)ウ)であると認められる。
キ 以上を踏まえると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「 無線電力伝送(WPT)システムであって、(前記(1)イ、前記ア)
N個の負荷を有し、(前記(1)ウ)
(N+1)個のユニットを備え、(N+1)個のユニットは、送信ユニット#0、リピータユニット#n(n=1、2、…、N-1)、及び受信ユニット#Nであり、(前記(1)ウ)
送信ユニット#0は、角周波数ω0の高周波交流電源V0を備え、高周波交流電源V0を用いて送信コイルL0_tを励磁し、(前記(1)ウ、前記イ)
リピータユニット#nでは、2つの中継器コイルの受信コイルLn_r及び送信コイルLn_tがあり、それぞれ、前のユニットから電力を受け取り、次のユニットに電力を送信し、(前記(1)ウ)
受信ユニット#Nの場合、受信コイルLN_rのみが存在し、(前記(1)ウ)
ユニット#nでは、Lfn、Cfn及びCn_tからなるLCC回路を使用して送信コイルLn_tを補償し、一方、補償コンデンサCn_rは、受信コイルLn_rと直列に接続され、これは、各送信器-受信器対のためのLCC-Sトボロジを形成し、(前記(1)ウ)
受信コイルLn_rと補償コンデンサCn_rは、受信共振回路を形成して直列共振し、送信コイルLn_t、Cn_t及びCfnは、送信共振回路を形成して並列共振し、(前記ウ、エ)
受信回路Rx#nは、ユニット#n(n=1、2、…、N)の受信コイルLn_rの両端に接続されており、制御されていない整流器とdc-dcコンバータとを含み、受信した交流電力を安定した直流出力に変換し、(前記(1)ウ)
受信回路Rx#nの整流器両端の電圧と整流器を流れる電流が同相であり、整流器両端の電圧Vnは、V1=V2=V3=…=VNであり、(前記(1)ウ、前記カ)
2つの隣り合うユニット#(n-1)と#nの間で、送信共振回路が並列共振し、受信共振回路が直列共振することで電力伝送を行い、(前記オ)
N=6であり、(前記ア)
高周波交流電源V0は、H-ブリッジインバータを使用して生成した200kHz交流電源である(前記ア)
WPTシステム」
2 申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)発明特定事項1A、1Hについて
甲1発明の「無線電力伝送(WPT)」は、本件発明1の「非接触電力伝送」に相当する。
甲1発明の「無線電力伝送(WPT)システム」では、「リピータユニット#n」が「前のユニットから電力を受け取り、次のユニットに電力を送信」するため、電力は少なくとも3ユニット以上にわたって伝送される。すなわち電力が多段伝送されるから、甲1発明の「無線電力伝送(WPT)システム」は、電力を多段伝送する機能を有する装置である。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「非接触電力伝送によって電力を多段伝送する非接触電力伝送装置」である点で一致する。
(イ)発明特定事項1Bについて
甲1発明の「H-ブリッジインバータ」は、本件発明1の「負荷非依存のインバータ」と、「インバータ」である点で共通する。他方、甲1発明の「H-ブリッジインバータ」が「負荷非依存」であるかは定かでない。
甲1発明の「高周波交流電源V0」は、「H-ブリッジインバータ」を使用して生成された「200kHz交流電源」であるから、「H-ブリッジインバータ」が「負荷非依存」か定かでない点を除いて、本件発明1の「前記インバータによって交流に変換された電力」に相当する。
甲1発明の「送信ユニット#0」は、「高周波交流電源V0」を備えるから、「高周波交流電源V0」を生成する前記「H-ブリッジインバータ」を当然に備えると認められる。また、「送信ユニット#0」において「高周波交流電源V0を用いて」「励磁」される「送信コイルL0_t」は、「Cn_t及びCfn」(n=0)と「送信共振回路を形成して並列共振し」、それにより「電力伝送を行」うため、「送信ユニット#0」の「送信共振回路」は、本件発明1の「電力を非接触で送電する送電部」に相当する。
甲1発明の「送信ユニット#0」は、「WPTシステム」の電力の多段伝送(前記(ア))での最初の段になることは明らかであり、これを「第1段」の「ユニット」と称することは任意である。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「インバータ及び前記インバータによって交流に変換された電力を非接触で送電する送電部を有する第1段のユニット」を備える点で共通するが、「インバータ」が、本件発明1は「負荷非依存」であるのに対し、甲1発明の「H-ブリッジインバータ」は「負荷非依存」であるかは定かでない点で相違する。
(ウ)発明特定事項1Cについて
甲1発明の「リピータユニット#n(n=1、2、…、N-1)」は、「それぞれ、前のユニットから電力を受け取り、次のユニットに電力を送信」するものである。「リピータユニット#n」の「受信共振回路」は、「直列共振することで電力伝送を行」うから、本件発明1の「前段のユニットから非接触で電力を受電する受電部」に相当する。また、「リピータユニット#n」の「送信共振回路」は、「並列共振」することで「電力伝送を行」うから、本件発明1の「後段のユニットに非接触で電力を送電する送電部」に相当する。
