特許異議申立
2023-700831
可溶性タンパク質に対する親和性物質、切断性部分および反応性基を有する化合物またはその塩
- 審判番号
- 2023-700831
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-514691
- 登録番号
- 7222347
- 請求日
- 2023年08月11日
- 審決日
- 2024年08月13日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】味の素株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人秀和特許事務所
- 【異議申立人】鈴木 憲治
- 【異議申立人】福井 隆一
- 【異議申立人】小宮山 侑生
- 審判長/審判官
- 審判長 福井 悟
- 審判官 荒木 英則
- 審判官 中根 知大
- 分類
- P1651.113-YAA(C07K) / P1651.121-YAA(C07K) / P1651.16 -YAA(C07K) / P1651.536-YAA(C07K) / P1651.537-YAA(C07K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条第4号、特許法第113条第2号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条の2、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7222347号発明「可溶性タンパク質に対する親和性物質、切断性部分および反応性基を有する化合物またはその塩」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7222347号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11、13~14〕、12、15について訂正することを認める。
特許第7222347号の請求項1~7、9~10、12~15に係る特許を維持する。
特許第7222347号の請求項8、11に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯及び証拠方法
1.手続の経緯
特許第7222347号(請求項の数15。以下、「本件特許」という。)は、平成30年4月27日(優先権主張 平成29年4月28日)に国際出願(特願2019-514691号)され、令和5年2月7日に特許権の設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行日は、令和5年2月15日である。)。
その後、本件特許の請求項1~15に係る特許に対して、令和5年8月11日に特許異議申立人である鈴木 憲治(以下、「申立人 鈴木」という。)から、令和5年8月14日に特許異議申立人である福井 隆一(以下、「申立人 福井」という。)から、令和5年8月15日に特許異議申立人である小宮山 侑生(以下、「申立人 小宮山」という。)から、それぞれ特許異議の申立てがなされた。
手続の経緯は以下のとおりである。
令和5年8月11日 特許異議申立書の提出(申立人 鈴木)
令和5年8月14日 特許異議申立書の提出(申立人 福井)
令和5年8月15日 特許異議申立書の提出(申立人 小宮山)
令和5年12月6日付け 取消理由通知書
令和6年2月8日 訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
令和6年2月22日付け 通知書(申立人宛)
令和6年3月29日 意見書(申立人 鈴木)の差出
令和6年3月29日 意見書(申立人 福井)の提出
令和6年3月29日 意見書(申立人 小宮山)の提出
2.証拠方法
各申立人が提出した証拠方法は、それぞれ以下のとおりである。以下では、便宜上、申立人 鈴木が提出した甲第○号証、参考資料○を、甲第A-○号証、参考A-○といい、申立人 福井が提出した甲第○号証を、甲第B-○号証といい、申立人 小宮山が提出した甲第○号証、参考資料○-○、参考文献○を、甲第C-○号証、参考C-○-○、参考C-○という。
(1) 申立人 鈴木の証拠方法
申立人 鈴木は、異議申立書(「申立書A」という。)とともに甲第A-1号証~甲第A-12号証を提出し、令和6年3月29日差出の意見書とともに参考A-1~参考A-3を提出した。
甲第A-1号証:Trends in Biotechnology,32巻4号,186-197ページ(公開日2014年4月)及び抄訳文
甲第A-2号証:特表2005-514430号公報
甲第A-3号証:国際公開第2017/106643号(翻訳文として特表2019-502684号公報を添付)
甲第A-4号証:生物物理化学,13巻3号,177-180ページ(公開日1968年)
甲第A-5号証:HYBRIDOMA,7巻5号,453-456ページ(公開日1988年)及び抄訳文
甲第A-6号証:生化学辞典(第4版第4刷),株式会社 東京化学同人,1222-1225ページ(公開日2015年)
甲第A-7号証:欧州特許第1757311号明細書(公開日2009年)及び抄訳文
甲第A-8号証:JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES,104巻,1866-1884ページ(公開日2015年)及び抄訳文
甲第A-9号証:国際公開第2016/186206号
甲第A-10号証:Protein Science,14巻,2436-2446ページ(公開日2005年)及び抄訳文
甲第A-11号証:mAbs,6巻1号,34-45ページ(公開日2014年)及び抄訳文
甲第A-12号証:J.Am.Chem.Soc.,122巻,4835-4836ページ及びSupporting Information(1-16ページ)(公開日2000年)及び抄訳文
参考A-1:国際公開第2019/240288号
参考A-2:国際公開第2021/110860号(翻訳文として特表2023-504825号公報を添付)
参考A-3:国際公開第2022/079031号(翻訳文として特表2023-545871号公報を添付)
(2) 申立人 福井の証拠方法
申立人 福井は、異議申立書(「申立書B」という。)とともに甲第B-1号証~甲第B-3号証を提出した。
甲第B-1号証:Biomedicines,2巻,1-13ページ(公開日2014年)及び抄訳文
甲第B-2号証:特表2016-523900号公報
甲第B-3号証:国際公開第2016/186206号[甲第A-9号証と同一]
(3) 申立人 小宮山の証拠方法
申立人 小宮山は、異議申立書(「申立書C」という。)とともに甲第C-1号証~甲第C-3号証及び参考C-1-1~参考C-1-7を提出し、令和6年3月29日提出の意見書とともに参考C-1~参考C-3を提出した。
甲第C-1号証:国際公開第2016/186206号[甲第A-9号証、甲第B-3号証と同一]
甲第C-2号証:Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,19巻,1421-1424ページ(公開日2009年)及び翻訳文
甲第C-3号証:細胞,48巻4号,172-176ページ(公開日2016年4月20日)
参考C-1-1:特表2009-531302号公報
参考C-1-2:Analytica Chimica Acta,955巻,67-78ページ(公開日2016年12月2日(インターネットでの公開))
参考C-1-3:J.Am.Chem.Soc.,120巻,2768-2779ページ,(公開日1998年)
参考C-1-4:J.Mol.Biol.,332巻,889-899ページ(公開日2003年)
参考C-1-5:米国特許出願公開第2006/0205670号明細書
参考C-1-6:国際公開第2008/056346号
参考C-1-7:J.Am.Chem.Soc.,131巻,18206-18207ページ(公開日2009年)
参考C-1:Journal of Chromatography B,1140巻,121981(公開日2020年)
参考C-2:Angew.Chem.Int.Ed., 58巻, 5592-5597ページ(公開日2019年)
参考C-3:参考C-2(Angew.Chem.Int.Ed., 58巻, 5592-5597ページ)のSupporting information[online],https://onlinelibrary.wiley.com/action/downloadSupplement?doi=10.1002%2Fanie.201814215&file=anie201814215-sup-0001-misc_information.pdf(公開日2019年)
第2 訂正の適否
1.訂正事項
令和6年2月8日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。訂正された箇所は、当審において、下線を付した。なお、本件特許の設定登録時の願書に添付した明細書及び図面を「本件明細書」という。)の請求は、特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~15について請求することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりのものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の記載中、
「抗体が、連続する1~50個のアミノ酸残基からなる標的領域中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含み、かつ
機能性物質が、ペプチド部分を含まないリンカーを介して、前記標的領域中に含まれる1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合している、」を
「抗体が、下記標的領域:
(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;
(b)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う288~290位のアミノ酸残基からなる領域;または
(c)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う317位のアミノ酸残基からなる領域
中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含み、
機能性物質が、ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、機能性物質と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)を介して、前記標的領域中に含まれる1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合しており、かつ
機能性物質が、薬物または標識物質である、」
に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2の記載中、
「抗体が、連続する1~50個のアミノ酸残基からなる標的領域中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含み、かつ
生体直交性官能基が、ペプチド部分を含まないリンカーを介して、」を
「抗体が、下記標的領域:
(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;
(b)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う288~290位のアミノ酸残基からなる領域;または
(c)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う317位のアミノ酸残基からなる領域
中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含み、かつ
生体直交性官能基が、ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、生体直交性官能基と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)を介して、」
に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7の記載中、「前記標的領域が、連続する1~3個のアミノ酸残基からなる領域である、」を
「抗体が、抗体に対する親和性物質を含まない、」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項9の記載中、「前記位置選択性が90%以上である、請求項1~8のいずれか一項記載の抗体またはその塩。」を
「前記位置選択性が90%以上である、請求項1~7のいずれか一項記載の抗体またはその塩。」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項10の記載中、
「前記抗体が、複数の重鎖を含む抗体であり、
抗体が、複数の重鎖における前記標的領域中の前記1個以上のリジン残基の位置において機能性物質を有する結果、複数の機能性物質を有する、請求項1、3~9のいずれか一項記載の抗体またはその塩。」を、
「前記抗体が、複数の重鎖を含む抗体であり、
抗体が、複数の重鎖における前記標的領域中の前記1個以上のリジン残基の位置において機能性物質を有する結果、複数の機能性物質を有する、請求項1、3~7、9のいずれか一項記載の抗体またはその塩。」
に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項11を削除する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項12の記載中、
「抗体が、連続する1~50個のアミノ酸残基からなる標的領域中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含み、
機能性物質が、ペプチド部分を含まないリンカーを介して、前記標的領域中の前記1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合しており、
機能性物質が、前記1個以上のリジン残基の側鎖を介して抗体に結合しており、」を
「抗体が、下記標的領域:
(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;
(b)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う288~290位のアミノ酸残基からなる領域;または
(c)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う317位のアミノ酸残基からなる領域
中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含み、
機能性物質が、ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、機能性物質と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)を介して、前記標的領域中の前記1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合しており、
機能性物質が、前記1個以上のリジン残基の側鎖を介して抗体に結合しており、
機能性物質が、薬物または標識物質であり、」
に訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項13の記載中、
「前記抗体が、複数の重鎖を含む抗体であり、抗体が、複数の重鎖における前記標的領域中の前記1個以上のリジン残基の位置において生体直交性官能基を有する結果、複数の生体直交性官能基を有する、請求項2~9のいずれか一項記載の抗体またはその塩。」を、
「前記抗体が、複数の重鎖を含む抗体であり、抗体が、複数の重鎖における前記標的領域中の前記1個以上のリジン残基の位置において生体直交性官能基を有する結果、複数の生体直交性官能基を有する、請求項2~7、9のいずれか一項記載の抗体またはその塩。」
に訂正する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項14の記載中、「生体直交性官能基が、アジド残基、アルデヒド残基、チオール残基、アルケン残基、アルキン残基、ハロゲン残基、テトラジン残基、ニトロン残基、ヒドロキシルアミン残基、ニトリル残基、ヒドラジン残基、ケトン残基、ボロン酸残基、シアノベンゾチアゾール残基、アリル残基、ホスフィン残基、マレイミド残基、ジスルフィド残基、チオエステル基、α-ハロカルボニル残基、イソニトリル残基、シドノン残基、およびセレン残基からなる群より選ばれる1種以上の残基である、請求項2~9、13のいずれか一項記載の抗体またはその塩。」を、
「生体直交性官能基が、アジド残基、アルデヒド残基、チオール残基、アルケン残基、アルキン残基、ハロゲン残基、テトラジン残基、ニトロン残基、ヒドロキシルアミン残基、ニトリル残基、ヒドラジン残基、ケトン残基、ボロン酸残基、シアノベンゾチアゾール残基、アリル残基、ホスフィン残基、マレイミド残基、ジスルフィド残基、チオエステル基、α-ハロカルボニル残基、イソニトリル残基、シドノン残基、およびセレン残基からなる群より選ばれる1種以上の残基である、請求項2~7、9、13のいずれか一項記載の抗体またはその塩。」
に訂正する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項15の記載中、
「抗体が、連続する1~50個のアミノ酸残基からなる標的領域中において 1個以上のリジン残基を含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において5個以上のリジン残基を含み、
生体直交性官能基が、ペプチド部分を含まないリンカーを介して、前記標的領域中の前記1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合しており、」を
「抗体が、下記標的領域:
(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;
(b)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う288~290位のアミノ酸残基からなる領域;または
(c)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う317位のアミノ酸残基からなる領域
中において1個以上のリジン残基を含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において5個以上のリジン残基を含み、
生体直交性官能基が、ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、生体直交性官能基と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)を介して、前記標的領域中の前記1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合しており、」
に訂正する。
2.一群の請求項について
訂正前の請求項3~11は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあり、本件訂正の訂正事項1によって、訂正される訂正前の請求項1に連動して、訂正前の請求項3~11も訂正されるから、訂正前の請求項1、3~11は、一群の請求項に該当する。
訂正前の請求項3~9、13、14は、訂正前の請求項2を直接又は間接的に引用する関係にあり、本件訂正の訂正事項2によって、訂正される訂正前の請求項2に連動して、訂正前の請求項3~9、13、14も訂正されるから、訂正前の請求項2~9、13、14は、一群の請求項に該当する。
そして、共通の請求項3~9を有する「一群の請求項」である請求項1、3~11と「一群の請求項」である請求項2~9、13、14は、特許法施行規則第45条の4に規定されるとおり組み合わされて、特許法第120条の5第4項に規定する「一群の請求項」を構成する。
請求項12、15は他の請求項を引用しないものであって、上記「一群の請求項」には含まれない。
よって、本件訂正は、「一群の請求項」である請求項1~11、13~14と「一群の請求項」でない請求項12及び請求項15に対してなされたものである。
3.訂正の目的の適否、新規事項の有無について
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項8及び11、並びに、本件明細書の【0010】、【0037】、図1-3、図2及び実施例の記載に基づき、
訂正前の請求項1の
「抗体が、連続する1~50個のアミノ酸残基からなる標的領域中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含み、かつ
機能性物質が、ペプチド部分を含まないリンカーを介して、前記標的領域中に含まれる1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合している、」を、
「抗体が、下記標的領域:
(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;
(b)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う288~290位のアミノ酸残基からなる領域;または
(c)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う317位のアミノ酸残基からなる領域
中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含み、
