特許異議申立
2025-700220
相補部分を含む修飾オリゴヌクレオチドの製造方法
- 審判番号
- 2025-700220
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-502052
- 登録番号
- 7537422
- 請求日
- 2025年02月21日
- 審決日
- 2025年08月20日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】味の素株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人酒井国際特許事務所
- 【異議申立人】管 優希
- 【異議申立人】小宮山 侑生
- 審判長/審判官
- 審判長 上條 肇
- 審判官 荒木 英則
- 審判官 中村 浩
- 分類
- P1651.113-Y (C12N) / P1651.121-Y (C12N) / P1651.536-Y (C12N) / P1651.537-Y (C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法114条4項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第114条第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7537422号発明「相補部分を含む修飾オリゴヌクレオチドの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7537422号の請求項1~14に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7537422号の請求項1~14に係る特許(請求項の数14。以下「本件特許」という。)は、令和2年2月18日(優先権主張 平成31年2月18日、令和1年9月25日)を国際出願日とする特願2021-502052号の請求項1~14に係る発明について、令和6年8月13日に特許権の設定登録がされ、令和6年8月21日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和7年2月21日に、本件特許の請求項1~14に係る特許に対して、特許異議申立人である管優希及び小宮山侑生のそれぞれから、特許異議の申立てがされた(以下、管優希による申立てを「申立1」、小宮山侑生による申立てを「申立2」という。)。
第2 本件発明
特許第7537422号の請求項1~14に係る特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項1~14に係る発明を、請求項番号に従い、「本件発明1」~「本件発明14」といい、それらを総称して、「本件発明」ともいう。また、本件特許の設定登録時の願書に添付した明細書及び図面を「本件明細書等」という。)。
「 【請求項1】
11~27塩基長の相補部分を含む修飾オリゴヌクレオチドの製造方法であって、
該方法は、合計4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片をオリゴヌクレオチドリガーゼの存在下で処理して該修飾オリゴヌクレオチドを生成することを含み、
合計4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片は、該修飾オリゴヌクレオチドを、下記条件(i)~(v)を満たす断片連結部で分けた場合に得られるオリゴヌクレオチド原料断片に相当する、方法:
(i)断片連結部は、相補部分の各鎖側中のそれぞれに1以上存在し、かつ断片連結部は、該修飾オリゴヌクレオチド中に合計2つ以上存在し;
(ii)該修飾オリゴヌクレオチドを断片連結部で分けた場合に、突出末端が相補部分中に形成され、かつ該突出末端が1~10塩基長であり;
(iii)少なくとも1本のオリゴヌクレオチド原料断片が、修飾ヌクレオチドを含み、
(iv)該合計4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片のうち4本のオリゴヌクレオチド原料断片が、5~17塩基長の相補部分を含み、かつ
(v)オリゴヌクレオチド原料断片の相補部分の各鎖側に相当する塩基長の合計が、いずれも11~27塩基長である。
【請求項2】
(ii)における突出末端が、2~6塩基長である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
(iv)で規定される4本のオリゴヌクレオチド原料断片の相補部分における突出末端以外の部分が、4~16塩基長である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
オリゴヌクレオチドリガーゼが、RNAリガーゼである、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
オリゴヌクレオチドリガーゼが、二本鎖RNAリガーゼである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
二本鎖RNAリガーゼが、Rnl2ファミリーまたはRnl5ファミリーのRNAリガーゼである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
修飾オリゴヌクレオチドが、修飾型ヌクレオチド残基を含む、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
修飾型ヌクレオチド残基が、1’、2’、3’、もしくは4’化学修飾型ヌクレオチド残基、5’-または3’-リン酸基修飾型ヌクレオチド残基、架橋型修飾型ヌクレオチド残基、キャリア付加修飾型ヌクレオチド残基、または糖骨格置換型ヌクレオチド残基である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
修飾型ヌクレオチド残基が、
i)1’、2’、3’、もしくは4’部位が、C1~6アルキルオキシC1~6アルキレン、-O-C1~6アルキル、-O-C6~14アリール、-C-アリール、ハロゲン原子、-O-C1~6アルキルN-アミドC1~6アルキレン、-O-C1~6アルキル-(C1~6アルキル-)アミノ-C1~6アルキレン、または-O-アミノC1~6アルキル(例、-O-アミノプロピル、-O-AP)で置換された、1’、2’、3’、もしくは4’化学修飾型ヌクレオチド残基;
ii)水酸基が、保護基で置換されていてもよい、-O-Ρ(S)(OH)2、-NH-Ρ(O)(OH)2、もしくは-NH-Ρ(S)(OH)2で置換された、5’-もしくは3’-リン酸基修飾型ヌクレオチド残基;
iii)2’部位と4’部位が、2’-O-C1~6アルキレン-4’、2’-O-エチレン-4’、2’-O-メチル置換メチレン-4’、2’-O-C1~6アルキレン-O-C1~6アルキレン-4’、2’-O-N(R)-C1~6アルキレン-4’(ここで、Rはメチル、水素原子またはベンジルを示す)、2’-N(R)-C(O)-4’、2’-NH-C1~6アルキレン-4’、もしくは、2’-C1~6アルキレン-4’に置換された、または、3’部位と5’部位が、3’-C1~6アルキレン-5’に置換された、架橋型修飾型ヌクレオチド残基;または
iv)ヘキシトール核酸(HNA)残基、シクロヘキセニル核酸(CeNA)残基、もしくはモルフォリノ核酸(PMO)残基
である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
オリゴヌクレオチド原料断片より選ばれる任意の2本のオリゴヌクレオチド原料断片の全モル比が、0.5~2である、請求項1~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
オリゴヌクレオチド原料断片が、10mM以下の一価カチオン塩濃度下で処理される、請求項1~10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
前記処理することの前に、オリゴヌクレオチド原料断片混合溶液を65℃以上の高温に置きその後クールダウンすることが行われない、請求項1~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
前記修飾オリゴヌクレオチド以外の核酸夾雑物の生成が抑制される、請求項1~12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
前記修飾オリゴヌクレオチドを精製することをさらに含む、請求項1~13のいずれか一項記載の方法。」
第3 特許異議申立理由
申立1、2における特許異議申立の理由(以下、「申立理由」という。)の概要及び証拠方法は以下のとおりである。
1 申立1
(1)申立理由の概要
ア 申立理由1(特許法第29条第2項)
本件発明1~14は、甲第1号証及び本件特許の出願時の技術常識(甲第2号証~甲第9号証)に基づいて、当業者が容易に想到できた発明である。
(2)証拠方法
甲第1号証:Journal of Biological Chemistry,1976,Vol.251,No.3,pp.658-666
甲第2号証:米国特許出願公開第2012/0156731号明細書
甲第3号証:米国特許出願公開第2008/0300842号明細書
甲第4号証:Glen Report,2004,Vol.17,No.1,pp.1-12
甲第5号証:Journal of Medicinal Chemistry,1993,Vol.36,No.7,pp.831-841
甲第6号証:Journal of Biological Chemistry,2004,Vol.279,No.30,pp.31337-31347
甲第7号証:Journal of Biological Chemistry,2004,Vol.279,No.49,pp.50654-50661
甲第8号証:New England Biolabs (NEB)社の販売するT4 RNA Ligase 2(dsRNA Ligase)の製品情報,[online],New England Biolabs社,[2025年2月15日出力],インターネット<URL:https://www.neb.com/ja-jp/products/m0239-t4-rna-ligase-2-dsrna-ligase#Protocols--Manuals---Usage>
甲第9号証:New England Biolabs (NEB)社の販売するT4 RNA Ligase 2 (dsRNA Ligase)のプロトコール,[online],New England Biolabs社,[2025年3月26日出力],インターネット<URL:https:/www.neb.com/ja-jp/protocols/2019/10/23/protocol-for-ligation-of-nicks-in-dsrna-with-t4-rna-ligase-2-neb-m0239>
以下、上記甲第1~9号証を、それぞれ「甲1-1」~「甲1-9」という。
2 申立2
(1)申立理由の概要
ア 申立理由1(特許法第36条第6項第2号)
本件発明1の構成要件(iv)及び(v)は以下の理由で不明確であるから、本件発明1~14の構成は、明確性要件を満たさない。
(ア)構成要件(iv)について
本件発明1の「(iv)該合計4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片のうち4本のオリゴヌクレオチド原料断片が、5~17塩基長の相補部分を含み」との構成要件は、以下の解釈[A]と解釈[B]の2通りの解釈が可能であり、不明確である。
解釈[A]
「該方法において使用される4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片のうち4本は、それらが一緒に考慮される場合に(すなわち、それらがハイブリダイズおよび/またはアニーリングされる状況において)、5~17塩基長である相補的部位の配列を含む」
解釈[B]
「4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片のうち4本は、それぞれ個々に、得られる修飾オリゴヌクレオチドの相補的部位の一部となる5~17個のヌクレオチドを含む(すなわち提供する)」
(イ)構成要件(v)について
本件発明1の「(v)オリゴヌクレオチド原料断片の相補部分の各鎖側に相当する塩基長の合計が、いずれも11~27塩基長である」との構成要件は、請求項1冒頭の「11~27塩基長の相補部分を含む」との構成要件の特定と重複しており、何も新たな特定を加えておらず、冗長であって、意味が不明確である。
イ 申立理由2(同法第29条第1項第3号)
本件発明1、2、7、8及び11~14は、甲第1号証に対し、新規性を有しない。
ウ 申立理由3(同法第29条第2項)
本件発明3~6、9及び10は、甲第1号証と甲第4号証、甲第6号証、甲第7号証、及び/又は甲第8号証との組み合わせに対し進歩性を有しない。
エ 申立理由4(同法第29条第1項第3号)
本件発明1、2、7、8及び12~14は、甲第2号証に対し、新規性を有しない。
オ 申立理由5(同法第29条第2項)
本件発明3は、甲第2号証に対し進歩性を有しない。
カ 申立理由6(同法第29条第2項)
本件発明1は、甲第3号証と、甲第6号証、甲第8号証、及び/又は甲第10号証との組み合わせに対し、進歩性を有しない。
キ 申立理由7(同法第29条第2項)
本件発明2~10、12~14は、甲第3号証と、甲第4号証、甲第6号証、甲第8号証、及び/又は甲第10号証との組み合わせに対し、進歩性を有しない。
ク 申立理由8(同法第29条第2項)
本件発明1は、甲第4号証、甲第5号証の1及び甲第5号証の2に対し、進歩性を有しない。
ケ 申立理由9(同法第29条第2項)
本件発明2、3、7~9、12~14は、甲第4号証、甲第5号証の1及び甲第5号証の2と甲第3号証との組み合わせに対し、進歩性を有しない。
コ 申立理由10(同法第29条第2項)
本件発明1は、甲第9号証と甲第2号証との組み合わせに対し進歩性を有しない。
サ 申立理由11(同法第29条第2項)
本件発明2~10、13、14は、甲第9号証と甲第2号証、甲第4号証、及び/又は、甲第8号証との組み合わせに対し進歩性を有しない。
シ 申立理由12(同法第36条第4項第1号)
本件明細書等は非常に少数のリガーゼを用いたライゲーションの成功の報告のみを提供し、どの化学修飾に対してどのリガーゼがどの条件下で作用することができるかについての十分な情報を提供していないから、本件発明1~14の全範囲に渡って発明を実施することができるようにするためには、当業者が繰り返し試行錯誤の試験を実施しなければならない。よって、本件発明1~14は、実施可能要件を具備しない。
ス 申立理由13(同法第36条第6項第1号)
本件明細書等は非常に少数のリガーゼを用いたライゲーションの成功の報告のみを提供し、どの化学修飾に対してどのリガーゼがどの条件下で作用することができるかについての十分な情報を提供していないから、本件発明1~14の範囲は、本件明細書等の開示に比較して広すぎる。よって、本件発明1~14は、サポート要件を具備しない。
(2)証拠方法
甲第1号証:米国特許出願公開第2016/0215316号明細書
甲第2号証:BMC Research Notes,2010,3:219, pp.1-9
甲第3号証:国際公開第2018/167475号
甲第4号証:Current Protocols in Chemical Biology e62, 2019年1月28日, Vol.11, pp.1-17(甲第4号証については、手続補正により甲第4号証の2が追加されたときに、他の甲号証と平仄を合わせ、「甲第4号証の1」と枝番が付与されるべきであるが、手続補正された申立書の記載に合わせて、本異議決定においても「甲第4号証」(又は「甲2-4」)の表記で統一する。)
甲第4号証の2:Current Protocols in Chemical Biology e62, Volume 11の発行日を掲載するウェブサイト,[online],John Wiley & Sons Inc.,[2025年3月26日出力],インターネット<URL:https://currentprotocols.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/cpch.62>
甲第5号証の1:Chem. Commun., 2018, Vol.54, pp.6408-6411
甲第5号証の2:Chem. Commun., 2018, Vol.54, pp.6408-6411のSupplementary Material
甲第6号証の1:国際公開第2018/011067号
甲第6号証の2:特表2019-525917号公報(甲第6号証の1の対応公表公報)
甲第7号証:Journal of Biological Chemistry, 2004, Vol.279, No.30, pp.31337-31347
甲第8号証:Current Protocols in Nucleic Acid Chemistry, 2012, pp.16.4.1-16.4.11
甲第9号証:Bioconjugate Chemistry, 2014, Vol.25, pp.433-441
甲第10号証:Clinical and Experimental Pharmacology and Physiology, 2006, Vol.33, pp.504-510
以下、上記甲第1~10号証を、それぞれ「甲2-1」~「甲2-10」といい、枝番については、例えば、甲第5証の2であれば、「甲2-5の2」という。
第4 当審の判断
当審は、申立人が主張する上記の申立理由は、いずれも理由がなく、ほかに各特許を取り消すべき理由も発見できないから、本件発明1~14に係る特許は、いずれも取り消すべきものではなく、維持すべきものと判断する。
