特許異議申立
2025-700991
菓子及び菓子の製造方法
- 審判番号
- 2025-700991
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-172162
- 登録番号
- 7664694
- 請求日
- 2025年10月15日
- 審決日
- 2026年01月28日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】森永製菓株式会社
- 【権利者代理人】デロイトトーマツ弁理士法人
- 【異議申立人】長屋 雅人
- 審判長/審判官
- 審判長 天野 宏樹
- 審判官 壷内 信吾
- 審判官 宮久保 博幸
- 分類
- P1651.121-Y (A23G) / P1651.536-Y (A23G) / P1651.537-Y (A23G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第2条第3項第1号、特許法第2条第3項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7664694号発明「菓子及び菓子の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7664694号の請求項1~10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7664694号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、令和2年10月12日の出願であって、令和7年4月10日にその特許権の設定登録(請求項の数10)がされ、同年同月18日に特許掲載公報が発行され、その後、当該特許に対し、令和7年10月15日に特許異議申立人 長屋 雅人(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~10)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~10に係る発明(以下、順に「本件発明1」のようにいう。また、総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
脂質、糖質、タンパク質、及び乳化剤を含み、前記タンパク質の含有量が30質量%以上50質量%以下であり、前記乳化剤は有機酸モノグリセリド及びポリグリセリン脂肪酸エステルを含むことを特徴とする菓子。
【請求項2】
少なくとも表面の一部には油性菓子が配置されている、請求項1に記載の菓子。
【請求項3】
バー形状である、請求項1又は2に記載の菓子。
【請求項4】
焼菓子である、請求項1~3のいずれか一項に記載の菓子。
【請求項5】
脂質、糖質、タンパク質、及び乳化剤を含む菓子生地であって、前記タンパク質の含有量が30質量%以上50質量%以下であり、前記乳化剤は有機酸モノグリセリド及びポリグリセリン脂肪酸エステルを含むものである該菓子生地を調製し、前記菓子生地を所定形状に成形することを特徴とする菓子の製造方法。
【請求項6】
バー形状に成形する、請求項5に記載の菓子の製造方法。
【請求項7】
前記成形後、焼成して焼菓子を得る、請求項5又は6に記載の菓子の製造方法。
【請求項8】
前記成形を押出成形により行う、請求項5~7のいずれか一項に記載の菓子の製造方法。
【請求項9】
前記菓子生地を第1の生地とし、前記第1の生地の少なくとも表面の一部に油性菓子の生地からなる第2の生地を接合し、焼成する、請求項5~8のいずれか一項に記載の菓子の製造方法。
【請求項10】
前記第1の生地と、前記第2の生地との接合を、該生地同士を二重ノズルから押し出して成形することにより行う、請求項9に記載の菓子の製造方法。」
第3 特許異議申立理由の概要
令和7年10月15日に申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。なお、判断の便宜上、当審において、主たる証拠ごとに特許異議申立の理由を整理した。
1 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件発明1ないし10は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
本件発明1ないし10についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的理由はおおむね次のとおりである。
(1)有機酸モノグリセリド及びポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量及び比率について
本件発明1及び5では乳化剤として有機酸モノグリセリドおよびポリグリセリン脂肪酸エステルを含むことが記載されているが、その含有量及び比率は一切限定されていない。
しかしながら本件特許の実施例において菓子中の乳化剤含有量は総量として4.1~5.4質量%の範囲でしか実施されていない。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は2.73%~3.6質量%、有機酸モノグリセリドの含有量は1.37%~1.8質量%となる。そして、実施例中の表1~3において乳化剤の配合濃度が最も高い配合例1-5の成形性評価が◎であったのに対し、それよりも低い配合濃度の配合例では◎が3例に対して○が4例となっていて、成形性の評価が下がる傾向が認識でき、乳化剤を含有しない配合例ではいずれも成形性の評価が×となっている。乳化剤含有量が低い場合には乳化剤の効果が弱まることは証拠を示すまでもなく技術常識であるので、実施例において成形性、硬度の評価が良好であった配合例よりも含有量が低い場合においても本件特許の課題が解決されることは、本件特許明細書の記載から認識できない。
