特許異議申立
2023-701343
高ヘイズアンチグレアフィルムおよび高ヘイズアンチグレア反射防止フィルム
- 審判番号
- 2023-701343
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-034149
- 登録番号
- 7293549
- 請求日
- 2023年12月20日
- 審決日
- 2025年12月18日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】ベンキュー マテリアルズ コーポレーション
- 【権利者代理人】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
- 【異議申立人】砂川 幸子
- 審判長/審判官
- 審判長 岡田 吉美
- 審判官 道祖土 新吾
- 審判官 濱野 隆
- 分類
- P1651.537-ZAA(G02B) / P1651.536-ZAA(G02B) / P1651.121-ZAA(G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条、特許法第2条、特許法第113条、特許法第120条の5第7項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7293549号発明「高ヘイズアンチグレアフィルムおよび高ヘイズアンチグレア反射防止フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7293549号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~15〕について訂正することを認める。
特許第7293549号の請求項1~15に係る特許を取り消す。
理由
理 由
第1 手続きの経緯
1 本件特許についての手続きの経緯
特許第7293549号(請求項の数15。以下「本件特許」という。)の出願日、優先日、特許権の設定登録日及び特許掲載公報の発行日は、次のとおりである。
出願日 令和4年 3月 7日
優先日 令和3年 9月17日(TW)
特許権の設定登録日 令和5年 6月12日
特許掲載公報の発行日 同月20日
2 本件特許異議の申立てについての手続きの経緯
令和5年12月20日 :特許異議の申立て
(特許異議申立人:砂川 幸子 全請求項1~15に対して)
令和6年 4月 5日付け:取消理由通知書
同年 7月 8日 :訂正請求書及び意見書(以下「意見書1」と
いう。)の提出(特許権者)
同月31日付け:審尋(特許異議申立人)
同年 9月 4日 :回答書(特許異議申立人)
同年12月19日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和7年 4月24日 :面接(特許権者)
同年 5月22日 :訂正請求書及び意見書(以下「意見書2」と
いう。)の提出(特許権者)
以下、令和7年5月22日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。
なお、令和6年7月8日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。
第2 本件訂正について
1 本件訂正に係る請求の趣旨
本件訂正に係る請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~15について訂正することを求めるものである。
2 本件訂正前の特許請求の範囲の記載
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~15の記載(登録時における特許請求の範囲の記載)は、次のとおりである。
「【請求項1】
高ヘイズアンチグレアフィルムであって、
透明基板と、
前記透明基板上に形成されたアンチグレアコーティング層と、を含み、
前記アンチグレアコーティング層は、アクリルバインダー樹脂、複数のアモルファスシリカ微粒子、および複数の球状有機粒子を含み、
前記複数の球状有機粒子は、単分散であり、平均粒子サイズが前記複数のアモルファスシリカ微粒子の平均粒子サイズよりも小さく、
前記アンチグレアコーティング層のアモルファスシリカ微粒子は、前記アンチグレアコーティング層の表面上に、複数の不規則な突起を有する凸凹表面を形成し、
前記凸凹表面は、線粗さの算術平均偏差(Ra)が0.2μm~1.0μmであり、平均幅(RSm)が4μm~20μmであり、
RaとRSmが2.0<(Ra×100)/RSm<18の関係式を満たし、前記複数の不規則な突起の傾斜角(二乗平均平方根勾配、RΔq)は15°~50°であり、
前記高ヘイズアンチグレアフィルムは、40%を超える総ヘイズ(Ht)を有し、
前記総ヘイズ(Ht)は、前記高ヘイズアンチグレアフィルムの表面ヘイズ(Hs)と前記高ヘイズアンチグレアフィルムの内部ヘイズ(Hi)との合計であり、
前記内部ヘイズ(Hi)と前記総ヘイズ(Ht)は、0.25<Hi/Ht<0.75の関係式を満たす、
高ヘイズアンチグレアフィルム。
【請求項2】
前記アンチグレアコーティング層中の前記複数のアモルファスシリカ微粒子は、レーザー法による平均粒子サイズが3.0μm~10μmであり、BET比表面積が60m2/g~100m2/gである、請求項1に記載の高ヘイズアンチグレアフィルム。
【請求項3】
前記アンチグレアコーティング層中の前記複数の球状有機粒子のレーザー法による平均粒子サイズは、2.0μm~8μmである、請求項1に記載の高ヘイズアンチグレアフィルム。
【請求項4】
前記アモルファスシリカ微粒子の使用量は、前記アクリルバインダー樹脂の100重量部あたり、6重量部~25重量部である、請求項1に記載の高ヘイズアンチグレアフィルム。
【請求項5】
前記アモルファスシリカ微粒子の使用量は、前記アクリルバインダー樹脂の100重量部あたり、7重量部~20重量部である、請求項4に記載の高ヘイズアンチグレアフィルム。
【請求項6】
前記球状有機粒子の使用量は、前記アクリルバインダー樹脂の100重量部あたり、6重量部~40重量部である、請求項1に記載の高ヘイズアンチグレアフィルム。
【請求項7】
前記アモルファスシリカ微粒子の使用量は、前記アクリルバインダー樹脂の100重量部あたり、10重量部~38重量部である、請求項6に記載の高ヘイズアンチグレアフィルム。
【請求項8】
前記球状有機粒子と前記アモルファスシリカ微粒子の前記アクリルバインダー樹脂における合計使用量は、前記アクリルバインダー樹脂の100重量部あたり、15重量部~50重量部である、請求項1に記載の高ヘイズアンチグレアフィルム。
【請求項9】
前記アンチグレアコーティング層において、前記アクリルバインダー樹脂中の前記球状有機粒子と前記アモルファスシリカ微粒子との使用量の重量比は、0.3以上5以下である、請求項1に記載の高ヘイズアンチグレアフィルム。
【請求項10】
前記アンチグレアコーティング層の厚さは、2.0μm~10μmである、請求項1に記載の高ヘイズアンチグレアフィルム。
【請求項11】
請求項1に記載の高ヘイズアンチグレアフィルムと、
前記高ヘイズアンチグレアフィルムの前記アンチグレアコーティング層上に形成された低屈折層と、
を含み、
5度の角度平均反射率が0.15%以下であり、SCI(Specular Component Include)拡散反射と正反射の平均反射率およびSCE(Specular Component Include)拡散反射の平均反射率がいずれも2.5%以下である、
高ヘイズアンチグレア反射防止フィルム。
【請求項12】
前記低屈折層の屈折率は、1.4以下である、請求項11に記載の高ヘイズアンチグレア反射防止フィルム。
【請求項13】
前記低屈折層は、バインダー樹脂、複数の中空シリカナノ粒子、およびパーフルオロポリエーテル官能基を有する(メタ)アクリル修飾有機ケイ素化合物を含むレベリング剤を含む、請求項11に記載の高ヘイズアンチグレア反射防止フィルム。
【請求項14】
前記低屈折層のバインダー樹脂は、(メタ)アクリル樹脂またはフッ素およびアクリレートで修飾されたポリシロキサン樹脂である、請求項13に記載の高ヘイズアンチグレア反射防止フィルム。
【請求項15】
表面の水接触角は、90°を超える、請求項11に記載の高ヘイズアンチグレア反射防止フィルム。」
3 本件訂正後の特許請求の範囲の記載
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~15の記載は、次のとおりである。下線は訂正箇所である。
「【請求項1】
高ヘイズアンチグレアフィルムであって、
透明基板と、
前記透明基板上に形成されたアンチグレアコーティング層と、を含み、
前記アンチグレアコーティング層は、アクリルバインダー樹脂、複数のアモルファスシリカ微粒子、および複数の球状有機粒子を含み、
前記複数の球状有機粒子は、単分散であり、平均粒子サイズが前記複数のアモルファスシリカ微粒子の平均粒子サイズよりも小さく、
前記アンチグレアコーティング層のアモルファスシリカ微粒子は、前記アンチグレアコーティング層の表面上に、複数の不規則な突起を有する凸凹表面を形成し、
前記凸凹表面は、線粗さの算術平均偏差(Ra)が0.2μm~1.0μmであり、平均幅(RSm)が4μm~20μmであり、
RaとRSmが2.0<(Ra×100)/RSm<18の関係式を満たし、前記複数の不規則な突起の傾斜角(二乗平均平方根勾配、RΔq)は15°~50°であり、
前記高ヘイズアンチグレアフィルムは、65.63%を超える総ヘイズ(Ht)を有し、
前記総ヘイズ(Ht)は、前記高ヘイズアンチグレアフィルムの表面ヘイズ(Hs)と前記高ヘイズアンチグレアフィルムの内部ヘイズ(Hi)との合計であり、
前記内部ヘイズ(Hi)と前記総ヘイズ(Ht)は、0.25<Hi/Ht<0.75の関係式を満たす、
高ヘイズアンチグレアフィルム。
【請求項2】
前記アンチグレアコーティング層中の前記複数のアモルファスシリカ微粒子は、レーザー法による平均粒子サイズが3.0μm~10μmであり、BET比表面積が60m2/g~100m2/gである、請求項1に記載の高ヘイズアンチグレアフィルム。
【請求項3】
前記アンチグレアコーティング層中の前記複数の球状有機粒子のレーザー法による平均粒子サイズは、2.0μm~8μmである、請求項1に記載の高ヘイズアンチグレアフィルム。
【請求項4】
前記アモルファスシリカ微粒子の使用量は、前記アクリルバインダー樹脂の100重量部あたり、6重量部~25重量部である、請求項1に記載の高ヘイズアンチグレアフィルム。
【請求項5】
前記アモルファスシリカ微粒子の使用量は、前記アクリルバインダー樹脂の100重量部あたり、7重量部~20重量部である、請求項4に記載の高ヘイズアンチグレアフィルム。
【請求項6】
前記球状有機粒子の使用量は、前記アクリルバインダー樹脂の100重量部あたり、6重量部~40重量部である、請求項1に記載の高ヘイズアンチグレアフィルム。
【請求項7】
前記球状有機粒子の使用量は、前記アクリルバインダー樹脂の100重量部あたり、10重量部~38重量部である、請求項6に記載の高ヘイズアンチグレアフィルム。
【請求項8】
前記球状有機粒子と前記アモルファスシリカ微粒子の前記アクリルバインダー樹脂における合計使用量は、前記アクリルバインダー樹脂の100重量部あたり、15重量部~50重量部である、請求項1に記載の高ヘイズアンチグレアフィルム。
【請求項9】
前記アンチグレアコーティング層において、前記アクリルバインダー樹脂中の前記球状有機粒子と前記アモルファスシリカ微粒子との使用量の重量比は、0.3以上5以下である、請求項1に記載の高ヘイズアンチグレアフィルム。
【請求項10】
前記アンチグレアコーティング層の厚さは、2.0μm~10μmである、請求項1に記載の高ヘイズアンチグレアフィルム。
【請求項11】
請求項1に記載の高ヘイズアンチグレアフィルムと、
前記高ヘイズアンチグレアフィルムの前記アンチグレアコーティング層上に形成された低屈折層と、
を含み、
5度の角度平均反射率が0.15%以下であり、SCI(Specular Component Include)拡散反射と正反射の平均反射率およびSCE(Specular Component Exclude)拡散反射の平均反射率がいずれも2.5%以下である、
高ヘイズアンチグレア反射防止フィルム。
【請求項12】
前記低屈折層の屈折率は、1.4以下である、請求項11に記載の高ヘイズアンチグレア反射防止フィルム。
【請求項13】
前記低屈折層は、バインダー樹脂、複数の中空シリカナノ粒子、およびパーフルオロポリエーテル官能基を有する(メタ)アクリル修飾有機ケイ素化合物を含むレベリング剤を含む、請求項11に記載の高ヘイズアンチグレア反射防止フィルム。
【請求項14】
前記低屈折層のバインダー樹脂は、(メタ)アクリル樹脂またはフッ素およびアクリレートで修飾されたポリシロキサン樹脂である、請求項13に記載の高ヘイズアンチグレア反射防止フィルム。
【請求項15】
表面の水接触角は、90°を超える、請求項11に記載の高ヘイズアンチグレア反射防止フィルム。」
4 本件訂正の内容
本件訂正は、一群の請求項〔1~15〕に対して請求されたものであるところ、本件訂正の内容を訂正される記載のある請求項ごとに整理すると、本件訂正は以下の(1)~(3)に示す訂正事項1~3からなる。
(1) 訂正事項1(請求項1の記載に係る訂正)
特許請求の範囲の請求項1における「40%を超える総ヘイズ(Ht)」との記載を「65.63%を超える総ヘイズ(Ht)」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2~15も同様に訂正する。)
(2) 訂正事項2(請求項7の記載に係る訂正)
特許請求の範囲の請求項7における「前記アモルファスシリカ微粒子の使用量は、」との記載を「前記球状有機粒子の使用量は、」に訂正する。
(3) 訂正事項3(請求項11の記載に係る訂正)
特許請求の範囲の請求項11における「SCE(Specular Component Include)拡散反射」との記載を「SCE(Specular Component Exclude)拡散反射」に訂正する。(請求項11の記載を引用する請求項12~15も同様に訂正する。)
5 本件訂正の適否についての当合議体の判断
(1) 訂正の目的
ア 訂正事項1
訂正事項1に係る訂正は、「高ヘイズアンチグレアフィルム」が有する「総ヘイズ(Ht)」について、本件訂正前は「40%を超える」としていたものを本件訂正後は「65.63%を超える」として、下限の数値を引き上げることにより「総ヘイズ(Ht)」が取り得る値の範囲を限定するものである(下線は合議体による。)。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
イ 訂正事項2
訂正事項2に係る訂正は、本件訂正前の請求項7における「前記アモルファスシリカ微粒子の使用量は、」との記載を「前記球状有機粒子の使用量は、」に訂正するものである(下線は合議体による。)。
訂正前の請求項7は請求項6を引用するところ、請求項6においては「球状有機粒子の使用量」を特定していること、及び、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明の段落【0030】において、「アンチグレアコーティング層において、球状有機微粒子の使用量は、アクリルバインダー樹脂の100重量部当たり、6重量部~40重量部であり、特に10重量部~38重量部であってよい。」と記載されていることに鑑みると、当業者にとっては、訂正前の請求項7における「前記アモルファスシリカ微粒子の使用量は、」という記載が「前記球状有機粒子の使用量は、」の誤記であることは、明らかである。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当する。
ウ 訂正事項3
訂正事項3に係る訂正は、本件訂正前の請求項11における「SCE(Specular Component Include)拡散反射」を「SCE(Specular Component Exclude)拡散反射」に訂正するものである(下線は合議体による。)。
「SCE」が英単語の頭文字をとった略語であり、「E」が「Include」の略語であることが不自然であることは、当業者であれば当然に理解できることである。
また、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明の段落【0042】において、「SCE(Specular Component Exclude)拡散反射の平均反射率は、いずれも2.5%以下である」と記載されている。
そうすると、当業者にとっては、訂正前の請求項11における「SCE(Specular Component Include)拡散反射」という記載が「SCE(Specular Component Exclude)拡散反射」の誤記であることは、明らかである。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当する。
(2) 新規事項の追加、特許請求の範囲の実質的拡張・変更
訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当しないから、この訂正における新規事項の追加の有無を判断する際の基準となる明細書等は、特許権の設定の登録がされた時点での願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「特許明細書等」という。)である。
訂正事項2及び3に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当するから、これらの訂正における新規事項の追加の有無を判断する際の基準となる明細書等は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「当初明細書等」という。)である。
ア 訂正事項1
明細書の段落【0100】における【表1】をみると、実施例1~8の高ヘイズアンチグレアフィルムについて、その総ヘイズがそれぞれ77.42、75.25、86.04、89.54、86.91、93.78、77.41、65.63のものが記載されている。したがって、高ヘイズアンチグレアフィルムについて、「40%を超える総ヘイズ(Ht)」との記載を「65.63%を超える総ヘイズ(Ht)」に訂正することは、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであると認められる。
また、訂正事項1に係る訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも、明らかである。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
イ 訂正事項2
明細書の段落【0030】は審査の段階において補正されていないところ、当該記載からみても訂正前の請求項7における「前記アモルファスシリカ微粒子の使用量は、」という記載は「前記球状有機粒子の使用量は、」の明らかな誤記であるから、訂正事項2に係る訂正が当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであることは、明らかである。
