特許異議申立
2023-700842
光学ガラス、プリフォーム及び光学素子
- 審判番号
- 2023-700842
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-193790
- 登録番号
- 7224099
- 請求日
- 2023年08月17日
- 審決日
- 2023年11月22日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社オハラ
- 【権利者代理人】右田 俊介
- 【権利者代理人】高橋 政治
- 【権利者代理人】水野 基樹
- 【異議申立人】森 一郎
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 増山 淳子
- 審判官 立木 林
- 分類
- P1651.121-Y (C03C) / P1651.536-Y (C03C) / P1651.537-Y (C03C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7224099号発明「光学ガラス、プリフォーム及び光学素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7224099号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7224099号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願は、平成29年10月3日(優先権主張 平成28年10月3日、平成29年7月10日)に出願され、令和5年2月9日にその特許権の設定登録がされ、同年同月17日に特許掲載公報が発行された。
その後、その請求項1~9に係る特許に対して、令和5年8月17日に特許異議申立人森一郎(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に合わせて「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
質量%で、
B2O3成分を1.0%以上20.0%未満、
Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)を合計8.0%以上40.0%未満、
BaO成分を23.0%超45.0%以下、
SiO2成分を10.0%未満、
Y2O3成分を4.0%超、
TiO2成分を10.0%未満、
Sb2O3成分を1.0%以下
含有し、
質量和TiO2+ZrO2+WO3+Nb2O5+Ta2O5が2.0%以上45.0%以下であり、
1.75以上の屈折率(nd)を有し、18以上42以下のアッベ数(νd)を有し、
相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が+4.0×10-6~-10.0×10-6(℃-1)の範囲内にある光学ガラス。
【請求項2】
質量比BaO/SiO2が1.30超である請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
質量比Y2O3/Ln2O3が0.10以上0.70以下である請求項1又は2記載の光学ガラス(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)。
【請求項4】
質量比BaO/(SiO2+B2O3+ZnO)が0.30超3.50以下である請求項1から3のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項5】
質量%で、RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の和が23.0%超45.0%以下である請求項1から4のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項6】
質量%で、Rn2O成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の含有量の和が10.0%以下である請求項1から5のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか記載の光学ガラスからなるプリフォーム材。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項9】
請求項8に記載の光学素子を備える光学機器。」
第3 特許異議の申立てについて
1 特許異議申立理由
申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証:特開2010-83702号公報
甲第2号証:実験成績証明書
甲第3号証:2006 Minerals Yearbook、2008年、米国地質調査所(U.S.G.S.)
甲第4号証:2007 Minerals Yearbook、2010年、米国地質調査所(U.S.G.S.)
甲第5号証:2008 Minerals Yearbook、2010年、米国地質調査所(U.S.G.S.)
甲第6号証:2009 Minerals Yearbook、2011年、米国地質調査所(U.S.G.S.)
甲第7号証:2010 Minerals Yearbook、2012年、米国地質調査所(U.S.G.S.)
甲第8号証:2011 Minerals Yearbook、2013年、米国地質調査所(U.S.G.S.)
甲第9号証:2012 Minerals Yearbook、2016年、米国地質調査所(U.S.G.S.)
甲第10号証:2013 Minerals Yearbook、2016年、米国地質調査所(U.S.G.S.)
甲第11号証:甲第3~10号証の掲載場所、[online]、Rare Earths Statistics and Information、米国地質調査所(U.S.G.S.)、インターネット<https://www.usgs.gov/centers/national-minerals-information-center/rare-earths-statistics-and-information>
甲第12号証:特開2015-127281号公報
甲第13号証:特開2016-155745号公報
甲第14号証:山根 正之ら編、「ガラス工学ハンドブック」、初版第1刷、1999年、株式会社朝倉書店、p.70-72
甲第15号証:知的財産高等裁判所平成28年(行ケ)第10189号判決
甲第16号証:特開2007-8761号公報
甲第17号証:特開2016-84257号公報
