特許異議申立
2024-700131
自動車用遮音材
- 審判番号
- 2024-700131
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-552499
- 登録番号
- 7326649
- 請求日
- 2024年02月14日
- 審決日
- 2024年05月21日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】寿屋フロンテ株式会社
- 【権利者代理人】奥山 尚一
- 【権利者代理人】中村 綾子
- 【権利者代理人】森本 聡二
- 【権利者代理人】田中 祐
- 【異議申立人】天野 優雅
- 【異議申立人】早川 利子
- 審判長/審判官
- 審判長 一ノ瀬 覚
- 審判官 横溝 顕範
- 審判官 中村 則夫
- 分類
- P1651.113-Y (B60R) / P1651.121-Y (B60R) / P1651.537-Y (B60R)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7326649号発明「自動車用遮音材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7326649号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7326649号の請求項1~8に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、2019年(平成31年)1月22日(優先権主張 平成30年10月26日)を国際出願日とする出願であって、令和5年8月7日に特許権の設定登録がされ、同年8月16日に特許掲載公報が発行され、令和6年2月14日に特許異議申立人天野優雅(以下「申立人A」という。)による特許異議の申立て(以下「申立A」という。)がされ、同年2月16日に特許異議申立人早川利子(以下「申立人B」という。)による特許異議の申立て(以下「申立B」という。)がされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認められる。
「【請求項1】
筒状のセルが複数の列をなして配置されているハード層と、前記ハード層の一方の面に設けられたソフト層と、前記ハード層の他方の面に設けられた表皮層とを備える複層構造の自動車用遮音材であって、前記ハード層と前記ソフト層の構造体が有する動バネ定数Kdと静バネ定数Ksとの比が、0<Kd/Ks≦1.5であり、前記ソフト層が車体のパネル側に設置される自動車用遮音材。
【請求項2】
前記ハード層と前記ソフト層の構造体が有する静バネ定数Ksが、20N/mm以上であり、前記動バネ定数Kdと静バネ定数Ksとの比が、0.7<Kd/Ks≦1.5である請求項1に記載の自動車用遮音材。
【請求項3】
前記ハード層の前記セルが隣接して列をなす方向の前記セル間のピッチPcyが、4mmから10mmの範囲内である請求項1又は2に記載の自動車用遮音材。
【請求項4】
前記ハード層とソフト層の間に更にフィルム層を備え、前記フィルム層の厚さが50μm~300μmの範囲である請求項1~3のいずれか一項に記載の自動車用遮音材。
【請求項5】
前記フィルム層が、層を貫通する複数の開孔を有する請求項4に記載の自動車用遮音材。
【請求項6】
前記フィルム層と前記ソフト層との間に更に追加層を備え、前記追加層の静バネ定数Ksが、前記ソフト層の静バネ定数Ksより小さい請求項4又は5に記載の自動車用遮音材。
【請求項7】
前記ソフト層の素材が発泡ウレタンであり、前記追加層が繊維層であり、前記繊維層の厚さが0.3mm~10mmの範囲である請求項6に記載の自動車用遮音材。
【請求項8】
前記ハード層の前記セルの各々が、一方の端に閉鎖面、他方の端に開放端を有し、前記セルの前記開放端によって前記セルの内部空間が外部と連通しており、前記セルの前記開放端が、前記ハード層の両面において、隣接したセルの列が一列おきに配置されている請求項1~7のいずれか一項に記載の自動車用遮音材。」
第3 特許異議申立理由の概要
申立人A及びBが、それぞれ特許異議申立書で主張する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。以下、申立人Aが主張する特許異議申立理由を理由A、提出した甲第1号証等を甲A1等と略記する。申立人Bについても同様に理由B、甲B1等と略記する。
理由A
(進歩性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
記
申立人Aが進歩性欠如を主張する、請求項に係る発明と提出した証拠との関係は、次のとおりであり、主たる証拠は甲A1~甲A6の6つとなっている。
