特許異議申立
2024-700966
フェライト系ステンレス鋼及びフェライト系ステンレス鋼の製造方法
- 審判番号
- 2024-700966
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-173974
- 登録番号
- 7462395
- 請求日
- 2024年10月04日
- 審決日
- 2025年01月31日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日鉄ステンレス株式会社
- 【権利者代理人】青木 篤
- 【権利者代理人】三橋 真二
- 【権利者代理人】福地 律生
- 【権利者代理人】齋藤 学
- 【異議申立人】山田 芳男
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 土屋 知久
- 審判官 佐藤 陽一
- 分類
- P1652.113-Y (C22C) / P1652.121-Y (C22C) / P1652.537-Y (C22C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7462395号発明「フェライト系ステンレス鋼及びフェライト系ステンレス鋼の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7462395号の請求項1~2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7462395号の請求項1~4に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和1年9月25日の出願であって、令和6年3月28日にその特許権の設定登録がなされ、同年4月5日に特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、同年10月4日受付で特許異議申立人山田芳男(以下、「申立人」という。)より請求項1~2(一部の請求項)に係る特許に対してなされた特許異議申立事件である。
第2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~4に係る発明(以下、これらをそれぞれ「本件発明1」~「本件発明4」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定されるものであり、そのうち、本件発明1~2は次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
質量%で、
C:0.14%以上0.45%以下、
Si:0.01%以上1.00%以下、
Mn:0.01%以上1.00%以下、
Cr:11.5%以上14.5%以下、
Ni:0%以上0.80%以下、
N:0.002%以上0.070%以下、
P:0%以上0.040%以下、
S:0%以上0.0300%以下、
残部:Fe及び不純物
からなり、
直径0.9μm以下の炭化物が1.24個/μm2以上存在し、
ビッカース硬度が160HV以上300HV以下であり、
下記(1)式を満足する、
フェライト系ステンレス鋼。
Cp/Ct≧0.90・・・(1)
(式(1)において、Cpは鋼材中に析出物として存在するC量、Ctは鋼材中に存在する総C量である。)
【請求項2】
質量%で、
Al:0%以上0.30%以下、
Nb:0%以上0.07%以下、
B:0%以上0.0030%以下、
Ti:0%以上0.07%以下、
Mo:0%以上0.03%以下、
V:0%以上0.30%以下、
Sn:0%以上0.12%以下、
Cu:0%以上0.40%以下、
W:0%以上0.03%以下、
Co:0%以上0.50%以下、
Zr:0%以上0.50%以下、
Ca:0%以上0.0050%以下、
Mg:0%以上0.0050%以下、
Y:0%以上0.10%以下、
Hf:0%以上0.20%以下、
REM:0%以上0.10%以下、
Sb:0%以上0.15%以下、
のうちの1種又は2種以上を含む、
請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼。」
第3 特許異議申立理由
申立人は、証拠方法として次の甲第1~2号証を提出し、以下の特許異議申立理由により、請求項1~2に係る特許を取り消すべきである旨主張している。
(証拠方法)
甲第1号証:特開2003-73743号公報
甲第2号証:国際公開第2015/022932号
なお、以下、甲第1~2号証をそれぞれ「甲1」~「甲2」という。
1 申立理由1(甲1を主たる引用例とする新規性・進歩性)
本件発明1~2は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するか、または、甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるため、同発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号または同法同条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(甲2を主たる引用例とする新規性・進歩性)
