特許異議申立
2025-700444
めっき皮膜の製造方法
- 審判番号
- 2025-700444
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-070142
- 登録番号
- 7572498
- 請求日
- 2025年04月21日
- 審決日
- 2025年09月29日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】上村工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人WisePlus
- 【異議申立人】安井 健治
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 石川 雄太郎
- 審判官 佐藤 陽一
- 分類
- P1651.537-Y (C23C) / P1651.121-Y (C23C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7572498号発明「めっき皮膜の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7572498号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件の特許第7572498号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願(特願2023-70142号。以下「本願」という。)は、令和 5年 4月21日の出願であって、令和 6年10月15日にその特許権の設定登録がされ、同年10月23日に特許掲載公報が発行され、その後、令和 7年 4月21日に、その請求項1~5(全請求項)に係る特許について、特許異議申立人である安井 健治(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、本願の請求項1~5に係る発明をそれぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明5」といい、総称して、「本件特許発明」という。また、本願の願書に添付した明細書を「本件特許明細書」という。
「 【請求項1】
ガラス基板の表面に金属酸化物層を形成する工程(1)、
前記工程(1)の後に、第1回目の熱処理を行う工程(2)、
前記工程(2)の後に、金属酸化物層上に無電解銅めっき皮膜を形成する工程(3)、
前記工程(3)の後に、第2回目の熱処理を行う工程(4)、および
前記工程(4)の後に、無電解銅めっき皮膜上に電解銅めっき皮膜を形成する工程(5)
を含み、
前記工程(4)を行う雰囲気が、不活性ガス雰囲気であり、
前記工程(1)が、下記工程(1-2)、(1-3)を含み、下記工程(1-2)、(1-3)の順に行う工程である
めっき皮膜の製造方法。
工程(1-2):ガラス基板の表面に触媒を付与する。
工程(1-3):ガラス基板の表面に金属酸化物層を形成する。
ただし、「下記(1)~(4)の工程を含む電気銅めっき方法:
(1)亜鉛イオン、硝酸イオン及びアミンボラン化合物を含み、亜鉛イオン濃度が0.03~0.2モル/Lであって、硝酸イオンのモル濃度が亜鉛イオンのモル濃度の1~3倍の範囲内にある水溶液からなる酸化亜鉛膜形成用組成物を被処理物に接触させて、酸化亜鉛膜を形成する工程、
(2)上記(1)工程によって酸化亜鉛膜を形成した被処理物を、触媒金属を含有するpH3.5以上の水溶液からなる触媒付与液に接触させて触媒を付与する工程、
(3)上記(2)工程によって触媒を付与した後、被処理物を無電解めっき液に接触させて無電解めっき皮膜を形成する工程、
(4)上記(3)工程で無電解めっき皮膜を形成した後、酢酸銅、導電性塩及び塩化物イオンを含有する水溶液からなる電気銅めっき液を用いて電気銅めっき皮膜を形成する工程。」は除く。
【請求項2】
前記金属酸化物が、亜鉛を含有する酸化物である請求項1記載のめっき皮膜の製造方法。
【請求項3】
前記工程(1)が、亜鉛イオン、硝酸イオンおよびアミンボラン化合物を含む水溶液を用いて金属酸化物層を形成する工程である請求項1又は2記載のめっき皮膜の製造方法。
【請求項4】
前記工程(3)が、下記工程(3-1)、(3-2)を含み、下記工程(3-1)、(3-2)の順に行う工程である請求項1又は2記載のめっき皮膜の製造方法。
工程(3-1):金属酸化物層の表面に触媒を付与する。
工程(3-2):熱処理が施された金属酸化物層上に無電解銅めっき皮膜を形成する。
【請求項5】
前記工程(5)が、pH2.0以下の電解銅めっき浴を用いて電解銅めっき皮膜を形成する工程である請求項1又は2記載のめっき皮膜の製造方法。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、甲第1号証~甲第10号証(以下「甲1」~「甲10」という。)を提出し(下記4参照。)、以下の理由により、本件特許の請求項1~5に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
1 申立理由1-1(進歩性)
本件特許発明1~5は、甲1に記載された発明、及び甲2~甲8に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由1-2(進歩性)
本件特許発明1~2、4は、甲10に記載された発明、及び甲2~甲9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである
3 申立理由2(明確性)
本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件特許発明1~5について、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合するものとはいえないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
4 証拠方法
甲1:特許第7215705号公報
