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特許異議申立

2025-700722

セルロース繊維を含む不織布

審判番号
2025-700722
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2023-515542
登録番号
7614339
請求日
2025年07月14日
審決日
2025年10月01日
公報発行日
2025年11月28日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】旭化成株式会社
  • 【権利者代理人】青木 篤
  • 【権利者代理人】三橋 真二
  • 【権利者代理人】中村 和広
  • 【権利者代理人】齋藤 都子
  • 【権利者代理人】三間 俊介
  • 【異議申立人】柏木 里実
審判長/審判官
  • 審判長 松永 稔
  • 審判官 小川 将之
  • 審判官 河本 充雄
分類
P1651.121-Y (D04H)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条、特許法第113条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7614339号発明「セルロース繊維を含む不織布」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7614339号の請求項1~13に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7614339号の請求項1~13に係る特許(以下「本件特許」という。)について、特許異議の申立てに至る経緯は以下のとおりである。 令和3年4月23日:優先日 令和4年4月22日:本件特許の国際出願 令和7年1月6日 :特許権の設定登録 令和7年1月15日:特許掲載公報の発行 令和7年7月14日:特許異議申立人柏木里実(以下「申立人」という。)による本件特許に対する特許異議の申立て 第2 本件発明 本件特許の請求項1~13に係る発明(以下「本件発明1~13」という。)は、特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 繊維の集積量の多い高繊維量領域と、該高繊維量領域に比べて繊維の集積量が相対的に少ない低繊維量領域により杉綾柄を呈する、セルロース繊維を含む不織布であって、 乾燥状態において、該不織布のおもて面と裏面の摩擦係数が異なり、摩擦係数がより小さい面をおもて面、摩擦係数がより大きい面を裏面としたとき、以下の式: 摩擦係数の差(%)={(裏面の摩擦係数-おもて面の摩擦係数)/おもて面の摩擦係数}×100 により算出される摩擦係数の差が10%以上80%以下であり、かつ、該不織布に対するセルロース繊維の含有量が80重量%以上100重量%以下であることを特徴とする不織布。 【請求項2】 前記セルロース繊維は連続長繊維である、請求項1に記載の不織布。 【請求項3】 乾燥状態における、前記不織布のおもて面の摩擦係数が0.05以上0.3以下である、請求項1又は2に記載の不織布。 【請求項4】 乾燥状態における、前記不織布のおもて面の表面粗さが10μm以上60μm以下である、請求項1又は2に記載の不織布。 【請求項5】 前記不織布の目付が10g/m2以上150g/m2以下であり、かつ、厚みが0.1mm以上1.0mm以下である、請求項1又は2に記載の不織布。 【請求項6】 湿潤状態における、前記不織布のタテ方向の初期抗張力が0.1N/50mm以上3.0N/50mm以下である、請求項1又は2に記載の不織布。 【請求項7】 乾燥状態における、前記不織布の裏面の摩擦係数が0.05以上0.35以下である、請求項1又は2に記載の不織布。 【請求項8】 乾燥状態における、前記不織布の裏面の摩擦係数が0.05以上0.35以下である、請求項3に記載の不織布。 【請求項9】 前記摩擦係数の差が30%以上50%以下である、請求項1又は2に記載の不織布。 【請求項10】 乾燥状態における、前記不織布のおもて面の摩擦係数が0.13以上0.17以下であり、かつ、乾燥状態における、前記不織布の裏面の摩擦係数が0.17以上0.35以下である、請求項9に記載の不織布。 【請求項11】 前記不織布に対するセルロース繊維の含有量が95重量%以上100重量%以下である、請求項1又は2に記載の不織布。 【請求項12】 請求項1又は2に記載の不織布を含むフェイスマスク。 【請求項13】 請求項1又は2に記載の不織布を含む美容用トナーパッド。」 第3 特許異議申立理由と主張の概要 1 申立理由 令和7年7月14日提出の特許異議申立書における特許異議申立理由の概要は、本件特許の請求項1~13に係る発明は、甲1号証と甲3号証又は甲2号証と甲3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきであるというものである。 以下、甲1号証に基づく進歩性欠如の申立理由を「申立理由1」、甲2号証に基づく進歩性欠如の申立理由を「申立理由2」という。 2 甲号証一覧 特許異議申立書とともに提出された甲号証は、以下のとおりである。 甲1号証:特許第4548814号 甲2号証:特開2017-101341号公報 甲3号証:国際公開第2020/226181号 3 申立人の主張の概要 申立理由に関する申立人の主張の概要は、以下のとおりである。 (1)甲1号証に基づく進歩性欠如について ア 甲1号証に記載された発明は、おもて面と裏面の摩擦係数の差が10%以上80%以下である蓋然性が極めて高いから、本件発明1は甲1号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。 