特許異議申立
2025-700181
イオン交換システム及び超純水製造装置
- 審判番号
- 2025-700181
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-083228
- 登録番号
- 7533691
- 請求日
- 2025年02月12日
- 審決日
- 2025年06月03日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】栗田工業株式会社
- 【権利者代理人】重野 剛
- 【権利者代理人】重野 隆之
- 【異議申立人】黒崎 惇子
- 審判長/審判官
- 審判長 原 賢一
- 審判官 金 公彦
- 審判官 田口 裕健
- 分類
- P1651.121-Y (C02F) / P1651.537-Y (C02F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法36条6項1号特許法36条6項2号特許法113条2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7533691号発明「イオン交換システム及び超純水製造装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7533691号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7533691号(以下、「本件特許」という。)の出願は、令和5年5月19日の出願であって、令和6年8月5日にその特許権の設定登録がされ、同年同月14日に特許掲載公報が発行され、その後、令和7年2月12日に、本件特許の請求項1~5に係る発明について、特許異議申立人 黒崎 惇子(以下、「申立人」という。)により、甲第1~3号証を証拠方法として特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件特許
本件特許の請求項1~5に係る発明は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。以下、各請求項に係る発明及び特許を、項番に対応して「本件発明1」、「本件特許1」などといい、まとめて「本件発明」、「本件特許」ということがある。
「【請求項1】
イオン交換装置と、
該イオン交換装置に被処理水を通水させるためのポンプと、
該イオン交換装置からの脱イオン水が導入される脱イオン水タンクと、
該イオン交換装置から脱イオン水タンクへの流入水量を調整するための流量調整バルブと、
該脱イオン水タンク内の水位の検出する水位検出手段と、
該イオン交換装置から該脱イオン水タンクに向う流れの流量又は圧力を検出する流量又は圧力の検出手段と、
該水位検出手段で検出される脱イオン水タンク内の水位が所定範囲となるように該流量調整バルブの開度を制御すると共に、該流量調整バルブの開度変更後における前記流量又は圧力の検出手段の検出流量又は圧力が所定範囲となるように、前記ポンプを制御する制御手段と
を有するイオン交換システム。
【請求項2】
前記制御手段による前記ポンプの制御頻度が7回/min以下であり、このポンプ制御に伴うポンプの水量の変動幅が±20%以内である請求項1のイオン交換システム。
【請求項3】
前記イオン交換装置は、カチオン交換塔及びアニオン交換塔を有するイオン交換装置、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とが混合充填された再生式イオン交換装置、又はカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とを有する非再生型イオン交換装置である請求項1のイオン交換システム。
【請求項4】
イオン交換システムを有する一次純水システムと、
該一次純水システムからの一次純水とユースポイントからの戻り超純水が導入されるサブタンクと、
該サブタンクからの水が供給されるサブシステムと
を有する超純水製造装置において、
該イオン交換システムが請求項1~3のいずれかのイオン交換システムであることを特徴とする超純水製造装置。
【請求項5】
前記ユースポイントからの前記サブタンクへの戻り超純水量に応じて前記一次純水システムから前記サブタンクへの送水量が制御される請求項4の超純水製造装置。」
第3 特許異議申立理由の概要
1 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)(以下、「申立理由1」とする。)
本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2、3号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許1は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(以下、「申立理由2」とする。)
本件特許1~5は、特許請求の範囲の記載が後記第4の2(1)の点で不備であるため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)(以下、「申立理由3」とする。)
本件特許1~5は、特許請求の範囲の記載が後記第4の3(1)の点で不備であるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
4 証拠方法
甲第1号証:特開2021-102206号公報
甲第2号証:特開2023-011370号公報
甲第3号証:澤井恒治ほか,「送水ポンプ省エネ制御システム“エコノパイロットTM”」,横河電機株式会社 編,横河技報,Vol.47 No.2,P.67-70,2003年
(以下、甲第1号証について「甲1」などという。)
第4 当審の判断
1 申立理由1(進歩性)について
(1) 甲各号証の記載内容
ア 甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
(ア)甲1の記載事項
甲1には、以下の記載がある。なお、摘記中の下線は当審にて付したものであり、「・・・」は記載の省略を表す(他の証拠の摘記についても同様である。)。
a 「【請求項1】
逆浸透膜と電気脱イオン装置と前記電気脱イオン装置の前段に設けられた給水ポンプとを有する一次純水システムと、前記電気脱イオン装置の後段に配置された水位計測手段が付設された貯水タンクと、前記一次純水システムで製造された一次純水をさらに処理するサブシステムとを備えた超純水製造装置の制御方法であって、
前記水位計測手段で計測される貯水タンクの水位を略一定に保持するように前記電気脱イオン装置に供給する給水の水量を制御する、超純水製造装置の制御方法。」
b 「【背景技術】
【0002】
従来、半導体等の電子産業分野で用いられている超純水は、前処理システム、一次純水装置及び一次純水を処理するサブシステムで構成される超純水製造装置で原水を処理することにより製造されている。
【0003】
