特許異議申立
2024-700676
複合フィルムおよびそれを含むディスプレイ装置
- 審判番号
- 2024-700676
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-201639
- 登録番号
- 7419488
- 請求日
- 2024年07月18日
- 審決日
- 2025年06月06日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】エスケーマイクロワークス ソリューションズ 株式会社
- 【権利者代理人】SK弁理士法人
- 【権利者代理人】奥野 彰彦
- 【権利者代理人】伊藤 寛之
- 【異議申立人】渡辺 陽子
- 審判長/審判官
- 審判長 古屋野 浩志
- 審判官 関根 洋之
- 審判官 高松 大
- 分類
- P1651.113-YAA(G02B) / P1651.121-YAA(G02B) / P1651.536-YAA(G02B) / P1651.537-YAA(G02B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条、特許法第120条の5第2項、特許法第36条、特許法第29条、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7419488号発明「複合フィルムおよびそれを含むディスプレイ装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7419488号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕、〔10〕について訂正することを認める。
特許第7419488号の請求項1ないし4、6ないし10に係る特許を維持する。
特許第7419488号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第7419488号(以下「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、令和4年12月16日(パリ条約による優先権主張 2022年(令和4年)2月25日、韓国)の出願であって、令和6年1月12日にその特許権の設定登録がされ、令和6年1月22日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和6年7月18日に特許異議申立人 渡辺 陽子(以下「特許異議申立人」という。)から請求項1~10(全請求項)に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和6年10月 4日付け:取消理由通知書
同年12月26日 :意見書(特許権者)の提出
同日 :訂正請求書(この訂正請求書による訂正の
請求を、以下「本件訂正請求」という。)の
提出
令和7年 2月 7日 :手続補正書(方式)の提出
令和7年 3月17日 :意見書(特許異議申立人)の提出
第2 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第7419488号の特許請求の範囲を、本件補正後の訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求める、というものである。
2 一群の請求項1~9についての訂正
(1)訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める請求項1~9についての訂正は、以下のとおりである。なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「基材フィルムと、
前記基材フィルムの一面上に配置されるハードコート層と、
前記基材フィルムの他面上に配置される弾性層とを含み、
前記弾性層の貯蔵モジュラスは、常温(25℃)にて7×106Pa~1×109Paであり、
下記式(1)による△E’値が300以下である、複合フィルム:
△E’=E’[-30℃]/E’[50℃]...(1)
ここで、
E’[-30℃]は、前記弾性層の-30℃における貯蔵モジュラス(Pa)であり、
E’[50℃]は、前記弾性層の50℃における貯蔵モジュラス(Pa)である。」
と記載されているのを、
「基材フィルムと、
前記基材フィルムの一面上に配置されるハードコート層と、
前記基材フィルムの他面上に配置される弾性層とを含む複合フィルムであって、
前記弾性層の貯蔵モジュラスは、常温(25℃)にて7×106Pa~1×109Paであり、
下記式(1)による△E’値が2以上300以下であり、
△E’=E’[-30℃]/E’[50℃]...(1)
ここで、
E’[-30℃]は、前記弾性層の-30℃における貯蔵モジュラス(Pa)であり、
E’[50℃]は、前記弾性層の50℃における貯蔵モジュラス(Pa)であり、
前記複合フィルムは、
下記式により算出されるHV増加(N/mm2)が2.0N/mm2以上であり、
下記式により算出されるRecovery増加(%)が1.5%以上であり、
HV増加(N/mm2)=HV1(N/mm2)-HV2(N/mm2)
Recovery増加(%)=Recovery1(%)-Recovery2(%)
ここで、