甲2:特許第3256776号公報
甲3:特許第4328850号公報
甲4:特許第4977885号公報
甲5:特開2000-336486号公報
甲6:特開2002-170429号公報
甲7:片山順一,めっきプロセスによるZnO透明導電膜の作製,表面技術,第60巻,第10号,2009年,p.625-630
甲8:大友さとみ,ガラス基板への微細配線技術,表面技術,第58巻,第12号,2007年,p.751-755
甲9:特表2016-533429号公報
甲10:特開平9-165685号公報
第4 当合議体の判断
以下に述べるとおり、当合議体は、上記第3のいずれの申立理由によっても、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことができないと判断する。
1 申立理由1-1(進歩性)について
(1)甲1に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲1(発明の名称:めっき皮膜及びめっき皮膜の製造方法)の【0002】~【0009】、【0046】、【0049】、【0053】、【0071】、【0072】、【0075】~【0077】、【0081】、【0086】、【0125】、【0155】、【0156】、【0187】、【0188】、【0191】、【0196】、【0205】~【0210】、【0211】、【0214】、【0216】、【0236】~【0238】、【0268】、【0269】、【0302】、【0303】、【0306】、【0308】~【0314】、【0320】~【0379】の記載を総合勘案し、特に、【0008】の「9.~11.」、「12.~14.」の記載をそれぞれ考慮し、実施例1-1(【0321】~【0338】、表3)、実施例2-12(【0350】~【0367】、表8)にそれぞれ着目すると、甲1には、次の2つの発明が記載されていると認められる。
「ガラス基板として、無アルカリガラスを用意し、前洗浄を行い、フッ素と酸化物前駆体イオンを含む反応溶液として、0.01Mのフッ化第一錫(SnF2:CAS番号7783-47-3)、及び、添加剤として、0.1Mのホウ酸(H3BO3:CAS番号10043-35-3)、0.3Mの過酸化水素(H2O2)を含有する反応溶液を用い、反応時間を変えることで、ガラス基板上に、表面粗さ8nm、膜厚60nmの酸化スズからなる酸化物層を形成し、
酸化物層が形成されたガラス基板を、150℃2時間でアニール処理を行い、酸化物層に含まれるフッ素を除去し、
酸化物層が形成されたガラス基板を純水で洗浄し、次いで、0.1Mの塩化第一錫(SnCl2)に2分間浸漬させて純水で洗浄して、窒素ブローで乾燥させ、
乾燥後、Sn触媒付与工程,Ag触媒付与工程,Pd触媒付与工程、熱処理工程、及び、還元処理工程を経て、酸化物層上に触媒を付与し、
触媒が付与された酸化物層が形成されたガラス基板に、無電解Ni-Pめっきを施し、
無電解Ni-Pめっきを施したガラス基板を恒温槽に入れ、50℃1時間として、熱処理(アニール)を施し、
無電解Ni-Pめっき皮膜上に、電解銅めっきを施す、めっき皮膜の製造方法。」(甲1発明1:甲1の実施例1-1)
「ガラス基板として、無アルカリガラスを用意し、前洗浄を行い、フッ素と酸化物前駆体イオンを含む反応溶液として、0.01Mのフッ化第一錫(SnF2:CAS番号7783-47-3)、及び、添加剤として、0.1Mのホウ酸(H3BO3:CAS番号10043-35-3)、0.3Mの過酸化水素(H2O2)を含有する反応溶液を用い、反応時間を変えることで、ガラス基板上に、表面粗さ3nm、膜厚30nmの酸化スズからなる酸化物層を形成し、
酸化物層が形成されたガラス基板を純水で洗浄し、次いで、0.1Mの塩化第一錫(SnCl2)に2分間浸漬させて純水で洗浄して、窒素ブローで乾燥させ、
乾燥後、Pd触媒付与工程を行い、酸化物層上に触媒を付与し、
触媒が付与された酸化物層が形成されたガラス基板を、窒素雰囲気、300℃1時間でアニール処理を行い、酸化物層に含まれるフッ素を除去し、
触媒が付与された酸化物層が形成されたガラス基板に、無電解銅めっきを施し、
形成された無電解銅めっき皮膜に、防錆処理を施し、
防錆処理に次いで、無電解銅めっきを施したガラス基板を、窒素雰囲気、150℃1時間でアニール処理を行い、無電解めっき皮膜に含まれる水分を除去し、
次いで、無電解銅めっき皮膜上に、電解銅めっきを施し、
めっき皮膜が形成されたガラス基板を、窒素雰囲気、180℃30分、250℃30分、370℃50分でアニール処理を行い、無電解銅めっき皮膜及び電解銅めっき皮膜に含まれる水分を除去し、且つ、無電解銅めっき皮膜及び電解銅めっき皮膜から、酸化物層中に金属銅を拡散させる、めっき皮膜の製造方法。」(甲1発明2:甲1の実施例2-12)
(2)本件特許発明1について
ア 甲1発明1との対比・判断
(ア)本件特許発明1と甲1発明1との対比
a 甲1発明1において、「ガラス基板として、無アルカリガラスを用意し、前洗浄を行い、フッ素と酸化物前駆体イオンを含む反応溶液として、0.01Mのフッ化第一錫(SnF2:CAS番号7783-47-3)、及び、添加剤として、0.1Mのホウ酸(H3BO3:CAS番号10043-35-3)、0.3Mの過酸化水素(H2O2)を含有する反応溶液を用い、反応時間を変えることで、ガラス基板上に、表面粗さ8nm、膜厚60nmの酸化スズからなる酸化物層を形成」することは、ガラス基板を、前洗浄し、フッ素と酸化物前駆体イオンを含む所定の反応溶液を用いて、ガラス基板上に酸化スズからなる酸化物層を形成することであるといえるから、本件特許発明1の「工程(1)」において、「ガラス基板の表面に金属酸化物層を形成する」ことに相当する。
b(a)甲1発明1において、「酸化物層が形成されたガラス基板を、150℃2時間でアニール処理を行い、酸化物層に含まれるフッ素を除去」することは、アニール処理が熱処理であることは明らかであるから、本件特許発明1の「工程(2)」において、「第1回目の熱処理を行う」ことに相当する。