機能性物質が、ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、機能性物質と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)を介して、前記標的領域中に含まれる1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合しており、かつ
機能性物質が、薬物または標識物質である、」に訂正し、訂正前の標的領域、リンカー及び機能性物質を限定するものであるから、当該訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当しない。
なお、申立人 小宮山は、令和6年3月29日提出の意見書で、本件明細書の実施例、段落0010、図1-3、及び図2の記載をみても、「リンカー」が「機能性物質と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す」ものであることは、直接的にも間接的にも記載されているとはいえないから、訂正は認められるべきではない旨を主張する。
しかし、本件明細書の図1-3をみると、「機能性物質」と「抗体の標的領域中のリジン残基」との間に「リンカー」と解せるものが記載されているので、訂正事項1により新規事項が追加されるとは認められない。
よって、上記の主張は理由がない。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項8、並びに、本件明細書の【0010】、【0037】、図1-3、図2及び実施例の記載に基づき、
訂正前の請求項2の
「抗体が、連続する1~50個のアミノ酸残基からなる標的領域中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含み、かつ
生体直交性官能基が、ペプチド部分を含まないリンカーを介して、」を
「抗体が、下記標的領域:
(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;
(b)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う288~290位のアミノ酸残基からなる領域;または
(c)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う317位のアミノ酸残基からなる領域
中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含み、かつ
生体直交性官能基が、ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、生体直交性官能基と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)を介して、」に訂正し、訂正前の標的領域及びリンカーを限定するものであるから、当該訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当しない。
(3)訂正事項3
訂正事項3は、訂正事項1、2によって不要となった訂正前の請求項7の「前記標的領域が、連続する1~3個のアミノ酸残基からなる領域である、」を削除するとともに、本件明細書の図1-3及び図2に基づき「抗体が、抗体に対する親和性物質を含まない、」という限定を加えるものであるから、当該訂正事項3は、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当しない。
(4)訂正事項4
訂正事項4は、請求項8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当しない。
(5)訂正事項5
訂正事項5は、訂正前の請求項9の「請求項1~8のいずれか一項記載の抗体またはその塩」とあるのを「請求項1~7のいずれか一項記載の抗体またはその塩」とすることにより、引用する訂正前の請求項8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当しない。
(6)訂正事項6
訂正事項6は、訂正前の請求項10の「請求項1、3~9のいずれか一項記載の抗体またはその塩」とあるのを「請求項1、3~7、9のいずれか一項記載の抗体またはその塩」とすることにより、引用する訂正前の請求項8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当しない。
(7)訂正事項7
訂正事項7は、請求項11を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当しない。
(8)訂正事項8
訂正事項8は、訂正前の請求項8及び11、並びに、本件明細書の【0010】、【0037】、図1-3、図2及び実施例の記載に基づき、
訂正前の請求項12の
「抗体が、連続する1~50個のアミノ酸残基からなる標的領域中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含み、
機能性物質が、ペプチド部分を含まないリンカーを介して、前記標的領域中の前記1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合しており、
機能性物質が、前記1個以上のリジン残基の側鎖を介して抗体に結合しており、」を
「抗体が、下記標的領域:
(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;
(b)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う288~290位のアミノ酸残基からなる領域;または
(c)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う317位のアミノ酸残基からなる領域
中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含み、
機能性物質が、ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、機能性物質と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)を介して、前記標的領域中の前記1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合しており、
機能性物質が、前記1個以上のリジン残基の側鎖を介して抗体に結合しており、
機能性物質が、薬物または標識物質であり、」に訂正し、訂正前の標的領域、リンカー及び機能性物質を限定するものであるから、当該訂正事項8は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当しない。
(9)訂正事項9
訂正事項9は、訂正前の請求項13の「請求項2~9のいずれか一項記載の抗体またはその塩」とあるのを「請求項2~7、9のいずれか一項記載の抗体またはその塩」とすることにより、引用する訂正前の請求項8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当しない。
(10)訂正事項10
訂正事項10は、訂正前の請求項14の「請求項2~9、13のいずれか一項記載の抗体またはその塩」とあるのを「請求項2~7、9、13のいずれか一項記載の抗体またはその塩」とすることにより、引用する訂正前の請求項8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当しない。
(11)訂正事項11
訂正事項11は、訂正前の請求項8、並びに、本件明細書の【0010】、【0037】、図1-3、図2及び実施例の記載に基づき、
訂正前の請求項15の
「抗体が、連続する1~50個のアミノ酸残基からなる標的領域中において 1個以上のリジン残基を含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において5個以上のリジン残基を含み、
生体直交性官能基が、ペプチド部分を含まないリンカーを介して、前記標的領域中の前記1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合しており、」を
「抗体が、下記標的領域:
(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;
(b)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う288~290位のアミノ酸残基からなる領域;または
(c)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う317位のアミノ酸残基からなる領域
中において1個以上のリジン残基を含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において5個以上のリジン残基を含み、
生体直交性官能基が、ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、生体直交性官能基と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)を介して、前記標的領域中の前記1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合しており、」に訂正し、訂正前の標的領域及びリンカーを限定するものであるから、当該訂正事項11は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当しない。
4.実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更する訂正ではないこと
(1)訂正事項1、8
訂正事項1、8はそれぞれ、訂正前の請求項1、12の
「連続する1~50個のアミノ酸残基からなる標的領域」が「(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;(b)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う288~290位のアミノ酸残基からなる領域;または(c)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う317位のアミノ酸残基からなる領域」であること、
「リンカー」が「機能性物質と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す」ものであること、及び「機能性物質」が、「薬物または標識物質である」ことを明らかにするもの、すなわち、訂正前の請求項1、12の発明特定事項を概念的により下位の内容へと限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
(2)訂正事項2、11
訂正事項2、11はそれぞれ、訂正前の請求項2、15の
「連続する1~50個のアミノ酸残基からなる標的領域」が「(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;(b)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う288~290位のアミノ酸残基からなる領域;または(c)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う317位のアミノ酸残基からなる領域」であること、及び
「リンカー」が「機能性物質と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す」ものであることを明らかにするもの、すなわち、訂正前の請求項2、15の発明特定事項を概念的により下位の内容へと限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
(3)訂正事項3
訂正事項3は、本件明細書の図1-3、図2に基づく訂正であって、上記図には、親和性物質を含まない抗体が具体的に記載されているから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
(4)訂正事項4、7
訂正事項4、7は、請求項8、11をそれぞれ削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
(5)訂正事項5、6、9、10
訂正事項5、6、9、10は、引用する請求項8を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
5.独立特許要件
本件特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項1~15に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
6.小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正事項1~11は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)及び第3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合している。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~15について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
訂正後の請求項1~7、9~10、12~15に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~7、9~10、12~15に記載された、以下の事項によって特定されるとおりのものである。下線は、訂正箇所を示す。
「【請求項1】
機能性物質を位置選択的に有する抗体またはその塩であって、
抗体が、下記標的領域:
(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;
(b)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う288~290位のアミノ酸残基からなる領域;または
(c)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う317位のアミノ酸残基からなる領域
中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含み、
機能性物質が、ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、機能性物質と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)を介して、前記標的領域中に含まれる1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合しており、かつ
機能性物質が、薬物または標識物質である、機能性物質を位置選択的に有する抗体またはその塩。
【請求項2】
生体直交性官能基を位置選択的に有する抗体またはその塩であって、
抗体が、下記標的領域:
(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;
(b)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う288~290位のアミノ酸残基からなる領域;または
(c)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う317位のアミノ酸残基からなる領域
中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含み、かつ
生体直交性官能基が、ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、生体直交性官能基と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)を介して、前記標的領域中に含まれる1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合している、生体直交性官能基を位置選択的に有する抗体またはその塩。
【請求項3】
抗体がモノクローナル抗体である、請求項1または2記載の抗体またはその塩。
【請求項4】
抗体がIgG抗体である、請求項1~3のいずれか一項記載の抗体またはその塩。
【請求項5】
抗体がヒト由来である、請求項1~4のいずれか一項記載の抗体またはその塩。
【請求項6】
抗体が、下記(A)~(C)からなる群より選ばれるいずれか一つのFc領域タンパク質を含み、かつ抗原結合能を有する抗体である、請求項1~5のいずれか一項記載の抗体またはその塩:
(A)配列番号1のアミノ酸配列を含むFc領域タンパク質;
(B)配列番号1のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸残基が挿入、付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列を含むFc領域タンパク質;または
(C)配列番号1のアミノ酸配列と90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含むFc領域タンパク質。
【請求項7】
抗体が、抗体に対する親和性物質を含まない、請求項1~6のいずれか一項記載の抗体またはその塩。
【請求項8】(削除)
【請求項9】
前記位置選択性が90%以上である、請求項1~7のいずれか一項記載の抗体またはその塩。
【請求項10】
前記抗体が、複数の重鎖を含む抗体であり、
抗体が、複数の重鎖における前記標的領域中の前記1個以上のリジン残基の位置において機能性物質を有する結果、複数の機能性物質を有する、請求項1、3~7、9のいずれか一項記載の抗体またはその塩。
【請求項11】(削除)
【請求項12】
機能性物質を位置選択的に有する抗体またはその塩であって、
抗体が、下記標的領域:
(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;
(b)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う288~290位のアミノ酸残基からなる領域;または
(c)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う317位のアミノ酸残基からなる領域
中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含み、
機能性物質が、ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、機能性物質と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)を介して、前記標的領域中の前記1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合しており、
機能性物質が、前記1個以上のリジン残基の側鎖を介して抗体に結合しており、
機能性物質が、薬物または標識物質であり、
抗体が、2個の重鎖を含み、
抗体が、2個の重鎖における前記標的領域中の前記1個以上のリジン残基の位置において機能性物質を有する結果、2個の機能性物質を有する、機能性物質を位置選択的に有する抗体またはその塩。
【請求項13】
前記抗体が、複数の重鎖を含む抗体であり、
抗体が、複数の重鎖における前記標的領域中の前記1個以上のリジン残基の位置において生体直交性官能基を有する結果、複数の生体直交性官能基を有する、請求項2~7、9のいずれか一項記載の抗体またはその塩。
【請求項14】
生体直交性官能基が、アジド残基、アルデヒド残基、チオール残基、アルケン残基、アルキン残基、ハロゲン残基、テトラジン残基、ニトロン残基、ヒドロキシルアミン残基、ニトリル残基、ヒドラジン残基、ケトン残基、ボロン酸残基、シアノベンゾチアゾール残基、アリル残基、ホスフィン残基、マレイミド残基、ジスルフィド残基、チオエステル基、α-ハロカルボニル残基、イソニトリル残基、シドノン残基、およびセレン残基からなる群より選ばれる1種以上の残基である、請求項2~7、9、13のいずれか一項記載の抗体またはその塩。
【請求項15】
生体直交性官能基を位置選択的に有する抗体またはその塩であって、
抗体が、下記標的領域:
(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;
(b)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う288~290位のアミノ酸残基からなる領域;または
(c)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う317位のアミノ酸残基からなる領域
中において1個以上のリジン残基を含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において5個以上のリジン残基を含み、
生体直交性官能基が、ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、生体直交性官能基と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)を介して、前記標的領域中の前記1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合しており、
生体直交性官能基が、前記1個以上のリジン残基の側鎖を介して抗体に結合しており、
抗体が、2個の重鎖を含み、
抗体が、2個の重鎖における前記標的領域中の前記1個以上のリジン残基の位置において生体直交性官能基を有する結果、2個の生体直交性官能基を有する、生体直交性官能基を位置選択的に有する抗体またはその塩。」
以下、訂正後の本件発明を、項番に従い、「本件発明1」~「本件発明15」といい、これらを総称して、「本件発明」という。また、訂正前の本件発明を、「訂正前本件発明1」~「訂正前本件発明15」といい、これらを総称して、「訂正前本件発明」という。
第4 当審が通知した取消理由及び特許異議申立ての理由の概要
1.当審が通知した取消理由通知の概要
