特許異議申立
2024-701049
蓄電装置用外装材及びそれを用いた蓄電装置
- 審判番号
- 2024-701049
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-184842
- 登録番号
- 7474734
- 請求日
- 2024年10月24日
- 審決日
- 2025年01月14日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】TOPPANホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】黒木 義樹
- 【権利者代理人】鈴木 洋平
- 【権利者代理人】和田 雄二
- 【権利者代理人】阿部 寛
- 【異議申立人】松山 徳子
- 審判長/審判官
- 審判長 高野 洋
- 審判官 寺谷 大亮
- 審判官 丸山 高政
- 分類
- P1651.113-Y (H01M) / P1651.121-Y (H01M) / P1651.536-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7474734号発明「蓄電装置用外装材及びそれを用いた蓄電装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7474734号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7474734号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成29年1月6日に出願した特願2017-974号の一部を令和3年11月12日に新たな特許出願としたものであって、令和6年4月17日にその特許権の設定登録がされ、同年4月25日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対し、令和6年10月24日に特許異議申立人 松山 徳子(以下「特許異議申立人」という。)が特許異議の申立てをした。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~6の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明6」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。なお、後の参照の便宜のため、請求項1の発明特定事項をA~Cに分説し、「発明特定事項A」のように参照する。
「【請求項1】
A 少なくとも基材層、接着層、金属箔層、シーラント接着層及びシーラント層がこの順で積層された構造を有し、
B 前記基材層は、
B1a 突刺し強度が0.6N/μm以上であるポリエステルフィルムからなり、
B2 かつ160℃での熱処理後の50%伸長時応力値が75MPa以上であるポリエステルフィルムからなる層であるとともに
B3a 下記式(1)で示されるΔAが10%以上であり、
B1b 前記突刺し強度は、JIS Z1707に規定される方法による測定値であって、直径1.0mmであり且つ先端半径0.5mmであるプローブを使用して速度50mm/分で測定した5点の平均値を、前記基材層の厚さで除した値である、
C 蓄電装置用外装材。
B3b ΔA=(160℃での熱処理後の破断伸度)-(160℃での熱処理前の破断伸度)・・・(1)
【請求項2】
少なくとも基材層、接着層、金属箔層、シーラント接着層及びシーラント層がこの順で積層された構造を有し、
前記基材層は、突刺し強度が0.6N/μm以上であるポリエステルフィルムからなり、かつ200℃での熱処理後の50%伸長時応力値が75MPa以上であるポリエステルフィルムからなる層であるとともに、下記式(1)で示されるΔAが10%以上であり、
前記突刺し強度は、JIS Z1707に規定される方法による測定値であって、直径1.0mmであり且つ先端半径0.5mmであるプローブを使用して速度50mm/分で測定した5点の平均値を、前記基材層の厚さで除した値である、蓄電装置用外装材。
ΔA=(160℃での熱処理後の破断伸度)-(160℃での熱処理前の破断伸度)・・・(1)
【請求項3】
前記基材層と前記接着層との間に設けられた易接着処理層を更に備える、請求項1又は2に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項4】
前記金属箔層の両面に設けられた腐食防止処理層を更に備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項5】
前記シーラント層は、静摩擦係数が0.10~0.30である表面を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項6】
電極を含む電池要素と、前記電極から延在するリードと、前記リードを挟持し且つ前記電池要素を収容する容器とを備え、
前記容器は請求項1~5のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材から、前記シーラント層が内側となるように形成されている、蓄電装置。」
第3 特許異議申立理由の概要
1 申立理由
特許異議申立人が主張する特許異議申立理由の概要は、次のとおりであると認められる。
(1)申立理由A(新規性)
請求項1~6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、請求項1~6に係る特許は、同法29条1項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
(2)申立理由B(進歩性)
請求項1~4、6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、請求項5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~6に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
(3)申立理由C(実施可能要件)
本件特許の発明の詳細な説明の記載は、次の点で、請求項1~6に係る発明を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、請求項1~6に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(同法113条4号)
発明の詳細な説明の記載は、どのような材料、方法により得られる基材層を選択すれば、請求項1に係る発明の基材層の構成を満たし得るのか、出願時の技術常識を考慮しても当業者が理解できない。請求項2~6に係る発明も同様である。
2 証拠方法
特許異議申立人が特許異議申立書に添付した証拠方法は、以下のとおりである(以下、甲第1号証、甲第2号証を、「甲1」等という。)。
甲1:特開2016-162622号公報
甲2:国際公開第2015/156327号
第4 当審の判断
1 本件発明の基材層の技術的意義
申立理由A~Cについて判断するにあたり、はじめに本件発明の基材層の技術的意義について検討する。
(1)本件明細書の記載事項
本件明細書には、次の事項が記載されている。なお、下線は強調のために当審で付与したものである(以下、同じ。)。
ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置用外装材及びそれを用いた蓄電装置に関する。
【背景技術】
・・・(中略)・・・
【0004】
アルミラミネートタイプのリチウムイオン電池は、例えば、外装材の一部に冷間成型によって凹部を形成し、該凹部内に電池内容物を収容し、外装材の残りの部分を折り返して縁部分をヒートシールで封止したエンボスタイプのリチウムイオン電池が知られている。(例えば、特許文献1参照)。このようなリチウムイオン電池では、冷間成型によって形成される凹部を深くするほど、より多くの電池内容物を収容できるため、エネルギー密度をより高くすることができる。
