特許異議申立
2025-700923
核酸を解析するための方法および組成物
- 審判番号
- 2025-700923
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-559245
- 登録番号
- 7651470
- 請求日
- 2025年09月26日
- 審決日
- 2026年03月17日
- 公報発行日
- 2026年04月24日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】クラレット バイオサイエンス, エルエルシー
- 【権利者代理人】山本 秀策
- 【権利者代理人】森下 夏樹
- 【権利者代理人】飯田 貴敏
- 【権利者代理人】石川 大輔
- 【権利者代理人】山本 健策
- 【異議申立人】本間 陽樹
- 審判長/審判官
- 審判長 中村 浩
- 審判官 竹内 祐樹
- 審判官 田中 耕一郎
- 分類
- P1651.537-Y (C12N) / P1651.536-Y (C12N) / P1651.113-Y (C12N) / P1651.121-Y (C12N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7651470号発明「核酸を解析するための方法および組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7651470号の請求項1~17に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7651470号(請求項の数17。以下「本件特許」という。)に係る特許出願(特願2021-559245号)は、令和2年4月2日(パリ条約による優先権主張 2019年10月23日 2019年6月14日 2019年4月5日 いずれも(US)米国)を国際出願日とするものであって、令和7年3月17日にその特許権の設定の登録がなされ、同年3月26日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和7年9月26日に、本件特許の請求項1~17に係る特許に対して、特許異議申立人である本間陽樹(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされ、同年12月23日に、特許異議申立書(以下「申立書」という。)を補正対象とする手続補正書(方式)が提出された。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~17に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~17に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
核酸ライブラリーを生成する方法であって、
I.(i)一本鎖核酸(ssNA)を含む核酸組成物と、(ii)第1のオリゴヌクレオチドと、(iii)複数の第1の足場ポリヌクレオチド種と、(iv)第2のオリゴヌクレオチドと、(v)複数の第2の足場ポリヌクレオチド種とを結合させるステップであって、
(a)前記複数の第1の足場ポリヌクレオチド種における各ポリヌクレオチドが、ssNAハイブリダイゼーション領域および第1のオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション領域を含み;
(b)前記複数の第2の足場ポリヌクレオチド種における各ポリヌクレオチドが、ssNAハイブリダイゼーション領域および第2のオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション領域を含み;
(c)前記核酸組成物、前記第1のオリゴヌクレオチド、前記複数の第1の足場ポリヌクレオチド種、前記第2のオリゴヌクレオチド、および前記複数の第2の足場ポリヌクレオチド種が、
A.前記第1の足場ポリヌクレオチド種の分子が(i)第1のssNA末端領域および(ii)前記第1のオリゴヌクレオチドの分子とハイブリダイズされ、それによって、前記第1のオリゴヌクレオチドの前記分子の末端が前記第1のssNA末端領域の末端に隣接しているハイブリダイゼーション産物を形成し、かつ
B.前記第2の足場ポリヌクレオチド種の分子が(i)第2のssNA末端領域および(ii)前記第2のオリゴヌクレオチドの分子とハイブリダイズされ、それによって、前記第2のオリゴヌクレオチドの前記分子の末端が前記第2のssNA末端領域の末端に隣接しているハイブリダイゼーション産物を形成する
条件下で結合され;
(d)前記ssNAが、前記結合させるステップの前または前記結合させるステップ中に一本鎖核酸結合タンパク質(SSB)と結合されず、前記ssNAも前記ssNAを含む核酸も、生物学的試料を取得した後かつ前記結合させるステップの前に修飾されない、ステップ、ならびに
II.前記第1のオリゴヌクレオチドおよび前記第1のssNA末端領域の隣接している末端を共有結合で連結させ、かつ前記第2のオリゴヌクレオチドおよび前記第2のssNA末端領域の隣接している末端を共有結合で連結させ、それによって共有結合で連結されたハイブリダイゼーション産物を生成するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
前記結合させるステップの前に、前記第1のオリゴヌクレオチドおよび/または前記複数の第1の足場ポリヌクレオチド種と、ホスファターゼ活性を有する薬剤とを、前記第1のオリゴヌクレオチドおよび/または前記複数の第1の足場ポリヌクレオチド種が脱リン酸化される条件下で接触させるステップをさらに含み、それによって、脱リン酸化された第1のオリゴヌクレオチドおよび/または脱リン酸化された第1の足場ポリヌクレオチド種が生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記結合させるステップの前に、前記第2のオリゴヌクレオチドおよび/または前記複数の第2の足場ポリヌクレオチド種と、ホスファターゼ活性を有する薬剤とを、前記第2のオリゴヌクレオチドおよび/または前記複数の第2の足場ポリヌクレオチド種が脱リン酸化される条件下で接触させるステップをさらに含み、それによって、脱リン酸化された第2のオリゴヌクレオチドおよび/または脱リン酸化された第2の足場ポリヌクレオチド種が生成される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記結合させるステップの前に、前記第1の足場ポリヌクレオチド種の各々が、第1のオリゴヌクレオチドとハイブリダイズされて複数の第1の足場二重鎖種を形成し、前記第2の足場ポリヌクレオチド種の各々が、第2のオリゴヌクレオチドとハイブリダイズされて複数の第2の足場二重鎖種を形成する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記共有結合で連結させるステップが、前記ハイブリダイゼーション産物と、リガーゼ活性を有する薬剤とを、前記第1のssNA末端領域の末端が前記第1のオリゴヌクレオチドの末端に共有結合で連結され、かつ前記第2のssNA末端領域の末端が前記第2のオリゴヌクレオチドの末端に共有結合で連結される条件下で、接触させることを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記複数の第1の足場二重鎖種における二重鎖の一部またはすべてが、前記第1のオリゴヌクレオチドの5’末端にアデニル化修飾を含み、前記複数の第1の足場二重鎖種が、ATPの非存在下で前記ssNAと結合され、前記ssNAに共有結合で連結され、それによって、共有結合で連結されたハイブリダイゼーション産物中間体が形成される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記共有結合で連結されたハイブリダイゼーション産物中間体が、前記複数の第2の足場二重鎖種およびATPと結合され、前記複数の第2の足場二重鎖種およびATPに共有結合で連結され、それによって共有結合で連結されたハイブリダイゼーション産物が形成される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の足場ポリヌクレオチド種の各々についての前記ssNAハイブリダイゼーション領域が、前記複数の第1の足場ポリヌクレオチド種の中の他の第1の足場ポリヌクレオチド種におけるssNAハイブリダイゼーション領域とは異なる、および
前記第2の足場ポリヌクレオチド種の各々についての前記ssNAハイブリダイゼーション領域が、前記複数の第2の足場ポリヌクレオチド種の中の他の第2の足場ポリヌクレオチド種におけるssNAハイブリダイゼーション領域とは異なる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ssNAハイブリダイゼーション領域が、ランダム配列を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ssNAハイブリダイゼーション領域が、1つまたは複数のユニバーサル塩基を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
(1)前記第1のオリゴヌクレオチドが、1つもしくは複数の修飾ヌクレオチドを含むか、前記第1の足場ポリヌクレオチド種の一部もしくはすべてが、1つもしくは複数の修飾ヌクレオチドを含むか、または前記第1のオリゴヌクレオチドが、1つもしくは複数の修飾ヌクレオチドを含み、かつ前記第1の足場ポリヌクレオチド種の一部もしくはすべてが、1つもしくは複数の修飾ヌクレオチドを含む;ならびに/あるいは
(2)前記第2のオリゴヌクレオチドが、1つもしくは複数の修飾ヌクレオチドを含むか、前記第2の足場ポリヌクレオチド種の一部もしくはすべてが、1つもしくは複数の修飾ヌクレオチドを含むか、または前記第2のオリゴヌクレオチドが、1つもしくは複数の修飾ヌクレオチドを含み、かつ前記第2の足場ポリヌクレオチド種の一部もしくはすべてが、1つもしくは複数の修飾ヌクレオチドを含み、ここで、
前記1つまたは複数の修飾ヌクレオチドが、別のオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチドまたは核酸分子への前記オリゴヌクレオチドの共有結合性連結を遮断することができる、そして前記オリゴヌクレオチドが、前記ssNAに隣接していない末端に前記1つまたは複数の修飾ヌクレオチドを含む、ならびに/あるいは
