特許異議申立
2024-700816
電解コンデンサ用電極箔、電解コンデンサおよびそれらの製造方法
- 審判番号
- 2024-700816
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-501554
- 登録番号
- 7442099
- 請求日
- 2024年08月29日
- 審決日
- 2025年06月09日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】パナソニックIPマネジメント株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人河崎特許事務所
- 【異議申立人】大澤 豊
- 審判長/審判官
- 審判長 岩間 直純
- 審判官 須原 宏光
- 審判官 篠原 功一
- 分類
- P1651.113-ZC (H01G) / P1651.121-ZC (H01G) / P1651.537-ZC (H01G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7442099号発明「電解コンデンサ用電極箔、電解コンデンサおよびそれらの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7442099号の請求項9、10、23に係る特許を取り消す。
同請求項1ないし8、11ないし22に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7442099号の請求項1ないし23に係る発明についての出願は、2019年(令和元年)10月30日(優先権主張 平成31年2月28日)を国際出願日とする出願であって、令和6年2月22日にその特許権が設定登録され令和6年3月4日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立での経緯は、次の通りである。
令和 6年 8月29日 :特許異議申立人 大澤豊により請求項1ないし23に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 6年11月21日付け:取消理由通知書
令和 7年 1月24日 :特許権者による意見書の提出
令和 7年 2月19日付け:取消理由通知書(決定の予告)
第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし23に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明23」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし23に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
金属多孔質部と、前記金属多孔質部に連続する金属芯部と、を備え、
前記金属多孔質部の厚み方向において、前記金属多孔質部を、前記金属芯部側から順に、第1領域、第2領域および第3領域に3等分割するとき、前記第1領域の空隙率P1、前記第2領域の空隙率P2および前記第3領域の空隙率P3が、P1<P2<P3およびP2/P1<P3/P2を満たす、電解コンデンサ用電極箔。
【請求項2】
P1が60%以下である、請求項1に記載の電解コンデンサ用電極箔。
【請求項3】
P2が70%以下である、請求項1または2に記載の電解コンデンサ用電極箔。
【請求項4】
P3が80%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用電極箔。
【請求項5】
さらに、前記金属多孔質部を構成する金属部分の表面の少なくとも一部を覆う誘電体層を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用電極箔。
【請求項6】
請求項5に記載の電解コンデンサ用電極箔と、
前記誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部と、を備える、電解コンデンサ。
【請求項7】
前記陰極部は、導電性高分子を含み、
前記導電性高分子は、前記第1領域にまで含浸している、請求項6に記載の電解コンデンサ。
【請求項8】
前記陰極部は、電解液を含み、
前記電解液は、前記第1領域にまで含浸している、請求項6または7に記載の電解コンデンサ。
【請求項9】
金属箔を準備する工程と、
前記金属箔を粗面化することにより金属多孔質部を形成する粗面化工程と、を有し、
前記粗面化工程は、前記金属箔に電流を印加するエッチング工程を含み、
前記エッチング工程は、
第1処理液中で、前記金属箔に第1電流密度の電流を印加して第1エッチング箔を得る第1電解ステップと、
前記第1電解ステップ後、第2処理液中で前記第1エッチング箔に第2電流密度の電流を印加して第2エッチング箔を得る第2電解ステップと、
前記第2電解ステップ後、第3処理液中で前記第2エッチング箔に第3電流密度の電流を印加して第3エッチング箔を得る第3電解ステップと、
前記第1電解ステップ後、前記第2電解ステップ前に、前記第1エッチング箔を洗浄する第1洗浄ステップと、
前記第2電解ステップ後、前記第3電解ステップ前に、前記第2エッチング箔を洗浄する第2洗浄ステップと、を有し、
第1電流密度>第2電流密度>第3電流密度の関係を満たす、電解コンデンサ用電極箔の製造方法。
【請求項10】
前記金属多孔質部の厚み方向において、前記金属多孔質部を、前記金属芯部側から順に、第1領域、第2領域および第3領域に3等分割するとき、前記第1領域の空隙率P1、前記第2領域の空隙率P2および前記第3領域の空隙率P3が、P1<P2<P3を満たす、請求項9に記載の電解コンデンサ用電極箔の製造方法。
【請求項11】
金属多孔質部と、前記金属多孔質部に連続する金属芯部と、を有する陽極体と、
前記金属多孔質部を構成する金属部分の表面の少なくとも一部を覆う誘電体層と、を備え、
前記誘電体層は、前記金属部分に含まれる第1金属とは異なる第2金属の酸化物を含む厚さT1の第1層を有し、
前記金属多孔質部の厚み方向において、前記金属多孔質部を、前記金属芯部側から順に、第1領域、第2領域および第3領域に3等分割するとき、前記第1領域の空隙率P1、前記第2領域の空隙率P2および前記第3領域の空隙率P3が、P1<P2<P3およびP2/P1<P3/P2を満たす、電解コンデンサ用電極箔。
【請求項12】
P1が60%以下である、請求項11に記載の電解コンデンサ用電極箔。
【請求項13】
P2が70%以下である、請求項11または12に記載の電解コンデンサ用電極箔。
【請求項14】
P3が80%以下である、請求項11~13のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用電極箔。
【請求項15】
