特許異議申立
2025-700479
加工ラインシステム
- 審判番号
- 2025-700479
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-553907
- 登録番号
- 7575473
- 請求日
- 2025年04月28日
- 審決日
- 2026年03月26日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社三共製作所
- 【権利者代理人】弁理士法人浅村特許事務所
- 【異議申立人】山田 芳男
- 審判長/審判官
- 審判長 刈間 宏信
- 審判官 鈴木 貴雄
- 審判官 山田 康孝
- 分類
- P1651.113-YAA(B21D) / P1651.121-YAA(B21D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7575473号発明「加工ラインシステム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7575473号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
特許第7575473号の請求項1~4、6、8~10に係る特許を維持する。
特許7575473号の請求項5、7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 特許掲載公報発行までの経緯
特許第7575473号(以下「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)9月24日(優先権主張 令和2年9月30日)を国際出願日とする国際特許出願であって、令和5年1月19日に国内書面が提出され、令和6年10月21日に特許権の設定登録がされ、同月29日に特許掲載公報が発行されたものである。
2 特許異議の申立て以降の経緯
本件特許に対する特許異議の申立て以降の主な経緯は、次のとおりである。
(1)令和7年4月28日
特許異議申立人 山田 芳男(以下「申立人」という。)による、本件特許の請求項1~10に係る特許に対する特許異議の申立て
(2)令和7年6月20日
申立人による、手続補正書の提出
(3)令和7年9月18日付け(発送日:同月24日)
取消理由の通知(以下「取消理由通知」という。)
(4)令和7年11月25日
特許権者 株式会社三共製作所(以下「特許権者」という。)による、訂正請求書及び意見書の提出
(5)令和8年1月8日
申立人による、意見書(以下「申立人意見書」という。)の提出
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の請求の趣旨、及び、訂正の内容について
特許権者による本件訂正は、請求の趣旨として、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求めるものであって、本件訂正の内容は、以下のとおりである(訂正箇所に下線を付して示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記カッターを駆動させることができるようになっている、」
と記載されているのを、
「前記カッターを駆動させることができるようになっており、
前記板材切断装置は、前記カッターを駆動させるための駆動部を更に備え、前記駆動部は、回転軸線の周りに回転可能なシャフトと、前記シャフトの前記回転軸線の周りの回転に伴って前記カッターを一方向に対して往復運動させるための機構とを備え、前記シャフトは、前記加工装置の前記板材に対する工程に応じて回転することができるようになっており、
前記シャフトは、前記シャフトの回転角度に応じて回転速度を変更することができるようになっている、」
に訂正する。
(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~4、6、8~10も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6に、
「請求項5に記載の加工ラインシステム。」
と記載されているのを、
「請求項1~4の何れか一項に記載の加工ラインシステム。」
に訂正する。
(請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8~10も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8に、
「請求項5~7の何れか一項に記載の加工ラインシステム。」
と記載されているのを、
「請求項1~4、及び6の何れか一項に記載の加工ラインシステム。」
に訂正する。
(請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項9~10も同様に訂正する。)
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項9に、
「請求項1~8の何れか一項に記載の加工ラインシステム。」
と記載されているのを、
「請求項1~4、6、及び8の何れか一項に記載の加工ラインシステム。」
に訂正する。
(請求項9の記載を直接的に引用する請求項10も同様に訂正する。)
2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~10について、請求項2~10は、請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項〔1~10〕について、訂正の請求項をするものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
<一群の請求項〔1~10〕について>
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1における「板材切断装置」に関し、「前記板材切断装置は、前記カッターを駆動させるための駆動部を更に備え、前記駆動部は、回転軸線の周りに回転可能なシャフトと、前記シャフトの前記回転軸線の周りの回転に伴って前記カッターを一方向に対して往復運動させるための機構とを備え、前記シャフトは、前記加工装置の前記板材に対する工程に応じて回転することができるようになっており、前記シャフトは、前記シャフトの回転角度に応じて回転速度を変更することができるようになっている、」と限定するものである。したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無について