前記1つまたは複数の修飾ヌクレオチドが、別のオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチドまたは核酸分子への前記足場ポリヌクレオチド種の共有結合性連結を遮断することができる、そして前記足場ポリヌクレオチド種が、前記ポリヌクレオチドの一方または両方の末端に前記1つまたは複数の修飾ヌクレオチドを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記1つまたは複数の修飾ヌクレオチドが、ライゲーションを遮断する修飾を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記共有結合で連結されたハイブリダイゼーション産物を変性させるステップをさらに含み、それによって一本鎖ライゲーション産物が生成される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
(1)前記一本鎖ライゲーション産物と、第3のオリゴヌクレオチドとを、前記第3のオリゴヌクレオチドが、前記第1のオリゴヌクレオチドおよび前記第2のオリゴヌクレオチドのダイマーとハイブリダイズされる条件下で結合させるステップであって、それによって、オリゴヌクレオチドダイマーハイブリダイゼーション産物が形成され、ここで、前記オリゴヌクレオチドダイマーハイブリダイゼーション産物が、切断部位を含む、ステップ;
(2)前記オリゴヌクレオチドダイマーハイブリダイゼーション産物と切断剤とを接触させるステップ
をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記核酸組成物が、一本鎖DNA(ssDNA)を含むか、一本鎖RNA(ssRNA)を含むか、またはssDNAおよびssRNAを含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ssNAが前記第1のオリゴヌクレオチドおよび前記複数の第1の足場ポリヌクレオチド種と結合されたとき、前記ssNAの一方または両方のネイティブ末端が存在する、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ssNAが、無細胞核酸からのものである、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。」
以下、請求項番号に対応して、それぞれの請求項に係る発明を「本件発明1」、・・・「本件発明17」といい、本件発明1~17をまとめて「本件発明」ともいう。
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として、以下の甲第1号証乃至甲第20号証(以下、それぞれ「甲1」等と略記し、まとめて「甲号証」という。)を提出するとともに、申立書において、請求項1~17に係る本件特許に対して、概略以下の1に示す特許異議申立理由(以下「申立理由」という。)を主張する。
また、上記の経緯において提出された証拠方法は、以下の2に示すとおりである。
1 申立理由
(1)申立理由1(明確性要件違反)
本件特許の請求項1に記載された「前記ssNAも前記ssNAを含む核酸も、生物学的試料を取得した後かつ前記結合させるステップの前に修飾されない、ステップ」について、本件特許の請求項1に記載された「一本鎖核酸(ssNA)」は、一本鎖cDNA(sscDNA)が含まれるところ、cDNAの調製には、化学反応基の付加、酵素処理、PolyAやPolyTの付加、ポリッシングといった修飾を行うことは周知であって、既に修飾された一本鎖cDNAについて「修飾されない」ことを要求する記載は明らかに矛盾を含むものであり、請求項1に記載された「修飾されない」は、何を意味するかが明らかでなく、本件特許の明細書の記載を考慮しても、「修飾されていない/修飾された」の意味が不明であるから、本件特許の請求項1~17に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていないため、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(申立書11~13頁)。
(2)申立理由2(実施可能要件違反)
本件特許の請求項1に記載された複数の第1の足場ポリヌクレオチド種における各ポリヌクレオチドは、ssNAハイブリダイゼーション領域を含むものであるところ、当該sNAハイブリダイゼーション領域は限定がないため、ランダム配列のみならずその他様々な配列を含み得るものであるのに対し、本件特許の明細書及び図面には、該ssNAハイブリダイゼーション領域がランダム配列を含まずに、その他の様々な配列を含む場合に、本件特許の請求項1~17に記載された発明をどのように実施し、その効果を得るか、何ら記載されていないから、本件特許の明細書及び図面は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載していないことは明らかであり、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていないため、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(申立書13~14頁)。
(3)申立理由3(新規性欠如)
ア 請求項1~5、8、9、11~13、15~17に係る特許は、甲7の1に記載された発明であるから、これらの請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(申立書14~22頁)。
イ 請求項1~5、8、9、11~13、15~17に係る特許は、甲6に記載された発明であるから、これらの請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(申立書22~27頁)。
以下、上記ア、イの申立理由を、それぞれ「申立理由3-1」、「申立理由3-2」という。
(4)申立理由4(進歩性欠如)
ア 請求項1~5、8、9、11~13、15~17に係る特許は、甲7の1に記載された発明又は甲6に記載された発明並びに甲6、甲7の1を含む甲号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(申立書2、3、27~29頁)。
イ 請求項2、3、6、7、10、14、15に係る特許は、甲7の1に記載された発明又は甲6に記載された発明並びに甲7の1、甲6、甲1、甲3、甲4、甲14の1、甲15~甲19を含む甲号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(申立書2、3、29~38頁)。
ウ 請求項1に係る特許は、甲14の1に記載された発明又は甲7の1に記載された発明並びに甲14の1、甲7の1、甲1を含む甲号証に記載された事項基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(申立書2、3、38~40頁)。
以下、上記ア~ウの申立理由のうち、甲7の1を主引用例とする部分をまとめて「申立理由4-1」といい、
上記ア、イの申立理由のうち、甲6を主引用例とする部分をまとめて「申立理由4-2」といい、
上記ウの申立理由のうち、甲14の1を主引用例とする部分を「申立理由4-3」という。
2 証拠方法
申立人が提出した甲号証は以下のとおりである。表記は概ね証拠説明書に従った。
甲1:国際公開第2014/164466号
甲2:国際公開第2018/175997号
甲3:国際公開第2018/175258号
甲4:国際公開第2018/013837号
甲5:Harkins et al., Nucleic Acids Research, 2020, vol. 48, no 8, e47
甲6:Gansauge et al., Nucleic Acids Research, 2017, vol. 45, no. 10, e79
甲7の1:Raine et al., Nucleic Acids Research, 2017, vol. 45, no 6, e36
甲7の2:米国特許出願公開第2019/0194649号
甲8の1:Gansauge and Meyer “A Method for Single- Stranded Ancient DNA Library Preparation” in Beth Shapiro et al. (eds.), Ancient DNA: Methods and Protocols, Methods in Molecular Biology, vol.1963, pp.75-83
甲8の2:Springer Nature Link, https://doi.org/10.1007/978-1-4939-9176-1_9
甲9:Burnham et al., Scientific Reports, 6, 27859, DOI: 10.1038/srep27859, 14 June 2016
甲10:Snyder et al., Cell. 2016 January 14, 164, , 57-68, doi:10.1016/j.cell.2015.11.050
甲11:Stiller et al., Oncotarget, Vol. 7, No. 37, 24 July 2016
甲12:Aucamp et al., Biological Reviews, 2018, 93, pp.1649-1683
甲13:Head et al., BioTechniques, 2014, vol. 56, no. 2, pp.61-77
甲14の1:Kershaw et al., Recombinant and In Vitro RNA Synthesis, Springer Science + Business Media, pp.257-269, 2012
甲14の2:Springer Nature Link https://link.springer.com/protocol/10.1007/978-1-62703-113-4_19
甲15:米国特許出願公開第2016/177380号
甲16:国際公開第2019/222523号
甲17:国際公開第2019/237032号
甲18:Chen YR et al., A cost-effective method for Illumina small RNA-Seq library preparation using T4 RNA ligase I adenylated adapters. Plant Methods, 2012, 8(1), 41.