例えば、図1に示すように、超純水製造装置1は、前処理装置2、一次純水製造装置3、及び二次純水製造装置(サブシステム)4といった3段の装置で構成されている。このような超純水製造装置1の前処理装置2では、原水Wの濾過、凝集沈殿、精密濾過膜などによる前処理が施され、主に懸濁物質が除去される。
【0004】
一次純水製造装置3は、前処理水W1を処理する逆浸透膜装置5と、脱気膜装置6と、紫外線酸化装置7と、電気脱イオン装置9と、この電気脱イオン装置9に給水を供給する給水ポンプ8とを有する。この一次純水製造装置3で前処理水W1中の大半の電解質、微粒子、生菌等の除去を行うとともに有機物を分解する。
・・・
【0006】
上述したような超純水製造装置1では、所定の水質の一次純水を安定して供給するために、あらかじめ過剰量の一次純水W2を製造して、サブタンク11に必要量のみ供給し、余剰分は循環利用するなどの制御を行っていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したような超純水製造装置1の従来の制御方法では、電気脱イオン装置9などに必要量以上の給水を供給して処理することになるので、エネルギー効率の点で改善の余地があった。そこで、一次純水製造装置3の処理量をユースポイント15の使用量に応じて電気脱イオン装置9の処理量を変動させることが考えられるが、ユースポイント15での使用量の変動に追従するのが困難であるばかりか、電気脱イオンでの脱塩水の水質の低下をきたす、という問題点があった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、サブシステムでの使用量に応じて、一次純水を製造可能な超純水製造装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的に鑑み、本発明は、逆浸透膜と電気脱イオン装置と前記電気脱イオン装置の前段に設けられた給水ポンプとを有する一次純水システムと、前記電気脱イオン装置の後段に配置された水位計測手段が付設された貯水タンクと、前記一次純水システムで製造された一次純水をさらに処理するサブシステムとを備えた超純水製造装置の制御方法であって、前記水位計測手段で計測される貯水タンクの水位を略一定に保持するように前記電気脱イオン装置に供給する給水の水量を制御する、超純水製造装置の制御方法を提供する(発明1)。
【0010】
かかる発明(発明1)によれば、電気脱イオン装置の後段に配置された貯水タンクの水位を測定して、この水位がほぼ一定となるように電気脱イオン装置に供給する給水の水量を制御することにより、サブシステムの稼働状況にあわせて一次純水の製造量を調整することができるので、超純水製造装置における一次純水(※当審注:「一次純水装置」の脱字と認められる。)の運転効率を向上させることができる。」
c 「【0018】
〔第一の実施形態〕
(超純水製造装置)
本発明は、電気脱イオン装置を備えた一次純水装置を有する超純水製造装置において、この電気脱イオン装置の制御に特徴を有するものである。したがって、本実施形態の超純水製造装置の制御方法を適用可能な超純水製造装置としては、一次純水装置に電気脱イオン装置を備えていればよく、例えば、図1に示す超純水製造装置を好適に適用することができる。以下、図1に示す超純水製造装置に基づいて、同一の構成には同一の符号を付して説明する。
【0019】
本実施形態では図2に示すように一次純水装置3において、給水ポンプ8に連通した電気脱イオン装置9には直流電源器9Aが付設されていて、電気脱イオン装置9の脱塩水W2(本実施形態においては電気脱イオン装置9が一次純水装置3の末端にあるので一次純水に相当する、以下同じ)を電気脱イオン装置9の後段に配置された貯水タンクとしてのサブタンク11に供給可能となっている。このサブタンク11には、水位計測手段としてのレベルスイッチ21が設けられている。また、電気脱イオン装置9の脱塩水W2の流路22には、コントロール弁23と流量計24が設けられている一方、電気脱イオン装置9の濃縮水W5の流路25にもコントロール弁26と流量計27が設けられている。そして、パーソナルコンピュータなどを備えた制御装置28に、レベルスイッチ21、流量計24及び流量計27の計測データがそれぞれ送信可能となっているととともに、給水ポンプ8、コントロール弁23及びコントロール弁26をそれぞれ制御可能となっている。
【0020】
ここで、電気脱イオン装置9としては、図3及び図4に示すような構成を有するものを好適に用いることができる。
【0021】
図3において、電気脱イオン装置9は、電極(陽極31、陰極32)の間に複数のアニオン交換膜33及びカチオン交換膜34を交互に配列して濃縮室35と脱塩室36とを交互に形成したものであり、脱塩室36には、イオン交換樹脂、イオン交換繊維もしくはグラフト交換体等からなるイオン交換体(アニオン交換体及びカチオン交換体)が混合もしくは複層状に充填されている。また、濃縮室35と、陽極室37及び陰極室38にも、イオン交換体が充填されている。
・・・
【0025】
(超純水製造装置の制御方法)
上述の超純水製造装置の制御方法について以下説明する。
図2に示すように給水W1を、給水ポンプ8を介して電気脱イオン装置9に供給する。このとき、レベルスイッチ21によりサブタンク11の水位を計測し、この水位データに基づき制御装置28は、この水位がほぼ一定の値(あらかじめ定めておいた基準値に対して所定の範囲であってもよい)より少なければ、給水W1の電気脱イオン装置9の送り流量を増やす一方、多ければ送り流量を減らすように給水ポンプ8をインバータ制御する。そして、この給水W1の水量に応じて、制御装置28により、コントロール弁23及びコントロール弁26を制御して、電気脱イオン装置9の脱塩水(一次純水)W2と濃縮水W5の流量を制御すればよい。例えば、濃縮水W5の水量を一定として、回収率が変動するように脱塩水(一次純水)W2の量を調整すればよい。
【0026】
このように電気脱イオン装置9の後段に配置された貯水タンクとしてのサブタンク11の水位に応じて、給水ポンプ8による電気脱イオン装置9への給水Wの送り水量を制御することにより、給水ポンプ8の駆動電力を削減することができるだけでなく、電気脱イオン装置9の運転効率を最適化することができ、これらにより超純水製造装置1の運転に要する電力量を削減することができる。」
d 「【図1】
[図:0001424612000001.jpg]
【図2】
[図:0001424612000002.jpg]
【図3】
[図:0001424612000003.jpg]
」
(イ)甲1に記載された発明
上記(ア)aの【請求項1】の末尾によれば、甲1には、「超純水製造装置の制御方法」に関する技術が記載されており、当該「超純水製造装置」は、同bの【0003】及び同dの【図1】によれば、「前処理装置2、一次純水製造装置3、及び二次純水製造装置(サブシステム)4といった3段の装置で構成されて」おり、当該「一次純水製造装置3」は、同bの【0004】によれば、「電気脱イオン装置9・・・を有する」ものである。なお、以降のとおり、甲1における「一次純水製造装置」は、「一次純水装置」とも呼称されている。