・・・(中略)・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり、多層フィルムからなる蓄電装置用外装材に対しては所望の深さの凹部を形成できる十分な深絞り成型性が求められている。本発明は、十分な深絞り成型性を有する蓄電装置用外装材及びそれを用いた蓄電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、多層フィルムを構成する基材層に着目し、そして、この基材層の種々の物性のうち、多層フィルムの深絞り成型性に影響を与える物性について検討したところ、突刺し強度が所定の値以上である基材層を採用することによって十分な深絞り成型性を有する多層フィルムが得られることを見出した。これに基づき、本発明者らは以下の発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明に係る蓄電装置用外装材(以下、場合により単に「外装材」という。)は、少なくとも基材層、接着層、金属箔層、シーラント接着層及びシーラント層がこの順で積層された構造を有し、上記基材層は、突刺し強度が0.6N/μm以上であるポリエステルフィルムからなる層である。
【0009】
本発明に係る外装材によれば、特定の積層構造を有し且つこれに含まれる基材層の突刺し強度が0.6N/μm以上であることにより、十分な深絞り成型性が達成される。ここでいう突刺し強度は、JIS Z1707に規定される方法による測定値であって、直径1.0mmであり且つ先端半径0.5mmであるプローブを使用して速度50mm/分で測定した5点の平均値を意味する。
【0010】
本発明者らは、多層フィルムの製造プロセスにおいて加えられる熱に更に着目し、なるべく低い温度(例えば160℃程度)の熱履歴で多層フィルムを製造することを検討した。多層フィルムからなる外装材はフィルム同士を貼り合わせる熱ラミネート工程などを経て製造される。なるべく低い温度の熱履歴で多層フィルムを製造することができれば、多層フィルムを構成する各層が熱によってダメージを受けることを抑制するとともに製造プロセスの省エネルギー化を図ることができる。かかる観点から、上記基材層は、160℃での熱処理後の50%伸長時応力値が75MPa以上であるポリエステルフィルムからなる層であることが好ましい。なお、ここでいう「160℃での熱処理」は160℃に保たれた熱間中で基材層(ポリエステルフィルム)を30分間加熱することである。
【0011】
上記基材層は、200℃での熱処理後の50%伸長時応力値が75MPa以上であるポリエステルフィルムからなる層であることがより好ましい。この条件を満たす基材層を有する外装材は、比較的低い温度のみならず、比較的高い温度(例えば200℃)の熱履歴の製造プロセスにも適している。なお、ここでいう「200℃での熱処理」は200℃に保たれた熱間中で基材層(ポリエステルフィルム)を30分間加熱することである。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、十分な深絞り成型性を有する蓄電装置用外装材及びそれを用いた蓄電装置が提供される。」
イ 「【発明を実施するための形態】
・・・(中略)・・・
【0021】
[蓄電装置用外装材]
図1は、本発明の蓄電装置用外装材の一実施形態を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本実施形態の外装材(蓄電装置用外装材)10は、基材層11と、該基材層11の一方の面側に設けられた易接着処理層12と、該易接着処理層12の基材層11とは反対側に設けられた接着層13と、該接着層13の易接着処理層12とは反対側に設けられた、両面に腐食防止処理層15a及び15bを有する金属箔層14と、該金属箔層14の接着層13とは反対側に設けられたシーラント接着層16と、該シーラント接着層16の金属箔層14とは反対側に設けられたシーラント層17と、が順次積層された積層体である。ここで、腐食防止処理層15aは金属箔層14の接着層13側の面に、腐食防止処理層15bは金属箔層14のシーラント接着層16側の面に、それぞれ設けられている。外装材10は、基材層11が最外層、シーラント層17が最内層である。すなわち、外装材10は、基材層11を蓄電装置の外部側、シーラント層17を蓄電装置の内部側に向けて使用される。以下、各層について説明する。
【0022】
(基材層11)
基材層11は、蓄電装置を製造する際における後述する加圧熱融着工程における耐熱性及び他の蓄電装置から漏れ出した電解液に対する耐電解液性を外装材10に付与し、加工又は流通の際に起こり得るピンホールの発生を抑制するための層である。基材層11は、突刺し強度が0.6N/μm以上であるポリエステルフィルムからなる層である。外装材10のより高い深絞り成型性を達成する観点から、基材層11の突刺し強度は0.62N/μm以上であることが好ましく、0.65N/μm以上であることがより好ましい。なお、基材層11の突刺し強度の上限は、特に限定されるものではないが、基材層11として使用するポリエステルフィルムの入手容易性の点から1.5N/μm程度である。ポリエステルフィルムの突刺し強度は、通常、ポリエステルの重合度(ポリマーの長さ)、ポリエステルフィルムの製造方法などに依存する。突刺し強度が高い傾向にあるポリエステルフィルムとして、例えば、チューブラー法などによって製造されたものが挙げられる。
【0023】
基材層11は、下記式(1)で示されるΔAが10%以上であり且つ160℃での熱処理後の50%伸長時応力値(F50応力値)が75MPa以上であるポリエステルフィルムからなる層であることが好ましい。
ΔA=(160℃での熱処理後の破断伸度)-(160℃での熱処理前の破断伸度) ・・・(1)
・・・(中略)・・・
【0025】
上記条件(ΔA及びF50応力値)を満たす基材層11を採用することで、十分な深絞り成型性を有するとともに、比較的低い温度(例えば160℃程度)の熱履歴の製造プロセスに適した外装材10を得ることができる。
【0026】
外装材10において、上記のΔAが10%以上であることにより、比較的低い温度の熱処理により基材層11がより小さい力で大きく伸ばされ易くなった場合でも破断しにくいため、熱処理後(例えば熱ラミネート処理後)においても深絞り成型を可能とすることができる。この観点から、ΔAは14%以上であることが好ましく、16%以上であることがより好ましい。なお、ΔAの上限は特に限定されるものではないが、基材層11が伸ばされ易くなり50%伸長時応力値が小さくなりすぎると、金属箔層14を成型応力から保護する役割を果たしにくくなるという観点から、100%程度とすることができる。
【0027】
基材層11の「160℃での熱処理前の破断伸度」は、外装材10の十分な深絞り成型性を達成する観点から、好ましくは50%超であり、より好ましくは55~150%であり、更に好ましくは55~125%である。これと同様の観点から、基材層11の「160℃での熱処理後の破断伸度」は、外装材10の十分な深絞り成型性を達成する観点から、好ましくは60%超であり、より好ましくは65~160%であり、更に好ましくは65~135%である。
【0028】
また、外装材10において、基材層11の160℃での熱処理後の50%伸長時応力値が75MPa以上であることにより、外装材10に局所的な力が加わったときの力を分散することができ、深絞り成型をしたときの金属箔層14の破断を抑制することができる。この観点から、160℃での熱処理後の50%伸長時応力値は80MPa以上であることが好ましく、85MPa以上であることがより好ましい。なお、160℃での50%伸長時応力値の上限は特に限定されるものではないが、成型して使用されるという観点から、250MPa程度とすることができる。
【0029】
基材層11は、200℃での熱処理後の50%伸長時応力値が75MPa以上であるポリエステルフィルムからなる層であることが好ましい。この条件を更に満たす基材層11を採用することで、比較的低い温度のみならず、比較的高い温度(例えば200℃)の熱履歴の製造プロセスにも適した外装材10を得ることができる。この観点から、200℃での50%伸長時応力値は80MPa以上であることが好ましく、85MPa以上であることがより好ましい。なお、200℃での50%伸長時応力値の上限は特に限定されるものではないが、成型して使用されるという観点から、250MPa程度とすることができる。
【0030】
