特許異議申立
2025-700960
空気調和装置
- 審判番号
- 2025-700960
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-203030
- 登録番号
- 7659197
- 請求日
- 2025年10月07日
- 審決日
- 2026年03月04日
- 公報発行日
- 2026年04月24日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ダイキン工業株式会社
- 【権利者代理人】古部 次郎
- 【権利者代理人】岸 真太郎
- 【異議申立人】角田 朗
- 審判長/審判官
- 審判長 丸山 高政
- 審判官 行武 哲太郎
- 審判官 鈴木 圭一郎
- 分類
- P1651.113-Y (H02J) / P1651.121-Y (H02J) / P1651.537-Y (H02J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7659197号発明「空気調和装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7659197号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7659197号(以下「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和4年3月8日(優先権主張 令和3年10月5日)の出願である特願2022-35691号(以下「原出願」という。)の一部を令和4年12月20日に新たな特許出願としたものであって、令和7年4月1日にその特許権の設定登録がされ、同年4月9日に特許掲載公報が発行された。その後、その全請求項(請求項1~4)に係る特許に対し、令和7年10月7日に特許異議申立人 角田 朗(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件の特許請求の範囲と本件発明
本件の特許請求の範囲の請求項1~4に係る発明(以下、それぞれを「本件発明1」~「本件発明4」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、以下の請求項1~4に記載されたとおりのものと認める。
なお、後の参照の便宜のために、本件発明1~4のいずれについても分説した上で各分説に記号を付し、以後、各分説を「発明特定事項1A」のように付した記号にて参照する。なお、同じ文言からなる発明特定事項については、同じ記号を付した。
【請求項1】(本件発明1)
1A 自装置に入力された入力電圧に関する電圧情報を取得する電圧情報取得手段と、
1B 基本波無効電力を自装置における前記入力電圧の受電点に供給する供給手段と、
1C 前記供給手段を制御する制御手段と、
1D を備え、
1E 前記制御手段は、前記電圧情報取得手段に取得された前記電圧情報から特定される前記入力電圧の大きさに応じて、前記供給手段から前記受電点に基本波無効電力を供給し、
1F 前記基本波無効電力を供給した結果に応じて、基本波無効電力または無効電流を変化させる
1G 空気調和装置。
【請求項2】(本件発明2)
1A 自装置に入力された入力電圧に関する電圧情報を取得する電圧情報取得手段と、
2A 電力消費施設の受電点の無効電力を特定する無効電力特定手段と、
1B 基本波無効電力を自装置における前記入力電圧の受電点に供給する供給手段と、
1C 前記供給手段を制御する制御手段と、
1D を備え、
1E’ 前記制御手段は、前記電圧情報取得手段に取得された前記電圧情報から特定される前記入力電圧の大きさに応じて、前記供給手段から前記受電点に基本波無効電力を供給する第1供給モードと、
2B 前記無効電力特定手段で特定した無効電力に応じて、前記供給手段から前記電力消費施設の受電点に無効電流を供給する第2供給モードとを有し、
1F’ 前記無効電流を供給した結果に応じて、基本波無効電力または無効電流を変化させる
1G 空気調和装置。
【請求項3】(本件発明3)
1A 自装置に入力された入力電圧に関する電圧情報を取得する電圧情報取得手段と、
3A 皮相電力に関する電線情報を取得する電線情報取得手段と、
1B 基本波無効電力を自装置における前記入力電圧の受電点に供給する供給手段と、
1C 前記供給手段を制御する制御手段と、
1D を備え、
1E’ 前記制御手段は、前記電圧情報取得手段に取得された前記電圧情報から特定される前記入力電圧の大きさに応じて、前記供給手段から前記受電点に基本波無効電力を供給する第1供給モードと、
3B 前記電線情報に基づいて、前記供給手段から前記受電点に基本波無効電力を供給する第3供給モードとを有し、
1F 前記基本波無効電力を供給した結果に応じて、基本波無効電力または無効電流を変化させる
1G 空気調和装置。
【請求項4】(本件発明4)
1A 自装置に入力された入力電圧に関する電圧情報を取得する電圧情報取得手段と、
4A 自装置が出力すべき皮相電力に関する電力情報を取得する電力情報取得手段と、
1B 基本波無効電力を自装置における前記入力電圧の受電点に供給する供給手段と、
1C 前記供給手段を制御する制御手段と、
1D を備え、
1E’ 前記制御手段は、前記電圧情報取得手段に取得された前記電圧情報から特定される前記入力電圧の大きさに応じて、前記供給手段から前記受電点に基本波無効電力を供給する第1供給モードと、
4B 前記電力情報に基づいて、前記供給手段から前記受電点に基本波無効電力を供給する第4供給モードとを有し、
1F 前記基本波無効電力を供給した結果に応じて、基本波無効電力または無効電流を変化させる
1G 空気調和装置。
第3 証拠方法及び申立理由
特許異議申立人は、特許異議申立書とともに以下1に示す甲第1号証及び甲第2号証(以下、それぞれ「甲1」及び「甲2」という。)を提出し、以下2に示す申立理由により、本件発明に係る特許を取消すべきものである旨主張する。
1 証拠方法
甲1 特開2018-207565号公報
甲2 特開2021-2970号公報
2 申立理由
特許異議申立書に記載された申立理由の概要は、以下の申立理由1~3のとおりである。
(1)申立理由1(新規性欠如)
本件発明1~4は、甲1に記載された発明であって、特許法29条1項3号に該当するから、請求項1~4に係る特許は、同法29条1項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
(2)申立理由2(進歩性欠如)
本件発明1~4は、甲1に記載された発明に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
