特許異議申立
2025-700397
電解液とクロム層の製造方法
- 審判番号
- 2025-700397
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-535302
- 登録番号
- 7569788
- 請求日
- 2025年04月07日
- 審決日
- 2025年07月08日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】マシーネンファブリック カスパル ヴァルター ゲーエムベーハー ウント ツェーオー カーゲー
- 【権利者代理人】西村 竜平
- 【権利者代理人】齊藤 真大
- 【権利者】ボペリエス ケミー アーゲー
- 【権利者代理人】西村 竜平
- 【権利者代理人】齊藤 真大
- 【異議申立人】安井 健治
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 井上 猛
- 審判官 阿川 寛樹
- 分類
- P1651.121-Y (C25D) / P1651.536-Y (C25D) / P1651.537-Y (C25D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第113条、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7569788号発明「電解液とクロム層の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7569788号の請求項1~11に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7569788号(請求項の数11。以下、「本件特許」という。)は、2019年(令和1年)12月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理:2018年12月21日(DE)ドイツ)を国際出願日とする特許出願(特願2021-535302号)に係るものであって、令和6年10月9日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和6年10月18日である。)。
その後、令和7年4月7日に、本件特許の請求項1~11に係る特許に対して、特許異議申立人である安井健治(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~11に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。
【請求項1】
金属としてのクロムを電解析出させるための電解セルであって、該セルは陽極及び陰極が浸漬された電解液で満たされており、
前記陽極と前記陰極とに直流電圧が印加されるものであり、
前記陽極が、貴金属含有混合酸化物陽極であり、
前記電解液は、(a)クロム(III)塩と(b)金属クロムとを含むものであり、前記金属クロムが、前記電解液中の1つ以上の鋳型の形で利用可能なものであり、
前記鋳型は、ピース、ナゲット、チャンク、プレートおよびインゴットから選択され、
前記金属クロムの表面積は、前記陽極の表面積の1%~50%であり、
前記電解液が、さらに(c)硫酸塩を含み、
前記硫酸塩が硫酸ナトリウムおよび/または硫酸カリウムであり、
前記電解液中の前記硫酸塩の含有量が5mM~30mMである、電解セル。
【請求項2】
請求項1に記載の電解セルであって、
前記電解液が、さらに(d)式(I)の化合物
[図:0001425806000001.jpg]
(I)、
ここで、RはNH2、OHまたはSO3Hを表し、nは1から3の範囲の整数である、および/またはその塩、および/または
(e)ギ酸および/またはその塩、を含む電解セル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電解セルであって、前記クロム(III)塩が、無機および/または有機のクロム(III)塩を含み、前記無機のクロム(III)塩が、カリウムクロムミョウバン、アンモニウムクロムミョウバン、硫酸クロム、スルファミン酸クロム(アミドスルホネート)、臭化クロム、ヨウ化クロム、リン酸クロム、ピロリン酸クロム(ジホスフェート)、ホスホン酸クロム、ヒドロキシ硫酸クロム(アルカリ硫酸クロム)、塩化クロムおよびそれらの2つ以上の混合物から選択されるものである、または前記有機クロム(III)塩が、クエン酸クロム、ギ酸クロム、シュウ酸クロム、メタンスルホン酸クロム、ジメタンスルホン酸クロム、およびそれらの2つ以上の混合物から選択されるものである電解セル。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の電解セルであって、前記電解液が(f)錯化剤および/または湿潤剤を含む電解セル。
【請求項5】
回転対称部品上にクロム層を製造するための、請求項1~4のいずれか1項に記載の電解セルの使用。
【請求項6】
請求項5に記載の使用であって、前記回転対称部品は、グラビアシリンダであることを特徴とする使用。