本実施形態において、破断伸度及び50%伸長時応力値は次のようにして定義される値である。すなわち、A4サイズにカットした基材層を、任意の熱処理温度(160℃又は200℃)に保たれたオーブン中で30分間加熱した後、当該基材層の4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)に対し、23℃(室温)にて引張試験(試験片形状:JIS K7127に規定される5号型ダンベル状、チャック間距離:75mm、標点間距離:25mm、試験速度:50mm/min)を行う。そして、4方向に対する測定結果の平均を取ることで、本実施形態における破断伸度及び50%伸長時応力値を算出する。なお、破断伸度は以下のとおり算出される値である。
破断伸度(%)={(破断時の標点間距離-測定前の標点間距離)/測定前の標点間距離}×100
【0031】
基材層11のポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂としては、上記の特性を満たし得るものであれば特に制限なく用いることができるが、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、共重合ポリエステル等が挙げられる。これらの中でも、深絞り成型性に優れるという観点から、共重合ポリエステルを好適に用いることができる。
【0032】
ポリエステルフィルムとしては、同時延伸、二軸延伸いずれの製法にて得られたものでも使用することができるが、より優れた深絞り成型性が得られる観点から、二軸延伸ポリエステルフィルムであることが好ましい。
【0033】
二軸延伸フィルムにおける延伸方法としては、例えば、逐次二軸延伸法、チューブラー二軸延伸法、同時二軸延伸法等が挙げられる。二軸延伸フィルムは、より優れた深絞り成型性が得られる観点から、チューブラー二軸延伸法及び同時二軸延伸法により延伸されたものであることが好ましい。
【0034】
基材層11の厚さは、6~40μmであることが好ましく、10~30μmであることがより好ましい。基材層11の厚さが6μm以上であることにより、外装材10の耐ピンホール性及び絶縁性を向上できる傾向がある。基材層11の厚さが40μmを超えると外装材10の総厚が大きくなり、電池の電気容量を小さくしなければならない場合があるため望ましくない。」
ウ 「【実施例】
【0143】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0144】
(基材層の準備)
基材層11として、表1の特性を有するポリエステルフィルム(いずれも厚さ25μm)を準備した。突刺し強度は、JIS 1707に規定される方法に準拠して測定した。より具体的には、直径1.0mmであり且つ先端半径0.5mmであるプローブを使用して速度50mm/分で測定した5点の平均値を突刺し強度とした。
【0145】
表1中、ΔAは下記式(1)で示される値であり、F50160は160℃での熱処理後の50%伸長時応力値を示し、F50200は200℃での熱処理後の50%伸長時応力値を示す。
ΔA=(160℃での熱処理後の破断伸度)-(160℃での熱処理前の破断伸度) ・・・(1)
・・・(中略)・・・
【0147】
【表1】
[図:0001420360000001.tif]
・・・(中略)・・・
【0149】
(実施例1)
実施例1では、以下の手法により、外装材10を作製した。始めに、金属箔層14として、厚さ40μmの軟質アルミニウム箔8079材(東洋アルミニウム株式会社製)を準備した。次いで、金属箔層14の両面に、グラビアコートにより、溶媒として蒸留水を使用し、且つ固形分濃度10質量%に調整したポリリン酸ナトリウム安定化酸化セリウムゾル(腐食防止処理剤)を塗布した。このとき、酸化セリウム100質量部に対して、リン酸は10質量部とした。
・・・(中略)・・・
【0151】
次いで、基材層11としては、ポリエステルフィルムA-1を用い、基材層11の片面をコロナ処理した。
【0152】
次いで、金属箔層14の腐食防止処理層15aの金属箔層14とは反対側の面に、接着層13として、ポリウレタン系接着剤を塗布した。次いで、ドライラミネート法により、接着層13を介して、金属箔層14と基材層11のコロナ処理された面とを接着させた。その後、基材層11、接着層13、腐食防止処理層15a、金属箔層14、及び腐食防止処理層15bからなる構造体を、温度が60℃の雰囲気中で6日間放置することで、エージング処理した。その後、以下に示すようにシーラント接着層16を形成する接着成分に応じ、ドライラミネート構成又は熱ラミネート構成の、計3種類の外装材10を作製した。
【0153】
・ドライラミネート構成
腐食防止処理層15bの金属箔層14とは反対側の面に、シーラント接着層16として、トルエン及びメチルシクロヘキサンの混合溶媒に溶解させた酸変性ポリオレフィンにポリイソシアネートを配合したポリウレタン系接着剤を塗布した。次いで、ドライラミネート法により、シーラント接着層16を介して、シーラント層17となる厚さ40μmのポリオレフィンフィルム(無延伸ポリプロピレンフィルムのシーラント接着層16側の面をコロナ処理したフィルム)と金属箔層14とを接着させた。その後、基材層11、接着層13、腐食防止処理層15a、金属箔層14、腐食防止処理層15b、シーラント接着層16、及びシーラント層17からなる構造体を、温度が40℃の雰囲気中で6日間放置することで、エージング処理した。これにより、外装材10を作製した。
・熱ラミネート構成(160℃又は200℃)
シーラント接着層16を、シーラント接着層16の母材となる無水マレイン酸変性ポリプロピレン(三井化学社製、商品名:アドマー)を押出すことで形成した。このとき、シーラント接着層16の厚さは15μmとした。そして、ドライラミネート法の代わりにサンドイッチラミネーション法により、シーラント接着層16を介して、腐食防止処理層15bに、シーラント層17となる厚さ30μmのポリオレフィンフィルム(無延伸ポリプロピレンフィルムのシーラント接着層16側の面をコロナ処理したフィルム)を160℃又は200℃で接着(加熱圧着)した。これにより、外装材10を作製した。
【0154】
(実施例2~6,11,12及び比較例1~5)
A-1のポリエステルフィルムに代えて、表1に記載のポリエステルフィルムを使用したこと以外は、実施例1と同様にして、外装材10を作製した。
・・・(中略)・・・
【0159】
<成型深度の評価>
各実施例及び比較例で作製した、それぞれ3種類の外装材10について、深絞り成型が可能な成型深度を以下の方法で評価した。まず、外装材10を、シーラント層17が上方を向くように成型装置内に配置した。成型装置の成型深さを0.5mmごとに3.5~7.0mmに設定し、室温23℃、露点温度-35℃の環境下で冷間成型した。なお、パンチ金型には、70mm×80mmの長方形の横断面を有し、底面に1.00mmのパンチラジアス(RP)を有し、側面に1.00mmのパンチコーナーラジアス(RCP)を有するものを使用した。また、ダイ金型には、開口部上面に1.00mmのダイラジアス(RD)を有するものを使用した。冷間成型を行った部分の破断及びピンホールの有無を、外装材10にライトを照射しながら目視にて確認し、破断及びピンホールのいずれも生じることなく深絞り成型できた成型深度の最大値(成型限界)を求めた。結果を表2に示す。
・・・(中略)・・・
【0163】
【表2】
[図:0001420360000002.tif]
」
(2)本件発明の課題及び課題解決手段
前記(1)の記載事項によれば、本件発明の解決すべき課題は、「十分な深絞り成型性を有する蓄電装置用外装材及びそれを用いた蓄電装置を提供する」こと(【0006】)であると認められる。そして、多層フィルムを構成する基材層に突刺し強度が所定の値以上である基材層を採用することによって十分な深絞り成型性を有する多層フィルムが得られるとの知見(【0007】)に基づき、本件発明は、蓄電装置用外装材を「少なくとも基材層、接着層、金属箔層、シーラント接着層及びシーラント層がこの順で積層された構造を有す」るものとし、「上記基材層は、突刺し強度が0.6N/μm以上であるポリエステルフィルムからなる層」とすること(【0008】)を課題解決手段とするものであり、それにより蓄電装置用外装材の「十分な深絞り成型性が達成される」(【0009】)との作用効果を奏するものと認められる。