本件発明2は、甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するか、または、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるため、同発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号または同法同条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(サポート要件)
本件発明1~2には、「直径0.9μm以下の炭化物」の個数を測定する測定範囲が特定されていないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
4 申立理由4(明確性要件)
本件発明1~2には、「直径0.9μm以下の炭化物」についてその直径の下限が特定されていないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
なお、申立書第17頁第7~9行には、「甲第1号証と甲第2号証との組み合わせには何ら阻害要因が無いため、本件特許発明1、本件特許発明2は甲第1号証と甲第2号証を組み合わせた発明によっても進歩性を有しない」と記載されているが、かかる記載は主たる引例が不明であり、また、如何なる動機付けで甲1の如何なる記載事項と甲2の如何なる記載事項とを組み合わせるのかも不明であるから、申立理由として採用しなかった。
第4 特許異議申立理由の検討
当合議体は、以下に示すとおり、上記第3の特許異議申立理由はいずれも採用できないと判断する。
1 申立理由1(甲1を主たる引用例とする新規性・進歩性)
1-1 甲1の記載及び甲1に記載された発明
(1) 甲1の記載事項
本件特許の出願日前に公知となった甲1には、次の記載がある。なお、下線は当審で付した。以下、同じ。
「【請求項1】C+N:0.04~0.15mass%、Si:1.0mass%以下、Mn:1.0~3.0mass%、Ni:1.0mass%以下、Cu:1.0mass%以下、Nb:1.0mass%以下、Cr:10.0~14.5mass%を含有するマルテンサイト系ステンレス鋼を、熱延後、550~750℃の温度で焼鈍することにより、HRB:85~100の鋼とすることを特徴とする打ち抜き性に優れた低炭素マルテンサイト系ステンレス熱延鋼板の製造方法。」
「【0009】すなわち、本発明は、C+N:0.04~0.15mass%、Si:1.0mass%以下、Mn:1.0~3.0mass%、Ni:1.0mass%以下、Cu:1.0mass%以下、Nb:1.0mass%以下、Cr:10.0~14.5mass%を含有するマルテンサイト系ステンレス鋼を、熱延後、550~750℃の温度で焼鈍することにより、HRB:85~100の鋼とすることを特徴とする打ち抜き性に優れた低炭素マルテンサイト系ステンレス熱延鋼板の製造方法である。
【0010】なお、本発明においては、上記鋼中には必要によりさらに、下記の群から選ばれる1種または2種以上の成分を添加することが好ましい。
(1)Co:1.0mass%以下、W:1.0mass%以下の1種または2種
(2)Mo:0.01~1.0mass%
(3)B:0.0002~0.010mass%
(4)V,Ti,Zr,TaおよびHfから選ばれる1種または2種以上を、単独または合計で0.001~0.50mass%
(5)Ca:0.0002~0.050mass%、Mg:0.0002~0.050mass%の1種または2種」
(当審注:【0010】の(1)~(5)は、実際は丸囲い数字。)
「【0027】次に、上記ステンレス鋼板の製造条件について説明する。本発明に係る製造方法では、上述した成分範囲に調整した溶鋼を、転炉または電気炉等にて溶製したのち、真空脱ガス法(RH法)、VOD法、AOD法等の公知の精錬方法で精錬し、ついで連続鋳造法あるいは造塊法でスラブ等に鋳造して、鋼素材とするのが好ましい。
【0028】続いて鋼素材は、1000~1300℃の温度に加熱後、仕上げ圧延温度を900~1100℃の範囲に制御して熱間圧延し、700~900℃の温度範囲で巻き取り、板厚:2.0~10.0mmの熱延鋼板とするのが好ましい。
【0029】熱延に引き続いて行われる本発明方法において特有の焼鈍工程は、本発明の鋼板の硬さを決定する最も重要な工程であり、箱焼鈍で行うのが好ましく、以下の条件で行うのがよい。
・昇温速度:20~50℃/minの範囲に制御するのが好ましい。昇温速度が速すぎると、均熱に入る際に、温度がオーバーシュートして高くなりすぎ、硬度不良を引き起こす。しかし、遅すぎると、生産性を落とし、エネルギーロスが大きいからである。
・均熱温度:均熱温度は550~750℃とする。焼鈍温度が低すぎると、焼鈍不足になり、均一な組織が得られず、目標の硬さより硬くなり、逆に、高すぎると軟化し過ぎるからである。
・均熱(焼鈍)時間:4~12時間とするのが好ましい。均熱時間が短いと、焼鈍不足となり、均一な組織が得られず、またこれより長いと、結晶粒が粗大化して、靭性が劣化すると同時に所望の硬度が得られないからである。