(b)甲1発明1の上記(a)の処理が、甲1発明1の上記aの処理の後に行われることは、本件特許発明1において、「工程(1)の後に、」「工程(2)」が行われることに相当する。
c(a)甲1発明1において、「乾燥後、Sn触媒付与工程、Ag触媒付与工程、Pd触媒付与工程、熱処理工程、及び、還元処理工程を経て、酸化物層上に触媒を付与し、触媒が付与された酸化物層が形成されたガラス基板に、無電解Ni-Pめっきを施」すことと、本件特許発明1の「工程(3)」において、「金属酸化物層上に無電解銅めっき皮膜を形成する」こととは、無電解めっきにより皮膜が形成されることは明らかであるから、「工程(3)」において、「金属酸化物層上に無電解めっき皮膜を形成する」点で共通する。
(b)甲1発明1の上記(a)の処理が、甲1発明1の上記b(a)の処理の後に行われることは、上記(a)の無電解めっき皮膜の材質の点を除いて、本件特許発明1において、「工程(2)の後に、」「工程(3)」が行われることに相当する。
d(a)甲1発明1において、「無電解Ni-Pめっきを施したガラス基板を恒温槽に入れ、50℃1時間として、熱処理(アニール)を施」すことは、本件特許発明1の「工程(4)」において、「第2回目の熱処理を行う」ことに相当する。
(b)甲1発明1の上記(a)の処理が、甲1発明1の上記c(a)の処理の後に行われることは、本件特許発明1において、「工程(3)の後に、」「工程(4)」が行われることに相当する。
e(a)甲1発明1において、「無電解Ni-Pめっき皮膜上に、電解銅めっきを施す」ことと、本件特許発明1の「工程(5)」において、「無電解銅めっき皮膜上に電解銅めっき皮膜を形成する」こととは、電解めっきにより皮膜が形成されることは明らかであるから、「工程(5)」において、「無電解めっき皮膜上に電解銅めっき皮膜を形成する」点で共通する。
(b)甲1発明1の上記(a)の処理が、甲1発明1の上記d(a)の処理の後に行われることは、上記(a)の無電解めっき皮膜の材質の点を除いて、本件特許発明1において、「工程(4)の後に、」「工程(5)」が行われることに相当する。
f 甲1発明1は、「下記(1)~(4)の工程を含む電気銅めっき方法:
(1)亜鉛イオン、硝酸イオン及びアミンボラン化合物を含み、亜鉛イオン濃度が0.03~0.2モル/Lであって、硝酸イオンのモル濃度が亜鉛イオンのモル濃度の1~3倍の範囲内にある水溶液からなる酸化亜鉛膜形成用組成物を被処理物に接触させて、酸化亜鉛膜を形成する工程、
(2)上記(1)工程によって酸化亜鉛膜を形成した被処理物を、触媒金属を含有するpH3.5以上の水溶液からなる触媒付与液に接触させて触媒を付与する工程、
(3)上記(2)工程によって触媒を付与した後、被処理物を無電解めっき液に接触させて無電解めっき皮膜を形成する工程、
(4)上記(3)工程で無電解めっき皮膜を形成した後、酢酸銅、導電性塩及び塩化物イオンを含有する水溶液からなる電気銅めっき液を用いて電気銅めっき皮膜を形成する工程。」に該当するものではない。
g そうすると、本件特許発明1と甲1発明1とは、
「ガラス基板の表面に金属酸化物層を形成する工程(1)、
前記工程(1)の後に、第1回目の熱処理を行う工程(2)、
前記工程(2)の後に、金属酸化物層上に無電解めっき皮膜を形成する工程(3)、
前記工程(3)の後に、第2回目の熱処理を行う工程(4)、および
前記工程(4)の後に、無電解めっき皮膜上に電解銅めっき皮膜を形成する工程(5)
を含む、
めっき皮膜の製造方法。
ただし、「下記(1)~(4)の工程を含む電気銅めっき方法:
(1)亜鉛イオン、硝酸イオン及びアミンボラン化合物を含み、亜鉛イオン濃度が0.03~0.2モル/Lであって、硝酸イオンのモル濃度が亜鉛イオンのモル濃度の1~3倍の範囲内にある水溶液からなる酸化亜鉛膜形成用組成物を被処理物に接触させて、酸化亜鉛膜を形成する工程、
(2)上記(1)工程によって酸化亜鉛膜を形成した被処理物を、触媒金属を含有するpH3.5以上の水溶液からなる触媒付与液に接触させて触媒を付与する工程、
(3)上記(2)工程によって触媒を付与した後、被処理物を無電解めっき液に接触させて無電解めっき皮膜を形成する工程、
(4)上記(3)工程で無電解めっき皮膜を形成した後、酢酸銅、導電性塩及び塩化物イオンを含有する水溶液からなる電気銅めっき液を用いて電気銅めっき皮膜を形成する工程。」は除く。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1-1>
「無電解めっき皮膜」について、本件特許発明1では、「無電解銅めっき皮膜」であるのに対し、甲1発明1では、「無電解Ni-Pめっき」の皮膜である点。
<相違点1-2>
「第2回目の熱処理を行う」「工程(4)を行う雰囲気」について、本件特許発明1では、「不活性ガス雰囲気」であるのに対し、甲1発明1では、不明である点。
<相違点1-3>
「ガラス基板の表面に金属酸化物層を形成する工程(1)」について、本件特許発明1では、「工程(1-2):ガラス基板の表面に触媒を付与する。」、「工程(1-3):ガラス基板の表面に金属酸化物層を形成する。」を含み、「工程(1-2)、(1-3)の順に行う工程である」のに対して、甲1発明1では、ガラス基板を、前洗浄し、フッ素と酸化物前駆体イオンを含む所定の反応液を用いて、ガラス基板上に酸化スズからなる酸化物層を形成するものであって、「工程(1-3):ガラス基板の表面に金属酸化物層を形成する。」を含むものの、「工程(1-2):ガラス基板の表面に触媒を付与する」を含むものではなく、「工程(1-2)、(1-3)の順に行う工程」ではない点。
(イ)相違点についての検討
a 事案に鑑み、まず、上記相違点1-3について検討する。
(a)上記(ア)aで検討したとおり、甲1発明1は、ガラス基板を、前洗浄し、フッ素と酸化物前駆体イオンを含む所定の反応溶液を用いて、ガラス基板上に酸化スズからなる酸化物層を形成するものであり、ガラス基板の表面に触媒を付与して、酸化スズからなる酸化物層を形成するものではないから、相違点1-3は、本件特許発明1と甲1発明1との実質的な相違点である。
(b)次に上記相違点1-3の容易想到性について検討する。