請求項1:甲A1及び甲A2
請求項2:甲A1及び甲A2
請求項3:甲A1及び甲A2及び甲A3
請求項4:甲A1及び甲A2及び甲A3
請求項5:甲A1及び甲A2及び甲A3及び甲A4
請求項6:甲A1及び甲A2及び甲A3及び甲A4又は甲A5
請求項7:甲A1及び甲A2及び甲A3及び甲A4及び甲A5
請求項8:甲A1及び甲A2及び甲A3及び甲A4及び甲A5及び甲A6
証拠一覧
甲A1:特開2013-28085号公報
甲A2:特開2007-161153号公報
甲A3:特開2011-180381号公報
甲A4:特開2005-266399号公報
甲A5:米国特許出願公開第2004/0069564号明細書
甲A6:特開2008-260309号公報
理由B
理由B1:(新規性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するので、その発明に係る特許は、特許法第29条第1項に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
記
申立人Bが新規性欠如を主張する、請求項に係る発明と提出した証拠との関係は、次のとおりであり、主たる証拠は甲B1のみとなっている。
請求項1:甲B1
請求項3:甲B1
証拠一覧
甲B1:特開2018-54833号公報
理由B2:(進歩性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
記
申立人Bが進歩性欠如を主張する、請求項に係る発明と提出した証拠との関係は、次のとおりであり、主たる証拠は甲B1~甲B7の7つとなっている。
請求項1:甲B1及び甲B3~甲B6
請求項2:甲B1及び甲B3~甲B7
請求項3:甲B1及び甲B3~甲B6
請求項4:甲B1及び甲B2及び甲B3~甲B6
請求項5:甲B1及び甲B2及び甲B3~甲B6
請求項6:甲B1及び甲B2及び甲B3~甲B6
請求項7:甲B1及び甲B2及び甲B3~甲B6
請求項8:甲B1及び甲B2及び甲B3~甲B6
証拠一覧
甲B1:特開2018-54833号公報
甲B2:特開2009-19495号公報
甲B3:特開2011-27169号公報
甲B4:特開2009-154732号公報
甲B5:特開2005-239813号公報
甲B6:JIS K 6422:2016、一般財団法人日本規格協会、平成28年12月20日
甲B7:特開2001-323108号公報
理由B3:(明確性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、当該請求項に係る特許は、特許法第36条第6項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
記
請求項1に記載された「ソフト層」に該当する部材の範囲が不明確である。
請求項1を引用する請求項2~8も同様である。
第4 当審の判断
1 理由B3(明確性)について
事案に鑑み、まず理由B3(明確性)を検討する。
請求項1に記載された「ハード層」と「ソフト層」は、「複層構造の自動車用遮音材」を構成する「層」として、「ハード」「ソフト」という相対的な硬軟の性状を意味していることがその字義どおり理解することができるから、当業者にとって、「ソフト層」に該当する部材の範囲が不明確であるとはいえない。したがって、請求項1の記載は明確である。
2 甲号証に記載された発明
(1)甲A1に記載された発明
甲A1の【0002】【0013】【0058】~【0063】及び【図1】~【図2】の記載からみて、甲A1には、発明を実施するための形態の中空構造板に係る次の発明(以下「甲A1発明」という。)が記載されているものと認める。
「シングルコーン成形シート2とその凸部2a側の面に積層された中間シート3とからなる中間体4の表面及び裏面に、表面材シート5、6が積層された、自動車用途などに使用される遮音性に優れた中空構造板において、
中間体4として、第1の熱可塑性樹脂シート20(目付け400g/m2、厚さ0.4mm、プライムポリマー社製ブロックコポリプロピレンE601(MI=0.8)に、フィラー:竹原化学工業社製タルクマスターバッチMAX2070T(タルク含有率70質量%)を配合した熱可塑性樹脂組成物)を、成形ローラー11(ピン構成高さ4.5mm、最小直径2mm、最大直径6mm、傾斜角度約64°)で中空凸部を真空成形したシングルコーン成形シート2と、第2の熱可塑性樹脂シート30(目付け200g/m2、厚さ0.2mm)からなる中間シート3を熱融着することで得て、
表面材シート5を、目付け300g/m2、厚さ0.3mmとし、
表面材シート6を、目付け300g/m2、厚さ0.3mmとして、
中間体4の表裏面に表面材シート5と表面材シート6を熱融着することで得た、