甲19:国際公開第2013/191775号
甲20:米国特許出願公開第2017/0101674号
第4 主な甲号証
本件特許の出願前に公表された甲6、甲7の1、甲14の1に記載された事項及びこれらに記載された発明は、以下のとおりである。外国語で記載された文献についてはその翻訳文を示す。下線は当審合議体による。
1 甲6に記載された事項及び甲6に記載された発明
(1) 甲6に記載された事項
甲6a 標題、要旨
「T4 DNA リガーゼを用いた高度に分解した DNA からの一本鎖 DNA ライブラリー調製」
「要旨
ゲノム DNA のハイスループットシーケンシングのための DNA ライブラリー調製には通常、二本鎖 DNA 断片へのアダプターのライゲーションが必要となる。しかしながら、高度に分解した DNA、特に古代 DNA については、二本の DNA 鎖をそれぞれ別々にライブラリー分子へと変換する方が、ライブラリー調製がより効率的となることが判明している。我々は、3’ビオチン化ドナーオリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせたランダム塩基のストレッチを有するスプリンターオリゴヌクレオチドを利用し、T4 DNA リガーゼを用いた一本鎖 DNA ライゲーションに基づく、新規な一本鎖ライブラリー調製法、「ssDNA2.0」を提示する。このライゲーションスキームの詳細な評価により、一本鎖 DNA は CircLigase(過去に一本鎖ライブラリー調製における末端間ライゲーションに選択されていた RNA リガーゼ)よりも高濃度でアダプターオリゴヌクレオチドにライゲーション可能であり、かつライゲーションの偏りは、7 又は 8 個のランダムヌクレオチドを含むスプリンターを選択する場合に最小化できることを示す。我々は、ssDNA2.0 では CircLigase ベースのライブラリー調製よりも多量の投入 DNA が許容され、よりコストが抑えられ、かつより自動化に適合していることを示す。また、様々な供給源からの分解した DNA に対するライブラリー調製法の徹底的な比較も提供する。最も顕著な発見は、一本鎖ライブラリー調製法を用いると、ホルマリン中で長年保存された組織からのライブラリーの収量が数桁増加することである。」
甲6b 2頁の図1
「
[図:0001434184000001.jpg]
図1.高度に分解したDNA のライブラリー調製法。(A)ここで説明する一本鎖ライブラリー調製法(ssDNA2.0)では、DNA 断片(黒)は5'及び3'末端を脱リン酸化され、熱変性により一本鎖に分離される。3'ビオチン化アダプター分子(赤)は、アダプターと相補的なスプリンターオリゴヌクレオチドに含まれる6 個のランダムヌクレオチド(「N」と表示)のストレッチとのハイブリダイゼーション、及びT4 DNA リガーゼによるニック閉鎖を介してDNA 断片の3'末端に結合される。ストレプトアビジン被覆ビーズ上へのライゲーション産物の固定化後、スプリンターオリゴヌクレオチドは高温でのビーズ洗浄により除去される。第2 鎖の合成は、大腸菌DNA ポリメラーゼI のクレノウフラグメント及びエキソヌクレアーゼ作用による分解を防ぐためのホスホロチオエート骨格修飾(赤星)を有するプライマーを用いて実施する。取り込まれなかったプライマーは高温でのビーズ洗浄により除去される。これにより、T4 DNA リガーゼにより再度触媒される、その後の平滑末端ライゲーション反応におけるアダプターダイマーの形成が防止される。アダプターの自己ライゲーションは、アダプター中の3’ジデオキシ修飾により防止される。最終ライブラリー鎖は熱変性によりビーズから解放される。・・・(B)Gansauge 及びMeyer の文献(4)で最初に記述された一本鎖ライブラリー調製法では、・・・ (C)Meyer 及びKircher の文献(23)の実施における二本鎖ライブラリー調製の「454」法は、・・・ (D)ここに示すNew England Biolab 社のNEBNext Ultra II キットに実装されている「Illumina」二本鎖ライブラリー調製法には、・・・」
(2) 甲6に記載された発明
甲6には、3’ビオチン化ドナーオリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせたランダム塩基のストレッチを有するスプリンターオリゴヌクレオチドを利用し、T4 DNAリガーゼを用いた一本鎖DNAライゲーションに基づく一本鎖ライブラリーを調製する方法が記載されており(甲6a)、具体的には、5’末端及び3’末端を脱リン酸化し、熱変性により一本鎖に分離されたDNA断片を含む溶液と、3’末端をビオチン化したアダプター分子を混合し、当該アダプター分子と相補的な配列を含み、かつ、6個のランダムヌクレオチドを含むスプリンターオリゴヌクレオチドを用いて、当該DNA断片の3’末端と、当該アダプター分子の5’末端が隣接するハイブリダイゼーション産物を形成し、当該DNA断片と当該アダプター分子とをT4 DNAリガーゼにより結合させた後、アダプター分子を除去して伸長プライマーを用いてDNA合成を行い、その後、二重鎖アダプターを結合して一本鎖DNAを分離することが記載されている(甲6bのA)。ここで、当該スプリンターオリゴヌクレオチドの「アダプター分子と相補的な配列」は、当該アダプター分子の5’末端領域とハイブリダイズし、「6個のランダムヌクレオチド」は、DNA断片の3’末端領域とハイブリダイズするものである。
したがって、甲6には、以下の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されていると認める。
「一本鎖ライブラリーを調製する方法であって、
熱変性により一本鎖に分離されたDNA断片と、3’末端をビオチン化したアダプター分子を、当該アダプター分子と相補的な配列を含み、かつ、6個のランダムヌクレオチドを含むスプリンターオリゴヌクレオチドを用いて、当該DNA断片の3’末端と、当該アダプター分子の5’末端が隣接するハイブリダイゼーション産物を形成し、当該DNA断片と当該アダプター分子とを結合させた後、アダプター分子を除去して伸長プライマーを用いてDNA合成を行い、その後、二重鎖アダプターを結合して一本鎖DNAを分離することを含み、当該スプリンターオリゴヌクレオチドの「アダプター分子と相補的な配列」は、当該アダプター分子の5’末端領域とハイブリダイズし、「6個のランダムヌクレオチド」は、DNA断片の3’末端領域とハイブリダイズする、方法。」
2 甲7の1に記載された事項及び甲7の1に記載された発明
(1) 甲7の1に記載された事項
甲7の1a 標題及び要旨
「全ゲノム重亜硫酸塩シーケンシングのための新しいライブラリー調製法、SPlinted Ligation Adapter Tagging (SPLAT)」
「要旨
DNAの亜硫酸水素ナトリウム処理と次世代シーケンシング(NGS)を組み合わせることで、ゲノムワイドなDNAメチル化プロファイルの解析が可能になる。全ゲノム亜硫酸水素ナトリウムシーケンシング(WGBS)のためのライブラリー調製は、亜硫酸水素ナトリウム処理の副作用(広範なDNA損傷につながる)のために困難である。最近、亜硫酸水素ナトリウムシーケンシングライブラリ調製のための新世代の方法が考案された。これらの方法は、DNAを最初に亜硫酸水素ナトリウム処理し、続いて一本鎖DNA断片にアダプタータグを付与することで、少量のDNA入力でWGBSを実施できる。本研究では、亜硫酸水素ナトリウム処理された一本鎖DNAのスプリントアダプタータグ(SPLAT)に基づく、迅速かつ費用対効果の高いWGBSライブラリー調製のための新たなアプローチを提示する。さらに、SPLAT を市販の WGBS ライブラリー調製技術 3 つと比較して検証した。そのうち 2 つはアダプタータグ付け前の亜硫酸水素塩処理に基づいており、もう 1 つは従来の WGBS 方法である。」
甲7の1b 2頁左欄第2、3段落
「ライブラリー構築物の損傷を回避するために、シーケンスアダプターを亜硫酸水素塩処理後に組み込む方法(以下「ポスト亜硫酸水素塩」方法と呼ぶ。)が設計されている(19,20)。先駆的なポスト亜硫酸水素塩法であるPBAT(ポスト亜硫酸水素塩アダプタータグ付け)では、シーケンスアダプターは、亜硫酸水素塩に変換されたssDNAを最初のテンプレートとして使用して、2ラウンドのランダムプライマー伸長によって付加される。PBATは、ナノグラム範囲のDNA量からPCRフリーのWGBSライブラリーを構築することを可能にした(19)。そして、イルミナのTruSeq DNAメチル化キット(図1)などのさらなる開発への道を開いた。・・・。
本稿では、一本鎖亜硫酸水素塩処理DNA断片からライブラリーを調製するための新しいプロトコルである、スプリントアダプタータギング(SPLAT)について述べる。亜硫酸水素塩処理後のWGBS法が、生成されるシーケンシングデータの品質に及ぼす影響についての知見が不十分であったことから、SPLATの性能を市販の重亜硫酸塩処理後キット2種類(TruSeq DNA Methylation、Accel NGS Methyl-Seq)、従来のWGBS法1種類、そして他の一般的な標的アプローチ(RRBS、SureSelect Methyl-Seqによるターゲットキャプチャ、450k BeadArrays)と比較評価し、異なる手法間でのDNAメチル化データの一致性を確認した。」