特に、実施例において具体的に結果を確認した乳化剤含有量の範囲は上記のとおり非常に狭いにも関わらず、本件発明において何らの特定もないことは、サポート要件を欠く根拠があると言わざるを得ない。本件発明1、5には脂質、糖質、及びタンパク質のみ特定されそれ以上の限定もなく、乳化剤を配合すること自体は審査経過において2種類の乳化剤を特定したことからみても出願時の技術水準を超えるものではない。2種類の乳化剤を組み合わせたからといって、広い範囲の乳化剤含有量で、あらゆる脂質、糖質、及びタンパク質を用いたときに、同様の効果が得られるという根拠は、限られた実験結果からは存在せず、それを支持するような説明も本件特許明細書には記載がない。
更にポリグリセリン脂肪酸エステルと有機酸モノグリセリドの比率についても約2:1の比率でしか実施しておらず、調製例1-2のようにポリグリセリン脂肪酸エステルのみでは効果が得られていないことを鑑みても、それ以外のいかなる比率においても本願発明の効果が得られるとは認識することができない。
そうすると、本件発明1及び5は、発明の詳細な説明において「タンパク質を高含有に配合した場合であっても、生地の成形性が良好で、硬すぎないソフトな食感を呈する菓子を得る方法を提供する」(段落【0008】)という発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えており、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、本件発明1及び5はサポート要件を満たしていない。本件発明1又は5に従属する本件発明2~4、6~10についても同様である。
(2)ポリグリセリン脂肪酸エステルの種類について
本件発明1及び5では、乳化剤であるポリグリセリン脂肪酸エステルの種類は限定されていない。
しかしながら、発明の詳細な説明に記載された実施例では、成形性と硬度について良好な効果が認められた調製例に含まれる乳化剤は、4種類の有機酸モノグリセリドの内のいずれかと「ポリグリセリン脂肪酸エステル」との組み合わせのみである。
特に、ポリグリセリン脂肪酸エステルが具体的に何なのかについては明確な記載がない。ポリグリセリン脂肪酸エステルは、脂肪酸の種類、エステル化度、重合度の異なる多様な種類が使用されているし、親水性と疎水性の指標となるHLBも広範に渡っている(甲第6号証を参照。)
乳化剤は、その構造によって親水性、疎水性の程度が異なり、食品へ適用した際の効果が異なることは当業者が通常認識することであるところ、発明の詳細な説明の他の記載を参酌しても、どのようなポリグリセリン脂肪酸エステルを添加しても同様の効果を発揮できることを当業者は認識し得ないから、本件発明1及び5に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、本件発明1及び5は、サポート要件を満たしていない。本件発明1又は5に従属する本件発明2~4、6~10についても同様である。
3 申立理由3(実施可能要件)
本件発明1ないし10についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的理由はおおむね次のとおりである。
申立理由2に記載したように、2種類の乳化剤の含有量、比率については限定された条件でしか効果が確認されていない。また「ポリグリセリン脂肪酸エステル」については、実施例において何が適用されたのかが具体的に記載されていない。
そうすると、「ポリグリセリン脂肪酸エステル」に含まれる無数の乳化剤から、同様の効果を発揮するものを特定し、さらに効果的な含有量を特定するにあたっては、当業者にとって過度な試行錯誤を要する。
よって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~10を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
4 証拠方法
・甲第1号証:特開2007-097514号公報
・甲第2号証:特開2012-210177号公報
・甲第3号証:特開2007-289116号公報
・甲第4号証:特開2013-226117号公報
・甲第5号証:特開2016-106597号公報
・甲第6号証:食品化学新聞社「月刊フードケミカル」,平成21年12月,第25巻,第12号,p.49-54、ウェブページ「乳化剤市場の動向|文献情報|J-GLOBAL科学技術総合リンクセンター」<URL:https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201002252277671826&rel=1#%7B>(出力日2025年10月7日)及びウェブページ「月刊フードケミカル資料情報|J-GLOBAL科学技術総合リンクセンター」<URL:https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200909071631627295>(出力日2025年10月11日)
証拠の表記は特許異議申立書の記載に従った。
以下、順に「甲1」等という。
第4 当審の判断
当審は、申立人が申し立てた特許異議申立理由によって、本件発明1~10についての特許を取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおり。
1 申立理由1(甲1を主たる証拠とする進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には「可塑性生地及びその製造法」に関し、次の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下同様。)。
・「【請求項1】
油脂及び大豆蛋白を含む混練物、並びに水性液とが混合されてなり、大豆蛋白含量が生地の乾燥固形分あたり15~65重量%であり、かつ水分含量が生地中2~15重量%であることを特徴とする可塑性生地。
【請求項2】
該混練物が微粒化処理されている請求項1記載の生地。
【請求項3】
水性液中の糖質含量が50重量%以下である請求項1記載の生地。
【請求項4】
混練物がチョコレートである請求項1記載の生地。
【請求項5】
請求項1記載の生地から得られる加熱菓子。
【請求項6】
ニュートリション・バーである請求項5記載の菓子。