i 甲1には、フッ素と酸化物前駆体イオンを含む所定の反応溶液を用いて、ガラス基板上に酸化スズからなる酸化物層を形成する際に、ガラス基板の表面に触媒を付与することについては、何ら記載されていないから、甲1発明1において、フッ素と酸化物前駆体イオンを含む所定の反応溶液を用いて、ガラス基板上に酸化スズからなる酸化物層を形成する際に、ガラス基板の表面に触媒を付与する動機付けがあるとはいえない。また、甲2~甲8にも、甲1発明1において、そのようにすることを動機付ける記載は見当たらない。
ii 甲2の段落【0023】、甲3の段落【0038】~【0039】、甲4の段落【0067】~【0068】、甲5の段落【0010】~【0011】及び【0033】~【0036】、甲6の段落【0027】~【0028】及び【0058】~【0065】、甲7の第627~628頁、甲8の第752頁には、ガラス基板の表面に触媒を付与する工程とガラス基板の表面に金属酸化物を形成する工程とをこの順に行うことが記載されている。
しかしながら、甲1発明1は、フッ素と酸化物前駆体イオンを含む所定の反応溶液を用いて、ガラス基板上に酸化物層を形成し、所定のアニール処理を行うことで酸化物層に含まれるフッ素を除去した上で、酸化物層上に所定の触媒を付与して無電解めっきを施すことで、ガラス基板に対する無電解めっき皮膜の密着性を向上し得るものと理解できる(【0002】~【0006】、【0049】、【0071】、【0072】、【0081】、【0155】、【0156】)。そして、甲1には、ガラス基板上に酸化物層を形成する方法としては、フッ素と酸化物前駆体イオンを含む所定の反応溶液を用いて、ガラス基板上に酸化物層を形成し、所定のアニール処理を行うことで酸化物層に含まれるフッ素を除去する方法が記載されるのみであり、当該方法以外の方法については記載も示唆もない。
そうすると、たとえこれらの甲号証において、ガラス基板の表面に触媒を付与する工程とガラス基板の表面に金属酸化物を形成する工程とをこの順に行うことが記載されているとしても、上記のような技術的意義を有する甲1発明1において、フッ素と酸化物前駆体イオンを含む所定の反応溶液を用いて、ガラス基板上に酸化物層を形成し、所定のアニール処理を行うことで酸化物層に含まれるフッ素を除去する方法に代えて、甲2~甲8に記載の、ガラス基板の表面に触媒を付与する工程とガラス基板の表面に金属酸化物を形成する工程とをこの順に行う方法を採用する動機付けがあるとはいえない。
iii したがって、甲1発明1において、上記相違点1-3に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(ウ)小括
よって、上記相違点1-1~1-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明1、及び甲2~甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 甲1発明2との対比・判断
(ア)本件特許発明1と甲1発明2との対比
a 上記ア(ア)aの検討と同様に、甲1発明2において、「ガラス基板として、無アルカリガラスを用意し、前洗浄を行い、フッ素と酸化物前駆体イオンを含む反応溶液として、0.01Mのフッ化第一錫(SnF2:CAS番号7783-47-3)、及び、添加剤として、0.1Mのホウ酸(H3BO3:CAS番号10043-35-3)、0.3Mの過酸化水素(H2O2)を含有する反応溶液を用い、反応時間を変えることで、ガラス基板上に、表面粗さ3nm、膜厚30nmの酸化スズからなる酸化物層を形成」することは、本件特許発明1の「工程1」において、「ガラス基板の表面に金属酸化物層を形成する」ことに相当する。
b(a)上記ア(ア)bの検討と同様に、甲1発明2において、「触媒が付与された酸化物層が形成されたガラス基板を、窒素雰囲気、300℃1時間でアニール処理を行い、酸化物層に含まれるフッ素を除去」することは、本件特許発明1の「工程(2)」において、「第1回目の熱処理を行う」ことに相当する。
(b)甲1発明2の上記(a)の処理が、甲1発明2の上記aの処理の後に行われることは、本件特許発明1において、「工程(1)の後に、」「工程(2)」が行われることに相当する。
c(a)上記ア(ア)cの検討と同様に、甲1発明2において、「触媒が付与された酸化物層が形成されたガラス基板に、無電解銅めっきを施」すことは、本件特許発明1の「工程(3)」において、「金属酸化物層上に無電解銅めっき皮膜を形成する」ことに相当する。
(b)甲1発明2の上記(a)の処理が、甲1発明2の上記b(a)の処理の後に行われることは、本件特許発明1において、「工程(2)の後に、」「工程(3)」が行われることに相当する。
d(a)上記ア(ア)dの検討と同様に、甲1発明2において、「無電解銅めっきを施したガラス基板を、窒素雰囲気、150℃1時間でアニール処理を行い、無電解めっき皮膜に含まれる水分を除去」することは、本件特許発明1の「工程(4)」において、「不活性ガス雰囲気」で「第2回目の熱処理を行う」ことに相当する。
(b)甲1発明2の上記(a)の処理が、甲1発明2の上記c(a)の処理の後に行われることは、本件特許発明1において、「工程(3)の後に、」「工程(4)」が行われることに相当する。
e(a)上記ア(ア)eの検討と同様に、甲1発明2において、「無電解銅めっき皮膜上に、電解銅めっきを施」すことは、本件特許発明1の「工程(5)」において、「無電解銅めっき皮膜上に電解銅めっき皮膜を形成する」ことに相当する。
(b)甲1発明2の上記(a)の処理が、甲1発明2の上記d(a)の処理の後に行われることは、本件特許発明1において、「工程(4)の後に、」「工程(5)」が行われることに相当する。
f 甲1発明2は、「下記(1)~(4)の工程を含む電気銅めっき方法:
(1)亜鉛イオン、硝酸イオン及びアミンボラン化合物を含み、亜鉛イオン濃度が0.03~0.2モル/Lであって、硝酸イオンのモル濃度が亜鉛イオンのモル濃度の1~3倍の範囲内にある水溶液からなる酸化亜鉛膜形成用組成物を被処理物に接触させて、酸化亜鉛膜を形成する工程、
