特許異議申立
2025-700395
半導体用接着剤及びその製造方法、並びに、半導体装置及びその製造方法
- 審判番号
- 2025-700395
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-550588
- 登録番号
- 7567802
- 請求日
- 2025年04月08日
- 審決日
- 2025年07月02日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社レゾナック
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】平野 裕之
- 【権利者代理人】沖田 英樹
- 【異議申立人】弁理士法人 朝日奈特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 梶尾 誠哉
- 審判官 河本 充雄
- 審判官 打出 義尚
- 分類
- P1651.121-Y (H01L) / P1651.536-Y (H01L) / P1651.537-Y (H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7567802号発明「半導体用接着剤及びその製造方法、並びに、半導体装置及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7567802号の請求項1~28に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7567802号の請求項1~28に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2020年(令和2年)9月16日(優先権主張 令和1年9月30日)を国際出願日とする出願であって、令和6年10月7日にその特許権の設定登録がされ、同年同月16日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1~28に係る特許に対し、令和7年4月8日に特許異議申立人 弁理士法人朝日奈特許事務所(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~28に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明28」といい、まとめて、「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1~28に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、請求項1、12の分説の符号1A、1B、12Aは、当審で付したものであり、これらの構成を、以下、「構成要件1A」、「構成要件1B」、「構成要件12A」ともいう。
「【請求項1】
1A:熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応基を有する硬化剤及び酸基を有するフラックス化合物を含む半導体用接着剤であって、
1B:前記半導体用接着剤を10℃/分の昇温速度で加熱する示差走査熱量測定により得られるDSC曲線の60~155℃の発熱量が、20J/g以下である、半導体用接着剤。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂の重量平均分子量が、10000以上である、請求項1に記載の半導体用接着剤。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂の含有量が、前記半導体用接着剤の固形分全量を基準として、1~30質量%である、請求項1又は2に記載の半導体用接着剤。
【請求項4】
前記硬化剤が、アミン系硬化剤を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の半導体用接着剤。
【請求項5】
前記硬化剤が、イミダゾール系硬化剤を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の半導体用接着剤。
【請求項6】
前記硬化剤の含有量が、前記半導体用接着剤の固形分全量を基準として、2.3質量%以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の半導体用接着剤。
【請求項7】
前記フラックス化合物の融点が、25~230℃である、請求項1~6のいずれか一項に記載の半導体用接着剤。
【請求項8】
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂を含有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の半導体用接着剤。
【請求項9】
前記熱硬化性樹脂が、35℃で液状のエポキシ樹脂を実質的に含有しない、請求項1~8のいずれか一項に記載の半導体用接着剤。
【請求項10】
フィルム状である、請求項1~9のいずれか一項に記載の半導体用接着剤。
【請求項11】
加圧雰囲気下で熱を加えることにより当該半導体用接着剤を硬化させ、硬化した当該半導体用接着剤によって半導体チップの接続部を封止するために用いられる、請求項1~10のいずれか一項に記載の半導体用接着剤。
【請求項12】
12A:当該半導体用接着剤の最低溶融粘度が400~2500Pa・sである、請求項1~11のいずれか一項に記載の半導体用接着剤。
【請求項13】
前記硬化剤全量中の前記反応基のモル数に対する、前記フラックス化合物全量中の前記酸基のモル数の比が0.01~4.8である、請求項1~12のいずれか一項に記載の半導体用接着剤。
【請求項14】
熱可塑性樹脂と、熱硬化性樹脂と、反応基を有する硬化剤と、酸基を有するフラックス化合物と、を混合する工程を備え、
前記工程では、前記硬化剤全量中の反応基のモル数に対する、前記フラックス化合物全量中の前記酸基のモル数の比が0.01~4.8となるように、前記硬化剤及び前記フラックス化合物を配合する、請求項1~13のいずれか一項に記載の半導体用接着剤の製造方法。
【請求項15】
前記フラックス化合物が、モノカルボン酸、ジカルボン酸及びトリカルボン酸からなる群より選択される少なくとも一種を含み、