甲1発明の「リピータユニット#n(n=1、2、…、N-1)」は、「WPTシステム」の電力の多段伝送(前記(ア))での「送信ユニット#0」と「受信ユニット#N」の間の中間の段になり、これらを「第2段から第N-1段」の「ユニット」と称することは任意である。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「前段のユニットから非接触で電力を受電する受電部、及び後段のユニットに非接触で電力を送電する送電部を有する第2段から第N-1段のユニット」を備える点で一致する。
(エ)発明特定事項1Dについて
甲1発明の「受信ユニット#N」は、「WPTシステム」の電力の多段伝送(前記(ア))での最後の段になるから、これを「第N段」の「ユニット」と称することは任意である。
甲1発明の「受電ユニット#N」の「受信共振回路」は、前記(ウ)の「リピータユニット#n」の「受信共振回路」と同様であるから、本件発明1の「前記第N-1段のユニットから非接触で電力を受電する受電部」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「前記第N-1段のユニットから非接触で電力を受電する受電部を有する第N段のユニット」を備える点で一致する。
(オ)発明特定事項1Eについて
本件発明1の「N」は、「電力を多段伝送する」「ユニット」の段数であると解されるところ、甲1発明は、「N=6」であるため、7段の「ユニット#n」(n=0、1、…、6)で電力が多段伝送されるものである。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「Nは3以上の整数であ」る点で一致する。
(カ)発明特定事項1Fについて
甲1発明の「ユニット#n(n=1、2、…、N)」の「受信コイルLn_rの両端に接続され」た「受信回路Rx#n」は、「制御されていない整流器とdc-dcコンバータとを含み」、「受信した交流電力を安定した直流出力に変換」するから、「整流器」は、「受信した交流電力」を整流していると認められる。
他方、甲1発明には、「整流器」の出力が「一定の電圧または一定の電流」であることは特定されていない。また、甲1発明の「整流器」は、「制御されていない」ものであるため、その出力電圧または出力電流が一定となるには、入力電圧または入力電流が一定である必要があると解されるところ、甲1発明では、「整流器」の入力電圧である「整流器両端の電圧Vn」が一定であること、又は「整流器を流れる電流」が一定であることも特定されていない。さらに、前記(イ)のとおり、電源である「高周波交流電源V0」を生成する「H-ブリッジインバータ」が「負荷非依存」か定かでないため、「高周波交流電源V0」が一定電圧または一定電流かも定かでない。以上を踏まえると、甲1発明において、「整流器」の出力が「一定の電圧または一定の電流」であるかは不明である。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「前記第2段から前記第N段のユニットのうち、1以上のユニットは非接触電力伝送された交流電力を整流して出力する整流器を有して」いる点で共通するが、「整流器」の「出力」が、本件発明1は「一定の電圧または一定の電流」であるのに対し、甲1発明は「一定の電圧または一定の電流」であるか不明である点で相違する。
(キ)発明特定事項1Gについて
前記(カ)のとおり、甲1発明の「整流器」の出力が、一定の電圧または一定の電流であるか不明である。また、前記(イ)~(エ)のとおり、甲1発明は、「送信共振回路が並列共振し、受信共振回路が直列共振することで電力伝送を行」うものであるが、該「送信共振回路」及び「受信共振回路」は、「各送信器-受信器対のためのLCC-Sトボロジを形成」することで「送信コイルLn_t」及び「受信コイルLn_r」を「補償」するためのものであるから、「送信共振回路」による「並列共振」及び「受信共振回路」による「直列共振」が、「整流器」の出力形態に「応じ」たものであると解することはできない。
したがって、甲1発明は、発明特定事項1Gに相当する構成を有しない点で、本件発明1と相違する。
(ク)一致点、相違点
前記(ア)~(キ)によれば、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、相違する。
[一致点]
「非接触電力伝送によって電力を多段伝送する非接触電力伝送装置であって、
インバータ及び前記インバータによって交流に変換された電力を非接触で送電する送電部を有する第1段のユニットと、
前段のユニットから非接触で電力を受電する受電部、及び後段のユニットに非接触で電力を送電する送電部を有する第2段から第N-1段のユニットと、
前記第N-1段のユニットから非接触で電力を受電する受電部を有する第N段のユニットと、を備え、
Nは3以上の整数であり、
前記第2段から前記第N段のユニットのうち、1以上のユニットは非接触電力伝送された交流電力を整流して出力する整流器を有している、
非接触電力伝送装置。」
[相違点]
(相違点1)「インバータ」が、本件発明1は「負荷非依存」であるのに対し、甲1発明の「H-ブリッジインバータ」は「負荷非依存」であるかは定かでない点。
(相違点2)「整流器」の「出力」が、本件発明1は「一定の電圧または一定の電流」であるのに対し、甲1発明は「一定の電圧または一定の電流」であるか不明である点。
(相違点3)本件発明1は、「前記送電部及び前記受電部は、前記整流器の出力において一定となる電圧または電流に応じて直列共振または並列共振によって非接触電力伝送を行う」のに対し、甲1発明は、対応する構成を有しない点。
