特許異議申立
2025-700335
蓄電装置用外装材及びこれを用いた蓄電装置
- 審判番号
- 2025-700335
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-095427
- 登録番号
- 7567214
- 請求日
- 2025年03月24日
- 審決日
- 2025年06月18日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】TOPPANホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】黒木 義樹
- 【権利者代理人】鈴木 洋平
- 【異議申立人】松山 徳子
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 岩間 直純
- 審判官 須原 宏光
- 分類
- P1651.113-Y (H01M) / P1651.121-Y (H01M) / P1651.537-Y (H01M) / P1651.536-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7567214号発明「蓄電装置用外装材及びこれを用いた蓄電装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7567214号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7567214号の請求項1~6係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という。)についての出願は、2020年(令和2年)6月1日を出願日とする出願であって、令和6年10月7日にその特許権の設定登録がされ、令和6年10月16日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許1~6に対して、令和7年3月24日に特許異議申立人 松山 徳子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~6に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」などという。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも基材、外層接着剤層、バリア層、及び、シーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって、
上記基材が単層構造であり且つ半芳香族ポリアミドから成り、この基材単体から長さ20mm、幅10mmのサンプルを作成し、このサンプルに150℃環境下で一定加重5Nを3時間かけ続けるクリープ試験を行ったとき、MD方向の伸び量とTD方向の伸び量のいずれもが、3mm以下であることを特徴とする蓄電装置用外装材。
【請求項2】
MD方向の上記伸び量とTD方向の上記伸び量との差が2mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項3】
上記基材が二軸延伸フィルムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項4】
上記外層接着剤層がポリエステルポリウレタンから成ることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項5】
全固体電池用である、請求項1~4のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項6】
蓄電装置本体と、
上記蓄電装置本体から延在する電流取出し端子と、
上記電流取出し端子を挟持し且つ上記蓄電装置本体を収容する、請求項1~5のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材と、
を備える蓄電装置。」
第3 異議申立理由の概要
1 申立人による特許異議申立理由の概要
申立人による特許異議申立理由の概要は以下のとおりである。
(1) 理由A
請求項1~3、6
条文 特許法第29条第1項第3号(同法第113条第2号)
証拠 甲第1号証、及び、甲第2号証
(2) 理由B
請求項1~6
条文 特許法第29条第2項(同法第113条第2号)
証拠 甲第1号証、甲第2号証、及び、甲第3号証
(3) 理由C
請求項1~6
条文 特許法第36条第6項第2号(同法第113条第4号)
(4) 理由D
請求項1~6
条文 特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号)
(5) 理由E
請求項1~6
条文 特許法第36条第4項第1号(同法第113条第4号)
2 証拠方法
申立人が提出した証拠は、以下のとおりである。(以下、甲第1号証~甲第3号証をその証拠番号に従い「甲1」などということがある。)
甲第1号証:特開2013ー214459号公報
甲第2号証:特開2009ー120692号公報