【請求項7】
請求項5記載の加熱菓子製造のための油脂及び大豆蛋白を含む混練物の使用。
【請求項8】
大豆蛋白を生地の乾燥固形分あたり15~65重量%配合されるように油脂と混練し、次いで該混練物に対して水性液を生地中の水分が2~15重量%となるよう混合し、可塑性生地を調製することを特徴とする可塑性生地の製造法。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上の従来技術は、大豆蛋白が高度に配合された生地、特に大豆蛋白が原料中最も多量に配合される生地であっても、生地の可塑性の経時変化が少なく、安定した連続成型が可能な可塑性生地やその製法を開示するものではなかった。
かかる事情に鑑み、本発明は、蛋白質を高度に含有する可塑性生地を製造する場合において、大豆蛋白質高含有の生地に、長時間の連続成型が可能な可塑性、耐熱性を付与することを課題とし、また該生地から得られる菓子に良好な風味・食感を付与し、栄養価の高い菓子を提供することを課題とする。
【0010】
上記課題に鑑み、本発明者らが鋭意研究した結果、予め大豆蛋白を高度に配合したチョコレートを調製してから、水を特定量添加し混合すると、長時間の可塑性を有する生地が得られる知見を得た。そしてこれを成型後に加熱することで、フードバーなどの大豆蛋白を高度に含有する加熱菓子を得られる知見を見出し、本発明を完成させるに到った。
【0011】
すなわち本発明は、
1.油脂及び大豆蛋白を含む混練物、並びに水性液とが混合されてなり、大豆蛋白含量が生地の乾燥固形分あたり15~65重量%であり、かつ水分含量が生地中2~15重量%であることを特徴とする可塑性生地、
2.該混練物が微粒化処理されている前記1.記載の生地、
3.水性液中の糖質含量が50重量%以下である前記1.記載の生地、
4.混練物がチョコレートである前記1.記載の生地、
5.前記1.記載の生地から得られる加熱菓子、
6.ニュートリション・バーである前記5.記載の菓子、
7.前記5.記載の加熱菓子製造のための油脂及び大豆蛋白を含む混練物の使用、
8.大豆蛋白を生地の乾燥固形分あたり15~65重量%配合されるように油脂と混練し、次いで該混練物に対して水性液を生地中の水分が2~15重量%となるよう混合し、可塑性生地を調製することを特徴とする可塑性生地の製造法、
を提供するものである。」
・「【0016】
(油脂及び大豆蛋白を含む混練物)
本発明の生地を構成する油脂及び大豆蛋白を含む混練物は、上記の油脂類、大豆蛋白及び必要に応じて他の原料を混練した油脂性混練物である。
混練物中には上記の油脂と大豆蛋白の他、種々の原料を任意に配合することができる。すなわち、カカオ分(カカオマスやココアパウダー等のチョコレート風味原料)、乳固形分(全脂粉乳や脱脂粉乳あるいはチーズ粉末等の乳製品粉末)、糖類(砂糖、乳糖、ラクトース、糖アルコール等)、乳化剤(レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、モノグリセリド等)、甘味料(スクラロース、アスパルテーム、ステビア、アセスルファムK等)、安定剤(キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガム、アラビアガム、ファーセラン、CMC、微結晶セルロース、ペクチン、寒天、カラギーナン、ゼラチン、大豆多糖類))、風味剤(果汁、洋酒、香料等)その他の原料を任意に配合することができる。
油脂性混練物は実質的に水を含まないものであることが好ましく、特に好ましい態様としては、チョコレートが挙げられる。本発明にいうチョコレートは、一般のチョコレート規格に限定されるものでなく、油脂及び大豆蛋白の他、カカオ分を少なくとも含む油脂性混練物をいう。」
・「【0020】
(他の生地原料)
本発明の生地には油脂及び大豆蛋白を含む混練物、水性液の他、必要に応じて任意の食品素材を用いることができる。例えば、小麦粉,米粉,トウモロコシ粉等の穀粉類、糖類、油脂類、レシチン,脂肪酸エステル等の乳化剤、牛乳,クリーム等の乳類、全卵,卵白,卵黄等の卵類、重曹,炭酸アンモニウム等の膨張剤、食塩,アミノ酸,シナモン等の調味料等が挙げられる。また、必要に応じてミネラル、ビタミン、イソフラボン、サポニン、機能性油脂等の栄養成分を任意に添加してもよい。」
・「【0023】
(加熱菓子)
本発明の加熱菓子は、上記可塑性生地を成型した後、可塑性を失う程度に加熱し、保形性を付与する工程を経て製造される低水分活性の菓子をいう。具体的には焼成、高周波加熱により加熱されて得た菓子をいう。具体例としては、ビスケット、クッキー等が挙げられる。これらは通常小麦粉等の澱粉性原料を含有するものが多いが、これらの菓子の名称や小麦粉の使用の有無に関係なく、これらに類するものも含まれる。また上記の加熱菓子には、近年米国で広く普及しているいわゆるニュートリション・バー(nutrition bar)と呼ばれる棒状の加熱菓子であって蛋白質素材その他の健康素材を配合したものも含まれる。
加熱菓子の製品形態としては任意に種々の形態を採用でき、例えば生地を成型後そのまま加熱したもの、成型した生地に液体物を塗布して加熱したもの、成型した生地をメレンゲで包んで加熱したもの、成型した生地の表面に澱粉、砂糖、穀粉、ナッツなどの粉粒物をまぶして加熱したものなどが挙げられる。
【0024】
(生地の成型)
生地の成型方法は特に限定されるものではなく、例えば、食品製造工場において通常使用されるデポジット成型、ロータリーモールド成型、シート成型、押し出し成型、絞り出し成型等、生地の物性や加熱菓子の品質に合わせ適宜設定すればよい。」
・「【0032】
[実施例1] -大豆蛋白高配合チョコレートの調製-
表1の配合に従い、コートミキサーを用い、予め加温溶解させた融点35℃の植物性油脂26部と粉末状大豆蛋白その他の粉体原料(ココア、砂糖、全脂粉乳、カカオマス、バニリン)を混合し、次工程であるリファイニングに適した生地になるまで保温しながら混練した。次に、ローラーを使用してリファイニングを行った。次にジャケット温度を60℃に保ったコンチェを用い約1時間コンチングを実施した。更に、レシチン及び残りの植物性油脂8.5部を添加し、30分間攪拌した生地を型に流し込み固化させた。