また、訂正事項2に係る訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも、明らかである。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
ウ 訂正事項3
明細書の段落【0042】は審査の段階において補正されていないところ、当該記載からみても訂正前の請求項11における「SCE(Specular Component Include)拡散反射」という記載は「SCE(Specular Component Exclude)拡散反射」の明らかな誤記であるから、訂正事項3に係る訂正が当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであることは、明らかである。
また、訂正事項3に係る訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも、明らかである。
したがって、訂正事項3に係る訂正は、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
(3) 独立特許要件
本件特許異議の申立てにおいては、全請求項である請求項1~15について特許異議の申立てがされているから、本件訂正後における請求項1~15に記載されている事項により特定される発明について、特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条7項に規定する独立特許要件は課されない。
(4) 本件訂正の適否についての当合議体の判断のまとめ
前記(1)~(3)において検討したとおり、訂正事項1に係る訂正は特許法120条の5第2項ただし書1号を目的とするものであり、訂正事項2~3に係る訂正はいずれも同項ただし書2号を目的とするものであるから、訂正事項1~3に係る訂正はいずれも同条の規定に適合し、かつ、訂正事項1~3に係る訂正はいずれも同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
よって、本件訂正は適法なものであるから、前記結論のとおり、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~15〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
前記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~15に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本件訂正発明1」などという。またこれらを総称して「本件訂正発明」ということもある。)は、それぞれ、前記第2の3に示した本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項により特定されるとおりのものである。
第4 取消理由の概要
令和6年12月19日に取消理由通知書(決定の予告)において本件特許について通知した取消理由の概要は、次の理由を含むものである。
1 取消理由1(明確性要件違反)
請求項1~15の記載は、発明が不明確であるから、請求項1~15に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法113条4号に該当し、取り消すべきものである。
2 取消理由2(実施可能要件・委任省令要件違反)
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、請求項1~15について、発明が解決しようとする課題の解決手段その他の当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することにより当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、請求項1~15に係る特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法113条4号に該当し、取り消すべきものである。
3 取消理由3(サポート要件違反)
請求項1~15に係る発明は数値限定の技術事項を有するところ、当該数値限定によりどのような技術上の課題を解決するのか明細書の発明の詳細な説明の記載からは認識することができないものであり、請求項1~15に係る発明は課題を解決するものとして明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求項1~15に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法113条4号に該当し、取り消すべきものである。
4 取消理由4(進歩性欠如)
請求項1~15に係る発明は、その優先日(2021年9月17日)前に日本国内又は外国において発行された次の甲1号証又は甲6号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~15に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し、取り消すべきものである。
記
甲1号証:特開2019-2971号公報
甲6号証:特開2008-63470号公報
第5 当合議体の判断
1 取消理由1(明確性要件違反)について
(1) 取消理由1についての判断
ア 請求項1には、「前記複数の球状有機粒子は、単分散であ[る]」と記載されている。
イ ここで、明細書の【0005】、【0006】、【0020】、【0022】等の記載を参酌すると、「前記複数の球状有機粒子は、単分散であ[ること]」は、「アンチグレア特性をグレアなしまで改善し、レンズ効果によるスパーク(Sparkle)を効果的に回避することにより、フリッカー耐性を有する高ヘイズアンチグレアフィルムを提供する」という課題を解決するための重要な構成であると認められる。
ウ 本件特許の出願時の技術常識を考慮すると、「単分散である」とは、粒子の粒子径分布が狭いという意味であることまでは理解できる。
エ しかしながら、どのような粒子径分布であれば「単分散」といえるかという基準は、当業者において確立されておらず、本件特許の明細書(以下「本件明細書」という。)には、単分散の定義について何ら記載されていない。
オ また、「アンチグレア特性をグレアなしまで改善し、レンズ効果によるスパーク(Sparkle)を効果的に回避することにより、フリッカー耐性を有する高ヘイズアンチグレアフィルムを提供する」という課題が想定する改善が従来技術に対してどの程度優れたものであるかについて明確な線引きをすることができるものではないから、本件訂正発明1が解決しようとする課題を参酌したとしても、当該課題に対応する単分散性の程度は曖昧であって、判然としない。
カ(ア) しかも、令和7年4月24日の面接において、特許権者は、請求項1の記載において「単分散であり」という文言を削除する訂正案を示し、当該訂正案は「明瞭でない記載の釈明」に該当する理由として、次のとおり説明している(面接記録参照)。
「請求項1の記載において「単分散」という語は不明瞭であり、限定に役立っていないから、意味の無い記載である。したがって、意味の無いことを明らかにするのであるから、「その本来の意を明らかにすること」という要件を満たす。」
(イ) そして、後記(2)において後述するように、特許権者の「単分散」の基準に関する主張は変遷があり、「単分散」の基準が一貫していない。
(ウ) このような状況に鑑みるに、特許権者の主張の変遷の事実自体が、本件訂正発明1における「単分散」の基準が明確でないことを示しているといえる。
(エ) そして、本件特許の侵害を避けようとする第三者が権利範囲を明確に予測することは困難である。
キ 以上のとおり、特許明細書等の記載を考慮し、当業者の出願当時における技術常識を基礎としてもなお、どのような粒子径分布であれば請求項1における「単分散である」との条件を満たすといえるのかという「単分散」の基準が明確でなく、さらに本件特許異議の申立てにおける特許権者の対応を踏まえれば、その不明確は一層顕著である。したがって、第三者が請求項1に係る特許の権利範囲を予測することは困難であり、請求項1の記載は第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるから、請求項1に係る発明は、発明が明確でなく、請求項1の記載は、特許法36条6項2号の要件を満たしていない。
ク 請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~15の記載も同様に、特許法36条6項2号の要件を満たしていない。
(2) 意見書等における特許権者の主張について
以下、取消理由1に関する特許権者の主張を、取消理由の番号と枝番号を用いて、「主張1-1」、「主張1-2」などと表記して検討する(後記で検討する取消理由2以下についても同様に「主張2-1」、「主張2-2」などと表記して検討する。)。
ア 意見書2における特許権者の主張1-1
(ア) 主張1-1の内容
意見書2と同日に提出する乙6号証(以下、面接の際に提出された乙6号証(以下「旧乙6号証」という。)と明確に区別するために、「新乙6号証」という。)には「現在,液中に分散するナノ粒子において,その一次粒子の粒度分布(PSD: Particle Size Distribution)を評価するために一般的な方法は,動的光散乱法(DLS: Dynamic Light Scattering)である(JIS Z 8828, 2019)」(第2頁)「したがって,DLS を用いて行った単分散粒子の粒度分布計測結果において,キュムラント径は,図14(a)の分布の算術平均とよく一致し,分散性についても,PI が0.1 未満で,粒子が単分散であることが確認できる(JISZ 8828,2018).」(第13頁)との記載があり、当該記載から、当業者であれば、本件特許の明細書に明記がないとしても、粒子の粒度分布の評価にJIS Z 8828で規定される動的光散乱法が用いられ、どのような粒子径分布であれば単分散といえるかを、多分散指数PIにより評価することが一般的な技術常識であると理解できる。そして、意見書2と同日に提出する乙7号証(以下、面接の際に提出された乙7号証(以下「旧乙7号証」という。)と明確に区別するために、「新乙7号証」という。)には、上述した動的光散乱法を用いた粒子径分布の測定方法が記載されており、多分散指数PIが粒子径分布の広がりを示す無次元指標と定義され、単分散で球形の試験試料に対する典型的なPIの値は、0.07より小さいことが注記されている。
したがって、当業者であれば、日本工業規格の規定において、単分散で球形の試験試料に対する典型的なPIの値が0.07より小さいと記載があれば、球形の粒子群が単分散であるかどうかを評価する際に、当該PIの値として示された0.07より小さいかどうかで当該粒子が単分散といえると理解する。また、上記のとおり、当業者であれば、「単分散」という用語が示す粒子径分布は上記のとおりであるから、本件特許の侵害を避けようとする第三者に対して予期しない不利益を及ぼすことはない。
新乙6号証:朱家慶外2名、「ナノ粒子チップを用いた多分散ナノ粒子の粒度分布計測」日本機械学会論文集、2020年10月7日、86巻892号、20-00220
新乙7号証:日本工業規格 JIS Z 8828:2019「粒子径解析-動的光散乱法」
(イ) これまでの特許権者の主張について
なお、特許権者は「単分散」という用語の明確性について、意見書1及び面接時には、前記(ア)と異なる主張をしている。
a 意見書1における主張
「「単分散」という用語は、取消理由通知書における審判合議体の認定のように、当業者には、粒子の粒子径分布が狭い粒子を意味すると理解されているが、例えば、乙1号証、及び乙号証を参照すれば、「単分散」という用語は粒子を含む製品に対して一般に使用されている。そのため、当業者であれば、「単分散」という用語が、厳密な定義が明細書にないとしても、概ね均一な、粒子径分布が狭い粒子を意味することを把握できる。また、乙3号証、乙4号証を参照すれば、「単分散」の粒子が、通常、変動係数にして0.1以下程度のものを指すことは、当業者に知られており、当業者であれば、「単分散」の意味内容を理解できる。」
乙1号証:「架橋アクリル単分散粒子「MX シリーズ」」https://www.sokenchem.com/jp/product/fine_particles/mx/
乙2号証:「架橋アクリル単分散微粒子【SSXシリーズ】」https://www.techp.com/products/ssx/
乙3号証:日本結晶学会34、244(1992)「単分散粒子」https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcrsj1959/34/4/34_4_244/_pdf
乙4号証:「単分散」https://www.sptj.jp/powderpedia/words/11369/
b 面接における特許権者の主張
旧乙6号証は、アメリカ国立標準研究所が発行した規格を示す文献であり、当業者であれば、当該文献が、単分散という用語の標準的な意味内容を示すと理解するものであり、単分散という用語が、ポリスチレン微粒子の粒径分布の少なくとも90%が中央値の5%以内になることを理解できる。
旧乙6号証:NIST Recommended Practice Guide: Particle Size Characterization, National Institute of Standards and Technology,2001,p.149
(ウ) 主張1-1についての検討
a 前記(ア)、(イ)a及び(イ)bで示したとおり、特許権者の「単分散」に関する主張は変遷がみられる。このことは、どのような場合に本件訂正発明1における「単分散である」との条件を満たすといえるのかが明確でないことの証左となるものといえる。すなわち、新乙6号証が「単分散」の明確な定義になっているのか不明である上に、仮にこれが「単分散」の明確な定義の一つであるとしても、本件特許明細書等における「単分散」がどうして新乙6号証のように理解できることとなるのか不明である。
b さらに、意見書1における特許権者の前記主張に関して、当審で職権調査により発見した以下の参考文献1及び2には、次の記載がある。下線は合議体が付したものである。
(a) 参考文献1:特開2016-183267号公報(段落【0030】)
「【0030】
変動係数は、粒度分布を判断する指標であり、粒子径の標準偏差を平均値で除した値の百分率で表される。変動係数が30%以下の粒度分布を有する微粒子分散体を単分散微粒子という。(後略)」
(b) 参考文献2:特開平11-12327号公報(段落【0010】)
「【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記欠点を解決するために、凝集粒子が発生せず、単分散性に優れ、重合ロット違いによる粒子径分布状態のバラツキ幅が少なく、且つ均一な粒径、粒子の変動係数1~30を持ち、且つフィルム成形時の耐熱性があり且つフィルム成形後のスリップ性や耐ブロッキング性の改質効果の重合ロット違いによる変動が少ない樹脂粒子とその製造方法を見いだし、本発明を完成するに至た。」
c 前記参考文献1、2に例示されるように、変動係数1~30%についても単分散としているものがあり、「「単分散」の粒子が、通常、変動係数にして0.1以下程度のものを指す」という特許権者の主張は、同意できないものである。
d さらには、乙4号証には、「対数正規分布では幾何標準偏差が1.1以下、ロジン・ラムラ-分布では均等数が5以上であれば単分散として扱える。」と記載されていることから、「単分散」の粒子を表すための手法として、当業者には、「変動係数」、「幾何標準偏差」及び「均等数」という少なくとも三つの選択肢があり、これら三つの選択肢のどの手法を採用するかについて、当業者において確立しているともいえない。
e 以上より、特許権者の主張1-1を考慮しても、依然として、どのような粒子径分布であれば本件訂正発明1における「単分散である」との条件を満たすといえるのかが明確でない。
イ 意見書2における特許権者の主張1-2
(ア) 主張1-2の内容
本件特許とは別の相当数の特許において、「単分散」という用語を定義なしで用いながら特許となっている出願が存在する。必ずしも範囲が明確に定まらない技術用語であっても、当業者に一般的な意味が知られているものであれば、特許実務上許容されてきた。本件特許に対してのみ「単分散」が不明確であるとことさら厳しく追及することは出願人の間の公平を欠くものである。
(イ) 主張1-2についての検討
一般に、発明の用語の意味は発明の詳細な説明も考慮して個別具体的に検討されるべきものである。したがって、別の相当数の特許がどのような具体的事案であるのか、どのような点で本件訂正発明と類似するのか等、そのような説明が一切ない状況で、機械的に前記主張1-2を採用することはできない。
(3) 取消理由1(明確性要件違反)についてのまとめ
以上のとおり、請求項1~15に係る発明は明確でないから、本件特許の訂正発明1~15に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 取消理由2(実施可能要件・委任省令要件違反)について
(1) 取消理由2についての判断
ア 本件訂正発明1は、次の(ア)から(カ)までの数値限定(以下「凹凸に関する数値限定」という。)を発明の構成としている。
(ア) 前記凸凹表面は、線粗さの算術平均偏差(Ra)が0.2μm~1.0μmであること。
(イ) 平均幅(RSm)が4μm~20μmであること。
(ウ) RaとRSmが2.0<(Ra×100)/RSm<18の関係式を満たすこと。
(エ) 前記複数の不規則な突起の傾斜角(二乗平均平方根勾配、RΔq)は15°~50°であること。
(オ) 高ヘイズアンチグレアフィルムは、65.63%を超える総ヘイズ(Ht)を有すること。
(カ) 内部ヘイズ(Hi)と前記総ヘイズ(Ht)は、0.25<Hi/Ht<0.75の関係式を満たすこと。
イ 本件明細書の段落【0003】及び意見書2における取消理由2についての特許権者の主張を参照すると、本件訂正発明1は、次のことを発明が解決しようとする課題としていると認められる。
アンチグレア特性をグレアなしまで改善し、レンズ効果によるスパーク(Sparkle)を効果的に回避することにより、フリッカー耐性を有する高ヘイズアンチグレアフィルムを提供すること。
ウ 上記課題に関し、本件明細書の段落【0002】~【0004】、【0020】、【0023】を参酌すると、次の(ア)及び(イ)に示すことがわかる。
(ア) 既知の技術においては、グレア現象を解決するために、透明な基板上に粒子分散を使用して、凸凹構造表面を備えたアンチグレアフィルムを形成することを提案していたところ、このような構成では、凸凹構造表面には、一般的に球形粒子によって半球形の突起表面が形成され、この構造において、パネルからのピクセル光源は、レンズ効果によってズームされるので、光のちらつき現象が発生する。