(2)上記(1)工程によって酸化亜鉛膜を形成した被処理物を、触媒金属を含有するpH3.5以上の水溶液からなる触媒付与液に接触させて触媒を付与する工程、
(3)上記(2)工程によって触媒を付与した後、被処理物を無電解めっき液に接触させて無電解めっき皮膜を形成する工程、
(4)上記(3)工程で無電解めっき皮膜を形成した後、酢酸銅、導電性塩及び塩化物イオンを含有する水溶液からなる電気銅めっき液を用いて電気銅めっき皮膜を形成する工程。」に該当するものではない。
g そうすると、本件特許発明1と甲1発明2とは、
「ガラス基板の表面に金属酸化物層を形成する工程(1)、
前記工程(1)の後に、第1回目の熱処理を行う工程(2)、
前記工程(2)の後に、金属酸化物層上に無電解金属めっき皮膜を形成する工程(3)、
前記工程(3)の後に、第2回目の熱処理を行う工程(4)、および
前記工程(4)の後に、無電解金属めっき皮膜上に電解銅めっき皮膜を形成する工程(5)
を含む
めっき皮膜の製造方法。
ただし、「下記(1)~(4)の工程を含む電気銅めっき方法:
(1)亜鉛イオン、硝酸イオン及びアミンボラン化合物を含み、亜鉛イオン濃度が0.03~0.2モル/Lであって、硝酸イオンのモル濃度が亜鉛イオンのモル濃度の1~3倍の範囲内にある水溶液からなる酸化亜鉛膜形成用組成物を被処理物に接触させて、酸化亜鉛膜を形成する工程、
(2)上記(1)工程によって酸化亜鉛膜を形成した被処理物を、触媒金属を含有するpH3.5以上の水溶液からなる触媒付与液に接触させて触媒を付与する工程、
(3)上記(2)工程によって触媒を付与した後、被処理物を無電解めっき液に接触させて無電解めっき皮膜を形成する工程、
(4)上記(3)工程で無電解めっき皮膜を形成した後、酢酸銅、導電性塩及び塩化物イオンを含有する水溶液からなる電気銅めっき液を用いて電気銅めっき皮膜を形成する工程。」は除く。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点2-1>
「ガラス基板の表面に金属酸化物層を形成する工程」について、本件特許発明1では、「工程(1-2):ガラス基板の表面に触媒を付与する。」、「工程(1-3):ガラス基板の表面に金属酸化物層を形成する。」を含み、「工程(1-2)、(1-3)の順に行う工程である」のに対して、甲1発明2では、そのような特定がされておらず、無アルカリガラス基板を、前洗浄し、反応液を用いて、酸化スズからなる酸化物層を形成するものである点。
(イ)相違点についての検討
a 上記相違点2-1について検討する。
(a)上記(ア)aで検討したとおり、甲1発明2は、ガラス基板を、前洗浄し、フッ素と酸化物前駆体イオンを含む所定の反応溶液を用いて、ガラス基板上に酸化スズからなる酸化物層を形成するものであり、ガラス基板の表面に触媒を付与して、酸化スズからなる酸化物層を形成するものではないから、相違点2-1は、本件特許発明1と甲1発明2との実質的な相違点である。
(b)次に上記相違点2-1の容易想到性について検討する。
i 上記ア(イ)a(b)iと同様の理由により、甲1発明2において、フッ素と酸化物前駆体イオンを含む所定の反応溶液を用いて、ガラス基板上に酸化スズからなる酸化物層を形成する際に、ガラス基板の表面に触媒を付与する動機付けがあるとはいえない。また、甲2~甲8にも、甲1発明2において、そのようにすることを動機付ける記載は見当たらない。
ii 甲1発明2は、フッ素と酸化物前駆体イオンを含む所定の反応溶液を用いて、ガラス基板上に酸化物層を形成し、所定のアニール処理を行うことで酸化物層に含まれるフッ素を除去した上で、無電解めっきを施すことで、ガラス基板に対する無電解めっき皮膜の密着性を向上し得るものと理解できるから(【0002】~【0006】、【0214】、【0236】、【0237】、【0268】、【0269】)、上記ア(イ)a(b)iiと同様の理由により、上記のような技術的意義を有する甲1発明2において、フッ素と酸化物前駆体イオンを含む所定の反応溶液を用いて、ガラス基板上に酸化物層を形成し、所定のアニール処理を行うことで酸化物層に含まれるフッ素を除去する方法に代えて、甲2~甲8に記載の、ガラス基板の表面に触媒を付与する工程とガラス基板の表面に金属酸化物を形成する工程とをこの順序に行う方法を採用する動機付けがあるとはいえない。
iii したがって、甲1発明2において、上記相違点2-1に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(ウ)小括
よって、本件特許発明1は、甲1発明2、及び甲2~甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2~5について
ア 甲1発明1との対比・判断
(ア)上記(2)アの検討結果を踏まえて、本件特許発明2~5と甲1発明1とを対比すると、両者は少なくとも、上記相違点1-3と同様の点で相違する。
そして、相違点1-3については、上記(2)ア(イ)で検討したとおりであるから、甲1発明1において、上記相違点1―3に係る特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえない。
以上によれば、甲1発明1において、上記相違点1-3に係る特定事項を備えさせることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
(イ)小括
したがって、その余の点について検討するまでもなく、本件特許発明2~5は、甲1発明1、及び甲2~甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 甲1発明2との対比・判断
(ア)上記(2)イの検討結果を踏まえて、本件特許発明2~5と甲1発明2とを対比すると、両者は少なくとも、上記相違点2-1と同様の点で相違する。
そして、相違点2-1については、上記(2)イ(イ)で検討したとおりであるから、甲1発明2において、上記相違点2-1に係る特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえない。