訂正事項1における、「前記板材切断装置は、前記カッターを駆動させるための駆動部を更に備え、前記駆動部は、回転軸線の周りに回転可能なシャフトと、前記シャフトの前記回転軸線の周りの回転に伴って前記カッターを一方向に対して往復運動させるための機構とを備え、前記シャフトは、前記加工装置の前記板材に対する工程に応じて回転することができるようになっており、前記シャフトは、前記シャフトの回転角度に応じて回転速度を変更することができるようになっている、」との点は、本件訂正前の請求項5及び7において特定された事項と実質的に同じであり、また、願書に添付した明細書の段落【0027】及び【0029】、図2A~図2Bに記載された事項である。
したがって、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてする訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に規定される要件に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1は、上記アのとおり、本件訂正前の請求項1において特定されていた事項である「板材切断装置」に関して、具体的に限定するように訂正するものであるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に規定される要件に適合するものである。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、請求項5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項2は、請求項5を削除するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正である。また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定される要件に適合するものである。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、訂正事項2による請求項5の削除に伴い、請求項6における引用請求項から請求項5を除くことで、特許請求の範囲の記載を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項3は、訂正事項2による請求項5の削除に伴い、請求項6における引用請求項から請求項5を単に除くものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正である。また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定される要件に適合するものである。
(4)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、請求項7を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項4は、請求項7を削除するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正である。また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定される要件に適合するものである。
(5)訂正事項5~6
ア 訂正の目的について
訂正事項5~6は、訂正事項2による請求項5の削除及び訂正事項4による請求項7の削除に伴い、請求項8及び9における引用請求項から請求項5及び7を除くことで、特許請求の範囲の記載を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項5~6は、訂正事項2による請求項5の削除及び訂正事項4による請求項7の削除に伴い、請求項8及び9における引用請求項から請求項5及び7を単に除くものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正である。また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項5~6は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定される要件に適合するものである。
4 独立特許要件
本件特許異議の申立ては、請求項1~10を対象としているので、訂正事項1~6に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
5 小括
上記3(1)~(5)のとおり、訂正事項1~6に係る本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に規定される要件に適合する。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められることから、本件特許の請求項1~4、6、8~10に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~4、6、8~10に記載された、以下の事項により特定されるとおりのものである(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」等という。なお、請求項5及び請求項7は削除された。)。
「【請求項1】
板材を加工処理する加工装置と、
前記板材を前記加工装置に間欠的に搬送する板材送り装置と、
前記加工装置において加工処理された前記板材を切断するカッターを備える板材切断装置と
を備える加工ラインシステムであって、
前記板材切断装置は、前記加工装置の前記板材に対する工程に応じて、前記カッターを駆動させることができるようになっており、