甲第3号証:国際公開第2020/027333号
第4 当審の判断
1 理由A(新規性)について
(1) 本件明細書の記載等
本件特許明細書には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ア
「【0020】
<基材11>
基材11は、蓄電装置を製造する際のシール工程における耐熱性を付与し、成型加工や流通の際に起こりうるピンホールの発生を抑制する役割を果たすと共に、蓄電装置を高温環境下で使用しまたは保管した際の内部圧力に耐えて、その後の変形を抑制する役割を果たす。
【0021】
このような役割を果たすため、基材11は、単層構造で、しかも、この単層構造の基材11を他の層に積層することがない単体の状態で、フィルム製膜時の流れ方向(MD方向)を長さ方向、上記流れ方向に直交する方向(TD方向)を幅方向として、長さ20mm、幅10mmのサンプルを作成し、このサンプルに150℃環境下で一定加重5Nを3時間かけ続けるクリープ試験を行ったとき、その長さ方向の伸び量(MD方向伸び量)が3mm以下であることが必要である。
【0022】
また、TD方向を長さ方向、MD方向を幅方向として、同様に長さ20mm、幅10mmのサンプルを作成し、このサンプルに150℃環境下で一定加重5Nを3時間かけ続けるクリープ試験を行ったとき、その長さ方向の伸び量(TD方向伸び量)が3mm以下であることが必要である。
【0023】
このようにクリープ試験のMD方向伸び量とTD方向伸び量のいずれもが3mm以下であるため、蓄電装置を高温環境下で使用しまたは保管した場合にも、蓄電装置の膨張圧力に耐えて、その変形を抑制する。もちろん、この蓄電装置を常温に戻した後においても変形が抑制されるのである。
【0024】
なお、クリープ試験のMD方向伸び量とTD方向伸び量との差は2mm以下であることが望ましい。MD方向の伸び量とTD方向の伸び量との差が2mm以下の場合、その一方に上記膨張圧力が集中することを防止して、蓄電装置の変形を一層抑制することが可能とな
るのである。
【0025】
このような基材11としては、半芳香族ポリアミドから成るフィルムが好適である。半芳香族ポリアミドは、そのモノマーとして芳香族モノマーと脂肪族モノマーの両方を使用したポリアミドで、脂肪族モノマーだけを使用した脂肪族ポリアミドに比較して耐熱性に優れるという特徴がある。芳香族モノマーとしては、テレフタル酸、ヘキサメチレンイソフタルアミド、あるいは2-メチルペンタメチレンテレフタルアミド等が使用されている。また、モノマーの一部としてこれら芳香族モノマーを使用した半芳香族ポリアミドとしては、ユニチカ社製:ユニアミドEx、東レ社製:HT-ナイロン、三井化学社製:Ariene、BASF社製:Ultraamid等を例示できる。
【0026】
なお、この基材11としては、二軸延伸されたフィルムを使用することが望ましい。基材が二軸延伸フィルムの場合には、優れた冷間成型性能を発揮するため、例えば、ラミネート型のリチウムイオン電池の外装材として好適に使用できる。」
イ
「【実施例】
【0096】
以下、実施例に基づいて本開示をより具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0097】
[使用材料]
実施例及び比較例で使用した材料を以下に示す。
【0098】
基材11として、3種類のフィルムを準備した。
【0099】
まず、第1の基材11は、同時二軸延伸された半芳香族ポリアミドフィルム(ユニチカ社製、商品名:ユニアミドEx、厚さ:25μm)である。
【0100】
また、第2の基材11は、逐次二軸延伸された易成型ポリエチレンテレフタレートフィルム(ユニチカ社製、厚さ:25μm)である。
【0101】
そして、第3の基材11は、チューブラー法で製造されたポリブチレンテレフタレートフィルム(興人フィルム・アンド・ケミカル社製、商品名:ボブレット、厚さ:25μm)である。」
ウ
「【0116】
【表1】
[図:0001424625000001.jpg]
」
(2) 各甲号証について
ア 甲第1号証の記載と甲1発明
(ア) 甲1号証の記載
甲1には、図面とともに以下の事項が記載されている。
a
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
最外層に配して樹脂フィルムからなる基材層と、最内層に配して熱接着性樹脂からなる熱接着層と、前記基材層と前記熱接着層との間に配して金属箔からなるバリア層と、前記基材層と前記バリア層とを接着する接着層とを積層して構成される電気化学セル用包装材料であって、前記基材層が、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12のいずれかからなるポリアミド又は共重合ポリアミドで構成され、前記接着層が、共重合ポリアミド、酸変性ポリオレフィン、金属変性ポリオレフィン、共重合ポリアミドと酸変性ポリオレフィンとの混合樹脂、共重合ポリアミドと金属変性ポリオレフィンとの混合樹脂、共重合ポリアミドとポリエステルとの混合樹脂、ポリエステル、ポリエステルと酸変性ポリオレフィンとの混合樹脂、ポリエステルと金属変性ポリオレフィンとの混合樹脂、から選ばれた少なくとも1種の樹脂で構成されることを特徴とする電気化学セル用包装材料。」
