特許異議申立
2026-700007
酸化チタン粒子及びその製造方法
- 審判番号
- 2026-700007
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2025-519051
- 登録番号
- 7704322
- 請求日
- 2025年12月25日
- 審決日
- 2026年06月26日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社レゾナック
- 【権利者代理人】青木 篤
- 【権利者代理人】三橋 真二
- 【権利者代理人】高橋 正俊
- 【権利者代理人】河原 肇
- 【権利者代理人】日浅 里美
- 【異議申立人】上田 精一
- 【異議申立人】橋本 敏親
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 酒井 英夫
- 審判官 佐藤 陽一
- 分類
- P1651.113-Y (C01G) / P1651.121-Y (C01G) / P1651.537-Y (C01G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7704322号発明「酸化チタン粒子及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7704322号の請求項1~13に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7704322号(以下「本件特許」という。)の請求項1~13に係る特許についての出願は、2024年(令和 6年)12月27日を国際出願日とする出願(特願2025-519051号。以下「本願」という。)であって、令和 7年 6月30日にその特許権の設定登録がなされ、同年 7月 8日にその特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和 7年12月25日に、請求項6~13に係る特許に対し、特許異議申立人である上田 精一(以下「申立人A」という。)により特許異議の申立てがされ、令和 8年 1月 5日に、請求項1~9に係る特許に対し、特許異議申立人である橋本 敏親(以下「申立人B」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~13に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、請求項1~13に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明13」といい、これらを総称して「本件発明」という。また、本願の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。
「【請求項1】
四塩化チタン及び不活性ガスを含有する原料ガス(G1)と、酸素ガス及び水蒸気の少なくとも1種並びに不活性ガスを含有する酸化性ガス(G2)とを、反応管に導入して反応ガスを生成させる反応工程と、
冷却媒体を導入して前記反応ガスを冷却することで原料酸化チタン粒子を得る冷却工程と、
前記原料酸化チタン粒子に水蒸気を接触させながら300℃以上600℃以下で加熱する第1脱塩素工程であって、水と原料酸化チタン粒子との質量比(水の質量/原料酸化チタン粒子の質量)が0.01以上である、第1脱塩素工程と、
第1脱塩素工程を経た前記原料酸化チタン粒子に水蒸気を接触させながら30℃以上100℃未満で加熱する第2脱塩素工程であって、水と原料酸化チタン粒子との質量比(水の質量/原料酸化チタン粒子の質量)が0.01以上である、第2脱塩素工程と、
を含む酸化チタン粒子の製造方法。
【請求項2】
前記第1脱塩素工程及び前記第2脱塩素工程における水と原料酸化チタン粒子との質量比(水の質量/原料酸化チタン粒子の質量)が0.04以上である請求項1に記載の酸化チタン粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第1脱塩素工程における加熱温度が410℃以上550℃以下である請求項1又は2に記載の酸化チタン粒子の製造方法。
【請求項4】
反応管の内壁又は上部にパージ媒体の吹き出し口が設けられ、前記反応管の中心軸線に対して垂直な前記反応管の横断面において、前記パージ媒体の前記吹き出し口と前記反応管の前記中心軸線を結ぶ線に対して、前記パージ媒体の吹き出し角度αが、50°以上であり、前記パージ媒体の吹き出し流速が35m/s以上である、請求項1又は2に記載の酸化チタン粒子の製造方法。
【請求項5】
前記反応管の入口の断面積(S1)と、前記原料ガス(G1)及び前記酸化性ガス(G2)の導入管の出口の断面積の総和(S2)の比(S1/S2)が1.0以上10.0以下である請求項1又は2に記載の酸化チタン粒子の製造方法。
【請求項6】
BET比表面積が15~100m2/g、アナターゼ含有率が70%以上、Cl含有量が2000質量ppm以下であり、
BET比表面積をα(m2/g)、900℃に保持した電気炉内で1時間灼熱したときの質量減少率を灼熱減量X(質量%)とした場合、その灼熱減量Xが式(1)を満たす酸化チタン粒子。
2.1×{[α×1.3/(6×104)]×18+[(α×1.3-β)/(6×104)]×9}×100≧X≧0.60×{[α×1.3/(6×104)]×18+[(α×1.3-β)/(6×104)]×9}×100 ・・・(1)
式(1)中、βは、900℃に保持した電気炉内で1時間灼熱した後の粉体のBET比表面積(m2/g)を示す。
【請求項7】
レーザー回折・散乱分析法により測定したD90(LD)/D50(LD)が1.0超2.0以下であり、かつ、電界放射型走査型電子顕微鏡で観察した一次粒子のD50(SEM)の16倍を超える一次粒子径を有する粗大粒子の粒子濃度(個数基準)が20ppm以下である、請求項6に記載の酸化チタン粒子。
【請求項8】
D90(LD)が3000nm以下であり、D50(LD)が1000nm以下である、請求項6に記載の酸化チタン粒子。
【請求項9】
Na、Al、S、Fe、Ni、Cr、Nb及びZrの含有量がそれぞれ50質量ppm以下、かつSi及びCの含有量がそれぞれ500質量ppm以下である、請求項6に記載の酸化チタン粒子。
【請求項10】
請求項6~9のいずれか一項に記載の酸化チタン粒子を含むスラリー。
【請求項11】
請求項6~9のいずれか一項に記載の酸化チタン粒子を含む分散体。
【請求項12】
請求項6~9のいずれか一項に記載の酸化チタン粒子を含む組成物。
【請求項13】
請求項6~9のいずれか一項に記載の酸化チタン粒子を含む誘電体原料。」
第3 特許異議の申立ての理由の概要
申立人Aは、証拠方法として、後記する甲第A1号証~甲第A3号証を提出し、以下の申立理由A1~A4により、本件特許の請求項6~13に係る特許は取り消されるべきものである旨主張し、申立人Bは、証拠方法として、後記する甲第B1号証~甲第B5号証を提出し、以下の申立理由B1~B8により、本件特許の請求項1~9に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
1 申立理由A1(進歩性)
本件発明6、9~13は、甲第A1号証に記載された発明並びに本願出願時の技術常識及び周知技術に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由A2(進歩性)
本件発明6~13は、甲第A1号証(補助的に甲第A2号証)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由A3(サポート要件)
本件明細書の記載や本願出願時の技術常識に照らしても、本件発明6の「Cl含有量が2000質量ppm以下であり、」に含まれるCl含有量が0質量ppm以上700質量ppm未満の範囲の場合でも、本件発明6~9の物(酸化チタン粒子)の発明が解決しようとする課題である「アナターゼ含有率が高く、塩素含有量が少なく、高湿雰囲気下での質量変化率が小さい酸化チタン粒子を提供する」ことを解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されているとはいえない。また、本件特許の請求項6の記載を直接又は間接的に引用する本件発明7~13についても同様である。
よって、本件発明6~13について、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
4 申立理由A4(サポート要件)