前記板材切断装置は、前記カッターを駆動させるための駆動部を更に備え、前記駆動部は、回転軸線の周りに回転可能なシャフトと、前記シャフトの前記回転軸線の周りの回転に伴って前記カッターを一方向に対して往復運動させるための機構とを備え、前記シャフトは、前記加工装置の前記板材に対する工程に応じて回転することができるようになっており、
前記シャフトは、前記シャフトの回転角度に応じて回転速度を変更することができるようになっている、加工ラインシステム。
【請求項2】
前記加工装置の前記板材に対する工程は、前記板材を移動する工程と前記板材に対して加工処理する工程とを含み、前記板材切断装置は、前記加工処理する工程に応じて前記カッターを駆動させることができるようになっている、請求項1に記載の加工ラインシステム。
【請求項3】
前記板材切断装置は、前記板材送り装置による前記板材の間欠搬送に応じて、前記カッターを駆動させることができるようになっている、請求項1又は2に記載の加工ラインシステム。
【請求項4】
前記板材切断装置は、前記板材送り装置による前記板材の搬送停止時に加工処理された前記板材を切断するために前記カッターの駆動を開始させ、前記板材送り装置による前記板材の搬送開始時に前記カッターの駆動を停止させることができるようになっている、請求項3に記載の加工ラインシステム。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
前記シャフトは、前記加工装置の前記板材に対する工程に応じて回転速度を変更することができるようになっている、請求項1~4の何れか一項に記載の加工ラインシステム。
【請求項7】(削除)
【請求項8】
前記シャフトは、前記加工装置の前記板材に対する工程の1周期の間に前記回転軸線の周りを1周回転するように、回転速度を変更することができるようになっている、請求項1~4、及び6の何れか一項に記載の加工ラインシステム。
【請求項9】
前記加工装置は、前記加工装置の前記板材に対する工程を検出するためのセンサを備え、前記センサからの出力信号に応じて、前記板材送り装置は、前記板材を前記加工装置に間欠的に搬送することができるようになっている、請求項1~4、6、及び8の何れか一項に記載の加工ラインシステム。
【請求項10】
前記センサからの出力信号に応じて、前記板材切断装置は、前記カッターを駆動させることができるようになっている、請求項9に記載の加工ラインシステム。」
第4 申立人が主張する申立ての理由の概要
1 申立書における申立ての理由について
申立人による申立ての理由は、以下のとおり整理することができる。
(1)申立ての理由1:請求項1~8
下記2の甲第1号証、甲第3号証又は甲第4号証に記載の発明に基づく、新規性欠如
ア 請求項1~8
下記2の甲第1号証に記載の発明に基づく、新規性欠如(特許法第29条第1項第3項、同法第113条第2項、申立書第2~36ページ)
イ 請求項1~4
下記2の甲第3号証に記載の発明に基づく、新規性欠如(特許法第29条第1項第3項、同法第113条第2項、申立書第2~36ページ)
ウ 請求項1~3、5~8
下記2の甲第4号証に記載の発明に基づく、新規性欠如(特許法第29条第1項第3項、同法第113条第2項、申立書第2~36ページ)
(2)申立ての理由2:請求項1~10
甲第1号証に記載の発明を主引用発明とした進歩性欠如
ア 請求項1~8
甲第1号証に記載の発明を主引例とし、及び、甲5号証に記載の周知技術を適用することの容易想到性に基づく、進歩性欠如(特許法第29条第2項、同法第113条第2項、申立書第2~36ページ)
イ 請求項9~10
甲第1号証に記載の発明を主引例とし、及び、甲第2号証に記載の技術的事項を適用することの容易想到性に基づく、進歩性欠如(特許法第29条第2項、同法第113条第2項、申立書第2~36ページ)
ウ 請求項9~10
甲第1号証に記載の発明を主引例とし、甲第2号証に記載の技術的事項、及び、甲5号証に記載の周知技術を適用することの容易想到性に基づく、進歩性欠如(特許法第29条第2項、同法第113条第2項、申立書第2~36ページ)
2 証拠方法
申立人による証拠方法は、書証として申立書に添付して提出された甲第1号証~甲第5号証、及び、書証として申立人意見書に添付して提出された参考資料1~3である。
(1)甲第1号証:特開平2-41895号公報
(2)甲第2号証:特開平1-224121号公報
(3)甲第3号証:実願平4-71967号(実開平6-36717号)のCD-ROM
(4)甲第4号証:特開昭55-45529号公報
(5)甲第5号証:米国特許出願公開2020/0009633号明細書
(6)参考資料1:「パソコン組み込み型サーボシステムコントーラ CC-Link IE対応シンプルモーションボード/MELSOFT EM Software Development Kit」、[online]、三菱電機株式会社、2017年5月、1~34ページ並びに表紙及び裏表紙、[取得日 2026年3月23日]、取得先<https://dl.mitsubishielectric.
co.jp/dl/fa/document/catalog/ssc/l03144/l03144a.pdf>(当審注:申立人によるOnlineでの取得日が不明であるため、当審にて取得先URLを確認した日を上記「取得日」として記載する。)
(7)参考資料2:特開2002-192418号公報
(8)参考資料3:特開平10-6283号公報
(以下、甲第1号証~甲第5号証を「甲1」等といい、参考資料1~参考資料3を「参考1」等という。)
第5 当審から通知した取消理由の概要
取消理由通知における、本件訂正前の請求項1~10に係る特許に対する取消理由の要旨は、概略、以下のとおりである。
1 取消理由1:新規性欠如(特許法第29条第1項第3号)について
本件訂正前の請求項1~6、8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(甲1に記載の発明)であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件訂正前の請求項1~6、8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
・本件訂正前の請求項1~6、8に対して引用した証拠方法:甲1
2 取消理由2:進歩性欠如(特許法第29条第2項)について