(3)本件発明1の基材層の技術的意義
前記(2)を踏まえ、本件発明1の「基材層」についてみると、「基材層」を規定する発明特定事項B~B3bのうち、発明特定事項B1a、B1bの「突刺し強度」の条件は、課題解決手段を反映したものであるから、蓄電装置用外装材が十分な深絞り成型性を得るための条件である。
また、発明特定事項B2の「160℃での熱処理後の50%伸長時応力値」(以下「F50(160℃)応力値」という。)の条件は、「多層フィルムの製造プロセスにおいて加えられる熱に更に着目した」ものであって(【0010】)、「外装材10に局所的な力が加わったときの力を分散することができ、深絞り成型をしたときの金属箔層14の破断を抑制することができる」(【0028】)との作用効果を奏するためのものである。そうすると、F50(160℃)応力値の条件は、熱処理を経た後の蓄電装置用外装材(多層フィルム)を深絞り成型をしたときの金属箔層の破断を抑制するための条件、換言すると、F50(160℃)応力値の条件は、熱処理後の蓄電装置用外装材が十分な深絞り成型性を得るための条件と解される。
また、発明特定事項B3a、B3bの「破断伸度」に関する「ΔA」の条件は、「比較的低い温度の熱処理により基材層11がより小さい力で大きく伸ばされ易くなった場合でも破断しにくいため、熱処理後(例えば熱ラミネート処理後)においても深絞り成型を可能とすることができる」(【0026】)との作用効果を奏するためのものであるから、ΔAの条件は、熱処理後の蓄電装置用外装材が十分な深絞り成型性を得るための条件と解される。
そうすると、前記突刺し強度の条件、F50(160℃)応力値の条件、ΔAの条件の全てを満たす本件発明1の「基材層」は、熱処理後の蓄電装置用外装材が十分な深絞り成型性を有するとの作用効果をもたらすものと解され、発明特定事項B~B3bの具体例として記載された各実施例(前記(1)ウ)も、該作用効果を裏付けていると認められるから、本件発明1の「基材層」の技術的意義は、熱処理後の蓄電装置用外装材に十分な深絞り成型性を与えることといえる。
(4)本件発明2~6の基材層の技術的意義
本件発明2の「基材層」は、本件発明1のF50(160℃)応力値の条件に代えて、「200℃での熱処理後の50%伸長時応力値」の条件を満たすものであるところ、該条件は、【0028】及び【0029】の記載を参酌すれば、F50(160℃)応力値の条件と同様に、熱処理後の蓄電装置用外装材が十分な深絞り成型性を得るためのものと解される。そのため、本件発明2の「基材層」の技術的意義も、熱処理後の蓄電装置用外装材に十分な深絞り成型性を与えることといえる。
本件発明3~6の「基材層」は、本件発明1の「基材層」と本件発明2の「基材層」のいずれかと同じであるから、本件発明3~6の「基材層」の技術的意義も、熱処理後の蓄電装置用外装材に十分な深絞り成型性を与えることといえる。
2 甲号証の記載
(1)甲1
ア 甲1の記載事項
甲1には、次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
少なくとも基材層、接着層、金属箔層、シーラント接着層、及び、シーラント層がこの順で積層された構造を有する蓄電装置用外装材であって、
前記基材層が、95℃熱水収縮率が5%未満であり且つ180℃熱間収縮率が10~25%であるポリエステルフィルムからなる層である、蓄電装置用外装材。」
(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置用外装材、及びそれを用いた蓄電装置に関する。」
(ウ)「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の蓄電装置用外装材に深い凹部を形成する深絞り成型を行うと接着層及び金属箔層の破断を生じることがある。そのため、外装材には、深絞り成型性の向上が求められている。
・・・(中略)・・・
【0009】
そして、外装材を長期間保管した際には、上述したような基材層と金属箔層との間の密着性の低下に起因して、基材層と金属箔層との間で剥離が生じることがある。そのため、外装材には、熱(高温、温水及び高温高湿)及び/又は電解液にさらされた場合であっても、基材層と金属箔層との間で剥離が生じることを長期間にわたって抑制することができる優れた密着性が求められている。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、深絞り成型性を向上させつつ、電池の製造時及び使用時において基材層と金属箔層との間の密着性を維持することができる蓄電装置用外装材、及びそれを用いた蓄電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、少なくとも基材層、接着層、金属箔層、シーラント接着層、及び、シーラント層がこの順で積層された構造を有する蓄電装置用外装材であって、上記基材層が、95℃熱水収縮率が5%未満であり且つ180℃熱間収縮率が10~25%であるポリエステルフィルムからなる層である、蓄電装置用外装材を提供する。」
(エ)「【0023】
(基材層11)
基材層11は、蓄電装置を製造する際における後述する加圧熱融着工程における耐熱性及び他の蓄電装置から漏れ出した電解液に対する耐電解液性を外装材10に付与し、加工又は流通の際に起こり得るピンホールの発生を抑制するための層である。また、基材層11は、95℃熱水収縮率が5%未満であり且つ180℃熱間収縮率が10~25%であるポリエステルフィルムからなる層である。
【0024】
ここで、95℃熱水収縮率は、以下の方法で測定される値である。すなわち、95℃熱水収縮率は、基材層11を縦10cm×横10cmのサイズに切断した試験片を、95℃の熱水中に30分間浸漬し、試験片の縦方向及び横方向(直交する2方向)における浸漬前後の寸法変化率を下記式(I)に基づいて求め、2方向の寸法変化率の平均値として算出したものである。なお、試験片の縦方向及び横方向は、それぞれ基材層原反のMD方向(機械送り方向)及びTD方向(MD方向の垂直方向)に一致させるものとする。つまり、基材層11が二軸延伸フィルムからなる場合には、試験片の縦方向及び横方向はそれぞれフィルムの2つの延伸方向のいずれか一方に一致している。
【0025】
また、180℃熱間収縮率は、基材層11を縦10cm×横10cmのサイズに切断した試験片を、180℃のオーブン内で30分間加熱し、試験片の縦方向及び横方向(直交する2方向)における加熱前後の寸法変化率を下記式(I)に基づいて求め、2方向の寸法変化率の平均値として算出したものである。なお、試験片の縦方向及び横方向は、95℃熱水収縮率の場合と同様である。
【0026】
寸法変化率(%)={(X-Y)/X}×100 ・・・(I)
[X:熱水への浸漬処理前又はオーブン内での加熱処理前の寸法、Y:熱水への浸漬処理後又はオーブン内での加熱処理後の寸法]
【0027】
外装材10において、基材層11を構成するポリエステルフィルムの95℃熱水収縮率が5%未満であることにより、熱及び/又は電解液にさらされた場合に、基材層11と金属箔層14との間で剥離が生じることを長期間にわたって抑制することができる。また、基材層11と金属箔層14との間で剥離が生じることをより長期間にわたって抑制することができることから、ポリエステルフィルムの95℃熱水収縮率は4%以下であることが好ましい。また、同様の観点から、ポリアミドフィルムの95℃熱水収縮率は0%以上であることが好ましい。
【0028】
また、外装材10において、基材層11を構成するポリエステルフィルムの180℃熱間収縮率が10%以上であることにより、深絞り成型性を向上させることができ、接着層13及び金属箔層14の破断を生じることなく深絞り成型可能な成型深度を向上させることができる。一方、外装材10において、基材層11を構成するポリエステルフィルムの180℃熱間収縮率が25%以下であることにより、熱及び/又は電解液にさらされた場合に、基材層11と金属箔層14との間で剥離が生じることを長期間にわたって抑制することができる。また、製造時にかかる熱による熱収縮によって熱シワが発生するのを防ぐことができる。」
(オ)「【実施例】
【0141】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0142】