本件明細書の段落【0094】に記載の表2-1をみると、本件発明6の式(1)は、「高湿雰囲気下での質量変化率が小さい」という本件発明6~9の物(酸化チタン粒子)の発明が解決しようとする課題の解決に資するものになっていないから、本件発明6は、発明の詳細な説明の記載により、上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。また、本件特許の請求項6の記載を直接又は間接的に引用する本件発明7~13についても同様である。
よって、本件発明6~13について、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
5 申立理由B1(新規性)、申立理由B2(進歩性)
(1)本件発明1~5は、甲第B1号証に記載された発明及び甲第B4、B5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)本件発明6~9は、甲第B1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、また、甲第B1号証に記載された発明及び甲第B4、B5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
6 申立理由B3(新規性)、申立理由B4(進歩性)
本件発明6は、甲第B2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、また、甲第B2号証に記載された発明及び甲第B4、B5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
7 申立理由B5(新規性)、申立理由B6(進歩性)
本件発明6は、甲第B3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、また、甲第B3号証に記載された発明及び甲第B4、B5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
8 申立理由B7(サポート要件)
本件明細書は、灼熱減量(X)/灼熱減量理論値として0.8~0.9を開示するのに対して、本件発明6の式(1)の範囲は灼熱減量理論値の2.1倍を上限とし、0.6倍を下限としているから、本件特許の請求項6の記載は、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。また、本件特許の請求項6の記載を引用する本件発明7~9についても同様である。
よって、本件発明6~9について、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
9 申立理由B8(サポート要件)
本件発明6の「Cl含有量」は、下限値の規定がなく、本件明細書には、Cl含有量を、実施例を下回る水準(700質量ppm未満)にするための技術開示がないから、本件特許の請求項6の記載は、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。また、本件特許の請求項6の記載を引用する本件発明7~9についても同様である。
よって、本件発明6~9について、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
10 証拠方法
・甲第A1号証:特開2012-211076号公報
(甲第B4号証に係る出願の分割出願の公開特許公報)
・甲第A2号証:国際公開第2022/244620号
・甲第A3号証:特開2001-151510号公報
・甲第B1号証:国際公開第2022/244620号(甲第A2号証)
・甲第B2号証:再公表特許第2005/092797号
・甲第B3号証:国際公開第2019/189307号
・甲第B4号証:特開2006-76876号公報
・甲第B5号証:清野学著,「酸化チタン 物性と応用技術」,第1版,技報堂出版株式会社,1991年 6月25日,p.52~55、346
第4 当合議体の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~13に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由A1(進歩性)について
(1)甲第A1号証に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲第A1号証には、「微粒子二酸化チタン、その製造方法ならびにその用途」(発明の名称)に関する記載があり、その請求項1、4の記載を前提に、段落【0126】~【0132】に記載の実施例5の微粒子二酸化チタンに着目し、技術常識に照らして、「フローソーブII,2300」が、1点法でBET比表面積を測定する装置であることを踏まえると、次の発明(以下「甲A1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲A1発明>
直径10cmのガラス製シャーレに厚さが均等になるように5gの粉末をいれ、20℃、相対湿度80%の環境中に5時間静置した場合に、放置前の質量を基準にした質量変化率が1.0質量%、1点法で測定したBET比表面積が30m2/g、全塩素含有量が2500質量ppmであり、
900℃に保持した電気炉内で1時間灼熱したときの質量減少率(以下、灼熱減量と呼ぶ)が、1.25(質量%)、灼熱減量測定後の1点法で測定したBET比表面積が5.2m2/gである微粒子二酸化チタン。
(2)本件発明6について
ア 対比
本件発明6と甲A1発明とを対比する。
(ア)本件発明6の「BET比表面積」は、本件明細書の段落【0018】、【0079】の記載を参照すると、3点法により測定されたものと理解されるから、甲A1発明における「1点法で測定したBET比表面積」と本件発明6の「BET比表面積」とは、「BET比表面積」である点で共通する。
(イ)本件発明6の「酸化チタン粒子」は、二酸化チタン粒子であるから(本件明細書の段落【0002】)、甲A1発明の「微粒子二酸化チタン」は、本件発明6の「酸化チタン粒子」に相当する。
(ウ)そうすると、本件発明6と甲A1発明とは、
「BET比表面積が規定された酸化チタン粒子。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-1>
BET比表面積について、本件発明6では、3点法で測定した「BET比表面積が15~100m2/g」であるのに対し、甲A1発明では、「1点法で測定したBET比表面積が30m2/g」である点。
<相違点1-2>
本件発明6では、「アナターゼ含有率が70%以上」であるのに対し、甲A1発明では、「アナターゼ含有率」が不明である点。
<相違点1-3>
本件発明6では、「Cl含有量が2000質量ppm以下」であるのに対し、甲A1発明では、「全塩素含有量が2500質量ppm」である点。
<相違点1-4>
本件発明6では、灼熱減量Xが式(1)を満たすのに対し、甲A1発明では、灼熱減量(1.25(質量%))が式(1)を満たすのか不明である点。
イ 判断
(ア)事案に鑑み、相違点1-3を検討する。
a 相違点1-3が実質的な相違点であるかについて
本件発明6における「Cl含有量」と、甲A1発明における「全塩素含有量」とが同じ意味であることは明らかである。
そして、甲A1発明の「全塩素含有量」である「2500質量ppm」は、本件発明6の「Cl含有量」である「2000質量ppm以下」の範囲に含まれない。
そうすると、相違点1-3は実質的な相違点である。
b 相違点1-3の容易想到性について
(a)甲第A1号証の段落【0012】には、「高性能の誘電体合成時にはBaOとTiO2比は厳密に1:1に管理する必要があるが、塩素の存在は組成比にずれを生じさせる。」との記載があるから、甲A1発明の微粒子二酸化チタンにおいて、全塩素含有量を2500質量ppmから低減する動機付けがあると解する余地がある。
(b)そこで、甲第A1号証における脱塩素に係る記載をみると、以下の事項が認められる。
「本発明の好ましい実施態様では、四塩化チタンを含むガスを酸化性ガスで高温酸化することにより二酸化チタンを製造する気相法を採用する。好ましくは、600℃以上1,100℃未満に加熱した四塩化チタンを含有するガス、及び600℃以上1,100℃未満に加熱した酸化性ガス(好ましくは水蒸気)をそれぞれ反応管に供給する。さらに好ましくは、反応させて得られた二酸化チタンを、800℃以上1,100℃未満の温度条件で反応管内に滞留させた後、150℃以上500℃以下の条件で、酸化性ガスと粉体を向流接触させつつ脱塩素することにより、二酸化チタン表面に水分を十分安定的に結合した、質量変化の小さな超微粒子二酸化チタンが得られる。」(段落【0077】)