HV1は、前記複合フィルムのビッカース硬度(HV)(N/mm2)であり、HV2は、前記複合フィルムから前記弾性層のみを除いた層構造を有するフィルムのビッカース硬度(HV)(N/mm2)であり、
Recovery1は、前記複合フィルムの復元率(%)であり、Recovery2は、前記複合フィルムから前記弾性層のみを除いた層構造を有するフィルムの復元率(%)である、
複合フィルム。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3、4及び6~9についても、同様に訂正する。)。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「前記弾性層の貯蔵モジュラスは、
-30℃にて1×109Pa~3×109Paであり、
50℃にて1×107Pa~1×108Paである、請求項1に記載の複合フィルム。」
と記載されているのを、
「基材フィルムと、
前記基材フィルムの一面上に配置されるハードコート層と、
前記基材フィルムの他面上に配置される弾性層とを含み、
前記弾性層の貯蔵モジュラスは、
常温(25℃)にて7×106Pa~1×109Paであり、
-30℃にて1×109Pa~3×109Paであり、
50℃にて1×107Pa~1×108Paであり、
下記式(1)による△E’値が300以下である、複合フィルム:
△E’=E’[-30℃]/E’[50℃]...(1)
ここで、
E’[-30℃]は、前記弾性層の-30℃における貯蔵モジュラス(Pa)であり、
E’[50℃]は、前記弾性層の50℃における貯蔵モジュラス(Pa)である。」
に訂正する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(2)訂正の適否
ア 訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は、請求項1において、「△E’値」の範囲を限定し、また、「HV増加(N/mm2)」及び「Recovery増加(%)」の定義と範囲を特定する訂正である。そして、この点は、請求項1の記載を引用して記載された請求項3、4及び6~9についてみても、同じである。
そうすると、訂正事項1に係る訂正は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項1に係る訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかである。
そうすると、訂正事項1に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。
さらに、訂正事項1に係る訂正は、本件特許の明細書の【0031】、【0052】、【0053】、【0065】、【0066】及び特許請求の範囲の【請求項5】の記載から導き出すことができる事項であり、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
そうすると、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
イ 訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項2(請求項1を引用)を独立形式請求項に改めるものであり、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項3に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。
ウ 訂正事項3について
訂正事項3に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項5を削除する訂正であり、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項3に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による請求項1~9についての訂正(訂正事項1~3に係る訂正)は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~9について訂正することを認める。
3 請求項10についての訂正
(1)訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める請求項10ついての訂正は、以下のとおりである。
訂正事項4
特許請求の範囲の請求項10に、
「ディスプレイパネルと、
前記ディスプレイパネルの前面上に配置されたカバーウィンドウとを含み、
前記カバーウィンドウは、
基材フィルムと、
前記基材フィルムの一面上に配置されるハードコート層と、
前記基材フィルムの他面上に配置される弾性層とを含み、
前記弾性層の貯蔵モジュラスは、常温(25℃)にて7×106Pa~1×109Paであり、
下記式(1)による△E’値が300以下である、ディスプレイ装置:
△E’=E’[-30℃]/E’[50℃]...(1)
ここで、
E’[-30℃]は、前記弾性層の-30℃における貯蔵モジュラス(Pa)であり、
E’[50℃]は、前記弾性層の50℃における貯蔵モジュラス(Pa)である。」
と記載されているのを、
「ディスプレイパネルと、
前記ディスプレイパネルの前面上に配置されたカバーウィンドウとを含み、
前記カバーウィンドウは、
基材フィルムと、