本件発明3及び4は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、請求項3及び4に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
(3)申立理由3(サポート要件違反)
本件発明2~4は、以下ア~ウの点で、明細書又は特許請求の範囲の記載が不備のため、本件特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(同法113条4号)
ア 明細書において、本件発明2で特定されている「無効電流を供給する第2供給モード」は記載されていない点(33頁12~29行目)
請求項2に、「前記無効電力特定手段で特定した無効電力に応じて、前記供給手段から前記電力消費施設の受電点に無効電流を供給する第2供給モードとを有し、」(発明特定事項2B)との記載がある。この記載は、本件特許についての出願を、原出願から分割出願する際に追加されたものである。一方、明細書にはこの「第2供給モード」について、【0078】に「また、AF33は、内部モードにおいて、入力電圧の大きさが調整条件を満たす場合に入力電圧の大きさに応じて供給部340に基本波無効電力を供給させる電圧調整モードと、入力電圧の大きさが調整条件を満たす場合であっても供給部340に入力電圧の大きさに応じた基本波無効電力の供給をさせない電圧非調整モードとを有する。ここで、電圧調整モードは、第1供給モードとして捉えられる。また、電圧非調整モードは、第2供給モードとして捉えられる。」と記載されている。
すなわち、明細書には「無効電力を“供給しない”第2供給モード」について記載はあるが、本件発明2で特定されている「無効電流を“供給する”第2供給モード」については記載がない(無効電力を供給しないので当然無効電流も供給しない)。
したがって、本件発明2は、請求項で特定されている事項(無効電流を供給する第2供給モード)が、発明の詳細な説明中に記載も示唆もされてない類型に該当し(審査基準第II部第2章第2節サポート要件2.2サポート要件違反の類型の類型(1))、サポート要件違反である。
イ 明細書の発明を実施するための形態において、本件発明3で特定されている「皮相電力に関する電線情報を取得する電線情報取得手段」は記載されていない点(33頁30~43行目)
請求項3に、「皮相電力に関する電線情報を取得する電線情報取得手段と、」(発明特定事項3A)との記載がある。この記載は、本件特許についての出願を、原出願から分割出願する際に追加されたものである。一方、明細書にはこの「皮相電力に関する電線情報」及び「電線情報取得手段」について、上記の分割出願の際に【0005】の【課題を解決するための手段】に、請求項3の記載を転記する形で追記されたのみであり、【発明を実施するための形態】には記載がない。
したがって、本件発明3は、請求項で特定されている事項(皮相電力に関する電線情報を取得する電線情報取得手段)が、発明の詳細な説明中に記載も示唆もされてない類型に該当し(審査基準第II部第2章第2節サポート要件2.2サポート要件違反の類型の類型(1))、サポート要件違反違反である。
なお、明細書の【0117】及び【0118】(当審注:特許異議申立書の「01181欄」の記載(33頁41行目)は、「0118欄」の誤記であると認める。)に、「皮相電力に関するパラメータ」及び「皮相電力に関する情報」との記載があるが、「皮相電力に関する電線情報」との関係が不明である。
ウ 明細書の発明を実施するための形態において、本件発明4で特定されている「皮相電力に関する電力情報を取得する電力情報取得手段」は十分にサポートされていない点(33頁44行目~34頁5行目)
請求項4に、「皮相電力に関する電力情報を取得する電力情報取得手段」(発明特定事項4A)との記載がある。この記載も、発明を実施するための形態には十分サポートされていない。
したがって、本件発明4は、請求項で特定されている事項(皮相電力に関する電力情報を取得する電力情報取得手段)が、発明の詳細な説明中に記載も示唆もされてない類型に該当し(審査基準第II部第2章第2節サポート要件2.2サポート要件違反の類型の類型(1))、サポート要件違反違反である。
第4 当審の判断
事案に鑑み、先に申立理由3(サポート要件違反)について判断する。
1 申立理由3(サポート要件違反)について
(1)明細書において、本件発明2で特定されている「無効電流を供給する第2供給モード」は記載されていない点(前記第3、2(3)ア)
明細書には、以下の記載がある。(下線は強調のため当審にて付与、以下同様。)
ア「【0013】
…(略)…
AF33が電力消費施設20の受電点20Pにおける力率を調整する手法の一例を説明する。電力消費施設20の受電点20Pに無効電力が生じている場合において、AF33が、受電点20Pにおける無効電力とは逆位相である無効電力を構成する電流を受電点20Pに供給することにより、受電点20Pにおける無効電力が減少する。そして、受電点20Pにおける無効電力の減少に伴い、受電点20Pにおける力率が向上する。」
イ「【0018】
モード決定部334は、AF33の動作を制御するモードを決定する。本実施形態のモード決定部334は、内部モードを有する。…(略)…
また、本実施形態では、AF33の動作を制御するモードとして、電圧調整モードと、電圧非調整モードとが設けられている。電圧調整モードは、空気調和装置30に入力される電圧をAF33に調整させるモードである。また、電圧非調整モードは、空気調和装置30に入力される電圧をAF33に調整させないモードである。AF33は、モード決定部334が電圧調整モードおよび電圧非調整モードの何れのモードであるかに応じて、動作を制御される。
本実施形態では、モード決定部334が電圧調整モードおよび電圧非調整モードの何れのモードであっても、AF33は、高調波電流を抑制する。また、モード決定部334が電圧調整モードである場合、AF33は、電力消費施設20の受電点20Pにおける力率を調整しない。一方で、モード決定部334が電圧非調整モードである場合、AF33は、電力消費施設20の受電点20Pにおける力率を調整する。
モード決定部334は、予め定められた条件に基づいて、電圧調整モードまたは電圧非調整モードに切り替わる。」
ウ「【0021】
無効電力特定部337は、電力消費施設20の受電点20Pにおける無効電力を特定する。より具体的には、無効電力特定部337は、記憶部332に記憶されている施設センサ情報から、電力消費施設20の受電点20Pにおける無効電力を特定する。また、無効電力特定部337は、特定した無効電力を減少させるためにAF33から供給させる必要がある電流を算出する。電力消費施設20の受電点20Pにおける無効電力を減少させるためにAF33から供給させる必要がある電流を、以下では、減少必要電流と称することがある。…(略)…」
エ「【0024】
