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特許異議申立

2025-700496

MoO2 Cl2の製造

審判番号
2025-700496
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2023-550718
登録番号
7579985
請求日
2025年05月07日
審決日
2025年10月24日
公報発行日
2025年11月28日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】エスケイ スペシャルティ コンパニー リミテッド
  • 【権利者代理人】山田 強
  • 【異議申立人】大澤 豊
審判長/審判官
  • 審判長 井上 猛
  • 審判官 富永 泰規
  • 審判官 酒井 英夫
分類
P1651.121-Y (C01G)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7579985号発明「MoO2 Cl2の製造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7579985号の請求項1~13に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件の特許第7579985号(以下「本件特許」という。)の請求項1~13に係る特許についての出願(特願2023-550718号。以下「本願」という。)は、2021年(令和 3年)12月 2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2020年12月23日(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、令和 6年10月30日にその特許権の設定登録がされ、同年11月 8日に特許掲載公報が発行された。 本件は、その後、令和 7年 5月 7日に、その請求項1~13(全請求項)に係る特許について、特許異議申立人である大澤 豊(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 本件特許の請求項1~13に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、本件特許の請求項1~13に係る発明を「本件発明1」~「本件発明13」といい、総称して、「本件発明」という。また、本願の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。 「【請求項1】 反応容器と受入容器とが移行領域を介して接続された装置を用い、不活性条件下でMoO2Cl2を製造する方法であって、以下のステップ: (i)前記反応容器にMoO2 を充填する、 (ii)前記反応容器内で、MoO2 を供給されたCl2 と第1の温度T1 で反応させ、ガス状のMoO2Cl2に変換する、 (iii) 前記反応容器内のガス状のMoO2Cl2を、前記移行領域を介して前記受入容器に移送する、 (iv)ガス状のMoO2 Cl2を前記受入容器内で、T1 より低い第2の温度T2で固体状のMoO2 Cl2に再昇華させる、および (v)ICP-OES/MSで特定した純度が99.9996wt.%以上の固体MoO2Cl2 を得る、 を含み、 前記第1の温度T1が170~600°Cであり、 前記第2の温度T2が10~90°Cである、製造方法。 【請求項2】 ステップ(v)において、ICP-OES/MSによって特定された純度が99.99969wt.%以上である固体MoO2 Cl2を得る、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 ステップ(v)において、ICP-OES/MSによって特定されたタングステン含有量が200ppb以下である固体MoO2Cl2 を得る、請求項1に記載の方法。 【請求項4】 第1の温度T1 が200~500°C 、および/または第2の温度T2が20~90°C である、請求項1に記載の方法。 【請求項5】 ステップ(iii)が160°C以上の温度で実施される、請求項1に記載の方法。 【請求項6】 ステップ(ii)において、Cl2のガス流量が0.01~1L/minである、請求項1に記載の方法。 