甲7の1c 2頁右欄1~2段落
「全ゲノム亜硫酸水素シーケンシングライブラリ調製のためのスプリントアダプタータグ付け(SPLAT)プロトコル
アダプターアニーリング オリゴヌクレオチドは Integrated DNA Technologies 社より購入した。3’アダプター;ss1(5’GACGTGTGCTCTTCCGATCTNNNNNN-3’-アミノ修飾剤及び5’P-AGATCGGAAGAGCACACGTC)並びに 5’アダプター;ss2(5’-ACACGACGCTCTTCCGATCT 及び 5’NNNNNNAGATCGGAAGAGCGTCGTGT)はアダプターペアの 2 つのオリゴヌクレオチドを、100 mMNaCl、10 mM Tris-HCl(pH 8.0)、0.5 mM EDTA を含む 50 μl の溶液中で、最終濃度100 μM になるように混合して調製した。オリゴヌクレオチドは、混合物を 95℃まで加熱し、その後 10℃までゆっくりと温度を下げることでアニーリングした。
ライブラリー構築 ゲノム DNA を 300~400 bp にせん断(Covaris E220 System)し、亜硫酸水素ナトリウム(EZ DNA Methylation Gold, Zymo Research)で処理した。変換された DNA は、まず 5 単位のポリヌクレオチドキナーゼ(Thermo Fisher Scientific)を用いて、T4 DNA リガーゼバッファー(下記バッファー組成参照)中で総量 15 μl、37℃で15 分間処理した。反応混合物を加熱蓋付きサーマルサイクラー中で 95℃で 3~5 分間加熱し、その後氷水浴で冷却した。3’末端ライゲーションには、アダプターss1(最終濃度 10μM)、T4 DNA リガーゼバッファー(40 mM Tris-HCl pH 7.8、10 mM MgCl2、10 mM DTT、0.5 mM ATP)、PEG4000(5% w/v)、及び T4 DNA リガーゼ(Thermo Fisher Scientific)30単位、並びにヌクレアーゼフリー水を 30 μl の総容量となるように氷上で試料に加えた。ライゲーション反応混合物を 20℃で 1 時間インキュベートし、その後 AMPureXP ビーズ(BeckmanCoulter)を用いて 2:1 のビーズ対試料比で精製し、10 μl のヌクレアーゼフリー水で溶出させた。溶出した DNA は、加熱蓋付きサーマルサイクラーで 95℃で 3~5 分間加熱した後、氷水浴で冷却した。5'末端ライゲーションには、ss2(最終濃度 10 μM)、T4 DNA ライゲーションバッファー、PEG4000(5%、w/v)、30 単位の T4 DNA リガーゼ(Thermo Fisher Scientific)、およびヌクレアーゼフリーH2O を氷上で試料に添加し、総容量 20 μl とした。ライゲーション反応混合物を 20℃で 1 時間インキュベートし、AMPureXP ビーズを用いて 2:1 のビーズ対試料比で精製し、10 μl のヌクレアーゼフリー水で溶出させた。ライブラリーは KAPA HiFi Uracil + ReadyMix(KAPA Biosystems)及び以下のオリゴヌクレオチドを用いて 4 サイクルにわたり増幅した:
5’-AATGATACGGCGACCACCGAGATCTACACTCTTTCCCTACACGACGCTCTTCCGATCT-3’、
5’-CAAGCAGAAGACGGCATACGAGATX6GTGACTGGAGTTCAGACGTGTGCTCTTCCGATCT-3’
ここで X6はIllumina インデックスバーコード配列を示す。最終ライブラリーは AMPure XP ビーズを用いて、ビーズ対試料比 1:1 で 2 回精製した。さらなる詳細については補足情報参照。」
甲7の1d 3頁の図1
「
[図:0001434184000002.jpg]
図 1.全ゲノム亜硫酸水素シーケンシングのためのライブラリー調製法の原理。・・・SPLAT プロトコルでは、突出したランダムヘキサマーを有するアダプターを一本鎖 DNA の 3'末端にアニーリングさせる。ランダムヘキサマーは「スプリント」として機能し、アダプター配列は標準的な T4 DNA ライゲーションを用いて一本鎖 DNA の 3'末端にリライゲーションされる。ランダムヘキサマーの末端 3’残基の修飾は、アダプターの自己ライゲーションを防止するために必要となる。第 2 のステップでは、5'末端にランダムヘキサマーのオーバーハングを有するアダプターをアニーリングさせ、同様に T4 DNA リガーゼを用いて一本鎖 DNA の 5'末端にライゲーションさせる。最後に、SPLAT ライブラリーをウラシル読み取りポリメラーゼを用いて PCR 増幅する。」
甲7の1d 4頁右欄2段落
「結果
全ゲノム亜硫酸水素シーケンシングライブラリ調製のためのスプリントアダプタータグ付け(SPLAT)
本研究では、亜硫酸水素塩により変換された一本鎖 DNA 断片へのシーケンシングアダプターの効率的なライゲーションのための新たな概念を導入する代替的方法である SPLAT を開発した。SPLAT 法は、スプリントオリゴヌクレオチド(29)を利用して短い dsDNA 断片のストレッチを生成し、これにより続いて ssDNA のライゲーションよりも効率的な、T4DNAリガーゼを用いた標準的な dsDNA ライゲーションによりシーケンシングアダプターをライゲーションさせることが可能となる。図 1 に概要を示す SPLAT は(本研究で使用した WGBSのための他のライブラリー法とともに)、手頃な市販酵素を使用する高感度な手法である。100 ng の投入 DNA を用い、わずか 4 サイクルの PCR 増幅(KAPA HiFi Uracil+ポリメラーゼを使用)に付される SPLAT を使用することにより、全ゲノム亜硫酸水素シーケンシング(WGBS)に十分な量のライブラリーが得られる。ライブラリーサイズのプロファイル及びライブラリー定量の結果は、補足図 S3 及び S4 に示されている。亜硫酸水素塩による変換後、ランダムな 3'オーバーハングを含む短鎖二本鎖アダプター(20 ヌクレオチド)を ssDNA の 3'末端にアニーリングし、T4 DNA リガーゼを用いてライゲーションさせる。同様に第 2 ステップでは、ssDNA の 5'末端をランダムな 5'オーバーハングを含むアダプターを用いてライゲーションさせる。第 1 のライゲーションステップにおけるアダプターの自己ライゲーションを防止するため、アミノ修飾(3'アミノ修飾剤、Integrated DNA Technologies 社製)をランダムヘキサマーオリゴ中の 3'末端ヌクレオチドに付加する。第 2 のライゲーションステップではオリゴ修飾は不要である。ライブラリーはその後、ウラシル塩基を読むことができ、Illumina フローセル結合配列及びインデックス配列を含むオリゴに適合する KAPA HiFi Uracil+ポリメラーゼを利用して PCR により増幅される。」
(2) 甲7の1に記載された発明
甲7の1には、亜硫酸水素ナトリウム処理された一本鎖DNAのスプリントアダプタータグ(SPLAT)に基づくライブラリーを調製する方法が記載されており(甲7の1a、b)、具体的には、ゲノムDNAを300~400bpにせん断し、亜硫酸水素ナトリウムで処理することによって変換されたDNAを含む溶液に対し、ポリヌクレオチドキナーゼで処理をした後、当該DNAの3’末端とランダムヘキサマー3’オーバーハングを含む短鎖二本鎖アダプターであるss1とをT4 DNAリガーゼによりライゲーションを行ってライゲーション反応混合物を得て、その後、当該DNAの5’末端とランダムヘキサマー5’オーバーハングを含む短鎖二本鎖アダプターであるss2とをT4 DNAリガーゼによりライゲーションを行ってライゲーション反応混合物を得たこと(甲7の1c~e)が記載されている。
したがって、甲7の1には、以下の発明(以下「甲7の1発明」という。)が記載されていると認める。
「亜硫酸水素ナトリウム処理された一本鎖DNAのスプリントアダプタータグ(SPLAT)に基づくライブラリーを調製する方法であって、
ゲノムDNAを300~400bpにせん断し、亜硫酸水素ナトリウムで処理することによって変換されたDNAを含む溶液に対し、ポリヌクレオチドキナーゼで処理をした後、当該DNAの3’末端とランダムヘキサマー3’オーバーハングを含む短鎖二本鎖アダプターであるss1とをハイブリダイズさせ、両者をT4 DNAリガーゼによりライゲーションを行ってライゲーション反応混合物を得て、その後、当該DNAの5’末端とランダムヘキサマー5’オーバーハングを含む短鎖二本鎖アダプターであるss2とをハイブリダイズさせ、両者をT4 DNAリガーゼによりライゲーションを行ってライゲーション反応混合物を得ることを含む、方法。」
3 甲14の1に記載された事項及び甲14の1に記載された発明
(1) 甲14の1に記載された事項
甲14の1a 標題、要旨