イ 本件特許の請求項5に特定される「不織布の目付」及び「厚み」は、甲1号証に記載されているから、本件発明5は甲1号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。 ウ 甲1号証及び甲3号証に記載の製法は本件発明の製法と近似しているから、甲1号証及び甲3号証も、本件特許の請求項3、7~10に特定される「前記不織布のおもて面の摩擦係数」、「前記不織布の裏面の摩擦係数」、「摩擦係数の差」である蓋然性が高い。したがって、本件発明3、7~10は甲1号証と甲3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。 エ 本件特許の請求項2(長繊維)、請求項4(表面粗さ)、請求項11(セルロース繊維の含有量)、請求項12(フェイスマスク)、請求項13(トナーパッド)に特定される事項は、いずれも甲3号証に記載されている事項であり、本件特許の請求項6(タテ方向の初期抗張力)は、甲3号証に記載された蓋然性が高い事項であるから、本件発明2、4、6、11~13は、甲1号証と甲3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。 (2)甲2号証に基づく進歩性欠如について ア 甲2号証に記載された発明は、おもて面と裏面の摩擦係数の差が10%以上80%以下である蓋然性が高く、上側繊維層、下側繊維層、及び中間繊維層を合わせると、再生セルロース繊維が80重量%以上を含むことは明白である。また、甲3号証はセルロース繊維の含有量が100重量%であることが記載されている。そうすると、本件発明1は、甲2号証に記載された発明、あるいは、甲2号証と甲3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。 イ 本件特許の請求項5に特定される「不織布の目付」及び「厚み」は、甲2号証に記載されているから、本件発明5は甲2号証に記載された発明、あるいは甲2号証と甲3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。 ウ 甲2号証及び甲3号証に記載の製法は本件発明の製法と近似しているから、甲1号証及び甲3号証も、本件特許の請求項3、7~10に特定される「前記不織布のおもて面の摩擦係数」、「前記不織布の裏面の摩擦係数」、「摩擦係数の差」である蓋然性が高い。したがって、本件発明3、7~10は甲2号証と甲3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。 エ 本件特許の請求項2(長繊維)、請求項4(表面粗さ)、請求項11(セルロース繊維の含有量)、請求項12(フェイスマスク)、請求項13(トナーパッド)に特定される事項は、いずれも甲3号証に記載されている事項であり、本件特許の請求項6(タテ方向の初期抗張力)は、甲3号証に記載された蓋然性が高い事項であるから、本件発明2、4、6、11~13は、甲2号証と甲3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。 第4 甲号証の記載内容 1 甲1号証の記載と甲1発明 (1)甲1号証の記載 甲1号証には、次の記載がある。(下線は当審により付加した。なお、甲1号証の元となる特許公報に引かれていた下線は消去した。) 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、拭き取りや、清掃などの用途に適する不織布に関する。より詳細には、本発明は特定の凹凸模様を有する不織布に関するものである。本発明の不織布は、拭き取りや清掃などに用いたときに、拭き取り性能、清掃性能、液体の吸収性などに優れており、しかも汚物などが通過しにくくて手の汚れが生じない。さらに、本発明の不織布は、複数枚の不織布を積み重ねたときに不織布間の分離性に優れていて、容器等から取り出す際に次に続く不織布を一緒に取り出してしまうというトラブルが生じず、一枚ずつ確実に取り出すことができる。そして、本発明の方法による場合は、前記した優れた特性を有する不織布を簡単な操作で円滑に製造することができる。」 「【0012】 さらに、本発明の不織布では、杉綾状の凹凸模様の凸部の見掛け密度(B1)が凹部の見掛け密度(B2)よりも大きくなっている。そのため、本発明の不織布では、凹部に比べて凸部により多くの繊維が集合した状態で繊維同士が交絡していて、凸部は潰れにくく、弾性に富んだ状態になっている。それに伴って、本発明の不織布を清掃用、拭き取り用などの用途に用いた場合は、良好な清掃性能、拭き取り性能を示し、液体などの吸収性に優れている。また、本発明の不織布が親水性繊維を用いて形成されている場合は、凸部に親水性繊維が多量に存在することにより、凸部による水性汚れの吸収や拭き取り性が一層良好になる。さらに、本発明の不織布に清掃や拭き取りを促進するための水性組成物を含浸させた場合には、水性組成物の含浸能および保持能が良好なことにより、極めて優れた拭き取り性能、清掃性能などを示す。」 「【0014】 さらに、本発明の不織布全体の目付けは、用途などに応じて調節し得るが、一般的には、10~100g/m2、特に30~60g/m2であることが、拭き取り用、清掃用などとして用いる際の拭き取り性能、清掃性能、液体などの吸収性能、取り扱い性、製造の容易性などの点から好ましい。 【0015】 本発明の不織布は、不織布の両面に杉綾状の凹凸模様を有していてもよいし[例えば図1の(a)および(b)]、または片面のみに杉綾状の凹凸模様を有しもう一方の面は平坦であってもよい[例えば図1の(c)]。