「反応管内温度が800℃より低いと、アナターゼ含有率の高い二酸化チタンが得られやすいものの、反応が不充分で二酸化チタン粒子内部に塩素が残存する場合がある。反応管内温度が1,100℃以上になるとルチル転移や粒子成長が進行し、低ルチル型、超微粒子が得られない傾向にある。」(段落【0079】)
「二酸化チタンの加熱による脱塩素は、水または水素と二酸化チタンとの質量比(=水蒸気の質量/二酸化チタンの質量,以下同様)が1質量%以上60質量%以下、好ましくは1質量%以上50質量%以下となるように二酸化チタン粉末に水蒸気を向流接触させながら加熱温度150℃以上500℃以下で行うことが好ましい。更に好ましくは水と二酸化チタンの質量比は5質量%以上40質量%以下、加熱温度は300℃以上450℃以下である。加熱温度が500℃を越えると二酸化チタン粒子の焼結が進み、粒成長を生じる。加熱温度が150℃を下回ると脱塩素の効率が極端に低下する。」(段落【0086】)
「加熱による脱塩素工程は、回転炉内の粉末の滞留時間が0.5時間以上3時間未満であることが望ましい。さらに望ましくは0.5時間以上1時間未満である。これは粒成長を抑制しつつ確実に脱塩素化を図るのに要する時間である。これより短すぎると脱塩素が不十分であり、長すぎると粒成長が進行する。」(段落【0088】)
(c)上記(b)の記載を踏まえると、甲A1発明の全塩素含有量を低減するためには、甲A1発明(実施例5)の製造工程において、「反応管内温度をより高温とすること」、「向流接触の温度をより高温とすること」及び「向流接触の時間をより長時間とすること」が考えられる。そして、このような変更を加えると、いずれの場合も、高温又は長時間の処理により粒成長が進行すると推認される。
ここで、粒成長が進行すると、定性的にはBET比表面積が小さくなるなど、微粒子二酸化チタンの性状が変化するものと解され、その際に、粒成長した微粒子二酸化チタンの性状が、甲第A1号証の特許請求の範囲に記載される各条件を満たさなくなる程度に変化することなく維持したままで、甲A1発明の微粒子二酸化チタンの全塩素含有量を低減できるかどうかは不明であるから、そのようなことが不明なままで、甲A1発明の微粒子二酸化チタンにおいて、全塩素含有量を2000質量ppm以下まで低減することが動機付けられるとはいえない。
仮に、甲A1発明の微粒子二酸化チタンにおいて、全塩素含有量を2000質量ppm以下まで低減することが動機付けられたとしても、粒成長した微粒子二酸化チタンが、相違点1-3以外の相違点に係る発明特定事項を備えるかは不明である。
そして、このことは、周知技術として、甲第A2号証の実施例(段落[0104]の表2)に酸化チタン粒子のアナターゼ含有率が記載され、本願出願時の技術常識として、甲第A3号証の段落【0004】に、「酸化チタンを微粒化するにともない、溶媒への分散性が悪くなり、溶媒に懸濁した際、微粒子同士の凝集が起こり、上記のようにチタン酸バリウムを調製した際、微粒子の酸化チタンを用いたにも拘らず、逆に粒径が大きくなってしまったり」することが記載されていても変わるものではない。
そうすると、本願出願時の技術常識及び周知技術を考慮しても、甲A1発明において、相違点1-3に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
c 小括
以上のとおり、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明6は、甲A1発明並びに本願出願時の技術常識及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ まとめ
したがって、本件発明6は、甲第A1号証に記載された発明並びに本願出願時の技術常識及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明9~13について
本件発明9~13は、本件特許の請求項6の記載を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明6の発明特定事項をすべて備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明6が、甲第A1号証に記載された発明並びに本願出願時の技術常識及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明9~13についても同様に、甲第A1号証に記載された発明並びに本願出願時の技術常識及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)申立理由A1(進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明6、9~13は、甲第A1号証に記載された発明並びに本願出願時の技術常識及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由A1(進歩性)によっては、本件特許の請求項6、9~13に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由A2(進歩性)について
(1)甲第A1号証に記載された発明
甲第A1号証には、上記1(1)で述べたとおり、上記「甲A1発明」が記載されていると認められる。
(2)本件発明6について
ア 対比
本件発明6と甲A1発明とを対比すると、上記1(2)アで述べたとおり、両者は上記相違点1-1~相違点1-4の点で相違し、その余の点で一致する。
イ 判断
(ア)事案に鑑み、相違点1-3を検討する。
a 相違点1-3が実質的な相違点であるかについて
上記1(2)イ(ア)aで述べたとおり、相違点1-3は実質的な相違点である。
b 相違点1の容易想到性について
上記1(2)イ(ア)bで述べたとおり、甲A1発明の微粒子二酸化チタンにおいて、全塩素含有量を2000質量ppm以下まで低減することが動機付けられるとはいえない。
そして、このことは、甲第A2号証の請求項11に、「硝酸銀電位差滴定法により測定した酸化チタン粒子のCl含有量が0.2質量%以下である」ことが記載されていても変わるものではない。
そうすると、甲第A2号証の記載を参酌しても、甲A1発明において、相違点1-3に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
c 小括
以上のとおり、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明6は、甲第A2号証の記載を参酌しても、甲A1発明に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ まとめ
したがって、本件発明6は、甲第A1号証(補助的に甲第A2号証)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明7~13について
本件発明7~13は、本件特許の請求項6の記載を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明6の発明特定事項をすべて備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明6が、甲第A1号証(補助的に甲第A2号証)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明7~13についても同様に、甲第A1号証(補助的に甲第A2号証)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)申立理由A2(進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明6~13は、甲第A1号証(補助的に甲第A2号証)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由A2(進歩性)によっては、本件特許の請求項6~13に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由A3(サポート要件)について
(1)ア 本件明細書の段落【0007】~【0010】の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は、「アナターゼ含有率が高く、塩素含有量が少なく、高湿雰囲気下での質量変化率が小さい酸化チタン粒子を提供すること」であると認められる。
イ 一方、本件明細書には、上記アの課題に関し、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0019】
(アナターゼ含有率)