当審が令和5年12月6日付け取消理由通知書で通知した取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は、以下のとおりである。
(1)取消理由1(明確性)
訂正前の本件特許は、特許請求の範囲の記載が、下記ア~エの点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
ア 「機能性物質」及び「リンカー」
イ 「標的領域」と「非標的領域」
ウ 「30%以上の位置選択性」
エ 「安定化剤」
(2)取消理由2(サポート要件)、取消理由3(実施可能要件)
訂正前の本件特許は、特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載が、下記ア、イの点で不備のため、特許法第36条第6項第1号及び第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
ア 本件発明の解決しようとする課題は、薬物等が位置選択的に修飾された抗体、具体的には、不均一性の問題を解消した抗体薬物複合体(ADC)を提供することにあると認められるところ、訂正前本件発明1~7、9~15では、「標的領域」が特定されておらず、「リンカー」も不定であるため、訂正前本件発明1~7、9~15は上記課題を解決できない範囲を含む。
イ 本件明細書の発明の詳細な説明には、訂正前本件発明1~15に記載された、薬物等の機能性物質が、IgG1Fc標的領域に存在する特定のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合している抗体が記載されているとはいえず、かかる抗体を特定し、その抗体を製造、入手するには、当業者に過度の試行錯誤、実験を要する。
(3)取消理由4(新規性)
訂正前本件発明1~15は、引用文献1に記載された発明であり、
訂正前本件発明1、3~4、6~7、9~13は、引用文献2に記載された発明であり、
訂正前本件発明1、3~4、6~7、9~10、12~13は、引用文献3に記載された発明であり、
訂正前本件発明1、3~4、6~7、9~13は、引用文献4に記載された発明であって、
それらの特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)取消理由5(進歩性)
訂正前本件発明1~15は、引用文献1に記載された発明に基づいて、
訂正前本件発明1、3~4、6~7、9~13は、引用文献2に記載された発明に基づいて、
訂正前本件発明1~4、6、7、9~15は、引用文献3に記載された発明に基づいて、
訂正前本件発明1~7、9~15は、引用文献4に記載された発明に基づいて、
当業者が容易に発明をすることができたものであり、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(6)取消理由6(拡大先願)
訂正前本件発明1~7、9~15は、引用出願5の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、それらの特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
<引用文献等一覧>
1.国際公開第2016/186206号公報(甲第A-9号証、甲第B-3号証、甲第C-1号証)
2.Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,19巻,2009年,1421-1424頁(甲第C-2号証)
3.Trends in Biotechnology,32巻4号,2014年4月,186-197頁(甲第A-1号証)
4.特表2005-514430号公報(甲第A-2号証)
5.PCT/US2016/067165号(国際公開第2017/106643号、特表2019-502684号公報)(甲第A-3号証)
6.中外製薬 主な製品|中外製薬[online],2023年10月24日,https://www.chugai-pharm.co.jp/ir/product/product/pdf/jChugai_Main_Products.pdf?20231024
7.J.Mol.Biol.,332巻,2003年,889-899頁(参考C-1-4)
ここで、引用文献1~4、7は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であり、引用文献6は、当審により職権で追加したインターネットの掲載記事である。
また、引用出願5は、本件特許出願の日前の外国語特許出願(特許法第184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされたものを除く。)で、その出願後に国際公開がされたものであり、本件特許の出願の発明者、出願人と引用出願5の発明者、出願人は同一でないものである。
以下では、上記証拠は、「甲第○-△号証」といった記載にかえて、引用文献1~4、引用出願5、及び引用文献6~7と記載する場合がある。
2.特許異議申立ての理由の概要
申立人 鈴木、申立人 福井、及び申立人 小宮山が、特許異議申立書(「申立書A」~「申立書C」)に記載した特許異議申立ての理由(以下、「申立書A」~「申立書C」に対応するものを「申立理由A」~「申立理由C」という。)は、以下のとおりである。
(1) 申立人 鈴木による申立理由(申立理由A)
ア 申立理由A-1(新規性)
訂正前本件発明1、3~5、7、9~12は、甲第A-1号証に記載された発明であり、
訂正前本件発明1~5、7、9、11、14は、甲第A-2号証に記載された発明であり、
訂正前本件発明1~5、7、9、11、14は、甲第A-3号証に記載された発明であって、
それらの特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反するから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 申立理由A-2(進歩性)
訂正前本件発明1~15は、甲第A-1号証、甲第A-2号証、又は甲第A-3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反するから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
ウ 申立理由A-3(拡大先願)
訂正前本件発明1~5、7、9~12、14は、甲第A-3号証に記載された発明と同一であり、それらの特許は、特許法第29条の2の規定に違反するから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
エ 申立理由A-4(明確性)
「ペプチド部分を含まない」なる用語の意味を明確に把握することができず、訂正前本件発明1~15は明確でないから、それらの特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
オ 申立理由A-5(実施可能要件)
「ペプチド部分を含まない」あらゆる種類のリンカーを含む抗体は、本件明細書において製造できるように記載されていないから、訂正前本件発明1~15に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
カ 申立理由A-6(サポート要件)
「ペプチド部分を含まない」あらゆる種類のリンカーで、リジンが特異的に修飾された抗体について、本件明細書の発明の詳細な説明には、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されているとはいえないから、訂正前本件発明1~15に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2) 申立人 福井の申立理由(申立理由B)
ア 申立理由B-1(サポート要件)
膨大な数の抗体またはその塩を包含する訂正前本件発明1~15まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化する根拠を見いだせないから、訂正前本件発明1~15に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 申立理由B-2(実施可能要件)
申立理由B-1と同様の理由により、訂正前本件発明1~15に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
ウ 申立理由B-3(明確性)
訂正前の請求項1~15の記載は、下記a~cの点で明確でないから、訂正前本件発明1~15に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
a 訂正前の本件発明1における「機能性物質が……前記標的領域中に含まれる1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合している」なる規定が意味不明である。
b 訂正前の特許請求の範囲では「標的領域」が規定されておらず、「標的領域」という用語を明確に理解できない。
c 訂正前の特許請求の範囲では、抗体-薬物複合体を化学物質として規定するために必要な発明特定事項が欠落している。
エ 申立理由B-4(新規性)
訂正前本件発明1~15は、甲第B-1号証、甲第B-2号証、又は甲第B-3号証に記載された発明であり、それらの特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反するから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
オ 申立理由B-5(進歩性)
訂正前本件発明1~15は、甲第B-1号証、甲第B-2号証、又は甲第B-3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反するから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3) 申立人 小宮山の申立理由(申立理由C)
ア 申立理由C-1(新規性)
訂正前本件発明1~15は、甲第C-1号証に記載された発明であり、
訂正前本件発明1~7、9~15は、甲第C-2号証に記載された発明であり、
それらの特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反するから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 申立理由C-2(進歩性)
訂正前本件発明1~15は、甲第C-1号証及び甲第C-3号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第C-1号証~甲第C-3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反するから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
ウ 申立理由C-3(実施可能要件)
訂正前本件発明1の「機能性物質」、「標的領域」、及び「ペプチド部分を含まないリンカー」には任意のものが含まれ、訂正前本件発明2の「生体直交性官能基」及び「標的領域」にも任意のものが含まれるが、本件明細書の実施例には特定の場合のみが記載されるので、任意の機能性物質や生体直交性官能基、抗体中のリジン残基を含む任意の標的領域、任意の構造を有するリンカーを用いた場合について、その物を製造できる程度に明確かつ十分に本件明細書が記載されているとはいえない。
また、本件明細書には、30%という低い位置選択性で結合している抗体の記載がなく、その抗体を特定し、製造、入手するには、当業者に過度の試行錯誤、実験が強いられる。
よって、訂正前本件発明1~15に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
エ 申立理由C-4(サポート要件)
申立理由C-3と同様の理由により、訂正前本件発明1~15に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 取消理由に係る当審の判断
本件発明1~7、9、10、12~15に係る特許は、以下のとおり、当審が通知した取消理由通知書に記載した取消理由によっては、取り消すことができない、と判断する。
1.取消理由1(明確性)について
(1) 機能性物質及びリンカーについて
本件訂正により、訂正前本件発明1の「ペプチド部分を含まないリンカー」に関し「ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、機能性物質と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)」と規定され、「機能性物質」に関し「機能性物質が、薬物または標識物質である」と規定された。
これにより、『「抗体の標的領域にあるリジン残基」-「ペプチド部分を含まないリンカー」-「機能性物質」』という位置関係が成立していることが理解でき、薬物や標識物質に関する明細書の段落0292~0294の説明を併せみると、どの部分が「機能性物質」に該当し、どの部分が「ペプチド部分を含まないリンカー」に該当するかについて当業者が把握できるようになった。
また、ペプチド結合が「タンパク質やペプチドなどにおいてアミノ酸残基間を結ぶアミド結合」であることは、甲第A-6号証にもあるように当業者に周知であるところ、かかる周知事実を踏まえれば、本件発明1の記載が、「抗体の標的領域にあるリジン残基」と「薬物または標識物質である」「機能性物質」の間に「2個以上のアミノ酸が結合したアミド結合を含まないリンカー」が存在することを意味するものと当業者が把握できるようになった。
同様に、本件訂正により、訂正前本件発明2の「ペプチド部分を含まないリンカー」に関し「ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、機能性物質と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)」と規定されたので、『「抗体の標的領域にあるリジン残基」-「ペプチド部分を含まないリンカー」-「生体直交性官能基」』という位置関係が成立していることが理解でき、「生体直交性官能基」に関する、明細書の段落0183~0192の説明を併せみると、どの部分が「生体直交性官能基」に該当し、どの部分が「ペプチド部分を含まないリンカー」に該当するかについて当業者が把握できるようになった。
また、上記の周知事実を踏まえれば、本件発明2の記載が、「抗体の標的領域にあるリジン残基」と「生体直交性官能基」の間に「2個以上のアミノ酸が結合したアミド結合を含まないリンカー」が存在することを意味するものと当業者が把握できるようになった。
よって、本件発明1、2は、「機能性物質」及び「ペプチド部分を含まないリンカー」について明確であり、これらの発明を引用する本件発明においても同様に明確である。
(2) 標的領域、非標的領域について
本件訂正により、訂正前本件発明1、2、12、及び15の「標的領域」が
「(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;
(b)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う288~290位のアミノ酸残基からなる領域;または
(c)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う317位のアミノ酸残基からなる領域」に限定されたため、「標的領域」と「標的領域」以外の部分である「非標的領域」が客観的に区別できるようになった。
よって、本件発明1、2、12、及び15は、標的領域、非標的領域について明確であり、これらの発明を引用する本件発明においても同様に明確である。
(3) 30%以上の位置選択性について
位置選択性の百分率算出は、機能性物質(請求項1、12)や生体直交性官能基(請求項2、15)が、「ペプチド部分を含まないリンカー」を介して抗体に結合するもののうち、「抗体の標的領域中のリジン残基」に結合するものの割合と解するのが自然な解釈であり、(2)で示したとおり、本件訂正により「標的領域」が明確化されたことからすると、「30%以上の位置選択性」の意味するところが技術的に不明確であるとはいえない。
よって、本件発明1、2、12、及び15は、30%以上の位置選択性について明確であり、これらの発明を引用する本件発明においても同様に明確である。
(4) 安定化剤について
本件訂正により、訂正前本件発明1、12の「機能性物質」に関し、「機能性物質が、薬物または標識物質である」と規定されるともに、「機能性物質が、薬物、標識物質、または安定化剤である」ことを規定した訂正前の請求項11が削除されたため、「機能性物質」に「安定化剤」が含まれないことが明らかになった。
よって、本件発明1、12は明確であり、これらの発明を引用する本件発明も同様に明確である。
(5) まとめ
上記(1)~(4)で検討したとおり、本件発明1~7、9~10、12~15の記載は取消理由1(明確性)によって取り消すべきものではない。
2.取消理由2(サポート要件)、取消理由3(実施可能要件)について
(1) 標的領域及びリンカーについて
明細書の段落0003には、抗体薬物複合体(ADC)の不均一性が問題である旨が記載され、段落0004~0006には、これまでに知られているさまざまな抗体の位置選択的修飾法が説明されている。そして、段落0009には、本発明は、可溶性タンパク質の位置選択的な修飾を可能にする技術を開発することを目的とすると記載されていることから、本件発明の解決しようとする課題は、薬物等が位置選択的に修飾された抗体、具体的には、不均一性の問題を解消した抗体薬物複合体(ADC)を提供することにあると認められる。
一方、本件発明1は
「機能性物質を位置選択的に有する抗体またはその塩であって、
抗体が、下記標的領域:
(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;
(b)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う288~290位のアミノ酸残基からなる領域;または
(c)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う317位のアミノ酸残基からなる領域
中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含み、
機能性物質が、ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、機能性物質と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)を介して、前記標的領域中に含まれる1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合しており、かつ
機能性物質が、薬物または標識物質である、機能性物質を位置選択的に有する抗体またはその塩。」
であり、本件発明2は
「生体直交性官能基を位置選択的に有する抗体またはその塩であって、
抗体が、下記標的領域:
(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;
(b)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う288~290位のアミノ酸残基からなる領域;または
(c)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う317位のアミノ酸残基からなる領域
中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含み、かつ
生体直交性官能基が、ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、生体直交性官能基と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)を介して、前記標的領域中に含まれる1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合している、生体直交性官能基を位置選択的に有する抗体またはその塩。」
であり、上記1(1)、(2)で検討したとおり、「標的領域」、「機能性物質」、「リンカー」、及び「生体直交性官能基」のいずれについても明確となった。
一方、本件明細書の発明の詳細な説明には、IgG1Fc結合性ペプチド、切断性リンカー、及び、抗体のリジン残基に対する反応性基が連結したIgG1Fc結合性ペプチド試薬であって、切断性リンカーが、切断により生体直交性官能基を反応性基側に有する構造単位を生成できるという構造的特徴を有するものである、IgG1Fc結合性ペプチド試薬を用いることにより、抗体のFc領域に存在するリジン残基を特異的に修飾し、その後、IgG1Fc-ペプチド複合体における切断性リンカーを切断することにより、生体直交性官能基がFc領域に存在するリジン残基に特異的に結合した抗体が得られ、さらに、それに続いて、蛍光標識や、DM-1などの薬物を上記生体直交性官能基と結合させることにより、標識物質や薬物などの機能性物質がFc領域に存在するリジン残基に特異的に結合した抗体が得られたことが具体的に記載されている(実施例1~54、図1-1~1-3)。そして、そのようにして得られた抗体は、IgG1の重鎖の246位及び/又は248位のリジン残基が特異的に修飾され(実施例8、15、44、46)、288位または290位のリジン残基が特異的に修飾され(実施例42、48)、317位のリジン残基が特異的に修飾され(実施例40)るものである。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明より、特定のアミノ酸配列を有するIgG1Fc結合性ペプチドを利用することで、薬物等の機能性物質が本件発明1、2に記載された標的領域に存在するリジン残基に対し、ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、機能性物質と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)を介して、位置選択性で結合した抗体が得られ、本件発明1、2の発明特定事項より上記の課題を解決できることを当業者は推認できるといえる。
