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特許異議申立

2025-700369

AAVトリプルプラスミドシステム

審判番号
2025-700369
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-516750
登録番号
7560447
請求日
2025年04月01日
審決日
2026年03月03日
公報発行日
2026年05月29日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】バクスアルタ インコーポレイテッド
  • 【権利者代理人】樋口 洋
  • 【権利者代理人】河野 香
  • 【権利者】バクスアルタ ゲーエムベーハー
  • 【権利者代理人】樋口 洋
  • 【権利者代理人】河野 香
  • 【異議申立人】川口 結生
審判長/審判官
  • 審判長 小暮 道明
  • 審判官 上條 肇
  • 審判官 植原 克典
分類
P1651.113-YAA(C12N) / P1651.121-YAA(C12N) / P1651.536-YAA(C12N) / P1651.537-YAA(C12N)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法114条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条、特許法第29条第1項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第126条、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7560447号発明「AAVトリプルプラスミドシステム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7560447号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~33〕について訂正することを認める。 特許第7560447号の請求項1~33に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 1 手続の経緯 特許第7560447号の請求項1~33に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和1年10月24日(優先権主張 2018年10月25日 (US)米国)を国際出願日とする出願であって、令和6年9月24日にその特許権の設定登録がされ、同年10月2日に特許掲載公報が発行された。 その後、令和7年4月1日に、本件特許の請求項1~33に係る特許に対して、特許異議申立人である川口結生(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされた。それ以降の手続の経緯は概ね次のとおりである。 令和7年 7月15日付け 取消理由通知書 同年10月14日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者) 同年10月21日付け 通知書(申立人宛) なお、申立人に令和7年10月14日に訂正請求があった旨の通知を送付し、期間を指定して意見を求めたが、申立人は、意見書を提出しなかった。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 令和7年10月14日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)における請求の趣旨の内容は、「特許第7560447号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~33について訂正することを求める」ものであり、その具体的内容は、次の訂正事項1~8のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、「(i)5’および3’AAV末端逆位反復配列(ITR)に隣接する少なくとも1つの異種核酸と、それらITRの外側にあるスタッファー配列とを含む、導入遺伝子含有プラスミド」と記載されているのを、「(i)5’および3’AAV末端逆位反復配列(ITR)に隣接する少なくとも1つの異種核酸と、それらITRの外側にあるスタッファー配列とを含む、導入遺伝子含有プラスミドであって、前記スタッファー配列は、配列番号9に対して少なくとも90%の同一性を有する核酸を含む、導入遺伝子含有プラスミド」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~33も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項5に、「前記スタッファー配列が、1000~5000ヌクレオチド長の間の核酸配列または1000~2000ヌクレオチド長の間の核酸配列を含む」と記載されているのを、「前記スタッファー配列が、1000~2000ヌクレオチド長の間の核酸配列を含む」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6~33も同様に訂正する)。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項7に、「前記スタッファー配列が、配列番号9と少なくとも90%の同一性を有する核酸を含むかまたはからなる」と記載されているのを、「前記スタッファー配列が、配列番号9と少なくとも90%の同一性を有する核酸からなる」に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項9~33も同様に訂正する)。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項10に、「前記導入遺伝子含有プラスミドが、5’から3’の方向で、配列番号2、4、少なくとも1つの異種核酸、配列番号8、3、およびスタッファー配列の核酸配列を含み」と記載されているのを、「前記導入遺伝子含有プラスミドが、5’から3’の方向で、配列番号2、配列番号4、少なくとも1つの異種核酸、配列番号8、配列番号3、およびスタッファー配列の核酸配列を含み」に訂正する(請求項10の記載を引用する請求項11、12、15~33も同様に訂正する)。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項11に、「前記導入遺伝子含有プラスミドが、発現カセットの外側であるが5’ITRと3’ITRとの間に、DNA力価タグをさらに含む」と記載されているのを、「前記導入遺伝子含有プラスミドが、発現カセットの外側であるが5’ITRと3’ITRとの間に、DNA力価タグをさらに含み、前記DNA力価タグは、配列番号10または61~70の核酸配列のいずれか1つを含む」に訂正する(請求項11の記載を引用する請求項15~33も同様に訂正する)。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項12に、a)~d)において、「DNA力価タグをさらに含む」と記載されているのを、「DNA力価タグをさらに含み」、「前記DNA力価タグは、配列番号10または61~70の核酸配列のいずれか1つを含む」に訂正する(請求項12の記載を引用する請求項15~33も同様に訂正する)。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項13に、「前記導入遺伝子含有プラスミドが、5’から3’の方向で、配列番号43、4、少なくとも1つの異種核酸配列、配列番号8、3、およびスタッファー配列の核酸配列を含み」と記載されているのを、「前記導入遺伝子含有プラスミドが、5’から3’の方向で、配列番号43、配列番号4、少なくとも1つの異種核酸配列、配列番号8、配列番号3、およびスタッファー配列の核酸配列を含み」に訂正する(請求項13の記載を引用する請求項14~33も同様に訂正する)。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項14に、「前記導入遺伝子含有プラスミドが、発現カセットの外側であるが5’ITRと3’ITRとの間に、DNA力価タグをさらに含む」と記載されているのを、「前記導入遺伝子含有プラスミドが、発現カセットの外側であるが5’ITRと3’ITRとの間に、DNA力価タグをさらに含み、前記DNA力価タグは、配列番号10または61~70の核酸配列のいずれか1つを含む」に訂正する(請求項14の記載を引用する請求項15~33も同様に訂正する) 2 一群の請求項について 訂正前の請求項1~33について、請求項2~33はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 したがって、訂正前の請求項1~33に対応する訂正後の請求項1~33は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的について 訂正前の請求項1に係る発明では、「スタッファー配列」に関して、導入遺伝子含有プラスミドが、ITRの外側にあるスタッファー配列を含むことのみを特定し、その配列については特定されていない。 これに対して、訂正後の請求項1は、「前記スタッファー配列は、配列番号9に対して少なくとも90%の同一性を有する核酸を含む」と記載して、配列を特定することで、「スタッファー配列」を更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項について 訂正事項1は、訂正前の請求項7に記載された事項に基づくものである。 したがって、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について 上記アから明らかなように、訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「スタッファー配列」という発明特定事項を限定するものであり、訂正前の請求項1に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的について 訂正前の請求項5に係る発明では、「前記スタッファー配列が、1000~5000ヌクレオチド長の間の核酸配列または1000~2000ヌクレオチド長の間の核酸配列を含む」と記載し、2つの範囲を択一的に記載していた。 訂正事項2は、訂正前の請求項5に択一的に記載されていた一方の範囲「1000~5000ヌクレオチド長の間の核酸配列」を削除するものであるとともに、「前記スタッファー配列」に含みうる核酸配列の上限を5000ヌクレオチド長から2000ヌクレオチド長まで減縮するものである。 したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項について 訂正事項2は、訂正前の請求項5、ならびに本件特許明細書等の段落【0093】に記載された事項に基づくものである。 本件特許明細書等の段落【0093】は、「ある実施形態において、スタッファー配列は、1000~2000ヌクレオチド長の間の核酸を含む。」と記載する。 