特許異議申立
2025-700225
ヒトノロウイルス不活化剤
- 審判番号
- 2025-700225
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-020788
- 登録番号
- 7539772
- 請求日
- 2025年02月26日
- 審決日
- 2025年04月18日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】花王株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人アルガ特許事務所
- 【異議申立人】西園 朋子
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 典之
- 審判官 阪野 誠司
- 審判官 小石 真弓
- 分類
- P1651.113-Y (A01N) / P1651.121-Y (A01N) / P1651.537-Y (A01N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7539772号発明「ヒトノロウイルス不活化剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7539772号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7539772号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)2月10日を出願日とする出願であって、令和6年8月16日にその特許権の設定登録がされ、同年同月26日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許の請求項1~5について、令和7年2月26日に特許異議申立人 西園 朋子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
特許第7539772号の請求項1~5の特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明5」という。また、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)。
「【請求項1】
過炭酸ナトリウム及び炭酸ナトリウムを含有する組成物(但し、下記の一般式(I)で表される化合物及び一般式(II)で表される化合物からなる群より選ばれる1以上の化合物を含有する組成物を除く)を有効成分とするヒトノロウイルス不活化剤であって、過炭酸ナトリウム濃度が0.2質量%以上0.479質量%以下、炭酸ナトリウム濃度が0.1質量%以上1質量%以下となるように水に溶解して使用される、ヒトノロウイルス不活化剤。
【化1】
[図:0001422499000001.jpg]
[式中、R10及びR20は、それぞれ独立して炭素数7~13のアルキル基又はアルケニル基である。M1及びM2は、それぞれ独立して水素原子又は塩形成カチオンである。]
【請求項2】
水の温度が20~50℃である、請求項1記載のヒトノロウイルス不活化剤。
【請求項3】
過炭酸ナトリウム及び炭酸ナトリウムを含有する組成物(但し、下記の一般式(I)で表される化合物及び一般式(II)で表される化合物からなる群より選ばれる1以上の化合物を含有する組成物を除く)及び水を含有する処理液に、ヒトノロウイルスで汚染された対象物(但し、ヒトを除く)を浸漬又は接触する工程を含む、ヒトノロウイルスの不活化方法であって、処理液中の過炭酸ナトリウム濃度が0.2質量%以上0.479質量%以下、炭酸ナトリウム濃度が0.1質量%以上1質量%以下である、方法。
【化2】
[図:0001422499000002.jpg]
[式中、R10及びR20は、それぞれ独立して炭素数7~13のアルキル基又はアルケニル基である。M1及びM2は、それぞれ独立して水素原子又は塩形成カチオンである。]
【請求項4】
20~50℃の処理液で5~120分浸漬する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
対象物が繊維製品である請求項3又は4記載の方法。」
第3 申立理由の概要及び証拠
1 申立理由の概要
申立人は、下記2に示す甲第1~11号証(以下「甲1」などという。)を提出し、本件特許は、以下の理由により、取り消されるべきものである旨主張している(特許異議申立書(以下「申立書」という。)の81~82頁)。
「
[図:0001422499000003.jpg]
」
上記記載及び申立書の記載全体から、申立理由は、以下のとおりであると認められる(申立理由の番号は、当審合議体による。)。
(1)申立理由1(甲9~11に基づく新規性欠如)
ア 申立理由1-1
本件発明1~5は、甲9に記載された発明であり、特許法29条1項3号に該当するから、本件請求項1~5に係る特許は、同法29条1項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当する。
イ 申立理由1-2
本件発明1~4は、甲10に記載された発明であり、特許法29条1項3号に該当するから、本件請求項1~4に係る特許は、同法29条1項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当する。
ウ 申立理由1-3
本件発明1~4は、甲11に記載された発明であり、特許法29条1項3号に該当するから、本件請求項1~4に係る特許は、同法29条1項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当する。
(2)申立理由2(甲1~3及び9~11を主引用例とする進歩性欠如)
ア 申立理由2-1
本件発明1~5は、甲1に記載された発明、又は甲1に記載された発明及び甲4~9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1~5に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当する。
イ 申立理由2-2