・冷却速度:焼鈍温度~500℃までの冷却速度は、5~30℃/minとすることが好ましい。これより速くするには、大容量の冷却設備が必要となり、また、遅すぎると、Cr炭化物が多く析出し耐食性を劣化させるほか、生産性が低下する。
【0030】
【実施例】表1に示した成分の鋼を溶製し、連続鋳造法により、厚さ200mmのスラブとし、1150℃に加熱したのち、熱間圧延して、板厚5mmの熱延鋼板とした。この熱延鋼板を、表2に示した条件で焼鈍した。この鋼板から、ロックウェル硬度測定のための試験片と、焼き入れ前の打抜性(打ち抜き時のダレ)を調べるための試験片も採取した。なお、打抜性の試験は、熱延鋼板から外径150mmφ、内径50mmφのドーナツ状円板を打ち抜き、内径側の打ち抜き断面について、図1に示したダレ量X,Zを測定した。試験の結果を表2に併記して示す。本発明に適合する成分を有する鋼は、本発明の温度で焼鈍することにより、打ち抜き加工に適正な硬度を安定して得ることができる。また、本発明鋼は、いずれもダレが少なく極めて良好な打抜性を有していることが判る。
【0031】
【表1】
[図:0001420352000001.jpg]
【0032】
【表2】
[図:0001420352000002.jpg]
」
(2)甲1に記載された発明
ア 上記(1)の表1の鋼の成分は、請求項1、【0009】、【0010】等において全てmass%で記載されていることからみて、mass%で示されていると認められる。
そうすると、鋼B(上記(1)の表1参照。)は、mass%で、C:0.059、Si:0.29、Mn:1.56、Cu:0.01、Cr:12.30、N:0.0144を含むことが読み取れる。
イ また、上記(1)の表2より、No.3の鋼板は、鋼板の成分が鋼Bであり、また、その焼鈍条件は焼鈍温度715℃、均熱時間6Hrであることが読み取れる。
ウ 上記(1)、ア、イより、甲1に実施例として記載されたNo.3の鋼板に注目すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「低炭素マルテンサイト系ステンレス熱延鋼板であって、
mass%で、C:0.059、Si:0.29、Mn:1.56、Cu:0.01、Cr:12.30、N:0.0144を含む鋼を溶製し、
連続鋳造法により、厚さ200mmのスラブとし、
1150℃に加熱したのち、熱間圧延して、板厚5mmの熱延鋼板とし、
この熱延鋼板を、焼鈍温度715℃、均熱時間6Hrで焼鈍した鋼板。」
1-2 本件発明1について
(1)対比
ア 甲1発明の「鋼板」は、「mass%で、C:0.059、Si:0.29、Mn:1.56、Cu:0.01、Cr:12.30、N:0.0144を含む鋼を溶製し」て製造したものであるから、製造後も同様の組成を有すると解される。
また、甲1の【0025】には、PやSが不可避的不純物として含有されることが記載されている。
そうすると、甲1発明の「mass%で、C:0.059、Si:0.29、Mn:1.56、Cu:0.01、Cr:12.30、N:0.0144を含む」事項と、本件発明1の「質量%で、C:0.14%以上0.45%以下、Si:0.01%以上1.00%以下、Mn:0.01%以上1.00%以下、Cr:11.5%以上14.5%以下、Ni:0%以上0.80%以下、N:0.002%以上0.070%以下、P:0%以上0.040%以下、S:0%以上0.0300%以下、残部:Fe及び不純物からな」る事項とは、質量%で、C:所定量、Si:0.01%以上1.00%以下、Mn:所定量、Cr:11.5%以上14.5%以下、Ni:0%以上0.80%以下、N:0.002%以上0.070%以下を含む事項で共通する。
イ 本件発明1の「フェライト系ステンレス鋼」は、請求項3、4に記載されているとおり、実際は「圧延板」状のものである。
そうすると、甲1発明の「低炭素マルテンサイト系ステンレス熱延鋼板」と、本件発明1の「フェライト系ステンレス鋼」とは、「ステンレス鋼」で共通する。
ウ 上記ア、イより、本件発明1と甲1発明とは、
「質量%で、
C:所定量、
Si:0.01%以上1.00%以下、
Mn:所定量、
Cr:11.5%以上14.5%以下、
Ni:0%以上0.80%以下、
N:0.002%以上0.070%以下、
P:0%以上0.040%以下、
S:0%以上0.0300%以下を含む、
ステンレス鋼。」で一致し、次の相違点で相違する。
(相違点1-1)
本件発明1は、「質量%で、」「C:0.14%以上0.45%以下」、「Mn:0.01%以上1.00%以下」、「P:0%以上0.040%以下、S:0%以上0.0300%以下」を含むのに対し、甲1発明は、「mass%で、C:0.059」、「Mn:1.56、Cu:0.01」を「含む鋼を溶製し」たものであって、不可避的不純物としてのPやSの含有量が不明である点。
(相違点1-2)
本件発明1は、「直径0.9μm以下の炭化物が1.24個/μm2以上存在し、ビッカース硬度が160HV以上300HV以下であり、下記(1)式を満足する」「Cp/Ct≧0.90・・・(1)(式(1)において、Cpは鋼材中に析出物として存在するC量、Ctは鋼材中に存在する総C量である。)」のに対し、甲1発明は、「直径0.9μm以下の炭化物」の存在量及び「ビッカース硬度」が不明であり、式(1)を満たすか否かも不明である点。