中空構造板。」
(2)甲A2に記載された発明
甲A2の【請求項1】【0004】~【0006】【0018】~【0021】の記載からみて、甲A2には、発明を実施するための形態(実施例3)の自動車用成形敷設内装材に係る次の発明(以下「甲A2発明」という。)が記載されているものと認める。
「通気意匠層/開孔樹脂層/保形フェルト層/非通気樹脂シート層/嵩上材をこの順に積層してなる、吸音性と遮音性の両方にすぐれた自動車用成形敷設内装材において、
開孔樹脂層として、直径1.2mmの円形貫通孔(開孔間隔4.0~5.6mm、開孔の配置は千鳥状に略均一配置、開孔率12%)を均一に開孔形成した、低密度ポリエチレン樹脂(単位面積重量250g/m2、厚さ0.25mm)とし、
保形フェルト層として、単位面積重量500g/m2、厚さ5mmのフェルト層とした、
自動車用成形敷設内装材。」
(3)甲B1に記載された発明
ア 甲B1発明2
甲B1の【請求項1】【0017】【0049】~【0052】【0074】及び【図1】の記載からみて、甲B1には、発明を実施するための形態<実施例2>の中空構造板に係る次の発明(以下「甲B1発明2」という。)が記載されているものと認める。
「通気性の表皮材層の下面側に連続気泡を有する多孔質材料と、該多孔質材料の下面側に繊維層と、内部に空気室を有すると共に筒状の壁体を有するセルが該壁体を介して隣接するように複数配列されて構成されたコア層と、を備える吸音性に優れた自動車等の床材であって、表皮材層が最表面にあり、各層を
表皮材層と多孔質材層をAとし、
多孔質材層の下の繊維層をC1枚及びG1枚とし、
繊維層の下のコア層をHとし、
コア層の下の繊維層をC1枚とした、
床材。
A:ポリエステル繊維製不織布からなる基布(目付90g/m2)に、ナイロン糸からなるループパイル(目付520g/m2)がタフトされたカーペットの裏面にSBRラテックスをプレコート処理して乾燥目付50g/m2のプレコート層を形成した表皮材層と、ポリウレタンフォーム(厚み6mm、目付660g/m2)を重ね合わせて厚みを9.0mmとしたもの
C:不織布(厚み15mm、目付375g/m2、繊維材質ポリエステル、かさ密度0.025g/cm3、空隙率90%、繊維の太さ10dtex)
G:立体編物(ユニチカテクノス株式会社製、品番R14006-2、厚み10mm、ポリエステル100%、790g/m2)
H:樹脂シートが両面に積層されているハニカムコア層(岐阜プラスチック工業株式会社製、商品名テクセル(TECCELL)、厚み28mm、コアサイズ65mm2、材質ポリプロピレン)において、樹脂シート(厚み1mm)の片方の面に貫通孔(直径1mm、個数120個/10cm×10cm)を開けたもの」
イ 甲B1発明3
甲B1の【請求項1】【0017】【0049】~【0053】【0074】及び【図1】の記載からみて、甲B1には、発明を実施するための形態<実施例3>の中空構造板に係る次の発明(以下「甲B1発明3」という。)が記載されているものと認める。
「通気性の表皮材層の下面側に連続気泡を有する多孔質材料と、該多孔質材料の下面側に繊維層と、内部に空気室を有すると共に筒状の壁体を有するセルが該壁体を介して隣接するように複数配列されて構成されたコア層と、を備える吸音性に優れた自動車等の床材であって、表皮材層が最表面にあり、各層を
表皮材層と多孔質材層をAとし、
多孔質材層の下の繊維層をG1枚とし、
繊維層の下のコア層をHとし、
コア層の下の繊維層をC2枚とした、
床材。
A:ポリエステル繊維製不織布からなる基布(目付90g/m2)に、ナイロン糸からなるループパイル(目付520g/m2)がタフトされたカーペットの裏面にSBRラテックスをプレコート処理して乾燥目付50g/m2のプレコート層を形成した表皮材層と、ポリウレタンフォーム(厚み6mm、目付660g/m2)を重ね合わせて厚みを9.0mmとしたもの
C:不織布(厚み15mm、目付375g/m2、繊維材質ポリエステル、かさ密度0.025g/cm3、空隙率90%、繊維の太さ10dtex)
G:立体編物(ユニチカテクノス株式会社製、品番R14006-2、厚み10mm、ポリエステル100%、790g/m2)
H:樹脂シートが両面に積層されているハニカムコア層(岐阜プラスチック工業株式会社製、商品名テクセル(TECCELL)、厚み28mm、コアサイズ65mm2、材質ポリプロピレン)において、樹脂シート(厚み1mm)の片方の面に貫通孔(直径1mm、個数120個/10cm×10cm)を開けたもの」
3 理由A(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲A1発明とを対比する。