本件訂正前の請求項9~10に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(甲1に記載の発明、及び、甲2に記載の技術的事項)に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項9~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
・本件訂正前の請求項9~10に対して引用した証拠方法:甲1及び甲2
第6 本件発明1~4、6、8~10に対する当審の判断
本件発明1~4、6、8~10に対し、当審から通知した上記第5の1~2の取消理由1~2について、以下検討する(なお、請求項5及び7は本件訂正により削除された。)。
1 本件発明1の新規性(上記第5の1)について
本件発明1が、甲1に記載された発明であるかについて、以下検討する。
(1)本件発明1の認定
本件発明1は、上記第3の請求項1に記載されたとおりのものであると認める。
(2)甲1に記載された発明の認定
ア 甲1に記載された事項
甲1には、図面とともに次の記載がある(下線は当審にて付した。以下同様。)。
(ア)「この発明はシート材をカットするシートカッタに関し、特にシートカッタの同期制御方式に関するものである。」(1ページ右欄下欄5~7行)
(イ)「第1図において、15はシート材(ワーク)、13はシート材15の搬入又は搬出用フィードロール、14はシート材の定尺切断用シートカッタ、1はシートカッタ14の駆動用サーボモータ、2はサーボモータ1に内蔵されているパルスエンコーダ、3はサーボモータ1を駆動するための駆動用サーボアンプ、9はフィードロール13およびプレス本体17の駆動用モータ、5はプレス本体のクランク軸16に取り付けられてクランク軸16の回転量と回転速度を検出するパルスエンコーダ、8はシートカッタ14の駆動軸に取り付けられて駆動軸の回転量と回転速度を検出するパルスエンコーダ、4はパルスエンコーダ5の出力パルスを分周して、その結果をサーボアンプ3に出力する分周器、6はパルスエンコーダ5と8の出力パルスを計数し、その差を取り出すアップ・ダウンカウンタ、7は分周器4の設定器であって、アップダウンカウンタ6の出力によて(当審注「よって」の誤記と認める。)その決定値を補正する機能を有するものである。10、11は減速機、12はモータ9の動力をフィードロール13とプレス本体17に伝達するカム機構、17はプレス本体、16はプレス本体を駆動するクランク軸である。」(2ページ左下欄12~右下欄14行)
(ウ)「モータ9はフィードロール13とプレスのクランク軸16を駆動するが、プレスがシート材15を打ち抜いている期間においてはフィードロール13が停止し、打抜完了後はシート材を定尺送りする。」(2ページ右下欄15~19行)
(エ)「シートカッタ14も、前記プレスと同様、フィードロール13が停止中にシート材15の切断を行う必要がある。従ってプレスの1サイクルと、シートカッタの1サイクルは完全に同期し、さらに前者の打抜きサイクルと後者のカットサイクルも完全に同期して、ロールフィーダによるシート材の送り動作と互に干渉しないように構成される。」(3ページ左上欄3~9行)
(オ)「パルスエンコーダ5はプレスのクランク軸16に取り付けられており、クランク軸16の回転量、回転速度を正確に検出する。従って、パルスエンコーダ5の1回転当りのパルス数、サーボモータ1の1回転当りの必要パルス数および減速機11の減速比の関係から、適当な分周比を分周器4によって設定することにより、クランク軸16の1回転でシートカッタ14を正確に1サイクル運転させている。なお、クランク軸16とシートカッタ14の位置関係は、機械的に初期位置合わせを実施しておけば、途中でモータ9の速度が変わっても運転中は常に位置および速度の同期が可能となる。」(3ページ左上欄17行~右上欄9行)
(カ)「以上のように、この発明によれば、サーボモータを使用してプレス本体の動きに同期したシートカッタの動きを得ているので、メンテナンスフリーでしかもプレス速度を変えた場合でも、常に安定した同期運転が得られる効果がある。」(3ページ右下欄14行~18行)
(キ)「第1図
[図:0001436183000001.jpg]
」
(ク)「第2図
[図:0001436183000002.jpg]
」
イ 甲1の記載からわかること
上記アから、甲1には、次の事項が記載されているといえる。
(ア)シート材15はプレス本体17の前後で連続しているから、フィードロール13はシート材15をプレス本体17に対して搬入、搬出のいずれもできるといえ(上記(2)ア(イ))、そして、打抜完了後はシート材15を定尺送りするのであるから(上記(2)ア(ウ))、フィードロール13は、プレス本体17にシート材15を定尺送りで搬入することができるといえる。
(イ)フィードロール13でシート材15を搬入又は搬出して、フィードロール13を停止し、プレス本体17でシート材15を打ち抜いて、打抜完了後はフィードロール13でシート材15を定尺送りして、フィードロール13が停止中にシートカッタ14でシート材15の切断を行うという一連の工程(上記(2)ア(ア)~(カ))を、プレス本体17の動きとシートカッタ14の動きを同期させて行っており、この一連の同期運転を可能にする、シートカッタ14の同期制御方式によるシート材15の打ち抜き、定尺送り及び切断の仕組みは、加工システムといえる。
(ウ)プレス本体17のシート材15に対する打ち抜きは(上記(2)ア(ウ))、シート材15を加工する一工程であるから、プレス本体17のシート材15に対する工程といえる。
(エ)シートカッタ14は一方向に対して往復運動しているといえる(上記(2)ア(キ))。また、シートカッタ14は、サーボモータ1に駆動され、プレスと同様、フィードロール13が停止中にシート材15の切断を行うから(上記(2)ア(イ)、(エ))、シートカッタ14の駆動軸は、プレス本体17のシート材15に対する工程に応じて回転するといえる。
ウ 甲1に記載された発明(甲1発明)
上記ア~イから、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「 シート材15を打ち抜いているプレス本体17と、
