特許異議申立
2025-700093
リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池
- 審判番号
- 2025-700093
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-512517
- 登録番号
- 7521693
- 請求日
- 2025年01月22日
- 審決日
- 2025年03月24日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社レゾナック
- 【権利者代理人】弁理士法人太陽国際特許事務所
- 【異議申立人】秋山 朋毅
- 審判長/審判官
- 審判長 岩間 直純
- 審判官 ▲高▼橋 徳浩
- 審判官 須原 宏光
- 分類
- P1651.537-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特許第7521693号発明「リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7521693号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7521693号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、2021年4月5日を国際出願日とする出願であって、令和6年7月16日にその特許権の設定登録がなされ、令和6年7月24日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1ないし10に係る特許に対して、令和7年1月22日に特許異議申立人 秋山 朋毅により特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件特許発明
特許第7521693号の請求項1ないし10に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明10」という。)は、それぞれその特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
下記(1)~(3)を満たす炭素材料を含み、リチウムイオン二次電池用負極材中における前記炭素材料の含有率は、50質量%以上である、リチウムイオン二次電池用負極材。
(1)体積基準による粒子径のD90/D10が2.0より大きく、4.3より小さい。
(2)総測定粒子数10000個における個数基準による円相当径5μm以下の粒子個数Nを、77Kでの窒素吸着測定より求めた比表面積Sで割った値であるN/Sが750(個・g/m2)以上である。
(3)総測定粒子数10000個に対する個数基準による円相当径5μm以下の粒子個数割合が、45%以上である。
【請求項2】
下記(1)、(2)及び(4)を満たす炭素材料を含み、リチウムイオン二次電池用負極材中における前記炭素材料の含有率は、50質量%以上である、リチウムイオン二次電池用負極材。
(1)体積基準による粒子径のD90/D10が2.0より大きく、4.3より小さい。
(2)総測定粒子数10000個における個数基準による円相当径5μm以下の粒子個数Nを、77Kでの窒素吸着測定より求めた比表面積Sで割った値であるN/Sが750(個・g/m2)以上である。
(4)Xを5μm以上の粒子径に限定した粒子径分布の累積99%における個数基準での円相当径、Yを5μm以上の粒子径に限定した円形度分布の累積1%における円形度としたときに次式(a)を満たす。
Y ≧ 0.3×log10(X)+(0.5-0.3×log106)・・・(a)
【請求項3】
前記炭素材料は、下記(5)を満たす、請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
(5)タップ密度が、0.80g/cm3~0.95g/cm3である。
【請求項4】
前記炭素材料は、下記(6)を満たす、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
(6)平均円形度が0.90~0.93である。
【請求項5】
前記炭素材料でのX線回折法より求めた平均面間隔d002が3.34Å~3.38Åである、請求項1~請求項4のいずれか1つに記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項6】
前記炭素材料でのラマン分光測定のR値が0.1~0.4である、請求項1~請求項5のいずれか1つに記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項7】
前記炭素材料の77Kでの窒素吸着測定より求めた比表面積が、14m2/g以下である、請求項1~請求項6のいずれか1つに記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項8】
前記炭素材料は、空気気流中における示差熱分析において、300℃~1000℃の温度範囲に二つ以上の発熱ピークを有さない、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材を含む負極材層と、集電体と、を含む、リチウムイオン二次電池用負極。
【請求項10】
請求項9に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、正極と、電解液とを含むリチウムイオン二次電池。」
第3 申立理由の概要
特許異議申立人の申立理由(サポート要件)の概要は、以下のとおりである。
請求項1ないし10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第4 当審の判断
1.特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書において、概略、以下の(1)及び(2)のようなサポート要件違反に関する主張をしている。
(1)サポート要件違反について(その1)
本件特許発明の課題は、発明の詳細な説明の段落[0009]に記載されている通り、入出力特性及びサイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を製造可能なリチウムイオン二次電池用負極材及びリチウムイオン二次電池用負極を提供することであるところ、本件特許発明1において、炭素材料の種類及び形状は何ら特定されておらず、また、本件特許発明2において、炭素材料の種類は何ら特定されていない。