・後者の「凸部2a」は、前者の「筒状のセル」の一種といえるものであって、複数の列をなして配置されている。よって、後者の「シングルコーン成形シート2とその凸部2a側の面に積層された中間シート3とからなる中間体4」と、前者の「筒状のセルが複数の列をなして配置されているハード層」とは、「筒状のセルが複数の列をなして配置されている」「層」で共通する(この共通する「層」を仮に「A層」と呼ぶ。)。
・後者の「裏面」に「積層された」「表面材シート6」と、前者の「前記ハード層の一方の面に設けられたソフト層」とは、「A層の一方の面に設けられた」「層」で共通する(この共通する「層」を仮に「B層」と呼ぶ。)。
・後者の「表面」に「積層された」「表面材シート5」と、前者の「前記ハード層の他方の面に設けられた表皮層」とは、「A層の他方の面に設けられた表皮層」で共通する。
・後者の「表面材シート5」「中間体4」「表面材シート6」が積層されていることは、後者の「複層構造」に相当する。
・後者の「自動車用途などに使用される遮音性に優れた中空構造板」は、前者の「自動車用遮音材」に相当する。
以上のことから、本件発明1と甲A1発明は、次の一致点Aで一致し、少なくとも相違点A1~A3で相違するものと認める。
〔一致点A〕
「筒状のセルが複数の列をなして配置されているA層と、前記A層の一方の面に設けられたB層と、前記A層の他方の面に設けられた表皮層とを備える複層構造の自動車用遮音材」
〔相違点A1〕
A層及びB層について、本件発明1は、「ハード層」と「ソフト層」であって、「前記ハード層と前記ソフト層の構造体が有する動バネ定数Kdと静バネ定数Ksとの比が、0<Kd/Ks≦1.5であ」るのに対して、甲A1発明は、中間体4と表面材シート6であってハード・ソフトの関係が不明であり、そのような規定がない点。
〔相違点A2〕
本件発明1は、「前記ソフト層が車体のパネル側に設置される」のに対して、甲A1発明は、表面材シート5が車体のパネル側に設置されるか不明な点。
エ 判断
相違点A1について検討する。
以下、本件発明1の「動バネ定数Kdと静バネ定数Ksとの比」である「Kd/Ks」を、防振分野で一般的な技術用語である「動倍率」という。
(ア)甲A1発明には、中間体4と表面材シート6とを、ハード層とソフト層となるように形成するという技術思想も課題もないから、甲A1発明において、相違点A1に係る本件発明1の構成とする動機付けがない。
(イ)それを措いて、甲A2発明の「保形フェルト層13」の適用を検討したとしても、甲A2発明の「保形フェルト層13」が甲A1発明の「中間体4」よりソフトであることは必ずしも明らかでないから、結局相違点A1に係る構成に到達するとはいえない。
(ウ)仮に上記(イ)において、「中間体4」に比して「保形フェルト層13」がソフトであったとしても、甲A2発明は、上記2(2)で認定したように、5層構造で吸音性と遮音性がすぐれた自動車成形敷設内装材を提供するものであって、このうちの1層を抜き出して、甲A1発明に適用する理由はない。
(エ)他の証拠を見ても、甲A1発明において、相違点A1に係る本件発明1の構成とする根拠がない。なお、甲B3~7に示されているのは、自動車の構造体支持等に用いられる防振ゴム等に関する技術であって車室に対する遮音材に関する技術ではないし、防振ゴム等単体に関する動倍率であって隣接する異なる2層を一体の構造体とみたときの動倍率を示すものでもない。
(オ)したがって、甲A1発明において、相違点A1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、本件発明1は、相違点A2を検討するまでもなく、甲A1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2~8について
本件発明2~8は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定をしたものであるから、上記(1)と同様の理由により、甲A1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 理由B1(新規性)について
(1)本件発明1について
ア 甲B1発明2に対する新規性
(ア)対比
本件発明1と甲B1発明2とを対比する。
a 後者の「コア層」として用いられている「H」の「ハニカムコア層」は、前者の「筒状のセルが複数の列をなして配置されている」ことに相当する。そうすると、後者の「Hとし」た「コア層」と、前者の「ハード層」とは、「筒状のセルが複数の列をなして配置されている層」で共通する(この共通する「層」を仮に「層ア」と呼ぶ。)。
b 上記aを踏まえると、後者の「コア層の下の繊維層」として用いられている「C1枚」と、前者の「ソフト層」とは、「前記ハード層の一方の面に設けられた層」で共通する(この共通する「層」を仮に「層イ」と呼ぶ。)。
