特許異議申立
2025-700133
活性炭およびその製造方法ならびに浄水器カートリッジおよび浄水器
- 審判番号
- 2025-700133
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-017724
- 登録番号
- 7523838
- 請求日
- 2025年01月29日
- 審決日
- 2025年05月20日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社エム・イ-・ティ-
- 【権利者代理人】弁理士法人あいち国際特許事務所
- 【異議申立人】高山 敏男
- 審判長/審判官
- 審判長 原 賢一
- 審判官 金 公彦
- 審判官 田口 裕健
- 分類
- P1651.536-Y (B01J) / P1651.537-Y (B01J) / P1651.121-Y (B01J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法36条4項1号特許法36条6項1号特許法113条2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第2条第3項第1号、特許法第2条第3項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7523838号発明「活性炭およびその製造方法ならびに浄水器カートリッジおよび浄水器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7523838号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7523838号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和6年2月8日の出願であって、同年7月19日にその特許権の設定登録がされ、同年同月29日に特許掲載公報が発行され、その後、令和7年1月29日に、請求項1~4に係る発明について、特許異議申立人 高山 敏男(以下、「申立人」という。)により、甲第1~12号証を証拠方法として特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件特許
本件特許の請求項1~4に係る発明は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。以下、各請求項に係る発明及び特許を、項番に対応して「本件発明1」、「本件特許1」などといい、まとめて「本件発明」、「本件特許」ということがある。
「【請求項1】
浄水器用の活性炭であって、
吸着ガスをN2として作成した吸着等温線についてGCMC法による細孔解析により求めた細孔径0.6nm以下の累積細孔容積が0.165cm3/g以上であり、
吸着ガスをN2として作成した吸着等温線についてBJH法による細孔解析により求めた細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積が0.050cm3/g以上0.120cm3/g以下であり、
充填密度が0.500g/cm3以上である、
活性炭。
【請求項2】
請求項1に記載の活性炭の製造方法であって、
植物系バイオマスを原料に用いる、
活性炭の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の活性炭を有する、浄水器カートリッジ。
【請求項4】
請求項1に記載の活性炭を有する、浄水器。」
第3 特許異議申立理由の概要
1 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)(以下、「申立理由1」とする。)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が後記第4の1(1)の点で不備であるため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(以下、「申立理由2」とする。)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が後記第4の2(1)の点で不備であるため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)(以下、「申立理由3」とする。)
本件特許は、以下の(1)~(6)の点で、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(1)本件発明1~4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)本件発明1~4は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3~8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件発明1~4は、甲第9号証に記載された発明及び甲第1~8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)本件発明1~4は、甲第10号証に記載された発明及び甲第1~8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5)本件発明1~4は、甲第11号証に記載された発明及び甲第1~8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(6)本件発明1~4は、甲第12号証に記載された発明及び甲第1~8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 証拠方法
甲第1号証:特開2016-030697号公報
甲第2号証:特開2013-220413号公報
甲第3号証:吉田将之ほか,「定容量型吸着装置における新規死容積測定方法の開発」,飯山拓 編,日本吸着学会 Adsorption News,Vol.21 No.4,P.5-9,2007年12月25日
甲第4号証:特開2019-178025号公報
甲第5号証:特開2007-244934号公報
甲第6号証:国際公開第2006/054447号
甲第7号証:特開2015-003860号公報
甲第8号証:特開2016-098119号公報
甲第9号証:特開平5-247470号公報
甲第10号証:岩崎高雄ほか,「流動法による活性炭製造法について」,公益社団法人 化学工学会 発行,化学工学,第18巻第2号,P.81-85,1954年2月1日
甲第11号証:林勝己ほか,「木材ペレットより粒状活性炭の製造」,炭素材料学会 編集・発行,炭素,第1984巻第119号,P.185-189,1984年10月25日
甲第12号証:山田哲夫ほか,「カラマツの高度利用を目的とした活性炭の製造(I)」,一般社団法人 日本エネルギー学会 編集・発行,日本エネルギー学会誌,第79巻第5号,P.455-463,2000年5月20日
(以下、甲第1号証について「甲1」などという。)
第4 当審の判断
1 申立理由1(実施可能要件違反)について
(1)申立理由1の内容
ア 本件発明1の活性炭は、その原料が特定されていない。
一方、本件明細書【0028】には、「植物系バイオマスは植物の細胞壁の主成分であって植物の骨格を形づくるリグノセルロースを含んでおり、これが、フェノール樹脂などの合成樹脂に比べて所定の細孔分布の形成に有利に作用する。」と記載され、同【0031】には、「活性炭の細孔分布、充填密度は、原料依存性が大きく、従来知られるフェノール樹脂やピッチ、ヤシ殻などの原料では、本実施形態の活性炭において規定する上述の細孔容積とするためのメソ細孔(一般的に、BJH法により測定される細孔)やミクロ細孔(一般的に、GCMC法により測定される細孔)を形成し、加えて上述の充填密度の要件も同時に満たすように構成することは難易度が高い。」と記載され、同【0032】には、「ヤシ殻を原料とする活性炭は、ヤシ殻の特徴であるミクロ細孔主体の活性炭となる。そのため、ヤシ殻を原料とする活性炭は、活性炭の粒径を微細化することにより充填密度を上げて吸着性能を向上させる必要があり、細孔分布の調整によるクロロホルムの吸着性能の向上を図ることが困難であ」ると記載されている。また、同【0049】~【0070】の「実験例」において、杉を原料に製造された活性炭についての実証データをもとに、細孔分布及び充填密度に関するパラメータの臨界値が決定されている。
以上からすれば、杉以外の材料を原料とした場合には、その細孔分布や充填密度は当然に杉とは異なるので、GCMC法及びBJH法による細孔解析により求めた特定の細孔径の累積細孔容積、充填密度の適正範囲も当然に変わるはずである。つまり、杉を原料に製造された活性炭について最適化されたGCMC法及びBJH法による細孔解析により求めた特定の細孔径の累積細孔容積、充填密度を、原料の限定無く活用できると判断することは妥当ではない。
そうすると、活性炭の原料が杉であることを特定しない本件発明1~4は、発明の詳細な説明において、当業者がその発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
イ 本件発明1は、「GCMC法による細孔解析により求めた細孔径0.6nm以下の累積細孔容積」の上限値を特定しておらず、1000cm3/g等のように当該累積細孔容積が非常に大きい活性炭も包含している。
しかしながら、本件明細書の「実験例」から、GCMC法による細孔解析により求めた細孔径0.6nm以下の累積細孔容積は、原料によってある程度限定されることが理解できる。このため、本件明細書からは、「実験例」において実証されている0.163~0.182cm3/gの活性炭しか製造できないことが理解できる。
そうすると、1000cm3/g等のように当該累積細孔容積が非常に大きい活性炭までも包含する本件発明1~4は、発明の詳細な説明において、当業者がその発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
ウ 本件発明1は、「BJH法による細孔解析により求めた細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積が0.050cm3/g」であるものを包含している。
一方、【0049】~【0070】の「実験例」における「試料2C」及び「試料1」の当該累積細孔容積及びクロロホルム通水量の数値に基づき、両パラメータが線形関係にあると仮定して、当該累積細孔容積が0.050cm3/gでのクロロホルム通水量を計算すると、比較例であるヤシ殻原料の活性炭よりも劣る数値となる。
そのため、「BJH法による細孔解析により求めた細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積が0.050cm3/g」であるものを包含する本件発明1~4は、当業者がその発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
エ 本件発明1は、「充填密度」の上限値を特定しておらず、1000g/cm3等のように充填密度が非常に大きい活性炭も包含している。
しかしながら、本件明細書の「実験例」から、充填密度は一定程度の範囲内(0.436~0.655g/cm3)に集約されることが理解できる。このため、本件明細書から、「実験例」において実証されている0.436~0.655g/cm3程度の活性炭しか製造できないことが理解できる。
また、「実験例」において充填密度が0.655g/cm3である「試料2C」は、クロロホルム通水量が小さいため、充填密度0.655g/cm3程度では、課題を解決できないことが実証されている。
そうすると、1000g/cm3等のように充填密度が非常に大きい活性炭までも包含する本件発明1~4は、発明の詳細な説明において、当業者がその発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
(なお、異議申立書第14ページに記載された「1000cm3/g」、「0.436~0.655cm3/g」、「0.655cm3/g」は充填密度の数値であるから、その単位は「g/cm3」の誤記と認められる。)
オ 本件発明2は、ヤシ殻等、杉以外の「植物系バイオマス」を原料に用いるものを包含しており、また、どのような製造工程を経るかは関係ないものとなっている。
しかしながら、本件明細書【0031】には、「活性炭の細孔分布、充填密度は、原料依存性が大きく、従来知られるフェノール樹脂やピッチ、ヤシ殻などの原料では、本実施形態の活性炭において規定する上述の細孔容積とするためのメソ細孔・・・やミクロ細孔・・・を形成し、加えて上述の充填密度の要件も同時に満たすように構成することは難易度が高い。」と記載され、同【0032】には、「ヤシ殻を原料とする活性炭は、ヤシ殻の特徴であるミクロ細孔主体の活性炭となる。」と記載されているように、植物系バイオマスを原料に使用した場合であっても、ミクロ孔、つまり、2nm以下の径を持つ細孔が主体の活性炭となることから、細孔径2.0nm以上200nmにおける累積細孔容積は小さくなるはずである。実際、本件明細書の「実験例」においても、ヤシ殻原料の活性炭である「試料3C」は、BJH法による細孔解析により求めた細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積が0.046cm3/gと小さく、クロロホルム通水量が15.0L/cm3と少ないことが理解できる。つまり、植物系バイオマスであるヤシ殻を使用して、本件発明の活性炭を得られないことは明らかである。
(なお、異議申立書第16ページに記載された「0.046g/cm3」は、細孔容積の数値であるから、その単位は「cm3/g」の誤記と認められる。)
また、本件明細書の「実験例」の「試料1C」又は「試料2C」に示される、原料として杉を利用した場合でも、水蒸気の流通時間を最適化していない活性炭は、クロロホルム通水量が小さく、本件発明の課題を解決できていないことから、特定の原料(杉)を使用し、水蒸気の流通時間を最適化しなければ、本件発明の課題を解決できないことが理解できる。
しかも、(上記アでも述べたとおり)杉以外の材料を原料とした場合には、その細孔分布や充填密度は当然に杉とは異なるので、GCMC法及びBJH法による細孔解析により求めた特定の細孔径の累積細孔容積、充填密度の適正範囲も当然に変わるはずである。つまり、杉を原料に製造された活性炭について最適化されたGCMC法及びBJH法による細孔解析により求めた特定の細孔径の累積細孔容積、充填密度を有する活性炭を製造するために、植物系バイオマスであれば広く活用できると判断することは妥当ではない。
そうすると、活性炭の原料が杉であること及び水蒸気の流通時間を特定しない本件発明2は、発明の詳細な説明において、当業者がその発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
(2)申立理由1についての検討
ア 実施可能要件の判断手法
物の発明又は物を生産する方法の発明についての発明の詳細な説明の記載に対する実施可能要件は、以下の観点で判断すべきものである。
(ア)物の発明について
物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているか否かを検討して判断すべきである。
(イ)物を生産する方法の発明について
物を生産する方法の発明における発明の実施とは、その物を生産する方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第3号)、物を生産する方法の発明について、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用し、その方法により生産した物の使用等をすることができる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているか否かを検討して判断すべきである。
イ 発明の詳細な説明の記載
本件の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以降の摘記についても同様である。
「【0017】
(活性炭およびその製造方法)
本実施形態の活性炭は、浄水器用である。ここで、浄水器用とは、浄水器に用いられるものであることを意味し、例えば、浄水器カートリッジ内に活性炭が入れられ、この浄水器カートリッジが浄水器に内蔵される場合や、浄水器内に活性炭が直接入れられる場合を含むものである。
【0018】
本実施形態の活性炭は、吸着ガスをN2として作成した吸着等温線についてGCMC(Grand Canonical Monte Carlo)法による細孔解析により求めた細孔径0.6nm以下の累積細孔容積(以下、「細孔径0.6nm以下の累積細孔容積」ということがある。)が0.165cm3/g以上とされる。GCMC法は、活性炭分野において、主にミクロ細孔(2nm以下の径をもつ細孔)領域~メソ細孔(2~50nmの間の径をもつ細孔)領域の細孔分布を測定するために用いられている。したがって、細孔径0.6nm以下の累積細孔容積を規定する本実施形態の活性炭は、ミクロ細孔を有しているということができる。なお、上記にいう細孔径は、細孔直径を意味する。
・・・
【0021】
本実施形態の活性炭は、吸着ガスをN2として作成した吸着等温線についてBJH(Barrett-Joyner-Halenda)法による細孔解析により求めた細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積(以下、「BJH法による累積細孔容積」ということがある。)が0.050cm3/g以上0.120cm3/g以下とされる。BJH法は、活性炭分野において、主にメソ細孔(2~50nmの間の径をもつ細孔)領域の細孔分布を測定するために用いられている。したがって、BJH法による累積細孔容積を規定する本実施形態の活性炭は、メソ細孔を有しているということができる。なお、BJH法における上記細孔径範囲の下限および上限は、一般的定義に基づいた算出値である。すなわち、BJH法における上記細孔径範囲の下限は、メソ細孔の定義2nm~(IUPAC定義)に由来し(つまり、計算式そのものは1nm付近まで計算できるためにメソ細孔の定義2nmを下限とする)、BJH法における上記細孔径範囲の上限は、計算式的に200nmまでしか算出できないことによるものである。また、上記にいう細孔径は、細孔直径を意味する。