前記第1金属はAlを含み、前記第2金属はTa、Nb、Ti、Si、ZrおよびHfからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項11~14のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用電極箔。
【請求項16】
前記金属部分と前記第1層との間に、前記第1金属の酸化物を含む厚さT2の第2層を有する、請求項11~15のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用電極箔。
【請求項17】
前記第1領域において、T1>T2である、請求項16に記載の電解コンデンサ用電極箔。
【請求項18】
前記誘電体層を有する前記金属多孔質部を、前記金属芯部側から順に、第1領域、第2領域および第3領域に3等分割するとき、前記第1領域の空隙率Q1、前記第2領域の空隙率Q2および前記第3領域の空隙率Q3が、Q1<Q2<Q3を満たす、請求項11~17のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用電極箔。
【請求項19】
金属多孔質部と、前記金属多孔質部に連続する金属芯部と、を有する陽極体と、
前記金属多孔質部を構成する金属部分の表面の少なくとも一部を覆う誘電体層と、を備え、
前記金属多孔質部の厚み方向において、前記誘電体層を有する前記金属多孔質部を、前記金属芯部側から順に、第1領域、第2領域および第3領域に3等分割するとき、前記第1領域の空隙率Q1、前記第2領域の空隙率Q2および前記第3領域の空隙率Q3が、Q1<Q2<Q3およびQ2/Q1<Q3/Q2を満たす、電解コンデンサ用電極箔。
【請求項20】
請求項11~19のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用電極箔と、
前記誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部と、を備える、電解コンデンサ。
【請求項21】
金属多孔質部と、前記金属多孔質部に連続する金属芯部と、を有する陽極体を準備する工程と、
前記金属多孔質部を構成する金属部分の表面を覆う誘電体層を形成する工程と、を備え、
前記金属多孔質部の厚み方向において、前記金属多孔質部を、前記金属芯部側から順に、第1領域、第2領域および第3領域に3等分割するとき、前記第1領域の空隙率P1、前記第2領域の空隙率P2および前記第3領域の空隙率P3が、P1<P2<P3およびP2/P1<P3/P2を満たし、
前記誘電体層を形成する工程は、気相法により、前記金属多孔質部の表面に、前記金属部分に含まれる第1金属とは異なる第2金属の酸化物を堆積させて厚さT1の第1層を形成することを含む、電解コンデンサ用電極箔の製造方法。
【請求項22】
前記誘電体層を形成する工程は、更に、前記第1層を有する陽極体を化成して、前記金属部分と前記第2金属の酸化物との間に、前記第1金属の酸化物を含む厚さT2の第2層を形成する工程、を有する、請求項21に記載の電解コンデンサ用電極箔の製造方法。
【請求項23】
請求項9、10、21または22に記載の電解コンデンサ用電極箔の製造方法が具備する工程と、
前記誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部を形成する工程と、を具備する、電解コンデンサの製造方法。」
第3 取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
請求項9、10及び23に係る特許に対して、当審が令和7年2月19日付けの取消理由通知(決定の予告)において特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1.(新規性)下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じ公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
2.(進歩性)下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
(1)甲第3号証を主引例とした場合の新規性、進歩性
●理由1(新規性)、理由2(進歩性)について
・請求項9
・引用文献等 甲第3号証
●理由2(進歩性)について
・請求項10
・引用文献等 甲第3号証、甲第7号証
・請求項23
・引用文献等 甲第3号証
(2)甲第4号証を主引例とした場合の新規性、進歩性
●理由1(新規性)、理由2(進歩性)について
・請求項9
・引用文献等 甲第4号証
●理由2(進歩性)について
・請求項10
・引用文献等 甲第4号証、甲第7号証
・請求項23
・引用文献等 甲第4号証
(3)甲第5号証を主引例とした場合の進歩性
●理由2(進歩性)について
・請求項9
・引用文献等 甲第5号証、甲第3号証
・請求項10
・引用文献等 甲第5号証、甲第3号証、甲第7号証
・請求項23
・引用文献等 甲第5号証、甲第3号証
<引用文献等一覧>
甲第3号証:特開平3-270117号公報
甲第4号証:中国特許出願公開第102013334号明細書及び抄訳文
甲第5号証:特開平2-189912号公報
甲第7号証:特開2015-115475号公報
2 当審の判断
2-1 甲第3号証を主引例とした場合の新規性、進歩性
(1)本件発明9について
ア 甲第3号証に記載された発明
実施例1に着目すると、甲第3号証(第1頁左下欄第4-14行、第2頁右上欄第9-左下欄第8行等)には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。
「アルミ箔のACエッチングを行う電解コンデンサ用アルミ箔の製造方法であって、
エッチング液中で、電流密度400mA/cm2の条件でエッチングを行う1段目エッチングと、
エッチング液中で、電流密度300mA/cm2の条件でエッチングを行う2段目エッチングと、
エッチング液中で、電流密度200mA/cm2の条件でエッチングを行う3段目エッチングと、
各エッチングの中間で、アルミ箔を超音波を印加した水に浸漬して洗浄する、
電解コンデンサ用アルミ箔の製造方法。」
イ 対比、判断
本件発明9と甲3発明を対比すると、次のことがいえる。
(ア)甲3発明は「アルミ箔のACエッチングを行う」のであるから、アルミ箔を準備する工程を有している。そして、当該工程は、本件発明9の「金属箔を準備する工程」に相当する。
(イ)甲3発明の「アルミ箔のACエッチング」は、本件発明9の「前記金属箔に電流を印加するエッチング工程」に相当する。
そして、甲第3号証には、エッチング処理により実効面積を拡大すること(即ち、粗面化)が記載されている(第1頁左下欄第17-19行)。また、エッチング処理により孔が形成されることは明らかであるから、甲3発明の「アルミ箔のACエッチング」は、本件発明9の「前記金属箔を粗面化することにより金属
