特許異議申立
2024-700336
エア加工糸(ATY)及びその製造方法
- 審判番号
- 2024-700336
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-127808
- 登録番号
- 7360736
- 請求日
- 2024年04月12日
- 審決日
- 2025年10月21日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】サンテックス ファイバー カンパニー リミテッド
- 【権利者代理人】林 一好
- 【権利者代理人】芝 哲央
- 【権利者代理人】齋藤 拓也
- 【権利者代理人】岩池 満
- 【権利者代理人】小菅 一弘
- 【権利者代理人】北浜 壮太郎
- 【異議申立人】大森 隆一
- 審判長/審判官
- 審判長 金丸 治之
- 審判官 稲葉 大紀
- 審判官 藤井 眞吾
- 分類
- P1651.121-YAA(D02G) / P1651.113-YAA(D02G) / P1651.536-YAA(D02G) / P1651.537-YAA(D02G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7360736号発明「エア加工糸(ATY)及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7360736号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕、〔8~10〕について訂正することを認める。
特許第7360736号の請求項1~5、7~10に係る特許を維持する。
特許第7360736号の請求項6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7360736号の請求項1~10に係る特許についての出願は、令和3年8月3日(パリ条約による優先権主張 2020年8月21日、米国(US)、2021年6月30日、米国(US))の出願であって、令和5年10月4日にその特許権の設定登録がされ、令和5年10月13日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和6年 4月12日 :特許異議申立人大森隆一(以下「申立人」という。)による請求項1~10に係る特許に対する本件特許異議の申立て
令和6年 6月 7日 :申立人による特許異議申立書を対象とする手続補正書(方式)の提出
令和6年 7月 3日付け:取消理由通知書
令和6年10月 4日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和6年11月21日 :申立人による意見書の提出
令和6年12月 5日付け:訂正拒絶理由通知書
令和7年 1月15日 :特許権者による意見書の提出
令和7年 4月 3日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和7年 6月24日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和7年 7月25日 :特許権者による訂正請求書を補正対象とする手続補正書(方式)の提出(以下、手続補正書(方式)による補正後の訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)
令和7年 9月18日 :申立人による意見書の提出
令和6年10月4日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正請求の適否
1 訂正の内容
本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1に記載された
「第1の断面を有する第1のフィラメントと、
前記第1のフィラメントに隣接して配置され、第2の断面を有する第2のフィラメントと
を含み、」を、
「第1の断面を有する第1のフィラメントと、
前記第1のフィラメントに隣接して配置され、第2の断面を有する第2のフィラメントと、
前記第1のフィラメント又は前記第2のフィラメントによって形成されたループであって、前記ループの高さが150μm~480μmの範囲内にあるループと
を含み、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~5、7も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項6を削除する。
(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項8に記載された
「前記第1のフィラメント及び前記第2のフィラメントに前記ノズルユニット内の流れを吹き当てて、前記第1のフィラメント及び前記第2のフィラメントを含む前記ATYを形成する工程と、」を、
「前記第1のフィラメント及び前記第2のフィラメントに前記ノズルユニット内の流れを吹き当てて、前記第1のフィラメント、前記第2のフィラメント、及び、ATYから突出し前記第1のフィラメント又は前記第2のフィラメントによって形成されたループを含む前記ATYを形成する工程と、ここで、前記ループの高さは150μm~480μmの範囲内にあり、」に訂正する(請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項9、10も同様に訂正する)。
2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~7は、請求項2~7が、本件訂正請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあり、本件訂正前の請求項8~10は、請求項9、10が、本件訂正請求の対象である請求項8の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1~7〕、〔8~10〕について請求されたものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に記載された「第1のフィラメント」又は「第2のフィラメント」について限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1は、本件特許の明細書の【0070】の記載に基づくものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、また、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、本件訂正前の請求項8に記載された「ATYを形成する工程」について限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3は、本件特許の明細書の【0070】の記載に基づくものであるから、本件特許の願書に添付した本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項3は、本件訂正前の請求項8に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、また、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