b
「【発明の効果】
【0014】
本発明によると、接着層が、共重合ポリアミド、酸変性ポリオレフィン、金属変性ポリオレフィン、共重合ポリアミドと酸変性ポリオレフィンとの混合樹脂、共重合ポリアミドと金属変性ポリオレフィンとの混合樹脂、共重合ポリアミドとポリエステル、ポリエステル、ポリエステルと酸変性ポリオレフィンとの混合樹脂、ポリエステルと金属変性ポリオレフィンとの混合樹脂、から選ばれた少なくとも1種の樹脂で構成され、基材層は、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12のいずれかからなるポリアミド又は共重合ポリアミドで構成される。これにより、接着層はドライラミネーション用の接着剤と比較して展延性に優れ、高湿度の条件下においても耐久性が高い。また、接着層はヒートシール時にかかる熱に対しても熱劣化し難い。このため、基材層とバリア層との間のラミネーション強度の低下を抑えてデラミネーションの発生を防ぐことができる。」
c
「【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態に係る電気化学セル用包装材料について説明する。図1は本実施形態のリチウムイオン電池121の斜視図であり、図2は図1中のA-A断面図である。
【0017】
リチウムイオン電池121は包装体120内部に電解液を含むリチウムイオン電池本体122を収納して構成される。包装体120はリチウムイオン電池本体122を収納する収納部120aと収納部120aを覆うシート状の蓋部120bにより構成される。
【0018】
包装体120は収納部120aと蓋部120bが重なる周縁の熱接着部120cが熱接着され、内部が封止されている。このとき、リチウムイオン電池本体122に連結される正極タブ123a及び負極タブ123bは熱接着部120においてタブフィルム(不図示)を介在させて収納部120aと蓋部120bにより挟持されながら外部に延出している。
【0019】
リチウムイオン電池本体122は、正極活物質及び正極集電体から成る正極と、負極活物質及び負極集電体から成る負極と、正極及び負極間に充填される電解液とを含むセルにより構成される。セルは正極集電体が延出する正極板と負極集電体が延出する負極板を複数積層して構成される。正極板と負極板はセパレータを介して交互に複数積層される。積層された複数の正極集電体、負極集電体は重畳してそれぞれ一枚の正極タブ123a、負極タブ123bに連結している。
【0020】
図3は収納部120aと蓋部120bを形成する包装材料110の層構成を示す概略断面図であり、包装材料110は基材層112とバリア層114と熱接着層116とが順次積層して構成される。基材層112とバリア層114は接着層113を介して接着され、バリア層114と熱接着層116は酸変性ポリオレフィン層115を介して接着されている。バリア層114の両面には化成処理が施され、バリア層114と酸変性ポリオレフィン層115及びバリア層114と接着層113との層間ラミネーション強度が高められている。
【0021】
図2に示すように、収納部120aは矩形状に断裁された包装材料110をプレス成型して作製される。その成型工程は、包装材料110の基材層112側をメス型の成型金型と当接させて載置した後、熱接着層116側からオス型の成型金型で所定の成型深さに冷間成型する。収納部120と蓋部120bは対向する熱接着層116において熱接着している。
【0022】
基材層112は透過性を有する樹脂フィルムからなり、包装体120に高い耐突き刺し(耐ピンホール)性、絶縁性、作業性等を付与する。また、エンボス成型する際のプレスに耐え得る展延性を有する必要がある。
【0023】
基材層112はポリアミドの樹脂フィルムを任意に選択して使用することができる。ポリアミドとして、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12を用いて形成することができる。また、共重合ポリアミドを用いても形成することができる。また、基材層112は異なる樹脂種で多層化してもよい。また、基材層112は2軸延伸処理を行うことが好ましい。これにより、樹脂フィルムが配向結晶化して基材層112の耐熱性を向上させることができる。
【0024】
共重合ポリアミドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、[NH(CH2)5CO]、[NH(CH2)6NHCO(CH2)4CO]、[NH(CH2)6NHCO(CH2)8CO]、[NH(CH2)10CO]、[NH(CH2)11CO]、から選ばれた少なくとも2種を構造単位とする結晶性および非晶性の共重合ポリアミドを挙げることができる。
【0025】