【0033】
(表1)大豆蛋白配合チョコレート
[図:0001433118000001.jpg]
【0034】
[実施例2] -可塑性生地及び焼成菓子の製造-
実施例1で得られた大豆蛋白高配合チョコレート100部に対して水8部を加えてコートミキサーを用いて可塑性生地を調製した。
即ち、前日から22℃に温調した大豆蛋白高配合チョコレートを弱攪拌でほぐした後、水を少しずつ添加して練り上げた。低速で約5分程度、掻き落とし工程を入れながら攪拌した。練り上げた生地は可塑性を有するものであった。
次に、生地を約10分程度常温で放置し、ワイヤーカット方式にて高さ約1cmのピースに成型した後、オーブンで160℃×15分間焼成した。
60分間放置後の生地は調製直後と比較して特に大きな変化はなく、まとまりのある生地であり、連続的な機械生産に十分耐えうるものであった。
得られた焼成菓子は、高蛋白であるのに適度なさくさく感がある好ましい食感であり、口溶けに優れ、歯への付着が起こりにくいものであった。」
イ 甲1に記載された発明
上記アの記載事項を、特に実施例2において製造された焼成菓子及びその製造工程に関して整理すると、甲1には次の発明が記載されていると認められる。
「予め加温溶解させた融点35℃の植物性油脂26重量部と、粉末状大豆蛋白40重量部、ココア5重量部、砂糖10重量部、全脂粉乳4重量部、カカオマス1重量部及びバニリン0.02重量部からなる粉体原料とを混合して保温しながら混練し、ローラーを使用してリファイニングを行い、ジャケット温度を60℃に保ったコンチェを用い約1時間コンチングを実施し、更に、レシチン0.5重量部及び前記植物性油脂8.5部を添加し、30分間攪拌した生地を固化させて大豆蛋白高配合チョコレートを得て、
得られた大豆蛋白高配合チョコレート100部に対して水8部を加えてコートミキサーを用いて可塑性生地を調製し、生地を約10分程度常温で放置し、高さ約1cmのピースに成型した後、オーブンで160℃×15分間焼成して得た、焼成菓子。」(以下、「甲1発明」という。)
「予め加温溶解させた融点35℃の植物性油脂26重量部と、粉末状大豆蛋白40重量部、ココア5重量部、砂糖10重量部、全脂粉乳4重量部、カカオマス1重量部及びバニリン0.02重量部からなる粉体原料とを混合して保温しながら混練し、ローラーを使用してリファイニングを行い、ジャケット温度を60℃に保ったコンチェを用い約1時間コンチングを実施し、更に、レシチン0.5重量部及び前記植物性油脂8.5部を添加し、30分間攪拌した生地を固化させて大豆蛋白高配合チョコレートを得る工程と、
得られた大豆蛋白高配合チョコレート100部に対して水8部を加えてコートミキサーを用いて可塑性生地を調製し、生地を約10分程度常温で放置し、高さ約1cmのピースに成型する工程と、
成型された可塑性生地をオーブンで160℃×15分間焼成する工程からなる、
焼成菓子の製造方法。」(以下、「甲1製法発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明との対比
両者を対比すると、甲1発明における「植物性油脂」、「砂糖」、「粉末状大豆蛋白」、「レシチン」及び「焼成菓子」は、それぞれ本件発明1における「脂質」、「糖質」、「タンパク質」、「乳化剤」及び「菓子」に相当する。そして、甲1発明は水を除く原材料の合計95.02重量部中、粉末状大豆蛋白を40重量部含み、生地に添加される水は少量であって焼成により大部分が蒸発すると考えられるから、甲1発明は、本件発明1の「前記タンパク質の含有量が30質量%以上50質量%以下であり、」との特定事項を満たす。
してみると、両者の一致点、相違点は以下の通りである。
(一致点)
「脂質、糖質、タンパク質、及び乳化剤を含み、前記タンパク質の含有量が30質量%以上50質量%以下である、菓子。」
(相違点)
・相違点1
乳化剤について、本件発明1は「前記乳化剤は有機酸モノグリセリド及びポリグリセリン脂肪酸エステルを含む」ことを特定するのに対し、甲1発明は「レシチン」を用いている点。
(イ)相違点についての判断
甲1には、生地を構成する油脂及び大豆蛋白を含む混練物において、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、モノグリセリド等の乳化剤を任意に配合しうる旨が記載(【0016】)されているものの、「有機酸モノグリセリド」及び「ポリグリセリン脂肪酸エステル」の2種を必須成分として含む具体例は記載されておらず、また、甲1及び他の全ての証拠をみても、甲1発明において、乳化剤の種類に着目し、「有機酸モノグリセリド」及び「ポリグリセリン脂肪酸エステル」を必須成分とすることを動機付ける記載はない。
そして、本件発明1は、脂質、糖質、タンパク質、及び乳化剤を含む菓子であって、タンパク質の含有量が30質量%以上50質量%以下である、該菓子において、乳化剤として有機酸モノグリセリドを含むことにより「生地の成形性が良好で、硬すぎないソフトな食感を呈する菓子が得られ」(本件明細書の【0022】)、さらにポリグリセリン脂肪酸エステルを併用することにより「更なる生地の成形性の向上や食感の改良が期待できる」(【0026】)という、顕著な効果を奏するものである。
よって、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項は、甲1発明及び他の全ての証拠に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書16~18頁において、本件発明1ないし10の進歩性欠如の理由について、以下のとおり(1)、(2)の2つに分けて主張している。
a 本件発明1ないし10の進歩性欠如(1)
甲2に記載の発明は段落【0009】に記載があるように、食感に優れた焼き菓子用の生地を提供することを目的とする点で本件発明および甲1と共通の課題を持つ。