4 まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕、〔8~10〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項1~5、7~10に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、これらを「本件発明」と総称することもある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~5、7~10に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1~5、7~10の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
エア加工糸(ATY)であって、
第1の断面を有する第1のフィラメントと、
前記第1のフィラメントに隣接して配置され、第2の断面を有する第2のフィラメントと、
前記第1のフィラメント又は前記第2のフィラメントによって形成されたループであって、前記ループの高さが150μm~480μmの範囲内にあるループと
を含み、
前記第1の断面は円形の形状を有し、1.3以下の修飾度(M比)を有し、前記第1の断面とは異なる前記第2の断面は、3~6個のローブを含む多角形の形状を有し、前記第1のフィラメントの長さが、前記第2のフィラメントの長さと等しいエア加工糸(ATY)。
【請求項2】
前記第2の断面が、1.5よりも大きいM比を有する請求項1に記載のATY。
【請求項3】
前記第2の断面の前記M比が1.6~3の範囲内にある請求項2に記載のATY。
【請求項4】
前記第2の断面が、5つ又は6つのローブを含む多角形の形状を有する請求項1に記載のATY。
【請求項5】
前記第1のフィラメント及び前記第2のフィラメントに隣接して配置され、第3の断面を有する第3のフィラメントをさらに含み、前記第3の断面が、前記第1のフィラメントの前記第1の断面及び前記第2のフィラメントの前記第2の断面とは異なる請求項1に記載のATY。」
「【請求項7】
請求項1に記載のATYを含む布帛。
【請求項8】
エア加工糸(ATY)の製造方法であって、
糸マガジンから第1のフィラメント及び第2のフィラメントを押し出す工程と、
供給ユニットの第1の供給部材によって前記第1のフィラメントを第1の供給速度でノズルユニット内に供給する工程と、
前記供給ユニットの第2の供給部材によって前記第2のフィラメントを第2の供給速度で前記ノズルユニット内に供給する工程と、
前記第1のフィラメント及び前記第2のフィラメントに前記ノズルユニット内の流れを吹き当てて、前記第1のフィラメント、前記第2のフィラメント、及び、ATYから突出し前記第1のフィラメント又は前記第2のフィラメントによって形成されたループを含む前記ATYを形成する工程と、ここで、前記ループの高さは150μm~480μmの範囲内にあり、
前記ATYを送出ユニットによって前記ノズルユニットから引き出す工程と、
前記ATYを取込ユニットによって前記送出ユニットから取り込む工程と
を含み、
前記第1の供給速度が、前記第2の供給速度と等しく、前記第1のフィラメントの第1の断面及び前記第2のフィラメントの第2の断面は異なる断面形状を有し、前記第1のフィラメントの第1の断面は円形の形状を有し、1.3以下の修飾度(M比)を有し、前記第2のフィラメントの前記第2の断面は、5つ又は6つのローブを含む多角形の形状を有し、1.5よりも大きいM比を有する方法。
【請求項9】
前記糸マガジンから前記第1のフィラメント及び前記第2のフィラメントを押し出す工程よりも前において、
ポリマー材料を紡糸口金内に供給する工程と、
前記ポリマー材料から前記第1のフィラメント及び前記第2のフィラメントを形成する工程と、
前記第1のフィラメント及び前記第2のフィラメントを前記紡糸口金から出力する工程と、
前記第1のフィラメント及び前記第2のフィラメントを組み合わせて糸を形成する工程と、
前記第1のフィラメント及び前記第2のフィラメントを含む前記糸を前記糸マガジンに搬送する工程と
をさらに含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ポリマー材料を第1の紡糸口金及び第2の紡糸口金内に供給する工程と、
前記ポリマー材料から前記第1のフィラメント及び前記第2のフィラメントを形成する工程と、
前記第1のフィラメントを前記第1の紡糸口金から出力し、前記第2のフィラメントを前記第2の紡糸口金から出力する工程と、
前記第1のフィラメント及び前記第2のフィラメントを組み合わせて糸を形成する工程と、
前記第1のフィラメント及び前記第2のフィラメントを含む前記糸を前記糸マガジンに搬送する工程と
をさらに含む請求項9に記載の方法。」
第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要について
請求項1~5、7~10に係る特許に対して通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
1 取消理由1(引用文献1を主引用例とする進歩性)
本件特許の請求項1~5、7~10に係る発明は、下記引用文献1に記載された発明、下記引用文献1に記載された事項及び下記引用文献3に記載された事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~5、7~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 取消理由2(引用文献2を主引用例とする進歩性)
本件特許の請求項1~5、7~10に係る発明は、下記引用文献2に記載された発明、下記引用文献2に記載された事項及び下記引用文献3に記載された事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~5、7~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
3 取消理由3(引用文献3を主引用例とする進歩性)
本件特許の請求項1~5、7~10に係る発明は、下記引用文献3に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~5、7~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<引用文献等一覧>
