特許異議申立
2026-700009
液晶回折素子、光学素子、画像表示ユニット、ヘッドマウントディスプレイ、ビームステアリングおよびセンサー
- 審判番号
- 2026-700009
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-546952
- 登録番号
- 7699597
- 請求日
- 2025年12月25日
- 審決日
- 2026年03月30日
- 公報発行日
- 2026年05月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】富士フイルム株式会社
- 【権利者代理人】伊東 秀明
- 【権利者代理人】三橋 史生
- 【権利者代理人】蜂谷 浩久
- 【権利者代理人】上西 浩史
- 【異議申立人】砂川 幸子
- 審判長/審判官
- 審判長 里村 利光
- 審判官 高松 大
- 審判官 関根 洋之
- 分類
- P1651.121-Y (G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第113条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7699597号発明「液晶回折素子、光学素子、画像表示ユニット、ヘッドマウントディスプレイ、ビームステアリングおよびセンサー」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7699597号の請求項1ないし18に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第7699597号(以下「本件特許」という。)の請求項1~18に係る特許についての出願(特願2022-546952号)は、令和3年(2021年)9月1日(先の出願に基づく優先権主張 令和2年9月2日、令和2年10月22日)を国際出願日とする出願であって、令和7年6月19日にその特許権の設定登録がされ、同月27日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和7年12月25日に特許異議申立人 砂川 幸子(以下「特許異議申立人」という。)から請求項1~18に対して特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~18に係る発明(以下、請求項に付す番号を使って、それぞれ、「本件特許発明1」などという。)は、特許請求の範囲の請求項1~18に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
液晶化合物を含む液晶組成物を用いて形成された光学異方性層を備え、
前記光学異方性層は、前記液晶化合物の少なくとも一部が厚さ方向に捩れ配向しており、かつ、前記液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有する、透過型の回折素子として作用するものであり、
前記光学異方性層は、前記一方向に沿って厚さ方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡で観察した断面画像において、一方の表面から他方の表面に延在する明部および暗部を有し、かつ、前記暗部が、角度が変化する角度の変化点を2か所以上有し、さらに、厚さ方向において、前記暗部の傾斜方向が異なる領域を有し、
前記液晶配向パターンにおける前記液晶化合物由来の光学軸の向きが面内で180°回転する長さを1周期とした際に、前記1周期の長さが一定である、液晶回折素子。
【請求項2】
一方の表面から他方の表面まで延在する前記暗部の傾斜方向が、奇数回、逆方向に折り返される、請求項1に記載の液晶回折素子。
【請求項3】
一方の表面から他方の表面まで延在する前記暗部の傾斜方向が、1回、逆方向に折り返される、請求項2に記載の液晶回折素子。
【請求項4】
一方の表面から他方の表面まで延在する前記暗部の傾斜方向が、3回、逆方向に折り返される、請求項2に記載の液晶回折素子。
【請求項5】
前記光学異方性層は、前記一方向に沿って厚さ方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡で観察した断面画像において、前記暗部の形状が、前記光学異方性層の厚さ方向の中心線に対して、対称である、請求項1~4のいずれか1項に記載の液晶回折素子。
【請求項6】
前記光学異方性層は、前記一方向に沿って厚さ方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡で観察した断面画像において、前記暗部の形状が、前記光学異方性層の厚さ方向の中心線に対して、非対称である、請求項1~4のいずれか1項に記載の液晶回折素子。
【請求項7】
前記光学異方性層の屈折率異方性に伴う屈折率差Δn550が0.2以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の液晶回折素子。
【請求項8】
前記液晶配向パターンにおける前記液晶化合物由来の光学軸の向きが面内で180°回転する長さを1周期とした際に、前記1周期の長さが、1.0μm以下である領域を面内に有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の液晶回折素子。
【請求項9】
前記角度の変化点を厚さ方向に挟んで対面する液晶化合物の光学軸の向きが同じである、請求項1~8のいずれか1項に記載の液晶回折素子。
【請求項10】