一実施形態における酸化チタン粒子のアナターゼ含有率(モル基準)は70%以上であり、好ましくは75%以上である。アナターゼ含有率が70%以上であれば、高い反応活性が発揮される。アナターゼ含有率の上限は特に限定されないが、例えば、100%以下、99%以下、又は98%以下とすることができる。本開示において、アナターゼ含有率は、酸化チタン粒子中におけるアナターゼ型結晶の含有率を意味し、実施例に記載の方法で測定される。
(イ)「【0020】
(灼熱減量及び灼熱減量理論値)
一実施形態における酸化チタン粒子の900℃に保持した電気炉内で1時間灼熱したときの質量減少率(質量%)(灼熱減量Xとも呼ぶ)は、BET比表面積をα(m2/g)、900℃に保持した電気炉内で1時間灼熱した後の粉体のBET比表面積(m2/g)をβとした場合、式(1)を満たす。
2.1×{[α×1.3/(6×104)]×18+[(α×1.3-β)/(6×104)]×9}×100≧X≧0.60×{[α×1.3/(6×104)]×18+[(α×1.3-β)/(6×104)]×9}×100 ・・・(1)
式(1)を満たす酸化チタン粒子は、高湿雰囲気下でも質量変化率が小さく、精度の高い仕込量を要求される原料に適している。・・・(省略)・・・本開示において、β及び灼熱減量Xは実施例に記載の方法で測定される。」
(ウ)「【0027】
(塩素(Cl)含有量)
一実施形態における酸化チタン粒子のCl(塩素原子)含有量は2000質量ppm以下である。Cl含有量が2000質量ppm以下であれば、酸化チタン粒子を原料として使用した場合に後工程で問題が生じにくい。例えば、Cl含有量が2000質量ppm以下の酸化チタン粒子をBaTiO3等の原料に用いた場合、焼成時のフラックスの発生を抑制することができる。フラックスが発生した場合には以下のような問題が生じる場合がある。溶融したフラックスは局在化し易く、その局在化した部分では凝集が多くなり、他の部分との間で品質にバラツキが生ずる場合がある。粒子が凝集するとBaTiO3粒子の結晶が成長して異常粒子となり、BaTiO3の誘電特性を低下させる場合もある。当該観点から、酸化チタン粒子のCl含有量は、好ましくは1500質量ppm以下、より好ましくは1300質量ppm以下、更に好ましくは950質量ppm以下である。酸化チタン粒子のCl含有量の下限は特に限定されないが、100質量ppm以上、200質量ppm以上、又は500質量ppm以上とすることができる。本開示において、Cl含有量は硝酸銀電位差滴定法を用いて実施例に記載の方法で測定される。」
ウ そして、上記イの記載を含む本件明細書の段落【0017】~【0095】、表1-1~表2-3の記載によれば、上記アの課題は、BET比表面積が15~100m2/g、アナターゼ含有率が70%以上、Cl含有量が2000質量ppm以下であって、BET比表面積をα(m2/g)、900℃に保持した電気炉内で1時間灼熱した後の粉体のBET比表面積をβ(m2/g)、900℃に保持した電気炉内で1時間灼熱したときの質量減少率を灼熱減量X(質量%)とした場合、その灼熱減量Xが式(1)を満たす酸化チタン粒子によって解決できることが理解できる。
2.1×{[α×1.3/(6×104)]×18+[(α×1.3-β)/(6×104)]×9}×100≧X≧0.60×{[α×1.3/(6×104)]×18+[(α×1.3-β)/(6×104)]×9}×100 ・・・(1)
エ 以上のとおり、本件明細書の記載を総合すれば、上記ウの技術的事項を備えた本件発明6~13は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であって、出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により当業者が上記アの課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
したがって、本件発明6~13について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである。
(2)ア(ア)申立人Aは、特許異議申立書の第71ページ第1行~第76ページ第19行において、実施例1~3の第2脱塩素工程の条件は、加熱温度が70℃、H2O/TiO2(質量比)がそれぞれ、0.04(実施例1)、0.10(実施例2)、0.20(実施例3)、脱塩素処理時間がそれぞれ、20分(実施例1)、20分(実施例2)、60分(実施例3)であり、実施例1、実施例2、実施例3の順で、原料酸化チタン粒子に与える水分量が多くなっており、そのため、「高湿雰囲気下での質量変化率」は、1.0質量%(実施例1)、1.8質量%(実施例2)、2.0質量%(実施例3)のように、実施例1、実施例2、実施例3の順で高くなっているところ、Cl含有量のより少ない酸化チタン粒子を製造しようとすれば、酸化チタン粒子のCl含有量を700質量ppmから0質量ppmにかけて低減させるに従って第2脱塩素工程の脱塩素処理時間をさらに長くしていく必要があるということになる一方、第2脱塩素工程の脱塩素処理時間を長くし過ぎると、高温雰囲気下での質量変化率が2.0質量%からさらに増加することが考えられ、適度(すなわち、「高湿雰囲気下での質量変化率」が好適)でなくなってしまうことにもなるから、本件発明6では、表面の吸着水分量を適度にしつつ酸化チタン粒子のCl含有量を低減するには技術的限界がある(すなわち、本件発明6のCl含有量には下限値を設定する必要がある)と解される旨を主張する。
(イ)しかしながら、実施例1~3の各酸化チタン粒子におけるBET比表面積及びアナターゼ含有率の組み合わせは異なっており、技術常識に照らして、それぞれの値が大きい方が吸着可能な水分量が多くなると認められるから、「高湿雰囲気下での質量変化率」が、実施例1、実施例2、実施例3の順で高くなっている理由は、各酸化チタン粒子の吸湿力に依るものと解され、第2脱塩素工程において、原料酸化チタン粒子に与える水分量が多いことが理由であるとは必ずしもいえない。
そして、通常の湿度において、酸化チタン粒子の表面に吸着可能な水分量には自ずと限界があるから、酸化チタン粒子のCl含有量を700質量ppmから0質量ppmに低減させるために、第2脱塩素工程の脱塩素処理時間をさらに長くしたとしても、「高湿雰囲気下での質量変化率」が実施例の値を大幅に超えて、好適なものでなくなるかは不明である。
よって、申立人Aの主張は採用できない。
イ(ア)申立人Aは、特許異議申立書の第76ページ下から第8行~第77ページ第22行において、本件明細書には、Cl含有量が700質量ppm未満の酸化チタン粒子が実際に得られたことが記載されておらず、本願出願時において、アナターゼ含有率が高い酸化チタン粒子を提供するに当たり、粒子表面の適度な吸着水分量を確保しながらCl含有量を低減させることが困難であったと考えるのが一般的な解釈であるから、本願出願時の技術常識に照らしても、本件明細書には、当業者が本件発明6~9の「アナターゼ含有率が高く、塩素含有量が少なく、高湿雰囲気下での質量変化率が小さい酸化チタン粒子を提供する」という課題を解決できると認識できる程度に具体例又は説明が記載されているとはいえない旨を主張する。
(イ)しかしながら、上記ア(ア)の実施例に記載の傾向を踏まえると、当業者であれば、第2脱塩素工程のH2O/TiO2(質量比)を大きくするか、脱塩素処理時間を長くすれば、Cl含有量が700質量ppm未満の酸化チタン粒子が得られることが理解できる。
よって、申立人Aの主張は採用できない。
(3)申立理由A3(サポート要件)のまとめ
以上のとおり、本件発明6~13について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである。
したがって、申立理由A3(サポート要件)によっては、本件特許の請求項6~13に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由A4(サポート要件)について
(1)本件発明6~13について、特許請求の範囲の記載が、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることは、上記3(1)で述べたとおりである。