また、甲1に記載された上記「超純水製造装置の制御方法」は、同bの【0008】によれば、「サブシステムでの使用量に応じて、一次純水を製造可能な超純水製造装置の制御方法を提供する」という課題を解決するものであって、同【0010】によれば、「サブシステムの稼働状況にあわせて一次純水の製造量を調整することができ」、「超純水製造装置における一次純水装置の運転効率を向上させることができる」方法である。
そして、同cの【0019】及び同dの【図2】によれば、上記制御方法を実施するための「一次純水装置」の構造は、「電気脱イオン装置9の脱塩水W2(・・・電気脱イオン装置9が一次純水装置3の末端にあるので一次純水に相当する、以下同じ)を電気脱イオン装置9の後段に配置された貯水タンクとしてのサブタンク11に供給可能となって」おり、「このサブタンク11には、水位計測手段としてのレベルスイッチ21が設けられて」おり、「また、電気脱イオン装置9の脱塩水W2の流路22には、コントロール弁23と流量計24が設けられている一方、電気脱イオン装置9の濃縮水W5の流路25にもコントロール弁26と流量計27が設けられて」おり、「そして、パーソナルコンピュータなどを備えた制御装置28に、レベルスイッチ21、(脱塩水流路22の)流量計24及び(濃縮水流路25の)流量計27の計測データがそれぞれ送信可能となっているととともに、給水ポンプ8、(脱塩水流路22の)コントロール弁23及び(濃縮水流路25の)コントロール弁26をそれぞれ制御可能となっている」というものである。
また、同cの【0021】及び同dの【図3】によれば、上記「電気脱イオン装置」の構造は、「電極(陽極31、陰極32)の間に複数のアニオン交換膜33及びカチオン交換膜34を交互に配列して濃縮室35と脱塩室36とを交互に形成したものであり、脱塩室36には、イオン交換樹脂、イオン交換繊維もしくはグラフト交換体等からなるイオン交換体(アニオン交換体及びカチオン交換体)が混合もしくは複層状に充填されて」おり、「また、濃縮室35と、陽極室37及び陰極室38にも、イオン交換体が充填されている」というものである。
さらに、同cの【0025】によれば、上記「一次純水装置」は、「給水W1を、給水ポンプ8を介して電気脱イオン装置9に供給」し、「このとき、レベルスイッチ21によりサブタンク11の水位を計測し、この水位データに基づき制御装置28は、この水位がほぼ一定の値(あらかじめ定めておいた基準値に対して所定の範囲であってもよい)より少なければ、給水W1の電気脱イオン装置9の送り流量を増やす一方、多ければ送り流量を減らすように給水ポンプ8をインバータ制御」し、「そして、この給水W1の水量に応じて、制御装置28により、(脱塩水流路22の)コントロール弁23及び(濃縮水流路25の)コントロール弁26を制御して、電気脱イオン装置9の脱塩水(一次純水)W2と濃縮水W5の流量を制御す」るものである。
そうすると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。
「前処理装置、電気脱イオン装置を有する一次純水装置、及びサブシステムといった3段の装置で構成されている超純水製造装置において、サブシステムの稼働状況にあわせて一次純水の製造量を調整することができ、運転効率を向上させることができる、一次純水装置であって、
電気脱イオン装置の脱塩水(電気脱イオン装置が一次純水装置の末端にあるので一次純水に相当する、以下同じ)を電気脱イオン装置の後段に配置された貯水タンクとしてのサブタンクに供給可能となっており、このサブタンクには、水位計測手段としてのレベルスイッチが設けられており、また、電気脱イオン装置の脱塩水の流路には、コントロール弁と流量計が設けられている一方、電気脱イオン装置の濃縮水の流路にもコントロール弁と流量計が設けられており、そして、パーソナルコンピュータなどを備えた制御装置に、レベルスイッチ、脱塩水流路の流量計及び濃縮水流路の流量計の計測データがそれぞれ送信可能となっているととともに、給水ポンプ、脱塩水流路のコントロール弁及び濃縮水流路のコントロール弁をそれぞれ制御可能となっており、
上記電気脱イオン装置は、電極(陽極、陰極)の間に複数のアニオン交換膜及びカチオン交換膜を交互に配列して濃縮室と脱塩室とを交互に形成したものであり、脱塩室には、イオン交換樹脂、イオン交換繊維もしくはグラフト交換体等からなるイオン交換体(アニオン交換体及びカチオン交換体)が混合もしくは複層状に充填されており、また、濃縮室と、陽極室及び陰極室にも、イオン交換体が充填されており、
給水を、給水ポンプを介して電気脱イオン装置に供給し、このとき、レベルスイッチによりサブタンクの水位を計測し、この水位データに基づき制御装置は、この水位がほぼ一定の値(あらかじめ定めておいた基準値に対して所定の範囲であってもよい)より少なければ、給水の電気脱イオン装置の送り流量を増やす一方、多ければ送り流量を減らすように給水ポンプをインバータ制御し、そして、この給水の水量に応じて、制御装置により、脱塩水流路のコントロール弁及び濃縮水流路のコントロール弁を制御して、電気脱イオン装置の脱塩水と濃縮水の流量を制御する、
一次純水装置。」
(以下、「甲1発明」という。)
イ 甲2の記載事項及び甲2に記載された公知技術
(ア)甲2の記載事項
甲2には、以下の記載がある。
a 「【背景技術】
【0002】
膜分離活性汚泥法(MBR)を用いた廃水処理システムにおいては、廃水の濾過中に、膜カートリッジの膜シートにファウラントが堆積して、膜カートリッジの透過抵抗が増大することが避けられない。そのため、通常、定期的に廃水の濾過動作を停止して、膜カートリッジに対する曝気だけを行って、膜シートからファウラントを剥離させている。
【0003】
つまり、膜カートリッジに対して曝気を行いながら、膜カートリッジの二次側(処理水側)に負圧を発生させて廃水の濾過を行う濾過動作と、濾過動作を停止する濾過停止動作を1サイクルとして、そのサイクルを繰り返している。ここで、濾過停止動作中の曝気はリラクセーションと呼ばれており、そのサイクルは間欠濾過サイクルと呼ばれている。
【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0011】
そこで、本発明の一態様は、処理水の生産性の向上を図りながら、リラクセーションによる膜洗浄効果を十分に発揮させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様に係る廃水処理方法は、膜分離槽内の廃水(被処理水)に浸漬された膜カートリッジに対して曝気を行いながら、前記膜カートリッジの二次側(処理水側)に負圧を発生させて廃水の濾過を行う濾過動作と、該濾過動作を停止する濾過停止動作とを1サイクルとして、そのサイクルを繰り返すことにより、廃水を固液分離して処理水を生成する廃水処理方法であって、処理水に含まれるガスを滞留させるガス滞留室に接続されかつ前記ガス滞留室に流体を供給するためのバルブを用い、各サイクルの前記濾過停止動作の開始のタイミングに合わせて、前記バルブを一旦開いてから閉じる。