以上によれば、甲1発明2において、上記相違点2-1に係る特定事項を備えさせることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
(イ)小括
したがって、その余の点について検討するまでもなく、本件特許発明2~5は、甲1発明2、及び甲2~甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)申立理由1-1についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1~5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由1-1によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由1-2(進歩性)について
(1)甲10に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲10(発明の名称:セラミックへのメッキ方法および誘電体共振器)の請求項1、2、【0005】、【0006】~【0010】、【0015】~【0017】の記載を総合勘案すると、特に、請求項2の記載を考慮し、実施例1(【0015】~【0017】)に着目すると、甲10には、次の発明が記載されていると認められる。
「0.1mol/lの酢酸亜鉛水溶液中に、外径2mm×1.8mm、内径0.4mm角、長さ5.3mmの四角筒状に成形した誘電体セラミックを浸漬させ、真空ポンプを用いて約1分間脱泡した後、常圧に戻し浸漬した状態で10分間放置し、120℃で約5分間乾燥を行い、続いて400℃で30分間焼成する処理を10回繰り返して、誘電体セラミックの表面上に膜厚0.5μm以上のZnO(酸化亜鉛)薄膜を形成し、
次いで、ZnO薄膜が被着された誘電体セラミックを塩化パラジウム水溶液中に約5分間浸漬して、ZnO薄膜の一部をパラジウムイオンで置換して触媒化し、流水で10分以上洗浄した後、約25℃のOPC-700無電解銅メッキMなる無電解銅メッキ浴に触媒化処理した誘電体セラミックを約30分浸漬して、膜厚約1μmの銅メッキ層を形成し、この誘電体セラミックを、約50℃に加湿したOPCカッパーTなる無電解銅メッキ浴にさらに浸漬して銅メッキ層を厚くし、最終的に誘電体セラミック全面に膜厚10μmの銅メッキ層を形成する無電解銅メッキを行った後、
N2雰囲気炉にて400℃でアニール処理を行う、
セラミックへのメッキ方法。」(以下「甲10発明」という。)
(2)本件特許発明1について
ア 甲10発明との対比・判断
(ア)本件特許発明1と甲10発明との対比
a 甲10発明において、「0.1mol/lの酢酸亜鉛水溶液中に、外径2mm×1.8mm、内径0.4mm角、長さ5.3mmの四角筒状に成形した誘電体セラミックを浸漬させ、真空ポンプを用いて約1分間脱泡した後、常圧に戻し浸漬した状態で10分間放置し、120℃で約5分間乾燥を行い、続いて400℃で30分間焼成する処理を10回繰り返して、誘電体セラミックの表面上に膜厚0.5μm以上のZnO(酸化亜鉛)薄膜を形成」することは、誘電体セラミックを浸漬、脱泡、放置、乾燥、及び、焼成する処理を10回繰り返して、ZnO薄膜を形成することである。
そうすると、甲10発明において、誘電体セラミックを浸漬、脱泡、放置、乾燥、及び、焼成する処理を10回繰り返して、ZnO薄膜を形成することと、本件特許発明1の「工程(1)」において、「ガラス基板の表面に金属酸化物層を形成する」こととは、四角筒状に成形した誘電体セラミックとガラス基板はともに無機材料からなる部材といえるから、「工程(1)」において、「無機材料からなる部材の表面に金属酸化物層を形成する」点で共通する。
b 甲10発明において、「ZnO薄膜が被着された誘電体セラミックを塩化パラジウム水溶液中に約5分間浸漬して、ZnO薄膜の一部をパラジウムイオンで置換して触媒化し、流水で10分以上洗浄した後、約25℃のOPC-700無電解銅メッキMなる無電解銅メッキ浴に触媒化処理した誘電体セラミックを約30分浸漬して、膜厚約1μmの銅メッキ層を形成し、この誘電体セラミックを、約50℃に加湿したOPCカッパーTなる無電解銅メッキ浴にさらに浸漬して銅メッキ層を厚くし、最終的に誘電体セラミック全面に膜厚10μmの銅メッキ層を形成する無電解銅メッキを行」うことは、誘電体セラミック表面のZnO薄膜をパラジウムイオンで触媒化した後、無電解銅メッキ浴に浸漬して銅メッキ層を形成する無電解銅メッキを行うことであるから、本件特許発明1の「工程(3)」において、「金属酸化物層上に無電解銅めっき皮膜を形成する」ことに相当する。
c(a)甲10発明において、「N2雰囲気炉にて400℃でアニール処理を行う」ことは、本件特許発明1の「工程(4)」において、「不活性ガス雰囲気」で「第2回目の熱処理を行う」ことに相当する。
(b)甲10発明の上記(a)の処理が、甲10発明の上記bの処理の後に行われることは、本件特許発明1において、「工程(3)の後に、」「工程(4)」が行われることに相当する。
d 甲10明は、「下記(1)~(4)の工程を含む電気銅めっき方法:
(1)亜鉛イオン、硝酸イオン及びアミンボラン化合物を含み、亜鉛イオン濃度が0.03~0.2モル/Lであって、硝酸イオンのモル濃度が亜鉛イオンのモル濃度の1~3倍の範囲内にある水溶液からなる酸化亜鉛膜形成用組成物を被処理物に接触させて、酸化亜鉛膜を形成する工程、
(2)上記(1)工程によって酸化亜鉛膜を形成した被処理物を、触媒金属を含有するpH3.5以上の水溶液からなる触媒付与液に接触させて触媒を付与する工程、
(3)上記(2)工程によって触媒を付与した後、被処理物を無電解めっき液に接触させて無電解めっき皮膜を形成する工程、
(4)上記(3)工程で無電解めっき皮膜を形成した後、酢酸銅、導電性塩及び塩化物イオンを含有する水溶液からなる電気銅めっき液を用いて電気銅めっき皮膜を形成する工程。」に該当するものではない。
e そうすると、本件特許発明1と甲10発明とは、
