特許異議申立
2025-700337
蓄電デバイス用外装材及び蓄電デバイス
- 審判番号
- 2025-700337
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-023503
- 登録番号
- 7556417
- 請求日
- 2025年03月25日
- 審決日
- 2025年08月28日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】TOPPANホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】黒木 義樹
- 【権利者代理人】鈴木 洋平
- 【権利者代理人】青木 博昭
- 【異議申立人】中村 絵美
- 審判長/審判官
- 審判長 涌井 智則
- 審判官 須原 宏光
- 審判官 ▲吉▼澤 雅博
- 分類
- P1651.121-Y (H01M) / P1651.113-Y (H01M) / P1651.536-Y (H01M) / P1651.537-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7556417号発明「蓄電デバイス用外装材及び蓄電デバイス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7556417号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7556417号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る発明についての出願は、令和5年2月17日の出願であって、令和6年9月17日にその特許権が設定登録され、令和6年9月26日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立での経緯は、次のとおりである。
令和7年 3月25日 :特許異議申立人中村絵美による請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議の申立て
令和7年 5月15日付け:取消理由通知書
令和7年 7月18日 :特許権者による意見書の提出
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明9」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも、基材層と、バリア層と、接着層と、シーラント層とをこの順に備え、
前記シーラント層及び前記接着層の厚さ方向における100℃での硫化水素透過量が3.7×10-15~1.8×10-12[(mol・m)/(m2・s・Pa)]である、蓄電デバイス用外装材。
【請求項2】
前記シーラント層の断面を走査型電子顕微鏡で観察した場合に、海部及び前記海部に存在する島部を有する海島構造が観察される、請求項1に記載の蓄電デバイス用外装材。
【請求項3】
前記シーラント層が、ポリオレフィン系樹脂を含むベース樹脂(A)を含有する、請求項1に記載の蓄電デバイス用外装材。
【請求項4】
前記ポリオレフィン系樹脂が、ポリプロピレン系樹脂及びポリエチレン系樹脂を含む、請求項3に記載の蓄電デバイス用外装材。
【請求項5】
前記シーラント層が、前記ポリプロピレン系樹脂に相溶する部位および前記ポリエチレン系樹脂に相溶する部位を有する相溶化剤(B)をさらに含む、請求項4に記載の蓄電デバイス用外装材。
【請求項6】
前記相溶化剤(B)が、ポリプロピレンとポリエチレンのブロック共重合体(B1)、及び、ポリエチレンとポリエチレンブチレンのブロック共重合体(B2)の少なくとも一方を含む、請求項5に記載の蓄電デバイス用外装材。
【請求項7】
前記蓄電デバイスが全固体電池である、請求項1~6のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用外装材。
【請求項8】
蓄電素子と、
前記蓄電素子を収容する外装袋とを備え、
前記外装袋が、請求項1~6のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用外装材を用いて、袋本体と、袋本体に設けられるシール部とを有するように形成される、蓄電デバイス。
【請求項9】
全固体電池である、請求項8に記載の蓄電デバイス。」
第3 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
請求項1ないし9に係る特許に対して、当審が令和7年5月15日に特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