供給量決定部339は、電力消費施設20の受電点20Pにおける力率をAF33に調整させる場合において、減少必要電流よりも減算値の方が大きいか否かに応じて、AF33に供給させる電流を決定する。より具体的には、減少必要電流よりも減算値の方が大きい場合、供給量決定部339は、受電点20Pにおける力率を調整するためにAF33に供給させる電流を減少必要電流に決定する。また、減少必要電流よりも減算値の方が小さい場合、供給量決定部339は、受電点20Pにおける力率を調整するためにAF33に供給させる電流を減算値に決定する。」
オ「【0028】
供給手段の一例としての供給部340は、電流を供給する。より具体的には、供給部340は、供給量決定部339に決定された大きさの電流を供給する。
供給部340は、受電経路321における高調波電流の低減を供給量決定部339に指示された場合、受電経路321に電流を供給する。また、供給部340は、電力消費施設20の受電点20Pにおける力率の調整を供給量決定部339に指示された場合、電力消費施設20の受電点20Pに電流を供給する。また、供給部340は、空気調和装置30に入力される電圧の調整を供給量決定部339に指示された場合、空気調和装置30の受電点30Pに基本波無効電力を構成する電流を供給する。」
カ「【0078】
また、AF33は、内部モードにおいて、入力電圧の大きさが調整条件を満たす場合に入力電圧の大きさに応じて供給部340に基本波無効電力を供給させる電圧調整モードと、入力電圧の大きさが調整条件を満たす場合であっても供給部340に入力電圧の大きさに応じた基本波無効電力の供給をさせない電圧非調整モードとを有する。ここで、電圧調整モードは、第1供給モードとして捉えられる。また、電圧非調整モードは、第2供給モードとして捉えられる。
…(略)…」
以上の記載の「電圧非調整モードは、第2供給モードとして捉えられる」(【0078】)との記載から、本件発明2の「第2供給モード」は、発明の詳細な説明における「電圧非調整モード」に対応すると解される。そして、「電圧非調整モード」について、発明の詳細な説明に「電圧非調整モードである場合、AF33は、電力消費施設20の受電点20Pにおける力率を調整する」(【0018】)と記載されており、また「供給量決定部339は」、「受電点20Pにおける力率をAF33に調整させる場合において」「AF33に供給させる電流を決定する」(【0024】)、「供給部340は、電力消費施設20の受電点20Pにおける力率の調整を供給量決定部339に指示された場合、電力消費施設20の受電点20Pに電流を供給する」(【0028】)と記載されている。さらに、発明の詳細な説明には、「力率を調整する手法」として、「電力消費施設20の受電点20Pに無効電力が生じている場合において、AF33が、受電点20Pにおける無効電力とは逆位相である無効電力を構成する電流を受電点20Pに供給することにより、受電点20Pにおける無効電力が減少する」(【0013】)と記載されているから、供給する電流は、無効電流を含むことは明らかである。ゆえに、明細書の発明の詳細な説明において、本件発明2で特定されている「無効電流を供給する第2供給モード」は記載されていると認められる。
なお、念のため付言すると、「電圧非調整モード」について、発明の詳細な説明では、「入力電圧の大きさが調整条件を満たす場合であっても供給部340に入力電圧の大きさに応じた基本波無効電力の供給をさせない」(【0078】)と記載されており、この記載より、「基本波無効電力」は、「入力電圧の大きさに応じ」ることを前提としたものであると解される。一方、本件発明2において「第2供給モード」で「供給する」「無効電流」とは、発明特定事項2A及び2Bで特定されているとおり、「電力消費施設の受電点の無効電力を特定する無効電力特定手段」「で特定した無効電力に応じ」たものであり、入力電圧の大きさに応じたものではない。ゆえに、発明特定事項2Bで特定されている「無効電流」は、発明の詳細な説明の記載における「基本波無効電力」に対応するものとは解されない。
(2)明細書の発明を実施するための形態において、本件発明3で特定されている「皮相電力に関する電線情報を取得する電線情報取得手段」は記載されていない点(前記第3、2(3)イ)
明細書には、以下の記載がある。
ア「【0129】
取得手段の一例としての情報取得部501は、制御サーバ50に送信された情報を取得する。一例を挙げると、情報取得部501は、電線用センサ10Sから制御サーバ50に送信された電線情報を取得する。情報取得部501に取得された情報は、記憶部502に記憶される。
記憶部502は、情報を記憶する。」
イ「【0139】
…(略)…
指標算出部504は、対象電線における皮相電力の調整が必要であるか否かを判定する(S503)。指標算出部504は、対象電線についての最新の電線情報に示された皮相電力と、この対象電線における皮相電力について設定された基準値との差が予め定められた値以上であるか否かにより、対象電線における皮相電力の調整が必要であるか否かを判定する。
…(略)…」
以上のとおり、発明の詳細な説明において、「取得手段の一例としての情報取得部501」は、「電線用センサ10Sから制御サーバ50に送信された電線情報を取得」していること(【0129】)、また、「皮相電力」は、「対象電線についての最新の電線情報に示された」ものであること(【0139】)が記載されている。ゆえに、「皮相電力に関する電線情報を取得する電線情報取得手段」は、発明の詳細な説明中において、【発明を実施するための形態】の【0129】及び【0139】に記載されていると認められる。特許異議申立人は、「皮相電力に関する電線情報」及び「電線情報取得手段」は、いずれも【0005】の【課題を解決するための手段】に記載されているのみであると主張するが、以上のとおりであるから、この主張は妥当性を欠くものである。
また、特許異議申立人は、「皮相電力に関するパラメータ」及び「皮相電力に関する情報」と「皮相電力に関する電線情報」との関係が不明である旨主張するが、発明の詳細な説明には、「また、電線用センサ10Sは、皮相電力に関するパラメータを検出すると、この検出の結果に基づいて、皮相電力に関する情報を作成する。電線用センサ10Sに作成される皮相電力に関する情報を、以下では、電線情報と称することがある。」(【0118】)との記載があることから、「皮相電力に関するパラメータ」の検出に基づいて「皮相電力に関する情報」すなわち「電線情報」が作成されると解される。ゆえに、「皮相電力に関するパラメータ」及び「皮相電力に関する情報」と、「皮相電力に関する電線情報」の関係は明らかであり、本件発明3の明確性を損なうものではない。
(3)明細書の発明を実施するための形態において、本件発明4で特定されている「皮相電力に関する電力情報を取得する電力情報取得手段」は十分にサポートされていない点(前記第3、2(3)ウ)