「無機材料からなる部材の表面に金属酸化物層を形成する工程(1)、
金属酸化物層上に無電解銅めっき皮膜を形成する工程(3)、
前記工程(3)の後に、第2回目の熱処理を行う工程(4)、
を含み、
前記工程(4)を行う雰囲気が、不活性ガス雰囲気である、
めっき皮膜の製造方法。
ただし、「下記(1)~(4)の工程を含む電気銅めっき方法:
(1)亜鉛イオン、硝酸イオン及びアミンボラン化合物を含み、亜鉛イオン濃度が0.03~0.2モル/Lであって、硝酸イオンのモル濃度が亜鉛イオンのモル濃度の1~3倍の範囲内にある水溶液からなる酸化亜鉛膜形成用組成物を被処理物に接触させて、酸化亜鉛膜を形成する工程、
(2)上記(1)工程によって酸化亜鉛膜を形成した被処理物を、触媒金属を含有するpH3.5以上の水溶液からなる触媒付与液に接触させて触媒を付与する工程、
(3)上記(2)工程によって触媒を付与した後、被処理物を無電解めっき液に接触させて無電解めっき皮膜を形成する工程、
(4)上記(3)工程で無電解めっき皮膜を形成した後、酢酸銅、導電性塩及び塩化物イオンを含有する水溶液からなる電気銅めっき液を用いて電気銅めっき皮膜を形成する工程。」は除く。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点3-1>
無機材料からなる部材について、本件特許発明1では、「ガラス基板」であるのに対し、甲10発明では、「四角筒状に成形した誘電体セラミック」である点。
<相違点3-2>
本件特許発明1では、「前記工程(1)の後に、第1回目の熱処理を行う工程(2)」を行うのに対して、甲10発明では、誘電体セラミックを浸漬、脱泡、放置、乾燥、及び、焼成する処理を10回繰り返して、ZnO薄膜を形成した後に、「第1回目の熱処理を行う工程(2)」を行うものではない点。
<相違点3-3>
「金属酸化物層上に無電解銅めっき皮膜を形成する工程(3)」について、本件特許発明1では、「前記工程(2)の後に」行うのに対して、甲10発明では、「第1回目の熱処理を行う工程(2)」に相当する工程が存在しないため、「前記工程(2)の後に」行うものではない点。
<相違点3-4>
本件特許発明1では、「前記工程(4)の後に、無電解めっき皮膜上に電解銅めっき皮膜を形成する工程(5)」を行うのに対して、甲10発明では、N2雰囲気炉にて400℃でアニール処理を行った後に、「無電解めっき皮膜上に電解銅めっき皮膜を形成する工程(5)」を行うものではない点。
<相違点3-5>
「工程(1)」について、本件特許発明1では、「工程(1-2):ガラス基板の表面に触媒を付与する。」、「工程(1-3):ガラス基板の表面に金属酸化物層を形成する。」を含み、「工程(1-2)、(1-3)の順に行う工程である」のに対して、甲10発明では、誘電体セラミックを浸漬、脱泡、放置、乾燥、及び、焼成する処理を10回繰り返して、ZnO薄膜を形成するものであって、「工程(1-3):」四角筒状に成形した誘電体セラミック「の表面に金属酸化物層を形成する。」を含むものの、「工程(1-2):」四角筒状に成形した誘電体セラミック「の表面に触媒を付与する」を含むものではなく、「工程(1-2)、(1-3)の順に行う工程」ではない点。
(イ)相違点についての検討
a 事案に鑑み、まず、上記相違点3-1について検討する。
(a)上記(ア)aで検討したとおり、甲10発明は、所定手順で四角筒状に成形した誘電体セラミック表面にZnO薄膜を形成するものであり、ガラス基板表面にZnO薄膜を形成するものではないから、相違点3-1は、本件特許発明1と甲10発明との実質的な相違点である。
(b)次に上記相違点3-1の容易想到性について検討する。
i 甲10の段落【0005】には、甲10発明が解決すべき課題として、セラミック表面を粗化しなくても、その表面上に適度の密着強度で電極層を形成でき、特性に優れた誘電体共振器を効率良く製造できるセラミックへのメッキ方法を提供することが記載されており、この記載によると、甲10発明は、メッキが施される対象がセラミック(誘電体セラミック)であることを前提とした技術であるから、甲10の記載からは、甲10発明において、メッキが施される対象として、四角筒状に成形した誘電体セラミックに代えて、ガラス基板を用いることには、阻害要因があるというべきであり、そのように変更する動機付けがあるともいえない。
ii また、甲2の段落【0017】、甲3の段落【0020】、甲4の段落【0001】、【0006】、及び、【0010】、甲5の段落【0010】、甲6の段落【0035】、甲7の第627頁、甲8の第753頁、甲9の段落【0028】には、基板、基材、または、基体の材料として、ガラスとセラミックとが同一の選択肢の中に記載されており、これらの甲号証においては、ガラスとセラミックが置換可能であることが示唆されている。
しかしながら、甲10発明は、上記のとおり、メッキが施される対象がセラミック(誘電体セラミック)であることを前提とした技術であるから、甲10発明において、メッキが施される対象として、四角筒状に成形した誘電体セラミックに代えて、甲2~甲9に記載のガラスを用いることには阻害要因があるというべきであり、そのように変更する動機付けがあるともいえない。
iii したがって、甲10発明において、上記相違点3-1に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(ウ)小括
よって、上記相違点3-2~3-5について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲10に記載された発明、及び甲2~甲9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2、4について
ア 甲10発明との対比・判断
(ア)上記(2)の検討結果を踏まえて、本件特許発明2、4と甲10発明とを対比すると、両者は少なくとも、上記相違点3-1と同様の点で相違する。
そして、相違点3-1については、上記(2)ア(イ)で検討したとおりであるから、甲10発明において、上記相違点3-1に係る特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえない。