(基材層の用意)
基材層11として、同時二軸延伸法により製造された下記のポリエチレンテレフタレートフィルムA-1~A-2、B-1~B-7及びC-1~C-2を用意した。各ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚さ、95℃熱水収縮率及び180℃熱間収縮率を以下に示す。
A-1:厚さ12μm、95℃熱水収縮率3.5%、180℃熱間収縮率18.7%。
A-2:厚さ12μm、95℃熱水収縮率2.5%、180℃熱間収縮率6.0%。
B-1:厚さ25μm、95℃熱水収縮率2.8%、180℃熱間収縮率19.9%。
B-2:厚さ25μm、95℃熱水収縮率2.8%、180℃熱間収縮率19.9%。
B-3:厚さ25μm、95℃熱水収縮率3.3%、180℃熱間収縮率23.8%。
B-4:厚さ25μm、95℃熱水収縮率2.4%、180℃熱間収縮率11.2%。
B-5:厚さ25μm、95℃熱水収縮率2.6%、180℃熱間収縮率5.7%。
B-6:厚さ25μm、95℃熱水収縮率8.5%、180℃熱間収縮率19.0%。
B-7:厚さ25μm、95℃熱水収縮率6.0%、180℃熱間収縮率19.9%。
C-1:厚さ25μm、95℃熱水収縮率2.6%、180℃熱間収縮率18.4%。
C-2:厚さ25μm、95℃熱水収縮率3.1%、180℃熱間収縮率6.6%。
・・・(中略)・・・
【0144】
(実施例1)
実施例1では、以下の手法により、蓄電装置用外装材10を作製した。始めに、金属箔層14として、厚さ40μmの軟質アルミニウム箔8079材(東洋アルミニウム株式会社製)を準備した。次いで、金属箔層14の両面に、グラビアコートにより、溶媒として蒸留水を使用し、かつ固形分濃度10質量%に調整したポリリン酸ナトリウム安定化酸化セリウムゾル(腐食防止処理剤)を塗布した。このとき、酸化セリウム100質量部に対して、リン酸は10質量部とした。
・・・(中略)・・・
【0146】
次いで、基材層11としては、ポリエチレンテレフタレートフィルムA-1を用い、基材層11の片面をコロナ処理した。
・・・(中略)・・・
【0148】
次いで、腐食防止処理層15bの金属箔層14とは反対側の面に、シーラント接着層16を形成した。このとき、シーラント接着層16は、シーラント接着層16の母材となる無水マレイン酸変性ポリプロピレン(三井化学社製、商品名:アドマー)を押出すことで形成した。このとき、シーラント接着層16の厚さは20μmとした。次いで、サンドイッチラミネーション法により、シーラント接着層16を介して、腐食防止処理層15bに、シーラント層17となる厚さ60μmのポリオレフィンフィルム(無延伸ポリプロピレンフィルムのシーラント接着層16側の面をコロナ処理したフィルム)を180℃で接着(加熱圧着)した。これにより、蓄電装置用外装材10を作製した。
・・・(中略)・・・
【0150】
<成型深度の評価>
実施例1及び比較例1で作製した蓄電装置用外装材10について、深絞り成型が可能な成型深度を以下の方法で評価した。まず、蓄電装置用外装材10を、シーラント層17が上方を向くように成型装置内に配置した。成型装置の成型深さを0.5mmごとに4.5~7.5mmに設定し、室温23℃、露点温度-35℃の環境下で冷間成型した。なお、パンチ金型には、70mm×80mmの長方形の横断面を有し、底面に1.00mmのパンチラジアス(RP)を有し、側面に1.00mmのパンチコーナーラジアス(RCP)を有するものを使用した。また、ダイ金型には、開口部上面に1.00mmのダイラジアス(RD)を有するものを使用した。冷間成型を行った部分の破断及びピンホールの有無を、外装材10にライトを照射しながら目視にて確認し、破断及びピンホールのいずれも生じることなく深絞り成型できた成型深度の最大値を求めた。結果を表1に示す。表中、「<4.5」は、成型深度4.5mmで破断及びピンホールの少なくとも一方が生じていたことを示す。
・・・(中略)・・・
【0153】
【表1】
[図:0001420360000003.jpg]
【0154】
表1に示した結果から明らかなように、基材層11の厚さを12μmとした外装材において、基材層11として95℃熱水収縮率が5%未満であり且つ180℃熱間収縮率が10~25%であるポリエステルフィルムを用いた実施例1の外装材は、180℃熱間収縮率が上記条件を満たさないポリエステルフィルムを用いた比較例1の外装材と比較して、密着性を維持しつつ、深絞り成型性を向上できることが確認された。」
(カ)「【0155】
(実施例2)
実施例2では、実施例1に対して以下の変更を行った。実施例2では、シーラント接着層16として、トルエン及びメチルシクロヘキサンの混合溶媒に溶解させた酸変性ポリオレフィンにポリイソシアネートを配合したポリウレタン系接着剤を塗布した。また、サンドイッチラミネーション法に代えてドライラミネート法により、シーラント接着層16を介して、シーラント層17となる厚さ40μmのポリオレフィンフィルム(無延伸ポリプロピレンフィルムのシーラント接着層16側の面をコロナ処理したフィルム)と金属箔層14とを接着させた。その後、基材層11、接着層13、腐食防止処理層15a、金属箔層14、腐食防止処理層15b、シーラント接着層16、及びシーラント層17からなる構造体を、温度が40℃の雰囲気中で6日間放置することで、エージング処理した。実施例2では、上記の変更をした以外は実施例1と同様にして、蓄電装置用外装材10を作製した。」
【0156】
<成型深度の評価>
実施例2で作製した蓄電装置用外装材10について、上述した実施例1等と同じ試験方法により、深絞り成型が可能な成型深度を評価した。結果を表2に示す。
・・・(中略)・・・
【0158】
【表2】
[図:0001420360000004.jpg]
【0159】
表2に示した結果から明らかなように、基材層11の厚さを12μmとした外装材において、基材層11として95℃熱水収縮率が5%未満であり且つ180℃熱間収縮率が10~25%であるポリエステルフィルムを用いた実施例2の外装材は、ドライラミネート法によりシーラント接着層16を設けた場合でも、密着性を維持しつつ、深絞り成型性を向上できることが確認された。」
(キ)「【0160】
(実施例3)
実施例3では、ポリリン酸ナトリウム安定化酸化セリウムゾルを用いて腐食防止処理層15a及び15bを形成する代わりに金属箔層14の両面にフェノール樹脂、フッ化クロム化合物、及びリン酸からなる処理液を塗布して皮膜を形成し、焼付けすることによりクロメート処理を行って腐食防止処理層15a及び15bを形成し、且つ、基材層11をポリエチレンテレフタレートフィルムB-1に変更した以外は実施例1と同様にして、蓄電装置用外装材10を作製した。
【0161】
(実施例4)
実施例4では、基材層11をポリエチレンテレフタレートフィルムB-2に変更した以外は実施例1と同様にして、蓄電装置用外装材10を作製した。
【0162】
(実施例5)
実施例5では、基材層11をポリエチレンテレフタレートフィルムB-3に変更した以外は実施例1と同様にして、蓄電装置用外装材10を作製した。
【0163】
(実施例6)
実施例6では、基材層11をポリエチレンテレフタレートフィルムB-4に変更した以外は実施例1と同様にして、蓄電装置用外装材10を作製した。
・・・(中略)・・・
【0167】
<成型深度の評価>
実施例3~6及び比較例2~4で作製した蓄電装置用外装材10について、上述した実施例1等と同じ試験方法により、深絞り成型が可能な成型深度を評価した。結果を表3に示す。
【0168】
<密着性の評価>
実施例3~6及び比較例2~4で作製した蓄電装置用外装材10について、上述した実施例1等と同じ試験方法により、基材層11と金属箔層14との間の密着性を評価した。結果を表3に示す。
【0169】
【表3】
[図:0001420360000005.jpg]
」
イ 甲1発明
(ア)前記ア(カ)によれば、実施例2は、シーラント接着層として、ポリウレタン系接着剤を塗布し、ドライラミネート法により、シーラント接着層を介して、シーラント層となる厚さ40μmのポリオレフィンフィルム(無延伸ポリプロピレンフィルムのシーラント接着層側の面をコロナ処理したフィルム)と金属箔層とを接着させ、エージング処理した以外は、実施例1と同様にして作成した蓄電装置用外装材であるから、その基材層として、厚さ12μm、95℃熱水収縮率3.5%、180℃熱間収縮率18.7%のポリエチレンテレフタレートフィルムA-1(前記ア(オ))を用いたものである。