(相違点1-3)
「ステンレス鋼」について、本件発明1は、「フェライト系」であるのに対し、甲1発明は、「低炭素マルテンサイト系」である点。
(2)検討
ア 事案に鑑み、まず相違点1-2について検討する。
イ 甲1には、「直径0.9μm以下の炭化物」の存在量及び「ビッカース硬度」、並びに、式(1)を満たすか否かが明記されていない。
ウ ここで、申立人は特許異議申立書(以下、単に「申立書」という。)において、本件発明3は甲1に開示されており、また、一般的に、同じ成分を含有する材料に対して同じ方法で加工を行った場合、同様の内部組織を有する蓋然性が高いから、本件発明1は甲1に対して新規性及び進歩性を有さない旨主張している(申立書第12頁第5~19行)。
エ 以下、上記ウの主張について検討する。
オ 本件の特許請求の範囲の請求項3の記載は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項3に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項3】
請求項1又は2に記載のフェライト系ステンレス鋼を製造する方法であって、
請求項1又は2に記載の成分を含む鋼片を、1150℃以上に加熱したうえで熱間圧延を行い、前記熱間圧延における仕上げ圧延を850℃以上900℃以下で終了して、熱間圧延板を得ること、及び
前記仕上げ圧延に引き続いて、前記熱間圧延板を炉に装入して700℃以上800℃以下の温度で30分以上24時間以下の加熱保持を行って、加熱保持後圧延板を得ること、
を含む、フェライト系ステンレス鋼の製造方法。」
カ 確かに、全く同じ成分を含有する鋼に対して全く同じ加工条件で加工を行った場合、同様の内部組織を有する蓋然性は高いかもしれない。
キ しかしながら、相違点1-1が存在するように、本件発明1と甲1発明とは、その成分が異なる。
ク また、請求項3(上記オ参照。)には、複数の製造条件(熱間圧延温度、仕上圧延温度、加熱保持温度及び加熱保持時間)が数値範囲で特定されており、例えば、当該数値範囲内であっても、加熱保持温度が低ければ加熱保持時間を長くする等、これらの条件において互いに関連性があることも考えられる。
ケ そうすると、請求項3で特定される製造条件の全ての範囲の組み合わせにおいて、相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項が得られるか否かは不明であるといわざるを得ない。
コ また、その製造条件について比較しても、本件発明3は、「熱間圧延における仕上げ圧延を850℃以上900℃以下で終了」するところ、甲1発明は、熱間圧延における仕上げ圧延温度が不明であって、少なくともこの点で両者の製造条件が完全に同じであるとはいえない。
サ そうすると、相違点1-2は実質的な相違点である。
シ 次に、相違点1-2の容易想到性について検討する。
ス 甲1には、「直径0.9μm以下の炭化物」の存在量及び「ビッカース硬度」、並びに、式(1)を満たすか否かが記載も示唆もされていないから、甲1発明において、相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項を得る動機がない。
セ ここで、甲1には、「仕上げ圧延温度を900~1100℃の範囲に制御して熱間圧延・・・(略)・・・するのが好ましい」(【0028】)と記載されているから、上記コで検討した、甲1発明の仕上げ圧延温度を、本件発明3の上限である「900℃」とする動機があるかもしれない。
ソ しかしながら、仮に、甲1発明において、仕上げ圧延温度を900℃とする動機があったとしても、上記オ~サで検討したとおり、それによって相違点1-2に係る発明特定事項が得られるとはいえないし、「適正な焼き入れ温度範囲が広い」という本件発明の効果を予測することも困難である。
タ そうすると、甲1発明において、相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
チ よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
1-3 本件発明2について
(1)本件発明2と甲1発明とを対比すると、少なくとも上記1-2の(1)のウの相違点1-1及び相違点1-2で相違する。
(2)そうすると、上記1-2で検討した理由と同様の理由により、本件発明2は、甲1発明ではないし、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
1-4 申立人の主張について
(1)申立人は、申立書において、(ア)甲1には、本件請求項1で特定されている成分組成が開示されていること(第8頁第1~16行)、及び、(イ)甲1には、仕上げ圧延温度が900~1100℃であることが開示されているから、本件請求項3の「熱間圧延における仕上げ圧延を850℃以上900℃以下で終了」することが開示されていること(第10頁第18~21行)を主張している。
しかしながら、(ア)甲1の請求項1に記載された成分組成の範囲と本件発明1の成分組成の範囲とを比較すると、重複する部分が存在するが、重複する部分が存在するだけでは本件発明1の範囲内であるとはいえないから、本件請求項1で特定されている成分組成が開示されているとまではいえない。