そして、この点は「標的領域」、「機能性物質」、「リンカー」、及び「生体直交性官能基」に関して本件発明1、2と同様の規定がある本件発明12及び15、並びに、これらの発明を引用する本件発明3~7、9~10、13~14においても同様である。
(2) 30%以上の位置選択性について
本件発明1では、「機能性物質が、ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、機能性物質と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)を介して、前記標的領域中に含まれる1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合」することが規定され、本件発明2では、「生体直交性官能基が、ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、生体直交性官能基と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)を介して、前記標的領域中に含まれる1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合」することが規定されている。
ここで、上記1(3)で検討したとおり、位置選択性の百分率算出については、機能性物質や生体直交性官能基が「ペプチド部分を含まないリンカー」を介して抗体に結合するもののうち、「抗体の標的領域中のリジン残基」に結合するものの割合であると解するのが自然な解釈であり、上記1(2)で検討したとおり、本件訂正により「標的領域」が明確になったので、本件明細書の実施例において、「30%以上の位置選択性」を満たす抗体が実際に製造され、かかる抗体が、上記の課題を解決できることを当業者は推認できるといえる。
そして、この点は「標的領域」、「機能性物質」、「リンカー」、及び「生体直交性官能基」に関して本件発明1、2と同様の規定がある本件発明12及び15、並びに、これらの発明を引用する本件発明3~7、9~10、13~14においても同様である。
(3) まとめ
上記(1)、(2)のとおりであるから、本件発明1~7、9、10、12~15は本件発明において解決されるべき課題を解決できるものであって、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。また、同様の理由により、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~7、9~10、12~15を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
したがって、本件発明1~7、9~10、12~15に係る特許は、取消理由2(実施可能要件)、取消理由3(サポート要件)によって取り消すべきものではない。
3.引用文献に記載された事項
引用文献1~4、6、7に記載された事項は以下のとおりである。なお、下線は当審で付した。
(1) 引用文献1に記載された事項
ア 請求項1
「[請求項1] 下記の式I:
(X1-3)-C-(X2)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-(X1-3) (I)
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、Gはグリシン残基であり、Xaa2はグルタミン酸残基又はアスパラギン残基であり、Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、かつ
Wはトリプトファン残基である。)
によって表される、13~17アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgG及び/又はウサギIgGと結合可能であることを特徴とするペプチド。」
イ 請求項12、13
「[請求項12] Xaa1がリシン残基である、請求項1~11のいずれか一項に記載のペプチド。
[請求項13] Xaa1が架橋剤で修飾されている、請求項1~12のいずれか一項に記載のペプチド。」
ウ 請求項16
「[請求項16] 請求項13~15のいずれか一項に記載のペプチドとIgGとの複合体であって、架橋剤で修飾されているペプチドとIgGの架橋反応によって形成される、前記複合体。」
エ 段落0050
「上記の通り、本発明のIgG結合ペプチドは、後述する実施例において示す通り、上記Xaa1において、IgG Fcの特定の領域、すなわちヒトIgG FcにおけるEu numberingに従うLys248又はLys246、好ましくはLys248と近接する。したがって、本発明のIgG結合ペプチドのXaa1を架橋剤で修飾し、IgGと架橋反応させることによって、IgG結合ペプチドのXaa1とIgG FcのLys248又はLys246、好ましくはLys248の間で部位特異的に架橋構造を形成させることができる。上記の様に、本発明のIgG結合ペプチドのXaa1を架橋剤及び種々の化合物で修飾し、IgGと架橋反応させることによって、種々の化合物を、特異的かつ簡便にIgGに導入することができる。……」
オ 段落0052~0053
「[0052] 本発明において、「架橋剤」とは、本発明のIgG結合ペプチドと、IgG Fcを、共有結合により連結させるための化学物質である。本発明の架橋剤は、当業者であれば適宜選択することが可能であり、……。その例として、限定するものではないが、DSG(disuccinimidyl glutarate、ジスクシンイミジルグルタレート)、DSS(disuccinimidyl suberate、ジスクシンイミジルスベレート)等のスクシンイミジル基を好ましくは2以上含む架橋剤、……が挙げられる。
[0053] 本発明のIgG結合ペプチドは、他の機能性物質、例えば、IgA又はVHH等の抗体、標識物質及び/又は他の薬剤により修飾されていてもよい。IgG結合ペプチドと他の機能性物質の連結は、当業者に公知の方法、例えばアジド基とdibenzocyclooctyneとの反応、又はマレイミド基とスルフヒドリル基の反応等により行うことができる。……」
カ 実施例2~6
「[0084]
[実施例2:標識用ペプチドの調製と特性]
<方法>
アミノ基をBiotinもしくは5/6TAMURAsuccinimidylester(AnaSpec,Inc.)(蛍光色素)で修飾したamino-PEG4化合成ペプチドGPDCAYHXGELVWCTFH(配列番号2)(ただし、C末端はアミド化)はFmoc固相合成法により常法に従って合成した。……
……
[0087]
<結果>
架橋構造の導入が、IgG結合ペプチドの特異性及び親和性に影響を与えるか検討するため、架橋構造を導入したIgG結合ペプチドのIgGへの結合力をSPR解析で測定した(表1)。8残基目のアルギニンをリジンに置換したIgG結合ペプチド(以下、TypeI(R8K)とも称する)のヒトIgGに対する親和性は131nM(Kd)であり、置換前のIgG結合ペプチド(以下、TypeIとも称する)と比べ10倍親和性が低下した。TypeI(R8K)ペプチドに各架橋剤を結合させたものでは、ヒトIgGに対する親和性は、TypeI(R8K)-DSG-OHで約330nM(Kd)、TypeI(R8K)-DSS-OHで約390nM(Kd)であり、架橋剤が結合することによる親和性の大きな減少は見られなかった。いずれのペプチドにしても、Kd値でμM以下の親和性を有することから、十分特異的な標識化が可能であると考えられた。
[0088]
【表1】
[図:0001416457000001.jpg]
[0089]
[実施例3:IgG結合ペプチドによるヒトIgG-Fcの特異的修飾]
<方法>
実施例2と同様の方法によってN末端にBiotin-PEG4を付加したIgG結合ペプチド(TypeI(R8K))をDSS又はDSGで修飾した標識化試薬ペプチドを調製し、これをヒトIgGFcを反応させ、ヒトIgGFcの標識化反応を検討した。……
[0090]<結果>
図2Bに示した様に、ウエスタンブロッティングにおいて、IgGと反応させた場合にのみ、複合体とみられるバンドが観察されたことから、DSG又はDSSと反応させたIgG結合ペプチドは、ともに、IgAやHAS、血清中のIgG以外のタンパク質とは結合せずに、IgGに選択的に結合していることがわかった。
[0091]
[実施例4:IgGに対するIgG結合ペプチドの反応条件の検討]
<方法>
……
[0093]
<結果>
DSS標識化IgG結合ペプチドを用いて、抗体と反応させるモル数及び反応時間の違いによる反応効率をELISAにて検討した(図3)。即ち、プラスティックプレートに固定化したIgG結合ペプチドのモル比を1から10まで変化させてhIgGと反応させたところ、ほぼモル比5のあたりで飽和がみられたことから、モル比5程度のペプチド試薬を加えれば、抗体の標識化には充分であると考えられた(図3A)。DSSで修飾していないビオチン化IgG結合(R8K)ペプチド(NODSSR8K)では極めて弱い結合がみられているが、これは、非共有結合で結合したペプチドによる結合活性と考えられる。さらに、標識化IgG結合ペプチド試薬を過剰に加えても、他のタンパク質(hIgA、Bovinegelatinあるいはブロッキング剤として用いているBSA)への結合は全く検出されなかった。
[0094] 次に、IgGとIgG結合ペプチドのモル比1:2で反応させた際の、反応時間の検討を行った。その結果、約15分で飽和が見られたことから、反応は15分でほぼ終了していると考えられた(図3B)。
[0095] 以上の結果より、架橋剤で修飾した本発明のIgG結合ペプチドは、短時間で、かつ特異的にIgGと結合することが示された。
[0096]
[実施例5:蛍光IgG結合ペプチドによるFcの標識化]
<方法>
……
[0097]
<結果>
DSS又はDSGを反応させた標識化IgG結合ペプチドを各タンパク質に対するモル比1:5でタンパク質と室温にて60min反応させ、サイズ排除クロマトグラフィーにて分析した。いずれの標識化IgG結合ペプチド(DSS又はDSG)を用いても、IgGへの反応性の特異性は同程度であり、hIgAやBSA等の他のタンパク質への蛍光標識化は、全く検出されなかった(図4)。以上のことから、作製したいずれのIgG結合ペプチドを用いても、高い特異性を持って、ヒトIgGを蛍光標識できることがわかった。
[0098]
[実施例6:IgG結合ペプチドによるFcの修飾物の解析(pH4.5)]
<方法>
……
[0100]
<結果>
ヒトIgG1-FcとDSG修飾したIgG結合ペプチド(4mM、Biotin-PEG4-RGNCAYHXGQLVWCTYH-NH2;分子量2760、XはDSG化したリジンで、2つのCysは分子内SS結合を形成)をモル比で0.5、1.0、2.0、又は5.0で反応させたところ、図5Aに示した様に、元のヒトIgG1-Fcの溶出位置のピーク(ピーク2)と2つのピーク3、4が現れた(ピーク1は、DSG化したIgG結合ペプチドであると考えられる)。……
[0101]
図5Bは、各モル比で反応させた場合の、未反応(ピーク2)、1個のペプチドの付加物(ピーク3)、2個のペプチドの付加物(ピーク4)の生成量の変化をグラフ化したものである。例えば、モル比1:1で反応させた場合でも、未反応物は20%以下となり、モル比1:2では未反応物は10%以下と極めて収量が高いことがわかる。また過剰なモル比1:5の場合でも相対的に2個のペプチドの付加物の生成比率が増えたが、それ以上のペプチドが付加されたFcはイオン交換クロマトグラム上では検出されなかったことから、この標識反応は極めて特異的であることがわかった。」
キ 実施例9
「[0106]
[実施例9:IgG結合ペプチドによる、抗IgA受容体VHHとヒトIgG抗体のコンジュゲート形成]
<方法>
DSG修飾したN末アジ化IgG結合ペプチド(Azide-PEG4-GPDCAYHXGELVWCTFH(配列番号2)、XはDSG化したリジンで、2つのCysは分子内SS結合を形成、C末端はアミド化)は、実施例2と同様の方法によって調製した。このペプチドを10mMの濃度でDMSOに溶解し、この溶液20μLを25mM酢酸緩衝液(pH5.0)に溶解した16.6μMの抗HER2ヒトIgG抗体(中外製薬)溶液8mLに加え(ペプチドと抗体のモル比=1:1.5)、室温で5時間反応させた。反応後、CIMmultusTMSO3-1(SHOWADENKO)のカラム(1mL)上で、25mM酢酸緩衝液(pH5.0)の0から1MまでのNaClグラジエント溶出にてアジ化ペプチド抗HER2ヒトIgG抗体(1価アジ化ペプチド抗体、2価アジ化ペプチド抗体の混合物)を精製した。
[0107]
アルパカ由来の抗IgA受容体VHH抗体クローン2b1-L9(C末端にHISタグを付加)は、大腸菌HB2151にて分泌発現したものを、C末端に付加したHISタグを使いアフィニティ精製した。……Profinia(BioRad)の精製システムを用いてVHHを精製した(流速は結合・溶出2mL/min、洗浄2mL/min、Bufferは、平衡化Buffer:0.5MNaCl、20mMリン酸Na、洗浄Buffer:0.5MNaCl、20mMリン酸Na、溶出Buffer:500mMイミダゾール、0.5MNaCl、20mMリン酸Naを用いた。……このようにして調製したDibenzocyclooctyne-maleimide化VHH(22μM)290μLを、上記の通り調製したアジ化ペプチド抗体溶液(17μM、pH4.5)116μLと混合(モル比で3.3:1)し、4℃で14時間反応させた。反応物は、IECSP-825(Shodex)カラム(8.0mm×75mm)上で、10mM酢酸緩衝液(pH4.5)中、0から1MまでのNaClのグラジエント溶出で精製された。精製された画分は、還元後、5-20%のグラジエントゲルSuperSepAce(WAKO)上で、SDS-PAGEにより分離後、CBBによりタンパク質染色した。
[0108]
<結果>
アジ化ペプチド抗体とDibenzocyclooctyne-maleimide化VHHとのクリック反応による連結後のイオン交換クロマトグラフィーの結果、3本(a、b、及びc)の主要なピークが得られた(図8A)。それぞれを還元状態でSDS-PAGEで分析した結果を図8Bに示す。a(レーン3)では元のIgG(レーン1)と同じH鎖由来の50kDaとL鎖由来の25kDaのバンドが見られた。b(レーン4)では、L鎖のバンドに変化はなかったが、元のIgG抗体の重鎖(約50kDa)(レーン1)に加え、ほぼ等量の濃さの約80kDaの位置の新たなバンドが見られた。c(レーン5)では、L鎖のバンドに変化はなかったが、元の重鎖(約50kDa)のバンドが消失し、約80kDaのバンドのみが見られた。これらのことから、aはVHHが付加されていないIgG抗体、bは1個のVHHが連結されたIgG抗体(抗HER2ヒト抗体-1価VHH)、cは2個のVHHが連結されたIgG抗体(抗HER2ヒト抗体-2価VHH)であることが分かった。
[0109]
以上のことから、IgG抗体上にIgG結合ペプチド試薬を使って導入したアジド基と、VHH低分子抗体に導入したDibenzocyclooctyne基間のクリック反応によって、IgG抗体に低分子抗体(VHH等)を連結できることが分かった。」
ク 実施例11
「[0113]
[実施例11:IgG結合ペプチドによる抗体薬物複合体の細胞増殖抑制]
<方法>
N末のアミノ基をMaleimideacetoxylsuccinimidylesterで修飾したマレイミド-PEG4化合成ペプチドRRGPDCAYHXGELVWCTFH(配列番号37:配列番号2のペプチドのN末端に2つのArgを付加したもの、Xはリジンで、C末端はアミド化)はFmoc固相合成法により常法に従って合成した。保護基を除去した後、pH8.5の水溶液中酸化条件下で分子内S-S結合を形成させ、逆相HPLCを用いて、流速1.0ml/min、0.1%TFAを含む10%から60%のアセトニトリルのグラジエント溶出によって分子内S-S結合を有するペプチドを精製した。DMSOに溶解したペプチド(18.5mM)40μLに同じくDMSOに溶解したDM-1(emtansine(XDCExplorer社)、50mM)24μL(ペプチドとDM-1のモル比=1:1.6)を加え、さらにピリジン3.4μL(最終濃度5%)を加え、50℃で3時間反応させた。引き続き、アセトニトリルに溶解したDSG(500mM)80μL加え、50℃で3時間反応させ、IgG結合ペプチドのマレイミド基とDM-1のスルフヒドリル基の間で架橋構造を形成させた。全量を0.1%TFAを含む10%アセトニトリル10mlに希釈し、遠心後の上清を、InertsustainC18カラム(7.6mm1×250mm,GLScience)にインジェクションし、0.1%TFAを含む10%から70%までのアセトニトリルのグラジエントで溶出した。溶出物の質量分析を行い、目的物を回収後、溶媒除去後、凍結乾燥した。[0114] DMSO中に溶解した12.0mMのDM-1を連結したDSG修飾マレイミド-PEG4化IgG結合ペプチド試薬0.56μLと、10mM酢酸緩衝液(pH5.5)に溶解した6.8μMの抗HER2ヒト抗体(中外製薬)1mLを混合し、室温で30分間反応(ペプチドと抗体のモル比=1:1)させた。このようにして調製したDM-1修飾ヒト抗体(抗体薬物複合体、ADC)は、陽イオンイオン交換カラムShodexSP825(8.0mm×75mm,Shodex)にて、10mM酢酸緩衝液(pH5.5)を含む0Mから1.0MまでのNaClのグラジエント溶出にて精製された。未反応の抗体以外の2本のピーク(ピークA、B)を分取後、Vivaspin(10000Daカットオフ、Sartorius)上で、3000gの遠心操作により脱塩濃縮を行った。得られたサンプルは、MALDI-TOF-MASautoflexspeedTOF/TOF-KG(BrukerDaltonics)で質量を測定し、ピークAが元の抗HER2ヒト抗体に比べ3553(理論値3535)、ピークBが元の抗HER2ヒト抗体に比べ7092(理論値7070)増えていることから、DM-1を連結したマレイミド-PEG4化IgG結合ペプチドが、それぞれ、1つ(抗HER2抗体-DM1*1)、及び2つ(抗HER2抗体-DM1*2)の導入されていることを確認した。
……
[0116]<結果>
……以上のことから、IgG結合ペプチドを介した共有結合による抗体薬物複合体は、がん細胞株に対して、有効な細胞増殖抑制活性を発現できることが分かった。」
ケ 段落0123
「<結果>
図13に示したように、Trastuzumab(抗HER2ヒト化IgG1抗体)と同程度に、ヒトモノクローナルIgG1、ヒトIgG2、及びヒトIgG4において、濃いバンドが認められた。また、使用した動物抗体のうち、ウサギポリクローナルIgG抗体が、特に強く染色された。以上のことから、本IgG結合ペプチドを使った標識では、ヒトIgG1、2、及び4並びにウサギIgG抗体を効率良く標識できることが分かった。」
(2) 引用文献2に記載された事項
引用文献2は外国語で記載されたものであるから、以下ではその翻訳文を示す。
これは、同様に原文が外国語で記載された引用文献3、7についても同様である。
ア 要約
「モノクローナルアルドラーゼ抗体(mAb)38C2の不可逆的な化学プログラミングは、β-ラクタムを装備した標的化モジュールによって達成された。最初に、ビオチンに結合したβ-ラクタムを使用してモデル研究が行われた。この結合体は、mAb 38C2の触媒部位リジン(LysH93)を効率的かつ選択的に変更した。次に、β-ラクタムを環状RGDペプチドに結合させて、mAb 38C2を化学的にプログラムし、インテグリン受容体αvβ3およびαvβ5を標的とするようにした。化学的にプログラムされた抗体は、単離されたインテグリン受容体タンパク質およびヒト黒色腫細胞に発現したインテグリンに特異的に結合した。このアプローチは、アルドラーゼ抗体の不可逆的な化学プログラミングに対する効率的で多用途なソリューションを提供する。」
イ スキーム1(1421ページ右欄)
「
[図:0001416457000002.jpg]
スキーム1.標的モジュール(TM)に結合した反応性部分を使用した mAb 38C2の化学プログラミングのさまざまなアプローチ。」
ウ スキーム2(1422ページ左欄)
「
[図:0001416457000003.jpg]
スキーム2.ヘテロ二官能性リンカーモジュール3の合成。」
エ 1422ページ左欄第3段落~1424ページ右欄2行
「我々は、mAb 38C2の化学プログラミングのためのβ-ラクタムベースのアプローチを評価するために、モデル標的モジュールとしてビオチンを選択した。6を含むビオチンは次のように調製された:ビオチンN-ヒドロキシスクシンイミドエステル4をプロパルギルアミンと結合させて、96%の収率でアルキニルビオチン5を得た(スキーム3)。
続いて、β-ラクタムモジュール3とアルキン5の銅(I)触媒アジドアルキン付加環化反応により、目的の標的モジュール6が単離収率87%で得られた。
mAb 38C2の6による化学プログラミングは、基本的に記載どおりに実行された。標的モジュール6は2当量のみ使用し(活性部位あたり1当量)、室温で2時間後にmAb 38C2の触媒活性が完全に失われることが観察された。触媒活性は、メトドールの逆アルドール反応の分析によって測定された(図1A)。アリコートはさまざまな時点で取り出され、反応は、Zebaスピン脱塩カラム(Pierce Inc.)を使用して脱塩することにより、結合していない小分子を直ちに除去して停止された。得られた精製抗体は、メトドールベースの触媒活性アッセイでテストされた。ビオチン プログラムされた mAb 38C2のMALDI-TOF分析を mAb 38C2と比較すると、IgGのコンテキストで触媒部位LysH93が選択的に機能化されているというさらなる証拠が得られた(図1B)。トリプシン消化物の分析により、LysH93標識が確認された。化学的にプログラムされた抗体が、ストレプトアビジンに結合できるような方法でビオチンを表示していることを確認するために、ストレプトアビジン ELISAも使用した(図1C)。」
オ スキーム3
「
[図:0001416457000004.jpg]
スキーム3. β-ラクタム-ビオチン複合体6の合成」
カ 図1
「