(1) 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした進歩性欠如)
請求項1~9に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲第1~14号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2) 申立理由2(サポート要件違反)
請求項1の組成要件で特定される光学ガラスが高い蓋然性をもって請求項1に係る発明の物性要件を満たしうるものであることを当業者が認識し得ないから、請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載された発明でなく、請求項2に係る発明の「BaO/SiO2が1.30超」、請求項3に係る発明の「Y2O3/Ln2O3が0.10以上0.70以下」には技術的な裏付けがなく、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
よって、請求項1~3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3) 申立理由3(実施可能要件違反)
請求項1に係る発明の組成要件を満たしても請求項1に係る発明の物性要件を満たさないガラス組成が広範囲に存在するところ、請求項1に係る発明の組成要件及び物性要件を満たすものを実施しようとした場合に、当業者が過度の試行錯誤を行う必要があるから、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
よって、請求項1に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 当審の判断
(1) 取消理由1(甲第1号証を主たる証拠とした進歩性欠如)について
ア 甲第1号証に記載された発明(甲1発明)
甲第1号証の実施例2-11に示すガラス組成(表2)に、添加剤をNo.1に示す量で添加した「光学ガラス」に注目すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる(【0010】、【0011】、【0041】~【0043】、【0050】、【0056】)。
「B2O3が19.1質量%、BaOが23.2質量%、SiO2が9.9質量%、TiO2が8.9質量%、La2O3が22.2質量%、WO3が7.6質量%、Ta2O5が8.8質量%、K2Oが0.3質量%からなるガラス組成を有し、屈折率ndが1.80、アッベ数νdが34.5である、光学ガラス。」
イ 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲1発明との対比
甲1発明のガラス組成の「B2O3が19.1質量%」、「BaOが23.2質量%」、「SiO2が9.9質量%」、「TiO2が8.9質量%」は、本件発明1の「質量%で」「B2O3成分を1.0%以上20.0%未満」、「BaO成分を23.0%超45.0%以下」、「SiO2成分を10.0%未満」、「TiO2成分を10.0%未満」「含有」するとの規定を満足する。
また、甲1発明のガラスは、上記組成からなるものであり、他成分は含有しないから、Sb2O3、Gd2O3、Y2O3、Yb2O3、ZrO2、Nb2O5の含有量は0%となり、Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)は22.2%(La2O3(22.2%)+Gd2O3(0%)+Y2O3(0%)+Yb2O3(0%))、質量和TiO2+ZrO2+WO3+Nb2O5+Ta2O5は、25.3%(TiO2(8.9%)+ZrO2(0%)+WO3(7.6%)+Nb2O5(0%)+Ta2O5(8.8%))となるため、甲1発明の上記組成は、本件発明1の「Sb2O3成分を1.0%以下」、「Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)を合計8.0%以上40.0%未満」、「質量和TiO2+ZrO2+WO3+Nb2O5+Ta2O5が2.0%以上45.0%以下」「含有」するとの規定を満足する。
また、甲1発明の「屈折率ndが1.80」、「アッベ数νdが34.5」は、本件発明1の「1.75以上の屈折率(nd)を有し」「18以上42以下のアッベ数(νd)を有し」との規定を満足する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致していると認められる。
(相違点1)
本件発明1は、Y2O3成分を4.0%超含有しているのに対して、甲1発明は、Y2O3成分の含有量が0%である点。
(相違点2)
本件発明1のガラスは、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が+4.0×10-6~-10.0×10-6(℃-1)の範囲内であるのに対し、甲1発明ではその値が不明である点。
(イ) 相違点の検討
相違点1、2について検討すると、少なくとも、相違点1は実質的なものである。
次に、相違点1、2に係る本件発明1の構成とすることの容易想到性について検討する。本件発明1が甲1発明から容易想到であるといえるためには、甲1発明において、Y2O3成分を4.0%超含有するように組成を変更すること、及び、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)を+4.0×10-6~-10.0×10-6(℃-1)とすることが容易想到であるといえることが必要である。
しかし、甲第1号証には、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)を調整するという技術思想について記載も示唆もなく、甲第3~14号証についても同様である。また、甲第2号証は本件特許出願の優先日前の刊行物等ではない。そうすると、甲第1号証及び甲第3~14号証には、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が「+4.0×10-6~-10.0×10-6(℃-1)」を満たすように、「Y2O3成分を4.0%超」含有するように組成変更するという技術思想はなく、本件発明1は、この点において、容易想到の事項であるといえない。
(ウ) 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1~14号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明することができたとはいえない。
ウ 本件発明2~9について