したがって、訂正事項2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について 上記アから明らかなように、訂正事項2は、訂正前の請求項5に択一的に記載されていた一方の範囲「1000~5000ヌクレオチド長の間の核酸配列」を削除することで、訂正前の請求項5を減縮したものであり、当該訂正により訂正前の請求項5に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 (3)訂正事項3について ア 訂正の目的について 訂正事項3は、訂正前の請求項7において、「前記スタッファー配列が、配列番号9と少なくとも90%の同一性を有する核酸を含むかまたはからなる」と記載し、「含む」または「からなる」という2つの範囲を択一的に記載していた。 訂正事項3は、訂正前の請求項7に択一的に記載されていた一方の「含む」を削除するものであるとともに、「前記スタッファー配列が、配列番号9と少なくとも90%の同一性を有する核酸からなる」と記載することで、「配列番号9と少なくとも90%の同一性を有する核酸」にさらなる配列が付加される態様を除外し、「スタッファー配列」を更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項について 訂正事項3は、訂正前の請求項7に記載された事項に基づくものである。 したがって、訂正事項3は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について 上記アから明らかなように、訂正事項3は、「前記スタッファー配列は、配列番号9に対して少なくとも90%の同一性を有する核酸からなる」と記載することで、「スタッファー配列」という発明特定事項を限定するものであり、当該訂正により訂正前の請求項7に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 (4)訂正事項4について ア 訂正の目的について 訂正事項4は、訂正前の請求項10において、「配列番号2、4」、「配列番号8、3」と記載していたものを、それぞれ、「配列番号2、配列番号4」、「配列番号8、配列番号3」と記載することで、2の後ろに置かれた4及び8の後ろに置かれた3のそれぞれもまた配列番号であることを明確にしたものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 新規事項について 訂正事項4は、本件特許明細書等の段落【0022】等に記載された事項から自明な事項である。 本件特許明細書等の段落【0022】は、「ある実施形態において、導入遺伝子含有プラスミドは、5’から3’の方向で、5’ITR(例えば、配列番号2または43)、プロモーター(例えば、配列番号4)、少なくとも1つの異種核酸配列、ポリA(polyA)配列(例えば、配列番号8)、3’ITR(例えば、配列番号3)、およびスタッファー配列(例えば、配列番号9)の核酸配列を含み」と記載する。 したがって、訂正事項4は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について 上記アから明らかなように、訂正事項4は、配列番号であることを明確にしたものであり、実質的な内容の変更を伴うものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 (5)訂正事項5について ア 訂正の目的について 訂正前の請求項11に係る発明では、「DNA力価タグ」に関して、導入遺伝子含有プラスミドが、発現カセットの外側であるが5’ITRと3’ITRとの間に、DNA力価タグをさらに含むことのみを特定し、その配列については特定されていない。 これに対して、訂正後の請求項11は、「前記DNA力価タグは、配列番号10または61~70の核酸配列のいずれか1つを含む」と記載して、配列を特定することで、「DNA力価タグ」を更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項について 訂正事項5は、本件特許明細書等の段落【0131】及び【0132】に記載された事項から自明な事項である。 本件特許明細書等の段落【0131】は、「ある実施形態において、DNA力価タグ配列は、約60ヌクレオチド~約100ヌクレオチド長(例えば、配列番号10)であり、ヒトまたは標準的な実験動物に存在しない配列に基づいて設計される。」と記載し、【0132】は「DNA力価タグをコードする核酸配列の非限定的な例には、配列番号61~70が含まれる。」と記載する。 したがって、訂正事項5は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について 上記アから明らかなように、訂正事項5は、訂正前の請求項11に記載されていた「DNA力価タグ」という発明特定事項を限定するものであり、訂正前の請求項11に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 (6)訂正事項6について ア 訂正の目的について 訂正前の請求項12に係る発明では、「DNA力価タグ」に関して、導入遺伝子含有プラスミドが、DNA力価タグをさらに含むことのみを特定し、その配列については特定されていない。 これに対して、訂正後の請求項12は、「前記DNA力価タグは、配列番号10または61~70の核酸配列のいずれか1つを含む」と記載して、配列を特定することで、「DNA力価タグ」を更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項について 訂正事項6は、本件特許明細書等の段落【0131】及び【0132】に記載された事項(上記の訂正事項5のイを参照)から自明な事項である。 したがって、訂正事項6は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について 訂正事項6は、訂正前の請求項12に記載されていた「DNA力価タグ」という発明特定事項を限定するものであり、また訂正前の請求項12に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 (7)訂正事項7について ア 訂正の目的について 訂正事項7は、訂正前の請求項13において、「配列番号43、4」、「配列番号8、3」と記載していたものを、それぞれ、「配列番号43、配列番号4」、「配列番号8、配列番号3」と記載することで、43の後ろに置かれた4及び8の後ろに置かれた3のそれぞれもまた配列番号であることを明確にしたものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 新規事項について 訂正事項7は、本件特許明細書等の段落【0022】等に記載された事項(上記の訂正事項4のイを参照)から自明な事項であるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について 上記アから明らかなように、訂正事項7は、配列番号であることを明確にしたものであり、実質的な内容の変更を伴うものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 (8)訂正事項8について ア 訂正の目的について 訂正前の請求項14に係る発明では、「DNA力価タグ」に関して、「導入遺伝子含有プラスミドが、発現カセットの外側であるが5’ITRと3’ITRとの間に、DNA力価タグをさらに含む」ことのみを特定し、その配列については特定されていない。 これに対して、訂正後の請求項14は、「前記DNA力価タグは、配列番号10または61~70の核酸配列のいずれか1つを含む」と記載して、配列を特定することで、「DNA力価タグ」を更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項について 訂正事項8は、本件特許明細書等の段落【0131】及び【0132】に記載された事項(上記の訂正事項5のイを参照)から自明な事項であるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について 上記アから明らかなように、訂正事項8は、訂正前の請求項14に記載されていた「DNA力価タグ」という発明特定事項を限定するものであり、訂正前の請求項14に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 4 独立特許要件 本件特許異議の申立ては、訂正前の請求項1~33全てに対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する特許法第126条7項に規定する独立特許要件は課されない。 5 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~33〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1~33に係る発明(以下、請求項1~33に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明33」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~33に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 本件発明1 「組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)の産生のためのプラスミドシステムであって、以下の3つのプラスミド: (i)5’および3’AAV末端逆位反復配列(ITR)に隣接する少なくとも1つの異種核酸と、それらITRの外側にあるスタッファー配列とを含む、導入遺伝子含有プラスミドであって、前記スタッファー配列は、配列番号9に対して少なくとも90%の同一性を有する核酸を含む、導入遺伝子含有プラスミド; (ii)AAVの複製(Rep)遺伝子配列とキャプシド(Cap)遺伝子配列 とを含むプラスミド;および (iii)アデノウイルス(Ad)ヘルパープラスミド; を含み、前記導入遺伝子含有プラスミドのバックボーンが野生型AAVゲノムよりも大きい、プラスミドシステム。」 本件発明2 「前記スタッファー配列は、導入遺伝子含有プラスミドがrAAVキャプシドにパッケージングされないように、前記導入遺伝子含有プラスミドのバックボーンのサイズを増加させる、請求項1に記載のプラスミドシステム。」 本件発明3 「前記スタッファー配列が、エンハンサー、プロモーター、スプライシング制御因子、ノンコーディングRNA、アンチセンス配列、コード配列、またはそれらの任意の組み合わせを欠いている、請求項1または2に記載のプラスミドシステム。」 本件発明4 「前記スタッファー配列が、ヒトゲノムに見られる不活性なイントロンDNA配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のプラスミドシステム。」 本件発明5 「前記スタッファー配列が、1000~2000ヌクレオチド長の間の核酸配列を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のプラスミドシステム。」 