本件発明1~5は、甲2に記載された発明、又は甲2に記載された発明及び甲4~9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1~5に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当する。
ウ 申立理由2-3
本件発明1~5は、甲3に記載された発明、又は甲3に記載された発明及び甲4~9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1~5に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当する。
エ 申立理由2-4
本件発明1~5は、甲9に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1~5に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当する。
オ 申立理由2-5
本件発明1~4は、甲10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1~5に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当する。
カ 申立理由2-6
本件発明1~4は、甲11に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1~5に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当する。
(3)申立理由3(サポート要件違反)
本件発明1~5は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件請求項1~5に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであり、同法113条4号に該当する。
(4)申立理由4(明確性要件違反)
本件発明1~5は、明確でないから、本件請求項1~5に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法113条4号に該当する。
2 証拠方法
[図:0001422499000004.jpg]
(申立書82~83頁)
第4 甲号証の記載事項
甲1~3及び7~11には、それぞれ以下の記載がある(下線及び枠囲いは当審合議体による。「・・・」は摘記の省略を示す。)。
なお、甲4~6は、甲1~3に記載の発明と組み合わせて、本件発明に進歩性がないことを立証するために提出された文献であるが、当審合議体は、甲1~3に記載の発明と技術的な関連性の低い文献であると考えるので、甲4~6の摘記を省略する。
1 甲1
(甲1a)「平成20年度 ノロウイルスの不活化条件に関する調査 報告書」(表紙)
(甲1b)「
[図:0001422499000005.jpg]
」(1頁1~3行)
(甲1c)「
[図:0001422499000006.jpg]
」(1頁24~32行)
(甲1d)「
[図:0001422499000007.jpg]
」(1頁下から4行~2頁末行)
(甲1e)「
[図:0001422499000008.jpg]
」(3頁)
(甲1f)「
[図:0001422499000009.jpg]
」(4頁)
2 甲2
(甲2a)「
[図:0001422499000010.jpg]
」(表題)
(甲2b)「
[図:0001422499000011.jpg]
」(311頁左欄)
(甲2c)「
[図:0001422499000012.jpg]
」(311~312頁)
(甲2d)(訳文で示す。)
「
[図:0001422499000013.jpg]
」(312頁)
3 甲3
(甲3a)(訳文で示す。)
[図:0001422499000014.jpg]
4 甲7
(甲7a)「【請求項1】
水に溶解して過酸化水素を発生する過酸化物又は過酸化水素と、下記の一般式(I)で表される化合物及び一般式(II)で表される化合物からなる群より選ばれる1以上の化合物と、無機アルカリ剤と、を含有する処理液(X)を、繊維製品に接触させて、繊維に付着したウイルスを除去する、繊維製品のウイルス除去方法。
【化1】
[図:0001422499000015.jpg]
[式中、R10及びR20は、それぞれ独立して炭素数7~13のアルキル基又はアルケニル基である。M1及びM2は、それぞれ独立して水素原子又は塩形成カチオンである。]」(特許請求の範囲)
(甲7b)「【0006】
本発明者らは検討により、繊維製品が吐瀉物で汚染した場合に、特定の処理液を採用することによって、繊維製品を傷めることなくノロウイルスを除去できることを見出し、本発明を完成するに至った。」
(甲7c)「【0120】
<使用原料>
(水に溶解して過酸化水素を発生する過酸化物又は過酸化水素:(a)成分)
a-1:過炭酸ナトリウム(商品名SPC-Z、三菱化学株式会社製)有効酸素量10.9%。
・・・
【0121】
(化合物(I)及び化合物(II)からなる群より選ばれる1以上の化合物:(b)成分)
b-1:OBS12、ドデカノイルオキシベンゼンスルホン酸ナトリウム;・・・
b-2:OBC10、4-デカノイルオキシ安息香酸(三井化学株式会社製)。
b-3:NOBS、ノナノイルオキシベンゼンスルホン酸ナトリウム;・・・
・・・
【0125】
(無機アルカリ剤:(c)成分)
c-1:炭酸ナトリウム、重質炭酸ナトリウム(製品名ソーダ灰、旭硝子株式会社製)。」
(甲7d)「【0147】
【表1】
[図:0001422499000016.jpg]
・・・
【0148】
【表2】
[図:0001422499000017.jpg]
・・・
【0163】
【表4】
[図:0001422499000018.jpg]
【0165】
【表5】
[図:0001422499000019.jpg]
」
5 甲8
(甲8a)「
[図:0001422499000020.jpg]
」(特許請求の範囲)
(甲8b)「
[図:0001422499000021.jpg]
・・・
[図:0001422499000022.jpg]
