特許異議申立
2022-701133
成形品の製造方法、ブランク、及び角筒深絞り成形品
- 審判番号
- 2022-701133
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-505439
- 登録番号
- 7070820
- 請求日
- 2022年11月17日
- 審決日
- 2024年02月13日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】JFEスチール株式会社
- 【権利者代理人】田中 秀▲てつ▼
- 【権利者代理人】廣瀬 一
- 【権利者代理人】宮坂 徹
- 【権利者代理人】森 哲也
- 【異議申立人】中川 賢治
- 審判長/審判官
- 審判長 渋谷 善弘
- 審判官 鈴木 貴雄
- 審判官 菊地 牧子
- 分類
- P1652.113-ZDA(B21D) / P1652.121-ZDA(B21D) / P1652.537-ZDA(B21D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法113条2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第36条、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7070820号発明「成形品の製造方法、ブランク、及び角筒深絞り成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7070820号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕、8、9、10、11について訂正することを認める。
特許第7070820号の請求項10に係る特許を取り消す。
特許第7070820号の請求項1、4、6、8、9、11に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 特許掲載公報の発行までの経緯
特許第7070820号(以下「本件特許」という。)の請求項1~11に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)10月26日(優先権主張 令和3年2月22日)を国際出願日とする出願であって、令和4年5月10日にその特許権の設定登録がされ、同年5月18日に特許掲載公報が発行された。
2 特許異議の申立て以降の経緯
本件特許についての本件特許異議の申立ての主な経緯は、次のとおりである。
(1)令和4年11月17日
特許異議申立人 中川 賢治(以下「申立人」という。)による、請求項1、4、6、8~11に係る特許に対する特許異議の申立て(申立人により提出された「特許異議申立書」を、以下単に「申立書」という場合がある。)
(2)令和5年2月28日付け
取消理由の通知(以下「取消理由通知」という。)
(3)令和5年4月25日
特許権者 JFEスチール株式会社(以下「特許権者」という。)による、意見書及び訂正請求書の提出
(4)令和5年5月16日付け
訂正請求書に対する、手続補正の指令(特許法第120条の5第9項において準用する同法第133条第1項)
(5)令和5年6月1日
特許権者による、手続補正書(方式)の提出
(6)令和5年6月8日付け
申立人に対する、訂正の請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)
(7)令和5年7月10日
申立人による意見書(以下「申立人意見書」という。)の提出
(8)令和5年10月5日付け
取消理由(決定の予告)の通知(以下単に「決定の予告」という。)
なお、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者は応答しなかった。
第2 本件訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
令和5年4月25日に提出され、同年6月1日に提出の手続補正書(方式)により補正された訂正請求書による、特許請求の範囲の訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線部は、訂正事項について特許権者が付したものである。)。
【請求項1~7について】
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「上記切欠きは、上記縦稜線となる位置を挟んだ両側位置であって、上記直辺部の上記縦稜線に近い部分に連続する上記フランジ領域の辺にそれぞれ形成されている、」
と記載されているものを、
「上記切欠きは、上記縦稜線となる位置を挟んだ両側位置であって、上記直辺部となる領域の上記縦稜線となる位置に近い部分に連続する上記フランジ領域の辺にそれぞれ形成され、
上記フランジ領域と上記直辺部となる領域との境界線と、上記切欠きの頂点を上記切欠きの深さ方向に延ばした直線とが交わる交点の、上記境界線の上記縦稜線となる位置側の端部位置からの距離が、上記成形品において上記切欠きを形成したフランジの部分に直辺部を介して連続する上記底面部の辺の長さの0倍以上0.2倍以下の範囲である、」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、請求項7も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4の
「上記予成形形状における底面部の辺の長さを、上記成形品における底面部の対応する辺の長さの0.9倍以上1.1倍以下とする、」
と記載されているものを、
「上記予成形形状における底面部の辺の長さを、上記成形品における底面部の対応する辺の長さの0.9倍以上1.1倍以下とし、
上記予成形形状における底面部に対する縦稜線の傾きが、上記成形品における底面部に対する縦稜線の傾きよりも傾斜角度が大きい、」
に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項7も同様に訂正する。)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5の
「上記予成形形状の成形深さが、底面部の各辺において、左右方向端部側よりも、左右方向中央部側の方が浅い、」
と記載されているものを、
「多角形形状の底面部と、上記底面部の各辺にそれぞれ連続する直辺部及び隣り合う上記直辺部の左右方向端部同士を連結する縦稜線を備える側壁と、上記側壁に連続するフランジとを有する角筒形状の成形品を、鋼板からなるブランクを角筒深絞り成形することで製造する成形品の製造方法であって、
上記ブランクを角筒深絞り成形を行って、上記ブランクに上記成形品よりも成形深さが浅い角筒形状からなる予成形形状を形成する予成形工程と
上記予成形工程よりも後工程であって、上記予成形工程で上記予成形形状を付与した上記ブランクを、上記成形品の形状に角筒深絞り成形する本工程と、を有し、
上記予成形形状における底面部の辺の長さを、上記成形品における底面部の対応する辺の長さの0.9倍以上1.1倍以下とし、
上記予成形形状の成形深さが、底面部の各辺において、左右方向端部側よりも、左右方向中央部側の方が浅い、」
に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6、請求項7も同様に訂正する。)。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5の
「ことを特徴とする請求項4に記載した成形品の製造方法。」
と記載されているものを、
「ことを特徴とする成形品の製造方法。」
に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6、請求項7も同様に訂正する。)。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6の
「ことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載した成形品の製造方法。」
と記載されているものを、
「ことを特徴とする請求項5に記載した成形品の製造方法。」
に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7も同様に訂正する。)。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7の
「請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の切欠き」
と記載されているものを、
「請求項1又は請求項2に記載の切欠き」
に訂正する。
【請求項8について】
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8の
「上記切欠きは、上記直辺部の上記縦稜線に近い部分に連続する上記フランジ領域の辺にそれぞれ形成されている、」