具体的にはナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、ナイロン46などの脂肪族系ポリアミド、テレフタル酸及び/又はイソフタル酸に由来する構成単位を含むナイロン6I、ナイロン6T、ナイロン6IT、ナイロン6I6T(Iはイソフタル酸、Tはテレフタル酸を表す)等のヘキサメチレンジアミン-イソフタル酸-テレフタル酸共重合ポリアミド、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)などの芳香族を含むポリアミド、ポリアミノメチルシクロヘキシルアジパミド(PACM6)などの脂環系ポリアミド、さらにラクタム成分や、4,4’-ジフェニルメタン-ジイソシアネートなどのイソシアネート成分を共重合させたポリアミド、共重合ポリアミドとポリエステルやポリアルキレンエーテルグリコールとの共重合体であるポリエステルアミド共重合体やポリエーテルエステルアミド共重合体及びこれらの混合物や共重合体などが挙げられる。
【0026】
バリア層114は金属箔からなり、外部からリチウムイオン電池121の内部に水蒸気が浸入することを防止する。また、バリア層114単体のピンホール、及び加工適性(パウチ化、エンボス成型性)を安定化し、耐ピンホール性をもたせるために厚さ15μm以上のアルミニウムを用いる。」
d
「図3
[図:0001424625000002.jpg]
」
(イ) 甲1発明
請求項1の「最外層に配して樹脂フィルムからなる基材層と、最内層に配して熱接着性樹脂からなる熱接着層と、前記基材層と前記熱接着層との間に配して金属箔からなるバリア層と、前記基材層と前記バリア層とを接着する接着層とを積層して構成される電気化学セル用包装材料」、【0020】の「包装材料110は基材層112とバリア層114と熱接着層116とが順次積層して構成される。基材層112とバリア層114は接着層113を介して接着され、バリア層114と熱接着層116は酸変性ポリオレフィン層115を介して接着されている。」、及び、図3より、甲1には「最外層から、基材層、接着層、バリア層、及び、熱接着層の順で積層して構成される電気化学セル用包装材料」が記載されていると認められる。また、【0057】の記載から、電気化学セル用梱包材料として、二次電池が含まれる。
【0023】の記載から、基材層は、ポリアミド樹脂フィルムであり、ポリアミドとして共重合ポリアミドを用いることができ、【0025】の記載から、脂肪族系ポリアミド等と芳香族ポリアミドであるテレフタル酸との共重合ポリアミドが記載されていると認められるから、基材層として半芳香族ポリアミドが記載されていると認められる。
よって、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「最外層から、基材層、接着層、バリア層、及び、熱接着層の順で積層して構成される電気化学セル用包装材料であって、
前記電気化学セルには二次電池が含まれ、
前記基材層は、半芳香族ポリアミドからなる、
電気化学セル用包装材料。」
イ 甲第2号証の記載
甲2には以下の事項が記載されている。
(ア)
「【0037】
また、これらの半芳香族ポリアミド樹脂は、合成によって得られてもあるいは市販品を使用してもよい。市販品としては、下記実施例で使用されるものが使用できる。また、上記に加えて、PA6T/6Iでは、Arlen(三井化学製)がある。PA6T/6I/66では、Amodel(アモコエンジニアリングポリマーズ製)がある。PA6T/66では、HTnylon(東レ製)がある。PAMXD6では、レニー(三菱ガス化学製)がある。PA9Tでは、Genestar(クラレ製)がある。PA6T/M-5Tでは、ZytelHTN(DuPont製)がある。PA6T/6では、UltramidT(BASF製)がある。PAPACM12では、TrogamidCX(DegussaAG製)がある。なお、上記半芳香族ポリアミド樹脂の一部の分子構造を以下の表1に示す。
【0038】
[図:0001424625000003.jpg]
」
(3) 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「基材層」、「接着層」、「バリア層」、及び、「熱接着層」は、本件特許発明1の「基材」、「外層接着剤層」、「バリア層」、及び、「シーラント層」に相当する。また、甲1発明の電気化学セルには二次電池が含まれることから、甲1発明の「電気化学セル用包装材料」は、本件特許発明1の「蓄電装置用外装材」に相当する。
よって、甲1発明の「外層から、基材層、接着層、バリア層、及び、熱接着層の順で積層して構成される電気化学セル用包装材料」、及び、「前記電気化学セルには二次電池が含まれ」は、本件特許発明1の「少なくとも基材、外層接着剤層、バリア層、及び、シーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材」に相当する。
甲1発明の基材層は、半芳香族ポリアミドからなり、また、甲1には、基材層が複層からなることは記載されていないことから、甲1発明の基材層は、本件特許発明1と「上記基材が単層構造であり且つ半芳香族ポリアミドから成」る点で、共通する。