・・・
」(4頁左上欄3行~左下欄)
6 甲9
(甲9a)「【請求項1】 無機過酸化物(a)と、テトラアセチルエチレンジアミン(b)と、無機酸のアルカリ金属塩及び/又は無機酸のアルカリ土類金属塩(c)とを含有し、且つ(a)/(b)重量比が10/1~1/2である殺ウイルス剤組成物。
【請求項2】 無機過酸化物(a)が過炭酸ナトリウムである請求項1記載の組成物。」(特許請求の範囲)
(甲9b)「【0002】
【従来の技術】病院、養護施設等で用いられる医療器具や備品は、内部感染防止等の観点から十分な殺菌洗浄処理を行う必要がある。このような殺菌洗浄処理を行うための殺菌剤、消毒剤等が種々知られているが、薬品耐性の強いウイルスの処理には、一般細菌用の殺菌剤では不十分であり、抗菌スペクトルの広いグルタルアルデヒドや過酢酸が用いられている。また、特表平8-502047号には、特定モル比の脂肪族過酸と対応する脂肪族酸と、過酸化水素を含有する水溶液を殺ウイルス剤として使用することが開示されている。
・・・
【0009】また、本発明に用いられる無機酸のアルカリ金属塩及び/又は無機酸のアルカリ土類金属塩(c)としては、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられ、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウムが好ましい。無機酸のアルカリ金属塩及び/又は無機酸のアルカリ土類金属塩(c)は、無機過酸化物(a)に対して(a)/(c)=1/1~4/1の重量比で用いられるのが好ましい。無機酸のアルカリ金属塩や無機酸のアルカリ土類金属塩は、それぞれ単独で用いられるが、無機過酸化物の乾燥及び殺ウイルス活性向上の観点から併用して用いるのが好ましい。
・・・
【0017】本発明の殺ウイルス剤組成物は、医療施設等で用いられる器具や備品の殺ウイルスに好適であり、特にメス、ハサミ、鉗子等の手術用機械器具、内視鏡等の診断用機械器具、輸血器具、透析機等の治療用機械器具等の医療用機械器具用の殺ウイルス剤組成物として有用である。」
(甲9c)「【実施例】≪組成物の調製≫表1に示す組成物を調製した。
【0020】
【表1】
[図:0001422499000023.jpg]
・・・
【0022】≪殺ウイルス性試験≫表1に示す組成物を用いて以下の殺ウイルス性試験を行った。結果を表2、3に示す。
【0023】<対象ウイルス>
(○1)(当審合議体注:○に1を表す。以下、同様。)ポリオウイルス:ポリオウイルス3型、ワクチン株(Sabin株)
(○2)単純ヘルペスウイルス:HF株
なお、ウイルスの増殖ならびに感染価の測定にはFL細胞を用いた。
【0024】<試験方法>
(○1)表1の組成物を、それぞれ表2、3に示す濃度に滅菌水で希釈して、ポリオウイルス用、単純ヘルペスウイルス用の製剤を調製する。なお、実施例1~5及び比較例3は、何れもクエン酸により、pHを7.0に調整した。また、各製剤における有機過酸の濃度は、実施例1~5及び比較例3は160~3200ppmであり、比較例2は210~3500ppmであり、比較例1は有機過酸の生成はなかった。なお、有機過酸濃度の定量方法は次の通りである。
・・・
【0029】(○2)各製剤50μLとウイルス液50μLとを混合する。
(○3)30分間25℃で放置して2%チオ硫酸ナトリウム水溶液を50μL加える。
(○4)上記の3成分系混合液を10倍ずつ段階的に希釈してウイルス感染価を測定する。
【0030】なお、ウイルス対照としては、各製剤50μLに2%チオ硫酸ナトリウム水溶液50μLを加え、30分間放置した後に、ウイルス液50μLを加えたものとした。
【0031】
【表2】
[図:0001422499000024.jpg]
【0032】
【表3】
[図:0001422499000025.jpg]
【0033】表2、3の結果から、実施例1~5の製剤は、ポリオウイルス、単純ヘルペスウイルスの何れにおいても比較例1~3の製剤より感染抑止力に優れていることがわかる。」
7 甲10
(甲10a)「【請求項1】
全体の重量に対して0.0025重量%を超える配合量でN-ステアロイル-L-グルタミン酸の抗菌性金属塩を含むことを特徴とする義歯洗浄剤組成物。」(特許請求の範囲)
(甲10b)「【0043】
(義歯洗浄剤組成物の作製)
下記表2および3に示す配分量がそれぞれ異なる実施例1~5および比較例1~5の各成分を均一に混合し、打錠機により圧縮して錠剤を作製した。このとき、N-ステアロイル-L-グルタミン酸の銀および銅塩は、水分散物であるため、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムと予備混合され、次いでこれを粉末化した後にその他の成分と混合した。
【0044】
【表2】
[図:0001422499000026.jpg]
」
8 甲11
(甲11a)「【請求項1】
(A)アルカリ剤、(B)キレート剤及び(C)滑沢剤を含み、
前記(C)滑沢剤が、アニオン界面活性剤であることを特徴とするコーヒーマシン用タブレット洗浄剤。」(特許請求の範囲)
(甲11b)「【0060】
【表1】
[図:0001422499000027.jpg]
」
第5 判断
1 申立理由1-1及び2-4(甲9に基づく新規性・進歩性欠如)
(1)甲9に記載された発明
甲9には、「無機過酸化物(a)と、テトラアセチルエチレンジアミン(b)と、無機酸のアルカリ金属塩及び/又は無機酸のアルカリ土類金属塩(c)とを含有」する殺ウイルス剤組成物が記載され(甲9a)、実施例においては、当該殺ウイルス剤組成物として、以下の組成を有するものを調製し(甲9cの表1の実施例1。単位は、重量%)、
[図:0001422499000028.jpg]
「表2、3に示す濃度に滅菌水で希釈して、ポリオウイルス用、単純ヘルペスウイルス用の製剤を調製」し、製剤とウイルス液とを混合してウイルスの感染力を測定したこと、及び、結果として、「ポリオウイルス、単純ヘルペスウイルスの何れにおいても比較例1~3の製剤より感染抑止力に優れている」ことが記載され(甲9c)、表2には、滅菌水で希釈して調製したポリオウイルス用の製剤の濃度が2.0重量%又は0.2重量%であることが記載されている(実施例1)。