1.(実施可能要件)本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2.(サポート要件)本件特許は,明細書又は特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
●理由1(実施可能要件)について
・請求項1-9
(1)発明の詳細な説明の段落【0146】の【表2】には、「『シーラント層及び接着層』、『100℃での硫化水素透過量』」、『(mol・m)/(m2・s・Pa)』」と示された欄があり、シーラント層及び接着層の100℃での硫化水素透過量の値が記載されている。
しかしながら、発明の詳細な説明の「<硫化水素透過量>シーラント層及び接着層の厚さ方向における100℃での硫化水素透過量は、以下のようにして測定した。
まず、シーラント層形成用樹脂組成物を200℃で加熱溶融して厚さ80μmの測定用シートを作製した。・・・そして、この差圧式ガス透過率測定装置を用いて、差圧法により、測定用シートの硫化水素透過量を測定した。・・・」(段落【0144】)の記載では、シーラント層の100℃での硫化水素透過量の測定方法について説明されているが、シーラント層及び接着層の100℃での硫化水素透過量の測定方法について記載されていない。
そうすると、表2の「『シーラント層及び接着層』、『100℃での硫化水素透過量』」、『(mol・m)/(m 2・s・Pa)』」と示された欄における数値を、どのような方法で測定したのか不明である。
(2)発明の詳細な説明の段落【0136】には「<接着性樹脂層(接着層)>無水マレイン酸変性されたホモポリプロピレン(100℃における硫化水素透過量:1.8×10 -14[(mol・m)/(m2・s・Pa)]、融解温度:162℃)」と、実施例1~18の接着性樹脂層の100℃における硫化水素透過量が記載されているが、その測定方法について記載されていない。
一方、段落【0146】の【表2】には、実施例1~18のシーラント層及び接着層の100℃における硫化水素透過量の値が記載されているが、その測定方法について記載されていない。
そうすると、【表2】における「シーラント層及び接着層」の硫化水素透過量と、段落【0136】における「接着性樹脂層」の硫化水素透過量との関係が不明である。このことは、【表2】における「シーラント層及び接着層」の硫化水素透過量の測定方法が不明であることと相まって、その数値を得る方法を不明にしている。
以上のように、発明の詳細な説明の記載は、「シーラント層及び接着層の厚さ方向における100℃での硫化水素透過量」の測定方法及びその数値を得る方法が不明である。
●理由2(サポート要件)について
・請求項1-9
請求項1に「前記シーラント層及び前記接着層の厚さ方向における100℃での硫化水素透過量が3.7×10-15~1.8×10-12[(mol・m)/(m2・s・Pa)]である」と記載されている。
しかしながら、上記理由1で検討したように、発明の詳細な説明の記載は、「シーラント層及び接着層の厚さ方向における100℃での硫化水素透過量」の測定方法及びその数値を得る方法が不明である。そうすると、請求項1の上記記載は、発明の詳細な説明に十分な裏付けをもって記載されているとはいえない。
2 意見書の主張
令和7年7月18日の意見書における、特許権者の主張は次の通りである。
(1)理由1(実施可能要件)について
ア 指摘事項(1)について
本件特許明細書の段落【0144】の冒頭には、「シーラント層及び接着層の厚さ方向における100℃での硫化水素透過量は、以下のようにして測定した。」と明確に記載されています。この記載は、測定対象が「シーラント層及び接着層」の積層体であることを示唆しています。
段落【0144】の記載の後に示される【表2】の項目は、「シーラント層及び接着層」の「100℃での硫化水素透過量」です。測定対象が「シーラント層及び接着層」であると明記されている表の数値を得るための測定方法として、シーラント層単独のシートを測定すると解釈することは、表の記載と矛盾します。当業者であれば、表2の数値が「シーラント層及び接着層」の透過量である以上、その測定に用いられるシートも「シーラント層及び接着層」の積層体であると理解します。
本件特許明細書の段落【0141】には、例えば実施例1における外装材の製造方法として、「接着性樹脂層及びシーラント層の厚さはそれぞれ25μm、55μmとした。」と記載されています。これらの厚さの合計は25μm+55μm=80μmとなり、段落【0144】に記載された測定用シートの厚さ「80μm」と完全に一致します。実施例の特性値を測定する際には、その実施例の構成を反映した測定用シートを用いるのが当然ですから、当業者であれば、厚さ80μmの測定用シートが、実施例と同様に接着層とシーラント層の積層体であると理解します。