前記基材フィルムの一面上に配置されるハードコート層と、
前記基材フィルムの他面上に配置される弾性層とを含み、
前記弾性層の貯蔵モジュラスは、常温(25℃)にて7×106Pa~1×109Paであり、
下記式(1)による△E’値が2以上300以下であり、
△E’=E’[-30℃]/E’[50℃]...(1)
ここで、
E’[-30℃]は、前記弾性層の-30℃における貯蔵モジュラス(Pa)であり、
E’[50℃]は、前記弾性層の50℃における貯蔵モジュラス(Pa)であり、
前記カバーウィンドウは、
下記式により算出されるHV増加(N/mm2)が2.0N/mm2以上であり、
下記式により算出されるRecovery増加(%)が1.5%以上であり、
HV増加(N/mm2)=HV1(N/mm2)-HV2(N/mm2)
Recovery増加(%)=Recovery1(%)-Recovery2(%)
ここで、
HV1は、前記カバーウィンドウのビッカース硬度(HV)(N/mm2)であり、HV2は、前記カバーウィンドウから前記弾性層のみを除いた層構造を有するフィルムのビッカース硬度(HV)(N/mm2)であり、
Recovery1は、前記カバーウィンドウの復元率(%)であり、Recovery2は、前記カバーウィンドウから前記弾性層のみを除いた層構造を有するフィルムの復元率(%)である、
ディスプレイ装置。」
に訂正する。
(2)訂正の適否
訂正事項4に係る訂正は、請求項10において、「△E’値」の範囲を限定し、また、「HV増加(N/mm2)」及び「Recovery増加(%)」の定義と範囲を特定する訂正である。
そうすると、訂正事項4に係る訂正は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項4に係る訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかである。
そうすると、訂正事項4に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。
さらに、訂正事項4に係る訂正は、本件特許の明細書の【0031】、【0052】、【0053】、【0065】及び【0066】の記載から導き出すことができる事項であり、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
そうすると、訂正事項4に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による請求項10についての訂正(訂正事項4に係る訂正)は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項10について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められることとなったから、本件特許の請求項1~4及び6~10に係る発明(以下、請求項の番号とともに「本件特許発明1」などといい、また、まとめて「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1~4及び6~10に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「【請求項1】
基材フィルムと、
前記基材フィルムの一面上に配置されるハードコート層と、
前記基材フィルムの他面上に配置される弾性層とを含む複合フィルムであって、
前記弾性層の貯蔵モジュラスは、常温(25℃)にて7×106Pa~1×109Paであり、
下記式(1)による△E’値が2以上300以下であり、
△E’=E’[-30℃]/E’[50℃]...(1)
ここで、
E’[-30℃]は、前記弾性層の-30℃における貯蔵モジュラス(Pa)であり、
E’[50℃]は、前記弾性層の50℃における貯蔵モジュラス(Pa)であり、
前記複合フィルムは、
下記式により算出されるHV増加(N/mm2)が2.0N/mm2以上であり、
下記式により算出されるRecovery増加(%)が1.5%以上であり、
HV増加(N/mm2)=HV1(N/mm2)-HV2(N/mm2)
Recovery増加(%)=Recovery1(%)-Recovery2(%)
ここで、
HV1は、前記複合フィルムのビッカース硬度(HV)(N/mm2)であり、HV2は、前記複合フィルムから前記弾性層のみを除いた層構造を有するフィルムのビッカース硬度(HV)(N/mm2)であり、
Recovery1は、前記複合フィルムの復元率(%)であり、Recovery2は、前記複合フィルムから前記弾性層のみを除いた層構造を有するフィルムの復元率(%)である、
複合フィルム。
【請求項2】
基材フィルムと、
前記基材フィルムの一面上に配置されるハードコート層と、
前記基材フィルムの他面上に配置される弾性層とを含み、
前記弾性層の貯蔵モジュラスは、
常温(25℃)にて7×106Pa~1×109Paであり、
-30℃にて1×109Pa~3×109Paであり、
50℃にて1×107Pa~1×108Paであり、
下記式(1)による△E’値が300以下である、複合フィルム:
△E’=E’[-30℃]/E’[50℃]...(1)
ここで、
E’[-30℃]は、前記弾性層の-30℃における貯蔵モジュラス(Pa)であり、
E’[50℃]は、前記弾性層の50℃における貯蔵モジュラス(Pa)である。
【請求項3】