以上によれば、甲10発明において、上記相違点3-1に係る特定事項を備えさせることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
(イ)小括
したがって、その余の点について検討するまでもなく、本件特許発明2、4は、甲10に記載された発明、及び甲2~甲9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)申立理由1-2についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1~2、4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由1-2によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由2(明確性要件)について
(1)本件特許の請求項1~5の記載は、上記第2のとおりのものであるところ、請求項1~5の記載に不明確なところはなく、その意味は明確であるから、本件特許発明1~5について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
(2)なお、申立人は、以下のとおり主張する。
ア 「熱処理」について
(ア)申立人は、特許異議申立書の第46頁において、請求項1、4には、「熱処理」という記載があるが、熱処理を行う条件が特定されておらず、どのような熱処理を行えば、本件特許発明における「熱処理」に該当しうるか不明である旨、主張する。
(イ)しかしながら、小学館デジタル大辞泉によると、「熱処理」とは、「材料に加熱・冷却の操作をして、目的とする特性に改善すること」であり、「熱処理」と記載することで、当該処理を行うという意味が明らかである。「熱処理」という用語自体が明確である以上、熱処理の条件が特定されずとも、請求項の記載は不明確であるとはいえない。
また、本件特許明細書の段落【0052】及び【0073】等において、「熱処理」の具体的な目的、処理条件(温度、時間、雰囲気)及び技術的効果が記載されており、その技術的意義が明確に示されているから、本件特許発明の「熱処理」の具体的な内容は、本件特許明細書の上記記載を参酌することによって、理解できる。
よって、いずれにしろ出願人の主張は採用しない。
イ 「不活性ガス」について
(ア)申立人は、特許異議申立書の第47頁において、請求項1には、「不活性ガス」という記載があるが、何に対して不活性であるのか、どの程度不活性であれば、本件特許発明における「不活性ガス」に該当しうるか不明であり、範囲が曖昧である旨、主張する。
(イ)しかしながら、小学館デジタル大辞泉によると、「不活性ガス」とは、「化学反応を起こしにくい気体」のことであり、「不活性ガス」と記載することで、その当該ガスという意味が明らかである。「不活性ガス」という用語自体が明確である以上、何に対して不活性であるのか、どの程度不活性であるのか特定されずとも、請求項の記載は不明確であるとはいえない。
また、本件特許明細書の段落【0074】に、「不活性ガス雰囲気下で工程(4)を行うことにより、無電解銅めっき皮膜の過剰な酸化を抑制できる」と記載されており、その技術的効果と目的が明確に記載されていることで、その技術的意義が明確に示されているから、本件特許発明の「不活性ガス」の具体的な内容は、本件特許明細書の上記記載を参酌することによって、理解できる。
よって、いずれにしろ出願人の主張は採用しない。
ウ 「触媒金属を含有するpH3.5以上の水溶液」について
(ア)申立人は、特許異議申立書の第47頁において、請求項1には、「触媒金属を含有するpH3.5以上の水溶液」という記載があるが、数値範囲の下限値のみが設定されているので、発明の範囲が不明確である旨、主張する。
(イ)しかしながら、請求項1の「触媒金属を含有するpH3.5以上の水溶液」という記載は、その文言どおり、水溶液が、触媒金属を含有するものであって、そのpHが3.5以上である、という意味であることは明らかであり、その意味は明確である。
また、pHの定義の基礎となる活量係数や、水が溶媒として本来持つ性質を維持し続けることを考えると、実際に「水溶液」といえる状態として存在し得る範囲がpH0~14程度であることが技術常識であるから、数値範囲の下限値のみが設定されていたとしても、上限値が技術常識に基づき自ずと定まる以上、請求項の記載は不明確であるとはいえない。
よって、出願人の主張は採用しない。
エ 「pH2.0以下の電解銅めっき浴」について
(ア)申立人は、特許異議申立書の第47頁において、請求項5には、「pH2.0以下の電解銅めっき浴」という記載があるが、数値範囲の上限値のみが設定されているので、発明の範囲が不明確である旨、主張する。
(イ)しかしながら、請求項1の「pH2.0以下の電解銅めっき浴」という記載は、その文言どおり、電解銅めっき浴のpHが2.0以下である、という意味であることは明らかであり、その意味は明確である。
また、pHの定義の基礎となる活量係数や、水が溶媒として本来持つ性質を維持し続けることを考えると、実際に「水溶液」といえる状態として存在し得る範囲がpH0~14程度であることが技術常識であるから、通常の電解銅めっき浴については、数値範囲の上限値のみが設定されていたとしても、下限値が技術常識に基づき自ずと定まる以上、請求項の記載は不明確であるとはいえない。
よって、出願人の主張は採用しない。
(3)申立理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件特許発明1~5について、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、申立理由2によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、申立人による特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700444