(イ)a 前記(ア)の既知の技術に対して、本件訂正発明においては、アンチグレアコーティング層は、複数の球状有機粒子だけでなく、複数のアモルファスシリカ微粒子を含み、球状有機粒子は単分散であり、平均粒子サイズがアモルファスシリカ微粒子の平均粒子サイズよりも小さい。
b(a)アモルファスシリカ微粒子の不規則なパターンによって、アンチグレアコーティング層の表面に不規則な突起が形成され、レンズ効果を回避することによって表面における光のちらつきの程度を効果的に減らすことができる。
(b) 球状有機粒子の平均粒子サイズがアモルファスシリカ微粒子の平均粒子サイズよりも小さいため、球状有機粒子はアンチグレアコーティング層の表面から突出しにくい。これによって、内部ヘイズを増やして内部散乱を増やすため、内部光源がアンチグレアコーティングの表面を直接に照射しにくくなり、高いアンチグレア特性と低い光フリッカー特性を両立させることができる。
エ(ア) ここで、本件明細書には、凹凸に関する数値限定についての比較例の記載は無く、当該数値限定の境界値の内外でどのような作用効果上の相違があるのかが開示されておらず、凹凸に関する数値限定があることにより作用効果上どのような相違があるのか、本件明細書の開示に基づいては理解することができない。
(イ) そして、凹凸に関する数値限定は、当該数値限定を選択したことによりどのような技術上の作用効果上の相違があるのかが分かるように開示しなければ、選択発明としての技術手段を開示したことにはならないのであるから、当該数値限定の有無によりどのような技術上の作用効果上の相違があるのかは、極めて重要な開示事項であると言わざるを得ない。
オ(ア) 以上に鑑みると、前記イに示した課題は前記ウ(イ)aに示した技術手段で解決できている一方で、他方、凹凸に関する数値限定は、レンズ効果をどのような作用により減少させるのか不明であり、凹凸に関する数値限定があることにより作用効果上どのような相違があるのか不明であるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいては、前記凹凸に関する数値限定にどのような技術上の意義があるのか不明である。
(イ) そうすると、本件明細書は、凹凸に関する数値限定に基づく作用効果を奏する発明として使用することができる程度、すなわち、凹凸に関する数値限定の技術上の意義を有するものとしての発明の実施ができる程度の記載がされているとはいえない。
カ 本件訂正発明1の記載を直接又は間接的に引用する本件訂正発明2から本件訂正発明15も同様である。
キ 以上のとおりであるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正発明1~15について、発明が解決しようとする課題の解決手段その他の当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することにより当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、本件訂正発明1~15に係る特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
ク さらに、前記ア(オ)及び(カ)において示したヘイズに関する技術事項については、次に示す点においても、技術上の意義が不明である。
本件特許と同一の特許権者による特許である特許第7293550号(以下「同日出願の特許」という。)の請求項1~6、10~16に係る発明は、63.69%を超える総ヘイズ(Ht)を有し、「前記内部ヘイズ(Hi)と前記総ヘイズ(Ht)は、0.01<Hi/Ht<0.25の関係式を満たす」という技術事項が記載されている。
同一の特許権者による同日出願の特許においては、課題に関する記載は本件特許と同一であるにもかかわらず、数値限定が相違していることからも、ヘイズに関する技術事項にどのような技術上の意義があるのか不明であり、本件明細書は、ヘイズに関する技術事項に基づく作用効果を奏する発明として使用することができる程度、すなわち、ヘイズに関する技術事項の技術上の意義を有するものとしての発明の実施ができる程度の記載がされているとはいえない。
(2) 特許権者の主張について
ア 意見書2における特許権者の主張2-1(パラメータについて1)
(ア) 主張2-1の内容
a 本件特許明細書等の段落【0020】及び【0023】の記載から、「高いアンチグレア特性と低い光フリッカー特性を両立させる」という発明の課題を解決する手段として、
(i)40%以上の総ヘイズを有する高ヘイズアンチグレアフィルム
(ii)球状有機粒子が単分散であること
(iii)球状有機粒子が平均粒子サイズがアモルファスシリカ微粒子の平均粒子サイズよりも小さいこと
(iv)アモルファスシリカ微粒子が、アンチグレアコーティング層の表面上の凹凸表面の不規則な突起を形成すること
(v)内部ヘイズを増やすこと
が含まれることが把握できる。
そして、段落【0021】には、前記(v)の具体的数値として、高ヘイズアンチグレアフィルムの総ヘイズ(Ht)は40%を超え、高ヘイズアンチグレアフィルムの内部ヘイズ(Hi)と総ヘイズ(Ht)は、0.25<Hi/Ht<0.75の関係式を満たすことが記載されている。また、前記(iv)のアンチグレアコーティング層の表面上の凹凸表面の不規則な突起を表す指標として、段落【0022】には、線粗さの算術平均偏差(Ra)が0.2μm~1.0μmであり、平均幅(RSm)が4μm~20μmであること、RaとRSmは、2.0<(Ra×100)/RSm<18の関係式を満たすこと、不規則な突起の傾斜角(二乗平均平方根勾配、RΔq)は15°~50°であることが記載され、段落【0024】には、凸凹表面が、線粗さの算術平均偏差(Ra)が0.3μm~0.8μmであること、RaとRSmは、好ましくは、2.5<(Ra×100)/RSm<15の関係式を満たすこと、凸凹形状の傾斜角(根の平均二乗勾配、RΔq)は、好ましくは、20°~45°であることも記載されている。
b 特許・実用新案審査基準(第II部第1章第2節「2.委任省令要件についての判断」)には、委任省令要件で記載することが求められる事項として、「a 発明の属する技術分野」及び「b 発明が解決しようとする課題及びその解決手段」が挙げられている。前記aのとおり、本件特許の明細書には、発明の課題が明記され、当該課題を解決する手段が記載されているのであるから、委任省令要件で記載すべき事項は十分に記載がなされている。
c また、同審査基準には「b 上記a以外の場合に、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、請求項に係る発明の属する技術分野の理解又は課題及びその解決手段の理解をすることができない出願については、委任省令要件違反とする。例えば、発明特定事項に数式又は数値を含む場合であって、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、発明の課題とその数式又は数値による特定との実質的な関係を理解することができず、発明の課題の解決手段を理解できない場合には、発明の技術上の意義が不明であり、委任省令要件違反に該当する。」と規定されているものの、課題解決手段と数値範囲との実質的な関係が明細書に記載されているのであるから、当業者であれば、「発明の課題とその数式又は数値による特定との実質的な関係を理解する」ことができる。したがって、本件特許の明細書には、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されている。
d なお、取消理由通知書(決定予告)において、審判合議体は、『(ア)特許権者の主張1について」において、「凹凸に関する数値限定のうち、前記(1)ア(ア)~(エ)までの数値限定について、特許権者は、「アンチグレアコーティング層の表面上の凹凸表面の不規則な突起を表す指標」であると主張しているが、これらの数値は、凹凸の指標にはなり得ても、球状微粒子が形成する凹凸に比較しての「不規則さ」を示すものではないから、特許権者の主張1は、採用できない。』と認定をしている。しかしながら、令和6年7月8日提出の意見書において、特許権者は「アンチグレアコーティング層の表面上の凹凸表面の不規則な突起を表す指標」と述べているのであって、「不規則さ」の程度を表す指標であることは述べていない。
(イ) 主張2-1についての検討
a 発明が解決しようとする課題は、明細書の発明の詳細な説明から機械的に抽出するものではなく、当該発明の構成にも基づいて、客観的に把握すべきものである。
前記(1)において検討したとおり、前記(1)イに示した課題は、前記(1)ウ(イ)aに示した技術手段で解決できているのであって、また、凹凸に関する数値限定は、レンズ効果をどのような作用により減少させるのか不明であり、凹凸に関する数値限定があることにより作用効果上どのような相違があるのか不明であるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいては、前記凹凸に関する数値限定にどのような技術上の意義があるのか、言い換えれば、当該数値限定はどのような課題を解決するための技術手段であるのか不明である。
そうすると、「発明特定事項に数式又は数値を含む場合であって、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、発明の課題とその数式又は数値による特定との実質的な関係を理解することができず、発明の課題の解決手段を理解できない場合には、発明の技術上の意義が不明であり、委任省令要件違反に該当する。」という審査基準には、まさに合致するというべきである。
b 特許権者は、意見書1において「審判合議体が求めるような、数値範囲の内外との作用効果の相違についてまで明細書上での説明が求められるとすると、数値限定を含む発明は、発明の課題を解決するための作用効果が発揮されなくなる臨界点を全て特定しなければならなくなり、出願人に著しい負担となるし、このために必要になる実験等のため相当の時間を消費することを出願人に課するものであり先願制度をも没却することとなり、著しく不当である」などと主張するが、合議体は臨界点を求めているわけではなく、特許権者の主張は議論のすり替えであるから、採用できない。
そもそも、パラメータ発明については、他の条件を同一として当該パラメータだけを変えた場合の効果である「ceteris paribus effect」が分かるように実証するのが、実証科学の基本的な考え方であるのであって、数値限定により進歩性を主張する場合においては、当該数値限定の技術上の意義が分かるように明細書に開示すべきことは当然のことである。必要な数の比較例を開示することを出願人に著しい負担となるなどと主張することは、発明の公開を代償として特許権を付与する特許制度の趣旨に鑑みれば、出願人としての責任を放棄しつつ、特許権は認めるべきであるという都合の良い主張になり、とても採用できるものではない。
以上のとおり、特許権者の主張2-1は、採用できない。
イ 意見書2における特許権者の主張2-2
(ceteris paribus effect」について)
(ア) 主張2-2の内容
大合議判決である知財高判平成17年11月11日(平成17年(行ケ)第10042号)で扱われた特許第3327423号(乙9号証)の請求項1に係る発明は複数のパラメータを用いて発明を特定しているところ、当該特許明細書における実施例及び比較例では全てのパラメータを変えた場合の効果を検証していないから、審判合議体が述べるような、複数のパラメータの全てについて、他の条件を同一として特定のパラメータだけを変える検証を要することが、サポート要件の判断における「基本的な考え方」であるとは考えられない。また、「基本的な考え方」というなら、当然に「特許・実用新案審査基準」等で全ての審査官が遵守すべきよう規定されるべきと思料するが、そのような規定も見いだせない。審判合議体におかれては、仮に決定に至るのであれば、上記の「基本的な考え方」から外れた特許が存在する理由、そのような「基本的な考え方」がいずれの規定又は基準に規定されているのか、及び、そのような「基本的な考え方」を具体的に示す判例等を明示いただきたい。
(イ) 主張2-2についての検討
特許第3327423号の請求項1に係る発明は、前記大合議判決において、当該発明のパラメータによって課題が解決できることを当業者において認識できることを裏付ける記載は当該特許明細書に存在せずサポート要件を満たさないとされたものである。このような特許の請求項1の記載を根拠として、本件訂正発明が記載要件を満たすことを、主張することは相当でない。
取消理由通知書(決定の予告)では「複数のパラメータの全てについて、他の条件を同一として特定のパラメータだけを変える検証を要することが、サポート要件の判断における「基本的な考え方」である」などとは述べておらず、「パラメータ発明については、他の条件を同一として当該パラメータだけを変えた場合の効果である「ceteris paribus effect」が分かるように実証するのが、実証科学の基本的な考え方である」と説示したものであって、このことは、面接時においても指摘したように、小学校において指導されることからも明らかである(一例として、「改訂版 小学校理科ハンドブック」大阪府教育センター(令和2年3月発行)https://www.osaka-c.ed.jp/kate/rika/kyozai/rika_handbook_kaitei.pdf の39頁には「実験では、調べる条件を1つだけを変えて、それ以外の条件は同じにすることが大切。(条件制御)」と記載されている。また、下記に例示する「わくわく理科5」にも、同様のことが記載されている。)。
特許権者の主張2-2は、取消理由通知書(決定の予告)の内容を正解しない主張であるから、前記(1)の結論を左右するものではない。
[参考:石浦章一 外106名「わくわく理科5」、新興出版社啓林館(令和2年2月10日発行)]
12頁「
[図:0001438251000001.jpg]
」
13頁「
[図:0001438251000002.jpg]
」
14頁「
[図:0001438251000003.jpg]
」
194頁「
[図:0001438251000004.jpg]
」
195頁「
[図:0001438251000005.jpg]
」
ウ 意見書2における特許権者の主張3
(出願後に提出された実験成績証明書について)
(ア) 主張2-3の内容
乙8号証は、本件訂正発明で特定した数値範囲外における補足比較例に係る実験結果を示すものであり、補足比較例AからCは、比較例として製造したアンチグレアフィルムに係り、補足比較例D及びEは、比較例として製造した高ヘイズアンチグレア反射防止フィルムに係る。具体的には、比較補足例AからCは、平均幅RSmが本件訂正発明の数値範囲4~20μmの範囲外であり、二乗平均平方根勾配RΔqが、本件訂正発明の数値範囲の15°~50°の範囲外である。また、RaとRSmが、2.0<(Ra×100)/RSm<18の範囲外となる。比較例B及び比較例Cのアンチグレアフィルムを用いてそれぞれ製造された補足比較例D及びEについても、同様である。また、補足比較例AからEの総ヘイズ値は、上記訂正後の本件訂正発明の総ヘイズ(65.63%を超える)の数値範囲外である。
前記補足比較例AからCのアンチグレアフィルム並びに比較例D及びEの高ヘイズアンチグレア反射防止フィルムは、実験成績証明書の表5及び8に示したとおり、フリッカー耐性に劣る。そうすると、本件特許の明細書で示された実施例1から8は、比較例に対しフリッカー耐性に優れることが把握できる。そのため、当業者であれば、本件特許の明細書に示した実施例及び上記実験成績証明書で提示した補足比較例に基づいて、上記数値範囲の技術的意義を把握できる。
(イ) 主張2-3についての検討
a 発明の詳細な説明に、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に、具体例を開示せず、特許出願後に実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって、明細書の記載要件要件に適合させることは、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないというべきである。
b さらにいえば、乙8号証に記載の実験結果は、それぞれの比較例が本件訂正発明1における複数のパラメータ範囲から外れたものとなっており、一体どのパラメータがどのように効いたのか、全く理解できないものとなっている。
したがって、特許権者の主張2-3は採用することができない。
エ 意見書における特許権者の主張2-4(ヘイズについて)
(ア) 主張2-4の内容
審判合議体は、本件特許と同一の特許権者による同日出願の特許第7293550号の請求項1について、課題に関する記載は本件特許と同一であるにもかかわらず数値限定が相違していることからも、ヘイズに関する技術事項にどのような技術上の意義があるのか不明であり、ヘイズに関する技術事項の技術上の意義を有するものとしての発明の実施ができる程度の記載がされているとはいえないと認定しているが、課題に関する記載が同一であっても、当該課題を解決する手段(すなわち、数値範囲)が1つしかないものではないことは、当業者であれば容易に理解できることである。本件特許では、明細書の段落【0020】に「これによっては、内部ヘイズを増やして内部散乱を増やすため、内部光源がアンチグレアコーティングの表面を直接に照射しにくくなり、高いアンチグレア特性と低い光フリッカー特性を両立させることができる。」と記載されているように、比較的内部ヘイズを増やした場合において、高いアンチグレア特性と低い光フリッカー特性を両立させるようにしたものである一方、同日出願の特許第7293550号では、当該特許に係る明細書の段落【0093】に「この凸凹表面は、総ヘイズが高く、内部ヘイズが低く、優れたアンチグレア特性を示し、高いPPIフリッカー耐性の評価に優れていた。」と明記されており、特許第7293550号に係る発明は、本件訂正発明と異なり、内部ヘイズを低くした場合において、アンチグレア特性と低い光フリッカー特性を両立させるようにしたものである。したがって、本件特許と特許第7293550号に係る発明において、課題に関する記載が同一である一方、数値範囲が相違していることの技術的意義は、明細書に明記されている事項から当業者が理解できる。
(イ) 主張2-4についての検討
本件特許及び特許第7293550号のいずれもがアンチグレア特性をグレアなしまで改善し、レンズ効果によるスパーク(Sparkle)を効果的に回避することにより、フリッカー耐性を有する高ヘイズアンチグレアフィルムを提供するという共通した課題を有するものであるところ、前記(ア)における特許権者の主張2-4によれば、本件特許はその課題解決手段として「内部ヘイズを増やすこと」が含まれ、本件訂正発明1は、その具体的数値として「高ヘイズアンチグレアフィルムの内部ヘイズ(Hi)と総ヘイズ(Ht)は、0.25<Hi/Ht<0.75の関係式を満たす」ものである。
しかし、前記主張2-4では、内部ヘイズが低くてもアンチグレア特性と低い光フリッカー特性を両立できることも同時に主張されている。
そうすると、ヘイズに関する技術的事項にどのような技術上の意義があるのか、不明であるといわざるを得ないものであり、特許権者の主張2-4は採用できない。