1 本件明細書等に記載された事項
本件明細書等の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
本ア 背景技術
「【0002】
siRNA、アンチセンス等のオリゴヌクレオチドは、核酸医薬としての有用性が示され、近年、開発が活発化している。オリゴヌクレオチドは、主に合成法にて製造されており、例えば、ホスホロアミダイト法など固相合成にてヌクレオチド残基を1塩基ずつ順次直列的に伸長合成することにより製造することができる。しかしながら、この手法は、オリゴヌクレオチドの鎖長が長くなるにつれて産物の純度および収量が低下したり、製造効率が低いなどの課題を有している。そこで、オリゴヌクレオチドを各短鎖断片として合成し、それらを縮合して目的のオリゴヌクレオチドを得る並列的合成手法が求められている。
【0003】
特許文献1には、目的のオリゴヌクレオチドを分割した断片に相当する複数のオリゴヌクレオチド原料断片を、目的のオリゴヌクレオチドに相補的な鋳型オリゴヌクレオチドとアニールさせ、アニールしたオリゴヌクレオチド原料断片同士を酵素的に縮合させ、得られた目的のオリゴヌクレオチド鎖を鋳型オリゴヌクレオチドから分離することにより、一本鎖オリゴヌクレオチドを製造することが記載されている。
非特許文献1には、オリゴDNA断片とPEG化オリゴDNA断片を、付着性末端においてDNAリガーゼで連結させることによる、オリゴDNAのPEG化が記載されている。しかし、非特許文献1では天然型オリゴDNA断片でしか実施していないため、アニーリング能の低下が示唆される短鎖かつ修飾型塩基を含むオリゴヌクレオチドを原料として用いた、相補部分を含むオリゴヌクレオチドの酵素的縮合が可能であるかどうかは不明である。
非特許文献2および3には、1本のオリゴヌクレオチド鎖とこれに相補的な2本のオリゴヌクレオチド原料断片をアニールさせることにより形成されるニックを、リガーゼで連結させることが記載されている。
非特許文献4には、付着性末端を有する24mer二本鎖オリゴRNAをRNAリガーゼで連結させて、48mer以上の大きさを有する二本鎖RNAを形成させることが記載されている。しかしながら、非特許文献4では、基質は24塩基長、生成物も48塩基長といずれも長いことから、基質のアニーリング能が高い条件でしか実施していないため、アニーリング能が著しく低下することが示唆される短鎖かつ修飾型塩基の導入による酵素の連結活性の低下が予想されるオリゴヌクレオチド基質を用いた場合に2箇所以上の縮合点を有する酵素反応が進行するかは知られていなかった。
・・・」
本イ 発明が解決しようとする課題
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、siRNAやヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチド等の相補部分を含むオリゴヌクレオチドの効率的な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、目的の相補部分を含むオリゴヌクレオチドの両相補部分を分割した断片に相当する4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片をオリゴヌクレオチドリガーゼで処理することにより、二本鎖などの相補部分を含むオリゴヌクレオチドを直接構築することを見出し、固相合成などの直列合成法に比し高い製造効率、高い純度で製造できることなどを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
従来、siRNAなど、比較的短い二本鎖オリゴヌクレオチドは、化学合成が容易かつ簡便であったことから、化学合成により製造されていた。具体的には、構成する2本のオリゴヌクレオチド鎖をそれぞれ化学合成(例、固相合成)し、それらを精製後、両鎖をアニーリングさせることによって製造されていた。そのため、酵素的縮合を用いる方法はさほど報告されておらず、その中でも、4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片から酵素的合成する方法は、28塩基長以上の比較的長鎖の二本鎖オリゴヌクレオチドを製造する方法しか報告されていなかった。短いオリゴヌクレオチドは、その製造に用いられるオリゴヌクレオチド原料断片の塩基長も自ずと短くなるが、短い塩基長のオリゴヌクレオチド原料断片は、アニーリング能も低下すると考えられる。構成するヌクレオチドが修飾されているとさらにアニーリング能が低下してしまうことも考えられた。したがって、リガーゼを用いる酵素的なオリゴヌクレオチド合成手法では、オリゴヌクレオチド原料断片のアニーリング能が重要と考えられていたことから、リガーゼを用いて4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片とした28塩基長未満などのより短鎖のオリゴヌクレオチドを製造する方法は試みられていなかった。
しかし、本発明者らは、鋭意検討した結果、予想に反して、リガーゼおよび4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片を用いた場合、アニーリング能に影響されることなく、28塩基長未満の二本鎖オリゴヌクレオチドを首尾よく製造できることを見出した。また、短鎖のオリゴヌクレオチドの場合、製造されるオリゴヌクレオチドの純度も向上することなどを見出し、本発明を完成するに至った。」
本ウ 発明を実施するための形態
「【発明を実施するための形態】
【0012】
(本発明の概要)
以下、本発明を説明する。・・・
【0014】
(目的の修飾オリゴヌクレオチド)
・・・
【0016】
オリゴヌクレオチドは、「天然型オリゴヌクレオチド」および「修飾オリゴヌクレオチド」に分類することができる。「天然型オリゴヌクレオチド」とは、細胞に含まれるポリヌクレオチド(RNAおよびDNA)を構成するヌクレオチド残基(アデノシン(A)、グアノシン(G)、シチジン(C)、ウリジン(U)、デオキシアデノシン(dA)、デオキシグアノシン(dG)、デオキシシチジン(dC)、チミジン(dT)。以下、「天然型ヌクレオチド残基」と呼ぶ。)から構成されるオリゴヌクレオチドをいう。「修飾オリゴヌクレオチド」とは、「天然型オリゴヌクレオチド」以外のオリゴヌクレオチドをいい、天然型ヌクレオチド残基以外の構成要素(以下、「修飾残基」と呼ぶ。)を含むオリゴヌクレオチドである。修飾残基としては、例えば、修飾型ヌクレオチド残基、アミノ酸残基、リンカーが挙げられる。・・・
【0017】
「修飾型ヌクレオチド残基」における「修飾」には、ヌクレオチド残基の糖部分(リボースまたはデオキシリボース)の置換基の置換、ヌクレオチド残基の糖部分自体(糖骨格)の置換、およびヌクレオチド残基の核酸塩基部分の修飾(例、核酸塩基部分の置換基の置換)が含まれる。
【0018】
「ヌクレオチド残基の糖部分の置換基の置換」としては、例えば、1’-H、2’-OH(リボースのみ)、2’-H、3’-OH、3’-NH2、3’-H、3’-リン酸基、4’-H、5’-リン酸基、またはこれらの組合せの置換が挙げられる。・・・。このような置換としては、例えば、1’、2’、3’、もしくは4’-化学修飾(1’、2’、3’、または4’部位における他の置換基への置換)、5’-または3’-リン酸基修飾(5’-または3’-リン酸基の他の置換基への置換)、架橋型修飾(1’、2’、3’、または4’部位の2つ同士を架橋する置換)、およびキャリア付加修飾(1’、2’、3’、4’、または5’部位におけるキャリアへの置換)が挙げられる。
【0022】
キャリア付加修飾におけるキャリアは、目的の修飾オリゴヌクレオチドに安定性、標的指向性、薬効等の性能を向上または付与するためのキャリアであってもよい。このようなキャリアは、使用目的に応じて、公知のキャリアから適宜選択することができる。キャリアとしては、例えば、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)、ペプチド、リン酸、コレステロール、トコフェロール、脂肪鎖、葉酸が挙げられる。キャリア付加修飾における付加部位は、目的の修飾オリゴヌクレオチドの末端に相当する3’または5’部位が好ましい。
【0029】
(オリゴヌクレオチド原料断片)
・・・
【0031】
上記条件(iv)における「相補部分」の塩基長は、対合を形成することができる塩基長であればよく、1塩基長以上であればよい。また、オリゴヌクレオチド合成において塩基長が長くなるにつれて産物の純度、収量、製造効率が低下し得るため、全オリゴヌクレオチド原料断片のうち4本のオリゴヌクレオチド原料断片は、相補部分が17塩基長以下となるように設計されるのが好ましい。相補部分を構成する2本の鎖が、5~25塩基長(例、5~22塩基長、5~20塩基長、5~17塩基長、8~25塩基長、8~22塩基長、8~20塩基長、8~17塩基長)であることが好ましい。
【0032】
突出末端は、例えば1~10塩基長であり、好ましくは1~8塩基長であり、より好ましくは1~6塩基長であり、さらにより好ましくは2~6塩基長、3~6塩基長または4~6塩基長である。
【0033】
上記条件(iv)における「相補部分」の塩基長の数値と、突出末端の塩基長の数値は、上述した範囲を満たしかつ互いに整合する値が設定される。例えば、突出末端が5塩基長である場合、相補部分は、突出末端を形成するために6~25塩基長であってもよく、例えば、突出末端が6塩基長である場合、相補部分は、突出末端を形成するために7~25塩基長であってもよい。
【0034】
上記条件(iv)で規定される4本のオリゴヌクレオチド原料断片の「相補部分」における突出末端以外の部分は、4~24塩基長、4~21塩基長、4~19塩基長、または4~16塩基長であることが好ましい。
【0035】
特定の実施形態では、上記条件(iv)で規定される4本のオリゴヌクレオチド原料断片は、それぞれ、5塩基長以上、好ましくは6塩基長以上、より好ましくは7塩基長以上、さらにより好ましくは8塩基長以上、特に好ましくは9塩基長以上であってもよい。このような4本のオリゴヌクレオチド原料断片はまた、19塩基長以下、好ましくは18塩基長以下、より好ましくは17塩基長以下、さらにより好ましくは16塩基長以下、特に好ましくは15塩基長以下であってもよい。このような4本のオリゴヌクレオチド原料断片はまた、5~19塩基長、好ましくは6~18塩基長、より好ましくは7~17塩基長、さらにより好ましくは8~16塩基長、特に好ましくは9~15塩基長であってもよい。」
本エ 実施例
「【0068】
〔実施例3〕修飾型RNAを用いた反応進行の確認
1)基質および生成物標品の合成
修飾型オリゴヌクレオチドにおける4断片からのsiRNAの酵素的ライゲーション反応の進行を評価した。目的のsiRNAを表3に示す、センス鎖(MOD1-S)およびアンチセンス鎖(MOD1-A)からなる二本鎖とした。このsiRNAは実施例1および2で用いた天然型RNAと塩基配列は同一であるが、すべての残基が2’-Fまたは2’-O-メチルにより修飾されており、一部のリン酸基がチオリン酸基に置換されている。また、それぞれの断片として表3に示す4断片を合成した。これら4断片の塩基配列は表2の番号1の組合せと同一である。
【0069】
【表3】
[図:0001426843000001.jpg]
【0070】
2)T4RNAリガーゼ2によるライゲーション反応
4断片の修飾型RNAを用いてT4 RNAリガーゼ2により反応した。反応液の組成は50mM Tris-HCl、2mM MgCl2、1mM ジチオスレイトール、400μM ATP、pH7.5、修飾型RNA断片をそれぞれ10μMとし、反応液量は50μLとした。酵素の添加濃度を0.2または1.0U/μLとし、陰性対照として酵素非添加の条件でも反応した。サーマルサイクラーを用いて25℃で1時間反応した後、80℃で5分間加熱することにより反応を停止した。
【0072】
4)結果
HPLCによる分析の結果を図4に示す。HPLCによる分析では酵素の添加により、標品と一致する保持時間にライゲーション産物のピークが得られるとともに、陰性対照と比較して基質の修飾型RNAのピーク面積が減少した。また、酵素添加量の増加に伴いライゲーション産物のピーク面積も増加した。さらに反応液のLC-TOF/MSによる分析では酵素添加条件においてセンス鎖およびアンチセンス鎖の生成が観察された。
センス鎖LC/MS m/z: calcd 2266.13, found 2265.9703[M-3H]3-
アンチセンス鎖LC/MS m/z: calcd 2531.04, found 2531.0199[M-3H]3-
【0073】
以上から、T4 RNAリガーゼ2による修飾型RNAの4断片からのsiRNAの生成が可能であることが示された。
【0074】
〔実施例4〕DNAリガーゼによる反応進行の確認
修飾型オリゴヌクレオチドにおける4断片からのsiRNAの酵素的ライゲーション反応の進行を、DNAリガーゼを用いて評価した。DNAリガーゼとしてT4 DNAリガーゼ(New England Biolabs)を用いた。
【0075】
反応液の組成は、DNAリガーゼ50mM Tris-HCl、10mM MgCl2、10mMジチオスレイトール、1mM ATP、pH7.5とした。酵素濃度は470nM、オリゴヌクレオチド断片をそれぞれ10μMとし、反応液量は30μLとした。オリゴヌクレオチド断片は表3に示す組み合わせを用いた。サーマルサイクラーを用いて25℃で反応し、4時間後に10μLを採取し、80℃で5分間加熱することにより反応を停止した。反応液に含まれるライゲーション産物の濃度を実施例3に記載の条件にてHPLCにより分析した。標品も同様に分析することにより、ライゲーション産物の濃度を定量した。
【0076】
HPLCによる分析の結果、ライゲーション産物の蓄積が確認され、反応4時間後の蓄積はセンス鎖が0.58μM、アンチセンス鎖が5.1μMであった。以上のように、DNAリガーゼにおいても4断片の修飾型RNAからのsiRNAの生成反応が進行した。
【0077】
〔実施例5〕デイノコッカス・ラディオデュランス(Deinococcus radiodurans)RNAリガーゼの調製とライゲーション反応
(1)E. coliによる組換え発現株の構築
Deinococcus radiodurans由来のRnl5ファミリーに属するRNAリガーゼDraRnlをE. coliで発現する株を構築し、精製酵素を調製した。まず、DraRnlのアミノ酸配列(配列番号17)をE. coliコドンに最適化した塩基配列を有するプラスミドを遺伝子全合成により作成し、次にこの配列をpET16bベクターのNdeI/BamHIサイトにサブクローニングした。本発現プラスミドをE. coli BL21(DE3)を形質転換し、DraRnlの発現株を得た。この発現株では、N末端にHis-tagが付与されたDraRnlが発現される。
【0078】
(2)組換え酵素の調製
・・・
【0082】
(3)DraRnlによるライゲーション反応
4断片の修飾型RNAを用いてDraRnlにより反応した。反応液の組成は50mM Tris-HCl(pH7.5)、10mM MnSO4、1mM ジチオスレイトール、400μM ATP、修飾型RNA断片をそれぞれ10μMとし、反応液量は25μLとした。修飾型RNA断片は表3の組み合わせを用いた。酵素の添加濃度を72μg/mLとし、陰性対照として酵素非添加の条件でも反応した。サーマルサイクラーを用いて25℃で3時間反応した後、終濃度1mMになるようにEDTAを加えることで反応を停止した。
【0083】
(4)HPLCによる分析
反応液をACQUITY HPLC Oligonucleotide BEH C18 Column (Waters、2.1×100mm、1.7μm)を用いたHPLCにより分析した。分析条件は、カラム温度60℃、検出波長260nm、インジェクション量10μL、流速0.4mL/minとした。移動相はA液ヘキサフルオロイソプロパノール-トリエチルアミンおよびB液(メタノール)を用いたリニアグラジエントにより分析した。センス鎖およびアンチセンス鎖の標品も同様に分析することにより、ライゲーション産物の生成を確認した。
【0084】
HPLCによる分析の結果を図5に示す。HPLCによる分析では酵素の添加により、標品と一致する保持時間にライゲーション産物のピークが得られるとともに、陰性対照と比較して基質の修飾型RNAのピーク面積が減少した。以上から、DraRnlによる修飾型RNAの4断片からの目的の修飾オリゴヌクレオチドの生成が可能であることが示された。
・・・
【0105】
〔実施例10〕5’末端にDMTr基が付加されたオリゴヌクレオチドを用いた反応
5’末端にジメトキシトリチル(DMTr)基が付加された2断片を含む4断片のオリゴヌクレオチドから酵素的ライゲーションにより二本鎖修飾オリゴヌクレオチドを生成する反応の進行を評価した。目的生成物のそれぞれの鎖をA鎖及びB鎖とした。目的生成物および合成した基質断片の配列を表8に、4断片の組み合わせを図10に示す。
【0106】
反応液の組成は、1.78μg/mL T4 RNAリガーゼ2(New England Biolabs)、50mM Tris-HCl、2mM MgCl2、1mMジチオスレイトール、400μM ATP、pH7.5とした。基質として4断片のオリゴヌクレオチド断片をそれぞれ終濃度10μMとなるように添加し、40μLの液量で反応した。サーマルサイクラーを用いて25℃で反応し、4時間後に終濃度10mMになるようにEDTAを加えることで反応を停止した。陰性対照として酵素非添加の条件でも反応した。反応液に含まれるライゲーション産物の濃度を実施例5に記載の条件にてHPLCおよびLC-TOF/MSにより分析した。
【0107】
HPLCによる分析では、酵素の添加により、陰性対照と比較して、各基質のピーク面積が減少し、新たに2本のピークを検出することができた。さらに反応液のLC-TOF/MSによる分析では、酵素添加条件においてA鎖およびB鎖の生成を確認できた。