前記光学異方性層は、厚さ方向の前記液晶化合物の捩れ方向が逆である領域を有し、かつ、前記暗部の傾斜方向が逆である領域を有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の液晶回折素子。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の液晶回折素子と円偏光板とを有する、光学素子。
【請求項12】
前記円偏光板が位相差板と偏光子からなり、前記液晶回折素子と前記位相差板と前記偏光子とが、この順で配置される、請求項11に記載の光学素子。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか1項に記載の液晶回折素子と酸化ケイ素層と支持体とをこの順で有する、光学素子。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか1項に記載の液晶回折素子、または請求項11~13のいずれか1項に記載の光学素子を少なくとも1つ以上有し、さらに少なくとも1つ以上の位相変調素子を有する、光学素子。
【請求項15】
請求項1~10のいずれか1項に記載の液晶回折素子、または請求項11~13のいずれか1項に記載の光学素子を有する、画像表示ユニット。
【請求項16】
請求項15に記載の画像表示ユニットを有する、ヘッドマウントディスプレイ。
【請求項17】
請求項1~10のいずれか1項に記載の液晶回折素子、または請求項11~13のいずれか1項に記載の光学素子を有する、ビームステアリング。
【請求項18】
請求項1~10のいずれか1項に記載の液晶回折素子、または請求項11~13のいずれか1項に記載の光学素子を有する、センサー。」
第3 申立理由の概要及び証拠方法
特許異議申立人が主張する特許異議の申立理由、及び、特許異議申立人が提出した証拠方法は、概略以下のとおりである。
1 申立理由1-1(進歩性欠如)
本件特許発明1~18は、下記甲第1号証~甲第11号証に記載された発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項1~18に係る特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由1-2(進歩性欠如)
本件特許発明1~18は、下記甲第2号証、甲第1号証及び甲第3号証~甲第12号証に記載された発明に基づいて、先の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項1~18に係る特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 特許異議申立人が提出した証拠方法
甲第1号証:特表2017-522601号公報
甲第2号証:国際公開第2020/066429号
甲第3号証:コトバンク,「ブラッグ回折」,[online],[text],[取得日 令和7年12月10日],取得先<https://kotobank.jp/word/%E3%81%B6%E3%82%89%E3%81%A4%E3%81%90%E5%9B%9E%E6%8A%98-790622>
甲第4号証:特表2010-525394号公報
甲第5号証:特表2014-528597号公報
甲第6号証:特開2012-78397号公報
甲第7号証:特表2016-519327号公報
甲第8号証:特開平11-219754号公報
甲第9号証:特開2013-74014号公報
甲第10号証:特開2017-198986号公報
甲第11号証:Yun-Han Lee,外9名,“Recent progress in Pancharatnam-Berry phase optical elements and the applications for virtual/augmented realities”,DE GRUYTER Open,2017年,Opt. Data Process. Storage,Vol.3、p.79-88、
甲第12号証:特表2019-536101号公報
以下、甲号証に付された番号を使って、それぞれ、「甲1」などという。
第4 当合議体の判断
1 甲1を主引用例とする進歩性欠如(申立理由1-1)について
(1) 甲1に記載された発明
甲1には、【0067】~【0069】及び【図7】に記載された、傾斜ブラッグ液晶偏光格子の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「キラルネマティック液晶化合物を含む液晶組成物を用いて形成された積層複屈折副層を備え、
前記積層複屈折副層は、前記キラルネマティック液晶化合物の少なくとも一部が厚さ方向にねじれ配向しており、かつ、前記キラルネマティック液晶化合物由来の光軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有する、透過型の回折素子として作用する、
傾斜ブラック液晶偏光格子。」
(2) 本件特許発明1について
ア 対比・一致点・相違点
本件特許発明1と甲1発明を対比すると、両者は、以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。
(一致点)
「液晶化合物を含む液晶組成物を用いて形成された光学異方性層を備え、
前記光学異方性層は、前記液晶化合物の少なくとも一部が厚さ方向に捩れ配向しており、かつ、前記液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有する、透過型の回折素子として作用する、
液晶回折素子。」
(相違点1-1)