また、(イ)甲1には、発明の詳細な説明の【0028】には、仕上げ圧延温度を900~1100℃の範囲に制御して熱間圧延することが記載されているものの、その温度範囲が900℃でのみ重複するだけであって、重複する部分が存在するだけでは本件発明1の範囲内であるとはいえないから、本件請求項1で特定されている仕上げ圧延温度が開示されているとまではいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。
2 申立理由2(甲2を主たる引用例とする新規性・進歩性)
2-1 甲2の記載及び甲2に記載された発明
(1) 甲2の記載事項
本件特許の出願日前に公知となった甲2には、次の記載がある。
「[0019]その要旨とするところは以下の通りである。
(1)質量%で、C:0.40~0.50%、Si:0.25~0.60%、Mn:2.0%以下、P:0.035%以下、S:0.010%以下、Cr:11.0~15.5%、Ni:0.01~0.60%、Cu:0.50%以下、Mo:0.10%以下、Sn:0.005~0.10%、V:0.10%以下、Al:0.03%以下、N:0.01~0.05%、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼組成を有し、C,N及びSnの範囲が(1)式を満たす耐食性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼。
S値=16×Sn/C+2×N/C≧0.40%・・・(1)
ただし、上記の式において各元素名C,N,Snはそれぞれの元素の含有量(質量%)を表す。」
「[0045]一方、本実施形態に係るマルテンサイト系ステンレス鋼は、上述の組成の鋼を鋳造し、得られた鋳塊を熱間圧延して熱延板を得て、熱延板を巻き取り、巻き取られた熱延板を焼戻し(焼鈍し)し、焼戻された熱延板を焼入れすることにより製造されることが好ましい。この製造方法においては、熱間圧延(熱延)時の加熱温度を1140~1240℃とし、巻き取り温度を700~840℃とし、熱延板の焼鈍を、バッチ式焼鈍炉にて700~900℃で4時間以上行なうことが望ましい。
[0046]即ち、熱延時の加熱温度が1240℃より高くなると、γ単相からγ+δの二相域となる。δ相では、Cr、Si等が濃化し、C、N、Ni等が負偏析し、焼入れ時のγ単相化が阻害されるので、焼入れ性が損われる。逆に熱延加熱温度が1140℃未満になると、偏析(凝固偏析)を解消するための拡散時間として均熱時間が2時間以上必要となり、熱延の生産性が大きく損われるので好ましくない。熱延の仕上げ温度(仕上げ圧延時の温度)は800℃以上にすることが望ましい。これより温度が下がると熱延割れが生じやすくなる。それに加え、熱延の仕上げ温度が800℃未満になると巻取温度が下がるので、これによりその後の熱延板焼鈍時間が長時間化するなど、生産性が低下する。
[0047]また熱延後、鋼帯(熱間圧延により得られた熱延板)の巻取に際しては、巻き取温度を700~900℃とすることが望ましい。700℃未満で巻取ると、コイルの最冷部と最熱部の組織差が大きくなり、巻取後に熱延板焼鈍を施した後もこの組織差が解消されず、材質のコイル内変動を招くために好ましくない。700℃以上にすることで、コイルの冷却に際して、炭化物の析出及び粗大化が進み軟質化される。また、900℃を超えると、表面に厚い酸化スケールが形成され、脱炭相の形成による耐食性低下や、焼入れ後の研摩性不良などの問題を生じるために望ましくない。
[0048]次に、熱延板の焼鈍条件において、焼入れ前の加工性を良くするため、焼鈍により熱延板を軟質化させることが必要である。連続焼鈍炉では軟質化のために十分な焼鈍時間が確保できないため、バッチ式焼鈍炉を用いて、700~900℃の温度域に4時間以上保持することが望ましい。700℃未満や900℃超では軟質化が不十分になる。即ち、900℃超で長時間の焼鈍を施すと、雰囲気ガスの影響により、表層の窒化や脱炭により表層組織の不均一や材質変化を生じるため、好ましくない。また4時間未満では、コイル内の温度不均一に起因する、材質のコイル内変動が生じる。
[0049]熱延板は焼鈍後に酸洗されて熱延製品となるが、焼鈍された熱延板の一部は、冷間圧延と焼鈍を行って冷延製品となる。
[0050]製品の焼入れ熱処理(焼入れ加熱)として950~1100℃の温度域で、5秒~10分保定した。その後、焼入れ(水焼入れ、または空気焼入れ)することが望ましい。加熱温度が950℃未満では炭窒化物の溶体化が不十分となるので、目的とする焼入れ硬度が得られない。950℃以上にすることで、炭窒化物の溶体化が可能になり、オーステナイトを主体とする組織が得られる。また、加熱温度が高くなるとオーステナイト母相にデルタフェライトが析出するようになり、耐食性や焼入れ性を損ねるため、1100℃以下にすることが望ましい。このときの加熱時間(保定時間)についても、溶体化を進めるためには5秒以上必要である。5秒未満では、固溶C,Nが少なく十分な硬度が得られない。一方、10分以上になると、表面における酸化が進み、表層の脱炭により焼入れ後の耐食性及び硬度が低下するので好ましくない。また、焼入れの冷却速度は3~100℃/secであることが好ましい。好ましい焼入れ方法としては、空気焼入れ、水焼入れが挙げられる。