前記シート材15を前記プレス本体17に定尺送りするモータ9及びフィードロール13と、
前記プレス本体17において打ち抜かれた前記シート材15を切断するシートカッタ14を備えるサーボモータ1及びシートカッタ14と
を備えるシートカッタ14の同期制御方式によるシート材15の打ち抜き、定尺送り及び切断の仕組みである加工システムであって、
前記シートカッタ14は、前記プレス本体17の前記シート材15に対する打ち抜きに応じて、前記シートカッタ14を駆動させることができるようになっており、
前記サーボモータ1及びシートカッタ14は、前記シートカッタ14を駆動させるためのサーボモータ1を更に備え、前記サーボモータ1は、回転軸線の周りに回転可能なシートカッタ14の駆動軸と、前記シートカッタ14の駆動軸の回転軸線の周りの回転に伴って前記シートカッタ14を一方向に対して往復運動させるための機構とを備え、前記シートカッタ14の駆動軸は、前記プレス本体17の前記シート材15に対する工程に応じて回転することができるようになっている、シートカッタ14の同期制御方式によるシート材15の打ち抜き、定尺送り及び切断の仕組みである加工システム。」(以下「甲1発明」という。)
(3)本件発明1と甲1発明との対比
ア 相当関係
本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「シート材15」が本件発明1の「板材」に相当し、以下同様に、
「打ち抜いている」が「加工処理する」に、
「プレス本体17」が「加工装置」に、
「定尺送りする」が「間欠的に搬送する」に、
「モータ9及びフィードロール13」が「板材送り装置」に、
「シートカッタ14」が「カッター」に、
「サーボモータ1及びシートカッタ14」が「板材切断装置」に、
「シートカッタ14の同期制御方式によるシート材15の打ち抜き、定尺送り及び切断の仕組みである加工システム」が「加工ラインシステム」に、
「前記プレス本体17の前記シート材15に対する打ち抜き」が「前記加工装置の前記板材に対する工程」に、
「サーボモータ1」が「駆動部」に、
「シートカッタ14の駆動軸」が「シャフト」に相当する。
イ 一致点
上記アから、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点で一致する。
「 板材を加工処理する加工装置と、
前記板材を前記加工装置に間欠的に搬送する板材送り装置と、
前記加工装置において加工処理された前記板材を切断するカッターを備える板材切断装置と
を備える加工ラインシステムであって、
前記板材切断装置は、前記加工装置の前記板材に対する工程に応じて、前記カッターを駆動させることができるようになっており、
前記板材切断装置は、前記カッターを駆動させるための駆動部を更に備え、前記駆動部は、回転軸線の周りに回転可能なシャフトと、前記シャフトの前記回転軸線の周りの回転に伴って前記カッターを一方向に対して往復運動させるための機構とを備え、前記シャフトは、前記加工装置の前記板材に対する工程に応じて回転することができるようになっている、加工ラインシステム。」
ウ 相違点
一方、本件発明1と甲1発明とは、次の相違点1で相違する。
・ 相違点1
板材切断装置が備えるシャフトに関し、
本件発明1においては、シャフトの回転角度に応じて回転速度を変更することができるようになっているのに対し、
甲1発明においては、シートカッタ14の駆動軸が、シートカッタ14の駆動軸の回転角度に応じて回転速度を変更することができるものか不明な点。
(4)本件発明1の甲1発明による新規性欠如について
本件発明1と甲1発明とは、上記(3)ウの相違点1で相違するから、本件発明1は、甲1発明ではない。
(5)相違点1に対する申立人の申立人意見書における主張について
申立人は、相違点1が甲1に記載されているといえることについて、甲1及び参考1~3に基づく主張をしているので、以下検討する。
ア 甲1に基づく主張について
(ア)申立人は、「ここで、「プレス本体17のシート材15に対する工程」については、「プレス本体17のクランク軸16の回転角度」と同義である。クランク軸が回転すると、プレス本体17のスライド(上金型)が上昇又は下降し、その下降動作の際にシート材15に対する加工工程が行われることになるからである。さらに、甲1においては、「クランク軸16とシートカッターの駆動軸とは同期している」ことが説明されている(3ページ左上欄12行~右上欄9行の記載など参照)。すなわち、「クランク軸16の回転角度」は、「シートカッター14の駆動軸の回転角度」と同義になる。したがって、甲1には、「シートカッターの駆動軸(シャフト)は、シートカッターの駆動軸の回転角度に応じて、回転速度を変更することができるようになっている」ことが記載されているといえる。」と主張する(意見書2ページ8~18行)。
(イ)また、申立人は、「また、甲1には、「シートカッターの駆動軸の回転角度に応じて、シートカッターの駆動軸の回転速度を変更できる」ことを示す具体的な説明がなされている。具体的には、第3図において、「サーボモータの一般的な運転特性(時間軸に対する速度特性)」が開示されている。ここで、「時間軸」は、「サーボモータの運転時間」を表している。これは「サーボモータの回転軸の回転角度」と同義になる。したがって、第3図によれば、「サーボモータは、その回転軸の回転角度に応じて、その回転角度が変化する」・・・ことが記載されているといえる。」と主張する(意見書2ページ19行~3ページ2行)。
(ウ)しかしながら、本件発明1の「シャフトの回転角度に応じて回転速度を変更する」とは、本件明細書等の段落【0029】の「シャフト202は、加工装置102の板材105に対する工程の1周期の間に回転軸線203の周りを1周回転するように、回転速度を変更することができる。」との記載を参酌すれば、0~360°の1周期の回転角度のなかで、回転速度が変化する、と解するのが相当である。それに対し、甲1には、甲1の第2図からも明らかなように、プレス本体17とシートカッタ14のサイクルを同期するために、一定の速度で回転していたプレス本体17を駆動するモータ9の速度が、別の一定の速度に変速されると、シートカッタ14を駆動するサーボモータ1の速度も、それ以降、その別の一定の速度に合わせて変速することについての記載しかなく、シートカッターの駆動軸(シャフト)が、シートカッターの駆動軸の1周期の間の回転角度に応じて、回転速度を変更することについての記載はない。