・・・
【0024】
本実施形態の活性炭は、充填密度が0.500g/cm3以上とされる。本実施形態の活性炭において、充填密度は、活性炭が充填される空間容量が制限される浄水器カートリッジ、浄水器において、より少ない活性炭容量でクロロホルムを吸着除去するために重要な物性である。上記充填密度は、当該活性炭を分級して採取した粒径38μm以上75μm以下の粒径範囲のサンプル粉についてJIS K1474 7.8.5 粉末用充填法に準拠して測定される充填密度である。但し、最初から粒径38μm以上75μm以下の粒径範囲にある活性炭の場合には、上記分級は不要とすることができる。なお、上記粒径範囲を粒径38μm以上75μm以下とした理由は、浄水器分野において活性炭仕様として浄水器メーカーにより求められることが多い粒径範囲に合わせたためである。
・・・
【0028】
本実施形態の活性炭は、植物系バイオマスを原料とすることが好ましい。つまり、本実施形態の活性炭は、植物系バイオマスに由来するものであることが好ましい。この構成によれば、フェノール樹脂などの合成樹脂を原料とする場合に比べ、活性炭の低コスト化を図りやすくなる。また、植物系バイオマスは植物の細胞壁の主成分であって植物の骨格を形づくるリグノセルロースを含んでおり、これが、フェノール樹脂などの合成樹脂に比べて所定の細孔分布の形成に有利に作用する。また、植物系バイオマスは持続可能な資源であるなどの利点もある。
・・・
【0030】
植物系バイオマスとしては、具体的には、樹木(木本)、草花(草本)、種子殻、実などを例示することができる。これらは、1種または2種以上併用することができる。上記樹木としては、より具体的には、杉、檜などの針葉樹、椿、リンゴ木などの広葉樹、竹などのイネ科植物などを例示することができる。さらに、南アジア、東南アジアに生産地域が限られるヤシ殻よりも日本国内で調達が可能な杉、檜、竹などの植物系バイオマスを原料とする場合には、材木として販売価値の低い間伐材や製材屑あるいは荒廃竹林の竹などの未利用資源の有効活用にもつながる利点がある。
・・・
【0033】
これに対し、杉は、賦活処理を多くしなくても、メソ細孔(相対的に大きな細孔)およびミクロ細孔(相対的に小さな細孔)が同時に形成されやすい材料である。そのため、杉を原料に用いた場合には、上述したGCMC法による累積細孔容積、BJH法による累積細孔容積、および、充填密度の3つの要件を同時に満たす活性炭を得やすくなる。なお、このことは、杉を原料に用いれば、上記3つの要件を必ず満たすということを意味するものではないことは後述の実験例からも理解される。
・・・
【0038】
本実施形態の活性炭は、例えば、以下のようにして製造することができるが、これに限定されるものではない。
【0039】
植物系バイオマスなどの原料を破砕、必要に応じてペレット化または圧縮加工する。ペレット化または圧縮加工は、原料のかさ密度向上に有用である。植物系バイオマスを原料に用いた場合には、充填密度が低くなる場合があるため、ペレット化または圧縮加工を施すことが好ましい。つまり、原料の段階においてかさ密度が低いものについては、活性炭の充填密度を上げられるように、原料の段階においてペレット化や圧縮加工により原料のかさ密度を上げておくことが好ましい。なお、生産性に影響がない程度に破砕片の大きさが十分にあり(例えば、破砕片の大きさ:10~30mm程度)、かつ、原料のかさ密度が十分にある場合(例えば、かさ密度:0.65~0.95g/cm3程度)には、ペレット化や圧縮加工は不要とすることができる。ペレット化や圧縮加工時の加工条件を最適化することにより、原料のかさ密度を上げることができる。例えば、フラット式ペレタイザーを用いる場合には、原料の含水率、原料投入量、圧縮ローラーの回転速度、ダイス温度、ダイス口径(ペレット径)などを調整することにより、所望のかさ密度を有する原料を得ることができる。
【0040】
次いで、上記準備した原料を炭化処理し、炭化物を得る。炭化処理条件としては、例えば、炭化雰囲気:窒素雰囲気、炭化温度:700~900℃、炭化温度までの昇温速度:2~10℃/min、保持時間:5~60分などを例示することができる。
【0041】
次いで、上記炭化物を賦活処理し、活性炭を得る。賦活処理条件としては、例えば、炭化雰囲気:窒素雰囲気、賦活温度:750~950℃、賦活剤:水蒸気、二酸化炭素、アルカリ剤など、賦活温度までの昇温速度:5~20℃/min、保持時間:10~900分などを例示することができる。
・・・
【0049】
(実験例)
<各活性炭の作製>
-試料1の活性炭-
杉(幹)を、破砕機(大橋社製、「GS121GB」)にて20mm~30mm程度まで破砕し、フラットダイ式ペレタイザー(新興工機社製、「バイオマスペレット製造機S-60」)にて直径6mm×長さ20mm程度、JIS Z7302-9に準拠して測定されるかさ密度0.67g/cm3の杉ペレット原料を準備した。
【0050】
次いで、杉ペレット原料12kgをキルン炉に投入し、窒素雰囲気下、昇温速度5℃/minにて850℃まで昇温した後30分間その温度にて保持し、3.14kgの杉ペレット炭化物を得た。
【0051】
次いで、得られた杉ペレット炭化物780gをキルン炉に投入し、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minにて850℃まで昇温した後、水蒸気12g/minを75分、炉内に流通させることによって水蒸気賦活を施し、520gの杉ペレット活性炭を得た。
【0052】
次いで、この杉ペレット活性炭を粉砕、分級し、粒径38μm以上75μm以下の範囲の粉末状の活性炭を得た。これを試料1の活性炭とした。
【0053】
-試料2の活性炭-
試料1の活性炭の作製において、水蒸気12g/minを100分、炉内に流通させることによって水蒸気賦活を施した点以外は同様にして、450gの杉ペレット活性炭を得た。これを試料2の活性炭とした。
・・・
【0057】
<各活性炭の物性>
上述したように、ガス吸着量測定装置(マイクロトラック・ベル社製、「BELSORP MAX 2」)を用い、吸着ガスをN2として各活性炭の吸着等温線を測定した。次いで、得られた各吸着等温線について、上述した通り、GCMC法による細孔解析により細孔径(W)0.6nm以下の累積細孔容積ΣVp(cm3/g)、BJH法による細孔解析により細孔径(dp)2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積ΣVp(cm3/g)を測定した。
・・・
【0064】
[図:0001423534000001.jpg]
」
ウ 本件発明1、3、4の実施可能要件について
本件発明1、3、4は物の発明であるので、上記ア(ア)の観点から検討する。
まず、上記イの【0017】には、本件発明の活性炭が「浄水器に用いられるもの」であることや、「浄水器カートリッジ」や「浄水器」での使用形態が開示されている。
また、同【0018】、【0021】、【0024】には、本件発明にて規定される「GCMC法による累積細孔容積」、「BJH法による累積細孔容積」、「充填密度」の測定手法が説明されている。
そして、同【0028】、【0030】、【0033】には、本件発明の活性炭は、「植物系バイオマスを原料とすることが好まし」く、「植物系バイオマスとしては、具体的には、樹木(木本)・・・などを例示することができ」、「上記樹木としては、より具体的には、杉などを例示することができ」、「杉は、賦活処理を多くしなくても、メソ細孔(相対的に大きな細孔)およびミクロ細孔(相対的に小さな細孔)が同時に形成されやす」く、「杉を原料に用いた場合には、上述したGCMC法による累積細孔容積、BJH法による累積細孔容積、および、充填密度の3つの要件を同時に満たす活性炭を得やすくなる」ことが開示されている。
また、同【0038】~【0041】には、本件発明の活性炭の製造方法として、「植物系バイオマスなどの原料を破砕、必要に応じてペレット化または圧縮加工」し、「活性炭の充填密度を上げられるように、原料の段階においてペレット化や圧縮加工により原料のかさ密度を上げてお」き、「次いで、上記準備した原料を炭化処理し、炭化物を得」、「炭化処理条件としては、例えば、炭化雰囲気:窒素雰囲気、炭化温度:700~900℃、炭化温度までの昇温速度:2~10℃/min、保持時間:5~60分などを例示することができ」、「次いで、上記炭化物を賦活処理し、活性炭を得」、「賦活処理条件としては、例えば、炭化雰囲気:窒素雰囲気、賦活温度:750~950℃、賦活剤:水蒸気、二酸化炭素、アルカリ剤など、賦活温度までの昇温速度:5~20℃/min、保持時間:10~900分などを例示することができ」ることが開示されている。
さらに、同【0049】~【0053】には、上述のとおり好ましい原料である「杉」を用いて、上述の条件に沿って「試料1」及び「試料2」を製造したことが開示され、同【0057】及び【0064】の表1のとおり、当該「試料1」及び「試料2」について上述のパラメータを測定したところ、本件発明の要件を満たすものであったことが開示されている。
以上からすれば、本件の発明の詳細な説明には、本件発明の活性炭を製造するために必要な原料及び一連の製造条件が、具体的な製造例を示しつつ開示されており、本件発明が規定するパラメータの測定手法や、本件発明の活性炭の使用形態も明らかにされているといえる。
したがって、本件発明1、3、4については、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているといえる。
エ 本件発明2の実施可能要件について
本件発明2は物を生産する方法の発明であるので、上記ア(イ)の観点で検討する。
上記イ及びウに示した記載内容からすれば、本件の発明の詳細な説明には、原料として植物系バイオマスを用いた上で本件発明の活性炭を製造するために必要となる、植物系バイオマスの種類や一連の製造条件が、具体的な製造例を示しつつ開示されているといえる。また、上記ウでも検討したとおり、本件の発明の詳細な説明では、本件発明の活性炭の使用形態も明らかにされているといえる。
したがって、本件発明2については、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用し、その方法により生産された物の使用等をすることができる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているといえる。
オ 特許異議申立書における申立人の主張について
上記ウ及びエで述べたとおり、本件発明1~4は実施可能要件を満たすものであるが、念のため、上記(1)の申立人の主張についても検討する。
(ア)上記(1)アについて
まず、物の発明についての実施可能要件の判断手法は上記(2)ア(ア)のとおりであって、請求項中に、原料や製造工程の条件といったその物の製造に関する事項を記載することが要求されるわけではない。
他方、申立人は、要するに、「杉以外の材料を原料とした場合には、その細孔分布や充填密度は当然に杉とは異なる」から、杉以外の材料を用いた際に、本件明細書の「杉を原料に製造された活性炭についての実証データ」をもとに決定された累積細孔容積及び充填密度を有する活性炭を製造できるとはいえず、実施可能要件を満たさない旨を主張している。
しかしながら、上記(2)ウで示したとおり、少なくとも杉を用いた場合には、本件発明の活性炭を実際に製造可能であることが開示されており、その製造条件も具体的に開示されているのであるから、本件発明は、発明の詳細な説明の開示内容に基づいて実施可能なものであるといえる。さらに、「杉以外の材料を原料とした場合には、その細孔分布や充填密度は当然に杉とは異なる」としても、通常、杉の近縁種等の原料から得られた活性炭は、杉から得られた活性炭と同等又は近似の細孔分布や充填密度を有することが想定され、活性炭製造にあたって杉だけが近縁種等とも全く異なる特異な原料であるとは想定し難い一方、このような想定に反して、杉以外では上述の累積細孔容積及び充填密度を得ることが不可能であると判断できるほどの証拠はない。
そして、上記(2)イの本件明細書【0030】、【0039】~【0041】のとおり、本件の発明の詳細な説明では、杉以外に採用され得る原料の種類が複数例示された上で、製造工程上で調整すべき条件が説明されているのであるから、杉以外の材料を用いて製造しようとする際に、過度な試行錯誤が要求されるとまではいえない。
(イ)上記(1)イについて
本件発明1における「GCMC法による細孔解析により求めた細孔径0.6nm以下の累積細孔容積」は、その下限値のみが規定されているものの、この規定は、当該下限値以上のあらゆる数値を無制限に包含するわけではなく、このパラメータに関して技術的に製造可能な範囲のうち、当該下限値以上の数値とすることを意図していると解するのが妥当である。
また、本件明細書【0007】において「活性炭の細孔容積を単純に増やす」と「活性炭の密度が下が」ることが記載されているように、「累積細孔容積」が増加すると「充填密度」は減少し、逆に、「充填密度」が増加すると「累積細孔容積」は減少する傾向となることを踏まえると、増減傾向が相反する「累積細孔容積」と「充填密度」の両方のパラメータの下限値が規定されている本件発明1においては、一方のパラメータが過剰に大きくなるような活性炭は包含されていないともいえる。
そのため、単に上記パラメータの上限値が規定されていないからといって、本件発明1が、1000cm3/gのような技術的に製造し得ない数値を包含するものであるとはいえない。
加えて、申立人は、本件明細書からすると、上記「累積細孔容積」に関し、「実験例」において実証された0.163~0.182cm3/g程度の活性炭しか製造できないと理解される旨を主張しているが、通常、原料を近縁種に変更したり、製造条件を調整することにより、活性炭の細孔構造を調整することは可能であると想定される一方、そのような想定に反して、「実験例」と同じ0.163~0.182cm3/g程度しか製造できないと判断できるほどの根拠はない。
そして、本件の発明の詳細な説明には、採用され得る原料の種類が複数例示された上で、製造工程上で調整すべき条件が説明されていることを踏まえると、当業者であれば、発明の詳細な説明の開示内容に基づき、具体的に開示された製造条件の一部等を調整することにより、当該細孔容積が上記下限値以上の適宜の範囲である活性炭を製造し得ることを認識できるといえる。
(ウ)上記(1)ウについて
申立人は、本件発明1に包含される、「BJH法による細孔解析により求めた細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積が0.050cm3/g」である活性炭のクロロホルム吸着特性が劣ることを、実施可能要件違反の根拠として挙げているが、当該特性が劣るか否かは、「累積細孔容積」として0.050cm3/g程度を採用した活性炭の製造可否や使用可否と直接的に関係する事項ではない。
そして、本件の発明の詳細な説明には、原料の種類や製造条件の開示に加えて、「累積細孔容積」が最低0.068cm3/gである本件発明の具体例が開示されていることも踏まえると、当業者であれば、発明の詳細な説明の開示内容に基づき、具体的に開示された製造条件の一部等を調整することにより、当該細孔容積の活性炭を製造し得ることを認識できるといえる。
(エ)上記(1)エについて
本件発明1において、「充填密度」は、その下限値のみが規定されているものの、上記(イ)と同じく、このパラメータに関して技術的に製造可能な範囲のうち、当該下限値以上の数値とすることを意図していると解するのが妥当であり、また、増減傾向が相反する「累積細孔容積」と「充填密度」の両方のパラメータの下限値が規定されている本件発明1においては、一方のパラメータが過剰に大きくなるような活性炭は包含されていないともいえる。
そのため、単に上記パラメータの上限値が規定されていないからといって、本件発明1が、1000g/cm3のような技術的に製造し得ない数値を包含するものであるとはいえない。
加えて、申立人は、本件明細書からすると、上記充填密度に関し、「実験例」において実証された「実験例」において実証されている0.436~0.655g/cm3程度の活性炭しか製造できないと理解される旨を主張しているが、通常、原料を近縁種に変更したり、製造条件を調整することにより、活性炭の密度を調整することはできると想定されるところ、そのような想定に反して、「実験例」と同じ0.436~0.655g/cm3程度しか製造できないと判断できるほどの根拠はない。
また、申立人は、「実験例」において充填密度が0.655g/cm3である「試料2C」のクロロホルム吸着特性が劣ることも、実施可能要件違反の根拠として挙げているが、上記(ウ)での判断と同様に、当該特性が劣るか否かは、充填密度として0.655g/cm3程度を採用した活性炭の製造可否や使用可否と直接的に関係する事項ではなく、実施可能要件違反の根拠とできるものではない。
そして、本件の発明の詳細な説明には、原料の種類や製造条件の開示に加えて、充填密度が最大0.594g/cm3である本件発明の具体例が開示されていることも踏まえると、当業者であれば、発明の詳細な説明の開示内容に基づき、具体的に開示された製造条件の一部等を調整することにより、充填密度が上記下限値以上の適宜の範囲である活性炭を製造し得ることを認識できるといえる。
(オ)上記(1)オについて
まず、本件発明2は、「請求項1に記載の活性炭の製造方法であって」と特定されるように、本件発明1の活性炭を製造する方法の発明であり、当該活性炭を製造できないような方法は、そもそも本件発明2に包含されていない。そして、上記エでも述べたとおり、発明の詳細な説明には、原料として植物系バイオマスを用いた上で本件発明1の活性炭を製造するために必要となる、植物系バイオマスの種類や一連の製造条件が、具体的な製造例を示しつつ開示されているから、当該活性炭を製造する方法である本件発明2は、発明の詳細な説明の開示内容に基づいて実施可能な発明であるといえる。