引用文献1 特開2000-226747号公報(申立人が提出した甲第1号証)
引用文献2 特開2007-56401号公報(申立人が提出した甲第2号証)
引用文献3 特開平3-260128号公報(申立人が提出した甲第3号証)
第5 当審の判断
1 取消理由1(引用文献1を主引用例とする進歩性)について
(1)引用文献1に記載された発明等
ア 引用文献1の記載
引用文献1には次の記載がある。(下線は当審で付与した。また、「・・・」は記載事項の省略を示す。以下同様。)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ポリエステル系混繊糸および織編物に関し、更に詳しくは、風合い、特にソフト感に優れ、且つ発色性が良好で、更にドライ感、吸水性、反発感、および生分解性を有するポリエステル系混繊糸およびそのポリエステル系混繊糸を用いてなる織編物に関するものである。」
「【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記従来技術では達成できなかった、衣料用織編物とした際にソフト感、反発感、発色性に優れ、更にドライ感、吸水性および生分解性を有するポリエステル系混繊糸とそのポリエステル系混繊糸を用いてなる織編物を提供することにある。」
「【0021】
また、本発明のポリエステル系混繊糸は、2種以上の異なる断面形状を有するフィラメントから構成されていることが必要である。断面形状の異なる2種以上のフィラメントで構成することによって単繊維間に空隙を形成することができ、この空隙形成によって、軽量感、反発感、吸水性を向上することができるのである。このような効果を発現させるためには、本発明のポリエステル混繊糸を構成する少なくとも1種のフィラメントの断面形状を多葉形、十字形、井桁形、W字形、S字形、X字形、扁平形、楕円形、中空などの異形断面形状とすることが必要である。」
「【0034】
また、紡糸および延伸工程を連続して行う方法、未延伸糸として一旦巻き取った後、延伸する方法または高速製糸法等何れのプロセスにも適用できる。更に、必要に応じて仮撚や空気交絡等の糸加工を施しても良い。」
「【0044】[実施例1~6および比較例1]融点が172℃で260℃、1000sec-1における溶融粘度が1350poiseであるポリL-乳酸チップ(重量平均分子量18.5万、L体比率95%、D体比率5%)を、60℃に設定した真空乾燥器で48hr乾燥した。乾燥したチップを用いて通常の紡糸機にて紡糸温度260度で丸孔24ホールとY孔(表1の孔形状の異なる4種)、中空孔、扁平スリット孔をそれぞれ24ホールをランダムに配した口金を用いて1500m/分の速度で紡糸し、未延伸糸を巻き取った。続いて、得られた未延伸糸を通常のホットロール-ホットロール系延伸機を用いて延伸温度78℃、熱セット温度115℃で延伸糸の伸度が35%となるように延伸倍率を合わせて延伸を行い、150dtex-48filの延伸糸を得た。また比較として、丸孔48ホールの口金を用いて同じポリL-乳酸チップを用いて同様に紡糸、延伸を行い、150dtex-48filの丸断面延伸糸を得た。得られた延伸糸の糸形状と物性を表1に示す。
【0045】得られた延伸糸に撚数300t/mの甘撚を施してこれを緯糸に用い、また経糸として別に用意した50dtex-36filの丸断面のポリL-乳酸延伸糸を用いて、サテン組織の織物を製織した。得られた織物を85℃の熱水で精練後、125℃で乾熱セットを行ない、更に80℃の炭酸ソーダ2.5%水溶液で10分間処理(減量加工)し、次いで湿熱120℃で染色し、乾熱140℃で仕上げセットを行った。得られた織物特性について評価した結果を表1に示す。」
「【0052】[実施例7~10]融点が170℃で260℃、1000sec-1における溶融粘度が1580poiseであるポリL-乳酸チップ(重量平均分子量 20万、L体比率95%、D体比率5%)を、60℃に設定した真空乾燥器で48hr乾燥した。乾燥したチップを用いて通常の紡糸機にて紡糸温度260℃で5葉孔24ホールの口金、および孔形状の異なる24ホールの中空用口金を用いて1700m/分の速度で紡糸し、未延伸糸を巻き取った。続いて、得られた未延伸糸を通常のホットロール-ホットロール系延伸機を用いて延伸温度80℃、熱セット温度120℃で延伸糸の伸度が35%となるように延伸倍率を合わせて延伸を行い、各々75dtex-24filの延伸糸を得た。得られた延伸糸の糸形状と物性を表2に示す。
【0053】次いで、得られた5葉断面糸と中空糸とを空気交絡処理を行いながら150dtex-48filの混繊糸を作製した。得られた混繊糸を実施例1と同様の方法で製織し、加工を行い、サテン織物を作製した。得られた織物特性について評価した結果を表2に示す。」
「【0066】[実施例16~19]ホール数の異なる6葉孔および丸孔口金を用いて実施例9と同様の方法でそれぞれ表5に示す繊度構成の6葉断面延伸糸および丸断面延伸糸を得た。次いで実施例9と同様の方法で6葉断面糸と丸断面糸とを空気交絡処理を行いながら150dtex-48filの混繊糸を作製した。得られた混繊糸を実施例1と同様の方法で製織、加工を行い、サテン織物を作製した。得られた延伸糸の形状・物性と織物特性について評価した結果を表5に示す。
【0067】
【表5】
[図:0001432021000001.jpg]
」
「【0070】[実施例20、21]ホール数の異なる丸孔口金を用い、極限粘度(η)が0.63のポリエチレンテレフタレートを用いて1700m//分で紡糸を行い、次いでホットロール-ホットロール延伸機を用いて延伸温度85℃、熱セット温度120℃で延伸糸の伸度が35%となるように延伸倍率を合わせて延伸を行い、表6に示す繊度構成の丸断面PET延伸糸を得た。次いで、得られたPET延伸糸と、実施例17および18で使用した6葉断面ポリ乳酸糸とを、実施例9と同様の方法で空気交絡処理を行いながら150dtex-48filの混繊糸を作製した。次いで、得られた混繊糸を実施例1と同様の方法で製織、加工を行い、サテン織物を作製した。得られた延伸糸の形状・物性と織物特性について評価した結果を表6に示す。
【0071】
【表6】
[図:0001432021000002.jpg]
」
イ 引用文献1に記載された発明
(ア)「ポリエステル系混繊糸」の発明
引用文献1には、ポリエステル系混繊糸に関して、特に実施例20に着目すると、次の発明が記載されている。
「ポリエステル系混繊糸であって、
断面形状が6葉、異形度が1.6、繊維太さが50(dtex)の6葉断面ポリ乳酸糸と、
断面形状が丸、異形度が1.0、繊維太さが100(dtex)の丸断面PET延伸糸とを、
空気交絡処理した、繊維太さが150(dtex)の混繊糸である、
ポリエステル系混繊糸。」(以下「引用発明1-1」という。)