甲2の請求項1および3には有機酸モノグリセリドとショ糖脂肪酸エステルおよび/またはポリグリセリン脂肪酸エステルを組み合わせて用いることが記載されており、段落【0021】にはこれらの組み合わせが好ましい旨が記載されている。
実際に段落【0072】に記載の実施例ではソフトビスケットを評価しており、その食感はサクサク感があり、口溶けが良好であることが示されている。
そうすると甲1に接した当業者が甲2の記載を参照して、食感に優れた高蛋白質含有菓子を作製する際に、有機酸モノグリセリドとポリグリセリン脂肪酸エステルを使用して、本件発明に至ることはその効果の予測とともに容易なことである。
b 本件発明1ないし10の進歩性欠如(2)
有機酸モノグリセリドとポリグリセリン脂肪酸の併用は菓子の分野で通常用いられる組み合わせである。以下にその理由を示す。
甲2:先述の通り。
甲3:ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルとグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含む粉末油脂の発明に関するものであり、段落【0004】にパンや菓子等の焼成食品に使用できる旨が記載されており、段落【0006】には食感に優れた焼成食品が得ることができる旨が記載されている。実際に実施例1~5にてこれらの乳化剤を使用した粉末油脂を用いて食パン、スポンジケーキを作成し、食感が優れることを確かめている。
甲4:焼菓子用に好適な油脂組成物の発明に関するものである。油脂組成物は請求項1より有機酸モノグリセリド、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム及びHLBが12以上のノニオン性乳化剤から選ばれる1種又は2種以上の乳化剤を含んでおり、HLBが12以上のノニオン性乳化剤は請求項3よりポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル及びポリソルベートから選ばれる1種又は2種以上であることが記載されている。段落【0008】にはこの油脂組成物を用いた場合に食感が良好な焼き菓子が得られることが記載されている。実際に実施例8、9にはポリグリセリン脂肪酸エステルとコハク酸モノグリセリドを併用したビスケットを作成しており、食感が優れることを確かめている。
甲5:ポリグリセリン脂肪酸エステルを含む製菓製パン用油脂組成物に関する発明であり、請求項3には有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルをさらに含んでなる製菓製パン用油脂組成物が記載されており、段落【0008】には、製菓や製パンに用いた場合サクさのある食感や歯切れを付与することができることが記載されている。実際に実施例21~23ではポリグリセリン脂肪酸エステルと有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルを併用した製菓用マーガリンを作成しており、それを用いたパイの食感が優れることを確かめている。
上記のように有機酸モノグリセリドとポリグリセリン脂肪酸を併用することは菓子の食感を改良したい当業者の間で通常行われている操作である。そうするとこれらの乳化剤を使用することは食感を改良するための公知材料の中からの最適材料の選択に過ぎず、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
(エ)申立人の主張についての判断
そこで、上記主張について検討する。
a (ウ)aの主張について
甲2には、焼き菓子用生地に関して、生地表面のざらつきや縮みが少なく、焼いた時に膨らみのよい生地であって、油っぽくなく、食感に優れた焼き菓子を提供可能な焼き菓子用の生地を提供することを課題とし、焼き菓子用生地において有機酸モノグリセリドと乳化剤を含み、当該乳化剤としてショ糖脂肪酸エステルおよび/またはポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることが記載されている(請求項1、3、【0009】、【0021】)。しかしながら、甲1発明が「蛋白質を高度に含有する可塑性生地を製造する場合において、大豆蛋白質高含有の生地に、長時間の連続成型が可能な可塑性、耐熱性を付与すること」及び「該生地から得られる菓子に良好な風味・食感を付与し、栄養価の高い菓子を提供すること」を課題としている(【0009】)のに対し、甲2記載技術は一般的なビスケット、クッキー等を製造するための、通常は小麦粉を含有する生地を対象とするもの(【0014】、【0044】)であって、甲2には蛋白質を高度に含有させることは記載されていないから、両者は前提とする生地の組成及び性質が大きく異なり、互いに課題が共通するとはいえない。そうすると、甲1及び甲2に接した当業者であっても、甲1発明に甲2記載技術を適用することが動機付けられるとはいえないし、仮に適用したとしても甲2に記載された食感と同じ食感が、蛋白質を高度に含有する甲1の生地においても得られるとは予測しない。
そして、本件発明1は、「有機酸モノグリセリド」を含むことにより、「タンパク質の含有量が30質量%以上50質量%以下」であっても「生地の成形性が良好で、硬すぎないソフトな食感を呈する菓子が得られ」(本件明細書の【0022】)、さらに「ポリグリセリン脂肪酸エステル」を併用することにより「更なる生地の成形性の向上や食感の改良が期待できる」(【0026】)という、顕著な効果を奏するものであり、当該効果は甲1、甲2及びその他の証拠から当業者が予測することができないものである。
よって、上記(ウ)aに係る申立人の主張は採用することができない。
b (ウ)bの主張について
申立人は、「有機酸モノグリセリドとポリグリセリン脂肪酸を併用する」という手法が菓子の分野において本件出願前に周知・慣用技術であった旨を主張しているものと認められる。しかしながら、甲2ないし甲5には、焼成食品の材料として有機酸モノグリセリド及びポリグリセリン脂肪酸を用いることについて記載されているものの、具体的には焼き菓子(甲2)、食パン(甲3、甲5)、スポンジケーキ(甲3)、焼き菓子とチョコレートを組み合わせた複合菓子(甲4)などであり、生地の成分及び性質はそれぞれ異なり、求められている「食感」もそれぞれ異なるから、甲2ないし甲5の記載事項に基づいて、生地の成分組成を問わず適用できる技術として、「食感を改良する目的で有機酸モノグリセリドとポリグリセリン脂肪酸を併用する」という技術思想が本件出願前に知られていたと認めることはできない。