そのうちでも、本発明の不織布は、両方の面に杉綾状の凹凸模様を有していることが、不織布間の分離性、拭き取り性能、清掃性能、吸収性能、洗濯時の汚れ放出性などが良好になり、製造が容易であることから好ましい。 不織布の両面に杉綾状の凹凸模様を有する場合は、両面の杉綾状の凹凸模様が同じであっても、または異なっていてもよい。また、両面に杉綾状の凹凸模様を有する場合は、一方の面ともう一方の面とで杉綾状の凹凸模様の深さ(凸部の高さ又は凹部の深さ)が同じであってもまたは異なっていてもよい。 さらに、本発明の不織布は、一方の面または両方の面の全体に杉綾状の凹凸模様を有していてもよいし、または一部分(例えば端の部分、中央部分など)にのみ杉綾状の凹凸模様を有していてもよい。また、杉綾状の凹凸模様は、一つの面全体で同じであってもよいし、または部分的に異なっていてもよい。 そのうちでも、本発明の不織布は、面の全体に杉綾状の凹凸模様を有していることが、不織布間の分離性、拭き取り性能、清掃性能、吸収性能、製造の容易性などの点から好ましい。 後記する方法により製造する場合は、一般に両面にほぼ同じ杉綾状の凹凸模様を有する不織布が製造されることが多い。 【0016】 本発明の不織布では、杉綾状の凹凸模様における凸部1の厚さ(C1)(図1に示すように凸部における最大厚)に対する凹部の厚さ(C2)(図1に示すように凹部における最小厚)の比(C2/C1)は、不織布の用途などに応じて調節し得るが、一般的には0.1~0.9であることが不織布間の分離性、清掃性能、拭き取り性能、液体などの吸収性能、製造の容易性などの点から好ましく、0.2~0.8であることがより好ましい。 また、本発明の不織布では、凸部の厚さ(C1)および凹部の厚さ(C2)は、不織布全体の目付け、不織布を構成する繊維の用途、不織布の用途などに応じて異なり得るが、一般には凸部の厚さ(C1)が0.3~3.0mm、特に0.6~1.0mmであり、凹部の厚さ(C2)が0.1~1.2mm、特に0.3~0.6mmであることが、不織布間の分離性、清掃性能、拭き取り性能、液体などの吸収性能、製造の容易性などの点から好ましい。」 「【0021】 本発明の不織布を、清掃用や拭き取り用に用いる場合、特にウエットタイプの不織布にして清掃用や拭き取り用に用いる場合は、不織布の質量に基づいて、親水性繊維を10質量%以上含有することが好ましく、40~90質量%含有することがより好ましい。その際の親水性繊維としては、例えば、綿、麻、パルプ、レーヨン繊維、ポリノジック繊維、キュプラ繊維、アセテート繊維、親水性ポリビニルアルコール繊維、親水性ポリエチレンテレフタレート系繊維などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。」 「【0041】 《実施例1》 (1) レーヨン繊維(単繊維繊度1.7dtex、繊維長40mm)を60質量部、ポリエチレンテレフタレートを芯成分としてポリエチレンを鞘成分とする低温融着性芯鞘型複合紡糸繊維(芯成分:鞘成分の質量比=1:1)(以下「PET/PE芯鞘繊維」という)(単繊維繊度2.2dtex、繊維長51mm)を30質量部およびポリエチレンテレフタレート繊維(以下「PET繊維」という)(単繊維繊度2.2dtex、繊維長51mm)を10質量部の割合で用いて均一に混綿した後、目付け4g/m2のカードウエブを常法により作製し、このカードウエブを開口率25%、穴径0.3mmのパンチングドラム支持体上に載置して速度80mm/分で長手方向に連続的に移送すると同時に、上方から高圧水流を噴射して交絡処理を行って、交絡した繊維ウエブ(織布)を製造した。この交絡処理に当たっては、穴径0.12mmのオリフィスをウエブの幅方向に沿って0.7mmの間隔で設けてあるノズル3本を使用し(隣接するノズル間の距離20cm)、1列目(上流側)のノズルから噴射した高圧水流の水圧を35kg/cm2、2列目(中間位置)のノズルから噴射した高圧水流の水圧を40kg/cm2、3列目(下流側)のノズルから噴射した水圧を45kg/cm2として行った。 【0042】 (2) 上記(1)で得られた不織布(交絡した繊維ウエブ)を、図4に示すような、細かい網目を有する全体に平坦な網体10aの上に杉綾状の網体10bを重ねた杉綾状の凹凸模様を有する支持体上に載置して連続的に移送すると共に高圧水流を噴射して交絡処理を行って、不織布を構成する繊維を更に交絡させると共に、不織布に杉綾状の凹凸模様を形成させた後、130℃で乾燥して、図2の(a)に示すような、杉綾状の凹凸模様を有する不織布を製造した。なお、杉綾状の凹凸模様を形成させるためのこの交絡処理は、穴径0.10mmのオリフィスをウエブの幅方向に沿って0.7mmの間隔で設けてあるノズル1本を使用して、高圧水流の水圧35kg/cm2の条件下で行った。 【0043】 (3) 上記(2)で得られた杉綾状の凹凸模様を有する不織布は、目付けが40g/m2であり、その凹凸模様の凸部が角のない隆起形状を有し、凸部の見掛け密度(B1)が0.058g/cm3、凹部の見掛け密度(B2)が0.046g/cm3であり(B1/B2=1.26)、凸部の見掛け密度が凹部の見掛け密度よりも大きいものであった。また、この不織布は、凸部の厚さ(C1)が0.72mm、凹部の厚さ(C2)が0.54mmであり(C2/C1=0.75)、杉綾状の凹凸模様における斜め方向の凹凸のピッチDが2.5mm、長さ方向の凹凸のピッチE13mmであった。 (4) 上記(2)で得られた杉綾状の凹凸模様を有する不織布について、強力および伸度、不織布間の分離強力並びに汚れ拭き取り性を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。」 