A鎖 LC/MS m/z: calcd 1764.80, found 1764.79[M-4H]4-
B鎖 LC/MS m/z: calcd 1738.76, found 1738.75[M-4H]4-
【0108】
以上から、T4 RNAリガーゼ2により、DMTr基を有する基質断片から二本鎖修飾オリゴヌクレオチドが生成可能であることが示された。
【0109】
【表8】
[図:0001426843000002.jpg]
【0110】
〔実施例11〕キャリア付加型オリゴヌクレオチド断片を用いた反応
5’末端にN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)が付加された1断片を含む4断片のオリゴヌクレオチドから、酵素的ライゲーションにより二本鎖修飾オリゴヌクレオチドを生成する反応の進行を評価した。目的生成物のそれぞれの鎖をA鎖及びB鎖とした。目的生成物および合成した基質断片の配列を表9に、4断片の組み合わせを図11に示す。GalNAcで修飾した断片は、Trivalent β-D-GalNAc with carboxyl-functionalized PEG5 Linker (Sussex社製)をアミノC6リンカーを介してオリゴヌクレオチドの5’末端に連結して合成した。
【0111】
反応液の組成は、1.78μg/mL T4 RNAリガーゼ2(New England Biolabs)、50mM Tris-HCl、2mM MgCl2、1mMジチオスレイトール、400μM ATP、pH7.5とした。基質として4断片のオリゴヌクレオチド断片をそれぞれ終濃度10μMとなるように添加し、40μLの液量で反応した。サーマルサイクラーを用いて25℃で反応し、4時間後に終濃度10mMになるようにEDTAを加えることで反応を停止した。陰性対照として酵素非添加の条件でも反応した。反応液に含まれるライゲーション産物を実施例5に記載の条件にてHPLCおよびLC-TOF/MSにより分析した。
【0112】
HPLCによる分析では、酵素の添加により、陰性対照と比較して、各基質のピーク面積が減少し、新たに2本のピークを検出することができた。さらに反応液のLC-TOF/MSによる分析では、酵素添加条件においてA鎖およびB鎖が検出され、生成を確認できた。
A鎖 LC/MS m/z: calcd 1730.40, found 1730.37[M-5H]5-
B鎖 LC/MS m/z: calcd 1330.38 found 1330.36[M-5H]5-
【0113】
以上から、T4 RNAリガーゼ2を用いた4断片からの反応により、末端をN-アセチルガラクトサミンで修飾した二本鎖修飾オリゴヌクレオチドが生成可能であることが示された。
【0114】
【表9】
[図:0001426843000003.jpg]
・・・
【0140】
〔実施例18〕生成物の塩基長の違いによる不純物の淘汰性の比較
基質および生成物について塩基長の異なる反応を実施し、基質オリゴ核酸断片および酵素反応後の溶液に含まれる不純物を分析した。反応の目的生成物のそれぞれの鎖をA鎖及びB鎖とした。目的生成物および合成した基質断片の配列を表16に、4断片の組み合わせを図17に示す。
【0141】
反応液の組成は、修飾オリゴヌクレオチドを用いた反応では8.9μg/mL T4 RNAリガーゼ2(New England Biolabs)、50mM Tris-HCl、2mM MgCl2、1mMジチオスレイトール、400μM ATP、pH7.5とした。DNAを用いた反応では22.0μg/mL T7 DNAリガーゼ(New England Biolabs)、50mM Tris-HCl、2mM MgCl2、1mMジチオスレイトール、400μM ATP、pH7.5とした。基質として4断片のオリゴヌクレオチド断片をそれぞれ終濃度50μMとなるように添加し、30μLの液量で反応した。サーマルサイクラーを用いて25℃で反応し、8時間後に終濃度12.5mMになるようにEDTAを加えることで反応を停止した。反応液を実施例5に記載の条件にてHPLCおよびLC-TOF/MSにより分析し、目的の反応進行を確認した。
【0142】
得られた質量分析結果から先行文献(Roussis et al., Journal of Chromatogr A. 2019;1584:106-114.)の方法に基づき、目的の構造の生成物に対する不純物(N±1mer)の含有率を算出した。また、反応に供した基質オリゴヌクレオチド溶液も同様にLC-TOF/MSにより分析し、基質に対する不純物(N±1mer)の含有率を算出した。
【0143】
上記で算出した値から、各反応のA鎖およびB鎖のそれぞれについて、以下の式で不純物の残存率(%)を算出した。
不純物の残存率(%)=(反応液中の目的生成物に対するN±1merの比率)/(基質溶液中の基質に対するN±1merの比率)×100
【0144】
結果を表17に示す。28塩基長のオリゴ核酸を生成する反応では、不純物(N±1mer)の残存率は86%以上であるのに対し、25塩基長以下のオリゴ核酸を生成する反応では、23~59%であった。
【0145】
【表16】
[図:0001426843000004.jpg]
【0146】
【表17】
[図:0001426843000005.jpg]
」
本オ 図面
「【図4】
[図:0001426843000006.jpg]
【図5】
[図:0001426843000007.jpg]
【図10】
[図:0001426843000008.jpg]
【図11】
[図:0001426843000009.jpg]
【図17】
[図:0001426843000010.jpg]
」
2 申立2の申立理由1(明確性)について
(1)判断規範
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)本件発明の明確性についての判断
ア 条件(iv)について
本件発明1では、本件発明1の「修飾オリゴヌクレオチドの製造方法」において原料となる「合計4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片」について、「該修飾オリゴヌクレオチドを、下記条件(i)~(v)を満たす断片連結部で分けた場合に得られるオリゴヌクレオチド原料断片に相当する」ものとして特定しており、そのうち条件(iv)に関しては、発明の詳細な説明(【0031】(本ウ))において「上記条件(iv)における「相補部分」の塩基長は、対合を形成することができる塩基長であればよく、1塩基長以上であればよい」こと、及び、「オリゴヌクレオチド合成において塩基長が長くなるにつれて産物の純度、収量、製造効率が低下し得るため、全オリゴヌクレオチド原料断片のうち4本のオリゴヌクレオチド原料断片は、相補部分が17塩基長以下となるように設計されるのが好ましい」ことが記載されている。
これらの記載のうち、前者の記載からは、条件(iv)における「相補部分」との用語が指す対象は元来「1塩基長」の場合もあり得るものとして使用されていることが理解でき、「1塩基長以上」の範囲から、本件発明1では、条件(iv)において5~17塩基長に限定しているものと理解できる。そして、解釈[A]では、「1塩基長」となることは生じ得ない。
また、後者の記載からは、条件(iv)の上限として、相補部分が17塩基長以下とされた理由を読み取ることができ、「オリゴヌクレオチド合成において塩基長が長くなるにつれて産物の純度、収量、製造効率が低下し得る」ことを避けるために好ましいとされる範囲に限定しているものと理解できる。そして、解釈[A]では、個々のオリゴヌクレオチド原料断片は17塩基長よりも短くする必要が生じるので、上述の理由は、オリゴヌクレオチド原料断片の塩基長の上限の理由として不合理である。
したがって、これらの理解は、いずれも、本件発明1の条件(iv)における「相補部分」が、当該条件(iv)における「該合計4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片のうち4本のオリゴヌクレオチド原料断片」の各原料断片それぞれの相補部分を意味していると解釈しなければ整合しないものである。
そうすると、本件発明1における条件(iv)の解釈として、申立2において主張されるような解釈[A]で理解する余地は無いものであるから、本件発明1の条件(iv)は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確なものではない。
イ 条件(v)について
「合計4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片」を特定するための条件(v)では、「オリゴヌクレオチド原料断片の相補部分の各鎖側に相当する塩基長の合計が、いずれも11~27塩基長である」ことが特定されている。
ここでいう「オリゴヌクレオチド原料断片の相補部分の各鎖側に相当する塩基長の合計」が、本件発明1の製造方法で製造される「修飾オリゴヌクレオチド」の「相補部分」の塩基長に対応することは、原料である「オリゴヌクレオチド原料断片」と当該原料から製造される「修飾オリゴヌクレオチド」との技術的関係を踏まえれば、当業者に明らかである。
そして、本件発明1の冒頭における「11~27塩基長の相補部分を含む修飾オリゴヌクレオチド」との特定と、本件発明1の条件(v)における「オリゴヌクレオチド原料断片の相補部分の各鎖側に相当する塩基長の合計が、いずれも11~27塩基長である」との特定とは、技術的に互いに整合し、矛盾は生じていないから、意味が不明確であるということはない。
さらに、上述の本件発明1の冒頭における塩基長範囲の特定は、製造される「修飾オリゴヌクレオチド」の相補部分に対するものであり、条件(v)における塩基長範囲の特定は、「オリゴヌクレオチド原料断片」を特定するために必要な条件の1つとして、「オリゴヌクレオチド原料断片の相補部分」の面から特定しているものと理解できるから、重複や冗長さがあるとか、それによって不明確であるいうことはない。
したがって、本件発明1における条件(v)は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確なものではない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確なものではない。
また、本件発明1に対して従属請求項形式で特定される本件発明2~14についても、上述の議論の前提が変わるような事項は特定されていないから、本件発明1と同様に、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確なものではない。
したがって、申立2の申立理由2(明確性)は、理由がない。
3 申立2の申立理由12(実施可能要件)及び申立理由13(サポート要件違反)について
(1)判断規範
発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要する。
また、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件発明の実施可能要件、サポート要件についての判断
ア 本願発明の課題
本件明細書等をみると、オリゴヌクレオチドを製造する従来の技術では、天然型オリゴDNA断片しか実施されていないか、基質が24塩基長であり生成物も48塩基長と長く基質のアニーリング能が高い条件でしか実施されておらず、アニーリング能の低下が示唆される短鎖かつ修飾型塩基を含むオリゴヌクレオチド基質を原料として用いた場合に酵素縮合が可能か不明であったが、siRNAやヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチド等の相補部分を含むオリゴヌクレオチドの効率的な製造方法を提供することを目的として検討したところ、予想に反して、リガーゼおよび4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片を用いた場合、アニーリング能に影響されることなく、28塩基長未満の二本鎖オリゴヌクレオチドを首尾よく製造できることを見出し、また、短鎖のオリゴヌクレオチドの場合、製造されるオリゴヌクレオチドの純度も向上することなどを見出して、本願発明を完成するに至ったことが記載されている(本ア、本イ)。
これらの記載から見て、本件発明が解決しようとする課題は、アニーリング能の低下が示唆される短鎖かつ修飾型塩基を含むオリゴヌクレオチド基質を原料として用いる、相補部分を含むオリゴヌクレオチドの効率的な製造方法を提供することであると認められる。
イ サポート要件について
本件明細書等では、本件発明1の構成要件を満足する実施例として、全ての残基が2’-F又は2’-O-メチルにより修飾され一部のリン酸基がチオリン酸基に置換された修飾型RNAの4断片から、T4 RNAリガーゼ2によるライゲーション反応により相補部分21塩基長の修飾オリゴヌクレオチドを得た実施例(実施例3)、5’末端にジメトキシトリチル(DMTr)基が付加された2断片を含む4断片のオリゴヌクレオチドから、T4 RNAリガーゼ2によるライゲーション反応により相補部分19塩基長の修飾オリゴヌクレオチドを得た実施例(実施例10)、及び、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)が付加された1断片を含む4断片のオリゴヌクレオチドから、T4 RNAリガーゼ2によるライゲーション反応により相補部分19塩基長の修飾オリゴヌクレオチドを得た実施例(実施例11)が、試験データとともに記載されており(本エ、本オ)、いずれの修飾においても、短鎖のオリゴヌクレオチド基質を原料として目的の修飾オリゴヌクレオチドが得られることが裏付けられている。
また、基質および生成物について塩基長の異なる反応を実施し、基質オリゴ核酸断片および酵素反応後の溶液に含まれる不純物を分析した実施例について、その結果を示す表17とともに記載されている(実施例18、本エ、本オ)。この実施例では、「不純物の残存率(%)=(反応液中の目的生成物に対するN±1merの比率)/(基質溶液中の基質に対するN±1merの比率)×100」で定義される不純物残存率を分析、算出したところ、表17によれば、不純物の残存率は、本件発明1の範囲外である相補部分28塩基長では、A鎖で87%(修飾オリゴヌクレオチド)、88%(二本鎖DNA)、B鎖で96%(修飾オリゴヌクレオチド)、100%(二本鎖DNA)であったのに対し、本件発明1の範囲内である相補部分が21、23、25塩基長の修飾オリゴヌクレオチドでは、それぞれ、A鎖で51%、41%、50%、B鎖で34%、24%、59%であったことが読み取れる。この試験データからみれば、4断片のオリゴヌクレオチド原料断片からリガーゼによるライゲーションにより28塩基長より短い21、23、25塩基長の相補部分を含む修飾オリゴヌクレオチドを製造する際にN±1merの不純物の残存率が、28塩基長の相補部分を含むものよりも小さくなることが裏付けられている。
これらの実施例によれば、アニーリング能の低下が示唆される短鎖かつ修飾型塩基を含むオリゴヌクレオチド基質を原料として用いても、本件発明1の製造方法によれば、相補部分28塩基長未満の二本鎖オリゴヌクレオチドを製造できること、及び、相補部分28塩基長のオリゴヌクレオチドを製造する際に比べて製造される修飾オリゴヌクレオチドのN±1mer不純物の残存率が小さくなることが理解できるから、本件発明1は、当業者が、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載により、上記アの課題を解決できると認識できる範囲のものであるというべきである。
ウ 実施可能要件について
上記イで述べたとおり、本件明細書等の発明の詳細な説明には、本件発明1の試験例が記載され、修飾オリゴヌクレオチドを製造できたことが試験データで示されている。
また、製造方法の条件に注目しても、上述のいずれの実施例でも、オリゴヌクレオチド原料断片の化学構造、使用したリガーゼの種類、ライゲーション反応の反応液組成及び温度条件が明らかにされているから(本エ)、当業者であれば、過度な試行錯誤を要することなく、本件発明1の製造方法を実施することができる程度に、発明の詳細な説明が記載されているというべきである。
エ 申立人の主張について
申立2では、実施可能要件及びサポート要件の申立理由に共通して、甲2-6、甲2-5、甲2-9を根拠に挙げ、要するに、これらの証拠には条件によってはライゲーションが成功しなかったことが記載されていることを指摘しつつ、本件明細書等はどの化学修飾に対してどのリガーゼがどの条件下で作用することができるかについての十分な情報を提供していない旨を主張している。
しかしながら、本件明細書等では、T4 RNAリガーゼ2を用いて実施した実施例3と同様の反応を、T4 DNAリガーゼや、Deinococcus radiodurans由来のRnl5ファミリーに属するRNAリガーゼDraRnlを用いて実施した実施例についても記載されており(実施例4、5)、これらのリガーゼでもライゲーション産物を得られたという試験結果が記載されている(本エ、本オ)ことからみれば、本件発明1の製造方法は、RNAリガーゼにとどまらず、DNAリガーゼを用いた場合でも課題を解決できることが理解できるし、さらには、リガーゼの由来生物種が、バクテリオファージの一種であるT4だけでなく、細菌の一種であるDeinococcus radioduransである場合も課題が解決できることも理解できる。そして、基質タイプが異なるリガーゼや、由来生物種が異なるリガーゼでも同様にライゲーション産物が得られたことからすれば、当業者であれば、基質タイプや由来生物種を超えて、他のリガーゼでも同様の傾向でライゲーション産物が得られるものと推認できる。