本件特許発明1は、「前記光学異方性層は、前記一方向に沿って厚さ方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡で観察した断面画像において、一方の表面から他方の表面に延在する明部および暗部を有し、かつ、前記暗部が、角度が変化する角度の変化点を2か所以上有し、さらに、厚さ方向において、前記暗部の傾斜方向が異なる領域を有」するのに対し、甲1発明は、そのような構成を有していない点。
(相違点1-2)
本件特許発明1は、「前記液晶配向パターンにおける前記液晶化合物由来の光学軸の向きが面内で180°回転する長さを1周期とした際に、前記1周期の長さが一定である」のに対し、甲1発明は、そのような構成を有することが特定されていない点。
イ 判断
相違点1-1及び相違点1-2は、いずれも「光学異方性層」の構成に関するものであって互いに技術的に関連する構成であるから、これらを分断して個別に容易想到性を判断することは適切ではない。したがって、相違点1-1及び相違点1-2を併せて検討する。
(ア)甲1発明において相違点1-1及び相違点1-2を採用する動機付けがあるかについて
甲1の【0082】の「本発明の実施形態によって製造された幾つかのブラッグLCPG素子は、例えば、開示内容が引用することにより本明細書の一部をなすものとする、「LOW-TWIST CHIRAL LIQUID CRYSTAL POLARIZATION GRATINGS AND RELATED FABRICATION METHODS」と題する、Escuti他の米国特許出願第12/596,189号、及び「MULTI-TWIST RETARDERS FOR BROADBAND POLARIZATION TRANSFORMATION AND RELATED FABRICATION METHODS」と題する、Escuti他の同第13/646,166号に記載されているようなアクロマティックPG及びMTRの技法を用いて、広帯域スペクトルを有することができる」という記載からみて、甲1発明に対して、米国特許出願第12/596,189号(当合議体注:甲5に係る出願のパテントファミリー出願である。)及び米国特許出願第13/646,166号(当合議体注:甲4に係る出願のパテントファミリー出願である。)に記載されているようなアクロマティックPG及びMTRの技法を適用する一応の動機付けはあると認められる。
しかしながら、甲1には、甲1発明に対して、甲4又は甲5に記載された「アクロマティックPG及びMTRの技法」のうちどのような構成(手段)を具体的にどのように適用するのかについての記載はない。
また、仮に上記適用を試みるにしても、甲1発明は、甲1の【0007】に記載されているように、「大きい回折角で高い回折効率」を可能とする点に技術的意義を有する発明であるところ、当該適用にあたり、具体的にどのようにすれば甲1発明における上記「大きい回折角で高い回折効率」を損なわないように改変できるのかについて手がかりとなる記載もない。
以上によれば、甲1発明において、当業者が、相違点1-1及び相違点1-2に係る本件特許発明1の構成を採用しようとする十分な動機付けはない。
(イ)甲1発明に甲5に記載された技術的事項を適用しても本件特許発明1に至らないこと
甲5に記載された、「3TR HW-B」(【0110】【表3】)の各層は、「開始角φ0」、「ねじれ角φ1」及び「ねじれ角φ2」が一定値であるから、液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化した面内配向パターンを有していないし、液晶配向パターンにおける液晶化合物由来の光学軸の向きが面内で180°回転する1周期の長さが観念できない(特に相違点1-2)。また、上記「3TR HW-B」は、「開始角φ0」、「ねじれ角φ1」及び「ねじれ角φ2」が一定値であるから、一方向に沿って厚さ方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡で観察した断面画像において、一方の表面から他方の表面に延在する明部および暗部を有しておらず、また、暗部が、角度が変化する角度の変化点を2か所以上有しておらず、さらに、厚さ方向において、暗部の傾斜方向が異なる領域を有していない(特に相違点1-1)。
そうすると、「光学異方性層」が「液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有する」という構成を有する甲1発明に、甲5に記載の上記「3TR HW-B」をそもそも適用できないというべきであり、仮に適用したとしても、上記相違点1-1及び相違点1-2に係る本件特許発明1の構成には至らない。そして、この結論は、その他の甲号証(甲2~甲11)に記載された事項を検討しても変わらない。
(ウ)相違点1-1及び相違点1-2に係る構成が設計事項ともいえないこと
本件特許発明1における相違点1-1及び相違点1-2に係る構成は、液晶回折素子の「回折効率の波長依存性」を小さくするために採用されたものであって(本件明細書の【0013】参照)、このような技術的知見は、特許異議申立人が提出した甲1~甲11には記載されておらず、また、当該事項が公知技術又は周知技術であることを示す証拠を発見することもできない。したがって、相違点1-1及び相違点1-2に係る本件特許発明1の構成が設計事項であるともいえない。
(エ)まとめ
上記(ア)~(ウ)によれば、甲1発明において、上記相違点1-1及び相違点1-2に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
ウ 小括