そうしてみれば、甲9には、以下の発明が記載されていると認められる(以下「甲9発明」という。)
「過炭酸ナトリウム35重量%、テトラアセチルエチレンジアミン35重量%、硫酸ナトリウム15重量%、硫酸マグネシウム15重量%の組成を有する殺ポリオウイルス剤組成物であり、滅菌水で希釈して2.0重量%又は0.2重量%に濃度を調製した製剤として使用する殺ポリオウイルス剤組成物。」
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲9発明とを対比する。
(ア)甲9発明の「殺ポリオウイルス剤組成物」は、過炭酸ナトリウムを含む組成物であるから、本件発明1の「過炭酸ナトリウム」「を含有する組成物」に相当し、甲9発明の「殺ポリオウイルス剤組成物」は、本件発明1と「過炭酸ナトリウム」「を含有する組成物を有効成分とする」「ウイルス不活化剤」である点で共通する。
(イ)甲9発明は、過炭酸ナトリウムを35重量%含む組成物を、「滅菌水で希釈して2.0重量%又は0.2重量%に濃度を調製した製剤として使用」するところ、使用時の製剤の過炭酸ナトリウムの濃度は、それぞれ、0.70重量%(=35/100×2/100)及び0.07重量%(=35/100×0.2/100)であり、これらの数値の間の濃度であっても感染抑止力に優れているといえるから、甲9発明の使用時の製剤の過炭酸ナトリウムの濃度は、0.07~0.7重量%である。
そうしてみれば、使用時の過炭酸ナトリウムの濃度について、両発明は重複した範囲を有するから、本件発明1と甲9発明とは、「過炭酸ナトリウム濃度が0.2質量%以上0.479質量%以下」「となるように水に溶解して使用される」点で一致する(本件発明の技術分野において、「重量%」と「質量%」が、組成物中の成分の割合を示す値としては同じ値になることは、本件特許の出願時の技術常識である。)。
(ウ)甲9発明の「硫酸ナトリウム15重量%、硫酸マグネシウム15重量%」は、本件発明1に含まれる「炭酸ナトリウム」と無機酸の金属塩である点で共通する。
また、甲9発明の無機酸の金属塩の使用時の濃度は、0.60重量%及び0.06重量%(計算は、上記(イ)と同様。)である。そうしてみれば、使用時の無機酸の金属塩の濃度について、両発明は重複した範囲を有するから、本件発明1と甲9発明とは、無機酸の金属塩を「濃度が0.1質量%以上1質量%以下となるように水に溶解して使用される」点で一致する。
(エ)本件発明1の組成物は、「下記の一般式(I)で表される化合物及び一般式(II)で表される化合物からなる群より選ばれる1以上の化合物を含有する組成物(一般式(I)及び(II)は省略。)」(以下「除く組成物」という。)を除くものである。
甲9発明の「殺ポリオウイルス剤組成物」は、上記除く組成物を含まないから、本件発明1が除く組成物を除いている点は、両発明の相違点とはいえない。
また、甲9発明は「テトラアセチルエチレンジアミン35重量%」を含むが、本件発明1は、「過炭酸ナトリウム及び炭酸ナトリウムを含有する組成物」以外の成分を有効成分とすることを排除しないから(本件特許明細書【0017】~【0039】を参照。)、甲9発明は「テトラアセチルエチレンジアミン35重量%」を含む点は、両発明の相違点とはいえない。
イ そうしてみれば、両発明は、以下の一致点及び相違点があると認められる。
(一致点)「過炭酸ナトリウム及び無機酸の金属塩を含有する組成物(但し、下記の一般式(I)で表される化合物及び一般式(II)で表される化合物からなる群より選ばれる1以上の化合物を含有する組成物を除く(一般式(I)及び(II)は省略。))を有効成分とするウイルス不活化剤であって、過炭酸ナトリウム濃度が0.2質量%以上0.479質量%以下、無機酸の金属塩の濃度が0.1質量%以上1質量%以下となるように水に溶解して使用される、ウイルス不活化剤。」
(相違点1)本件発明1は、「ヒトノロウイルス不活化剤」であるのに対し、甲9発明は、「殺ポリオウイルス剤組成物」である点。
(相違点2)本件発明1に含まれる無機酸の金属塩は、「炭酸ナトリウム」であるのに対し、甲9発明では、「硫酸ナトリウム」及び「硫酸マグネシウム」である点。
ウ 判断
(ア)事案に鑑み、まず相違点1について検討する。
甲9には、殺ウイルス剤組成物について、「病院、養護施設等で用いられる医療器具や備品」の殺菌洗浄処理に用いられるものであり、「薬品耐性の強いウイルス」の処理に用いられるものであるとの記載がある(甲9bの【0002】)。また、実施例では、対象ウイルスとして、ポリオウイルス及び単純ヘルペスウイルスに対し、甲9に記載の殺ウイルス剤組成物が感染抑止力に優れていることが記載されている(甲9cの【0023】及び【0033】)。
しかしながら、甲9には、甲9発明の殺ウイルス剤組成物がヒトノロウイルスに対して不活化作用を有することの記載はない。また、そのほかの甲号証をみても、ポリオウイルス及び単純ヘルペスウイルスに有効な殺ウイルス剤組成物であれば、ヒトノロウイルスに対しても有効であるとの技術常識があるとは認められない。
そうしてみれば、甲9発明は、ヒトノロウイルス不活化剤であるとはいえないから、上記相違点1は、実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲9に記載された発明とはいえない。
(イ)また、甲9やそのほかの甲号証をみても、甲9発明の殺ポリオウイルス剤組成物を、ヒトノロウイルス不活化剤とする動機付けはないから、本件発明1は、甲9発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。そして、本件発明1のヒトノロウイルスを確実に不活化できるとの効果は、当業者の予測の範囲を超える格別顕著な効果といえる。
(ウ)相違点1が当業者に容易に想到し得たとはいえないから、相違点2を検討するまでなく、本件発明1は、甲9発明に基いて当業者が容易に発明することができたとはいえない。
エ 申立人は、「
[図:0001422499000029.jpg]
」(申立書68頁)と主張する。