多孔質部を形成する粗面化工程」に相当する。
(ウ)甲3発明の「エッチング液中で、電流密度400mA/cm2の条件でエッチングを行う1段目エッチングと、エッチング液中で、電流密度300mA/cm2の条件でエッチングを行う2段目エッチングと、エッチング液中で、電流密度200mA/cm2の条件でエッチングを行う3段目エッチング」は、本件発明9の「第1処理液中で、前記金属箔に第1電流密度の電流を印加して第1エッチング箔を得る第1電解ステップと、前記第1電解ステップ後、第2処理液中で前記第1エッチング箔に第2電流密度の電流を印加して第2エッチング箔を得る第2電解ステップと、前記第2電解ステップ後、第3処理液中で前記第2エッチング箔に第3電流密度の電流を印加して第3エッチング箔を得る第3電解ステップと、」「を有し、第1電流密度>第2電流密度>第3電流密度の関係を満たす」といえる。。
(エ)甲3発明の「各エッチングの中間で、アルミ箔を超音波を印加した水に浸漬して洗浄する」ことは、本件発明9の「前記第1電解ステップ後、前記第2電解ステップ前に、前記第1エッチング箔を洗浄する第1洗浄ステップと、前記第2電解ステップ後、前記第3電解ステップ前に、前記第2エッチング箔を洗浄する第2洗浄ステップと、を有」することに相当する。
(オ)甲3発明の「電解コンデンサ用アルミ箔の製造方法」は、本件発明9の「電解コンデンサ用電極箔の製造方法」に相当する。
したがって、本件発明9と甲3発明は相違するところがない。
よって、本件発明9は甲第3号証に記載された発明である。また、本件発明9は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)本件発明10について
甲第7号証には、エッチングすることにより、箔の深さ方向において、下部よりも上部の方の空隙率を高めることによって、次に行うメッキ工程において、金属層12を形成しやすくすることができると記載されている(【0053】)。
そうすると、甲3発明においても、金属多孔質部の下部よりも上部の方の空隙率を高めることにして、第1領域の空隙率P1、第2領域の空隙率P2および第3領域の空隙率P3が、P1<P2<P3を満たす関係を得ることは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、本件発明10は、甲第3号証に記載された発明及び甲第7号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件発明23について
電解コンデンサの製造方法において、誘電体層を覆う陰極部を形成することは周知である。
したがって、本件発明23は、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
2-2 甲第4号証を主引例とした場合の新規性、進歩性
(1)本件発明9について
ア 甲第4号証に記載された発明
実施例6に着目すると、甲第4号証([0006]~[0010]、[0021]、[0022]、[0033]、[0034]等)には次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「前処理→液体供給→一次腐食→二次腐食A→二次腐食B→後処理の工程を含む、コンデンサ陽極用アルミニウム箔の腐食のための電力供給方法であって([0006])、
液体供給は、前処理したアルミニウム箔を、16wt%の硝酸溶液と2wt%の塩酸を含む温度65℃の液体供給層に入れて、電流密度650mA/cm2の直流電流を150秒通電し、その後洗浄してから後工程に進む工程であり([0008]、[0021]、[0034])、
一次腐食は、液体供給処理したアルミニウム箔を、1~15wt%の塩酸と10~40wt%の硫酸を含む温度65~75℃の混合液に入れて、電流密度440mA/cm2の直流電流を180秒間流して電解腐食を行う工程であり([0009]、[0022])、
二次腐食Aは、一次腐食後のアルミニウム箔を純水で洗浄した後、1~10wt%の塩酸又は5~15wt%の硝酸を含む温度65~85℃の溶液に入れて、電流密度90mA/cm2の直流電流を600秒間流して電解腐食を行う工程である([0010]、[0022])、
コンデンサ陽極用アルミニウム箔の腐食のための電力供給方法。」
イ 対比、判断
本件発明9と甲4発明を対比すると、次のことがいえる。
(ア)甲4発明は「アルミニウム箔の腐食」を行うのであるから、アルミニウム箔を準備する工程を有している。そして、当該工程は、本件発明9の「金属箔を準備する工程」に相当する。
(イ)甲4発明の「液体供給」は、アルミニウム箔を、16wt%の硝酸溶液と2wt%の塩酸を含む温度65℃の液体供給層に入れて、電流密度650mA/cm2の直流電流を150秒通電しているので、アルミニウム箔がエッチングされていることが明らかであり、本件発明9の「前記金属箔に電流を印加するエッチング工程」に相当する。
同様に、甲4発明の「一次腐食」及び「二次腐食A」は、アルミニウム箔に電流を流して電解腐食を行うので、本件発明9の「前記金属箔に電流を印加するエッチング工程」に相当する。
また、甲4発明「一次腐食」及び「二次腐食A」は、コンデンサ陽極用アルミニウム箔の腐食であるから、アルミニウム箔を粗面化することにより金属多孔質部を形成していることは明らかであり、本件発明9の「前記金属箔を粗面化することにより金属多孔質部を形成する粗面化工程」に相当する。
(ウ)甲4発明の「液体供給」、「一次腐食」、「二次腐食A」は、それぞれ、本件発明9の「第1電解ステップ」、「第2電解ステップ」、「第3電解ステップ」に相当する。
そして、甲4発明において、液体供給の「電流密度650mA/cm2」、一次腐食の「電流密度440mA/cm2」、二次腐食Aの「電流密度90mA/cm2」であることは、本件発明9の「第1電流密度>第2電流密度>第3電流密度の関係を満たす」といえる。
(エ)甲4発明の「液体供給は、」「その後洗浄してから後工程に進む工程であり」、「二次腐食Aは、一次腐食後のアルミニウム箔を純水で洗浄した後」であることは、本件発明9の「前記第1電解ステップ後、前記第2電解ステップ前に、前記第1エッチング箔を洗浄する第1洗浄ステップと、前記第2電解ステップ後、前記第3電解ステップ前に、前記第2エッチング箔を洗浄する第2洗浄ステップと、を有」することに相当する。
(オ)甲4発明の「コンデンサ陽極用アルミニウム箔の腐食のための電力供給方法」は、アルミニウム箔を腐食してコンデンサ陽極用アルミニウム箔を製造するものなので、本件発明9の「電解コンデンサ用電極箔の製造方法」に相当する。
したがって、本件発明9と甲4発明は相違するところがない。
よって、本件発明9は甲第4号証に記載された発明である。また、本件発明9は、甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)本件発明10について