明細書には、以下の記載がある。
ア「【0146】
取得部331に取得された指示が外部指示である場合、この外部指示には、調整必要指標が含まれている。そして、供給部340は、この調整必要指標に応じた皮相電力を、空気調和装置30の受電点30Pに供給する(S604)。この場合、供給部340から供給された皮相電力が空気調和装置30の受電点30Pを経て対象電線に供給されることにより、対象電線の皮相電力が調整される。また、対象電線の皮相電力が調整されることに伴い、空気調和装置30に入力される電圧が調整される。
なお、調整必要指標は、空気調和装置30が出力すべき皮相電力に関する電力情報としても捉えられる。また、取得部331は、電力情報を取得する電力情報取得手段としても捉えられる。」
以上のとおり、発明の詳細な説明には、「取得部331に取得された指示が外部指示である場合、この外部指示には、調整必要指標が含まれている」こと、そして、「調整必要指標は、空気調和装置30が出力すべき皮相電力に関する電力情報としても捉えられる」ものであり、また、「取得部331は、電力情報を取得する電力情報取得手段としても捉えられる」ものであること(【0146】)が記載されている。ゆえに、「皮相電力に関する電力情報を取得する電力情報取得手段」は、発明の詳細な説明中において、【0146】に記載されており、十分にサポートされていると認められる。
(4)小括
以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張は、いずれも採用することができない。
また、本件発明2~4は、いずれも発明の詳細な説明に記載されたものである。
よって、本件発明2~4は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできない。
2 申立理由1(新規性欠如)及び申立理由2(進歩性欠如)について
(1)本件発明1について
ア 甲1の記載と甲1発明
甲1には、以下(ア)のとおりの記載がある。また、当該記載に基づき、以下(イ)のとおり甲1発明を認定する。
(ア)甲1の記載
甲1には、以下の記載がある。
a「【0030】
≪実施形態1≫
<電源力率制御システムの概要>
図1は、本実施形態1に係る電源力率制御システム(100)の構成を示すブロック図である。電源力率制御システム(100)は、調相設備(3)と、空気調和装置(11)とを備える。」
b「【0033】
<空気調和装置の構成>
空気調和装置(11)は、圧縮機を有した冷媒回路(図示せず)、電力変換装置(1)、及びアクティブフィルタ装置(4)を備える。」
c「【0039】
以下、アクティブフィルタ装置(4)の構成について説明する。
【0040】
<アクティブフィルタ装置の構成>
アクティブフィルタ装置(4)は、交流電源(2)に対し、高調波電流の発生源となる電力変換装置(1)と並列に接続されており、該電力変換装置(1)から流出し交流電源(2)からの受電経路に現れる高調波電流を打ち消す機能を有する。即ち、アクティブフィルタ装置(4)は、交流電源(2)の電流経路(以下、受電経路(12))における電流が正弦波に近づくように補償電流を流す。より具体的には、アクティブフィルタ装置(4)は、 受電経路(12)に現れている高調波電流とは逆位相の補償電流を生成し、受電経路(12)に供給する。
【0041】
そして、アクティブフィルタ装置(4)は、上述した補償電流を流すことにより、基本波力率を改善する力率改善の機能も有する。この例では、基本波の無効成分も補償する補償電流を流すようにアクティブフィルタ装置(4)を構成することで、基本波力率の改善を行う。
【0042】
上記機能を実現するため、本実施形態1に係るアクティブフィルタ装置(4)は、図1に示すように、電流源(30)、フィルタ側電流検出器(45a,45b)、フィルタ側電圧検出器(46)、及びアクティブフィルタ制御器(43)を有する。」
d「【0051】
-フィルタ側電圧検出器-
フィルタ側電圧検出器(46)は、交流電源(2)のR相及びS相に接続され、T相には 接続されていない。フィルタ側電圧検出器(46)は、交流電源(2)の線間電圧(Vrs)のみを検出してアクティブフィルタ制御器(43)に入力する。」
e「【0053】
-アクティブフィルタ制御器-
アクティブフィルタ制御器(43)は、マイクロコンピュータと、当該マイクロコンピュータを動作させるためのプログラムを格納したメモリディバイスとを用いて構成される。図1に示すように、アクティブフィルタ制御器(43)は、電流源(30)、フィルタ側電流検出器(45a,45b)、フィルタ側電圧検出器(46)、及び後述する調相設備(3)内の調相設備制御器(33)に接続されている。アクティブフィルタ制御器(43)は、各検出器(45a,45b,46)の検出結果と、調相設備制御器(33)を介して送られる交流電源(2)の出力電流(Irs,Its)とに基づいて、アクティブフィルタインバータ部である電流源(30)の出力電流(即ち補償電流)を制御する。」
f「【0084】
<アクティブフィルタ制御器による力率改善制御>
これに対し、アクティブフィルタ制御器(43)は、上述した調相設備制御器(33)にお ける無効電力Pβの制御による進み力率が、交流電源(2)の無効電力Pβに基づいて改善するように、アクティブフィルタ装置(4)の電流源(30)による補償電流の生成動作を制御する。即ち、電流源(30)による補償電流の生成動作の制御により、交流電源(2)の電源力率θαβはより改善され、目標力率に瞬時に収束するようになる。
【0085】
このようなアクティブフィルタ制御器(43)は、図4に示すように、位相検出部(436)、第1電流演算部(435)、第2電流演算部(434)、負荷電流演算部(433)、電流指令演算部(432)、及びゲートパルス発生器(431)を有する。
【0086】
位相検出部(436)には、フィルタ側電圧検出器(46)が検出した交流電源(2)の線間電圧(Vrs)が入力される。位相検出部(436)は、入力された線間電圧(Vrs)を用いて 受電経路(12)における電源電圧の位相を検出し、検出した位相を第1電流演算部(435)及び第2電流演算部(434)に出力する。
【0087】
第1電流演算部(435)には、位相検出部(436)によって検出された電源電圧の位相、及び、電源側電流検出器(34a,34b)によって検出された交流電源(2)の出力電流(Irs,Its)が入力される。第1電流演算部(435)は、入力されたこれらの信号に基づいて、受電経路(12)における高調波電流の補償(高調波電流の低減)と基本波の無効成分の補償(基本波の力率改善)の双方を行うために必要な電流値(以下、第1電流指令値(i1))を求める。第1電流演算部(435)は、求めた第1電流指令値(i1)を、負荷電流演算部(433)に出力する。
【0088】