c 後者の「コア層」として用いられている「H」の「ハニカムコア層」と、「コア層の下の繊維層」として用いられている「C1枚」は、相対的に「H」の方がハードであることがその材質と構造からして自明といえる。そうすると上記aの共通する層アについて、後者の「Hとし」た「コア層」は、前者の「ハード層」に相当するといえ、上記bの共通する層イについて、後者の「コア層の下の繊維層」として用いられている「C1枚」は、前者の「ソフト層」に相当するといえる。
d 後者の「表皮材層と多孔質材層」として用いられる「A」と、「多孔質材層の下の繊維層」として用いられる「C1枚及びG1枚」は、「繊維層の下」に「コア層」が設けられている。上記cも踏まえれば、後者の「表皮材層と多孔質材層」として用いられる「A」及び「多孔質材層の下の繊維層」として用いられる「C1枚及びG1枚」と、前者の「前記ハード層の他方の面に設けられた表皮層」とは、「前記ハード層の他方の面に設けられた層」で共通する(この共通する「層」を仮に「層ウ」と呼ぶ。)。
e 後者が「表皮材層と多孔質材層」と「繊維層」と「コア層」と「繊維層」からなることは、前者の「複層構造」に相当する。
f 後者の「吸音性に優れた自動車等の床材」は、前者の「自動車用遮音材」に相当する。
g 後者の「表皮材層が最表面にあ」ることは、反対側にある「コア層の下の繊維層」が自動車等のパネル側にあることを意味する。よって、後者の「コア層の下の繊維層」が自動車等のパネル側にあることは、前者の「前記ソフト層が車体のパネル側に設置される」ことに相当する。
以上のことから、本件発明1と甲B1発明2は、次の一致点B1で一致し、少なくとも相違点B1及びB2で相違するものと認める。
〔一致点B1〕
「筒状のセルが複数の列をなして配置されているハード層と、前記ハード層の一方の面に設けられたソフト層と、前記ハード層の他方の面に設けられた層ウとを備える複層構造の自動車用遮音材であって、前記ソフト層が車体のパネル側に設置される自動車用遮音材。」
〔相違点B1〕
層ウについて、本件発明1は、「表皮層」であるのに対して、甲B1発明2は、「表皮材層と多孔質材層」として用いられる「A」と、「多孔質材層の下の繊維層」として用いられる「C1枚及びG1枚」である点。
〔相違点B2〕
本件発明1は、「前記ハード層と前記ソフト層の構造体が有する動バネ定数Kdと静バネ定数Ksとの比が、0<Kd/Ks≦1.5であ」るのに対して、甲B1発明2は、ハード層である「コア層」とソフト層である「C1枚」との間に、そのような関係は特定されていない点。
(イ)判断
a 相違点B1について
甲B1発明2が、本件発明1の「表皮層」に対応する「表皮材層」(カーペット)の他に、「多孔質材層」(ポリウレタンフォーム)と、「繊維層」(不織布と立体編物)という別の層を備えていることは、実質的な相違点である。
b 相違点B2について
甲B1には、動倍率について何ら記載も示唆もないから、相違点B2は、実質的な相違点である。
仮に、甲B1発明2のコア層Hと、コア層の下の繊維層C1枚を一体の構造体を構成すると考えて、本件特許明細書に記載された実施例のうち最も近い実施例2及び3の諸元と比較しても、例えば、甲B1発明2におけるコア層Hの厚さ(28mm)や繊維層C1枚の厚さ(15mm)と、本件特許明細書に記載された実施例2及び3におけるハード層の厚さ(10mm)やソフト層の厚さ(10mm)だけをみても両者は大きくかけ離れているから、甲B1発明2のコア層Hとコア層の下の繊維層C1枚が本件特許明細書に記載された実施例と同じ動倍率の値を有しているかどうかは不明と言わざるを得ない。
c 以上のとおり、相違点B1及びB2は実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲B1発明2ではない。
エ 甲B1発明3に対する新規性
(ア)対比
本件発明1と甲B1発明3とを対比する。
a 甲B1発明2と同様に、後者の「コア層」として用いられている「H」の「ハニカムコア層」は、前者の「筒状のセルが複数の列をなして配置されているハード層」に相当する。
b 甲B1発明2と同様に、「コア層の下の繊維層」として用いられている「C2枚」は、前者の「前記ハード層の一方の面に設けられたソフト層」に相当する。
c 甲B1発明2と同様に、後者の「表皮材層と多孔質材層」として用いられる「A」及び「多孔質材層の下の繊維層」として用いられる「G1枚」と、前者の「前記ハード層の他方の面に設けられた表皮層」とは、「前記ハード層の他方の面に設けられた層」で共通する(この共通する「層」を仮に「層ウ」と呼ぶ。)。
d 後者が「表皮材層と多孔質材層」と「繊維層」と「コア層」と「繊維層」からなることは、前者の「複層構造」に相当する。
e 後者の「吸音性に優れた自動車等の床材」は、前者の「自動車用遮音材」に相当する。