甲第7号証には、エッチングすることにより、箔の深さ方向において、下部よりも上部の方の空隙率を高めることによって、次に行うメッキ工程において、金属層12を形成しやすくすることができると記載されている(【0053】)。
そうすると、甲4発明においても、金属多孔質部の下部よりも上部の方の空隙率を高めることにして、第1領域の空隙率P1、第2領域の空隙率P2および第3領域の空隙率P3が、P1<P2<P3を満たす関係を得ることは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、本件発明10は、甲第4号証に記載された発明及び甲第7号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件発明23について
電解コンデンサの製造方法において、誘電体層を覆う陰極部を形成することは周知である。
したがって、本件発明23は、甲第4号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
2-3 甲第5号証を主引例とした場合の進歩性
(1)本件発明9について
ア 甲第5号証に記載された発明
実施例5に着目すると、甲第5号証(第2頁左上欄第16行-右上欄第4行、第4頁右上欄第1-8行、第8表等)には次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されている。
「電解コンデンサ用アルミニウム箔の製造方法において、エツチング工程を複数の交流エツチング工程に分け、後段のエツチング工程におけるエツチング電流密度について前段のエツチング工程におけるそれらよりも低い値とした条件でエツチングするようにしたものであって、
アルミニウム箔とエツチング液を使用して、3段階のエツチングを行い、
1段目の電流密度が、400mA/cm2、
2段目の電流密度が、300mA/cm2、
3段目の電流密度が、200mA/cm2である、
電解コンデンサ用アルミニウム箔の製造方法。」
イ 対比
本件発明9と甲5発明を対比すると、次のことがいえる。
(ア)甲5発明は「アルミニウム箔」「のエツチングを行」うのであるから、アルミニウム箔を準備する工程を有している。そして、当該工程は、本件発明9の「金属箔を準備する工程」に相当する。
(イ)甲5発明の「交流エツチング工程」は、本件発明9の「前記金属箔に電流を印加するエッチング工程」に相当する。
そして、甲第5号証には、交流エッチングにより、箔のエツチング形状として均一に微細な凹凸形状を得ることができることが記載されている(第1頁左下欄第4、5行)。また、エッチングにより孔が形成されることは明らかであるから、甲5発明の「交流エツチング工程」は、本件発明9の「前記金属箔を粗面化することにより金属多孔質部を形成する粗面化工程」に相当する。
(ウ)甲5発明の「アルミニウム箔とエツチング液を使用して、3段階のエツチングを行い、1段目の電流密度が、400mA/cm2、2段目の電流密度が、300mA/cm2、3段目の電流密度が、200mA/cm2である」ことは、本件発明9の「第1処理液中で、前記金属箔に第1電流密度の電流を印加して第1エッチング箔を得る第1電解ステップと、前記第1電解ステップ後、第2処理液中で前記第1エッチング箔に第2電流密度の電流を印加して第2エッチング箔を得る第2電解ステップと、前記第2電解ステップ後、第3処理液中で前記第2エッチング箔に第3電流密度の電流を印加して第3エッチング箔を得る第3電解ステップと、」「を有し、第1電流密度>第2電流密度>第3電流密度の関係を満たす」といえる。
但し、本件発明9は「前記第1電解ステップ後、前記第2電解ステップ前に、前記第1エッチング箔を洗浄する第1洗浄ステップと、前記第2電解ステップ後、前記第3電解ステップ前に、前記第2エッチング箔を洗浄する第2洗浄ステップと、を有」するのに対して、甲5発明にそのような特定がない点で相違する。
(エ)甲5発明の「電解コンデンサ用アルミニウム箔の製造方法」は、本件発明9の「電解コンデンサ用電極箔の製造方法」に相当する。
すると、本件発明9と甲5発明との相違点は次のとおりであり、その余の点で一致する。
(相違点)
本件発明9は「前記第1電解ステップ後、前記第2電解ステップ前に、前記第1エッチング箔を洗浄する第1洗浄ステップと、前記第2電解ステップ後、前記第3電解ステップ前に、前記第2エッチング箔を洗浄する第2洗浄ステップと、を有」するのに対して、甲5発明にそのような特定がない点。
ウ 判断
上記相違点について検討する。
電解コンデンサ用アルミニウム箔を複数のエツチング工程に分けて行う方法において、エッチング工程とエッチング工程の間で洗浄を行う技術は周知である(例えば、甲第3号証)。
甲5発明においても、上記周知技術を適用して相違点に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、本件発明9は、甲第5号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)本件発明10について
甲第7号証には、エッチングすることにより、箔の深さ方向において、下部よりも上部の方の空隙率を高めることによって、次に行うメッキ工程において、金属層12を形成しやすくすることができると記載されている(【0053】)。
そうすると、甲5発明においても、金属多孔質部の下部よりも上部の方の空隙率を高めることにして、第1領域の空隙率P1、第2領域の空隙率P2および第3領域の空隙率P3が、P1<P2<P3を満たす関係を得ることは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、本件発明10は、甲第5号証に記載された発明、甲第7号証に記載された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件発明23について
電解コンデンサの製造方法において、誘電体層を覆う陰極部を形成することは周知である。
したがって、本件発明23は、甲第5号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由等について
1 請求項1-8、11-22に係る特許に対する特許異議申立理由の概要は、以下のとおりである。
(1)申立理由1
請求項1-4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1-4に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1-4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2
請求項1-4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、