[図:0001416457000005.jpg]
図1. 6で化学的にプログラムされたmAb 38C2(cp38C2-6)の形成の分析。(A)指定された時点で除去され、脱塩によってクエンチされたアリコートのメソドールベースの触媒活性アッセイ。(B)mAb 38C2およびcp38C2-6のMALDI-TOF分析のオーバーレイ。(C)mAb 38C2単独、cp38C2-6、市販のビオチン化マウス Ab(陽性対照)、およびBSAのストレプトアビジン-HRPO結合を示すELISAアッセイの結果。」
(3) 引用文献3に記載された事項
ア 要約
「小分子は化学的多様性が無限にあるため、標的分子に対する特異性や親和性に関してモノクローナル抗体(mAbs)に匹敵する。しかし、mAbsの主要な薬理特性は、依然として小分子に匹敵するものがない。小分子を固有の反応中心を持つmAbsに部位特異的かつ共有結合的に結合させるための化学プログラミング戦略が開発されている。小分子とmAbsの好ましい特徴を融合することに加えて、化学的にプログラムされた抗体(cpAbs)は、ほぼ無制限の数の標的分子特異性に対して同じmAbを使用するため、製造コストが削減され、創薬および開発期間が短縮されるため、経済的にも魅力的である。前臨床研究および臨床試験では、ヒト疾患の治療および予防におけるcpAbsの幅広い有用性が実証され始めている。」
イ 図3
「
[図:0001416457000006.jpg]
図3. cpAbsにおける共有結合。抗体成分の固有の反応中心は赤で示され、合成成分は青で示されている。(A)mAbs 38C2およびh38C2は、深い疎水性溝の底に反応性リジン残基(赤)を有している。この反応性リジン残基の求核性e-アミノ基は、求電子性1,3-ジケトン基(青)で誘導体化された小分子に共有結合することができる。共有結合付加物は、イミン-エナミン互変異性によって安定化される。(B)改変されたN末端システインを含む Fcフラグメントは、天然に存在する 1,2-アミノチオール基(赤)を示し、これは 2-メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム(MESNA)の存在下で、最初にチオエステル基転移を起こし、次にアミド結合の形成下でSからNへのアシルシフト転位を起こすことにより、チオエステル基(青)で誘導体化された小分子と反応する。(C)改変されたC末端セレノシステインを含むFcフラグメントは、セレノール基(赤)を示し、これは小分子のマレイミド(青)またはヨードアセトアミド誘導体と反応する。略語:cpAb、化学的にプログラムされた抗体、mAb、モノクローナル抗体。」
ウ 192ページ右欄25~34行
「cpAbの合成部分には、cpAbsの薬理学的特性を増強する追加部分を組み込むことができると考えられる。これらの追加部分として、標的細胞の効率的な破壊を必要とする適応症に対する細胞傷害性薬物又は放射性同位元素、もしくは血清タンパク質に結合することによりcpAbの循環半減期を延長させるペプチド、ペプチドミメティック、又はその他の小分子などがある。特定の用途では、クリックケミストリーにより、これらの部分を構築済みのcpAbに追加すると有益であると考えられる。」
(4) 引用文献4に記載された事項
ア 請求項1
「【請求項1】
一つ以上のターゲッティング薬剤又は一つ以上の生物学的薬剤を含む抗体ターゲッティング化合物であるか、若しくは一つ以上のターゲッティング薬剤と一つ以上の生物学的薬剤とを含む抗体ターゲッティング化合物であって、前記薬剤が、抗体の結合部位に共有結合されることを特徴とする抗体ターゲッティング化合物。」
イ 請求項15、16
「【請求項15】
前記抗体が、ヒト抗体、ヒト化抗体又はキメラヒト抗体である、請求項1記載の抗体ターゲッティング化合物。
【請求項16】
前記薬剤が、抗体結合部位に共有結合される線状又は分岐リンカーに共有結合される、請求項1記載の抗体ターゲッティング化合物。」
ウ 段落0004
「更に、抗体の結合部位に共有結合し得るターゲッティング薬剤、生物学的薬剤又はその両方を含む薬剤-リンカー化合物が提供される。或る実施態様において、リンカーはターゲッティング薬剤を抗体の結合部位に共有結合するための反応性基を含む。抗体結合部位への結合は結合部位の反応性アミノ酸の側鎖についてであってもよい。或る実施態様において、反応性アミノ酸はリシンであり、一方、リンカー反応性基はケトン、ジケトン、ベータラクタム、スクシンイミド活性エステル、ハロケトン、ラクトン、酸無水物、エポキシド、アルデヒド、ハライド、スルホネート、ホスホネート、グアニジン、アミジン、イミン、エネアミン、ケタール、アセタール、又はマレイミドである。
……」
エ 段落0028、0029
「【0028】
ターゲッティング薬剤は抗体結合部位に直接に、又はリンカーの助けにより共有結合されてもよい。適当なリンカーはターゲッティング薬剤がその標的分子に結合し得るためにターゲッティング薬剤と抗体結合部位の間に充分な距離を与えるように選ばれる。この距離は、例えば、抗体結合部位の最も外の表面から結合部位の反応性側鎖までの距離、及びターゲッティング薬剤の性質を含む幾つかの因子に依存する。……
……
リンカーが抗体結合部位間に存在するターゲッティング化合物において、ターゲッティング薬剤は幾つかのアプローチにより調製されてもよい。一つのアプローチにおいて、ターゲッティング薬剤-リンカー化合物及び/又は生物学的薬剤-リンカー化合物は抗体の結合部位のアミノ酸の側鎖との共有結合反応に設計された一つ以上の反応性基を含むリンカーで合成される。薬剤-リンカー化合物及び抗体はリンカー反応性基がアミノ酸側鎖と共有結合を形成する条件下で合わされる。
別のアプローチにおいて、結合は抗体及びリンカーを含む抗体-リンカー化合物を合成することにより得られ、そのリンカーはターゲッティング薬剤又は生物学的薬剤の適当な化学部分との共有結合反応に設計された一つ以上の反応性基を含む。ターゲッティング薬剤又は生物学的薬剤はリンカー反応性基との反応に適した部分を与えるように修飾される必要があるかもしれない。抗体-リンカー及びターゲッティング及び/又は生物学的薬剤はリンカー反応性基がターゲッティング薬剤及び/又は生物学的薬剤に共有結合する条件下で合わされる。
【0029】
本発明の抗体ターゲッティング化合物を生成するための更なるアプローチは二重リンカー設計を使用する。……
説明されたように、リンカーは最初にターゲッティング薬剤に複合され、次いでそのターゲッティング薬剤-リンカーが抗体結合部位に複合されてもよい。又、リンカーは最初に抗体結合部位に複合され、その抗体-リンカーがターゲッティング薬剤に複合されてもよい。当業界で公知の多くの手段がリンカーをターゲッティング薬剤又は抗体結合部位に結合するのに使用し得る。結合に関係し得る例示の官能基として、例えば、エステル、アミド、エーテル、ホスフェート、アミノ、ケト、アミジン、グアニジン、イミン、エネアミン、ホスフェート、ホスホネート、エポキシド、アジリジン、チオエポキシド、マスク又は保護されたジケトン(例えば、ケタール)、ラクタム、ハロケトン、アルデヒド、チオカルバメート、チオアミド、チオエステル、スルフィド、ジスルフィド、ホスホルアミド、スルホンアミド、尿素、チオ尿素、カルマメート、カーボネート、キドロキサミド等が挙げられる。」
オ 段落0035
「リンカー反応性基又はターゲッティング薬剤に固有であってもよい同様のこのような反応性基は、特別な抗体との使用について選ばれる。例えば、アルドラーゼ抗体による修飾のための化学部分はケトン、ジケトン、ベータラクタム、活性エステルハロケトン、ラクトン、酸無水物、マレイミド、アルファ-ハロアセトアミド、シクロヘキシルジケトン、エポキシド、アルデヒド、アミジン、グアニジン、イミン、エネアミン、ホスフェート、ホスホネート、エポキシド、アジリジン、チオエポキシド、マスク又は保護されたジケトン(例えば、ケタール)、ラクタム、ハロケトン、アルデヒド等であってもよい。化合物SCS-873(以下を参照のこと)又はSCS-864(以下を参照のこと)に示されたジケトンの如き1,3-ジケトン配置が、アルドラーゼ抗体による修飾のための基質として特に好ましい。」
カ 段落0038
「……本明細書に使用される“抗体”として、B細胞の産物である免疫グロブリン及びその変異体だけでなく、T細胞の産物であるT細胞受容体(TcR)及びその変異体が挙げられる。免疫グロブリンは免疫グロブリンカッパー及びラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、エプシロン及びミュー定常部遺伝子だけでなく、ミリアド免疫グロブリン可変領域遺伝子により実質的にコードされた一種以上のポリペプチドを含むタンパク質である。L鎖はカッパー又はラムダと分類される。H鎖はガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、又はエプシロンと分類され、これらは順に免疫グロブリンクラス、IgG、IgM、IgA、IgD及びIgEを夫々形成する。又、H鎖のサブクラスが知られている。例えば、ヒトのIgG H鎖はIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4サブクラスのいずれかであってもよい。」
キ 段落0045
「CDRの外部にあるが、それにもかかわらず結合部位のライニングの部分である側鎖を有することにより結合部位の部分を構成する特別な抗体中のアミノ酸残基の同一性は、当業界で公知である方法、例えば、分子モデリング及びX線結晶学を使用して測定し得る。例えば、Riechmannら, (1988) Nature, 332:323-327を参照のこと。アルドラーゼ抗体マウスmAb 38C2(これはHCDR3の付近であるが、その外部に反応性リシンを有する)が、このような抗体の例である。
……」
ク 実施例1~8
「【実施例1】
【0061】
アルドラーゼモノクローナル抗体38Cの結合部位に共有結合されたRGDペプチド擬態ターゲッティング薬剤を含む抗体ターゲッティング化合物
インテグリンターゲッティング化合物をRGDペプチド擬態のジケトンリンカー誘導体とマウスmAb 38C2の反応性リシンの間の可逆性共有結合の形成に基づいて生成した。マウスmAb 38C2は反応性免疫化により生成された触媒抗体及びメカニズム上模擬する天然アルドラーゼ酵素の新しいクラスのプロトタイプである……。反応性リシンにより、これらの抗体は天然アルドラーゼのエナミンメカニズムを使用してアルドール反応及びレトロ-アルドール反応を触媒作用する……。合成有機化学におけるそれらの融通性及び効力に加えて、アルドラーゼ抗体は抗癌戦略としてin vitro及びin vivoのカンプトテシン、ドキソルビシン、及びエトポシドプロドラッグの活性化に使用されていた……。これらの抗体の更に別の特徴、即ち、ジケトンを共有結合するそれらの能力が殆ど解明されないで残っていた。
使用したRGDペプチド擬態(化合物1を参照のこと)は0.9nMにおけるαvβ3及び0.6nMにおけるαvβ5に関する高い結合アフィニティー(最小aIIbb3結合により示された特異性)でもってヒトインテグリンに特異性である(Millerらの上記文献)。……
【実施例2】
【0063】
アルドラーゼモノクローナル抗体38C2の結合部位に共有結合されたターゲッティング薬剤としてのIL-4を含む抗体ターゲッティング化合物
……
【実施例3】
【0064】
アルドラーゼモノクローナル抗体38C2の結合部位に共有結合されたターゲッティング薬剤としてのVEGF-R2結合ペプチドを含む抗体ターゲッティング化合物
血管内皮成長因子(VEGF)は腫瘍血管形成の主要モジュレーターである。……
VEGF-R2結合ペプチドを含む抗体ターゲッティング化合物を、アミノ末端又はカルボキシ末端に付加的なCys残基を有するペプチドを合成し、夫々、配列ATWLPPRC(配列番号3)及びCATWLPPR(配列4)を有するペプチドを生じることにより調製する。これらのチオール修飾ペプチドをマレイミド/ジケトンリンカー(図14)と反応させてペプチド-リンカー-ジケト及びジケト-リンカー-ペプチドを生成する。mAb 38C2と一緒のこれらのジケトン誘導体のインキュベーションがVEGFR-2ペプチドと抗体結合部位の間の共有結合をもたらす。得られる抗体-VEGFR-2ターゲッティング化合物を使用して腫瘍血管形成におけるようにVEGFR-2を発現する内皮細胞を標的とする。その化合物はペプチドの半減期を延長し、それに抗体エフェクター機能を備えさせる。
【実施例4】
【0065】
アルドラーゼモノクローナル抗体38C2の結合部位に共有結合されたターゲッティング薬剤としての中和RNAアプタマーを含む抗体ターゲッティング化合物
……
市販のチオール誘導体化ヌクレオチド、例えば、5’-ホスホロチオエートを使用して、VEGF RNAアプタマーを含む抗体ターゲッティング化合物を調製する。ホスホロチオエート基は酸素原子の一つが硫黄原子により置換された修飾ホスフェート基である。RNAアプタマー内のチオール修飾ヌクレオチドをマレイミドジケトン(例えば、図14)と反応させてRNAアプタマーターゲッティングジケトンリンカー化合物を生成する。又、市販のアミノ修飾物質を使用して、一級アミノ基をRNAアプタマーに導入する。RNAアプタマー内の一級アミノ基で標識されたヌクレオチドを反応性基としてN-ヒドロキシスクシンイミドジケトンを有するリンカーと反応させる。
mAb38C2と一緒のジケトン誘導体のインキュベーションがRNAアプタマーと抗体結合部位の間の共有結合をもたらす。得られる抗体-RNAアプタマーVEGFR-2ターゲッティング化合物を使用して腫瘍血管形成におけるようなVEGFR-2を発現する内皮細胞を標的とする。その化合物はRNAアプタマーの半減期を延長し、それに抗体エフェクター機能を備えさせる。
【実施例5】
【0066】
アルドラーゼモノクローナル抗体38C2の結合部位に共有結合されたターゲッティング薬剤としての葉酸塩を含む抗体ターゲッティング化合物
……
図2Eに示されたジケトンで誘導体化された葉酸塩を含むターゲッティング薬剤-リンカー化合物をmAb 38C2に結合し、使用して卵巣癌細胞を標的とする。大半の卵巣腫瘍細胞は又葉酸塩受容体に加えてインテグリンαvβ3及び/又はαvβ5を発現するので、二重ターゲッティング化合物が治療のために使用し得る。葉酸塩及びRGDペプチド擬態アンタゴニストを含むターゲッティング薬剤-リンカー化合物を単一ジケトンリンカーで一緒に誘導体化して図4Bに示された二重ターゲッティング化合物を生成する。ターゲッティング薬剤-リンカーをmAb 38C2に結合し、卵巣癌細胞を標的とするのに使用する。
【実施例6】
【0067】
アルドラーゼモノクローナル抗体38C2の結合部位に共有結合されたターゲッティング薬剤としての前立腺酸ホスファターゼ又は前立腺特異性抗原のインヒビターを含む抗体ターゲッティング化合物
前立腺酸ホスファターゼ(PAP)及び前立腺特異性抗原(PSA)、セリンプロテアーゼは前立腺腫瘍細胞の細胞表面で発現され、前立腺癌のマーカーとして使用される。……
PAP及び/又はPSAインヒビターを含むターゲッティング薬剤-リンカー化合物をジケトンリンカーで誘導体化して図2Cに示された化合物を生成する。そのターゲッティング薬剤-リンカーをmAb 38C2に結合し、前立腺癌を標的とするのに使用する。
【実施例7】
【0068】
アルドラーゼモノクローナル抗体38C2の結合部位に共有結合されたトロンボポイエチン模擬ペプチド又はトロンボキサンチン受容体の小分子アゴニストを含む抗体ターゲッティング化合物
細胞表面トロンボポイエチン受容体(cMpl、TPOR)は造血成長因子受容体スーパーファミリーの員である。トロンボポイエチン受容体に結合するサイトカインである、トロンボポイエチン(TPO)は、巨核球造血(megakaryopoiesis)及び血小板生成に重要な役割を果たす。……
TPOターゲッティング薬剤抗体化合物を調製して化学療法及び骨髄移植から生じる血小板減少の治療を措置する。配列IEGPTLRQWLAARA(配列番号5)を有するTPO模擬ペプチドAF12505(これは組換えTPOの活性を模擬すると報告されていた)……を、アミノ末端に付加された付加的なCys残基でもって合成してCIEGPTLRQWLAARA(配列番号6)を生成する。次いでこのチオール標識ペプチドをマレイミド/ジケトンリンカー(図14)と反応させてTPOペプチド-リンカー(ジケトン)化合物を生成する。このジケトン誘導体をmAb38C2とともにインキュベートして抗体-TPO受容体ターゲッティング化合物を生成する。
……
【実施例8】
【0069】
アルドラーゼモノクローナル抗体38C2の結合部位に共有結合されたT-20ペプチド又はHIV-1のエンベロープタンパク質を結合する小分子を含む抗体ターゲッティング化合物
HIV-1エンベロープタンパク質の膜貫通サブユニットの領域に相当する合成ペプチドである、T-20、N-アセチル-YTSLIHSLIEESQNQQEKNEQELLELDKWASLWNWF(配列番号7)は、in vitroで2ng/ml未満の濃度で細胞融合及びウイルス侵入をブロックする。……ターゲッティング薬剤としてT-20ペプチドを使用する抗体ターゲッティング化合物を生成してT-20の価、効力、及び半減期を増大した。T-20ペプチドをカルボキシ末端に付加的なCys残基でもって合成し、得られる修飾T-20ペプチドは配列N-アセチル-YTSLIHSLIEESQNQQEKNEQELLELDKWASLWNWFC(配列番号8)を有していた。次いでこのチオール標識ペプチドをマレイミド/ジケトンリンカー(図14)と反応させてT-20-Cys-リンカー化合物を生成した。このターゲッティング薬剤-ジケトンリンカーをAb38C2とともにインキュベートしてペプチドと抗体の間に共有結合を生じた。in vitroアッセイはターゲッティングされた抗体がHIV-1侵入及び感染を抑制するのに増大された効力を示すことを実証した。
……」
ケ 実施例11、12
「【実施例11】
【0072】
アルドラーゼモノクローナル抗体38C2の結合部位に共有結合されたHIV-1のエンベロープタンパク質を結合するTAK-779小分子を含む抗体ターゲッティング化合物
β-ケモキン受容体CCR5はマクロファージトロピック(CCR5使用又はR5)HIV-1複製の抑制に魅力的な標的である。何とならば、非機能性受容体(CCR5コーディング領域中のホモ接合32-bp欠失)を有する個体は外見上正常であるが、R5 HIV-1による感染に耐性であるからである。TAK-779は低分子量(Mr 531.13)非ペプチドCCR5アンタゴニストである……。TAK-779をジケトリンカーで誘導体化して図2Dに示された化合物を得ることにより、ターゲッティング薬剤-リンカー化合物を調製した。そのジケト-TAK-779化合物をMab 38C2とともにインキュベートして抗体CCR5ターゲッティング化合物(TAK-799をベースとする)を生成した。この化合物はR5 HIV-1複製の高度に強力かつ選択的抑制を示し、CCR5発現細胞に特異的に結合した。又、抗体CCR5ターゲッティング化合物はTAK-799それ自体よりも増大された価、増大された生物学的効力、及び増大された血清半減期を示した。
又、その他のCCR5アンタゴニスト……が共有結合抗体との反応のために修飾されて本発明のターゲッティング化合物を生成し得る。又、多種のケモキン受容体アンタゴニストがこのアプローチを使用して修飾し得る。
【実施例12】
【0073】
アルドラーゼモノクローナル抗体38C2の結合部位に共有結合されたLHRHペプチドを含む抗体ターゲッティング化合物
〔D-Lys6〕LH-RHアンタゴニストGlp-His-Trp-Ser-Tyr-D-Lys-Leu-Arg-Pro-Gly-NH2(配列番号9)(100マイクロモル)を無水DMF1mlに溶解した。1当量のNHS-ジケトンリンカー(化合物35)を一夜にわたって撹拌しながら添加した。溶媒を真空で蒸発させ、生成物をHPLCにより精製した。得られる〔D-Lys6〕LH-RH-ジケトンリンカー化合物を抗体38C2へのカップリングに直接使用した。得られる共有結合修飾抗体はLH-RH受容体を発現することが知られているOV-1063ヒト上皮卵巣癌系を特異的に結合した。
【0074】
【化5】
[図:0001416457000007.jpg]
」
(5) 引用文献6に記載された事項
ア 3ページ
「
[図:0001416457000008.jpg]
」
(6) 引用文献7に記載された事項
ア 要約
「マウスモノクローナル抗体38C2は、反応免疫によって生成された新しいクラスの触媒抗体のプロトタイプである。反応性リジンを介して、38C2は天然アルドラーゼのエナミン機構を使用してアルドール反応とレトロアルドール反応を触媒する。合成有機化学におけるその優れた汎用性と有効性に加えて38C2はin vitroおよびin vivoでのプロドラッグの選択的活性化に使用されており、選択的化学療法の有望なツールとして浮上している。がん治療に関連する別の用途、アダプター免疫療法を追加して、私たちは最近、インテグリンαvβ3を標的とするRGDペプチ模倣体のβ-ジケトン誘導体と定義された化学量論の共有結合を形成することにより、38C2を化学的にプログラムして腫瘍を標的にできることを示した。しかし、前臨床評価から臨床評価への移行における大きな制約は、マウス38C2が単回投与後に大多数の患者に誘発する可能性のあるヒト抗マウス抗体免疫応答である。ここでは、分子モデリングによって導かれた合理的設計に基づくマウス38C2のヒト化について報告する。本質的には、底部に反応性リジン残基を持つ深い疎水性ポケットを含むマウス38C2の触媒中心が、ヒト抗体フレームワークに移植された。ヒト化38C2IgG1は、保存された親和性で β-ジケトンハプテンに結合することがわかり、親マウス抗体と比較して同一のkcatとわずかに高いKM値で強力な触媒活性を示した。さらに、ヒト化38C2 IgG1は、親マウス抗体に匹敵するプロドラッグ活性化および化学プログラミングの効率を示した。」
4.取消理由4(新規性)について
(1) 引用文献1に記載された発明に基づく新規性の有無について
ア 引用発明1の認定
(ア) 引用発明1-a
引用文献1には、上記3(1)ア~ケで記載された事項が、具体的な製造例である実施例とともに記載されている。