(イ)そうすると、実施例2に着目し、前記(ア)、及び実施例2は前記アの【請求項1】に記載された発明を具体化したものである点を総合すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「少なくとも基材層、接着層、金属箔層、シーラント接着層、及び、シーラント層がこの順で積層された構造を有し、前記基材層が、95℃熱水収縮率が5%未満であり且つ180℃熱間収縮率が10~25%であるポリエステルフィルムからなる層である蓄電装置用外装材であって、(【請求項1】)
前記基材層として、厚さ12μm、95℃熱水収縮率3.5%、180℃熱間収縮率18.7%のポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、(前記(ア))
前記シーラント接着層として、ポリウレタン接着剤を塗布し、(前記(ア))
前記シーラント層が、厚さ40μmのポリオレフィンフィルム(無延伸ポリプロピレンフィルムのシーラント接着層側の面をコロナ処理したフィルム)である(前記(ア))
蓄電装置用外装材」
(2)甲2
甲2には、次の事項が記載されている。
「発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0005] 一方、近年では、エネルギー密度を高める目的で、貼り合わせる外装材の両側に凹部を形成し、より多くの電池要素を収容できるようにしたリチウムイオン電池(以下、「両側成型加工電池」とも記す。)も製造されているが、このような両側成型加工電池は、外装材同士を貼り合せる際のアライメントが難しいといった問題がある。しかし、片側成型加工電池にて両側成型加工電池と同等のエネルギー密度を得るためには、より深い凹部の形成が求められるが、特許文献1に開示される電池ケース用包材ではより深い凹部の形成に対する成型性が必ずしも十分でない場合があった。
[0006] 本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、外装材に深い凹部を有する蓄電装置の製造においても優れた成型性を得ることが可能な蓄電装置用外装材、及びエンボスタイプ外装材の製造方法を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0007] 上記課題を解決するために、本発明は、基材層と、該基材層上に配置された金属箔層と、該金属箔層上に配置されたシーラント層と、を備える蓄電装置用外装材であって、上記基材層は、延伸ポリエステル樹脂層及び延伸ポリアミド樹脂層の少なくとも一層を含み、上記金属箔層は、鉄を0.5質量%以上5.0質量%以下含有するアルミニウム箔であり、上記基材層のMD方向及びTD方向における、上記外装材の引張伸びが共に50%以上であることを特徴としている。」
「[0023] また、外装材10の基材層側の表面及びシーラント層側の表面の少なくとも一方の(望ましくは、両方の)静摩擦係数は、0.1以上であることが好ましく、0.15以上であることがより好ましい。外装材10の基材層側表面及び/又はシーラント層側表面の静摩擦係数が0.1以上であることにより、成型加工時の外装材10の凹部以外の部分(蓋部又はブランク部)の押さえが効いて、シワの発生を抑制できる。外装材10の基材層側の表面及びシーラント層側の表面の静摩擦係数は、0.4以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましい。外装材10の基材層側表面及びシーラント層側表面の静摩擦係数が0.4以下であることにより、外装材10の成型加工エリア(凹部22)への流れ込み量が増加し、より良好な成型性が得られる。さらに、静摩擦係数をμSとし動摩擦係数をμDとしたときの、外装材10の基材層側の表面及びシーラント層側の表面の静摩擦係数と動摩擦係数との差(μS-μD)は、0.1以下であることが好ましく、0.05以下であることがより好ましい。静摩擦係数μSと動摩擦係数μDとの差(μS-μD)が0.1以下であることにより、成型加工時に、外装材10の凹部及びフランジ押さえ部の滑り性のバランスがとれ、外装材10の構成材料が凹部へ流れ込みやすくなる。その結果、成型加工時に凹部が薄くなりすぎず、より破断を抑制することができる傾向がある。基材層側表面及びシーラント層側表面の静摩擦係数を低減する方法、又は、静摩擦係数と動摩擦係数との差を低減する方法としては、例えば、脂肪酸アマイド等の滑剤を溶媒に溶かし、溶液をグラビアコート、リバースコート、ロールコート又はバーコート等の方法で基材層側表面及びシーラント層側表面に塗工し、乾燥することで滑剤層を得る等の方法が挙げられる。塗工する滑剤の量により静摩擦係数値を制御することができる。」
3 申立理由A(新規性)及び申立理由B(進歩性)について
(1)本件発明1
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)発明特定事項Aについて
甲1発明の「基材層」、「接着層」、「金属箔層」、「シーラント接着層」、「シーラント層」は、それぞれ、本件発明1の「基材層」、「接着層」、「金属箔層」、「シーラント接着層」、「シーラント層」に相当する。そして、甲1発明は、「少なくとも基材層、接着層、金属箔層、シーラント接着層、及び、シーラント層がこの順で積層された構造を有」するから、本件発明1と甲1発明とは、「少なくとも基材層、接着層、金属箔層、シーラント接着層及びシーラント層がこの順で積層された構造を有」する点で一致する。
(イ)基材層(発明特定事項B~B3b)について
甲1発明の「基材層」は、「95℃熱水収縮率が5%未満であり且つ180℃熱間収縮率が10~25%であるポリエステルフィルムからなる層」であるところの「厚さ12μm、95℃熱水収縮率3.5%、180℃熱間収縮率18.7%のポリエチレンテレフタレートフィルム」であるから、本件発明1の「基材層」とは、「ポリエステルフィルムからなる層」である点で共通する。
他方、本件発明1の「基材層」をなす「ポリエステルフィルム」は、「JIS Z1707に規定される方法による測定値であって、直径1.0mmであり且つ先端半径0.5mmであるプローブを使用して速度50mm/分で測定した5点の平均値を、前記基材層の厚さで除した値である」「突刺し強度が0.6N/μm以上」であり(発明特定事項B1a、B1b)、「160℃での熱処理後の50%伸長時応力値が75MPa以上」(発明特定事項B2)であり、かつ「ΔA=(160℃での熱処理後の破断伸度)-(160℃での熱処理前の破断伸度)」である「ΔAが10%以上」(発明特定事項B3a、B3b)であるのに対し、甲1発明の「基材層」をなす「ポリエステルフィルム」は、「厚さ12μm、95℃熱水収縮率3.5%、180℃熱間収縮率18.7%のポリエチレンテレフタレートフィルム」であり、本件発明1の前記特定がない点で相違する。
(ウ)発明特定事項Cについて
甲1発明は「蓄電装置用外装材」であるから、本件発明1とは、「蓄電装置用外装材」である点で一致する。
(エ)前記(ア)~(ウ)によれば、本件発明1と甲1発明との間には、次の一致点、相違点がある。
[一致点]
少なくとも基材層、接着層、金属箔層、シーラント接着層及びシーラント層がこの順で積層された構造を有し、
前記基材層は、ポリエステルフィルムからなる層である
蓄電装置用外装材。
[相違点]
(相違点1)「基材層」をなす「ポリエステルフィルム」が、本件発明1は、「JIS Z1707に規定される方法による測定値であって、直径1.0mmであり且つ先端半径0.5mmであるプローブを使用して速度50mm/分で測定した5点の平均値を、前記基材層の厚さで除した値である」「突刺し強度が0.6N/μm以上」であり、「160℃での熱処理後の50%伸長時応力値が75MPa以上」であり、かつ「ΔA=(160℃での熱処理後の破断伸度)-(160℃での熱処理前の破断伸度)」である「ΔAが10%以上」であるのに対し、甲1発明は、「厚さ12μm、95℃熱水収縮率3.5%、180℃熱間収縮率18.7%のポリエチレンテレフタレートフィルム」であって、本件発明1の前記特定がない点。