前記工程では、前記硬化剤全量中の前記反応基のモル数に対する、前記モノカルボン酸のモル数の比が0.01~4.8となり、前記硬化剤全量中の前記反応基のモル数に対する、前記ジカルボン酸のモル数の比が0.01~2.4となり、前記硬化剤全量中の前記反応基のモル数に対する、前記トリカルボン酸のモル数の比が0.01~1.6となるように、前記硬化剤及び前記フラックス化合物を配合する、請求項14に記載の半導体用接着剤の製造方法。
【請求項16】
前記熱可塑性樹脂の重量平均分子量が、10000以上である、請求項14又は15に記載の半導体用接着剤の製造方法。
【請求項17】
前記熱可塑性樹脂の配合量が、前記半導体用接着剤の固形分全量を基準として、1~30質量%である、請求項14~16のいずれか一項に記載の半導体用接着剤の製造方法。
【請求項18】
前記硬化剤が、アミン系硬化剤を含む、請求項14~17のいずれか一項に記載の半導体用接着剤の製造方法。
【請求項19】
前記硬化剤が、イミダゾール系硬化剤を含む、請求項14~18のいずれか一項に記載の半導体用接着剤の製造方法。
【請求項20】
前記硬化剤の配合量が、前記半導体用接着剤の固形分全量を基準として、2.3質量%以下である、請求項14~19のいずれか一項に記載の半導体用接着剤の製造方法。
【請求項21】
前記フラックス化合物の融点が、25~230℃である、請求項14~20のいずれか一項に記載の半導体用接着剤の製造方法。
【請求項22】
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂を含有する、請求項14~21のいずれか一項に記載の半導体用接着剤の製造方法。
【請求項23】
前記熱硬化性樹脂が、35℃で液状のエポキシ樹脂を実質的に含有しない、請求項14~22のいずれか一項に記載の半導体用接着剤の製造方法。
【請求項24】
前記熱可塑性樹脂と、前記熱硬化性樹脂と、前記硬化剤と、前記フラックス化合物と、を含む混合物をフィルム状に成形する工程を更に備える、請求項14~23のいずれか一項に記載の半導体用接着剤の製造方法。
【請求項25】
半導体チップ及び配線回路基板のそれぞれの接続部が互いに電気的に接続された半導体装置、又は、複数の半導体チップのそれぞれの接続部が互いに電気的に接続された半導体装置の製造方法であって、請求項1~13のいずれか一項に記載の半導体用接着剤を、熱を加えることにより硬化させ、硬化した前記半導体用接着剤により前記接続部の少なくとも一部を封止する封止工程を備える、半導体装置の製造方法。
【請求項26】
前記封止工程の前に、
ステージ上に複数の半導体チップを配置する工程と、
前記ステージを60~155℃に加熱しながら、前記ステージ上に配置された前記複数の半導体チップのそれぞれの上に、前記半導体用接着剤を介して他の半導体チップを順次配置し、前記半導体チップ、前記半導体用接着剤及び前記他の半導体チップを有しこれらがこの順に積層されてなる積層体を複数得る仮固定工程と、を更に備える、請求項25に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項27】
前記封止工程の前に、
ステージ上に配線回路基板又は半導体ウェハを配置する工程と、
前記ステージを60~155℃に加熱しながら、前記ステージ上に配置された前記配線回路基板又は半導体ウェハの上に、前記半導体用接着剤を介して複数の半導体チップを順次配置し、前記配線回路基板、前記半導体用接着剤及び複数の前記半導体チップを有しこれらがこの順に積層されてなる積層体、又は、前記半導体ウェハ、前記半導体用接着剤及び複数の前記半導体チップを有しこれらがこの順に積層されてなる積層体を得る仮固定工程と、を更に備える、請求項25に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項28】
接続部を有する半導体チップと、接続部を有する配線回路基板と、を備え、前記半導体チップの接続部と前記配線回路基板の接続部が互いに電気的に接続された半導体装置、又は、
接続部を有する複数の半導体チップを備え、それぞれの前記半導体チップの接続部が互いに電気的に接続された半導体装置であって、
前記接続部の少なくとも一部が、請求項1~13のいずれか一項に記載の半導体用接着剤の硬化物によって封止されている、半導体装置。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証~甲第13の3号証(以下、「甲1」~「甲13の3」という。)を提出し、以下の理由により、本件特許を取り消すべきものである旨主張している。
1 申立理由1(進歩性)
本件発明1~28は、甲1に記載された発明、甲2に記載された事項及び周知技術(甲3~甲13の3)に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 申立理由2(実施可能要件)
本件特許に係る願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~28について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 申立理由3(サポート要件)
本件発明1~28は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
[証拠方法]
甲1:特開2018-145346号公報
甲2:特開2017-98309号公報
甲3:特開2007-211244号公報
甲4の1:一般財団法人日本環境衛生センターのウェブサイト、日本環境衛生センター所報論文集、[online]、2025年4月7日(印刷日)、インターネット<URL:https://www.jesc.or.jp/library/tabid/156/Default.aspx>
甲4の2:麻戸敏男、外1名、「熱分析装置による測定値の変動要因」、日本環境衛生センター所報論文集、1978年、No.5、50~57ページ
甲5:株式会社東ソー分析センターのウェブサイト、[online]、2022年11月1日、インターネット<URL:https://www.tosoh-arc.co.jp/technique/detail/t2032/>
甲6:「2011製品案内」、三菱化学株式会社、2011年
甲7:三菱ケミカル株式会社のウェブサイト、[online]、2025年4月7日(印刷日)、インターネット<URL:http://www.mcc-epoxy.jp/products/epoxy_jer.html>