と記載されているものを、
「上記切欠きは、上記直辺部となる領域の上記縦稜線となる位置に近い部分に連続する上記フランジ領域の辺にそれぞれ形成され、
上記フランジ領域と上記直辺部となる領域との境界線と、上記切欠きの頂点を上記切欠きの深さ方向に延ばした直線とが交わる交点の、上記境界線の上記縦稜線となる位置側の端部位置からの距離が、上記成形品において上記切欠きを形成したフランジの部分に直辺部を介して連続する上記底面部の辺の長さの0倍以上0.2倍以下の範囲である、」
に訂正する。
【請求項9について】
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9の
「上記予成形形状における底面部の辺の長さは、上記成形品における底面部の対応する辺の長さの0.9倍以上1.1倍以下である、」
と記載されているものを、
「上記予成形形状における底面部の辺の長さは、上記成形品における底面部の対応する辺の長さの0.9倍以上1.1倍以下であり、
上記予成形形状の成形深さが、底面部の各辺において、左右方向端部側よりも、左右方向中央部側の方が浅い、」
に訂正する。
【請求項10~11について】
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10の
「上記底面部と上記縦稜線との境界である角部の曲率半径R(mm)と成形深さh(mm)の関係が、式(1)の関係を満たす、」
と記載されているものを、
「上記底面部と上記縦稜線との境界である角部の曲率半径R(mm)と成形深さh(mm)の関係が、式(1)の関係を満たし、
上記成形深さhが、110mm~250mmである、」
に訂正する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項11の
「上記鋼板はめっき鋼板である、」
と記載されているものを、
「多角形形状の底面部と、上記底面部の各辺にそれぞれ連続する直辺部及び隣り合う直辺部の左右方向端部同士を連結する縦稜線を備える側壁と、上記側壁に連続するフランジとを有し、鋼板から、しごき加工が不要な深絞り成形によるプレス加工で製造されてなる角筒深絞り成形品であって、
上記鋼板はめっき鋼板であり、
上記底面部と上記縦稜線との境界である角部の曲率半径R(mm)と成形深さh(mm)の関係が、式(2)の関係を満たし、
上記成形高さhが、110mm~250mmである、」
に訂正する。
(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項11の
「ことを特徴とする請求項10に記載した角筒深絞り成形品。」
と記載されているものを、
「ことを特徴とする角筒深絞り成形品。
h / R ≧ 4 ・・・(2)」
に訂正する。
2 一群の請求項について
(1)請求項〔1~7〕
本件訂正前の請求項1~3、7について、本件訂正前の請求項2~3、7は、請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。また、本件訂正前の請求項4~7について、本件訂正前の請求項5~7は、請求項4を引用しているものであって、訂正事項3によって記載が訂正される請求項4に連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正前の請求項1~7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、訂正事項1~7は、この一群の請求項1~7について請求されたものである。
(2)請求項〔10~11〕
本件訂正前の請求項10~11について、本件訂正前の請求項11は、請求項10を引用しているものであって、訂正事項10によって記載が訂正される請求項10に連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正前の請求項10~11は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、訂正事項10~12は、この一群の請求項10~11について請求されたものである。
また、本件訂正後の請求項10~11について、特許権者は、本件訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位とすることを求めている。
3 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無、独立特許要件の充足・非充足について
【一群の請求項〔1~7〕に係る訂正について】
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1のうち、「上記直辺部」を「上記直辺部となる領域」とし、「上記縦稜線」を「上記縦稜線となる位置」とする訂正は、本件訂正前の請求項1において不明瞭であった、ブランクにおける切欠きの形成位置を明確にするための訂正である。
また、訂正事項1のうち、「切欠き」の形成範囲を、「上記フランジ領域と上記直辺部となる領域との境界線と、上記切欠きの頂点を上記切欠きの深さ方向に延ばした直線とが交わる交点の、上記境界線の上記縦稜線となる位置側の端部位置からの距離が、上記成形品において上記切欠きを形成したフランジの部分に直辺部を介して連続する上記底面部の辺の長さの0倍以上0.2倍以下の範囲である、」とする訂正は、本件訂正前に記載された「切欠き」の形成範囲を、より具体的に限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明、及び、同項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記アから明らかなように、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
訂正事項1のうち、「上記直辺部」を「上記直辺部となる領域」とし、「上記縦稜線」を「上記縦稜線となる位置」とする訂正は、本件訂正前の請求項3の「上記直辺部となる領域」、同じく請求項1の「上記縦稜線となる位置」との記載に基づくものである。また、訂正事項1のうち、「切欠き」の形成範囲を特定する訂正事項は、本件訂正前の請求項3、段落【0028】及び【0034】の記載に基づくものである。
したがって、上記訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて
本件においては、本件訂正前の請求項1について特許異議の申立てがされているので、本件訂正前の請求項1に対する訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
一方、本件訂正前の請求項2~3、7については、特許異議の申立てがされておらず、また、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を含むから、本件訂正後の請求項2~3、7に係る発明が独立特許要件を満たしているかについて、以下検討する。
本件訂正前の請求項1を引用する請求項2、7については、令和5年2月28日付け取消理由通知書において、請求項1に対して通知した理由1(明確性)及び理由2(サポート要件)の取消理由と同様の理由を有していたといえるものの、本件訂正後の請求項2、7については、上記アのとおり請求項1に連動して訂正されることで、理由1及び2を解消するものである。また、理由3(新規性)及び理由4(進歩性)に関する理由は発見していない。さらに、本件訂正に伴い、新たな理由も発見しない。
したがって、本件訂正後の請求項2、7に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
また、本件訂正前の請求項3については、後述(2)の訂正事項2により、削除された。
よって、請求項2~3、7に係る訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に適合するものである。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、請求項3を削除するというものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記アから明らかなように、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
上記アから明らかなように、訂正事項2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて
上記アから明らかなように、訂正前の請求項3に対する訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に適合するものである。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、本件訂正前の請求項4に対し、本件訂正前に請求項6の構成を追加して、本件訂正前の請求項4を引用する請求項6の構成に減縮することを目的とした訂正である。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記アから明らかなように、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
上記アから明らかなように、訂正事項3は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて
本件においては、本件訂正前の請求項4、6について特許異議の申立てがされているので、本件訂正前の請求項4、6に対する訂正事項3に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
一方、本件訂正前の請求項5、7については、特許異議の申立てがされておらず、また、訂正事項3は特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるから、本件訂正後の請求項5、7に係る発明が独立特許要件を満たしているかについて、以下検討する。
本件訂正後の請求項5については、後述(4)の訂正事項4~5により、請求項間の引用関係を解消し、本件訂正後の請求項4を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正がされたので、本件訂正後の請求項5に係る発明に独立特許要件は課されない。
また、本件訂正後の請求項7については、上記(1)エのとおりであって、本件訂正後の請求項7に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるから、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に適合するものである。
(4)訂正事項4~5
ア 訂正の目的について
訂正事項4~5は、本件訂正前の請求項5が本件訂正前の請求項4を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項4を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正である。
したがって、訂正事項4~5は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記アから明らかなように、訂正事項4~5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
上記アから明らかなように、訂正事項4~5は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて
上記アから明らかなように、訂正事項4~5は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は課されない。
(5)訂正事項6
ア 訂正の目的について
訂正事項6は、本件訂正前の請求項6が本件訂正前の請求項4又は5を引用する記載であったものを、請求項4との請求項間の引用関係を解消し、請求項4を引用しないものとするための訂正である。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記アから明らかなように、訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
上記アから明らかなように、訂正事項6は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて
本件においては、本件訂正前の請求項6について特許異議の申立てがされているので、本件訂正前の請求項6に対する訂正事項6に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(6)訂正事項7
ア 訂正の目的について
訂正事項7は、本件訂正前の請求項7が本件訂正前の請求項1~3のいずれか1項を引用する記載であったものを、請求項3との請求項間の引用関係を解消し、請求項3を引用しないものとするための訂正である。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記アから明らかなように、訂正事項7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
上記アから明らかなように、訂正事項7は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて
上記ア及び(1)エから明らかなように、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に適合するものである。
【請求項8に係る訂正について】
(7)訂正事項8
ア 訂正の目的について
訂正事項8は、上記(1)アと同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明、及び、同項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
訂正事項8は、上記(1)イと同様に、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
訂正事項8は、上記(1)ウと同様に、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて
本件においては、本件訂正前の請求項8について特許異議の申立てがされているので、本件訂正前の請求項8に対する訂正事項8に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
【請求項9に係る訂正について】
(8)訂正事項9
ア 訂正の目的について
訂正事項9は、本件訂正前の請求項9には、予成形形状の成形深さについて特定がないところ、「底面部の各辺において、左右方向端部側よりも、左右方向中央部側の方が浅い」という、本件訂正前の請求項5の構成と同等の構成を加えて特定したものである。
したがって、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記アから明らかなように、訂正事項9は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
訂正事項9は、本件訂正前の請求項5の記載、段落【0037】の「左右方向端部側よりも、左右方向中央部側の方が浅い方が好ましい。」との記載、段落【0058】及び図9の記載に基づくものである。
したがって、上記訂正事項9は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて
本件においては、本件訂正前の請求項9について特許異議の申立てがされているので、本件訂正前の請求項9に対する訂正事項9に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
【一群の請求項10~11に係る訂正について】
(9)訂正事項10
ア 訂正の目的について
訂正事項10は、本件訂正前の請求項10において、成形深さの具体的な範囲について特定していなかったところ、「上記成形深さhが、110mm~250mmである」と特定したものである。
したがって、訂正事項10は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記アから明らかなように、訂正事項10は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
訂正事項10における成形深さの範囲の上限値は、段落【0053】の「成形品1の成形深さは、例えば150mm以上250mm以下である。」との記載に基づくものである。また、訂正事項10における範囲の下限値は、段落【0064】の「成形深さ200mmまで成形できず、成形深さが110mmになった時点で割れた発生した」という比較例についての記載、段落【0068】の「図10から分かるように、・・・比較例に比べ成形深さを深くできることが分かった。」との記載に基づくものである。
したがって、上記訂正事項10は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて
本件においては、本件訂正前の請求項10について特許異議の申立てがされているので、本件訂正前の請求項10に対する訂正事項10に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(10)訂正事項11~12
ア 訂正の目的について