前記基材フィルムの貯蔵モジュラスに対する前記弾性層の貯蔵モジュラスの比(弾性層/基材フィルム)は25℃にて0.5以下である、請求項1に記載の複合フィルム。
【請求項4】
前記複合フィルムについて、ISO 14577-1:2002(E)規格に基づいてナノインデンテーション試験により測定される前記ハードコート層表面のビッカース硬度(HV)が30N/mm2以上であり、下記式で算出される復元率(Recovery)が69%以上である、請求項1に記載の複合フィルム:
Recovery(%)=[(hmax-hp)/hmax]×100
ここで、hmaxは、30mNの力で前記ハードコート層の表面を15秒間下方に押して5秒間維持(creep)させる間の最大インデンテーション深さ(μm)であり、hpは、前記力が除去された後も復元されずに残っているインデンテーションの深さ(μm)である。」
「【請求項6】
前記弾性層は、2~8の官能基を有するUV硬化型ウレタンアクリレート系オリゴマーを含む、請求項1に記載の複合フィルム。
【請求項7】
前記ハードコート層は、ウレタンアクリレート系化合物、アクリルエステル系化合物およびエポキシアクリレート系化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の複合フィルム。
【請求項8】
前記基材フィルムの厚さは40μm~200μmであり、
前記ハードコート層の厚さは2μm~20μmであり、
前記弾性層の厚さは10μm~100μmである、請求項1に記載の複合フィルム。
【請求項9】
前記基材フィルムは、高分子フィルムまたは超薄型ガラス(UTG)からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の複合フィルム。
【請求項10】
ディスプレイパネルと、
前記ディスプレイパネルの前面上に配置されたカバーウィンドウとを含み、
前記カバーウィンドウは、
基材フィルムと、
前記基材フィルムの一面上に配置されるハードコート層と、
前記基材フィルムの他面上に配置される弾性層とを含み、
前記弾性層の貯蔵モジュラスは、常温(25℃)にて7×106Pa~1×109Paであり、
下記式(1)による△E’値が2以上300以下であり、
△E’=E’[-30℃]/E’[50℃]...(1)
ここで、
E’[-30℃]は、前記弾性層の-30℃における貯蔵モジュラス(Pa)であり、
E’[50℃]は、前記弾性層の50℃における貯蔵モジュラス(Pa)であり、
前記カバーウィンドウは、
下記式により算出されるHV増加(N/mm2)が2.0N/mm2以上であり、
下記式により算出されるRecovery増加(%)が1.5%以上であり、
HV増加(N/mm2)=HV1(N/mm2)-HV2(N/mm2)
Recovery増加(%)=Recovery1(%)-Recovery2(%)
ここで、
HV1は、前記カバーウィンドウのビッカース硬度(HV)(N/mm2)であり、HV2は、前記カバーウィンドウから前記弾性層のみを除いた層構造を有するフィルムのビッカース硬度(HV)(N/mm2)であり、
Recovery1は、前記カバーウィンドウの復元率(%)であり、Recovery2は、前記カバーウィンドウから前記弾性層のみを除いた層構造を有するフィルムの復元率(%)である、
ディスプレイ装置。」
第4 取消しの理由の概要
令和6年10月4日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消しの理由は、概略、次のとおりのものである。
理由1(サポート要件違反):本件特許の請求項1及び3~10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、請求項1及び3~10に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、請求項1及び3~10に係る特許は、同法113条4号に該当し、取り消すべきものである。
理由2(新規性欠如):本件特許の請求項1、3及び6~10に係る発明は、その優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記甲第1号証に記載された発明であり、特許法29条1項3号に掲げる発明に該当するから、請求項1、3及び6~10に係る特許は、同条の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項1、3及び6~10に係る特許は、同法113条2号に該当し、取り消すべきものである。
理由3(進歩性欠如):本件特許の請求項1、3及び6~10に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1、3及び6~10に係る特許は、同条の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項1、3及び6~10に係る特許は、同法113条2号に該当し、取り消すべきものである。
引用文献
甲第1号証:国際公開第2021/060559号(以下「甲1」という。)
甲第2号証:後藤昌生,外3名,“反応射出成形ポリウレタンの化学構造と高域周波数粘弾性特性”,高分子論文集,公益社団法人高分子学会,1988年1月25日,第45巻,第1号,p.37-46(以下「甲2」という。)