また、甲2ないし甲5のいずれにも、甲1発明の課題である、タンパク質高含有の生地に特有の「連続成形が可能な可塑性、耐熱性を付与」し、「該生地から得られる菓子に良好な風味・食感を付与し、栄養価の高い菓子を提供する」ことについて記載されておらず、甲1発明に甲2ないし甲5のいずれかに記載された技術を適用することが動機付けられるとはいえない。そして、本件発明1は、有機酸モノグリセリドを含むことにより、「タンパク質の含有量が30質量%以上50質量%以下」であっても「生地の成形性が良好で、硬すぎないソフトな食感を呈する菓子が得られ」、さらにポリグリセリン脂肪酸エステルを併用することにより「更なる生地の成形性の向上や食感の改良が期待できる」という、顕著な効果を奏するものであり、当該効果は甲1、甲2ないし甲5及びその他の証拠から当業者が予測することができないものである。
よって、上記(ウ)bに係る申立人の主張は採用することができない。
以上のとおり、申立人の主張はいずれも採用することができない。
(オ)本件発明1についてのまとめ
以上まとめると、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項は、甲1及び他の全ての証拠の記載に基づいても当業者が容易に想到することができたものではない。よって、本件発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2~4について
本件発明2~4は、請求項1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、上記アと同様の理由により、本件発明2~4は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明5について
(ア)本件発明5と甲1製法発明との対比
両者を対比すると、甲1製法発明における「植物性油脂」、「砂糖」、「粉末状大豆蛋白」、「レシチン」、「可塑性生地」及び「焼成菓子」は、それぞれ本件発明5における「脂質」、「糖質」、「タンパク質」、「乳化剤」、「菓子生地」及び「菓子」に相当する。
そして、「菓子生地」について、甲1製法発明における可塑性生地は、95.02重量部中に粉末状大豆蛋白を40重量部含む大豆蛋白高配合チョコレート100部に対して水8部を加えて得られるものであるから、本件発明5の「前記タンパク質の含有量が30質量%以上50質量%以下であり、」との特定事項を満たす。
また、甲1製法発明は、「可塑性生地を調製し、生地を約10分程度常温で放置し、高さ約1cmのピースに成型する工程」を備えるから、本件発明5の「該菓子生地を調製し、前記菓子生地を所定形状に成形する」との特定事項を満たす。
してみると、両者の一致点、相違点は以下の通りである。
(一致点)
「脂質、糖質、タンパク質、及び乳化剤を含む菓子生地であって、前記タンパク質の含有量が30質量%以上50質量%以下である該菓子生地を調製し、前記菓子生地を所定形状に成形することを特徴とする菓子の製造方法。」
(相違点)
・相違点5
乳化剤について、本件発明5は「有機酸モノグリセリド及びポリグリセリン脂肪酸エステルを含むものである」ことを特定するのに対し、甲1製法発明は「レシチン」を用いている点。
そして、相違点5は、実質的に相違点1と同じ内容の相違点であるから、上記ア(イ)~(オ)と同様に判断される。
よって、本件発明5は甲1製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明6~10について
本件発明6~10は、請求項5を引用し、本件発明5の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、上記ウと同様の理由により、本件発明6~10は、甲1製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由1(甲1を主たる証拠とする進歩性)についてのまとめ
上記のとおり、本件発明1~10は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由1(甲1を主たる証拠とする進歩性)により本件特許の請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件発明の課題について
本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0008】等の記載からみて、本件発明1~10の課題は「タンパク質を高含有に配合した場合であっても、生地の成形性が良好で、硬すぎないソフトな食感を呈する菓子を得る方法を提供すること」(以下、「発明の課題」という。)にあるものと認められる。
(3)発明の詳細な説明の記載について
発明の詳細な説明の【0010】、【0015】には、課題を解決するための手段として、「本発明は、その第1の観点において、脂質、糖質、タンパク質、及び乳化剤を含み、前記タンパク質の含有量が30質量%以上50質量%以下であり、前記乳化剤は有機酸モノグリセリドを含むことを特徴とする菓子を提供するものである。」及び「本発明は、その第2の観点において、脂質、糖質、タンパク質、及び乳化剤を含む菓子生地であって、前記タンパク質の含有量が30質量%以上50質量%以下であり、前記乳化剤は有機酸モノグリセリドを含むものである該菓子生地を調製し、前記菓子生地を所定形状に成形することを特徴とする菓子の製造方法を提供するものである。」との記載がある。