以上のことから、段落【0144】の「シート状成形用樹脂組成物」という表現は、文脈上、「シーラント層及び接着層を形成するための樹脂組成物」を指すものであり、当業者であれば、測定用シートがシーラント層と接着層の積層体であると容易に理解し、その測定方法も明確であるといえます。
イ 指摘事項(2)について
まず、表2の「シーラント層及び接着層」の硫化水素透過量の測定方法については、上記(3-1)で詳細に述べましたとおり、段落【0144】の記載から当業者には明確であるものと認識しております。
次に、段落【0136】に記載された接着性樹脂層(接着層)単独の硫化水素透過量については、その測定方法が直接的に記載されていません。しかし、段落【0144】には、硫化水素透過量の測定に用いる装置(差圧式ガス透過量測定装置、ガス圧力計(型式:ARF-50K、株式会社アサヒ理化製作所製))や測定原理(測定用シートの片面側に硫化水素ガスを供給し、測定用シートを透過するガス管内の硫化水素ガスの圧力の経時変化を測定)が具体的に開示されています。当業者であれば、これらの開示された装置及び原理を、接着層単独のシートに対して適用することで、その硫化水素透過量を測定することが可能です。材料の透過量測定は、当該技術分野において一般的に確立された測定技術であり、当業者であれば、開示された情報と一般的な技術常識に基づいて、接着層単独の透過量も測定できることは自明です。
最後に、表2における「シーラント層及び接着層」の硫化水素透過量と、段落【0136】における「接着性樹脂層」の硫化水素透過量の値との関係が不明であるとのご指摘について意見を述べます。
段落【0136】に記載されている「接着性樹脂層(接着層)の100℃における硫化水素透過量」は、あくまで接着層を構成する材料単独の特性値の一例として示されたものです。これは、当該材料の硫化水素透過特性を示すことで、当業者が適切な材料を選択し、積層体の設計を行う上での指針となる情報を提供することを意図しています。
一方、表2に記載されている「シーラント層及び接着層の100℃における硫化水素透過量」は、シーラント層と接着層が積層された状態、すなわち本件特許発明の構成要素である積層体としての特性値を示しています。
これらは、測定対象が「単層の材料」と「積層体」という点で明確に異なるものであり、それぞれが異なる目的で記載されています。当業者であれば、これらの数値が異なる測定対象の特性を示すものであり、直接的な数値の関係を求めるものではないことを容易に理解できるものと考えます。
(2)理由2(サポート要件)について
上記(3)で詳細に述べましたとおり、本件特許明細書は、「シーラント層及び接着層の厚さ方向における100℃での硫化水素透過量」の測定方法及びその数値を得る方法を、当業者が明確に理解できる程度に記載しているものと認識しております。
3 当審の判断
意見書における、「【表2】の項目は、「シーラント層及び接着層」の「100℃での硫化水素透過量」です。測定対象が「シーラント層及び接着層」であると明記されている表の数値を得るための測定方法として、シーラント層単独のシートを測定すると解釈することは、表の記載と矛盾します。当業者であれば、表2の数値が「シーラント層及び接着層」の透過量である以上、その測定に用いられるシートも「シーラント層及び接着層」の積層体であると理解します。」及び「本件特許明細書の段落【0141】には、例えば実施例1における外装材の製造方法として、「接着性樹脂層及びシーラント層の厚さはそれぞれ25μm、55μmとした。」と記載されています。これらの厚さの合計は25μm+55μm=80μmとなり、段落【0144】に記載された測定用シートの厚さ「80μm」と完全に一致します。実施例の特性値を測定する際には、その実施例の構成を反映した測定用シートを用いるのが当然ですから、当業者であれば、厚さ80μmの測定用シートが、実施例と同様に接着層とシーラント層の積層体であると理解します。」の説明により、段落【0144】の記載が「シーラント層及び接着層」の厚さ方向における100℃での硫化水素透過量の測定方法に関するものであることが明らかになったので、表2の「『シーラント層及び接着層』、『100℃での硫化水素透過量』」、『(mol・m)/(m 2・s・Pa)』」と示された欄における数値を、どのような方法で測定したのか明確であるといえる。
したがって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし9に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
また、請求項1ないし9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。