ただし、本件特許発明1の基材が「この基材単体から長さ20mm、幅10mmのサンプルを作成し、このサンプルに150℃環境下で一定加重5Nを3時間かけ続けるクリープ試験を行ったとき、MD方向の伸び量とTD方向の伸び量のいずれもが、3mm以下である」との条件を満たすのに対し、甲1発明の基材層には、前記条件を満たすことの特定がない点で相違する。
よって、本件特許発明1と甲1発明とでは、以下の点で一致及び相違する。
[一致点]
少なくとも基材、外層接着剤層、バリア層、及び、シーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって、
上記基材が単層構造であり且つ半芳香族ポリアミドから成る、
蓄電装置用外装材。
[相違点]
本件特許発明1の基材が「この基材単体から長さ20mm、幅10mmのサンプルを作成し、このサンプルに150℃環境下で一定加重5Nを3時間かけ続けるクリープ試験を行ったとき、MD方向の伸び量とTD方向の伸び量のいずれもが、3mm以下である」との条件を満たすのに対し、甲1発明の基材層には、前記条件を満たすことの特定がない点。
(4) 判断
前記相違点について検討する。
申立人は異議申立書において、甲1に記載の「ナイロン6I6T」は、甲2に開示されているようにArlen(三井化学製)と同系の組成物であり、上記相違点のパラメータを充足する蓋然性が高い旨指摘し、「本件特許発明1は、甲1に記載された発明と同一であるため、新規性、及び、進歩性を有さない。」と主張している。
前記(1)イ(【0099】)より、本件発明の詳細な説明の実施例には、半芳香族ポリアミドとしてユニチカ社製、商品名:ユニアミドEx、厚さ:25μm)を用いたものが記載されている。また、前記(1)ア(【0025】)より、本件発明の詳細な説明には、半芳香族ポリアミドの例示として「ユニチカ社製:ユニアミドEx」に加え、「東レ社製:HT-ナイロン、三井化学社製:Ariene、BASF社製:Ultraamid」が記載されている。
以上より、本件発明の詳細な説明には、「半芳香族ポリアミド」の例示として「三井化学社製:Ariene」が例示されているものの、実施例として、前記三井化学社製:Arieneを用いたものは記載されていない。
一方、前記(2)アより、甲1には、実施例として、実施例1、2、4、5、7、8、10、11に基材層として、2軸延伸のナイロン6、実施例6にナイロン6とナイロン66との混合樹脂、実施例9に軸延伸のナイロン6とナイロン66との共重合ポリアミドが記載されている(実施例3についてはその材料は不明。)のみで、半芳香族ポリアミドは実施例としては記載されておらず、甲1の発明の詳細な説明の【0023】~【0025】に、基材層として、「ポリアミドの樹脂フィルムを任意に選択して使用することができる」こと、ポリアミドとして共重合ポリアミドを用いても形成できること、共重合ポリアミドとして半芳香族ポリアミドであるナイロン6I6T等が挙げられることが記載されているのみである。
してみれば、甲1には、実施例から変更し得る多数のバリエーションの一つとして、半芳香族ポリアミドであるナイロン6I6Tが挙げられることが記載されているに過ぎない。
次に甲2には、「PA6T/6Iでは、Arlen(三井化学製)がある」と記載されているから、半芳香族ポリアミドであるナイロン6I6Tの一例として、「Arlen(三井化学製)」があることが把握される。一方、甲2は、甲1発明が前記相違点に係る条件を満たすことを証明する等、前記相違点が実質的な相違点ではないことを直接的に証明するものではない。
次に、本件発明の詳細な説明の実施例に例示された半芳香族ポリアミドは「三井化学社製:Ariene」であり、甲2に例示された半芳香族ポリアミド「Arlen(三井化学製)」とは表記が異なるが、仮に両者が同一のものであるとした場合について検討する。
本件発明の詳細な説明の実施例に記載された基材の材料は「ユニアミドEx」(厚み25μm)であり、当該材料を用いた場合に、前記相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項が満たされる旨の記載が認められる。甲1発明が基材として半芳香族ポリアミドを用いるという点では、前記本件発明の詳細な説明の実施例と類似の材料を用いているものの、どの程度の厚みとするかは不明であることに加えて、前記実施例と異なる材料、異なる製造方法による基材を用いるものである以上、両者は異なるものと解さざるをえず、甲1発明が「この基材単体から長さ20mm、幅10mmのサンプルを作成し、このサンプルに150℃環境下で一定加重5Nを3時間かけ続けるクリープ試験を行ったとき、MD方向の伸び量とTD方向の伸び量のいずれもが、3mm以下である」ものであるとは特定することはできない。
よって、本件発明1は、甲1に記載された発明とはいえない。
(5) 申立人の主張について
申立人は、異議申立書において、「甲1に記載の『ナイロン6I6T』は、Arlen(三井化学製)と同系の組成物であり、上記相違点のパラメータを充足する蓋然性が高い。」と主張している。
しかしながら、(4)で検討したとおりであって、甲1に記載のナイロン6I6Tが、Arlen(三井化学製)と同系の組成物であったとしても、前記相違点のパラメータを充足することを特定することはできない。