イ 相違点についての判断
(ア)事案に鑑み、相違点3について検討する。
相違点3は、「非接触電力伝送装置」の「送電部」及び「受電部」の構成に関わるから、実質的な相違点である。
次に、相違点3に係る構成(発明特定事項1G)の容易想到性について検討すると、甲1~甲4には、発明特定事項1Gの構成が記載も示唆もされていないから、甲1発明に甲1~甲4の記載事項を如何に組み合わせたとしても、本件発明1の発明特定事項1Gの構成には至らない。
よって、本件発明1の相違点3に係る構成は、甲1発明及び甲1~甲4の記載事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。
甲1発明を相違点3に係る構成にする動機付けについても念のため検討すると、甲1発明は、前記ア(キ)のとおり、「整流器」の出力形態が「一定の電圧または一定の電流である」か不明である上、そもそも、「整流器」の出力形態として「一定の電圧」か「一定の電流」かの2とおりの形態を想定していない。そのため、甲1発明を、「整流器」の出力形態が「一定の電圧」か「一定の電流」かに「応じて」、直列共振か並列共振によって無線電力伝送するように改変する動機付けはない。加えて、前記ア(キ)のとおり、甲1発明において、送信共振回路が並列共振し、受信共振回路が直列共振するのは、送信コイルLn_t及び受信コイルLn_rを補償するためのLCC-Sトボロジを採用したためであり、ひいては「受信した交流電力を安定した直流出力に変換」するためと解される。そうすると、甲1発明において、上記LCC-Sトポロジに代えて、送信共振回路及び受信共振回路が、「整流器」の出力形態が「一定の電圧」か「一定の電流」かに「応じて」直列共振か並列共振によって無線電力伝送するように改変することには、阻害要因があるといえる。
(イ)前記(ア)のとおりであるから、その余の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1発明と同一ではない。また、本件発明1は、甲1発明及び甲1~甲4の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 特許異議申立人の主張について
(ア)主張の概要
相違点3に関して、特許異議申立人は、概略次のとおり主張する。
甲1発明では、直列共振によって、無線電力伝送を行うことは明らかであり、甲1には、一定の電圧を出力する「整流器」が開示され、本件発明1の「送電部」に相当するリピータユニット#nのCn_t及びLn_tと、本件発明1の「受電部」に相当する後段(次段)のCn_r及びLn_rとは、整流器から出力される一定の電圧に応じて直列共振によって非接触電力伝送することは明らかであるから、甲1発明における、Cn_t及びLn_tと後段(次段)のCn_r及びLn_rとの無線電力伝送は、本件発明1の構成要件1Gに相当する。(特許異議申立書19頁「(キ)構成要件1G」)
(イ)主張についての検討
前記イ(ア)のとおり、甲1発明は、整流器の出力形態として「一定の電圧」か「一定の電流」かの2とおりのものを想定していない。さらに、甲1発明は、送信コイルLn_tを含む送信共振回路は、直列共振ではなく並列共振により電力伝送を行うものである。この点をおくとしても、甲1発明の送信共振回路及び受信共振回路は、LCC-Sトボロジを形成するためのものであって、整流器の出力形態に応じたものでない。そのため、仮に、特許異議申立人の主張するように、整流器から出力される電圧が一定であったとしても、それをもって、送信コイルLn_tを含む送信共振回路と受信コイルLn_rを含む受信共振回路が、発明特定事項1Gの「前記送電部及び前記受電部は、前記整流器の出力において一定となる電圧または電流に応じて直列共振または並列共振によって非接触電力伝送を行う」ものに相当するとはいえない。
よって、特許異議申立人の前記(ア)の主張は、採用することができない。
エ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。また、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲1~甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、さらに別の発明特定事項を備えるものであるから、甲1発明とは少なくとも前記(1)ア(ク)の相違点3で相違し、相違点3については、前記(1)イのとおりである。
よって、本件発明3は、甲1に記載された発明ではない。また、本件発明2~4は、甲1に記載された発明及び甲1~甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由1及び2についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1及び3は、甲1に記載された発明ではなく、また、本件発明1~4は、甲1に記載された発明及び甲1~甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由1及び2は、理由がない。
第5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に上記請求項に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700705