第2電流演算部(434)には、位相検出部(436)によって検出された電源電圧の位相、及び、フィルタ側電流検出器(45a,45b)によって検出された電流源(30)に入力される電流(Ir2a,It2a)が入力される。第2電流演算部(434)は、入力されたこれらの信号に基づいて、現時点での高調波電流の補償(高調波電流の低減)及び基本波の無効成分の補償(基本波の力率改善)の双方を行っているアクティブフィルタ装置(4)に流れ込んでいる電流(以下、第2電流指令値(i2))を求める。第2電流演算部(434)は、求めた第2電流指令値(i2)を、負荷電流演算部(433)に出力する。」
g「【0090】
具体的に、負荷電流演算部(433)は、電力変換装置(1)及び調相設備(3)の各調相機器(31,32)に流れる電流の合計値を、第1電流演算部(435)の第1電流指令値(i1)から第2電流演算部(434)の第2電流指令値(i2)を減算することによって求め、求めた演算結果を電流指令演算部(432)に出力する。
【0091】電流指令演算部(432)は、負荷電流演算部(433)の演算結果の逆位相の電流値を演算して、その値を電流指令値(Iref)としてゲートパルス発生器(431)に出力する。
【0092】ゲートパルス発生器(431)は、電流源(30)を構成するインバータ回路(アクティブフィルタインバータ部)におけるスイッチングを指示するためのスイッチング指令値(G)、を生成する。詳しくは、ゲートパルス発生器(431)は、電流源(30)が出力する電流値と上記電流指令値(Iref)との偏差に基づいてスイッチング指令値(G)を生成する動作を繰り返す、いわゆるフィードバック制御を行う。これにより、電流源(30)からは、電流指令値(Iref)に相当する電流(補償電流)が受電経路(12)に供給される。」
h 図1
[図:0001434187000001.jpg]
i 図4
[図:0001434187000002.jpg]
(イ)甲1発明
前記(ア)の記載によれば、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。なお、後の参照の便宜のため、甲1発明を1a~1a′に分説し、「構成1a」のようにして参照する。
1a 調相設備(3)と空気調和装置(11)とを備える電源力率制御システム(100)における空気調和装置(11)であって、(【0030】)
1b 空気調和装置(11)は、アクティブフィルタ装置(4)を備え、(【0033】)
1c アクティブフィルタ装置(4)は、交流電源(2)に接続されており、交流電源(2)の電流経路(以下、受電経路(12))における電流が正弦波に近づくように補償電流を流し、具体的には受電経路(12)に現れている高調波電流とは逆位相の補償電流を生成し受電経路(12)に供給し(【0040】)
1d アクティブフィルタ装置(4)は、上述した補償電流を流すことにより、基本波力率を改善する力率改善の機能も有し、(【0041】)
1e アクティブフィルタ装置(4)は、電流源(30)、フィルタ側電圧検出器(46)、及びアクティブフィルタ制御器(43)を有し、(【0042】)
1f フィルタ側電圧検出器(46)は、交流電源(2)の線間電圧(Vrs)のみを検出してアクティブフィルタ制御器(43)に入力し、(【0051】)
1g アクティブフィルタ制御器(43)は、検出器(46)の検出結果に基づいて、アクティブフィルタインバータ部である電流源(30)の出力電流(即ち補償電流)を制御し、(【0053】)
1h アクティブフィルタ制御器(43)は、位相検出部(436)、第1電流演算部(435)、第2電流演算部(434)、負荷電流演算部(433)、電流指令演算部(432)、及びゲートパルス発生器(431)を有し、(【0085】)
1h1 位相検出部(436)には、フィルタ側電圧検出器(46)が検出した交流電源(2)の線間電圧(Vrs)が入力され、入力された線間電圧(Vrs)を用いて受電経路(12)における電源電圧の位相を検出し、検出した位相を第1電流演算部(435)及び第2電流演算部(434)に出力し、(【0086】)
1h2 第1電流演算部(435)には、位相検出部(436)によって検出された電源電圧の位相が入力され、入力されたこの信号に基づいて電流値(以下、第1電流指令値(i1))を求め、求めた第1電流指令値(i1)を、負荷電流演算部(433)に出力し、(【0087】)
1h3 第2電流演算部(434)には、位相検出部(436)によって検出された電源電圧の位相が入力され、入力されたこの信号に基づいて電流(以下、第2電流指令値(i2))を求め、求めた第2電流指令値(i2)を、負荷電流演算部(433)に出力し、(【0088】)
1h4 負荷電流演算部(433)は、電力変換装置(1)及び調相設備(3)に流れる電流の合計値を、第1電流指令値(i1)から第2電流指令値(i2)を減算することによって求め、求めた演算結果を電流指令演算部(432)に出力し、(【0090】)
1h5 電流指令演算部(432)は、負荷電流演算部(433)の演算結果の逆位相の電流値を演算して、その値を電流指令値(Iref)としてゲートパルス発生器(431)に出力し、(【0091】)
1h6 ゲートパルス発生器(431)は、電流源(30)が出力する電流値と上記電流指令値(Iref)との偏差に基づいてスイッチング指令値(G)を生成する動作を繰り返す、いわゆるフィードバック制御を行い、電流指令値(Iref)に相当する電流(補償電流)が受電経路(12)に供給される、(【0092】)
1a’ 空気調和装置(11)。
イ 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)発明特定事項1Gについて
事案に鑑み、発明特定事項1Gについて先に対比する。発明特定事項1Gは、「空気調和装置。」というものである。
甲1発明の「空気調和装置(11)」(構成1a)は、甲1発明の「空気調和装置」に相当する。
(イ)発明特定事項1Aについて
発明特定事項1Aは、「自装置に入力された入力電圧に関する電圧情報を取得する電圧情報取得手段と、」というものである。ここで「自装置」とは、「空気調和装置」(発明特定事項1G)であると解される。
甲1発明の「フィルタ側電圧検出器(46)」(構成1f)は、電圧を取得する手段であると解され、本件発明1の「電圧情報取得手段」に相当する。
甲1発明において、「フィルタ側電圧検出器(46)」は、「空気調和装置(11)」が「備え」る「アクティブフィルタ装置(4)」(構成1b)「に接続」している「交流電源(2)」(構成1c)「の線間電圧(Vrs)」「を検出して」いる(構成1f)ものであるから、「線間電圧(Vrs)」(構成1f)は、本件発明1の「自装置に入力された入力電圧」に相当し、また、甲1発明の「フィルタ側電圧検出器(46)」において「検出し」た「線間電圧(Vrs)」(構成1f)は、本件発明1の「電圧情報」に相当する。