また、菓子に含まれる有機酸モノグリセリドについて、発明の詳細な説明の【0026】には、「本発明により提供される菓子においては、特定種類の乳化剤を配合する必要がある。具体的には、乳化剤として有機酸モノグリセリドを含む必要がある。菓子に特定種類の乳化剤を配合することにより、タンパク質を高含有に配合した場合であっても、生地の成形性が良好で、硬すぎないソフトな食感を呈する菓子を得ることができる。有機酸モノグリセリドとしては、クエン酸モノグリセライド、ジアセチル酒石酸モノグリセライド、乳酸モノグリセライド、コハク酸モノグリセライド、酢酸モノグリセライド、乳酸モノグリセライド等が挙げられる。有機酸モノグリセリドは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上のものを組み合わせて用いてもよい。乳化剤としては、任意であるが、ポリグリセリン脂肪酸エステルを更に併用してもよい。」との記載があり、【0027】には、「本発明により提供される菓子においては、乳化剤として有機酸モノグリセリドの含有量は0.1質量%5質量%以下であることが典型的である。有機酸モノグリセリドの含有量としては、場合によっては、0.5質量%以上4質量%以下の範囲となってもよく、1質量%以上3質量%以下の範囲となってもよい。」との記載がある。
そして、発明の詳細な説明の【0075】~【0102】には実施例が記載されており、試験例1(【0076】~【0083】、【表1】)を参照すると、乳化剤を含まない調製例1-1及び乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルのみを含む調製例1-2の菓子では生地のまとまりが悪く成形性を確保できなかったのに対し、各種の有機酸モノグリセリドを含む調製例1-3~1-8の菓子では生地の成形が可能であり、ソフトな食感を呈する菓子が得られたことが記載されている。また、試験例2(【0084】~【0087】、【表2】)、試験例3(【0088】~【0091】、【表3】)を参照すると、タンパク質の種類又は配合量を変更した各調製例においても試験例1と同様の結果が得られたことが記載されている。
(4)サポート要件の判断
上記(3)の一般記載における有機酸モノグリセリドの作用についての記載と、実施例における試験例の評価結果についての記載等を参酌すると、当業者は、菓子において、「脂質、糖質、タンパク質、及び乳化剤を含み、前記タンパク質の含有量が30質量%以上50質量%以下であり、前記乳化剤は有機酸モノグリセリドを含む」ことにより、「タンパク質を高含有に配合した場合であっても、生地の成形性が良好で、硬すぎないソフトな食感を呈する菓子」を得ることができ、発明の課題を解決できるものと認識できる。また、菓子の製造方法において、「脂質、糖質、タンパク質、及び乳化剤を含む菓子生地であって、前記タンパク質の含有量が30質量%以上50質量%以下であり、前記乳化剤は有機酸モノグリセリドを含むものである該菓子生地を調製」することにより、「タンパク質を高含有に配合した場合であっても、生地の成形性が良好で、硬すぎないソフトな食感を呈する菓子」を製造でき、発明の課題を解決できるものと認識できる。
そして、本件発明1~10は、上記発明の課題を解決し得るものと認識できる特定事項の全てを含むものであるから、本件発明1~10は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(5)申立人の主張について
申立人は、本件特許のサポート要件に関して上記第3 2のように主張しているので、以下、検討する。
ア 第3 2(1)の主張について
本件発明の課題は、脂質、糖質及びタンパク質のそれぞれの具体的な種類に依存するものではなく、脂質、糖質及びタンパク質(30~50重量%)を含有する菓子用生地に共通の課題と解されるものである。また、【0026】の記載等からみて、本件発明は「有機酸モノグリセリド」に属する乳化剤を配合することにより課題を解決しようとするものであり、複数種類の有機酸モノグリセリドを用いた実施例がいずれも課題を解決できることが示されていることと合わせれば、当業者は実施例で用いられた化合物と共通の化学構造を備え、類似の性質を持つことが知られている「有機酸モノグリセリド」に属する化合物を乳化剤として配合することにより、配合量に応じて相応の生地の成形性を改良する効果が得られ、発明の課題を解決することができると認識することができる。よって、実施例より乳化剤の含有量が低い場合であっても発明の課題を解決できると当業者は認識することができる。
さらに、申立人は、ポリグリセリン脂肪酸エステルと有機酸モノグリセリドの比率について、本件特許の実施例において約2:1の比率でしか実施していない点を指摘しているが、上記(4)で検討したとおり、本件発明の課題解決に必須となる成分は有機酸モノグリセリドであって、ポリグリセリン脂肪酸エステルは任意の成分であることが明記されており(発明の詳細な説明の【0026】)、調製例1-2の実験データも、課題解決に必須となる成分が有機酸モノグリセリドであるという理解と矛盾するものではない。よって、ポリグリセリン脂肪酸エステルと有機酸モノグリセリドの比率が本件発明において特定されていなくても、そのことにより「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている」ことにはならない。
以上のとおり、第3 2(1)の申立人の主張は採用できない。
イ 第3 2(2)の主張について
上記アで検討したとおり、本件発明の課題解決に必須となる成分は有機酸モノグリセリドであって、ポリグリセリン脂肪酸エステルは任意の成分であり、【0026】~【0027】及び実施例の記載等を参酌しても、ポリグリセリン脂肪酸エステルの種類によって有機酸モノグリセリドの作用効果が著しく阻害されることがあるとは読みとれない。そうすると、本件発明1~10において、ポリグリセリン脂肪酸エステルは発明の課題解決を阻害しないものであって、本件発明1~10はサポート要件に適合するといえる。
よって、第3 2(2)の申立人の主張は採用できない。
(6)申立理由2(サポート要件)についてのまとめ