「T4 DNAリガーゼによるRNAのスプリントライゲーション」
「要旨
特定のRNA分子を連結するRNAのスプリントライゲーションは、T4 DNAリガーゼと、RNAと相補的な架橋DNAオリゴヌクレオチドを用いて行うことができる。この方法は、RNA:DNAハイブリッド構造にあるRNA分子を連結するT4 DNAリガーゼの特性を利用している。スプリントライゲーションは、RNA分子への修飾ヌクレオチドの導入、RNA内の特定の位置への放射性標識の挿入、そしてより小さな合成RNAからより長いRNA分子への組み立てに有用なツールである。このような修飾により、修飾RNAを用いた構造研究、共免疫沈降、RNA:RNAおよびRNA:タンパク質相互作用部位のマッピングなど、幅広い実験が可能になる。」
甲14の1b 260頁の図2
「
[図:0001434184000003.jpg]
図2.2つのRNA分子を用いた典型的なスプリントライゲーションの模式図。まず、3’ RNAの5’末端をT4ポリヌクレオチドキナーゼ(PNK)を用いて32Pで標識する。続いて標識された3’ RNAを5’ RNAと混合し、架橋DNAオリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせる。続いてT4 DNAリガーゼにより、RNA:DNAハイブリッド中の2つのRNAのライゲーションを触媒することができる。最後に、ライゲーション産物を反応中の他の分子から精製する。」
(2) 甲14の1に記載された発明
甲14の1には、T4 DNAリガーゼによるRNAのスプリントライゲーションに関する方法が記載されており(甲14の1a)、具体的には、5’末端を32Pで標識したRNA(3’RNA)と、もう一つのRNA(5’RNA)とを、これらのRNAと相補的な架橋DNAオリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせてRNA:DNAハイブリッドを形成させた後、T4 DNAリガーゼにより、RNA:DNAハイブリッド中の3’RNAと5’RNAをライゲーションすることによって、ライゲーション産物を得る方法(甲14の1b)が記載されている。
したがって、甲14の1には、以下の発明(以下「甲14の1発明」という。)が記載されていると認める。
「T4 DNAリガーゼによるRNAのスプリントライゲーションに関する方法であって、5’末端を32Pで標識したRNA(3’RNA)を含む組成物に、もう一つのRNA(5’RNA)を混合し、これらのRNAと相補的な架橋DNAオリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせてRNA:DNAハイブリッドを形成させた後、T4 DNAリガーゼにより、RNA:DNAハイブリッド中の3’RNAと5’RNAをライゲーションすることによって、ライゲーション産物を得る方法。」
第5 当審の判断
本件特許の請求項1~17に係る特許は、申立理由1~4のいずれの理由によっても、取り消すことはできない。
その理由は、以下のとおりである。
1 申立理由1(明確性要件違反)について
本件特許の請求項1に記載された「生物学的試料を取得した後かつ前記結合させるステップの前に修飾されない」について、本件特許の明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0191】には、「一部の実施形態では、標的核酸(例えば、ssNA)は、本明細書における足場アダプターまたはそれらの成分と結合させるステップの前に、長さに関して修飾されない。この文脈での「修飾されない」は、標的核酸が試料から単離され、次いで、標的核酸の長さも組成も修飾することなく、足場アダプターまたはそれらの成分と結合されることを意味する。」、「標的核酸(例えば、ssNA)の一方または両方の末端へのリン酸基または化学反応性基の付加は、一般に、核酸の修飾とも、核酸の長さの修飾とも見なされない。」と記載されている。
そうすると、請求項1に記載された「ssNA(一本鎖核酸)」が「修飾されない」とは、末端へのリン酸基や化学反応性基の付加は許容しつつ、ssNAの核酸の長さや組成に変更がないことを意味すると理解できるから、請求項1に記載された「ssNA(一本鎖核酸)」が「一本鎖cDNA(sscDNA)」を含むものであったとしても、cDNAの調製において行う周知の修飾として申立人が列挙した「化学反応基の付加、酵素処理、PolyAやPolyTの付加、ポリッシング」のうち、核酸の長さや組成が変化するものは、本件特許でいう「修飾」に該当し、変化しないものは該当しないことが、当業者であれば理解できる。また、核酸の「長さ」とは、核酸において、塩基配列を定める塩基の数であると解すべきことは当業者に明らかである。さらに、一本鎖cDNAについて「修飾されない」ことを要求することが、技術的に矛盾を含むものでもない。
したがって、本件特許の請求項1及びこれを引用する請求項2~17の記載は、明確である。
申立人は、申立書において、本件明細書の段落【0146】には、cDNAの調製に必然的に伴う修飾である「末端処理」が列記されていることからみて、cDNAを伴うssNAを本件特許発明の方法で用いる場合、修飾である「末端処理」されたものを排除することは困難であるから、請求項1に記載された「修飾されない」の意味する範囲は不明である旨を主張する(申立書12~13頁)。
確かに、本件明細書の段落【0146】の第1文には、「末端処理」について、「一部の実施形態では、本明細書における方法は、一本鎖核酸(ssNA)を含む核酸組成物と、末端処理活性を有する薬剤とを、一本鎖核酸(ssNA)分子が処理される条件下で接触させるステップを含み、それによって、末端処理されたssNA組成物が生成される。」と記載されている。
しかしながら、同段落の第2、3文における説明は、「末端処理」についての一般的な説明と理解することができ、同段落の第2、3文に列記された処理が、同段落の第1文の「末端処理」に含まれると解すべき事情は見あたらないから、本件特許の請求項1の「ssNA(一本鎖核酸)」が「修飾されない」ことの定義を変更するものではない。
そして、請求項1に記載された「ssNA(一本鎖核酸)」が「修飾されない」とは、末端へのリン酸基や化学反応性基の付加は許容しつつ、ssNAの核酸の長さや組成に変更がないと理解できることは、既に説示したとおりであって、この判断は、本件明細書の段落【0146】の記載に左右されるものではない。
したがって、申立人の上記主張は、採用することができない。
2 申立理由2(実施可能要件違反)について
本件明細書の段落【0087】、【0088】、【0207】の記載は、以下のとおりである。
「【0087】
一部の実施形態では、方法は、ssNA組成物と、オリゴヌクレオチドと、不確定配列の末端領域を有するssNAの不均一集団のための足場として作用することができる様々なランダムssNAハイブリダイゼーション領域を有する複数の不均一足場ポリヌクレオチドとを結合させることにより、複合体を形成するステップを含む。」
「【0088】
一部の実施形態では、ssNAハイブリダイゼーション領域は、既知配列のssNA末端領域とハイブリダイズするように設計された既知配列を含む。一部の実施形態では、既知配列の異なるssNAハイブリダイゼーション領域を有する2つまたはそれより多くの不均一足場ポリヌクレオチドは、既知配列のそれぞれのssNA末端領域とハイブリダイズするように設計される。ssNAハイブリダイゼーション領域が既知配列を有する実施形態は、例えば、既知配列の末端領域を有するssNAのサブセットからの核酸ライブラリーの生成に、有用であり得る。したがって、ある特定の実施形態では、本明細書における方法は、ssNA組成物と、オリゴヌクレオチドと、既知配列の1つまたは複数の末端領域を有する1つまたは複数のssNAのための足場として作用することができる既知配列の1つまたは複数の異なるssNAハイブリダイゼーション領域を有する1つまたは複数の不均一足場ポリヌクレオチドとを結合させることにより、複合体を形成するステップを含む。」
「【0207】
一部の実施形態では、足場アダプターは、標的核酸を濃縮するために使用される。例えば、図51に示されているように、足場アダプターを、ssNAハイブリダイゼーション領域内の塩基の一部またはすべてが定義されたまたは既知の塩基であるように、設計することができる。これらの足場アダプターは、足場アダプターssNAハイブリダイゼーション領域の定義されたまたは既知の塩基に相補的な配列を有する標的核酸と優先的にハイブリダイズすることができ、それによって、得られるライブラリー内の標的核酸が濃縮される。・・・」
上記のとおり、本件明細書の段落【0087】、【0088】、【0207】には、本件特許の請求項1に記載された「ssNAハイブリダイゼーション領域」が、ランダム配列だけでなく、既知配列のssNA末端領域とハイブリダイズするように設計された既知配列を含むことが記載されている。