【請求項7】 ステップ(ii)において、不活性ガスが追加的に供給される、請求項1に記載の方法。 【請求項8】 不活性ガスのガス流量が0.05~0.4L/minである請求項7に記載の方法。 【請求項9】 ステップ(i)の前に、前記反応容器と前記受入容器を不活性ガスでフラッシングすることにより不活性化する、請求項1に記載の方法。 【請求項10】 ステップ(v)で得られたMoO2 Cl2が、続くステップ(vi)で昇華および新たな再昇華によりさらに精製される、請求項1に記載の方法。 【請求項11】 モリブデン含有層を製造する方法であって、請求項1に記載の方法により得られたMoO2Cl2 が、モリブデン含有層を形成するために前駆体として蒸着に使用される方法。 【請求項12】 モリブデン含有層を製造するための前駆体として使用されるMoO2Cl2を製造する、請求項1に記載の方法。 【請求項13】 請求項11に従って製造されたモリブデン含有層を含む電子部品を製造する、電子部品の製造方法。」 第3 申立理由の概要 申立人は、証拠方法として下記2の甲第1~3号証(以下「甲1」~「甲3」という。)を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1~13に係る特許を取り消すべきものであることを主張している。 1 申立理由1(進歩性) 本件発明1~10は、甲1に記載された発明、または、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 また、本件発明11~13は、甲1に記載された発明及び甲3に記載された技術常識、または、甲1に記載された発明、甲2に記載された事項及び甲3に記載された技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、本件発明1~13に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 2 証拠方法 甲1:国際公開第2020/021786号 甲2:中国特許出願公開第102632245号明細書 甲3:国際公開第2020/086344号 第4 当合議体の判断 以下に述べるとおり、当合議体は、上記第3に示した申立理由1によっては、本件特許の請求項1~13に係る特許を取り消すことはできないと判断する。 1 甲1、甲2に記載された事項 (1)甲1に記載された事項 本願の優先日前に公知となった甲1には、以下の記載がある(なお、下線は当合議体が付したものである。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。 ア 「[0002] 半導体素子等の機能的電子デバイスにおけるコンタクトプラグ、配線、または配線下の拡散バリア層等の薄膜には、モリブデン(Mo)やタングステン(W)等、物理的、化学的に安定で低抵抗な金属材料が従来から多く用いられている。拡散バリア層には、これらの金属の窒化物、炭化物等の化合物の薄膜も多く用いられている。 [0003] 電子デバイスの拡散バリア層といった用途以外にも、例えば、モリブデンの硫化物である二硫化モリブデン(MoS2)薄膜は、機械部品の摺動部分における潤滑層として従来から多く用いられている。また近年では、半導体特性を示す新規な金属カルコゲン化物材料として、MoS2からなる極薄の二次元構造膜も着目されている。 [0004] 上述したモリブデンあるいはモリブデンの化合物の薄膜は、モリブデン元素を含む化合物を前駆体として蒸発気化させ、これを基材表面で分解、反応させて、薄膜化する、化学気相堆積(CVD)法によって形成されている。また、近年のデバイスの高集積化、高密度化に伴って、狭ピッチ化、コンタクトプラグ部の深部延伸化が進み、金属層は高アスペクト比の凹部に形成される傾向にあり、そのような高アスペクト比に凹部に均一に金属層を形成するために、まず原子相蒸着(ALD)法を用いて、凹部内にシード層となる薄い金属層を均一に形成し、その後に前述したCVD法やメッキ法等で厚いコンタクトプラグや配線となる金属層を形成する技術も使用されている。 ・・・ [0007] そこで、上述した各物質とは異なる物質からのアプローチとして、特許文献5または非特許文献1に開示されているように、モリブデンのオキシクロライドを原料前駆体に使用してモリブデンまたはモリブデン化合物のCVD成膜を行う方法がある。