本件特許発明1は、甲1~甲11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件特許発明2~18について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2~18は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2~18は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、上記2のとおり、本件特許発明1が甲1~甲11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件特許発明2~18も甲1~甲11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)まとめ
以上のとおりであるから、請求項1~18に係る特許は、特許法29条の規定に違反してされたものではない。
2 甲2を主引用例とする進歩性欠如(申立理由1-2)について
(1)甲2に記載された発明
甲2には、実施例5の光学素子([0106]~[0107]、[0117]、[0141]、[0144]~[0152]、[0158][表1]及び[図16]参照)に係る、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「3層の光学異方性層を備える光学素子であって、
第1光学異方性層および第3光学異方性層が、断面SEM像において明暗線が界面の法線に傾いた傾斜光学異方性層217、218であり、第1および第3光学異方性層の間に配置された第2光学異方性層219が非傾斜光学異方性層であり、
前記第1光学異方性層は下記の組成物A-7から形成され、
前記第2光学異方性層は下記の組成物A-1から形成され、
前記第3光学異方性層は下記の組成物A-8から形成され、
前記第1光学異方性層および第3光学異方性層は、最終的に液晶の△n940×厚さ=Re(940)が470nmであり、第2光学異方性層は△n940×厚さ=(Re(940))が564nmであり、
前記第1光学異方性層の水平回転配向パターンにおいて、1周期は、中心部で非常に大きく、中心から1.0mmの距離で9.0μm、中心から2.5mmの距離で4.5μm、中心から4.0mmの距離で3.0μmであり、外方向に向かって周期が短くなっており、
前記第1光学異方性層の厚さ方向の捩れ角は右捩れ130°、前記第2光学異方性層の厚さ方向の捩れ角は0゜、前記第3光学異方性層の厚さ方向の捩れ角は左捩れ130゜であり、前記第1光学異方性層と前記第3光学異方性層の捩れの方向は逆であり、
SEMによる断面像において、前記第1光学異方性層および前記第3光学異方性層では、光学異方性層下界面の法線に対し、斜めに傾斜した明暗線が観察され、前記第2光学異方性層では、法線に沿って延びる明暗線が観察され、前記第1および前記第3の光学異方性層において、中心から外側に向かって明暗線の法線に対する傾斜角度は小さくなっており、前記第1光学異方性層と前記第3光学異方性層との法線に対する明暗線の傾き方向は逆であり、明暗線のパターンは前記第1光学異方性層、前記第2光学異方性層および前記第3光学異方性層ともに中心から外側に向かって周期が短くなる様子が観察される、光学素子。
<組成物A-7>
液晶化合物L-1 100.00質量部
カイラル剤A 0.19質量部
重合開始剤(BASF製、Irgacure(登録商標)907)
3.00質量部
光増感剤(日本化薬製、KAYACURE DETX-S)
1.00質量部
レベリング剤T-1 0.08質量部
メチルエチルケトン 2840.00質量部
<組成物A-1>
液晶化合物L-1 100.00質量部
重合開始剤(BASF製、Irgacure(登録商標)907)
3.00質量部
光増感剤(日本化薬製、KAYACURE DETX-S)
1.00質量部
レベリング剤T-1 0.08質量部
メチルエチルケトン 2840.00質量部
<組成物A-8>
液晶化合物L-1 100.00質量部
カイラル剤B 0.32質量部
重合開始剤(BASF製、Irgacure(登録商標)907)
3.00質量部
光増感剤(日本化薬製、KAYACURE DETX-S)
1.00質量部
レベリング剤T-1 0.08質量部
メチルエチルケトン 2840.00質量部」
(当合議体注:「液晶化合物L-1」、「カイラル剤A」、「カイラル剤B」及び「レベリング剤T-1」の構造式は省略した。)
(2)本件特許発明1について
ア 対比・一致点・相違点
本件特許発明1と甲2発明を対比すると、両者は、以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。
(一致点)
「液晶化合物を含む液晶組成物を用いて形成された光学異方性層を備え、
前記光学異方性層は、前記液晶化合物の少なくとも一部が厚さ方向に捩れ配向しており、かつ、前記液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有する、透過型の回折素子として作用するものであり、
前記光学異方性層は、前記一方向に沿って厚さ方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡で観察した断面画像において、一方の表面から他方の表面に延在する明部および暗部を有し、かつ、前記暗部が、角度が変化する角度の変化点を2か所以上有し、さらに、厚さ方向において、前記暗部の傾斜方向が異なる領域を有する、
液晶回折素子。」
(相違点2-1)
本件特許発明1は、「前記液晶配向パターンにおける前記液晶化合物由来の光学軸の向きが面内で180°回転する長さを1周期とした際に、前記1周期の長さが一定である」のに対し、甲2発明は、そのような構成を有しない点。