【0013】
前記の構成によれば、各サイクルの前記濾過停止動作の開始のタイミングに合わせて、前記バルブを一旦開いてから閉じる。これにより、各サイクルの前記濾過停止動作の開始のタイミングに合わせて、流体が前記ガス滞留室に供給される。すると、前記膜カートリッジの二次側の負圧が短時間で緩和されて、前記膜カートリッジの膜間差圧が均衡状態になる。つまり、前記膜分離槽と処理水槽とを接続する処理水配管系の一部を大気開放することなく、処理水配管内に処理水が連続的に存在する状態(サイフォンが形成された状態)を維持したまま、各サイクルの前記濾過停止動作の開始後に、前記膜カートリッジの膜間差圧を均衡状態にすることができる。よって、処理水の生産性(生産効率)の向上を図りながら、リラクセーションによる膜洗浄効果を十分に発揮させることができる。」
b 「【発明を実施するための形態】
【0024】
〔実施形態1〕
以下、本発明の実施形態について図2及び3を参照して説明する。図2は、実施形態1に係る廃水処理方法を実施するための廃水処理システムの模式図である。図3は、曝気動作、濾過動作、および濾過停止動作と、ガス抜きバルブの開閉動作との関係を示すタイムチャート図である。
【0025】
(廃水処理システム10)
図2に示すように、実施形態1に係る廃水処理方法を実施するための廃水処理システム10は、膜分離活性汚泥法(MBR)を用いて廃水(被処理水)Eを固液分離して処理水(濾液)Tを生成するシステムである。廃水処理システム10は、廃水Eを貯留する膜分離槽12を備えている。膜分離槽12の適宜位置には、膜分離槽12内の廃水Eの水位を検出する水位計14が設けられている。
【0026】
膜分離槽12内には、廃水Eを固液分離するための膜モジュール16が配設されており、膜モジュール16は、膜分離槽12内の廃水Eに浸漬されている。膜モジュール16は、立てた状態で並設された複数の平膜型の膜カートリッジ18を有している。膜カートリッジ18は、濾板20と、濾板20の両側面に設けられた膜シート22とを有している。各膜シート22の周縁部は、各濾板20の側面に固着されている。各膜シート22の周縁部を除く部位が各濾板20に固着されていないため、各膜シート22は、各濾板20に対して揺動可能である。各濾板20と各膜シート22との間、及び各濾板20の内部には、膜シート22を透過した処理水(濾液)Tを流通させるための通路が形成されている。
・・・
【0028】
廃水処理システム10は、処理水Tを貯留する処理水槽26を備えており、処理水槽26は、膜分離槽12から離隔された位置に配設されている。処理水槽26内の処理水Tの水位は、膜分離槽12内の廃水Eの水位よりも低くなっている。
【0029】
廃水処理システム10は、膜分離槽12と処理水槽26とを接続する処理水配管系28を備えている。そして、処理水配管系28の具体的な構成は、次の通りである。
【0030】
膜モジュール16には、第1配管30の一端部が接続されており、第1配管30の他端部には、膜モジュール16によって生成された処理水Tを収容するヘッダ管32が接続されている。ヘッダ管32は、膜分離槽12内の処理水Tの水位よりも高い位置に位置している。また、ヘッダ管32には、第2配管34の一端部が接続されており、第2配管34の他端部は、処理水槽26に接続されている。第2配管34には、膜カートリッジ18の膜間差圧に対応する圧力を検出する圧力計36、処理水Tの流量を検出する流量計38、調整バルブ40、及び閉止バルブ42がヘッダ管32側(上流側)から順次配設されている。
【0031】
第2配管34における流量計38と調整バルブ40の間には、第3配管44の一端部が接続されており、第3配管44の他端部は、処理水槽26に接続されている。第3配管44には、吸引バルブ46、吸引ポンプ48、及び閉止バルブ50が第3配管44の一端部側から順次配設されている。
【0032】
前記の構成により、重力濾過動作を行う場合には、コンピュータからなる制御装置は、吸引バルブ46を閉じると共に閉止バルブ42を開き、調整バルブ40の開度を調整して濾過量を調整する。すると、膜分離槽12と処理水槽26との水頭差によって複数の膜カートリッジ18の二次側(処理水側)に負圧が発生し、廃水Eの重力濾過動作が行われる。また、重力濾過動作を停止する濾過停止動作を行う場合には、制御装置は、閉止バルブ42を閉じる。
【0033】
吸引濾過動作を行う場合には、制御装置は、閉止バルブ42を閉じると共に、吸引バルブ46及び閉止バルブ50を開く。そして、制御装置は、吸引ポンプ48を駆動させる。すると、吸引ポンプ48の吸引力によって複数の膜カートリッジ18の二次側(処理水側)に負圧が発生し、廃水Eの吸引濾過動作が行われる。また、吸引濾過動作を停止する濾過停止動作を行う場合には、制御装置は、吸引ポンプ48の駆動を停止して、閉止バルブ50を閉じる。
【0034】
なお、前記制御装置は、水位計14及び流量計38からの検出結果等に基づいて、重力濾過動作と吸引濾過動作の切り替えを行う。」
c 「【図2】
[図:0001424612000004.jpg]
」
(イ)甲2に記載された公知技術
上記(ア)aの【0002】、【0003】によれば、甲2は、「膜分離活性汚泥法(MBR)を用いた廃水処理システム」に関する技術を開示するものであり、当該システムは、「膜カートリッジに対して曝気を行いながら、膜カートリッジの二次側(処理水側)に負圧を発生させて廃水の濾過を行う濾過動作と、濾過動作を停止する濾過停止動作を1サイクルとして、そのサイクルを繰り返している」ものであり、「ここで、濾過停止動作中の曝気はリラクセーションと呼ばれており、そのサイクルは間欠濾過サイクルと呼ばれている」ものである。
そして、上記(ア)b及びcには、上記「廃水処理システム」の具体的な構造が記載されており、同bの【0025】、【0026】、【0028】、【0029】によれば、「膜分離活性汚泥法(MBR)を用いて廃水・・・Eを固液分離して処理水・・・Tを生成するシステムである」「廃水処理システム10」は、「廃水Eを貯留する膜分離槽12を備えて」おり、「膜分離槽12の適宜位置には、膜分離槽12内の廃水Eの水位を検出する水位計14が設けられて」おり、「膜分離槽12内には、廃水Eを固液分離するための膜モジュール16が配設されており、膜モジュール16は、膜分離槽12内の廃水Eに浸漬されて」おり、「処理水Tを貯留する処理水槽26を備えており、処理水槽26は、膜分離槽12から離隔された位置に配設されて」おり、「処理水槽26内の処理水Tの水位は、膜分離槽12内の廃水Eの水位よりも低くなって」おり、「膜分離槽12と処理水槽26とを接続する処理水配管系28を備えて」いるものである。