よって、取消理由通知に記載した取消理由によっては、請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
第4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議申立理由のうち、取消理由通知において採用しなかった申立理由の概要は、以下のとおりである。
(1)申立理由1
請求項1、3、7-9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1、3、7-9に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1、3、7-9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2
請求項1ないし9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3
請求項1ないし9に係る発明は明確でないため、請求項1ないし9係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
<証拠方法>
甲第1号証:国際公開第2020/153456号
甲第2号証:仲川勤、高分子フィルムの気体透過性、高分子、社団法人高分子学会、1965年1月20日、第14巻、第155号、2月号、p.107-114
甲第3号証:特開2016-143615号公報
甲第4号証:国際公開第2020/158873号
2 甲第1号証の記載
(1)甲第1号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は、当審で付したものである。以下同様。)
「[0014]
このような状況下、本開示は、硫化物固体電解質材料を含む固体電解質を用いた全固体電池に適用される外装材であって、全固体電池が高圧の状態で拘束された場合にも、外装材のバリア層の劣化が効果的に抑制され、かつ、全固体電池の内部で発生した硫化水素を外部に排出することができる、全固体電池用外装材を提供することを主な目的とする。」
「[0171]
<熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量>
図8の模式図に示すように、試験温度(概ね23±5℃)の環境において、全固体電池用外装材の熱融着性樹脂層として使用する各樹脂フィルム(表1に記載の厚さ)をサンプルとして、以下の手順に従い、熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量を求めた。結果を表1に示す。」
「[0174]
[表1]
[図:0001426849000001.jpg]
[0175]
[実施例1]
基材層として、ポリエチレンテレフタレートフィルム(12μm)/接着剤層(2液硬化型ウレタン接着剤(ポリオール化合物と芳香族イソシアネート化合物)、厚さ3μm)/二軸延伸ナイロンフィルム(厚さ15μm)が順に積層された積層フィルムを用意した。また、アルミニウム合金箔(JIS H4160:1994 A8021H-O、厚さ40μm)からなるバリア層を用意した。バリア層の両面には、後述の方法で化成処理を施して、バリア層保護膜(厚さ10nm)を形成した。次に、バリア層と基材層をドライラミネート法により積層させた。具体的には、バリア層の表面に形成されたバリア層保護膜の一方面に、2液硬化型ウレタン接着剤(ポリオール化合物と芳香族イソシアネート化合物)を塗布し、接着剤層(硬化後の厚み3μm)を形成した。次いで、接着剤層と二軸延伸ナイロンフィルムを積層した後、エージング処理を実施することにより、基材層/接着剤層/バリア層保護膜/バリア層/バリア層保護膜の積層体を作製した。次に、得られた積層体のバリア層保護膜の上に、接着層としての2液硬化型ウレタン接着剤(ポリオール化合物と芳香族イソシアネート化合物)、硬化後の厚さ3μm)と、熱融着性樹脂層としての表1のポリプロピレンフィルム(厚さ35μm)を積層して、接着層/熱融着性樹脂層を積層させた。次に、得られた積層体をエージングし、加熱することにより、基材層(ポリエチレンテレフタレートフィルム(12μm))/接着剤層(3μm)/二軸延伸ナイロンフィルム(15μm)/接着剤層(3μm)/バリア層保護膜(10nm)/バリア層(40μm)/バリア層保護膜(10nm)/接着層(3μm)/熱融着性樹脂層(35μm)がこの順に積層された積層体からなる外装材を得た。」
「[請求項1]
少なくとも、外側から、基材層、バリア層、前記バリア層の表面に形成されたバリア層保護膜、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成された、硫化物固体電解質材料を含む全固体電池に用いるための全固体電池用外装材であって、