甲8:東京化成工業株式会社のウェブサイト、[online]、2025年4月7日(印刷日)、インターネット<URL:https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/D1274>
甲9:東京化成工業株式会社のウェブサイト、[online]、2025年4月7日(印刷日)、インターネット<URL:https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/P1252>
甲10:東京化成工業株式会社のウェブサイト、[online]、2025年4月7日(印刷日)、インターネット<URL:https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/H1852>
甲11:東京化成工業株式会社のウェブサイト、[online]、2025年4月7日(印刷日)、インターネット<URL:https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/H0794>
甲12:東京化成工業株式会社のウェブサイト、[online]、2025年4月7日(印刷日)、インターネット<URL:https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/E0232>
甲13の1:J-STAGEのウェブサイト、熱測定、[online]、2025年4月7日(印刷日)、インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jscta/-char/ja>
甲13の2:J-STAGEのウェブサイト、熱測定、[online]、2025年4月7日(印刷日)、インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jscta/7/1/_contents/-char/ja>
甲13の3:中川英昭、外1名、「初心者のための熱分析(1)DTA,DSCの原理と測定法」、熱測定、1980年、7巻、1号、11~17ページ
第4 申立理由1(進歩性)について
1 甲号証の記載及び甲号証に記載された発明
(1)甲1(特開2018-145346号公報)
ア 甲1には、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。以下、同様である。)。
「【請求項1】
相対向する電極間に介在され、前記相対向する電極を電気的に接続するために用いられる回路部材接続用シートであって、
前記回路部材接続用シートは、少なくとも硬化性の接着剤層を備え、
前記接着剤層は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、イミダゾール系硬化触媒と下記式(1)
【化1】
[図:0001425805000001.jpg]
の構造を有する化合物とから形成された複合化合物、フラックス成分および無機フィラーを含有する接着剤組成物から形成されたものであることを特徴とする回路部材接続用シート。
【請求項2】
前記接着剤層は、示差走査熱量分析法により測定される反応立ち上がり温度が、140℃以上、250℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の回路部材接続用シート。
・・・
【請求項7】
前記フラックス成分は、カルボキシル基を含有することを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の回路部材接続用シート。」
「【発明の効果】
【0020】
本発明の回路部材接続用シートは、熱硬化に関する保存安定性に優れるとともに、接着剤層を短時間で硬化させることができる。また、本発明の製造方法によれば、そのような回路部材接続用シートを使用して、高い生産性にて半導体装置を製造することができる。」
「【0066】
(7)物性等
本実施形態に係る回路部材接続用シート1,2では、硬化前における接着剤層11の、示差走査熱量分析法により測定される反応立ち上がり温度が、140℃以上であることが好ましく、特に150℃以上であることが好ましく、さらには160℃以上であることが好ましい。また、当該反応立ち上がり温度は、250℃以下であることが好ましく、特に230℃以下であることが好ましく、さらには200℃以下であることが好ましい。ここで、反応立ち上がり温度とは、示差走査熱量分析法により取得されるDSC曲線における、接着剤層11の硬化反応に起因して生じるピークについて、当該ピークに接する接線の傾きが最大となるときの温度(℃)をいうものとする。すなわち、反応立ち上がり温度とは、接着剤層11の硬化反応において反応速度が最大となる温度のことをいう。反応立ち上がり温度が140℃以上であることで、意図しない段階における接着剤層11の硬化反応の進行を効果的に抑制することができ、より優れた保管安定性を達成することができる。また、反応立ち上がり温度が250℃以下であることで、過度な加熱を要せず、硬化反応を進行させることが可能となる。
・・・
【0069】
上述した、反応立ち上がり温度、反応ピーク温度および反応開始温度は、示差走査熱量計を用いて測定することができる。例えば、厚さ15mmの接着剤層11を、示差走査熱量計(TAインスツルメント社製,製品名「Q2000」)を用いて、昇温速度10℃/分で50℃から300℃まで加熱し、これにより得られるDSC曲線から求めることができる。」
「【実施例】
【0100】
以下、実施例および試験例等を示すことにより本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の試験例等に何ら限定されるものではない。
【0101】
〔実施例1~2および比較例1~2〕
表1に示す構成成分を含有する接着剤組成物を、メチルエチルケトンにて固形分濃度が40質量%となるように希釈し、塗工液を得た。当該塗工液を、シリコーン処理された剥離フィルム(リンテック社製,製品名「SP-PET381031」)上に塗布し、得られた塗膜をオーブンにて100℃で1分間乾燥することで、厚さ45μmの接着剤層と剥離フィルムとからなる回路部材接続用シートを得た。
【0102】
〔試験例1〕(示差走査熱量分析)