【請求項7】
直流により、陽極と陰極を用いて、前記電解液からクロムを析出させることによりクロム層を製造する方法であって、前記陽極が貴金属含有混合酸化物陽極であり、金属クロムが、前記電解液中の1つ以上の鋳型の形で利用可能なものであり、前記鋳型は、ピース、ナゲット、チャンク、プレートおよびインゴットから選択され、前記金属クロムの表面積は、前記陽極の表面積の1%~50%であり、請求項1~4のいずれか1項に記載の電解セルを用いることを特徴とするクロム層を製造する方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、前記金属クロムを前記陽極と前記陰極の電界中に配置することを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項7又は8のいずれか1項に記載の方法であって、前記金属クロムが前記陽極に接触していることを特徴とする方法。
【請求項10】
電解液中のクロム(III)の含有量を電解中に一定に保つ方法であって、請求項1~4のいずれか1項に記載の電解セルを用いて電解を行うことを特徴とする方法。
【請求項11】
クロムの電解析出中および析出後のクロム(VI)生成を防止する方法であって、請求項1~4のいずれか1項に記載の電解セルを用いることを特徴とする方法。
第3 特許異議の申立ての理由の概要
本件特許の請求項1~11に係る特許は、下記1~3のとおり、特許法113条2号及び4号に該当する(証拠方法は下記4を参照。以下、甲第1号証等を単に「甲1」等という。)。
1 申立理由1(進歩性)
本件発明1~11は、甲1に記載された発明及び甲2~14に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~11に係る特許は、同法113条2号に該当する。
2 申立理由2(実施可能要件)
本件発明1~11については、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に適合するものではないから、本件特許の請求項1~11に係る特許は、同法113条4号に該当する。
3 申立理由3(サポート要件)
本件発明1~11については、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではないから、本件特許の請求項1~11に係る特許は、同法113条4号に該当する。
4 証拠方法
・甲1 特開2018-3092号公報
・甲2 特表2012-511099号公報
・甲3 特開平8-120500号公報
・甲4 特開2007-162123号公報
・甲5 特表2001-500195号公報
・甲6 特開平8-225997号公報
・甲7 特表2013-543062号公報
・甲8 特開2000-104199号公報
・甲9 特開平5-98496号公報
・甲10 特開2013-216932号公報
・甲11 特開2017-8404号公報
・甲12 特開2008-143169号公報
・甲13 特表2014-513214号公報
・甲14 令和7年2月18日付け報告書 研究題目「めっき評価」、地方独立行政法人大阪産業技術研究所作成
第4 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1(進歩性)
(1)甲1に記載された発明
甲1の記載(請求項1~4、【0007】~【0018】、【0021】、【0034】~【0036】、【0050】~【0061】、【0075】、図1~3)によれば、特に、めっき被覆ロールの具体例であるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)ロールの試作に用いられた、所定のクロムめっき浴を用いた3価クロムめっきを行うための装置(【0054】~【0056】、図1、2)に着目すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「3価クロムめっきを行うための装置であって、
クロム源として塩化クロムあるいは硫酸クロム塩を90g/L、錯化剤としてギ酸塩やリンゴ酸塩を45g/L、pH緩衝剤としてホウ酸を50g/L、導電剤として塩化アンモニウム、硝酸カリウム、硫酸ナトリウム等を50~150g/Lの範囲で調整し、界面活性剤を微量添加しためっき液12を保持しためっき槽11からなるクロムめっき浴1を用いて、
めっき槽11内に、めっき完了品の取外しが容易なかご型のユニットを設けた上で、めっき実施中に不溶性のアノード3、カソードとして機能するニッケルめっきされた状態のCFRP素管2を縦方向にセットし、
電流密度を6.5A/dm2のめっき条件で、平均めっき厚さ0.05mmの3価クロムめっきを行う、装置。」(以下、「甲1発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明における「めっき液12を保持した」「めっき槽11内に、」「めっき実施中に不溶性のアノード3、カソードとして機能するニッケルめっきされた状態のCFRP素管2を縦方向にセットし、」「電流密度を6.5A/dm2のめっき条件で、」「3価クロムめっきを行う」、「3価クロムめっきを行うための装置」は、技術常識に照らして、金属クロムを電解めっきするものであることは明らかであるから、本件発明1における「金属としてのクロムを電解析出させるための電解セル」に相当する。