他方、申立人は、本件明細書において「ヤシ殻を原料とする活性炭は、ヤシ殻の特徴であるミクロ細孔主体の活性炭となる」と説明されていることと、ヤシ殻原料の活性炭である「試料3C」の細孔径2.0nm以上200nmにおける累積細孔容積が0.046cm3/gと小さいことを指摘し、「植物系バイオマスであるヤシ殻を使用して本件発明の活性炭を得られないことは明らか」と主張している。しかしながら、ヤシ殻を原料とするとミクロ細孔主体となりやすい傾向があるとしても、上記(イ)でも述べたように、製造条件を調整することにより、活性炭の細孔構造を調整することは可能であると想定されるから、単に上記「試料3C」の細孔容積が本件発明の規定範囲外だからといって、上述の想定に反し、ヤシ殻を原料とする場合は本件発明の活性炭を得られないことが明らかであるとは判断できない。
また、申立人は、特定の原料(杉)を使用しつつも、水蒸気の流通時間を所定範囲内としない活性炭である「試料1C」又は「試料2C」のクロロホルム吸着特性が劣ることを根拠として、本件発明2についての実施可能要件違反を主張している。しかしながら、「試料1C」又は「試料2C」は、そもそも本件発明1の活性炭に該当しないものであり、本件発明1に該当しない活性炭の特性が劣るからといって、本件発明1の製造方法である本件発明2が実施できないということにはならない。
加えて、上記(1)アでの主張と同じく、申立人は、「杉以外の材料を原料とした場合には、その細孔分布や充填密度は当然に杉とは異なる」から、杉以外の材料を用いると、本件明細書の「杉を原料に製造された活性炭についての実証データ」をもとに決定された累積細孔容積及び充填密度を有する活性炭を製造できるとはいえず、実施可能要件を満たさない旨を主張している。しかしながら、上記(ア)でも述べたとおり、本件発明1は、少なくとも杉を原料とすれば、発明の詳細な説明の記載に基づいて製造可能であるといえるし、杉以外の材料を用いて製造しようとする際にも、過度な試行錯誤が要求されるとまではいえない。
(3)申立理由1に関するまとめ
以上のとおり、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、申立理由1には、理由がない。
2 申立理由2(サポート要件違反)について
(1)申立理由2の内容
ア 本件発明1の活性炭は、その原料が特定されていない。
一方、上記1(1)アにも示した本件明細書の記載からすれば、杉以外の材料を原料とした場合には、その細孔分布や充填密度は当然に杉とは異なるので、GCMC法及びBJH法による細孔解析により求めた特定の細孔径の累積細孔容積、充填密度の適正範囲も当然に変わるはずである。つまり、杉を原料に製造された活性炭について最適化されたGCMC法及びBJH法による細孔解析により求めた特定の細孔径の累積細孔容積、充填密度を、原料の限定無く活用できると判断することは妥当ではない。
そうすると、活性炭の原料が杉であることを特定しない本件発明1~4は、本件発明の課題を解決するものでない。
イ 本件発明1は、「GCMC法による細孔解析により求めた細孔径0.6nm以下の累積細孔容積」の上限値を特定しておらず、1000cm3/g等のように当該累積細孔容積が非常に大きい活性炭も包含している。
しかしながら、本件明細書の「実験例」から、GCMC法による細孔解析により求めた細孔径0.6nm以下の累積細孔容積は、原料によってある程度限定されることが理解できる。このため、本件明細書からは、「実験例」において実証されている0.163~0.182cm3/gの活性炭しか製造できないことが理解できる。
そうすると、1000cm3/g等のように当該累積細孔容積が非常に大きい活性炭までも包含する本件発明1~4は、本件発明の課題を解決するものでない。
ウ 本件発明1は、「BJH法による細孔解析により求めた細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積が0.050cm3/g」であるものを包含している。
一方、【0049】~【0070】の「実験例」における「試料2C」及び「試料1」の当該累積細孔容積及びクロロホルム通水量の数値に基づき、両パラメータが線形関係にあると仮定して、当該累積細孔容積が0.050cm3/gでのクロロホルム通水量を計算すると、比較例であるヤシ殻原料の活性炭よりも劣る数値となる。
そのため、「BJH法による細孔解析により求めた細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積が0.050cm3/g」であるものを包含する本件発明1~4は、本件発明の課題を解決するものでない。
エ 本件発明1は、「充填密度」の上限値を特定しておらず、1000g/cm3等のように充填密度が非常に大きい活性炭も包含している。
しかしながら、本件明細書の「実験例」から、充填密度は一定程度の範囲内(0.436~0.655g/cm3)に集約されることが理解できる。このため、本件明細書から、「実験例」において実証されている0.436~0.655g/cm3程度の活性炭しか製造できないことが理解できる。
また、「実験例」において充填密度が0.655g/cm3である「試料2C」は、クロロホルム通水量が小さいため、充填密度0.655g/cm3程度では、課題を解決できないことが実証されている。
そうすると、1000g/cm3等のように充填密度が非常に大きい活性炭までも包含する本件発明1~4によって、本件発明の課題が解決できるとはいえない。
オ 本件発明2は、ヤシ殻等、杉以外の「植物系バイオマス」を原料に用いるものを包含しており、また、どのような製造工程を経るかは関係ないものとなっている。
しかしながら、上記1(1)オにも示した本件明細書の記載からすれば、植物系バイオマスであるヤシ殻を使用して本件発明の活性炭を得られないことは明らかであり、また、特定の原料(杉)を使用し、水蒸気の流通時間を最適化しなければ、本件発明の課題を解決できないことが理解できる。
しかも、(上記アでも述べたとおり)杉以外の材料を原料とした場合には、その細孔分布や充填密度は当然に杉とは異なるので、杉を原料に製造された活性炭について最適化されたGCMC法及びBJH法による細孔解析により求めた特定の細孔径の累積細孔容積、充填密度を有する活性炭を製造するために、植物系バイオマスであれば広く活用できると判断することは妥当ではない。
そうすると、活性炭の原料が杉であること及び水蒸気の流通時間を特定しない本件発明2は、本件発明の課題を解決するものでない。
(2)申立理由2についての検討
ア サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、単に、特許請求の範囲の記載に包含される事項の広狭によって判断されるものでなく、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が本件特許の出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。以下、この観点により検討する。
イ 本件発明の課題と当該課題に対応する発明の詳細な説明の記載
(ア)発明の詳細な説明には、【発明が解決しようとする課題】として、以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水道水に含まれるトリハロメタンのうちクロロホルムは、存在比率が比較的高い物質であるものの、活性炭に特に吸着し難い。そのため、従来一般的に知られる活性炭は、通水下においてクロロホルムを十分に吸着除去することができない。また、近年、浄水器は省スペース化される傾向にあり、これに伴い、浄水器カートリッジの容量など、活性炭が充填される空間の容量は小さく限定されてきている。以上の観点から、浄水器に用いられる活性炭には、活性炭単位容量当たりで見て、通水下でのクロロホルム吸着量を向上させることが重要になる。これを実現できれば、少ない活性炭容量でクロロホルムを吸着除去することが可能になるためである。
・・・
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、活性炭単位容量当たりで見て、通水下でのクロロホルムの吸着量を向上させることが可能な活性炭、また、これを用いた浄水器カートリッジ、浄水器を提供しようとするものである。」
以上の記載からすれば、本件発明の課題は、「水道水に含まれるトリハロメタンのうちクロロホルムは、存在比率が比較的高い物質であるものの、活性炭に特に吸着し難」く、「また、近年、浄水器は省スペース化される傾向にあり、これに伴い、浄水器カートリッジの容量など、活性炭が充填される空間の容量は小さく限定されてきている」ことに鑑み、「活性炭単位容量当たりで見て、通水下でのクロロホルムの吸着量を向上させることが可能な活性炭、また、これを用いた浄水器カートリッジ、浄水器」を提供することである。
(イ)発明の詳細な説明には、【課題を解決するための手段】として、以下の記載がある。
「【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、
浄水器用の活性炭であって、
吸着ガスをN2として作成した吸着等温線についてGCMC法による細孔解析により求めた細孔径0.6nm以下の累積細孔容積が0.165cm3/g以上であり、
吸着ガスをN2として作成した吸着等温線についてBJH法による細孔解析により求めた細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積が0.050cm3/g以上0.120cm3/g以下であり、
充填密度が0.500g/cm3以上である、
活性炭にある。
本発明の他の態様は、
前記活性炭の製造方法であって、
植物系バイオマスを原料に用いる、
活性炭の製造方法にある。」
さらに、発明の詳細な説明には、上記「GCMC法による細孔解析により求めた細孔径0.6nm以下の累積細孔容積」、「BJH法による細孔解析により求めた細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積」、「充填密度」という3つのパラメータに関して、以下のとおり説明されている。
「【0019】
細孔径0.6nm以下、好ましくは、細孔径0.59nm以下、より好ましくは、細孔径0.58nm以下の細孔は、クロロホルム吸着に有効なミクロ細孔である。細孔径0.6nm以下の累積細孔容積が0.165cm3/g未満になると、クロロホルム吸着に有効な細孔径0.6nm以下の細孔容積が十分ではなくなり、定容通水下におけるクロロホルム吸着量が低下する。細孔径0.6nm以下の累積細孔容積は、好ましくは、0.167cm3/g以上、より好ましくは、0.170cm3/g以上、さらに好ましくは、0.171cm3/g以上、さらにより好ましくは、0.172cm3/g以上、さらにより一層好ましくは、0.173cm3/g以上であるとよい。なお、細孔径0.6nm以下の累積細孔容積の上限は、活性炭の充填密度の低下抑制や構造体の強度の確保などの観点から、例えば、0.2cm3/g以下とすることができる。
・・・
【0022】
BJH法による累積細孔容積は、通水下でのクロロホルムの吸着(動的吸着)に対して重要な指標である。BJH法による累積細孔容積が0.050cm3/g未満になると、定容カラム通水下におけるクロロホルム吸着量が小さくなり、活性炭単位容量当たりで見た、通水下でのクロロホルムの吸着量を向上させることが困難になる。BJH法による累積細孔容積は、好ましくは、0.055cm3/g以上、より好ましくは、0.060cm3/g以上、さらに好ましくは、0.065cm3/g以上であるとよい。また、BJH法による累積細孔容積の上限は、活性炭の充填密度の低下抑制、構造体の強度確保などの観点から、0.120cm3/g以下とされる。BJH法による累積細孔容積の上限は、好ましくは、0.110cm3/g以下、より好ましくは、0.100cm3/g以下、さらに好ましくは、0.090cm3/g以下、さらにより好ましくは、0.080cm3/g以下であるとよい。
・・・
【0024】
本実施形態の活性炭は、充填密度が0.500g/cm3以上とされる。本実施形態の活性炭において、充填密度は、活性炭が充填される空間容量が制限される浄水器カートリッジ、浄水器において、より少ない活性炭容量でクロロホルムを吸着除去するために重要な物性である。上記充填密度は、当該活性炭を分級して採取した粒径38μm以上75μm以下の粒径範囲のサンプル粉についてJIS K1474 7.8.5 粉末用充填法に準拠して測定される充填密度である。但し、最初から粒径38μm以上75μm以下の粒径範囲にある活性炭の場合には、上記分級は不要とすることができる。なお、上記粒径範囲を粒径38μm以上75μm以下とした理由は、浄水器分野において活性炭仕様として浄水器メーカーにより求められることが多い粒径範囲に合わせたためである。
・・・
【0026】
本発明者らは、活性炭において、クロロホルム吸着に適切な細孔分布を試行錯誤した結果、細孔径0.6nm以下の細孔容積が活性炭単位容量当たりのクロロホルム吸着量向上に寄与し、メソ細孔の細孔容積が一定容量以上あることによって動的吸着下でも活性炭単位容量当たりのクロロホルム吸着性能を十分に発揮することができることを知見した。そして、本発明者らは、最初からかさ密度が高い原料や、ペレット化や圧縮加工などによりかさ密度を上げられる原料を種々検討することにより、浄水器用のクロロホルム吸着活性炭として適切な細孔分布と充填密度の高い活性炭を見出したものである。」
さらに、上記1(2)イの【0064】の表1によれば、上記「GCMC法による細孔解析により求めた細孔径0.6nm以下の累積細孔容積」、「BJH法による細孔解析により求めた細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積」、「充填密度」という3つのパラメータを所定範囲内とした活性炭の製造例である「試料1」及び「試料2」は、定容カラム通水下におけるクロロホルム吸着量が大きく、上記(ア)の課題を解決できるものであることが把握できる。
以上の記載からすれば、上記(ア)の課題を解決する上では、定容カラム通水下におけるクロロホルム吸着量を向上させるために、「GCMC法による細孔解析により求めた細孔径0.6nm以下の累積細孔容積」を「0.165cm3/g以上」とし、定容カラム通水下でのクロロホルムの吸着量を向上させるとともに充填密度の低下抑制のために、「BJH法による細孔解析により求めた細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積」を「0.050cm3/g以上0.120cm3/g以下」とし、活性炭が充填される空間容量が制限される浄水器カートリッジ、浄水器において、より少ない活性炭容量でクロロホルムを吸着除去するために「充填密度」を「0.500g/cm3以上」とすることが肝要であるといえる。
ウ 発明の詳細な説明の記載と特許請求の範囲の記載の対比
上記イ(イ)のとおり、発明の詳細な説明の記載からすれば、本件発明の課題を解決するためには、活性炭において、「GCMC法による細孔解析により求めた細孔径0.6nm以下の累積細孔容積」を「0.165cm3/g以上」とし、「BJH法による細孔解析により求めた細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積」を「0.050cm3/g以上0.120cm3/g以下」とし、「充填密度」を「0.500g/cm3以上」とすることが肝要である。
一方、本件請求項1には、
「吸着ガスをN2として作成した吸着等温線についてGCMC法による細孔解析により求めた細孔径0.6nm以下の累積細孔容積が0.165cm3/g以上であり、
吸着ガスをN2として作成した吸着等温線についてBJH法による細孔解析により求めた細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積が0.050cm3/g以上0.120cm3/g以下であり、
充填密度が0.500g/cm3以上である」
と記載されているところ、本件発明1においては、本件発明の課題を解決するために必要な3つのパラメータが規定されているといえる。
そうすると、特許請求の範囲に記載される本件発明1は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決可能であると認識できる範囲のものであり、サポート要件を満たすものといえる。
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~4についても、事情は同じである。
エ 特許異議申立書における申立人の主張について
上記ウのとおり、本件発明はサポート要件を満たすものといえるが、念のため、上記(1)の申立理由2の内容についても検討する。
(ア)上記(1)ア及びオについて
上記イ(イ)で検討したとおり、発明の詳細な説明の記載からすると、上記3つのパラメータを調整することが、本件発明の課題を解決する上で肝要であることが理解でき、これらの活性炭の細孔構造に関係するパラメータの調整が肝要であるということは、活性炭の細孔構造が吸着性能に大きく関与するという本分野の技術常識とも整合している。
以上を踏まえると、申立人が主張するように「杉以外の材料を原料とした場合には、その細孔分布や充填密度は当然に杉とは異なる」としても、原料を杉とすることや、賦活処理中の水蒸気の流通条件を調整することは、あくまで、上述のパラメータが所定範囲内である活性炭を製造する際に採用することが好ましい事項であって、申立理由1についての上記1(2)オ(ア)及び(オ)でも述べたとおり、杉以外の原料から上述のパラメータが所定範囲内にある活性炭を製造することが不可能であると判断することはできないし、また、本件発明の課題を解決する上で肝要な上記3つのパラメータの調整だけでなく、さらに原料の種類や水蒸気の流通条件を規定しなければ、要求される吸着性能を得られないという事情も見当たらない。
(イ)上記(1)イ及びエについて