しかしながら、「医療施設等で用いられる器具や備品の殺ウイルスに好適」であるからといって、ヒトノロウイルスに対して不活化作用があるとはいえない。また、ノンエンベロープタイプのウイルスであれば、ヒトノロウイルスに対して不活化作用を同様に有するという技術常識はないから、上記主張は受け入れられない。
(3)本件発明2~5について
本件発明2は、本件発明1の水の温度を特定したものであり、本件発明3~5は、本件発明1のヒトノロウイルス不活化剤を処理液としたヒトノロウイルス不活化方法であるから、甲9発明とは、実質的な相違点である相違点1を少なくとも有する。
相違点1については、上記(2)で述べたように、本件特許の出願時の技術常識を参酌しても、当業者が容易に想到し得たとはいえないから、そのほかの点を検討するまでなく、本件発明2~5は、甲9発明に基いて当業者が容易に発明することができたとはいえない。
(4)小括
以上より、本件発明1~5は、甲9に記載された発明であるとはいえないし、甲9に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、申立理由1-1及び2-4(甲9に基づく新規性・進歩性欠如)は、理由がない。
2 申立理由1-2及び2-5(甲10に基づく新規性・進歩性欠如)
(1)甲10に記載された発明
甲10には、「義歯洗浄剤組成物」が記載され(甲10a)、実施例においては、過炭酸ナトリウム及び炭酸ナトリウムを含む組成物が記載されている(甲10bの実施例2)。
(2)本件発明について
ア 甲10には、義歯洗浄剤組成物がヒトノロウイルスの不活化に使用できることは記載されていないし、そのほかの甲号証をみても、義歯洗浄剤組成物であれば、ヒトノロウイルスに対して不活化作用があるとの技術常識があるとは認められない。
そうしてみれば、本件発明1と甲10に記載された発明とは、少なくとも以下の相違点があり、当該相違点は、実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲10に記載された発明とはいえない。
(相違点1)本件発明1は、「ヒトノロウイルス不活化剤」であるのに対し、甲10に記載された発明は、「義歯洗浄剤組成物」である点。
イ また、甲10に記載された義歯洗浄剤組成物を、ヒトノロウイルス不活化剤とする動機付けはないから、本件発明1は、甲10に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえないし、本件発明1のヒトノロウイルスを確実に不活化できるとの効果は、当業者の予測の範囲を超える格別顕著な効果といえる。
そして、相違点1が当業者に容易に想到し得たとはいえないから、そのほかの点を検討するまでなく、本件発明1は、甲10発明から当業者が容易に発明することができたとはいえない。
ウ 本件発明2~4は、甲10に記載された発明とは、実質的な相違点である相違点1を少なくとも有し、相違点1については、上述のように、本件特許の出願時の技術常識を参酌しても、当業者が容易に想到し得たとはいえないから、そのほかの点を検討するまでなく、本件発明2~4は、甲10に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたとはいえない。
(3)小括
以上より、本件発明1~4は、甲10に記載された発明であるとはいえないし、甲10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、申立理由1-2及び2-5(甲10に基づく新規性・進歩性欠如)は、理由がない。
3 申立理由1-3及び2-6(甲11に基づく新規性・進歩性欠如)
(1)甲11に記載された発明
甲11には、「コーヒーマシン用タブレット洗浄剤」が記載され(甲11a)、実施例においては、過炭酸ナトリウム及び炭酸ナトリウムを含む洗浄剤が記載されている(甲11bの実施例1など)。
(2)本件発明について
ア 甲11には、コーヒーマシン用タブレット洗浄剤がヒトノロウイルスの不活化に使用できることは記載されていないし、そのほかの甲号証をみても、コーヒーマシン用タブレット洗浄剤であれば、ヒトノロウイルスに対して不活化作用があるとの技術常識があるとは認められない。
そうしてみれば、本件発明1と甲11に記載された発明とは、少なくとも以下の相違点があり、当該相違点は、実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲11に記載された発明とはいえない。
(相違点1)本件発明1は、「ヒトノロウイルス不活化剤」であるのに対し、甲11に記載された発明は、「コーヒーマシン用タブレット洗浄剤」である点。
(3)また、上記2での検討と同様に、相違点1は、当業者が容易に想到し得たとはいえないから、そのほかの点を検討するまでなく、本件発明1は、甲11発明に基いて当業者が容易に発明することができたとはいえない。
本件発明2~4についても同様である。
(4)したがって、本件発明1~4は、甲11に記載された発明であるとはいえないし、甲11に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、申立理由1-3及び2-6(甲11に基づく新規性・進歩性欠如)は、理由がない。
4 申立理由2-1(甲1に基づく進歩性欠如)
(1)甲1に記載された発明
甲1は、「ノロウイルスの不活化条件に関する調査」の報告書(甲1a)であり、甲1には、「
[図:0001422499000030.jpg]
」として、「III 各種消毒剤等のネコカリシウイルスに対する不活化効果試験」が記載され(甲1c、甲1d)、「供試消毒剤およびその調整法」が表1に記載されている(甲1e)。そして、表1には、過炭酸ナトリウムについて、「試験液の調整法」の欄に「MilliQ水で希釈して、供試濃度の2倍濃度の試験液を作成」と記載され、「備考」の欄に「試験時の濃度:2.5% 0.5%」と記載されている(甲1e)。
また、その結果として、「
[図:0001422499000031.jpg]
」と記載されており(甲1d)、0.5%過炭酸ナトリウムを含む供試消毒剤は、ネコカリシウイルスに対する不活化効果を有することが記載されている。