「【0049】 【発明の効果】 本発明の杉綾状の凹凸模様を有する不織布は、凸部が角のない滑らかな隆起形状を有し、しかも凸部の見掛け密度が凹部の見掛け密度よりも大きくて、凸部により多くの繊維が集合した状態で不織布を構成する繊維同士が交絡していて、凸部が潰れにくく且つ弾力性に優れている。そのため、本発明の不織布を複数枚積み重ねたときに、不織布間の接触面積が低減し、その状態が凸部が潰れにくいことにより不織布の重みによっても変化せず、さらには不織布間の引っ掛かりが防止され、不織布を容器などから一枚ずつ確実に取り出すことができ、しかも一枚の不織布の取り出しと併せて次の不織布の端部を容器の取り出し口から適量突出させることができる。 本発明の不織布では、該不織布を用いての清掃時や拭き取り時に、被清掃面や被拭き取り面にまず最初に接触する凸部の見掛け密度が高くて、凸部により多くの繊維が存在し且つ凸部が潰れにくいので、本発明の不織布を清掃や拭き取りなどの用途に用いた場合には、清掃性能、拭き取り性能、液体などの吸収性能に極めて優れている。 【0050】 本発明の不織布では、エンボス加工による従来の凹凸模様を有する不織布と異なり、凹部が強く圧縮されておらず、極端に薄くなっていないので、汚物などが凹部を通して通過しにくく、手などの汚れが生じにくい。 本発明の水性組成物を含浸または被覆した本発明の不織布では、繊維がより多く存在する凸部に該水性組成物がより多く含浸または被覆されており、そのような凸部が被清掃面や被拭き取り面にまず最初に接触するので、清掃や拭き取りをより円滑に行うことができる。 繊維ウエブを杉綾状の凹凸模様を支持体上に載置して流体を噴射して交絡処理する方法により、上記した優れた特性を有する本発明の不織布を、極めて簡単に且つ円滑に製造することができる。」 「 [図:0001429044000001.jpg] 」 (2)甲1発明 甲1号証の記載内容を整理すると、以下のようになる。 ア 【0012】から、甲1号証には、不織布の発明が記載されている。また、当該不織布では、杉綾状の凹凸模様の凸部の見掛け密度(B1)が凹部の見掛け密度(B2)よりも大きくなっていることが記載されている。 イ 【0021】には、甲1号証の不織布に含有される親水性繊維として、例えば、綿、麻、パルプ、レーヨン繊維、ポリノジック繊維、キュプラ繊維が記載されている。 ウ 【0015】には、甲1号証の不織布は、片面のみに杉綾状の凹凸模様を有しもう一方の面は平坦であってもよいことが記載されている。 エ 【0021】には、甲1号証の不織布は、親水性繊維を40~90質量%含有することがより好ましいことが記載されている。 オ 以上の記載内容によれば、甲1号証には、以下の「甲1発明」が記載されているものと認められる。 「杉綾状の凹凸模様の凸部の見掛け密度(B1)が凹部の見掛け密度(B2)よりも大きくなっている、綿、麻、パルプ、レーヨン繊維、ポリノジック繊維、キュプラ繊維のいずれかの親水性繊維を含有する不織布であって、 片面のみに杉綾状の凹凸模様を有しもう一方の面は平坦であり、 親水性繊維を40~90質量%含有する 不織布。」 2 甲2号証の記載と甲2発明 (1)甲2号証の記載 甲2号証には、次の記載がある。(下線は当審により付加した。) 「【0017】 (実施形態1:不織布) 本発明のウェットワイピングシート(以下、単に「シート」とも呼ぶ)用の不織布を実施形態1として説明する。実施形態1の不織布は、再生セルロース繊維と熱接着性繊維とを含む上側繊維層および下側繊維層の間に、再生セルロース繊維を含む中間繊維層が位置し、3つの繊維層が繊維同士の交絡により一体化されている積層不織布である。以下、本実施形態で用いられる、再生セルロース繊維および熱接着性繊維についてまず説明する。」 「【0035】 上側繊維層および下側繊維層は互いに独立して、再生セルロース繊維と熱接着性繊維とを合わせた質量に対し、再生セルロース繊維を60質量%以上80質量%以下の量で含み、熱接着性繊維を20質量%以上40質量%以下の量で含む。ここで「互いに独立して」とは、上側繊維層における再生セルロース繊維と熱接着性繊維の混合割合が、下側繊維層のそれとは異なっていてもよいことを意味する。再生セルロース繊維の割合が60質量%未満であり、熱接着性繊維の割合が40質量%を超えると、不織布の液体保持性が低下するとともに、熱接着性繊維の接着により不織布の触感が低下する。再生セルロース繊維の割合が80質量%を超え、熱接着性繊維の割合が20質量%未満であると、熱接着性繊維の接着による不織布強度の向上を十分に図ることができない。また、熱接着性繊維の割合が少ないと、繊維同士の接着点が少なくなることで不織布の強度が低下する傾向にある。不織布の強度が低下すると不織布の嵩が減少しやすくなり、保持できる液体の量が少なくなる。 上側繊維層および下側繊維層において、再生セルロース繊維の割合は好ましくは65質量%以上75質量%以下、熱接着性繊維の割合は好ましくは25質量%以上35質量%以下である。」 「【0037】 中間繊維層は再生セルロース繊維を50質量%以上の量で含む。再生セルロース繊維の割合が50質量%未満であると、不織布の保液性が低くなり、十分な量の液体を保持できなくなる。中間繊維層は、再生セルロース繊維を好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらにより好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上含み、再生セルロース繊維のみを含んでよい。」 「【0039】 不織布全体の目付は、ウェットワイピングシートが具体的に適用される用途等に応じて適宜決定される。例えば、不織布全体の目付は、30g/m2~100g/m2の範囲内にあってよく、特に40g/m2~80g/m2の範囲内にあってよく、より特に50g/m2~70g/m2の範囲内にあってよい。」 