前記熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10-8cc・mm/cm2・sec・cmHg以上である、全固体電池用外装材。」
(2)甲1発明
甲第1号証には、全固体電池用外装材に関する発明が記載されている([請求項1])。
[0171]及び表1によれば、熱融着性樹脂層として使用するポリプロピレンフィルムの厚さ方向における概ね23℃での硫化水素透過量は、1.27×10-8 (cc・mm/cm2・sec・cmHg)である。
以上のことより、熱融着性樹脂層としての表1のポリプロピレンフィルムを積層した実施例1に着目すると、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「基材層/接着剤層/二軸延伸ナイロンフィルム/接着剤層/バリア層保護膜/バリア層/バリア層保護膜/接着層/熱融着性樹脂層がこの順に積層された積層体からなる全固体電池用外装材であって、
熱融着性樹脂層の厚さ方向における概ね23℃での硫化水素透過量が、1.27×10-8 (cc・mm/cm2・sec・cmHg)である、
全固体電池用外装材。」
3 当審の判断
(1)申立理由1(特許法第29条第1項)、申立理由2(特許法第29条第2項)ついて
ア 本件特許発明1
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明を対比すると、次のことがいえる。
甲1発明の「熱融着性樹脂層」、「全固体電池用外装材」は、それぞれ、本件特許発明1の「シーラント層」、「蓄電デバイス用外装材」に相当する。
したがって、甲1発明の「基材層/接着剤層/二軸延伸ナイロンフィルム/接着剤層/バリア層保護膜/バリア層/バリア層保護膜/接着層/熱融着性樹脂層がこの順に積層された積層体からなる全固体電池用外装材」は、本件特許発明1の「少なくとも、基材層と、バリア層と、接着層と、シーラント層とをこの順に備え」る「蓄電デバイス用外装材」に相当する。
但し、本件特許発明1は「前記シーラント層及び前記接着層の厚さ方向における100℃での硫化水素透過量が3.7×10-15~1.8×10-12[(mol・m)/(m2・s・Pa)]である」のに対して、甲1発明は「熱融着性樹脂層の厚さ方向における概ね23℃での硫化水素透過量が、1.27×10-8 (cc・mm/cm2・sec・cmHg)である」が、そのような特定がない点で相違する。
したがって、本件特許発明1と甲1発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「少なくとも、基材層と、バリア層と、接着層と、シーラント層とをこの順に備える、蓄電デバイス用外装材。」
(相違点)
本件特許発明1は「前記シーラント層及び前記接着層の厚さ方向における100℃での硫化水素透過量が3.7×10-15~1.8×10-12[(mol・m)/(m2・s・Pa)]である」のに対して、甲1発明は「熱融着性樹脂層の厚さ方向における概ね23℃での硫化水素透過量が、1.27×10-8 (cc・mm/cm2・sec・cmHg)である」が、そのような特定がない点。
(イ)判断
a 第29条第1項第3号について
本件特許発明1と甲1発明とは相違点を有しているので、本件特許発明1は甲第1号証に記載された発明でない。
b 第29条第2項について
上記相違点について検討する。
甲1発明は、熱融着性樹脂層の厚さ方向における概ね23℃での硫化水素透過量が、1.27×10-8 (cc・mm/cm2・sec・cmHg)である。
この、硫化水素透過量1.27×10-8 (cc・mm/cm2・sec・cmHg)は、4.25×10-15[(mol・m)/(m2・s・Pa)]と換算されるが(特許異議申立書第27頁参照)、当該硫化水素透過量は、熱融着性樹脂層の厚さ方向における概ね23℃での硫化水素透過量であって、シーラント層及び接着層の厚さ方向における100℃での硫化水素透過量ではない。
そして、甲1発明は、「全固体電池が高圧の状態で拘束された場合にも、外装材のバリア層の劣化が効果的に抑制され、かつ、全固体電池の内部で発生した硫化水素を外部に排出することができる」([0014])ように、「熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量を1.0×10-8cc・mm/cm2・sec・cmHg以上」([請求項1])にしたのであって、本件特許発明1のように、熱衝撃を受けた後であっても、外装材を用いて形成されるシール部の寸法安定性を向上させることができることを目的に(【0008】)、シーラント層及び接着層の厚さ方向における100℃での硫化水素透過量を限定することに動機はなく、甲1発明に基づいて、上記相違点に係る構成を得ることは当業者が容易になし得たこととはいえない。