(イ)上記(ア)を踏まえると、甲1発明における「めっき液12」は、本件発明1における「電解液」に相当する。
(ウ)甲1発明における「めっき液12を保持した」「めっき槽11内に、」「セット」された「不溶性のアノード3」と「カソードとして機能するニッケルめっきされた状態のCFRP素管2」は、上記(イ)を踏まえると、それぞれ、本件発明1における「電解液」に「浸漬された」「陽極」と「陰極」に相当する。
(エ)甲1発明において、「3価クロムめっきを行うための装置」における「めっき槽11」が所定の「めっき液12を保持し」ていることは、上記(ア)、(イ)を踏まえると、本件発明1において、「セル」が「電解液で満たされて」いることに相当する。
(オ)甲1発明は、「めっき液12を保持した」「めっき槽11内に、」「めっき実施中に不溶性のアノード3、カソードとして機能するニッケルめっきされた状態のCFRP素管2を縦方向にセットし、」「電流密度を6.5A/dm2のめっき条件で、」「3価クロムめっきを行う」ものであるところ、図1及び技術常識に照らして、「不溶性のアノード3」と「カソードとして機能するニッケルめっきされた状態のCFRP素管2」の間に直流電圧が印加されることは明らかであるから、上記(ウ)を踏まえると、本件発明1において、「前記陽極と前記陰極とに直流電圧が印加される」ことに相当する。
(カ)甲1発明における「めっき液12」に含まれる「クロム源として」の「塩化クロムあるいは硫酸クロム塩」は、上記(イ)を踏まえると、いずれも、本件発明1における「電解液」に「含」まれる「(a)クロム(III)塩」に相当する。
(キ)甲1発明における「めっき液12」に含まれる「導電剤として」の「硫酸ナトリウム」は、上記(イ)を踏まえると、本件発明1における「電解液」に「含」まれる「(c)硫酸塩」である「硫酸ナトリウムおよび/または硫酸カリウム」に相当する。
(ク)以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「金属としてのクロムを電解析出させるための電解セルであって、該セルは陽極及び陰極が浸漬された電解液で満たされており、
前記陽極と前記陰極とに直流電圧が印加されるものであり、
前記電解液は、(a)クロム(III)塩を含むものであり、
前記電解液が、さらに(c)硫酸塩を含み、
前記硫酸塩が硫酸ナトリウムおよび/または硫酸カリウムである、電解セル。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1
陽極が、本件発明1では、「貴金属含有混合酸化物陽極」であるのに対して、甲1発明では、「不溶性のアノード3」であるものの、具体的にどのようなものであるのか不明である点。
・相違点2
電解液が、本件発明1では、「(b)金属クロム」「を含」み、「前記金属クロムが、前記電解液中の1つ以上の鋳型の形で利用可能なものであり、前記鋳型は、ピース、ナゲット、チャンク、プレートおよびインゴットから選択され、前記金属クロムの表面積は、前記陽極の表面積の1%~50%であ」るのに対して、甲1発明では、上記のような「金属クロム」を含むものではない点。
・相違点3
本件発明1では、「前記電解液中の前記硫酸塩の含有量が5mM~30mMである」のに対して、甲1発明では、「めっき液12」に含まれる「導電剤として」の「硫酸ナトリウム」の含有量が「50~150g/L」である点。
イ 相違点3の検討
事案に鑑み、相違点3について検討する。
(ア)まず、相違点3が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
甲1発明においては、「めっき液12」に含まれる「導電剤として」の「硫酸ナトリウム」の含有量は、「50~150g/L」である。
ここで、硫酸ナトリウムのモル質量は、142.04g/mol(特許異議申立書37頁)であるから、上記含有量を「mM」単位に換算すると、約352~約1056mM(=50/142.04~150/142.04M)となる。すなわち、甲1発明における、「めっき液12」に含まれる「導電剤として」の「硫酸ナトリウム」の含有量は、約352~約1056mMであると認められる。
一方、本件発明1においては、「前記電解液中の前記硫酸塩の含有量が5mM~30mMである」から、本件発明1と甲1発明とは、硫酸塩の含有量の点で相違する。
以上によれば、相違点3は実質的な相違点である。
(イ)次に、相違点3の容易想到性について検討する。
上記(ア)のとおり、甲1発明における、「めっき液12」に含まれる「導電剤として」の「硫酸ナトリウム」の含有量は、約352~約1056mMである。