「【0046】 本実施形態の不織布においては、表面に凹凸が形成されている。不織布の表面において繊維間が接着されていると、接着点が皮膚に対して刺激感を与えやすくなる。本実施形態では、表面に凹凸を形成することによって、不織布が皮膚と接触する面積を減らし、それにより接着点に起因する刺激感を緩和するとともに、拭き取りを軽くすることができる。 【0047】 凹凸は、不織布の圧密化により凹部を形成して得られるものであってよい。あるいは、後述するように、適切な支持体を用いた高圧水流処理によって、繊維密度が小さい部分と、繊維密度が大きい部分とを形成して、凹凸を得てもよい。繊維密度の小さい部分は一般に厚さが小さいため、凹部となり、繊維密度の大きい部分は一般に厚さが大きいため、凸部となる。また、凹部には開口部が形成されていてもよい。開口部もまた、本明細書でいう凹部または低繊維密度領域である。」 「【0065】 あるいは、凹凸形成可能な支持体として、杉綾織り構造の支持体を用いてよい。杉綾織り構造の支持体を用いると、図1および図2に示すような凹凸を得ることができる。なお、図2に示す凹凸は、杉綾織物の裏面(緯糸がより多く現れている面)側を支持体の表面として、当該面に積層ウェブを載せて、柱状水流を噴射したときに得られる凹凸である。杉綾織りの支持体は、好ましくは経糸(モノフィラメント)の線径が0.1~2mm、経糸密度が5~250本/インチ、緯糸(モノフィラメント)の線径が0.1~2mm、緯糸密度が5~250本/インチであるものである。」 「【0075】 各実施例において、それぞれ凹凸形成用の支持体として、表2-1および表2-2に示す凹凸形成用の支持体を使用して、孔径0.12mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルを用いてウェブの一方の面に柱状水流を1回噴射して、凹凸を形成した。杉綾支持体(杉綾)を使用した場合には、図1に示すような凹凸であって、凹部の幅が1mm、凸部の幅が1.7mmであり、凹部および凸部が共にMD方向に対して23°の角度で存在し、図1に示す幅dが27mmである凹凸が形成された。杉綾支持体裏面(杉綾(裏))を使用した場合には、図2に示すような凹凸であって、凹部の幅が1mm、凸部の幅が1.7mmであり、凹部および凸部が共にMD方向に対して23°の角度で存在し、図2に示す幅dが27mmである凹凸が形成された。」 「【0086】 <使用時の摩擦感試験> 使用した際に肌に与える摩擦感を評価するため、摩擦係数を測定し、評価した。測定には静動摩擦測定機(株式会社トリニティラボ社性 TL201Ts)を使用した。摩擦係数を測定は摩擦係数を求める試料(不織布)に対し、30gの荷重を加えた接触子(擬似指紋)を当て、移動速度が毎秒10mmになるように接触子を水平に30mm移動させる。この移動を2往復行い、2往復する間の摩擦係数を測定した。測定された摩擦係数から以下のように静止摩擦係数、動摩擦係数を求めた。 ・静止摩擦係数(μs) 不織布試料上に静止している接触子が動き出した際に記録される摩擦係数 ・動摩擦(μk) 接触子が移動を開始した際に記録される摩擦係数の最大値が低下してから、移動が終了するまでの摩擦の平均値」 「【0089】 【表2―1】 [図:0001429044000002.jpg] 【0090】 【表2―2】 [図:0001429044000003.jpg] 」 「【図1】 [図:0001429044000004.jpg] 【図2】 [図:0001429044000005.jpg] 」 (2)甲2発明 甲2号証の記載内容を整理すると、以下のようになる。 ア 【0017】には、実施形態1の不織布として、再生セルロース繊維と熱接着性繊維とを含む上側繊維層および下側繊維層の間に、再生セルロース繊維を含む中間繊維層が位置し、3つの繊維層が繊維同士の交絡により一体化されている積層不織布が記載されている。 イ 【0046】には、不織布は、表面に凹凸が形成されていることが記載されている。 ウ 【0047】には、適切な支持体を用いた高圧水流処理によって、繊維密度が小さい部分と、繊維密度が大きい部分とを形成して、凹凸を得てもよいこと、繊維密度の小さい部分は一般に厚さが小さいため、凹部となり、繊維密度の大きい部分は一般に厚さが大きいため、凸部となることが記載されている。 エ 【0065】には、凹凸形成可能な支持体として、杉綾織り構造の支持体を用いてよいこと、杉綾織り構造の支持体を用いると、図1および図2に示すような凹凸を得ることができることが記載されている。ここで図1及び図2を見ると、凹凸が杉綾織り構造を呈していることが見て取れる。 オ 上記イ~エによれば、不織布は、繊維密度の小さい凹部と繊維密度の大きい凸部とが杉綾織り構造を呈しているといえる。 カ 【0035】には、上側繊維層および下側繊維層は互いに独立して、再生セルロース繊維と熱接着性繊維とを合わせた質量に対し、再生セルロース繊維を60質量%以上80質量%以下の量で含むことが記載されている。 キ 【0037】には、中間繊維層は再生セルロース繊維を好ましくは90質量%以上含んでよいことが記載されている。 ク 以上の記載内容によれば、甲2号証には、以下の「甲2発明」が記載されているものと認められる。 「繊維密度の小さい凹部と繊維密度の大きい凸部とが杉綾織り構造を呈し、再生セルロース繊維と熱接着性繊維とを含む上側繊維層および下側繊維層の間に、再生セルロース繊維を含む中間繊維層が位置し、3つの繊維層が繊維同士の交絡により一体化されている積層不織布であって、 上側繊維層及び下側繊維層は互いに独立して、再生セルロース繊維と熱接着性繊維とを合わせた質量に対し、再生セルロース繊維を60質量%以上80質量%以下の量で含み、中間繊維層は再生セルロース繊維を90質量%以上含む、 積層不織布。」 