イ 判断
相違点2-1について検討する。
(ア)動機付けについて
甲2発明が解決しようとする課題は、「面内における回折効率の平均化を図り、平均的な回折効率を向上させた光学素子」を「提供すること」([0006])であり、その課題を解決するための手段は、「光学素子」を、「液晶化合物に由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化した面内配向パターンを有する光学異方性層を厚さ方向に複数備え」、「上記光学異方性層は、上記一方向において上記光学軸の向きが180°回転するまでの長さが互いに異なる領域を有し」、「上記複数の光学異方性層の少なくとも1層は、上記一方向に沿って上記厚さ方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡で観察した断面像において、上記光学軸の向きに由来した明線および暗線の対が上記一方向に沿って複数あり、上記明線および暗線の対が上記光学異方性層の界面の法線に対して互いに異なる傾き角度で傾いた領域を有する傾斜光学異方性層である」([0007]。なお、下線は強調のため当合議体が付した。以下同じ。)という構成とすることであると認められる。
ここで、「光学異方性層」が、「上記一方向に沿って上記厚さ方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡で観察した断面像において、上記光学軸の向きに由来した明線および暗線の対が上記一方向に沿って複数あり、上記明線および暗線の対が上記光学異方性層の界面の法線に対して互いに異なる傾き角度で傾いた領域を有する傾斜光学異方性層」であるためには、当該「光学異方性層」が「上記一方向において上記光学軸の向きが180°回転するまでの長さが互いに異なる領域」を有することが必要である([0022]、[図2]参照)から、「課題を解決するための手段」である「傾斜光学異方性層」を必須の構成とする甲2発明において、「上記一方向において上記光学軸の向きが180°回転するまでの長さ」を「一定」にすることは想定されていないといえる。なお、上記下線部は、本件明細書の段落【0103】の記載からも理解できる事項である。また、甲2発明のような光学素子において、一方向において光学軸の向きが180°回転するまでの長さを一定することは、特許異議申立人が提出した甲1~甲12に記載も示唆もされていない。
そうすると、甲2発明において、当業者が、相違点2-1に係る本件特許発明1の構成を採用しようとする動機付けはないというべきである。
(イ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書105~108頁において、「甲2発明の構成要件の1つである1周期の長さが一定でない構成は、甲2発明の課題とは直接的に関係しないといえる」、「甲2発明の課題を解決するためには、2層以上の光学異方性層の積層構造を有し、そのうち、すくなくとも1層が傾斜光学異方性層であることが重要である一方で、1周期の長さが一定でない構成は課題解決に対する貢献度が低いといえる」などと主張する。
しかしながら、甲2発明における「傾斜光学異方性層」は、「上記明線および暗線の対が上記光学異方性層の界面の法線に対して互いに異なる傾き角度で傾いた領域を有する」ものであるところ、上記(ア)で説示したとおり、「上記明線および暗線の対が上記光学異方性層の界面の法線に対して互いに異なる傾き角度で傾いた領域を有する傾斜光学異方性層」であるためには、「光学異方性層」が「上記一方向において上記光学軸の向きが180°回転するまでの長さが互いに異なる領域」を有することが必要であるから、甲2発明の「1周期の長さが一定でない構成」が、甲2発明の課題とは直接的に関係しない、又は課題解決に対する貢献度が低いなどということはできない。
したがって、上記主張は採用できない。
(ウ)まとめ
上記(ア)及び(イ)によれば、甲2発明において、相違点2-1に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
ウ 小括
本件特許発明1は、甲2、甲1及び甲3~甲12に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件特許発明2~18について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2~18は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2~18は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、上記2のとおり、本件特許発明1が甲2、甲1及び甲3~甲12に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件特許発明2~18も甲2、甲1及び甲3~甲12に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)まとめ
以上のとおりであるから、請求項1~18に係る特許は、特許法29条の規定に違反してされたものではない。
第5 むすび
請求項1~18に係る特許は、いずれも、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては取り消すことはできない。
また、他に請求項1~18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2026-700009