また、同bの【0030】、【0031】によれば、当該「処理水配管系28」は、「膜モジュール16には、第1配管30の一端部が接続されており、第1配管30の他端部には、膜モジュール16によって生成された処理水Tを収容するヘッダ管32が接続されて」おり、「また、ヘッダ管32には、第2配管34の一端部が接続されており、第2配管34の他端部は、処理水槽26に接続されて」おり、「第2配管34には、・・・処理水Tの流量を検出する流量計38、調整バルブ40、及び閉止バルブ42が・・・上流側・・・から順次配設されて」おり、「第2配管34における流量計38と調整バルブ40の間には、第3配管44の一端部が接続されており、第3配管44の他端部は、処理水槽26に接続されて」おり、「第3配管44には、吸引バルブ46、吸引ポンプ48、及び閉止バルブ50が第3配管44の一端部側から順次配設されている」というものである。
そして、同bの【0032】~【0034】によれば、上記「廃水処理システム10」における「制御装置」は、「重力濾過動作を行う場合には、・・・(第3配管44上の)吸引バルブ46を閉じると共に(第2配管34上の)閉止バルブ42を開き、調整バルブ40の開度を調整して濾過量を調整する」ことにより、「膜分離槽12と処理水槽26との水頭差によって複数の膜カートリッジ18の二次側(処理水側)に負圧」を「発生」させて処理水を流す一方、「吸引濾過動作を行う場合には、・・・(第2配管34上の)閉止バルブ42を閉じると共に、(第3配管44上の)吸引バルブ46及び閉止バルブ50を開」き、そして、「吸引ポンプ48を駆動させる」ことにより、「吸引ポンプ48の吸引力によって複数の膜カートリッジ18の二次側(処理水側)に負圧」を「発生」させて処理水を流すものである。さらに、当該「制御装置」は、「水位計14及び流量計38からの検出結果等に基づいて、重力濾過動作と吸引濾過動作の切り替えを行う」ものである。
ここで、以上の記載及び同cの【図2】を踏まえて、上記「処理水配管系28」の構造を整理すると、上記「第2配管34」は、上記「膜分離槽12」(内の「膜分離モジュール16」)から「処理水槽26」に至る流路を形成し、当該流路上に「流量計38」及び「調整バルブ40」を有しており、上記「第3配管44」は、「流量計38」の直後で「第2配管34」から分岐して「処理水槽26」に至る別の流路を形成し、当該流路上に「吸引ポンプ48」を有している。そして、上記「制御装置」の制御内容からすると、「第2配管34」の流路は、「重力濾過動作」時に処理水を流すために用いる流路であり、「第3配管44」の流路は、「吸引濾過動作」時に処理水を流すために用いる流路である。
以上の「処理水配管系28」及び「重力濾過動作と吸引濾過動作」に関係する構成に着目すれば、甲2には、以下の技術が記載されているといえる。
「膜分離活性汚泥法(MBR)を用いて廃水を固液分離して処理水を生成する廃水処理システムにおいて、
廃水を貯留する膜分離槽と、膜分離槽内の廃水の水位を検出する水位計と、処理水を貯留する処理水槽と、膜分離槽と処理水槽とを接続する処理水配管系と、制御装置とを備え、
処理水配管系において、流量計及び調整バルブを有する重力濾過動作用流路と、流量計の直後から分岐して吸引ポンプを有する吸引濾過動作用流路とを設け、
制御装置によって、水位計及び流量計からの検出結果等に基づいて、重力濾過動作と吸引濾過動作の切り替えを行い、重力濾過動作を行う場合に、調整バルブの開度を調整して濾過量を調整して処理水を重力濾過動作用流路に流す一方、吸引濾過動作を行う場合に、吸引ポンプを駆動させて処理水を吸引濾過動作用流路に流すこと。」
(以下、「甲2技術」という。)
ウ 甲3の記載事項
甲3には、以下の記載がある。
「ポンプの理論的な特性は以下である。
(1) 流量は回転数に比例する。
(2) 吐出圧力(揚程)は回転数の2乗に比例する。
(3) 消費電力は回転数の3乗に比例する。
すなわち,流量が1/2であれば、圧力は1/4,電力は1/8となり,電力削減率は87.5%となる。」(第69ページ左欄19~24行)
(2)進歩性の判断
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
(ア)甲1発明の「電気脱イオン装置」は、「イオン交換体」によって「脱塩水」及び「濃縮水」を生成するものであるから、本件発明1の「イオン交換装置」に相当する。
(イ)甲1発明の「給水ポンプ」は、「給水」を「電気脱イオン装置」に供給すなわち通水するものであるから、本件発明1の「該イオン交換装置に被処理水を通水させるためのポンプ」に相当する。
(ウ)甲1発明の「電気脱イオン装置」にて生成される「脱塩水」又は「一次純水」は、イオン交換によりイオンが除去されたものであるから、本件発明1の「該イオン交換水からの脱イオン水」に相当する。そして、甲1発明の「電気脱イオン装置の後段に配置された貯水タンクとしてのサブタンク」は、上記「脱塩水」又は「一次純水」が供給すなわち導入されるものであるから、本件発明1の「該イオン交換水からの脱イオン水が導入される脱イオン水タンク」に相当する。
(エ)甲1発明の「脱塩水流路のコントロール弁」は、「電気脱イオン装置」から「サブタンク」への流路における「脱塩水」の流量を制御するものであるから、本件発明1の「該イオン交換装置から脱イオン水タンクへの流入水量を調整するための流量調整バルブ」に相当する。
(オ)甲1発明の「水位計測手段としてのレベルスイッチ」は、「サブタンク」の水を計測すなわち検出するものであるから、本件発明1の「該脱イオン水タンク内の水位の検出する水位検出手段」に相当する。
(カ)甲1発明の「脱塩水流路の流量計」は、「電気脱イオン装置」から「サブタンク」への流路における「脱塩水」の流量を計測すなわち検出するものであるから、本件発明1の「該イオン交換装置から該脱イオン水タンクに向う流れの流量又は圧力を検出する流量又は圧力の検出手段」に相当する。
(キ)甲1発明の「制御装置」は、「サブタンク」の「水位」が「ほぼ一定の値」又は「あらかじめ定めておいた基準値に対して所定の範囲」となるように「給水ポンプ」をインバータ制御しており、そして、その水量に応じて、「脱塩水流路のコントロール弁」を制御し、「脱塩水」の流量を制御している。ここで、「コントロール弁」は、弁の「開度」の調整により流量を制御するものであり、上記(イ)、(エ)のとおり、甲1発明の「給水ポンプ」、「コントロール弁」は、それぞれ本件発明1の「ポンプ」、「流量調整バルブ」に相当する。
そうすると、本件発明1の「制御装置」と甲1発明の「制御装置」は、「該流量調整バルブの開度を制御すると共に、」「前記ポンプを制御する」点で共通している。
(ク)上記(ア)のとおり、甲1発明の「電気脱イオン装置」は「イオン交換」を行うことを踏まえると、当該「電気脱イオン装置」を含む上記(ア)~(キ)の一連の装置体系は、「イオン交換システム」と呼称できる。
(ケ)以上より、本件発明1と甲1発明は、
「イオン交換装置と、
該イオン交換装置に被処理水を通水させるためのポンプと、
該イオン交換装置からの脱イオン水が導入される脱イオン水タンクと、
該イオン交換装置から脱イオン水タンクへの流入水量を調整するための流量調整バルブと、
該脱イオン水タンク内の水位の検出する水位検出手段と、