このモリブデンのオキシクロライド自体は、このようなCVD原料の他、特許文献6および7、ならびに非特許文献2に開示されているように、有機合成等の化学反応用の触媒としても従来から知られている物質である。 [0008] モリブデンのオキシクロライドは、非特許文献3に言及されているように、酸化モリブデン(MoO2)粉末を塩素ガス(Cl2)で直接塩化することによって合成する方法が一般的である。しかし、合成されるモリブデンオキシクロライドは、ふわふわとした非常に軽い綿毛状の粉末結晶であり、嵩密度が低く、そのままでは取扱いが難しく不便であるという問題がある。」 イ 「[0023] 本発明に使用する原料モリブデンオキシクロライドは、本発明の作用効果による高嵩密度化が期待できるものであれば、特に製造方法が制限されるものでない。ただし、上述した作用効果、特に高嵩密度化の作用効果が顕著に奏される原料モリブデンオキシクロライドを合成する工程として、二酸化モリブデン(MoO2)または三酸化モリブデン(MoO3)を、塩素ガス(Cl2)で塩化する工程が挙げられ、この工程を併せて本発明の方法に含むことができる。MoO2やMoO3をCl2ガスで塩化することによって得られるモリブデンオキシクロライドは、非常に嵩密度が低いふわふわした綿毛状の結晶粉末の形態となるが、本発明の適用によって嵩密度を顕著に高めることができる。 [0024] たとえばMoO3をCl2ガスで塩化することによるモリブデンオキシクロライドの合成は、反応温度に加熱したMoO3粉末に対して所定の流量でCl2ガスを流し、これら両者の反応によって生じる気相のモリブデンオキシクロライドを固相で再析出させることにより行う。反応時のMoO3の加熱温度は700℃以上とすることが好ましい。反応によって生じた気相のモリブデンオキシクロライドは、冷却することにより固相で再析出する。このような反応析出を実現するための具体的な装置構成の一例として、MoO3を保持加熱する位置から遠ざかるにつれて徐々に温度が低下する温度勾配を有し、反応ガスを継続的に流すことが可能な反応管を使用する形態が挙げられるが、これに限られるものでない。」 ウ 「[0032] <製造装置> まず、本発明の方法を実施するに当たり、MoO2あるいはMoO3を、Cl2ガスで塩化することにより、モリブデンオキシクロライドの合成を行った。図1はモリブデンオキシクロライドを合成するための装置100の構成の一例である。MoO2あるいはMoO3原料101は、原料保持容器102に載置され、これが石英製の反応容器103の内部に配置される。反応容器の原料配置部の外周は原料加熱装置104によって加熱、温度制御が可能となっている。反応容器の一端にはガス導入口105が設けられ、そこに接続されるガス配管106は、途中の分岐を介してモリブデンオキシクロライド合成用の反応ガスとなるCl2の導入部と、キャリアガスとなるN2等の不活性ガス導入部へと至る。ガス配管の経路には、必要に応じて弁や流量制御装置等が設けられてもよい。 [0033] 反応容器103の他端は合成されたモリブデンオキシクロライドが析出し堆積する捕集容器107に接続されている。図の例ではL字型の石英管を反応容器として用いて捕集容器の上部に接続する構成となっているが、反応容器の形状や材質、捕集容器への接続形態等はこれに制限されるものでなく、適宜変更してもよい。 捕集容器内部には、反応により合成されたモリブデンオキシクロライド110が析出し堆積するが、ここで、容器が40℃未満の場合、得られるモリブデンオキシクロライドは嵩密度の低い綿毛状のものとなり、体積が膨大となる傾向があるため、得られたモリブデンオキシクロライドの収集や、合成プロセスの作業効率等を考慮すると、捕集容器は広口で大型のものを使用することが好ましい。一方、容器を40℃~120℃の範囲で維持することで、嵩密度の高い、モリブデンオキシクロライドの結晶を析出させることができる。 捕集容器には、さらに未反応の塩素、あるいは昇華性の塩化物を排出し、それらを無害化する除害装置へと至る排気筒108、装置内圧力を調整する真空ポンプへと至る真空配管109が接続されている。」 エ 「[0037] <製造例> (比較例1) 比較例1は、本発明における本質的な手段である減圧雰囲気下での昇華、再凝集を行わない例、すなわち、モリブデンオキシクロライドの合成のみを行った例である。ここでは図1に示す構成の装置を用いてMoO3とCl2ガスを反応させて、MoO2Cl2の合成を行った。 [0038] 高純度のMoO3(純度:4N)粉末61.5gを、石英製の保持容器に載置し、これをL字型石英製反応管の端部に配置した。キャリアガスとして窒素ガスを反応管内へ供給しつつ、電気炉によりMoO3を徐々に加熱昇温し、720℃に達したところでMoO3の加熱温度を保持した。この状態の反応管内に、Cl2ガスを30mL/分の流量で供給したところ、MoO3とCl2とが反応し、生成した気相状態のMoO2Cl2が反応管から捕集容器へ輸送され、捕集容器内で冷却されたMoO2Cl2が固相状態となって析出した。 [0039] しかしながら、捕集容器内に析出したMoO2Cl2は、図3に示すように、ふわふわとした外観の非常に嵩密度の低い綿毛状の結晶であり、この例では4Lの捕集容器を反応容器に接続したものの、上記のような綿毛状の析出物で反応容器全体が満たされる結果となったため、その時点で塩素の供給を停止してMoO2Cl2の合成を終了させた。析出したMoO2Cl2を窒素流によって冷却した後、窒素雰囲気下にてMoO2Cl2を収集した。この収集時に、まず析出した状態のMoO2Cl2を攪拌棒で攪拌することによって捕集容器内で体積を縮小した後保管容器へ移し、保管容器内でスターラーによって攪拌することでさらに体積を縮小した。得られたMoO2Cl2の嵩密度は0.05g/cm3、純度は4Nであった。なお、MoO2Cl2収量は51gで、収率は60%であった。」 オ 「[0044] (実施例4) 実施例4は、比較例1と同様に本発明における一手段である減圧雰囲気下での昇華、再凝集、を実施しない例、すなわち、モリブデンオキシクロライドの合成のみを行った例であるが、大きな違いは、塩化物を析出固化回収する部分の温度を40℃~120℃の間で保持し、析出部で結晶成長させることで、回収物の密度を上げる条件としたことである。 [0045] 高純度のMoO3(純度:4N)粉末63.2gを、石英製の保持容器に載置し、これをL字型石英製反応管の端部に配置した。キャリアガスとして窒素ガスを反応管内へ供給しつつ、電気炉によりMoO3を徐々に加熱昇温し、720℃に達したところでMoO3の加熱温度を保持した。この状態の反応管内に、Cl2ガスを30mL/分の流量で供給したところ、MoO3とCl2とが反応し、生成した気相状態のMoO2Cl2が反応管から捕集容器へ輸送され、ヒーターにより100℃に維持された捕集容器内でMoO2Cl2が厚みのある結晶として析出した。比較例1のような綿状の析出物が容器を満たしたり配管を閉塞することもなく、最後まで反応を進めることができた。得られたMoO2Cl2の嵩密度は1.2g/cm3、純度は5Nであった。なお、MoO2Cl2収量は65gで、収率は74.5%であった。これは回収部の温度が高いために、固化せずガス状のまま系外へ排出された塩化物が多かったためと推察される。 [0046] (実施例5) 実施例5は、実施例4と同様であるが、仕込み量を61.1g、回収部の温度のみ50℃に下げて析出させた例である。得られたMoO2Cl2の嵩密度は0.6g/cm3、純度は5Nであった。回収部の温度が下がったため結晶がゆっくり合体して成長することができず、小さな結晶の集まりとなったためと推察される。なお、MoO2Cl2収量は72gで、収率は85.3%であった。実施例4よりも回収部での結晶析出が多かったためと思われる。」 カ 「[図1] [図:0001429030000001.jpg] 」 (2)甲2に記載された事項 本願の優先日前に公知となった甲2には、以下の記載がある。 ア 「 [図:0001429030000002.jpg] 」 (当合議体訳) 「発明を実施するための最良の形態 [0025] 本発明は、以下のステップを含む高純度モリブデン粉末の製造方法を提供する:A)二酸化モリブデン鉱石粉末を塩素ガスで塩素化反応させて凝縮後にMoO2Cl2固体を得るステップ;B)MoO2Cl2固体をアンモニア水でアンモニア浸出反応させてモリブデン酸アンモニウムおよびHClガスを得るステップ;C)モリブデン酸アンモニウムを焼成してMoO3を得るステップ;およびD)MoO3を還元ガスで還元反応させて高純度モリブデン粉末を得るステップ。 [0026] 本発明を明確に説明するために、ステップA、B、CおよびDの実験プロセスを以下に詳細に説明する。 [0027] 本発明によれば、ステップAは具体的には、工業用二酸化モリブデン原料を含む反応器に過剰のCl2を導入し、同時に220~500℃、好ましくは320℃に加熱し、20~160r/min、好ましくは55~60r/minの撹拌速度で50~240分、好ましくは90~100分間反応させ、MoO2とCl2を反応させてMoO2Cl2ガスを発生させ、その後、30~70℃で凝縮させて粒径0.01~10μmの固体MoO2Cl2を得る。」 イ 「 [図:0001429030000003.jpg] [図:0001429030000004.jpg] 」 (当合議体訳) 「[0046] 実施例1 [0047] 1.1 塩素化反応による精製 [0048] 工業用二酸化モリブデン原料を反応容器に入れ、過剰量のCl2を導入し、320℃まで加熱し、攪拌速度60r/minで90分間反応させた後、冷却した。冷却温度を40℃に制御することで、不純物含有量が極めて低いMoO2Cl2結晶が得られた。これは、他の元素が反応にほとんど関与しないため、不純物含有量が大幅に低減されるためである。 [0049] 1.2 高純度モリブデン酸アンモニウムを得るためのアンモニア浸出 [0050] 1.1で得られたMoO2Cl2結晶をアンモニア浸出釜でアンモニア水処理した。アンモニア水は、アンモニアガスと水の体積比が1:4となるように調製し、アンモニア水が過剰になるようにした。撹拌速度は60r/min、アンモニア浸出時間は4時間であった。反応終了後、混合物を濾過、洗浄、乾燥し、モリブデン酸アンモニウムを得た。この過程でHClガスが発生したが、一部は反応溶液に再利用し、一部は揮発させて回収装置で回収した。 [0051] 1.3 MoO3の調製 [0052] 1.2で得られたモリブデン酸アンモニウムを耐腐食性、耐高温性の316Lボートに入れ、ボートを焼成炉に入れて280℃の温度で300分間焼成し、高純度MoO3を得る。 [0053] 1.4 高純度モリブデン粉末の調製 [0054] 1.3で得られたMoO3を水素と反応させ、水素露点を-50℃以上、酸素含有量を0.1ppm以下に制御する。420℃で5時間、第一還元反応を行い、MoO2を生成する。次に、MoO2を780℃で6時間、第二還元反応に付し、モリブデン粉末を生成する。 [0055] 1.2で得られたモリブデン酸アンモニウムおよび1.4で得られたモリブデン粉末の純度をプラズマ発光分光分析(ICP)で分析した。その結果、モリブデン酸アンモニウムの純度は99.99998%、モリブデン粉末の純度は99.9998%であった。」 2 甲1に記載された発明 上記1(1)に示した甲1の記載事項を総合勘案し、特に、実施例4([0045])を前提とした、実施例5([0046])として記載されたモリブデンオキシクロライドの製造方法に着目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。 「高純度のMoO3(純度:4N)粉末61.1gを、石英製の保持容器に載置し、これをL字型石英製反応管の端部に配置し、キャリアガスとして窒素ガスを反応管内へ供給しつつ、電気炉によりMoO3を徐々に加熱昇温し、720℃に達したところでMoO3の加熱温度を保持し、この状態の反応管内に、Cl2ガスを30mL/分の流量で供給して、MoO3とCl2とを反応させ、生成した気相状態のMoO2Cl2を、反応管から、ヒーターにより50℃に維持された捕集容器へ輸送し、捕集容器内に嵩密度が0.6g/cm3、純度が5NのMoO2Cl2の結晶を析出させる、高嵩密度モリブデンオキシクロライドの製造方法。」(以下「甲1発明」という。) 3 本件発明1について (1)対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 ア 甲1発明の「L字型石英製反応管」、「反応管」は、いずれも、本件発明1の「反応容器」に相当する。また、甲1発明の「捕集容器」、「モリブデンオキシクロライド」は、それぞれ、本件発明1の「受入容器」、「MoO2Cl2」に相当する。 イ 上記1(1)カに示した図1を参照するに、甲1発明における「(L字型石英製)反応管」と「捕集容器」は、互いに連通しており、該連通している領域を通って、「生成した気相状態のMoO2Cl2」が「(L字型石英製)反応管から」「捕集容器へ輸送」されるものと解される。 したがって、上記アを踏まえると、甲1発明の「(L字型石英製)反応管」と「捕集容器」とが互いに連通している領域は、本件発明1の「反応容器と受入容器と」を「接続」する「移行領域」に相当する。