そして具体的には、実施例3-6では、N末端にBiotin-PEG4を付加したIgG結合ペプチド(GDDCAYHKGELVWCTFH)の8位のリジンをDSGで修飾した標識化試薬ペプチドを調製し、これをヒトIgGと反応させることにより、Biotin-PEG4を付加したIgG結合ペプチドが結合したIgGが記載されるとともに、[0050]の記載によれば、Biotin-PEG4を付加したIgG結合ペプチドはその8位のリジンと、IgGのLys248又はLys246との間で架橋構造を形成することが記載され、具体的な製造例ではIgGのLys248又はLys246への結合は極めて特異的と評価されている(実施例6)。
よって、以上の記載からすると、引用文献1には、次のとおりの発明(以下、「引用発明1-a」という。)が記載されているものと認める。
「ビオチンが付加されたIgG結合ペプチド(GDDCAYHKGELVWCTFH)が、その8位のリジンとIgGのLys248又はLys246の間のDSGの架橋による位置選択性で結合しているヒトIgG。」
(イ) 引用発明1-b
実施例11には、DM-1を連結したマレイミド-PEG4化IgG結合ペプチド(RRGPDCAYHKGELVWCTFH)の10位のリジンをDSGで修飾したものと、抗HER2ヒトIgG抗体を反応させることにより、DM-1を連結したマレイミド-PEG4化IgG結合ペプチドが1つ及び2つ導入された抗HER2ヒトIgG抗体が得られたことが記載され、[0050]の記載によれば、DM-1を連結したマレイミド-PEG4化IgG結合ペプチドはその10位のリジンと、抗HER2ヒトIgG抗体のLys248又はLys246との間で架橋構造を形成し、ペプチドが1つ及び2つ導入されている抗HER2ヒトIgG抗体が得られていることから(実施例11)、Lys248又はLys246以外の位置は結合していないといえる。
よって、以上の記載からすると、引用文献1には、次のとおりの発明(以下、「引用発明1-b」という。)も記載されているものと認められる。
「DM-1が付加されたマレイミド-PEG4化IgG結合ペプチド(RRGPDCAYHKGELVWCTFH)が、その10位のリジンとIgGのLys248又はLys246の間のDSGの架橋による位置選択性で結合している抗HER2ヒトIgG抗体。」
(ウ) 引用発明1-c
実施例9には、IgG結合ペプチドの8位のリジンをDSGで修飾したN末アジ化IgG結合ペプチド(Azide-PEG4-GPDCAYHKGELVWCTFH)を抗HER2ヒトIgG抗体と反応させ、アジ化ペプチド抗HER2ヒトIgG抗体を精製したことが記載され、[0050]の記載によれば、N末アジ化IgG結合ペプチドはその8位のリジンと、抗HER2ヒトIgGのLys248又はLys246との間で架橋構造が形成しており、抗HER2ヒトIgG抗体との反応により、1価アジ化ペプチド抗体、2価アジ化ペプチド抗体を精製できたことが記載されているので(実施例9)、Lys248又はLys246以外の位置は結合していないと認められる。
よって、以上の記載からすると、引用文献1には、次のとおりの発明(以下、「引用発明1-c」という。)も記載されているものと認められる。
「N末にアジド基が付加されたIgG結合ペプチド(Azide-PEG4-GPDCAYHKGELVWCTFH)が、その8位のリジンと抗HER2ヒトIgG抗体のLys248又はLys246の間のDSGの架橋による位置選択性で結合している抗HER2ヒトIgG抗体。」
(エ) 引用発明1-d
実施例9には、引用発明1-cであるアジ化ペプチド抗HER2ヒトIgG抗体におけるアジド基と、アルパカ由来の抗IgA受容体VHH抗体に導入したDibenzocyclooctyne基間のクリック反応によって、アジ化ペプチド抗HER2ヒトIgG抗体にVHH低分子抗体を連結したことが記載され、アルパカ由来の抗IgA受容体VHH抗体がN末に連結されたIgG結合ペプチド(GPDCAYHKGELVWCTFH)の8位のリジンと抗HER2ヒトIgG抗体のLys248又はLys246とが、DSGで架橋され、引用発明1-cのアジ化ペプチド抗HER2ヒトIgG抗体は、アジ化ペプチドが位置選択性に抗体に結合したものであり、このアジ化ペプチドにおけるアジド基にVHHが連結しているので、VHHはアジド基を介して位置選択性で抗体に結合している。
よって、以上の記載からすると、引用文献1には、次のとおりの発明(以下、「引用発明1-d」という。)も記載されているものと認められる。
「アルパカ由来の抗IgA受容体VHH抗体が連結したIgG結合ペプチド(GPDCAYHKGELVWCTFH)が、その8位のリジンと抗HER2ヒトIgG抗体のLys248又はLys246の間のDSGの架橋による位置選択性で結合している抗HER2ヒトIgG抗体。」
イ 対比・判断
(ア) 本件発明1と引用発明1-a、1-b、1-c、1-dをまとめて対比する。
引用発明1-bの「DM-1が付加されたマレイミド-PEG4化IgG結合ペプチド(RRGPDCAYHKGELVWCTFH)」、引用発明1-cの「N末にアジド基が付加されたIgG結合ペプチド(Azide-PEG4-GPDCAYHKGELVWCTFH)」、引用発明1-dの「アルパカ由来の抗IgA受容体VHH抗体が連結したIgG結合ペプチド(GPDCAYHKGELVWCTFH)」は、本件発明1の「機能性物質」に相当する。また、引用発明1-aの「ビオチンが付加されたIgG結合ペプチド(GDDCAYHKGELVWCTFH)」に関しても、ビオチン自体は本件明細書の段落0294で標識物質の例として記載されているものの、このペプチドそのものがビオチンと同様の機能を示すことまでは記載されていないから、本件発明1の「機能性物質」に相当する。更に、引用発明1-a、1-b、1-c、1-dの「DSGによる架橋」は、本件発明の「ペプチド部分を含まないリンカー」に相当する。
引用発明1-aの「IgG」、引用発明1-b、1-c、1-dの「抗HER2ヒトIgG抗体」は、本件発明1の「抗体」に相当し、引用発明1-a、1-b、1-c、1-dの「Lys248又はLys246」は、本件発明1の「標的領域」のうち「(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;」に相当する。
さらに、例えば甲第A-4号証、甲第A-5号証にあるように、抗体には、リジン残基が70~80個程度含まれることが一般に知られているので、引用発明1-a、1-b、1-c、1-dの抗体が、「標的領域中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含」むものであることは明らかであり、「Lys248又はLys246」以外へ結合する場合は記載されていないことから、「標的領域中に含まれる1個以上のリジン残基に対」する「位置選択性」は「30%以上」であるといえる。
そうすると、本件発明1と引用発明1-a、1-b、1-c、1-dとは、
「機能性物質を位置選択的に有する抗体またはその塩であって、
抗体が、下記(a)で示される標的領域:
(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;
中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含み、
機能性物質が、ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、機能性物質と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)を介して、前記標的領域中に含まれる1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合している、機能性物質を位置選択的に有する抗体またはその塩。」で一致し、以下の点で相違している。
(相違点1-1) 本件発明1では「機能性物質が、薬物または標識物質である」のに対し、引用発明1-aの「ビオチンが付加されたIgG結合ペプチド(GDDCAYHKGELVWCTFH)」、引用発明1-bの「DM-1が付加されたマレイミド-PEG4化IgG結合ペプチド(RRGPDCAYHKGELVWCTFH)」、引用発明1-cの「N末にアジド基が付加されたIgG結合ペプチド(Azide-PEG4-GPDCAYHKGELVWCTFH)」、引用発明1-dの「アルパカ由来の抗IgA受容体VHH抗体が連結したIgG結合ペプチド(GPDCAYHKGELVWCTFH)」が「機能性物質」のうち「薬物または標的物質」であることが記載されていない点。
(イ) 本件発明2と引用発明1-cを対比する。
引用発明1-cの「IgG結合ペプチド(Azide-PEG4-GPDCAYHKGELVWCTFH)」の「N末」に付加された「アジド基」は、本件発明2の「生体直交性官能基」に相当し、引用発明1-cの「IgG結合ペプチド(Azide-PEG4-GPDCAYHKGELVWCTFH)」及び「DSGによる架橋」は、本件発明2の「リンカー」に相当する。
引用発明1-c「抗HER2ヒトIgG抗体」は、本件発明2の「抗体」に相当し、引用発明1-cの「Lys248又はLys246」は、本件発明2の「標的領域」のうち「(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;」に相当する。
また、(ア)でも指摘したように、抗体には、リジン残基が70~80個程度含まれることが一般に知られたことであるから、引用発明1-cの抗体が、「標的領域中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含」むものであることは明らかであり、「Lys248又はLys246」以外へ結合する場合は記載されていないことから、「標的領域中に含まれる1個以上のリジン残基に対」する「位置選択性」が「30%以上」であるといえる。
そうすると、本件発明2と引用発明1-cとは、
「生体直交性官能基を位置選択的に有する抗体またはその塩であって、
抗体が、下記(a)で示される標的領域:
(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;
中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含み、かつ
生体直交性官能基が、リンカーを介して、前記標的領域中に含まれる1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合している、生体直交性官能基を位置選択的に有する抗体またはその塩。」で一致し、以下の点で相違している。
(相違点1-2) 本件発明2では「生体直交性官能基」と「抗体の標的領域中のリジン残基」が、「ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、生体直交性官能基と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)」を介して、前記標的領域中に含まれる1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合しているのに対し、引用発明1-cでは「生体直交性官能基」と「抗体の標的領域中のリジン残基」との間を「IgG結合ペプチド(Azide-PEG4-GPDCAYHKGELVWCTFH)」及び「DSGの架橋」により結合している点。
(ウ) 上記3(1)に記載したとおり、引用文献1には上記(相違点1-1)、(相違点1-2)に係る発明特定事項が記載されていないので、本件発明1、2は、引用文献1に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明1、2と同様の規定を含む本件発明12、15も、上記(相違点1-1)、(相違点1-2)を有することから、引用文献1に記載された発明であるとはいえない。
更に、本件発明3~7、9~10、13、及び14は、本件発明1又は2を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1、2と同様の理由により、上記引用文献1に記載された発明であるとはいえない。
(2) 引用文献2に記載された発明に基づく新規性の有無について
ア 引用発明2の認定
引用文献2の記載は上記3(2)ア~カのとおりである。
β-ラクタムを備えたリンカーと結合したターゲティングモジュールにおける、β-ラクタムが、モノクローナルアルドラーゼ抗体(mAb)38C2の触媒部位LysH93と反応することにより、ターゲティングモジュールをmAb 38C2に選択的に結合させることが記載されていること、及び、β-ラクタムを備えたリンカーとビオチンのコンジュゲートを用いてmAb 38C2の化学的プログラミングを行ったところ、mAb 38C2の触媒活性が消失したこと、ビオチンでプログラムされたmAb 38C2のトリプシン消化とそれに続くMALDI-TOF分析により、IgGにおける触媒部位LysH93の選択的機能化が示されたこと、ストレプトアビジンと結合できるようにビオチンを表示していたことも記載されているがわかる。
以上の記載からすると、引用文献2には、以下のとおりの発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認める。
「ビオチンが、β-ラクタムを備えたリンカーとmAb 38C2の触媒部位LysH93の反応により形成されるリンカーを介して、選択的に結合されたモノクローナル抗体38C2。」
イ 対比・判断
本件発明1と引用発明2を対比する。
引用発明2における「ビオチン」は、本件発明1の「薬物または標識物質である」「機能性物質」に相当し、引用発明2における「モノクローナル抗体38C2」は、本件発明1の「抗体」に相当し、引用発明2における「ビオチンが」「選択的に結合されたモノクローナル抗体38C2」は、本件発明1における「機能性物質」を「位置選択的に有する抗体」に相当する。
引用発明2における「β-ラクタムを備えたリンカーとmAb 38C2の触媒部位LysH93の反応により形成されるリンカー」は、本件発明1における「ペプチド部分を含まないリンカー」に相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明2とは、
「機能性物質を位置選択的に有する抗体またはその塩であって、
機能性物質が、ペプチド部分を含まないリンカーを介して、抗体と結合しており、
機能性物質が、標識物質である、機能性物質を位置選択的に有する抗体またはその塩。」で一致し、以下の点で相違している。
(相違点2-1) 本件発明1では「標的領域」が「(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;(b)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う288~290位のアミノ酸残基からなる領域;または(c)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う317位のアミノ酸残基からなる領域」であり、その「中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含」むものとされているのに対し、引用発明2では上記「標的領域」に関する記載がない点。
(相違点2-2) 本件発明1では「ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、機能性物質と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)」と限定されているのに対し、引用発明2ではこのような限定がない点。
(相違点2-3) 本件発明1では「機能性物質」と「リジン残基」との結合に関し「標的領域中に含まれる1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合して」いることが規定されているのに対し、引用発明2ではこのような限定がない点。
上記3(2)に記載したとおり、引用文献2には上記の(相違点2-1)~(相違点2-3)に係る発明特定事項が記載されていないので、本件発明1は、引用文献2に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明1と同様の規定を含む本件発明12も、上記(相違点2-1)~(相違点2-3)を有することから、引用文献1に記載された発明であるとはいえない。
更に、本件発明3~4、6~7、9~10、13についても、本件発明1と同様、(相違点2-1)~(相違点2-3)に係る発明特定事項が記載されていないので、引用文献2に記載された発明であるとはいえない。
(3) 引用文献3に記載された発明に基づく新規性の有無について
ア 引用発明3の認定
引用文献3の記載は上記3(3)ア~ウのとおりである。
上記3(3)ア~ウの記載をみると、固有の反応中心を有するモノクローナル抗体に対して小分子を部位特異的に共有結合的に連結させた化学的にプログラミングされた抗体(cpAbs)に関するものであることが記載されていることが理解できるとともに、モノクローナル抗体38C2 IgG及びh38C2 IgGのパラトープ内の反応性リジン残基に対して、1,3-ジケトンで誘導体化された小分子を共有結合させることが記載されていることがわかる。
以上の記載からすると、引用文献3には、以下のとおりの発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているものと認める。
「小分子が、1,3-ジケトンとモノクローナル抗体38C2 IgGのパラトープ内の反応性リジン残基の反応により形成されるリンカーを介して、特異的に結合されたモノクローナル抗体38C2 IgG。」
イ 対比・判断
本件発明1と引用発明3を対比する。
引用発明3における「小分子」は、本件発明1の「機能性物質」に相当し、引用発明3における「モノクローナル抗体38C2 IgG」は、本件発明1の「抗体」に相当し、引用発明3における「小分子が」「特異的に結合されたモノクローナル抗体38C2 IgG」は、本件発明1における「機能性物質」を「位置選択的有する抗体」に相当する。
引用発明3における「1,3-ジケトンとモノクローナル抗体38C2 IgGのパラトープ内の反応性リジン残基の反応により形成されるリンカー」は、本件発明1における「ペプチド部分を含まないリンカー」に相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明3とは、
「機能性物質を位置選択的に有する抗体またはその塩であって、
機能性物質が、ペプチド部分を含まないリンカーを介して、抗体と結合している、抗体またはその塩。」で一致し、以下の点で相違している。
(相違点3-1) 本件発明1では「標的領域」が「(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;(b)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う288~290位のアミノ酸残基からなる領域;または(c)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う317位のアミノ酸残基からなる領域」であり、その「中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含」むものとされているのに対し、引用発明3では上記「標的領域」に関する記載がない点。
(相違点3-2) 本件発明1では「ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、機能性物質と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)」及び「機能性物質が、薬物または標識物質である」と限定されているのに対し、引用発明3ではこのような限定がない点。
(相違点3-3) 本件発明1では「機能性物質」と「リジン残基」との結合に関し「標的領域中に含まれる1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合して」いることが規定されているのに対し、引用発明3ではこのような限定がない点。
上記3(3)に記載したとおり、引用文献3には上記(相違点3-1)~(相違点3-3)に係る発明特定事項が記載されていないので、本件発明1は、引用文献3に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明3~4、6~7、9~10、12~13についても、本件発明1と同様、(相違点3-1)~(相違点3-3)に係る発明特定事項が記載されていないので、引用文献3に記載された発明であるとはいえない。
(4) 引用文献4に記載された発明に基づく新規性の有無について
ア 引用発明4の認定
引用文献4の記載は上記3(4)ア~ケのとおりである。
引用文献4には、一つ以上のターゲッティング薬剤又は一つ以上の生物学的薬剤を含む抗体ターゲッティング化合物であるか、若しくは一つ以上のターゲッティング薬剤と一つ以上の生物学的薬剤とを含む抗体ターゲッティング化合物であって、前記薬剤が、抗体の結合部位に共有結合されることを特徴とする抗体ターゲッティング化合物が記載されており、前記抗体が、ヒト抗体であること、前記薬剤が、抗体結合部位に共有結合される線状又は分岐リンカーに共有結合されることが記載されている(3(4)ア、イ)。
また、リンカーはターゲッティング薬剤を抗体の結合部位に共有結合するための反応性基を含むこと、抗体結合部位への結合は結合部位の反応性アミノ酸の側鎖についてであってもよく、或る実施態様において、反応性アミノ酸はリシンで あり、リンカー反応性基はケトン、ジケトン、ベータラクタム、スクシンイミド活性エステル等であること、リンカー反応性基は、例えば、アルドラーゼ抗体による修飾のための化学部分はケトン、ジケトン、ベータラクタム、活性エステルハロケトン等であってもよく、化合物SCS-873又はSCS-864に示されたジケトンの如き1,3-ジケトン配置が、アルドラーゼ抗体による修飾のための基質として特に好ましいこと、抗体としては、IgG1などであってもよいこと、アルドラーゼ抗体マウスmAb 38C2は、HCDR3付近であるが、その外部に反応性リシンを有することが記載されている(3(4)ウ~カ)。