上記のとおり、本件発明1~10は、発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、申立理由2(サポート要件)により本件発明1~10についての特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(実施可能要件違反)について
(1)実施可能要件の判断手法
物の発明における実施とは、物の生産、使用等の行為をいうから(特許法2条第3項第1号)、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載があれば、実施可能要件を満たすということができる。
また、物を生産する方法の発明における実施とは、その物を生産する方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第3号)、例えば、明細書等にその物を生産する方法を使用することができること及びその方法により生産した物の使用等をすることができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産する方法を使用することができ、かつその方法により生産した物の使用等をすることができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
(2)本件明細書の記載事項
発明の詳細な説明には、上記2(3)に示した記載に加え、以下の記載がある。
【0024】~【0043】には、菓子の原料として用いられる脂質、糖質、タンパク質、及び乳化剤それぞれの種類、具体例及び配合割合の好ましい範囲が記載され、【0050】~【0067】には、菓子の製造方法として各原料の配合量の例、成形方法、焼成方法及び複合菓子とする場合の製造方法について記載され、【0068】~【0074】には、タンパク質、脂質、糖質等の各成分の含有量の分析方法について記載されている。
さらに、実施例として、【0076】~【0081】には試験例1の菓子生地の製造方法と各成分の配合量の記載があり、【0092】~【0102】には、製造例として、菓子生地の成形方法と、チョコレート風味菓子によるコーティングと焼成の方法が記載されている。
(3)実施可能要件についての判断
上記(2)の記載を参照することにより、当業者は、「脂質、糖質、タンパク質、及び乳化剤を含み、前記タンパク質の含有量が30質量%以上50質量%以下であり、前記乳化剤は有機酸モノグリセリド及びポリグリセリン脂肪酸エステルを含むことを特徴とする菓子」を生産することができ、また、生産した菓子を飲食に使用できることを理解できる。また、当業者は、「脂質、糖質、タンパク質、及び乳化剤を含む菓子生地であって、前記タンパク質の含有量が30質量%以上50質量%以下であり、前記乳化剤は有機酸モノグリセリド及びポリグリセリン脂肪酸エステルを含むものである該菓子生地を調製し、前記菓子生地を所定形状に成形することを特徴とする菓子の製造方法」を使用でき、生産した菓子を飲食に使用できることを理解できる。
そうすると、発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1を生産し、かつ、本件発明1を使用することができる程度に具体的な記載があるといえる。また、発明の詳細な説明には、本件発明5を使用し、本件発明5により生産した物の使用をすることができる程度の記載があるといえる。請求項1又は5の記載を直接又は間接的に引用して特定される本件発明2~4及び6~10についても同様の記載があるといえる。
よって、本件発明1~10に関する発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合する。
(4)申立人の主張について
申立人は、本件特許の実施可能要件に関して上記第3 3のように主張しているので、以下、検討する。
申立人は、「ポリグリセリン脂肪酸エステル」について、実施例において何が用いられたのかが記載されていない点を指摘している。しかしながら、発明の詳細な説明の【0026】には、用いられるポリグリセリン脂肪酸エステルの具体例として、「ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ポリグリセリンエルカ酸エステル等」が挙げられている。本件発明1~10を実施する当業者は、菓子又は菓子生地に含ませるポリグリセリン脂肪酸エステルとして、上記例示されたものや、それらに類似する物性のものを適宜に選択して用いればよく、実施にあたり当業者にとって過度な試行錯誤を要するとまではいえない。
また、上記2(5)イにも記載したとおり、ポリグリセリン脂肪酸エステルは有機酸モノグリセリドの作用効果を阻害するものではなく、本件発明の菓子の製造が不可能なポリグリセリン脂肪酸エステルが存在するとも認められない。
さらに、申立人は、ポリグリセリン脂肪酸エステルには物性等の異なる多様な種類のものが存在する旨を指摘するにとどまり、特定のポリグリセリン脂肪酸エステルを使用した場合には本件発明を実施し得ないとする根拠を、具体的なデータ等を挙げて示すものでもない。
よって、上記第3 3の申立人の主張を採用することはできない。
(5)申立理由3(実施可能要件)についてのまとめ
上記のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~10を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえるから、特許法第36条第4項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、申立理由3(実施可能要件)により本件発明1~10についての特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1~10に係る特許は、上記のいずれの特許異議申立理由によっても、取り消すことはできない。
また、他に、本件特許の請求項1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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