該イオン交換装置から該脱イオン水タンクに向う流れの流量又は圧力を検出する流量又は圧力の検出手段と、
該流量調整バルブの開度を制御すると共に、前記ポンプを制御する制御手段と
を有するイオン交換システム。」
である点で一致し、以下の点で相違しているといえる。
<相違点1>
制御手段が、本件発明1では、タンク内の水位が所定範囲となるように、流量調整バルブの開度を制御し、流量調整バルブの開度変更後における検出流量又は圧力が所定範囲となるように、ポンプを制御するものである一方、甲1発明では、タンクの水位が所定の範囲となるようにポンプを制御し、そして、その水量に応じて、流量調整バルブ(コントロール弁)を制御するものである点。
イ 相違点1に対する判断
(ア)本件発明1の制御手段は、検出された水位に基づいて流量調整バルブの開度を制御した後、開度変更後に検出された流量又は圧力に基づいてポンプによる送水量を制御するものであるといえる。一方、甲1発明の制御手段は、検出された水位に基づいてポンプによる送水量を制御した後、その送水量に基づいて流量調整バルブの開度を制御するものであるといえる。
そうすると、本件発明1と甲1発明は、共にポンプ及び流量調整バルブを関連させて制御するものであるが、制御の順序が異なるため、相違点1は実質的な相違点であるといえる。
(イ)次に、甲1発明に甲2技術を適用できるか否かについて検討する。
上記(1)ア(イ)に示したとおり、甲1発明は、電気脱イオン装置を有する一次純水装置を備える超純水製造装置において、「サブシステムでの使用量に応じて、一次純水を製造可能な超純水製造装置の制御方法を提供すること」という課題を解決するため、一次純水装置について、「サブシステムの稼働状況にあわせて一次純水の製造量を調整することができ、運転効率を向上させることができる」ように、脱塩水等の流路上の流量を制御するための構成を規定したものである。
一方、甲2技術は、上記(1)イ(ア)aの【0011】に記載されるとおり、膜分離活性汚泥法(MBR)を用いた廃水処理システムにおいて、「処理水の生産性の向上を図りながら、リラクセーションによる膜洗浄効果を十分に発揮させること」という課題のもとでの技術である。そのため、甲2技術の課題は、甲1発明の課題に一致するとはいえない。
また、甲1発明の流量制御に関する構成は、給水ポンプ及びコントロール弁(バルブ)の両方の制御によって、脱塩水等の各流路上の流量を制御するものである一方、甲2技術の構成は、2つの流路の切り替えを行い、一方の流路で調整バルブの開度調整を行い、他方の流路で吸引ポンプの駆動を行うものであって、バルブ及びポンプの両方の制御によって同一流路上の流量を制御するものではない。
そうすると、甲1発明において、作用や機能が共通しない甲2技術を採用することの示唆がないことは勿論のこと、甲1発明と甲2技術は、発明や技術的事項の課題、それらの構成の作用や機能が共通するものではない。
したがって、甲1発明に甲2技術を組み合わせようとする動機は生じ得ない。
(ウ)加えて、本件発明1の流量制御に関する構成は、イオン交換装置から脱イオン水タンクに向かう流路において、流量調整バルブの開度を制御し、その後、ポンプを制御するものである一方、上述のとおり、甲2技術は、同一流路上でバルブ及びポンプの両方の制御を行うものではないし、まして、同一流路において、バルブの開度を制御し、その後、ポンプを制御するものではない。
したがって、仮に甲1発明に甲2技術を組み合わせることができたとしても、甲2技術の構成は、相違点1の構成を充足するものではない。
(エ)さらに、甲3には、上記(1)ウのとおり、「ポンプの理論的な特性」が記載されているが、バルブ及びポンプの制御による流量制御に関する構成は、何ら開示されていない。
ウ 小括
上記イのとおり、相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るとはいえないから、本件発明1は、甲1発明及び甲2~3の記載事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
なお、本件発明2~5については、申立理由1の対象外であるものの、本件発明1を直接又は間接的に引用し、少なくとも本件発明1の構成をすべて具備する本件発明2~5も、本件発明1と同様に、甲1発明及び甲2~3の記載事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
(3)申立理由1に関するまとめ
以上のとおり、本件特許1は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、申立理由1には、理由がない。
2 申立理由2(サポート要件違反)について
(1)申立理由2の内容
本件明細書【0006】、【0007】の記載のとおり、本件発明の課題は、「ユースポイントでの超純水使用量が変動しても、イオン交換処理水量を可変することができるイオン交換システムと、このイオン交換システムを備えた超純水製造装置とを提供する」ことである。
ここで、本件発明1では、「該水位検出手段で検出される脱イオン水タンク内の水位が所定範囲となるように該流量調整バルブの開度を制御すると共に、該流量調整バルブの開度変更後における前記流量又は圧力の検出手段の検出流量又は圧力が所定範囲となるように、前記ポンプを制御する」と特定されているが、「脱イオン水タンク内の水位」の「所定範囲」と、「イオン交換装置から脱イオン水タンクに向う流れの流量又は圧力」の「所定範囲」が、具体的にどのような範囲であるかについては何ら特定されていない。
一方、本件明細書【0019】には「ポンプ制御に伴うポンプの水量の変動幅が±20%以内である」と記載されているが、この「変動幅」は、上記2つの「所定範囲」を規定するものではなく、また、このように「変動幅」を±20%以内とすることによって、上記水位、流量又は圧力を「所定範囲」として、「ユースポイントでの超純水使用量が変動してもイオン交換処理水量を可変することができる」ことは何ら実証されていない。
さらに、上記2つの「所定範囲」には、あらゆる範囲が含まれ、「ユースポイントでの超純水使用量が変動してもイオン交換処理水量を可変すること」ができない範囲も含まれる。
したがって、本件発明1は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであり、本件発明1及びそれを引用する本件発明2~5は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
(2)申立理由2についての検討
ア サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が本件特許の出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。以下、この観点により検討する。
イ 本件発明の課題と当該課題に対応する発明の詳細な説明の記載