よって、本件発明1の「電圧情報取得手段」と甲1発明の「フィルタ側電圧検出器(46)」は、いずれも「自装置に入力された入力電圧に関する電圧情報を取得する電圧情報取得手段」である点で一致する。
(ウ)発明特定事項1Bについて
発明特定事項1Bは、「基本波無効電力を自装置における前記入力電圧の受電点に供給する供給手段と、」というものである。
甲1発明の「補償電流」(構成1c)は、「補償電流を流すことにより、基本波力率を改善する」もの(構成1d)であるから、「補償電流」による電力は基本波の無効電力を含んでいることは明らかであり、甲1発明の「補償電流」による電力は、本件発明1の「基本波無効電力」に相当する。
甲1発明において、「アクティブフィルタ装置(4)」は、「補償電流を生成し受電経路(12)に供給」するもの(構成1c)であり、ここで「アクティブフィルタ装置(4)」が有する「電流源(30)」(構成1e)が、「補償電流」を「出力電流」として出力し(構成1g)ている。ゆえに、甲1発明の「電流源(30)」は、「補償電流」による電力を供給する源であると解され、本件発明1の「供給手段」に相当する。また、甲1発明の「受電経路(12)」上の空気調和装置(11)への入力点が、本件発明1の「受電点」に相当する。
そして以上を総合すると、本件発明1の「供給手段」と甲1発明の「電流源(30)」は、いずれも「基本波無効電力を自装置における前記入力電圧の受電点に供給する供給手段」である点で一致する。
(エ)発明特定事項1Cについて
発明特定事項1Cは、「前記供給手段を制御する制御手段と、」というものである。
甲1発明の「アクティブフィルタ制御器(43)」は、「電流源(30)の」「補償電流」「を制御」するもの(構成1g)である。
よって、本件発明1の「制御手段」と甲1発明の「アクティブフィルタ制御器(43)」は、いずれも「前記供給手段を制御する制御手段」である点で一致する。
(オ)発明特定事項1Dについて
発明特定事項1Dは、「を備え、」というものである。これは、本件発明1が、発明特定事項1A~1C「を備え」ることを特定するものである。
そして、甲1発明が、発明特定事項1A~1C「を備え」ることは、前記(イ)~(エ)のとおりである。
(カ)発明特定事項1Eについて
発明特定事項1Eは、「前記制御手段は、前記電圧情報取得手段に取得された前記電圧情報から特定される前記入力電圧の大きさに応じて、前記供給手段から前記受電点に基本波無効電力を供給し、」というものである。
以下、順番に検討する。
a 対比済みの構成
甲1発明の「アクティブフィルタ制御器(43)」(構成1g)が、本件発明1の「制御手段」に相当することは、前記(エ)のとおりである。
甲1発明の「フィルタ側電圧検出器(46)」(構成1f)が、本件発明1の「電圧情報取得手段」に相当することは、前記(イ)のとおりである。また、甲1発明の「線間電圧(Vrs)」(構成1f)が、本件発明1の「入力電圧」に相当し、甲1発明の「フィルタ側電圧検出器(46)」において「検出し」た「線間電圧(Vrs)」(構成1f)が、本件発明1の「電圧情報」に相当することも、前記(イ)のとおりである。
甲1発明の「電流源(30)」(構成1e)が、本件発明1の「供給手段」に相当すること、また、甲1発明の「受電経路(12)」(構成1c)上の空気調和装置(11)への入力点が、本件発明1の「受電点」に相当することは、前記(ウ)のとおりである。
b 甲1発明の「アクティブフィルタ制御器(43)」について
甲1発明の「アクティブフィルタ制御器(43)」(構成1h)について、構成1h1~1h6より、以下のことがいえる。
空気調和装置(11)への入力点を含む「受電経路(12)」への「補償電流」の「供給」は、「電流源(30)が出力する電流値と上記電流指令値(Iref)との偏差に基づく」もの(構成1h6)であり、当該「電流指令値(Iref)」とは「負荷電流演算部(433)の演算結果の逆位相の電流値を演算し」た「値」(構成1h5)であり、当該「演算し」た「値」とは、「第1電流指令値(i1)から第2電流指令値(i2)を減算することによって求め」たもの(構成1h4)であり、ここで「第1電流指令値(i1)」及び「第2電流指令値(i2)」は、いずれも「位相検出部(436)によって検出された電源電圧の位相」「に基づいて」「求め」たもの(構成1h2及び1h3)であり、当該「検出された位相」は、「フィルタ側電圧検出器(46)が検出した交流電源(2)の線間電圧(Vrs)」「を用いて受電経路(12)における電源電圧の位相を検出し」たもの(構成1h1)である。
すなわち、甲1発明において、空気調和装置(11)への入力点を含む「受電経路(12)」への「補償電流」の「供給」は、「フィルタ側電圧検出器(46)が検出した交流電源(2)の線間電圧(Vrs)」「を用いて受電経路(12)における電源電圧の位相を検出し」たものに応じたものであると認められる。一方で、甲1発明において、「補償電流」が、電源電圧の大きさを検出したものに応じたものであるとは特定されていない。
c 発明特定事項1Eについてのまとめ
以上のbより、本件発明1の「制御手段」と甲1発明の「アクティブフィルタ制御器(43)」は、いずれも、「前記電圧情報取得手段に取得された前記電圧情報から特定される前記入力電圧に応じて、前記供給手段から前記受電点に基本波無効電力を供給」する点で一致する。一方、本件発明1の「制御手段」は「基本波無効電力を供給」するに際し、当該入力電圧のその大きさに応じるのに対し、甲1発明においては、当該入力電圧のその位相に応じる点で相違する。
(キ)発明特定事項1Fについて
発明特定事項1Fは、「前記基本波無効電力を供給した結果に応じて、基本波無効電力または無効電流を変化させる」というものである。
甲1発明の「補償電流」による電力が本件発明1の「基本波無効電力」に相当することは、前記(ウ)のとおりである。
甲1発明において、「アクティブフィルタ装置(4)は、交流電源(2)に接続されており、交流電源(2)の電流経路(以下、受電経路(12))における電流が正弦波に近づくように補償電流を流」すもの(構成1c)であるから、補償電流を供給した結果に応じて、受電経路(12)における電流の無効電流成分が変化することは明らかである。
よって、甲1発明と本件発明1は、いずれも「前記基本波無効電力を供給した結果に応じて、基本波無効電力または無効電流を変化させる」ものである点で一致する。
ウ 一致点及び相違点について
前記イ(ア)~(キ)によれば、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
(ア)一致点
「 自装置に入力された入力電圧に関する電圧情報を取得する電圧情報取得手段と、
基本波無効電力を自装置における前記入力電圧の受電点に供給する供給手段と、