請求項5-8、19、20に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1-8、19、20に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3
請求項1-4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、請求項1-4に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1-4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(4)申立理由4
請求項1-4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて、
請求項5-8、19、20に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1-8、19、20に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(5)申立理由10
請求項1-8、11-22に係る発明は明確でないため、請求項項1-8、11-22に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
<証拠方法>
甲第1号証:アルミニウム電解箔カタログ(アルミニウム電解コンデンサ電極用 カタログ番号/F-154 1999年度版)、KDK販売株式会社、1999年、第6版、表紙、1-3頁、85頁
甲第2号証:かさばるAl電解コンデンサ蒸着技術で体積を1/2に、日経エレクトロニクス、日経BP社、2005年6月20日、第902号、38-39頁
甲第3号証:特開平3-270117号公報
甲第4号証:中国特許出願公開第102013334号明細書
甲第5号証:特開平2-189912号公報
甲第6号証:山ノ井智明、アルミニウム電解コンデンサ用箔、軽金属、2014年、第64巻、第9号、419-432頁
甲第7号証:特開2015-115475号公報
甲第8号証:特開2005-223180号公報
甲第9号証:特開2006-196740号公報
甲第10号証:特開2005-194610号公報
甲第11号証:特開2012-79758号公報
甲第12号証:特開2005-101646号公報
甲第13号証:特開昭61-107715号公報
2 甲各号証の記載事項、引用発明
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証より次の事項が読み取れる。
・甲第1号証は、アルミニウム電解コンデンサ電極用アルミニウム電解箔に関するものである(表紙)。
・85頁の<写真-4>より、箔の表面のエッチング処理されたエッチング層と、箔の中央部の残存アルミニウム芯を備える低圧用エッチド箔が見て取れる。
・85頁の<写真-5>より、低圧用エッチド箔のエッチング層は、金属多孔質であることが見て取れる。
イ 甲第1号証に記載された発明
以上のことより、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「箔の表面の金属多孔質であるエッチング層と、箔の中央部の残存アルミニウム芯を備える低圧用エッチド箔である、アルミニウム電解コンデンサ電極用アルミニウム電解箔。」
(2)甲第2号証
ア 甲第2号証より次の事項が読み取れる。
・甲第2号証は、Al電解コンデンサに関する記事であるから(38頁、タイトル)、38頁の図2に示された陽極箔はAl電解コンデンサ用であることが明らかである。
・38頁の図2の左側の写真(エッチング(陽極箔))には、Al箔表面がエッチング加工された陽極箔断面が示されている。
・38頁の図2の左側下の拡大した写真より、エッチング加工された部分は金属多孔質であることが見て取れる。
イ 甲第2号証に記載された発明
以上のことより、甲第2号証には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
「エッチング加工された部分が金属多孔質である、Al箔の表面がエッチング加工されたAl電解コンデンサ用陽極箔。」
3 当審の判断
(1)申立理由1(第29条第1項第3号)、申立理由2(第29条第2項)について(甲第1号証を主引例とした場合の新規性、進歩性)
ア 本件発明1
(ア)対比
本件発明1と甲1発明を対比すると、次のことがいえる。
a 甲1発明の「箔の表面の金属多孔質であるエッチング層」は、本件発明1の「金属多孔質部」に相当する。
b 甲1発明はエッチド箔に関するものであるから、「エッチング層」と「残存アルミニウム芯」は連続である。
したがって、甲1発明の「箔の中央部の残存アルミニウム芯」は、本件発明1の「前記金属多孔質部に連続する金属芯部」に相当する。
c 甲1発明の「アルミニウム電解コンデンサ電極用アルミニウム電解箔」は、本件発明1の「電解コンデンサ用電極箔」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「金属多孔質部と、前記金属多孔質部に連続する金属芯部と、を備える、電解コンデンサ用電極箔。」
(相違点1a)
本件発明1は「前記金属多孔質部の厚み方向において、前記金属多孔質部を、前記金属芯部側から順に、第1領域、第2領域および第3領域に3等分割するとき、前記第1領域の空隙率P1、前記第2領域の空隙率P2および前記第3領域の空隙率P3が、P1<P2<P3およびP2/P1<P3/P2を満たす」のに対して、甲1発明はそのような特定がない点。
(イ)判断
a 第29条第1項第3号について
本件発明1と甲1発明とは相違点1aを有しているので、本件発明1は甲第1号証に記載された発明でない。
b 第29条第2項について
上記相違点1aについて検討する。
(a)甲第1号証の85頁には、<写真-4>として「低圧用エッチド箔断面の電子顕微鏡写真」が掲載され、「U135などの低圧用エッチド箔の断面(製品厚み105μm)を400倍に拡大した写真です。箔の中央部に残存アルミニウム芯が均一に形成されています。」と説明が記載され、<写真-5>として「低圧用エッチド箔ピット構造の電子顕微鏡写真」が掲載され、「<写真-4>で示されている低圧用エッチド箔のエッチング層の先端を50,000倍に拡大した写真です。<ぶどうのふさ>のように見えるのがエッチングピットです。」と説明が記載されているが、エッチング層の空隙率について何ら説明されていない。
また、特許異議申立の証拠として提出された、甲第2号証~甲第13号証には、何れも上記相違点1aに係る構成について記載されていない。
そうすると、甲1発明に基づいて、上記相違点1aに係る構成を導き出すことはできない。
(b)ここで、特許異議申立人は、甲第1号証の低圧用エッチド箔断面の電子顕微鏡写真(85頁、写真-4)から、エッチング処理された部分(エッチド部分)の空隙率を以下の方法で求めている。