f 甲B1発明2と同様に、後者の「コア層の下の繊維層」が自動車等のパネル側にあることは、前者の「前記ソフト層が車体のパネル側に設置される」ことに相当する。
以上のことから、本件発明1と甲B1発明3は、次の一致点B2で一致し、少なくとも相違点B3及びB4で相違するものと認める。
〔一致点B2〕
「筒状のセルが複数の列をなして配置されているハード層と、前記ハード層の一方の面に設けられたソフト層と、前記ハード層の他方の面に設けられた層ウとを備える複層構造の自動車用遮音材であって、前記ソフト層が車体のパネル側に設置される自動車用遮音材。」
〔相違点B3〕
層ウについて、本件発明1は、「表皮層」であるのに対して、甲B1発明3は、「表皮材層と多孔質材層」として用いられる「A」と、「多孔質材層の下の繊維層」として用いられる「G1枚」である点。
〔相違点B4〕
本件発明1は、「前記ハード層と前記ソフト層の構造体が有する動バネ定数Kdと静バネ定数Ksとの比が、0<Kd/Ks≦1.5であ」るのに対して、甲B1発明3は、ハード層である「コア層」とソフト層である「C2枚」との間に、そのような関係は特定されていない点。
(イ)判断
相違点B3は、相違点B1と実質的に同じ相違点であるから、相違点B1と同様に実質的な相違点である。
相違点B4は、相違点B2と同じ相違点であるから、相違点B2と同様に実質的な相違点である。
よって、相違点B3及びB4は実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲B1発明3ではない。
(2)本件発明2~8について
本件発明2~8は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定をしたものであるから、上記(1)と同様の理由により、本件発明2~8は、甲B1に記載された発明ではない。
3 理由B2(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 甲B1発明2に対する進歩性
(ア)対比
上記2(1)ウ(ア)のとおり、本件発明1と甲B1発明2は、少なくとも相違点B1及びB2で相違するものと認める。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点B2から検討する。
甲B1には、「コア層」と「C1枚」とからなるものの動倍率について何ら記載も示唆もないところ、甲B1発明2にはその動倍率を調整するという技術思想や課題は認められないし、また、甲B3~B7に示されている周知技術は、自動車の構造体支持等に用いられる防振ゴム等に関する技術であって車室に対する遮音材に関する技術ではない。そうすると、甲B1発明2に甲B3~B7に開示される周知技術を適用する動機付けはないと言わざるを得ない。
したがって、甲B1発明2において、相違点B2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
よって、相違点B1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲B1発明2及び上記周知技術に基いて容易に発明をすることができたものではない。
イ 甲B1発明3に対する進歩性
(ア)対比
上記2(1)エ(ア)のとおり、本件発明1と甲B1発明3は、少なくとも相違点B3及びB4で相違するものと認める。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点B4から検討する。
相違点B4は、相違点B2と同じ相違点であるから、上記ア(イ)で示したのと同様の理由により、甲B1発明3において、相違点B4に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
よって、相違点B3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲B1発明3及び周知上記技術に基いて容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2~8について
本件発明2~8は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定をしたものであるから、上記(1)と同様の理由により、本件発明2~8は、甲B1発明2と上記周知技術、または、甲B2発明3と上記周知技術に基いて容易に発明をすることができたものではない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人A及びBがそれぞれ特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700131