オ 意見書2における特許権者の主張2-5(実施可能要件について)
(ア) 主張2-5の内容
a 本件特許に係る明細書において、発明を実施する方法は、実施例の説明に係る段落【0058】~【0110】において、アクリルバインダー樹脂の作製、高アンチグレアフィルムの作製、フィルムの評価方法に至るまで手順の説明がなされており、当業者であれば、当該実施例の説明に基づいた手順を実行することで容易に発明を実施できる。そのため、本件特許の明細書は、物の発明を作れて使えるように記載がなされており、「技術上の意義」を理解しないと当該発明を実施できないということはない。
b この点に関して、例えば、知財高判平成29年2月28日(平成28年(行ケ)第10103)(乙10号証)には、「しかし、物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号)、物の発明について実施可能要件を充足するか否かについては、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し,使用することができる程度の記載があるか否かによるというべきであって,所期の作用効果を奏することを裏付ける記載の有無いかんにより実施可能要件の充足性が直ちに左右されるものではない。」と判示されている。この裁判例は、明細書の発明の詳細な説明が、発明を実施可能に記載されているかどうかの判断において、作用効果(要するに、技術上の意義)の記載に左右されないことを示している。
c また、「特許・実用新案審査ハンドブック」の「附属書A「特許・実用新案審査基準」事例集」(乙11号証)に記載された「事例11」には、薬理効果が明細書の実施例等で裏付けられていなくても、(サポート要件違反であるが)実施可能であると判断されたものである。
(イ) 主張2-5についての検討
a 実施可能要件を定める特許法36条4項1号は、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」と規定し、特許法36条4項1号で委任する経済産業省令である特許法施行規則第24条の2(以下「委任省令」という。)は「当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」を明細書の発明の詳細な説明に記載することを要求している。
b 特許制度における委任省令(旧経済産業省令)の重要性については、「平成6年 工業所有権法の解説」特許庁総務部総務課制度改正審議会(発明協会)の第3章IV.1.(1)の以下の記載がよく説明している(下線は合議体による。)。
「この第4項の改正は、発明を開示するという発明の詳細な説明の本来の機能を何ら変更するものではなく、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているということが、「発明を開示し、その代償として一定期間独占権を付与する」という特許制度の目的からみて重要であることに変わりはない。このため、法文上、発明を開示するにあたっての具体的内容として、目的、構成及び効果を規定しないが、発明の詳細な説明は、イ)通商産業省令で定めるところにより、ロ)その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならないこととした。」
c この委任省令まで含めた特許法36条4項1号の規定は、発明の技術上の意義が理解できることを前提として、更に加えて、発明を具現化して実施するのに十分な情報が開示されていることを要求しているものといえ、特許法36条6項1号のサポート要件よりも一段高い水準の技術情報の開示を求めるものとさえいえる。
d 特許権者が提示する乙10号証の裁判例における一般判示の部分は、結論としては実施可能要件を満たす特許発明に対して、特許法36条4項1号の規定のうち委任省令を除いた部分を述べるものと思われる。
e 発明とは、特許法2条の規定からも明らかなように「技術的思想の創作」であるから、「発明が実施できる」というためには、「技術効果を挙げることを目的とする技術」についての思想である発明について、その技術上の意義を有する態様で使用できることを要すると解するのが相当である。
f この解釈が正当であることは、特許権者が言及する前記dの判決がある一方で、委任省令に係る部分も含めた実施可能要件として、前記eの趣旨を説示した裁判例もまた以下に例示するように存在するとおりである。
(a) 知財高判平成24年3月14日(平成23年(行ケ)第10251号)より抜粋
「ところで、法36条4項において、明細書の発明の詳細な説明について、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しなければならないと規定した趣旨は、発明の詳細な説明に基づいて当業者が実施できない発明に対して独占的な権利を付与することは、発明を公開したことの代償として独占権を付与するという特許制度の趣旨に反する結果を生ずるためであるところ、本願明細書の発明の詳細な説明には、当業者が本願発明の技術上の意義を理解するために必要な事項の記載がない以上、当業者は、出願時の技術水準に照らしても、硬化層のかしめ側端部の位置を本件関係式に基づいて規定することにより内輪と中空軸との間に普遍的に隙間が発生しないという技術上の意義を有するものとしての本願発明を実施することができないのであるから、その記載は、発明の詳細な説明に基づいて当業者が当該発明を実施できることを求めるという法36条4項の上記趣旨に適合しないものである。
したがって、このような本願明細書の発明の詳細な説明の記載について、通常の知識を有する者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないとして、法36条4項の要件を満たさないと判断した本件審決に誤りがあるということはできない。」
(b) 知財高判平成22年11月24日(平成22年(行ケ)第10090号)より抜粋
「…本願発明は、物の発明から方法の発明へと補正されているが、その前後を通じて、本願発明に係る製法で製造される遠赤外線セラミックスが発明の詳細な説明に記載がある作用効果を発揮するものであることが前提となっていた発明であって、本願明細書によると、本願発明がそのような作用効果を発揮し得ない、単なる遠赤外線セラミックスの製法の発明であったと認めることはできないし、そのような単なる遠赤外線セラミックスそれ自体の発明であったとすれば、その新規性ないし進歩性はともかく、原告において特許出願に至らなかったことは、本件出願から本件訴訟に至る経緯からしても明らかであって、本願発明はそのような作用効果を発揮する遠赤外線セラミックスの製法の発明であったといわざるを得ない。
…(中略)…
したがって、請求項3発明に係る物の発明についてとは別に、方法の発明としての本願発明についても、本願発明によって製造される遠赤外線セラミックスが当初明細書ないし本願明細書に記載された作用効果を発揮し得る遠赤外線セラミックスを製造し得る方法としても、その実施可能要件を満たす必要がある。
…(中略)…
以上の本件実験データ等からみても、本願発明が、当初明細書ないし本願明細書に記載された作用効果を発揮する遠赤外線セラミックスを製造する方法の発明として、その実施可能要件を満たしているということはできない。」
g 以上のとおりであるから、特許権者の主張2-5は、前記(1)の結論を左右するものではない。
(3) 取消理由2(実施可能要件・委任省令要件違反)についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、請求項1~15について、発明が解決しようとする課題の解決手段その他の当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することにより当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、請求項1~15に係る特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 取消理由3(サポート要件違反)について
(1) 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決することができると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決することができると認識することができる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)ア 本件明細書には、次の(ア)及び(イ)の記載がある。下線は合議体が付したものであり、以下同様である。
(ア) 「したがって、本発明は、フリッカー耐性を有する高ヘイズアンチグレアフィルムを提供する。これは、アンチグレア特性をグレアなしまで改善し、レンズ効果によるスパーク(Sparkle)を効果的に回避することができ、特に、スパークを減らす必要のある高いピクセル密度(たとえば、100 PPIを超える)のディスプレイに適用できる。」(【0003】)
(イ) 「本発明の一形態は、高いアンチグレア特性および高いピクセル密度(例えば、100PPIを超える)のディスプレイ上での光フリッカー耐性を備えた高ヘイズアンチグレアフィルムを提供する。」(【0004】)
イ 前記アより、本件明細書には、本件訂正発明が「アンチグレア特性をグレアなしまで改善し、レンズ効果によるスパーク(Sparkle)を効果的に回避することにより、フリッカー耐性を有する高ヘイズアンチグレアフィルムを提供する」ことを課題としていることが記載されているといえる。
ウ また、本件明細書には、次の(ア)及び(イ)の記載がある。
(ア) 「本発明は、透明基板および透明基板上に形成されたアンチグレアコーティング層を含む、40%以上の総ヘイズを有する高ヘイズアンチグレアフィルムを提供する。このアンチグレアコーティング層は、アクリルバインダー樹脂、複数のアモルファスシリカ微粒子および複数の球状有機粒子を含む。球状有機粒子は単分散であり、平均粒子サイズがアモルファスシリカ微粒子の平均粒子サイズよりも小さい。本発明に係る高ヘイズアンチグレアフィルムのアンチグレアコーティング層において、アモルファスシリカ微粒子は、アンチグレアコーティング層の表面上に凸凹表面を形成する。アモルファスシリカ微粒子の不規則なパターンによっては、アンチグレアコーティング層の表面に不規則な突起を形成し、レンズ効果によって表面への光のちらつきの程度を減らすことを効果的に回避することができる。また、球状有機粒子の平均粒子サイズがアモルファスシリカ微粒子の平均粒子サイズよりも小さいため、球状有機粒子はアンチグレアコーティング層の表面から突出しにくい。これによっては、内部ヘイズを増やして内部散乱を増やすため、内部光源がアンチグレアコーティングの表面を直接に照射しにくくとなり、高いアンチグレア特性と低い光フリッカー特性を両立させることができる。」(【0020】)
(イ) 「本発明に係る高ヘイズアンチグレアフィルムのアンチグレアコーティング層に適用するアモルファスシリカ微粒子および平均粒子サイズがこのアモルファスシリカ微粒子よりも小さい球状有機微粒子は、球状有機微粒子の粒子サイズがアモルファスシリカ微粒子の平均粒子サイズよりも小さいため、防眩層の表面から突出しにくい。したがって、このアンチグレアコーティング層の表面に形成された凸凹表面の表面粗さは、輪郭単位の平均幅が小さく、粗さ曲線の傾斜角が大きく、表面に不規則な突起のパターンを呈する。これにより、粗い表面のレンズ効果を効果的に回避して、アンチグレアフィルムのフリッカー耐性に寄与することができる。」(【0023】)
エ 前記ウにおいて示した記載を総合すると、本件明細書には、次の(ア)及び(イ)に示す技術事項それぞれについての技術的意義は記載されていると認められる。
(ア) 「高ヘイズアンチグレアフィルムのアンチグレアコーティング層において、アモルファスシリカ微粒子は、アンチグレアコーティング層の表面上に不規則な凸凹表面を形成する」こと。
(イ) 「球状有機粒子の平均粒子サイズがアモルファスシリカ微粒子の平均粒子サイズよりも小さい」こと。
オ しかしながら、前記2(1)アに示した凹凸に関する数値限定について、どのような技術的意義があり、いかなる作用効果があり、どのような課題が解決されることになるのかといった点は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載がなく、凹凸に関する数値限定に対応する課題として、本件訂正発明が解決しようとした課題をうかがわせるような記載もない。
(3) そうすると、前記(2)イにおいて示した「アンチグレア特性をグレアなしまで改善し、レンズ効果によるスパーク(Sparkle)を効果的に回避することにより、フリッカー耐性を有する高ヘイズアンチグレアフィルムを提供する」という課題は、本件訂正発明の課題の記載としては不十分であり、本件明細書には本件訂正発明の課題が記載されていないというほかない。
そうである以上、当業者が、本件明細書の記載により本件訂正発明の課題を解決することができると認識することができるということもできない(知財高判令和5年10月5日(令和4年(ネ)第10094号)参照)。
したがって、当業者は、本件明細書の記載により本件訂正発明の課題を解決することができると認識することはなく、本件訂正発明に係る請求項1~15の記載が、サポート要件に適合するということはできない。
(4) なお、特許権者は意見書2において、本件特許の発明の詳細な説明には数値限定と発明の課題を解決する手段との関係が記載されており、また、本件特許明細書等に記載された実施例及び本意見書に添付した新乙8号証の実験成績証明書における補足比較例を参照すれば、上記の数値範囲の意義を理解できる旨主張している(以下「主張3」という。)。
しかし、数値限定によって作用効果上どのような技術上の意義があるのか不明であることは、前記2(1)で検討したとおりである。また、乙8号証の実験成績証明書については、前記2(2)ウ(イ)でも検討したように、発明の詳細な説明に、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に、具体例を開示せず、特許出願後に実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって、明細書の記載要件要件に適合させることは、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないというべきである。
したがって、特許権者の主張3は採用することができない。
4 取消理由4(進歩性欠如)について
(1) 先行技術文献
ア 特許異議申立人が提出した証拠
特許異議申立人は、以下の文書を証拠方法として提出した。
甲1号証:特開2019-2971号公報
甲2号証:「溶融石英とは?」、ZHENGZHOU ENSOLL TOOLS TECHNOLOGY CO.,LTDのホームページにおける令和2年12月6日付けのニュースページの写し、砂川幸子、令和5年12月9日、インターネット<URL:https://www.toolsresearch.com/ja/what-is-fused-quartz/>
甲3号証:「表面粗さ・輪郭形状・表面性状測定機 CNC形状測定機シリーズ サーフテスト エクストリーム フォームトレーサ エクストリーム」、株式会社ミツトヨ、平成29年8月
甲4号証:特開2010-150139号公報
甲5号証:特開2015-184638号公報
甲6号証:特開2008-63470号公報
甲7号証:特開2021-54047号公報
甲8号証:特開2015-172642号公報
甲9号証:特開2017-82199号公報
甲10号証:特開2006-154791号公報
イ 当審における職権調査により発見した文献
当審において、以下の引用文献1を職権調査により発見した。
引用文献1:米国特許出願公開第2021/0263193号明細書
(2) 取消理由4-1(甲1号証に記載された発明を主引用発明とするもの)
ア 甲1号証に記載された事項及び甲1発明の認定
(ア) 甲1号証に記載された事項
甲1号証には、次の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。
a 【0001】~【0006】
「【技術分野】
【0001】
本発明は、防眩性ハードコートフィルム及び防眩性ハードコートフィルムの製造方法に関する。
特に、白茶け性等を有効に防止できる防眩性ハードコートフィルム及びそのような防眩性ハードコートフィルムの効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タブレット型端末やカーナビゲーションなどのディスプレイにおいては、画面表示面において、外光反射して、表示画像が視認しにくくなるという問題が見られた。
一方、これらディスプレイを黒表示させた場合に、画面表示面が白茶けて見える現象(以下、白茶け性)が見られており、近年のディスプレイの大型化に伴い、かかる問題を解決することの重要性が増している。
【0003】
そこで、かかる外光反射の問題を解決する手段として、防眩性ハードコート層を有する防眩性ハードコート材を用いる技術が提案されている。
すなわち、かかる防眩性ハードコート層において、ハードコート層を形成する際に、物理的手法によりハードコート層の表面を粗面化する方法、ハードコート層形成用のハードコート剤にフィラーを混入する方法、ハードコート層形成用のハードコート剤に非相溶な2成分を混入し、それらの相分離を利用する方法等がある。
これらの対策は、いずれもハードコート層の表面、すなわち、ハードコート層のプラスチック基材とは反対側の面をハードコート層の表面(以下、同様である。)とし、その表面に対して、微細な凹凸を形成することにより、外光の正反射を抑え、蛍光灯などの外光の写り込みを防止するものである。
【0004】
例えば、透明基材フィルムに、大径微粒子と、該大径微粒子よりも比重が大きく、かつ、粒子径の小さい小径微粒子と、を含む、所定厚さの防眩層であって、大径微粒子の体積割合が0.5%以上40%以下であり、小径微粒子の体積割合が15%以上65%以下である防眩層が積層されてなる防眩性フィルムが提案されている(特許文献1参照)
ここで、大径微粒子としては、平均粒径が0.1~5μmのアクリル樹脂等の樹脂粒子が開示されており、小径微粒子としては、平均粒径が0.01~0.1μmの酸化ジルコニウムやシリカ等の無機粒子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】 特開2016-133722号公報 (特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されている防眩性フィルムは、複数種のフィラーを使用して、画面におけるギラギラ感(以下、単に、「ギラツキ」と称する場合がある)を抑制しつつ、画像視認性を確保できる防眩性フィルムが開示されているものの、白茶け性を抑制することについては、何ら意図していなかった。
そればかりか、大径微粒子が有機微粒子であって、かつ、その平均粒径が比較的大きいことに起因して、防眩層の厚さが薄い防眩性フィルムを得ることができなかったり、防眩層の厚さが厚い場合に、防眩性フィルムがカールしてしまう問題が見られた。