(エ)また、甲1の第3図(a)については、速度が0から所定値まで増加する左側の傾斜部分及び速度が所定値から0まで減少する右側の傾斜部分は、プレス本体17が動き出してからドループ量だけシートカッタ14は遅れて動くことを説明するために、サーボモータがドループ量(溜りパルス)だけ指令値より遅れて運転されるという特性を示したもので、シートカッターの駆動軸の1周期の間の回転角度に応じて、サーボモータの回転速度を変化させるためのものではない。
(オ)したがって、申立人の甲1の記載に基づく主張は、採用することができない。
イ 参考1~3に基づく主張について
申立人は、「カッターの駆動軸の回転角度に応じて、回転速度を変更することができるようになっている」ことは、参考1~3からみて、本件特許の出願時において周知の技術であるから、本件発明1は甲1発明である旨を主張する。
そこで、参考1~3に記載された事項を以下検討する。
(ア)参考1に記載された事項の認定
A 参考1の記載事項
(a)「カム自動生成
パラメータを設定するだけで、ロータリーカッター用カムデータを自動生成できます。
シート長、同期幅、カム分解能などを入力するだけで、カムデータを簡単に作成できます。」(8ページ下欄)
(b)「8ページ下欄の図面
[図:0001436183000003.jpg]
」
B 参考1の記載からわかること
シート送り速度とカム軸(同期軸)速度の関係を示した図より、連続してシート送りされるシートのシート長がシート同期幅にあるときに、シートを切断するロータリーカッター用のカムのカム軸(同期軸)速度がシート送り速度となるように、当該カム軸(同期軸)速度を変更していることがわかる。
C 参考1に記載された技術的事項
連続してシート送りされるシートを切断するロータリーカッターのカムのカム軸(同期軸)速度を、前記シートを切断するときに、シートがシート送りされる速度に応じて変更すること。
(イ)参考2に記載された事項の認定
A 参考2の記載事項
「【0013】
【発明が解決しようとする課題】この切断トルク不足のため、板厚の厚さ,材料の硬さおよび/または速度の条件によっては、走行する材料を切断する時、瞬時的(切断刃が材料に噛込む時)に切断トルクが生じ、結果的に材料とシャー速度とに速度差が生じるため、図4(A)のロータリシャーの加減速レートに示すようにシャーの速度が瞬時的に落ちる状態、すなわち、インパクトドロップが発生する。ロータリシャーの電動機の速度は、材料の速度に同調および同期制御をしているので、ロータリシャーの電動機はもとの速度に戻そうと制御するが、連続して走行する材料がシャーにより瞬時的に止められたような状態となり材料が盛り上がる(ハンプする)ため、材料の速度(移動量)を計測する測長ロールにスリップが生じること、および、ハンプによる材料の速度を計測することができないことにより、パルスジェネレータ8による材料の速度および/または移動量の計測に誤差が生じ、切断精度および材料速度との同調度に影響を与えることになる。特に、板厚が厚い場合には、インパクトドロップが発生しやすい。
【0014】また、連続して走行する材料の速度を低くして切断した場合、電動機が発生するトルクとシャー(電動機を含む)の慣性エネルギーによるトルクの和が小さいため、大きな切断トルクを必要とする。従って、インパクトドロップが発生する。
【0015】このように、連続して走行する材料を切断した時にインパクトドロップが発生することにより、薄板の場合には、ハンプが発生し材料に傷がつき、また、厚板の場合には、切断精度のバラツキが発生する要因となり、切断精度に大きく影響する。また、切断毎のハンプは、雑音の発生源となり作業環境を非常に悪くしている。
・・・
【0042】このような制御構成におけるロータリシャー2の速度制御波形は、基本的に図5に示す折線曲線である。図5において、横軸は時間t、縦軸はロータリシャーの速度Vである。図に示すようなロータリシャー2の加減速は直線状に変化する。ロータリシャー2が減速して速度が零になると直ちに加速を始める場合、切断長L0を精度良く切断するための条件は、時間と速度との積である距離がシャー周長B0 と等しくなることが必要である。
【0043】図6に示すように、シャー切断領域の周長をBW とし、図5に示すように、切断完了から切断開始までの時間をT=(L0-BW)/VLとする。」
「図5
[図:0001436183000004.jpg]
図6
[図:0001436183000005.jpg]
」
B 参考2の記載からわかること
材料速度VLで走行する材料を切断するロータリーシャー2の速度Vを、切断開始時に、前記材料速度VLと等しくなるように加速を始めることがわかる。
C 参考2に記載された技術的事項
連続して走行する材料を切断するロータリーシャー2の回転速度を、前記材料を切断するときに、前記材料が走行される速度に応じて変更すること。
(ウ)参考3に記載された事項の認定
A 参考3の記載事項
「【0002】
【従来の技術】図5に示すような回転歯11,12を回転させ、走行している材料13を回転歯11,12の噛合いにより切断させる回転走行切断機において、材料13の走行速度と回転歯11,12の回転速度を同調させるために、このような機械式切断長の長短に応じて1回転の平均としては遅くしたり早くしたりしながらも切断点を通過するときは切断機においては、モータ14の回転を非円ギアや差動ギアなどの変速機構15により変速させて回転歯11,12へ伝達させていた。しかしこのような変速機構15によっては材料13の走行中に切断長の変更を行うことは困難であり、また切断精度を得るための変速機構の材料の切断長の変更に応じて、現場調整が大変な作業量であった。このような点より、モータ14により回転歯11、12を直接変速させて材料切断長を任意に変更できるようにする数値制御が特許第1064581号により提案され、実際に使用されて大きな効果がもたらされたので鋼板や鋼管のみならず非鉄、段ボール、紙、フィルム、その他あらゆる材料の走間切断に用いられるようになった。これに伴い回転歯を含む機構部分は切断材料に応じて多種多様のものが開発されたが、しかしモータ14を制御する数値制御は今も基本的には実用化された当時と同じである。