(ア)発明の詳細な説明には、【発明が解決しようとする課題】として、以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の超純水製造装置の一次純水システムにあっては、ユースポイント13での超純水使用量が変動しても、イオン交換装置6への通水量は一定とされている。そのため、ユースポイント13での超純水使用量が少ないときには、一次純水が過剰に製造されている。その結果、ポンプの電力原単位が増大したり、イオン交換装置6に過剰な負荷がかかり、イオン交換樹脂の再生頻度や交換頻度が増加したりしていた。
【0007】
本発明は、かかる課題を解決し、イオン交換処理水量を可変することができるイオン交換システムと、このイオン交換システムを備えた超純水製造装置とを提供することを課題とする。」
以上の記載からすれば、本件発明は、従来、イオン交換装置の処理水(一次純水)の利用先である超純水の使用量が変動しても、イオン交換装置への通水量が一定であったため、ポンプの電力原単位が増大したり、イオン交換装置に過剰な負荷がかかり、イオン交換樹脂の再生頻度や交換頻度が増加していたことに鑑み、イオン交換装置の処理水の利用先での使用量変動に対応して、「イオン交換処理水量を可変」とするイオン交換システムや当該システムを備えた超純水製造装置を提供することを課題としているといえる。
(イ)発明の詳細な説明には、【課題を解決するための手段】、当該手段による【発明の効果】、さらに【発明を実施するための形態】として、以下の記載がある。
「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のイオン交換システムは、イオン交換装置と、該イオン交換装置に被処理水を通水させるためのポンプと、該イオン交換装置からの脱イオン水が導入される脱イオン水タンクと、該イオン交換装置から脱イオン水タンクへの流入水量を調整するための流量調整バルブと、該脱イオン水タンク内の水位を検出する水位検出手段と、該イオン交換装置から該脱イオン水タンクに向う流れの流量又は圧力を検出する流量又は圧力の検出手段と、該水位検出手段で検出される脱イオン水タンク内の水位が所定範囲となるように該流量調整バルブの開度を制御すると共に、該流量調整バルブの開度変更後における前記流量又は圧力の検出手段の検出流量又は圧力が所定範囲となるように、前記ポンプを制御する制御手段とを有する。
・・・
【発明の効果】
【0012】
本発明のイオン交換システムによると、イオン交換装置への通水量をイオン交換処理水の必要量に応じて制御することができる。そのため、このイオン交換システムの運転時のポンプ電力原単位が低減されると共に、イオン交換樹脂の再生頻度や交換頻度を減少させることができる。
・・・
【発明を実施するための形態】
・・・
【0016】
図1は、本発明のイオン交換システムの一例を示すものである。脱イオン処理される被処理水は、配管17、第1ポンプ18、配管19によりイオン交換装置20に供給され、イオン交換樹脂と接触して脱イオン処理され、脱イオン水となる。脱イオン水は、配管21、第2ポンプ22、配管23、流量調整バルブ24及び配管25を経て脱イオン水タンク26に導入され、配管27を介して次工程へ送水される。配管23に流量計又は圧力計28が設置され、脱イオン水タンク26に水位計29が設置されており、各々の検出信号が制御器30に入力される。
【0017】
制御器30は、水位計29で検出される水位が所定範囲となるように、流量調整バルブ24の開度をPID制御等により調整する。
【0018】
また、制御器30は、流量調整バルブ24の開度が調整された後の流量計又は圧力計28の検出流量又は圧力が所定範囲となるように、第1ポンプ18又は第2ポンプ22の送水量(モータ回転数)をインバータ制御する。
・・・
【0022】
この制御により、脱イオン水タンク26内の水位が所定範囲となるように、被処理水の処理量が制御される。即ち、脱イオン水タンク26から配管27によって次工程に送水される水量に応じて、イオン交換装置20への通水量が制御される。これにより、イオン交換システムの運転時のポンプ電力原単位が低減されると共に、イオン交換樹脂の再生頻度や交換頻度を減少させることができる。」
上記【0008】、【0017】、【0018】に記載されている制御は、水位検出手段(水位計)により検出される「脱イオン水タンク内の水位」に基づいて「流量調整バルブの開度」を制御した後、開度変更後に流量又は圧力の検出手段により検出される「該イオン交換装置から該脱イオン水タンクに向う流れの流量又は圧力」に基づいて、「ポンプ」によるイオン交換装置への通水量を制御するという制御であるといえる。
ここで、「脱イオン水タンク」は、イオン交換装置が製造した脱イオン水すなわち処理水を貯留するものであり、処理水の利用時には、当然、当該タンクから利用水が取り出されるから、「脱イオン水タンク内の水位」は、処理水の利用先での使用量の変動に対応して変動するものである。そのため、前段落の「脱イオン水タンク内の水位」に基づく制御は、処理水の利用先での使用量の変動に対応して、イオン交換装置への通水量を制御するものであり、上記【0012】のように「イオン交換装置への通水量をイオン交換処理水の必要量に応じて制御する」ものであるといえる。そして、「イオン交換装置への通水量」はイオン交換装置で処理する水量に対応することから、上述のように「イオン交換装置への通水量」を制御する構成は、「イオン交換処理水量を可変」とできる構成であるといえる。
以上からすると、イオン交換装置の処理水の利用先での使用量変動に対応して、「イオン交換処理水量を可変」とするイオン交換システムを提供するという本件発明の課題を解決するためには、「脱イオン水タンク内の水位」に基づいて「流量調整バルブの開度」を制御した後、開度変更後の「該イオン交換装置から該脱イオン水タンクに向う流れの流量又は圧力」に基づいて「ポンプ」によるイオン交換装置への通水量を制御する構成とすることが肝要であるといえる。
ウ 発明の詳細な説明の記載と特許請求の範囲の記載の対比
上記イ(イ)のとおり、発明の詳細な説明の記載からすれば、本件発明の課題を解決するためには、「脱イオン水タンク内の水位」に基づいて「流量調整バルブの開度」を制御した後、開度変更後の「該イオン交換装置から該脱イオン水タンクに向う流れの流量又は圧力」に基づいて「ポンプ」によるイオン交換装置への通水量を制御する構成とすることが肝要である。
一方、本件請求項1には、イオン交換システムが、
「該脱イオン水タンク内の水位の検出する水位検出手段と、
該イオン交換装置から該脱イオン水タンクに向う流れの流量又は圧力を検出する流量又は圧力の検出手段と、
該水位検出手段で検出される脱イオン水タンク内の水位が所定範囲となるように該流量調整バルブの開度を制御すると共に、該流量調整バルブの開度変更後における前記流量又は圧力の検出手段の検出流量又は圧力が所定範囲となるように、前記ポンプを制御する制御手段と」