実施例および比較例で作製した回路部材接続用シートを使用して、接着剤層を複数積層することにより、厚さ15mmの測定用サンプルを作製した。得られた測定用サンプルを、示差走査熱量計(TAインスツルメント社製,製品名「Q2000」)を用いて、昇温速度10℃/分で50℃から300℃まで加熱した。これによりDSC曲線を取得し、接着剤層の硬化反応に起因して生じるピークについて、当該ピークの頂点をもたらす温度(反応ピーク温度)(℃)、および当該ピークに接する接線の傾きが最大となるときの温度(反応立ち上がり温度)(℃)を得た。さらに、反応ピーク温度の値から反応立ち上がり温度の値を減じることで、その差(℃)を算出した。これらの結果を表2に示す。
・・・
【0108】
【表1】
[図:0001425805000002.jpg]
【0109】
【表2】
[図:0001425805000003.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
(ア)上記アの【請求項1】には、「接着剤層は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、イミダゾール系硬化触媒と下記式(1)
【化1】
[図:0001425805000004.jpg]
の構造を有する化合物とから形成された複合化合物、フラックス成分および無機フィラーを含有する接着剤組成物から形成されたものである」と記載され、
同【請求項7】には、「前記フラックス成分は、カルボキシル基を含有することを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の回路部材接続用シート。」と記載されているから、接着剤層は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、イミダゾール系硬化触媒と下記式(1)
【化1】
[図:0001425805000005.jpg]
の構造を有する化合物とから形成された複合化合物、カルボキシル基を含有するフラックス成分および無機フィラーを含有する接着剤組成物であるといえる。
(イ)上記アの【請求項2】には、「前記接着剤層は、示差走査熱量分析法により測定される反応立ち上がり温度が、140℃以上、250℃以下である」と記載されている。
そして、上記「反応立ち上がり温度」について、同【0069】には、「上述した、反応立ち上がり温度、反応ピーク温度および反応開始温度は、示差走査熱量計を用いて測定することができる。例えば、厚さ15mmの接着剤層11を、示差走査熱量計(TAインスツルメント社製,製品名「Q2000」)を用いて、昇温速度10℃/分で50℃から300℃まで加熱し、これにより得られるDSC曲線から求めることができる」と記載されている。
そうすると、接着剤は、昇温速度10℃/分で50℃から300℃まで加熱する示差走査熱量分析法により測定される反応立ち上がり温度が、140℃以上、250℃以下であるといえる。
(ウ)以上から、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、イミダゾール系硬化触媒と下記式(1)
【化1】
[図:0001425805000006.jpg]
の構造を有する化合物とから形成された複合化合物、カルボキシル基を含有するフラックス成分および無機フィラーを含有する接着剤組成物から形成される接着剤であって、
10℃/分で50℃から300℃まで加熱する示差走査熱量分析法により測定される反応立ち上がり温度が、140℃以上、250℃以下である、接着剤。」
(2)甲3(特開2007-211244号公報)
甲3には、以下の記載がある。
「【請求項1】
Bステージ処理可能なアンダーフィル封止材であって、該封止材はBステージプロセスの間に第一の温度で固化して半導体ウエハ又はシリコンチップ上に滑らかで非粘着性の表面を生成し、該封止材の実質的に全体が第一の温度よりも高い第二の温度で硬化し、該封止材は、
(a)熱硬化性樹脂;
(b)イミダゾールホスフェート塩触媒;
(c)少なくとも1の溶剤;
(d)1以上のフラクシング剤;及び
(e)場合によって、界面活性剤、湿潤剤、消泡剤、カップリング剤、無機充填材、接着促進剤、流動添加剤、脱泡剤、及びそれらの混合物からなる群の1以上を含む、アンダーフィル封止材。」
「【0052】
Bステージ処理されたエポキシ-オリゴマー系アンダーフィルシステム(異なる触媒(0.25%エポキシ重量基準)を有する)のピーク硬化温度及び硬化エンタルピーをDSC硬化プロファイルから記録し(20℃/分の温度勾配)、表7に示す。DSC試料を室温に冷却した後、それらを再び温度上昇させて(この時点では10℃/分)硬化後Tgを記録した。DSC硬化サーモグラムを図1に示す。
【0053】
[図:0001425805000007.jpg]
」
「【図1】
[図:0001425805000008.jpg]
」
(3)甲4の2(麻戸敏男、外1名、「熱分析装置による測定値の変動要因」、日本環境衛生センター所報論文集、1978年、No.5、50~57ページ)
甲4の2には、以下の記載がある。
「
[図:0001425805000009.jpg]
」(53ページ)
(4)甲5(株式会社東ソー分析センターのウェブサイト、2022年11月1日、インターネット<URL:https://www.tosoh-arc.co.jp/technique/detail/t2032/>)
甲5には、以下の記載がある。
「
[図:0001425805000010.jpg]
」
(5)甲13の3(中川英昭、外1名、「初心者のための熱分析(1)DTA,DSCの原理と測定法」、熱測定、1980年、7巻、1号、11~17ページ)
甲13の3には、以下の記載がある。
「
[図:0001425805000011.jpg]
」(15ページ右欄5~13行)
なお、甲2は本件発明4等に対して提出された証拠であり、甲6、甲7は本件発明2等に対して提出された証拠であり、甲8、甲9は本件発明7等に対して提出された証拠であり、甲10~甲12は本件発明13に対して提出された証拠であるから摘記を省略する。
2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「熱可塑性樹脂」、「熱硬化性樹脂」は、本件発明1の「熱可塑性樹脂」、「熱硬化性樹脂」にそれぞれ相当する。