申立理由1についての上記1(2)オ(イ)及び(エ)で検討したとおり、「GCMC法による細孔解析により求めた細孔径0.6nm以下の累積細孔容積」及び「充填密度」の両パラメータに関し、本件発明1は、1000cm3/g又は1000g/cm3のような、技術的に製造し得ない数値を包含するものであるとはいえず、また、その数値が、「実験例」と同じ範囲でしか実現できないというものでもない。
また、申立人は、「実験例」において充填密度が0.655g/cm3である「試料2C」を根拠として、「充填密度0.655g/cm3程度では、課題を解決できないことが実証されている」と主張しているが、「試料2C」は、「細孔径0.6nm以下の累積細孔容積」及び「細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積」が本件発明の規定を満たさないものであり、「試料2C」の特性が劣るのは、むしろ、これらの細孔容積に起因するものと解されるから、「試料2C」の細孔容積を無視して、「充填密度0.655g/cm3程度では、課題を解決できないことが実証されている」とは判断できない。
そして、上記イ(イ)で検討したとおり、本件発明の課題を解決するためには、「細孔径0.6nm以下の累積細孔容積」及び「充填密度」を所定下限値以上とするとともに、「細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積」を所定の数値範囲内とすることが肝要であるところ、本件発明1は、これらの3つのパラメータが規定されているため、本件発明の課題を解決することができ、サポート要件を満たすものといえる。
(ウ)上記(1)ウについて
申立人は、「BJH法による細孔解析により求めた細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積」と「クロロホルム通水量」が単純な線形関係にあると仮定した上で、「試料2C」の当該累積細孔容積のみを変化させたときのクロロホルム通水量を計算している。
しかし、「試料2C」は、上記累積細孔容積に加え、「GCMC法による細孔解析により求めた細孔径0.6nm以下の累積細孔容積」も本件発明の規定を満足しないものであり、上記イ(イ)で検討したとおり、本件発明の課題を解決するためには、3つのパラメータを調整することが肝要であるところ、上述のように、「BJH法による細孔解析により求めた細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積」のみに着目した単純な線形関係を仮定してクロロホルム通水量を計算することが妥当であるとはいえず、そのような計算値を根拠にしてサポート要件を満たすかどうかを判断することはできない。
(3)申立理由2に関するまとめ
以上のとおり、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、申立理由2には、理由がない。
3 申立理由3(進歩性)について
(1) 甲各号証の記載内容
申立理由3において主たる証拠とされる甲1、2、9~12の記載事項及び同証拠に記載された発明は、以下のとおりである。なお、甲各号証の摘記中の下線は当審にて付したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。
ア 甲1について
(ア) 甲1の記載事項
甲1には、以下の記載がある。
a 「【請求項1】
1,1,1-トリクロロエタンの平衡吸着量が20mg/g以上であり、且つ細孔径20Å超300Å以下の細孔容積が0.04cm3/g以上であることを特徴とする吸着性能に優れた活性炭。」
b 「【0020】
本発明の活性炭は、1,1,1-トリクロロエタンの吸着量向上に寄与するミクロ孔の細孔容積、および、1,1,1-トリクロロエタンの拡散速度向上に寄与するメソ孔のうち、細孔径20Å超300Å以下の細孔容積(以下、「細孔径20~300Åの細孔容積」ということがある)を厳密に制御することで、1,1,1-トリクロロエタンに対する平衡吸着量、および通水条件下での吸着性能、すなわち、通水量を向上できる。
・・・
【0021】
1,1,1-トリクロロエタンはミクロ孔に吸着されるが、1,1,1-トリクロロエタンの吸着量を増大させるには、ミクロ孔のうち、1,1,1-トリクロロエタンの分子サイズに適した細孔径を多く有していることが望ましい。本発明では1,1,1-トリクロロエタンの吸着に好適な細孔径を示す指標として、平衡吸着量を用いる。1,1,1-トリクロロエタンに対する十分な吸着量として、実施例の平衡試験における1,1,1-トリクロロエタンに対する平衡吸着量が少なくとも20mg/g以上、好ましくは25mg/g以上、より好ましくは30mg/g以上、更に好ましくは35mg/g以上である。平衡吸着量が多い程、吸着量が向上するため望ましく、上限は特に限定されない。
【0022】
また本発明の活性炭は、細孔径20~300Åの細孔容積が、0.04cm3/g以上である。細孔径20~300Åの細孔容積を増大させると、通水条件下において1,1,1-トリクロロエタンとミクロ孔の接触効率を向上できる。細孔径20~300Åの細孔容積は大きいほど好ましく、0.04cm3/g以上、好ましくは0.05cm3/g以上、更に好ましくは0.10cm3/g以上である。
【0023】
一方、細孔径20~300Åの細孔容積が大きすぎると、活性炭の密度が低くなり、限られた空間に充てんするとき必要量を充てんできないことがある。したがって細孔径20~300Åの細孔容積は、好ましくは2.0cm3/g以下、より好ましくは1.0cm3/g以下である。
【0024】
上記所定の平衡吸着量と上記所定の細孔径の 細孔容積を満足する本発明の活性炭は、活性炭内での1,1,1-トリクロロエタンの拡散、移動が速くなり、かつ、吸着サイトも効率良く利用できる。その結果、通水量が増大し、通水条件下で1,1,1-トリクロロエタンに対する優れた吸着性能を発揮する。
・・・
【0035】
本発明の活性炭は、1,1,1-トリクロロエタンの吸着性能に優れているが、被吸着物質は1,1,1-トリクロロエタンに限定されず、クロロホルム等のトリハロメタン化合物などに対しても優れた吸着性能を有する。
【0036】
また本発明の活性炭は、通水条件下での1,1,1-トリクロロエタン除去用活性炭として好適であり、後記実施例の通水試験に基づく1,1,1-トリクロロエタンの除去率80%以上を維持できる通水量は、好ましくは50L/g以上、より好ましくは60L/g以上、更に好ましくは70L/g以上、より更に好ましくは80L/g以上である。本発明の活性炭は例えば浄水器用活性炭として有用である。
・・・
【0038】
今まで1,1,1-トリクロロエタンの吸着量に影響を及ぼすミクロ孔を十分に確保しつつ、1,1,1-トリクロロエタンの拡散速度向上に寄与するメソ孔の形成をコントロールする製造方法は知られていなかった。本発明者らが研究を重ねた結果、フェノール樹脂炭化物を水蒸気賦活する際、またはフェノール樹脂から得られる活性炭(すなわちフェノール樹脂炭化物を1回以上賦活したもの)を水蒸気賦活する際に、これら水蒸気賦活原料(フェノール樹脂炭化物、またはその賦活物)にカルシウム化合物、およびカリウム化合物の少なくとも一方(以下、「カルシウム化合物等」という)を添着させておけばよいことを見いだした。水蒸気賦活する際、水蒸気賦活原料にカルシウム化合物等を添着させておくことで、ミクロ孔を残しつつ、メソ孔を発達させることができる。なおカルシウム化合物等を添着させるタイミングは特に限定されず、カルシウム化合物の添着状態が維持される限り、フェノール樹脂から水蒸気賦活原料を得るまでの任意の段階で添着できる。」
c 「【実施例】
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0061】
活性炭No.1
炭素原料としてフェノール樹脂繊維(平均繊維径14μm、平均繊維長70mm)を室温に保持した塩化カルシウム(CaCl2)水溶液に浸漬した後、110℃で乾燥させて、カルシウム化合物が添着したフェノール樹脂繊維を得た(カルシウム添着後のフェノール樹脂繊維に対するカルシウム添着量は0.5質量%)。次いでカルシウム化合物の添着状態を維持したまま、フェノール樹脂繊維を窒素雰囲気下、600℃で炭化処理した。炭化処理後、加熱炉で窒素雰囲気下、900℃で10分間保持して水蒸気賦活処理(水蒸気分圧:70kPa)を行って、活性炭No.1を得た。
【0062】
活性炭No.2
水蒸気賦活後、酸洗浄処理(塩酸濃度5.25質量%)し、その後、加熱炉にて、窒素雰囲気下、750℃で2時間保持する熱処理を行った以外は、活性炭No.1と同様にして活性炭No.2を作製した。
【0063】
活性炭No.3、4
フェノール樹脂繊維を塩化カルシウム(CaCl2)水溶液に代えて塩化ナトリウム(NaCl)水溶液(No.3)、または塩化カリウム(KCl)水溶液(No.4)に浸漬し、水蒸気賦活時間を10分から5分に変更した以外は、活性炭No.1と同様にして活性炭No.3、4を作製した。
・・・
【0065】
活性炭No.6
フェノール樹脂繊維を600℃で炭化処理して得られたフェノール樹脂繊維炭化物と、アルカリ賦活剤として質量比(アルカリ賦活剤/フェノール樹脂炭化物)で0.8倍となるように水酸化カリウムを添加し、水150mLと共に十分に混合して混合物とした。次いでこの混合物を窒素気流中(1L/分)において、700℃まで加熱(昇温速度10℃/分)して2時間保持してアルカリ賦活処理を行った。アルカリ賦活して得られたフェノール樹脂繊維賦活物を室温に保持した塩化カルシウム(CaCl2)水溶液に浸漬した後、110℃で乾燥させて、カルシウム化合物が添着したフェノール樹脂繊維賦活物を得た。次いでカルシウム化合物の添着状態を維持したまま、該フェノール樹脂繊維賦活物を加熱炉で窒素雰囲気下、900℃で10分間保持して水蒸気賦活を行った(水蒸気分圧70kPa)。水蒸気賦活処理後、活性炭No.2と同様の酸洗浄処理、および熱処理を行って活性炭No.6を作製した。
・・・
【0072】
2.比表面積、全細孔容積
活性炭0.2gを250℃にて真空加熱した後、窒素吸着装置(マイクロメリティックス社製、「ASAP-2400」)を用いて、吸着等温線を求め、BET法により比表面積(m2/g)、相対圧P/P0(P:吸着平衡にある吸着質の気体圧力、P0:吸着温度における吸着質の飽和蒸気圧)が0.93における窒素吸着量から全細孔容積(Vtotal:cm3/g)を算出した。比表面積は表2の「比表面積(m2/g)」欄、全細孔容積(Vtotal:cm3/g)は表2の「全細孔容積(Vtotal:cm3/g)」欄に記載した。
【0073】
3.各細孔径の細孔容積
吸着等温線をBJH法により解析し、全細孔容積(Vtotal)の範囲における各細孔径の細孔容積を算出した。細孔容積は表2の「細孔容積(cm3/g)」欄に細孔径に応じて記載した。
【0074】
細孔径20Å以下の細孔容積(≦V20Å:cm3/g)=全細孔容積(Vtotal:cm3/g)-(細孔径20Å超300Å以下の細孔容積(V20-300Å:cm3/g)・・・(1)
【0075】
細孔径20Å超300Å以下の細孔容積(V20-300Å:cm3/g)=全細孔容積(Vtotal:cm3/g)-(細孔径20Å以下の細孔容積(≦V20Å:cm3/g))・・・(2)
・・・
【0083】
8.通水試験
活性炭0.15gをカラム(直径10mm)に充填し、JIS S 3201(2010年:家庭用浄水器試験法)に準じて通水試験を行った。具体的には1,1,1-トリクロロエタン濃度0.3±0.060mg/Lとなるように調整した原水を空間速度(SV)3000h-1でカラムに通過させた。カラム通過前後の1,1,1-トリクロロエタン濃度をヘッドスペースガスクロマトグラム法にて定量測定を行った。破過点をカラム流入水に対する流出水の1,1,1-トリクロロエタン濃度20%とし、破過点に達した時点の1,1,1-トリクロロエタン通水量(=[破過点までの総ろ過水量(L)/活性炭質量(g)])を算出し、ろ過性能とした。なお、ヘッドスペースはパーキンエルマー社製TurboMatrixHS、ガスクロマトグラム質量分析計は島津製作所社製QP2010を用いた。結果を表2の「通水量(L/g)」欄に記載した。また通水量と1,1,1-トリクロロエタン除去率の関係を図1に示した。
・・・
【0085】
【表2】
[図:0001423534000002.jpg]
【0086】
表1、2に示すように本発明の要件を満足する活性炭No.1、2、4、6は、平衡吸着量、通水量共に優れた結果を示した。また本発明の活性炭No.1、2、4、6は図2、3、4、6、8に示すように細孔径200~300Åの範囲に細孔径100Åのlog微分細孔容積値よりも高いピークを有していた。一方、本発明の要件を満足しなかった活性炭No.3、5、7~11は、通水量が劣っていた。また例えば図1に示すように、添着物としてカルシウム化合物やカリウム化合物を用いた場合(活性炭No.1、4)は、ナトリウム化合物を用いた場合(No.3)や何も添着させなかった場合(No.5)と比べて、通水条件下での1,1,1-トリクロロエタンに対する除去率に極めて優れていた。」
(イ)甲1に記載された発明
上記(ア)aの【請求項1】の末尾によれば、甲1には、「活性炭」に関する技術が記載されており、同bの【0036】によれば、甲1の「活性炭」は、「浄水器用活性炭」として用いられるものである。
そして、同cの【実施例】には、上記「活性炭」の具体例として、「活性炭No.1、2、4、6」を製造したことが記載されており、同cの【0072】~【0075】及び【表2】からすれば、当該具体例の活性炭について、「窒素吸着装置・・・を用いて、吸着等温線を求め、・・・相対圧P/P0(P:吸着平衡にある吸着質の気体圧力、P0:吸着温度における吸着質の飽和蒸気圧)が0.93における窒素吸着量から全細孔容積(Vtotal:cm3/g)を算出し」た結果、当該「全細孔容積」が「0.45」~「0.58」cm3/gであり、さらに、「吸着等温線をBJH法により解析し、全細孔容積(Vtotal)の範囲における各細孔径の細孔容積を算出し」た結果、「細孔径20Å以下の細孔容積(≦V20Å:cm3/g)」が「0.37」~「0.46」cm3/gであり、「細孔径20Å超300Å以下の細孔容積(V20-300Å:cm3/g)」が「0.05」~「0.12」cm3/gであることが読み取れる。
さらに、上記具体例の活性炭は、同bの【0038】に記載されているように、「フェノール樹脂炭化物を水蒸気賦活する際、またはフェノール樹脂から得られる活性炭(すなわちフェノール樹脂炭化物を1回以上賦活したもの)を水蒸気賦活する際に、これら水蒸気賦活原料(フェノール樹脂炭化物、またはその賦活物)にカルシウム化合物、およびカリウム化合物の少なくとも一方・・・を添着させて」得られたものである。
そうすると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。
「浄水器用活性炭であって、
窒素吸着装置を用いて、吸着等温線を求め、相対圧P/P0(P:吸着平衡にある吸着質の気体圧力、P0:吸着温度における吸着質の飽和蒸気圧)が0.93における窒素吸着量から全細孔容積(Vtotal:cm3/g)を算出した結果、当該全細孔容積が0.45~0.58cm3/gであり、
吸着等温線をBJH法により解析し、全細孔容積(Vtotal)の範囲における各細孔径の細孔容積を算出し、算出結果における細孔径20Å以下の細孔容積(≦V20Å:cm3/g)が0.37~0.46cm3/g、細孔径20Å超300Å以下の細孔容積(V20-300Å:cm3/g)が0.05~0.12cm3/gであり、
フェノール樹脂炭化物を水蒸気賦活する際、またはフェノール樹脂から得られる活性炭(すなわちフェノール樹脂炭化物を1回以上賦活したもの)を水蒸気賦活する際に、これら水蒸気賦活原料(フェノール樹脂炭化物、またはその賦活物)にカルシウム化合物、およびカリウム化合物の少なくとも一方を添着させて得られたものである、
活性炭。」
(以下、「甲1発明」という。)
イ 甲2の記載事項及び甲2に記載された発明
(ア)甲2の記載事項
甲2には、以下の記載がある。
a 「【請求項1】
比表面積を900~1100m2/gとし、
MP法による細孔分布の測定において、細孔直径0~2.0nmの細孔の全細孔容積に占める細孔直径0.6nm以下の細孔の総細孔容積を全細孔容積の40~45%とし、
DH法による細孔分布の測定において、細孔直径1~100nmの細孔の全細孔容積に占める細孔直径2.0nm以下の細孔の総細孔容積を全細孔容積の20~23%とし、
表面酸化物量を0.05~0.14meq/gとした活性炭からなる
ことを特徴とする浄水器用活性炭。」
b 「【0011】
請求項1の発明に係る浄水器用活性炭によると、比表面積を900~1100m2/gとし、MP法による細孔分布の測定において、細孔直径0~2.0nmの細孔の全細孔容積に占める細孔直径0.6nm以下の細孔の総細孔容積を全細孔容積の40~45%とし、DH法による細孔分布の測定において、細孔直径1~100nmの細孔の全細孔容積に占める細孔直径2.0nm以下の細孔の総細孔容積を全細孔容積の20~23%とし、表面酸化物量を0.05~0.14meq/gとした活性炭からなるため、既存の浄水器用活性炭として必要な濾過性能とともに、有機塩素系化合物の1,1,1-トリクロロエタン、クロロホルムの濾過能力を改善することができた。
【0012】
また、MP法及びDH法の解析領域を重複させることにより、活性炭に発達した大きさの異なる細孔容積の割合はより正確に把握でき、有機塩素系化合物の濾過性能の評価が容易となる。
・・・
【0018】
活性炭の原料としては、木材(廃材、間伐材、オガコ)、コーヒー豆の絞りかす、椰子殻、樹皮、果物の実等の原料がある。これらの天然物由来の原料は炭化、賦活により細孔が発達しやすくなる。また廃棄物等の二次的利用であるため安価に調達可能である。なお、後記の実施例では安定調達を加味して椰子殻を原料としている。
【0019】
椰子殻等の活性炭原料は中温(200℃ないし600℃)で加熱炭化されることにより微細孔が形成し、水蒸気等を用いて高温(600℃ないし1200℃)で賦活処理されることにより細孔が発達する。賦活後、自然冷却等の冷却を経ることにより出来上がる。
【0020】