ここで、本件明細書の発明の詳細な説明(特に、段落[0045]~[0047]、[0060]、[0071]を参照)によると、リチウムイオン二次電池の入出力特性及びサイクル特性の観点から、本件特許発明のリチウムイオン二次電池用負極材における炭素材料、とりわけ炭素材料に含まれる特定の炭素材料は、球形の黒鉛粒子または球形処理を施した黒鉛粒子であり、平均円形度は、0.90~0.93であることが好ましいことが理解できる。
また、実施例(実施例1~9、段落[0101]~[0107]、表1~4を参照)においても、炭素材料として、球形化処理を施した平均円形度が0.90~0.93である黒鉛粒子を用いる場合に課題が解決することが示されているに過ぎず、本件明細書等の記載をみても、上記以外の炭素材料を用いた場合にも上記課題が達成される根拠が具体的に示されているとは認められない。
上記の事項を考慮すると、上記課題を達成することが示されていない、球形化処理を施した平均円形度が0.90~0.93である黒鉛粒子以外の本件特許発明1に係るリチウムイオン二次電池の負極材の範囲にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは言えず、球形化処理を施した黒鉛粒子以外の本件特許発明2に係るリチウムイオン二次電池の負極材の範囲にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは言えず、また、本件特許発明3~10についても同様である。(特許異議申立書の第5頁第1行ないし第7頁第18行)
(2)サポート要件違反について(その2)
本件特許発明1、2は、リチウムイオン二次電池の負極材が、特定の炭素材料を50質量%以上含むことを特定するものであるところ、本件特許発明1、2のいずれにおいても、残りの50質量%以下については何を含むべきか特定されておらず、いかなる成分も含み得るものであり、例えば、リチウムイオン二次電池用負極材が特定の炭素材料を50質量%しか含まない場合も包含されているが、そのような場合にも入出力特性及びサイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を製造できるかは不明である。
実施例においても、リチウムイオン二次電池用負極材として、特定の炭素材料のみ、または、特定の炭素材料93質量%とSiO7質量%との混合物が使用されており、そのような負極材をリチウムイオン二次電池に用いた場合に課題が解決することが示されているに過ぎず(実施例1~8、段落[0101]~[0107]、[0126]~[0136]、表1~4参照)、本件明細書等の記載をみても、上記以外の負極材を用いた場合にも上記課題を解決できる根拠が具体的に示されているとは認められない。
上記の事項を考慮すると、上記課題を達成することが示されていない、特定の炭素材料に加えてその他の炭素材料または炭素材料以外の成分を50質量%含む本件特許発明1、2に係るリチウムイオン二次電池の負極材の範囲にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは言えず、また、本件特許発明3~10についても同様である。(特許異議申立書の第7頁第19行ないし第9頁第6行)
2.判断
(1)サポート要件違反について(その1)
本件特許発明の発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書の段落【0009】に記載されているように、入出力特性及びサイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を製造可能なリチウムイオン二次電池用負極材及びリチウムイオン二次電池用負極を提供すること、及び、入出力特性及びサイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供することであり、また、本件特許明細書の段落【0013】~【0021】に記載されているように、リチウムイオン二次電池用負極材が、条件(1)及び(2)を満たすことにより、入出力特性及びサイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を製造可能となり、発明が解決しようとする課題を解決しようとするものである。そして、確かに異議申立人が主張するように、本件特許明細書の段落【0060】には、炭素材料として球形の黒鉛粒子を用いることが好ましいことは記載されているものの、本件特許明細書の段落【0060】には、炭素材料としては、特に限定されず、例えば、黒鉛、低結晶性炭素、非晶質炭素、メソフェーズカーボン等が挙げられることも記載されており、また、本件特許明細書の段落【0061】~【0066】には、炭素材料としては、核としての第一炭素材と、第一炭素材の表面の少なくとも一部に存在し、第一炭素材より結晶性が低く、熱処理により炭素質に変化し得る有機化合物から得られる炭素質の物質、または、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、土壌黒鉛等の炭素質粒子である第二炭素材と、を含むものであってもよいことも記載されている。
ここで、本件特許明細書の段落【0013】~【0021】に記載された、上記の発明が解決しようとする課題を解決する原理は、より具体的には、条件(1)を充足することにより、炭素材料の充填性が高い傾向にあり、これにより、リチウムイオン二次電池における目的の電極密度を得るために必要なプレス圧を低くできる傾向にあり、炭素材料の横方向の配向性が低くなり、充放電時のリチウムイオンの出し入れをしやすくなる結果、入出力特性により優れるリチウムイオン二次電池が製造可能となるとともに、炭素材料間の空隙における液回りの阻害が抑制され、入出力特性及びサイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池が製造可能となる、というものである。また、条件(2)における粒子個数Nが多いことは、より多くの炭素材料が小粒径であることを示し、リチウムイオンの固体内拡散距離が短く出力特性が良好となる一方、条件(2)における比表面積Sが大きいことは、炭素材料と電解液との界面での電気分解反応が発生しやすく、リチウム析出が発生しやすくなり、サイクル特性が低下しやすくなるところ、条件(2)を充足することにより、上記個数粒子N及び比表面積Sが好ましいバランスとなり、リチウムイオン二次電池のサイクル特性の低下を抑制しつつ、入出力特性を向上させることが可能となる、というものである。