(イ)「ポリエステル系混繊糸を用いたサテン織物」の発明
引用文献1には、ポリエステル系混繊糸を用いたサテン織物に関して、特に実施例20に着目すると、次の発明が記載されている。
「ポリエステル系混繊糸を製織、加工した、サテン織物であって、
前記ポリエステル系混繊糸は、
断面形状が6葉、異形度が1.6、繊維太さが50(dtex)の6葉断面ポリ乳酸糸と、
断面形状が丸、異形度が1.0、繊維太さが100(dtex)の丸断面PET延伸糸とを、
空気交絡処理した、繊維太さが150(dtex)の混繊糸である、
サテン織物。」(以下「引用発明1-2」という。)
(ウ)「ポリエステル系混繊糸の製造方法」の発明
引用文献1には、ポリエステル系混繊糸の製造方法に関して、特に実施例20に着目すると、次の発明が記載されている。
「乾燥したポリL-乳酸チップを用いて6葉孔口金を用いて紡糸し、未延伸糸を巻き取り、得られた未延伸糸の延伸を行い、断面形状が6葉、異形度が1.6、繊維太さが50(dtex)の6葉断面ポリ乳酸糸を得て、
丸孔口金を用い、ポリエチレンテレフタレートを用いて紡糸を行い、延伸を行い、断面形状が丸、異形度が1.0、繊維太さが100(dtex)の丸断面PET延伸糸を得て、
次いで、丸断面PET延伸糸と6葉断面ポリ乳酸糸とを、空気交絡処理を行い、
繊維太さが150(dtex)のポリエステル系混繊糸とする、
ポリエステル系混繊糸の製造方法。」(以下「引用発明1-3」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明1-1とを対比する。
引用発明1-1の「ポリエステル系混繊糸」は、「空気交絡処理した」ものであるから、本件発明1の「エア加工糸(ATY)」に相当する。
引用発明1-1の「断面形状が6葉、異形度が1.6、繊維太さが50(dtex)」の「6葉断面ポリ乳酸糸」は本件発明1の「第2の断面を有」し、「前記第1の断面とは異なる前記第2の断面は、3~6個のローブを含む多角形の形状を有」する、「第2のフィラメント」に相当する。
引用発明1-1の「断面形状が丸、異形度が1.0、繊維太さが100(dtex)」の「丸断面PET延伸糸」は本件発明1の「第1の断面を有し」、「前記第1の断面は円形の形状を有し、1.3以下の修飾度(M比)を有」する、「第1のフィラメント」に相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明1-1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点1-1]
「エア加工糸(ATY)であって、
第1の断面を有する第1のフィラメントと、
前記第1のフィラメントに隣接して配置され、第2の断面を有する第2のフィラメントと
を含み、
前記第1の断面は円形の形状を有し、1.3以下の修飾度(M比)を有し、前記第1の断面とは異なる前記第2の断面は、3~6個のローブを含む多角形の形状を有するエア加工糸(ATY)。」
[相違点1-1]
本件発明1は、「前記第1のフィラメント又は前記第2のフィラメントによって形成されたループであって、前記ループの高さが150μm~480μmの範囲内にあるループ」を含むのに対して、引用発明1-1は、そのようなループを含むか不明である点。
[相違点1-2]
本件発明1は、「前記第1のフィラメントの長さが、前記第2のフィラメントの長さと等しい」のに対して、引用発明1-1は「丸断面PET延伸糸」と「6葉断面ポリ乳酸糸」の長さの関係が不明である点。
イ 判断
相違点1-1について検討する。
引用文献1には、「断面形状の異なる2種以上のフィラメントで構成することによって単繊維間に空隙を形成することができ、この空隙形成によって、軽量感、反発感、吸水性を向上することができるのである。」(【0021】)と記載されており、当該記載から、強く、密に、空気交絡処理を行うことを指向するものではないことは明らかであるものの、引用発明1-1の混繊糸にループが形成されているか否かについては、直ちに把握することはできない。そして、仮に引用発明1-1の混繊糸にループが存在していたとしても、引用発明1-1の混繊糸から得られるサテン織物の、織物としての感触に加えて透視性効果まで考慮し、当該ループの高さについて調整する動機付けは存在しない。また、提出された他の証拠にも、ループ高さについての記載はなされていない。
以上、引用文献1や提出された他の証拠には、相違点1-1に係る本件発明1の構成について、記載も示唆もされておらず、引用発明1-1において、相違点1-1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことではない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、令和7年9月18日提出の意見書において、相違点1-1に係る本件発明1の構成について、当業者にとって所望の目的を得るための設計的事項にすぎず、通常の創作能力の範囲である旨主張する。
この点、相違点1-1に係る本件発明1の構成は、「ATY105は、小さく、高密度で均一なループを有し、それゆえ、ATY105のループは、望ましいふわふわとした快適な感触、又は綿のような感触を提供することができ、容易に引っかかることはない」(本件特許の明細書の【0069】)ものとするものであるところ、引用文献1や提出された他の証拠には、そのような目的とするために、ループの高さを決めることについて、記載も示唆もされていない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
エ 小括
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明1-1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(2)と同様の理由により、本件発明2~5に係る発明は、引用発明1-1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明7について
本件発明7と引用発明1-2とは、少なくとも相違点1-1と同様の点で相違し、上記(2)同様の理由により、本件発明7は、引用発明1-2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)本件発明8~10について
本件発明8~10と引用発明1-3とは、少なくとも相違点1-1と同様の点で相違し、上記(2)同様の理由により、本件発明7は、引用発明1-3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)取消理由1についてのまとめ
本件発明1~5、7~10は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 取消理由2(引用文献2を主引用例とする進歩性)について