上記記載から、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「甲1発明」という。)。
「過炭酸ナトリウムをMilliQ水で希釈して、供試濃度の2倍濃度とした供試消毒剤であり、過炭酸ナトリウムの試験時の濃度が0.5%である、ネコカリシウイルスに対する不活化効果を有する供試消毒剤。」
(2)本件発明1について
ア 対比
(ア)甲1発明の「供試消毒剤」は、過炭酸ナトリウムを含む剤であるから、本件発明1の「過炭酸ナトリウム」「を含有する組成物」に相当する。また、ヒトノロウイルスは、カリシウイルスであるから、甲1発明の「ネコカリシウイルスに対する不活化効果を有する供試消毒剤」は、本件発明1と「過炭酸ナトリウム」「を含有する組成物を有効成分とする」「カリシウイルス不活化剤」である点で共通する。
(イ)甲1発明は、「過炭酸ナトリウムをMilliQ水で希釈して、供試濃度の2倍濃度とした供試消毒剤であり、過炭酸ナトリウムの試験時の濃度が0.5%である」から、本件発明1の「過炭酸ナトリウム濃度が0.2質量%以上0.479質量%以下」「となるように水に溶解して使用される」とは、「水に溶解して使用される」点で一致する(甲1には、「%」が「質量%」であることは明示されていないが、ウイルス不活化剤の技術分野で通常使用されている「質量%」を意味すると認められる。)。
(ウ)本件発明1の組成物は、「除く組成物」、すなわち、「下記の一般式(I)で表される化合物及び一般式(II)で表される化合物からなる群より選ばれる1以上の化合物を含有する組成物(一般式(I)及び(II)は省略。)」を除くものである。
甲1発明の「供試消毒剤」は、上記除く組成物を含まないから、本件発明1が除く組成物を除いている点は、両発明の相違点とはいえない。
(エ)そうしてみれば、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
(一致点)「過炭酸ナトリウムを含有する組成物(但し、下記の一般式(I)で表される化合物及び一般式(II)で表される化合物からなる群より選ばれる1以上の化合物を含有する組成物を除く(一般式(I)及び(II)は省略。))を有効成分とするカリシウイルス不活化剤であって、水に溶解して使用されるカリシウイルス不活化剤。」
(相違点1)本件発明1の対象ウイルスが「ヒトノロウイルス」であるのに対し、甲1発明は、「ネコカリシウイルス」である点。
(相違点2)本件発明1の不活化剤が、「過炭酸ナトリウム及び炭酸ナトリウムを含有する組成物」を有効成分とし、「過炭酸ナトリウム濃度が0.2質量%以上0.479質量%以下、炭酸ナトリウム濃度が0.1質量%以上1質量%以下となるように水に溶解して使用される」するのに対し、甲1発明は、過炭酸ナトリウムのみを含有する組成物を有効成分とし、過炭酸ナトリウムの試験時の濃度が0.5%である点。
イ 判断
(ア)事案に鑑み、まず相違点2について検討する。
甲1には、炭酸ナトリウムの試験時の濃度が0.25%である、ネコカリシウイルスに対する不活化効果試験のための供試消毒剤が、不活化効果を有することが示されている(甲1d~甲1f)。
しかしながら、甲1には、過炭酸ナトリウム及び炭酸ナトリウムをそれぞれ単独で含む供試消毒剤を用いて不活化試験を行ったことは記載されているが(甲1d~甲1f)、これらを併用した不活化試験を行ったことは記載されておらず、甲1には、両者を併用することを動機付ける記載はない。また、甲1の不活化効果試験において、過炭酸ナトリウムが不活化効果を有することが示されている濃度は、0.5%又は2.5%であり、併用した際の使用時の濃度を「過炭酸ナトリウム濃度が0.2質量%以上0.479質量%以下」とする動機付けはないし、そのような濃度でヒトノロウイルスを不活化できることを当業者は予測できない。
特に、本件発明は、従来、ノロウイルスの不活化効果を評価するために用いられたネコカリシウイルスが、ヒトノロウイルス(HNV)とは「酸やアルカリに弱く、HNVとの違いも多数報告されている」ところ、「腸管オルガノイドにHNVを感染させた評価系を構築」し、過炭酸ナトリウムと炭酸ナトリウム含む組成物を使用時に特定濃度としたものが、ヒトノロウイルスを不活化することを発揮することを見いだしたものであるから(本件特許明細書の【0005】及び【0010】を参照。)、甲1に記載のネコカリシウイルスを対象として評価した有効量を、本件発明1の過炭酸ナトリウムの使用時の濃度とすることは、当業者が容易に想到し得たといえないし、その効果は、当業者の予測の範囲を超えるものといえる。
(イ)申立人は、甲7~9に記載のように、ウイルス不活化組成物や洗浄漂白剤組成物において、炭酸ナトリウムと過炭酸ナトリウムを混合して用いることは、周知技術であり、当業者が適宜なし得ると主張する(申立書51頁)。また、申立人は、甲4~6に記載のように、使用時の過炭酸ナトリウムの濃度を0.2~0.479質量%とすることは容易に想到すると主張する(申立書52~54頁)。
しかしながら、以下に述べるように、甲4~9を参酌しても、炭酸ナトリウムと過炭酸ナトリウムを混合して用いることが適宜なし得るとはいえないし、使用時の過炭酸ナトリウムの濃度を0.2~0.479質量%とすることは容易に想到し得たとはいえないから、上記主張は受け入れられない。
a 甲7には、過炭酸ナトリウムと炭酸ナトリウムを含む処理液を用いて、繊維製品のノロウイルスを除去する方法が記載されている(甲7a~甲7d)。
しかしながら、甲7の処理液は、過炭酸ナトリウムに加えて、「(b)成分」、すなわち、本件発明1の「除く組成物」を含むものであり、そのことより、ヒトノロウイルスの不活化効果を有することが示されている。特に、「(b)成分」を含まず、過炭酸ナトリウムと炭酸ナトリウムのみを含む処理液(比較例2)がヒトノロウイルス不活化効果を有さないことが示されており(甲7dの【表5】)、甲7をみても、甲1発明において、「除く組成物」を加えないで、過炭酸ナトリウムと炭酸ナトリウムを併用しようとする動機付けはない。
b 甲8には、炭酸ナトリウムを含む顆粒物と、酸素系漂白剤(過炭酸ナトリウム)を含む溶解速度及び経時安定性に優れた洗浄漂白剤組成物が記載されている(甲8a~甲8b)。