【0003】即ち走行してくる材料を各種長さで切断する場合における回転刃駆動モータに対する従来の速度制御波形は基本的には図6に示す通りである。図6で横軸は時間、縦軸は速度である。長尺の(切断長が長い)場合は図6Aに示すように、回転刃がスタート位置(原点ともホームともいう)で停止して材料を見送り、切断位置が近付いてくると回転を開始して回転刃の回転速度が材料速度VAになるように加速し、回転刃が材料と接触する区間θの直前から材料速度に回転刃の回転速度を同期させると共に材料の切断位置で回転刃が区間θとなるように走間位置決め制御を行う。」
「図5
[図:0001436183000006.jpg]
図6
[図:0001436183000007.jpg]
」
B 参考3の記載からわかること
材料13を切断する回転歯11、12の回転速度を、前記回転歯11、12と前記材料13と接触する区間θの直前から、前記材料13の材料速度と同期させることがわかる。
C 参考3に記載された技術的事項
連続して走行する材料13を切断する回転歯11、12の回転速度を、前記材料を切断するときに、前記材料13が走行する速度に応じて変更すること。」
(エ)参考1~3記載の周知技術の認定
上記A~Cからみて、次の技術は、本件出願前において周知の技術(以下「参考1~3記載の周知技術」という。)であったといえる。
「連続して搬送される板材を切断するロータリーカッターの回転速度を、前記板材を切断するときに、前記板材が搬送される速度に応じて変更すること。」
(オ)当審の判断
しかしながら、本件発明1は、参考1~3記載の周知技術からみて、甲1発明と同一である(すなわち、相違点1に係る本件発明1の構成が、参考1~3記載の周知技術からみて、甲1に記載されているに等しい事項である)とまではいうことはできない。以下詳述する。
A 本件発明1は、「前記板材を前記加工装置に間欠的に搬送する板材送り装置」と記載されるように、板材は、板材送り装置によって間欠的に搬送されるから、前記板材に対する工程は、搬送工程(図2Bの240°~0°~120°)及び搬送停止工程(同120°~240°)をも含むものであることは明らかである。そして、板材切断装置による前記板材の切断は、前記搬送停止工程(同120°~240°)に行われる。
B ここで、甲1発明の板材は、板材送り装置によって間欠的に搬送されるから、前記板材に対する工程は、搬送工程及び搬送停止工程をも含むものであって、シートカッタ14による切断は、搬送停止工程で行われるところ、参考1~3記載の周知技術は、板材の搬送工程はあるものの、板材の搬送停止工程がなく、甲1発明のような搬送停止工程で切断を行う技術とは全く異なるから、当業者が参考1~3記載の周知技術を参照しても、甲1発明の板材切断装置について、参考1~3記載の周知技術のような切断を行うと理解する余地はない。
C したがって、参考1~3記載の周知技術のように、ロータリーカッターのシャフトの回転速度をシャフトの回転角度に応じて変更することが、仮に技術常識であったとしても、当業者が甲1発明における板材切断装置について、参考1~3記載の周知技術のような切断を行うと理解することはないから、甲1には、シャフトの回転角度に応じて回転速度を変更する点が、記載されているに等しい事項であるということができない。したがって、本件発明1は、甲1発明であるとはいえないから、申立人の参考1~3の記載に基づく主張は、採用することができない。
D なお、甲1発明に参考1~3記載の周知技術を適用することで、相違点1に係る本件発明1を当業者が容易に想到し得たかについては、後述の3(4)で判断する。
(6)本件発明1の新規性についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当するとはいえない。
したがって、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
2 本件発明2~4、6、8の新規性(上記第5の1)について
本件発明2~4、6、8は、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件発明2~4、6、8と甲1発明とを対比すると、少なくとも、上記1(3)ウにて示した相違点1と同様の点で相違する。
したがって、本件特許の請求項2~4、6、8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
3 本件発明9の進歩性(上記第5の2)について
本件発明9が、甲1に記載された発明及び甲2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるかについて、以下検討する。
(1)本件発明9の認定
本件発明9は、上記第3の請求項9に記載されたとおりのものであると認める。
(2)甲1に記載された発明の認定
甲1発明は、上記1(2)ウに示したとおりである。
(3)本件発明9と甲1発明との対比
本件発明9と甲1発明とを対比すると、上記1(3)ウに示した相違点1のほか、次の相違点2で相違する。
・ 相違点2
板状の部材の送り装置に関し、本件発明9においては、加工装置の板材に対する工程を検出するためのセンサからの出力信号に応じて、板材送り装置は、板材を加工装置に間欠的に搬送することができるのに対し、甲1発明9においては、パルスエンコーダ5からの出力信号に応じてフィードロール13を回転させてシート材15を搬送するのではなく、モータ9の回転出力を、カム機構12により機械的にフィードロール13の回転およびクランク軸16の運動に変換して、フィードロール13を回転させている(2ページ右下欄19行~3ページ左上欄12行)点。
(4)相違点1についての判断
まず、相違点1について検討する。
「前記シャフトの回転角度に応じて回転速度を変更する」構成について、甲2~甲3、甲5には、記載や示唆がない。
申立人は、当該構成について、甲4に記載されている旨を主張している(申立書第33ページ)。これは、甲4に「この切断装置の作動速度は駆動装置(12)を変速することにより、プレス機械の作動速度と同調させることができる(3ページ右上欄5~7行)」と記載されているから、プレス機械の作動速度が変わった場合に、駆動装置(12)により回転軸(16)の回転速度を変更することができ、つまり、回転軸(16)は、その回転角度に応じて回転速度を変更することができるというものである。