(1)引用文献2に記載された発明等
ア 引用文献2の記載
引用文献2には次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライタッチと優れた吸水・汗処理性、ドライ感を有する混繊糸からなる織編物に関するものである。さらに詳しくは吸水・汗処理性、ドライ感に加えて、従来にないパール調なミルキー感を有する高発色性と優れた防透け性、UVカット効果を兼ね備えた混繊糸からなる織編物に関するものである。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、上記従来の問題点を解決しようとするものであり、ドライ風合いを得ることができると共に、優れたドレープ性、ふくらみ感を有し、さらに従来にないパール調なミルキー感を有する高発色性と優れた防透け性、UVカット効果を同時に満足することができる織編物を提供できる混繊糸かつ、弾性繊維との経て編みを毛羽やタテ筋などが発生せず、高品位で得ることができる混繊糸からなる織編物およびその製造方法を提供することを目的とする。」
「【0014】
最初に本発明の織編物を構成する混繊糸について説明する。本発明の織編物を構成する混繊糸は、断面形状を異にするフィラメント糸が複合されてなるマルチフィラメント糸である。断面形状の種類は2種類以上であり、そのうち少なくとも1種類のフィラメント糸が凹部を有しない断面形状のフィラメント糸からなり、それ以外のフィラメント糸は3~8個の凹部を有する断面形状のフィラメント糸から構成されていることが重要である。
【0015】
図1~10は、繊維断面形状を説明する説明図である。図面を参照しながら更に詳細に説明すると、本発明でいう凹部を有してない断面形状とは、同一断面において断面輪郭に接する接線を引いた時に、複数の接点を有しない断面形状を原則としていう。上記の凹部を有しない断面形状の具体例を挙げると、円形(図1)、楕円形(図2)、おにぎり型円形(図3)や3角形以上の多角形であって比較的角に丸みを持ったもの(図4)が挙げられる。これらには、図1に示すように、接線(L1)を引いた時に複数の接点は存在せず、1つの接点(S1)のみ存在する。
【0016】
一方、凹部を有する断面形状とは、同一断面において断面輪郭に接する接線(L2)を引いた時に、複数の接点(S2、S3)を有し、その接点間に凹部(U)を形成しており、その凹部と凹部の間に凸部が形成されている断面形状をいう。本発明においては、3~8個の凹部を有する断面形状であることが重要であり、対称型あるいは非対称型のいずれでもよく、凹部の大きさに特に制限されるものではない。そのような断面形状としては、たとえばY型(図5)、4葉型(図6)、6葉型(図7)、8葉型(図8)、櫛形(図9)などが挙げられる。これらには、図5に示すように、接線を引いた時に複数の接点を有する接線が存在する。凹部を有する断面形状において、織編物の風合いとして優れたドライ感を得るためには凹部が3~6個が好ましい。凹部が3個未満あるいは8個を越える場合には、織編物の風合いとして上記のドライ感が得られないので好ましくない。
【0017】
本発明においては、凹部を有するフィラメント糸の異形度を10以上とすることにより、繊維間空隙が確保され、毛細管効果による吸水性、汗処理性が向上し、さらに張りコシ感、ドレープ性も付与される。また、この高異形断面によりポリエステル特有のヌメリ感がなくなり、さらさらとしたドライタッチも得られるのである。
【0018】
ここでいう異形度とは、図5における凹部の最も凹んだ点(U)から接線S2-S3までの距離(H)と接点S2、S3間の距離(D)から下記式により算出される値である。
異形度=(H/D)×100
図10に本発明の混繊糸の一例を示す断面概略図を示した。この図に示すように、円形(丸)断面と6葉型断面のフィラメント糸からなる複合繊維は、凹部を有する断面形状が形成する凸部(凹部と凹部の間に形成される突起状部分の)の存在と凹凸を有しない断面とがランダムに分散しているため、異形断面同士のかみ合いを防ぐことができ、ドライな風合いと、単糸間空隙による吸水、拡散性を可能とすることができる。」
「【0020】
次に凹部を有する断面形状のフィラメント糸と凹部を有しない断面形状のフィラメント糸との複合状態は、それぞれの断面形状のフィラメント糸がランダムに混繊されていることが重要である。図11は本発明の混繊複合繊維の一例を示す側面概略図である。また、図11はインターレースノズルによる交絡が付与されたものを示している。一方、図12は従来の交互撚芯鞘2層構造糸を示す側面概略図、図13は従来の芯鞘多層構造糸を示す側面概略図である。図12及び図13は太線で表された芯糸と細線で表された鞘糸とにより2層構造形態となっている。」
「【0088】
図15には凹部を有しない形状の紡糸孔で構成される1枚の口金(B)、一方は3~8個の凹部を有する形状の紡糸孔で構成される1枚の口金(C)からそれぞれ紡出された糸条を集束・給油し、その後インターレースノズルによって混繊集束し、引き取りローラーに引き取る方法を示す。
【0089】
図16には凹部を有しない形状の紡糸孔で構成される1枚の口金(B)、一方は3~8個の凹部を有する形状の紡糸孔で構成される1枚の口金(C)からそれぞれ紡出された糸条をそれぞれ集束・給油し、その後インターレースノズルで混繊集束し、引き取りローラーに引き取る方法を示す。」
「【図1】
[図:0001432021000003.jpg]
」
「【図5】
[図:0001432021000004.jpg]
【図6】
[図:0001432021000005.jpg]
【図7】
[図:0001432021000006.jpg]
」
「【図11】
[図:0001432021000007.jpg]
」
「【図15】
[図:0001432021000008.jpg]
【図16】
[図:0001432021000009.jpg]
」
イ 引用文献2に記載された発明
(ア)「混繊糸」の発明
引用文献2には、混繊糸に関して、次の発明が記載されている。
「マルチフィラメント糸である混繊糸であって、
一方が円形の断面形状のフィラメント糸、他方が3~6個の凹部を有する断面形状のフィラメント糸であり、
凹部を有するフィラメント糸の異形度が10以上であり、
それぞれの断面形状のフィラメント糸がランダムな状態で混繊しており、インターレースノズルによる交絡が付与されたものである、
混繊糸。」(以下「引用発明2-1」という。)
(イ)「混繊糸からなる織編物」の発明
引用文献2には、混繊糸からなる織編物に関して、次の発明が記載されている。
「混繊糸からなる織編物であって、
混繊糸は、
マルチフィラメント糸である混繊糸であって、
一方が円形の断面形状のフィラメント糸、他方が3~6個の凹部を有する断面形状のフィラメント糸であり、
凹部を有するフィラメント糸の異形度が10以上であり、
それぞれの断面形状のフィラメント糸がランダムな状態で混繊しており、インターレースノズルによる交絡が付与されたものである、