前記供給手段を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記電圧情報取得手段に取得された前記電圧情報から特定される前記入力電圧に応じて、前記供給手段から前記受電点に基本波無効電力を供給し、
前記基本波無効電力を供給した結果に応じて、基本波無効電力または無効電流を変化させる空気調和装置。」という点。
(イ)相違点
本件発明1の「制御手段」は「基本波無効電力を供給」するに際し、「前記電圧情報取得手段に取得された前記電圧情報から特定される前記入力電圧の大きさに応じ」るのに対し、甲1発明においては、当該入力電圧のその位相に応じる点。(発明特定事項1E)
エ 相違点についての判断
(ア)当審の判断
前記ウ(イ)の相違点は、入力電圧の「位相」と「大きさ」はそれぞれ独立した物理量であることに鑑みれば、実質的な相違点であるといえるため、本件発明1は、甲1発明と同一であるということはできない。
また、甲1及び2のいずれにも、「基本波無効電力」の「供給」を、「前記電圧情報取得手段に取得された前記電圧情報から特定される前記入力電圧の大きさに応じ」るものとすることは、記載も示唆もされていない。よって、相違点は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものであるとはいえない。
(イ)特許異議申立人の主張と当審の判断
特許異議申立書での特許異議申立人の主張及びそれに対する当審の判断は以下のとおりである。
a 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書において以下のとおり、「調相設備制御器(33)」との関係で、本件発明1と甲1発明は、発明特定事項1C、1E及び1G(特許異議申立書においては、ぞれぞれ「1C」、「1D」及び「1F」と付されている。)においても一致するとの前提で、新規性及び進歩性について論じている。
「甲第1号証発明には上記の「イ 引用発明の説明(ア)甲第1号証」に記載した通り、少なくとも以下の発明が記載されている。
「…(略)…
1C’:電源電圧検出器(35a)(電圧情報取得手段に相当)を含む電源測定器(36)からの信号に基づいて、無効電力Pβ及び電源力率θαβそのものの演算または無効電力Pβ及び電源力率θαβを把握するための情報の算出を行い、その内部に備える切替制御部(332)により調相機器(31,32)(供給手段に相当)の内部に備えられた各切替器(311,321)の切替制御をする調相設備制御器(33)と(制御手段に相当)(明細書0067、0078段落、図1、2)、
1D’:調相設備制御器(33)(制御手段に相当)の内部に備えられた電源力率演算部(331)は、電源側電圧検出器(35)(電圧情報取得手段に相当)が検出した線間電圧(Vrs,Vst,Vtr)(取得された電圧情報に相当)等を入力し無効電力Pβを演算し切替制御部(332)に入力し、切替制御部(332)は、無効電力Pβに応じて、交流電源(2)と各調相機器(31,32)との接続状態の組合せが変更するように、各調相機器(31,32)における切替器(311,321)の切替制御を行い、その結果、電源側電圧検出器(35)から特定される入力電圧の大きさに応じた無効電力を供給し(電圧情報から特定される入力電圧の大きさに応じて基本波無効電力を供給に相当)(明細書0055、0069、0072段落、図1、2)、
…(略)…
1F’:圧縮機を有した冷媒回路、電力変換装置(1)、及びアクティブフィルタ装置(4)を備えた空気調和装置(11)(明細書0031段落、図1)」。
…(略)…
同様に、「調相設備制御器(33)」は本件特許発明1における「制御手段」に相当し(構成要件1C’)、
同様に、「電源側電圧検出器(35)から特定される入力電圧の大きさに応じた無効電力を供給する」は本件特許発明1における「電圧情報から特定される入力電圧の大きさに応じて基本波無効電力を供給」に相当し(構成要件1D’)、
…(略)…
同様に、「空気調和装置(11)」は本件特許発明1における「空気調和装置」に相当する(構成要件1F’)。
従って、両者は、以下の全ての点で一致する。
「…(略)…
1C:前記供給手段を制御する制御手段と、を備え、
1D:前記制御手段は、前記電圧情報取得手段に取得された前記電圧情報から特定される前記入力電圧の大きさに応じて、前記供給手段から前記受電点に基本波無効電力を供給し、
…(略)…
1F:空気調和装置。」」(特許異議申立書の17頁3行目~18頁20行目)
b 「調相設備制御器(33)」と関連する甲1の記載
甲1には、「調相設備制御器(33)」と関連して、以下の記載がある。
(a)「【0030】
≪実施形態1≫
<電源力率制御システムの概要>
図1は、本実施形態1に係る電源力率制御システム(100)の構成を示すブロック図である。電源力率制御システム(100)は、調相設備(3)と、空気調和装置(11)とを備える。」
(b)「【0054】
<調相設備の構成>
図1に示すように、調相設備(3)は、受電経路(12)上において、交流電源(2)の出力と電力変換装置(1)及びアクティブフィルタ装置(4)の各入力との間に接続されている。調相設備(3)は、2つの調相機器(31,32)と、電源測定器(36)と、調相設備制御器(33)とを有する。」
(c)「【0067】
-調相設備制御器-
(…略…)図1に示すように、調相設備制御器(33)は、電源測定器(36)と、調相機器(31,32)の各切替器(311,321)と、アクティブフィルタ装置(4)におけるアクティブフィルタ制御器(43) に接続されている。調相設備制御器(33)は、電源測定器(36)からの信号に基づいて、 無効電力Pβ及び電源力率θαβそのものの演算または無効電力Pβ及び電源力率θαβ を把握するための情報の算出を行う。また、調相設備制御器(33)は、各切替器(311,32 1)の切替制御、電源側電流検出器(34a,34b)の検出結果のアクティブフィルタ制御器(43)への出力を行う。
【0068】
<調相設備制御器による各切替器の切替制御動作>
図2に示すように、上記調相設備制御器(33)は、電源力率演算部(331)及び切替制御部(332)を有する。」
(d)「【0069】
-電源力率演算部-
電源力率演算部(331)には、電源測定器(36)における電源側電圧検出器(35)が検出した線間電圧(Vrs,Vst,Vtr)及び電源側電流検出器(34a,34b)の検出結果(Irs,Its)が入力される。電源力率演算部(331)は、入力されたこれらの信号を下式(1)及び下式(2)に当てはめて、回転2軸(αβ軸)の電圧Vα,Vβ及びiα,iβを演算する 。」
(e)「【0078】
-切替制御部-