訂正事項11~12は、本件訂正前の請求項11が本件訂正前の請求項10を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項10を引用しないものとするための訂正である。また、訂正事項11のうち、「上記成形高さhが、110mm~250mmである」に係る訂正は、成形深さの具体的な範囲を特定したものである。さらに、訂正事項11のうち、「鋼板がめっき鋼板」に係る訂正は、鋼板の種類を限定したものであり、「鋼板からなる角筒深絞り成形品」が「しごき加工が不要な深絞り成形によるプレス加工で製造されてなる角筒深絞り成形品」であることを併せて限定したものである。
したがって、訂正事項11~12は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、及び、同項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記アから明らかなように、訂正事項11~12は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
訂正事項11~12のうち、独立形式請求項へ改めるための訂正は、本件訂正前の請求項10、11の記載に基づくものである。また、訂正事項11のうち、成形深さの具体的な範囲について、「上記成形高さhが、110mm~250mmである」と特定するための訂正は、上記(9)ウと同様の記載に基づくものである。なお、「上記成形高さh」との記載は、当該記載の前に「成形深さh」と記載されることから「上記成形深さh」の明らかな誤記と認める。また、訂正事項11のうち、対象とする角筒深絞り成形品が、しごき加工を行わない深絞り成形によりプレス加工で製造された角筒深絞り成形品であることを限定する訂正は、段落【0053】の「しごき加工を行わなくとも、深絞りで角筒深絞り成形品1を作製できる。」との記載、段落【0001】及び段落【0018】の記載に基づくものである。
したがって、上記訂正事項11~12は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて
本件においては、本件訂正前の請求項11について特許異議の申立てがされているので、本件訂正前の請求項11に対する訂正事項11~12に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
4 小括
したがって、上記の訂正事項1~12は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項、並びに、同法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、補正された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1~7〕、8、9、10、11について訂正することを認める。
第3 本件訂正後の本件発明
本件特許の請求項1~11に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などという。)は、補正された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
多角形形状の底面部と、上記底面部の各辺にそれぞれ連続する直辺部及び隣り合う上記直辺部の左右方向端部同士を連結する縦稜線を備える側壁と、上記側壁に連続するフランジとを有する角筒形状の成形品を、鋼板からなるブランクを角筒深絞り成形することで製造する成形品の製造方法であって、
上記ブランクにおける、上記フランジとなるフランジ領域の辺に切欠きを有し、
上記切欠きは、上記縦稜線となる位置を挟んだ両側位置であって、上記直辺部となる領域の上記縦稜線となる位置に近い部分に連続する上記フランジ領域の辺にそれぞれ形成され、
上記フランジ領域と上記直辺部となる領域との境界線と、上記切欠きの頂点を上記切欠きの深さ方向に延ばした直線とが交わる交点の、上記境界線の上記縦稜線となる位置側の端部位置からの距離が、上記成形品において上記切欠きを形成したフランジの部分に直辺部を介して連続する上記底面部の辺の長さの0倍以上0.2倍以下の範囲である、
ことを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項2】
上記各切欠きの開口幅は、上記成形品の成形深さの25%以上100%以下の大きさであり、
上記切欠きの頂部の輪郭形状は、円弧状の曲線から構成され、その切欠きの頂点の曲率半径は、上記成形深さの12.5%以上、上記切欠きの開口幅の2倍以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載した成形品の製造方法。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
多角形形状の底面部と、上記底面部の各辺にそれぞれ連続する直辺部及び隣り合う上記直辺部の左右方向端部同士を連結する縦稜線を備える側壁と、上記側壁に連続するフランジとを有する角筒形状の成形品を、鋼板からなるブランクを角筒深絞り成形することで製造する成形品の製造方法であって、
上記ブランクを角筒深絞り成形を行って、上記ブランクに上記成形品よりも成形深さが浅い角筒形状からなる予成形形状を形成する予成形工程と
上記予成形工程よりも後工程であって、上記予成形工程で上記予成形形状を付与した上記ブランクを、上記成形品の形状に角筒深絞り成形する本工程と、を有し、
上記予成形形状における底面部の辺の長さを、上記成形品における底面部の対応する辺の長さの0.9倍以上1.1倍以下とし、
上記予成形形状における底面部に対する縦稜線の傾きが、上記成形品における底面部に対する縦稜線の傾きよりも傾斜角度が大きい、
ことを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項5】
多角形形状の底面部と、上記底面部の各辺にそれぞれ連続する直辺部及び隣り合う上記直辺部の左右方向端部同士を連結する縦稜線を備える側壁と、上記側壁に連続するフランジとを有する角筒形状の成形品を、鋼板からなるブランクを角筒深絞り成形することで製造する成形品の製造方法であって、
上記ブランクを角筒深絞り成形を行って、上記ブランクに上記成形品よりも成形深さが浅い角筒形状からなる予成形形状を形成する予成形工程と
上記予成形工程よりも後工程であって、上記予成形工程で上記予成形形状を付与した上記ブランクを、上記成形品の形状に角筒深絞り成形する本工程と、を有し、
上記予成形形状における底面部の辺の長さを、上記成形品における底面部の対応する辺の長さの0.9倍以上1.1倍以下とし、
上記予成形形状の成形深さが、底面部の各辺において、左右方向端部側よりも、左右方向中央部側の方が浅い、
ことを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項6】
上記予成形形状における底面部に対する縦稜線の傾きが、上記成形品における底面部に対する縦稜線の傾きよりも傾斜角度が大きい、
ことを特徴とする請求項5に記載した成形品の製造方法。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載の切欠きを有するブランクを用いることを特徴とする、請求項4~請求項6のいずれか1項に記載の成形品の製造方法。
【請求項8】
多角形形状の底面部と、上記底面部の各辺にそれぞれ連続する直辺部及び隣り合う上記直辺部の左右方向端部同士を連結する縦稜線を備える側壁と、上記側壁に連続するフランジとを有する角筒形状の成形品を、鋼板からなるブランクを角筒深絞り成形して製造する際に使用する上記ブランクであって、
上記ブランクにおける、上記フランジとなるフランジ領域の辺に切欠きを有し、
上記切欠きは、上記直辺部となる領域の上記縦稜線となる位置に近い部分に連続する上記フランジ領域の辺にそれぞれ形成され、
上記フランジ領域と上記直辺部となる領域との境界線と、上記切欠きの頂点を上記切欠きの深さ方向に延ばした直線とが交わる交点の、上記境界線の上記縦稜線となる位置側の端部位置からの距離が、上記成形品において上記切欠きを形成したフランジの部分に直辺部を介して連続する上記底面部の辺の長さの0倍以上0.2倍以下の範囲である、
ことを特徴とする角筒深絞り成形用のブランク。
【請求項9】
多角形形状の底面部と、上記底面部の各辺にそれぞれ連続する直辺部及び隣り合う上記直辺部の左右方向端部同士を連結する縦稜線を備える側壁と、上記側壁に連続するフランジとを有する角筒形状の成形品を、鋼板からなるブランクを角筒深絞り成形して製造する際に使用する上記ブランクであって、
上記成形品よりも成形深さが浅い角筒形状からなる予成形形状を有し、
上記予成形形状における底面部の辺の長さは、上記成形品における底面部の対応する辺の長さの0.9倍以上1.1倍以下であり、
上記予成形形状の成形深さが、底面部の各辺において、左右方向端部側よりも、左右方向中央部側の方が浅い、
ことを特徴とする角筒深絞り成形用のブランク。
【請求項10】