そして、甲1発明において、「(L字型石英製)反応管内」で「生成した気相状態のMoO2Cl2を、反応管から」連通している領域を通って「捕集容器へ輸送」することは、本件発明1において、「(iii) 前記反応容器内のガス状のMoO2Cl2を、前記移行領域を介して前記受入容器に移送する」ことに相当する。 ウ 甲1発明の「MoO3」は、モリブデン酸化物である点で、本件発明1の「MoO2」と共通するものである。 したがって、上記アを踏まえると、甲1発明において、「高純度のMoO3(純度:4N)粉末61.1gを、石英製の保持容器に載置し、これをL字型石英製反応管の端部に配置」することは、反応容器にモリブデン酸化物を充填する点で、本件発明1において、「(i)前記反応容器にMoO2 を充填する」ステップを備えていることと共通する。 エ 甲1発明における「720℃」は、「MoO3と」「供給」された「Cl2とを反応させ」る温度であるから、上記ウを踏まえると、モリブデン酸化物を供給されたCl2 と反応させる第1の温度T1 の点で、本件発明1における「MoO2 を供給されたCl2 と」「反応させ」る「第1の温度T1 」と共通する。 そして、上記ア、ウを踏まえると、甲1発明において、「720℃に達したところでMoO3の加熱温度を保持し、この状態の反応管内に、Cl2ガスを30mL/分の流量で供給して、MoO3とCl2とを反応させ」、「気相状態のMoO2Cl2」を「生成」することは、反応容器内で、モリブデン酸化物を供給されたCl2 と第1の温度T1 で反応させ、ガス状のMoO2Cl2に変換する点で、本件発明1において、「(ii)前記反応容器内で、MoO2 を供給されたCl2 と第1の温度T1 で反応させ、ガス状のMoO2Cl2に変換する」ステップを備えていることと共通する。 オ 甲1発明における「捕集容器」の温度は、「気相状態のMoO2Cl2」を「生成」する温度である「720℃」よりも低い「50℃に維持され」ている。また、甲1発明において、「気相状態のMoO2Cl2」から「MoO2Cl2の結晶を析出させる」ことは、本件発明1において、「ガス状のMoO2 Cl2を」「固体状のMoO2 Cl2に再昇華させる」ことに相当する。 そうすると、「捕集容器」の温度である「50℃」は、「気相状態のMoO2Cl2」から「MoO2Cl2の結晶を析出させる」温度であるから、上記エを踏まえると、本件発明1の「ガス状のMoO2 Cl2を」「固体状のMoO2 Cl2に再昇華させる」「T1 より低い第2の温度T2」に相当する。 したがって、上記ア、エを踏まえると、甲1発明において、「生成した気相状態のMoO2Cl2を、反応管から、ヒーターにより50℃に維持された捕集容器へ輸送し、捕集容器内に嵩密度が0.6g/cm3、純度が5NのMoO2Cl2の結晶を析出させる」ことは、本件発明1において、「(iv)ガス状のMoO2 Cl2を前記受入容器内で、T1 より低い第2の温度T2で固体状のMoO2 Cl2に再昇華させる」ことに相当する。 カ 甲1発明においては、「捕集容器」の温度は、「50℃に維持され」ており、10~90℃の範囲内であることは明らかであるから、上記オを踏まえると、本件発明1において、「第2の温度T2が10~90°Cである」ことに相当する。 キ 甲1発明において、「純度が5NのMoO2Cl2の結晶を析出させる」ことは、上記オを踏まえると、純度が所定値以上の固体MoO2 Cl2を得る点で、本件発明1において、「(v)ICP-OES/MSで特定した純度が99.9996wt.%以上の固体MoO2Cl2 を得る」ステップを備えていることと共通する。 ク 上記イを踏まえると、甲1発明は、「(L字型石英製)反応管」と「捕集容器」とが互いに連通している領域で連通している装置(図1)を用いて、「キャリアガスとして窒素ガスを反応管内へ供給しつつ、」「MoO2Cl2の結晶を析出させる、」「高嵩密度モリブデンオキシクロライドの製造方法」であるから、本件発明1の「反応容器と受入容器とが移行領域を介して接続された装置を用い、不活性条件下でMoO2Cl2を製造する方法」に相当する。 