イ 相違点についての検討
(ア)基材層の技術的意義について
甲1発明の基材層の「厚さ12μm、95℃熱水収縮率3.5%、180℃熱間収縮率18.7%のポリエチレンテレフタレートフィルム」は、「95℃熱水収縮率が5%未満であり且つ180℃熱間収縮率が10~25%であるポリエステルフィルム」との条件を満たすものである。前記条件のうち、「ポリエステルフィルム」の「95℃熱水収縮率が5%未満」は、「熱及び/又は電解液にさらされた場合に、基材層11と金属箔層14との間で剥離が生じることを長期間にわたって抑制することができる」(前記2(1)ア【0027】)ためのものである。また、もう一方の「ポリエステルフィルム」の「180℃熱間収縮率が10~25%」は、「10%以上であることにより、深絞り成型性を向上させることができ」、「25%以下であることにより、熱及び/又は電解液にさらされた場合に、基材層11と金属箔層14との間で剥離が生じることを長期間にわたって抑制することができる」(前記2(1)ア【0028】)ためのものである。したがって、甲1発明の「95℃熱水収縮率が5%未満であり且つ180℃熱間収縮率が10~25%であるポリエステルフィルム」との条件は、蓄電装置用外装材の基材層と金属箔層との間の剥離の抑制と深絞り成型性の向上とを両立させるための条件ということができ、これは「深絞り成型性を向上させつつ、電池の製造時及び使用時において基材層と金属箔層との間の密着性を維持することができる蓄電装置用外装材、及びそれを用いた蓄電装置を提供する」(前記2(1)ア【0010】)との課題の記載とも整合する。
そうすると、甲1発明の前記条件を満たす「厚さ12μm、95℃熱水収縮率3.5%、180℃熱間収縮率18.7%のポリエチレンテレフタレートフィルム」の基材層の技術的意義は、蓄電装置用外装材の基材層と金属箔層との間の剥離の抑制と深絞り成型性の向上とを両立させることであるといえる。
これに対し、本件発明1の基材層の技術的意義は、前記1(3)のとおり、熱処理後の蓄電装置用外装材に十分な深絞り成型性を与えることである。
したがって、甲1発明の基材層は、本件発明1の基材層とは、その技術的意義を異にする。
(イ)成型深度について
甲1発明である実施例2の深絞り成型が可能な成型深度は、所定の試験方法(前記2(1)ア【0150】、【0156】)による値が「6.0mm」(前記2(1)ア【表2】)であり、この値は、本件特許の実施例1~6等の成型深度(成型限界)の値(前記1(1)【表1】、【表2】)と同等であると認められる(なお、本件特許の成型深度の試験方法(前記1(1)【0159】)は、甲1のものと同じである。)。
他方で、甲1の実施例2の基材層は、前記2(1)イ(ア)のとおり、甲1の実施例1の基材層と同じであるところ、甲1の実施例1の成型深度は「4.5mm」(前記2(1)ア【表1】)であり、この値は、本件特許の実施例1~12の成型深度の最小値の「5.5mm」(前記1(1)【表1】、【表2】)より有意に小さく(劣る)、本件特許の比較例3、4(前記1(1)【表1】、【表2】)と同等である。
本件特許の実施例1~12の基材層は、本件発明1の突刺し強度、F50(160℃)応力値及びΔAの全ての条件を満たすものであるのに対し、本件特許の比較例3、4の基材層は、少なくとも突刺し強度とΔAの条件を満たさないものである。そうすると、甲1の実施例1の成型深度「4.5mm」は、甲1の実施例1の基材層が本件発明1の突刺し強度、F50(160℃)応力値及びΔAの条件を満たさない可能性を示唆するものといえる。そして、これは、同じ基材層を用いた甲1の実施例2、すなわち甲1発明の基材層についてもいえる。
(ウ)以上のとおり、前記(ア)の基材層の技術的意義の点からみても、前記(イ)の成型深度の点からみても、甲1発明の基材層は本件発明1の突刺し強度、F50(160℃)応力値及びΔAの条件を満たすものであると推認することはできない。すなわち、甲1発明の基材層は、本件発明1の基材層に包含されるものではない。よって、前記相違点1は、実質的な相違点である。
また、前記(ア)のとおり、甲1発明の基材層は、本件発明1の基材層とは、その技術的意義が異なるのであるから、甲1発明の基材層を、本件発明1の基材層に改変する動機付けがあるとはいえず、前記相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。
したがって、本件発明1は、甲1発明と同一ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 特許異議申立人の主張について
(ア)特許異議申立人は、甲1の実施例2、4~6の成型深度の評価、及び、密着性の評価は、本件特許明細書の実施例と比較して同等以上であるため、甲1の実施例2、4~6の基材層に用いているポリエチレンテレフタレートフィルムは、構成B、C、D、E(当審注:発明特定事項B~B3b)を満たす蓋然性が極めて高いから、本件特許発明1は、甲1に記載された発明と同一であり、新規性又は進歩性を有しない旨主張している。(特許異議申立書29~30頁)
(イ)しかしながら、甲1の実施例2(甲1発明)の基材層は、本件発明1の発明特定事項B1a~B3bの条件を満たすとはいえず、また、甲1の実施例2の基材層を本件発明1の基材層に改変することが当業者といえども容易ではないことは、前記イのとおりである。
(ウ)次に、甲1の実施例4~6について検討する。
甲1の実施例4~6の成型深度はいずれも「6.0mm」(前記2(1)ア【表3】)であり、この値は、特許異議申立人が主張するように、本件特許の実施例1~12の成型深度(前記1(1)【表2】)と同等とみることもできる。
甲1の実施例4~6は、甲1の実施例1と基材層が異なる以外は同じで(前記2(1)ア【0161】~【0163】)、無水マレイン酸変性ポリプロピレンで形成した厚さ「20μm」のシーラント接着層に、シーラント層となる厚さ「60μm」のポリオレフィンフィルム(無延伸ポリプロピレンフィルムのシーラント接着層側の面をコロナ処理したフィルム)を180℃で加熱圧着したものである。このシーラント接着層及びシーラント層の構成の点でみると、甲1の実施例4~6は、本件特許の実施例1~12の熱ラミネート構成(前記1(1)【0153】)に対応するものといえる。しかしながら、甲1の実施例4~6は、本件特許の実施例1~12の前記熱ラミネート構成とは、シーラント接着層の厚さ(本件特許の実施例1~12は「15μm」)、シーラント層の厚さ(本件特許の実施例1~12は「30μm」)、加熱温度(本件特許の実施例1~12は「160℃又は200℃」)の点で異なる。そして、特に、シーラント層を形成する無延伸ポリプロピレンは、延伸性、引張強度に優れるとの技術常識を踏まえると、厚みが「60μm」である甲1の実施例4~6のシーラント層は、厚みが「30μm」の本件特許の実施例1~12のものに比べて、成型深度により寄与している可能性が否定できない。そのため、甲1の実施例4~6の成型深度が本件特許の実施例1~12の成型深度と同等であるとしても、それをもって、甲1の実施例4~6の基材層は、本件特許の実施例1~12の基材層と同等、すなわち、本件発明1の突刺し強度、F50(160℃)応力値及びΔAの条件(発明特定事項B1a~B3b)を満たすものと推認することはできない。
また、特許異議申立人は、甲1の実施例4~6の密着性が、本件特許の実施例と同等以上であることも、甲1の実施例4~6の基材層が、本件発明1の発明特定事項B~B3bを満たす根拠とする。しかしながら、本件発明1の基材層の技術的意義は、前記1(3)のとおり、熱処理後の蓄電装置用外装材に十分な深絞り成型性を与えることであり、深絞り成形性とは異なる密着性について、仮に甲1の実施例4~6が本件特許の実施例と同等以上であるとしても、それをもって、甲1の実施例4~6の基材層が、本件発明1の突刺し強度、F50(160℃)応力値及びΔAの条件を満たすと推認することはできない。
さらに、甲1の実施例4~6の基材層は、甲1発明(実施例2)と同じ技術的意義を有すると解されるから、前記イ(ア)のとおり、本件発明1の基材層とは、技術的意義が異なるものである。
したがって、本件発明1は、甲1の実施例4~6と同一ではなく、また、甲1の実施例4~6に基いて、当業者が容易に想到し得たものでない。