具体的には、RGDペプチド擬態のジケトンリンカー誘導体と、マウスmAb 38C2の反応性リシンの間の可逆性共有結合の形成に基づいて、マウスmAb 38C2の結合部位に共有結合されたRGDペプチド擬態を含む抗体ターゲティング化合物を生成したこと、VEGFR-2結合ペプチドのジケトンリンカー誘導体と、mAb 38C2をインキュベートし、mAb 38C2抗体結合部位に共有結合されたVEGFR-2結合ペプチドを含む抗体ターゲティング化合物を得たこと、VEGFに結合するRNAアプタマーのジケトンリンカー誘導体とmAb 38C2をインキュベートし、mAb 38C2抗体結合部位に共有結合されたVEGFに結合するRNAアプタマーを含む抗体ターゲティング化合物を得たこと、ジケトンで誘導体化された葉酸塩をmAb 38C2に結合させて、mAb 38C2抗体結合部位に共有結合された葉酸塩を含む抗体ターゲティング化合物を得たこと、前立腺ホスファターゼ及び/又は前立腺特異的抗原インヒビターのジケトン誘導体をmAb 38C2に結合させて、mAb 38C2抗体結合部位に共有結合された前立腺ホスファターゼ及び/又は前立腺特異的抗原インヒビターを含む抗体ターゲティング化合物を得たこと、トロンボポイエチン模擬ペプチドのジケトン誘導体をmAb 38C2に結合させて、mAb 38C2抗体結合部位に共有結合されたトロンボポイエチン模擬ペプチドを含む抗体ターゲティング化合物を得たこと、T20ペプチドのジケトン誘導体をmAb 38C2とインキュベートし、ペプチドと抗体の間に共有結合を生じ、mAb 38C2抗体結合部位に共有結合されたT20ペプチドを含む抗体ターゲティング化合物を得たこと、非ペプチドCCR5アンタゴニストであるTAK-779化合物のジケトン誘導体をmAb 38C2とインキュベートし、mAb 38C2抗体結合部位に共有結合されたTAK-779化合物を含む抗体ターゲティング化合物を得たこと、LH-RHアンタゴニストのジケトン誘導体をmAb 38C2に結合させて、mAb 38C2抗体結合部位に共有結合されたLH-RHアンタゴニストを含む抗体ターゲティング化合物を得たことが記載されている(3(4)キ、ク)。
以上の記載からすると、引用文献4には、次のとおりの発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されているものと認められる。
「RGDペプチド擬態、VEGFR-2結合ペプチド、VEGFに結合するRNAアプタマー、葉酸塩、前立腺ホスファターゼ、前立腺特異的抗原インヒビター、トロンボポイエチン模擬ペプチド、T20ペプチド、TAK-779化合物、または、LH-RHアンタゴニストが、ジケトンリンカーとmAb 38C2のHCDR3付近であってその外部の反応性リシンの反応により形成されるリンカーを介して結合したmAb 38C2。」
イ 対比・判断
本件発明1と引用発明4を対比する。
引用発明4における「RGDペプチド擬態、VEGFR-2結合ペプチド、VEGFに結合するRNAアプタマー、葉酸塩、前立腺ホスファターゼ、前立腺特異的抗原インヒビター、トロンボポイエチン模擬ペプチド、T20ペプチド、TAK-779化合物、または、LH-RHアンタゴニスト」は、本件発明1の「薬物または標識物質」である「機能性物質」に相当し、引用発明4における「ジケトンリンカーとmAb 38C2のHCDR3付近であってその外部の反応性リシンの反応により形成されるリンカー」は、本件発明1における「ペプチド部分を含まないリンカー」に相当し、引用発明4における「mAb 38C2」は、本件発明1の「抗体」に相当する。
引用発明4の「HCDR3付近であってその外部の反応性リシン」は、本件発明1の「1個以上」の「リジン残基」に相当する。
引用発明4は、「HCDR3付近であってその外部の反応性リシン」という特定の部位に、RGDペプチド擬態等の薬剤を結合させるものであるから、「位置選択性で結合している」といえる。
そうすると、本件発明1と引用発明4とは、
「機能性物質を位置選択的に有する抗体またはその塩であって、
機能性物質が、ペプチド部分を含まないリンカーを介して、抗体にある1個以上のリジン残基と位置選択性で結合しており、かつ
機能性物質が、薬物または標識物質である、抗体またはその塩。」で一致し、以下の点で相違している。
(相違点4-1) 本件発明1では「標的領域」が「(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;(b)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う288~290位のアミノ酸残基からなる領域;または(c)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う317位のアミノ酸残基からなる領域」であり、その「中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含」むものとされているのに対し、引用発明4では上記「標的領域」に関する記載がない点。
(相違点4-2) 本件発明1では「ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、機能性物質と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)」と限定されているのに対し、引用発明4ではこのような限定がない点。
(相違点4-3) 本件発明1では「機能性物質」と「リジン残基」との結合に関し「標的領域中に含まれる1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合して」いることが規定されているのに対し、引用発明4ではこのような限定がない点。
上記3(4)で記載したとおり、引用文献4には上記(相違点4-1)~(相違点4-3)に係る発明特定事項が記載されていないので、本件発明1は、引用文献4に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明3~4、6~7、9~10、12~13についても、本件発明1と同様、(相違点4-1)~(相違点4-3)に係る発明特定事項が記載されていないので、引用文献4に記載された発明であるとはいえない。
(5) まとめ
上記(1)~(4)で検討したように、本件発明1~7、9~10、12~15に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反するものではないから、取消理由4は理由がない。
5.取消理由5(進歩性)について
(1) 引用文献1を主引用例とする場合における進歩性の有無について
ア 上記4(1)イ(ア)で挙げた本件発明1と引用発明1との相違点(相違点1-1)について検討する。
本件明細書の段落0292~0294には、本件発明1の「機能性物質」である「薬物または標識物質」に関する記載が存在するが、例示された成分からみて、「機能性物質」がそれ自体で薬理作用や治療活性、標識機能を有するものが、本件発明1の「機能性物質」である「薬物または標識物質」に該当すると理解できる。
ここで、相違点1-1において挙げられた、引用発明1-aの「ビオチンが付加されたIgG結合ペプチド(GDDCAYHKGELVWCTFH)」、引用発明1-bの「DM-1が付加されたマレイミド-PEG4化IgG結合ペプチド(RRGPDCAYHKGELVWCTFH)」、引用発明1-cの「N末にアジド基が付加されたIgG結合ペプチド(Azide-PEG4-GPDCAYHKGELVWCTFH)」、引用発明1-dの「アルパカ由来の抗IgA受容体VHH抗体が連結したIgG結合ペプチド(GPDCAYHKGELVWCTFH)」をみると、それらは、それ自体で薬理作用や治療活性、標識機能を有するものではない。
また、上記のうちの以下の(a)~(d)にあたる部分構造はペプチドを含むものであるところ、本件発明1のリンカーは、「ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、機能性物質と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)」であるから、引用発明の以下の(a)~(d)にあたる部分構造は本件発明1の「ペプチド部分を含まないリンカー……」であるとはいえない。
(a)引用発明1-aの「IgG結合ペプチド(GDDCAYHKGELVWCTFH)」、
(b)引用発明1-bの「マレイミド-PEG4化IgG結合ペプチド(RRGPDCAYHKGELVWCTFH)」、
(c)引用発明1-cの「IgG結合ペプチド(Azide-PEG4-GPDCAYHKGELVWCTFH)」、及び
(d)引用発明1-dの「IgG結合ペプチド(GPDCAYHKGELVWCTFH)」
そして、引用文献1~4、6~7には、引用発明1-aの「ビオチンが付加されたIgG結合ペプチド(GDDCAYHKGELVWCTFH)」、引用発明1-bの「DM-1が付加されたマレイミド-PEG4化IgG結合ペプチド(RRGPDCAYHKGELVWCTFH)」、引用発明1-cの「N末にアジド基が付加されたIgG結合ペプチド(Azide-PEG4-GPDCAYHKGELVWCTFH)」、引用発明1-dの「アルパカ由来の抗IgA受容体VHH抗体が連結したIgG結合ペプチド(GPDCAYHKGELVWCTFH)」を、それ自体で薬理作用や治療活性、標識機能を有する「薬物または標識物質」に置き換えること、または、「薬物または標識物質」と「ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、機能性物質と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)」とが結合したものに置き換えることを当業者に動機づける記載や示唆は何ら存在しない。
そうすると、引用文献1~4、6~7の記載を勘案しても、当業者が引用発明1-a~1-dに基づいて本件発明1を容易に想到し得たとは認められない。
イ 上記4(1)イ(イ)で挙げた本件発明2と引用発明1-cとの相違点(相違点1-2)について検討する。
引用発明1-cの「N末にアジド基が付加されたIgG結合ペプチド(Azide-PEG4-GPDCAYHKGELVWCTFH)」のうち「アジド基」は「生体直交性官能基」であると認められるが、「IgG結合ペプチド(Azide-PEG4-GPDCAYHKGELVWCTFH)」」にあたる部分構造は、ペプチドを含むので、本件発明2の「ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、生体直交性官能基と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)」であるとはいえない。
そして、引用文献1~4、6~7には、引用発明1-cの「N末にアジド基が付加されたIgG結合ペプチド(Azide-PEG4-GPDCAYHKGELVWCTFH)」について、「IgG結合ペプチド(Azide-PEG4-GPDCAYHKGELVWCTFH)」にあたる部分構造を削除することや当該部分構造を他のペプチド部分を含まない部分構造に置き換えることを当業者に動機づける記載や示唆は何ら存在しない。
そうすると、引用文献1~4、6~7の記載を勘案しても、当業者が引用発明1-cに基づいて本件発明2を容易に想到し得たとは認められない。
ウ 上記ア、イで検討した事項は、上記4(1)イ(ウ)で検討したように同様の相違点を有する本件発明12及び15についても妥当する。
また、本件発明3~7、9、10、13、及び14も、本件発明1又は2を直接又は間接的に引用するものであるから、上記ア、イで検討した事項が妥当する。
したがって、本件発明1~7、9~10、12~15は、引用発明1-a~1-d、すなわち、引用文献1に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2) 引用文献2を主引用例とする場合における進歩性の有無について
上記4(2)イで挙げた本件発明1と引用発明2との(相違点2-1)について検討する。
引用文献2には、(相違点2-1)で挙げた本件発明1の「標的領域」、すなわち「(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;(b)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う288~290位のアミノ酸残基からなる領域;または(c)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う317位のアミノ酸残基からなる領域」(以下では、「特定の領域」という。)に関する記載や示唆はみられない。
また、引用文献1、3~4、6~7の記載をみても、引用発明2において、「特定の領域」を採用することを当業者に動機付ける記載や示唆は存在しないので、引用文献1~4、6~7の記載を勘案しても、当業者が引用発明2に基づいて本件発明1を容易に想到し得たとは認められない。
さらに、本件発明3~4、6~7、9~10、13についても、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、上で検討した事項が妥当する。
そうすると、本件発明1、3~4、6~7、9~10、13は、(相違点2-2)~(相違点2-3)について検討するまでもなく、引用発明2、すなわち、引用文献2に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3) 引用文献3を主引用例とする場合における進歩性の有無について
ア 上記4(3)イで挙げた本件発明1と引用発明3との(相違点3-1)について検討する。
上記(2)で述べたものと同様に、引用文献3には、「特定の領域」に関する記載や示唆はみられないし、引用文献1~2、4、6~7の記載をみても、引用発明3において、「特定の領域」を採用することを当業者に動機付ける記載や示唆は存在しないので、引用文献1~7の記載を勘案しても、当業者が引用発明3に基づいて本件発明1を容易に想到し得たとは認められない。
イ 本件発明2と引用発明3を対比するに、上記4(3)イで検討した点も踏まえると、本件発明1と引用発明3とは、
「置換基を位置選択的に有する抗体またはその塩であって、
置換基が、ペプチド部分を含まないリンカーを介して抗体と結合している、抗体またはその塩。」で一致し、以下の点で相違する。
(相違点3-4) 本件発明2では「標的領域」が「(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;(b)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う288~290位のアミノ酸残基からなる領域;または(c)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う317位のアミノ酸残基からなる領域」であり、その「中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含」むものとされているのに対し、引用発明3では上記「標的領域」に関する記載がない点。
(相違点3-5) 本件発明2では「ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、生体直交性官能基と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)」、「生体直交性官能基」と限定されているのに対し、引用発明3ではこのような限定がない点。
(相違点3-6) 本件発明2では「生体直交性官能基」と「リジン残基」との結合に関し「標的領域中に含まれる1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合して」いることが規定されているのに対し、引用発明3ではこのような限定がない点。
ここで、(相違点3-4)は(相違点3-1)と同じであるから、本件発明1の場合と同様の理由により、引用文献1~2、4、6~7の記載を勘案しても、当業者が引用発明3に基づいて本件発明2を容易に想到し得たとは認められない。
ウ 上記ア、イで検討した事項は、上記イや4(3)イで示したように、同様の相違点がある本件発明12及び15についても妥当する。
また、本件発明3~7、9~10、13~14も、本件発明1又は2を直接又は間接的に引用するものであるから、上記ア、イで検討した事項が妥当する。
そうすると、本件発明1~7、9~10、12~15は、(相違点3-2)~(相違点3-3)及び(相違点3-5)~(相違点3-6)について検討するまでもなく、引用発明3、すなわち、引用文献3に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4) 引用文献4を主引用例とする場合における進歩性の有無について
ア 上記4(4)イで挙げた本件発明1と引用発明4との(相違点4-1)について検討する。
上記(2)で述べたものと同様に、引用文献4には、「特定の領域」に関する記載や示唆はみられないし、引用文献1~3、6~7の記載をみても、引用発明4において、「特定の領域」を採用することを当業者に動機付ける記載や示唆は存在しないので、引用文献1~3、6~7の記載を勘案しても、当業者が引用発明4に基づいて本件発明1を容易に想到し得たとは認められない。
イ 本件発明2と引用発明4を対比する。
上記4(4)イで検討した点も踏まえると、本件発明2と引用発明4とは、
「置換基を位置選択的に有する抗体またはその塩であって、
置換基が、ペプチド部分を含まないリンカーを介して、抗体にある1個以上のリジン残基と位置選択性で結合している、抗体またはその塩。」で一致し、以下の点で相違する。
(相違点4-4) 本件発明2では「標的領域」が「(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;(b)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う288~290位のアミノ酸残基からなる領域;または(c)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う317位のアミノ酸残基からなる領域」であり、その「中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含」むものとされているのに対し、引用発明4では上記「標的領域」に関する記載がない点。
(相違点4-5) 本件発明2では「ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、生体直交性官能基と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)」と限定されているのに対し、引用発明4ではこのような限定がない点。
(相違点4-6) 本件発明2では「生体直交性官能基」と「リジン残基」との結合に関し「標的領域中に含まれる1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合して」いることが規定されているのに対し、引用発明4ではこのような限定がない点。
ここで、(相違点4-4)は(相違点4-1)と同じであるから、本件発明1の場合と同様の理由により、引用文献1~3、6~7の記載を勘案しても、当業者が引用発明4に基づいて本件発明2を容易に想到し得たとは認められない。
ウ 上記ア、イで検討した事項は、上記イや4(3)イで示したように、同様の相違点がある本件発明12及び15についても妥当する。
また、本件発明3~7、9~10、13~14も、本件発明1又は2を直接又は間接的に引用するものであるから、上記ア、イで検討した事項が妥当する。
そうすると、本件発明1~7、9~10、12~15は、(相違点4-2)~(相違点4-3)及び(相違点4-5)~(相違点4-6)について検討するまでもなく、引用発明4、すなわち、引用文献4に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5) まとめ
上記(1)~(4)で検討したように、本件発明1~7、9~10、12~15に係る特許は、特許法第29条第2項に違反するものではないから、取消理由5は理由がない。
6.取消理由6(拡大先願)について
(1) 引用出願5に記載された事項と引用出願5に記載された発明の認定
引用出願5の出願当初明細書、請求の範囲、及び図面(以下「先願明細書」という。)には、以下の記載がある。
なお、先願明細書は英文であることから、以下では引用出願5の国内公表公報(特表2019-502684号公報)の記載により翻訳文を示す。
ア 「【請求項1】
結合体化された免疫グロブリンを作製するための方法であって、該方法は、
微生物トランスグルタミナーゼおよびアシル供与体基質を含む機能性物質とともに、免疫グロブリンをインキュベートする工程であって、
a)該免疫グロブリンは、C末端リジンの後に少なくとも1つのアミノ酸残基を含み、
b)該アシル供与体基質は、グルタミン残基を含み、
c)該機能性物質は、治療薬または診断薬であり、
該微生物トランスグルタミナーゼは、該免疫グロブリンの該C末端リジンを、該機能性物質上の該アシル供与体基質の該グルタミン残基に結合体化させる、工程を含み、それによって、該結合体化された免疫グロブリンを作製する、方法。
【請求項2】
結合体化された免疫グロブリンを作製するための方法であって、該方法は、
i)微生物トランスグルタミナーゼおよびアシル供与体基質とともに免疫グロブリンをインキュベートする工程であって、
a)該免疫グロブリンは、C末端リジンの後に少なくとも1つのアミノ酸残基を含み、
b)該アシル供与体基質は、グルタミン残基および反応基を含み、
該微生物トランスグルタミナーゼは、該免疫グロブリンの該C末端リジンを該アシル供与体基質の該グルタミン残基に結合体化させる、工程、および
ii)該アシル供与体基質の該反応基に機能性物質を結合体化させる工程であって、ここで、該機能性物質は、治療薬または診断薬である、工程
を含み、それによって、該結合体化された免疫グロブリンを作製する、方法。
【請求項3】
前記アシル供与体基質の前記反応基が、クリックケミストリーによって前記機能性物質に結合体化される、請求項2に記載の方法。
……
【請求項39】
免疫グロブリンおよび機能性物質を含む、結合体化された免疫グロブリンであって、ここで、
a)該免疫グロブリンは、C末端リジンの後に少なくとも1つのアミノ酸残基を含み、