そして、甲2-6、甲2-5、甲2-9においては、確かに条件によってはライゲーションが成功しなかったものが記載されているが、それはいずれも、様々な条件で試験した中には、ライゲーションが成功しなかった条件が含まれている面を取り上げているに過ぎず、リガーゼの中には試験した条件でライゲーションを生じないタイプが極一部みられるとか、反応条件によってはライゲーションが生じない場合がある、ということをいうにとどまるものであって、いずれも、本件特許の出願時における当業者の技術常識として想定され得る、リガーゼの基質特異性や好適な反応条件の多少の違いの範囲内であると認められる。
ところで、本件発明1の課題はアで述べたとおりのところ、イで述べたとおり、本件発明1では、オリゴヌクレオチド原料断片を本件発明1の構成を満足するようにすることで、オリゴヌクレオチドリガーゼによるライゲーションで11~27塩基長の相補部分を含む修飾オリゴヌクレオチドの製造が出来ることを試験して確認し、それにより、アニーリング能の低下が示唆される短鎖かつ修飾型塩基を含むオリゴヌクレオチド基質を原料として用いても、オリゴヌクレオチドの効率的な製造が可能なことを実証したものであり、本件発明1の記載要件はこの観点で判断されるべきである。
当該観点を踏まえると、申立2における実施可能要件及びサポート要件に関する主張は、前記観点とは異なり、リガーゼの基質特異性や好適な反応条件の多少の違いというべき本質的ではない条件において、本件発明1の範囲に入るがライゲーション産物を得られない例外的な場合がいくつか存在するこというものに過ぎないし、また、それらの例外的な場合についても、甲2-6、甲2-5、甲2-9に記載される事項が本件特許の出願時の当業者の技術常識を構成するものとして考えると、むしろ、本件発明1を本件明細書等に記載された実施例とは異なる条件で実施する際には、当業者であれば容易に上述の例外的な場合を避けてリガーゼや反応条件の細部を決定することができるから、なおさら、本件発明1により課題が解決できるとの理解の助けとなるものである。
したがって、申立2における実施可能要件及びサポート要件に関する主張はいずれも採用できない。
オ 小括
以上のとおり、本件発明1は、サポート要件と実施可能要件をいずれも満たすものである。
また、本件発明1が、サポート要件及び実施可能要件を満たすものであるから、本件発明1に直接又は間接に従属する本件発明2~14についても、同様の理由により、サポート要件及び実施可能要件を満たすものである。
したがって、申立2の申立理由12(実施可能要件)及び申立理由13(サポート要件)は、いずれも理由がない。
4 申立1の申立理由1(甲1-1を主引例とする進歩性)について
(1)甲1-1の記載事項
甲1-1(英文のため記載事項の認定は当審による日本語訳で記載する。)は、「大腸菌由来のチロシンサプレッサートランスファーRNA前駆体の構造遺伝子の全合成 10.ヌクレオチド配列86~126に対応するDNA二重鎖を形成するための化学合成セグメントの酵素的結合」と題する論文であって、大腸菌チロシンtRNA前駆体に対応するDNAのヌクレオチド配列86~126を構成する、化学的に合成された8つのデオキシリボヌクレオチド(セグメント19~26)のポリヌクレオチドリガーゼ触媒による結合が研究されたこと、結合は、一度に3、4又はそれ以上の数のセグメントのさまざまな組み合わせを使用して研究されたこと、及び、5成分システムと6成分システムの結合は、25~約60%の収率でより満足のいくものであったこと、及び、3つの二重鎖[IVa]~[IVc]は、約50%の収率で1段階反応で調製され、特性が調べられたことが報告されるものである(要約欄)。
そして、使用した組み合わせの具体的態様が図1及び表1に示されており、このうち、表1には、システムNo.6として、セグメント20、21、22、23の組み合わせ(以下、申立1にあわせて「態様1」という。)、システムNo.8として、セグメント19、20、21、22、23の組み合わせ(以下、「態様2」という。)、システムNo.9として、セグメント20、21、22、23、24の組み合わせ(以下、「態様3」という。)、システムNo.10として、セグメント19、20、21、22、23、24の組み合わせ(以下、「態様4」という。)が記載されている。また、図1には、チロシンtRNA前駆体遺伝子の(tRNAの3’末端からのナンバリングで)ヌクレオチド配列86~126に対応するDNA二重鎖が示されており、このうち[IVc]で示されるものが、セグメント20、21、22、23、24、25の組み合わせ(以下、「態様5」という。)で構成されることが示されている。また、図1の[IVa]で示されるものは、上記態様4に対応する。
態様1、態様3~5については、以下のとおり、それぞれ、甲1-1の図3、4、図1[IVa]及び図1[IVc]に、各セグメントのヌクレオチド配列と形成される塩基対が図示されており、態様2については、セグメント19~24の組み合わせとして図示される[IVa](態様4)のうち、セグメント19~23の部分に対応するから、その部分から態様2において形成される塩基対を読み取ることができる。
態様1(甲1-1図3)
[図:0001426843000011.jpg]
態様3(甲1-1図4)
[図:0001426843000012.jpg]
態様4(甲1-1図1[IVa])
[図:0001426843000013.jpg]
態様5(図1-1図1[IVc]
[図:0001426843000014.jpg]
(2)甲1-1に記載された発明
以上によれば、甲1-1には、態様1~5に対応して以下の5つの発明(以下、「甲1-1発明1」~「甲1-1発明5」という。)が記載されている。
ア 甲1-1発明1(態様1)
「大腸菌由来のチロシンサプレッサートランスファーRNA前駆体の構造遺伝子のうち、ヌクレオチド配列86~126に対応するDNA二重鎖を形成する方法であって、
化学的に合成された8つのデオキシリボヌクレオチド(セグメント19~26)のうち、セグメント20、21、22、23を組み合わせて、ポリヌクレオチドリガーゼ触媒により一度に結合してDNA二重鎖を形成することを含み、
該DNA二重鎖は、以下の図で示されるものである方法。
[図:0001426843000015.jpg]
」
イ 甲1-1発明2(態様2)
「大腸菌由来のチロシンサプレッサートランスファーRNA前駆体の構造遺伝子のうち、ヌクレオチド配列86~126に対応するDNA二重鎖を形成する方法であって、
化学的に合成された8つのデオキシリボヌクレオチド(セグメント19~26)のうち、セグメント19、20、21、22、23を組み合わせて、ポリヌクレオチドリガーゼ触媒により一度に結合してDNA二重鎖を形成することを含み、
該DNA二重鎖は、以下の図で示されるもののうち、セグメント19~23に対応するものである方法
[図:0001426843000016.jpg]
」
ウ 甲1-1発明3(態様3)
「大腸菌由来のチロシンサプレッサートランスファーRNA前駆体の構造遺伝子のうち、ヌクレオチド配列86~126に対応するDNA二重鎖を形成する方法であって、
化学的に合成された8つのデオキシリボヌクレオチド(セグメント19~26)のうち、セグメント20、21、22、23、24を組み合わせて、ポリヌクレオチドリガーゼ触媒により一度に結合してDNA二重鎖を形成することを含み、
該DNA二重鎖は、以下の図で示されるものである方法。
[図:0001426843000017.jpg]
」
エ 甲1-1発明4(態様4)
「大腸菌由来のチロシンサプレッサートランスファーRNA前駆体の構造遺伝子のうち、ヌクレオチド配列86~126に対応するDNA二重鎖を形成する方法であって、
化学的に合成された8つのデオキシリボヌクレオチド(セグメント19~26)のうち、セグメント19、20、21、22、23、24を組み合わせて、ポリヌクレオチドリガーゼ触媒により一度に結合してDNA二重鎖を形成することを含み、
該DNA二重鎖は、以下の図で示されるものである方法。
[図:0001426843000018.jpg]
」
オ 甲1-1発明5(態様5)
「大腸菌由来のチロシンサプレッサートランスファーRNA前駆体の構造遺伝子のうち、ヌクレオチド配列86~126に対応するDNA二重鎖を形成する方法であって、
化学的に合成された8つのデオキシリボヌクレオチド(セグメント19~26)のうち、セグメント20、21、22、23、24、25を組み合わせて、ポリヌクレオチドリガーゼ触媒により一度に結合してDNA二重鎖を形成することを含み、
該DNA二重鎖は、以下の図で示されるものである方法。
[図:0001426843000019.jpg]
」
(3)対比
ア 甲1-1発明1~甲1-1発明5に共通する事項
甲1-1発明1~甲1-1発明5における「セグメント19」~「セグメント25」は、いずれも、本件発明1における「オリゴヌクレオチド原料断片」に相当する。甲1-1発明1~甲1-1発明5において各セグメントを結合させた結果得られる「DNA二重鎖」は、本件発明1の方法によって製造される「オリゴヌクレオチド」に相当する。また、甲1-1発明1~甲1-1発明5は、「ポリヌクレオチドリガーゼ触媒」は、本件発明1における「オリゴヌクレオチドリガーゼ」に相当する。
イ 甲1-1発明1について
甲1-1発明1は、DNA二重鎖が合計4本のセグメントから形成されるものであり、図から見てその相補部分は14塩基長である。また、甲1-1発明1について、本件発明1の条件(i)~(v)に関連する事項を図から読み取ると以下のとおりである(以下、申立1については、各甲1-1発明における図から読み取った事項を、申立番号、甲1-1発明の枝番号及び本件発明1の条件(i)~(v)の番号に対応させて、条件番号を「(11i)」等と記載する。)。
(11i)当該4本のセグメント間の連結部は、DNA二重鎖の相補部分において各鎖側に1つずつ存在し、DNA二重鎖中に合計2つ存在すること。
(11ii)DNA二重鎖を前記連結部で分けた場合に、突出末端が相補部分中に形成され、セグメント20とセグメント21~23とに分けた場合、及び、セグメント20~22とセグメント23とに分けた場合は、該突出末端は5塩基長であり、セグメント20、21とセグメント22、23とに分けた場合は、該突出末端は4塩基長であること。
(11iv)相補部分は、セグメント20で5塩基長、セグメント21で9塩基長、セグメント22で9塩基長、セグメント23で5塩基長であること。
(11v)各セグメントの相補部分の各鎖側に相当する塩基長の合計は、いずれも14塩基長であること。
ウ 甲1-1発明2について
甲1-1発明2は、DNA二重鎖が合計5本のセグメント19~23から形成されるものであり、セグメント19~23で構成されるDNA二重鎖の相補部分は図からみて、ヌクレオチド配列90~108の範囲に対応する19塩基長である。また、甲1-1発明2について、本件発明1の条件(i)~(v)に関連する事項を図から読み取ると以下のとおりである。
(12i)当該5本のセグメント間の連結部は、DNA二重鎖の相補部分において存在し、図の上側の鎖で1つ、下側の鎖で2つ存在し、DNA二重鎖中に合計3つ存在すること。
(12ii)DNA二重鎖を前記連結部で分けた場合に、突出末端が相補部分中に形成され、セグメント19とセグメント20~23とに分けた場合、セグメント19、20とセグメント21~23とに分けた場合、及び、セグメント19~22とセグメント23とに分けた場合は、該突出末端は5塩基長であり、セグメント19~21とセグメント22、23とに分けた場合は、該突出末端は4塩基長であること。
(12iv)相補部分は、セグメント19で5塩基長、セグメント20で10塩基長、セグメント21で9塩基長、セグメント22で9塩基長、セグメント23で5塩基長であること。
(12v)各セグメントの相補部分の各鎖側に相当する塩基長の合計は、いずれも19塩基長であること。
エ 甲1-1発明3について
甲1-1発明3は、DNA二重鎖が合計5本のセグメント20~24から形成されるものであり、セグメント20~24で構成されるDNA二重鎖の相補部分は図からみて、セグメント20及び22の範囲に対応する19塩基長である。また、甲1-1発明3について、本件発明1の条件(i)~(v)に関連する事項を図から読み取ると以下のとおりである。
(13i)当該5本のセグメント間の連結部は、DNA二重鎖の相補部分において存在し、図の上側の鎖で2つ、下側の鎖で1つ存在し、DNA二重鎖中に合計3つ存在すること。
(13ii)DNA二重鎖を前記連結部で分けた場合に、突出末端が相補部分中に形成され、セグメント20とセグメント21~24とに分けた場合、セグメント20~22とセグメント23、24とに分けた場合、及び、セグメント20~23とセグメント24とに分けた場合は、該突出末端は5塩基長であり、セグメント20、21とセグメント22~24とに分けた場合は、該突出末端は4塩基長であること。
(13iv)相補部分は、セグメント20で5塩基長、セグメント21で9塩基長、セグメント22で9塩基長、セグメント23で10塩基長、セグメント24で5塩基長であること。
(13v)各セグメントの相補部分の各鎖側に相当する塩基長の合計は、いずれも19塩基長であること。
オ 甲1-1発明4について
甲1-1発明4は、DNA二重鎖が合計6本のセグメント19~24から形成されるものであり、セグメント19~24で構成されるDNA二重鎖の相補部分は図からみて、ヌクレオチド配列90~113範囲に対応する24塩基長である。また、甲1-1発明4について、本件発明1の条件(i)~(v)に関連する事項を図から読み取ると以下のとおりである。
(14i)当該6本のセグメント間の連結部は、DNA二重鎖の相補部分において存在し、図の上側の鎖で2つ、下側の鎖で2つ存在し、DNA二重鎖中に合計4つ存在すること。
(14ii)DNA二重鎖を前記連結部で分けた場合に、突出末端が相補部分中に形成され、セグメント19とセグメント20~24に分けた場合、セグメント19、20とセグメント21~24とに分けた場合、セグメント19~22とセグメント23、24とに分けた場合、及び、セグメント19~23とセグメント24とに分けた場合は、該突出末端は5塩基長であり、セグメント19~21とセグメント22~24とに分けた場合は、該突出末端は4塩基長であること。
(14iv)相補部分は、セグメント19で5塩基長、セグメント20で10塩基長、セグメント21で9塩基長、セグメント22で9塩基長、セグメント23で10塩基長、セグメント24で5塩基長であること。
(14v)各セグメントの相補部分の各鎖側に相当する塩基長の合計は、いずれも24塩基長であること。
カ 甲1-1発明5について
甲1-1発明5は、DNA二重鎖が合計6本のセグメント20~25から形成されるものであり、セグメント20~25で構成されるDNA二重鎖の相補部分は図からみて、ヌクレオチド配列95~120の範囲に対応する26塩基長である。また、甲1-1発明5について、本件発明1の条件(i)~(v)に関連する事項を図から読み取ると以下のとおりである。
(15i)当該6本のセグメント間の連結部は、DNA二重鎖の相補部分において存在し、図の上側の鎖で2つ、下側の鎖で2つ存在し、DNA二重鎖中に合計4つ存在すること。
(15ii)DNA二重鎖を前記連結部で分けた場合に、突出末端が相補部分中に形成され、セグメント20とセグメント21~25とに分けた場合、セグメント20~22とセグメント23~25とに分けた場合、及び、セグメント20~23とセグメント24、25とに分けた場合は、該突出末端は5塩基長であり、セグメント20、21とセグメント22~25とに分けた場合は、該突出末端は4塩基長であり、セグメント20~24とセグメント25とに分けた場合は、該突出末端は7塩基長であること。
(15iv)相補部分は、セグメント20で5塩基長、セグメント21で9塩基長、セグメント22で9塩基長、セグメント23で10塩基長、セグメント24で12塩基長であり、セグメント25で7塩基長であること。
(15v)各セグメントの相補部分の各鎖側に相当する塩基長の合計は、いずれも26塩基長であること。
キ 一致点・相違点
上記ア~カを踏まえると、本件発明1と甲1-1発明1~甲1-1発明5のそれぞれとは、引用発明がいずれのものであっても、以下の一致点で一致し、以下の相違点1で相違する。
(ア)一致点
11~27塩基長の相補部分を含むオリゴヌクレオチドの製造方法であって、
該方法は、合計4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片をオリゴヌクレオチドリガーゼの存在下で処理して該オリゴヌクレオチドを生成することを含み、
合計4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片は、該オリゴヌクレオチドを、下記条件(i)~(v)を満たす断片連結部で分けた場合に得られるオリゴヌクレオチド原料断片に相当する、方法。
(i)断片連結部は、相補部分の各鎖側中のそれぞれに1以上存在し、かつ断片連結部は、該オリゴヌクレオチド中に合計2つ以上存在し;
(ii)該オリゴヌクレオチドを断片連結部で分けた場合に、突出末端が相補部分中に形成され、かつ該突出末端が1~10塩基長であり;
(iii)少なくとも1本のオリゴヌクレオチド原料断片が、ヌクレオチドを含み、
(iv)該合計4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片のうち4本のオリゴヌクレオチド原料断片が、5~17塩基長の相補部分を含み、かつ
(v)オリゴヌクレオチド原料断片の相補部分の各鎖側に相当する塩基長の合計が、いずれも11~27塩基長である。
(イ)相違点1
本件発明1では、製造物が「修飾オリゴヌクレオチド」であり、条件(iii)で、少なくとも1本のオリゴヌクレオチド原料断片が、「修飾ヌクレオチド」を含むことが特定されるのに対し、甲1-1発明1~甲1-1発明5では、DNA二重鎖が「修飾」されることも、セグメントの少なくとも1本が修飾ヌクレオチドを含むことも特定されていない点。
(4)相違点1について