多角形形状の底面部と、上記底面部の各辺にそれぞれ連続する直辺部及び隣り合う直辺部の左右方向端部同士を連結する縦稜線を備える側壁と、上記側壁に連続するフランジとを有し、鋼板からなる角筒深絞り成形品であって、
上記底面部と上記縦稜線との境界である角部の曲率半径R(mm)と成形深さh(mm)の関係が、式(1)の関係を満たし、
上記成形深さhが、110mm~250mmである、
深絞り成形品からなる角筒深絞り成形品。
h / R ≧ 4 ・・・(1)
【請求項11】
多角形形状の底面部と、上記底面部の各辺にそれぞれ連続する直辺部及び隣り合う直辺部の左右方向端部同士を連結する縦稜線を備える側壁と、上記側壁に連続するフランジとを有し、鋼板から、しごき加工が不要な深絞り成形によるプレス加工で製造されてなる角筒深絞り成形品であって、
上記鋼板はめっき鋼板であり、
上記底面部と上記縦稜線との境界である角部の曲率半径R(mm)と成形深さh(mm)の関係が、式(2)の関係を満たし、
上記成形高さh(当審注:「上記成形高さh」との記載は、「上記成形深さh」の明らかな誤記と認める。)が、110mm~250mmである、
ことを特徴とする角筒深絞り成形品。
h / R ≧ 4 ・・・(2)」
第4 申立人による申立ての理由の概要
申立人による申立ての理由は、概略、以下のとおりである。
1 申立書による申立ての理由
(1)請求項4、9について(申立書第21~22ページ)
条文 特許法第29条第1項第3号、同第2項
証拠 甲第1号証~甲第3号証
(2)請求項6について(申立書第23ページ)
条文 特許法第29条第2項
証拠 甲第1号証~甲第5号証
(3)請求項10について(申立書第24ページ)
条文 特許法第29条第1項第3号、同第2項
証拠 甲第6号証~甲第8号証
(4)請求項11について(申立書第24~25ページ)
条文 特許法第29条第1項第3号、同第2項
証拠 甲第6号証~甲第8号証、甲第2号証
(5)請求項1、8について(申立書第25~26ページ)
条文 特許法第36条第6項第2号
2 申立人意見書による本件訂正後の発明に対する理由
(1)本件訂正後の請求項4について(申立人意見書第2~6ページ)
条文 特許法第29条第2項
証拠 甲第1号証~甲第3号証、甲第9号証~甲第10号証
(2)本件訂正後の請求項10について(申立人意見書第7~13ページ)
条文 特許法第29条第1項第3号、同第2項
証拠 甲第11号証~甲第13号証
(3)本件訂正後の請求項11について(申立人意見書第13~14ページ)
条文 特許法第29条第2項
証拠 甲第11号証~甲第13号証、甲第2号証
3 証拠方法
甲第1号証:特開2009-113059号公報
甲第2号証:特許第5400537号公報
甲第3号証:平成21年度戦略的基盤技術高度化支援事業「大型角筒形状の高精度温間プレス成形技術の開発」研究開発成果等報告書、関東経済産業局、財団法人にいがた産業創造機構、平成22年3月、p.1~22
甲第4号証:特許第5836972号公報
甲第5号証:特許第6458802号公報
甲第6号証:黒色溶融めっき鋼板「黒ZAM(R)」、日新製鋼技報、日新製鋼株式会社、平成29年12月27日、第98号、p.42~46
甲第7号証:中村和彦 他1名、成形品の形状精度におよぼす液圧の効果、平成3年度塑性加工春季講演会講演論文集、一般社団法人日本塑性加工学会、平成3年5月10日、p.511~514
甲第8号証:桑原利彦 他2名、フレキシブルしわ押え方法による四角筒容器の深絞り加工法の研究、平成2年度塑性加工春季講演会講演論文集、一般社団法人日本塑性加工学会、平成2年5月11日、p.41~44
甲第9号証:加工一覧、[online]、令和元年12月24日、昭和軽金属工業株式会社、[令和5年7月3日出力]、インターネット<URL: https://www.al-shokei.com/Processing02>
甲第9号証の2:甲第9号証のソースコード
甲第10号証:特開2007-326112号公報
甲第11号証:特開2007-21577号公報
甲第12号証:特開2010-228008号公報
甲第13号証:特許第4136322号公報
(以下単に「甲1」などという。)
第5 取消理由通知及び決定の予告により通知した取消理由
1 本件訂正前の請求項1、4、8~11に係る特許に対して、当審による取消理由通知にて通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
理由1.(明確性)本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の(1)の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
理由2.(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の(2)の点で不備のため、特許法第36条6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
理由3.(新規性)本件特許の請求項10~11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(甲6~甲8のいずれかに記載された発明)であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項10~11に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
理由4.(進歩性)本件特許の請求項4、9~11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(甲1~甲3、甲6~甲8に記載された発明)に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項4、9~11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(1)理由1(明確性)について
本件訂正前の請求項1、8に記載の「上記直辺部の縦稜線に近い部分」とは、ブランクにおけるどこの位置を指しているのかが不明瞭である。
(2)理由2(サポート要件)について
本件訂正前の請求項1、8について、切欠きを直辺部の中央部近辺に連続するフランジ領域の辺に形成しても、発明の課題が解決できないことが明らかであるから、本件訂正前の請求項1、8は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。
2 本件訂正後の請求項10に係る特許に対して、当審による決定の予告にて通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
理由A.(新規性)本件特許の請求項10に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(甲11~13のいずれかに記載された発明)であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
第6 当審の判断1(特許を取り消す請求項)
1 本件訂正後の請求項10に係る特許について
本件発明10に対して、決定の予告にて上記第5の2の理由Aの取消理由を示し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたものの、特許権者は応答しなかった。そして、当該取消理由(以下に概要を示す。)は妥当なものと認められるので、本件請求項10に係る特許は、この取消理由によって取り消すべきものである。
<理由A:特許法第29条第1項第3号(新規性)>
(1)引用する文献
甲11、甲12、又は、甲13
(2)甲11に記載された発明
甲11に記載された事項を本件発明10に合わせて整理すると、甲11には次の発明(以下「甲11発明」という。)が記載されているといえる(なお、括弧内には、甲11に記載の対応する事項、用語、表現又は参照箇所を記載した。)。
「多角形形状の底面部(底板7、段落【0013】、【0015】、図5)と、上記底面部の各辺にそれぞれ連続する直辺部及び隣り合う直辺部の左右方向端部同士を連結する縦稜線を備える側壁(側壁6、段落【0013】、図5)と、上記側壁に連続するフランジ(周縁5、段落【0013】、図5)とを有し、鋼板(18-8ステンレス鋼、段落【0015】)からなる角筒深絞り成形品(深絞り加工を行ったシンク、段落【0015】)であって、
上記底面部と上記縦稜線との境界である角部(R3部)の曲率半径Rが20mm(段落【0016】、図6)、成形深さh(h寸法)が190mm(段落【0015】)である、
深絞り成形品からなる角筒深絞り成形品。」
(3)甲12に記載された発明
甲12に記載された事項を、本件発明10に合わせて整理すると、甲12には、以下の発明(以下「甲12発明」という。)が記載されているといえる(なお、括弧内には、甲12に記載の対応する事項、用語、表現又は参照箇所を記載した。)。