一つ目に、当該活性炭の比表面積は900m2/gないし1100m2/gの範囲である。好ましくは950m2/gないし1050m2/gの範囲である。本明細書中、実施例の比表面積はいずれもBET法(Brunauer, Emmett & Teller法)による測定である。比表面積900m2/gを下回る場合、細孔容積が小さくなるため十分な吸着量を得ることができない。また、単一の活性炭により吸着できる物質種が限られることとなり好ましくない。比表面積1100m2/gを超える場合、細孔径が大きく広がり1,1,1-トリクロロエタンやクロロホルムの除去性能が著しく低下する。このことから前記の比表面積の範囲値が適切として導き出される。
【0021】
二つ目に、活性炭の細孔分布において、どのような直径の細孔がどれほど存在するのかにより、吸着対象の吸着効率が変動する。主に、吸着対象となる分子種の大きさ等の影響を受けると考えられる。そこで、既存の浄水器用活性炭よりも1,1,1-トリクロロエタンやクロロホルムの除去性能を高めるに際し、活性炭の細孔分布を適切に制御することが重要である。
【0022】
具体的に、MP法(Micropore法)による活性炭の細孔分布の解析において、細孔直径0.6nm以下の細孔の総細孔容積は、細孔直径0~2nmの細孔の全細孔容積の40%ないし45%の割合、好ましくは43%ないし44%の割合に規定される。MP法は一般に2nm以下の直径のミクロ細孔の分布解析を比較的容易に把握できることから、当該直径の細孔の解析に多く用いられる。細孔直径0.6nm以下の細孔は、例えばクロロホルム等の低分子量領域の分子種の吸着、濾過と関係する。そこで、全細孔容積に占める細孔直径0.6nm以下の細孔の容積を一定数以上に保つことにより、本発明が目的とする低分子の有機塩素系化合物の濾過性能をより向上させることができる。
【0023】
このように、MP法による細孔分布の解析において規定する前記の範囲値から上方側あるいは下方側に逸脱する場合、目的とする1,1,1-トリクロロエタンやクロロホルムの除去性能が大きく低下する。
【0024】
三つ目に、DH法(Dollimore-Heal法)による活性炭の細孔分布の解析において、細孔直径2.0nm以下の細孔の総細孔容積は、細孔直径1~100nmの細孔の全細孔容積の20ないし23%の割合に規定される。DH法は一般に2.0nmないし50.0nmの直径のメソ細孔の分布解析を比較的容易に把握できることから、当該直径の細孔の解析に多く用いられる。細孔直径2.0nm以下の細孔容積量も重ねて規定することにより、低分子量領域の分子種から吸着対象を広げた活性炭に設計することができる。
【0025】
DH法による細孔分布の解析においても前記の範囲値から上方側あるいは下方側に逸脱する場合も、MP法と同様に目的とするクロロホルムや1,1,1-トリクロロエタンの除去性能が大きく低下する。また、他の吸着成分の吸着力も低下して全体的な性能を押し下げることとなり好ましくない。
【0026】
活性炭の全細孔容積に占める所定の細孔直径以下の分布について、MP法及びDH法の解析領域を重複させることにより、活性炭に発達した大きさの異なる細孔の容積割合はより正確に把握される。しかも、容積割合を用いることによって、当該活性炭に存在する異なる細孔直径の存在量の均衡も比較的容易に制御できる。このことから、浄水器での利用を想定した活性炭にあっては、重要な指標である。MP法及びDH法については実施例にてさらに述べる。」
c 「【実施例】
【0034】
〔浄水器用活性炭の調製〕
発明者らは椰子殻を原料とし活性炭を調製した。原料の椰子殻(焼成された椰子殻も含まれる。)を800℃ないし900℃前後まで加熱して保持し、水蒸気を導入して賦活を進めた。賦活後、室温付近まで自然放冷した。冷却後、60~120meshの篩により篩別し、粒径約0.1mmないし0.3mmの実施例1,2,3,4、及び比較例1,2,3,4の浄水器用活性炭を得た。
【0035】
〔浄水器用活性炭の測定項目〕
浄水器用活性炭の物性、性能について次の項目を測定した。結果は表1及び表2である。具体的に、比表面積(m2/g)、全細孔容積(cc/g)、平均細孔直径(nm)、MP法による細孔直径0nmないし2.0nmの範囲の細孔の全細孔容積(cc/g)と細孔直径0.6nm以下の細孔容積(cc/g)、DH法による細孔直径1.0nmないし100nmの範囲の細孔の全細孔容積(cc/g)と細孔直径2.0nm以下の細孔容積(cc/g)、表面酸化物量(meq/g)、よう素吸着性能(mg/g)、充填密度(g/cc)、ベンゼン吸着力(%)、60~120meshの篩別残量(%)、1,1,1-トリクロロエタン濾過能力(L/cc)、クロロホルム濾過能力(L/cc)である。以下、詳細を述べる。
・・・
【0037】
全細孔容積(cc/g)は、細孔直径0.6nmないし100nmの範囲は、日本ベル株式会社製BELSORPminiを使用し、Gurvitschの法則を適用して相対圧0.953における窒素吸着量(V)を下記の数式(i)により液体窒素の体積(Vp)に換算して求めた。なお、数式(i)において、Mgは吸着質の分子量(窒素:28.020)、ρg(g/cm3)は吸着質の密度(窒素:0.808)である。
【0038】
【数1】
[図:0001423534000003.jpg]
・・・
【0041】
細孔径分布を表すパラメータdV/dDは、日本ベル株式会社製高精度全自動ガス吸着装置BELSORPminiを使用し、窒素吸着により測定した。細孔直径1nmないし100nmの範囲におけるdV/dDの値は、窒素ガスの吸着等温線からDH法によって解析した。DH法の解析結果から、細孔直径1nmないし100nmの範囲の細孔の全細孔容積(cc/g)と細孔直径2.0nm以下の細孔の総細孔容積を求めた。そして、細孔直径1nmないし100nmの範囲の全細孔容積に占める細孔直径2.0nm以下の細孔の総細孔容積の割合(%)を算出した。
【0042】
細孔直径0nmないし2.0nmの範囲におけるdV/dDの値は窒素ガスの吸着等温線のt-plotからMP法によって解析した。MP法の解析結果から、細孔直径0nmないし2.0nmの範囲の細孔の全細孔容積(cc/g)と細孔直径0.6nm以下の細孔の総細孔容積を求めた。そして、細孔直径0nmないし2.0nmの範囲の全細孔容積に占める細孔直径0.6nm以下の細孔の総細孔容積の割合(%)を算出した。
・・・
【0044】
よう素吸着性能(mg/g)、充填密度(g/cc)は、JIS K 1474(2007)に規定の活性炭試験方法に準拠して測定した。ベンゼン吸着力(%)はJIS K 1474(2007)に規定された溶剤蒸気の吸着性能の方法に準拠し、溶剤をベンゼンとして測定した。
・・・
【0046】
1,1,1-トリクロロエタン及びクロロホルムの濾過能力(L/cc)は、JIS S 3201(2010)に規定の家庭用浄水器試験方法に準拠し、以下の方法で測定した。
【0047】
処理水に対し、1,1,1-トリクロロエタンを0.300±0.060mg/L、クロロホルムを0.060±0.012mg/Lの濃度に調製し、2種類の試料水を用意した。そして、内径40mm、高さ100mmの円筒形カラム内に、実施例1ないし4、比較例1ないし4のそれぞれの活性炭を50ccずつ充填した。
【0048】
前記の2種類の試料水のそれぞれを20℃、SV値1200hr-1で活性炭充填カラムに通水した。活性炭充填カラムから流出した試料水を採取し、1,1,1-トリクロロエタンまたはクロロホルムの濃度をガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製,ガスクロマトグラフGC-2014)を用いて定量測定した。
【0049】
カラム通過前の試料水とカラムの活性炭層を通過した試料水を比較した。流入側試料水に対する流出側試料水の1,1,1-トリクロロエタンの水中濃度が20%以上となった点を同物質の破過点とした。また、流入側試料水に対する流出側試料水のクロロホルムの水中濃度が20%以上となった点を同物質の破過点とした。そして、破過点に達した点の総流出水量を当該活性炭の充填体積で割った値を吸着物質に対する濾過能力性能とした。
【0050】
【表1】
[図:0001423534000004.jpg]
」
(イ)甲2に記載された発明
上記(ア)aの【請求項1】の末尾によれば、甲2には、「浄水器用活性炭」に関する技術が記載されている。
そして、同cの【実施例】には、上記「浄水器用活性炭」の具体例として、「実施例1,2,3,4」を製造したことが記載されており、同cの【0037】、【0038】及び【表1】からすれば、当該具体例の活性炭について、「全細孔容積(cc/g)」を、「細孔直径0.6nmないし100nmの範囲」で、「Gurvitschの法則を適用して相対圧0.953における窒素吸着量(V)を下記の数式(i)により液体窒素の体積(Vp)に換算して求めた」結果、当該「全細孔容積(cc/g)」が「0.43」~「0.48」cc/gであることが読み取れる。
[図:0001423534000005.jpg]
また、同cの【0041】及び【表1】からすれば、上記具体例の活性炭について、「細孔径分布を表すパラメータdV/dD」を「窒素吸着により測定し」、「細孔直径1nmないし100nmの範囲におけるdV/dDの値」を、「窒素ガスの吸着等温線からDH法によって解析し」、「DH法の解析結果から、細孔直径1nmないし100nmの範囲の細孔の全細孔容積(cc/g)と細孔直径2.0nm以下の細孔の総細孔容積を求めた」結果、当該「細孔直径1nmないし100nmの範囲の細孔の全細孔容積(cc/g)」が「0.0998」~「0.1244」cc/gであり、当該「細孔直径2.0nm以下の細孔の総細孔容積」が「0.0204」~「0.0285」cc/gであることが読み取れる。ここで、当該「DH法」とは、同bの【0024】に示されるとおり、「Dollimore-Heal法」のことである。また、当該「細孔直径2.0nm以下の細孔の総細孔容積」は、上述のとおり「細孔直径1nmないし100nmの範囲におけるdV/dDの値」の解析から得られるのであるから、「細孔直径1nmないし」2.0nmの範囲の総細孔容積を表すものである。
さらに、同cの【0042】及び【表1】からすれば、上記具体例の活性炭について、「細孔直径0nmないし2.0nmの範囲におけるdV/dDの値」を「窒素ガスの吸着等温線のt-plotからMP法によって解析し」、「MP法の解析結果から、細孔直径0nmないし2.0nmの範囲の細孔の全細孔容積(cc/g)と細孔直径0.6nm以下の細孔の総細孔容積を求めた」結果、当該「細孔直径0nmないし2.0nmの範囲の細孔の全細孔容積(cc/g)」が「0.4110」~「0.4489」cc/gであり、当該「細孔直径0.6nm以下の細孔の総細孔容積」が「0.1802」~「0.1958」cc/gであることが読み取れる。ここで、当該「MP法」とは、同bの【0022】に示されるとおり、「Micropore法」のことである。また、当該「細孔直径0.6nm以下の細孔の総細孔容積」は、上述のとおり「細孔直径0nmないし2.0nmの範囲におけるdV/dDの値」の解析から得られるのであるから、「細孔直径0nmないし」0.6nmの範囲の総細孔容積を表すものである。
さらに、同cの【0044】及び【表1】からすれば、上記具体例の活性炭について、「充填密度(g/cc)」を「JIS K 1474(2007)に規定の活性炭試験方法に準拠して測定した」結果、当該「充填密度(g/cc)」が「0.53」~「0.55」g/ccであることが読み取れる。
加えて、上記具体例の活性炭は、同cの【0034】に記載されているように、「原料の椰子殻(焼成された椰子殻も含まれる。)を800℃ないし900℃前後まで加熱して保持し、水蒸気を導入して賦活を進め」、「賦活後、室温付近まで自然放冷し」、「冷却後、60~120meshの篩により篩別し」て得られたものである。
そして、1cc=1cm3であることを踏まえれば、甲2には、以下の発明が記載されているといえる。
「浄水器用活性炭であって、
全細孔容積を、細孔直径0.6nmないし100nmの範囲で、Gurvitschの法則を適用して相対圧0.953における窒素吸着量(V)を下記の数式(i)により液体窒素の体積(Vp)に換算して求めた結果、当該全細孔容積が0.43~0.48cm3/gであり、
[図:0001423534000006.jpg]
細孔径分布を表すパラメータdV/dDを窒素吸着により測定し、細孔直径1nmないし100nmの範囲におけるdV/dDの値を、窒素ガスの吸着等温線からDH法(Dollimore-Heal法)によって解析し、DH法の解析結果から、細孔直径1nmないし100nmの範囲の細孔の全細孔容積と細孔直径1nmないし2.0nm以下の細孔の総細孔容積を求めた結果、当該細孔直径1nmないし100nmの範囲の細孔の全細孔容積が0.0998~0.1244cm3/gであり、当該細孔直径1nmないし2.0nm以下の細孔の総細孔容積が0.0204~0.0285cm3/gであり、
細孔直径0nmないし2.0nmの範囲におけるdV/dDの値を窒素ガスの吸着等温線のt-plotからMP法(Micropore法)によって解析し、MP法の解析結果から、細孔直径0nmないし2.0nmの範囲の細孔の全細孔容積と細孔直径0nmないし0.6nm以下の細孔の総細孔容積を求めた結果、当該細孔直径0nmないし2.0nmの範囲の細孔の全細孔容積が0.4110~0.4489cm3/gであり、当該細孔直径0nmないし0.6nm以下の細孔の総細孔容積が0.1802~0.1958cm3/gであり、
充填密度をJIS K 1474(2007)に規定の活性炭試験方法に準拠して測定した結果、当該充填密度が0.53~0.55g/cm3であり、
原料の椰子殻(焼成された椰子殻も含まれる。)を800℃ないし900℃前後まで加熱して保持し、水蒸気を導入して賦活を進め、賦活後、室温付近まで自然放冷し、冷却後、60~120meshの篩により篩別して得られたものである、
活性炭。」
(以下、「甲2発明」という。)
ウ 甲9について
(ア)甲9の記載事項
甲9には、以下の記載がある。
a 「【請求項1】 排煙口が設けられた固定部に回転可能に接続された端部の一方から他方の端部に向けて内径が徐々に縮径され且つ内側に耐火コンクリート層が設けられた筒体と、
前記筒体の内径が最小となる最小径端部側の供給口に、木片等の炭化原料を連続的に供給する原料供給装置と、
前記筒体の外部に設けられ、筒体の内径が最大となる最大径端部方向に筒体内に供給された炭化原料が移動するように、筒体を回転する回転装置と、
前記固定部に設けられ、原料供給装置から供給されて移動する炭化原料が完全燃焼雰囲気下で燃焼するように、筒体の最小径端部方向に空気を強制送風する送風機と、
筒体の最大径端部に到達して筒体外に取り出された燃焼物を冷却・消火する取出部とを具備することを特徴とする連続炭化装置。」
b 「【0015】図1~図4に示す本実施例の炭化装置を使用して、カラマツ材、杉材、オガ粉を炭化原料に用いて炭化を行い、得られた炭化物の種々の分析を行った。その結果を下記表に示す。また、従来の充填式(バッチ式)で炭化を行って得られた炭化物の分析を行い、その結果も各表に併せて示す。尚、各表の上段が本実施例の炭化装置を使用して得られた炭化物の数値であり、下段が充填式で炭化を行って得られた炭化物の数値である。まず、得られた炭化物の工業分析値を表1に示す。
【0016】
【表1】
[図:0001423534000007.jpg]
【0017】表1から明らかな様に、本実施例において得られた炭化物は、充填式で得られた炭化物に比較して、揮発分が少ない。この様に揮発分の少ない炭化物は、活性炭の製造工程における賦活工程での処理が容易となるため、活性炭用原料として適している。次に、得られた炭化物の物性分析値を表2に示すと共に、組成分析値を表3に示す。
【0018】
【表2】
[図:0001423534000008.jpg]
【0019】
【表3】
[図:0001423534000009.jpg]
【0020】表2及び表3に示す様に、本実施例の炭化物は、充填式で得られた炭化物の値に比較して、同等乃至良好な値を示しているため、充填式で得られた炭化物と同様に、例えば農業用土壌改良材、緑化用資材、融雪材、建築床下材、濾過材として利用できる。また、揮発分が少ない利点を利用して活性炭に利用することができる。下記の表4に、表1~表3に示す本実施例の炭化物にガス賦活法(賦活条件:900℃、1時間)によって賦活して得られた活性炭の分析値を示す。
【0021】
【表4】
[図:0001423534000010.jpg]
【0022】表4に示すカラマツ材を炭化原料に用いて得られた活性炭のヨウ素吸着性能及びメチレンブルー脱色力は、椰子殻活性炭のヨウ素吸着性能及びメチレンブルー脱色力に対して1.2~1.5倍の値を示す良好な活性炭であった。
・・・
【0024】
【発明の効果】本発明によれば、従来、利用されなかった製材所から発生する木質片、木皮、オガ粉、山林管理等のために発生する間伐材等の不要木質材を有効利用することができ、森林資源の再利用を図ることができる。更に、本発明の炭化装置は、構造が簡単で且つ制御が容易であるため、装置の運転及び維持管理が容易である。しかも、炭化原料を完全燃焼雰囲気下で炭化するため、排煙処理装置を設置することを要せず、設備コストの低減を図ることができる。」
(イ)甲9に記載された発明
上記(ア)aの【請求項1】の末尾によれば、甲9には、「連続炭化装置」に関する技術が記載されている。
そして、同bの【0015】には、当該「連続炭化装置を使用して、・・・杉材・・・を炭化原料に用いて炭化を行い」、「炭化物」を得ることが記載されており、さらに、同bの【0020】には、上述のとおり得られた「炭化物」を「ガス賦活法(賦活条件:900℃、1時間)によって賦活して」「活性炭」を得ることが記載されている。
そうすると、上述の製法により得られた「活性炭」に着目すれば、甲9には、以下の発明が記載されているといえる。
「連続炭化装置を使用して、杉材を炭化原料に用いて炭化を行い、炭化物を得て、
当該炭化物をガス賦活法(賦活条件:900℃、1時間)によって賦活して得られた、
活性炭。」
(以下、「甲9発明」という。)
エ 甲10について