甲1-1には、DNA二重鎖又は各セグメントのヌクレオチドに修飾を加えることは記載されていない。また、甲1-1に記載の技術は、チロシンサプレッサートランスファーRNA前駆体の構造遺伝子の一部に対応するDNA二重鎖を形成しようとするものであることを踏まえると、そのような構造遺伝子のヌクレオチドに対して修飾を加えることは通常行わないから、甲1-1には、DNA二重鎖又は各セグメントのヌクレオチドに修飾を加える動機付けはない。
一方、本件発明1は、3(2)で述べたとおり、本件発明1の課題であった、アニーリング能の低下が示唆される短鎖かつ修飾型塩基を含むオリゴヌクレオチド基質を原料として用いる、相補部分を含むオリゴヌクレオチドの効率的な製造方法を提供することを実現したものであり、特に、「効率的な製造」に関しては、本件明細書等の実施例18(本エ、本オ)に示されるように、本件発明1は、相補部分28塩基長のオリゴヌクレオチドを製造する際に比べて製造される修飾オリゴヌクレオチドにおける不純物N±1merの残存率が低下するという格別の効果が奏されるものである。
甲1-1には、このような効果を示唆する記載はない。
また、申立1で提出された他の証拠である甲1-2~甲1-9の全てをみても、上記の効果に関する記載は見当たらない。
そして、本件特許の優先日における技術常識としては、本件明細書等に、アニーリング能の低下が示唆される短鎖かつ修飾型塩基を含むオリゴヌクレオチド基質を原料として用いた場合に酵素縮合が可能か不明であったと記載される(本ア)とおりであると認められるところ、このような技術常識を踏まえれば、上記の効果はなおさら予測可能であるとはいえない。
そうすると、相違点1については、当業者が容易に想到し得たということはできない。
(5)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1-1に記載された発明に甲1-2~甲1-9の記載事項を組み合わせても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明2~14は、いずれも本件発明1を引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1-1に記載された発明に甲1-2~甲1-9の記載事項を組み合わせても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立1の申立理由(甲1-1を主引例とする進歩性)は、理由がない。
5 申立2の申立理由2(甲2-1に基づく新規性)及び申立理由3(甲2-1を主引例とする進歩性)について
(1)甲2-1の記載事項
甲2-1(英文のため記載事項の認定は当審による日本語訳で記載する。)には、二本鎖ポリヌクレオチド分子を合成する方法に関する発明が記載されており、その請求項1及び5によれば、相補的ヌクレオチド配列部分を含む少なくとも3つの一本鎖オリゴヌクレオチドを互いに接触させ、自己アセンブリした一本鎖オリゴヌクレオチドのセット内の隣接するヌクレオチドの間に少なくとも1つのホスホジエステル結合をリガーゼ酵素の触媒により形成して、各一本鎖オリゴヌクレオチドよりも分子量の大きい二本鎖ポリヌクレオチドを形成するという方法が記載されている(請求の範囲)。
上記の「相補的ヌクレオチド配列部分」については、甲2-1では、「ジップコード」等とも表記され、これは、別のジップコードと相補的で特有の短い一本鎖核酸配列を指し、オリゴ/ポリヌクレオチド構成要素を特定の順序で組み立てるために使用されることが記載されており([0038])、また、上記「一本鎖オリゴヌクレオチド」については、甲2-1では、一貫して、「短い一本鎖オリゴヌクレオチド」であるものとして記載されており、具体例として、6塩基長のものが記載されている(要約、[0019]、[0020]、[0048]、[0049])。
さらに、甲2-1には図5として次の図が示されている。
[図:0001426843000020.jpg]
この図5には、「オリゴのサブセットを反応混合物に段階的に1回ずつ添加する」例が示されており([0031]、[0058])、図面から見て、部分的に二本鎖であり一本鎖のオーバーハングを有する「シード」と「キャップ」を1つずつ、一本鎖オリゴヌクレオチドを4本用いて生産物である二本鎖ポリヌクレオチドを形成していることが読み取れる。
ここで、図1と図5の表記の共通性から見て、図1についての「3つの6量体からの、3’に1つおよび5’に1つのオーバーハングを有する二本鎖ポリヌクレオチドへのアセンブリを示す」との説明([0052])や、「ジップコード」及び「ZIP1」等についての説明([0052]、[0057])は、図5にも当てはまるものと理解できるから、例えば図5における次の表記:「
[図:0001426843000021.jpg]
」は、1つの6塩基長の一本鎖オリゴヌクレオチドを表すものであって、「ZIP1」及び「ZIP2」で示される3塩基長のジップコード部分を2つ有するものであり、他の一本鎖オリゴヌクレオチドの表記も同様であるものと認められる。また、上記一本鎖オリゴヌクレオチド等の表記に見られる短い縦線は、図5全体をわたって、一塩基又は一塩基対を意味するものであると認められる。このことからみて、図5に示されたシード及びキャップは、いずれも、一本鎖オーバーハングとして3塩基長のジップコード部分を1つ有することを読み取れる。シード及びキャップの部分的な二本鎖の部分については、図5からは3塩基対は含まれるようにみえるが、斜線によりハッチングされた部分(以下、「斜線部」という。)が隣接していることから、その長さは明らかではない。
ところで、甲2-1には、「シード」及び「キャップ」について、いずれも、その二本鎖部分内に1つ以上の機能的配列を含んでもよく、当該配列として、シード又はキャップを磁気ビーズにライゲーションするためのスペーサー配列およびビオチンリンカー;放出部位;PCRプライマー部位;標識;および/または最終生成物の一部となるポリヌクレオチド配列が含まれることが記載されている([0037]、[0043])。そしてこれらの機能的配列は3塩基長より長い場合があることは当業者に明らかである。このことからみて、図5において、シード及びキャップに表記される斜線部は、シード及びキャップの二本鎖部分の機能的配列として延長された二本鎖を意味するものであってもよく、ポリヌクレオチドではない場合を含めそれ以外の構造を意味するものであってもよいことが理解できるが、「シード」及び「キャップ」の二本鎖の部分が図示されるとおり最短3塩基対であっても良いのかどうかは明記されていないから、「シード」及び「キャップ」の二本鎖の部分の最短塩基長は不明であると理解すべきである。そして、この理解は、甲2-1において図1、5に対応して塩基長について詳しく説明される上述の記載と、図5も指して「これらの図面は概念を説明するために、最小数のオリゴおよびポリヌクレオチドでアセンブリを示している」([0059])としている記載の両方と整合する。
したがって、図5からは、製造物として図示される二本鎖ポリヌクレオチドの二本鎖部分について、その具体的な塩基長を読み取ることはできない。
(2)甲2-1に記載された発明(甲2-1発明)
以上によれば、甲2-1には、次の発明(以下、「甲2-1発明」という。)が記載されていると認められる。
「二本鎖ポリヌクレオチド分子を合成する方法であって、
相補的ヌクレオチド配列部分を含む4つの一本鎖オリゴヌクレオチドを互いに接触させ、自己アセンブリした一本鎖オリゴヌクレオチドのセット内の隣接するヌクレオチドの間に少なくとも1つのホスホジエステル結合をリガーゼ酵素の触媒により形成して、各一本鎖オリゴヌクレオチドよりも分子量の大きい二本鎖ポリヌクレオチドを形成する方法であり、
前記二本鎖ポリヌクレオチド分子は、一本鎖オーバーハングとして3塩基長のジップコード部分を1つと部分的な二本鎖部分とを有する「シード」及び「キャップ」を1つずつ、及び、3塩基長のジップコードを2つ有し6塩基長である「一本鎖オリゴヌクレオチド」を4本用いて形成される、二本鎖を有するものであり、ここで、「ジップコード」は、別のジップコードと相補的な特有に短い一本鎖核酸配列を指すものであり、
シード及びキャップは、いずれも、その二本鎖部分内に、機能的配列として、磁気ビーズにライゲーションするためのスペーサー配列およびビオチンリンカー;放出部位;PCRプライマー部位;標識;および/または最終生成物の一部となるポリヌクレオチド配列を含んでもよいものである。」
(3)対比
甲2-1発明において、「二本鎖ポリヌクレオチド分子」を生成するために用いた原料は、一本鎖オーバーハングとして3塩基長のジップコード部分を1つと部分的な二本鎖部分とを有する「シード」と「キャップ」を1つずつ、及び、3塩基長のジップコードを2つ有し6塩基長である「一本鎖オリゴヌクレオチド」を4本であるが、これらの原料はいずれも本件発明1の「オリゴヌクレオチド原料断片」に相当する。
甲2-1発明における原料の「一本鎖オリゴヌクレオチド」についての上述した塩基長や、「シード」及び「キャップ」の機能からみて、それらから形成される「二本鎖ポリヌクレオチド分子」の用語の「ポリ」が意味する塩基長は、本件発明1において、生成物に対して用いられる「オリゴヌクレオチド」の用語の「オリゴ」が意味する塩基長と実質的に相違するものではない。したがって、甲2-1発明の「二本鎖ポリヌクレオチド分子を合成する方法」は、本件発明1の「オリゴヌクレオチドの製造方法」に相当する。
本件発明1の「オリゴヌクレオチドリガーゼ」については、本件明細書等【0040】をみると、「オリゴヌクレオチドリガーゼは、オリゴヌクレオチド原料断片同士を連結させる酵素である」と定義された上で、「オリゴヌクレオチドリガーゼとしては、例えば、RNAリガーゼおよびDNAリガーゼが挙げられる」等と例示が記載される。このことから、本件発明1の「オリゴヌクレオチドリガーゼ」は、一般的にRNAリガーゼ及びDNAリガーゼを含んで上位概念として用いる「リガーゼ」の用語と、技術的に何ら変わらない範囲を意図しており、せいぜい基質が「オリゴヌクレオチド」であることを特定したものと理解できる。甲2-1発明における基質はオリゴヌクレオチドであることを踏まえると、甲2-1発明の「リガーゼ」は、本件発明1の「オリゴヌクレオチドリガーゼ」に相当するものと認められる。
さらに、甲2-1発明について、本件発明1の条件(i)~(v)に関連する事項を整理すると以下のとおりである(以下、申立2については、各甲号証から読み取った事項を、申立番号、甲号証の番号及び本件発明1の条件(i)~(v)の番号に対応させて、条件番号を「(21i)」等と記載する。)。
(21i)甲2-1発明の原料から「二本鎖ポリヌクレオチド」分子を生成するためにリガーゼにより連結されるべき箇所は、各鎖側中に3つ、二本鎖ポリヌクレオチド分子中に合計6つ存在すること。
(21ii)甲2-1発明における「ジップコード」は、本件発明1の「突出末端」に相当し、いずれのジップコードも3塩基長であること。
(21iii)甲2-1発明においては、シード及びキャップにおいて、磁気ビーズにライゲーションするためのスペーサー配列、ビオチンリンカー又は標識等を含む「機能的配列」を含んでも良いこと。
(21iv)甲2-1発明において「一本鎖オリゴヌクレオチド」は、4本用いられ、それらはいずれも3塩基長のジップコードを2つ有する6塩基長のものであるから、相補部分が6塩基長であり、「シード」及び「キャップ」は、3塩基長のジップコードを1つ有するが、部分的な二本鎖部分の塩基長が不明であるから、相補部分の塩基長も不明であること。
そうすると、本件発明1と甲2-1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりとなる。
ア 一致点
「相補部分を含むオリゴヌクレオチドの製造方法であって、
該方法は、合計4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片をオリゴヌクレオチドリガーゼの存在下で処理して該オリゴヌクレオチドを生成することを含み、
合計4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片は、該オリゴヌクレオチドを、下記条件(i)~(iv)を満たす断片連結部で分けた場合に得られるオリゴヌクレオチド原料断片に相当する、方法:
(i)断片連結部は、相補部分の各鎖側中のそれぞれに1以上存在し、かつ断片連結部は、該オリゴヌクレオチド中に合計2つ以上存在し;
(ii)該オリゴヌクレオチドを断片連結部で分けた場合に、突出末端が相補部分中に形成され、かつ該突出末端が1~10塩基長であり;
(iii)少なくとも1本のオリゴヌクレオチド原料断片が、ヌクレオチドを含み、かつ
(iv)該合計4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片のうち4本のオリゴヌクレオチド原料断片が、5~17塩基長の相補部分を含む。」
イ 相違点2
本件発明1では、「修飾オリゴヌクレオチド」の相補部分が「11~27塩基長」であり、かつ、オリゴヌクレオチド原料断片に関する条件として、「(v)オリゴヌクレオチド原料断片の相補部分の各鎖側に相当する塩基長の合計が、いずれも11~27塩基長である」ことが特定されるのに対し、甲2-1発明では、いずれも不明である点。
ウ 相違点3
本件発明1では、製造物が「修飾オリゴヌクレオチド」であり、オリゴヌクレオチド原料断片に関する条件として、(iii)に関し、少なくとも1本のオリゴヌクレオチド原料断片が、「修飾ヌクレオチド」を含むことが特定されるのに対し、甲2-1発明では、「シード」又は「キャップ」が、「その二本鎖部分内に、機能的配列として、磁気ビーズにライゲーションするためのスペーサー配列およびビオチンリンカー;放出部位;PCRプライマー部位;標識;および/または最終生成物の一部となるポリヌクレオチド配列を含んでもよい」というものであって、製造される「二本鎖ポリヌクレオチド分子」は、必ずしも「修飾」されたものではない点。
(4)相違点2について
甲2-1には、「遺伝子およびその他の長い二重鎖ポリヌクレオチドを合成するプロセスを提供する」(要約欄)と記載されるなど、遺伝子長に及ぶような大規模ポリヌクレオチドを合成することを目的としている旨の記載がみられる([0019]、[0026])。これらの記載を踏まえると、甲2-1発明において不明である製造物の相補部分の塩基長としては、遺伝子長に及ぶような長さの大規模ポリヌクレオチドが念頭に置かれていることが明らかである。そうすると、「これらの図面は概念を説明するために、最小数のオリゴおよびポリヌクレオチドでアセンブリを示している」([0059])とされる図5に記載の甲2-1発明に基づいて、製造される二本鎖ポリヌクレオチド分子の相補部分の最短塩基長を探索することが動機づけられているとはいえない。
これに対し、本件発明1は、3(2)で述べたとおり、本件発明1の課題であった、アニーリング能の低下が示唆される短鎖かつ修飾型塩基を含むオリゴヌクレオチド基質を原料として用いる、相補部分を含むオリゴヌクレオチドの効率的な製造方法を提供することを実現したものであり、特に、「効率的な製造」に関しては、本件明細書等の実施例18(本エ、本オ)に示されるように、本件発明1は、相補部分28塩基長のオリゴヌクレオチドを製造する際に比べて製造される修飾オリゴヌクレオチドにおける不純物N±1merの残存率が低下するという格別の効果が奏されるものである。
甲2-1には、このような効果に関する記載は見当たらない。
また、申立2で提出された他の証拠である甲2-2~甲2-10の全てをみても、上記の効果に関する記載は見当たらない。
そして、本件特許の優先日における技術常識としては、本件明細書等に、アニーリング能の低下が示唆される短鎖かつ修飾型塩基を含むオリゴヌクレオチド基質を原料として用いた場合に酵素縮合が可能か不明であったと記載される(本ア)とおりであると認められるところ、このような技術常識を踏まえれば、上記の効果はなおさら予測可能であるとはいえない。
そうすると、相違点2については、当業者が容易に想到し得たということはできない。
(5)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲2-1に記載された発明ではない。また、相違点3について検討するまでもなく、甲2-1に記載された発明に甲2-2~甲2-10の記載事項を組み合わせても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
さらに、本件発明2~14は、いずれも本件発明1を引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲2-1に記載された発明ではないし、甲2-1に記載された発明に甲2-2~甲2-10の記載事項を組み合わせても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立2の申立理由2(甲2-1に基づく新規性)及び申立理由3(甲2-1を主引例とする進歩性)は、いずれも理由がない。
6 申立2の申立理由4(甲2-2に基づく新規性)及び申立理由5(甲2-2を主引例とする進歩性)について
(1)甲2-2の記載事項
甲2-2(英文のため記載事項の認定は当審による日本語訳で記載する。)は、「T4 DNAリガーゼを用いた非常に短いオリゴヌクレオチドの効率的なアセンブリ」と題する論文であり、「原理上は、考えられる全ての短いオリゴヌクレオチドの事前に構築されたライブラリーを用いて、多くの異なる遺伝子配列を構築することができる」ことから、「このような手法の実現可能性を評価するために、短いオリゴヌクレオチド基質に対するT4 DNAリガーゼの活性を特徴付け、複数のオリゴヌクレオチドのアセンブリに適した条件を決定した」ことを報告するものである(要約欄)。
そして、実施した試験の1つとして、次の図2(d)が示されている。
[図:0001426843000022.jpg]