「多角形形状の底面部(底面8、段落【0022】、図1)と、上記底面部の各辺にそれぞれ連続する直辺部及び隣り合う直辺部の左右方向端部同士を連結する縦稜線を備える側壁(側面6、段落【0022】、図1)と、上記側壁に連続するフランジ(フランジ部4、段落【0014】、図1)とを有し、鋼板(ステンレス鋼板、段落【0014】)からなる角筒深絞り成形品(第1のプレス深絞り工程、シンク1、段落【0009】、図1)であって、
上記底面部と上記縦稜線との境界である角部(コーナー部分C、段落【0023】、図1)の曲率半径R(r2)が20~35mm(段落【0023】、図1)、成形深さh(槽部2の深さ(H))が170~190mm(段落【0015】、図1)である、
深絞り成形品からなる角筒深絞り成形品。」
(4)甲13に記載された発明
甲13に記載された事項を、本件発明10に合わせて整理すると、甲13には、以下の発明(以下「甲13発明」という。)が記載されているといえる(なお、括弧内には、甲13に記載の対応する事項、用語、表現又は参照箇所を記載した。)。
「多角形形状の底面部(底壁10、段落【0015】、図1、3)と、上記底面部の各辺にそれぞれ連続する直辺部及び隣り合う直辺部の左右方向端部同士を連結する縦稜線を備える側壁(側壁20、段落【0015】、図1、3)と、上記側壁に連続するフランジ(フランジ30、段落【0015】、図1、3)とを有し、鋼板(SUS304ステンレス鋼板、段落【0022】)からなる角筒深絞り成形品(プレス絞り成形、容器部材1、段落【0022】、図1)であって、
上記底面部と上記縦稜線との境界である角部の曲率半径Rが30mm(図3(b))、成形深さhが150mm(図3(a))である、
深絞り成形品からなる角筒深絞り成形品。」
(5)対比・判断
ア 本件発明10と甲11発明との対比・判断
甲11発明は、成形深さhが190mmであるから、110mm~250mmの範囲内である。また、甲11発明は、Rが20mmであるから、h/R=9.5であって、h/R≧4(式1)の関係を満たしている。
したがって、本件発明10と甲11発明とを対比すると、相違する点はないから、本件発明10は、甲11発明である。
イ 本件発明10と甲12発明との対比・判断
甲12発明は、成形深さhが170~190mmであるから、110mm~250mmの範囲内である。また、甲12発明は、Rが20~35mmであるから、h/R=4.86~9.5であって、h/R≧4(式1)の関係を満たしている。
したがって、本件発明10と甲12発明とを対比すると、相違する点はないから、本件発明10は、甲12発明である。
ウ 本件発明10と甲13発明との対比・判断
甲13発明は、成形深さhが150mmであるから、110mm~250mmの範囲内である。また、甲13発明は、Rが30mmであるから、h/R=5.0であって、h/R≧4(式1)の関係を満たしている。
したがって、本件発明10と甲13発明とを対比すると、相違する点はないから、本件発明10は、甲13発明である。
(6)小括
上記(5)のとおり、本件発明10は、甲11発明、甲12発明又は甲13発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
第7 当審の判断2(特許を維持する請求項)
1 はじめに
本件訂正後の請求項1、4、6、8~9、11に係る特許については、以下の2~6のとおり、上記第4に示した申立人による申立ての理由、及び、上記第5の1に示した取消理由通知において当審より本件訂正前の請求項1、8に対して通知した理由2によっては取り消すことはできない。
2 本件訂正後の請求項1、8に係る特許について
<申立ての理由:特許法第36条第6項第2号(第4の1(5))>
<当審による取消理由:特許法第36条第6項第1号(第5の1(2)>
本件訂正の訂正事項1、8により、請求項1、8の「上記直辺部」は「上記直辺部となる領域」に、「上記縦稜線」は「上記縦稜線となる位置」に、それぞれ訂正がされた。この訂正により、本件発明1、8は、ブランクにおける切欠きの位置を明確に特定することができる。
また、本件訂正の訂正事項1、8により、本件発明1、8における「切欠き」の形成範囲を限定する訂正がされた。この訂正により、本件発明1、8は、発明の詳細な説明に記載された、課題を解決するための手段を反映して特定されているといえる。
したがって、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1、8の記載に不備があるとはいえず、本件特許は、特許法第36条第6項第1号又は第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである、とはいえない。
3 本件訂正後の請求項4に係る特許について
<申立ての理由:特許法第29条第1項第3号、同第2項(第4の1(1)及び(2)並びに2(1))>
(1)本件訂正の訂正事項3により、本件訂正前の請求項4に係る発明を、本件訂正前の請求項6の発明特定事項である「上記予成形形状における底面部に対する縦稜線の傾きが、上記成形品における底面部に対する傾きよりも傾斜角度が大きい」との事項にて限定して、本件発明4とする訂正がされた。
(2)一方、甲1~甲3(第4の1(1)、申立書第21~22ページ)には、「上記予成形形状における底面部に対する縦稜線の傾きが、上記成形品における底面部に対する傾きよりも傾斜角度が大きい」ことは記載も示唆もされていない。
ア すなわち、請求項4においては、「上記ブランクを角筒深絞り成形を行って、上記ブランクに上記成形品よりも成形深さが浅い角筒形状からなる予成形形状を形成する予成形工程」と、「上記予成形工程よりも後工程であって、上記予成形工程で上記予成形形状を付与した上記ブランクを、上記成形品の形状に角筒深絞り成形する本工程」とを有することが特定されることから、本件発明4における「予成形形状」とは、「成形品」の形状に成形する「本工程」の一つ手前の工程(すなわち、「予成形工程」の最後の工程)によって形成された形状であるといえる。
イ 他方、甲1には、例えば段落【0026】、図1に記載される、予成形工程に相当する「第1~4工程」と本工程に相当する「第5工程」とを有するステンレス製角筒容器加工のための成形方法が記載されるところ、第4工程後の形状における底面部に対する縦稜線の傾きを、第5工程後の形状における底面部に対する縦稜線の傾きよりも大きくすることについての具体的な記載はなく、また、図1の上側の「本発明方法」の製造工程の一例として示される(4)((4)は丸付き数字を表す。以下同様。)の形状と(5)の形状とを比較しても、底面部に対する縦稜線の傾きに差異があることまでは看取できない(既に第1~4工程の段階で、縦稜線は底面部に対してほぼ90度(垂直)に近い角度となっている。)。
<甲1の図1の上図>
「
[図:0001411249000001.jpg]
」
ウ また、甲2には、例えば段落【0018】~【0019】、図3~4に記載される、予成形工程に相当する「第1~2工程」と本工程に相当する「第3工程」とを有する深絞り角缶の成型方法が記載されるところ、第2工程後の形状における底面部に対する縦稜線の傾きを、第3工程後の形状における底面部に対する縦稜線の傾きよりも大きくすることについては、具体的な記載はなく、また、図4の第2工程後の形状と第3工程後の形状とを比較しても、底面部に対する縦稜線の傾きに差異があることまでは看取できない(既に第1~2工程の段階で、縦稜線は底面部に対してほぼ90度(垂直)に近い角度となっている。)。
<甲2の図4>
「
[図:0001411249000002.jpg]
」
エ さらに、甲3の第20ページに「2-6-2-2 試作品の成形試験」として、図2-13とともに示される成形方法においては、予成形工程に相当する「3工程の絞り・しごき加工のうち、第1~2絞り加工(図2-13の左2つ)」と本工程に相当する「3工程の絞り・しごき加工のうち、第3絞り加工(図2-13の右から2つ目)」とを有する深絞り角缶の成型方法が記載されるところ、第2絞り加工後の形状における底面部に対する縦稜線の傾きを、第3絞り加工後の形状における底面部に対する縦稜線の傾きよりも大きくすることについては、具体的な記載はなく、また、図2-13の第2絞り加工後の形状(左から2つ目)と第3絞り工程後の形状(右から2つ目)とを比較しても、底面部に対する縦稜線の傾きに差異があることまでは看取できない(底面部に接続する箇所での丸みに違いはあるものの、ともに、縦稜線の大部分は底面部に対してほぼ90度(垂直)に近い角度となっている。)。さらに、申立人が申立人意見書にて説明する図2-4(第11ページ)において、第1絞り形状と第2絞り形状とを比較しても、縦稜線の大部分は底面部に対してほぼ90度(垂直)に近い角度となっている。
<甲3の図2-13>
「
[図:0001411249000003.jpg]
」
<甲3の図2-4>
「
[図:0001411249000004.jpg]
」