を有することが記載されているように、本件発明1においては、本件発明の課題を解決するための制御を行う上で必要となる、「脱イオン水タンク内の水位」及び「該イオン交換装置から該脱イオン水タンクに向う流れの流量又は圧力」を検出するための「水位検出手段」及び「流量又は圧力の検出手段」を備えることが規定された上で、「該水位検出手段で検出される脱イオン水タンク内の水位」によって「流量調整バルブの開度」を制御することと、開度変更後の「前記流量又は圧力の検出手段の検出流量又は圧力」によって「ポンプ」を制御することが規定されている。
そうすると、特許請求の範囲に記載される本件発明1は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決可能であると認識できる範囲のものであり、サポート要件を満たすものといえる。
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~5について検討しても、事情は同じである。
エ 特許異議申立書における申立人の主張について
上記ウのとおり、本件発明はサポート要件を満たすものといえるが、念のため、上記(1)の申立人の主張内容についても検討する。
申立人は、要するに、本件発明における「脱イオン水タンク内の水位が所定範囲となるように該流量調整バルブの開度を制御する」及び「検出流量又は圧力が所定範囲となるように、前記ポンプを制御する」との制御について、当該2つの「所定範囲」の具体的な数値範囲が規定されておらず、また、「ポンプ制御に伴うポンプの水量の変動幅が±20%以内」との事項を考慮したとしても、上記「所定範囲」の具体的な数値範囲が定まらないことから、上記「所定範囲」には、「ユースポイントでの超純水使用量が変動してもイオン交換処理水量を可変すること」ができない範囲を含むあらゆる範囲が含まれるため、本件発明はサポート要件を満たさない旨を主張している。
しかしながら、上記イで検討したとおり、「脱イオン水タンク内の水位」に基づいて「流量調整バルブの開度」を制御した後、開度変更後に流量又は圧力の検出手段により検出される「該イオン交換装置から該脱イオン水タンクに向う流れの流量又は圧力」に基づいて「ポンプ」によるイオン交換装置への通水量を制御することによって、利用先での使用量の変動に対応して「イオン交換処理水量を可変」とできることが理解できる。
そして、流量調整バルブの開度やポンプによる送水量を変更すれば、当然、「脱イオン水タンク内の水位」や「該イオン交換装置から該脱イオン水タンクに向う流れの流量又は圧力」を変化させられることを踏まえれば、脱イオン水タンク内の水位についての上記「所定範囲」は、上述の制御を実行するにあたり、利用先での使用量の変動に対応して、タンク内で合理的な水位の範囲で任意に設定できる事項であるから、特に「ユースポイントでの超純水使用量が変動してもイオン交換処理水量を可変すること」ができない範囲が含まれるとはいえない。また、「検出流量又は圧力」についての上記「所定範囲」は、上述の制御を実行するにあたり、脱イオン水タンク内の水位を「所定範囲」にするような流量又は圧力の範囲で任意に設定できる事項であるから、脱イオン水タンクの水位についての上記「所定範囲」に「イオン交換処理水量を可変」とできない範囲が含まれるとはいえない以上、「検出流量又は圧力」についての上記「所定範囲」にも、「ユースポイントでの超純水使用量が変動してもイオン交換処理水量を可変すること」ができない範囲が含まれるとはいえない。
そのため、上記2つの「所定範囲」に「ユースポイントでの超純水使用量が変動してもイオン交換処理水量を可変すること」ができない範囲が含まれるとはいえず、それらの具体的な数値範囲を規定しなければ、「イオン交換処理水量を可変」とすることができないというわけではない。
したがって、上記申立人の主張は、採用できるものではない。
(3)申立理由2に関するまとめ
以上のとおり、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、申立理由2には、理由がない。
3 申立理由3(明確性要件違反)について
(1)申立理由3の内容
本件発明1では、「該水位検出手段で検出される脱イオン水タンク内の水位が所定範囲となるように該流量調整バルブの開度を制御すると共に、該流量調整バルブの開度変更後における前記流量又は圧力の検出手段の検出流量又は圧力が所定範囲となるように、前記ポンプを制御する」と特定されているが、当該特定事項中の2つの「所定範囲」が、具体的にどのような範囲であるかについては何ら特定されていない。そして、「所定範囲」という記載では、その上限及び下限が不明確であり、どのような範囲とすればよいかが定まらない。
また、本件明細書には「ポンプ制御に伴うポンプの水量の変動幅が±20%以内である」と記載されているが、この「変動幅」は、上記2つの「所定範囲」を規定するものではない。
そうすると、本件発明1~5は、発明の範囲が明確でない。
(2)申立理由3についての検討
本件請求項1の記載によれば、本件発明1のイオン交換システムは、「脱イオン水タンク内の水位」及び「該イオン交換装置から該脱イオン水タンクに向う流れの流量又は圧力」を検出するための「水位検出手段」及び「流量又は圧力の検出手段」を備えた上で、「該水位検出手段で検出される脱イオン水タンク内の水位」によって「流量調整バルブの開度」を制御した後、開度変更後の「前記流量又は圧力の検出手段の検出流量又は圧力」によって「ポンプ」を制御するものであることが理解できる。
そして、流量調整バルブの開度やポンプによる送水量を変更すれば、「脱イオン水タンク内の水位」や「該イオン交換装置から該脱イオン水タンクに向う流れの流量又は圧力」を変化させられることを踏まえれば、脱イオン水タンク内の水位についての上記「所定範囲」は、上述の制御を実行するにあたり、任意に設定できる事項であるといえ、また、「検出流量又は圧力」についての上記「所定範囲」は、上述の制御を実行するにあたり、脱イオン水タンク内の水位を「所定範囲」にするような流量又は圧力の範囲で任意に設定できる事項であるといえる。
そのため、上記2つの「所定範囲」については、その記載のみで、その意味を明確に理解することができるため、それらの具体的な数値範囲が定まらなければ、本件発明の制御の内容を理解することができないということはなく、当該「所定範囲」の規定がないことを以て、本件発明1~5が不明確であるとはいえない。
(3)申立理由3に関するまとめ
以上のとおり、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、申立理由3には、理由がない。
第5 むすび
上記第4で検討したとおり、本件特許1は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできないし、本件特許1~5は、同法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記申立理由1~3では、本件特許1~5を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1~5を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700181