甲第3号証:高原淳,“動的粘弾性-固体試料から固体表面まで-”,繊維学会誌,2009年,第65巻,第12号,p.472-476(以下「甲3」という。)
甲第4号証:一般財団法人化学物質評価研究機構,“温度依存性測定”,[online],[2024年7月10日検索],インターネット
<URL:https://www.cerij.or.jp/service/05_polymer/rheology_temp-dependence.html>
(以下「甲4」という。)
甲第6号証:三菱ケミカル株式会社,“製品情報 軟質・弾性タイプ 紫光TM”,[online],[2024年7月10日検索],インターネット
<URL:https://www.m-chemical.co.jp/products/departments/mcc/coating-mat/tech/1205787_9232.html>
(以下「甲6」という。)
甲第7号証:今井淑夫,“ポリイミドの構造と物性”,エレクトロニクス実装学会誌,2001年11月1日,第4巻,第7号,p.640-646(以下「甲7」という。)
(当合議体注:甲1は主引用文献であり、甲2~甲4、甲6及び甲7は周知技術ないし技術常識を示すものである。)
第5 取消理由通知書で通知した取消しの理由についての当合議体の判断
1 理由1(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2)サポート要件についての判断
ア 解決しようとする課題
本件特許明細書【0009】等の記載から、本件特許発明が解決しようとする課題は、「表面硬度および弾性回復力が高いとともにフレキシブルな特性を有する複合フィルムおよびそれを含むディスプレイ装置を提供」することであると認められる。ここで、「弾性回復力」は、同【0008】、【0013】、【0028】等の記載からみて、「弾性回復特性」のことであると認められるところ、「弾性回復特性」には、「弾性回復率」(同【0061】)のみならず、「復元率(Recovery)」、「Recovery増加」(同【0064】~【0069】)も含まれると解される。
イ 請求項1
本件特許発明1は「下記式により算出されるHV増加(N/mm2)が2.0N/mm2以上であり、下記式により算出されるRecovery増加(%)が1.5%以上であり、HV増加(N/mm2)=HV1(N/mm2)-HV2(N/mm2) Recovery増加(%)=Recovery1(%)-Recovery2(%) ここで、HV1は、前記複合フィルムのビッカース硬度(HV)(N/mm2)であり、HV2は、前記複合フィルムから前記弾性層のみを除いた層構造を有するフィルムのビッカース硬度(HV)(N/mm2)であり、Recovery1は、前記複合フィルムの復元率(%)であり、Recovery2は、前記複合フィルムから前記弾性層のみを除いた層構造を有するフィルムの復元率(%)である」という構成を備えている。
そうすると、本件特許発明1は、当業者が上記アの課題を解決できると認識できる範囲のものというべきであり、発明の詳細な説明に記載された発明である。
ウ 請求項3、4及び6~9
請求項3、4及び6~9は、いずれも請求項1を引用するものであって、本件特許発明3、4及び6~9は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。
そうすると、上記イと同様の理由により、本件特許発明3、4及び6~9は、発明の詳細な説明に記載された発明である。
エ 請求項10
本件特許発明10は「前記カバーウィンドウは、下記式により算出されるHV増加(N/mm2)が2.0N/mm2以上であり、下記式により算出されるRecovery増加(%)が1.5%以上であり、HV増加(N/mm2)=HV1(N/mm2)-HV2(N/mm2) Recovery増加(%)=Recovery1(%)-Recovery2(%) ここで、HV1は、前記複合フィルムのビッカース硬度(HV)(N/mm2)であり、HV2は、前記複合フィルムから前記弾性層のみを除いた層構造を有するフィルムのビッカース硬度(HV)(N/mm2)であり、Recovery1は、前記複合フィルムの復元率(%)であり、Recovery2は、前記複合フィルムから前記弾性層のみを除いた層構造を有するフィルムの復元率(%)である」という構成を備えている。
そうすると、本件特許発明10は、当業者が上記アの課題を解決できると認識できる範囲のものというべきであり、発明の詳細な説明に記載された発明である。
オ 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、令和7年3月17日付け意見書10頁において、「訂正後の請求項1、3~10に係る特許は、依然としてサポート要件を充足しない」と主張する。
しかしながら、上記イ~エのとおりであって、請求項1に、「△E’値が2以上300以下」という発明特定事項が記載されていても、また、「ガラス転移温度」についての発明特定事項が記載されていなくても、本件特許発明1、3~10は、発明の詳細な説明に記載された発明である。
したがって、上記主張は採用できない。
(3)小括
以上のとおりであるから、請求項1、3、4及び6~10に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものではないから、特許法113条4号に該当せず、取り消すべきものでない。