1.画像解析ソフト「ImageJ」にて低圧用エッチド箔断面の電子顕微鏡写真の画像を開き、箔の下側に位置するエッチド部分を切り出す。
2.切り出されたエッチド部分の画像を8bitに変換し、二値化する。
3.二値化画像を白黒に変換する。
4.エッチド箔の表面側から残存アルミニウム芯側に向かって、画像を0.26μm間隔に141に分割し、各分割位置での空隙率を測定する。ここで、表面から47番目の分割位置までを第3領域とし、48~94番目までの分割位置を第2領域とし、95~141番目までの分割位置を第1領域と区分した。
5.第3領域、第2領域及び第1領域のそれぞれの領域の空隙率の平均値を算出し、これを第3領域、第2領域及び第1領域のそれぞれの空隙率とした。
以上の方法で算出した、各領域の空隙率は以下の通りである。
・すべての分割位置での空隙率を平均したもの
第1領域:24.1%
第2領域:41.5%
第3領域:77.4%
・奇数番号の分割位置での空隙率を平均したもの
第1領域:23.8%
第2領域:41.5%
第3領域:77.4%
・偶数番号の分割位置での空隙率を平均したもの
第1領域:24.4%
第2領域:41.5%
第3領域:77.4%
(特許異議申立書35-40頁)
特許異議申立人が算出した空隙率について検討する。
まず、甲第1号証の<写真-4>は不鮮明な印刷画像である。そして、特許異議申立人は、不鮮明な印刷画像をそのまま8bitの数値データに変換した後、二値化して空隙率を算出している。その際に、8bitに変換し二値化した画像(特許異議申立書37頁参照)は、空隙とも空隙以外の部分とも明確には云えない領域が多く見て取れる不明瞭なものである。そうすると、算出された上記の空隙率は、写真-4の撮影に使用されたエッチド箔そのものの空隙率を正確に反映しているとは到底いえない。
よって、特許異議申立人が甲第1号証から算出した空隙率を採用することができない。
(c)したがって、上記相違点1aに係る構成は、甲1発明に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2-4
本件発明1を引用する本件発明2-4は、本件発明1の構成を全て含み、更に他の構成を付加したものであるから本件発明1と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明でない。また、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明5-8
本件発明1を引用する本件発明5-8は、本件発明1の構成を全て含み、更に他の構成を付加したものである。そして、甲第6号証には、上記相違点1aに係る構成は記載されていない。したがって、本件発明1と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明、及び甲第6号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明19
(ア)対比
本件発明1と甲1発明との対比を踏まえると(上記「ア(ア)」)、本件発明19と甲1発明との相違点は以下のとおりである。
(相違点2a)
本件発明19は「前記金属多孔質部を構成する金属部分の表面の少なくとも一部を覆う誘電体層と、を備え」るのに対して、甲1発明はそのような特定がない点。
(相違点3a)
本件発明19は「前記金属多孔質部の厚み方向において、前記誘電体層を有する前記金属多孔質部を、前記金属芯部側から順に、第1領域、第2領域および第3領域に3等分割するとき、前記第1領域の空隙率Q1、前記第2領域の空隙率Q2および前記第3領域の空隙率Q3が、Q1<Q2<Q3およびQ2/Q1<Q3/Q2を満たす」のに対して、甲1発明はそのような特定がない点。
(イ)判断
まず、上記相違点3aについて検討する。
甲1発明は「アルミニウム電解コンデンサ電極用アルミニウム電解箔」に関するものであり、金属部分を覆う誘電体層は形成されていない。また、甲第1号証にも、誘電体層を形成したものは記載されておらず、ましてや、誘電体層を設けた「アルミニウム電解コンデンサ電極用アルミニウム電解箔」の空隙率について何ら記載されていない。
また、特許異議申立の証拠として提出された、甲第2号証~甲第13号証には、何れも上記相違点3aに係る構成について記載されていない。
そうすると、甲1発明及び甲第6号証に記載された技術に基づいて、上記相違点3aに係る構成を導き出すことはできない。
ここで、特許異議申立人は「本件特許明細書には、「Pl<P2<P3が満たされる場合、第2電極箔の空隙率もQl<Q2<Q3を満たす。」との記載がある(段落【0025】)。そうすると、甲1発明に空隙率を反映した甲1-1発明、甲1-2発明及び甲1-3発明は、いずれもPl<P2<P3及びP2/Pl<P3/P2を満たす発明であるから、本件特許発明19に記載された「Ql<Q2<Q3」及び「Q2/Ql<Q3/Q2」を満たす蓋然性が高い。」と主張している。(特許異議申立書46頁)
しかしながら、上記本件発明1で検討したとおりであるから、特許異議申立人の主張を採用することができない。
したがって、上記相違点3aに係る構成は、甲1発明及び甲第6号証に記載された技術に基いて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明19は、甲第1号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明20
本件発明19を引用する本件発明20は、本件発明19の構成を全て含み、更に他の構成を付加したものである。したがって、本件発明19と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)申立理由3(第29条第1項第3号)、申立理由4(第29条第2項)について(甲第2号証を主引例とした場合の新規性、進歩性)
ア 本件発明1
(ア)対比
本件発明1と甲2発明を対比すると、次のことがいえる。
a 甲2発明の「金属多孔質である」「エッチング加工された部分」は、本件発明1の「金属多孔質部」に相当する。
b 甲2発明は「Al箔の表面がエッチング加工された」ものであるから、「エッチング加工された部分」と「Al箔」は連続である。
したがって、甲2-1発明の「Al箔」は、本件発明1の「前記金属多孔質部に連続する金属芯部」に相当する。
c 甲2発明の「Al電解コンデンサ用陽極箔」は、本件発明1の「電解コンデンサ用電極箔」に相当する。
したがって、本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「金属多孔質部と、前記金属多孔質部に連続する金属芯部と、を備える、電解コンデンサ用電極箔。」
(相違点1b)