(ア)甲10の記載事項
甲10には、以下の記載がある。
a 「2. 原料の種類とその性状
水蒸気賦活法は,原料有機物の熱分解によつて生じた複雑な高沸点有機物が炭素中に残存してその活性を阻害するのでこれに高熱水蒸気を通じてこれらの有機物を炭素から分離すると共に,水蒸気による炭素の酸化によつて極めて多孔質で表面積の大きい無定形炭素を製造する方法である。従つて水蒸気賦活法による粉末活性炭製造の原料は木炭,椰子殻炭,素灰,亜炭業の植物質炭化物である。この場合同じ水蒸気賦活法であつても賦活炉の型式及び方法によつて原料に対する要求が異なるのはいうまでもない。こゝでは著者らが採用している賦活方式に対する原料についてのみ述べることにする。
現在は木炭を使用して生産中であるが木炭においても樹種,産地別,製炭方法等の条件によつて出来上り木炭の性状に相当の差異があり,従つて賦活においても相当の難易がある。樹種別,産地別の木炭とこれから製造した活性炭の脱色力との関係を示すと第1表のとおりである。
[図:0001423534000011.jpg]
」(第81ページ右欄~第82ページ左上表)
b 「4. 流動法による賦活法
・・・
小実験的外熱式賦活装置を使用して松炭(4~15mesh)を水蒸気賦活した場合を例示して内燃式水蒸気賦活の場合と比較検討すると,製品の歩留,メチレン青脱色力,カラメル液脱色力等の相互関係は第1図のようになる(試験方法はJIS規格粉末活性炭試験法による)。いずれの場合も賦活時間の延長に伴い歩留は減少し,歩留の減少に伴い脱色力は上昇するが特に900℃,950℃のような高温賦活においてこの傾向が顕著である。これによると950℃で30分間水蒸気賦活すると歩留25%でメチレン青脱色力13cc,カラメル液脱色力94%の活性炭が得られる。
[図:0001423534000012.jpg]
」(第82ページ右欄~第83ページ左欄及び右上図)
c 「5. 化学処理による製品化と製品の性状
粉末活性炭の用途は広範囲に亘つており,また各用途に応じて製品に対する要求が異なる。粉末活性炭の用途の中主要なものを挙げると製飴,酒造,医薬,精糖その他である。・・・」(第84ページ右欄)
(イ)甲10に記載された発明
上記(ア)bの記載によれば、甲10には、「小実験的外熱式賦活装置を使用して松炭(4~15mesh)を水蒸気賦活した」ことが記載されており、同bの「第1図」の表題「実験室的外熱式賦活装置による活性炭の賦活時間,脱色力と歩留りの関係」から明らかなとおり、当該「水蒸気賦活」によって「活性炭」を得られたことが把握できる。
そして、同「第1図」には、上述の例において採用された各賦活条件における「製品の歩留,メチレン青脱色力,カラメル液脱色力等の相互関係」が記載されており、「第1図」上部にある凡例「□」及び「-・-」で表された折れ線から、上記「水蒸気賦活」の条件の1つとして、850℃及び80分を採用したことが読み取れる。
さらに、上記(ア)cの記載によれば、活性炭の用途として、「製飴,酒造,医薬,精糖その他」が想定されている。
そうすると、当該条件により得られた活性炭に着目すれば、甲10には、以下の発明が記載されているといえる。
「製飴,酒造,医薬,精糖その他に使用される活性炭であって、
小実験的外熱式賦活装置を使用して松炭(4~15mesh)を水蒸気賦活して得られ、
水蒸気賦活の条件が850℃及び80分である、
活性炭。」
(以下、「甲10発明」という。)
オ 甲11について
(ア)甲11の記載事項
甲11には、以下の記載がある。
a 「石油代替エネルギーとして昭和47年頃から木材廃棄物,農業廃棄物,製紙かすなどのバイオマス資源を成型して,固型燃料として有効利用する方法が行なわれているが,このうちでペレットミルによる圧縮成型よりえられるペレットは,木材の細胞組織が高圧により一部破壊され,水分の蒸発と糖分,ワックス,リグニンなどが可塑化溶出して成型時に粘結剤の役目をするため,比較的強度の高い木材成型品がえられる。本研究では,ペレットミルよりえられたペレットを直接炭化,賦活して粒状活性炭を製造する方法について実験を行ない,さらにピッチ,タールを加えた木材成型品についても検討した。」(第185ページ右欄)
b 「2. 実験方法
2.1 原料成型木材
原料となる成型木材ペレットは,建築廃材および桧皮のチップを(株)日本製鋼所製ペレットミルを用いて径6.3mm,長さ5~20mmの円筒状に成型したものである。
[図:0001423534000013.jpg]
粘結剤を使用したペレットは,米松廃材のチップに10%程度のピッチ(広島ガス製,石炭系,固定炭素39%,灰分0.05%,軟化点92~95℃)およびタール(広島ガス製,石炭系)を加えミキサーで混和後成型した。Table 1に使用したペレットの性状を示す。
2.2 炭化
内径6X24X4.5cmの蓋付鉄製容器に成型木材450gを入れ,電気マッフル炉に挿入し,450℃までは約2℃/min,450~550℃は約5℃/minの速度で昇温し,550℃で30分間保持した。容器を取出し急速に冷却して炭化物をえた。
2.3 賦活
炭化物をFig.lに示す回分式回転炉により水蒸気賦活を行なった。賦活方法は窒素ガスを500ml/minの速度で通しながら炉を600℃まで昇温し,炭化物100gを挿入したのち炉温を850℃まであげ,水蒸気発生装置より水蒸気を窒素ガスとともに炉内に通気した。一定時間後再び窒素ガスのみに切り替え,炉を冷却したのち活性炭を取り出した。
・・・
3.2 賦活
水蒸気賦活は一般に800~1000℃の範囲で行なうが,この実験では温度を850℃に固定し,主として賦活時間を変えて行なった。Table 3に賦活条件および収率を示した。
[図:0001423534000014.jpg]
」(第185ページ右欄~第187ページ左欄)
c 「3.3 活性炭の性能評価
・・・
細孔分布:細孔分布の測定はD活性炭について行なった。Fig.4は液体窒素温度における窒素の吸着等温線で,Fig.5はこれより計算した細孔分布曲線である。一般に賦活における細孔の発達は,まず微細孔の増加から始まり,賦活時間の延長とともに次第に細孔が広げられて半径の大きい細孔が増加して行くとともに,微細孔もさらに増加してゆく傾向を示す。D活性炭でも同様のパターンを示しているが,特に半径4nm以下の細孔の増加が著しく,半径4nm以上では均等に増加している。Rodriguezら7)はアーモンドシェルを賦活した活性炭について窒素吸着等温線の相対圧0.1および0.95の吸着量から,おおよそのミクロおよびメソ孔の細孔容積を計算している。この方法に従って細孔容積を計算した結果がTable 5である。これによると,賦活が進むとミクロおよびメソ孔容積はいずれも増加するが,特に賦活時間2.5時間から3時間の間でメソ孔容積が増加していることがわかる。
[図:0001423534000015.jpg]
[図:0001423534000016.jpg]
」(第187ページ右欄~第188ページ左欄)
(イ)甲11に記載された発明
上記(ア)aによれば、甲11には、「木材廃棄物・・・などのバイオマス資源を成型・・する方法・・・のうちでペレットミルによる圧縮成型よりえられるペレット」を「直接炭化,賦活して粒状活性炭を製造する方法」についての実験を行ったことが記載されている。
そして、上記(ア)cのTable 5には、上述の実験で得られた「D活性炭」の「細孔分布」を、「窒素吸着等温線の相対圧0.1および0.95の吸着量から,おおよそのミクロおよびメソ孔の細孔容積を計算」した結果が示されており、この表から、「P/P0 0.95(相対圧0.95)」の吸着量から計算した「Total pore volume(全細孔容積)」が「0.369」~「0.837」ml/gであり、「P/P0 0.10(相対圧0.10)」の吸着量から計算した「Micro pore volume(ミクロ孔容積)」が「0.321」~「0.580」ml/gであり、「Meso pore volume(メソ孔容積)」が「0.048」~「0.257」ml/gであることが読み取れる。ここで、Table 5中の「Total pore volume」、「Micro pore volume」、「Meso pore volume」のそれぞれの下部に「1」、「2」、「1-2」と付記されていることと、表中の計算値同士の差から、甲11のメソ孔容積は、上述の全細孔容積とミクロ孔容積の差として計算したものであることが読み取れる。
さらに、上記(ア)bの「2.1 原料成型木材」、「2.2 炭化」、「2.3 賦活」の記載によれば、上記「D活性炭」は、「米松廃材のチップに10%程度のピッチ・・・およびタール・・・を加えミキサーで混和後成型し」、「内径6X24X4.5cmの蓋付鉄製容器に成型木材450gを入れ,電気マッフル炉に挿入し,450℃までは約2℃/min,450~550℃は約5℃/minの速度で昇温し,550℃で30分間保持し」、「容器を取出し急速に冷却して炭化物をえ」て、炭化物に対して「回分式回転炉により水蒸気賦活を行な」い、賦活時に「窒素ガスを500ml/minの速度で通しながら炉を600℃まで昇温し,炭化物100gを挿入したのち炉温を850℃まであげ,水蒸気発生装置より水蒸気を窒素ガスとともに炉内に通気し」、「一定時間後再び窒素ガスのみに切り替え,炉を冷却した」ことで得られたものである。また、当該賦活時の「一定時間」とは、同bの「3.2 賦活」のTable 5からすれば、「1.5」~「3.0」hr.(時間)である。
そうすると、1ml=1cm3であることを踏まえ、上記「D活性炭」に着目すれば、甲11には、以下の発明が記載されているといえる。
「活性炭であって、
窒素吸着等温線の相対圧0.1および0.95の吸着量から、おおよそのミクロおよびメソ孔の細孔容積を計算した結果、相対圧0.95の吸着量から計算した全細孔容積が0.369~0.837cm3/gであり、相対圧0.10の吸着量から計算したミクロ孔容積が0.321~0.580cm3/gであり、全細孔容積とミクロ容積の差として計算したメソ孔容積が0.048~0.257cm3/gであり、
米松廃材のチップに10%程度のピッチおよびタールを加えミキサーで混和後成型し、内径6X24X4.5cmの蓋付鉄製容器に成型木材450gを入れ,電気マッフル炉に挿入し、450℃までは約2℃/min、450~550℃は約5℃/minの速度で昇温し、550℃で30分間保持し、容器を取出し急速に冷却して炭化物をえて、炭化物に対して回分式回転炉により水蒸気賦活を行ない、賦活時に窒素ガスを500cm3/minの速度で通しながら炉を600℃まで昇温し、炭化物100gを挿入したのち炉温を850℃まであげ、水蒸気発生装置より水蒸気を窒素ガスとともに炉内に通気し、1.5~3.0時間後再び窒素ガスのみに切り替え、炉を冷却したことで得られた、
活性炭。」
(以下、「甲11発明」という。)
カ 甲12について
(ア)甲12の記載事項
甲12には、以下の記載がある。
a 「1. 緒言
近年,農薬や廃棄物の焼却に伴って発生するダイオキシンなど,各種の環境ホルモン物質や化学物質の自然界への拡散・蓄積に起因して,いろいろな環境汚染問題があとを絶たない。これら汚染物質の吸着除去に有効かつ経済的な材料として,微細な多孔性構造を有する活性炭を使用するケースが増えている。例えば,新設の清掃工場におけるごみ焼却では,排ガス中のダイオキシン濃度の測定および負荷の削減が義務づけられいる(※当審注:「義務づけられている」の誤記と認められる。)が,負荷削減には粉末活性炭が採用されている。また,浄水処理においても,わが国で広く採用されている急速ろ過法では,塩素消毒に起因するトリハロメタン等の揮発性有機質,2-メチルイソボルネオール(2-MIB)等の臭気成分,農薬等の処理が困難であることから,新たに活性炭処理,またはオゾン・活性炭処理等のいわゆる高度浄水処理施設を導入する水道事業体が次第に増加している1-4)。このように,今後は,各種の産業廃棄物処理においても活性炭が使用され,その量はますます増加して行くものと考えられる。
・・・
このたびの研究では,こうしたカラマツ資源の高度利用の一環として.カラマツ間伐材のチップや製材時に発生するオガ屑を原料とした活性炭を開発し,浄水処理・汚廃水処理の分野などへの適用性を検討することを考えている。そのなかで本論では,カラマツの木部および樹皮を原料として回分式の水蒸気賦活法によって活性炭の製造を行い,炭化温度,賦活温度,賦活時間,水蒸気分圧などが活性炭収率,比表面積に及ぼす影響を調べることによって,カラマツ活性炭生産の最適炭化・賦活条件を確立し,連続生産につなぐ基礎資料を得ることを目的としている。」(第455ページ)
b 「2. 実験
2.1 試料
実験に用いたカラマツ(Larch, Larix kaempfri Carr.)試料は,間伐材から梱包用材料を製造する際に産出するオガ屑(木部:心材,辺材)および製材前に剥離した5-15cmのチップ(樹皮部)である。これらの試料については,それぞれウイレーミルを用いて粉砕し,粒子径0.18-0.5mmの画分を380Kで1昼夜乾燥して無水試料とし,以下の炭化・賦活実験に用いた。試料の元素分析値および灰分の化学組成をTable 1およびTable 2に示す。CHOや比表面積は木部(Larch wood,以下LWと略記),樹皮部(Larch bark, 以下LBと表示)のいずれにおいてもほぼ同じであるが, LBの灰分量はLWに比べて多く,Si02,K20,Na20,Al2O3などは2倍以上となっている。
2.2 炭化
水蒸気や二酸化炭素などを用いたガス賦活による活性炭製造プロセスは,通常,炭化と賦活(活性化)の2工程からなる。活性炭の吸着性能を左右する孔隙構造は,賦活過程のみにではなく,炭素骨格構造の基本を造る炭化条件にも左右されることから,炭化温度や滞留時間の選定は重要である5)。そこで,熱天秤を用いてLWおよびLBの熱分解を行い,その結果をもとに,固定床流通系装置を用いて熱処理温度の異なる炭化物(以下,チャー)を調製した。
・・・
2.2.2 固定床流通系装置によるチャーの調製
流通系装置による賦活用チャーの調製については,673-1173Kの範囲でlOOK毎に炭化温度を変えて行った。実験は,最初に15gのLWおよびLBを反応管(SUS310,OD;50mmφ×h;600mm)内の中央部容器(SUS310,ID;36mmφ×h;120mm)に充填し,N2を200ml/minの流量で1時間流して装置内の空気を置換した。その後,5K/minの昇温速度で室温から各設定温度まで環状竃気炉によって外部から加熱し,最後に設定温度で15min間保持した。熱分解過程で生成した液状成分は冷却トラップ内に捕集し,発生ガスはTCD-GC(充填剤;Active carbonおよびVZ-10)を用いて分析した。実験終了後,室温まで冷却して液体および固体の収率を求めた。この際に得られたチャーは,水蒸気賦活用試料として用いた。
2.3 水蒸気賦活
各炭化温度で調製したチャーを水蒸気賦活してカラマツ活性炭を得た。実験装置の概略をFig.1に示す。本装置は,N2流量調節部,水蒸気発生部,および賦活反応部からなる。反応管(OD;46mmφ×590mmh)は石英ガラス製であり,その内部の中央部分に濾過板を設け,試料を固定できるようにした。マイクロフィーダ(d, 200mlシリンジ)から注入した所定量の水は,N2と混合して水蒸気発生用電気炉(e)に流入し,およそ420Kに加熱されて一定分圧の水蒸気となる。所定分圧の水蒸気は,反応管までの途中で凝縮しないようにリボンヒーターで加熱しながら,石英管内に充填したチャーと接触させる。その際,過剰の未反応水蒸気は冷却トラップ(k)で捕集された。水蒸気賦活については,チャーと水蒸気との良好な接触状態を維持し,試科の温度分布を均一化させるために,流動床方式を採用した。なお,反応管前後にCCl4マノメータ(f)を設置し,その差圧から賦活反応時における流動化状態を監視した。」(第455~456ページ)
c 「3.2.2.3 賦活温度の影響
賦活温度は,装置材料や反応時間を決定する際の重要な因子である。炭素と水蒸気との反応の進行には,反応速度の増大または滞留時間の短縮などから高温ほど有利である。しかし,極端に反応温度が高いときには,微細構造が充分に発達しないだけでなく,黒鉛化の進行も避けられない上,活性炭の収率も低下してしまう。また,反応炉の材質選択巾を狭め,装置の寿命短縮なども予想される。したがって,賦活反応の温度や時間には限界がある。
Fig.8は,水蒸気賦活に対する反応温度の影響を調べた結果である。水蒸気賦活で起る炭素消耗は,反応温度が高いほど顕著に進行し,その分だけ活性炭収率が低くなっている。
[図:0001423534000017.jpg]
」(第460ページ)
(イ)甲12に記載された発明
上記(ア)aによれば、甲12には、「浄水処理においても・・・新たに活性炭処理・・・を導入する水道事業体が次第に増加している」という活性炭の需要を受けて、「カラマツの木部および樹皮を原料として回分式の水蒸気賦活法によって活性炭の製造を行い,炭化温度,賦活温度,賦活時間,水蒸気分圧などが活性炭収率,比表面積に及ぼす影響を調べ」たことが記載されており、甲12において製造された「活性炭」は、「水道事業」の「浄水処理」での使用を想定したものといえる。
そして、上記(ア)bの「2.1 試料」によれば、上述の「活性炭の製造」に用いた原料は、「カラマツ」の「オガ屑(木部・・・)および・・・チップ(樹皮部)」であり、これらを「それぞれウイレーミルを用いて粉砕し,粒子径0.18-0.5mmの画分を380K(=107℃)で1昼夜乾燥して無水試料とし」たものである。
また、同bの「2.2 炭化」及び「2.2.2 固定床流通系装置によるチャーの調製」には、上述の原料に対して、「固定床流通系装置を用いて熱処理温度の異なる炭化物(以下,チャー)を調製し」、「流通系装置による賦活用チャーの調製については,673-1173K(=400℃~900℃)の範囲でlOOK(=100℃)毎に炭化温度を変えて行」い、具体的には、「最初に15gのLWおよびLBを反応管・・・内の中央部容器・・・に充填し,N2を200ml/minの流量で1時間流して装置内の空気を置換し」、「その後,5K/min(=5℃/min)の昇温速度で室温から各設定温度まで環状竃気炉によって外部から加熱し,最後に設定温度で15min間保持し」、「室温まで冷却し」てチャーを得て、これを水蒸気賦活試料として用いたことが記載されている。なお、上記「LW」、「LB」は、同bの「2.1 試料」に示されるとおり、「木部」、「樹皮部」のことである。