2 理由2(新規性欠如)及び理由3(進歩性欠如)について
1 本件特許発明1について
上記「第2」の本件訂正により、本件特許発明1は、訂正前の請求項5に係る発明の全ての構成を備えることになったところ、訂正前の請求項5に係る発明について、新規性欠如の取消しの理由及び進歩性欠如の取消しの理由は通知されていない。また、特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項5に係る発明について、新規性欠如の取消しの理由及び進歩性欠如の取消しの理由を主張していない。さらに、本件特許発明1について、他の新規性欠如の取消しの理由及び進歩性欠如の取消しの理由を発見しない。
したがって、請求項1に係る特許は、特許法113条2号に該当せず、取り消すべきものでない。
2 本件特許発明3及び6~9について
上記「第2」の本件訂正後の請求項3及び6~9は、いずれも請求項1を引用するものであって、本件特許発明3及び6~9は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。
そうすると、上記1と同様の理由により、請求項3及び6~9に係る特許は、特許法113条2号に該当せず、取り消すべきものでない。
3 本件特許発明10について
上記「第2」の本件訂正により、本件特許発明10は、訂正前の請求項5に係る発明の全ての構成を備えることになったところ、訂正前の請求項5に係る発明について、新規性欠如の取消しの理由及び進歩性欠如の取消しの理由は通知されていない。また、特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項5に係る発明についての新規性欠如の取消しの理由及び進歩性欠如の取消しの理由を主張していない。さらに、本件特許発明10について、他の新規性欠如の取消しの理由及び進歩性欠如の取消しの理由を発見しない。
したがって、請求項10に係る特許は、特許法113条2号に該当せず、取り消すべきものでない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 明確性要件違反について
特許異議申立人は、特許異議申立書42頁において、「本件特許発明1~10における「貯蔵モジュラス」は一義的に定まらず、本件特許発明1~10は不明確である。」と主張する。
しかしながら、本件特許の明細書(特に【0198】)の記載を参酌すると、当業者は、当該「貯蔵モジュラス」の値は「周波数1Hz、引張モード」の条件で測定したものであると理解することができるから、本件特許発明1~10が不明確であるとはいえない。
したがって、上記主張は採用できない
2 サポート要件違反について
上記第5の1(2)オのとおりであって、サポート要件違反についての主張は採用できない。
3 実施可能要件違反について
特許異議申立人は、特許異議申立書48頁において、「本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明における弾性層について、△E’の値を所定の範囲とするための材料の選択や硬化条件に関する具体的指針は、まったく記載されておらず、当業者が本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に従って本件特許発明の複合フィルムないしディスプレイ装置を製造しようとしても、所定の△E’の値を有する弾性層とするには、不相当に多くの試行錯誤をしなければならないことは明らかである。弾性層の材料が、ウレタンアクリレート系化合物以外のものを用いる場合は、実施例の裏付けすらないのであるから、試行錯誤が著しく過度なものであることはなおさらである。」、「本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1~10を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。」と主張する。
しかしながら、甲1の[0189]~[0195]及び[0220]~[0232]に記載のとおり、弾性層を備えるフィルムの貯蔵モジュラス(値)を調整することは、フィルムの分野において周知の技術事項であるから、当該フィルムの分野の当業者は、貯蔵モジュラス値を所定の範囲とするための材料の選択や硬化条件に関する知識を有しているといえるところ、そのような当業者であれば、本件特許の明細書の弾性層の材料及び弾性層を作成する際の硬化条件に関する記載(【0073】~【0093】、【0195】~【0201】等)に基づいて、過度の試行錯誤をしなくても、所定の△E’の値を有する弾性層を作成することができるというべきである。
したがって、上記主張は採用できない。
第7 むすび
請求項1~4及び6~10に係る特許は、いずれも、取消理由通知書によって通知した取消しの理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に請求項1~4及び6~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項5は、本件訂正請求による訂正で削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項5に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700676