本件発明1は「前記金属多孔質部の厚み方向において、前記金属多孔質部を、前記金属芯部側から順に、第1領域、第2領域および第3領域に3等分割するとき、前記第1領域の空隙率P1、前記第2領域の空隙率P2および前記第3領域の空隙率P3が、P1<P2<P3およびP2/P1<P3/P2を満たす」のに対して、甲2発明はそのような特定がない点。
(イ)判断
a 第29条第1項第3号について
本件発明1と甲2発明とは相違点1bを有しているので、本件発明1は甲第2号証に記載された発明でない。
b 第29条第2項について
上記相違点1bについて検討する。
甲第2号証の38頁の図2には、エッチング(陽極箔)の写真が掲載され、「図2 より小さな構造が可能に Al箔表面にAlを蒸着させることで大きさが20nm程度の細かな穴を形成する。電極箔の厚みは従来より薄い。従来のエッチングによる加工では、1辺が200nm~300nmの立方体が積み重なった構造の穴しか作れなかった。表面に穴を細かく形成することで.より小さなAl箔で同じ表面積を得る。蒸着加工したAl箔が黒く見えるのは塗装ではなく,入射した光が表面に形成された凹凸の谷間で乱反射し外に出てこないためである。」と説明が記載されているが、エッチング層の空隙率について何ら説明されていない。
また、特許異議申立の証拠として提出された、甲第1号証、甲第3号証~甲第13号証には上記相違点1bに係る構成について記載されていない。
そうすると、甲2発明に基づいて、上記相違点1bに係る構成を導き出すことはできない。
ここで、特許異議申立人は、甲第2号証のAl箔表面がエッチング加工された陽極箔断面の写真(38頁、図2)から、空隙率を求めている。(特許異議申立書48-53頁)
しかしながら、甲第2号証の図2は不鮮明な印刷画像であり、特許異議申立人が算出した空隙率は、写真(エッチング(陽極箔))の撮影に使用された陽極箔そのものの空隙率を正確に反映しているとは到底いえない。
よって、特許異議申立人が甲第2号証から算出した空隙率を採用することができない。
したがって、上記相違点1bに係る構成は、甲2発明に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2-4
本件発明1を引用する本件発明2-4は、本件発明1の構成を全て含み、更に他の構成を付加したものであるから本件発明1と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明でない。また、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明5-8
本件発明1を引用する本件発明5-8は、本件発明1の構成を全て含み、更に他の構成を付加したものである。そして、甲第6号証には、上記相違点1bに係る構成は記載されていない。したがって、本件発明1と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明、及び甲第6号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明19
(ア)対比
本件発明1と甲2発明との対比を踏まえると(上記「ア(ア)」)、本件発明19と甲2発明との相違点は以下のとおりである。
(相違点2b)
本件発明19は「前記金属多孔質部を構成する金属部分の表面の少なくとも一部を覆う誘電体層と、を備え」るのに対して、甲2発明はそのような特定がない点。
(相違点3b)
本件発明19は「前記金属多孔質部の厚み方向において、前記誘電体層を有する前記金属多孔質部を、前記金属芯部側から順に、第1領域、第2領域および第3領域に3等分割するとき、前記第1領域の空隙率Q1、前記第2領域の空隙率Q2および前記第3領域の空隙率Q3が、Q1<Q2<Q3およびQ2/Q1<Q3/Q2を満たす」のに対して、甲2発明はそのような特定がない点。
(イ)判断
まず、上記相違点3bについて検討する。
甲2発明は「Al電解コンデンサ用陽極箔」に関するものであり、金属部分を覆う誘電体層は形成されていない。また、甲第2号証にも、誘電体層を形成したものは記載されておらず、ましてや、誘電体層を設けた「Al電解コンデンサ用陽極箔」の空隙率について何ら記載されていない。
また、特許異議申立の証拠として提出された、甲第1号証、甲第3号証~甲第13号証には、何れも上記相違点3bに係る構成について記載されていない。
そうすると、甲2発明及び甲第6号証に記載された技術に基づいて、上記相違点3bに係る構成を導き出すことはできない。
ここで、特許異議申立人は「本件特許明細書には、「Pl<P2<P3が満たされる場合、第2電極箔の空隙率もQl<Q2<Q3を満たす。」との記載がある(段落【0025】)。そうすると、甲2発明に空隙率を反映した甲2-1発明及び甲2-2発明は、いずれもPl<P2<P3及びP2/Pl<P3/P2を満たす発明であるから、本件特許発明19に記載された「Ql<Q2<Q3」及び「Q2/Ql<Q3/Q2」を満たす蓋然性が高い。」と主張している。(特許異議申立書60頁)
しかしながら、上記本件発明1で検討したとおりであるから、特許異議申立人の主張を採用することができない。
したがって、上記相違点3bに係る構成は、甲2発明及び甲第6号証に記載された技術に基いて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明19は、甲第2号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明20
本件発明19を引用する本件発明20は、本件発明19の構成を全て含み、更に他の構成を付加したものである。したがって、本件発明19と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)申立理由10(第36条第6項第2号)について
ア 特許異議申立人の主張
(ア)空隙率の平均値について
本件特許の発明の詳細な説明には「第1領域、第2領域および第3領域において、等間隔に任意の位置での空隙率を複数抽出し、複数の空隙率の平均値を計算して、空隙率P1、空隙率P2および空隙率P3とすればよい。」(【0038】)との記載があり、本件発明1における第1領域の空隙率P1、第2領域の空隙率P2および第3領域の空隙率P3は、各領域において等間隔の任意の位置で抽出された複数の空隙率の平均値を意味するものと理解される。
しかしながら、本件特許の図7及び図8に示されるように、金属多孔質部の空隙率は、全体的な傾向として、陽極体の表面から金属芯部に向かって低くなっているものの、この傾向は連続的なものではなく、大きく変動していることが分かる。そうすると、第1領域の空隙率P1、第2領域の空隙率P2および第3領域の空隙率P3のそれぞれの空隙率を求めるために抽出される位置によって各領域の空隙率は変動するものと認められる。
そうすると、金属多孔質部を構成する各領域の空隙率の測定方法は、発明の詳細な説明の記載、及び本件特許の出願当時の技術常識によって、明らかであるといえず、本件発明1における第1領域の空隙率P1、第2領域の空隙率P2および第3領域の空隙率P3のそれぞれの空隙率が一義的に定まることはない。(特許異議申立書89-91頁)