混繊糸である、
織編物。」(以下「引用発明2-2」という。)
(ウ)「混繊糸の製造方法」の発明
引用文献2には、混繊糸の製造方法に関して、次の発明が記載されている。
「円形の形状の紡糸孔で構成される1枚の口金(B)、一方は3~6個の凹部を有する形状の紡糸孔で構成される1枚の口金(C)からそれぞれ紡出された糸条を集束・給油し、
その後インターレースノズルによって混繊集束し、
引き取りローラーに引き取る、混繊糸の製造方法であって、
混繊糸が、
マルチフィラメント糸である混繊糸であって、
一方が円形の断面形状のフィラメント糸、他方が3~6個の凹部を有する断面形状のフィラメント糸であり、
凹部を有するフィラメント糸の異形度が10以上であり、
それぞれの断面形状のフィラメント糸がランダムな状態で混繊しており、インターレースノズルによる交絡が付与されたものである、
混繊糸の製造方法。」(以下「引用発明2-3」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明2-1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点2-1]
「エア加工糸(ATY)であって、
第1の断面を有する第1のフィラメントと、
前記第1のフィラメントに隣接して配置され、第2の断面を有する第2のフィラメントと
を含み、
前記第1の断面は円形の形状を有し、前記第1の断面とは異なる前記第2の断面は、3~6個のローブを含む多角形の形状を有するエア加工糸(ATY)。」
[相違点2-1]
本件発明1は、「前記第1のフィラメント又は前記第2のフィラメントによって形成されたループであって、前記ループの高さが150μm~480μmの範囲内にあるループ」を含むのに対して、引用発明2-1は、そのようなループを含むか不明である点。
[相違点2-2]
本件発明1は「第1の断面」が「1.3以下の修飾度(M比)を有」するのに対して、引用発明2-1の「円形の断面形状のフィラメント糸」はM比が不明である点。
[相違点2-3]
本件発明1は、「前記第1のフィラメントの長さが、前記第2のフィラメントの長さと等しい」のに対して、引用発明2-1は「円形の断面形状のフィラメント糸」と「凹部を有する断面形状のフィラメント糸」の長さの関係が不明である点。
イ 判断
相違点2-1について検討する。
引用文献2には、「本発明の混繊糸は、・・・それぞれの断面形状の糸が外層・内層にランダムな状態で分散していることで、追撚を施した時に、糸の表面においてそれぞれの断面形状が分散配置するので、凹部を有する断面と凹部を有しない断面との調和した複合効果によるサラッとしたドライ感が得られる。」(【0021】)と記載されており、引用発明2-1は、「インターレースノズルによる交絡が付与されたもの」であるから、引用発明2-1においても「円形の断面形状のフィラメント糸」の断面及び「凹部を有する断面形状のフィラメント糸」の間に空隙が形成され、ループが形成されるものである。しかしながら、引用発明2-1では、当該ループの高さについて規定しておらず、また、引用発明2-1の混繊糸からなる織編物の、織編物としての感触に加えて透視性効果まで考慮し、当該ループの高さについて調整する動機付けは存在しない。また、提出された他の証拠にも、ループ高さについての記載はなされていない。
以上、引用文献2や提出された他の証拠には、相違点2-1に係る本件発明1の構成について、記載も示唆もされておらず、引用発明2-1において、相違点2-1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことではない。
ウ 小括
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明2-1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(2)と同様の理由により、本件発明2~5に係る発明は、引用発明2-1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明7について
本件発明7と引用発明2-2とは、少なくとも相違点2-1と同様の点で相違し、上記(2)同様の理由により、本件発明7は、引用発明2-2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)本件発明8~10について
本件発明8~10と引用発明2-3とは、少なくとも相違点2-1と同様の点で相違し、上記(2)同様の理由により、本件発明7は、引用発明2-3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)取消理由2についてのまとめ
本件発明1~5、7~10は、引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 取消理由3(引用文献3を主引用例とする進歩性)について
(1)引用文献3に記載された発明等
ア 引用文献3の記載
引用文献3には次の記載がある。
「次に、本発明の混繊糸の製造方法について述べる。第2図はその1例を示す概略図であるが、芯糸のパツケージ1より解舒された芯糸Aは芯糸供給ローラー3を介して圧空乱流域を形成するタスランノズル5に供給される。
一方、鞘糸のパツケージ2より解舒された鞘糸Bは鞘糸供給ローラー4を介してタスランノズル5に供給される。
タスランノズル5を通過した両方の糸A、Bは引きつづき第1加熱ローラー6、第2加熱ローラー7へ供給され、引き取りローラー8を介して巻き取りローラー9で巻き取られる。」(4ページ左上欄5~16行)
「(実施例)
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1~3
第2図において示した装置を用い、第1表に示した芯糸、鞘糸、及び加工条件により混繊糸を作成した。
得られた混繊糸において、0.5~2.5の突出部係数を有し、糸条直径の1/3以上の高さを有する突出部は・・・5.3ケ/25mm(実施例2)・・・あり、複数本の単繊維が異なる位相で混繊糸直径以上の高さで、該高さの2倍以上の幅を有する不規則な糸長差(以下、単に不規則な糸長差と称す。)を・・・7ケ/25mm(実施例2)有しており、芯糸と鞘糸の平均糸長差(L1)は・・・4.5%(実施例2)・・・であつた。この混繊糸は撚糸。製織工程通過性が良く、また得られた織物は、自然なふくらみとタツチを有するものでめつた。」(4ページ右下欄1行~末行)
「比較例1
実施例2の芯糸、鞘糸を用いて第1表に示す如き加工条件で混繊糸を作成した。
これは、芯糸と鞘糸を同一速度で送り込み流体乱流処理を施したものであるが、得られた混繊糸において、0.5以上の突出部係数を有し、糸条直径の1/3以上の高さる有する突出部は0.5ケ/25mm、不規則な糸長差0ケ/25mm、芯糸と鞘糸の糸長差は0であつた。撚糸、製織工程通過性は良好であつたが、得られた織物はふくらみに乏しいものであつた。」(5ページ右上欄2~12行)