そうすると、本件明細書の記載に接した当業者は、本件特許の請求項1に記載された「ssNAハイブリダイゼーション領域」には、「既知配列のssNA末端領域とハイブリダイズするように設計された既知配列」が含まれることを理解できるし、また、ハイブリダイズすれば本件発明の次の工程であるIIの工程によりライゲーションできることも理解できるから、ランダム配列だけでなく「既知配列のssNA末端領域とハイブリダイズするように設計された既知配列」である場合においても、本件特許の請求項1~17に係る発明を実施し、その効果が得られることを理解できるといえる。
したがって、本件特許の明細書及び図面は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、本件特許の請求項1及びこれを引用する請求項2~17に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
3 申立理由3(新規性欠如)、申立理由4(進歩性欠如)について
3-1 甲7の1を主引例とする新規性欠如及び進歩性欠如(申立理由3-1、申立理由4-1)
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲7の1発明とを対比する。
甲7の1発明の「ゲノムDNAを300~400bpにせん断し、亜硫酸水素ナトリウムで処理することによって変換されたDNA」を用いた「亜硫酸水素ナトリウム処理された一本鎖DNAのスプリントアダプタータグ(SPLAT)に基づくライブラリーを調製する方法」と、本件発明1の「一本鎖核酸結合タンパク質(SSB)と結合されておらず、生物学的試料を取得した後から結合させるステップの前までの間に核酸の長さや組成についての修飾がされてない」「一本鎖核酸(ssNA)を含む核酸組成物」を用いた「核酸ライブラリーを生成する方法」とは、「一本鎖核酸」を用いた「核酸ライブラリーを生成する方法」である点に限り、一致する。
甲7の1発明の「ランダムヘキサマー3’オーバーハングを含む短鎖二本鎖アダプターであるss1」のうち、「ランダムヘキサマー3’オーバーハング」を含む短鎖一本鎖部分は、変換されたDNAをハイブリダイズする領域を含むものであり、残りの短鎖一本鎖部分は、「ランダムヘキサマー3’オーバーハング」を含む短鎖一本鎖部分とハイブリダイズする領域を含むものであるから、甲7の1発明の「ランダムヘキサマー3’オーバーハングを含む短鎖二本鎖アダプターであるss1」のうち、「ランダムヘキサマー3’オーバーハング」を含む短鎖一本鎖部分は、本件発明1の「ssNAハイブリダイゼーション領域」を含む「複数の第1の足場ポリヌクレオチド種」に相当し、残りの短鎖一本鎖部分は、本件発明1の「第1のオリゴヌクレオチド」に相当する。
そうすると、甲7の1発明の「当該DNAの3’末端とランダムヘキサマー3’オーバーハングを含む短鎖二本鎖アダプターであるss1とをハイブリダイズさせ」る工程は、本件発明1の工程IのAに相当し、甲7の1発明の「両者をT4 DNAリガーゼによりライゲーションを行ってライゲーション反応混合物を得」る工程は、本件発明1の工程IIの「前記第1のオリゴヌクレオチドおよび前記第1のssNA末端領域の隣接している末端を共有結合で連結させ」「それによって共有結合で連結されたハイブリダイゼーション産物を生成するステップ」に相当する。
また、甲7の1発明の「DNAの5’末端とランダムヘキサマー5’オーバーハングを含む短鎖二本鎖アダプターであるss2」のうち、「ランダムヘキサマー5’オーバーハング」を含む短鎖一本鎖部分は、変換されたDNAをハイブリダイズする領域を含むものであり、残りの短鎖一本鎖部分は、「ランダムヘキサマー5’オーバーハング」を含む短鎖一本鎖部分とハイブリダイズする領域を含むものであるから、甲7の1発明の「DNAの5’末端とランダムヘキサマー5’オーバーハングを含む短鎖二本鎖アダプターであるss2」のうち、「ランダムヘキサマー5’オーバーハング」を含む短鎖一本鎖部分は、本件発明1の「ssNAハイブリダイゼーション領域」を含む「複数の第2の足場ポリヌクレオチド種」に相当し、残りの短鎖一本鎖部分は、本件発明1の「第2のオリゴヌクレオチド」に相当する。
そうすると、甲7の1発明の「当該DNAの5’末端とランダムヘキサマー5’オーバーハングを含む短鎖二本鎖アダプターであるss2とをハイブリダイズさせ」る工程は、本件発明1の工程IのBに相当し、甲7の1発明の「両者をT4 DNAリガーゼによりライゲーションを行ってライゲーション反応混合物を得」る工程は、本件発明1の工程IIの「前記第2のオリゴヌクレオチドおよび前記第2のssNA末端領域の隣接している末端を共有結合で連結させ」「それによって共有結合で連結されたハイブリダイゼーション産物を生成するステップ」に相当する。
したがって、本件発明1と甲7の1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「核酸ライブラリーを生成する方法であって、
I.(i)一本鎖核酸(ssNA)を含む核酸組成物と、(ii)第1のオリゴヌクレオチドと、(iii)複数の第1の足場ポリヌクレオチド種と、(iv)第2のオリゴヌクレオチドと、(v)複数の第2の足場ポリヌクレオチド種とを結合させるステップであって、
(a)前記複数の第1の足場ポリヌクレオチド種における各ポリヌクレオチドが、ssNAハイブリダイゼーション領域および第1のオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション領域を含み;
(b)前記複数の第2の足場ポリヌクレオチド種における各ポリヌクレオチドが、ssNAハイブリダイゼーション領域および第2のオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション領域を含み;
(c)前記核酸組成物、前記第1のオリゴヌクレオチド、前記複数の第1の足場ポリヌクレオチド種、前記第2のオリゴヌクレオチド、および前記複数の第2の足場ポリヌクレオチド種が、
A.前記第1の足場ポリヌクレオチド種の分子が(i)第1のssNA末端領域および(ii)前記第1のオリゴヌクレオチドの分子とハイブリダイズされ、それによって、前記第1のオリゴヌクレオチドの前記分子の末端が前記第1のssNA末端領域の末端に隣接しているハイブリダイゼーション産物を形成するものであり、
B.前記第2の足場ポリヌクレオチド種の分子が(i)第2のssNA末端領域および(ii)前記第2のオリゴヌクレオチドの分子とハイブリダイズされ、それによって、前記第2のオリゴヌクレオチドの前記分子の末端が前記第2のssNA末端領域の末端に隣接しているハイブリダイゼーション産物を形成するものであって、
II.前記第1のオリゴヌクレオチドおよび前記第1のssNA末端領域の隣接している末端を共有結合で連結させ、かつ前記第2のオリゴヌクレオチドおよび前記第2のssNA末端領域の隣接している末端を共有結合で連結させ、それによって共有結合で連結されたハイブリダイゼーション産物を生成するステップ
を含む、方法。」
<相違点>
相違点1 一致点における工程Iの「結合させるステップ」について、本件発明1では、前記(c)の条件Aと条件Bとが「かつ」で結ばれた条件下で結合されることが特定されていることから、両者を同時に満足する条件下で行われるのに対し、甲7の1発明では、まず「当該DNAの3’末端とランダムヘキサマー3’オーバーハングを含む短鎖二本鎖アダプターであるss1とをハイブリダイズさせ、両者をT4 DNAリガーゼによりライゲーションを行ってライゲーション反応混合物を得て」から「その後、当該DNAの5’末端とランダムヘキサマー5’オーバーハングを含む短鎖二本鎖アダプターであるss2とをハイブリダイズさせ、両者をT4 DNAリガーゼによりライゲーションを行ってライゲーション反応混合物を得る」ことが特定されていることから、条件Aと条件Bの一方だけを満足する条件下で、順次行われる点。
相違点2 「一本鎖核酸」を用いた「核酸ライブラリーを生成する方法」について、本件発明1は、「一本鎖核酸結合タンパク質(SSB)と結合されておらず、生物学的試料を取得した後から結合させるステップの前までの間に核酸の長さや組成についての修飾がされてない」「一本鎖核酸(ssNA)を含む核酸組成物」を用いた「核酸ライブラリーを生成する方法」であるのに対し、甲7の1発明は、「ゲノムDNAを300~400bpにせん断し、亜硫酸水素ナトリウムで処理することによって変換されたDNA」を用いた「亜硫酸水素ナトリウム処理された一本鎖DNAのスプリントアダプタータグ(SPLAT)に基づくライブラリーを調製する方法」である点。
イ 相違点1についての判断
工程Iの「結合させるステップ」は、ハイブリダイゼーションを生じさせる工程であるが、この工程Iの(c)の条件として、所定の条件Aと条件Bの両者を同時に満足する条件下で、工程Iの「結合させるステップ」を行うことと、両者の一方だけを満足する条件下で、工程Iの「結合させるステップ」を順次行うことは、技術的にみて同じ条件であるとはいえない。
したがって、相違点1は、実質的な相違点であるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲7の1に記載された発明に該当しない。