そして、特許異議申立の証拠として提出された甲第2号証~甲第4号証にも、シーラント層及び接着層の厚さ方向における100℃での硫化水素透過量を3.7×10-15~1.8×10-12[(mol・m)/(m2・s・Pa)]にすることは、記載も示差もない。
そうすると、上記相違点に係る構成は、甲1発明、及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された技術に基いて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、特許異議申立人は、「少なくとも、甲第1号証の実施例1で熱融着性樹脂層として使用されているポリプロピレンフィルムの100℃での硫化水素透過量は、3.7×10-15~1.8×10-12[(mol・m)/(m2・s・Pa)]という広範な範囲には包含されるといえる。
また、甲第1号証の実施例1の接着層としての2液硬化型ウレタン接着剤(ポリオール化合物と芳香族イソシアネート化合物)は、本件特許明細書の【0095】に記載された接着剤(「また、第2の接着剤層12bを形成する接着剤として、例えば、水添ダイマー脂肪酸及びジオールからなるポリエステルポリオールと、ポリイソシアネートとを配合したポリウレタン系接着剤を用いることもできる。」)と同様である。
よって、甲第1号証の接着層は、本件特許の硫化水素透過量を満たすといえる。
以上の通り、甲第1号証の実施例1の外装材の熱融着性樹脂層及び接着層の厚さ方向における100℃での硫化水素透過量は、3.7×10-15~1.8×10-12[(mol・m)/(m2・s・Pa)]という広範な範囲である蓋然性が高い。」と主張している(特許異議申立書28頁)。
しかしながら、本件特許明細書の【0133】に、第2の接着剤層として具体的に記載されたものは、トルエンに溶解させた酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対し、イソシアヌレート構造のポリイソシアネート化合物を10質量部(固形分比)で配合した接着剤(第2接着剤)であり、甲第1号証の実施例1の接着層とは異なる物質である。また、特許異議申立人が引用した本件特許明細書の【0095】に記載された水添ダイマー脂肪酸及びジオールからなるポリエステルポリオールと、ポリイソシアネートとを配合したポリウレタン系接着剤も、甲第1号証の実施例1の接着層であるポリオール化合物と芳香族イソシアネート化合物とは、ポリオール成分及びイソシアネート成分がともに一致しているとはいえないので、同様のものとはいえない。
よって、上記主張を採用することができない。
イ 本件特許発明2、4-6
本件特許発明2、4-6は、本件特許発明1の構成を全て含み、更に他の構成を付加したものであるから本件特許発明1と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明3、7-9
本件特許発明3、7-9は、本件特許発明1の構成を全て含み、更に他の構成を付加したものであるから本件特許発明1と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明でない。
同様に、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)申立理由3(特許法第36条第6項第2号)ついて
ア 特許異議申立人の主張の概要
本件明細書の実施例では、シーラント層及び接着層の厚さ方向における100℃での硫化水素透過量及びその測定方法が記載されておらず、請求項1に記載されたシーラント層及び前記接着層の厚さ方向における100℃での硫化水素透過量を一義的に求めることができず、本件発明1-9の記載は不明確である。(特許異議申立書第37頁)
イ 当審の判断
上記「第3 3」で検討したとおり、段落【0144】には「シーラント層及び接着層」の100℃での硫化水素透過量の測定方法が記載されており、表2の「『シーラント層及び接着層』、『100℃での硫化水素透過量』」、『(mol・m)/(m 2・s・Pa)』」と示された欄における数値が、シーラント層及び接着層の厚さ方向における100℃での硫化水素透過量であることが明らかであるから、主張は採用できない。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由1-3によって、本件特許発明1-9に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した異議申立理由によっては、請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700337