「第1表
[図:0001432021000010.jpg]
」(6ページ第1表)
「第1図
[図:0001432021000011.jpg]
第2図
[図:0001432021000012.jpg]
」(6ページ第1図、第2図)
イ 引用文献3に記載された発明
(ア)「混繊糸」の発明
引用文献3には、特に比較例1に着目すると、混繊糸に関して、次の発明が記載されている。
「ポリエチレンテレフタレート(SD 50dr/18fil)の芯糸とポリエチレンテレフタレート(異形(Y型) RB 30dr/24fil)の鞘糸を同一速度で送り込み流体乱流処理を施して得られた混繊糸であって、
芯糸と鞘糸の糸長差が0である、
混繊糸。」(以下「引用発明3-1」という。)
(イ)「混繊糸を製織した編物」の発明
引用文献3には、特に比較例1に着目すると、混繊糸からなる織編物に関して、次の発明が記載されている。
「混繊糸を製織した編物であって、
混繊糸が、
ポリエチレンテレフタレート(SD 50dr/18fil)の芯糸とポリエチレンテレフタレート(異形(Y型) RB 30dr/24fil)の鞘糸を同一速度で送り込み流体乱流処理を施して得られた混繊糸であって、
芯糸と鞘糸の糸長差が0である、
混繊糸を製織した編物。」(以下「引用発明3-2」という。)
(ウ)「混繊糸の製造方法」の発明
引用文献3には、特に混繊糸の製造方法の記載及び比較例1に着目すると、混繊糸の製造方法に関して、次の発明が記載されている。
「芯糸のパツケージ1より解舒された芯糸Aは芯糸供給ローラー3を介して圧空乱流域を形成するタスランノズル5に供給され、
一方、鞘糸のパツケージ2より解舒された鞘糸Bは鞘糸供給ローラー4を介してタスランノズル5に供給され、
タスランノズル5を通過した両方の芯糸A、鞘糸Bは引きつづき第1加熱ローラー6、第2加熱ローラー7へ供給され、引き取りローラー8を介して巻き取りローラー9で巻き取られる、混繊糸の製造方法であって、
混繊糸が、
ポリエチレンテレフタレート(SD 50dr/18fil)の芯糸Aとポリエチレンテレフタレート(異形(Y型) RB 30dr/24fil)の鞘糸Bを同一速度で送り込み流体乱流処理を施して得られた混繊糸であって、
芯糸と鞘糸の糸長差が0である、
混繊糸の製造方法。」(以下「引用発明3-3」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明3-1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点3-1]
「エア加工糸(ATY)であって、
第1の断面を有する第1のフィラメントと、
前記第1のフィラメントに隣接して配置され、第2の断面を有する第2のフィラメントと
を含み、
前記第1の断面とは異なる前記第2の断面は、3~6個のローブを含む多角形の形状を有し、前記第1のフィラメントの長さが、前記第2のフィラメントの長さと等しいエア加工糸(ATY)。」
[相違点3-1]
本件発明1は、「前記第1のフィラメント又は前記第2のフィラメントによって形成されたループであって、前記ループの高さが150μm~480μmの範囲内にあるループ」を含むのに対して、引用発明3-1は、そのようなループを含むか不明である点。
[相違点3-2]
本件発明1は「第1の断面」が「円形の形状を有し、1.3以下の修飾度(M比)を有」するのに対して、引用発明3-1は「芯糸」の断面の形状及びM比が不明である点。
イ 判断
相違点3-1について検討する。
引用文献3の第1図を参照すると、引用発明3-1において「芯糸」又は「鞘糸」によって形成されたループを含んでいることが理解できる。しかしながら、引用発明3-1では、当該ループの高さについて規定しておらず、また、引用発明3-1の混繊糸を製織した編物の、編物としての感触に加えて透視性効果まで考慮し、当該ループの高さについて調整する動機付けは存在しない。また、提出された他の証拠にも、ループ高さについての記載はなされていない。
以上、引用文献3や提出された他の証拠には、相違点3-1に係る本件発明1の構成について、記載も示唆もされておらず、引用発明3-1において、相違点3-1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことではない。
ウ 小括
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明3-1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(2)と同様の理由により、本件発明2~5に係る発明は、引用発明3-1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明7について
本件発明7と引用発明3-2とは、少なくとも相違点3-1と同様の点で相違し、上記(2)同様の理由により、本件発明7は、引用発明3-2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)本件発明8~10について
本件発明8~10と引用発明3-3とは、少なくとも相違点3-1と同様の点で相違し、上記(2)同様の理由により、本件発明7は、引用発明3-3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)取消理由3についてのまとめ
本件発明1~5、7~10は、引用文献3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立理由の概要
本件特許異議の申立の理由のうち、取消理由通知(決定の予告)に採用しなかったものは次のとおりである。
(1)申立理由1(引用文献1を引用例とする新規性)
本件特許の請求項1~10に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(引用文献2を引用例とする新規性)
本件特許の請求項1~7に係る発明は、引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(引用文献3を引用例とする新規性)
本件特許の請求項1、4、6、7に係る発明は、引用文献3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(4)申立理由4(実施可能要件)
本件特許の発明の詳細な説明の記載が、次の点で、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許法第36条第4項第1号に適合しないため、請求項1~10に係る特許は、同法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