よって、申立人の主張は採用することができない。
(6) 小括
以上から、本件特許発明1は甲第1号証に記載された発明ではない。本件特許発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を追加して限定したものである、本件特許発明2~6についても同様である。
2 理由B(進歩性)について
前記1(3)で検討したとおり、本件特許発明1と甲1発明とでは、前記相違点で相違する。そして、甲1及び甲2には、前記相違点に係る基材が「この基材単体から長さ20mm、幅10mmのサンプルを作成し、このサンプルに150℃環境下で一定加重5Nを3時間かけ続けるクリープ試験を行ったとき、MD方向の伸び量とTD方向の伸び量のいずれもが、3mm以下であること」は記載も示唆もされていない。
よって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
本件特許発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を追加して限定したものである、本件特許発明2~6についても同様である。
3 理由C(明確性)について
申立人は異議申立書において、本件特許発明1の「C この基材単体から長さ20mm、幅10mmのサンプルを作成し、このサンプルに150℃環境下で一定加重5Nを3時間かけ続けるクリープ試験を行つたとき、MD方向の伸び量とTD方向の伸び量のいずれもが、3mm以下であること」(以下「構成C」という。)に関し、「サンプルのMD方向の伸び量とTD方向の伸び量は、厚みの数値や試験片の形状によって変化するのが技術常識であるので、厚みが記載されていない上記構成Cは不明確である。」と主張している。
しかしながら、前記構成Cは、前記構成Cで特定された条件を満たす限りにおいては、厚みは任意であることを特定したものと解されるから、不明確ではない。
本件特許発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を追加して限定したものである、本件特許発明2~6についても同様である。
4 理由D(実施可能要件)について
申立人は異議申立書において、まず、
「上述したように、本件特許発明1において規定されている「『C この基材単体から長さ20mm、幅10mmのサンプルを作成し、このサンプルに150℃環境下で一定加重5Nを3時間かけ続けるクリープ試験を行つたとき、MD方向の伸び量とTD方向の伸び量のいずれもが、3mm以下であること』は不明確である。」
と主張しているが、前記3のとおり、前記本件特許発明1の記載は明確である。
次に、申立人は、
「また、本件特許明細書によると、実施例1の外装材と、実施例2の外装材では全く同じ基材を用い、かつ、層構成も同じであるにも関わらず、基材層のMD方向の伸び量とTD方向の伸び量との差において、2.5倍以上も数値が異なっている(段落[0099]、[0106]~[0110]、[0116]の表1)。
してみると、上記構成Cを充足する基材を選定するのに過度の試行錯誤を要するのは明白である。」
と主張している。
しかしながら、本件発明の詳細な説明には、具体的な実施例が記載されており、申立人が主張する「実施例1の外装材と、実施例2の外装材では全く同じ基材を用い、かつ、層構成も同じであるにも関わらず、基材層のMD方向の伸び量とTD方向の伸び量との差において、2.5倍以上も数値が異なっている」としても、実施例1、2のどちらも本件特許発明1~6の実施例に該当するものであるから、実施にあたり過度の試行錯誤が要するものとはいえず、本件特許発明1~6を実施できないとはいえない。
5 理由E(サポート要件)について
申立人は、異議申立書において、
「本件特許明細書の実施例1、2のように、全く同じ基材を用い、かつ、層構成も同じであっても、基材層のMD方向の伸び量とTD方向の伸び量との差において大きな差が生じるのであるから、上記構成Bについて、あらゆる『半芳香族ポリアミドからなる基材』において本件特許発明の課題を解決できると認識することはできない。」
と指摘し、本件特許発明1~6はサポート要件を充足していない旨主張している。
しかしながら、そもそも本件特許発明1は、あらゆる「半芳香族ポリアミドからなる基材」が構成Bを満たすことを特定しているわけではなく、「半芳香族ポリアミドからなる基材」の中でも構成Bを満たす基材を特定しているのであり、また、実施例1,2について、前記の指摘のとおりであるとしても、実施例1,2は、何れも本件特許発明1に含まれ、その記載より「高温環境下で長期間使用あるいは保管した後にもその変形が生じ難い蓄電装置とその蓄電装置用外装材を提供すること」(【0007】)との課題を解決しているものと認められるから、本件特許発明1~6は、発明の詳細な説明の記載にしたものといえる。
よって、前記申立人の主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおり、本件請求項1~6に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700335