本件発明2~9は、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、甲第1~14号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
エ 申立理由1についての結論
以上のとおりであるから、申立理由1に理由はない。
(2) 申立理由2(サポート要件違反)について
ア サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号所定のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを比較し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断するのが相当である。
そこで、これを本件発明1に当てはめると、本件発明1は、前記第2に記載したとおり、ガラス組成の範囲(組成要件)と、「1.75以上の屈折率(nd)を有し、18以上42以下のアッベ数(νd)を有し、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が+4.0×10-6~-10.0×10-6(℃-1)の範囲内にある」こと(物性要件)を特定した発明といえるところ、このような組成要件と物性要件により特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であるというためには、組成要件により特定される光学ガラスが、発明の詳細な説明に記載されていることに加えて、組成要件で特定される光学ガラスが高い蓋然性をもって物性要件を満たすものであることを、発明の詳細な説明の記載及び本件特許に係る出願時の技術常識から当業者が認識できることを要する。
以下、この観点で検討を行う。
イ サポート要件適合性の判断
(ア) 本件発明の課題について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0005】~【0007】の記載からして、本件発明の課題は、高屈折率高分散の光学特性を有し、且つ、相対屈折率の温度係数が低い値をとり、温度変化による結像特性への影響の補正に寄与できる光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を提供することであるといえる。
(イ) 特許請求の範囲の記載について
特許請求の範囲の請求項1の記載は、前記第2に記載したとおりであって、本件発明1は、ガラス組成の範囲(組成要件)と、「1.75以上の屈折率(nd)を有し、18以上42以下のアッベ数(νd)を有し、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が+4.0×10-6~-10.0×10-6(℃-1)の範囲内にある」こと(物性要件)を特定した発明といえる。
(ウ) 発明の詳細な説明の記載について
a 本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0067】~【0069】には、本件発明1の物性要件に関して、屈折率(nd)は1.75を下限とし、アッベ数(νd)は18を下限とし42を上限とする範囲にあることが好ましいこと(【0067】)、相対屈折率の温度係数(dn/dT)が+4.0×10-6(℃-1)を上限とし、-10.0×10-6(℃-1)を下限とする範囲にあることが好ましいこと(【0069】)が記載されており、このような物性により、本件発明の課題を解決できるものといえる。
b また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例欄(【0076】~【0098】)には、実施例1~60として、B2O3成分を3.63~24.97%、Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)を合計23.75~47.00%、BaO成分を12.95~37.03%、SiO2成分を0~13.70%、Y2O3成分を1.01~17.92%、TiO2成分を0.97~20.19%、Sb2O3成分を0~0.06%、質量和TiO2+ZrO2+WO3+Nb2O5+Ta2O5を9.23~33.06%とするガラス組成を有し、屈折率(nd)が1.780~1.962、アッベ数(νd)が27.7~41.0、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が+2.8×10-6~-0.1×10-6(℃-1)である光学ガラスが記載されている。
そして、実施例1~60の光学ガラスは、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が、前記物性を満たしていることからして、本件発明の課題を解決できるものといえ、さらに、実施例1~60のガラス組成の範囲内であれば、高い蓋然性をもって前記物性を満たしていると当業者が認識できる。
c 加えて、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0028】~【0065】には、ガラス成分について、各成分の役割や、各成分の含有量や質量和の好ましい範囲が記載され、B2O3成分を1.0%以上20.0%以下(【0028】)、BaO成分を23.0%超45.0%以下(【0030】)、SiO2成分を10.0%未満(【0032】)、Y2O3成分を4.0%超(【0035】)、TiO2成分を10.0%未満(【0040】)、Sb2O3成分を1.0%以下(【0051】)、Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)を合計8.0%以上40.0%未満(【0029】)、質量和TiO2+ZrO2+WO3+Nb2O5+Ta2O5を2.0%以上45.0%以下(【0031】)とすることが好ましいことが記載されており、前記a及びbで検討した事項も併せ考えれば、これらの成分の含有量及び質量和の範囲内であれば、高い蓋然性をもって前記物性要件を満たすことを当業者であれば認識できる。
(エ) 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比・検討
本件発明1の組成要件は、前記第2のとおりのものであるところ、当該組成要件は、前記(ウ)cで検討した各成分の含有量及び質量和の範囲内であるし、また、本件発明1の物性要件は、前記(ウ)aで検討した物性であるから、本件発明1の組成要件により特定されるガラスは、発明の詳細な説明に記載されているといえるし、さらに、当該組成要件で特定されるガラスが高い蓋然性をもって本件発明1の物性要件を満たすことを当業者であれば認識できる。