さらに、同bの「2.3 水蒸気賦活」には、「調製したチャーを水蒸気賦活してカラマツ活性炭を得た」こと、具体的には、「N2流量調節部,水蒸気発生部,および賦活反応部からな」り、「反応管・・・の内部の中央部分に濾過板を設け,試料を固定できるようにし」、「マイクロフィーダ・・・から注入した所定量の水は,N2と混合して水蒸気発生用電気炉・・・に流入し,およそ420K(=147℃)に加熱されて一定分圧の水蒸気とな」り、「所定分圧の水蒸気は,反応管までの途中で凝縮しないようにリボンヒーターで加熱しながら,石英管内に充填したチャーと接触させ」る「装置」により、「チャーと水蒸気との良好な接触状態を維持し,試科の温度分布を均一化させるために,流動床方式を採用し」て水蒸気賦活を行ったことが記載されている。そして、同cの「3.2.2.3 賦活温度の影響」の「Fig.8」によれば、上記水蒸気賦活の条件として、1073K(=800℃)~1173K(=900℃)かつ約0.5h~4.0hを採用したことが読み取れる。
そうすると、上述の炭化及び賦活により得られた活性炭に着目すれば、甲12には、以下の発明が記載されているといえる。
「水道事業の浄水処理での使用を想定した活性炭であって、
カラマツのオガ屑(木部)およびチップ(樹皮部)を、それぞれウイレーミルを用いて粉砕し、粒子径0.18-0.5mmの画分を107℃で1昼夜乾燥して無水試料とし、
固定床流通系装置を用いて熱処理温度の異なる炭化物(以下,チャー)を調製し、流通系装置による賦活用チャーの調製については、400℃~900℃の範囲でlOO℃毎に炭化温度を変えて行い、具体的には、最初に15gの木部および樹皮部を反応管内の中央部容器に充填し、N2を200ml/minの流量で1時間流して装置内の空気を置換し、その後、5℃/minの昇温速度で室温から各設定温度まで環状竃気炉によって外部から加熱し、最後に設定温度で15min間保持し、室温まで冷却してチャーを得て、
調製したチャーを水蒸気賦活し、具体的には、N2流量調節部、水蒸気発生部、および賦活反応部からなり、反応管の内部の中央部分に濾過板を設け、試料を固定できるようにし、マイクロフィーダから注入した所定量の水は、N2と混合して水蒸気発生用電気炉に流入し,およそ147℃に加熱されて一定分圧の水蒸気となり、所定分圧の水蒸気は、反応管までの途中で凝縮しないようにリボンヒーターで加熱しながら、石英管内に充填したチャーと接触させる装置により、チャーと水蒸気との良好な接触状態を維持し、試科の温度分布を均一化させるために、流動床方式を採用して水蒸気賦活を行い、水蒸気賦活の条件として、800℃~900℃かつ約0.5h~4.0hを採用することで得られた、
活性炭。」
(以下、「甲12発明」という。)
なお、摘記を省略するが、甲3~8には、BJH法又はGCMC法について、各方法によって解析できる細孔径の範囲等の技術常識が記載されている。
(2)本件発明1について
上記(1)の甲各号証に記載された発明のそれぞれを主引用発明とした場合に、本件発明1が容易に想到し得るものであるか否か、順に検討する。
ア 甲1発明を主引用発明とする場合
(ア)対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
a まず、両発明の「活性炭」は、「浄水器用」である点で一致している。
b 次に、甲1発明の細孔分布が本件発明1の細孔分布と一致するか検討する。
甲1発明の細孔分布は、「吸着等温線をBJH法により解析し、全細孔容積(Vtotal)の範囲における各細孔径の細孔容積を算出」することにより得られたものである。そして、当該「吸着等温線」及び「全細孔容積」は、「窒素吸着装置を用いて、吸着等温線を求め、相対圧P/P0(P:吸着平衡にある吸着質の気体圧力、P0:吸着温度における吸着質の飽和蒸気圧)が0.93における窒素吸着量から全細孔容積(Vtotal:cm3/g)を算出」することで得られたものである。
ここで、ガス吸着法に関する技術常識からすれば、吸着等温線上の相対圧0.93における細孔容積の算出結果は、直径約30nm=300Å以下の細孔の容積に対応する(例えば、国際公開第2021/205912号の[0039]には、ガス吸着法による細孔容積の導出に関し、「細孔径の上限は計算に使用する相対圧の値に依存するため、液体窒素温度での窒素ガス吸着の場合は、細孔が直径約30nmまでの相対圧を0.931・・・とする。」と記載されている。)。そして、甲1発明のBJH法による「各細孔径の細孔容積」の解析は、「全細孔容積(Vtotal)の範囲」において行われたのであるから、当該「全細孔容積(Vtotal)の範囲」に対応する直径300Åまでの細孔について行われたものと解される。これは、上記(1)ア(ア)cの【0074】及び【0075】に記載された、
「細孔径20Å以下の細孔容積(≦V20Å:cm3/g)=全細孔容積(Vtotal:cm3/g)-(細孔径20Å超300Å以下の細孔容積(V20-300Å:cm3/g))」及び
「細孔径20Å超300Å以下の細孔容積(V20-300Å:cm3/g)=全細孔容積(Vtotal:cm3/g)-(細孔径20Å以下の細孔容積(≦V20Å:cm3/g))」
との数式から導かれるとおり、「全細孔容積」=「細孔径20Å以下の細孔容積」+「細孔径20Å超300Å以下の細孔容積」の関係にあること、さらに、同【表2】中の「全細孔容積」の数値が「~20Å」の数値と「20~300Å」の数値との和と等しいことからも確認できる。
そうすると、甲1発明において規定される細孔分布は、300Å=30nm以下の範囲についてのみであり、30nm超の範囲を含む「細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積」については何ら規定されていない。
c 以上より、本件発明1と甲1発明は、「浄水器用の活性炭」である点でのみ一致し、以下の点で相違しているといえる。
<相違点1-1>
活性炭の細孔分布が、本件発明1では、
「吸着ガスをN2として作成した吸着等温線についてGCMC法による細孔解析により求めた細孔径0.6nm以下の累積細孔容積が0.165cm3/g以上であり、
吸着ガスをN2として作成した吸着等温線についてBJH法による細孔解析により求めた細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積が0.050cm3/g以上0.120cm3/g以下であ」る一方、
甲1発明では、
「窒素吸着装置を用いて、吸着等温線を求め、相対圧P/P0(P:吸着平衡にある吸着質の気体圧力、P0:吸着温度における吸着質の飽和蒸気圧)が0.93における窒素吸着量全細孔容積(Vtotal:cm3/g)を算出した結果、当該全細孔容積が0.45~0.58cm3/gであり、
吸着等温線をBJH法により解析し、全細孔容積(Vtotal)の範囲における各細孔径の細孔容積を算出し、算出結果における細孔径20Å以下の細孔容積(≦V20Å:cm3/g)が0.37~0.46cm3/g、細孔径20Å超300Å以下の細孔容積(V20-300Å:cm3/g)が0.05~0.12cm3/gであ」る点。
なお、活性炭の細孔分布は、細孔径の範囲別に独立して調整できるものではないため、上述のとおり細孔分布に関する事項を一体の相違点として認定するのが適切である。この点は、下記イ以降の他の発明を主引用発明とする場合でも同様である。
<相違点1-2>
活性炭の充填密度が、本件発明1では、「0.500g/cm3以上」である一方、甲1発明では、如何なる数値であるか不明である点。
(イ)相違点に対する判断
はじめに、相違点1-1について検討する。
a 上記(ア)bのように、甲1の記載から直接的に把握できる細孔容積は300Å=30nm以下の範囲のみであり、30nm超200nm以下の細孔容積については何ら把握することができない。
ここで、活性炭の原料を含め、その製造方法が同一であれば、製造された活性炭は同じ物である可能性がある。しかしながら、甲1発明の活性炭の原料は、「フェノール樹脂」であって、上記1(2)イの本件明細書【0039】~【0041】、【0049】~【0053】に記載された本件発明の製造方法にて具体的に採用される杉ではなく、植物系バイオマスですらない。その上、上記(1)ア(ア)b及びcに示す甲1の【0038】や【実施例】をみても、甲1発明における炭化温度までの昇温速度、炭化処理の保持時間、賦活温度までの昇温速度、水蒸気賦活での水蒸気流速は不明であり、両発明の製造方法が同一であるとはいえない。そのため、甲1に記載の製造方法により得られた活性炭が、本件発明1と同一の細孔分布を有する物とはいえない。
そのため、相違点1-1は、実質的な相違点であるといえる。
(なお、例えば、上記(1)エ(ア)aの甲10「第1表」等に示されるとおり、木炭から得られる活性炭であっても、その特性は、木炭の樹種、産地、製炭方法(すなわち炭化条件)等により変化し、細孔生成時の賦活条件によっても変化することは明らかであるため、原料の種類が大まかに一致又は類似したり、一部の製造条件が一致するだけでは、活性炭の特性やそれを決定付ける細孔構造が一致するとは判断できない。この点は、下記イ以降の他の発明を主引用発明とする場合でも同様である。)
b 甲1発明は、上記(1)ア(ア)bの【0022】に記載されているように、「細孔径20~300Åの細孔容積を増大させると、通水条件下において1,1,1-トリクロロエタンとミクロ孔の接触効率を向上できる」ことから、当該細孔径範囲の細孔分布を制御しようとするものであって、当該細孔径範囲外の300Å=30nm超の範囲の細孔分布には、何ら着目していない。そのため、甲1発明において、30nm以上の範囲を含む「細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積」を制御しようとする動機は生じない。
加えて、下記イ(イ)aで述べるとおり、甲2には、100nm超200nm以下の細孔容積は何ら開示されていないし、甲3~8には、「細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積」に関する事項は何ら開示されていないため、甲2~8の記載事項は、相違点1-1の構成を充足するものとはならない。
c 上記bのとおりであるから、相違点1-1の構成は、甲1発明及び他の証拠の記載事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
d 特許異議申立書における申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第46ページにおいて、「BJH法における細孔径範囲の上限が200nmである」ことから、甲1に記載の「全細孔容積」は、200nm以下の範囲についての数値であるとして、この前提の下に2~200nmの細孔容積を計算し、その計算値が本件発明1の規定に合致することを主張している。
しかし、上記(ア)bで述べたとおり、甲1に記載の「全細孔容積」は、吸着等温線上の相対圧が0.93における窒素吸着量から算出されたものであり、これは約30nmまでの細孔容積に対応するものであるところ、上述の申立人の主張は、その前提が正確といえず、採用できるものではない。
(ウ)小括
上記(イ)で述べたように、相違点1-1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2~8の記載事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
イ 甲2発明を主引用発明とする場合
(ア)対比
本件発明1と甲2発明を対比する。
a まず、両発明の「活性炭」は、「浄水器用」である点で一致している。
b また、上記1(2)イに示す本件明細書【0024】に記載されるとおり、本件発明1の「充填密度」は、甲2発明と同じく、JIS K1474に準拠して測定されるものであり、甲2発明の「充填密度」の数値は、本件発明1の規定に合致している。
c 次に、甲2発明の細孔分布が本件発明1の細孔分布と一致するか検討する。
甲2発明では、「細孔直径0.6nmないし100nmの範囲」の「全細孔容積」、「細孔直径1nmないし100nmの範囲の細孔の全細孔容積と細孔直径1nmないし2.0nm以下の細孔の総細孔容積」、「細孔直径0nmないし2.0nmの範囲の細孔の全細孔容積と細孔直径0nmないし0.6nm以下の細孔の総細孔容積」が規定されているものの、これらはいずれも細孔直径が最大100nmまでの範囲の細孔容積である。そのため、甲2発明においては、100nm超の範囲を含む「細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積」については何ら規定されていない。
d 以上より、本件発明1と甲2発明は、
「浄水器用の活性炭であって、
充填密度が0.500g/cm3以上である、
活性炭」
である点で一致し、以下の点で相違しているといえる。
<相違点2-1>
活性炭の細孔分布が、本件発明1では、
「吸着ガスをN2として作成した吸着等温線についてGCMC法による細孔解析により求めた細孔径0.6nm以下の累積細孔容積が0.165cm3/g以上であり、
吸着ガスをN2として作成した吸着等温線についてBJH法による細孔解析により求めた細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積が0.050cm3/g以上0.120cm3/g以下であ」る一方、
甲2発明では、
「全細孔容積を、細孔直径0.6nmないし100nmの範囲で、Gurvitschの法則を適用して相対圧0.953における窒素吸着量(V)を下記の数式(i)により液体窒素の体積(Vp)に換算して求めた結果、当該全細孔容積が0.43~0.48cm3/gであり、
[図:0001423534000018.jpg]
細孔径分布を表すパラメータdV/dDを窒素吸着により測定し、細孔直径1nmないし100nmの範囲におけるdV/dDの値を、窒素ガスの吸着等温線からDH法(Dollimore-Heal法)によって解析し、DH法の解析結果から、細孔直径1nmないし100nmの範囲の細孔の全細孔容積と細孔直径1nmないし2.0nm以下の細孔の総細孔容積を求めた結果、当該細孔直径1nmないし100nmの範囲の細孔の全細孔容積が0.0998~0.1244cm3/gであり、当該細孔直径1nmないし2.0nm以下の細孔の総細孔容積が0.0204~0.0285cm3/gであり、
細孔直径0nmないし2.0nmの範囲におけるdV/dDの値を窒素ガスの吸着等温線のt-plotからMP法(Micropore法)によって解析し、MP法の解析結果から、細孔直径0nmないし2.0nmの範囲の細孔の全細孔容積と細孔直径0nmないし0.6nm以下の細孔の総細孔容積を求めた結果、当該細孔直径0nmないし2.0nmの範囲の細孔の全細孔容積が0.4110~0.4489cm3/gであり、当該細孔直径0nmないし0.6nm以下の細孔の総細孔容積が0.1802~0.1958cm3/gであ」る点。
(イ)相違点に対する判断
相違点2-1について検討する。
a 上記(ア)bのように、甲2の記載から直接的に把握できる細孔容積は100nm以下の範囲のみであり、100nm超200nm以下の細孔容積については何ら把握することができない。
また、甲2発明における、
「原料の椰子殻(焼成された椰子殻も含まれる。)を800℃ないし900℃前後まで加熱して保持し、水蒸気を導入して賦活を進め、賦活後、室温付近まで自然放冷し、冷却後、60~120meshの篩により篩別して得られた」
との製造方法と、上記1(2)イに示す本件明細書【0039】~【0041】、【0049】~【0053】に記載された本件発明の活性炭の製造方法を比較しても、甲2発明の原料は杉ではない上に、甲2発明における炭化温度までの昇温速度、炭化処理の保持時間、賦活温度までの昇温速度、水蒸気賦活での水蒸気流速は不明であり、両製造方法が同一であるとはいえないから、甲2に記載の製造方法により得られた活性炭が、本件発明1と同一の細孔分布を有する物であるとはいえない。
そのため、相違点2-1は、実質的な相違点であるといえる。
b 甲2発明は、上記(1)イ(ア)bの【0022】に記載されているように、細孔直径0.6nm以下の細孔は、例えばクロロホルム等の低分子量領域の分子種の吸着、濾過と関係する」ことから、「全細孔容積に占める細孔直径0.6nm以下の細孔の容積を一定数以上に保つことにより、本発明が目的とする低分子の有機塩素系化合物の濾過性能をより向上させる」とともに、同【0024】に記載されているように、「細孔直径2.0nm以下の細孔容積量も重ねて規定することにより、低分子量領域の分子種から吸着対象を広げた活性炭」を得ようとするものであって、細孔径100nm超の範囲の細孔容積には、何ら着目していない。そのため、甲2発明において、100nm超の範囲を含む「細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積」を制御しようとする動機は生じない。
加えて、上記ア(イ)aでも述べたとおり、甲1には、30nm超200nm以下の細孔容積は何ら開示されていないし、甲3~8には、「細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積」に関する事項は何ら開示されていないため、甲1、3~8の記載事項は、相違点2-1の構成を充足するものとはならない。
c 上記bのとおりであるから、相違点2-1の構成は、甲2発明及び他の証拠の記載事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
(ウ)小括
上記(イ)で述べたように、相違点2-1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るとはいえないから、本件発明1は、甲2発明及び甲1、3~8の記載事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