3 甲3号証の記載 甲3号証には、次の記載がある。(下線は当審により付加した。) 「[0008]本発明に係る再生セルロース系繊維不織布は、低目付時でも湿潤時の取扱い性に優れ、密着性が高く、かつ、肌触りに優れた不織布材料であるため、例えば、フェイスマスク、ポイントシート、立体マスク等の薬剤含浸シートの基材として好適に利用可能である。」 「[0014]本実施形態の再生セルロース系繊維不織布の、乾燥状態の表面粗さは、100μm以下であり、好ましくは90μm以下、より好ましくは80μm以下である。乾燥状態の表面粗さが100μmより大きいと、皮膚への物理的刺激性が高まり、肌触り性が低下する。また、肌との隙間が多く生じてしまい、肌への追従性が劣り、肌への密着性が低下する。乾燥状態の表面粗さをこの範囲内に調整するためには、紡糸されたシートを積層させる下層ネットとして細かい網目のものを用いることが有効であり、特にメッシュ数が60以上であることが好ましい。また、水流交絡のノズル数を増やし、水流本数を増やすことも有効である。 本明細書中、「乾燥状態の表面粗さ」とは、計測領域中の各点の高さの二乗平均平方根であり、「高さ」の標準偏差に相当する。ここで、「高さ」とは、計測表面における各点の基準表面からの距離を表している。」 「[0017]本明細書中、「不織布のヨコ方向」とは、不織布の湿潤時の初期抗張力を測定した際に、最も初期抗張力が大きくなる引張り方向と直交する方向である。」 「[0034]次に、特にフェイスマスクとしての評価・測定方法について説明する。 (10)取扱い性 フェイスマスク型に抜いた不織布を4つ折りにし、市販の化粧液(株式会社ディーエイチシー社製、DHC濃密うるみ肌)を25cc含浸させたサンプルの開きやすさを、女性10名により、それぞれ、以下の評価基準に基づき5段階評価で判定し、その平均値を取扱い性の指標として算出した。尚、平均値が3.5点未満の評価を、取扱い性が好ましくないものとした。 5点:皺が入ることなく広げられる。 4点:皺は入るがイライラせずに広げられる。 3点:普通。 2点:イライラするが時間をかければ広げられる。 1点:広げることができない。」 「[0037][実施例1] コットンリンターを銅アンモニア溶液で溶解し、直径0.3mmの孔原液吐出孔が180.9個/cm2である紡口を用い、1ホール当たりの吐出量が0.034cc/minにて、流下緊張下で連続してネット上に4層重ねで紡糸しシートを形成させ、3MPaの高圧水流により繊維を交絡させながらシートに貫通孔及び凹部を形成させた後、乾燥させた。また、穴開条件としては、下層ネット70メッシュ、水流交絡ノズル数は3.70hole/cm2である。尚、下層ネットスピードは37.5m/minであった。得られた不織布の繊維径は5.25μm、乾燥状態の表面粗さは84μm、乾燥状態における地合指数は173、湿潤時の不織布のヨコ方向の初期抗張力は、0.26N/50mmであった。」 「[0049][実施例13] 旭化成(株)製のベンベルグ(登録商標)短繊維(素材名キュプラ)0.8dtex×51mmの綿を用いて、スパンレース製造設備を用いて55.4g/m2のカードウエッブを作製した。引き続き、ウエッブ支持体のメッシュ織物開口度70メッシュ、水流交絡ノズル数は3.70hole/cm2、水流圧力1MPaで表、2Mpaで裏の処理を実施した後、表側から再度3MPaにて処理し、乾燥させた。これら一連の加工は、40m/minの速度で実施した。その後、熱ロール加工機を用いて、平滑加工を行い、不織布を得た。得られた不織布の繊維径は8.29μm、乾燥状態の表面粗さは65μm、乾燥状態における地合指数は161、湿潤時の不織布のヨコ方向の初期抗張力は、0.68N/50mmであった。」 「[請求項1] 繊維径0.5μm以上10.0μm以下の再生セルロース系繊維から構成される不織布であって、該不織布の、乾燥状態の表面粗さが100μm以下であり、乾燥状態における地合指数が250以下であり、かつ、湿潤時の不織布のヨコ方向の初期抗張力が0.25N/50mm以上0.75N/50mm以下であることを特徴とする不織布。 [請求項2] 目付が10g/m2以上80g/m2以下であり、かつ、厚みが0.05mm以上0.50mm以下である、請求項1に記載の不織布。 [請求項3] 前記セルロース系繊維は連続長繊維である、請求項1又は2に記載の不織布。」 「[請求項5] 請求項1~4のいずれか1項に記載の不織布を含む薬液含浸シート。 [請求項6] 請求項1~4のいずれか1項に記載の不織布を含むフェイスマスク。」 第5 当審の判断 1 申立理由1についての判断 (1)本件発明1について ア 本件発明1と甲1発明を対比する。 (ア)本件発明1と甲1発明は、いずれも「不織布」の発明である点で一致する。 (イ)甲1発明において「杉綾状の凹凸模様の凸部の見掛け密度(B1)が凹部の見掛け密度(B2)よりも大きくなっている」ことは、本件発明1において「繊維の集積量の多い高繊維量領域と、該高繊維量領域に比べて繊維の集積量が相対的に少ない低繊維量領域により杉綾柄を呈する」ことに相当する。 (ウ)本件明細書【0012】、【0058】の記載から、甲1発明における「綿、麻、パルプ、レーヨン繊維、ポリノジック繊維、キュプラ繊維」はいずれも「セルロース繊維」であるから、甲1発明における「綿、麻、パルプ、レーヨン繊維、ポリノジック繊維、キュプラ繊維のいずれかの親水性繊維」は、本件発明1における「セルロース繊維」に相当する。 (エ)甲1発明は、「片面のみに杉綾状の凹凸模様を有しもう一方は平坦」であるから、本件発明1と甲1発明は、「乾燥状態において、該不織布のおもて面と裏面の摩擦係数が異なり」との点で一致するといえる。 (オ)甲1発明は「親水性繊維を40~90質量%含有」するものであるから、本件発明1と甲1発明は、「セルロース繊維の含有量」が「80重量%以上90重量%以下」の範囲において一致する。 イ 以上によれば、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。 [一致点] 「繊維の集積量の多い高繊維量領域と、該高繊維量領域に比べて繊維の集積量が相対的に少ない低繊維量領域により杉綾柄を呈する、セルロース繊維を含む不織布であって、 乾燥状態において、該不織布のおもて面と裏面の摩擦係数が異なり、 かつ、該不織布に対するセルロース繊維の含有量が80重量%以上100重量%以下であることを特徴とする不織布。」 [相違点1] 本件発明1は、「摩擦係数がより小さい面をおもて面、摩擦係数がより大きい面を裏面としたとき、以下の式: 摩擦係数の差(%)={(裏面の摩擦係数-おもて面の摩擦係数)/おもて面の摩擦係数}×100 により算出される摩擦係数の差が10%以上80%以下」であるのに対し、甲1発明は、「摩擦係数の差が10%以上80%以下」であることが特定されていない点。 ウ 上記相違点1について検討する。甲1号証には、甲1発明のように、片面のみに杉綾状の凹凸模様を形成することは記載されているものの、おもて面と裏面の摩擦係数の差を所定の範囲とすることについては、記載も示唆もされていない。むしろ、甲1号証の【0015】には「本発明の不織布は、両方の面に杉綾状の凹凸模様を有していることが、不織布間の分離性、拭き取り性能、清掃性能、吸収性能、洗濯時の汚れ放出性などが良好になり、製造が容易であることから好ましい。・・・後記する方法により製造する場合は、一般に両面にほぼ同じ杉綾状の凹凸模様を有する不織布が製造されることが多い。」との記載があることから、甲1号証では、好ましい実施形態として、おもて面と裏面で同様の凹凸模様とすることが示唆されているといえる。そうすると、甲1号証の記載から、おもて面と裏面の「摩擦係数の差が10%以上80%以下」となるように不織布を構成することは、当業者が容易に想到したこととはいえない。また、甲3号証にも、摩擦係数の差を10%以上80%以下の範囲とすることは、記載も示唆もされていない。 したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明2~13について 本件発明2~13は、いずれも本件発明1の構成を全て含む発明であるから、上記(1)の検討と同様にして、甲1発明及び甲3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)申立人の主張に対して ア 申立人は、甲1号証の図1(c)は、おもて面が凹凸、裏面が平坦であることから、おもて面と裏面の摩擦係数の差が10%以上80%以下である蓋然性が極めて高い旨主張する(異議申立書、3(4)(4-2)(4-2-1)エ)。 しかしながら、甲1号証の図1(c)から不織布のおもて面と裏面の摩擦係数には差があるといえるものの、甲1号証には摩擦係数の測定結果が示されておらず、おもて面と裏面の摩擦係数の差が「10%以上80%以下」であるか否かは不明である。申立人の主張は、上記摩擦係数の差が「10%以上80%以下である」蓋然性が極めて高いことについての具体的な根拠を伴ったものではなく、採用できない。 イ 申立人は、甲1号証の【0041】~【0043】や甲3号証の実施例に記載の製法は、本件発明の製法と近似しているから、甲1号証と甲3号証は、本件発明3、7~10に特定される構成を備えている蓋然性が高い旨主張する(異議申立書、3(4)(4-2)(4-2-3)、(4-2-7)~(4-2-10))。ここで、本件発明9は「前記摩擦係数の差が30%以上50%以下である」ことを特定するものであることに鑑みると、上記主張は、甲1号証や甲3号証に記載の製法は本件発明の製法と近似しているから、甲1号証と甲3号証は上記相違点1に係る構成(「摩擦係数の差が10%以上80%以下」)を備えている蓋然性が高い旨の主張とも解される。 そこで検討すると、本件明細書【0032】には「本実施形態のセルロース繊維不織布の製造方法においては、高圧水流を吐出するノズルに角度を設けて穴明を行い、下層ネットへの不織布の食い込みを調整することで、杉綾柄の高繊維量領域を明瞭にしながら、表裏の摩擦係数の差を所定の値以上にすることが可能となった。」と記載され、本件明細書【0033】には「本実施形態のセルロース繊維不織布の穴明方法の好ましい実施形態の1つは、穴明ノズルを下層ネットに対して斜めに設置し、不織布の厚み方向に対し斜めの方向に交絡水流を打つことである。斜め方向に交絡水流を打つことで、杉綾織の下層ネットに食い込む不織布裏面の凸部が大きく生じる。一方で、不織布の厚み方向に対して斜めに交絡水流が貫通するため、不織布表面の開孔部の面積が小さくなることから、反対面(おもて面)は凸部が小さくなる。」との記載がある。また、本件明細書の実施例を見ると、同じ長繊維セルロース素材かつ同じ程度の目付であり、不織布厚み方向に対する交絡水流の角度が異なる実施例2、実施例13、比較例3において、摩擦係数差は、角度0°のとき8%(比較例3)、角度1°のとき12%(実施例13)、角度3°のとき42%(実施例2)となっている。 これらの記載によれば、本件発明1の「摩擦係数の差が10%以上80%以下」との構成は、高圧水流を吐出するノズルに角度を設け、交絡水流を不織布の厚み方向に対し斜め方向に打つことにより得られているものと理解できる。一方、甲1号証及び甲3号証には、高圧水流を吐出するノズルに角度を設けることや、交絡水流を不織布の厚み方向に対して斜め方向に打つことは記載されていない。