その上、有機微粒子がハードコート層の表面から脱落しやすく、十分な耐擦傷性が得られなくなり、ひいては、経時によって、防眩性がさらに低下しやすくなるという問題が見られた。」
b 【0017】~【0018】、【0035】、【図1】
「【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、プラスチック基材の表面に防眩性ハードコート層を備えた防眩性ハードコートフィルムであって、防眩性ハードコート層が、
(A)成分としての活性エネルギー線硬化性樹脂100質量部に対して、
(B1)成分としてのシリカ粒子を5~25質量部と、
(B2)成分としての高屈折率粒子を3~30質量部と、
(B3)成分としての樹脂粒子を4~25質量部と、
を含む防眩性ハードコート層形成材料に由来した、厚さ8μm以下の防眩性ハードコート層であり、かつ、当該防眩性ハードコート層の、プラスチック基材とは反対側の表面から、シリカ粒子が突出していることを特徴とする防眩性ハードコートフィルムである。
以下、本発明の第1の実施形態を、図面を適宜参照して、具体的に説明する。例えば、図1(a)は、第1の実施形態の防眩性ハードコートフィルム10の断面を説明するために供する図であって、図1(b)は、従来の防眩性ハードコートフィルム10´の断面を説明するために供する図である。」
「【図1】
[図:0001438251000006.jpg]
」
「【0018】
1.防眩性ハードコート層
(1)防眩性ハードコート層形成材料
図1(a)に示すように、本発明の防眩性ハードコートフィルム10は、プラスチック基材12の上に、所定複数粒子14(14a、14b、14c)を含んでなる防眩性ハードコート層(フィルム状硬化物と称する場合がある。)16を含んでいる。
すなわち、図1(a)にその断面を示すように、防眩性ハードコート層16は、典型的には、(A)成分としての活性エネルギー線硬化性樹脂15と、(B1)成分としてのシリカ粒子14aと、(B2)成分としての高屈折率粒子14bと、(B3)成分としての樹脂粒子14cと、(C)成分としての光重合開始剤と、を含む防眩性ハードコート層形成材料のフィルム状硬化物から構成されている。」
「【0035】
(平均粒径)
(B3)成分としての樹脂粒子の平均粒径(体積平均粒径)を0.5~2μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、樹脂粒子の平均粒径が、かかる範囲内の値となると、主として、内部ヘイズの調整が容易になって、優れた防眩性や画像視認性を維持しつつ、ギラツキの発生についても効果的に抑制することができるためである。
樹脂粒子の平均粒径が0.5μm未満の値となると、ギラツキの発生を抑制することが困難になる場合がある。
一方、樹脂粒子の平均粒径が2μmを超えると、特に高精細ディスプレイに適用した場合に、画像視認性を確保することが困難になる場合がある。
したがって、樹脂粒子の平均粒径を0.8~1.8μmの範囲内の値とすることがより好ましく、1.0~1.6μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、樹脂粒子の平均粒径は、例えば、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて、図2(c)に示すような、体積基準の粒度分布チャートを得て、それからメジアン径としてのD50として、算出することができる。」
c 【0053】~【0058】、【0072】、【0086】
「【実施例】
【0053】
以下、実施例を参照して、本発明の防眩性ハードコートフィルムをさらに詳細に説明する。
【0054】
[実施例1]
1.防眩性ハードコートフィルムの製造
(1)防眩性ハードコート層形成材料の準備工程
(A)成分としての紫外線硬化性樹脂(多官応アクリレート系モノマー50質量部及びウレタンアクリレートオリゴマー50質量部の混合物)100質量部に対して、(B1)成分としての粉砕シリカ粒子(平均粒径:3.2μm、屈折率:1.5)を7質量部と、(B2)成分としての反応性酸化ジルコニウム粒子(ソーラー(株)製、ZR-020、平均粒径:50nm、屈折率:2.1)を10質量部と、(B3)成分としてのアクリル樹脂粒子(積水化成品工業(株)製、XX-27LA、平均粒径:1.5μm、屈折率:1.5)を15質量部と、(C)成分である光重合開始剤(BASF社製、OMNIRAD184)を2質量部と、を混合するとともに、プロピレングリコールモノメチルエーテルにて希釈し、固形分30重量%の防眩性ハードコート層形成材料を製造した。
なお、表1における、(B1)~(B3)成分の質量部は、(A)成分100質量部に対する配合割合である。
【0055】
(2)塗工工程
次いで、得られた防眩性ハードコート層形成材料を、プラスチック基材としての易接着層付きトリアセチルセルロースフィルム(TACBRIGHT社製、TECPHANP980RO、膜厚:80μm)の易接着剤層に、ワイヤーバー#14を用いて、硬化後の膜厚が3.5μmとなるように塗工し、所定塗膜を形成した。
【0056】
(3)乾燥工程
次いで、得られた塗膜を、熱風乾燥装置を用いて、70℃、1分間の条件で乾燥させた。
【0057】
(4)硬化工程
次いで、乾燥させた塗膜に対して、紫外線照射装置(ジーエスユアサコーポレーション(株)製、光源:高圧水銀灯)を用いて、下記条件にて紫外線を照射し、塗膜を硬化させて、フィルム状硬化物としての防眩性ハードコート層を形成し、最終的な防眩性ハードコートフィルムを得た。
照度:100mW/cm2
光量:240mJ/cm2」
【0058】
2.防眩性ハードコートフィルムの評価
(1)評価1(表面粗さ)
JIS B 0601(2001)に準拠して、表面粗さ計(Mitutoyo製、SV-3000)を用いて、得られた防眩性ハードコートフィルムの表面粗さ(Ra及びRt)を測定した。」
「【0072】
[比較例3]
比較例3では、(B1)成分を10質量部に増加させ、(B2)成分を20質量部に増加させるとともに、(B3)成分についても30質量部に大幅に増加させたほかは、実施例1と同様に防眩性ハードコートフィルムを製造し、評価した。」
「【0086】
【表1】
[図:0001438251000007.jpg]
」
(イ) 甲1発明の認定
前記(ア)において摘記した記載を踏まえると、甲1号証には、比較例3として次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「プラスチック基材の表面に防眩性ハードコート層を備えた防眩性ハードコートフィルムであって、
前記防眩性ハードコート層が、
(A)成分としての活性エネルギー線硬化性樹脂100質量部に対して、
(B1)成分としてのシリカ粒子(粒径3.2μm)を10質量部と、
(B2)成分としての高屈折率粒子(粒径50nm)を20質量部と、
(B3)成分としての樹脂粒子(粒径1.5μm)を30質量部と、
を含む防眩性ハードコート層形成材料に由来した、厚さ3.5μmの防眩性ハードコート層であり、(【0086】の【表1】の比較例3)
次の工程A~Dによって製造され、(【0054】~【0057】、【0072】)
(B3)成分としての樹脂粒子の平均粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて体積基準の粒度分布チャートを得て、それからメジアン径としてのD50として、算出されるものであり、(【0035】)
防眩性ハードコートフィルムの表面粗さ(Ra)が0.23であり、(【0086】の【表1】の比較例3の評価1のRa)
表面粗さ(Ra)は、JIS B 0601(2001)に準拠して、表面粗さ計(Mitutoyo製、SV-3000)を用いて測定されたものであり、(【0058】)
外部Hz(外部ヘイズ)が15%、内部Hz(内部ヘイズ)が40%、全体Hz(全体ヘイズ)が55%である、(【0086】の【表1】の比較例3の評価2)防眩性ハードコートフィルム。
工程A(防眩性ハードコート層形成材料の準備工程)
(A)成分としての紫外線硬化性樹脂(多官応アクリレート系モノマー50質量部及びウレタンアクリレートオリゴマー50質量部の混合物)100質量部に対して、(B1)成分としての粉砕シリカ粒子(平均粒径:3.2μm、屈折率:1.5)を10質量部と、(B2)成分としての反応性酸化ジルコニウム粒子(ソーラー(株)製、ZR-020、平均粒径:50nm、屈折率:2.1)を20質量部と、(B3)成分としてのアクリル樹脂粒子(積水化成品工業(株)製、XX-27LA、平均粒径:1.5μm、屈折率:1.5)を30質量部と、(C)成分である光重合開始剤(BASF社製、OMNIRAD184)を2質量部と、を混合するとともに、プロピレングリコールモノメチルエーテルにて希釈し、固形分30重量%の防眩性ハードコート層形成材料を製造した。
工程B(塗工工程)
次いで、得られた防眩性ハードコート層形成材料を、プラスチック基材としての易接着層付きトリアセチルセルロースフィルム(TACBRIGHT社製、TECPHANP980RO、膜厚:80μm)の易接着剤層に、ワイヤーバー#14を用いて、硬化後の膜厚が3.5μmとなるように塗工し、所定塗膜を形成した。
工程C(乾燥工程)
次いで、得られた塗膜を、熱風乾燥装置を用いて、70℃、1分間の条件で乾燥させた。
工程D(硬化工程)
次いで、乾燥させた塗膜に対して、紫外線照射装置(ジーエスユアサコーポレーション(株)製、光源:高圧水銀灯)を用いて、下記条件にて紫外線を照射し、塗膜を硬化させて、フィルム状硬化物としての防眩性ハードコート層を形成し、最終的な防眩性ハードコートフィルムを得た。」
イ 本件訂正発明1について
(ア) 対比
本件訂正発明1と甲1発明を比較する。
a 次の甲1発明の欄に記載した甲1発明の各構成は、それぞれ、対応する本件訂正発明1の欄に記載した本件訂正発明1の構成に相当する。
<甲1発明> <本件訂正発明1>
防眩性ハードコートフィルム 高ヘイズアンチグレアフィルム
易接着層付きトリアセチルセルロース 透明基板
フィルム
防眩性ハードコート層 アンチグレアコーティング層
(A)成分としての紫外線硬化性樹脂 アクリルバインダー樹脂
(B3)成分としてのアクリル樹脂粒子 複数の球状有機粒子
b 甲1号証の段落【0024】には、(B1)成分としての粉砕シリカ粒子に関して、次の記載がある。
「粉砕シリカ粒子とは、溶融シリカや結晶シリカ等の球状シリカを、所定手段で粉砕してなるシリカ粒子であ[る]」
ここで、甲2号証に記載されているとおり、「溶融石英(溶融シリカ)がアモルファスシリカであること」は技術常識であることを踏まえると、甲1発明における「(B1)成分としての粉砕シリカ粒子」は、本件訂正発明1における「アモルファスシリカ微粒子」に相当するといえる。
c 甲1発明における「(B1)成分としての粉砕シリカ粒子」と「(B3)成分としてのアクリル樹脂粒子」の平均粒径はそれぞれ「3.2μm」と「1.5μm」であるから、後者の平均粒子サイズは、前者の平均粒子サイズよりも小さい。
d(a) 甲1号証の段落【0024】には、次の記載がある。下線は合議体が付したものであり、以下同様である。
「ここで、(B1)成分としてのシリカ粒子の種類としては、例えば、球状シリカ、不定形の粉砕シリカ等の一種単独、又は二種以上の組み合わせが挙げられる。
そして、かかるシリカ粒子としては、粉砕シリカ粒子であることがより好ましい。
この理由は、粉砕シリカ粒子であれば、球状シリカ粒子と比べて、粒径分布が広くなる傾向があって、粉砕シリカ粒子のほうが、球状シリカ粒子よりも、平均粒径よりも大きい粒子及び小さい粒子の存在比率が、それぞれ高くなるためである。
平均粒径よりも大きい粒子の存在比率が多くなると、防眩性ハードコート層の表面から、粒子の一部が安定的に突出しやすくなって、白茶け性を有効に防止するとともに、優れた防眩性を発現することができる。」
(b) ここで、甲1号証の段落【0086】の【表1】の比較例3においては、評価3の白茶けについては「△」(白茶け性が少々観察され、それに伴う視認性低下が少々観察された。)であり、評価4の防眩性については「○」(視認される蛍光灯の輪郭がぼやけた。)であることを踏まえると、比較例3としての甲1発明においても、防眩性ハードコート層の表面から、粒子の一部が突出していると認められる。
(c) そして、防眩性ハードコート層の表面から、粒子の一部が突出しているということは、防眩性ハードコート層の表面上に、複数の不規則な突起を有する凸凹表面が形成されていることに相当する。
(d) したがって、甲1発明における「粉砕シリカ粒子」は、「防眩性ハードコート層」の表面上に、複数の不規則な突起を有する凸凹表面を形成していると認められる。
e(a) 甲1発明は、JIS B 0601(2001)に準拠して、表面粗さ計(Mitutoyo製、SV-3000)を用いて測定された表面粗さ(Ra)が0.23である。
(b) ここで、0.23の単位について検討する。
i 甲3号証の第8ページには、次の事項が記載されている。
「Mitutoyo製のCNC表面粗さ測定機Surface Extreme SV-3000CNCX1軸の分解能が0.05μmであり、Y軸テーブル部の分解能が0.05μmであり、Z2軸(コラム)の分解能が0.05μmであること。」
ii 前記iから、表面粗さ計(Mitutoyo製、SV-3000)を用いて測定された表面粗さが、装置の分解能である0.05μmよりも大きいことは明らかである。
iii 前記dにおいて示したとおり、甲1発明における「粉砕シリカ粒子」は、「防眩性ハードコート層」の表面上に、複数の不規則な突起を有する凸凹表面を形成しているものであって、その「粉砕シリカ粒子」の平均粒径は3.2μmであることから、甲1発明の表面粗さは、当該平均粒径程度かそれよりも小さい値であると考えるのが自然である。
iv したがって、甲1発明の表面粗さ(Ra)0.23の単位はμmであると認められる。
v なお、特許権者は、令和6年7月8日に提出した意見書において、「甲第1号証には、表面粗さ(Ra)の単位が「nm」であることが明記されており、審判合議体が認定した甲1発明における「防眩性ハードコートフィルムの表面粗さ(Ra)が0.23であり」という事項は、「防眩性ハードコートフィルムの表面粗さ(Ra)が0.23nmであり」と認定すべきところの誤りである」、「甲第1号証において明記された表面粗さRaの単位nmを誤記と疑い得る根拠も存在しない」などと主張しているが、仮に甲1号証のRaの単位が「nm」であった場合に、0.23nmとは、原子の直径サイズとなってしまうほどに小さく、可視光の波長400nm~780nmとはオーダーが3桁も小さくなってしまうから(屈折率を考慮してもかかる事情は変わらない。)、防眩性という技術効果の観点からこのような解釈が不合理であることは技術常識である。
また、甲15号証(株式会社ティ・ディ・シーのカタログ「ワンランク上の研磨技術 超精密鏡面加工」)には、Ra1.5nmは「超精密鏡面ロール」であることが示されていることからも理解できるように、甲1におけるRaの単位がnmであったなら、可視光に対しては凹凸面ではなく極めて平滑な面になってしまうから、不合理である。
以上を踏まえると、Raの単位がnmであるという特許権者の主張は、技術常識に反するものであって採用することができない。
当合議体は、特許権者がこのような技術常識に反する主張を堂々と展開していることから、特許権者の主張は、およそ信じることができない。
f 甲1発明である「防眩性ハードコートフィルム」は、外部Hz(外部ヘイズ)が15%、内部Hz(内部ヘイズ)が40%、全体Hz(全体ヘイズ)が55%であるから、内部Hz/全体Hz=40%/55%≒0.72であって、「40%を超える総ヘイズ(Ht)を有し、」「前記総ヘイズ(Ht)は、前記高ヘイズアンチグレアフィルムの表面ヘイズ(Hs)と前記高ヘイズアンチグレアフィルムの内部ヘイズ(Hi)との合計であり、」「前記内部ヘイズ(Hi)と前記総ヘイズ(Ht)は、0.25<Hi/Ht<0.75の関係式を満たす」ものである。
g したがって、本件訂正発明1と甲1発明の一致点及び相違点は、それぞれ次の(a)及び(b)に示すとおりである。
(a) 一致点
「高ヘイズアンチグレアフィルムであって、
透明基板と、
前記透明基板上に形成されたアンチグレアコーティング層と、を含み、
前記アンチグレアコーティング層は、アクリルバインダー樹脂、複数のアモルファスシリカ微粒子、および複数の球状有機粒子を含み、
前記複数の球状有機粒子は、平均粒子サイズが前記複数のアモルファスシリカ微粒子の平均粒子サイズよりも小さく、
前記アンチグレアコーティング層のアモルファスシリカ微粒子は、前記アンチグレアコーティング層の表面上に、複数の不規則な突起を有する凸凹表面を形成し、
前記高ヘイズアンチグレアフィルムは、
前記総ヘイズ(Ht)は、前記高ヘイズアンチグレアフィルムの表面ヘイズ(Hs)と前記高ヘイズアンチグレアフィルムの内部ヘイズ(Hi)との合計であり、
前記内部ヘイズ(Hi)と前記総ヘイズ(Ht)は、0.25<Hi/Ht<0.75の関係式を満たす、
高ヘイズアンチグレアフィルム」
(b) 相違点
<相違点1-1>
本件訂正発明1においては、「前記複数の球状有機粒子は、単分散であ[る]」のに対し、
甲1発明においては、「アクリル樹脂粒子」(「複数の球状有機粒子」に相当する。)が、単分散であるか否か不明である点。
<相違点1-2>
本件訂正発明1においては、
「前記凸凹表面の線粗さは、算術平均偏差(Ra)が0.2μm~1.0μmであり、平均幅(RSm)が4μm~20μmであり、
RaとRSmが2.0<(Ra×100)/RSm<18の関係式を満たし、前記複数の不規則な突起の傾斜角(二乗平均平方根勾配、RΔq)は15°~50°であ[る]」のに対し、
甲1発明においては、
「凹凸表面」の表面粗さ(Ra)が0.23μmであるものの、平均幅(RSm)の値は不明であり、RaとRSmが2.0<(Ra×100)/RSm<18の関係式を満たすか否か不明であり、複数の不規則な突起の傾斜角(二乗平均平方根勾配、RΔq)の値も不明である点。
<相違点1-3>
総ヘイズについて、
本件訂正発明1においては「65.63%を超える」のに対し、
甲1発明においては「55%」である点。
(イ) 判断
a 相違点1-1について
(a)i 本件特許の出願時の技術常識を考慮すると、「複数の球状有機粒子は、単分散である」とは、「複数の球状有機粒子の粒子径分布が狭い」という程度の意味であることまでは理解できるが、どのような粒子径分布であれば単分散といえるかという基準は当業者において確立されておらず、また、本件明細書には、単分散の定義について何ら説明されていない。
ii ここで、甲1号証においては、樹脂粒子の粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて、図2(c)に示すような体積基準の粒度分布チャートである旨開示され(【0035】)、シリカ粒子の粒度分布チャートは、図2(a)又は図2(b)である旨開示されており(【0027】)、樹脂粒子の粒度分布の方がシリカ粒子の粒度分布に比較して単分散性が高いことは明らかである。
「
[図:0001438251000008.jpg]
」