(2)ア 申立人Aは、特許異議申立書の第79ページ下から第5行~第83ページ第16行において、本件明細書の段落【0025】の、「灼熱減量X/灼熱減量理論値が1より小さいと水分含有量が理論的な値よりも少なく、吸湿しやすい状態であり、1より大きいと水分含有量が理論的な値よりも多く、放湿しやすい状態である。したがって、灼熱減量の実測値すなわち灼熱減量XがBET比表面積及びその変化量から求めた灼熱減量理論値に近い酸化チタン粒子は、高湿雰囲気下での質量変化率が小さく、精度の高い仕込量を要求される原料に適している。灼熱減量/灼熱減量理論値が0.60以上2.1以下であると水分量安定性が高いため好ましく、同様の観点から0.8以上1.5以下がより好ましく、0.9以上1.3以下がさらに好ましい。」との記載によれば、「灼熱減量X/灼熱減量理論値」が、1に近い酸化チタン粒子が、高湿雰囲気下での質量変化率が小さく、精度の高い仕込量を要求される原料に適していることを意味することになる、との解釈を前提にすると、「灼熱減量X/灼熱減量理論値」が1に近いほど「高湿雰囲気下での質量変化率」が小さくなっていなければならないと解するのが合理的な考え方であるところ、実施例においては、「灼熱減量X/灼熱減量理論値」が1に近いほど「高湿雰囲気下での質量変化率」が小さくなっているという結果とはなっておらず、本件発明6の式(1)は、「高湿雰囲気下での質量変化率が小さい」という本件発明6の課題の解決に資するものになっていない旨を主張する。
イ 以下、検討すると、本件発明6の式(1)の元となる式(2)は、灼熱時に粒子から離脱する吸着水の質量割合を示す式(4)と、灼熱時の比表面積低下により離脱していく水の質量割合示す式(5)の和である(本件明細書の段落【0024】)。
ここで、式(4)は、「酸化チタン粒子の表面にはルチル型結晶の場合約1.0×1019〔個/m2〕、アナターゼ型結晶の場合約1.3×1019〔個/m2〕のOHが存在すると言われている。」(清野学著「酸化チタン」技報堂出版(株)p.54,1991発行)との技術的事項を前提とするものであるが、「~が存在すると言われている」との記載のとおり、この前提は仮定に基づくものである。また、式(4)の導出に際し、「本開示の酸化チタン粒子のアナターゼ含有率は70%以上であるため、簡単のために全てアナターゼ型と仮定し、この数のアナターゼ型結晶表面のOHが、それぞれH2O1分子と結合しており、それが灼熱時の加熱により水として離脱すると仮定する」ものであるから、式(4)は、少なくとも3つの仮定に基づき導かれる式である(本件明細書の段落【0022】)。
また、式(5)は、灼熱時に、全てのアナターゼ型結晶がルチル型結晶へと転移し、その際に、酸化チタン粒子表面の2つのOH基から、水が1分子生成することになるとの仮定に基づくものである(本件明細書の段落【0023】)。
そうすると、本件発明6の式(1)の元となる式(2)は、各種の仮定に基づく式であるが、実施例1~3における「アナターゼ含有率」は100%ではないから、少なくともこの点で、実施例1~3のアナターゼ含有率に基づく、実際の「灼熱減量理論値」と、アナターゼ含有率が100%であるとの仮定に基づく式(2)の「灼熱減量理論値」は異なるものとなると認められる。
以上によれば、「灼熱減量X/灼熱減量理論値」が1に近いほど「高湿雰囲気下での質量変化率」が小さくなっていなければならないと解するのが合理的である旨の主張は前提において誤りがあるから採用できない。
(3)申立理由A4(サポート要件)のまとめ
以上のとおり、本件発明6~13について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである。
したがって、申立理由A4(サポート要件)によっては、本件特許の請求項6~13に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由B1(新規性)、申立理由B2(進歩性)について
(1)甲第B1号証に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲第B1号証には、「酸化チタン粒子及びその製造方法」(発明の名称)に関する記載があり、その段落[0096]、[0097]に記載の実施例1の製造工程に着目すると、次の発明(以下「甲B1発明1」という。)が記載されていると認められる。また、甲第B1号証の請求項1、9~11、段落[0089]の記載を前提に、段落[0104]、[0105]の表2、3に記載の実施例1の酸化チタン粒子に着目すると、次の発明(以下「甲B1発明2」という。)が記載されていると認められる。
<甲B1発明1>
円形断面の縦型反応管を用いて、1053mol/hrのガス状四塩化チタン(四塩化チタンの純度≧99.99質量%)を223mol/hrの窒素ガスで希釈して得た四塩化チタン希釈ガス(G1)を950℃に予熱し、982mol/hrの酸素と1786molNm3/hrの水蒸気に22mol/hrの窒素ガスを混合して得た酸化性ガス(G2)を870℃に予熱し、これらのガス(G1及びG2)を、反応管の断面積(S1)と四塩化チタンを含むガス(G1)及び酸化性ガス(G2)の導入管の断面積の総和(S2)との比(S1/S2)が6.7である反応器の頂部に導入し、次いで、800℃以上1,200℃未満の高温滞留時間を0.05秒となるようにパージ空気及び冷却空気を反応管に反応管の側面から導入し、ポリテトラフルオロエチレン製バグフィルターにて粗酸化チタン粒子を反応管の下部で捕集し、得られた粗酸化チタン粒子を円筒形回転式加熱炉に通し、水蒸気と粗酸化チタンとの質量比(水蒸気の質量/粗酸化チタン粒子の質量)が0.06、加熱温度450℃で脱塩素して、酸化チタン粒子を得る、酸化チタン粒子の製造方法。
<甲B1発明2>
レーザー回折・散乱分析法により測定した酸化チタン粒子におけるD90(LD)/D50(LD)が1.3であり、かつ、電界放射型走査型電子顕微鏡で観察した一次粒子のD50(SEM)に対して、D50(SEM)の16倍を超える粗大粒子濃度(個数基準)が0~2ppmであり、
アナターゼ含有率が79%であり、
マウンテック製比表面積測定装置(マックソーブ)で測定したBET比表面積が29m2/gであり、
硝酸銀電位差滴定法により測定した酸化チタン粒子のCl含有量が0.14質量%である、酸化チタン粒子。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲B1発明1とを対比する。
(ア)甲B1発明1における、「円形断面の縦型反応管」、「1053mol/hrのガス状四塩化チタン(四塩化チタンの純度≧99.99質量%)を223mol/hrの窒素ガスで希釈して得た四塩化チタン希釈ガス(G1)」及び「982mol/hrの酸素と1786molNm3/hrの水蒸気に22mol/hrの窒素ガスを混合して得た酸化性ガス(G2)」は、それぞれ、本件発明1における、「反応管」、「四塩化チタン及び不活性ガスを含有する原料ガス(G1)」及び「酸素ガス及び水蒸気の少なくとも1種並びに不活性ガスを含有する酸化性ガス(G2)」に相当する。
(イ)甲B1発明1において、「これらのガス(G1及びG2)を、」「反応器の頂部に導入し、」「800℃以上1,200℃未満の高温滞留時間を0.05秒となるよう」にすることは、四塩化チタン希釈ガス(G1)と酸化性ガス(G2)とが反応することを踏まえると、本件発明1における、「(G1)と、」「(G2)とを、反応管に導入して反応ガスを生成させる反応工程」に相当する。
(ウ)甲B1発明1において、「パージ空気及び冷却空気を反応管に反応管の側面から導入し、ポリテトラフルオロエチレン製バグフィルターにて粗酸化チタン粒子を反応管の下部で捕集」することは、本件発明1における、「冷却媒体を導入して前記反応ガスを冷却することで原料酸化チタン粒子を得る冷却工程」に相当する。
(エ)甲B1発明1において、「得られた粗酸化チタン粒子を円筒形回転式加熱炉に通し、水蒸気と粗酸化チタンとの質量比(水蒸気の質量/粗酸化チタン粒子の質量)が0.06、加熱温度450℃で脱塩素」することは、本件発明1における、「前記原料酸化チタン粒子に水蒸気を接触させながら300℃以上600℃以下で加熱する第1脱塩素工程であって、水と原料酸化チタン粒子との質量比(水の質量/原料酸化チタン粒子の質量)が0.01以上である、第1脱塩素工程」に相当する。
(オ)甲B1発明1における、「酸化チタン粒子の製造方法」は、本件発明1における、「酸化チタン粒子の製造方法」に相当する。
(カ)そうすると、本件発明1と甲B1発明1とは、
「四塩化チタン及び不活性ガスを含有する原料ガス(G1)と、酸素ガス及び水蒸気の少なくとも1種並びに不活性ガスを含有する酸化性ガス(G2)とを、反応管に導入して反応ガスを生成させる反応工程と、
冷却媒体を導入して前記反応ガスを冷却することで原料酸化チタン粒子を得る冷却工程と、
前記原料酸化チタン粒子に水蒸気を接触させながら300℃以上600℃以下で加熱する第1脱塩素工程であって、水と原料酸化チタン粒子との質量比(水の質量/原料酸化チタン粒子の質量)が0.01以上である、第1脱塩素工程と、
を含む酸化チタン粒子の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-1>