当該図2(d)は、「補助オリゴヌクレオチドによるT4 DNAリガーゼ活性の増強」と題された図2の中の1つであり、「(d)補助ヘキサマーを使用しなかった対照(◆)に比べ、4℃で16時間、ヘキサマーペアを用いてライゲーションを行った結果、改善は限定的だった(■)。」(図2の説明)と記載されるものであり、図2dに対応する論文本文の説明として、「ハイブリダイズするとヘキサマーペアが両側に3-ntオーバーハングを有する3-bp二重鎖を生成するように、一対のヘキサマーを試験した。そのような配置は、3-bpの増分でのDNAの反復的なアセンブリを可能にする。残念ながら、有意なライゲーションは観察されなかった。ライゲーション条件を4℃で16時間を超えるインキュベーション時間に増強しても、非常にわずかな改善しかもたらされなかった(図2(d))。」(第4頁左欄第2段落)と記載されている。
そして、図2(d)の上部に■で示される試験では、図からみて、4本のオリゴヌクレオチドが用いられており、これらの4本は、具体的には、21塩基長でありかつ5’末端で固相支持体に結合するオリゴヌクレオチド(以下、「左上鎖」という。)、24塩基長であるオリゴヌクレオチド(以下、「左下鎖」という。)、FAMにより3’末端が蛍光標識された6塩基長のヘキサマー(以下、「右上鎖」という。)、及び、右上鎖とともにヘキサマーペアを構成する6塩基長の補助ヘキサマー(以下、「右下鎖」という。)を用いていることが読み取れる。また、図示されるヌクレオチド配列からみて、当該ヘキサマーペアにあるオーバーハングのうち一方は、生成物の左下鎖の5’末端の3塩基に相補的であり、これらの4本のオリゴヌクレオチドはライゲーションされると、27塩基長の相補部分を有する生成物となることが明らかである。
(2)甲2-2に記載された発明(甲2-2発明)
以上によれば、甲2-2には、次の発明(以下、「甲2-2発明」という。)が記載されていると認められる。
「T4 DNAリガーゼを用いた非常に短いオリゴヌクレオチドのアセンブリ方法であって、
該方法は、4本のオリゴヌクレオチドをT4 DNAリガーゼによりライゲーションすることを含み、ライゲーションされると、27塩基長の相補部分を有する生成物となり、
前記4本のオリゴヌクレオチドは、21塩基長でありかつ5’末端で固相支持体に結合するオリゴヌクレオチド(左上鎖)、24塩基長であるオリゴヌクレオチド(左下鎖)、FAMにより3’末端が蛍光標識された6塩基長のヘキサマー(右上鎖)、及び、右上鎖とともにヘキサマーペアを構成する6塩基長の補助ヘキサマー(右下鎖)であり、
前記ヘキサマーペアは、両側に3塩基長のオーバーハングを有する3塩基対の二重鎖であり、当該オーバーハングのうち一方は、左下鎖の5’末端の3塩基に相補的である、方法。」
(3)対比
甲2-2発明において、「27塩基長の相補部分を有する生成物」は、4本のオリゴヌクレオチドをライゲーションして得たものであり、しかも、左上鎖が固相支持体に結合し、右上鎖がFAMに結合しているから、本件発明1における「11~27塩基長の相補部分を含む修飾オリゴヌクレオチド」に相当する。また、このことから、甲2-2発明において、非常に短いオリゴヌクレオチドを「アセンブリ」することとは、右上鎖及び右下鎖のような非常に短いオリゴヌクレオチドを、左上鎖及び左下鎖に対してライゲーションして上述の生成物を「製造」することに他ならないから、甲2-2発明における「アセンブリ方法」とは、「27塩基長の相補部分を有する生成物」の「製造方法」ともいえる。そして、甲2-2発明において左上鎖、左下鎖、右上鎖、及び、右下鎖でなる「4本のオリゴヌクレオチド」は、いずれも、本件発明1の「オリゴヌクレオチド原料断片」に相当し、甲2-2発明の「T4 DNAリガーゼ」は、本件発明1の「オリゴヌクレオチドリガーゼ」に相当する。
さらに、甲2-2発明について、本件発明1の条件(i)~(v)に関連する事項を整理すると以下のとおりである。
(22i)甲2-2発明の「4本のオリゴヌクレオチド」から生成物を生成するためにリガーゼにより連結されるべき箇所は、各鎖側中に1つずつ、生成物中に合計2つ存在すること。
(22ii)甲2-2発明においてヘキサマーペアの両側にある「オーバーハング」は、本件発明1の「突出末端」に相当し、3塩基長であって、その一方は、左下鎖の5’末端の3塩基に相補的であること。
(22iii)甲2-2発明においては、左上鎖は5’末端で固相支持体に結合しており、右上鎖は3’末端にFAMが結合していること。
(22iv)甲2-2発明における右上鎖の相補部分は6塩基長であるが、左上鎖では21塩基長であり、左下鎖では24塩基長であって、右下鎖の相補部分については、ヘキサマーペアにおける3塩基対の二重鎖部分にしか相補部分がないため、3塩基長であること。
(22v)甲2-2発明の左上鎖及び右上鎖の相補部分の塩基長の合計、及び、左下鎖及び右下鎖の相補部分の塩基長の合計は、いずれも27塩基長であること。
そうすると、本件発明1と甲2-2発明との一致点及び相違点は、以下のとおりとなる。
ア 一致点
「11~27塩基長の相補部分を含む修飾オリゴヌクレオチドの製造方法であって、
該方法は、合計4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片をオリゴヌクレオチドリガーゼの存在下で処理して該修飾オリゴヌクレオチドを生成することを含み、
合計4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片は、該オリゴヌクレオチドを、下記条件(i)~(v)を満たす断片連結部で分けた場合に得られるオリゴヌクレオチド原料断片に相当する、方法:
(i)断片連結部は、相補部分の各鎖側中のそれぞれに1以上存在し、かつ断片連結部は、該修飾オリゴヌクレオチド中に合計2つ以上存在し;
(ii)該修飾オリゴヌクレオチドを断片連結部で分けた場合に、突出末端が相補部分中に形成され、かつ該突出末端が1~10塩基長であり;
(iii)少なくとも1本のオリゴヌクレオチド原料断片が、修飾ヌクレオチドを含み、かつ
(v)オリゴヌクレオチド原料断片の相補部分の各鎖側に相当する塩基長の合計が、いずれも11~27塩基長である。」
イ 相違点4
本件発明1では、「断片連結部」が満たすべき条件(iv)として、「該合計4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片のうち4本のオリゴヌクレオチド原料断片が、5~17塩基長の相補部分を含み」と特定されるのに対し、甲2-2発明における連結部は、右上鎖の相補部分は6塩基長であるが、左上鎖では21塩基長であり、左下鎖では24塩基長であり、右下鎖では3塩基長となるものである点。
(4)相違点4について
まず、左上鎖及び左下鎖の相補部分の塩基長について検討すると、左上鎖及び左下鎖のヌクレオチド配列は甲2-2の図1及び図2に示されるいずれの試験系にも共通して使用されているものであり、また、左上鎖が固相支持体に結合されていること、及び、「考えられる全ての短いオリゴヌクレオチドの事前に構築されたライブラリーを用いて、多くの異なる遺伝子配列を構築する」手法を試験するためのものであることからみて、前記手法におけるいわば土台となる部分のオリゴヌクレオチドとして図1、図2の試験に共通して使用されている部分であることがみてとれるから、左上鎖及び左下鎖は、その土台にアセンブリされていくことになる前記「短いオリゴヌクレオチド」には含まれない別異の部分であることが理解できる。そして、甲2-2においては、図1、2の試験系における土台としての左上鎖、左下鎖の相補部分の塩基長について、短くすることは記載されていないし、その技術的意味が記載されるものでもないから、左上鎖及び左下鎖の相補部分の塩基長を短くする直接的な動機付けは見当たらない。
さらに検討すると、甲2-2においては、甲2-2の図1、2の試験結果を踏まえて、「オクタマーのライゲーションによるDNA合成戦略」(図3)に関する試験として、「4セットのオクタマーを用いた128マーの構築」について記載されており(第4頁左欄第3段落)、ここでは、「成長する中間断片を固定するための固体支持部は、BbsIによる消化により、44塩基のオーバーハングを残しながら、付着した断片をすべて切り離せるように設計された(図 3a)。」(第4頁左欄第3段落)と記載されている。ここで、甲2-2発明において、固相支持体に結合される左上鎖及び左下鎖は、ここでいう「固相支持部」に対応するものである。そうすると、甲2-2発明における左上鎖及び左下鎖は、甲2-2の図3で示されるような使用態様とされることが示唆されるものであるといえ、そのような使用態様では、制限酵素BbsIにより立体障害なく認識される部分が左上鎖及び左下鎖の中に存在しなくてはならないから、むしろ、左上鎖及び左下鎖は一定の塩基長が確保されるべきことが示唆されているといえる。甲2-2の図3からは必要な塩基長を具体的に読み取ることはできないものの、このような示唆を踏まえれば、なおさら、甲2-2には、甲2-2発明の左上鎖及び左下鎖の相補部分をあえて短くする動機付けはないというべきである。
次に、右下鎖の相補部分の塩基長について検討すると、甲2-2において図2に示される試験は、右上鎖及び右下鎖の条件を変更してライゲーション効率を比較するものであり、オーバーハングの塩基長について、4塩基長のもの(図2(a)、(b))と、3塩基長のもの(図2(c)、(d))とで検討され、さらに、右上鎖と右下鎖の間で二重鎖を形成する部分の塩基長について、6塩基長のもの(図2(a)■、図2(c)■)、4塩基長のもの(図2(b)■)、及び、3塩基長のもの(図2(d)■)で検討されているが、このうち、図2(a)~(c)については、補助オリゴヌクレオチド(右下鎖に対応)の添加によりライゲーション効率が向上したことが記載され、図2(d)については、(1)で述べたように対照(◆)と比べ、■は改善が限定的だったと記載されている(第3頁左欄第4段落~第4頁左欄第2段落)。そうすると、一見、図2(d)に示される甲2-2発明のタイプより、図2(a)~(c)に示されるタイプとすること、すなわち、右上鎖及び右下鎖の塩基長を甲2-2発明より一定程度長くすることが動機づけられているとみることもできる。
しかしながら、生成物の相補部分をみると、図2(d)■では27塩基長であるから、甲2-2発明の右上鎖及び右下鎖の相補部分の塩基長を単純に長くすると、生成物の相補部分が27塩基長を超えることとなり、本件発明1の範囲外となる。また、生成物の相補部分に注目すると、図2(a)■では31塩基長、図2(b)■では29塩基長、図2(c)■では30塩基長であるから、甲2-2発明に、図2(a)~(c)の態様を組み合わせても本件発明1にはならない。仮に、右上鎖及び右下鎖の相補部分を長くする分、左上鎖及び左下鎖の相補部分を短くすることを考えても、左上鎖及び左下鎖の相補部分の塩基長について検討したとおり、甲2-2には、甲2-2発明の左上鎖及び左下鎖の相補部分を短くすることは動機づけられていない。
そうすると、甲2-2は、甲2-2発明において相違点4の構成を採用することが動機づけられているものではない。
これに対し、本件発明1は、3(2)で述べたとおり、本件発明1の課題であった、アニーリング能の低下が示唆される短鎖かつ修飾型塩基を含むオリゴヌクレオチド基質を原料として用いる、相補部分を含むオリゴヌクレオチドの効率的な製造方法を提供することを実現したものであり、特に、「効率的な製造」に関しては、本件明細書等の実施例18(本エ、本オ)に示されるように、本件発明1は、相補部分28塩基長のオリゴヌクレオチドを製造する際に比べて製造される修飾オリゴヌクレオチドにおける不純物N±1merの残存率が低下するという格別の効果が奏されるものである。
甲2-2には、このような効果に関する記載は見当たらない。
また、申立2で提出された他の証拠である甲2-1及び甲2-3~2-10の全てをみても、上記の効果に関する記載は見当たらない。
そして、本件特許の優先日における技術常識としては、本件明細書等に、アニーリング能の低下が示唆される短鎖かつ修飾型塩基を含むオリゴヌクレオチド基質を原料として用いた場合に酵素縮合が可能か不明であったと記載される(本ア)とおりであると認められるところ、このような技術常識を踏まえれば、上記の効果はなおさら予測可能であるとはいえない。
そうすると、相違点4については、当業者が容易に想到し得たということはできない。
(5)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲2-2に記載された発明ではない。また、甲2-2に記載された発明に甲2-1及び甲2-3~甲2-10の記載事項を組み合わせても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
さらに、本件発明2~14は、いずれも本件発明1を引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲2-2に記載された発明ではないし、甲2-2に記載された発明に甲2-2~甲2-10の記載事項を組み合わせても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立2の申立理由4(甲2-2に基づく新規性)及び申立理由5(甲2-2を主引例とする進歩性)は、いずれも理由がない。
7 申立2の申立理由6及び7(甲2-3を主引例とする進歩性)について(1)甲2-3の記載事項
甲2-3(英文のため記載事項の認定は当審による日本語訳で記載する。)は、「選択された異なるオリゴヌクレオチドに基づく二本鎖ポリヌクレオチドの製造方法」に関する発明が記載されるものであり、「発明の背景」欄(第1頁第7行~第2頁第12行)において、別々に合成された複数のオリゴヌクレオチドを接続することによりポリヌクレオチドを得るアプローチでは、完全に相補的ではないオリゴヌクレオチドがアニーリングされることにより、誤ったポリヌクレオチドが生成される可能性があるため、より長い配列を得るのが困難であったこと、特に全遺伝子やゲノム規模のポリヌクレオチドを正確に提供する手法に対する技術的ニーズは依然として高いこと等が記載されることからみて、甲2-3は、全遺伝子やゲノム規模のような長いポリヌクレオチドをエラー無く合成するための技術が開示されるものである。
このための技術として、甲2-3では、要するに、自己アセンブリ中に生じるエラーを軽減するように、ポリヌクレオチドへの自己アセンブリに適したオリゴヌクレオチド群を設計することを含む、ポリヌクレオチドを提供するための方法が開示され(第2頁第14~16行)、その方法は、「二本鎖ポリヌクレオチドに自己アセンブリする一本鎖オリゴヌクレオチドの群を同定する方法であって、該群は、複数のオーバーラップする相補的オリゴヌクレオチドを含み、相補的オリゴヌクレオチド間の各オーバーラップは、該群内の他のすべてのオーバーラップする相補的オリゴヌクレオチドの融解温度(Tm)とは異なる融解温度を有するように選択されている、方法。」(請求項1、第2頁第17~29行)というものである。
甲2-3では、上記の方法で提供される核酸のタイプは特に限定されず、キセノ核酸(XNA)であることができることが記載され(第10頁第27~29行)、キセノ核酸(XNA)については、DNA及びRNAに対する人工的な代替物である合成核酸であり、DNA及びRNAと同様に情報保存ポリマーであるが、XNAは糖-リン酸骨格の構造においてDNA及びRNAと異なることが記載されている(第11頁第4~9行)。このことから、すなわち、製造される二本鎖ポリヌクレオチドや、一本鎖オリゴヌクレオチドを構成する核酸にキセノ核酸が含まれてもよいことが理解できる。
ライゲーションについては、T4 DNAリガーゼ又はトポイソメラーゼで処理することができると記載されている(第22頁第3~5行)。
また、甲2-3では、次に示す図1において、概念図として、9つのオリゴヌクレオチドからなる二重鎖DNAの例を示しながら、各鎖は複数の独立したオリゴヌクレオチドから構成されること、及び、例えば、オリゴヌクレオチドA2は、オリゴヌクレオチドB3及びB4とオーバーラップし、B3及びB4のそれぞれと相補領域を有することが説明されている(第10頁第5~9行、第12頁第23~30行)。
[図:0001426843000023.jpg]
そして、実施例として、真核生物の緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子(717塩基長)について、所定の計算の結果、センス鎖を10本のオリゴヌクレオチドに、アンチセンス鎖を9本のオリゴヌクレオチドに分割した例が記載されている(第23頁第1行~第26頁第6行)。
以上の記載からすれば、図1とそれに対応する説明は、二重鎖DNAからオリゴヌクレオチド群を設計する際に、どのように分割するかを説明するための概念図と理解すべきであり、図1に示されている40塩基対の具体的な配列は、甲2-3で開示されている技術が適用される二本鎖ポリヌクレオチドの具体例でを意味するものではないことが、当業者に理解できる。
(2)甲2-3に記載された発明(甲2-3発明)
以上によれば、甲2-3には、次の発明(以下、「甲2-3発明」という。)が記載されていると認められる。
「選択された異なるオリゴヌクレオチドに基づく二本鎖ポリヌクレオチドの製造方法であって、
該方法は、自己アセンブリ中に生じるエラーを軽減するように、ポリヌクレオチドへの自己アセンブリに適したオリゴヌクレオチド群を設計することを含み、
その際には、該群は、複数のオーバーラップする相補的オリゴヌクレオチドを含み、相補的オリゴヌクレオチド間の各オーバーラップは、該群内の他のすべてのオーバーラップする相補的オリゴヌクレオチドの融解温度(Tm)とは異なる融解温度を有するように選択され、
717塩基長のGFPであれば、センス鎖で10本、アンチセンス鎖で9本のオリゴヌクレオチド群を設計し、
前記二本鎖ポリヌクレオチド及びオリゴヌクレオチドを構成する核酸は、DNA及びRNAに対する人工的な代替物であるキセノ核酸が含まれてもよい、方法。」
(3)対比