イ 本件発明1の「反応基を有する硬化剤」について、本件特許に係る願書に添付した明細書及び図面(以下、「本件明細書等」という。)の【0051】には、「反応基を有する硬化剤(以下、場合により「(c)成分」という。)」と記載され、【0072】には、「(c)成分としては、例えば、反応基としてアミノ基を有する化合物であるアミン系硬化剤、及び反応基としてイミダゾール基を有する化合物であるイミダゾール系硬化剤が挙げられる。」と記載されているから、本件発明1の「反応基を有する硬化剤」は、イミダゾール系硬化剤を含むものである。
一方、甲1発明の「イミダゾール系硬化触媒」は、イミダゾール系硬化剤といえる。
そうすると、甲1発明の「イミダゾール系硬化触媒」は、本件発明1の「反応基を有する硬化剤」に相当する。
ウ 本件発明1の「酸基を有するフラックス化合物」について、本件明細書等の【0051】には、「酸基を有するフラックス化合物(以下、場合により「(d)成分」という。)」と記載され、同【0083】には、「(d)成分は1以上の酸基を有する。酸基は、例えばカルボキシル基である。」と記載されているから、本件発明1の「酸基を有するフラックス化合物」は、カルボキシル基を有するフラックス化合物を含むものである。
一方、甲1発明の「カルボキシル基を含有するフラックス成分」は、カルボキシル基を有するフラックス化合物であるといえる。
そうすると、甲1発明の「カルボキシル基を含有するフラックス成分」は、本件発明1の「酸基を有するフラックス化合物」に相当する。
エ 甲1の【0020】(上記1(1)ア)には、「本発明の回路部材接続用シートは、熱硬化に関する保存安定性に優れるとともに、接着剤層を短時間で硬化させることができる。また、本発明の製造方法によれば、そのような回路部材接続用シートを使用して、高い生産性にて半導体装置を製造することができる。」と記載されているから、甲1発明の「接着剤」は、半導体用であるといえる。
したがって、甲1発明の「接着剤」は、本件発明1の「半導体用接着剤」に相当する。
オ 甲1発明の「接着剤」は、「10℃/分で50℃から300℃まで加熱する示差走査熱量分析法により測定される反応立ち上がり温度が、140℃以上、250℃以下である」ところ、「10℃/分で50℃から300℃まで加熱する示差走査熱量分析法」は、10℃/分の昇温速度で加熱する示差走査熱量測定であるといえるから、本件発明1と甲1発明とは、「前記半導体用接着剤を10℃/分の昇温速度で加熱する示差走査熱量測定」を行っている点で共通する。
しかし、甲1発明には、「接着剤」の「10℃/分で50℃から300℃まで加熱する示差走査熱量分析法」により得られるDSC曲線の60~155℃の発熱量は特定されていない。
カ 以上によれば、本件発明1と甲1発明との一致点、相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応基を有する硬化剤及び酸基を有するフラックス化合物を含む半導体用接着剤。」
<相違点>
相違点1:本件発明1は、「前記半導体用接着剤を10℃/分の昇温速度で加熱する示差走査熱量測定により得られるDSC曲線の60~155℃の発熱量が、20J/g以下である」のに対し、甲1発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
(2)相違点1についての判断
ア(ア)本件発明1の「半導体用接着剤を10℃/分の昇温速度で加熱する示差走査熱量測定により得られるDSC曲線の60~155℃の発熱量」について、本件明細書等には以下の記載がある。
「【0056】
図2及び図3は、DSC曲線から60~155℃の発熱量を求める方法を示す模式図である。図2のように、DSC曲線が、発熱ピークとして、155℃以下の部分を含む発熱ピークPだけを含む場合、発熱ピークPのうち、155℃以下の部分の発熱量Q1が、60~155℃の発熱量である。発熱量Q1は、発熱ピークPとベースラインL0の延長線L1とで囲まれる155℃以下の領域の面積から求められる。図3のように、DSC曲線が、155℃以下の領域に発熱ピークP以外のピークを更に含む場合、そのピークの発熱量Q2と、発熱ピークPの155℃以下における発熱量Q1との合計が、60~155℃の発熱量である。60~155℃以下の領域においてより多くの発熱ピークが観測される場合、それらの発熱ピークの発熱量も全て足し合わせた発熱量が、60~155℃の発熱量である。」
「【図2】
[図:0001425805000012.jpg]
【図3】
[図:0001425805000013.jpg]
」
(イ)上記(ア)の記載によれば、本件発明1の「半導体用接着剤を10℃/分の昇温速度で加熱する示差走査熱量測定により得られるDSC曲線の60~155℃の発熱量」は、
a DSC曲線が、発熱ピークとして、155℃以下の部分を含む発熱ピークPだけを含む場合、発熱量Q1は、発熱ピークPとベースラインL0の延長線L1とで囲まれる155℃以下の領域の面積から求められ、
b DSC曲線が、155℃以下の領域に発熱ピークP以外のピークを更に含む場合、そのピークの発熱量Q2と、発熱ピークPの155℃以下における発熱量Q1との合計が、60~155℃の発熱量であり、
c 60~155℃以下の領域においてより多くの発熱ピークが観測される場合、それらの発熱ピークの発熱量も全て足し合わせた発熱量が、60~155℃の発熱量である。
そうすると、本件発明1の「半導体用接着剤を10℃/分の昇温速度で加熱する示差走査熱量測定により得られるDSC曲線の60~155℃の発熱量」は、DSC曲線における、ベースラインL0の延長線L1と、155℃以下のピークとに囲まれた領域の面積であるといえる。
(ウ)しかし、甲1には、DSC曲線は記載されていないから、DSC曲線における、ベースラインL0の延長線L1と、155℃以下のピークとに囲まれた領域の面積は不明である。
そうすると、甲1発明において、「接着剤」を「10℃/分で50℃から300℃まで加熱する示差走査熱量分析法」により得られるDSC曲線の60~155℃の発熱量も不明である。
また、甲1発明において、「10℃/分で50℃から300℃まで加熱する示差走査熱量分析法により測定される反応立ち上がり温度が、140℃以上、250℃以下」であれば、「前記半導体用接着剤を10℃/分の昇温速度で加熱する示差走査熱量測定により得られるDSC曲線の60~155℃の発熱量が、20J/g以下」となることが技術常識であるとはいえない。
したがって、相違点1は、実質的な相違点である。
(エ)申立人の主張について