甲7の1には、全ゲノム亜硫酸水素ナトリウムシーケンシング(WGBS)法における品質をDNAメチル化のデータによって評価しようとすることが記載されている(甲7の1b)ものの、工程Iの(c)を、所定の条件Aと条件Bの両者を同時に満足する条件下で行うことについて記載も示唆もない。
また、申立人が提出した甲6、甲14の1、甲1、甲3、甲4、甲15~甲19を含む甲号証をみても、工程Iの(c)を、所定の条件Aと条件Bの両者を同時に満足する条件下で行うことが示唆されているとはいえない。
したがって、甲7の1発明において、工程Iの(c)を、所定の条件Aと条件Bの両者を同時に満足する条件下で行うものとして、相違点1に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者といえども容易になし得たとはいえない。
ウ 効果について
本件特許の明細書には、P5とP7足場アダプター両方の組合せを用いること、すなわち、所定の条件Aと条件Bの両者を同時に満足する条件下で工程Iの(c)を行うことによって、適切なライブラリーが、5分ほども短いインキュベーション時間で生成されたこと(実施例1)、一本鎖DNAライブラリー調製方法をRNAに応用することによって、より少ない酵素的ステップ、時間や試薬の節約に加えて、第2鎖合成を完全に省くことができるといった利益があること(実施例2)、アダプターと結合する前にssNAを切断などにより修飾せず、サンプル核酸の末端情報を保存し、これを有効に利用できること(実施例4)が記載されており、このような本件発明1の奏する効果は、申立人が提出した甲7の1、甲6、甲14の1、甲1、甲3、甲4、甲15~甲19を含む甲号証に示唆されるものではなく、本件特許の出願時の技術常識を踏まえても、当業者が予測できたものとはいえない。
(2)本件発明2~17について
本件発明2~5、8、9、11~13、15~17は、本件発明1を引用するものであるから、甲7の1発明と対比すると、少なくとも相違点1の点で相違するものである。
また、本件発明6、7、10、14も、本件発明1を引用するものであるから、甲7の1発明と対比すると、少なくとも相違点1の点で相違するものである。
そして、上記(1)イで説示したように、相違点2について検討するまでもなく、相違点1は実質的な相違点であって、当業者が容易に想到し得たものではない。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、請求項1~5、8、9、11~13、15~17に係る特許は、甲7の1に記載された発明に該当せず、また、請求項1~17に係る特許は、甲7の1に記載された発明及び甲6、甲7の1、甲1、甲3、甲4、甲14の1、甲15~甲19を含む甲号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3-2 甲6を主引例とする新規性欠如及び進歩性欠如(申立理由3-2、申立理由4-2)
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲6発明とを対比する。
甲6発明のDNA断片は、一本鎖核酸結合タンパク質(SSB)と結合されておらず、生物学的試料を取得した後から結合させるステップの前までの間に核酸の長さや組成についての修飾がされてないものであるから、甲6発明の「熱変性により一本鎖に分離されたDNA断片を含む溶液」を用いた「一本鎖ライブラリーを調製する方法」は、本件発明1の「一本鎖核酸結合タンパク質(SSB)と結合されておらず、生物学的試料を取得した後から結合させるステップの前までの間に核酸の長さや組成についての修飾がされてない」「一本鎖核酸(ssNA)を含む核酸組成物」を用いた「核酸ライブラリーを生成する方法」に相当する。
甲6発明の「3’末端をビオチン化したアダプター分子」は、「スプリンターオリゴヌクレオチド」と「相補的な配列」を有するものであるから、本件発明1の「複数の第1の足場ポリヌクレオチド種」にハイブリダイズする「第1のオリゴヌクレオチド」に相当する。
甲6発明の「アダプター分子と相補的な配列を含み、かつ、6個のランダムヌクレオチドを含むスプリンターオリゴヌクレオチド」は、「アダプター分子と相補的な配列」を含むことから、アダプター分子をハイブリダイズするものであり、かつ、「6個のランダムヌクレオチドを含むスプリンターオリゴヌクレオチド」が「DNA断片」と「ハイブリダイゼーション産物を形成」するものであるから、本件発明1の「ssNAハイブリダイゼーション領域および第1のオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション領域」を含む「複数の第1の足場ポリヌクレオチド種」に相当する。
そうすると、甲6発明の「熱変性により一本鎖に分離されたDNA断片」と「3’末端をビオチン化したアダプター分子」を「スプリンターオリゴヌクレオチド」を用いて「ハイブリダイゼーション産物を形成」する工程は、本件発明1の工程IのAに相当し、甲6発明の「当該DNA断片と当該アダプター分子とを結合」させる工程は、本件発明1の工程IIの「前記第1のオリゴヌクレオチドおよび前記第1のssNA末端領域の隣接している末端を共有結合で連結させ」「それによって共有結合で連結されたハイブリダイゼーション産物を生成するステップ」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲6発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「核酸ライブラリーを生成する方法であって、
I.(i)一本鎖核酸(ssNA)を含む核酸組成物と、(ii)第1のオリゴヌクレオチドと、(iii)複数の第1の足場ポリヌクレオチド種とを結合させるステップであって、
(a)前記複数の第1の足場ポリヌクレオチド種における各ポリヌクレオチドが、ssNAハイブリダイゼーション領域および第1のオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション領域を含み;
(c)前記核酸組成物、前記第1のオリゴヌクレオチド、前記複数の第1の足場ポリヌクレオチド種が、
A.前記第1の足場ポリヌクレオチド種の分子が(i)第1のssNA末端領域および(ii)前記第1のオリゴヌクレオチドの分子とハイブリダイズされ、それによって、前記第1のオリゴヌクレオチドの前記分子の末端が前記第1のssNA末端領域の末端に隣接しているハイブリダイゼーション産物を形成する
条件下で結合され;
(d)前記ssNAが、前記結合させるステップの前または前記結合させるステップ中に一本鎖核酸結合タンパク質(SSB)と結合されず、前記ssNAも前記ssNAを含む核酸も、生物学的試料を取得した後かつ前記結合させるステップの前に修飾されない、ステップ、ならびに
II.前記第1のオリゴヌクレオチドおよび前記第1のssNA末端領域の隣接している末端を共有結合で連結させ、それによって共有結合で連結されたハイブリダイゼーション産物を生成するステップ
を含む、方法。」
<相違点>
相違点3 一致点における工程Iの「結合させるステップ」について、本件発明1では、前記(c)の条件Aに加えて、「B.前記第2の足場ポリヌクレオチド種の分子が(i)第2のssNA末端領域および(ii)前記第2のオリゴヌクレオチドの分子とハイブリダイズされ、それによって、前記第2のオリゴヌクレオチドの前記分子の末端が前記第2のssNA末端領域の末端に隣接しているハイブリダイゼーション産物を形成する」という条件Bが存在し、両者が「かつ」で結ばれた条件下で結合されることが特定されていることから、両者を同時に満足する条件下で行われるのに対し、甲6発明では、条件Bに対応する事項が特定されていない点。
イ 相違点3についての判断
「第1のオリゴヌクレオチド、複数の第1の足場ポリヌクレオチド種」を用いることと、「第1のオリゴヌクレオチド、複数の第1の足場ポリヌクレオチド種」に加えて「第2のオリゴヌクレオチド」と「複数の第2の足場ポリヌクレオチド種」を用いることは、技術的にみて明らかな相違点である。
したがって、相違点3は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲6に記載された発明に該当しない。
甲7の1には、本件発明1における「第2のオリゴヌクレオチド」と、「ssNAハイブリダイゼーション領域および第2のオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション領域」を含む「複数の第2の足場ポリヌクレオチド種」を含むことが記載されている(甲7の1c~e)。
しかしながら、上記3-1(1)イで説示したように、甲7の1には、全ゲノム亜硫酸水素ナトリウムシーケンシング(WGBS)法における品質をDNAメチル化のデータによって評価しようとすることが記載されている(甲7の1b)ものの、工程Iの(c)の条件Aに加えて、「B.前記第2の足場ポリヌクレオチド種の分子が(i)第2のssNA末端領域および(ii)前記第2のオリゴヌクレオチドの分子とハイブリダイズされ、それによって、前記第2のオリゴヌクレオチドの前記分子の末端が前記第2のssNA末端領域の末端に隣接しているハイブリダイゼーション産物を形成する」という条件Bの両者を同時に満足する条件下で工程Iの(c)を行うことについて記載も示唆もないし、申立人が提出した甲14の1、甲1、甲3、甲4、甲15~甲19を含む甲号証をみても、所定の条件Aと条件Bの両者を同時に満足する条件下で工程Iの(c)を行うことが示唆されているとはいえない。