本件発明1では、「第1脱塩素工程を経た前記原料酸化チタン粒子に水蒸気を接触させながら30℃以上100℃未満で加熱する第2脱塩素工程であって、水と原料酸化チタン粒子との質量比(水の質量/原料酸化チタン粒子の質量)が0.01以上である、第2脱塩素工程」を含むのに対し、甲B1発明1では、そのような工程を含まない点。
イ 判断
(ア)相違点2-1について
a 相違点2-1が実質的な相違点であるかについて
甲第B1号証には、甲B1発明1の酸化チタン粒子の製造方法によって酸化チタン粒子を得た後、当該酸化チタン粒子に対して、さらに脱塩素処理を行うことが記載されていないから、相違点2-1は実質的な相違点である。
b 相違点2-1の容易想到性について
甲第B1号証には、脱塩素処理に関し、酸化チタンの加熱による脱塩素を、水と酸化チタンとの質量比が0.01以上になるように酸化チタン粒子に水蒸気を接触させながら加熱温度200℃以上550℃以下に加熱して行うことが記載されている(段落[0080]、本件発明1の「第1脱塩素工程」に相当。)。そして、当該脱塩素処理により、酸化チタン粒子のCl濃度を請求項11で規定する0.20質量%以下にできるから(段落[0104]の表2)、酸化チタン粒子のCl濃度をさらに低減することが動機付けられるとはいえない。
仮に、酸化チタン粒子のCl濃度をさらに低減することが動機付けられたとしても、上記aで述べたとおり、甲第B1号証には、追加で脱塩素処理を行うことが記載されていないから、甲B1発明1において、具体的な工程として、相違点2-1に係る発明特定事項を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
c 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲B1発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 申立人Bの主張について
(ア)申立人Bは、特許異議申立書の第15ページ第11~26行において、「一方、本件特許発明1の方法によって製造される酸化チタン粒子のCl含有量は2000質量ppm以下であるが、「第2脱塩素工程」を含まない甲1発明1においても0.20質量%(2000質量ppm)以下であり、脱塩素の効果に関して全く同じ水準であるから、この第2脱塩素工程は、脱塩素というよりも、第1脱塩素工程によって加熱脱水した酸化チタンを、水蒸気や水滴を噴霧して、再水和していることに他ならない。
甲第5号証(当合議体注:甲第B5号証。以下同じ。)には「加熱脱水した酸化チタンを再び水蒸気や水に浸漬すると,・・・再びOH基を化学結合し再水和する」(第55頁第4行~第7行目)ことが記載されおり、また甲第4号証(当合議体注:甲第B4号証。以下同じ。)には「質量変化率の小さな二酸化チタンの製造方法」として「微小な水滴を粉体に噴霧」すること、「20℃~100℃の温水ならば微小水滴の蒸発と粉体への吸着促進に効果的であるため好適である。」ことが記載されている。(前記、甲4記載事項)
したがって、甲第5号証の知見に基づき、具体例として「微小な水滴を粉体に噴霧」する甲4記載事項を甲1発明1に適用することは、容易に想到し得るものである。なお、水滴噴霧のし方を「水蒸気を接触させながら30℃以上100℃未満で加熱する」とした点は、設計的事項にすぎない。」と主張する。
(イ)しかしながら、本件明細書の段落【0093】の表1-2、段落【0094】の表2-2をみると、第2脱塩素工程により、酸化チタン粒子のCl含有量が低減することが認められるから、第2脱塩素工程は、単なる再水和工程であるとはいえない。また、上記(ア)のとおり、甲第B4、B5号証には、脱塩素に係る事項が記載されていないから、甲第B4、B5号証の記載を考慮しても、甲B1発明1において、相違点2-1に係る発明特定事項を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、申立人Bの主張は採用できない。
エ まとめ
したがって、本件発明1は、甲第B1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。また、甲第B4、B5号証に記載された事項を考慮しても、本件発明1は、甲第B1号証に記載された発明及び甲第B4、B5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件特許の請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲B1号証に記載された発明及び甲B4、B5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2~5についても同様に、甲B1号証に記載された発明及び甲B4、B5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明6について
ア 対比
本件発明6と甲B1発明2とを対比する。
(ア)甲B1発明2において、「アナターゼ含有率が79%」であること及び「硝酸銀電位差滴定法により測定した酸化チタン粒子のCl含有量が0.14質量%」であることは、それぞれ、本件発明6において、「アナターゼ含有率が70%以上」であること及び「Cl含有量が2000質量ppm以下」であることに相当する。
(イ)上記1(2)1(イ)での検討を踏まえると、甲B1発明2における「マウンテック製比表面積測定装置(マックソーブ)で測定したBET比表面積」と本件発明6の「BET比表面積」とは、「BET比表面積」である点で共通する。
(ウ)甲B1発明2における、「酸化チタン粒子」は、本件発明6における、「酸化チタン粒子」に相当する。
(エ)そうすると、本件発明6と甲B1発明2とは、
「BET比表面積が規定され、アナターゼ含有率が70%以上、Cl含有量が2000質量ppm以下である酸化チタン粒子。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-2>
BET比表面積について、本件発明6では、3点法で測定して15~100m2/gであるのに対し、技術常識に照らして、「マックソーブ」が、1点法又は多点法でBET比表面積を測定する装置であることを踏まえると、甲B1発明2では、1点法又は多点法で測定して29m2/gである点。
<相違点2-3>
本件発明6では、BET比表面積をα(m2/g)、900℃に保持した電気炉内で1時間灼熱した後の粉体のBET比表面積をβ(m2/g)、900℃に保持した電気炉内で1時間灼熱したときの質量減少率を灼熱減量X(質量%)とした場合、その灼熱減量Xが式(1)を満たすのに対し、甲B1発明2では、灼熱減量が不明であり、灼熱減量が式(1)を満たすのかが不明である点。
イ 判断
(ア)事案に鑑み、相違点2-3を検討する。
a 相違点2-3が実質的な相違点であるかについて
甲第B1号証には、酸化チタン粒子を灼熱することが記載されていないから、甲B1発明2の酸化チタン粒子の灼熱減量が不明であり、当該灼熱減量が式(1)を満たすかも不明である。また、技術常識を考慮しても、甲B1発明2の酸化チタン粒子の灼熱減量が式(1)を満たすかは不明である。
よって、相違点2-3は、実質的な相違点である。
b 相違点2-3の容易想到性について
上記aで述べたとおり、甲第B1号証には、酸化チタン粒子を灼熱することが記載されておらず、また、酸化チタン粒子の高湿雰囲気下での質量変化についても記載されていないから、甲B1発明2において、相違点2-3に係る発明特定事項を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
c 小括
以上のとおり、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明6は、甲B1発明2であるとはいえない。また、本件発明6は、甲B1発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 申立人Bの主張について
(ア)申立人Bは、特許異議申立書の第17ページ第10行~第19ページ第12行において、甲第B5号証により、「結晶を取りまく空気の相対湿度温度の変化に応じ吸着平衡が崩れ,水分の吸脱着が行われる」ことが周知であり、また、甲第B4号証には「脱塩素処理後の粉体を高湿度環境中に保管する方法」について記載があり、「高湿度の環境に静置することによって、目標とする水分量を吸着させ安定化させることができる」(段落【0088】)から、甲第B1号証に記載される酸化チタン粒子は、いつかは空気中の水分を吸着して、本件発明6の酸化チタン粒子と同一の酸化チタン粒子となる旨を主張し、さらに、甲第B4号証には、「質量変化率の小さな二酸化チタン」を得るために、「微小な水滴を粉体に噴霧」(段落【0087】)する記載があるから、甲第B4号証に記載された事項を、甲第B1号証に記載された酸化チタン粒子に適用することは、容易に想到し得るものである旨を主張する。