そして、甲1発明は、防眩性ハードコート層に「アクリル樹脂粒子(積水化成品工業(株)製、XX-27LA)(「複数の球状有機粒子」に相当する。)を含むものであるところ、甲5号証の段落【0090】には、架橋アクリル重合体樹脂微粒子(積水化成品工業(株)製、テクポリマーXX-27LA)のCv値が23%であることが記載されているから、甲1発明における「アクリル樹脂粒子」のCv値も23%であるといえ、相当程度の単分散性があると評価できる。
iii 前記iiを踏まえると甲1発明のものも「アクリル樹脂粒子」の粒度の均一性は高いといえるところ、前記iのとおり、本件訂正発明1における「前記複数の球状有機粒子は、単分散であ[る]」との記載における「単分散であること」は、その概念の外延が不明であるから、前記相違点1-1は、甲1発明と区別が付けられる程度の実質的な相違点とはいえない。
(b) また、甲1発明において、粒度の均一性をどの程度とするかは、設計上の事項にすぎない。
そして、「前記複数の球状有機粒子は、単分散であ[る]」と限定したことの技術上の意義は不明である。
してみれば、前記相違点1-1は実質的な相違点とはいえない。
(c) さらにまた、次のi~iiiに示す理由により、甲1発明における「アクリル樹脂粒子」においてCv値が0.1程度の小さい値のものを用いるようにすることは当業者が容易になし得たことであるから、前記相違点1-1は当業者が容易に想到し得たものである。
i 甲5号証の段落【0033】には、ハードコートフィルムのハードコート層が含む樹脂微粒子について、次の記載がある。
「また、樹脂微粒子のCv値を50%以下の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるCv値が50%を超えた値となると、体積平均粒子径よりも大きいまたは小さい粒径の粒子の存在量が増加し、大きい粒子の存在量が増加した場合にはギラツキの発生を抑制することが困難になり、小さい粒径の存在量が増加した場合には凝集によりギラツキが発生しやすくなったり、凝集を抑制したとしても内部ヘイズ値の低下により導電性パターン層のパターンを安定的に不可視化することが困難になったりする場合があるためである。
したがって、樹脂微粒子のCv値を40%以下の値とすることがより好ましく、30%以下の値とすることがさらに好ましい。」
ii 前記iにおいて摘記した事項を踏まえると、甲5号証には、ハードコートフィルムのハードコート層が含む樹脂微粒子について、樹脂微粒子の粒子径分布が相対的に狭いことが好ましいことが記載されており、樹脂微粒子のCv値が小さければ小さいほど好ましいことが読み取れる。
iii そうすると、前記iに摘記した甲5号証の記載に基づいて、「アクリル樹脂粒子」として、Cv値が0.1程度の小さい値のものを用いるようにすることは、当業者が適宜選択できる設計事項にすぎない。
(d) 以上(a)から(c)に検討したとおりであるから、相違点1-1は、実質的な相違点でなく、少なくとも、当業者が適宜選択できる設計事項にすぎない。
b 相違点1-2について
(a)i 甲7号証には、防眩性や視認性が要求され、光学用途において使用される(【0002】、【0006】)、基材フィルムの少なくとも一方の面に樹脂層が設けられた積層フィルムについて記載されている。
ii また、次のことが記載されている。
「本発明における樹脂層は、(中略)本発明の効果を損なわない範囲で、粒子を含有してもよい。粗面化のための粒子としては、例えば、クレ-、マイカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、湿式および乾式法シリカ、さらにはコロイド状シリカ、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、ゼオライトなどの無機粒子や、ポリスチレン、ポリアクリル酸メチルやポリアクリル酸エステル共重合体、ゴム等の架橋微粒子などの有機粒子が挙げられる。」(【0089】)
(b) そして、「Ra」、「RSm」及び「RΔq」についての数値に関する教示として、次のi~iiiに示す記載がある。
i 「Ra」について
「本発明において、樹脂層表面の算術平均粗さ(Ra)は0.01μmを超え3.0μm以下であることが好ましく、0.01μmを超え2.8μm以下であることがより好ましく、0.01μmを超え1.0μm以下であることがさらに好ましく、0.01μmを超え0.4μm以下であることがさらに好ましく、0.05μmを超え0.25μm以下であることがさらに好ましく、0.08μmを超え0.18μm以下であることが最も好ましい。
樹脂層表面のRaが0.01を超え3.0μm以下であることにより、視認性の改善効果が大きくなる。」(【0024】)
ii 「RSm」について
「樹脂層は、表面の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以下であることが必要であり、2μmを超え9μm以下であることが好ましく、3μmを超え8μm以下であることがより好ましい。
樹脂層表面のRSmが10μmを超えると、積層フィルムは、ヘーズが低くなることがあり、また、被着体接着後のヘーズとの差が小さくなり、視認性に劣ることがあり、また、凹凸が不均一になることがある。一方、RSmが2μm以下であると、積層フィルムは、パール調の外観となり、被着体を接着した際の視認性に劣る傾向がある。」(【0022】)
iii 「RΔq」について
「本発明において、樹脂層表面は、二乗平均平方根傾斜(RΔq)が5°以上であることが好ましく、5~80°であることがより好ましく、10~70°であることがさらに好ましく、20~60°であることが最も好ましい。RΔqは、フィルム表面の凹凸のフィルム平均面に対する傾斜角の大きさであり、本発明において、樹脂層形成時に高温で発泡させることで、RΔqを大きくすることができる。(中略)樹脂層表面は、RΔqが5°未満であると、凹凸が細かく急な角度でないため、積層フィルムは、巻き取られた際の接触面積が増加し、ブロッキングの発生を抑制できなくなることがあり、また、工程紙として用いられた積層フィルムは、硬化処理時に発生するアウトガスによる、被着体の欠点発生を抑制できなくなることがある。一方、RΔqが80°を超えると、樹脂層表面の凸部は、脆弱になり破壊されることがある。」(【0023】)
(c)i 前記(a)及び(b)において摘記した記載に基づいて、甲1発明における防眩性ハードコートフィルムの表面上に形成された凸凹について、算術平均偏差「Ra」、平均幅「RSm」及び二重平均平方根勾配「RΔq」の値を、視認性の向上・改善、ブロッキングの発生の抑制、表面の凸部の破壊防止などの観点から選択することは、当業者が適宜選択すべき設計上の事項である。
なお、算術平均偏差「Ra」及び平均幅「RSm」を選択することにより、「(Ra×100)/RSm」の値は、決定されることとなる。
ii 他方、本件明細書の発明の詳細な説明を参酌しても、アンチグレアコーティング層の表面上に形成された凸凹表面についての各パラメータを本件訂正発明1の数値範囲に限定することの技術上の意義は不明である。
iii そうすると、甲1発明における防眩性ハードコートフィルムの表面上に形成された凸凹について、算術平均偏差「Ra」、平均幅「RSm」、「(Ra×100)/RSm」及び二重平均平方根勾配「RΔq」の値を、それぞれ本件訂正発明1の数値範囲のものに限定した点は、実質的な相違点であるとはいえず、当業者が適宜選択できる設計上の事項としてしか評価できないものであるから、少なくとも、当該数値限定を根拠として進歩性を認めることはできない。
c 相違点1-3について
(a) 甲1号証には、白茶け性能は比較例3(甲1発明)より劣るものの、防眩性、ギラつきの性能は同様に良好なものとして比較例4が開示されており、比較例4では、外部ヘイズが40%にまで高められて、全体ヘイズが80%とされている。
(b) いわゆる白茶けとは、外光が表面で乱反射することで、画面に黒を表示していても白っぽく見えてしまう現象を指すが、全体ヘイズが高まれば、外光も乱反射しやすくなり、磨りガラスのように画像視認性が下がるとともに、白茶けが生じやすくなることは自明のことといえる。
<参考:ヘイズ率5.9%と44.2%のフィルムの例
「フィルムの物性:可視光透過率とヘーズ値の測定」JEA navi
https://www.jea-navi.com/archives/4338 >
[図:0001438251000009.jpg]
(c) そもそもヘイズ率をどの程度とするかは、当業者が適宜設計すべき事項であるといえる。一方で、本件訂正発明1における総ヘイズの値について65.63%を超えるものとすることの技術上の意義は不明である。
そうすると、相違点1-3に係る本件訂正発明1の構成は、甲1発明と本件訂正1発明との実質的な相違点とはいえず、当業者が適宜選択できる設計上の事項としか評価できないものである。
さらにいえば、アンチグレア特性の観点に特に着目するのであれば、総ヘイズを高めることは極めて自然なことであるし、スパークル(ぎらつき)防止の観点に特に着目する場合であっても、内部ヘイズを増やす積極的な動機があるといえる(一例として、特開2011-59481号の段落【0034】「一方、ぎらつきを解消する方法としては、透過光を散乱させ、ぎらつきの原因であるレンズ効果を抑制する手法、つまり、内部散乱粒子を添加することにより内部ヘイズを大きくする手法が用いられてきた。」を参照。)。
いずれにせよ、当該数値限定を根拠として進歩性を認めることはできない。
d 意見書2における特許権者の主張4-1について
(a) 主張4-1の内容
甲1号証には、「課題を解決するための手段」の構成に、全体Hz値の限定はないものの、甲1号証には、防眩性ハードコードフィルムの全体ヘイズ値を15~40%の範囲内の値とすることが好ましいと記載され(段落【0013】)、実施例において、ヘイズ値が40%を超えるものは全て比較例として記載されている(表1)。なお、比較例は、発明の課題を解決できない例や、実施例より作用効果が劣る例として記載されるものである。
そうすると、甲1発明に、甲7号証に記載されたRa値等の数値を適用して請求項1に係る発明にしようとすることは、甲1号証に記載された発明において、作用効果が劣る例である比較例を、実施例の全体ヘイズ値及び明細書において好ましいと記載された15~40%の全体ヘイズ値に近づけることなく、作用効果が劣る比較例となる位置付けのままで改変を施すことなり、甲1号証に記載された発明の課題の解決に何ら貢献しないか、又は、課題の解決を損なうものといえる。そうすると、当業者であれば、甲1発明に基づいて本件特許の請求項1に係る発明に到達させることは、容易に想到し得たことではない。
(b) 主張4-1についての検討
本件訂正発明1における総ヘイズの値に何ら技術上の意義が認められないことは前記c(c)で検討したとおりであり、総ヘイズの値については実質的な相違点ではないか、または当業者が適宜選択できるものといわざるを得ない。少なくとも、特許権者が主張するような事情は、当業者がその欠点を認識したとしても、その欠点にどのように対処するかを決定しなければならない(欠点を除去する方法を工夫する、欠点を甘受して総ヘイズ値増加の利点を活かす、あるいは欠点のゆえに採用を中止する、など)との認識を生み出す力を有するものではあっても、上記発想自体を技術的に困難なものとするだけの力は持たないからである。特許権者は、総ヘイズ値を上昇した際に生じる作用効果の劣化(比較例3と比較例4との対比でみれば、「白茶け性」の劣化)を防止する具体的な方法についてではなく、主に甲1発明の数値範囲を回避するために、総ヘイズ値を大きなものとするとの発想自体について特許権を維持しようとしているのであるから、本件訂正発明1の判断に当たっては、上記のとおりに判断するのが相当である。そのように判断しないと、特許権者は特許の対価としての技術に関する有益な情報は何ら開示しないでおいて、特許だけを取得、維持し、しかも同じ目的を達成するための他の方法をも自らの特許の範囲に取り込むこととなる。このような結果は、特許法の許すところでないものと認められる(なお、同旨の裁判例として、東京高判平成16年1月27日(平成14年(行ケ)第495号))。
以上のとおり、特許権者の主張4-1は、採用できない。
e 以上検討のとおり相違点1-1、相違点1-2及び相違点1-3は実質的な相違点でないか又は当業者が適宜選択できる設計事項にすぎないから、本件訂正発明1は、甲1発明及び甲7号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 本件訂正発明2について
(ア) 対比
本件訂正発明2と甲1発明を比較すると、両者は、前記相違点1-1~1-3に加え、次の点において相違する。
<相違点1-4>
本件訂正発明2においては、「前記アンチグレアコーティング層中の前記複数のアモルファスシリカ微粒子は、レーザー法による平均粒子サイズが3.0μm~10μmであり、BET比表面積が60m2/g~100m2/gである」のに対し、
甲1発明においては、「粉砕シリカ粒子」(「アモルファスシリカ微粒子」に相当する。)について、平均粒径が3.2μmであるものの、平均粒径の測定方法は不明であり、BET比表面積も不明である点。
(イ) 判断
甲6号証の段落【0065】に記載されているとおり、防眩層(「アンチグレアコーティング層」に相当する。)に含ませるシリカ粒子として、NiPSIL SS-50B(シリカ粒子/日本シリカ工業社製)は周知である。甲1発明における「アモルファスシリカ微粒子」に代えて、当該周知のシリカ粒子であるNiPSIL SS-50Bを用いるようにすることは、当業者が容易になし得たことである。ここで、NiPSIL SS-50Bは、本件明細書において「アモルファスシリカ微粒子」の唯一の実施例であって、本件明細書の段落【0066】に平均粒子サイズが4μm、BET比表面積が80m2/gであることが記載されていることから、NiPSIL SS-50Bを用いた場合、前記相違点1-4に係る条件を満たすことは明らかである。
したがって、本件訂正発明2は、甲1発明、甲7号証の記載及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
エ 本件訂正発明3について
(ア) 対比
甲1発明における「レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて体積基準の粒度分布チャートを得て、それからメジアン径としてのD50として、算出されるものであ[る]」「平均粒径」は、本件訂正発明3における「レーザー法による平均粒子サイズ」に相当する。
そうすると、本件訂正発明3と甲1発明の相違点は、前記相違点1-1~1-3に加え、次の点がある。
<相違点1-5>
本件訂正発明3においては、「前記複数の球状有機粒子」の「平均粒子サイズ」は、「2.0μm~8μmである」のに対し、
甲1発明においては、「アクリル樹脂粒子」(「複数の球状有機粒子」に相当する。)の「平均粒径」が「1.5μm」である点。
(イ) 判断
a 甲1号証の段落【0035】には、次の記載がある。
「(B3)成分としての樹脂粒子の平均粒径(体積平均粒径)を0.5~2μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、樹脂粒子の平均粒径が、かかる範囲内の値となると、主として、内部ヘイズの調整が容易になって、優れた防眩性や画像視認性を維持しつつ、ギラツキの発生についても効果的に抑制することができるためである。」
b 前記aにおいて摘記した記載を踏まえると、甲1発明において、(B3)成分としての樹脂粒子の平均粒径を2μmとすることは、当業者が容易になし得たことである。
そうすると、前記相違点1-5は格別のものではない。
c したがって、本件訂正発明3は、甲1発明及び甲7号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
オ 本件訂正発明4~9について
甲1発明における「防眩性ハードコート層」は、(A)成分としての紫外線硬化性樹脂(「アクリルバインダー樹脂」に相当する。)100質量部に対して、(B1)成分としての粉砕シリカ粒子(「アモルファスシリカ微粒子」に相当する。)を10質量部含み、(B3)成分としてのアクリル樹脂粒子(「複数の球状有機粒子」に相当する。)を30質量部含む、防眩性ハードコート層形成材料からなるものであるから、アモルファスシリカ微粒子及び複数の球状有機粒子の使用量並びにその合計使用量は、アクリルバインダー樹脂の100重量部に対して、それぞれ10重量部、30重量部、40重量部であり、前記アクリルバインダー樹脂中の前記球状有機粒子と前記アモルファスシリカ微粒子との使用量の重量比は、30重量部/10重量部=3.0である。
そうすると、本件訂正発明4~9と甲1発明の相違点は、前記相違点1-1~1-3以外にはない。
また、前記相違点1-3を満たすようにするために、添加する微粒子の粒径や使用量を変更する場合にあっても、本件訂正発明4~9において特定されている程度の値とすることは、当業者が適宜なし得た設計的事項であるといえる。
したがって、本件訂正発明4~9は、甲1発明及び甲7号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
カ 本件訂正発明10について
甲1発明は、硬化後の膜厚が3.5μmとなるように防眩性ハードコート層形成材料を塗工する工程を製造工程に含むものであるので、防眩性ハードコート層(「アンチグレアコーティング層」に相当する。)の膜厚は3.5μmであるといえる。
そうすると、本件訂正発明10と甲1発明の相違点は、前記相違点1-1及び1-3以外にはない。
したがって、本件訂正発明10は、甲1発明及び甲7号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3) 取消理由4-2(甲6号証に記載された発明を主引用発明とするもの)
ア 甲6号証に記載された事項と甲6発明の認定
(ア) 甲6号証に記載された事項
甲6号証には、次の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。
a 【0001】~【0007】
「【技術分野】
【0001】
本発明は、テレビ、コンピューター、カーナビゲーションシステム、車載用計器盤、携帯電話等の画像表示装置として用いられる、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、ELディスプレイ、リアプロジェクションディスプレイ、CRTディスプレイ等各種ディスプレイにおいて、ディスプレイ最表面に、画像の映り込みや、光の反射を防止するために設けるなどに、特に有用な活性エネルギー線硬化性樹脂組成物及びそれを用いた積層物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、CRT、PDP、LCD、ELD等の画像表示装置、特にPDP、LCD、ELDなどの表面がフラットな画像表示装置には、室内照明や、太陽光の入射等による、表示画面への操作者等の影の映り込みが画像の視認性を著しく妨げるという問題があった。
【0003】
この映り込みを抑えるために、シリカ等のフィラーを含むディスプレイの最表面に塗工し、表面に凸凹を形成することにより、表面に防眩効果を付与するという手法が特許文献1に記載されている(特許文献1:特開平7-294740号公報参照)。
【0004】