ここで、甲1には、導電剤の含有量については、「50~150g/L」との記載(【0034】、【0054】)以外には見当たらないため、甲1においては、導電剤の含有量を「50~150g/L」とすることが前提とされていると解される(電解析出の際の条件を好適なものとするために調整されていると考えられる。)から、このような含有量をあえて「5mM~30mM」に変更する動機付けがあるとはいえず、むしろ阻害要因があるともいえる。
この点、甲2~13(なお、甲14は硫酸ナトリウムの効果を確認するために行われた実験の報告書である。)に、「めっき液12」に含まれる「導電剤として」の「硫酸ナトリウム」の含有量として、「5mM~30mM」(又は「5mM~30mM」と重複する範囲)が記載されていたとしても、上記判断を左右するものではない。
以上によれば、甲1発明において、「めっき液12」に含まれる「導電剤として」の「硫酸ナトリウム」の含有量を「5mM~30mM」とすることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 小括
したがって、相違点1、2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2~14に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 付言
なお、甲1発明は、上記(1)のとおり、甲1における、めっき被覆ロールの具体例であるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)ロールの試作に用いられた、所定のクロムめっき浴を用いた3価クロムめっきを行うための装置(【0054】~【0056】、図1、2)に着目して認定したものである。
仮に、甲1の請求項3の記載や【0034】~【0036】の記載((粒状の)金属クロムをめっき液に投入する旨の記載)も考慮して、甲1発明とは別の、甲1に記載された発明を認定できたとしても、そのような甲1に記載された発明と本件発明1との間には、上記相違点3と同様の相違点が存在することに変わりはない。そして、その相違点についての判断は、上記相違点3についての判断と同様である。
(3)本件発明2~11について
本件発明2~11は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲1に記載された発明及び甲2~14に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2~11についても同様に、甲1に記載された発明及び甲2~14に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1~11は、甲1に記載された発明及び甲2~14に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由1(進歩性)によっては、本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(実施可能要件)
(1)本件発明1~11について
ア 本件発明1~4は、金属としてのクロムを電解析出させるための電解セルに関するものであり、本件発明5、6は、上記電解セルの使用に関するものであり、本件発明7~9は、上記電解セルを用いたクロム層を製造する方法に関するものであり、本件発明10は、上記電解セルを用いた電解液中のクロム(III)の含有量を電解中に一定に保つ方法に関するものであり、本件発明11は、上記電解セルを用いたクロムの電解析出中および析出後のクロム(VI)生成を防止する方法に関するものであり、いずれも、上記第2で認定したとおりのものである。
イ 本件明細書には、金属としてのクロムを電解析出させるための電解セル(【0005】~【0017】、【0035】~【0039】)、上記電解セルの使用、及びクロム層を製造する方法(【0018】~【0031】、【0035】~【0039】)、並びに上記電解セルを用いた電解液中のクロム(III)の含有量を電解中に一定に保つ方法、及び上記電解セルを用いたクロムの電解析出中および析出後のクロム(VI)生成を防止する方法(【0032】~【0039】)について具体的な説明がなされている。
ウ 以上によれば、当業者が、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、上記電解セルを製造し使用できることは明らかであり、また、上記電解セルを用いた電解液中のクロム(III)の含有量を電解中に一定に保つ方法、及び上記電解セルを用いたクロムの電解析出中および析出後のクロム(VI)生成を防止する方法を使用できることも明らかである。
したがって、本件発明1~11については、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するものである。
(2)申立人の主張について
申立人は、本件発明1においては、電解液に硫酸ナトリウム/硫酸カリウムが5mM~30mMの濃度で含まれることが規定されているが、本件明細書の実施例1における「17mM」との記載は誤りであり、正しくは「約150mM」と読むのが自然であるから、上記実施例1の記載からは、硫酸ナトリウム/硫酸カリウムの濃度が5mM~30mMという低濃度の電解液を用いたと読み取ることができないため、本件発明1~11については、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たしているとはいえないと主張する。