(イ)金属多孔質部と金属芯部との境界について
金属多孔質部の空隙率を測定するためには、電子顕微鏡写真において金属多孔質部の厚さ方向の断面を特定する必要があり、金属多孔質部と金属芯部の境界を一義的に定めることが必須である。
金属多孔質部と金属芯部の境界は、図2に示されるように蛇行した曲線となる場合がある。また、本件特許の発明の詳細な説明には「エッチングは、例えば、直流電流による直流エッチングまたは交流電流による交流エッチングにより行われ得る。」(【0060】)と記載されているとおり、金属多孔質部のビットには、直流エッチングによるトンネル状のエッチピット、交流エッチングよるスポンジ状のエッチピット等があり、このようなエッチピット形状の違いによっても、金属多孔質部と金属芯部の境界の形状は変わるものと解される。
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明には金属多孔質部と金属芯部の境界をどのように定めるのか具体的な説明はない。
そうすると、金属多孔質部を構成する各領域の空隙率の測定方法は、発明の詳細な説明の記載、及び本件特許の出願当時の技術常識によって、明らかであるといえず、本件発明1における第1領域の空隙率P1、第2領域の空隙率P2および第3領域の空隙率P3のそれぞれの空隙率が一義的に定まることはない。(特許異議申立書91、92頁)
(ウ)金属多孔質部の範囲について
本件発明1に特定はないものの、電解コンデンサ用電極箔は、一般的には、電極箔の両方の表面に金属多孔質部が形成されている。しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明では、本件発明1の金属多孔質部が、電解コンデンサ用電極箔に形成される金属多孔質部のいずれを指すのか(電解コンデンサ用電極箔に形成される金属多孔質部のうちいずれか一方を指すのか、少なくとも一方を指すのか、両方をさすのか)を定めていない。このため、電解コンデンサ用電極箔に形成される2つの金属多孔質部の空隙率が異なる場合に、いずれの金属多孔質部の空隙率を本件発明1の金属多孔質部の空隙率とすべきかを判断することができない。(特許異議申立書92頁)
上記(ア)-(ウ)により、本件発明1における第1領域の空隙率P1、第2領域の空隙率P2および第3領域の空隙率P3のそれぞれの空隙率が一義的に定める方法が明確でない。
イ 当審の判断
(ア)の主張について
本件特許の発明の詳細な説明には「陽極体の表面側から金属芯部側に向かって、陽極体の厚さ方向と平行な経路に沿って、画像を複数(例えば0.1μm間隔)に分割し、分割後の各部の空隙率の平均値を空隙率として算出する。」(【0038】)と記載されている。上記のように、画像を複数に分割するときの幅(例えば0.1μm間隔)が非常に小さくなれば、複数抽出される空隙率の具体的な数は膨大になり得るため、技術常識に鑑みれば「等間隔に任意の位置での空隙率を複数抽出」して空隙率の平均値を計算すれば、空隙率に多少の変動があるとしても、空隙率P1、空隙率P2および空隙率P3のそれぞれの空隙率が、一義的に定まることはないといえるほどの誤差は生じないと認められる。
したがって、上記(ア)の主張は採用できない。
(イ)の主張について
発明の詳細な説明には「金属多孔質部の厚さTは、金属芯部と金属多孔質部の厚さ方向の断面が得られるように第1電極箔または第2電極箔を切断し、断面の電子顕微鏡写真を撮影し、金属多孔質部の任意の10点の厚さの平均値として求めればよい。」(【0046】)と記載されている。
この記載を参酌すれば、金属多孔質部と金属芯部との境界は、金属多孔質部の表面からTの距離に引かれる金属多孔質部の表面と平行な直線に決まるため、「金属多孔質部と金属芯部との境界」は明確である。
したがって、上記(イ)の主張は採用できない。
(ウ)の主張について
本件発明1は、「金属多孔質部と、前記金属多孔質部に連続する金属芯部と、を備え、」「電解コンデンサ用電極箔。」と特定され、かつ「金属多孔質部」が空隙率の関係を満たすのであるから、電解コンデンサ用電極箔に形成される金属多孔質部が空隙率を満たしていればよく、2つの金属多孔質部の空隙率が異なる場合には、少なくとも一方の金属多孔質部が空隙率を満たしていれば、請求項1に記載されている要件を満たすことは明らかである。
したがって、上記(ウ)の主張は採用できない。
以上のように、(ア)~(ウ)の主張は採用できないので、本件発明1における第1領域の空隙率P1、第2領域の空隙率P2および第3領域の空隙率P3のそれぞれの空隙率を定める方法が明確である。
(4)小括
以上のとおりであるから、申立理由1-4、10によって、本件発明1-8、11-22に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、請求項9に係る発明は、甲第3号証又は甲第4号証に記載された発明であるから、請求項9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
請求項9に係る発明は、甲第3号証又は甲第4号証に記載された発明に基いて、甲第5号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
請求項10に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び甲第7号証に記載された技術に基いて、甲第4号証に記載された発明及び甲第7号証に記載された技術に基いて、甲第5号証に記載された発明、甲第7号証に記載された技術及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
請求項23に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基いて、甲第4号証に記載された発明及び周知技術に基いて、甲第5号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項23に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項9、10、23に係る特許は、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。
また、本件請求項1-8、11-22に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由又は特許異議申立人が特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことができない。
さらに、他に本件請求項1-8、11-22に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700816