実施例
[0051]表1、2に示す化学組成(質量%)を有する鋼を、真空溶解炉にて溶解後、大気圧の不活性ガス雰囲気下、詳細には窒素雰囲気下で鋳造し、厚さ100mm、重さ50kgの鋼塊を得た。鋼塊は焼きが入っており加工が困難なため、850℃で4時間保持した後炉冷することにより焼戻した。鋼塊表層の湯皺を研削除去した後、1220℃まで加熱し、1時間保定した。その後、板厚6mmまで熱間圧延して熱延板を得た。この熱間圧延では、仕上げ温度を900℃とし、熱延板を800℃で巻き取った。巻き取られた熱延板を引き続き850℃で4時間保持した後、炉冷することで焼戻した。熱延板の端面に1mm以上の深さの割れが生じていたものは耳割れが生じたとして不良と判断した。この結果を表3、4の備考欄に示す。耳割れが1mm未満の場合は、軽度の耳割れと判断した。また、焼鈍後(焼戻し後)の硬度をJIS Z 2245:2011(ISO 6508-1:2005に基づく)に記載の方法で測定した。焼鈍後の硬度が92HRBを超える物は硬質のため不良と判断して、表3、4の備考欄に示した。
焼戻しされた熱延板を、引き続き、窒素雰囲気の熱処理炉中で1050℃、10分間保持後、取り出して空気焼入れして焼入れ鋼板を得た。得られた焼入れ鋼板を供試材として、下記の方法で焼入れ硬さと、耐食性を評価した。その結果を表3、4に示す。なお、一部の供試材(NO.40)については、油焼き入れにより焼入れ鋼板を得た。表1~4において、本実施形態で規定される範囲を外れている数値については下線を付した。
[0052]
[表1]
[図:0001420352000003.jpg]
」
「[請求項1]
質量%で、
C:0.40~0.50%、
Si:0.25~0.60%、
Mn:2.0%以下、
P:0.035%以下、
S:0.010%以下、
Cr:11.0~15.5%、
Ni:0.01~0.60%、
Cu:0.50%以下、
Mo:0.10%以下、
Sn:0.005~0.10%、
V:0.10%以下、
Al:0.03%以下、
N:0.01~0.05%、
残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼組成を有し、
C,N及びSnの範囲が(1)式を満たす耐食性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼。
S値=16×Sn/C+2×N/C≧0.40% ・・・(1)
ただし、上記の式において各元素名C,N,Snはそれぞれの元素の含有量(質量%)を表す。」
(2)甲2に記載された発明
ア 上記(1)の表1の鋼の化学組成は、表1の最上部に「単位:質量%」記載されていることから、質量%で示されていると認められる。
そうすると、鋼No.5の化学組成は、質量%で、C:0.430、Si:0.25、Mn:0.85、P:0.010、S:0.008、Cr:13.2、Ni:0.15、Cu:0.03、Sn:0.050、Mo:0.03、V:0.01、Al:0.003、N:0.027、残部:Fe及び不可避的不純物であることが読み取れる。
イ 上記(1)、及び、上記アより、甲2の鋼No.5を用いた鋼板に注目すると、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
「質量%で、C:0.430、Si:0.25、Mn:0.85、P:0.010、S:0.008、Cr:13.2、Ni:0.15、Cu:0.03、Sn:0.050、Mo:0.03、V:0.01、Al:0.003、N:0.027、残部:Fe及び不可避的不純物である化学組成を有する鋼を、真空溶解炉にて溶解後、
大気圧の不活性ガス雰囲気下、詳細には窒素雰囲気下で鋳造し、厚さ100mm、重さ50kgの鋼塊を得て、
850℃で4時間保持した後炉冷することにより焼戻し、
1220℃まで加熱し、1時間保定し、
その後、板厚6mmまで熱間圧延して熱延板を得て、この熱間圧延では、仕上げ温度を900℃とし、熱延板を800℃で巻き取り、巻き取られた熱延板を引き続き850℃で4時間保持した後、炉冷することで焼戻ししたステンレス鋼板。」
2-2 本件発明2について
(1)対比
ア 甲2発明の「ステンレス鋼板」は、「質量%で、C:0.430、Si:0.25、Mn:0.85、P:0.010、S:0.008、Cr:13.2、Ni:0.15、Cu:0.03、Sn:0.050、Mo:0.03、V:0.01、Al:0.003、N:0.027、残部:Fe及び不可避的不純物である化学組成を有する鋼を、真空溶解炉にて溶解後、」「鋳造」、「焼戻し」、「熱間圧延」、「炉冷することで焼戻しした」ものであるから、上記「鋼」と同様の組成を有すると解される。