また、表面に有機ポリマー微粒子を混入したハードコート層を形成するという方法で、表面に防眩効果を付与するという手法が特許文献2に記載されている(特許文献2:特開平6-18706号公報参照)。さらには、有機ポリマー微粒子はシリカ微粒子等の無機フィラーと比較し、樹脂組成物と有機ポリマー微粒子の接着性が良く、鹸化処理においても界面がアルカリに侵されにくい。しかしながら、表面に有機ポリマー微粒子を混入したハードコート層は、有機ポリマー微粒子の平均粒子径が大きければハードコート層の膜厚が厚くなりハードコート性は出やすいが、平均粒子径が小さくなるとハードコート層の膜厚が薄くなりハードコート性(特に鉛筆硬度)は出にくくなる。
【0005】
ハードコート層の膜厚が薄くてもハードコート性を確保するために、樹脂組成物としてエチレン性不飽和二重結合を多数有する活性エネルギー線硬化型を硬化させたものを使用することが多い。しかしながら、これらエチレン性不飽和二重結合を多数有する活性エネルギー線硬化型は、硬化収縮が大きく基材との密着性が悪くなる傾向がある。さらに、防眩フィルムの信頼性試験として、耐光性試験を実施した後に基材との密着性がさらに低下するという問題がある。これは、耐光性試験にて照射される紫外線にてハードコート層の硬化がさらに進み、硬化収縮が増大し密着性が低下したと考えられる。
【0006】
トリアセチルセルロース透明基板への密着性を向上させる目的で、トリアセチルセルロース透明基材を溶解する溶剤を用いた塗布液から形成された防眩性フィルムが特許文献3及び4に記載されている。(特許文献3:特開平11-209717号公報、特許文献4:特開2002-169001号公報参照)しかしながら、単にトリアセチルセルロース透明基板を溶解する溶剤を使用しただけでは、塗工後の密着性は良好となるが、耐光性試験後の密着性が不良であったり、溶解しすぎるとハードコート性を維持できないなど満足できる手段ではなかった。
【特許文献1】 特開平7-294740号公報 参照
【特許文献2】 特開平6-18706号公報 参照
【特許文献3】 特開平11-209717号公報
【特許文献4】 特開2002-169001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、防眩性、ハードコート性、密着性、特に、耐光性試験後の基材との密着性に優れた活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、及びそれを用いた積層体を提供することにある。」
b 【0063】~【0065】
「【0063】
[配合例1、2、4、6]
表1に示される割合で、合成例に示したペンタエリスリトールテトラアクリレート及び/またはアロニックスM306(東亞合成社製:ペンタエリスルトールテトラアクリレートとペンタエリスルトールトリアクリレートの重量比が35:65)さらに変性コロイダルシリカをトルエン及びまたは1,3-ジオキソランで希釈し、さらに光重合開始剤(イルガキュア184,チバガイギー社製)を2.5部加え、高速ディスパーにて4000rpmで5分撹拌した。
【0064】
さらに、この溶液に平均粒子径3.5μm、屈折率1.525の架橋ポリスチレン-メチルメタアクリレート粒子(XX-12AE、積水化学社製)及びまたは平均粒子径2.5μm架橋メチルメタアクリレート粒子(エポスターMA1002、日本触媒社製)を加え、高速ディスパーにて4000rpmで15分撹拌し、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(1),(2),(4),(6)を調製した。
【0065】
[配合例3]
配合例2のエポスターMA-1002(メチルメタアクリレート粒子/日本触媒社製)をNiPSIL SS-50B(シリカ粒子/日本シリカ工業社製)に変更した以外は配合例2と同じとし、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(3)を調製した。」
c 【0070】~【0074】
「【0070】
【表1】
[図:0001438251000010.jpg]
【0071】
[実施例1~7]
厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(富士写真フィルム社製)に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(1)~(7)をバーコーターで塗布し、70℃~1分で乾燥後させた。その後、窒素パージによって0.3重量%以下酸素濃度雰囲気にて、高圧水銀ランプを用いて紫外線を照射量400mJ/cm2で照射して塗布層を硬化させ、厚さ5.5μmの防眩層を形成した。得られた防眩フィルムの評価結果を表2に示した。
【0072】
[比較例1~2]
実施例1~7と同様に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(8)~(9)を塗工硬化させ、防眩層を形成した。得られた防眩フィルムの評価結果を表2に示した。
【0073】
また、実施例1~7及び比較例1~2の全光線透過率は、85%以上であった。測定は、ヘイズメーターNDH-2000(東京電色社製)測定装置を用いた。
【0074】
【表2】
[図:0001438251000011.jpg]
」
(イ) 甲6発明の認定
前記(ア)において摘記した記載を踏まえると、甲6号証には、実施例3として次の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲6発明>
「厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(富士写真フィルム社製)に次の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(3)をバーコーターで塗布し、70℃~1分で乾燥後させた後、窒素パージによって0.3重量%以下酸素濃度雰囲気にて、高圧水銀ランプを用いて紫外線を照射量400mJ/cm2で照射して塗布層を硬化させ、厚さ5.5μmの防眩層を形成し、得られた防眩フィルムであって、(【0071】)
ヘイズが30%、鉛筆硬度が3H、密着性試験が100/100、耐光性試験後の密着性試験が100/100、耐擦傷性が5、防眩性が◎、総合評価が◎である、防眩フィルム(【0074】の【表2】の実施例3)。
<活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(3)>
ペンタエリスリトールテトラアクリレート17.8重量部、アロニックスM306(東亞合成社製:ペンタエリスルトールテトラアクリレートとペンタエリスルトールトリアクリレートの重量比が35:65)14.8重量部及び変性コロイダルシリカ16.7重量部をトルエン23.3重量部及び1,3-ジオキソラン15.0重量部で希釈し、さらに光重合開始剤(イルガキュア184,チバガイギー社製)を2.5重量部加え、高速ディスパーにて4000rpmで5分撹拌し、
さらに、平均粒子径3.5μm、屈折率1.525の架橋ポリスチレン-メチルメタアクリレート粒子(XX-12AE、積水化学社製)2.5重量部及びNiPSIL SS-50B(シリカ粒子/日本シリカ工業社製)7.5重量部を加え、高速ディスパーにて4000rpmで15分撹拌して調製された活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(3)(【0063】~【0065】、【0070】の【表1】の配合例3)。」
イ 本件訂正発明1について
(ア) 対比
本件訂正発明1と甲6発明を比較する。
a 次の甲6発明の欄に記載した甲6発明の各構成は、それぞれ、対応する本件訂正発明1の欄に記載した本件訂正発明1の構成に相当する。
<甲6発明> <本件訂正発明1>
防眩フィルム 高ヘイズアンチグレアフィルム
トリアセチルセルロースフィルム 透明基板
防眩層 アンチグレアコーティング層
ペンタエリスリトールテトラアクリレート アクリルバインダー樹脂
及びアロニックスM306
架橋ポリスチレン-メチルメタアクリレート 複数の球状有機粒子
粒子
b 甲6発明における「NiPSIL SS-50B(シリカ粒子/日本シリカ工業社製)」は、本件明細書の実施例1等で用いられているアモルファスシリカ微粒子(Nipsil(登録商標) SS-50B、平均粒子サイズ4μm、BET比表面積80m2/g、日本の東ソー・シリカ化工株式会社から購入)と同一の製品である(当審注:東ソー・シリカ化工株式会社は、平成15年10月に日本シリカ工業株式会社から社名変更した会社である。)から、本件訂正発明1における「アモルファスシリカ微粒子」に相当する。
c 甲6発明において、「NiPSIL SS-50B」(「アモルファスシリカ微粒子」に相当する。)は平均粒子サイズ4μmであり、「架橋ポリスチレン-メチルメタアクリレート粒子」(「複数の球状有機粒子」に相当する。)は平均粒子径3.5μmであるので、「前記複数の球状有機粒子は、」「平均粒子サイズが前記複数のアモルファスシリカ微粒子の平均粒子サイズよりも小さ[い]」といえる。
d(a) 甲6号証の段落【0040】及び【0043】には、それぞれ次の記載がある。
「【0040】
本発明における前記変性コロイダルシリカを除く透光性微粒子(B)は、表面に凸凹を形成及び/またはコーティング層中で光を散乱して防眩性を付与するものであり、有機微粒子及び/または無機微粒子を用いることができる。(後略)」
「【0043】
本発明における無機微粒子としては、例えば、二酸化ケイ素粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化アルミニウム粒子等が挙げられる。(後略)」
(b) 前記(a)において摘記した記載を踏まえると、甲6発明において、防眩層のNiPSIL SS-50Bは、前記防眩層の表面上に、複数の不規則な突起を有する凸凹表面を形成していると認められる。
e 光学フィルムにおいて、総ヘイズ(Ht)は、表面ヘイズ(Hs)と内部ヘイズ(Hi)との合計であることは技術常識である。
f したがって、本件訂正発明1と甲6発明の一致点及び相違点は、それぞれ次の(a)及び(b)に示すとおりである。
(a) 一致点
「高ヘイズアンチグレアフィルムであって、
透明基板と、
前記透明基板上に形成されたアンチグレアコーティング層と、を含み、
前記アンチグレアコーティング層は、アクリルバインダー樹脂、複数のアモルファスシリカ微粒子、および複数の球状有機粒子を含み、
前記複数の球状有機粒子は、平均粒子サイズが前記複数のアモルファスシリカ微粒子の平均粒子サイズよりも小さく、
前記アンチグレアコーティング層のアモルファスシリカ微粒子は、前記アンチグレアコーティング層の表面上に、複数の不規則な突起を有する凸凹表面を形成し、
総ヘイズ(Ht)は、前記高ヘイズアンチグレアフィルムの表面ヘイズ(Hs)と前記高ヘイズアンチグレアフィルムの内部ヘイズ(Hi)との合計である、
高ヘイズアンチグレアフィルム」
(b) 相違点
<相違点2-1>
本件訂正発明1においては、「前記複数の球状有機粒子は、単分散であ[る]」のに対し、
甲6発明においては、「架橋ポリスチレン-メチルメタアクリレート粒子」(「複数の球状有機粒子」に相当する。)が、単分散であるか否か不明である点。
<相違点2-2>
本件訂正発明1においては、
「前記凸凹表面は、線粗さの算術平均偏差(Ra)が0.2μm~1.0μmであり、平均幅(RSm)が4μm~20μmであり、
RaとRSmが2.0<(Ra×100)/RSm<18の関係式を満たし、前記複数の不規則な突起の傾斜角(二乗平均平方根勾配、RΔq)は15°~50°であ[る]」のに対し、
甲6発明においては、
「凹凸表面」の表面粗さ(Ra)、平均幅(RSm)の値は不明であり、RaとRSmが2.0<(Ra×100)/RSm<18の関係式を満たすか否か不明であり、複数の不規則な突起の傾斜角(二乗平均平方根勾配、RΔq)の値も不明である点。
<相違点2-3>
本件訂正発明1においては、
「前記高ヘイズアンチグレアフィルムは、65.63%を超える総ヘイズ(Ht)を有し、
前記内部ヘイズ(Hi)と前記総ヘイズ(Ht)は、0.25<Hi/Ht<0.75の関係式を満たす」のに対し、
甲6発明においては、
「防眩フィルム」(「高ヘイズアンチグレアフィルム」に相当する。)は、ヘイズ(「総ヘイズ(Ht)」に相当する。)が30%であり、
前記内部ヘイズ(Hi)と前記総ヘイズ(Ht)は、0.25<Hi/Ht<0.75の関係式を満たすか否か不明である点。
(イ) 判断
a 相違点2-1について
(a) 本件特許の出願時の技術常識を考慮すると、「複数の球状有機粒子は、単分散である」とは、「複数の球状有機粒子の粒子径分布が狭い」という程度の意味であることまでは理解できるが、どのような粒子径分布であれば単分散といえるかという基準は当業者において確立されておらず、また、本件明細書には、単分散の定義について何ら説明されていない。
そして、本件明細書の発明の詳細な説明を参酌しても、「前記複数の球状有機粒子は、単分散であ[る]」ことの技術上の意義は不明である。
そうすると、前記相違点2-1は、甲6発明と区別が付けられる程度の実質的な相違点とはいえない。
(b) また、前記(2)イ(イ)a(c)における検討と同様に、甲5号証の記載に基づいて、「アクリル樹脂粒子」として、Cv値が0.1程度の小さい値のものを用いるようにすることは、当業者が適宜選択できる設計事項にすぎないから、甲6発明における架橋ポリスチレン-メチルメタアクリレート粒子として単分散のものを用いるようにすることは、当業者が適宜選択できる設計上の事項である。
(c) したがって、前記相違点2-1は、実質的な相違点でなく、少なくとも、当業者が適宜選択できる設計事項にすぎない。
b 相違点2-2について
(a) 甲7号証には、基材フィルムの少なくとも一方の面に樹脂層が設けられた積層フィルムについて、前記(2)イ(イ)b(a)iにおいて示した記載がある。
(b)i 前記(2)イ(イ)b(b)において示した記載に基づいて、甲6発明における防眩フィルムの表面上に形成された凸凹について、算術平均偏差「Ra」、平均幅「RSm」及び二重平均平方根勾配「RΔq」の値を、視認性の向上・改善、ブロッキングの発生の抑制、表面の凸部の破壊防止などの観点から選択するようにすることは、当業者が適宜選択すべき設計上の事項である。
なお、算術平均偏差「Ra」及び平均幅「RSm」を選択することにより、「(Ra×100)/RSm」の値は、決定されることとなる。
ii 他方、本件明細書の発明の詳細な説明を参酌しても、アンチグレアコーティング層の表面上に形成された凸凹表面についての各パラメータを本件訂正発明1の数値範囲とすることの技術上の意義は不明である。
iii そうすると、甲6発明における防眩フィルムの表面上に形成された凸凹について、算術平均偏差「Ra」、平均幅「RSm」、「(Ra×100)/RSm」及び二重平均平方根勾配「RΔq」の値を、それぞれ本件訂正発明1の数値範囲のものに限定した点は、当業者が適宜選択できる設計上の事項としてしか評価できず、当該数値限定を根拠として進歩性を認めることはできない。
iv なお、特許権者は、令和6年7月8日提出の意見書において、甲7号証に記載された発明は、微細な空隙や凹凸を、発泡剤の発泡により形成しているものであり、甲6発明において凹凸を表面に付与する材料とは構造が異なるため、甲6発明の課題の解決に必要な透光性微粒子の構成を除外することから、阻害要因がある旨主張している。
しかし、前記(2)イ(イ)b(a)iiにおいて示したとおり、甲7号証の段落【0089】には、粗面化のための粒子を含有してもよいことが示唆されていることから、甲6発明において透光性微粒子の構成を除外することにはなり得ないため、特許権者の主張は採用することができない。
c 相違点2-3について
(a)i 甲6号証の段落【0056】には、次の記載がある。
「【0056】
このようにして、トリアセチルセルロース透明基材上に表面に微細な凹凸を有する防眩層を形成することにより作成された本発明の積層体は、全光線透過率85%以上、かつ、ヘイズ値3.0~60.0%の光学特性を有していることが好ましく、また、全光線透過率90%以上、ヘイズ値4.0~45.0%の光学特性を有していることがさらに好ましい。全光線透過率は85%を下回ると、コントラストの高い画像表示ができなくなる。ヘイズ値は3.0%未満となると、充分な防眩性が得られず、また60.0%を超えると、白ぼけが出やすくなるため好ましくない。」
ii したがって、甲6号証には、防眩フィルムのヘイズ値を3.0~60.0%、すなわち、65.63%の近傍とすることが示唆されているといえる。そして、ヘイズ値を60%を超える値としない理由は「白ぼけ」を考慮してのことであるから、「白ぼけ」を問題にしないのであれば、甲6発明においても、防眩性やスパークル防止の観点からは、60.0%という値を超えてまでヘイズ値を高める動機は十分あるということができる(前記(2)イ(イ)c(c)を参照。)。
(b)i 甲8号証の段落【0034】には、次の記載がある。
「【0034】
(中略)
光学シートは、ヘイズ(JIS K7136:2000)が25~60%であることが好ましく、30~60%であることがより好ましく、30~50%であることがさらに好ましい。ヘイズを25%以上とすることにより、防眩性を付与するとともに、電極の形状や傷を見えづらくすることができる。また、ヘイズを60%以下とすることにより、超高精細の表示素子の解像度の低下を防止するとともに、コントラストの低下を防止しやすくできる。
また、表面へイズは20~50%であることが好ましく、20~45%であることがより好ましく、25~40%であることがさらに好ましい。表面ヘイズを20%以上とすることにより、屋外等の明るい使用環境においても防眩性を良好にするとともに、電極の形状や傷を見えづらくすることができ、50%以下とすることにより、コントラストの低下や解像度の低下を防止しやすくできる。
また、表面ヘイズ(Hs)と内部へイズ(Hi)との比(Hs/Hi)は、上述した表面ヘイズと内部へイズの効果のバランスの観点から、1.0~5.0であることが好ましく、2.0~5.0であることがより好ましく、2.5~4.5であることがさらに好ましい。」
ii そうすると、甲8号証には、防眩性を付与するとともに、超高精細の表示素子の解像度の低下を防止し、コントラストの低下を防止するために、タッチパネルの表面に設置する光学シートのヘイズ値は25~60%が好ましいことが記載されているといえる。
iii また、表面ヘイズ(Hs)と内部ヘイズ(Hi)の合計がヘイズ(Ht)である(すなわち、Ht=Hs+Hiである)ことを用いて、内部ヘイズ(Hi)とヘイズ(Ht)との比(Hi/Ht)を式変形すると、次のようになる。
Hi/Ht=Hi/(Hs+Hi)=1/[(Hs/Hi)+1]
上記式から、表面ヘイズ(Hs)と内部へイズ(Hi)との比(Hs/Hi)が1.0~5.0の場合には、内部ヘイズ(Hi)とヘイズ(Ht)との比(Hi/Ht)は、約0.17~0.5である。
したがって、甲8号証には、表面ヘイズと内部へイズの効果のバランスの観点から、内部ヘイズ(Hi)とヘイズ(Ht)との比(Hi/Ht)は約0.17~0.5が好ましいということが記載されているといえる。