(3)また、本件発明4は、本件訂正前の請求項4を引用する請求項6に係る発明であるところ、当該発明に対して申立人が申立書にて主張する、甲4及び甲5についても検討する(第4の1(2)、申立書第23ページ)。
ア 甲4の、例えば段落【0007】、【0020】、図3~5の記載から、甲4には、以下の技術的事項が記載されている、と主張する(申立書第16ページ)。
「予成形形状における底面部に対する縦稜線の傾き(図4)が、成形品における底面部に対する縦稜線の傾き(図5)よりも傾斜角度が大きい、プレス成形品の製造方法。」
<甲4の図3~5>
「
[図:0001411249000005.jpg]
」
しかしながら、甲4に記載された技術的事項は、曲げ加工のためのプレス成形に関する技術であって、深絞りに関する技術であるとはいえない。
また、甲1~甲3に記載された発明において、予成形形状における縦稜線が底面部に対してほぼ90度(垂直)であるところ、予成形工程では縦稜線があえて傾くようにその製造方法を変更し、その傾けた縦稜線を本工程で底面部に対してほぼ90度(垂直)に成形することの必要性、すなわち動機が記載も示唆もされていない。
よって、甲1~甲3に記載された発明に、甲4に記載された技術的事項を適用することは、当業者であっても容易であるとはいえない。
イ また、甲5の、例えば段落【0054】、図4A~4Bの記載から、甲5には、以下の技術的事項が記載されている、と主張する(申立書第17ページ)。
「予成形形状における底面部に対する縦稜線の傾き(図4A)が、成形品における底面部に対する縦稜線の傾き(図4B)よりも傾斜角度が大きい、プレス成形品の製造方法。」
<甲5の図4A、4B>
「
[図:0001411249000006.jpg]
」
「
[図:0001411249000007.jpg]
」
しかしながら、甲5に記載された技術的事項は、甲4に記載された技術的事項と同様に、曲げ加工のためのプレス成形に関する技術であって、深絞りに関する技術であるとはいえない。
また、甲1~甲3に記載された発明において、予成形形状における縦稜線が底面部に対してほぼ90度(垂直)であるところ、予成形工程では縦稜線があえて傾くようにその製造方法を変更し、その傾けた縦稜線を本工程で底面部に対してほぼ90度(垂直)に成形することの必要性、すなわち動機が記載も示唆もされていない。
よって、甲1~甲3に記載された発明に、甲5に記載された技術的事項を適用することは、当業者であっても容易であるとはいえない。
(4)さらに、本件訂正後の本件発明4に対して申立人が申立人意見書にて主張する、甲3、甲9及び甲10についても検討する(第4の2(1)、申立人意見書第2~6ページ)。
ア 申立人は、甲3に関して、「予成形形状(図2-4の第1絞り形状、図2-13の最も左のサンプル)に関する記載内容に接した当業者であれば、予成形形状では底面部に対する側壁の角度を成形品の形状よりも寝かせる点、すなわち、「予成形形状における底面部に対する縦稜線の傾きが、成形品における底面部に対する縦稜線の傾きよりも傾斜角度が大きい」成形工程が実施されていることが理解できる。」と説明する(申立人意見書第5ページ)。
しかしながら、本件発明4における「予成形形状」とは、「成形品」の形状に成形する本工程の一つ手前の工程によって形成された形状であると特定される(上記(2)アを参照のこと。)ことから、図2-13の最も左のサンプルは、予成形形状であるとはいえない(上記(2)エのとおり、図2-13においては、左から2番目のサンプルの形状が「予成形形状」に相当するといえる。)。
また、「予成形形状では底面部に対する側壁の角度を成形品の形状よりも寝かせる」と説明するものの、当該「側壁」は、本件発明4における「直辺部」に相当するのであって「縦稜線」に相当するものではない。なお仮に、2つの「直辺部」の角度が寝ていれば、その2つの「直辺部」の左右方向端部同士を連結する「縦稜線」も寝ていることを意図した主張であったとしても、図2-4の第1絞り形状も、図2-13の左から2つ目の形状も、底面部に接続する箇所で丸みを帯びているものの、ともに、縦稜線の大部分は底面部に対してほぼ90度(垂直)に近い角度となっているといえ、当該主張を採用することはできない。
イ また、甲9には、繰り返しプレスすることで、理想の深さに絞る成形方法が記載されており、次の(ア)~(ウ)の写真が掲載されている(申立人意見書第4ページ)。
(ア)一番絞り
「
[図:0001411249000008.jpg]
」
(イ)再絞り
「
[図:0001411249000009.jpg]
」
(ウ)真横からの写真
「
[図:0001411249000010.jpg]
」
しかしながら、上記(ウ)の写真から、「一番絞り」よりも「再絞り」の方が絞り高さが高いことが看取されるのみで、縦稜線の傾きについては「一番絞り」の方が「再絞り」よりも大きいとまではいえず、また、甲9は繰り返しプレスする製造方法であるところ、「一番絞り」により成形された上記(ア)のものが、「成形品」の形状に成形する本工程の一つ手前の工程によって形成された「予成形形状」であるとも断定できない(むしろ、甲3の図2-13の最も左側の第1工程における形状と同様に、「予成形工程」に相当する工程の途中段階である蓋然性が高い。)。また、「再絞り」として示された上記(イ)のものが「本工程」により成形された「成形品」である、との説明もなく、上記(ア)及び(イ)はともに「予成形工程」の段階の中間品であることを否定できない。
ウ さらに、甲10の段落【0088】には、図11を用いて、自動車プレス部品の成形方法について、2つの工程での成形を可能とした旨が記載されている(申立人意見書第5ページ)。
<甲10の図11>
「
[図:0001411249000011.jpg]
」
しかしながら、甲10の図11からは、1工程後の形状(図11の中図)における底面部に対する縦稜線の傾きが、2工程後の形状(図11の下図)における底面部に対する縦稜線の傾きよりも傾斜角度が大きい、ことまでは看取することができない(2工程により、成形深さが大きくなり、成形品の形状に至ったことが看取されるまでである。)。
エ また、上記(3)ア及びイと同様に、甲1~甲3に記載された発明において、予成形形状における縦稜線が底面部に対してほぼ90度(垂直)であるところ、予成形工程では縦稜線があえて傾くようにその製造方法を変更し、その傾けた縦稜線を本工程で底面部に対してほぼ90度(垂直)に成形することの必要性、すなわち動機が記載も示唆もされていない。
オ したがって、甲1~甲3に記載された発明に、甲3、甲9又は甲10に記載された技術的事項を適用することは、当業者であっても容易であるとはいえず、仮に適用できたとしても、本件発明4を想到することが容易であったとまではいえない。
(5)請求項4の小括
よって、本件発明4は、甲1~甲3に記載された発明、並びに、甲4~甲5、甲3、及び甲9~10に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件請求項4に係る特許は、申立書及び申立人意見書に記載した理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件請求項4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
4 本件訂正後の請求項6に係る特許について
<申立ての理由:特許法第29条第2項(第4の1(2))>
本件訂正の訂正事項6により、本件訂正後の請求項6では、本件訂正後の請求項5(本件訂正前の請求項4の記載を引用する請求項5)のみを引用するものとされた。
そして、本件発明6は、実質的に、本件発明4(本件訂正前の請求項4の記載を直接引用する請求項6に係る発明)を本件訂正前の請求項5に記載された発明特定事項で限定するものであるところ、上記3のとおり、本件請求項4に係る特許を取り消すべき理由を発見しないことと同様に、本件請求項6に係る特許についても、取り消すべき理由を発見しない。また、本件訂正前の請求項5に係る特許に対しては、本件特許異議の申立てがされておらず、本件訂正前の請求項5の「上記予成形形状の成形深さが、底面部の各辺において、左右方向端部側よりも、左右方向中央部側の方が浅い」との発明特定事項を含む本件発明6については、甲1~甲13に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
5 本件訂正後の請求項9に係る特許について
<申立ての理由:特許法第29条第1項第3号、同第2項(第4の1(1))>
本件訂正後の請求項9については、本件訂正の訂正事項9により、本件訂正前の請求項9に係る発明を本件訂正前の請求項5に記載された「上記予成形形状の成形深さが、底面部の各辺において、左右方向端部側よりも、左右方向中央部側の方が浅い」との発明特定事項にて限定するものである。