しかしながら、甲8には、洗浄漂白剤として用いられる組成物が記載されているだけであり、当該組成物がヒトノロウイルスの不活化作用を有することについては何ら記載されていない。そうしてみれば、甲8をみても、ネコカリシウイルスに対する不活化効果を有する甲1発明において、過炭酸ナトリウムと炭酸ナトリウムを併用しようとする動機付けはない。
c 甲9には、上述のとおり(1(1))、過炭酸ナトリウムと無機酸の金属塩を含む殺ウイルス剤組成物が記載されている。
しかしながら、甲9には、ヒトノロウイルスを対象とすることは記載されていない。また、甲9の実施例で、実際に過炭酸ナトリウムと併用している無機酸の金属塩は、硫酸ナトリウムと硫酸マグネシウムであり、甲9をみても、ネコカリシウイルスに対する不活化効果を有する甲1発明において、過炭酸ナトリウムと炭酸ナトリウムを併用しようとする動機付けはない。
d また、甲4は、過酢酸(PAA)のヒトノロウイルス(hNoV)に対する不活化効果について述べたものであり、甲5は、ノンエンベロープウイルスに対する、過炭酸塩及びテトラアセチルエチレンジアミン(TAED)を含む家庭用洗濯洗剤の不活化効果について述べたものであり、甲6は、洗剤の「Persil Universal Megaperls」に、酸素系漂白剤が含まれていることを述べたものである。
これらの甲4~甲6をみても、ネコカリシウイルスに対する不活化効果を有する甲1発明において、過炭酸ナトリウムと炭酸ナトリウムを併用しようとする動機付けはないし、使用時の過炭酸ナトリウムの濃度を0.2~0.479質量%とする動機付けはない。
ウ 以上のとおり、相違点2は、当業者が容易に想到し得たとはいえないから、相違点1を検討するまでなく、本件発明1は、甲1に記載された発明、又は甲1に記載された発明及び甲4~9に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたとはいえない。
(3)本件発明2~5について
本件発明2は、本件発明1の水の温度を特定したものであり、本件発明3~5は、本件発明1のヒトノロウイルス不活化剤を処理液としたヒトノロウイルス不活化方法であるから、甲1発明とは、実質的な相違点である相違点2を少なくとも有する。
相違点2については、上記(2)で述べたように、本件特許の出願時の技術常識を参酌しても、当業者が容易に想到し得たとはいえないから、そのほかの点を検討するまでなく、本件発明2~5は、甲1に記載された発明、又は甲1に記載された発明及び甲4~9に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたとはいえない。
(4)小括
以上より、本件発明1~5は、甲1に記載された発明、又は甲1に記載された発明及び甲4~9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、申立理由2-1(甲1に基づく進歩性欠如)は、理由がない。
5 申立理由2-2(甲2に基づく進歩性欠如)
(1)甲2は、「ネコカリシウイルス(FCV)を代替としたノロウイルス(NV)不活性化効果の検討」との表題の文献であり(甲2a)、甲2には、過炭酸ナトリウム等によるネコカリシウイルスの不活性化効果を検討したところ、過炭酸ナトリウムは、0.5%以上で不活性化効果が見られたことが記載されている(甲2b~甲2d)。また、炭酸ナトリウムについて、0.125~0.5%で不活性化効果が見られたことが記載されている(甲2c)が、過炭酸ナトリウムと炭酸ナトリウムを併用することについては記載されていない。
(2)そうしてみれば、上記4において検討したのと同様に、本件発明1と甲2発明とは、少なくとも、本件発明1の不活化剤が、「過炭酸ナトリウム及び炭酸ナトリウムを含有する組成物」を有効成分とし、「過炭酸ナトリウム濃度が0.2質量%以上0.479質量%以下、炭酸ナトリウム濃度が0.1質量%以上1質量%以下となるように水に溶解して使用される」することについての相違点を有する。
(3)そして、当該相違点については、上記4で述べた理由と同様の理由で、当業者が容易に想到し得たとはいえないから、本件発明1は、甲2に記載された発明、又は甲2に記載された発明及び甲4~9に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたとはいえない。
また、本件発明2~5についても、同様である。
(4)よって、申立理由2-2(甲2に基づく進歩性欠如)は、理由がない。
6 申立理由2-3(甲3に基づく進歩性欠如)
(1)甲3には、ノロウイルス(NoV)ウイルス様粒子(VLP)を用いて、ノロウイルスの不活性化を評価して、25mMの炭酸ナトリウムで10秒間曝露する処理によりVLPがわずかに変形し、ノロウイルスの不活性化効果が見られたことが記載されている(甲3a)が、過炭酸ナトリウムと炭酸ナトリウムを併用することについては記載されていない。
(2)そうしてみれば、上記4において検討したのと同様に、本件発明1と甲3発明とは、少なくとも、本件発明1の不活化剤が、「過炭酸ナトリウム及び炭酸ナトリウムを含有する組成物」を有効成分とし、「過炭酸ナトリウム濃度が0.2質量%以上0.479質量%以下、炭酸ナトリウム濃度が0.1質量%以上1質量%以下となるように水に溶解して使用される」することについての相違点を有する。
(3)そして、当該相違点については、上記4で述べた理由と同様の理由で、当業者が容易に想到し得たとはいえないから、本件発明1は、甲3に記載された発明、又は甲3に記載された発明及び甲4~9に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたとはいえない。
また、本件発明2~5についても、同様である。
(4)よって、申立理由2-3(甲3に基づく進歩性欠如)は、理由がない。
7 申立理由3(サポート要件違反)
(1)特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件特許請求の範囲の記載は、上記第2のとおりである。
また、本件発明の課題は、「HNVの不活化に有効なHNV不活化剤、及びその使用法を提供すること」と認められる(本件特許明細書【0009】)。