(c)i 甲10号証には、次の記載がある。
「【0014】
また、本発明の反射防止層を有する光散乱性フィルムは、その光学特性を、鏡面反射率2.5%以下、透過率90%以上とするのが、外光の反射を抑制でき、視認性が向上するため、好ましい。また、ヘイズ20%~60%、内部ヘイズ/全ヘイズ値0.3~1、光散乱層までのヘイズ値から低屈折率層を形成後のヘイズ値の低下が15%以内、くし幅0.5mmにおける透過像鮮明度10%~70%、垂直透過光/垂直から2度傾斜方向の透過率比が1.5~5.0とするのが、高精細LCDパネル上でのギラツキ防止、文字等のボケの低減が達成されるので、好ましい。」
ii したがって、甲10号証には、反射防止層を有する光散乱性フィルムにおいて、内部ヘイズ/全ヘイズ値は0.3~1が好ましいことが記載されている。
(d) 前記(b)及び(c)より、甲8号証及び甲10号証には、防眩フィルムにおいて内部ヘイズ(Hi)とヘイズ(Ht)との比(Hi/Ht)を0.3~0.5程度とすることが可能であることが記載されているといえる。
(e) 前記(a)及び(d)より、甲6号証、甲8号証及び甲10号証の記載に基づいて、甲6発明において、内部ヘイズ(Hi)と総ヘイズ(Ht)の比(Hi/Ht)が0.3~0.5程度となるように「防眩フィルム」を設計変更することは、当業者が容易に想到し得たことである。
(f) 他方、本件明細書の発明の詳細な説明を参酌しても、総ヘイズ(Ht)及び内部ヘイズ(Hi)と総ヘイズ(Ht)の比(Hi/Ht)を本件訂正発明1の数値範囲とすることの技術上の意義は不明である。
(g) そうすると、甲6発明を、65.63%を超える総ヘイズ(Ht)を有し、前記内部ヘイズ(Hi)と前記総ヘイズ(Ht)について0.25<Hi/Ht<0.75の関係式を満たすようにすることは、当業者にとっては適宜なし得る設計上の事項としてしか評価できず、当該数値限定を根拠として進歩性を認めることはできない。
d 意見書2における特許権者の主張4-2について
(a) 主張4-2の内容
甲6発明と認定された実施例3はヘイズ値が30%であり、甲第6号証には、ヘイズ値が65.63%を超えるようにすることは記載も示唆もされていない。また、甲6号証には、全光線透過率90%以上、ヘイズ値4.0~45.0%の光学特性を有していることがさらに好ましいこと、全光線透過率は85%を下回ると、コントラストの高い画像表示ができなくなること、ヘイズ値は3.0%未満となると、充分な防眩性が得られず、また60.0%を超えると、白ぼけが出やすくなるため好ましくないことが記載されている(段落【0056】)。そうすると、甲6発明に対し、甲7号証、甲8号証及び甲10号証に記載された事項を適用し得たとしても、ヘイズ値を65.63%を超えるようにすることは、あえて甲6号証において好ましくないと記載された発明の範囲に改変することであり、たとえ当業者といえども容易に想到し得たことではない。
(b) 主張4-2についての検討
本件訂正発明1における総ヘイズの値に何ら技術上の意義が認められないことは、前記(2)イ(イ)c(c)及びd(b)で検討したとおりであるから、特許権者の主張4-2は採用できないものであり、総ヘイズの値については実質的な相違点ではないか、または当業者が適宜選択できるものといわざるを得ない。
e 以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲6発明並びに甲6号証、甲7号証、甲8号証及び甲10号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 本件訂正発明2について
前記イ(ア)bにおいて示したとおり、甲6発明における「NiPSIL SS-50B(シリカ粒子/日本シリカ工業社製)」は、本件明細書の実施例1等で用いられているアモルファスシリカ微粒子(Nipsil(登録商標) SS-50B、平均粒子サイズ4μm、BET比表面積80m2/g、日本の東ソー・シリカ化工株式会社から購入)と同一の製品である。ここで、Nipsil SS-50Bは、本件明細書において「アモルファスシリカ微粒子」の唯一の実施例であって、本件明細書の段落【0066】に平均粒子サイズが4μm、BET比表面積が80m2/gであることが記載されていることから、Nipsil SS-50Bが、本件訂正発明2における「アモルファスシリカ微粒子」の条件を全て満たしていることは明らかである。
そうすると、本件訂正発明2と甲6発明の相違点は、前記相違点2-1~2-3以外にはない。
したがって、本件訂正発明2は、甲6発明並びに甲6号証、甲7号証、甲8号証及び甲10号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
エ 本件訂正発明3について
(ア) 対比
本件訂正発明3と甲6発明の相違点は、前記相違点2-1~2-3に加え、次の点がある。
<相違点2-4>
本件訂正発明3においては、「前記複数の球状有機粒子のレーザー法による平均粒子サイズ」は、「2.0μm~8μmである」のに対し、
甲6発明においては、「架橋ポリスチレン-メチルメタアクリレート粒子」(「複数の球状有機粒子」に相当する。)の「平均粒子径」が「3.5μm」であるものの、「平均粒子径」がどのような方法で測定されたものであるか不明である点。
(イ) 判断
粒子の平均粒子サイズ(平均粒子径)を測定する方法として、レーザー回折・散乱法(レーザー法)を用いることは、例えば甲1号証の段落【0031】及び【0035】、甲5号証の段落【0029】、甲8号証の段落【0097】などに開示されているとおり、周知技術である。してみると、甲6発明における「平均粒子径3.5μm」「の架橋ポリスチレン-メチルメタアクリレート粒子」として、レーザー回折・散乱法(レーザー法)によって測定した平均粒子サイズが3.5μmの架橋ポリスチレン-メチルメタアクリレート粒子を用いるようにすることは、当業者が容易になし得たことである。
そうすると、前記相違点2-4は格別のものではない。
したがって、本件訂正発明3は、甲6発明と、甲6号証、甲7号証、甲8号証及び甲10号証の記載並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
オ 本件訂正発明4、6、8、9について
甲6発明における「防眩層」は、ペンタエリスリトールテトラアクリレート及びアロニックスM306(「アクリルバインダー樹脂」に相当する。)計32.6質量部に対して、NiPSIL SS-50B(「アモルファスシリカ微粒子」に相当する。)を7.5質量部含み、架橋ポリスチレン-メチルメタアクリレート粒子(「複数の球状有機粒子」に相当する。)を2.5質量部含む、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物からなるものであるから、アモルファスシリカ微粒子及び複数の球状有機粒子の使用量並びにその合計使用量は、アクリルバインダー樹脂の100重量部に対して、それぞれ約23.0重量部、約7.67重量部、約30.7重量部であり、前記アクリルバインダー樹脂中の前記球状有機粒子と前記アモルファスシリカ微粒子との使用量の重量比は、約7.67重量部/約23.0重量部≒0.33である。
そうすると、本件訂正発明4、6、8、9と甲6発明の相違点は、前記相違点2-1~2-3以外にない。
また、前記相違点2-3を満たすようにするために、添加する微粒子の粒径や使用量を変更する場合にあっても、本件訂正発明4、6、8、9において特定されている程度の値とすることは、当業者が適宜なし得た設計的事項であるといえる。
したがって、本件訂正発明4、6、8、9は、甲6発明並びに甲6号証、甲7号証、甲8号証及び甲10号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
カ 本件訂正発明5について
(ア) 対比
前記オを踏まえ、本件訂正発明5と甲6発明を比較すると、両者は、前記相違点2-1~2-3に加え、次の点において相違する。
<相違点2-5>
本件訂正発明5においては、「前記アモルファスシリカ微粒子の使用量は、前記アクリルバインダー樹脂の100重量部あたり、7重量部~20重量部である」のに対し、
甲6発明においては、「NiPSIL SS-50B」(「アモルファスシリカ微粒子」に相当する。)の使用量は、ペンタエリスリトールテトラアクリレート及びアロニックスM306(「アクリルバインダー樹脂」に相当する。)の100重量部あたり、約23.0重量部である点。
(イ) 判断
a 甲6号証の段落【0043】には、次の記載がある。
「【0043】
本発明における無機微粒子としては、例えば、二酸化ケイ素粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化アルミニウム粒子等が挙げられる。これら無機微粒子の二次粒子径の平均粒子径は、0.5~3.0μmであることが好ましく、0.5~2.0μmであることがより好ましい。また、これらの無機微粒子の形状は不定形でも球状でもよい。これらの無機微粒子の添加量は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物全体量に対して0.1~40重量%が好ましく、0.1~30重量%がさらに好ましい。」
b 前記aにおいて摘記した記載を踏まえ、甲6発明において、「NiPSIL SS-50B」の使用量を、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物全体量に対して0.1~40重量%の範囲で適宜決定することは、当業者が容易に想到し得たことである。その際、本件明細書の発明の詳細な説明を参酌しても、アモルファスシリカ微粒子の使用量を、アクリルバインダー樹脂の100重量部あたり、7重量部~20重量部とすることの技術上の意義は不明である。
そうすると、甲6発明において、「NiPSIL SS-50B」の使用量を、「ペンタエリスリトールテトラアクリレート及びアロニックスM306」100重量部あたり、7重量部~20重量部とすることは、当業者にとっては適宜選択すべき設計上の事項にすぎない。
したがって、本件訂正発明5は、甲6発明並びに甲6号証、甲7号証、甲8号証及び甲10号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
キ 本件訂正発明7について
(ア) 対比
前記オを踏まえ、本件訂正発明7と甲6発明を比較すると、両者は、前記相違点2-1~2-3に加え、次の点において相違する。
<相違点2-6>
本件訂正発明7においては、「前記球状有機粒子の使用量は、前記アクリルバインダー樹脂の100重量部あたり、10重量部~38重量部である」のに対し、
甲6発明においては、「架橋ポリスチレン-メチルメタアクリレート粒子」(「球状有機粒子」に相当する。)の使用量は、ペンタエリスリトールテトラアクリレート及びアロニックスM306(「アクリルバインダー樹脂」に相当する。)の100重量部あたり、約7.67重量部である点。
(イ) 判断
a 甲6号証の段落【0042】には、次の記載がある。
「【0042】
本発明における有機微粒子は水及び有機溶剤に不溶のものが好ましく、形状は不定形でも球状でもよい。
有機微粒子の添加量は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物全体量に対して、0.1~40重量%が好ましく、0.1~30重量%がさらに好ましい。0.1重量%未満では十分な防眩性が得られず、40重量%を超えると防眩性は良好だが白ぼけが出やすくなり好ましくはない。」
b 前記aにおいて摘記した記載を踏まえ、甲6発明において、「架橋ポリスチレン-メチルメタアクリレート粒子」の使用量を、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物全体量に対して0.1~40重量%の範囲で適宜決定することは、当業者が容易に想到し得たことである。その際、本件明細書の発明の詳細な説明を参酌しても、球状有機粒子の使用量を、アクリルバインダー樹脂の100重量部あたり、10重量部~38重量部とすることの技術上の意義は不明である。
そうすると、甲6発明において、「架橋ポリスチレン-メチルメタアクリレート粒子」の使用量を、「ペンタエリスリトールテトラアクリレート及びアロニックスM306」100重量部あたり、10重量部~38重量部とすることは、当業者にとっては適宜選択すべき設計上の事項にすぎない。
したがって、本件訂正発明7は、甲6発明並びに甲6号証、甲7号証、甲8号証及び甲10号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
ク 本件訂正発明10について
甲6発明においては、防眩層(「アンチグレアコーティング層」に相当する。)の厚さが5.5μmである。そうすると、本件訂正発明10と甲6発明の相違点は、前記相違点2-1~2-3以外にない。
したがって、本件訂正発明10は、甲6発明並びに甲6号証、甲7号証、甲8号証及び甲10号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
ケ 本件訂正発明11について
(ア) 対比
本件訂正発明11と甲6発明を比較すると、両者は、前記相違点2-1~2-3に加え、次の点において相違する。
<相違点2-7>
本件訂正発明11が、
「前記高ヘイズアンチグレアフィルムの前記アンチグレアコーティング層上に形成された低屈折層」、を含み、
「5度の角度平均反射率が0.15%以下であり、SCI(Specular Component Include)拡散反射と正反射の平均反射率およびSCE(Specular Component Exclude)拡散反射の平均反射率がいずれも2.5%以下である、」
「高ヘイズアンチグレア反射防止フィルム」
であるのに対し、
甲6発明は、
「防眩フィルム」(「高ヘイズアンチグレアフィルム」に相当する。)であって、
「防眩フィルム」の「防眩層」(「アンチグレアコーティング層」に相当する。)上に低屈折層は形成されておらず、
5度の角度平均反射率が0.15%以下であり、SCI(Specular Component Include)拡散反射と正反射の平均反射率およびSCE(Specular Component Exclude)拡散反射の平均反射率がいずれも2.5%以下でなく、
「高ヘイズアンチグレア反射防止フィルム」ではない点。
(イ) 判断
a 甲6号証の段落【0055】には、次の記載がある。
「【0055】
トリアセチルセルロース透明基板上に、本発明における活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させてなる防眩層の微細凸凹形状の表面に、画面表示のコントラストや白ぼけをさらに改善する方法として、前記防眩層の屈折率よりも低い屈折率の低屈折率層を設けることもできる。これら低屈折率層には、例えば、ポリシロキサン構造を有するものが用いられ、好ましくはフッ素含有ポリシロキサン構造を有するものである。このような低屈折率層は、例えばフッ素含有アルコキシシランにより形成することができる。低屈折率層の厚さは0.05~0.15μmとするのが好ましい。低屈折率層は適宜な方法にて防眩層の表面に形成することができる。形成方法としては、積層体の形成と同様の方法を使用できる。」
b 防眩性のハードコート層に反射防止機能を持たせるために、防眩性ハードコート層の表面に、フッ素含有ポリシロキサン構造を有する低屈折率層を設けることは、例えば甲9号証(特に段落【0002】、【0006】、【0007】、【0034】、【0185】を参照。)、引用文献1(特に[0006]、[0019]、[0021]、[0039]、[0040]を参照。)などに記載されているとおり、本件特許の優先日前における周知技術である。
c ここで、反射防止機能を持たせることが、画面表示のコントラストや白ぼけの改善に寄与することは技術常識より明らかであるので、前記(ア)において摘記した甲6号証の記載及び前記bにおいて示した周知技術に基づいて、甲6発明において、「防眩フィルム」の「防眩層」上にフッ素含有ポリシロキサン構造を有する低屈折率層を設け、高ヘイズアンチグレア反射防止フィルムとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。その際、高ヘイズアンチグレア反射防止フィルムの反射率をどの程度まで小さくするかは、当業者が必要に応じて適宜決定するものであるところ、本件明細書の発明の詳細な説明を参酌しても、当該反射率を本件訂正発明11の数値範囲とすることの技術上の意義は不明である。
そうすると、本件訂正発明11の数値範囲とすることは、当業者にとっては適宜選択すべき設計上の事項にすぎない。
したがって、本件訂正発明11は、甲6発明、甲6号証、甲7号証、甲8号証及び甲10号証の記載並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
コ 本件訂正発明12~15について
(ア) 対比
本件訂正発明12~15と甲6発明の相違点は、前記相違点2-1~2-3及び2-7に加え、甲6発明が、本件訂正発明12~15に記載された事項において特定される構成を備えていないという相違点がある。
(イ) 判断
a 本件訂正発明12に記載された事項について
低屈折率層の屈折率をどの程度まで小さくするかは、当業者が必要に応じて適宜決定するものであるところ、本件明細書の発明の詳細な説明を参酌しても、当該屈折率を1.4以下とすることの技術上の意義は不明であるから、1.4以下とすることは当業者にとっては、適宜選択すべき設計上の事項にすぎない。
b 本件訂正発明13及び14に記載された事項について
甲9号証(段落【0007】~【0012】、【0021】~【0023】、【0027】~【0032】を参照)、引用文献1([0039]、[0062]を参照)などに記載されているとおり、本件特許の優先日前に周知の技術である。
c 本件訂正発明15に記載された事項について
甲9号証の段落【0186】には、低屈折率層13の接触角が増大することによって、汚染成分の濡れ性が低下することが記載されている。また、引用文献1の[0006]、[0028]には、反射防止フィルムの水接触角は、90°と125°との間の範囲が好ましいことが記載されている。
ここで、本件明細書の発明の詳細な説明を参酌しても、高ヘイズアンチグレア反射防止フィルムの水接触角が90°を超えるようにすることの技術上の意義は不明である。
そうすると、甲6号証に低屈折率層を設ける際に、甲9号証及び引用文献1の上記記載に基づいて、水接触角が90°を超えるようにすることは、当業者にとっては、設計上の事項にすぎない。
d 以上のとおりであるから、本件訂正発明12~15は、甲6発明、甲6号証、甲7号証、甲8号証及び甲10号証の記載並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 むすび
以上のとおりであるから、請求項1~15に係る特許は、特許法36条4項1号、6項1号及び6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
また、請求項1~15に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701343