甲2-3発明における「オリゴヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド」及び「キセノ核酸」は、それぞれ、本件発明1における「オリゴヌクレオチド原料断片」、製造される「オリゴヌクレオチド」及び「修飾ヌクレオチド」に相当する。
さらに、甲2-3発明について、本件発明1の条件(i)~(v)に関連する事項を整理すると以下のとおりである。
(23i)甲2-3発明において、二本鎖ポリヌクレオチドからオリゴヌクレオチド群を設計する際に設けられ、二本鎖ポリヌクレオチドを製造する際にはライゲーションにより連結されることが明らかな連結部は、各鎖側中に複数設けられるが、その数については特定されておらず、二本鎖ポリヌクレオチドが717塩基長のGFPであれば、センス鎖で9つ、アンチセンス鎖で8つ、合計17存在していること。
(23ii)甲2-3発明における「オーバーラップ」は、本件発明1の「突出末端」に相当し、その融解温度は、郡内の他のすべてのオーバーラップする相補的オリゴヌクレオチドの融解温度(Tm)とは異なるものとなるようにオーバーラップが設計されるものであって、「オーバーラップ」の塩基長は特定されていないこと。
(23iii)甲2-3発明においては、オリゴヌクレオチドは、キセノ核酸が含まれてもよいこと。
(23iv)甲2-3発明におけるオリゴヌクレオチドの相補部分の塩基長は特定されていないこと。
(23v)甲2-3発明のオリゴヌクレオチドの相補部分の各鎖側に相当する塩基長の合計は特定されていないこと。
そうすると、本件発明1と甲2-3発明との一致点及び相違点は、以下のとおりとなる。
ア 一致点
「オリゴヌクレオチドの製造方法であって、
該方法は、オリゴヌクレオチド原料断片を処理して該オリゴヌクレオチドを生成することを含み、
オリゴヌクレオチド原料断片は、該オリゴヌクレオチドを、下記条件(i)~(ii)を満たす断片連結部で分けた場合に得られるオリゴヌクレオチド原料断片に相当する、方法:
(i)断片連結部は、相補部分の各鎖側中のそれぞれに1以上存在し、かつ断片連結部は、該オリゴヌクレオチド中に合計2つ以上存在し;かつ
(ii)該オリゴヌクレオチドを断片連結部で分けた場合に、突出末端が相補部分中に形成される。」
イ 相違点5
本件発明1では、製造される「オリゴヌクレオチド」の相補部分が「11~27塩基長」であり、かつ、オリゴヌクレオチド原料断片に関する条件として、「(v)オリゴヌクレオチド原料断片の相補部分の各鎖側に相当する塩基長の合計が、いずれも11~27塩基長である」ことが特定されるのに対し、甲2-3発明では、特定されていない点。
ウ 相違点6
本件発明1では、製造される「オリゴヌクレオチド」が「修飾オリゴヌクレオチド」であって、オリゴヌクレオチド原料断片に関する条件として、「(iii)少なくとも1本のオリゴヌクレオチド原料断片が、修飾ヌクレオチドを含(む)」ことが特定されるのに対し、甲2-3発明では、「ポリヌクレオチド」及び「オリゴヌクレオチド」は、それを構成する核酸に、DNA及びRNAに対する人工的な代替物であるキセノ核酸が含まれてもよいものであって、必ずしも含まれるものではない点。
エ 相違点7
本件発明1では、オリゴヌクレオチド原料断片を処理するのが、「オリゴヌクレオチドリガーゼの存在下」であることが特定されるのに対し、甲2-3発明では、特定されていない点。
オ 相違点8
本件発明1では、オリゴヌクレオチド原料断片に関する条件として、(ii)に関し、突出末端が「1~10塩基長」であることが特定されるのに対し、甲2-3発明では、特定されていない点。
カ 相違点9
本件発明1では、オリゴヌクレオチド原料断片に関する条件として、「(iv)該合計4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片のうち4本のオリゴヌクレオチド原料断片が、5~17塩基長の相補部分を含(む)」ことが特定されるのに対し、甲2-3発明では、特定されていない点。
(4)相違点5について
上記(1)で述べたように、甲2-3には、全遺伝子やゲノム規模のような長いポリヌクレオチドをエラー無く合成するための技術が開示されるものである。また、甲2-3の図1には、二重鎖DNAからオリゴヌクレオチド群を設計する際にどのように分割するかを説明するための概念図として40塩基対の例が示されるものの、これは甲2-3に開示される技術が適用される二本鎖ポリヌクレオチドの具体例ではなく、そのような具体例としては717塩基長のGFPの例である。
したがって、図1に40塩基対の例が示されているとはいえ、甲2-3には、そのような短い二本鎖ポリヌクレオチドを製造することが示唆されているとは直ちにはいえないし、それにも増して、その40塩基対より短い二本鎖ポリヌクレオチドを製造することについては、動機づけられているとはいえない。
そうすると、相違点2と同様に、相違点5についても、当業者が容易に想到し得たということはできない。
(5)小括
以上のとおり、相違点6~9について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2-3に記載された発明に甲2-1、甲2-2及び甲2-4~2-10の記載事項を組み合わせても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
さらに、本件発明2~14は、いずれも本件発明1を引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲2-3に記載された発明に甲2-1、甲2-2及び甲2-4~2-10の記載事項を組み合わせても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立2の申立理由6及び7(甲2-3を主引例とする進歩性)は、いずれも理由がない。
8 申立2の申立理由8及び9(甲2-4を主引例とする進歩性)について(1)甲2-4の記載事項
甲2-4(英文のため記載事項の認定は当審による日本語訳で記載する。)は、「T4 DNAリガーゼを用いた骨格修飾オリゴヌクレオチドの酵素的合成」と題する論文であり、「修飾オリゴヌクレオチドのライゲーション反応の効率を調べるための、3Mのベタインと10%のPEG8000存在下の小規模実験」を記載するものである(要約欄)。具体的には、この論文は、「プローブ、アプタマー、アプタザイム、siRNA、アンチセンスRNAの形態の診断剤や治療剤として有望な骨格修飾核酸」に注目したものであり(第1頁本文第1段落)、甲2-4の著者が、「最近、T4リガーゼを分子クラウディング状態下で用いて、より短い修飾核酸断片を結合することにより、より長い骨格修飾核酸断片の合成に関連する問題を回避できることを示した」ことを踏まえて、甲2-4において、「基本プロトコール1として、二重鎖中の2つのオリゴヌクレオチドをライゲーションするリガーゼの能力を評価することができる小規模ライゲーションを記載する」等し、「鋳型オリゴヌクレオチドに対向する隣接したオリゴヌクレオチドのライゲーションについて説明する」ものであることを、以下の図1を引用しながら記載している。(第2頁本文第2、3段落)。
[図:0001426843000024.jpg]
そして、基本プロトコール1として、次の記載がある。
「骨格修飾オリゴヌクレオチドの小規模ライゲーション
このプロトコールでは、1pmolのニックの入った骨格修飾オリゴヌクレオチド二本鎖のライゲーションについて説明する。このプロトコールは、高濃度のベタイン及びポリエチレングリコール(PEG)8000の存在下での修飾オリゴヌクレオチドに対するT4 DNAリガーゼの性能を確認するのに適している。この小規模反応は、ライゲーションをより大規模に実施する前に、反応条件を最適化し、プロトコールの変更を試験することが推奨される。
このプロトコールの例として、DNA/2’-O-メチルRNAの鋳型上に2’-O-メチルRNAのアクセプターと2’-O-メチルRNA/DNAミックスマーのドナーをライゲーションする(表1)。他のオリゴヌクレオチドのライゲーションは、オリゴヌクレオチド配列を変化させることによって同様の方法で試験することができる。
この反応の設定は、付着性末端又は平滑末端さえも含む二重鎖のライゲーションに適合することができる。」(第2頁本文第4~6段落)
「表1 基本プロトコール1におけるオリゴヌクレオチド配列a
[図:0001426843000025.jpg]
a2’-O-メチルRNA領域は、mで示され、括弧内に与えられている。アクセプターは、フルオロセインアミダイト(FAM)標識を有する。ドナー及び鋳型は、不要なライゲーションを防ぐために3’-C3スペーサー(C3sp)で保護されている。ドナーは、5’-リン酸化(P)されている。」(第3頁表1)
上記具体例の配列では、その配列からみて、アクセプターが14塩基長、ドナーが20塩基長、鋳型が34塩基長であり、アクセプター及びドナーは、鋳型に対して全ての塩基が相補部分となっている。
甲2-4では、これらのプロトコールが適用されるオリゴヌクレオチド基質の長さについて、好ましくは、「10ヌクレオチドより長い」ことについても記載されている(第15頁左欄第5段落)。
(2)甲2-4に記載された発明(甲2-4発明)
以上によれば、甲2-4には、次の発明(以下、「甲2-4発明」という。)が記載されていると認められる。
「T4 DNAリガーゼを用いた骨格修飾オリゴヌクレオチドの酵素的合成方法であって、
該方法は、34塩基長の鋳型オリゴヌクレオチドに対向して隣接するオリゴヌクレオチドである14塩基長のアクセプター及び20塩基長のドナーをT4 DNAリガーゼでライゲーションすることを含み、
具体例として、以下に配列が示されるDNA/2’-O-メチルRNAの鋳型上に2’-O-メチルRNAのアクセプターと2’-O-メチルRNA/DNAミックスマーのドナーをライゲーションするものであり、
[図:0001426843000026.jpg]
ここで、2’-O-メチルRNA領域が、mで示され、括弧内に与えられるものであり、アクセプターは、フルオロセインアミダイト(FAM)標識を有し、ドナー及び鋳型は、3’-C3スペーサー(C3sp)で保護され、ドナーは、5’-リン酸化(P)されている、方法であり、
当該方法における反応の設定は、付着性末端又は平滑末端を含む二重鎖のライゲーションに適合することができるものである、方法。」
(3)対比
甲2-4発明における「骨格修飾オリゴヌクレオチド」、「T4 DNAリガーゼ」及び「合成方法」は、それぞれ、本件発明1における「修飾オリゴヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチドリガーゼ」及び「製造方法」に相当する。また、甲2-4発明における「アクセプター」、「ドナー」及び「鋳型」は、いずれも、本件発明1の「オリゴヌクレオチド原料断片」に相当する。
甲2-4発明においては、反応の設定について、付着性末端又は平滑末端を含む二重鎖のライゲーションに適合することができるとされているが、そのような適合を行う場合に、付着性末端になる部分をアクセプター、ドナー又は鋳型のいずれに設けるのか、及び、本件発明1でいう「オリゴヌクレオチド原料断片」に対応するものが、どのような構成で何本存在することとなるかについては明らかではない。
さらに、甲2-4発明について、本件発明1の条件(i)~(v)に関連する事項を整理すると以下のとおりである。
(24i)甲2-4発明において、ライゲーションされる連結部は、アクセプターとドナーの間に1存在し、鋳型鎖には存在せず、骨格修飾オリゴヌクレオチド中には合計1つ存在すること。
(24ii)甲2-4発明において、合成される「骨格修飾オリゴヌクレオチド」を前記連結部で分けた場合に、突出末端が形成されるといえるのか直ちには明らかではないが、強いて突出末端に対応する可能性がある部分を認定すれば、仮に、アクセプター及び鋳型とドナーとに分けた場合は、アクセプター及び鋳型側に、ドナーと結合する20塩基長の突出末端が相補部分中に形成されるということもでき、ドナー及び鋳型とアクセプターとに分けた場合は、ドナー及び鋳型側に、アクセプターと結合する14塩基長の突出末端が相補部分中に形成されるということもできること。
(24iii)甲2-4発明においては、アクセプター、ドナー及び鋳型の全てに骨格修飾ヌクレオチドが含まれていること。
(24iv)甲2-4発明におけるアクセプターの相補部分は14塩基長、ドナーの相補部分は20塩基長、鋳型の相補部分は34塩基長であること。
(24v)甲2-3発明のアクセプター、ドナー及び鋳型の相補部分の各鎖側に相当する塩基長の合計は34塩基長であること。
そうすると、本件発明1と甲2-4発明との一致点及び相違点は、以下のとおりとなる。
ア 一致点
「修飾オリゴヌクレオチドの製造方法であって、
該方法は、オリゴヌクレオチド原料断片をオリゴヌクレオチドリガーゼの存在下で処理して該修飾オリゴヌクレオチドを生成することを含み、
オリゴヌクレオチド原理用断片は、該修飾オリゴヌクレオチドを、下記条件(iii)を満たす断片連結部で分けた場合に得られるオリゴヌクレオチド原料断片に相当する、方法:
(iii)少なくとも1本のオリゴヌクレオチド原料断片が、修飾ヌクレオチドを含む。」
イ 相違点10
本件発明1では、「修飾オリゴヌクレオチド」の相補部分が「11~27塩基長」であり、かつ、オリゴヌクレオチド原料断片に関する条件として、「(v)オリゴヌクレオチド原料断片の相補部分の各鎖側に相当する塩基長の合計が、いずれも11~27塩基長である」ことが特定されるのに対し、甲2-4発明では、これらに対応する塩基長が34塩基長である点。
ウ 相違点11
本件発明1では、オリゴヌクレオチド原料断片が、「合計4本以上」であるのに対し、甲2-4発明では、「アクセプター」、「ドナー」及び「鋳型」の3本である点。
エ 相違点12
本件発明1では、オリゴヌクレオチド原料断片に関する条件として、「(i)断片連結部は、相補部分の各鎖側中のそれぞれに1以上存在し、かつ断片連結部は、該修飾オリゴヌクレオチド中に合計2つ以上存在」することが特定されるのに対し、甲2-4発明では、ライゲーションされる連結部は、アクセプターとドナーの間に1存在するが、鋳型鎖には存在せず、骨格修飾オリゴヌクレオチド中には合計1つ存在しか存在しないこと。
オ 相違点13
本件発明1では、オリゴヌクレオチド原料断片に関する条件として、(ii)に関し、突出末端が「1~10塩基長」であることが特定されるのに対し、甲2-4発明では、突出末端が形成されるといえるのか直ちには明らかではなく、強い突出末端に対応する可能性がある部分を言及したとしても、アクセプター及び鋳型とドナーとに分けた場合に、アクセプター及び鋳型側に、ドナーと結合する20塩基長の突出末端が相補部分中に形成されるということができ、ドナー及び鋳型とアクセプターとに分けた場合は、ドナー及び鋳型側に、アクセプターと結合する14塩基長の突出末端が相補部分中に形成されるものということができるにとどまる点。
カ 相違点14
本件発明1では、オリゴヌクレオチド原料断片に関する条件として、「(iv)該合計4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片のうち4本のオリゴヌクレオチド原料断片が、5~17塩基長の相補部分を含(む)」ことが特定されるのに対し、甲2-4発明では、アクセプターの相補部分が14塩基長であり、ドナーの相補部分が20塩基長であり、鋳型の相補部分が34塩基長であって、これら以外には原料はない点。
(4)相違点11について
事案に鑑み、まず相違点11について検討し、さらに相違点10についても検討する。
上記(1)で述べたように、甲2-4は、その著者が、「最近、T4リガーゼを分子クラウディング状態下で用いて、より短い修飾核酸断片を結合することにより、より長い骨格修飾核酸断片の合成に関連する問題を回避できることを示した」ことを踏まえて、甲2-4において、「基本プロトコール1として、二重鎖中の2つのオリゴヌクレオチドをライゲーションするリガーゼの能力を評価することができる小規模ライゲーションを記載する」等し、「鋳型オリゴヌクレオチドに対向する隣接したオリゴヌクレオチドのライゲーションについて説明する」ものである。
したがって、甲2-4発明は、「2つのオリゴヌクレオチド」、すなわち、アクセプター及びドナー、並びに、それらと相補的な「鋳型オリゴヌクレオチド」の3本の原料となるオリゴヌクレオチドを用いて、アクセプターとドナーとをライゲーションすることを主眼とするプロトコールであると理解できる。
甲2-4には、「この反応の設定は、付着性末端又は平滑末端さえも含む二重鎖のライゲーションに適合することができる。」(第2頁本文第6段落)との記載が見られるが、付着性末端等に適合させる場合に、プロトコールをどのように適合させるのかについては記載が無いから、付着性末端になる部分をアクセプター、ドナー又は鋳型のいずれに設けるのか、及び、本件発明1でいう「オリゴヌクレオチド原料断片」に対応するものが、どのような構成で何本存在することとなるかについては明らかではない。
したがって、甲2-4発明において、本件発明1でいう「オリゴヌクレオチド原料断片」に対応するものを、「合計4本以上」とすることは、動機づけられていたとはいえない。
これに対し、本件発明1は、3(2)で述べたとおり、本件発明1の課題であった、アニーリング能の低下が示唆される短鎖かつ修飾型塩基を含むオリゴヌクレオチド基質を原料として用いる、相補部分を含むオリゴヌクレオチドの効率的な製造方法を提供することを、4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片を用いる場合において実現したものであり、特に、「効率的な製造」に関しては、本件明細書等の実施例18(本エ、本オ)に示されるように、本件発明1は、相補部分28塩基長のオリゴヌクレオチドを製造する際に比べて製造される修飾オリゴヌクレオチドにおける不純物N±1merの残存率が低下するという格別の効果が奏されるものである。
甲2-4には、このような効果に関する記載は見当たらない。