(3)本件発明は、「hSIOを立体培養し3Dオルガノイドを得た後に、3Dオルガノイドを分散させて単一細胞を調整し、前記単一細胞を細胞外マトリクス上で単層培養・分化誘導して得られる腸管オルガノイドにHNVを感染させた評価系を構築し、これを用いて酸素系漂白剤を評価したところ、過炭酸ナトリウムが一定濃度以上となるように酸素系漂白剤を使用した場合に、HNVに対する不活化効果が発揮されること」を見いだして(同【0010】)、上記課題を解決したものである。そして、実施例においては、「常法に従い、過炭酸ナトリウムを含有する粉末状の組成物A~Kを表1に記載の溶解濃度となるように水(オートクレーブした水道水)に懸濁させて調製した処理液(表1に主要成分の処理液中の組成を示す)について、・・・HNV(HuNoV)不活化効果を評価」し、「その結果、処理液中の過炭酸ナトリウム濃度が0.02%以下の比較例ではHNVの増殖を抑制できなかった。その一方、処理液中の過炭酸ナトリウム濃度が0.02%以上の実施例においてはHNVの増殖を抑制することが分かった。特に、ぬるま湯での処理によって、HNVの増殖を遺伝子数(50copies/μL)の定量下限未満にまで抑制し、完全に不活化できた。」ことが示されている(同【0048】及び【表1】)。
そうしてみれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には、上記(2)の課題を解決するための手段が記載され、実際に、実施例で、ヒトノロウイルスを不活化できることが示されているから、本件特許明細書の発明の詳細な説明から、当業者が本件発明の課題を解決できることを認識できるといえ、本件発明は、本件特許明細書の発明な詳細な説明に記載されているといえる。
(4)申立人は、以下の(i)及び(ii)を理由に、本件発明は、サポート要件を満たさないと主張する(申立書79~80頁)。
(i)「
[図:0001422499000032.jpg]
」
(ii)「
[図:0001422499000033.jpg]
」
(5)申立人の主張は、以下のとおり、受け入れられない。
ア (i)について
本件特許明細書には、
「【0043】
そして、処理液中の過炭酸ナトリウムの濃度は、HNVの不活化の点から、0.02質量%以上であり、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上である。また、溶解性の点から、好ましくは14質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。また、好ましくは0.02~14質量%、より好ましくは0.1~1質量%、より好ましくは0.2~1質量%である。この濃度となるように、本発明の組成物と水とを混合することが好ましい。
【0044】
処理液中のアルカリ剤の濃度は、好ましくは0.02質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上である。また、溶解性の点から、好ましくは22質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。また、好ましくは0.02~22質量%、より好ましくは0.1~22質量%、より好ましくは0.1~1質量%である。この濃度となるように、本発明の組成物と水とを混合することが好ましい。」
と記載され、過炭酸ナトリウムの下限値の0.2質量%及び炭酸ナトリウムの下限値の0.1質量%は、「HNVの不活化の点から」「より好まし」い範囲とされている。また、実施例においては、本件発明の下限値よりも低い濃度の比較例が「HNVの増殖を抑制できなかった」のに対し(【0048】)、本件発明の特定する範囲の濃度を有する実施例は、不活化効果を発揮することが示されている。申立人は、下限値より低い濃度で、不活化効果を発揮できないことを示していないところ、上記本件特許明細書の記載からすれば、本件発明の特定された範囲において、ヒトノロウイルスの不活化効果は発揮されるといえる。
よって、申立人の主張は受け入れられない。
イ (ii)について
本件発明の処理液は、対象物に付着したヒトノロウイルスに作用するものであるから、繊維製品に付着したヒトノロウイルスにも作用し、不活化するといえる。また、繊維製品に付着したノロウイルスに対して作用を発揮しない理由はない。
よって、申立人の主張は受け入れられない。
(6)以上のとおり、申立理由3は、理由がない。
8 申立理由4(明確性要件違反)
(1)申立人は、以下の(i)~(iii)を理由に、本件発明は、明確性要件を満たさないと主張する(申立書80~81頁)。
[図:0001422499000034.jpg]
(i)「
[図:0001422499000035.jpg]
」
(ii)「
[図:0001422499000036.jpg]
」
(iii)「
[図:0001422499000037.jpg]
」
(2)申立人の主張は、以下のとおり、受け入れられない。
ア (i)について
請求項1の記載は、使用時の濃度によってヒトノロウイルス不活化剤を特定するものであり、明確である。また、請求項1を引用する請求項2の記載も同様に明確である。
よって、申立人の主張は受け入れられない。
イ (ii)について
請求項3において、「処理液」は、「過炭酸ナトリウム及び炭酸ナトリウムを含有する組成物」を含有することは明らかである。請求項3を引用する請求項4及び5の記載も同様に明確である。
よって、申立人の主張は受け入れられない。
ウ (iii)について
請求項3において、「ヒトノロウイルスで汚染された対象物(但し、ヒトを除く)」の「対象物」の範囲は、ヒトノロウイルスの付着した物質全般であり、かつヒト以外のものを意味していることは明らかである。また、請求項3を引用する請求項4及び5の記載も同様に明確である。
よって、申立人の主張は受け入れられない。
(3)以上のとおり、申立理由4は、理由がない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、そのほかに請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700225