(エ)以上のとおり、特許異議申立人の主張は採用することができない。
エ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明と同一ではなく、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2
ア 対比
本件発明2は、その「基材層」が、本件発明1の発明特定事項B2のF50(160℃)応力値の条件に代えて、「200℃での熱処理後の50%伸長時応力値が75MPa以上であるポリエステルフィルム」との条件を満たすものである点を除き、本件発明1と同じである。そのため、前記(1)アを踏まえると、本件発明2と甲1発明とは、以下の点で一致、相違する。
[一致点]
少なくとも基材層、接着層、金属箔層、シーラント接着層及びシーラント層がこの順で積層された構造を有し、
前記基材層は、ポリエステルフィルムからなる層である
蓄電装置用外装材。
[相違点]
(相違点2)「基材層」をなす「ポリエステルフィルム」が、本件発明2は、「JIS Z1707に規定される方法による測定値であって、直径1.0mmであり且つ先端半径0.5mmであるプローブを使用して速度50mm/分で測定した5点の平均値を、前記基材層の厚さで除した値である」「突刺し強度が0.6N/μm以上」であり、「200℃での熱処理後の50%伸長時応力値が75MPa以上」であり、かつ「ΔA=(160℃での熱処理後の破断伸度)-(160℃での熱処理前の破断伸度)」である「ΔAが10%以上」であるのに対し、甲1発明は、「厚さ12μm、95℃熱水収縮率3.5%、180℃熱間収縮率18.7%のポリエチレンテレフタレートフィルム」であって、本件発明2の前記特定がない点。
イ 相違点についての検討
本件発明2の基材層の技術的意義は、前記1(4)のとおり、本件発明1と同じである。また、本件特許の実施例1~12(前記1(1))のうち、本件発明2に対応するのは実施例1~10であると認められる。そうすると、本件発明1の相違点1について前記(1)イで述べたことと同様のことが、前記相違点2についてもいえる。
よって、前記相違点2は、実質的な相違点であり、また、甲1発明の基材層を、本件発明2の基材層に改変することは当業者が容易に想到し得たものではない。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、本件発明2について、本件発明1と同様の主張(前記(1)ウ(ア))をするが(特許異議申立書30頁)、前記(1)ウ(イ)~(エ)と同様であるから、その主張を採用することはできない。
エ 小括
以上のとおり、本件発明2は、甲1に記載された発明と同一ではなく、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明3~6
本件発明3~6は、本件発明1または本件発明2のいずれかと同じ構成を有し、さらに限定を付したものであるから、本件発明3~6も、甲1に記載された発明と同一ではなく、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
この点は、シーラント層の表面の静摩擦係数について開示する甲2(前記2(2)[0023])の存在に左右されない。
(4)申立理由A、申立理由Bについてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由A及び申立理由Bは理由がない。
4 申立理由C(実施可能要件)について
(1)申立理由Cの概要
申立理由Cは、前記第3、1(3)のとおり、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、どのような材料、方法により得られる基材層を選択すれば、本件発明1の基材層の構成(発明特定事項B~B3b)を満たし得るのか、出願時の技術常識を考慮しても当業者が理解できず、本件発明2~6についても同様であるから、本件発明1~6を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない、というものである。
(2)検討
本件発明1の基材層は、発明特定事項B1a~B3bに規定される突刺し強度、F50(160℃)応力値及びΔAの条件を満たすものである。このうち、突刺し強度について、本件明細書の発明の詳細な説明には、「ポリエステルフィルムの突刺し強度は、通常、ポリエステルの重合度(ポリマーの長さ)、ポリエステルフィルムの製造方法などに依存する。突刺し強度が高い傾向にあるポリエステルフィルムとして、例えば、チューブラー法などによって製造されたものが挙げられる。」(前記1(1)【0022】)と記載されている。
また、本件発明1の基材層は、前記1(3)のとおり、熱処理後の蓄電装置用外装材に十分な深絞り成型性を与えることである。この十分な深絞り成型性を与えるための具体化について、発明の詳細な説明には、「基材層11のポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂としては、・・・(中略)・・・深絞り成型性に優れるという観点から、共重合ポリエステルを好適に用いることができる。」(前記1(1)【0031】)、「ポリエステルフィルムとしては、・・・(中略)・・・より優れた深絞り成型性が得られる観点から、二軸延伸ポリエステルフィルムであることが好ましい。」(前記1(1)【0032】)、「二軸延伸フィルムは、より優れた深絞り成型性が得られる観点から、チューブラー二軸延伸法及び同時二軸延伸法により延伸されたものであることが好ましい。」(前記1(1)【0033】)と、基材層をなすポリエステルフィルムの好ましい種類及び製法が記載されている。
前記の好ましい製法として挙げられているチューブラー延伸法は、例えば、特開2007-69569号公報にもみられるように、本件特許の出願前に当業者には広く知られた技術である。また、好ましいポリエステルフィルムの種類として挙げられている共重合ポリエステルの具体的な材料(モノマー)は例示されていないものの、所望の物性を得るために必要な材料を選択することは、当業者が通常行い得る範囲のものであり、本件発明1の突刺し強度、F50(160℃)応力値及びΔAの条件(物性)が特殊なものであるとは認められないから、当該突刺し強度、F50(160℃)応力値及びΔAの条件を満たすべく共重合ポリエステルの材料を選択することが、不可能ないし当業者に過度な試行錯誤を要するものとまではいえない。
そして、発明の詳細な説明には、深絞り成型性に影響することが明らかである基材層の厚さについて、「基材層11の厚さは、6~40μmであることが好ましく、10~30μmであることがより好ましい。」(前記1(1)イ【0034】)と具体的に記載されていることも勘案すると、本件特許の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、本件発明1の発明特定事項B~B3bを満たす基材層を得られることを理解できるといえる。これは、本件発明2~6の基材層についても同様である。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、ポリエステルフィルムの製造方法として挙げられているチューブラー法について具体的な方法が一切記載されておらず、共重合ポリエステルについても具体的な記載が一切されていないから、どのような材料、方法により得られる基材層を選択すれば、本件発明1の基材層の構成を満たし得るのか、出願時の技術常識を考慮しても当業者が理解できないと主張する。(特許異議申立書33頁)。
しかしながら、前記(2)に示したとおりであるから、前記主張を採用することはできない。
(4)申立理由Cについてのまとめ
以上のとおり、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~6を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとはいえないから、申立理由Cは理由がない。
第5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に上記請求項に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-701049