また、申立2で提出された他の証拠である甲2-1~甲2-3及び甲2-5の1~甲2-10の全てをみても、上記の効果に関する記載は見当たらない。
そして、本件特許の優先日における技術常識としては、本件明細書等に、アニーリング能の低下が示唆される短鎖かつ修飾型塩基を含むオリゴヌクレオチド基質を原料として用いた場合に酵素縮合が可能か不明であったと記載される(本ア)とおりであると認められるところ、このような技術常識を踏まえれば、上記の効果はなおさら予測可能であるとはいえない。
よって、相違点11については、当業者が容易に想到し得たということはできない。
(5)相違点10について
上記(4)によれば、相違点10について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2-4に記載された発明に甲2-1~甲2-3及び甲2-5の1~2-10の記載事項を組み合わせても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないとも結論づけられるが、相違点10については、申立2において、甲2-5の1及び甲2-5の2を根拠に特に主張する点があるため、念のために検討する。
甲2-5の1は、「クラウディング条件下でT4 DNAリガーゼを用いたXNAライゲーション」と題する論文であり、その著者に、甲2-4の著者3名全員が含まれ、かつ、甲2-4の中で、主要参考文献として記載されるものであって(第17頁左欄第3段落、同頁右欄最下段落)。そして、甲2-5の2は、甲2-5の1に付随する補足資料である。
甲2-5の1及び甲2-5の2は、甲2-5の1の冒頭(第6408頁要約欄(太字部分))に記載されるように、従前、ライゲーション部位に複数の連続したXNAヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドの酵素的結合について報告されていなかったところ、T4 DNAリガーゼが、10%w/vのPEG8000及び3Mのベタインの存在下で、2’OMe-RNA二重鎖、HNA、LNA及びFANAの混合配列をライゲーションすることができたことを報告するものであり、具体的な実験方法は、甲2-5の2に記載されるように(第S3頁第4段落)、ライゲーション反応は、表S1に示されるドナー、アクセプター及び鋳型オリゴヌクレオチドが所定の最終濃度となるように所定の反応混合液中で混合されるものである。そして、甲2-5の1及び甲2-5の2を通じて、図示等される全ての実験データは、原料のオリゴヌクレオチドとしては、ドナー、アクセプター及び鋳型の3つを用いたものである(特に、甲2-5の1の図1~3、甲2-5の表S1~S3及び図S1~S5を参照。)。
そして、甲2-5の2の表S3(第S10頁)には、「A7-D8/T5」及び「A7-D11/T18」として、いずれも、アクセプターが12塩基長、ドナーが10塩基長、鋳型が22塩基長であり、表S1に示されるそれらヌクレオチド配列(第S5頁)からみてアクセプターとドナーの全てのヌクレオチドが鋳型に対して相補部分となっているものをライゲーションさせたところ、収率が前者で94%、後者で98%であったことが記載されている。
以上によれば、甲2-5の1及び甲2-5の2においては、確かに、アクセプターが12塩基長、ドナーが10塩基長、鋳型が22塩基長という、甲2-4に比べて短い塩基長で実施したことがみてとれるが、その前提条件として、オリゴヌクレオチドとしては「アクセプター」、「ドナー」及び「鋳型」の3者しか用いていないものしか記載されておらず、本件発明1のようにオリゴヌクレオチド原料断片が4本以上の場合にどのようにすればよいかについて、記載はない。したがって、甲2-5の1及び甲2-5の2を考慮しても、甲2-4発明において、本件発明1でいう「オリゴヌクレオチド原料断片」に対応するものが4本以上の場合に、製造される骨格修飾オリゴヌクレオチドを「11~27塩基長の相補部分を含む」ものとすることについて動機付けがあるとはいえない。
また、甲2-5の2に表S3に記載される「収率」とは、本件明細書等における実施例18で所定の計算式で定められた「不純物の残存率」とは異なるものであり、高い収率が、前記所定の計算式で定められた「不純物の残存率」が低いことを示すとは限らないし、その他に前記「不純物の残存率」を示唆する記載もないから、甲2-5の1及び甲2-5の2をみても、本件発明1で奏されている、相補部分28塩基長のオリゴヌクレオチドを製造する際に比べて製造される修飾オリゴヌクレオチドにおける不純物N±1merの残存率が低下するという効果が予測可能であったという根拠は、何ら見当たらない。
したがって、甲2-5の1及び甲2-5の2を考慮しても、甲2-4発明において、相違点10について当業者が容易に想到し得たことということはできない。
(6)小括
以上のとおり、相違点12~14について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2-4に記載された発明に甲2-1~甲2-3及び甲2-5の1~甲2-10の記載事項を組み合わせても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
さらに、本件発明2~14は、いずれも本件発明1を引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲2-4に記載された発明に甲2-1~甲2-3及び甲2-5の1~甲2-10の記載事項を組み合わせても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立2の申立理由8及び9(甲2-4を主引例とする進歩性)は、いずれも理由がない。
9 申立2の申立理由10及び11(甲2-9を主引例とする進歩性)について
(1)甲2-9の記載事項
甲2-9(英文のため記載事項の認定は当審による日本語訳で記載する。)は、「PEG化されたオリゴヌクレオチドの酵素的生成」と題する論文であり、「遺伝子治療、siRNA及び治療用アプタマー」のような「オリゴヌクレオチドベースの治療薬」に用いることを念頭に、「より好ましい薬物動態学的プロファイルを示すPEG化核酸」を得るために、活性化PEGの穏やかな化学反応による共有結合が広く使用されているが、この論文では「T4 DNAリガーゼを用いたPEG化核酸の酵素的な生成方法」を報告するとされるものである(要約欄)。
そのような方法として、甲2-9ではスキームとして以下の図1を示しながら、「PEG-ドナーと呼ばれる短いPEG化オリゴヌクレオチド配列を、オリゴ-アクセプターと呼ばれる第2の二本鎖DNAへ、酵素的に結合することを通して、PEG化二本鎖DNA(PEG-オリゴ)を得るために、T4 DNAリガーゼを採用した」ことが記載されている(第433頁左欄第2段落)。
[図:0001426843000027.jpg]
そして、具体的な実験として、「より短いPEG-ドナーによるPEG化オリゴヌクレオチドの酵素的生成」について記載しており(第439頁左欄第2段落)、以下の図5Aとともに、「PEG20kDa-Malを9マーの5’-チオール修飾オリゴs(表1)にコンジュゲートして、短いPEG-sを得た。PEG-sを12マーのオリゴヌクレオチドs’にアニーリングして、オリゴ-アクセプターAに結合する3ヌクレオチドのオーバーハングを有する短い二本鎖PEG-S(表1参照)を得た。PEG-S及びAを、図5Aに模式的に示すように、T4 DNAリガーゼによって酵素的にライゲーションした。」と記載している。
[図:0001426843000028.jpg]
そして、表1には、以下にその抜粋を示すとおり、「9マーの5’-チオール修飾オリゴ」の「s」、「12マーのオリゴヌクレオチド」の「s’」、「オリゴアクセプター」の「A」、及び、「オリゴアクセプターAに結合する3塩基長のヌクレオチドオーバーハングを有する短い二本鎖」部分の「S」について、それぞれ、ヌクレオチド配列が示されている。
[図:0001426843000029.jpg]
・・・
[図:0001426843000030.jpg]
(2)甲2-9に記載された発明(甲2-9発明)
以上によれば、甲2-9には、次の発明(以下、「甲2-9発明」という。)が記載されていると認められる。
「PEG化されたオリゴヌクレオチドの酵素的生成方法であって、
該方法は、T4 DNAリガーゼを用いて、PEG-ドナーと呼ばれる短いPEG化オリゴヌクレオチド配列を、オリゴ-アクセプターと呼ばれる第2の二本鎖DNAへ、酵素的に結合させて、PEG化二本鎖DNA(PEG-オリゴ)を得ることを含み、
PEG-ドナーとしては、9マーのオリゴ「s」と、12マーのオリゴヌクレオチド「s’」をアニーリングして、3ヌクレオチドのオーバーハングを有する短い二本鎖PEG-Sを用い、オリゴ-アクセプターとしては、19マーの一本鎖アクセプターaと、16マーのaに相補的な配列を有する一本鎖のa’とからなるPEG-Aを用いる、方法。」
(3)対比
甲2-9発明における「s」、「s’」、「a」及び「a’」は、いずれも、本件発明1における「オリゴヌクレオチド原料断片」に相当する。また、甲2-9発明における「PEG化二本鎖DNA(PEG-オリゴ)」、「T4 DNAリガーゼ」及び「生成方法」は、それぞれ、本件発明1における「修飾オリゴヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチドリガーゼ」及び「製造方法」に相当する。
さらに、甲2-9発明について、本件発明1の条件(i)~(v)に関連する事項を整理すると以下のとおりである。
(29i)甲2-9発明において、PEG化二本鎖DNAを生成する際にライゲーションにより連結されることが明らかな連結部は、「a」と「s」との間に1つ、「a’」と「s’」の間に1つ存在するから、各鎖側中のそれぞれに1以上存在し、PEG化二本鎖DNA中に合計2つ存在すること。
(29ii)甲2-9発明における「オーバーハング」は、本件発明1の「突出末端」に相当し、該「オーバーハング」は、そのヌクレオチド配列からみて、PEG化二本鎖DNAの相補部分に形成されるものであり、3塩基長であること。
(29iii)甲2-9発明においては、「s」の5’末端においてPEG化されており、「a’」の5’末端においてFAMが結合していること。
(29iv)甲2-9発明において、「s」の相補部分は9塩基長であり、「s’」では12塩基長であり、「a’」では16塩基長であるが、「a」では19塩基長であること。
(29v)甲2-3発明のオリゴヌクレオチドの相補部分の各鎖側に相当する塩基長の合計は28塩基長であること。
そうすると、本件発明1と甲2-9発明との一致点及び相違点は、以下のとおりとなる。
ア 一致点
「修飾オリゴヌクレオチドの製造方法であって、
該方法は、合計4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片をオリゴヌクレオチドリガーゼの存在下で処理して該修飾オリゴヌクレオチドを生成することを含み、
合計4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片は、該修飾オリゴヌクレオチドを、下記条件(i)~(iii)を満たす断片連結部で分けた場合に得られるオリゴヌクレオチド原料断片に相当する、方法:
(i)断片連結部は、相補部分の各鎖側中のそれぞれに1以上存在し、かつ断片連結部は、該修飾オリゴヌクレオチド中に合計2つ以上存在し;
(ii)該修飾オリゴヌクレオチドを断片連結部で分けた場合に、突出末端が相補部分中に形成され、かつ該突出末端が1~10塩基長であり;かつ
(iii)少なくとも1本のオリゴヌクレオチド原料断片が、修飾ヌクレオチドを含む。」
イ 相違点15
本件発明1では、製造される「オリゴヌクレオチド」の相補部分が「11~27塩基長」であり、かつ、オリゴヌクレオチド原料断片に関する条件として、「(v)オリゴヌクレオチド原料断片の相補部分の各鎖側に相当する塩基長の合計が、いずれも11~27塩基長である」ことが特定されるのに対し、甲2-9発明では、いずれも、28塩基長である点。
ウ 相違点16
本件発明1では、オリゴヌクレオチド原料断片に関する条件として、「(iv)該合計4本以上のオリゴヌクレオチド原料断片のうち4本のオリゴヌクレオチド原料断片が、5~17塩基長の相補部分を含(む)」ことが特定されるのに対し、甲2-3発明では、「s」の相補部分は9塩基長であり、「s’」では12塩基長であり、「a’」では16塩基長であるが、「a」では19塩基長である点。
(4)相違点15及び16について
上記(1)で述べたように、甲2-9は、PEG化核酸を得るためには、従前、活性化PEGの穏やかな化学反応による共有結合が広く使用されていたが、この論文では「T4 DNAリガーゼを用いたPEG化核酸の酵素的な生成方法」を報告するとしており、この点に主眼があるものである。
そして、甲2-9では、表1を参照しながら、速く効率的に所望のPEG化DNAを得るために、異なるPEG-ドナーや、オリゴ-アクセプターを使って反応を最適化したこと、PEG-ドナーは、「(i)T4 DNAリガーゼ活性に求められる基質長に関して、異なる長さのオリゴヌクレオチド配列」を採用して試験したことが記載されているが、表1の中で最も短いオリゴヌクレオチドは、上述の「a」、「a’」、「s」及び「s’」の組み合わせであり、これより短くすることについては甲2-9には記載がない。また、甲2-9では、当該最も短いオリゴヌクレオチドの組み合わせの試験結果について、ミスマッチ二量体の形成による二次産物の出現が観察されたこと等が記載されていることからみて(第439頁右欄第2段落、図5B、第440頁右欄第2段落)、より短いオリゴヌクレオチドの組み合わせにすることが暗に示唆されていると理解することもできない。
したがって、甲2-9発明について、PEG化二本鎖DNAの相補部分の塩基長を短くすること、又は、「a」の塩基長を短くすること、のいずれについても動機づけられているということはできない。
そうすると、相違点2と同様に、相違点15についても、当業者が容易に想到し得たということはできないし、同様の理由により、相違点16についても、当業者が容易に想到し得たと言うことはできない。
(5)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲2-9に記載された発明に甲2-1~甲2-8及び甲2-10の記載事項を組み合わせても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
さらに、本件発明2~14は、いずれも本件発明1を引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲2-1~甲2-8及び甲2-10の記載事項を組み合わせても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立2の申立理由10及び11(甲2-9を主引例とする進歩性)は、いずれも理由がない。
10 申立人の主張について
申立2においては、本件特許の設定登録前の審査中に本件特許の特許権者が主張した進歩性に関する意見の内容について、反論しているので、検討する。
申立2では、甲2-4(第1頁本文第1段落)等の記載を根拠に、「天然核酸DNA及びRNAと比較して、骨格修飾核酸が酵素的及び化学的により安定であり、さらに、相補的標的に対する増大した親和性を示すことができる」ことを教示するから、特許権者の「(b)修飾されたオリゴヌクレオチド原料断片は相補的標的にアニールする能力が比較的低いと考えられている」との主張は明らかに根拠がない等と主張する(申立2における項目(14-16-2))
確かに、甲2-4には、上述の記載がみられるが、上述の甲2-4の「天然核酸DNA及びRNAと比較して、骨格修飾核酸が・・・、相補的標的に対する増大した親和性を示すことができる」との記載は、オリゴヌクレオチド基質の鎖長の観点を含めた記載ではない。
これに対し、本件発明は、3.(2)アで述べたとおり、従前、「アニーリング能の低下が示唆される短鎖かつ修飾型塩基を含むオリゴヌクレオチド基質を原料として用いた場合に酵素縮合が可能か不明であった」こと等を背景として、「アニーリング能の低下が示唆される短鎖かつ修飾型塩基を含むオリゴヌクレオチド基質を原料として用いる、相補部分を含むオリゴヌクレオチドの効率的な製造方法を提供すること」を課題とするものであるところ、ここでいう「短鎖かつ修飾型塩基を含むオリゴヌクレオチド基質」は、文言どおり、短鎖であり、かつ、修飾型塩基を含むという条件下であることを明記している。そして、短鎖であれば、相補部分が短くなる分、アニーリング能に低下が生じることは当業者の技術常識であり、その程度が、修飾型塩基を含むものとすることによる親和性の増大との関係で、本件発明における相補部分が11~27塩基長の場合にどの程度となるのかは、甲2-4には記載はない。
そうすると、本件特許明細書等で記載の「アニーリング能の低下が示唆される短鎖かつ修飾型塩基を含むオリゴヌクレオチド基質を原料として用いた場合に酵素縮合が可能か不明であった」という点は、甲2-4の記載と何ら矛盾するものではない。
したがって、当該主張は採用できない。
また、申立2においては、特許権者の進歩性に関する主張に対して、その他縷々反論しているが、進歩性欠如の申立理由に対しては、上記の5~9で述べたとおりであるし、効果の裏付けについては、上記の3でも述べたとおりであるから、いずれの主張も採用できない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、いずれの特許異議の申立の理由及び証拠によっても、本件請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法第114条第4項の規定により、本件請求項1~14に係る特許について、結論のとおり決定する。
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2025-700220