b)該機能性物質は、アシル供与体基質を含み、該アシル供与体基質は、グルタミン残基を含み、
c)該機能性物質は、治療薬または診断薬であり、
該免疫グロブリンの該C末端リジンは、該機能性物質の該アシル供与体基質の該グルタミン残基に結合体化されている、結合体化された免疫グロブリン。
……
【請求項41】
前記C末端リジンが、前記免疫グロブリンの重鎖上のリジン447(K447)である、請求項39または請求項40に記載の結合体化された免疫グロブリン。
……
【請求項44】
前記アシル供与体基質を含む前記機能性物質が、式(I)または(II):
(Z)m-Gln-(L)n-(Y) (I)
(Y)-(L)n-Gln-(Z)m (II)
(式中、
Zは、カルボキシルベンジルオキシ(CBZ)基またはアミノ酸残基であり;
Glnは、グルタミンアミノ酸残基であり;
各Lは、独立して、1~20個の炭素原子の直鎖または分枝鎖のリンカーであり、ここで、該炭素原子のうちの1つまたは複数は、任意選択でかつ独立して、窒素原子、酸素原子または硫黄原子で置き換えられ得、ここで、各炭素原子および各窒素原子は、任意選択で置換され得るか;または各Lは、任意選択でかつ独立して、アミノ酸残基であり;
mは、0~5の整数であり;
nは、0~5の整数であり;
Yは、機能性物質である)
のうちの1つに記載のものである、請求項39に記載の結合体化された免疫グロブリン。」
……
【請求項67】
前記免疫グロブリンが、IgG1免疫グロブリンである、請求項39または請求項40に記載の結合体化された免疫グロブリン。
……
【請求項71】
前記免疫グロブリンが、ヒト免疫グロブリンまたはヒト化免疫グロブリンである、請求項39または請求項40に記載の結合体化された免疫グロブリン。」
イ 「【課題を解決するための手段】
【0010】
要旨
本発明は、驚いたことに、微生物トランスグルタミナーゼによる野生型免疫グロブリンのリジンの修飾は観察されなかったが、C末端アミノ酸の伸長を用いてC末端免疫グロブリンリジン残基をカルボキシペプチダーゼによる切断から保護したとき、微生物トランスグルタミナーゼが、天然のC末端リジンをアシル受容体として利用できたことを開示する。驚いたことに、微生物トランスグルタミナーゼを用いたC末端リジンの結合体化は、結合体化される機能性物質の部位特異的かつ予測可能な組み込みをもたらす。」
ウ 「実施例5:アシル供与体基質
【0216】C末端リジンへの結合体化の有用性の1つは、部位特異的ADCを製造する場合である。C末端リジンへの機能性物質の結合体化は、2つの方法のうちの1つによって達成され得る。第1に、2工程方法は、反応基(例えば、BCN、DBCO、TCO、アジド(N3)、アルキン、テトラジンまたはマレイミド)を用いて合成されたアシル供与体へのC末端リジンの微生物トランスグルタミナーゼ結合体化を必要とし得る。第2の工程は、例えば、銅非含有クリックケミストリーまたはチオール反応性化学を用いて、その反応基に機能性物質を結合体化させることを含み得る。ゆえに、アミノ-PEG3-BCNまたはアミノプロピル-N3を、方法の項において詳述したように、Z-Gln-Glyのヒドロキシル基に付加した。上記のように、抗体01-HC-Lを、Z-Gln-Gly、Z-Gln-Gly-CAD-ビオチン、Z-Gln-Gly-N3またはZ-Gln-Gly-PEG3-BCNおよび微生物トランスグルタミナーゼとともにインキュベートした。サンプルを脱塩し、脱グリコシル化し、還元し、ESI-MSによって解析して、mAbへの基質の付加を決定した。4つすべての基質が、抗体01-HC-Lに効率的に結合体化された(表9)。
【表9】
[図:0001416457000009.jpg]
……」
先願明細書の実施例5には、具体的な結合体化した抗体として、重鎖のC末端にロイシンを付加した抗体01を、アシル供与体基質を含むZ-Gln-Gly、Z-Gln-Gly-CAD-ビオチン、Z-Gln-Gly-N3またはZ-Gln-Gly-PEG3-BCNおよび微生物トランスグルタミナーゼとともにインキュベートすることにより、重鎖C末端リジンに上記Glnが結合体化したことが記載されている。
以上の記載からすると、先願明細書には、次のとおりの発明(以下、「引用発明5-a」という。)が記載されているものと認められる。
「Z-Gln-Gly、Z-Gln-Gly-CAD-ビオチン、またはZ-Gln-Gly-PEG3-BCNのグルタミン残基が、重鎖のC末端にロイシンを付加した抗体01のC末端リジンへ結合体化している抗体01。」
また、先願明細書には、次のとおりの発明(以下、「引用発明5-b」という。)も記載されているものと認められる。
「Z-Gln-Gly-N3のグルタミン残基が、重鎖のC末端にロイシンを付加した抗体01のC末端リジンへ結合体化している抗体01。」
(2) 対比・判断
ア 本件発明1と引用発明5-a、引用発明5-bをまとめて対比する。
引用発明5-aの「Gly」、「Gly-PEG3-BCN」、引用発明5-bの「Gly-N3」は、本件発明1の「機能性物質」に相当する。また、引用発明5-aの「Gly-CAD-ビオチン」に関しても、ビオチン自体は本件明細書の段落0294で標識物質の例として記載されているものの、「Gly-CAD-ビオチン」そのものがビオチンと同様の機能を示すことまでは記載されていないから、本件発明1の「機能性物質」に相当する。
引用発明5-a、5-bの「Gln」及び「抗体01」は、本件発明の「ペプチド部分を含まないリンカー」及び「抗体」に相当する。
引用発明5-a、5-bの「C末端リジン」は、本件発明1の「標的領域中に含まれる1個以上のリジン残基」に相当する。
引用発明5-a、5-bの「C末端リジン」は、本件発明1の「1個以上のリジン残基」に相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明5-a、5-bとは、
「機能性物質を有する抗体またはその塩であって、
機能性物質が、ペプチド部分を含まないリンカーを介して、抗体にある1個以上のリジン残基と結合している、抗体またはその塩。」で一致し、以下の点で相違する。
(相違点5-1) 本件発明1では「標的領域」が「(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;(b)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う288~290位のアミノ酸残基からなる領域;または(c)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う317位のアミノ酸残基からなる領域」であり、その「中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含」むものとされているのに対し、引用発明5-a、5-bでは上記「標的領域」に関する記載がない点。
(相違点5-2) 本件発明1では「ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、機能性物質と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)」、「機能性物質が、薬物または標識物質である」と限定されているのに対し、引用発明5-a、5-bではこのような限定がない点。
(相違点5-3) 本件発明1では「機能性物質」と「リジン残基」との結合に関し「標的領域中に含まれる1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合して」いることが規定されているのに対し、引用発明5-a、5-bではこのような限定がない点。
本件発明1と引用発明5-a、5-bとの(相違点5-1)について検討する。
先願明細書には、「特定の領域」に関する記載や示唆はみられないし、「特定の領域」が先願明細書に記載されていると同視し得る技術常識が本件特許の優先日に存したとも認められない。
そうすると、本件発明1と引用発明5-a、5-bが同一の発明であるとは認められない。
イ 本件発明2と引用発明5-bを対比する。
引用発明5-bの「N3」は、本件発明2の「生体直交性官能基」に相当し、引用発明5-bの「Gln」、「Gly」は、「ペプチド部分を含まないリンカー」に相当する。その他の点は、アで検討したとおりである。
そうすると、本件発明2と引用発明5-bとは、
「生体直交性官能基を有する抗体またはその塩であって、
生体直交性官能基が、ペプチド部分を含まないリンカーを介して、抗体にある1個以上のリジン残基と結合している、抗体またはその塩。」点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点5-4) 本件発明2では「標的領域」が「(a)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う246~248位のアミノ酸残基からなる領域;(b)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う288~290位のアミノ酸残基からなる領域;または(c)ヒトIgG Fc領域におけるEu numberingに従う317位のアミノ酸残基からなる領域」であり、その「中においてリジン残基を1個以上含み、かつ、前記標的領域以外の非標的領域中において前記リジン残基を5個以上含」むものとされているのに対し、引用発明5-bでは上記「標的領域」に関する記載がない点。
(相違点5-5) 本件発明2では「ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、生体直交性官能基と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)」と限定されているのに対し、引用発明5-bではこのような限定がない点。
(相違点5-6) 本件発明2では「生体直交性官能基」と「リジン残基」との結合に関し「標的領域中に含まれる1個以上のリジン残基に対して30%以上の位置選択性で結合して」いることが規定されているのに対し、引用発明5-bではこのような限定がない点。
ここで、(相違点5-4)は(相違点5-1)と同じであるから、本件発明1の場合と同様の理由により、本件発明2と引用発明5-bが同一の発明であるとは認められない。
ウ 上記ア、イで検討した事項は、本件発明1、2と同様の相違点がある本件発明12及び15についても妥当する。
また、本件発明3~7、9~10、13~14も、本件発明1又は2を直接又は間接的に引用するものであるから、上記ア、イで検討した事項が妥当する。
そうすると、本件発明1~7、9~10、12~15は、(相違点5-2)~(相違点5-3)及び(相違点5-5)~(相違点5-6)について検討するまでもなく、引用発明5-a、5-b、すなわち、先願明細書に記載された発明と同一であるとは認められない。
7.小括
以上のとおりであるから、本件発明1~7、9~10、12~23に係る特許は、取消理由1(明確性)、取消理由2(サポート要件)、取消理由3(実施可能要件)、取消理由4(新規性)、取消理由5(進歩性)、及び取消理由6(拡大先願)のいずれの理由によっても取り消すことはできない。
第6 取消理由通知において採用しなかった申立理由について
1.申立人 鈴木による申立理由(申立理由A)について
(1)申立理由A-1~A-3について
申立理由A-1、申立理由A-2、申立理由A-3のうち、甲第A-1号証(引用文献3)、甲第A-2号証(引用文献4)、甲第A-3号証(引用出願5)を主引用例とするものは取消理由4(新規性)、取消理由5(進歩性)、取消理由6(拡大先願)と同じである。
申立理由A-1、申立理由A-2のうち、甲第A-3号証(引用出願5)に基づくものは、以下のとおり、理由はない。
すなわち、申立人 鈴木は、優先権主張の基礎となる出願の出願当初明細書(以下、「基礎出願明細書」という。)からみて、本件明細書では実施例9~54が追加されているので、当該追加されたと判断される部分については優先権が有効ではなく、訂正前本件発明1~15は甲第A-3号証により新規性及び進歩性を有しない旨を主張する。
しかし、基礎出願明細書に記載された実施例1~8は、本件発明1、2、12、15にある「ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、機能性物質と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)」や「ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、生体直交性官能基と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)」(下線は当審で付与した。)を含む発明を具体的に裏付けるものであるから、本件明細書で追加された実施例9~54により、本件特許の優先権は無効にならない。
したがって、本件特許に係る優先権主張が無効であることを前提とした甲第A-3号証に基づく申立理由A-1(新規性)及び申立理由A-2(進歩性)は理由がない。
(2)申立理由A-4~A-6について
申立理由A-4~A-6は、「ペプチド部分を含まない」リンカーに関するものであるが、本件訂正により「標的領域」、「機能性物質」、「リンカー」及び「生体直交性官能基」、並びにそれらの関係が明確となり、本件発明が、明確性要件、サポート要件、実施可能要件を満たすようになったことは、第5の1(1)の取消理由1(明確性)及び第5の2(1)の取消理由2(サポート要件)、取消理由3(実施可能要件)に示したとおりである。
なお、申立人 鈴木は、本件特許の優先日後に出願された国際公開等を示して、本件明細書の発明の詳細な説明には、切断断片が抗体に必ず残るリンカーが開示されるに止まるので、本件発明は、実施可能要件及びサポート要件に違反している旨を主張する。
しかし、化合物の官能基に改変を加えて所望の化学構造を得ること、リンカーの構造に適宜改変を加えることは、引用例を示すまでもなく、本件特許の優先日における周知技術であり、上記の国際公開等を参照しても、機能性物質を抗体に結合させるための生体直交性官能基を抗体に結合させつつ、切断断片なるものが抗体に残らないようなリンカーを製造することが、本件特許の優先日の当業者において技術的に不可能であったとは解されない。
したがって、本件明細書の実施例において、特定の官能基(切断断片)を有するリンカーの具体例だけが開示されていたとしても、それだけで本件発明が実施可能要件及びサポート要件に違反していると判断することはできない。
よって、上記の主張は採用できない。
2.申立人 福井による申立理由(申立理由B)について
(1)申立理由B-1~B-2について
申立理由B-1~B-2は、要するに本件発明は膨大な数の抗体またはその塩を包含するのでサポート要件、実施可能要件を満たさないというものである。
しかし、第5の2(1)の取消理由2(サポート要件)、取消理由3(実施可能要件)で示したように、本件明細書の発明の詳細な説明には、特定のアミノ酸配列を有するIgG1Fc結合性ペプチドを利用することで、薬物等の機能性物質や生体直交性官能基が、本件発明1、2に記載された標的領域に存在するリジン残基に対し、ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、機能性物質と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)を介して、位置選択性で結合した抗体が得られることが具体的に記載されている。
そうすると、本件明細書の実施例に記載された、特定の薬物等の「機能性物質」、「生体直交性官能基」、「ペプチド部分を含まないリンカー」のみならず、それら以外のものを採用した場合でも、当業者に過度の試行錯誤、実験を要することなく本件発明を実施でき、第5の2(1)で示した課題を解決できるといえる。
よって、申立理由B-1~B-2は、いずれも理由がない。
(2)申立理由B-3について
申立理由B-3のうちa及びbは、取消理由1(明確性)と同じである。
申立理由B-3のうちcは、抗体-薬物複合体を化学物質として規定するために必要となる発明特定事項、すなわち部位特位的な結合を可能とする重要な構造が欠落しているというものであるが、本件訂正により、「標的領域」、「機能性物質」、「リンカー」及び「生体直交性官能基」、並びにそれらの関係が明確となったため、本件明細書の「標的領域」等に対する具体的な説明を参酌すると、部位特位的な結合を可能とする重要な構造は明らかになったといえる。
よって、申立理由B-3のcも理由がない。
(3)申立理由B-4(新規性)、申立理由B-5(進歩性)について
申立理由B-4、申立理由B-5のうち、甲第B-3号証(引用文献1)を主引用例とするものは取消理由4(新規性)、取消理由5(進歩性)と同じである。
一方、甲第B-1号証、甲第B-2号証には、抗体-薬物複合体に関する発明が記載されているが、本件発明が備える「特定の領域」に関する記載はなく、引用文献1~4、7を含む他の証拠にも、上記の抗体-薬物複合体に関する発明において、「特定の領域」の採用を当業者に動機付ける記載や示唆は存在しないので、甲第B-1号証、甲第B-2号証を主引用例としても本件発明の新規性、進歩性を否定することはできない。
したがって、申立理由B-4、B-5は、いずれも理由がない。
3.申立人 小宮山による申立理由(申立理由C)について
(1)申立理由C-1~C-2について
申立理由C-1、申立理由C-2のうち、甲第C-1号証(引用文献1)、甲第C-2号証(引用文献2)を主引用例とするものは取消理由4(新規性)、取消理由5(進歩性)と同じである。
なお、申立理由C-2には、甲第C-1号証(引用文献1)を主引用例とし、甲第C-3号証を副引用例とするものが含まれるが、引用文献1~4、7と同様に、甲第C-3号証にも、引用発明1-aの「ビオチンが付加されたIgG結合ペプチド(GDDCAYHKGELVWCTFH)」、引用発明1-bの「DM-1が付加されたマレイミド-PEG4化IgG結合ペプチド(RRGPDCAYHKGELVWCTFH)」、引用発明1-cの「N末にアジド基が付加されたIgG結合ペプチド(Azide-PEG4-GPDCAYHKGELVWCTFH)」、引用発明1-dの「アルパカ由来の抗IgA受容体VHH抗体が連結したIgG結合ペプチド(GPDCAYHKGELVWCTFH)」を、それ自体で薬理作用や治療活性、標識機能を有する「薬物または標識物質」に置き換えること、または、「薬物または標識物質」と「ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、機能性物質と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)」とが結合したものに置き換えることを当業者に動機づける記載や示唆は何ら存在しないし、引用発明1-cの「N末にアジド基が付加されたIgG結合ペプチド(Azide-PEG4-GPDCAYHKGELVWCTFH)」について、「IgG結合ペプチド(Azide-PEG4-GPDCAYHKGELVWCTFH)」にあたる部分構造を削除することや当該部分構造を他のペプチド部分を含まない部分構造に置き換えることを当業者に動機づける記載や示唆は何ら存在しない。
そうすると、甲第C-3号証の記載を勘案しても、当業者が甲第C-1号証(引用文献1)に記載された発明に基づき本件発明を容易に想到し得たとは認められない。
(2)申立理由C-3~C-4について
申立理由C-3~C-4は、「機能性物質」、「標的領域」、「ペプチド部分を含まないリンカー」、「生体直交性官能基」に任意のものが含まれるが、本件明細書の実施例には特定の場合のみが記載される点、本件明細書には、30%という低い位置選択性で結合している抗体の記載がない点を主たる根拠とするものである。
しかし、本件訂正により「機能性物質」、「標的領域」、「ペプチド部分を含まないリンカー」及び「生体直交性官能基」、並びにそれらの関係が明確になったため、それらに任意のものが含まれるとの指摘は当たらないし、第5の2(1)の取消理由2(サポート要件)、取消理由3(実施可能要件)で示したように、本件明細書の発明の詳細な説明には、特定のアミノ酸配列を有するIgG1Fc結合性ペプチドを利用することで、薬物等の機能性物質が、本件発明1、2に記載された標的領域に存在するリジン残基に対し、ペプチド部分を含まないリンカー(ここで、リンカーは、機能性物質と抗体の標的領域中のリジン残基との間の全領域を示す)を介して、位置選択性で結合した抗体が得られることが実施例において具体的に記載されている。
そして、上記の実施例では、「30%以上の位置選択性」を満たす抗体が製造されていると認められるので、30%の位置選択性で結合している抗体の具体的な製造方法が本件明細書に記載されてないことのみを根拠に本件発明の当業者による実施が妨げられるとは認められない
したがって、申立理由C-3~C-4は、理由がない。
なお、申立人 小宮山は、令和6年3月29日提出の意見書で、請求項1の「リンカー」は、その化学構造が十分に特定されておらず、抗体に結合されている物質のうち、どの部分が「機能性物質」に該当し、どの部分が「ペプチド部分を含まないリンカー」であるのかを明確に把握することはできない旨を主張する。
しかるところ、本件訂正により「標的領域」と「機能性物質」が限定され、『「抗体の標的領域にあるリジン残基」-「ペプチド部分を含まないリンカー」-「機能性物質」(薬物又は標識物質)』という位置関係が成立していることが理解でき、薬物や標識物質に関する明細書の段落0292~0294の説明を併せみると、どの部分が「機能性物質」に該当し、どの部分が「ペプチド部分を含まないリンカー」に該当するかについて当業者は把握できると認められる。
よって、上記主張は理由がない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件請求項1~7、9~10、12~15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~7、9~10、12~15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項8、11は、本件訂正請求により削除され、特許異議申立人による特許異議申立てについて、請求項8、11に係る申立ては、申立ての対象が存在しなくなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700831