(オ) 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載されたものである。また、本件発明2~3も事情は同じであるから、発明の詳細な説明に記載されたものである。
ウ 申立人の主張について
(ア) 申立人が主張する上記1(2)の申立理由2について詳述すると、以下のa~cの主張をしている。
a 甲第16号証、甲第17号証の記載からは、本件発明1の組成要件を満たすが、物性要件を満たさないガラスが予期されるところ、本件発明1の組成要件で特定される光学ガラスが高い蓋然性をもって本件発明1の物性要件を満たしうるものであることを、発明の詳細な説明の記載は示唆又は本願出願時の技術常識から当業者が認識できるとはいえない。
b 本件発明2の「BaO/SiO2が1.30超」について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0056】には、BaO/SiO2を大きくすることで、相対屈折率の温度係数を小さくでき、また化学的耐久性を高められることが記載されている。
しかし、実施例1~60について検討しても、BaO/SiO2が大きいほど相対屈折率の温度係数が小さくなるという関係にはない。また、【0028】には、B2O3成分の含有量を35.0%以下にすることで相対屈折率の温度係数を小さくできることが記載され、【0032】には、SiO2成分の含有量を25.0%以下にすることで相対屈折率の温度係数を小さくできることが記載されているところ、B2O3成分とSiO2成分は相対屈折率に対して同等の効果を有すると認められる。ここで、比較例Aの相対屈折率の温度係数は、本件発明1で特定される範囲内にないところ、比較例AのガラスのSiO2の4%をB2O3に置換すると、BaO/SiO2は1.30超となり、本件発明1の規定を満たすが、SiO2とB2O3は相対屈折率に対する効果は同等なので、その相対屈折率の温度係数は、依然として本件発明1の規定を満たさないことが予測される。また、実施例17のガラスについてSiO2とB2O3の置換を行った場合において、BaO/SiO2が1.30超を満たさないのに相対屈折率の温度係数が本件発明1の規定を満足する場合も予測される。
さらに、実施例17のガラスは、比較例AよりもBaO/SiO2が大きいにもかかわらず、耐水性は劣ることも示されている。
そうすると、本件発明2の「BaO/SiO2が1.30超」について、相対屈折率の温度係数についても化学的耐久性についても、技術的な裏付けがなく、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
c 本件発明3の「Y2O3/Ln2O3が0.10以上0.70以下」についてY2O3/Ln2O3の効果が記載された【0058】には「0.10以上」、「0.70以下」との記載はなく、「Y2O3/Ln2O3が0.10以上0.70以下」に技術的な裏付けはないため、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。
(イ) 申立人の主張の検討
a 上記(ア)aについて
上記イで検討したとおり、本件発明1の組成要件により特定されるガラスは、高い蓋然性をもって本件発明1の物性要件を満たすものである。
したがって、申立人の上記(ア)aの主張は採用できない。
b 上記(ア)b、cについて
本件発明1は上記イで検討したとおり、本件発明の課題を解決するものであり、発明の詳細な説明に記載されたものであるし、本件発明1は発明の詳細な説明に記載されたものではないという申立人の主張も、上記aに記載したとおり、採用できないものである。そうすると、本件発明1を引用する本件発明2及び本件発明3は、当然に、本件発明の課題を解決するものであり、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。
そして、相対屈折率の温度係数は、BaO/SiO2のみによって決まるものではないため、実施例1~60について、BaO/SiO2が大きいほど相対屈折率の温度係数が小さくなるという関係にないことをもって、【0056】の、BaO/SiO2を大きくすることで、相対屈折率の温度係数を小さくできるとの記載と矛盾するとはいえないし、この点について技術的裏付けがないともいえない。
また、【0028】に記載されているのは、「B2O3成分の含有量を35.0%以下にすること」で相対屈折率の温度係数を小さくできることであって、「B2O3成分の含有量を減少させること」で相対屈折率の温度係数が小さくなることではないし、【0032】に記載されているのは、「SiO2成分の含有量を25.0%以下にすること」で相対屈折率の温度係数を小さくできることであって、「SiO2成分の含有量を減少させること」で相対屈折率の温度係数を小さくできることではない。そうすると、申立人の「B2O3成分とSiO2成分は相対屈折率に対して同等の効果を有する」という前提は誤っているため、この前提に基づいたBaO/SiO2の相対屈折率の温度係数についての主張は採用できない。
さらに、化学的耐久性は、BaO/SiO2のみによって決まるものではないため、実施例17の耐水性(化学的耐久性)が比較例Aのガラスよりも劣ることのみをもって、【0056】の、BaO/SiO2を大きくすることで化学的耐久性を高められるとの記載と矛盾するとはいえないし、この点について技術的裏付けがないともいえない。
また、Y2O3/Ln2O3が0.10以上0.70以下であることは【0014】に記載がある。
そして、技術的裏付けの有無は、サポート要件の判断に影響を与えるものではない。
したがって、申立人の上記(ア)b、cの主張は採用できない。
エ 申立理由2についての結論
以上のとおりであるから、申立理由2に理由はない。
(3) 申立理由3(実施可能要件違反)について
ア 実施可能要件違反についての検討
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、前記(2)イ(ウ)bで検討したとおり、実施例1~60が記載されているし、また、前記(2)イ(ウ)cで検討したとおり、各成分の役割や、各成分の含有量や質量和の好ましい範囲が記載されているから、これらの記載に基いて、当業者が過度な試行錯誤を要することなく、本件発明1を実施することができるものといえる。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
イ 申立理由3についての結論
以上のとおりであるから、申立理由3は理由がない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、請求項1~9に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700842