そうすると、甲2発明の「質量%で、C:0.430、Si:0.25、Mn:0.85、P:0.010、S:0.008、Cr:13.2、Ni:0.15、Cu:0.03、Sn:0.050、Mo:0.03、V:0.01、Al:0.003、N:0.027、残部:Fe及び不可避的不純物である」事項は、本件発明2の「質量%で、C:0.14%以上0.45%以下、Si:0.01%以上1.00%以下、Mn:0.01%以上1.00%以下、Cr:11.5%以上14.5%以下、Ni:0%以上0.80%以下、N:0.002%以上0.070%以下、P:0%以上0.040%以下、S:0%以上0.0300%以下、残部:Fe及び不純物からなり、」「Al:0%以上0.30%以下、Nb:0%以上0.07%以下、B:0%以上0.0030%以下、Ti:0%以上0.07%以下、Mo:0%以上0.03%以下、V:0%以上0.30%以下、Sn:0%以上0.12%以下、Cu:0%以上0.40%以下、W:0%以上0.03%以下、Co:0%以上0.50%以下、Zr:0%以上0.50%以下、Ca:0%以上0.0050%以下、Mg:0%以上0.0050%以下、Y:0%以上0.10%以下、Hf:0%以上0.20%以下、REM:0%以上0.10%以下、Sb:0%以上0.15%以下、のうちの1種又は2種以上を含む」事項に相当する。
イ 本件発明1の「フェライト系ステンレス鋼」は、請求項3、4に記載されているとおり、実際は「圧延板」状のものである。
そうすると、甲2発明の「ステンレス鋼板」と、本件発明2の「フェライト系ステンレス鋼」とは、「ステンレス鋼」で共通する。
ウ 上記ア、イより、本件発明2と甲2発明とは、
「質量%で、
C:0.14%以上0.45%以下、
Si:0.01%以上1.00%以下、
Mn:0.01%以上1.00%以下、
Cr:11.5%以上14.5%以下、
Ni:0%以上0.80%以下、
N:0.002%以上0.070%以下、
P:0%以上0.040%以下、
S:0%以上0.0300%以下、を含み、
さらに、
Al:0%以上0.30%以下、
Nb:0%以上0.07%以下、
B:0%以上0.0030%以下、
Ti:0%以上0.07%以下、
Mo:0%以上0.03%以下、
V:0%以上0.30%以下、
Sn:0%以上0.12%以下、
Cu:0%以上0.40%以下、
W:0%以上0.03%以下、
Co:0%以上0.50%以下、
Zr:0%以上0.50%以下、
Ca:0%以上0.0050%以下、
Mg:0%以上0.0050%以下、
Y:0%以上0.10%以下、
Hf:0%以上0.20%以下、
REM:0%以上0.10%以下、
Sb:0%以上0.15%以下、
のうちの1種又は2種以上を含み、
残部:Fe及び不純物
からなる、
ステンレス鋼。」で一致し、次の相違点で相違する。
(相違点2-1)
本件発明2は、「直径0.9μm以下の炭化物が1.24個/μm2以上存在し、ビッカース硬度が160HV以上300HV以下であり、下記(1)式を満足する」「Cp/Ct≧0.90・・・(1)(式(1)において、Cpは鋼材中に析出物として存在するC量、Ctは鋼材中に存在する総C量である。)」のに対し、甲2発明は、「直径0.9μm以下の炭化物」の存在量及び「ビッカース硬度」が不明であり、式(1)を満たすか否かも不明である点。
(相違点2-2)
「ステンレス鋼」について、本件発明2は、「フェライト系」であるのに対し、甲2発明は、「フェライト系」であるのか不明である点。
(2)検討
ア 事案に鑑み、まず相違点2-1について検討する。
イ 甲2には、「直径0.9μm以下の炭化物」の存在量及び「ビッカース硬度」、並びに、式(1)を満たすか否かが明記されていない。
ウ ここで、申立人は申立書において、本件発明3のうち、本件発明2を引用する部分に関しては甲2に開示されており、また、一般的に、同じ成分を含有する材料に対して同じ方法で加工を行った場合、同様の内部組織を有する蓋然性が高いから、本件発明2は甲2に対して新規性及び進歩性を有さない旨主張している(申立書第16頁第14行~第17頁第3行)。
エ 以下、上記ウの主張について検討する。
オ 本件の特許請求の範囲の請求項3の記載は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項3に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項3】
請求項1又は2に記載のフェライト系ステンレス鋼を製造する方法であって、
請求項1又は2に記載の成分を含む鋼片を、1150℃以上に加熱したうえで熱間圧延を行い、前記熱間圧延における仕上げ圧延を850℃以上900℃以下で終了して、熱間圧延板を得ること、及び
前記仕上げ圧延に引き続いて、前記熱間圧延板を炉に装入して700℃以上800℃以下の温度で30分以上24時間以下の加熱保持を行って、加熱保持後圧延板を得ること、
を含む、フェライト系ステンレス鋼の製造方法。」
カ 確かに、全く同じ成分を含有する鋼に対して全く同じ加工条件で加工を行った場合、同様の内部組織を有する蓋然性は高いかもしれない。
キ しかしながら、請求項3(上記オ参照。)には、複数の製造条件(熱間圧延温度、仕上圧延温度、加熱保持温度及び加熱保持時間)が数値範囲で特定されており、例えば、当該数値範囲内であっても、加熱保持温度が低ければ加熱保持時間を長くする等、これらの条件において互いに関連性があることも考えられる。
ク そうすると、請求項3で特定される製造条件の全ての範囲の組み合わせにおいて、上記相違点2-1に係る本件発明2の発明特定事項が得られるか否かは不明であるといわざるを得ない。