ウ 甲9発明を主引用発明とする場合
(ア)対比
本件発明1と甲9発明を対比すると、「活性炭」以外に文言上一致する点は存在しないため、本件発明1と甲9発明は、「活性炭」である点でのみ一致し、以下の点で相違しているといえる。
<相違点9-1>
本件発明1の活性炭は、「浄水器用」であるのに対し、甲9発明の活性炭は、用途が明らかでない点。
(なお、上記(1)ウ(ア)のとおり、甲9の【0020】には、「本実施例の炭化物は、・・・濾過材として利用できる。また、・・・活性炭に利用することができる。」と記載されているものの、これは「炭化物」の利用先に言及したものであり、「活性炭」自体の利用先が明らかにされているとはいえない。)
<相違点9-2>
本件発明1の活性炭は、その細孔分布が、
「吸着ガスをN2として作成した吸着等温線についてGCMC法による細孔解析により求めた細孔径0.6nm以下の累積細孔容積が0.165cm3/g以上であり、
吸着ガスをN2として作成した吸着等温線についてBJH法による細孔解析により求めた細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積が0.050cm3/g以上0.120cm3/g以下であ」る一方、
甲9発明の活性炭は、どのような細孔分布であるか明らかでない点。
<相違点9-3>
活性炭の充填密度が、本件発明1では、「0.500g/cm3以上」である一方、甲9発明では、如何なる数値であるか不明である点。
(イ)相違点に対する判断
事案にかんがみ、相違点9-2について検討する。
a 甲9には細孔分布に関する言及が全く存在せず、甲9発明の細孔容積を直接的に把握することはできない。
また、甲9発明における、
「連続炭化装置を使用して、杉材を炭化原料に用いて炭化を行い、炭化物を得て、当該炭化物をガス賦活法(賦活条件:900℃、1時間)によって賦活して得られた」
との製造方法と、上記1(2)イに示す本件明細書【0039】~【0041】、【0049】~【0053】に記載された本件発明の製造方法を比較しても、甲9発明における炭化温度までの昇温速度、炭化処理の保持時間、賦活温度までの昇温速度、水蒸気賦活での水蒸気流速は不明であり、両製造方法が同一であるとはいえないから、甲9発明の製造方法により得られた活性炭が、本件発明1と同一の細孔分布を有する物であるとはいえない。
そのため、相違点9-2は、実質的な相違点であるといえる。
b 甲9発明は、活性炭の細孔容積を含む細孔分布に全く着目していないため、甲9発明において、細孔分布を制御しようという動機は生じない。
加えて、上記ア(イ)b及び上記イ(イ)bでも述べたとおり、甲1~8には、「細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積」は何ら開示されていないため、甲1~8の記載事項は、相違点9-2の構成を充足するものとはならない。
c 上記bのとおりであるから、相違点9-2の構成は、甲9発明及び他の証拠の記載事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
(ウ)小括
上記(イ)で述べたように、相違点9-2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲9発明及び甲1~8の記載事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
エ 甲10発明を主引用発明とする場合
(ア)対比
本件発明1と甲10発明を対比すると、「活性炭」以外に文言上一致する点は存在しないため、本件発明1と甲10発明は、「活性炭」である点でのみ一致し、以下の点で相違しているといえる。
<相違点10-1>
本件発明1の活性炭は「浄水器用」であるのに対し、甲10発明の活性炭は「製飴,酒造,医薬,精糖その他に使用される」ものである点。
<相違点10-2>
本件発明1の活性炭は、その細孔分布が、
「吸着ガスをN2として作成した吸着等温線についてGCMC法による細孔解析により求めた細孔径0.6nm以下の累積細孔容積が0.165cm3/g以上であり、
吸着ガスをN2として作成した吸着等温線についてBJH法による細孔解析により求めた細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積が0.050cm3/g以上0.120cm3/g以下であ」る一方、
甲10発明の活性炭は、どのような細孔分布であるか明らかでない点。
<相違点10-3>
活性炭の充填密度が、本件発明1では、「0.500g/cm3以上」である一方、甲10発明では、如何なる数値であるか不明である点。
(イ)相違点に対する判断
事案にかんがみ、相違点10-2について検討する。
a 甲10には細孔分布に関する言及が全く存在せず、甲10発明の細孔容積を直接的に把握することはできない。
また、甲10発明における、
「小実験的外熱式賦活装置を使用して松炭(4~15mesh)を水蒸気賦活して得られ、
水蒸気賦活の条件が850℃及び80分である」
との製造方法と、上記1(2)イに示す本件明細書【0039】~【0041】、【0049】~【0053】に記載された本件発明の製造方法を比較しても、甲10発明の賦活条件は、本件明細書の実施例の条件と近似しているものの、甲10発明の原料は杉でない上に、甲10発明における炭化条件、賦活温度までの昇温速度、水蒸気賦活での水蒸気流速は不明であり、両製造方法が同一であるとはいえないから、甲10発明の製造方法により得られた活性炭が、本件発明1と同一の細孔分布を有する物であるとはいえない。
そのため、相違点10-2は、実質的な相違点であるといえる。
b 甲10発明は、活性炭の細孔容積を含む細孔分布に全く着目していないため、甲10発明において、細孔分布を制御しようという動機は生じない
加えて、上記ア(イ)b及び上記イ(イ)bでも述べたとおり、甲1~8には、「細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積」は何ら開示されていないため、甲1~8の記載事項は、相違点10-2の構成を充足するものとはならない。
c 上記bのとおりであるから、相違点10-2の構成は、甲10発明及び他の証拠の記載事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
(ウ)小括
上記(イ)で述べたように、相違点10-2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲10発明及び甲1~8の記載事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
オ 甲11発明を主引用発明とする場合
(ア)対比
本件発明1と甲11発明を対比する。
a 甲11発明の細孔分布が本件発明1の細孔分布と一致するか検討する。
通常、「ミクロ孔」は直径2nm以下の細孔を指し、「メソ孔」は直径2~50nmの細孔を指す(例えば、特開2019-19043号公報の【0036】には「ミクロ孔(<2nm)・・・メソ孔(2~50nm)」と記載されている。)。また、ガス吸着法に関する技術常識からすれば、吸着等温線上の相対圧0.95における細孔容積の算出結果は、おおよそ直径50nm以下の細孔の容積に対応し、相対圧0.1における細孔容積の算出結果は、おおよそ直径2nm以下の細孔の容積に対応する(例えば、国際公開第2021/205912号の[0039]には、「直径約50nmまでの相対圧を0.96・・・とする。」、特開2006-247527号公報の【0042】には、「相対圧0.168のときの吸着量から20Å以下の細孔容積を、・・・求めた。」と記載されている。)。これらからすれば、甲11発明における「ミクロ孔」及び「メソ孔」も、上述のとおり通常の意味の細孔を指しており、甲11発明における「全細孔容積」は、「ミクロ孔」及び「メソ孔」に相当する直径約50nm以下の細孔の容積を指しているといえる。
そうすると、甲11発明において規定される細孔分布は、約50nm以下の範囲についてのみであり、50nm超の範囲を含む「細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積」については何ら規定されていない。
b 以上からすると、本件発明1と甲11発明は、「活性炭」である点でのみ一致し、以下の点で相違しているといえる。
<相違点11-1>
本件発明1の活性炭は「浄水器用」であるのに対し、甲11発明の活性炭は用途が明らかでない点。
<相違点11-2>
活性炭の細孔分布が、本件発明1では、
「吸着ガスをN2として作成した吸着等温線についてGCMC法による細孔解析により求めた細孔径0.6nm以下の累積細孔容積が0.165cm3/g以上であり、
吸着ガスをN2として作成した吸着等温線についてBJH法による細孔解析により求めた細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積が0.050cm3/g以上0.120cm3/g以下であ」る一方、
甲11発明では、
「窒素吸着等温線の相対圧0.1および0.95の吸着量から、おおよそのミクロおよびメソ孔の細孔容積を計算した結果、相対圧0.95の吸着量から計算した全細孔容積が0.369~0.837cm3/gであり、相対圧0.10の吸着量から計算したミクロ孔容積が0.321~0.580cm3/gであり、全細孔容積とミクロ容積の差として計算したメソ孔容積が0.048~0.257cm3/gであ」る点。
<相違点11-3>
活性炭の充填密度が、本件発明1では、「0.500g/cm3以上」である一方、甲11発明では、如何なる数値であるか不明である点。
(イ)相違点に対する判断
事案にかんがみ、相違点11-2について検討する。
a 上記(ア)aのように、甲11の記載から直接的に把握できる細孔容積は約50nm以下の範囲のみであり、50nm超200nm以下の細孔容積については何ら把握することができない。
また、甲11発明における、
「原米松廃材のチップに10%程度のピッチおよびタールを加えミキサーで混和後成型し、内径6X24X4.5cmの蓋付鉄製容器に成型木材450gを入れ,電気マッフル炉に挿入し、450℃までは約2℃/min、450~550℃は約5℃/minの速度で昇温し、550℃で30分間保持し、容器を取出し急速に冷却して炭化物をえて、炭化物に対して回分式回転炉により水蒸気賦活を行ない、賦活時に窒素ガスを500cm3/minの速度で通しながら炉を600℃まで昇温し、炭化物100gを挿入したのち炉温を850℃まであげ、水蒸気発生装置より水蒸気を窒素ガスとともに炉内に通気し、1.5~3.0時間後再び窒素ガスのみに切り替え、炉を冷却した」
との製造方法と、上記1(2)イに示す本件明細書【0039】~【0041】、【0049】~【0053】に記載された本件発明の活性炭の製造方法を比較しても、甲11発明の原料は杉ではない上に、甲11発明における炭化温度は本件発明と一致せず、さらに、甲11発明における賦活温度までの昇温速度、水蒸気賦活での水蒸気流速は不明であり、両製造方法が同一であるとはいえないから、甲11に記載の製造方法により得られた活性炭が、本件発明1と同一の細孔分布を有する物であるとはいえない。
そのため、相違点11-2は、実質的な相違点であるといえる。
b 甲11発明は、メソ孔よりも大きい50nm超の範囲の細孔分布には、何ら着目していない。そのため、甲1発明において、50nm以上の範囲を含む「細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積」を制御しようとする動機は生じない。
加えて、上記ア(イ)b及び上記イ(イ)bでも述べたとおり、甲1~8には、「細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積」は何ら開示されていないため、甲1~8の記載事項は、相違点11-2の構成を充足するものとはならない。
c 上記bのとおりであるから、相違点11-2の構成は、甲11発明及び他の証拠の記載事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
(ウ)小括
上記(イ)で述べたように、相違点11-2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲11発明及び甲2~8の記載事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
カ 甲12発明を主引用発明とする場合
(ア)対比
本件発明1と甲12発明を対比すると、「活性炭」以外に文言上一致する点は存在しないため、本件発明1と甲12発明は、「活性炭」である点でのみ一致し、以下の点で相違しているといえる。
<相違点12-1>
本件発明1の活性炭は、「浄水器用」であるのに対し、甲12発明の活性炭は、「水道事業の浄水処理での使用を想定した」ものである点。
<相違点12-2>
本件発明1の活性炭は、その細孔分布が、
「吸着ガスをN2として作成した吸着等温線についてGCMC法による細孔解析により求めた細孔径0.6nm以下の累積細孔容積が0.165cm3/g以上であり、
吸着ガスをN2として作成した吸着等温線についてBJH法による細孔解析により求めた細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積が0.050cm3/g以上0.120cm3/g以下であ」る一方、
甲12発明の活性炭は、どのような細孔分布であるか明らかでない点。
<相違点12-3>
活性炭の充填密度が、本件発明1では、「0.500g/cm3以上」である一方、甲12発明では、如何なる数値であるか不明である点。
(イ)相違点に対する判断
事案にかんがみ、相違点12-2について検討する。
a 甲12には細孔分布に関する言及が全く存在せず、甲12発明の細孔容積を直接的に把握することはできない。
また、甲12発明における、
「カラマツのオガ屑(木部)およびチップ(樹皮部)を、それぞれウイレーミルを用いて粉砕し、粒子径0.18-0.5mmの画分を107℃で1昼夜乾燥して無水試料とし、
固定床流通系装置を用いて熱処理温度の異なる炭化物(以下,チャー)を調製し、流通系装置による賦活用チャーの調製については、400℃~900℃の範囲でlOO℃毎に炭化温度を変えて行い、具体的には、最初に15gの木部および樹皮部を反応管内の中央部容器に充填し、N2を200ml/minの流量で1時間流して装置内の空気を置換し、その後、5℃/minの昇温速度で室温から各設定温度まで環状竃気炉によって外部から加熱し、最後に設定温度で15min間保持し、室温まで冷却してチャーを得て、
調製したチャーを水蒸気賦活し、具体的には、N2流量調節部、水蒸気発生部、および賦活反応部からなり、反応管の内部の中央部分に濾過板を設け、試料を固定できるようにし、マイクロフィーダから注入した所定量の水は、N2と混合して水蒸気発生用電気炉に流入し,およそ147℃に加熱されて一定分圧の水蒸気となり、所定分圧の水蒸気は、反応管までの途中で凝縮しないようにリボンヒーターで加熱しながら、石英管内に充填したチャーと接触させる装置により、チャーと水蒸気との良好な接触状態を維持し、試科の温度分布を均一化させるために、流動床方式を採用して水蒸気賦活を行い、水蒸気賦活の条件として、800℃~900℃かつ約0.5h~4.0hを採用することで得られた」
との製造方法と、上記1(2)イに示す本件明細書【0039】~【0041】、【0049】~【0053】に記載された本件発明の製造方法を比較しても、甲12発明の原料は杉ではなく、甲12発明における賦活温度までの昇温速度、水蒸気賦活での水蒸気流速は不明であり、両製造方法が同一であるとはいえないから、甲12発明の製造方法により得られた活性炭が、本件発明1と同一の細孔分布を有する物であるとはいえない。
そのため、相違点12-2は、実質的な相違点であるといえる。
b 甲12発明は、活性炭の細孔容積を含む細孔分布に全く着目していないため、甲12発明において、細孔分布を制御しようという動機は生じない。
加えて、上記ア(イ)b及び上記イ(イ)bでも述べたとおり、甲1~8には、「細孔径2.0nm以上200nm以下における累積細孔容積」は何ら開示されていないため、甲1~8の記載事項は、相違点12-2の構成を充足するものとはならない。
c 上記bのとおりであるから、相違点12-2の構成は、甲12発明及び他の証拠の記載事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
(ウ)小括
上記(イ)で述べたように、相違点12-2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲12発明及び甲1~8の記載事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
(3)本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、少なくとも本件発明1の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様に、甲1、2、9~12発明のいずれかと、他の証拠の記載事項とに基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
(4)申立理由3に関するまとめ
以上のとおり、本件特許1~4は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、申立理由3には、理由がない。
第5むすび
上記第4で検討したとおり、本件特許1~4は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできないし、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記申立理由1~3では、本件特許1~4を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1~4を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700133