したがって、甲7の1において、本件発明1における「第2のオリゴヌクレオチド」と、「ssNAハイブリダイゼーション領域および第2のオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション領域」を含む「複数の第2の足場ポリヌクレオチド種」を用いることが示唆されていたとしても、甲6発明において、相違点3に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者といえども容易になし得たとはいえない。
ウ 効果について
上記3-1(1)ウで説示したように、本件発明1の奏する効果は、申立人が提出した甲7の1、甲6、甲14の1、甲1、甲3、甲4、甲15~甲19を含む甲号証に示唆されるものではなく、本件特許の出願時の技術常識を踏まえても、当業者が予測できたものとはいえない。
(2)本件発明2~17について
本件発明2~5、8、9、11~13、15~17は、本件発明1を引用するものであるから、甲6発明と対比すると、少なくとも相違点3の点で相違するものである。
また、本件発明6、7、10、14も、本件発明1を引用するものであるから、甲6発明と対比すると、少なくとも相違点3の点で相違するものである。
そして、上記(1)イで説示したように、相違点3は実質的な相違点であって、当業者が容易に想到し得たものではない。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、請求項1~5、8、9、11~13、15~17に係る特許は、甲6に記載された発明に該当せず、また、請求項1~17に係る特許は、甲6に記載された発明及び甲6、甲7の1、甲1、甲3、甲4、甲14の1、甲15~甲19を含む甲号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3-3 甲14の1を主引例とする進歩性欠如(申立理由4-3)
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲14の1発明とを対比する。
甲14の1発明の「T4 DNAリガーゼによるRNAのスプリントライゲーションに関する方法」と、本件発明1の「核酸ライブラリーを生成する方法」は、「核酸に関する方法」である点に限り、一致する。
甲14の1発明の「5’末端を32Pで標識したRNA(3’RNA)を含む組成物」は、本件発明1の「一本鎖核酸(ssNA)を含む核酸組成物」に相当する。
甲14の1発明の「これらのRNAと相補的な架橋DNAオリゴヌクレオチド」は、5’末端を32Pで標識したRNA(3’RNA)」と「もう一つのRNA(5’RNA)」の両方にハイブリダイズするものであるから、本件発明1の「ssNAハイブリダイゼーション領域および第1のオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション領域」を含む「複数の第1の足場ポリヌクレオチド種」に相当する。
甲14の1発明の「もう一つのRNA(5’RNA)」は、「これらのRNAと相補的な架橋DNAオリゴヌクレオチド」とハイブリダイズするものであるから、本件発明1の「複数の第1の足場ポリヌクレオチド種」にハイブリダイズする「第1のオリゴヌクレオチド」に相当する。
そうすると、甲14の1発明の「5’末端を32Pで標識したRNA(3’RNA)」と「もう一つのRNA(5’RNA)」「と相補的な架橋DNAオリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせてRNA:DNAハイブリッドを形成」させる工程は、本件発明1の工程IのAに相当し、甲14の1発明の「T4 DNAリガーゼにより、RNA:DNAハイブリッド中の3’RNAと5’RNAをライゲーションすることによって、ライゲーション産物を得る」工程は、本件発明1の工程IIの「前記第1のオリゴヌクレオチドおよび前記第1のssNA末端領域の隣接している末端を共有結合で連結させ」「それによって共有結合で連結されたハイブリダイゼーション産物を生成するステップ」に相当する。
さらに、甲14の1発明の「5’末端を32Pで標識したRNA(3’RNA)」は、一本鎖核酸結合タンパク質(SSB)と結合されておらず、生物学的試料を取得した後から結合させるステップの前までの間に核酸の長さや組成についての修飾がされてないものである。
そうすると、本件発明1と甲14の1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「核酸に関する方法であって、
I.(i)一本鎖核酸(ssNA)を含む核酸組成物と、(ii)第1のオリゴヌクレオチドと、(iii)複数の第1の足場ポリヌクレオチド種を結合させるステップであって、
(a)前記複数の第1の足場ポリヌクレオチド種における各ポリヌクレオチドが、ssNAハイブリダイゼーション領域および第1のオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション領域を含み;
(c)前記核酸組成物、前記第1のオリゴヌクレオチド、前記複数の第1の足場ポリヌクレオチド種が、
A.前記第1の足場ポリヌクレオチド種の分子が(i)第1のssNA末端領域および(ii)前記第1のオリゴヌクレオチドの分子とハイブリダイズされ、それによって、前記第1のオリゴヌクレオチドの前記分子の末端が前記第1のssNA末端領域の末端に隣接しているハイブリダイゼーション産物を形成する
条件下で結合され;
(d)前記ssNAが、前記結合させるステップの前または前記結合させるステップ中に一本鎖核酸結合タンパク質(SSB)と結合されず、前記ssNAも前記ssNAを含む核酸も、生物学的試料を取得した後かつ前記結合させるステップの前に修飾されない、ステップ、ならびに
II.前記第1のオリゴヌクレオチドおよび前記第1のssNA末端領域の隣接している末端を共有結合で連結させ、それによって共有結合で連結されたハイブリダイゼーション産物を生成するステップ
を含む、方法。」
<相違点>
相違点4 核酸に関する方法が、本件発明1では、「核酸ライブラリーを生成する方法」であるのに対し、甲14の1発明では、「T4 DNAリガーゼによるRNAのスプリントライゲーションに関する方法」である点。
相違点5 一致点における工程Iの「結合させるステップ」について、本件発明1では、前記(c)の条件Aと条件Bとが「かつ」で結ばれた条件下で結合されることが特定されていることから、両者を同時に満足する条件下で行われるものであるのに対し、甲14の1発明では、対応する事項が特定されていない点。
イ 相違点5についての判断
事案に鑑み、相違点5について検討する。
相違点5は、相違点3と実質的に同じである。
したがって、上記3-2(1)イで説示したように、甲7の1において、本件発明1における「第2のオリゴヌクレオチド」と、「ssNAハイブリダイゼーション領域および第2のオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション領域」を含む「複数の第2の足場ポリヌクレオチド種」を用いることが示唆されていたとしても、工程Iの(c)の条件Aに加えて、「B.前記第2の足場ポリヌクレオチド種の分子が(i)第2のssNA末端領域および(ii)前記第2のオリゴヌクレオチドの分子とハイブリダイズされ、それによって、前記第2のオリゴヌクレオチドの前記分子の末端が前記第2のssNA末端領域の末端に隣接しているハイブリダイゼーション産物を形成する」という条件Bの両者を同時に満足する条件下で工程Iの(c)を行うことについて記載も示唆もないし、申立人が提出した甲14の1、甲1、甲3、甲4、甲15~甲19を含む甲号証をみても、所定の条件Aと条件Bの両者を同時に満足する条件下で工程Iの(c)を行うことが示唆されているとはいえない。
よって、甲14の1発明において、相違点5に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者といえども容易になし得たとはいえない。
ウ 効果について
上記3-1(1)ウで説示したように、本件発明1の奏する効果は、申立人が提出した甲7の1、甲6、甲14の1、甲1、甲3、甲4、甲15~甲19を含む甲号証に示唆されるものではなく、本件特許の出願時の技術常識を踏まえても、当業者が予測できたものとはいえない。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、請求項1に係る特許は、相違点4について検討するまでもなく、甲14の1に記載された発明及び甲14の1、甲7の1、甲1を含む甲号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1~17に係る特許を、特許異議申立書に記載した申立理由によって取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700923