本件発明6 「前記スタッファー配列が、GAPDHイントロン2、そのフラグメント、またはその変異体を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のプラスミドシステム。」 本件発明7 「前記スタッファー配列が、配列番号9と少なくとも90%の同一性を有する核酸からなる、請求項6に記載のプラスミドシステム。」 本件発明8 「前記スタッファー配列が、配列番号9またはそのフラグメントを含むかまたはからなる、請求項6に記載のプラスミドシステム。」 本件発明9 「前記少なくとも1つの異種核酸が、eGFP導入遺伝子および/またはSEAP導入遺伝子を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のプラスミドシステム。」 本件発明10 「前記導入遺伝子含有プラスミドが、5’から3’の方向で、配列番号2、配列番号4、少なくとも1つの異種核酸、配列番号8、配列番号3、およびスタッファー配列の核酸配列を含み、各核酸配列は、その対応する機能的フラグメントもしくは誘導体、またはその核酸配列と少なくとも90%の同一性を有する配列で置換することができまたはそれをコードする、請求項1~8のいずれか一項に記載のプラスミドシステム。」 本件発明11 「前記導入遺伝子含有プラスミドが、発現カセットの外側であるが5’ITRと3’ITRとの間に、DNA力価タグをさらに含み、前記DNA力価タグは、配列番号10または61~70の核酸配列のいずれか1つを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載のプラスミドシステム。」 本件発明12 「前記導入遺伝子含有プラスミドが、 a)i)3’ITRの上流でかつポリA配列の下流、またはii)3’ITRの上流でかつ少なくとも1つの異種核酸配列の下流;またはiii)5’ITRの下流でかつ少なくとも1つの異種核酸配列の上流;またはiv)5’ITRの下流でかつ少なくとも1つの異種核酸配列のプロモーターの上流;またはv)5’ITRの下流でかつ3’ITRの上流に、DNA力価タグをさらに含み; b)i)配列番号3の上流でかつ配列番号8の下流;またはii)配列番号3の上流でかつ少なくとも1つの異種核酸配列の下流;またはiii)配列番号2の下流でかつ少なくとも1つの異種核酸配列の上流;またはiv)配列番号2の下流でかつ配列番号4の上流;またはv)配列番号2の下流でかつ配列番号3の上流に、DNA力価タグをさらに含み; c)i)3’ITRの上流でかつポリA配列の下流、またはii)3’ITRの上流でかつ少なくとも1つの異種核酸配列の下流;またはiii)5’ITRの下流でかつ少なくとも1つの異種核酸配列の上流;またはiv)5’ITRの下流でかつ少なくとも1つの異種核酸配列のプロモーターの上流;またはv)5’ITRの下流でかつ3’ITRの上流に、DNA力価タグをさらに含み;またはd)i)配列番号3の上流でかつ配列番号8の下流;またはii)配列番号3の上流でかつ少なくとも1つの異種核酸配列の下流;またはiii)配列番号43の下流でかつ少なくとも1つの異種核酸配列の上流;またはiv)配列番号43の下流でかつ配列番号4の上流;またはv)配列番号43の下流でかつ配列番号3の上流に、DNA力価タグをさらに含み、 前記DNA力価タグは、配列番号10または61~70の核酸配列のいずれか1つを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載のプラスミドシステム。」 本件発明13 「前記導入遺伝子含有プラスミドが、5’から3’の方向で、配列番号43、配列番号4、少なくとも1つの異種核酸配列、配列番号8、配列番号3、およびスタッファー配列の核酸配列を含み、各核酸配列は、その対応する機能的フラグメントもしくは誘導体、またはその核酸配列と少なくとも90%の同一性を有する配列で置換することができまたはそれをコードする、請求項1~8のいずれか一項に記載のプラスミドシステム」 本件発明14 「前記導入遺伝子含有プラスミドが、発現カセットの外側であるが5’ITRと3’ITRとの間に、DNA力価タグをさらに含み、前記DNA力価タグは、配列番号10または61~70の核酸配列のいずれか1つを含む、請求項13記 載のプラスミドシステム。」 本件発明15 「a)前記AAV Rep遺伝子配列が、AAV血清型2、5、8、9、またはそれらのハイブリッドに由来する; b)前記AAV Cap遺伝子配列が、AAV血清型2、5、8、9、またはそれらのハイブリッドに由来する; c)Rep遺伝子配列およびCap遺伝子配列を含むプラスミドがプロモーターをさらに含む; d)前記プロモーターがAAVプロモーターである; e)前記プロモーターがAAV P5プロモーターである;および/または f)前記Adヘルパープラスミドが、E1a、E1b、E2a、E4orf6、またはVA RNAから選択される1つまたは複数のアデノウイルス遺伝子を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載のプラスミドシステム。」 本件発明16 「前記Adヘルパープラスミドが、5’から3’の方向で、配列番号18、17、16、および20の核酸配列を含み、各核酸配列は、その対応する機能的フラグメントもしくは誘導体、またはその核酸配列と少なくとも90%の同一性を有する配列で置換することができる、請求項1~15のいずれか一項に記載のプラスミドシステム。」 本件発明17 「前記Adヘルパープラスミドが、5’から3’の方向で、配列番号21、16、39、40、22、23、および20の核酸配列を含み、各核酸配列は、その対応する機能的フラグメントもしくは誘導体、またはその核酸配列と少なくとも90%の同一性を有する配列で置換することができまたはそれをコードする、請求項1~15のいずれか一項に記載のプラスミドシステム。」 本件発明18 「前記Adヘルパープラスミドが、配列番号14と少なくとも90%の同一性を有する核酸を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載のプラスミドシステム。」 本件発明19 「前記Adヘルパープラスミドが、配列番号15と少なくとも90%の同一性を有する核酸を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載のプラスミドシステム。」 本件発明20 「前記異種核酸が、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質をコードする目的の異種遺伝子である、請求項1~19のいずれか一項に記載のプラスミドシステム。」 本件発明21 「前記ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質が、酵素、抗体、MHC分子、T細胞受容体、B細胞受容体、アプタマー、アビマー、受容体結合リガンド、ターゲティングペプチド、治療薬、または遺伝子編集分子である、請求項20に記載のプラスミドシステム。」 本件発明22 「前記異種核酸が、アンチセンス、siRNA、shRNA、miRNA、EGS、gRNA、sgRNA、リボザイム、またはアプタマーなどの核酸配列である、請求項1~21のいずれか一項に記載のプラスミドシステム。」 本件発明23 「請求項1~22のいずれか一項に記載のプラスミドシステムを含む宿主細胞。」 本件発明24 「請求項23に記載の宿主細胞によって産生された組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)調製物。」 本件発明25 「請求項1~22のいずれか一項に記載のプラスミドシステムで細胞に形質導入し、さらにrAAVを単離することを含む、組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)を製造する方法。」 本件発明26 「請求項25に記載の方法によって製造された組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)調製物。」 本件発明27 「請求項1~22のいずれか一項に記載のプラスミドシステムを含む医薬組成物。」 本件発明28 「請求項24または請求項26に記載のrAAV調製物を含む医薬組成物。」 本件発明29 「in vitroで核酸配列を対象の細胞に送達または移送する方法であって、細胞に請求項24または請求項26に記載のrAAV調製物を接触させ、それによって核酸配列を細胞に送達することを含む、方法。」 本件発明30 「請求項24または請求項26に記載のrAAV調製物を含む、核酸配列を対象の細胞に送達または移送するための組成物。」 本件発明31 「前記対象の細胞が培養中であるか、または対象に存在する、請求項30に記載の組成物。」 本件発明32 「対象における疾患または障害を処置または予防するための組成物であって、請求項1~22のいずれか一項に記載のプラスミドシステム、あるいは請求項24または請求項26に記載のrAAV調製物を含む、組成物。」 本件発明33 「宿主細胞に請求項24または請求項26に記載のrAAV調製物を接触させることを含む、in vitroで宿主細胞に形質導入する方法。」 第4 取消理由通知書に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 本件訂正前の請求項1~5及び9~33に係る特許に対して、当審が令和7年 7月15日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (1)訂正前の請求項11、12及び14に係る発明について 請求項11、12及び14に係る発明は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、当該請求項11、12及び14に係る特許は、取り消されるべきものである(以下、「取消理由1-1」という。)。 (2)訂正前の請求項1~3及び23~26に係る発明について 請求項1~3及び23~26に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条1項3号に該当するから、当該請求項1~3及び23~26に係る特許は、特許法第29条1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである(以下「取消理由1-2」という。)。 また、そうでなくても、請求項1~3及び23~26に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到することができたものであるから、当該請求項1~3及び23~26に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである(以下、「取消理由1-3」という。)。 (3)訂正前の請求項4、5、9、10、13、15~22及び27~33に係る発明について 請求項4及び5に係る発明は甲第1号証及び甲第8号証に記載された発明に基いて、請求項9、10、15、17~22及び27~33に係る発明は甲第1号証に記載された発明に基いて、請求項13に係る発明は甲第1号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、並びに請求項16に係る発明は甲第1号証及び甲第10号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到することができたものであるから、当該請求項4、5、9、10、13、15~22及び27~33に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである(以下、「取消理由1-4」という。)