(イ)しかしながら、甲第B1号証には、酸化チタン粒子の灼熱減量が記載されていないから、仮に、甲第B1号証に記載される酸化チタン粒子が、空気中の水分を吸着したとしても、本件発明6の酸化チタン粒子と同一の酸化チタン粒子となっているかは不明である。また、甲第B1号証には、酸化チタン粒子の高湿雰囲気下での質量変化についての記載もないから、甲第B1号証に記載された酸化チタン粒子に対し、微小な水滴を噴霧することが動機付けられるとはいえない。仮に、このことが動機付けられたとしても、微小な水滴を噴霧された酸化チタン粒子の灼熱減量Xが式(1)を満たすかどうかは不明である。
よって、申立人Bの主張は採用できない。
エ まとめ
したがって、本件発明6は、甲第B1号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明6は、甲第B1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。さらに、甲第B4、B5号証に記載された事項を考慮しても、本件発明6は、甲第B1号証に記載された発明及び甲第B4、B5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)本件発明7~9について
本件発明7~9は、本件特許の請求項6の記載を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明6の発明特定事項をすべて備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明6が、甲第B1号証に記載された発明とはいえず、また、甲第B1号証に記載された発明及び甲第B4、B5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明7~9についても同様に、甲第B1号証に記載された発明とはいえず、また、甲第B1号証に記載された発明及び甲第B4、B5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(6)申立理由B1(新規性)、申立理由B2(進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、申立理由B1(新規性)、申立理由B2(進歩性)によっては、本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
6 申立理由B3(新規性)、申立理由B4(進歩性)について
(1)甲第B2号証に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲第B2号証には、「アナターゼ型酸化チタン粉末およびその製造方法」(発明の名称)に関する記載があり、その実施例の記載、特に、第5ページ第22行~第6ページ13行、第7ページの第1表に記載の実施例1のアナターゼ型酸化チタン粉末に着目すると、次の発明(以下「甲B2発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲B2発明>
平均粒径が70nmであり、ルチル化率が4.6%であり、BET比表面積が26.0m2/gであり、不純物含有量が、S:10ppm未満、Fe:10ppm、Al:10ppm未満、Si:10ppm未満、Na:10ppm未満、Cl:500ppmであり、粒度分布が、D90:1.80μm、D50:0.60μm、D10:0.18μm、SPAN:2.7である、アナターゼ型酸化チタン粉末。
(2)本件発明6について
ア 対比
本件発明6と甲B2発明とを対比する。
(ア)上記1(2)1(イ)での検討を踏まえると、甲B2発明における「BET比表面積」と本件発明6の「BET比表面積」とは、「BET比表面積」である点で共通する。
(イ)甲B2発明において、「Cl:500ppm」であることは、本件発明6において、「Cl含有量が2000質量ppm以下」であることに相当する。
(ウ)甲B2発明の「酸化チタン粉末」は、本件発明6の「酸化チタン粒子」に相当する。
(エ)そうすると、本件発明6と甲B2発明とは、
「BET比表面積が規定され、Cl含有量が2000質量ppm以下である、酸化チタン粒子。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点3-1>
BET比表面積について、本件発明6では、3点法で測定した「BET比表面積が15~100m2/g」であるのに対し、甲B2発明では、「BET比表面積が26.0m2/g」ではあるものの、その測定方法が不明である点。
<相違点3-2>
本件発明6では、「アナターゼ含有率が70%以上」であるのに対し、甲B2発明では、ルチル化率が4.6%のアナターゼ型ではあるものの、「アナターゼ含有率」が不明である点。
<相違点3-3>
本件発明6では、灼熱減量Xが式(1)を満たすのに対し、甲B2発明では、灼熱減量が不明である点。
イ 判断
(ア)事案に鑑み、相違点3-3を検討する。
a 相違点3-3が実質的な相違点であるかについて
甲第B2号証には、酸化チタン粉末を灼熱することが記載されていないから、甲B2発明の酸化チタン粉末の灼熱減量が不明であり、当該灼熱減量が式(1)を満たすかも不明である。また、技術常識を考慮しても、甲B2発明の酸化チタン粉末の灼熱減量が式(1)を満たすかは不明である。
よって、相違点3-3は、実質的な相違点である。
b 相違点3-3の容易想到性について
上記aで述べたとおり、甲第B2号証には、酸化チタン粉末を灼熱することが記載されておらず、また、酸化チタン粉末の高湿雰囲気下での質量変化についても記載されていないから、甲B2発明において、相違点3-3に係る発明特定事項を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
c 小括
以上のとおり、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明6は、甲B2発明であるとはいえない。また、本件発明6は、甲B2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 申立人Bの主張について
申立人Bは、特許異議申立書の第19ページ第13行~第20ページ第26行において、上記5(4)ウ(ア)と同様の主張をしているが、上記5(4)ウ(イ)と同様の理由により、申立人Bの主張は採用できない。
エ まとめ
したがって、本件発明6は、甲第B2号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明6は、甲第B2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。さらに、甲第B4、B5号証に記載された事項を考慮しても、本件発明6は、甲第B2号証に記載された発明及び甲第B4、B5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)申立理由B3(新規性)、申立理由B4(進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、申立理由B3(新規性)、申立理由B4(進歩性)によっては、本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
7 申立理由B5(新規性)、申立理由B6(進歩性)について
(1)甲第B3号証に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲第B3号証には、「酸化チタン粒子及びその製造方法」(発明の名称)に関する記載があり、その実施例の記載、特に、段落[0073]の表2に記載の実施例13の酸化チタン粒子に着目し、技術常識に照らして、「FlowSorbII 2300」が、1点法でBET比表面積を測定する装置であることを踏まえると、次の発明(以下「甲B3発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲B3発明>
D50が45nm、D90が95nm、1点法で測定したBET比表面積が81m2/g、BET径が19nm、(D90/BET径)が5、炭素含有量が0.1mass%、結晶型が(アナタース/ルチル)、ルチル化率が1.5%、細孔容積が0.37ml/g、塩素量が0.005mass%である、酸化チタン粒子。