ケ そうすると、本件発明1と甲1発明とは、 「反応容器と受入容器とが移行領域を介して接続された装置を用い、不活性条件下でMoO2Cl2を製造する方法であって、以下のステップ: (i)前記反応容器にモリブデン酸化物を充填する、 (ii)前記反応容器内で、モリブデン酸化物を供給されたCl2 と第1の温度T1 で反応させ、ガス状のMoO2Cl2に変換する、 (iii) 前記反応容器内のガス状のMoO2Cl2を、前記移行領域を介して前記受入容器に移送する、 (iv)ガス状のMoO2 Cl2を前記受入容器内で、T1 より低い第2の温度T2で固体状のMoO2 Cl2に再昇華させる、および (v)純度が所定値以上の固体MoO2 Cl2を得る、 を含み、 前記第2の温度T2が10~90°Cである、製造方法。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> モリブデン酸化物が、本件発明1では、「MoO2」であるのに対し、甲1発明では、「MoO3」である点。 <相違点2> 第1の温度T1 が、本件発明1では、「170~600°C」であるのに対し、甲1発明では、「720℃」である点。 <相違点3> 得られた固体MoO2 Cl2の純度が、本件発明1では、「ICP-OES/MSで特定した純度が99.9996wt.%以上」であるのに対し、甲1発明では、「5N」、すなわち、99.999%である点。 (2)相違点についての判断 事案に鑑み、相違点3について検討する。 ア 甲1の記載からの容易想到性について (ア) 甲1には、MoO2Cl2の純度を5N(99.999%)よりもさらに高めることに着目した記載は見当たらない。 また、MoO2Cl2の純度を可及的に高めることが、当業者において自明の課題であるとしても、甲1発明において、どのような手段を適用すれば、MoO2Cl2の純度を5Nよりもさらに高い99.9996wt%以上にまで高めることができるのかは不明であるから、具体的な手段が不明なままで、甲1発明において、MoO2Cl2の純度を99.9996wt%以上にまで高めることが動機付けられるとはいえない。 (イ)申立人は、甲1には、比較例1において得られた純度が4N(99.99%)のMoO2Cl2を昇華再凝集することで、その純度を5N5(99.9995%)とした実施例1~3が記載されていることを挙げ、このような昇華再凝集を繰り返すことでより純度を高め、99.9996wt%以上の純度を容易に得ることができることを主張する(特許異議申立書の第22頁第3~12行)。 しかし、甲1には昇華再凝集を繰り返すことについての記載は見当たらず、甲1発明において、昇華再凝集を繰り返す操作を行う動機付けがあるとはいえない。仮に、昇華再凝集を繰り返すことが、当業者にとって容易になし得たことと解したとしても、そのような昇華再凝集の繰り返しにより、実際に99.9996wt%以上にまで純度を高めることができるか否かは、技術常識を考慮しても不明である。 よって、申立人の主張は、採用できない。 (ウ)したがって、甲1発明において、上記相違点3に係る、得られた固体MoO2 Cl2が「ICP-OES/MSで特定した純度が99.9996wt.%以上」であるという発明特定事項を備えることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 イ 甲1及び甲2の記載からの容易想到性について (ア)上記1(2)に示したように、甲2には、MoO2を320℃でCl2ガスと反応させて得られたMoO2Cl2ガスを40℃で冷却することで、不純物含有量のきわめて低いMoO2Cl2結晶体を得ること、該MoO2Cl2結晶体をアンモニア水と反応させて純度が99.99998%のモリブデン酸アンモニウムを得ること、該モリブデン酸アンモニウムを水素と反応させて純度が99.9998%のモリブデン粉を得ることが記載されている。 しかし、甲2には、MoO2Cl2結晶体の純度について「不純物含有量のきわめて低い」としか記載がなく、具体的な純度については記載がないから、甲1発明において、仮に、甲2に記載されたMoO2Cl2を製造する技術を適用できたとしても、それにより得られたMoO2Cl2結晶体の純度については不明であり、実際に99.9996wt%以上にまで純度を高めることができるか否かは、技術常識を考慮しても不明である。 以上によれば、甲1発明において、MoO2Cl2の純度を99.9996wt%以上にまで高めることが動機付けられるとはいえない。 (イ)上記(ア)の点に関し、申立人は、「甲第2号証の実施例1では、MoO2と過剰なCl2を反応させて、MoO2Cl2を得て、これを中間産物としてさらに反応を行い、得られたモリブデン酸アンモニウムの純度が99.99998%(6N8)であることが記載されている(段落0046~0055)。