そして、本件訂正前の請求項5に対しては、本件特許異議の申立てがされていない。すなわち、甲1~甲13には、「上記予成形形状の成形深さが、底面部の各辺において、左右方向端部側よりも、左右方向中央部側の方が浅い」ことは記載も示唆もされていない。してみると、本件訂正後の本件発明9は、甲1~甲13に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件請求項9に係る特許は、申立書及び申立人意見書に記載した理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件請求項9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
6 本件訂正後の請求項11に係る特許について
<申立ての理由:特許法第29条第1項第3号、同第2項(第4の1(4)及び2(3))>
(1)本件訂正の訂正事項11~12により、本件訂正前の請求項11を、本件訂正前の請求項10を引用しない独立請求項の形式とするとともに、「鋼板」が「めっき鋼板」であること、「鋼板からなる角筒深絞り成形品」が「しごき加工が不要な深絞り成形によるプレス加工で製造されてなる角筒深絞り成形品」であること、及び、「成形深さh(当審注:「成形高さh」は「成形深さh」の誤記と認める。)」が「110mm~250mmである」ことを限定して、本件発明11とする訂正がされた。
(2)一方、甲6~甲7(上記第4の1(4)、申立書第24~25ページ)には、「成形深さh」を110mm~250mmにすることは記載されていないから、本件発明11は、甲6~甲7に記載された発明である、とはいえず、また、甲6~甲7に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ともいえない。
ア すなわち、甲6の第43~44ページには、「3.2.2 絞り加工性」として、表3及び図6ととともに、「成形深さh」に相当する「成形高さ」が50mmである、メッキ鋼板からなる角筒深絞り成形品が記載されている。
<甲6の表3>
「
[図:0001411249000012.jpg]
」
<甲6の図6>
「
[図:0001411249000013.jpg]
」
イ また、甲7の第511~512ページには、「2.実験方法」として、図2等とともに、「成形深さh」に相当する「深さ」が30mmである、ぶりき原板からなる角筒深絞り成形品が記載されている。
<甲7の図2>
「
[図:0001411249000014.jpg]
」
ウ しかしながら、甲6及び甲7には、「成形深さh」を110mm~250mmにすることは記載されておらず、また当該成形深さとなるまで深絞り成形することを示唆する記載もないことから、本件発明11は、甲6又は甲7に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とはいえない。
(3)また、本件訂正前の請求項11に係る発明に対して申立人が申立書にて主張した、甲6~8のいずれかに記載された発明に例えば甲2に記載された周知の技術的事項を考慮して容易に想到し得たものである、との点(上記第4の1(4)、申立書第24~25ページ)についても検討する。
ア 甲8の第43ページには、「4.2 成形容器外観」として、図4等とともに、「成形深さh」に相当する「成形深さ」が51mm又は57mmである、鋼板からなる角筒深絞り成形品が記載されている。
<甲8の図4>
「
[図:0001411249000015.jpg]
」
イ また、甲2には、上記3(2)ウに示した事項のほか、段落【0018】、【0024】、図1には、「成形深さh」に相当する「角缶の缶高さH」が43.0mmである、合金めっき鋼板からなる深絞り角缶11が記載されている。
<甲2の図1>
「
[図:0001411249000016.jpg]
」
ウ しかしながら、甲6~甲8及び甲2のいずれにも、「成形深さh」を110mm~250mmにすることは記載されておらず、また当該成形深さとなるまで深絞り成形することを示唆する記載もないことから、本件発明11は、甲6~甲8に記載された発明のいずれか及び例えば甲2に記載された技術的事項に基づいても、当業者が容易に発明をすることができたものである、とはいえない。
(4)さらに、本件訂正後の本件発明11に対して申立人が申立人意見書にて主張する、甲11~甲13のいずれかに記載された発明に例えば甲2に記載された周知の技術的事項を考慮して容易に想到し得たものである、との点(上記第4の2(3)、申立人意見書第13~14ページ)についても検討する。
ア 甲11~甲13に記載された甲11発明~甲13発明については、上記1(2)~(4)に示したとおりであって、いずれも「成形深さh」が110mm~250mmの範囲内のものである。
イ 本件発明11と甲11発明~甲13発明とを対比すると、少なくとも以下の相違点で相違する。
<相違点>
本件発明11においては、「鋼板」が「めっき鋼板」であって、「鋼板からなる角筒深絞り成形品」が「しごき加工が不要な深絞り成形によるプレス加工で製造されてなる角筒深絞り成形品」であって、しごき加工でメッキ鋼板のメッキが剥離し防錆性が低下するという課題を解決(本件特許の明細書の段落【0009】、【0053】)した発明であるのに対し、
甲11発明は、深絞り加工シンクであって、素材が18-8ステンレス鋼で表面にポリプロピレンによる薄膜付き(甲11の請求項10、段落【0015】)であり、
甲12発明は、第1のプレス深絞り工程と第2のプレス工程とにより製造される流し台用シンクであって、ステンレス鋼板(甲12の請求項1、段落【0014】、【0017】)から製造されるものであり、
甲13発明は、金属板状材料をプレス絞り成形することにより製造される自動車用燃料タンクの容器部材(甲13の請求項1、4、段落【0012】~【0013】)であって、金属板状材料はオーステナイト系ステンレス鋼板(甲13の請求項3、段落【0012】)である点で相違する。
ウ 上記相違点について検討する。
甲2には、上記(3)イにて参照した段落【0018】、【0024】、図1、4に加え、請求項1、段落【0005】、【0014】等の記載を参照すると、合金めっき鋼板からなるしごき加工を行わない深絞り角缶11が記載されている。
しかしながら、甲11発明及び甲12発明は、流し台等のシンクに関する技術(甲11の段落【0001】等、甲12の段落【0001】等)であり、また甲13発明は、自動車用燃料タンクに関する技術(請求項4等)であるのに対し、甲2に記載された技術は電池用深絞り角缶(段落【0001】等)に関する技術であって、深絞り成形品の用途が全く異なる。また、甲11発明~甲13発明は、いずれも、ステンレス鋼で製造されたものであって、防錆のためのメッキを必要とするものとはいえない。
そうすると、仮に合金めっき鋼板からなるしごき加工を行わない深絞り成形品が周知であったとしても、甲11発明~甲13発明において、ステンレス鋼に代えてメッキ処理を施した鋼板を採用する合理的理由があるとはいえないから、用途分野も異なる甲2に記載された技術的事項を採用しようとする動機付けは見いだせない。
さらに、甲2には、合金めっき鋼板からなるしごき加工を行わない深絞り角缶11が記載されてはいるものの、「成形深さh」に相当する「角缶の缶高さH」は43.0mm程度であるから、仮に、甲2に記載された技術事項を適用したとしても、甲11発明~甲13発明における「成形深さh」を110mm~250mmの範囲内のものとする理由も見いだせない。
エ したがって、甲11発明~甲13発明に、甲2に記載された技術的事項を適用し、上記相違点に係る本件発明11のようにすることは、当業者であっても容易であるとはいえない。
(5)請求項11の小括
よって、本件発明11は、甲6~甲8に記載された発明、甲11~甲13に記載された発明、及び、例えば甲2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件請求項11に係る特許は、申立書及び申立人意見書に記載した理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件請求項11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
第8 むすび
以上のとおり、本件発明10は、甲11発明、甲12発明又は甲13発明であって、特許法第29条第1項第3号の発明に該当するから、本件訂正後の請求項10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件訂正後の請求項10に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件訂正後の請求項1、4、6、8~9、11に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては取り消すことはできない。
さらに、他に、本件訂正後の請求項1、4、6、8~9、11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701133