a 申立人は、特許異議申立書の45ページ下から4行~46ページ18行において、「甲1発明において、DSCにおける反応立ち上がり温度は、示差走査熱量分析法により取得されるDSC曲線における、接着剤層11の硬化反応に起因して生じるピークについて、当該ピークに接する接線の傾きが最大となるときの温度(℃)をいい([0066])、反応立ち上がり温度、反応ピーク温度および反応開始温度は、示差走査熱量計を用いて、例えば、厚さ15mmの接着剤層を、示差走査熱量計(TAインスツルメント社製,製品名「Q2000」)を用いて、昇温速度10℃/分で50℃から300℃まで加熱し、これにより得られるDSC曲線から求めることができる([0069])。
・・・
そうすると、たとえば、甲1発明の具体例である実施例1では、反応立ち上がり温度が161.8℃であったことから([0109]の表2)、それまでは、反応が立ち上がらなかったと考えられ、発熱量はほとんどないと考えられる。
その結果、甲1発明は、10℃/分の昇温速度で加熱する示差走査熱量測定により得られるDSC曲線の60~155℃の発熱量を測定しさえすれば、20J/g以下となり、構成要件1Bを具備している蓋然性が高い。」と主張している。
b しかし、甲1発明の「反応立ち上がり温度」について、甲1(上記1(1)ア)の【0066】には、「反応立ち上がり温度とは、示差走査熱量分析法により取得されるDSC曲線における、接着剤層11の硬化反応に起因して生じるピークについて、当該ピークに接する接線の傾きが最大となるときの温度(℃)をいうものとする。」と記載され、同【0109】の【表1】には、実施例1の反応立ち上がり温度が161.8℃であることが記載されている。
一方、本件明細書等の【0055】には、「図1は、DSC曲線から発熱ピークのオンセット温度を求める方法を示す模式図である。・・・発熱ピークPの下部におけるベースラインL0の延長線L1と、発熱ピークPにおいてDSC曲線が最大勾配を示す点におけるDSC曲線の接線L2との交点の温度Tが、オンセット温度である。」と記載されている。
以上から、本件明細書等に記載の「発熱ピークPにおいてDSC曲線が最大勾配を示す点」における温度が、甲1の「反応立ち上がり温度」に相当するといえ、「発熱ピークPにおいてDSC曲線が最大勾配を示す点」と、「反応立ち上がり温度」は、以下の図(本件図面の【図1】に合議体が追記)に示すとおりとなる。
[図:0001425805000014.jpg]
そして、甲1には、DSC曲線は記載されていないから、発熱ピークPの形状、及び、ベースラインL0の値は不明である。
そうすると、甲1において、反応立ち上がり温度が161.8℃であるからといって、それまでは、反応が立ち上がらなかったとはいえない。
また、甲1発明において、「10℃/分で50℃から300℃まで加熱する示差走査熱量分析法」により得られるDSC曲線の60~155℃の発熱量(発熱ピークPとベースラインL0の延長線L1とで囲まれる155℃以下の領域の面積)の値も不明であり、その値は必ず20J/g以下になっているとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
イ(ア)上記アで検討したとおり、相違点1は、実質的な相違点である。
そこで、更に検討するに、本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書等の【0012】の記載によれば、「半導体用接着剤を介して複数の半導体チップを被搭載部材上に仮固定し、一括して硬化と封止を行うプロセスにおいて、半導体用接着剤中に残存し得るボイドを低減する」ことであり、同【0053】の「本実施形態の半導体用接着剤は、DSC曲線の60~155℃の発熱量が20J/g以下であることから、上記半導体チップの仮固定を行う温度領域(例えば60~155℃)において硬化が進行し難い。そのため、上記プロセスにおいて本実施形態の半導体用接着剤を用いることで、半導体用接着剤の充分な流動性を維持しながら複数の半導体チップを仮固定することができ、一括硬化時のボイドの発生を低減することが可能となる。」との記載によれば、本件発明は、「前記半導体用接着剤を10℃/分の昇温速度で加熱する示差走査熱量測定により得られるDSC曲線の60~155℃の発熱量が、20J/g以下である」との構成によって、上記課題を解決し得るものといえる。
(イ)しかし、甲2~甲13の3のいずれにも、「半導体用接着剤を介して複数の半導体チップを被搭載部材上に仮固定し、一括して硬化と封止を行うプロセスにおいて、半導体用接着剤中に残存し得るボイドを低減する」との課題を解決するために、「前記半導体用接着剤を10℃/分の昇温速度で加熱する示差走査熱量測定により得られるDSC曲線の60~155℃の発熱量が、20J/g以下である」との構成とすることは、記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1発明において、甲2~甲13の3に記載された事項を参酌しても、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(ウ)申立人の主張について
a 申立人は、特許異議申立書の46ページ19行~49ページ14行において、もし仮に、甲1の開示からは、甲1発明が構成要件1Bを具備しているかどうかが定かではないと考えられる場合であっても、甲1発明において構成要件1Bを具備させることは、以下のとおり、甲3~甲5に関する技術常識を参照すれば、容易に想到し得る程度にすぎない、すなわち、甲3には、図1として、Bステージ処理されたエポキシ-オリゴマー系アンダーフィルシステム(異なる触媒(0.25%エポキシ重量基準)を有する)のピーク硬化温度及び硬化エンタルピーをDSC硬化プロファイルから記録し(20℃/分の温度勾配)、DSC試料を室温に冷却した後、それらを再び温度上昇させて(この時点では10℃/分)硬化後Tgを記録した際のDSC硬化サーモグラムが開示されており([0052])、甲3発明におけるDSC測定の際の昇温速度は20℃/分であり、本件特許発明1の条件(10℃/分)とは異なるものの、昇温速度が速くなると、ピーク温度が高温側にシフトすることは当業者の技術常識であるから(甲3~甲5)、甲3の図1を再び参照すると、
A 総発熱量:0J/g
B 総発熱量:22.43J/g(20J/g到達にはピーク面積の89.2%が60-155℃の範囲に入る必要がある)
D 総発熱量:18.37J/g(20J/g到達にはピーク面積の100%が60-155℃の範囲に入る必要がある)