ア 「エア加工糸」について(請求項1~10)
令和4年11月24日に提出の意見書で特許権者が主張するように、本件特許発明のエア加工糸が交絡糸でないとすれば、フィラメント同士の絡み合いは全くないものなのか、節が絡み合う交絡がなければよいのか、その形態が不明であるから、当業者は、本件特許明細書の記載及び出願時の技術常識に基づき、本件特許発明に係るATYを製造できるか予測することができない。
イ 「ループ高さ」について(請求項6)
本件特許明細書には、本件特許発明6における「前記ループの高さが480μm未満である」ATYを製造する方法について具体的な記載がなく、当業者は、本件特許明細書の記載及び出願時の技術常識に基づき、本件特許発明6に係るATYを製造できるか予測することができない。
(5)申立理由5(明確性要件)
令和4年11月24日に提出の意見書で特許権者が主張するように、本件特許発明のエア加工糸は、交絡糸でないとすれば、フィラメント同士の絡み合いは全くないものなのか、節が絡み合う交絡がなければよいのか、その形態が明確でない。
したがって、本件特許の請求項1~10に係る発明は明確でないから、本件特許の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合しないため、請求項1~10に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 当審の判断
(1)申立理由1(引用文献1を引用例とする新規性)について
上記第5の1(2)イで説示したとおり、本件発明1と引用文献1に記載された発明の相違点1-1は実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用文献1に記載された発明ではない。
同様に、本件発明2~5、7~10は、引用文献1に記載された発明ではない。
(2)申立理由2(引用文献2を引用例とする新規性)について
上記(1)と同様に、本件発明1~5、7に係る発明は、引用文献2に記載された発明ではない。
(3)申立理由3(引用文献3を引用例とする新規性)について
上記(1)と同様に、本件発明1、4、7は、引用文献3に記載された発明ではない。
(4)申立理由4(実施可能要件)について
ア 本件特許の実施可能要件について
本件発明1~5、7~10の「エア加工糸(ATY)」の製造方法について、その実施の形態が、本件特許の明細書の【0033】~【0057】、【図1】~【図3】に記載されている。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、本件発明1~5、7~10の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
イ 上記1(4)アの申立人の主張について
本件発明は、「エア加工糸(ATY)」の交絡の有無を特定するものではないため、申立人の主張を採用することはできない。
ウ 上記1(4)イの申立人の主張について
本件訂正により、請求項6に係る発明は削除されたが、請求項1に「前記ループの高さが150μm~480μmの範囲内にある」との記載が追加されたため、この点について検討する。
本件特許の明細書には、「ループの高さ」に関して、「いくつかの実施形態では、第1のフィラメント105aは、第1の供給速度でノズルユニット103内に供給され、第2のフィラメント105bは、第2の供給速度でノズルユニット103内に供給される。いくつかの実施形態では、第1の供給速度と第2の供給速度との差は実質的に4%以下である。いくつかの実施形態では、第1の供給速度と第2の供給速度は同一又はほぼ同一である。言い換えれば、第1の供給速度は第2の供給速度と実質的に等しい。このように、第1の供給速度と第2の供給速度が実質的に等しいことで、第1のフィラメント105aの長さと第2のフィラメント105bの長さとが実質的に等しくなる。第1のフィラメント105aと第2のフィラメント105bとの間の長さの差は、ATY105におけるループの長さを制限するので、実質的に等しい長さのためにATY105が容易に引っかかることはない。いくつかの実施形態では、第1のフィラメント105aの長さと第2のフィラメント105bの長さとの差は実質的に4%以下である。いくつかの実施形態では、第1のフィラメント105aの長さは、第2のフィラメント105bの長さと実質的に等しい。第1のフィラメント105a及び第2のフィラメント105bは、実質的に同じ長さを有するが、空気力学的効果が異なる異なる断面プロファイルを有し、従って、第1のフィラメント105a及び第2のフィラメント105bによって形成されたATY105は、小さく、高密度で均一なループを有し、これにより、ふんわり感や非透視性効果(透け感なし)等の所望の特性が生成される。」(【0036】)と記載されている。
当該記載によると、「ループの高さ」は、第1のフィラメントの長さと第2のフィラメントの長さの差や、第1のフィラメントと第2のフィラメントの断面プロファイル等により、調節できることが理解できる。
したがって、申立人の主張を採用することはできない。
(5)申立理由5(明確性要件)について
ア 本件特許の明確性要件について
本件特許の請求項1の記載により、当業者であれば「エア加工糸(ATY)」の構成について特定できるものであり、ある具体的な物が本件発明1の範囲に入るか否かを当業者が理解できるように記載されているから、本件発明1は明確に把握されるものであるといえる。そして、本件発明1を引用する本件発明2~5、7~10も同様である。
したがって、本件発明1~5、7~10は明確である。
イ 上記1(5)の申立人の主張について
本件発明1~5、7~10は、フィラメント同士の絡み合いの程度や、節が絡み合う交絡の多少を含め、その形態に関わらず、「エア加工糸」であること及び「第1の断面を有する第1のフィラメントと、前記第1のフィラメントに隣接して配置され、第2の断面を有する第2のフィラメントと、前記第1のフィラメント又は前記第2のフィラメントによって形成されたループ」を有することを規定するものであり、ある具体的な物が本件発明1~5、7~10の範囲に入るか否かを当業者であれば特定できるものである。
したがって、申立人の主張を採用することはできない。
第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、及び特許異議の申立ての理由によっては、請求項1~5、7~10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~5、7~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項6は、本件訂正により削除されたため、請求項6に係る特許についての本件特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700336