当該モリブデン酸アンモニウムから製造されるモリブデン粉末の純度99.9998%(5N8)であることから(段落0055)、より上流の工程の産物がより純度が高いと考えられる。そうすると、中間産物としてMoO2Cl2はモリブデン酸アンモニウムに対して上流工程の材料であることから、その純度はモリブデン酸アンモニウム以上、すなわち99.99998(6N8)以上となる。」(特許異議申立書の第24頁第7行~16行)と主張する。 しかし、技術常識に照らして、ある物質を連続する多工程で製造する際に、「上流の工程の産物がより純度が高い」とは限らないことは明らかである。したがって、甲2において得られたモリブデン酸アンモニウムの純度が99.99998%であるからといって、上流の産物であるMoO2Cl2までもが、当然に99.99998%よりも純度が高いとは限らず、その純度は不明であるとしかいえない。 よって、申立人の主張は、採用できない。 (ウ)したがって、甲1発明において、甲2に記載された事項に基いて、上記相違点3に係る、得られた固体MoO2 Cl2が「ICP-OES/MSで特定した純度が99.9996wt.%以上」であるという発明特定事項を備えることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 ウ 小括 以上のとおり、他の相違点については検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。また、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 4 本件発明2~13について 本件特許の請求項2~13は、請求項1の記載を直接または間接的に引用するものであるから、本件発明2~13は、本件発明1の発明特定事項をすべて備えたものである。 そして、上記3のとおり、本件発明1が甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、同様に、本件発明2~13も、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 また、上記3のとおり、本件発明1が甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、同様に、本件発明2~13も、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 なお、甲3には、MoO2Cl2をモリブデン含有層形成のための前駆体として蒸着に使用することや、モリブデン含有層を含む電子部品を製造することについての記載はあるものの、MoO2Cl2の純度を99.9996wt%以上にまで高めることに着目した記載は見当たらないから、上記の判断は、甲3に記載された技術常識を参酌しても変わるものではない。 5 まとめ 以上のとおり、本件発明1~10は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。また、本件特許発明1~10は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。 さらに、本件発明11~13は、甲1に記載された発明及び甲3に記載された技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。また、本件特許発明11~13は、甲1に記載された発明、甲2に記載された事項、及び甲3に記載された技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。 したがって、申立理由1によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、申立人による特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~13に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1~13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-700496

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