しかしながら、申立人が主張するように、上記実施例1には、何らかの誤記が含まれている可能性はあるものの、本件発明1~11については、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するものであることは、上記(1)のとおりである。申立人の主張は、上記判断を左右するものではない。
よって、申立人の主張は採用できない。
3 申立理由3(サポート要件)
(1)本件発明1~11について
ア 本件明細書の記載(【0002】~【0004】)によれば、本件発明1~11が解決しようとする課題は、「電解が行われている間、少なくとも数ヶ月までの長い期間にわたって、Cr(III)の含有量が多少なりとも一定に保たれる電解液を含む電解セル、当該電解セルの使用、当該セルを用いたクロム層を製造する方法、当該電解セルを用いた電解液中のクロム(III)の含有量を電解中に一定に保つ方法、及び当該電解セルを用いたクロムの電解析出中および析出後のクロム(VI)生成を防止する方法を提供すること」であると認められる。
イ 本件明細書には、上記アの課題に関し、以下の記載がある。
「【0005】
これは、本発明によれば、金属としてのクロムを電解析出させるための電解液であって、(a)クロム(III)塩と(b)金属クロムとを含む電解液によって達成される。
【0006】
Cr(III)電解液に金属クロムを入れると、電解を行っている間、少なくとも数時間から数ヶ月までの長時間にわたって、クロム(III)の含有量をほぼ一定に保つことができることがわかった。どのくらいの期間、クロム(III)の含有量を一定に保つことができるかは、使用する金属クロムの量と電解の条件に依存するので、これらのパラメータによって簡単かつ便利な方法で期間を制御することができる。また、金属クロムの溶解状態を観察することもできる。Cr(III)が存在する場合、還元時にカソードのCr(II)が生成されることが-それに拘束されることなく-想定される。これにより、金属Crの溶解が促進されるはずである。同時に、酸化時のCr(VI)の生成を防ぐことができる。すなわち、電解時に金属クロムが溶解してもCr(VI)は生成されないのである。さらに、電解析出は、有利には半透膜を用いずに行うことができる。これまでは、Cr(VI)が生成されないように陽極と陰極を分離するために半透膜が使用されてきた。本発明による電解液の使用では、ここでは電解液の組成によりCr(VI)の形成が防止されるので、これは必要ない。」
ウ 上記イの記載を含む本件明細書の記載(【0005】~【0044】)によれば、上記アの課題は、金属としてのクロムを電解析出させるための電解セルであって、該セルは陽極及び陰極が浸漬された電解液で満たされており、前記陽極と前記陰極とに直流電圧が印加される電解セルにおいて、上記電解液として、「(a)クロム(III)塩と(b)金属クロムとを含む」との要件を備えることによって、解決できることが理解できる。
エ 以上のとおり、本件明細書の記載を総合すれば、上記ウの要件を備えた本件発明1~11は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により上記アの課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
したがって、本件発明1~11については、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。
(2)申立人の主張について
申立人は、上記2(2)の実施可能要件についての主張と同様に、本件発明1においては、電解液に硫酸ナトリウム/硫酸カリウムが5mM~30mMの濃度で含まれることが規定されているが、本件明細書の実施例1における「17mM」との記載は誤りであり、正しくは「約150mM」と読むのが自然であるから、上記実施例1の記載からは、硫酸ナトリウム/硫酸カリウムの濃度が5mM~30mMという低濃度の電解液を用いたと読み取ることができないため、本件発明1~11については、特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たしているとはいえないと主張する。
しかしながら、申立人が主張するように、上記実施例1には、何らかの誤記が含まれている可能性はあるものの、本件発明1~11については、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものであることは、上記(1)のとおりである。申立人の主張は、上記判断を左右するものではない。
よって、申立人の主張は採用できない。
第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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