。 (4)取消理由で引用した証拠について 甲第1号証:国際公開2012/158757号 甲第6号証:Drug Delivery System 22-6, p.643-650,2007 甲第8号証:特表2016-517278号公報 甲第10号証:特許第4473346号公報 2 甲号証の記載 (1)甲第1号証について 甲第1号証には、以下のア~エが記載されている(下線は当審が付した。)。 ア 「一態様において、p618プラスミドにより運ばれる導入遺伝子を含む組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)を生成するには、RepおよびCapタンパク質によるAAVヘルパー機能、ならびにアデノウイルスE2A、E4および VA遺伝子の産物によって提供されるアデノウイルスヘルパー機能が必要である。一つの方法では、p618プラスミドを、AAVヘルパー機能を提供するプラスミドとともに、アデノウイルス感染ヒト胚腎臓293(293)細胞に同時導入する。別の方法では、293細胞に3つのプラスミドをトランスフェクションする。すなわち、導入遺伝子を含むp618と、AAVヘルパー機能を提供するプラスミドと、E2A、E4、VAの3つのアデノウイルス遺伝子を提供することで野生型(wt)アデノウイルスの代わりとなり、ウイルス複製を可能にする第3のプラスミドとである。第2の方法では、野生型アデノウイルス感染を回避できるという利点があり、アデノウイルスが存在しないと推定されるrAAV調製品が得られる。Shi et al,VirologyJ.,6:3(January 2009)を参照。」(15頁5~16行) イ 「 [図:0001435187000001.jpg] 」(5’ITR、3’ITR、λファージ由来のスタッファー配列を備えたAAVプロウイルスプラスミド(p618)(図3)) ウ 「実施例3:rAAVの生産 上記実施例2で考察したように、固有の制限酵素Not1とおよびBamHIでp618を消化した後、ポリリンカーに挿入することにより、49ヌクレオチドCMVエンハンサー/CMV-CBAハイブリッドプロモーターの制御下でヒトRod由来錐体変異因子1はp618に導入される。この導入遺伝子挿入後、プロウイルスプラスミドはp625と称した。 プロウイルスプラスミドp625は、安定したrepおよびcapを発現する宿主パッケージング細胞株B-50(国際特許出願公開第W099/15685号)に、アデノウイルスEl、E2a、およびE40RF6のDNAとともに同時導入される。プロウイルスプラスミドからの遺伝子発現カセットは、ヨードキサノール勾配精製に続いてヘパリンセファロースアガロースカラムクロマトグラフィーを用いて、AAV粒子にパッケージングされる。ベクターの力価は感染中心アッセイを用いて決定する。AAV-hRdCVFlウイルス調製物を調製し、所望の全量とする。」(23頁31行~24頁10行) エ 「別の実施形態では、プラスミドのバックボーンは、p618で例示されるようなスタッファー配列(図2および3参照)などのスタッファー配列をさらに含む。スタッファー配列は、バックボーンを拡大するために使用される非コード配列である。スタッファー配列は、そのウイルス由来の機能的要素を含まない。スタッファー配列は、遺伝子を転写せず、プロモーターも含まない。p618の場合、スタッファーはラムダファージ由来の5.1kbの配列である。スタッファーはプロウイルスプラスミドのサイズを8kbよりも大きいサイズに増大させる。スタッファーは、4.7kbの容量しかないrAAVキャプシドにバックボーン(すなわち組換えAAVゲノムの外側の全配列)がパッケージングされるのを防止する。」(13頁21~28行) 上記イ及びエからみて、甲第1号証には、λファージ由来の5.1 kbのスタッファー配列を有し、甲第1号証の図3に示される構造を有するp618プラスミドが記載されているといえる。 そして、上記アからみて、甲第1号証には、当該p618プラスミドにより運ばれる導入遺伝子を含む組換えAAVを生成するために、導入遺伝子を含むp618プラスミドと、RepおよびCapタンパク質によるAAVヘルパー機能を提供するプラスミドと、E2A、E4、VAの3つのアデノウイルス遺伝子を提供することでウイルス複製を可能にする第3のプラスミドとを293細胞にトランスフェクションすることが記載されている。 また、上記ウからみて、甲第1号証には、当該p618プラスミドを制限酵素Not1とBamHIで消化し、当該部位にヒトRod由来錐体変異因子1遺伝子を導入したp625プラスミドを、安定したrepおよびcapを発現する細胞株B-50に、アデノウイルスEl、E2a、およびE40RF6のDNAとともに同時導入し、AAV粒子にパッケージングすることが記載されており、甲第1号証には、p618プラスミドの5’ITRと3’ITRの間の領域に遺伝子を導入して、当該遺伝子をAAV粒子にパッケージングできることが具体的に示されているといえる。 以上からみて、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「p618プラスミドにより運ばれる導入遺伝子を含む組換えAAVを生成するために、293細胞にトランスフェクションされる以下の3つのプラスミド: (i)導入遺伝子を含むp618プラスミド、 (ii)Repおよび Capタンパク質によるAAVヘルパー機能を提供するプラスミド、 (iii)E2A、E4、VAの3つのアデノウイルス遺伝子を提供することでウイルス複製を可能にする第3のプラスミド」 3 当審の判断 上記1の各取消理由についての当審の判断は次のとおりである。 (1)本件発明11、12及び14の取消理由1-1について 取消理由1-1は、具体的には、「DNA力価タグ」に何が含まれるかが不明であるというものであったところ、上記第2の1の(5)、(6)及び(8)の訂正事項により、当該「DNA力価タグ」は、本件特許明細書等の段落【0131】及び【0132】に「DNA力価タグ」として具体的に記載されている配列番号10または61~70の核酸配列に限定されたため、本件発明11、12及び14に係る発明の範囲は明確となった。 よって、取消理由1-1は理由がない。 (2)本件発明1~3及び23~26の取消理由1-2と取消理由1-3について ア 甲1発明 上記2で認定したとおり、甲1発明は以下のとおりである。 「p618プラスミドにより運ばれる導入遺伝子を含む組換えAAVを生成するために、293細胞にトランスフェクションされる以下の3つのプラスミド: (i)導入遺伝子を含むp618プラスミド、 (ii)Repおよび Capタンパク質によるAAVヘルパー機能を提供するプラスミド、 (iii)E2A、E4、VAの3つのアデノウイルス遺伝子を提供することでウイルス複製を可能にする第3のプラスミド」 イ 対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「p618プラスミド」は、5’ITR、3’ITR、λファージ由来の5.1kbのスタッファー配列を備えたAAVプロウイルスプラスミドであって、当該スタッファー配列は「p618プラスミド」の、5’ITRと3’ITRの間の領域の外側にあり(上記2イの図3)、当該「5’ITR」、「3’ITR」、「λファージ由来の5.1kbのスタッファー配列」は本件発明1の「5’AAV末端逆位反復配列(ITR)」、「3’AAV末端逆位反復配列(ITR)」、「それらITRの外側にあるスタッファー配列」にそれぞれ相当するから、本件発明1の「(i)5’および3’AAV末端逆位反復配列(ITR)と、それらITRの外側にあるスタッファー配列とを含む、プラスミド」に相当する。 甲1発明の「導入遺伝子を含むp618プラスミド」は、甲第1号証の記載からみて、p618プラスミドの5’ITRと3’ITRの間の領域に導入遺伝子を含むものであるから、当該導入遺伝子は、本件発明1の「5’および3’AAV末端逆位反復配列(ITR)に隣接する異種核酸」に相当する。 以上からみて、甲1発明の「p618プラスミド」は、本件発明1の「(i)5’および3’AAV末端逆位反復配列(ITR)に隣接する少なくとも1つの異種核酸と、それらITRの外側にあるスタッファー配列とを含む、導入遺伝子含有プラスミドであって、前記スタッファー配列は、配列番号9に対して少なくとも90%の同一性を有する核酸を含む、導入遺伝子含有プラスミド」と、「(i)5’および3’AAV末端逆位反復配列(ITR)に隣接する少なくとも1つの異種核酸と、それらITRの外側にあるスタッファー配列とを含む、導入遺伝子含有プラスミド」である限りにおいて一致する。 甲1発明の「Repおよび Capタンパク質によるAAVヘルパー機能を提供するプラスミド」は、本件発明1の「(ii)AAVの複製(Rep)遺伝子配列とキャプシド(Cap)遺伝子配列とを含むプラスミド」に相当する。 甲1発明の「E2A、E4、VAの3つのアデノウイルス遺伝子を提供することでウイルス複製を可能にする第3のプラスミド」は「アデノウイルスヘルパー機能を有する」から、本件発明1の「(iii)アデノウイルス(Ad)ヘルパープラスミド」に相当する。 甲1発明の「p618プラスミド」のバックボーンは、λファージ由来の5.1kbのスタッファー配列を含み、5.1kbは野生型AAVゲノムの4.7kbより大きいことから、本件発明1の「前記導入遺伝子含有プラスミドのバックボーンが野生型AAVゲノムよりも大きい」に相当する。 甲1発明は、p618プラスミドにより運ばれる導入遺伝子を含む組換えAAVを生成するために複数のプラスミドを有するものであるから、本件発明1の「組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)の産生のためのプラスミドシステム」に相当する。 以上からみて両者は、 「組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)の産生のためのプラスミドシステムであって、以下の3つのプラスミド: (i)5’および3’AAV末端逆位反復配列(ITR)に隣接する少なくとも1つの異種核酸と、それらITRの外側にあるスタッファー配列とを含む、導入遺伝子含有プラスミド; (ii)AAVの複製(Rep)遺伝子配列とキャプシド(Cap)遺伝子配列とを含むプラスミド;および (iii)アデノウイルス(Ad)ヘルパープラスミド;を含み、 前記導入遺伝子含有プラスミドのバックボーンが野生型AAVゲノムよりも大きい、プラスミドシステム。」である点で一致し、「スタッファー配列」が、本件発明1は、「配列番号9」に対して「少なくとも90%の同一性を有する核酸」を含むものであるのに対して、甲1発明は「λファージ由来の5.1kbのスタッファー配列」である点で相違する。 