であり、10℃/minで測定された場合を想定して15℃低温側にピークシフトさせた場合を検討すると、その場合も発熱量がほぼゼロであることは変わりなく、20J/g以下となり得るから、半導体ウエハ等に使用される封止材等の技術分野において、半導体用接着剤のDSC曲線の60~155℃における発熱量を20J/g以下とすることは、技術常識を考慮すれば何ら困難ではなく、その結果、当業者は、甲1発明において、技術常識を参酌することにより、構成要件1Bを具備させることについて、何ら困難ではない旨主張している。
b しかし、上記(イ)で検討したとおり、甲3~甲5には、「半導体用接着剤を介して複数の半導体チップを被搭載部材上に仮固定し、一括して硬化と封止を行うプロセスにおいて、半導体用接着剤中に残存し得るボイドを低減する」との課題を解決するために、「前記半導体用接着剤を10℃/分の昇温速度で加熱する示差走査熱量測定により得られるDSC曲線の60~155℃の発熱量が、20J/g以下である」との構成とすることは、記載も示唆もされていない。
そうすると、申立人が主張するとおり、昇温速度が速くなると、ピーク温度が高温側にシフトすることが当業者の技術常識であったとしても、甲1発明において、「前記半導体用接着剤を10℃/分の昇温速度で加熱する示差走査熱量測定により得られるDSC曲線の60~155℃の発熱量が、20J/g以下である」との構成とする動機付けがあるとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 小括
以上から、本件発明1は、甲1発明及び甲2~甲13の3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 本件発明2~28について
本件発明2~28は、本件発明1の全ての構成を有するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明及び甲2~甲13の3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
4 まとめ
以上のとおりであるから、申立理由1(進歩性)には理由がない。
第5 申立理由2(実施可能要件)
1(1)申立人は、特許異議申立書の76ページ10行~77ページ下から5行において、本件明細書等によれば、本件発明1の構成要件1Aを具備するだけでは、構成要件1Bを具備するとはいえず、比較例1~2のように、構成要件1Aを満たすだけでは構成要件1Bを満たさない半導体用接着剤も得られ得るから、いかに当業者であっても、構成要件1Bを具備する半導体用接着剤を得るための具体的な構成について理解することができず、本件発明1を実施するためには、過度の試行錯誤を要するものであり、本件発明2~28についても同様である旨主張している。
(2)しかし、本件明細書等の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」という。)の【0051】には、「本実施形態の半導体用接着剤は、熱可塑性樹脂(以下、場合により「(a)成分」という。)、熱硬化性樹脂(以下、場合により「(b)成分」という。)、反応基を有する硬化剤(以下、場合により「(c)成分」という。)及び酸基を有するフラックス化合物(以下、場合により「(d)成分」という。)を含有する。」と記載され、同【0052】には、「本実施形態の半導体用接着剤の示差走査熱量測定(DSC:Differential scanning calorimetry)により得られるDSC曲線の60~155℃の発熱量は、20J/g以下である。」と記載され、同【0057】には、「上記DSC曲線を示す本実施形態の半導体用接着剤は、例えば、硬化剤全量中の反応基(フラックス化合物の酸基と反応する基)のモル数に対する、フラックス化合物全量中の酸基のモル数の比が0.01~4.8となるように、硬化剤及びフラックス化合物を配合することで得ることができる。」と記載されている。
そうすると、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応基を有する硬化剤及び酸基を有するフラックス化合物を含む半導体用接着剤において、例えば、硬化剤全量中の反応基(フラックス化合物の酸基と反応する基)のモル数に対する、フラックス化合物全量中の酸基のモル数の比が0.01~4.8の範囲で、硬化剤及びフラックス化合物の配合を調整すれば、上記DSC曲線の60~155℃の発熱量を20J/g以下に調整できるといえる。
そして、発明の詳細な説明の実施例(【0160】~【0182】)には、構成要件1Aを具備するとともに、構成要件1Bを具備する半導体用接着剤を製造するための具体的な成分や配合量が記載されている。
以上によれば、発明の詳細な説明には、本件発明1の半導体用接着剤を製造し、使用することができる程度に記載されているといえる。
また、発明の詳細な説明には、本件発明1の全ての構成を有する本件発明2~13の半導体用接着剤、及び、本件発明1の全ての構成を有する本件発明28の半導体装置について、その半導体用接着剤及び半導体装置を製造し、使用することができる程度に記載されているといえる。
さらに、発明の詳細な説明には、本件発明1の全ての構成を有する本件発明14~24の半導体用接着剤の製造方法、及び、本件発明1の全ての構成を有する本件発明25~27の半導体装置の製造方法について、その方法を使用することができる程度に記載されているといえる。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
2(1)申立人は、特許異議申立書の77ページ下から3行~79ページ2行において、本件明細書等によれば、構成要件1Aを具備するだけでは、構成要件12Aを具備するとはいえず、比較例2のように、構成要件1Aを満たすだけでは構成要件12Aを満たさない半導体用接着剤も得られ得るから、いかに当業者であっても、構成要件12Aを具備する半導体用接着剤を得るための具体的な構成について理解することができず、本件発明12を実施するためには、過度の試行錯誤を要するものであり、本件発明13~28についても同様である旨主張している。
(2)しかし、発明の詳細な説明の実施例(【0160】~【0182】)には、構成要件1A及び1Bを具備するとともに、構成要件12Aを具備する半導体用接着剤を製造するための具体的な成分や配合量が記載されている。