そうすると、甲1号証や甲3号証に記載の製法が本件発明の製法と近似するとはいえないから、申立人の上記主張は採用できない。 (4)小括 したがって、本件発明1~13は、甲1号証に記載された発明及び甲3号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明ではない。よって、申立理由1により本件特許を取り消すことはできない。 2 申立理由2についての判断 (1)本件発明1について ア 本件発明1と甲2発明を対比する。 (ア)甲2発明における「積層不織布」は、本件発明1の「不織布」に相当する。 (イ)甲2発明において「繊維密度の小さい凹部と繊維密度の大きい凸部とが杉綾織り構造を呈し」ていることは、本件発明1において「繊維の集積量の多い高繊維量領域と、該高繊維量領域に比べて繊維の集積量が相対的に少ない低繊維量領域により杉綾柄を呈する」ことに相当する。 (ウ)甲2発明の「不織布」は「上側繊維層及び下側繊維層の間に」「中間繊維層」が位置するものであるところ、当該「上側繊維層及び下側繊維層」並びに「中間繊維層」は、いずれも「再生セルロース繊維」を含むものであるから、本件発明1と甲2発明は、ともに「セルロース繊維を含む不織布」である点で一致する。 イ 以上によれば、本件発明1と引用発明2の一致点及び相違点は、以下のとおりである。 [一致点] 「繊維の集積量の多い高繊維量領域と、該高繊維量領域に比べて繊維の集積量が相対的に少ない低繊維量領域により杉綾柄を呈する、セルロース繊維を含む不織布」 [相違点2] 本件発明1は、「乾燥状態において、該不織布のおもて面と裏面の摩擦係数が異なり、摩擦係数がより小さい面をおもて面、摩擦係数がより大きい面を裏面としたとき、以下の式: 摩擦係数の差(%)={(裏面の摩擦係数-おもて面の摩擦係数)/おもて面の摩擦係数}×100 により算出される摩擦係数の差が10%以上80%以下」であるのに対し、甲2発明では、「不織布のおもて面と裏面の摩擦係数が異」なるか否か不明であり、仮に異なるとしても、「摩擦係数の差が10%以上80%以下」とは特定されていない点。 [相違点3] 本件発明1は、「該不織布に対するセルロース繊維の含有量が80重量%以上100重量%以下である」のに対し、甲1発明では、「中間繊維層は再生セルロース繊維を90質量%以上含む」ものであるものの、「積層不織布」に対する「再生セルロース繊維」の含有量が「80重量%以上100重量%以下」であることは特定されていない点。 ウ 上記相違点2について検討すると、甲2号証には、実施例1、5~7について一方の面の摩擦係数を測定した結果は記載されているものの(表2-1、2-2)、裏面の摩擦係数の測定結果やおもて面と裏面の摩擦係数の差については記載されていない。また、甲2号証全体を見ても、不織布のおもて面と裏面で摩擦係数を異なるものとすることや、「摩擦係数の差が10%以上80%以下」となるようにすることを示唆する記載は見当たらない。さらに、甲3号証にも「不織布のおもて面と裏面の摩擦係数が異」なるものとすることや、「摩擦係数の差が10%以上80%以下」とすることは記載も示唆もされていない。そうすると、甲2発明において相違点2に係る構成とすることは、甲2号証及び甲3号証から当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明2~13について 本件発明2~13は、いずれも本件発明1の構成を全て含む発明であるから、上記(1)の検討と同様にして、甲2発明及び甲3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)申立人の主張に対して ア 申立人は、甲2号証の【0046】に「本実施形態の不織布においては、表面に凹凸が形成されている。・・・表面に凹凸を形成することによって、不織布が皮膚と接触する面積を減らし、それにより接着点に起因する刺激感を緩和するとともに、拭き取りを軽くすることができる。」と記載されており、おもて面と裏面の摩擦係数の差が10%以上80%以下である蓋然性が高い旨主張するが(異議申立書、3(4)(4-3)(4-3-1)エ)、甲2号証の当該記載は、不織布のおもて面と裏面の具体的な摩擦係数差を示すものではないから、申立人の上記主張は採用できない。 イ 申立人は、甲2号証の【0075】、甲3号証の[0031]の記載によれば、甲2号証及び甲3号証の製法はいずれも本件発明の製法と近似しており、本件発明3、7~10の構成を備えている蓋然性が高い旨主張する(異議申立書、3(4)(4-3)(4-3-3))。 しかしながら、上記1(3)イで検討したとおり、本件発明の製法は、高圧水流を吐出するノズルに角度を設け、交絡水流を不織布の厚み方向に対し斜め方向に打つことで、「摩擦係数の差が10%以上80%以下」との構成を得るものであるところ、甲2号証及び甲3号証には、高圧水流を吐出するノズルに角度を設けることや、交絡水流を不織布の厚み方向に対して斜め方向に打つことは記載されていない。そうすると、甲2号証や甲3号証に記載の製法が本件発明の製法と近似するとはいえないから、申立人の上記主張は採用できない。 (4)小括 したがって、本件発明1~13は、甲2号証に記載された発明及び甲3号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明ではない。よって、申立理由2により本件特許を取り消すことはできない。 第6 まとめ 以上のとおり、本件特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-700722

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