ウ 判断 本件発明1における「配列番号9」は、本件特許明細書等の表3の記載からみて、「GADPH」に由来するものと認められるところ、甲第1号証には、甲1発明の「λファージ由来の5.1kbのスタッファー配列」以外に、スタッファー配列について、「スタッファー配列は、バックボーンを拡大するために使用される非コード配列である。スタッファー配列は、そのウイルス由来の機能的要素を含まない。スタッファー配列は、遺伝子を転写せず、プロモーターも含まない。p618の場合、スタッファーはラムダファージ由来の5.1kbの配列である。」(上記2エ)と記載されているが、GAPDH由来のものを使用することは記載されていない。 そして、本件優先日当時の技術常識を参酌しても、「スタッファー配列」である「バックボーンを拡大するために使用される非コード配列」として、世の中に数多く知られている「非コード配列」として、GAPDH由来のものを採用する動機付けは見いだせない。 そうすると、甲第1号証の記載からでは、GADPHに由来する「配列番号9」に対して「少なくとも90%の同一性を有する核酸」を含むものを「スタッファー配列」として使用することを当業者が容易に想到し得たとはいえない。 エ 小括 以上からみて、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明とはいえず、また、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。 本件発明1を直接又は間接的に引用し、かつ本件発明1をさらに限定するというべき本件発明2、3及び23~26についても同様である。 よって、取消理由1-2と取消理由1-3は理由がない。 (3)本件発明4、5、9、10、13、15~22及び27~33の取消理由1-4について 上記(2)で述べたとおり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明とはいえず、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到することができたものでもない。 また、甲第6号証及び甲第10号証には、「スタッファー配列」について記載も示唆もなく、甲第8号証の請求項2には、「フィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列」との記載はあるものの、GAPDH由来のものを「スタッファー配列」として使用することについて記載も示唆もされていない。 そうすると、甲第1号証、甲第6号証、甲第8号証及び甲第10号証の記載からでは、GADPHに由来する「配列番号9」に対して「少なくとも90%の同一性を有する核酸」を含むものを「スタッファー配列」として使用することを当業者が容易に想到し得たとはいえない。 本件発明1を直接又は間接的に引用し、かつ本件発明1をさらに限定するというべき本件発明4、5、9、10、13、15~22及び27~33も、甲第1号証、甲第6号証、甲第8号証及び甲第10号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。 よって、取消理由1-4は理由がない。 (4)まとめ 以上のとおり、取消理由1-1~1-4は理由がない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由 訂正前の請求項1~33に係る特許に対して、申立人が特許異議申立書において申立てたが、当審が取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の要旨は、次の(1)~(3)のとおりと認める(以下、(1)~(3)の順に「申立理由1」~「申立理由3」という。)。 (1)申立理由1(特許法第29条第1項) ア 申立理由1-1 訂正前の請求項9~12及び14~16は、甲第1号証に記載されているか、又は記載されているに等しい事項であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである(以下、「申立理由1-1」という。)。 ア 申立理由1-2 訂正前の請求項1~3、5、9、11、12、15、16、23~26、29及び33は、甲第2号証に記載されているか、又は記載されているに等しい事項であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである(以下、「申立理由1-2」という。)。 イ 申立理由1-3 訂正前の請求項1~2、16、23~26及び30~32は、甲第3号証に記載されているか、又は記載されているに等しい事項であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである(以下、「申立理由1-3」という。)。 ウ 申立理由1-4 訂正前の請求項1~2、16、23~26、28及び30~32は、甲第4号証に記載されているか、又は記載されているに等しい事項であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである(以下、「申立理由1-4」という。)。 エ 申立理由1-5 訂正前の請求項1~2、16及び23~26は、甲第5号証に記載されているか、又は記載されているに等しい事項であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである(以下、「申立理由1-5」という。)。 (2)申立理由2(特許法第29条第2項) ア 申立理由2-1 訂正前の請求項2~8、11~14及び16~33は、甲第1号証(主引例)、甲第2号証~甲第6号証、甲第8号証及び甲第10号証の記載から当業者が容易に想到できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。(以下、「申立理由2-1」という。)。 イ 申立理由2-2 訂正前の請求項1~9、11~13及び15~33は、甲第2号証(主引例)、甲第1号証、甲第3号証~甲第6号証、甲第8号証及び甲第10号証の記載から当業者が容易に想到できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。(以下、「申立理由2-2」という。)。 ウ 申立理由2-3 訂正前の請求項1~8、13及び16~32は、甲第3号証(主引例)、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証~甲第8号証及び甲第10号証の記載から当業者が容易に想到できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。(以下、「申立理由2-3」という。)。 エ 申立理由2-4 訂正前の請求項1~8、13及び16~32は、甲第4号証(主引例)、甲第1号証~甲第3号証、甲第5号証~甲第8号証及び甲第10号証の記載から当業者が容易に想到できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。(以下、「申立理由2-4」という。)。 オ 申立理由2-5 訂正前の請求項1~8、13及び16~32は、甲第5号証(主引例)、甲第1号証~甲第4号証、甲第6号証~甲第8号証及び甲第10号証の記載から当業者が容易に想到できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。(以下、「申立理由2-5」という。)。 カ 申立理由2-6 訂正前の請求項1は、甲第6号証(主引例)、甲第8号証及び甲第9号証の記載から当業者が容易に想到できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。(以下、「申立理由2-6」という。)。 キ 申立理由2-7 訂正前の請求項1は、甲第7号証(主引例)、甲第8号証及び甲第9号証の記載から当業者が容易に想到できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。(以下、「申立理由2-7」という。)。 (3)申立理由3(特許法第36条第4項第1号) 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、訂正前の請求項1~33を当業者が特許発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1項の規定により特許を受けることができないものである。 (4)証拠 甲第1号証:国際公開2012/158757号 甲第2号証:特表2018-515102号公報 甲第3号証:Molecular Therapy vol. 16 no.3, p. 458-465, march 2008 甲第4号証:Molecular Therapy vol.17 no.1, p. 144-152, jan. 2009 甲第5号証:Molecular Therapy Vol. 7, No. 5, S348, May 2003 甲第6号証:Drug Delivery System 22-6, p.643-650,2007 甲第7号証:Molecular Therapy Vol. 12, No. 4, p. 744-753, October 2005 甲第8号証:特表2016-517278号公報 甲第9号証:Gene Therapy 15, 840-848, 2008 甲第10号証:特許第4473346号公報 2 当審の判断 上記1の各申立理由についての当審の判断は次のとおりである。 (1)申立理由1-1~1-5(特許法第29条第1項)と申立理由2-1~2-7(特許法第29条第2項) ア 甲第1号証の記載に基づく新規性、進歩性について(申立理由1-1と申立理由2-1) (ア) 甲第1号証について 上記第4の2(1)のとおりである。 (イ) 対比 上記第4の3(2)のイのとおりである。 (ウ) 判断 上記第4の3(2)のウのとおり、甲第1号証には、スタッファー配列について、GAPDH由来のものを使用することは記載されておらず、甲第1号証の記載からでは、GADPHに由来する「配列番号9」に対して「少なくとも90%の同一性を有する核酸」を含むものを「スタッファー配列」として使用することを当業者が容易に想到し得たとはいえない。 また、甲第2号証~甲第6号証、甲第8号証及び甲第10号証にも、GAPDH由来の「スタッファー配列」について記載も示唆もなく、本件優先日当時の技術常識を参酌しても、GAPDHに由来する「配列番号9」に対して「少なくとも90%の同一性を有する核酸」を含むものを採用する動機付けは見いだせないから、本件発明1は、甲1発明、甲第2号証~甲第6号証、甲第8号証及び甲第10号証に記載の発明並びに本件優先日当時の技術常識から当業者といえども容易に想到し得たことではない。 (エ) 小括 以上からみて、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明とはいえず、本件発明1を直接又は間接的に引用し、かつ本件発明1をさらに限定するというべき本件発明9~12及び14~16についても同様である。 また、本件発明1は、甲第1号証~甲第6号証、甲第8号証及び甲第10号証に基いて、当業者が容易に想到することができたものともいえない。 本件発明1を直接的又は間的に引用し、かつ本件発明1をさらに限定するというべき本件発明2~8、11~14及び16~33についても同様である。 よって、申立理由1-1と申立理由2-1は理由がない。 