(2)本件発明6について
ア 対比
本件発明6と甲B3発明とを対比する。
(ア)上記1(2)1(イ)での検討を踏まえると、甲B3発明における「BET比表面積」と本件発明6の「BET比表面積」とは、「BET比表面積」である点で共通する。
(イ)甲B3発明において、「塩素量が0.005mass%」であることは、本件発明6において、「Cl含有量が2000質量ppm以下」であることに相当する。
(ウ)甲B3発明の「酸化チタン粉末」は、本件発明6の「酸化チタン粒子」に相当する。
(エ)そうすると、本件発明6と甲B3発明とは、
「BET比表面積が規定され、Cl含有量が2000質量ppm以下である、酸化チタン粒子。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点4-1>
BET比表面積について、本件発明6では、3点法で測定した「BET比表面積が15~100m2/g」であるのに対し、甲B3発明では、「1点法で測定したBET比表面積が81m2/g」である点。
<相違点4-2>
本件発明6では、「アナターゼ含有率が70%以上」であるのに対し、甲B2発明では、結晶型が(アナタース/ルチル)であり、ルチル化率が1.5%ではあるものの、「アナターゼ含有率」が不明である点。
<相違点4-3>
本件発明6では、灼熱減量Xが式(1)を満たすのに対し、甲B3発明では、灼熱減量が不明である点。
イ 判断
(ア)事案に鑑み、相違点4-3を検討する。
a 相違点4-3が実質的な相違点であるかについて
甲第B3号証には、酸化チタン粒子を灼熱することが記載されていないから、甲B3発明の酸化チタン粒子の灼熱減量が不明であり、当該灼熱減量が式(1)を満たすかも不明である。また、技術常識を考慮しても、甲B3発明の酸化チタン粒子の灼熱減量が式(1)を満たすかは不明である。
よって、相違点4-3は、実質的な相違点である。
b 相違点4-3の容易想到性について
上記aで述べたとおり、甲第B3号証には、酸化チタン粒子を灼熱することが記載されておらず、また、酸化チタン粒子の高湿雰囲気下での質量変化についても記載されていないから、甲B3発明において、相違点4-3に係る発明特定事項を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
c 小括
以上のとおり、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明6は、甲B3発明であるとはいえない。また、本件発明6は、甲B3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 申立人Bの主張について
申立人Bは、特許異議申立書の第20ページ下から第3行~第22ページ第1行において、上記5(4)ウ(ア)と同様の主張をしているが、上記5(4)ウ(イ)と同様の理由により、申立人Bの主張は採用できない。
エ まとめ
したがって、本件発明6は、甲第B3号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明6は、甲第B3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。さらに、甲第B4、B5号証に記載された事項を考慮しても、本件発明6は、甲第B3号証に記載された発明及び甲第B4、B5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)申立理由B5(新規性)、申立理由B6(進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、申立理由B5(新規性)、申立理由B6(進歩性)によっては、本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
8 申立理由B7(サポート要件)について
(1)本件発明6~13について、特許請求の範囲の記載が、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることは、上記3(1)で述べたとおりである。
(2)ア 申立人Bは、特許異議申立書の第22ページ下から第6行~第23ページ第12行において、本件明細書は、「灼熱減量X/灼熱減量理論値」として0.8~0.9を開示するのに対して、本件発明6の式(1)の範囲は灼熱減量理論値の2.1倍を上限とし、0.6倍を下限としているから、本件特許の請求項6及び請求項6の記載を引用する請求項7~9の記載は、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている旨を主張する。
イ 以下、検討すると、上記4(2)イで述べたとおり、式(1)の元となる式(2)は、各種の仮定に基づく式であり、灼熱時に、粒子表面に吸着した水分子が理想どおりに離脱するかは不明である。すなわち、1を閾値として、「灼熱減量X/灼熱減量理論値」が1より小さいと水分含有量が理論的な値よりも少なく、吸湿しやすい状態であり、1より大きいと水分含有量が理論的な値よりも多く、放湿しやすい状態であるかは不明である。
ここで、実施例における「灼熱減量X/灼熱減量理論値」(再計算値)と高湿雰囲気下での質量変化率との関係は、以下の図に示すとおりである(なお、申立人Bが述べるとおり、表2-1の計算値は誤りである。)。
[図:0001439232000001.jpg]
上記図の高湿雰囲気下での質量変化率は、実施例1~3が、高湿下での第2脱塩素工程を経ていることからみて、吸湿による質量変化であると認められる。そして、上記図の近似直線(y=-2.82x+4.25)によれば、吸湿による、高湿雰囲気下での質量変化率が0になるのは、「灼熱減量X/灼熱減量理論値」が、1.5程度の時である。
そうすると、「灼熱減量X/灼熱減量理論値」が0.6~1.5の範囲において、高湿雰囲気下での質量変化率は、2.5質量%以下であるから、この範囲において、「高湿雰囲気下での質量変化率が小さい」と認められる。
一方、「灼熱減量X/灼熱減量理論値」が1.5~2.1の範囲においては、放湿に転じると解されるが、通常の湿度において、酸化チタン粒子の表面に吸着可能な水分量には自ずと限界があるから、相対湿度80%の環境中に放湿可能な吸着水分が多量であるとはいえない。
そうすると、「灼熱減量X/灼熱減量理論値」が1.5~2.1の範囲においても、「高湿雰囲気下での質量変化率が小さい」と認められる。
以上によれば、本件特許の請求項6~9の記載は、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲のものと認められる。
よって、申立人Bの主張は採用できない。
(3)申立理由B7(サポート要件)のまとめ
以上のとおり、本件発明6~9について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである。
したがって、申立理由B7(サポート要件)によっては、本件特許の請求項6~9に係る特許を取り消すことはできない。
9 申立理由B8(サポート要件)について
(1)本件発明6~13について、特許請求の範囲の記載が、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることは、上記3(1)で述べたとおりである。
(2)ア 申立人Bは、特許異議申立書の第23ページ下から第12行~第24ページ第2行において、本件発明6の「Cl含有量」は、下限値の規定がなく、本件明細書には、Cl含有量を、実施例を下回る水準(700質量ppm未満)にするための技術開示がないから、本件特許の請求項6及び請求項6の記載を引用する請求項7~9の記載は、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている旨を主張する。
イ しかしながら、上記3(2)イ(イ)で述べたとおり、実施例に記載の傾向を踏まえると、当業者であれば、第2脱塩素工程のH2O/TiO2(質量比)を大きくするか、脱塩素処理時間を長くすれば、Cl含有量が700質量ppm未満の酸化チタン粒子が得られることが理解できる。
よって、申立人Bの主張は採用できない。
(3)申立理由B8(サポート要件)のまとめ
以上のとおり、本件発明6~9について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである。
したがって、申立理由B8(サポート要件)によっては、本件特許の請求項6~9に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2026-700007