上記主張について検討する。上記1(5)ア(ウ)に示したように、本件発明1の「シャフトの回転角度に応じて回転速度を変更する」とは、0~360°の1周期の回転角度のなかで、回転速度が変化する、と解するのが相当である。
他方、甲4の切断対象となるプレススクラップ条片(8)は、縦切断機構(9)のロールスリッタ(20a)、(20b)により「連続的に」縦断送出されるものである(3ページ左上欄12~16行)。つまり、本件発明1のように、加工装置に「間欠的に」搬送される板材に対する工程に応じて、板材切断装置のカッターを駆動する構成ではなく、甲4は、「連続的に」縦断送出されるプレススクラップ条片(8)に対して、横切断機構(11)の移動刃(18a)を固定刃(18b)に往復摺動する構成であり、両者は全く異なる構成である。
そうであるから、申立人の当該主張は採用できない。
また、参考1~3は、板材の搬送工程はあるものの、板材の搬送停止工程がなく、このため、板材を板材送り装置によって間欠的に搬送する甲1に適用する動機があるとはいえない。
したがって、相違点1に係る本件発明1のシャフトは、前記シャフトの回転角度に応じて回転速度を変更することができるという構成は、甲1~甲5及び参考1~3に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。
(5)本件発明9の進歩性についてのまとめ
以上のとおり、本件発明9は、相違点2について検討するまでもなく、甲1発明及び甲2~甲5記載の技術的事項、並びに参考1~3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
4 本件発明10の進歩性(上記第5の2)について
本件発明10は、請求項9の記載を引用するものであるから、本件発明10と甲1発明とを対比すると、上記3(3)にて示した相違点1~2と同様の点で相違する。
そして、上記3(5)の進歩性のまとめのとおり、本件発明10は、相違点2について検討するまでもなく、甲1発明及び甲2~甲5記載の技術的事項、並びに参考1~3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 甲1に記載された発明による新規性及び進歩性について
(1)本件訂正前の請求項7の新規性
甲1に記載された発明による新規性欠如(上記第4の1(1)ア)について、取消理由通知において採用しなかったのは、請求項7に対する申立て理由のみである。
しかしながら、本件訂正により、請求項7は削除されたため、申立ての対象が存在しないものとなった。
(2)本件発明1の進歩性
甲1に記載された発明を主引用発明とする、本件発明1の進歩性欠如(上記第4の1(2)ア)について検討すると、本件発明1と甲1発明とは、上記第6の1(3)ウに示した相違点1で相違するところ、本件発明9の進歩性(上記第6の3(4))で説示するとおり、当該相違点1は、甲1~甲5及び参考1~3に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえないから、本件発明1は、甲1~甲5及び参考1~3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2~4、6、8の進歩性
甲1に記載された発明を主引用発明とする、本件発明2~4、6、8の進歩性欠如について検討すると、請求項1の記載を引用する本件発明2~4、6、8は、少なくとも上記相違点1で甲1発明と相違し、当該相違点1に係る本件発明2~4、6、8の構成は、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえないから、本件発明2~4、6、8は、甲1~甲5及び参考1~3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)小括
したがって、本件特許の請求項1~4、6、8~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
2 甲3に記載された発明による新規性について
本件発明1と甲3に記載された発明を対比すると、少なくとも相違点1と同様の点で相違するから、本件発明1は、甲3に記載された発明であるとはいえない。
また、請求項1の記載を引用する本件発明2~4は、少なくとも上記相違点1と同様の点で甲3に記載された発明と相違するから、本件発明2~4は、甲3に記載された発明であるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
3 甲4に記載された発明による新規性について
本件発明1と甲4に記載された発明を対比すると、少なくとも相違点1と同様の点で相違するから、本件発明1は、甲4に記載された発明であるとはいえない。
また、請求項1の記載を引用する本件発明2~3、6、8は、少なくとも上記相違点1と同様の点で甲4に記載された発明と相違するから、本件発明2~3、6、8は、甲4に記載された発明であるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項1~3、6、8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
第8 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1~4、6、8~10に係る特許は、当審から通知した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件特許の請求項1~4、6、8~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項5、7に係る特許は、上記第2のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人による請求項5、7に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2025-700479