イ 甲第2号証の記載に基づく新規性、進歩性について(申立理由1-2と申立理由2-2) (ア) 甲第2号証について 甲第2号証の実施例1の【0073】及び図1には、スペーサー1-AAV2 ITR1-CMV-βグロビンイントロン-GFP-βグロビンpA-AAV2 ITR2-スペーサー2-oriC-KanRの構成要素を含む、pAAV-CMV-GFPベクターが得られたことが記載されている。 甲第2号証の【0074】には、精製したスペーサーベクターを、AAVヘルパーベクターおよびアデノウイルスヘルパーベクターとともにHEK293細胞にCaPO4トランスフェクションによって共トランスフェクションしたことが記載されている。 甲第2号証の【0075】には、AAV2/8スペーサーを含むウイルス粒子を形質導入した細胞と、AAV2/8スペーサーを含まないウイルス粒子を形質導入した細胞で、夾雑oriCまたはKanR核酸の割合が前者(1%)では後者(3%)よりも低いことが記載されている。 甲第2号証の【0045】には、AAV粒子は、約4.7Kbの核酸分子のためのパッケージング能力を有する。AAV粒子にパッケージングされる核酸分子中に、長さ約3.0Kbの所望の異種ポリヌクレオチドが挿入される場合、第1のスペーサーおよび/または第2のスペーサーは、長さ約2.0Kbであり得る。したがって、異種ポリヌクレオチドと第1のスペーサーまたは第2のスペーサーとは、合わせて長さ約5.0Kb~8.0Kbの長さを有するであろうことが記載されている。 上記からみて、甲第2号証には、AAV粒子を産生するために、pAAV-CMV-GFPベクター、AAVヘルパーベクター、アデノウイルスヘルパーベクターをHEK293細胞に共トランスフェクションしたこと、が記載されている。 以上からみて、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 「AAV粒子を産生するための以下の3つのベクター: (i)スペーサー1-AAV2 ITR1-CMV-βグロビンイントロン-GFP-βグロビンpA-AAV2 ITR2-スペーサー2-oriC-KanRの構成要素を含む、pAAV-CMV-GFPベクター; (ii)AAVヘルパーベクター;および (iii)アデノウイルスヘルパーベクター」 (イ) 対比 本件発明1と甲2発明とを対比する。 甲2発明の「pAAV-CMV-GFPベクター」は、CMVに由来する異種ポリヌクレオチドであるβグロビンイントロンが末端逆位反復配列(ITR)に隣接して挿入されるものであり、ITRの外側にスペーサー2を含むものであり、スペーサー2は本件発明1の「スタッファー配列」に相当するから、異種ポリヌクレオチドが挿入されたpAAV-CMV-GFPベクターは、本件発明1の「(i)5’および3’AAV末端逆位反復配列(ITR)に隣接する少なくとも1つの異種核酸と、それらITRの外側にあるスタッファー配列とを含む、導入遺伝子含有プラスミド」に相当する。 甲2発明の「AAVヘルパーベクター」は、本件優先日当時の技術常識を参酌すると、本件発明1の「(ii)AAVの複製(Rep)遺伝子配列とキャプシド(Cap)遺伝子配列とを含むプラスミド」に相当する。 甲2発明の「アデノウイルスヘルパーベクター」は、本件発明1の「(iii)アデノウイルス(Ad)ヘルパープラスミド」に相当する。 甲2発明の「pAAV-CMV-GFPベクター」のスペーサーは、異種ポリヌクレオチドと第1のスペーサーまたは第2のスペーサーとは、合わせて長さ約5.0Kb~8.0Kbの長さを有するものであり、野生型AAVゲノムの4.7kbより大きいことから、本件発明1の「前記導入遺伝子含有プラスミドのバックボーンが野生型AAVゲノムよりも大きい」に相当する。 甲2発明は、pAAV-CMV-GFPベクターにより運ばれる異種ポリヌクレオチドを含む組換えAAVを生成するために複数のプラスミドを有するものであるから、本件発明1の「組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)の産生のためのプラスミドシステム」に相当する。 以上からみて両者は、 「組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)の産生のためのプラスミドシステムであって、以下の3つのプラスミド: (i)5’および3’AAV末端逆位反復配列(ITR)に隣接する少なくとも1つの異種核酸と、それらITRの外側にあるスタッファー配列とを含む、導入遺伝子含有プラスミド; (ii)AAVの複製(Rep)遺伝子配列とキャプシド(Cap)遺伝子配列とを含むプラスミド;および (iii)アデノウイルス(Ad)ヘルパープラスミド;を含み、 前記導入遺伝子含有プラスミドのバックボーンが野生型AAVゲノムよりも大きい、プラスミドシステム。」である点で一致し、「スタッファー配列」が、本件発明1は、「配列番号9」に対して「少なくとも90%の同一性を有する核酸」を含むものであるのに対して、甲2発明は、本件発明1のような特定がない点で相違する。 (ウ) 判断 本件発明1における「配列番号9」は、本件特許明細書等の表3の記載からみて、「GADPH」に由来するものと認められるところ、甲第2号証には、スタッファー配列であるスペーサーとして、GAPDH由来のものは記載されておらず、甲第1号証、甲第3号証~甲第6号証、甲第8号証及び甲第10号証にも、GAPDH由来の「スタッファー配列」について記載も示唆もなく、本件優先日当時の技術常識を参酌しても、GAPDHに由来する「配列番号9」に対して「少なくとも90%の同一性を有する核酸」を含むものを採用する動機付けは見いだせないから、本件発明1は、甲2発明、甲第1号証、甲第3号証~甲第6号証、甲第8号証及び甲第10号証に記載の発明並びに本件優先日当時の技術常識から当業者といえども容易に想到し得たことではない。 (エ) 小括 以上からみて、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明とはいえず、本件発明1を直接又は間接的に引用し、かつ本件発明1をさらに限定するというべき本件発明2、3、5、9、11、12、15、16、23~26、29及び33についても同様である。 また、本件発明1は、甲第1号証~甲第6号証、甲第8号証及び甲第10号証に基いて、当業者が容易に想到することができたものともいえない。 本件発明1を直接的又は間接的に引用し、かつ本件発明1をさらに限定するというべき本件発明2~9、11~13及び15~33についても同様である。 よって、申立理由1-2と申立理由2-2は理由がない。 ウ 甲第3号証の記載に基づく新規性、進歩性について(申立理由1-3と申立理由2-3) (ア) 甲第3号証について 甲第3号証の458頁左欄1~4行目には、レーバー先天性黒内障(LCA)のRPE65型の動物モデルにおいて、最適化されたアデノ随伴ウイルス(AAV; AAV2.RPE65)を用い、その安全性と有効性を評価したことが記載されている。 甲第3号証の458頁右欄下から4行目~459頁左欄5行目には、AAV2.RPE65の導入遺伝子は、翻訳開始部位で操作された改変Kozak配列を有する、1.6キロ塩基(kb)のヒトRPE65相補的DNA(cDNA)から構成され、ベクターには、AAV逆方向反復配列からの逆方向パッケージング(すなわち、非導入遺伝子を含む)ベクターを防ぐために、長い(6.9kb)スタッファー配列が、含まれたことが記載されている。 甲第3号証の464頁左欄39-43行目には、ウイルスはHEK293細胞のトリプルトランスフェクションの後、Center for Cellular and Molecular Therapeuticsによって製造され、単離及び精製されたことが記載されている。 以上からみて、甲第3号証には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。 「AAVを産生するためのトリプルトランスフェクションに使用するための、翻訳開始部位で操作された改変Kozak配列を有する、1.6キロ塩基(kb)のヒトRPE65相補的DNA(cDNA)から構成され、AAV逆方向反復配列からの逆方向パッケージングを防ぐために、長い(6.9kb)スタッファー配列が含まれたベクター」 (イ) 対比 本件発明1と甲3発明とを対比する。 本件発明1は、AAVを産生するために用いる3つのプラスミドが、 (i)5’および3’AAV末端逆位反復配列(ITR)に隣接する少なくとも1つの異種核酸と、それらITRの外側にあるスタッファー配列とを含む、導入遺伝子含有プラスミドであって、前記スタッファー配列は、配列番号9に対して少なくとも90%の同一性を有する核酸を含む、導入遺伝子含有プラスミド; (ii)AAVの複製(Rep)遺伝子配列とキャプシド(Cap)遺伝子配列とを含むプラスミド;および (iii)アデノウイルス(Ad)ヘルパープラスミド; で特定され、 前記導入遺伝子含有プラスミドのバックボーンが野生型AAVゲノムよりも大きいことも特定されているが、甲3発明は、トリプルトランスフェクションに使用するものなので、3つのベクターを用いるといえるところ、明らかなのは上記ベクターのみであって、他の2つのベクターは不明な点、で相違する。 (ウ) 判断 甲第3号証には、導入遺伝子含有プラスミド(本件発明1の(i)に対応)に関して、「AAV2.RPE65の導入遺伝子は、翻訳開始部位で操作された改変Kozak配列を有する、1.6キロ塩基(kb)のヒトRPE65相補的DNA(cDNA)から構成され、ベクターには、AAV逆方向反復配列からの逆方向パッケージング(すなわち、非導入遺伝子を含む)ベクターを防ぐために、長い(6.9kb)スタッファー配列が、含まれた」との記載があり、長い(6.9kb)スタッファー配列は野生型AAVゲノムの4.7kbより大きいことから、導入遺伝子含有プラスミドのバックボーンが野生型AAVゲノムよりも大きいものであるとはいえるが、スタッファー配列として、GAPDH由来のものは記載されておらず、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証~甲第8号証及び甲第10号証にも、GAPDH由来の「スタッファー配列」について記載も示唆もなく、本件優先日当時の技術常識を参酌しても、GAPDHに由来する「配列番号9」に対して「少なくとも90%の同一性を有する核酸」を含むものを「スタッファー配列」として採用する動機付けは見いだせないから、本件発明1は、甲3発明及び甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証~甲第8号証及び甲第10号証に記載の発明並びに本件優先日当時の技術常識から当業者といえども容易に想到し得たことではない。 (エ) 小括 以上からみて、本件発明1と甲3発明は、本件発明1の(i)に対応する導入遺伝子含有プラスミドの構成において相違し、この点は甲第1号証~甲第2号証、甲第4号証~甲第8号証及び甲第10号証に記載の発明並びに本件優先日当時の技術常識から当業者といえども容易に想到し得たことではないから、両者のその他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明とはいえず、また、甲第1号証~甲第8号証及び甲第10号証に基いて、当業者が容易に想到することができたものともいえない。 