切替制御部(332)には、電源力率演算部(331)が演算した無効電力Pβが入力される 。切替制御部(332)は、無効電力Pβに応じて、交流電源(2)と各調相機器(31,32)との接続状態の組合せが変更するように、各調相機器(31,32)における切替器(311,321)の切替制御を行う。具体的には、切替制御部(332)は、無効電力Pβを、図3に係る各調相機器(31,32)の切替組合せテーブル(332a)に当てはめて、各調相機器(31,32)の投入・開放の論理判断を行う。切替制御部(332)は、この論理判断に応じた切替信号を、各調相機器(31,32)における切替器(311,321)に出力する。」
c 特許異議申立人の主張に対する判断
前記bのとおり、甲1には、「電源力率制御システム(100)は、調相設備(3)と、空気調和装置(11)とを備え」ており(【0030】)、「調相設備(3)は、2つの調相機器(31,32)と、電源測定器(36)と、調相設備制御器(33)とを有する」(【0054】)と記載されている。しかしながら、「空気調和装置(11)」が、「調相設備制御器(33)」を備えているとは記載されていない。
一方、本件発明1の「制御手段」(発明特定事項1C)は、「空気調和装置」(発明特定事項1G)が「備え」るもの(発明特定事項1D)と認められる。ゆえに、甲1に記載されている「調相設備制御器(33)」は、本件発明1の「制御手段」に相当しない。特許異議申立人は、甲1発明の「調相設備制御器(33)」が本件発明1の「制御手段」に相当することを前提として新規性及び進歩性を論じているため、妥当性を欠くものである。
ゆえに、特許異議申立人の主張は、採用することができない。
加えて付言する。
甲1には、「調相設備制御器(33)は、電源測定器(36)と、調相機器(31,32)の各切替器 (311,321)」「に接続されている」と記載されており(【0067】)、「調相設備制御器(33)は、電源測定器(36)からの信号に基づいて、 無効電力Pβ及び電源力率θαβそのものの演算または無効電力Pβ及び電源力率θαβ を把握するための情報の算出を行う」こと(【0067】)、また、「調相設備制御器(33)は、電源力率演算部(331)及び切替制御部(332)を有」しており(【0068】)、「切替制御部(332)には、電源力率演算部(331)が演算した無効電力Pβが入力され」、「無効電力Pβに応じて、交流電源(2)と各調相機器(31,32)との接続状態の組合せが変更するように、各調相機器(31,32)における切替器(311,321)の切替制御を行う」こと(【0078】)が記載されている。このように、甲1の「調相設備制御器(33)」は、電源測定器(36)からの信号に基づいて演算した無効電力Pβに応じて切替器(311,321)の切替制御を行うものであり、発明特定事項1Eが特定するように、電圧情報から特定される入力電圧の大きさに応じて制御するものではない。ゆえに、仮に、甲1発明の「調相設備制御器(33)」が本件発明1の「制御手段」に相当するとしても、その動作は互いに異なる点で相違している。また、甲1の「調相設備制御器(33)」の制御を、入力電圧の大きさに応じたものとする理由はないため、甲1発明から、発明特定事項1Eが容易想到であったともいえない。
(ウ)相違点についての判断のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明することができたものであるといえない。
オ 小括
以上のとおり、本件発明1は甲1発明ではないから、本件発明1に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものであるということはできない。
また、本件発明1は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、本件発明1に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1と同じく発明特定事項1A~1D及び1Gを備えている。また、本件発明2の発明特定事項1E’は、本件発明1の発明特定事項である発明特定事項1Eの末尾の「…を供給し、」を「…を供給する第1供給モードと、」としたものである。さらに、本件発明2の発明特定事項1F’は、本件発明1の発明特定事項である発明特定事項1Fの冒頭の「前記基本波無効電力を供給した結果に応じて、」を、「前記無効電流を供給した結果に応じて、」としたものである。
ここで、本件発明1と甲1発明との間には、発明特定事項1Eに関連する前記(1)ウ(イ)に示した相違点があり、これは、発明特定事項1Eを1E’としても当然存在する相違点であるから、本件発明2と甲1発明との間にも、少なくとも、前記(1)ウ(イ)で示した相違点と同様の相違点がある。
そして、発明特定事項1Eに関連する相違点についての判断は、前記(1)エのとおりであるから、発明特定事項1E’についての判断も前記(1)エ同様である。そうすると、前記(1)オ同様、本件発明2についても、甲1発明ではないから、本件発明2に係る特許は、同法29条1項の規定に違反してされたものであるということはできない。また、本件発明2は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、本件発明2に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
(3)本件発明3及び4について
本件発明3及び4は、本件発明1と同じく発明特定事項1A~1D、1F及び1Gを備えている。また、本件発明3及び4の発明特定事項1E’は、本件発明1の発明特定事項である発明特定事項1Eの末尾の「…を供給し、」を「…を供給する第1供給モードと、」としたものである。
ゆえに、前記(2)同様、本件発明3及び4と甲1発明との間にも、少なくとも、前記(1)ウ(イ)で示した相違点と同様の相違点がある。
そうすると、前記(2)同様、本件発明3及び4についても、甲1発明ではないから、本件発明3及び4に係る特許は、同法29条1項の規定に違反してされたものであるということはできない。また、本件発明3及び4は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、本件発明3及び4に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明1~4は、甲1発明ではないため、本件発明1~4に係る特許は、同法29条1項の規定に違反してされたものであるということはできない。また、本件発明1~4は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、本件発明1~4に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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