ケ また、その製造条件について比較しても、請求項3は、「熱間圧延板を炉に装入して700℃以上800℃以下の温度で30分以上24時間以下の加熱保持を行」うものであるところ、甲2発明は、「850℃で4時間保持し」ており、少なくともこの点で両者の製造条件が完全に同じであるとはいえない。
コ そうすると、相違点2-1は実質的な相違点である。
サ 次に、相違点2-1の容易想到性について検討する。
シ 甲2には、「直径0.9μm以下の炭化物」の存在量及び「ビッカース硬度」、並びに、式(1)を満たすか否かが記載も示唆もされていないから、甲2発明において、相違点2-1に係る本件発明2の発明特定事項を得る動機がない。
ス ここで、甲2([0045])には、焼鈍を700~900℃で4時間以上行うことが望ましいと記載されているから、上記ケで検討した、甲2発明の「850℃」という焼鈍温度を700~800℃とする動機があるかもしれない。
セ しかしながら、仮に、甲2発明において、焼鈍温度を700~800℃とする動機があったとしても、上記オ~コで検討したとおり、それによって相違点2-1に係る発明特定事項が得られるとはいえないし、「適正な焼き入れ温度範囲が広い」という本件発明の効果を予測することは困難である。
ソ したがって、甲2発明において、相違点2-1係る本件発明2の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
タ よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲2発明ではないし、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
3 申立理由3(サポート要件)
(1)当審の検討
ア 本件発明1は、「直径0.9μm以下の炭化物が1.24個/μm2以上存在」するとの発明特定事項を含むものである。
イ そして、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)には、次の記載がある。
「【0033】
フェライト系ステンレス鋼における炭化物の状態は以下の通り特定するものとする。すなわち、フェライト系ステンレス鋼の断面を研磨後に王水腐食してSEMにて観察することにより、フェライト系ステンレス鋼に含まれる炭化物の直径や密度を特定する。SEMにおける断面二次画像において、元素マッピング等によって炭化物の存在領域を特定し、当該存在領域の「円相当直径」を算出することで、各々の炭化物の直径を特定する。また、SEMの断面二次画像の単位面積当たりに含まれる炭化物の個数を測定することで、炭化物の密度を特定する。ここで、測定範囲は板厚1/4位置を中心として200μm×400μm以上とする。また、炭化物の観察及び測定にあたっては板厚1/2位置を避けることとする。この位置には偏析等の影響により炭化物が連なって存在する、いわゆる「炭化物バンド」が存在する場合があるためである。SEMの倍率は5000倍以上とし、測定面積の総和として上述の範囲以上とする。なお、炭化物の組成はEDAXを用いて炭素の有無を検出すればよい。本開示のフェライト系ステンレス鋼に含まれ得る炭化物は、例えば、(Cr,Fe)23C6が大半で一部が(Cr,Fe)7C3であってもよいが、これらに限られず、いずれの組成でも構わない。」
ウ ここで、請求項1には、上記アの「直径0.9μm以下の炭化物」の個数を測定する測定範囲が記載されていない。
エ しかしながら、上記イには上記アの「直径0.9μm以下の炭化物」の個数を測定する測定範囲が記載されている。すなわち、上記アの発明特定事項は、「SEMにおける断面二次画像」で、「板厚1/4位置を中心として200μm×400μm以上」の「測定範囲」において、「元素マッピング等によって炭化物の存在領域を特定し、当該存在領域の「円相当直径」を算出することで、各々の炭化物の直径を特定」し、「炭化物の密度を特定する」ことは明らかである。
オ よって、請求項1及びそれを引用する請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
4 申立理由4(明確性要件)
(1)当審の検討
ア 請求項1には、「直径0.9μm以下の炭化物が1.24個/μm2以上存在」と記載されている。
イ そして、上記アの「炭化物」はその下限が記載されていないから、一見どの程度の大きさの「炭化物」まで含めるのかが不明である。
ウ しかしながら、上記アの「炭化物」の特定方法は、上記3(1)イに摘記したとおりの方法であり、上記アの「炭化物」は、かかる方法で特定し得る「直径0.9μm以下の炭化物」全てを対象とするものであると解される。
エ そうすると、請求項1及びそれを引用する請求項2の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
第5 むすび
以上のとおり、本件の請求項1~2に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項1~2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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