そうすると、発明の詳細な説明には、本件発明12の半導体用接着剤を製造し、使用することができる程度に記載されているといえる。
また、本件発明12の全ての構成を有する本件発明13の半導体用接着剤、及び、本件発明12の全ての構成を有する本件発明28の半導体装置についても同様に、発明の詳細な説明には、その半導体用接着剤及び半導体装置を製造し、使用することができる程度に記載されているといえる。
さらに、本件発明12の全ての構成を有する本件発明14~24の半導体用接着剤の製造方法、及び、本件発明12の全ての構成を有する本件発明25~27の半導体装置の製造方法について、発明の詳細な説明には、その方法を使用することができる程度に記載されているといえる。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
3 まとめ
以上のとおりであるから、申立理由2(実施可能要件)には理由がない。
第6 申立理由3(サポート要件)について
1 申立人は、特許異議申立書の79ページ4行~80ページ最下行において、本件発明1について、硬化剤の種類が異なれば、熱硬化性樹脂の反応基との反応性が異なり、その結果、得られる硬化物の特性(接続信頼性・絶縁信頼性等)が大きく変化することは自明であり、また、本件特許の出願時の技術常識を参酌しても、イミダゾール系硬化剤のわずかな例が開示されていることを以って、その他のあらゆる硬化剤を用いた場合であっても同様の作用効果が得られるといった技術常識は存在しないから、いかに当業者であっても、イミダゾール系硬化剤のみの実施例が開示されていたり、イミダゾール系硬化剤を用いた場合の作用効果に関するわずかな開示が発明の詳細な説明中にあるだけでは、その他の硬化剤を用いた場合においても、本件発明1が課題を解決し得るかどうかについて、把握することはできないため、その結果、本件発明1は、サポート要件を充足しないものであり、本件発明2~28も同様である旨主張している。
2 しかし、発明の詳細な説明の【0012】の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は、「半導体用接着剤を介して複数の半導体チップを被搭載部材上に仮固定し、一括して硬化と封止を行うプロセスにおいて、半導体用接着剤中に残存し得るボイドを低減する」ことであるところ、同【0051】には、「本実施形態の半導体用接着剤は、熱可塑性樹脂(以下、場合により「(a)成分」という。)、熱硬化性樹脂(以下、場合により「(b)成分」という。)、反応基を有する硬化剤(以下、場合により「(c)成分」という。)及び酸基を有するフラックス化合物(以下、場合により「(d)成分」という。)を含有する。」と記載され、同【0052】には、「本実施形態の半導体用接着剤の示差走査熱量測定(DSC:Differential scanning calorimetry)により得られるDSC曲線の60~155℃の発熱量は、20J/g以下である。ここで、示差走査熱量測定は、サンプルとなる半導体用接着剤の重量を10mgとし、測定温度範囲を30~300℃とし、昇温速度を10℃/minとして、空気又は窒素雰囲気で半導体用接着剤を加熱することにより行う。発熱量は、ピーク面積の積分により算出される。」と記載され、同【0053】には、「従来の半導体用接着剤は、DSC曲線の60~155℃の温度領域に発熱ピークを有している。この温度領域における発熱は、半導体用接着剤中の熱硬化性樹脂とフラックス化合物の反応に由来する発熱であると推察され、この反応が進行すると、半導体用接着剤が部分的に硬化し、流動性が低下すると推察される。一方、通常、半導体用接着剤による半導体チップの仮固定は、半導体用接着剤を例えば60~155℃に加熱して適度に流動させることにより行われる。したがって、半導体用接着剤を介して複数の半導体チップを被搭載部材(半導体チップ、半導体ウェハ、配線回路基板等)の上に搭載し仮固定した後、加圧条件下で一括して硬化と封止を行うプロセスにおいて従来の半導体用接着剤を用いると、半導体チップを仮固定する際に、半導体用接着剤中の熱硬化性樹脂とフラックス化合物とが反応することで、半導体用接着剤の硬化が部分的に進行し、加圧条件下での一括硬化時に充分に流動しなくなると推察される。本実施形態の半導体用接着剤は、DSC曲線の60~155℃の発熱量が20J/g以下であることから、上記半導体チップの仮固定を行う温度領域(例えば60~155℃)において硬化が進行し難い。そのため、上記プロセスにおいて本実施形態の半導体用接着剤を用いることで、半導体用接着剤の充分な流動性を維持しながら複数の半導体チップを仮固定することができ、一括硬化時のボイドの発生を低減することが可能となる。」と記載されている。
以上の記載によれば、半導体用接着剤を介して複数の半導体チップを被搭載部材(半導体チップ、半導体ウェハ、配線回路基板等)の上に搭載し仮固定した後、加圧条件下で一括して硬化と封止を行うプロセスにおいて、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応基を有する硬化剤及び酸基を有するフラックス化合物を含む半導体用接着剤であって、半導体用接着剤を10℃/分の昇温速度で加熱する示差走査熱量測定により得られるDSC曲線の60~155℃の発熱量が20J/g以下である半導体用接着剤(以下、「本件半導体用接着剤」という。)を用いることで、半導体用接着剤の充分な流動性を維持しながら複数の半導体チップを仮固定することができ、一括硬化時のボイドの発生を低減することが可能となるといえる。
そうすると、本件半導体用接着剤は、上記課題を解決し得るものであるといえ、このことは、発明の詳細な説明の実施例(【0160】~【0182】)において裏付けられている。
そして、本件発明1の半導体用接着剤は、本件半導体用接着剤と同じ構成を有するものである。
したがって、本件発明1は、上記課題を解決し得るものといえる。
また、本件発明2~28は、本件発明1の全ての構成を有するものであるから、本件発明1と同様に、上記課題を解決し得るものといえる。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
3 まとめ
以上のとおりであるから、申立理由3(サポート要件)には理由がない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2025-700395