この本件特許明細書の段落【0013】~【0021】に記載された、入出力特性及びサイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を製造可能となる原理は、炭素材料が、球形化処理を施した平均円形度が0.90~0.93である黒鉛粒子以外の場合であっても同様に成立するものであるから、炭素材料が、球形化処理を施した平均円形度が0.90~0.93である黒鉛粒子以外、或いは、球形化処理を施した黒鉛粒子以外の場合であっても、リチウムイオン二次電池用負極材が、条件(1)及び(2)を満たすことにより、本件特許明細書の段落【0009】に記載された発明が解決しようとする課題を解決できるといえる。
特に、本件特許明細書の段落【0138】、【0139】の記載によれば、D50が小さく、N2比表面積が大きく、平均円形度が高いだけでは、入力特性を十分に向上できず、D90/D10を特定の範囲にするとともに、単位N2比表面積当たりの円相当径5μm以下の粒子個数を増加させることにより、入力特性及びサイクル特性が向上するのだから、本件特許発明において課題が解決される本質的な原理は、平均円形度を所定の範囲内とすることにあるというよりは、むしろ、条件(1)及び(2)を満たすリチウムイオン二次電池用負極材を用いることにあるといえる。
また、本件特許明細書の段落【0045】~【0047】の記載によれば、平均粒径度が0.90~0.93である場合、特に、平均円形度が0.90以上であることにより、集電体平面に対して平行に特定の炭素材料が配位することが抑制され、移動するリチウムイオン、電解液等の経路長が短く、動きがスムーズになり、リチウムイオン二次電池の入出力特性及びサイクル特性が良好となるもの、という効果が得られるところ、かかる効果は、本件特許明細書の段落【0015】に記載されるように、条件(1)を満たして炭素材料の横方向の配向性を低くすることや、本件特許明細書の段落【0017】に記載されるように、条件(2)を満たしてリチウムイオンの固体内拡散距離を短くすることによっても得られるものであるのだから、既に条件(1)及び(2)を満たしている本件特許発明1ないし10において、平均粒径度を0.90~0.93にすることは、発明が解決しようとする課題を解決する上で必須の構成とはいえない。
してみれば、本件特許発明1ないし10は、炭素材料の種類及び形状が何ら特定されていないということを根拠に、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えたものであるということはできず、上記「1.(1)」に記載した特許異議申立人の主張を採用することはできない。
(2)サポート要件違反について(その2)
本件特許発明の発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書の段落【0009】に記載されているように、入出力特性及びサイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を製造可能なリチウムイオン二次電池用負極材及びリチウムイオン二次電池用負極を提供すること、及び、入出力特性及びサイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供することであり、また、本件特許明細書の段落【0013】~【0021】に記載されているように、リチウムイオン二次電池用負極材が、条件(1)及び(2)を満たすことにより、入出力特性及びサイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を製造可能となり、発明が解決しようとする課題を解決しようとするものである。そして、本件特許明細書の段落【0022】、【0023】には、負極材中における特定の炭素材料の含有率は、50質量%以上であることが好ましく、負極材は特定の炭素材料以外のその他の炭素材料及びSi、Sn、Ge、In等のリチウムイオンを吸蔵・放出可能な元素を含む粒子を含んでもよいことも記載されている。
一方、特許異議申立人は、上記「1.(2)」に記載したように、リチウムイオン二次電池用負極材が特定の炭素材料を50質量%しか含まない場合も包含する本件特許発明1、2においても、入出力特性及びサイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を製造できるかは不明である旨を主張しているものの、特許異議申立書には、リチウムイオン二次電池用負極材が特定の炭素材料を50質量%しか含まない場合において、入出力特性及びサイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を製造できない具体的な事例等の根拠は何ら記載されておらず、また、本願特許明細書の記載及び出願時の技術常識等を考慮しても、入出力特性及びサイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を製造できない具体的な事例等の根拠を見いだすことはできない。
そうすると、複数種類の材料を混合した混合物を製造する場合、一般的に、当該混合物の全体としての特性は、個々の材料の特性がその混合比に対応して生じるものと解されるのだから、特定の炭素材料を50質量%以上含むリチウムイオン二次電池用負極材は、そうではないものと比較して、程度の差はあれ、特定の炭素材料の含有量に応じた入出力特性及びサイクル特性の改善が見込まれるものといえる。
してみれば、本件特許発明1ないし10は、リチウムイオン二次電池用負極材が特定の炭素材料を50質量%しか含まない場合も包含するということを根拠に、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えたものであるということはできず、上記「1.(2)」に記載した特許異議申立人の主張を採用することはできない。
3.まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし10は、サポート要件を満たすものであり、特許異議申立人が主張する申立理由は、いずれも理由がない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし10に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては取り消すことができない。
また、他に本件特許発明1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2025-700093