本件発明1を直接的又は間接的に引用し、かつ本件発明1をさらに限定するというべき本件発明2~8、13及び16~32についても同様である。 よって、申立理由1-3と申立理由2-3は理由がない。 エ 甲第4号証の記載に基づく新規性、進歩性について(申立理由1-4と申立理由2-4) (ア) 甲第4号証について 甲第4号証は血友病治療用AAVベクターの製造に関し、144頁左欄17-21行目には、臨床ベクター中のキャプシドに入れられるDNA不純物を最小にするために、AAVのパッケージング限界を超えるバックボーンを有するベクター(cis)産生プラスミドを使用したことが記載されている。 また、AAVベクターの生成は、3つのプラスミドを用いたHEK293細胞(150頁左48行目)へのヘルパーウイルスを含まないトランスフェクションにより行ったこと、14個のAAVベクターロットがさらに製造され、分析されたこと、ヒト凝固第IX因子を発現する8個のAAV2および2個のAAV6ベクターロット(AAV-hFIX)は、~4,700 ntであるAAVのパッケージング限界を超える6,980bp バックボーンを含むベクタープラスミドを用いて作製されたこと(150頁左53行目)が記載されている。 以上からみて、甲第4号証には、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。 「AAVのパッケージング限界を超える6,980bpバックボーンを有するベクタープラスミドを含む、AAVを産生するための3つのプラスミド」 (イ) 対比 本件発明1と甲4発明とを対比する。 本件発明1は、AAVを産生するために用いる3つのプラスミドが、 (i)5’および3’AAV末端逆位反復配列(ITR)に隣接する少なくとも1つの異種核酸と、それらITRの外側にあるスタッファー配列とを含む、導入遺伝子含有プラスミドであって、前記スタッファー配列は、配列番号9に対して少なくとも90%の同一性を有する核酸を含む、導入遺伝子含有プラスミド; (ii)AAVの複製(Rep)遺伝子配列とキャプシド(Cap)遺伝子配列とを含むプラスミド;および (iii)アデノウイルス(Ad)ヘルパープラスミド; で特定され、 前記導入遺伝子含有プラスミドのバックボーンが野生型AAVゲノムよりも大きいことも特定されているが、甲4発明は、ベクタープラスミドのバックボーンが6,980bpであることは特定されているものの、3つのプラスミドが具体的にどのようなものであるかは不明である点、で相違する。 (ウ) 判断 甲4発明はベクタープラスミドのバックボーンが6,980bpであることが特定されており、また、甲第4号証には、導入遺伝子含有プラスミドに関して、「臨床ベクター中のキャプシドに入れられるDNA不純物を最小にするために、AAVのパッケージング限界を超えるバックボーンを有するベクター(cis)産生プラスミドを使用した」との記載があることから、甲4発明のベクタープラスミド、すなわち、本件発明1の「導入遺伝子含有プラスミド」に対応するプラスミドのバックボーンが野生型AAVゲノムよりも大きいものであるとはいえるが、当該バックボーンがスタッファー配列を含むこと、スタッファー配列として、GAPDH由来のものは記載されておらず、甲第1号証~甲第3号証、甲第5号証~甲第8号証及び甲第10号証にも、GAPD由来の「スタッファー配列」について記載も示唆もなく、本件優先日当時の技術常識を参酌しても、GAPDHに由来する「配列番号9」に対して「少なくとも90%の同一性を有する核酸」を含むものを「スタッファー配列」として採用する動機付けは見いだせないから、本件発明1は、甲4発明及び甲第1号証~甲第3号証、甲第5号証~甲第8号証及び甲第10号証に記載の発明並びに本件優先日当時の技術常識から、当業者といえども容易に想到し得たことではない。 (エ) 小括 以上からみて、本件発明1と甲4発明は、本件発明1の(i)に対応する導入遺伝子含有プラスミドの構成において相違し、この点は甲第1号証~甲第3号証、甲第5号証~甲第8号証及び甲第10号証に記載の発明並びに本件優先日当時の技術常識から当業者といえども容易に想到し得たことではないから、両者のその他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明とはいえず、また、甲第1号証~甲第8号証及び甲第10号証に基いて、当業者が容易に想到することができたものともいえない。 本件発明1を直接的又は間接的に引用し、かつ本件発明1をさらに限定するというべき本件発明2~8、13及び16~32についても同様である。 よって、申立理由1-4と申立理由2-4は理由がない。 オ 甲第5号証の記載に基づく新規性、進歩性について(申立理由1-5と申立理由2-5) (ア) 甲第5号証について 甲第5号証の論文の題目は「トリプルトランスフェクションによって産生された組換えアデノ随伴ウイルス粒子への宿主細胞およびプラスミドDNAのパッケージング」であり、甲第5号証の本文の第3~7行目には、AAV-hFIX16は、ヒトα-1アンチトリプシン(hAAT)プロモーターの制御下にヒト凝固因子IXのコード配列を含む組換えAAV2ベクターであり、HEK293細胞の3つのプラスミドのトランスフェクションにより産生され、本文の第7~9行目には、ベクタープラスミドの逆方向パッケージングは、約7000塩基対のオーバーサイズのプラスミドバックボーンを使用することにより排除されたこと、甲第5号証の本文の第27~29行目には、パッケージング限界までアデノウイルスのヘルパープラスミドやrep/capをコードするプラスミド配列よりも、ベクタープラスミド配列の優先的(2~5倍)なパッケージングが観察されたことが記載されている。 以上からみて、甲第5号証には、次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。 「約7000塩基対のオーバーサイズのプラスミドバックボーンを有するベクタープラスミドを含む、AAVを産生するための3つのプラスミド」 (イ) 対比 本件発明1と甲5発明とを対比する。 本件発明1は、AAVを産生するために用いる3つのプラスミドが、 (i)5’および3’AAV末端逆位反復配列(ITR)に隣接する少なくとも1つの異種核酸と、それらITRの外側にあるスタッファー配列とを含む、導入遺伝子含有プラスミドであって、前記スタッファー配列は、配列番号9に対して少なくとも90%の同一性を有する核酸を含む、導入遺伝子含有プラスミド; (ii)AAVの複製(Rep)遺伝子配列とキャプシド(Cap)遺伝子配列とを含むプラスミド;および (iii)アデノウイルス(Ad)ヘルパープラスミド; で特定され、 前記導入遺伝子含有プラスミドのバックボーンが野生型AAVゲノムよりも大きいことも特定されているが、甲5発明は、ベクタープラスミドが約7000塩基対のオーバーサイズのプラスミドバックボーンを有することは特定されているものの、3つのプラスミドが具体的にどのようなものであるかは不明である点、で相違する。 (ウ) 判断 甲第5号証には、導入遺伝子含有プラスミド(本件発明1の(i)に対応)に関して、「ベクタープラスミドの逆方向パッケージングは、約7000塩基対のオーバーサイズのプラスミドバックボーンを使用することにより排除された」との記載があり、導入遺伝子含有プラスミドのバックボーンが野生型AAVゲノムよりも大きいものであるとはいえるが、プラスミドバックボーンがスタッファー配列を含むこと、スタッファー配列として、GAPDH由来のものは記載されておらず、甲第1号証~甲第4号証、甲第8号証及び甲第10号証にも、GAPDH由来の「スタッファー配列」について記載も示唆もなく、本件優先日当時の技術常識を参酌しても、GAPDHに由来する「配列番号9」に対して「少なくとも90%の同一性を有する核酸」を含むものを「スタッファー配列」として採用する動機付けは見いだせないから、本件発明1は、甲5発明及び甲第1号証~甲第4号証、甲第6号証~甲第8号証及び甲第10号証に記載の発明並びに本件優先日当時の技術常識から、当業者といえども容易に想到し得たことではない。 (エ) 小括 以上からみて、本件発明1と甲5発明は、本件発明1の(i)に対応する導入遺伝子含有プラスミドの構成において相違し、この点は甲第1号証~甲第4号証、甲第6号証~甲第8号証及び甲第10号証に記載の発明並びに本件優先日当時の技術常識から当業者といえども容易に想到し得たことではないから、両者のその他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第5号証に記載された発明とはいえず、また、甲第1号証~甲第8号証及び甲第10号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到することができたものともいえない。 本件発明1を直接的又は間接的に引用し、かつ本件発明1をさらに限定するというべき本件発明2~8、13及び16~32についても同様である。 よって、申立理由1-5と申立理由2-5は理由がない。 カ まとめ 以上からみて、申立理由1(1-1~1-5)と申立理由2(2-1~2-5)(主引例が、甲第2号証~甲第5号証のもの)は理由がない。 (2)申立理由2-6及び申立理由2-7(特許法第29条第2項) ア 申立理由2-6(甲第6号証に基づく進歩性)について (ア)甲6発明 甲第6号証は、遺伝子治療用ベクターとして期待されているアデノ随伴ウイルス(AAV:adeno-associated virus)ベクターに関し、第646頁の図3の図3aには、ベクタープラスミド、AAVヘルパープラスミド、及びアデノウイルスヘルパープラスミドの3種類のプラスミドベクターを293細胞へトランスフェクションすることにより,AAVベクターを作製することが記載されている。 以上からみて、甲第6号証には、次の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。 「AAVベクターを産生するための以下の3つのプラスミド: (i)ベクタープラスミド; (ii)AAVヘルパープラスミド;および (iii)アデノウイルスヘルパープラスミド」 (イ)対比 本件発明1と甲6発明とを対比する。 本件発明1は、AAVを産生するために用いる3つのプラスミドが、 (i)5’および3’AAV末端逆位反復配列(ITR)に隣接する少なくとも1つの異種核酸と、それらITRの外側にあるスタッファー配列とを含む、導入遺伝子含有プラスミドであって、前記スタッファー配列は、配列番号9に対して少なくとも90%の同一性を有する核酸を含む、導入遺伝子含有プラスミド; (ii)AAVの複製(Rep)遺伝子配列とキャプシド(Cap)遺伝子配列とを含むプラスミド;および (iii)アデノウイルス(Ad)ヘルパープラスミド; で特定され、 前記導入遺伝子含有プラスミドのバックボーンが野生型AAVゲノムよりも大きいことも特定されているが、甲6発明は、導入遺伝子含有プラスミドが具体的に特定されておらず、導入遺伝子含有プラスミドのバックボーンが野生型AAVゲノムよりも大きいことも特定されていない点、で相違する。 (ウ)判断 甲第8号証の【0177】には、「図6に示される12の定量結果で得られた残存プラスミドDNA不純物レベルにおいては、サイズ超過バックボーンを含まない(欠く)ベクタープラスミドを用いて調製されたベクター中の109ベクターゲノム当たりのプラスミドDNA不純物の平均は301pgで、これはサイズ超過バックボーンを用いて調製されたベクターで測定された109vg当たりのプラスミドDNA不純物の平均である60pgと比較して、5倍高い値であった。従って、ベクタープラスミド内のサイズ超過バックボーンは、ウイルスベクターの調製において不純物の低減に使用することができる。」と記載され、甲第9号証の842頁右欄44-48行目には、「オーバーサイズ」のプラスミドバックボーンを使うこと、つまりAAVの天然の自然パッケージング限界である4.7kbを超えると、残存プラスミドDNAが約1/5に減少する。」と記載されていることから、甲6発明のベクタープラスミドにおいて、プラスミドDNA不純物の低減を目的として、導入遺伝子含有プラスミドのバックボーンを野生型AAVゲノムよりも大きいものとすることは当業者が容易に想到することができたといえる。 しかしながら、甲第6号証、甲第8号証及び甲第9号証には、スタッファー配列として、GAPDH由来のものは記載されておらず、本件優先日当時の技術常識を参酌しても、GAPDHに由来する「配列番号9」に対して「少なくとも90%の同一性を有する核酸」を含むものを「スタッファー配列」として採用する動機付けは見いだせず、当業者といえども容易に想到し得たことではない。 (エ) 小括 以上からみて、本件発明1は、甲第6号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。 よって、申立理由2-6は理由がない。 イ 申立理由2-7(甲第7号証に基づく進歩性)について (ア)甲7発明 甲第7号証は、AAVベクター製造物中に残存する(カプシドに封入された)プラスミド由来配列の検出に関し、上記配列のコンタミネーションは、3プラスミド系、rep、cap、Adヘルパー要素を1プラスミドに搭載した2プラスミド系のどちらでも確認された(表1)。 以上からみて、甲第7号証には、次の発明(以下「甲7発明」という。)が記載されていると認められる。 「AAVを産生するための3プラスミド系」 (イ)対比 本件発明1と甲7発明とを対比する。 本件発明1は、AAVを産生するために用いる3つのプラスミドが、 (i)5’および3’AAV末端逆位反復配列(ITR)に隣接する少なくとも1つの異種核酸と、それらITRの外側にあるスタッファー配列とを含む、導入遺伝子含有プラスミドであって、前記スタッファー配列は、配列番号9に対して少なくとも90%の同一性を有する核酸を含む、導入遺伝子含有プラスミド; (ii)AAVの複製(Rep)遺伝子配列とキャプシド(Cap)遺伝子配列とを含むプラスミド;および (iii)アデノウイルス(Ad)ヘルパープラスミド; で特定され、 前記導入遺伝子含有プラスミドのバックボーンが野生型AAVゲノムよりも大きいことも特定されているが、甲7発明は、3つのプラスミドが具体的に特定されておらず、導入遺伝子含有プラスミドのバックボーンが野生型AAVゲノムよりも大きいことも特定されていない点、で相違する。 (ウ)判断 甲第8号証の【0177】には、「図6に示される12の定量結果で得られた残存プラスミドDNA不純物レベルにおいては、サイズ超過バックボーンを含まない(欠く)ベクタープラスミドを用いて調製されたベクター中の109ベクターゲノム当たりのプラスミドDNA不純物の平均は301pgで、これはサイズ超過バックボーンを用いて調製されたベクターで測定された109vg当たりのプラスミドDNA不純物の平均である60pgと比較して、5倍高い値であった。従って、ベクタープラスミド内のサイズ超過バックボーンは、ウイルスベクターの調製において不純物の低減に使用することができる。」と記載され、甲第9号証の842頁右欄44-48行目には、「オーバーサイズ」のプラスミドバックボーンを使うこと、つまりAAVの天然の自然パッケージング限界である4.7kbを超えると、残存プラスミドDNAが約1/5に減少する。」と記載されていることから、甲7発明のベクタープラスミドにおいて、プラスミドDNA不純物の低減を目的として、導入遺伝子含有プラスミドのバックボーンを野生型AAVゲノムよりも大きいものとすることは当業者が容易に想到することができたといえる。 しかしながら、甲第7号証、甲第8号証及び甲第9号証には、スタッファー配列として、GAPDH由来のものは記載されておらず、本件優先日当時の技術常識を参酌しても、GAPDHに由来する「配列番号9」に対して「少なくとも90%の同一性を有する核酸」を含むものを「スタッファー配列」として採用する動機付けは見いだせず、当業者といえども容易に想到し得たことではない。 (エ)小括 以上からみて、本件発明1は、甲第7号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。 よって、申立理由2-7は理由がない。 ウ まとめ 以上からみて、申立理由2-6及び申立理由2-7(主引例が、甲第6号証及び甲第7号証のもの)は理由がない。 (3)申立理由3(特許法第36条第4項第1号) ア 申立人の主張の概要 申立人は、特許異議申立書において、本件特許明細書等の発明の詳細な説明には、図2、3A、3B、15A、15Bにスタッファーを有する導入遺伝子含有プラスミドが図示されているものの、実施例には、これらを使用してプラスミドバックボーンの逆方向パッケージングが減少したことを示すデータは記載されていないので、本件特許明細書等の発明の詳細な説明は本件特許発明1~33を当業者が特許発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない旨、を主張する。 イ 判断 申立人が主張するとおり、本件特許明細書等の実施例には、野生型AAVゲノムよりも大きいプラスミドバックボーンを用いることで、逆方向パッケージングが減少したことを示すデータは記載されていない。 しかしながら、当業者が明細書及び図面の記載並びに本件出願時の技術常識に基づいて発明を実施できるように発明の詳細な説明を記載することができるか、一連の工程に付することにより上記のような結果が得られることを明らかにする理論的な説明がなされている場合は、実際の実験結果を伴う実施例の記載は必要ではない。 ここで、本件特許明細書等の【0090】には、「ITRは、パッケージングに必要な唯一のシスエレメントであることが示されており、rAAVを作製するためにウイルス遺伝子を完全に欠失させることを可能にする。ローリングサークルDNA複製メカニズムは、ITR内のD配列の存在により、ITRに隣接する導入遺伝子発現カセットのDNA配列を主に増幅(すなわち複製)するが、プラスミドDNAバックボーン(例えば、複製起点、抗生物質耐性遺伝子発現カセットなど)も、隣接するD配列ドメインがないため低頻度ではあるが、ベクターキャプシドにパッケージされ得る。AAVは、野生型ウイルスゲノム(約4.7kbase)と同様であるかそれよりも小さいゲノムサイズのパッケージングに効率的である。バックボーンがキャプシドにパッケージングされるのに不都合となる程度にバックボーンのサイズを増加させることにより、プラスミドバックボーンのパッケージングを阻止することができる。バックボーンの拡大は、追加の「スタッファー」配列(すなわち、フィラー成分)によって達成することができ、野生型AAVゲノムよりも大きいプラスミドバックボーンサイズをもたらす。理論に拘束されることを望まないが、拡大されたプラスミドバックボーンの存在は、rAAVがプラスミドバックボーンをベクターキャプシド内にパッケージングする可能性を低減できることが示唆されている。いくつかの実施形態において、拡大されたプラスミドバックボーンは、スタッファー配列を使用することによって作製される。」(下線は当審による。以下、同様。)と記載されるとおり、野生型AAVゲノムよりも大きいプラスミドバックボーンを用いることで、逆方向パッケージングが減少するメカニズムが説明されている。 そして、甲第8号証には、「異種ポリヌクレオチド配列とフィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列を含んでなり、前記異種ポリヌクレオチド配列が4.7Kbを下回る長さを有し、かつアデノ随伴ウイルス(AAV)の二つのITR配列の内側に位置し、前記フィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列はアデノ随伴ウイルス(AAV)の二つのITR配列の外側に位置し、該フィラーまたはスタッファーポリヌクレオチド配列が4.7Kbを上回る長さ、約5.0ないし10.0Kbの長さ、または約6.0ないし8.0Kbの長さを有する組換えベクタープラスミド。」(請求項2)、「さらに、ベクタープラスミド「バックボーン」DNAのパッケージングが、ITRからの「逆方向パッケージング」を介してかなりの程度で起こり、それはサイズ超過(>4.7bp)のバックボーンを用いることで大幅に減少する(図5)。」(【0172】)、「図6に示される12の定量結果で得られた残存プラスミドDNA不純物レベルにおいては、サイズ超過バックボーンを含まない(欠く)ベクタープラスミドを用いて調製されたベクター中の109ベクターゲノム当たりのプラスミドDNA不純物の平均は301pgで、これはサイズ超過バックボーンを用いて調製されたベクターで測定された109vg当たりのプラスミドDNA不純物の平均である60pgと比較して、5倍高い値であった。従って、ベクタープラスミド内のサイズ超過バックボーンは、ウイルスベクターの調製において不純物の低減に使用することができる。」【0177】と記載され、甲第9号証にも、「オーバーサイズ」のプラスミドバックボーンを使うこと、つまりAAVの天然の自然パッケージング限界である4.7kbを超えると、残存プラスミドDNAが約1/5に減少することが、記載されている(842頁右欄44-48行目)。 つまり、「導入遺伝子含有プラスミドのバックボーンが野生型AAVゲノムよりも大きい」という構成により、導入遺伝子含有プラスミドのバックボーンの逆方向パッケージングが減少することは、本件出願時の技術常識であるか、上記工程に付することにより上記のような結果が得られることを明らかにする理論的な説明がなされているといえることから、本件特許明細書等の発明の詳細な説明は本件特許発明1~33を当業者が特許発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。 ウ まとめ 以上からみて、申立理由3は理由がない。 (4)まとめ 以上のとおりであるから、申立理由1~3はいずれも理由がない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~33に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1~33に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、特許法第114条4項の規定により、本件請求項1~33に係る発明について結論のとおり決定する。

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2025-700369

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